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Title 不登校小3女児の描画をもとにした母子カウンセリング Author(s) 平田, 幹夫 Citation 琉球大学教育学部教育実践総合センター紀要(13): 11-24 Issue Date 2006-03 URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/5638 Rights

Title 不登校小3女児の描画をもとにした母子カウン …ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/20.500.12000/5638/1/No13...で描いた絵(Figl)が掲示されていた。そ

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Title 不登校小3女児の描画をもとにした母子カウンセリング

Author(s) 平田, 幹夫

Citation 琉球大学教育学部教育実践総合センター紀要(13): 11-24

Issue Date 2006-03

URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/5638

Rights

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琉球大学教育学部実践総合センター紀要第13号2006年3月

不登校小3女児の描画をもとにした母子カウンセリング

平田幹夫戦

TheDrowingCounselingfOrMotherandDaughterwith

Non-AttendanceatE1ementarySchool

HIRATAMiIdo

要約

本事例では、不登校に陥った小3児童(以後K子)の教室に掲示されていた「母の日の画」

から心理アセスメントを行い、それをもとに母子カウンセリングを2回行った。面接において

は、「動的家族画」、「動的学校画」、「家族が立っている画」「自由画」の描画テストを実施した。

描画を解釈しK子の情動を母親に伝えたことによって、母親のK子への関わりに大きな変化

が現れた。その結果、初回面接の翌日から学校復帰を果たした。また、K子の問題を契機に家

族システムにも変化が見られた。

その後、4年生から6年生にかけて年に1回の割合で描画テストを行いフオローアップを行っ

た。K子は3年生の面接以降、6年生になるまで不登校になることはなかった。実施した描画テ

ストを縦断的に分析した結果、家族システムの良好な変化が描画の変化として表出しているこ

とが明らかになった。本事例を通して、描画テストは子どもの内面世界を表出すると同時に、

その活用は、カウンセリングにおいて臨床的に有効であると思われた。

キー・ワード:不登校、動的家族画、動的学校画、家族が立っている画、自由画

思考による自己理解の作業なのである(村山,

1999)。

子どもの中には、休み時間に絵を描いたり、

授業時間に教師に見つからないように絵を描

いたりする子どもがいる。描画は言語的表現

を必要としないため、描き手の無意識的な葛

藤や言葉にならない感情がイメージ的に表現

され、検査者も描き手のイメージをありのま

まに理解することが可能である(馬場,2005)。

橋本(1998,1999)は動的家族画や動的学校画

を通して不登校の生徒を理解し、学校の教育

Iはじめに

子どもが不登校になるときには、不登校と

いう状態の中に何らかのメッセージが込めら

れている。そのメッセージが何であるかを早

期に把握することが重要である。言葉や書記

的方法で自分の思いを訴えようとしても、語

彙力が十分でなくうまく伝えることができな

い子どもが多い。それに対して描画は、小さ

いときから自己表現の手段として慣れ親しん

できた身近なものである。描画によって自己

表現するというプロセスそのものが、視覚的

*琉球大学教育学部

-11-

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相談室や適応指導教室で援助を行った事例を

報告している。平田(2002)は不登校の中

学生に絵日記を書かせ、不登校生徒の情動の

変化が描画に表出することを明らかにしてい

る。

不登校の子どもの描画に表出した深層心理

を解釈することができれば、子ども及び保護

者や教師への適切な支援や介入の具体的な方

法を提案しやすくなる。

今回、不登校になった小3児童に対して描

画法を取り入れた母子カウンセリングを行っ

た。教室に掲示されていた「母の日の画」か

ら心理アセスメントを行い、それをもとに母

子カウンセリングを2回行った。初回面接の

翌日から学校復帰を果たし、以後再び不登校

になることはなかった。面接においては、

「動的家族画」、「動的学校画」、「家族が立っ

ている画」「自由画」の描画テストを実施し

た。そして、フォローアップとして4年生か

ら6年生までの3年間同じ描画テストを実施

した。

本研究では、初回面接の翌日から学校復帰

を果たした不登校女児の情動及び家族システ

ムの変化がフォローアップを含めた4年間の

描画テストにどのように表出しているかを分

析し検討することが目的である。

