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高単位女性ホルモン(Honvan)投与後全剔出せる前立腺癌の1例

加藤, 篤二; 高橋, 友男; 鈴木, 正貢; 柳原, 正志

加藤, 篤二 ...[et al]. 高単位女性ホルモン(Honvan)投与後全剔出せる前立腺癌の1例. 泌尿器科紀要 1958, 4(6): 336-341

1958-06

http://hdl.handle.net/2433/111619

336

泌尿紀要4巻6号

昭和33年6月

高 単位 女 性 ホル モ ン(Honvan)投 与 後

全別 出 せ る前 立腺 癌 の1例

広島大学医学部皮膚科泌尿器科教室(主 任 加藤篤二教授)

加 藤 篤 二

高 橋 友 男

鈴 木 正 貢

柳 原 正 志

A Case Report of the Prostatic Cancer Which was Treated by Total

Prostatectomy after the Administration of Honvan (diethyl-stilbestrol-

diphosphate)

Tokuji KATO, Tomoo TAKAHASHI, Masatsugu SUZUKI and Masashi YANAGIHARA

From the Department of Urology, University of Hiroshima School of Medicine, Hiroshima, Japan

(Director : Prof. Dr. T. Kato)

Seventy three year old Japanese man with prostatic cancer was treated with Honvan

(diethyl-stilbestrol-diphosphate) and his clinical course was observed by a remarkable effect, although at first he seemed to have some resistance to estrogen.

After the total prostatectomy, microscopic examination revealed that the parenchymal was cystic and filled with soft substances which tissue of this cancer were probably influenced by the administrated estrogen.

緒 言

近 時 本 邦 に 於 け る前 立 腺 癌 は 急 激 な 増 加 を 示

し,そ の療 法 に つ い て 種 々検 討 され て い るが,

所 謂 抗 男 性 ホル モ ン療 法 は,本 症 の 根 治 手術 非

適 応 症 に対 す る最 大 の武 器 と な つ て い る.

我 汝 は本 症 に対 す る臓 器特 異 製 剤 と言 わ れ る

合 成 発情 物 質Diethyl-Stilbestrol-Diphosph-

ate(Honvan)を 使 用 後,前 立 腺 全易1」除 術 を行

つ た例 を 経験 した の で,そ の経 過 並 び に 検 査 成

績 を報 告 す る.

症 例

患者:西 ○萬○○,男,73才

初診:昭 和31年11月1日

主訴:排 尿障碍及び血尿

現病歴:昭 和30年 春頃 より軽度 の排尿障碍,尿 線細

小あ り,症 状は漸次増弥 し,昭 和30年8月 には尿意頻

数 と軽度の血尿に気付いた.以 後,昭 和30年12月,昭

和31年4月,7月 と尿 閉を繰 返し昭和31年10月 には左

下肢 に放散 す る微 弱な疹痛 を来 し 血尿 も強度になつ

た.現 在 まで ロバール5万 単位130本,計650万 単位を

注射 している.

現症:体 絡中等度