でも殆ど子どもたちと遊ぶことがない。母親

は、妹が2歳になったのを契機に仕事に復帰

する。母親の仕事の休日が平日にあたり、土

日に子どもと遊びに出かけることがほとんど

できなくなった。土日は子どもたちを近くの

母親の実家に預けていた。

面接までの経緯

小学校2年の3学期頃から腹痛や頭痛を訴

えるようになり学校を休みがちになる。病院

で受診しても内科的な異常はないと診断され

る。担任の薦めもあり心療内科でカウンセリ

ングを1回だけ受け、「母子分離がうまくで

きていないので、子どもともっと関わるよう

に」と助言を受ける。しかし、具体的にどの

ように関わればいいのか母親はよく理解でき

ていなかった。

小学校3年の4月頃は、遅刻もせず元気に

登校していた。K子は、幼稚園の頃から絵を

描くのが好きで、将来の夢は漫画家になるこ

とであった。休み時間や給食準備時間などに、

漫画を描いているK子の周りを他の子どもた

ちが取り囲んでいる姿がよく見られた。自分

が好きなイラストをK子に描いてもらうクラ

スメイトもいた。しかし、5月初旬から腹痛

や頭痛を訴えるようになり、保健室で過ごす

時間が長くなっていった。その頃から、登校

しても笑顔が少なくなり、学級でも一人で居

ることが多くなった。5月中旬頃から学校を

休みがちになっていった。

再度の病院の診断でも内科的な異常は見ら

れなかった。なぜ腹痛が起こるのか担任や保

護者から聞かれてもK子自身わからなかった。

不登校が長期化していくことを心配した母親

から担任を通して筆者(以後COとする)に

相談があり、COが学校に出向いて母親と小

3女児のカウンセリングを行うことになった。

Ⅱ事例の概要

主訴:就寝前に元気よく学校へ行く準備は

するが、朝の登校時間になると腹痛や頭痛を

訴える。母親が学校に欠席届を電話連絡した

後、しばらくすると腹痛や頭痛がなくなる。

痛みを押し登校したときには、保健室で過ご

すことが多い。どうして、腹痛や頭痛が起こ

るのか本人もよくわからない。みんなと同じ

ように学校に行きたい。

家族構成:父親(36)、母親(35)、K子(小

3)、妹(4歳)の4人家族。父親は会社員

で社交的で帰宅が遅い。休みの日は朝早くか

ら高校時代の仲間で結成した野球チームに所

属し練習を行っている。そのため、休みの日

心理アセスメント

母子面接前にK子に対して特別な心理テ

ストは行わなかった。教室の背面掲示板に

K子が図工の時間に「母の日」という課題

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で描いた絵(Figl)が掲示されていた。そ

の絵は、母親をジーと悲しそうに見つめる

K子の姿とK子を責めるような目つきをし

た女性が体を切断するように描かれていた。

そして、小さな女の子が一人だけ目を閉じた

状態で描かれ、また、父親が描かれていなかっ

た。

以上の描画の構図からCOは、K子と母親

の関係(母子分離不安)及び家族システムに

問題があると解釈し、描画テストを取り入れ

た家族療法を視野に入れたカウンセリングを

行うことにした。

もかまいません」

「鉛筆等で下書きせずに、ボールペ

ンで直に描いてください」

「描き終えた後、描いた順番と誰を

描いたのかを人物の側に書いて下さ

い」

動的学校画:(KineticSchoolDraWing:以後

K-S-D)

教示:「あなたが学校で何かをしていると

ころを描いて下さい」

「A4の用紙はどのように使っても

かまいません」

「鉛筆等で下書きせずに、ボールペ

ンで直に描いてください」

「描き終えた後、自分のところに

『自分』と書いてください。

自由画:(FreedomDrawing:以後FD)

教示:「あなたが不登校になったときと不

登校から立ち直った時の登校時の様

子を絵で表現してください」

「A4の用紙はどのように使っても

かまいません」

「鉛筆等で下書きせずに、ボールペ

ンで直に描いてください」

「描き終えた後、自分のところには

『自分』と書いてください。

母の日の画:3年と4年のK子の「母の日

の画」については、担任が授業等で

描かせたものである。5年と6年に

ついては、様々な事情から授業での

取り組みがなかった。

描画テスト

今回の事例で実施した描画テストは、「家

族が立っている画」「動的家族画」「動的学校

画」「自由画」である。A4サイズの所定の

白紙にボールペンを使い描いてもらう.通常

の描画テストにおいては、鉛筆で描かせてい

る場合が多い。しかし、筆者はあえてボール

ペンを使用させている。ボールペンを使用さ

せるのは、初めに描いた表現の中に描画者の

情動が表出しやすいと考えるからである。鉛

筆使用の場合には、何度も描き直しができる

ため、描画における情動表出の一部が隠され

てしまう可能性があるからである。

家族が立っている画:

(StandingFamnyDrawing:以後S-F-D)

教示:「自分も含めて家族が立っていると

ころを描いて下さい」

「A4の用紙を横にして描いてくだ

さい」

「鉛筆等で下書きせずに、ボールペ

ンで直に描いてください」

「描き終えた後、描いた順番と誰を

描いたのかを人物の側に書いて下さ

い」

動的家族画:(KineticFamilyDrawing:以後

K-F-D)

教示:「家族が何かをしているところを自

分も含めて描いて下さい」

「A4の用紙は、どのように使って

、面接経過

以下、K子の言葉は「」、母親の言葉は

く>、COの言葉は{}

【第1回面接】X年6月27

K子は面接の日に学校を休んでいた。面接

は放課後に行われた。K子は、母親と一緒に

相談室に来室.笑顔で「こんにちわ」と比較

的大きな声で挨拶しながら明るい表情で入っ

てきた。COとは初対面にも関わらず、ちゃ

んと目を見て話ができる人なつっこい子であっ

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た。

K子の方から「学校に行こうとするとお腹

や頭が痛くなる。今、不登校になっている。

だから、今日、カウンセリングを受けるんで

しよ。早く治りたいな」と言ってきた。

クラスの掲示板に貼られていた『母の日』

の絵を担任から借りてきたことを伝えた。

{その画は、描かれている人の気持ちが伝わっ

てくる凄い絵)だと言うと、K子は「絵を描

くのは楽しいよ」と嬉しそうに答えた。面接

においては、『K子は、人の気持ちを絵で表

現する才能を持っている。だから凄い』と絶

えず褒めることを意識した。

今日の面接は、K子の面接、親子での面接、

母親の面接の順で行うことを説明した。

COが{お母さんにかまって欲しいんだ)と

尋ねると、K子はしばらく考えて「うん」と

だけ返事をし、それ以上のことは言わなかっ

た。

S-F-D

K子に{自分も含めて家族全員が立ってい

るところを描いてください)と教示をし、A

4の所定の用紙にボールペンで描いてもらっ

た。K子は『家族が立っている画』(Fig2)を

約10分で素早く描き上げた。かなり描き慣

れている感じであった。K子は描きながら

「絵を描いているときが一番楽しい」と何度

も言った。

K子にFig2の説明をお願いした。「お父さ

んだけボケーッと夕焼けとか飛行機とか見て

いる。自分たちは、お父さんを置いて帰ろう

としている」「遊んでくれなくてもお父さん

が側にいればいい」とぽつりと言った。

1.K子の面接

K子が面接している間、母親は隣の部屋で

待機してもらった。

K子に『母の日の絵』(Figl)の説明をし

てもらった。「ホテルのレストランで食事を

している。お母さんは、何も言わないで食べ

ようとしている」「私はお母さんをジーっと

見ている」「妹は疲れているから目を閉じて

いる」「お母さんは妹ばっかりを可愛がって

いる」「体半分を描いているのは叔母さん、

叔母さんは私の顔を見るといつも、『なぜ学

校に行かないの、こんなに元気なんだから学

校に行きなさい』と言うので叔母さんは大嫌

い」「お父さんは、用事があってそのときに

いなかったから、描かなかった」

Fig2家族が立っているところ

K-S-D

次に、{自分が学校で何かをしているとこ

ろを描いてください}と教示し、A4の所定

の用紙にボールペンで描いてもらった。K子

は『教室で絵を描いているところ』(Fig3)を

約10分で素早く描き上げた。(K子はやっぱ

り凄い。何も見ずにこんなに素早く描けるな

んて。凄い才能だ)と何度も褒めた。すると、

K子は「学校で一番楽しい時は、絵を描いて

いる時。絵を描いている時には周りに友達が

一人もいなくても気にならない。だけど、絵Rgl母の日の絵

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人」と答えた。K子に{今、言ったことを絵

で表現するとどうなる」と教示し描いてもらっ

た。K子はA4の白紙にボールペンで父親の

姿を2分ぐらいで素早く描いた(Fig4)。「お

父さんは、手と足に毛が生えているところが

大人で、顔には毛がはえていなくて子どもの

表情をしている。だから、お父さんは、首か

ら下は大人で首から上が子ども」と描画の説

明をした。

次にK子は「お母さんはいつも、妹に対

しては大きな声で笑うけど、私に対しては、

ニカットしか笑わない」「私が口を開けて笑っ

ているときは、お母さんは口を閉じている。

私が口を閉じているときは、お母さんは口を

開けている。妹はちょっと口を開けてる」と

言った後、K子は涙を流した。母親はK子

が涙を流す姿を見てくごめんね、K子の気持

ちにお母さんは全く気づかなくて、寂しい思

いをさせていたんだね>と言いながらハンカ

チを取り出しK子に渡した。この時母親の

目からも涙が溢れていた。

Rg3教室で絵を描いているところ

を描きたくない時には、みんなと遊んでいる」

と語った。この時点でK子の話から不登校

の原因は、友達関係ではなく、親子関係の中

にあるのではないかと推測できた。

2.母子面接

K子の面接が終わったので、別室にいた母

親をK子に呼びに行かせた。K子は母親と

手をつないで入室してきた。K子が椅子に座

るなり、COが(髪を縛っている黄色いゴム

がとても似合って可愛いね)と言うと、母親

の顔を見ずに「黄色いゴムをもっと買って欲

しい」と小さな声でつぶやいた。(両親に何

かして欲しいことは}と尋ねると、「お父さ

んにして欲しいことは何もないけど、お母さ

んには、料理とか色々なことを教えて欲しい」

「でもお母さんは、学校から帰ったらいつも

言うことは『宿題やってから』だよね」とK

子は母親の顔を見ずに言った。COは(お母

さんの顔を見て言った方がいいよ。お母さん

もK子の方を見てください)と言った。K

子は母親に対して何か不満を持っているよう

に思えた。

K子にFig2の説明を母親の前で再度させ

た。「いつも笑顔で元気でいて欲しい人から、

お母さん、妹、自分、お父さんの順番で描い

た」「お母さんは、写真を撮るときのように

すました表情をしている。お父さんは家族と

反対方向の空を見ている」。(お父さんはどん

な人ですか}と尋ねると、「まだまだ大人の

子どもって感じ。顔が子どもで首から下が大

Fig4父親の姿

K子に{家族で何かをしているところを自

分も含めて描いてください}という教示をし、

A4の所定の用紙にボールペンで描いてもらっ

た。K子は『家族が食事をするところ』のK

F-D(Fig5)を約15分で素早く描き上げ

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しました><やっぱり、不登校の原因は私た

ち夫婦にあったかもしれませんね。父親と今

晩、真剣に話し合ってみます>と語った。

COは(K子は、繊細で感受性が強くそれを

描画で豊かに表現できる才能を持っているの

で大切に伸ばして欲しい。そのためにもマン

ガを読むことや描くことを禎極的に認めてあ

げることが大切である}と母親に助言した。

母親は絵を見てく台所は本当にこんな感じで、

食事のときに座る位置も描かれているとおり

です>と述べた。K子に絵の説明をお願いし

た。「お父さんがテーブルの一番前に座って

TVを見ながら食事をしている」「私もTVを

見ながら食事をしている」「妹はテーブルに

ご飯をこぼしながら食べている」「お母さん

は、妹がご飯をこぼしているのを見て怒って

いる」と説明した。

【第2回面接】X年7月5日

初回面接後、K子は休まず登校している

と担任から報告があった。今回の面接は、両

親面接をし、次に親子面接を行う予定であっ

たが、面接当日になって父親が仕事の都合で

参加できなくなった。母親面接を先に行い、

親子面接はK子の授業が終わる頃を見計らっ

て行った。

1燕

薑:篭、0t〈『

4‐リタ。

1.母親面接

母親は、初回面接の時と違い笑顔で来室し、

椅子に座るなり『前回の面接の後から、毎日

休まずに学校に登校しています』と嬉しそう

に語った。初回面接の後、夫婦で夜遅くまで

K子の事を話し合い、父親にK子が描いた絵

(FigLFig2,Fig3,Fig4,Fig5)を見せ、COが解釈

した内容を伝えたと語った。父親は描画の自

分の姿にショックを受け、『関わっているつ

もりだったけど、何も関わっていなかったん

だ』としきりに反省している姿が見られたと

述べた.母親は、子育てに関して父親へ5つ

の要望をしたと語った。

Rg5家族が食事をしているところ

3.母親面接

K子は別室で待ってもらい、母親だけの面

接を行った。

K子が体調不良を訴え始めたのが2年生の

3学期頃からだった。母親が勤め出した時期

と一致する。母親はくあの頃は子育てのこと

でもよく夫婦喧嘩をした。友達つき合いもい

いけど、子どもともっと関わって欲しいと最

近まで夫によく愚痴っていた。それをK子

はよく聞いていたかもしれません>と語った。

母親はく自分だけが子育てをして、父親は休

みの日は草野球をしたりと好きなことをして

いる><子どもたちは私の両側で寝て、父親

の側で寝ようとしない><本読みなどしてちゃ

んと子どもと関わってと言うと、自分は親に

かまってもらった記憶がないので、どう関わっ

たらいいのかわからないと怒る><私に言わ

れれば言われるほど逆にやらなくなってしま

う>と述べた。母親はくでも、K子は家族の

ことをよく見ていたんですね。絵でこんなに

適切に表現するのには我が子ながらびっくり

母親から父親への要望

.早めに帰宅し子どもたちと一緒に過ごす

時間を増やす。

・本の読み聞かせをする。

・子どもたちを風呂に入れる。

.飲みに行く日を減らす。

・土・日曜日にテレビを観たり、昼寝等を

しないで子どもと遊ぶ。

父親は話し合いの直後から、以前ほどテレ

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ビを見なくなり、早く仕事から帰るようになっ

た。しかし、子どもたちを風呂に入れ体を洗っ

てあげるけど、一緒に風呂には入らない。子

ども二人が湯船につかっている間は、父親は

テレビを見ている。<もうどうしてと思う>・

湯船で水掛け合いをしたりして遊んでくれれ

ば良いのにと思う。子ども二人で湯船ではしゃ

いでいるけど、そこに父親がいない』と父親

の頑張りは認めるがもう少し関わって欲しい

と述べた。

.<K子は最近、父親のことを嫌と言わなく

なた。そのせいか、私の方も精神的に安定し

てきた>と笑みを浮かべながら語った。父親

はK子の絵日記の中に、『まだ、自分が描か

れていない』と不満そうではあるが、いつ描

かれるのか楽しみにしているところがあると

母親は語った。

ではなく「ハリーポッターを買いたい」と言っ

たら「それじゃ一巻だけでなく二巻も買った

ら」と言うんじゃないですか)と尋ねるとく

その通りです>と答えた。<確かにそのとき

の私の表情そのものです。K子に私の心を見

透かされている感じがする>と答えた。

<私はあまり漫画は読まないけど、K子が

読んでいる漫画はどんな内容なんだろうかと

思い、最近一緒に読んでいる。ためになる内

容もあるんですよれ>と述べた。側にいたK

子は、話している母親の顔を見ながら嬉しそ

うに笑みを浮かべていた。初回面接時には見

られない姿であった。1週間で親子関係の改

善が行われたことが見て取れる。

M’2.母子面談

母親はK子の絵日記を持ってきていた。

絵日記の中に初回面談の翌日に描かれたもの

が『本屋さんで母親に漫画を買ってもらう』

(Fig6)であった。絵日記には『今日ツタヤ

にビデオを返しに行きました。私はマンガを

買いたいとお母さんに頼みました。お母さ

んは「オッケー」と買ってくれました。私は

うれしかったです』と書かれていた。その部

分はK子に声に出して読んでもらった。

K子が漫画を選んでいるときの気持ちを母

親に尋ねると、<漫画に夢中になって他のこ

とに手をつけないんじゃないかなと思う反面、

漫画を買ってあげれば本人の気持ちが落ち着

くのであればいいのかなという思う気持ちと

半分半分でした>と答えた。そのような気持

ちがFig6の描画の中で母親が口を開け、K

子が手にしている漫画をのぞき込んでいるよ

うに描かれているところに表出していること

を説明した。

K子は安心しきった表情しているが、母親

はまだ不安そうな表情をしている。<えっ、

漫画を2冊も買うわけ?>という戸惑いを隠

せない様子が伺える。{例えば、K子が漫画

Fig6本屋さんで母親に漫画を買ってもらう

面接前後の登校時の変化

「面接前後の登校時の様子を描いて下さい」

と教示した。K子は10分ぐらいでFig7を描

いた。Fig7の描画についてK子は説明を始め

た。「1回目の面接の後からなぜ学校を休ま

ずに来れるようになったか、自分ではよく分

からない」「元気が違うのかな」「学校に行け

なかった時は、朝からお腹が痛い、気分悪い、

頭痛いと言っていた」。

不登校の頃の自分は、お母さんに怒られて

朝起きていた。「お腹が痛い、気分が悪い、

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る。筆者のこれまでの臨床知において、母親

にかまって欲しい、気に入られたいという思

いを持った子どもが描いた絵の中に、母親と

自分を同じように描くことによって、自分の

気持ちを母親に伝えようとするケースを何例

も扱ってきた。

妹が目を閉じているのは、K子が母親を独

占したいという気持ちの表れと解釈できる。

K子は妹が産まれた幼稚園の頃から母親に甘

えることがほとんどできなかった。そのため

に、妹を母親から遠ざけ、更に目を閉じさせ

て母親との関わりを持たせないようにしてい

ると思われる。叔母は体が半分切られたよう

に描かれている。自分に対してネガティブ感

0滴を持っている人や自分自身がネガティブ感

情を持っている人に対して、描画の中で醜く

描いたり、体の一部を斬って描く場合が子ど

もの描画によく見られる。K子は、叔母と顔

を合わせる度に「どうして学校に行かないの」

と叱資されていた。K子は描画の説明で叔母

のことが大嫌いであると述べていた。ゆえに、

叔母を体半分を切った描き方をしたと考えら

れる。

初回面接の時にK子が「お母さんはいつ

も、妹に対しては大きな声で笑うけど、私に

対しては、ニカットしか笑わない」「私が口

を開けて笑っているときは、お母さんは口を

閉じている。私がロを閉じているときは、お

母さんは口を開けている。妹はちょっと口を

開けてる」述べていたことが、K子の描画の

中でも表現されていた。『母の日の絵』(Fig,)

では、K子のロが閉じて描かれ、母親のロは

開いて描かれている。K子は無意識に母親と

の気持ちのずれを感じ描画の中に表出したと

解釈できる。K子と母親の関係をみる上で、

描画において口がどのように描かれているか

をみる必要がある。

頭が痛い」とふらつきながら嫌々ながら家を

出ていた。遅刻すれすれに教室にはいるとき

も、苦しそうにロを結んで教室に飛び込む感

じだった。

「今の自分は、朝も自分で起きるし、教室

に入る前に、にっこりとした表情で、砂場で

星砂探しをしている。1まつと気付いて慌てて

『遅刻だ-』と大きく口を開け叫びながら、

教室に飛び込んでいる。そこにはワシと驚い

ている友達がいる」「もうお腹痛くならない

し、自分でも変わったことがわかる」。

その時、K子は自分に言い聞かせるかのよ

うに「大丈夫、大丈夫、元気だよ」と言った。G

雫〆切ザ知《0

Rg7面接前後の登校時における自分

Ⅲ考察

K子のその時々の情動が描画の中にどのよ

うに表出されているかを考察していきたい。

また、フォローアップのための描画(FigaF

ig9,FiglO,FiglLFigl2,Figl3,Figl4,Figl5)に

ついても同様に考察していきたい。

1.3年生の描画分析(200X年6月)

母の日の画(RgD

K子は母親の横顔をじっと見つめているが、

母親はK子の方を見つめていない。つまり

アイコンタクトがないので母子間で肯定的な

コミニュケーションが十分なされていないと

推測できる(Gillespiel994)。そして、母親

の右目とK子の左目の大きさが同じで、母親

の左目とK子の右目が同じ大きさになってい

家族が立っているS-FD(Rg2)

母・妹・本人は左手前にまとまり、左の方

向を向いている。父親は右うしろ側に位置し、

3名とは逆の右上を向いている。中央にいる

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のは本人である。妹は母親にぴったりと寄り

添っている。本人の左手は「お父さんは、あっ

ち行って」と意思表示しているかのように描

かれている。COのこれまでの臨床知より家

族をグルーピングしたり関わりの強さを観る

視点の一つとして、描画の中で身体接触の有

無によって分けられる場合がよくある。その

視点で観ると、母親と妹は直接的な身体接触

がある。K子と妹は直接的な身体接触はない

が、影の部分で間接的な身体接触がある。と

ころが父親とK子とは直接的にも間接的に

も身体接触はない。このことからも父親が家

族の中で孤立している姿が伺える。家族関係

をみる視点として、直接的・間接的に身体接

触があるかどうかもその視点になりうるかも

しれない。

家族で食事をしているKFD(Rg5)

K子の『家族で食事をしているところ』

(Fig4)のK-F-Dは、リビングでテレビに一番

近い椅子に座りテレビを見ている父親。目を

閉じた妹。父親の後ろで椅子を小刻みに揺ら

して座っているK子。椅子を小刻みに揺らし

ている表現は、K子の両親への苛立ちを表出

していると思われる。母親一人だけ立ってい

て、顔の右側に描かれた何本もの縦線は、苛

立っている母親を感じさせる。<テレビばっ

かり見て、何も手伝いもしないで><私も疲

れているんだから、共働きなんだから家事も

手伝って>という不満と怒りを父親に抱いて

いることをK子が感じ取っている。K子の

K-F-Dからは、母親の心のゆとりのなさと家

事を手伝わない父親の姿が浮き彫りになって

いるように思われる。また、現状の暗い食事

場面を描くことによって、食事の時間を楽し

くしたいというK子の思いが伝わってくる。

教室で漫画を描いているK-S-D(Fig3)

K子の『教室で漫画を描いているところ』(F

ig3)のK-S-Dは、教室の自分の席で一人でノー

トに漫画を描いている姿である。教室での様

子がきめ細かく描かれているが、K子の周り

にはクラスの子が誰も描かれていない。どこ

となく寂しそうで不安を伴った様子が伺える。

3年生のこの時期は、保健室に頻繁に行った

り、学校を休みがちの頃である。

本屋さんで母親に漫画を買ってもらうFD

(F吃6)

K子が手にしている漫画を母親が口を開け

て心配そうにのぞき込んでいるように描かれ

ている。K子が面接の中で描画を見て「お母

さんの足が浮き上がっている感じがする」と

言ったことは、母親が漫画を買うことに対し

て十分納得していないということを感じ取っ

ていたと考えられる。K子の下を見ている目

と閉じた口の顔の表情は、買ってもらえると

いう嬉しい表情ではなく、「本当に買っても

いいのかな」と戸惑いながらも母親に気を遣っ

ているように思える。

父親のFD(F垣4)

K子は初回面接で「お父さんは、首から上

は子どもで首から下は大人、でもまだまだ大

人の子どもって感じ」と説明した。首から上

の父親の顔は、明らかに子どもの顔である。

それに対して、手足の毛は目立つようにうっ

そうとはえている。K子がそのように父親を

表現したのは、父親がテレビゲームをしなが

らランニングマシンで走っている姿、食事時

間にテレビに一番近いところで見ている姿、

日曜日になると好きな野球をしている姿、こ

れら全てが子どもの姿として映っているのだ

ろう。

面接前後の登校時における自分FD(F尼7)

不登校の時に登校するときの様子が左半分

に描かれている。お腹や頭が痛いにも関わら

ず、学校に行きなさいと母親に強く叱られ、

遅刻寸前に教室に飛び込んでいる。そこには

父親の姿がないことから、母親がK子と深

く関わっていることが分かる。教室に飛び込

んでくるK子の姿は大きく描かれ、不登校

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にもかかわらず心的エネルギーの高さを感じ

る。また、K子の側に友達が一人描かれてい

る。以上のことから不登校の原因が学校には

ないということが伺える。

面接後に不登校から立ち直ったときの登校

の様子が右半分に描かれている。登校前に砂

場で遊ぶ姿が描かれ、そこには、母親の姿も

見られない。自分の意志で登校していること

が伺える。遊びすぎて遅効寸前に教室に飛び

込んでくる姿が強い筆圧で描かれている。教

室の入り口には2人の友達があきれ果てたか

のように出迎えている。これらの描画よりK

子の心的エネルギーの高さを感じる

でも描かれたことは、父親として頑張り始め

たことをK子が認めた証だと思われる。

K子は母親の後ろ姿をじっと見つめている。

テーブルの上に伸ばした両手からは、母親に

甘えたい気持ちと自分の気持ちをもっと理解

して欲しいということが伝わってくる。妹は、

右側の椅子に寄りかかり、1年前に描いた母

の日の絵(Figl)と同様に、母親の方を見な

いように描かれている。妹がまだまだ母親に

甘えていて、K子は十分甘えることができな

いことが伺える。

【フォローアップ】

K子のフオローアップについては、毎年6

月にスクールカウンセラーとして訪問する日

に行った。面接は清掃後の45分の休憩時間

や放課後の1時間程度の短時間で描画テスト

を行う形で行った。

2.4年生の描画分析(200X+1年6月)

4年生のS-F-Dについては、K子に描かせ

る時間が取れなかった。

母の日の画

COが廊下を歩いているとK子の方から

「先生、『母の日の画』(Fig8)を描いたけど

見ますか」と声をかけてきた。「先生、この

絵の中に去年の母の日の絵の中にいなかった

お父さんもいるよ。どこにいるか分かる」と

聞かれたが見つけることはできなかった。

「描画の左上の椅子の側にあるカーテンの後

ろに、毛の生えた足が見えるでしよ」と教え

てもらってようやく分かった。「昔のお父さ

んは、首から上が子どもで、首から下が大人

だった」「今のお父さんは、首から上が普通

の大人の顔で、首から下が若者になっている」

「今の父さんは、よく遊んでくれるし、よく

出かけてくれる。だから昔よりはいい。でも、

酒とタバコを止めて欲しい」「お父さんも最

近、お父さんになるために頑張っているよ」

とK子が述べた。父親の姿が描画の中に少し

F吃8母の日の画

家の中で散歩をしているKF-D(Rg9)

小学校4年生に描いたK-F-D(Fig9)につい

てK子は、「お父さんは仕事帰りに居酒屋で

酒を飲んでいる。その頃、私、妹、弟、母、

犬は家の中で散歩をしている」と説明した。

家の中と外を区分化した2本線は、家族が

2つに分かれていて、十分に擬集化している

とは言えない。妹、弟、母、犬はほぼ同一直

線上に描かれているのに対し、K子はその後

ろの方に描かれている。ここでも2つのグルー

プに分かれていることが読み取れる。後ろの

方にいるK子の顔は黒く塗りつぶされ妹の

方を見つめ怒っているように感じられる。妹

をまだ受け入れることができないK子の心

情が感じられる。弟、母親、犬はちゃんと目

を開いて描いているのに対して、妹は目を閉

じた描き方をしている。また、母親と妹の口

を開いて描いているのに対して、K子の口は

閉じて描かれている。K子が3年生の時に言っ

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ていた「お母さんはいつも、妹に対しては大

きな声で笑うけど、私に対しては、ニカット

しか笑わない」「私が口を開けて笑っている

ときは、お母さんは口を閉じている。私が口

を閉じているときは、お母さんは口を開けて

いる。妹はちょっと口を開けてる」と言って

いたことが描画の中に表現されている。これ

らのことから、妹が母親に対して甘えること

ができるのに対して、K子は甘えることをじっ

と我慢していることが推測できる。しかし、

K子は学校を休まずに登校している。K子が

求めている母親の愛情は十分ではないがT母

親の愛情を3年生の頃より強く感じているか

ら、学校に休まずに登校していると考えられ

る。

る。K子だけが口を大きく開いて描かれ、周

りの友達はK子の指示に何かしたがってい

るように見える。また、K子自身をかなり詳

細に力動的に描いているところから、クラス

でリーダ的存在であることを感じさせる。

3.5年生の描画分析(200X+2年6月)

家族が立っているS-F-D(Rgll)

K子は、S-F-D(Figll)を本人、弟、妹、

父、母の順に描いた。家族間の物理的距離

がほぼ等間隔に描かれている。父親が母親よ

り先に描かれたことは、父親を受け入れつつ

あるK子の心情が伺える。

弟がK子に手を広げて「だっこ」と言っ

ている。K子は手を伸ばしながら笑っている

ことから、弟を可愛がっているいる様子が伺

える。妹は相変わらず家族の中で-人だけ目

を閉じて描かれ、他の家族の立つ位置より後

ろの方に描かれている。このことはK子は

妹に対してまだ受容できなところがあると思

われる。つまり、母親の関わりがまだ自分よ

り妹の方が強いと感じているのではないだろ

うか。

父親が子どもたちの方向を向いて描かれて

いることは、父親が子どもと関わるようになっ

たと思われる。母親は、父親と子ども3人に

背を向け、「にぎやかだね-」と言いながら

ため息をつき見ている。母親のため息は、父

親が子どもと関わるようになったことに対し

て、母親が幸福を感じていると解釈できる。

Rg9家の中で散歩をしている

教室でイラストを描いているK-S-D(RglO)

左上の方に一番大きく描かれているのが

K子で、休み時間にクラスの女子にお願いさ

れたイラストを描いてあげているところであ

轍一式5●

奪灘騨胃轍U●I>

L七、、づ

RgllS-FDRglO教室でイラストを描いている

-21-

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で眺めているように感じられる。

人物描画は妹.K子・弟・父・母の順であっ

た。母親より父親を先に描いたことは、K子

が父親を共感的に受け入れられつつあること

を感じさせる。

子どもたちの前後に両親が描かれ、子ども

たちを見守っているかのように感じられる。

子どもたちが遊んでいる部屋と父親がパソコ

ンで仕事をしている部屋の境の戸道にテーブ

ルの脚が描かれていることは、父親が子ども

たちの領域に入りつつあると解釈できる。

描画には、妹が「ぎゃ-いや-11」と逃げ、

K子は「あ-もううざい」と言っているセリ

フが書かれているが、笑顔であり楽しげな様

子がある。父親は子ども全員が目に入る位置

に描かれている。母親は外から家族全体を見

て「?」の表情だが、家族が立っている描画

と同様、あきれながらも幸せを感じている様

子がある。

弟は目を開けて描いているが、弟はK子に

「だっこして」とせがんでいる様子が描かれ

ている。描画の中の家族システムにまとまり

が出てきている。

休み時間に教室で読書をしているK-S-D(Rg

l2)

K子は休み時間に教室で読書をしているK-

S-D(Figl2)を15分程度で素早く描き上げた。

紙面の中央に読書をしている自分、その周り

には楽しそうに遊んでいる友だちが描かれて

いる。K子は絵を描き終えた後「私は、本を

読みながら歌を口ずさんでいる」「読書や漫

画を描いていないときはクラスの友達と楽し

く遊んでいるよ」とCOが尋ねようとしたこ

とを自ら語った。K子の表情に寂しさは感じ

られず、たくましさが感じられる。K子は5

年生に進級してから現時点まで階出席であっ

た。

Rgl3家で遊んでいるところRgl2教室で銃書をしている

家で遊んでいるSFD(Rgl3)

K子・妹・父の目は閉じて描かれているの

に対して、母親は目を大きく開いて描かれて

いる。

父親は子どもたちのいる部屋とは別の部屋

にいる。母親は、父親が仕事をしながらも子

どもたちと一緒に居ることを幸せそうな表情

4.6年生の描画分析(200X+3年6月)

6年生になってのK-F-Dについては、都合

により描かせることができなかったので今回

の分析から外してある。

家族が立っているS-F-D(Rgl4)

K子は、S-F-D(Figl4)を母親、弟、妹、

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本人、父親の順で描いた。両親の間に子ども

が描かれ、両親が子どもたちより後ろに立ち、

子どもを温かく見守っている理想的な家族の

姿が描かれている。全体的に描線が柔らかく

描かれ家族の優しさや安定感が伝わってくる。

家族システムの再構造化が行われたと思われ

る。

弟を見ている妹の目が大きく開いて生き生

きと描かれ、K子の手が妹の体に触れて描か

れていることから妹を共感的に受け入れてい

ることが伺える。また、父親とK子が身体

接触をして描かれているところから、K子が

父親を共感的に受け入れていることが伺える。

また、親子の心的距離が狭まったと推測でき

る。

父親、妹、弟の3人は口を開いていて楽し

そうに笑っている姿が描かれている。特に父

親の口元に「HAHAHA』と文字を書いて

笑っている様子を強調していることは、家族

の大黒柱としての父親の姿が感じられる。そ

れに対して、K子と母親は口を閉じて少し元

気がなさそうに見える。このことについて、

K子は「この絵は写真を撮っているときの家

族をイメージして描いたから、自分とお母さ

んが真面目な顔をしていると思う」と答えた。

K子が言ったことを裏付けているのが、父親

が手を後ろにして立っている姿である。また、

弟の方を見ている妹にK子が「正面を見な

さい」と注意をしているかのように左手が描

かれている。

K子は、図画で数々のコンクールで入賞を

していて、同級生からは絵に関しては一目置

かれる存在になっていた。また、学校は階出

席であった。

休み時間に教室で硫脅をしているK-S-D(Rg

l5)

K子はK-S-Dをあげた後に「先生、この

絵を見てK子が寂しそうに見えるでしょう。

でも違うんだよ。今、読書が楽しくて集中し

て読んでいるところなんだよ」と説明した。

K子のこれまでのK-S-Dはすべて休み時間

に自分の席で漫画を描いている場面か、読書

をしている場面であった。不登校の3年の時

にも一人で漫画を描いているK-S-D(Fig3)

が描かれていた。筆圧が強く背景をかなり詳

細に描いていた。今回のK-S-D(Figl5)は

筆圧は弱いが描線が柔らかく描かれ安定感を

感じさせる。また、A4の紙面に大きく猫か

れ静かな中にも存在感を感じさせるものであ

る。6年生になって情緒的にかなり安定して

いるように思える。

-..-.

.、‐螂勾一縁,獅『鎧(Ⅱl‐ルル.,41・‐f

」一三騨鍬■Ⅱ」■1川》鮒一)一鯛。「》川小烈濟い

勵脚三E」■口已■■■州E■Ⅶ

k、. 巴や■①Iロハ

、ゾグクノ5G脚qも‐勺◆0

、匂

Rgl5休み時間に教室で読書をしている

Rgl4S-FD

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た、描画を総合的にみると、K子の発達的・

心理的成長も読み取ることができる。

このように、カウンセリングにおける描画

テストの有用性は示唆されたといえよう。カ

ウンセリングに描画テストを導入することに

よって、カウンセラー及び教師は適切な介入

方針を立て短期間で問題の解決に当たること

ができるのではないだろうか。

カウンセリング及び学校現場で描画を「ア

セスメント」として活用するためには、描画

の内容を適切に解釈できる基本的な手引きの

作成が急がれるであろう。

Ⅳまとめ

今回、2回の面接の初回面接以後、不登校

から立ち直り学校復帰ができた要因として、

①教室に掲示されていた『母の日の画』を見

て、不登校の原因が家族システム(特に母子

関係)に問題があると直感的にアセスメント

したことだと考える。Furth(1988)は、描画

解釈におけるアプローチとして、「常に絵の

第一印象に注意を払うこと」を第一原則とし

た。その絵からどんな感じが伝わってくるか

を重視し、絵を解釈するのではなく、むしろ

自分が最初に抱いた感じに集中すべきである

と述べている。しかし、感じるためには描画

に対する基本的な見方と経験が重要になって

くる。②描画の言語化をK子と母親とCOの

三者で共同して行ったこと。その際に、日比

(1994)が述べているように、描画をく読む>

作業において大切なことは、描画のく描き

手>とく読み手>がその世界を共感し共有す

ることである。今回のケースにおいては、そ

れがうまく機能したと考えられる。

フオローアップの期間を含めて4年間のK

子の描画には、その時点でのK子を含めた

家族の情動が描画の中に表出していた。F-S‐

Dを比較すると、3年生の時のFig2のF-S-D

においてはK子が父親を近づけないように

している構図が描かれている。5年生のFig

llのF-S-Dにおいては、父親が母親より先

に描かれ、父親と母親が寄り添って描かれて

いる。6年生のFigl4のF-S-Dにおいては、

両親の間に子どもたちが描かれ、親から守ら

れている温かい家族をイメージするような構

図になっている。K-F-Dについても4年間を

縦断的にみると、家族が力動的に凝集して行

く様子が描画の構図の中に表出している。ま

【謝辞】

本論文をまとめるにあたり、K子と同じよ

うな不登校の子どもの立ち直りに少しでも役

に立てればと快く了解してくださったK子

及び保護者に深く感謝申し上げます。

【引用文献】

・村山久美子1999心を描く心理学ブ

レーン出版

・馬場史津2005母子画の基礎的・臨床

的研究北大路書房

・平田幹夫2001不登校生徒への絵日記を

取り入れたカウンセリング過程一中学1年

女子の事例から-琉球大学教育学部教

育実践総合センター紀要創刊号

・Furth,GM、1988Theseacretwarldof

drawings:Healingthroughon、角野善宏・

老松克博(訳)2001絵が語る秘密一ユ

ング派分析家による絵画療法の手引き-

日本評論社

・日比裕泰1994人物描画法一絵に見る知能

と性格一ナカニシヤ出版

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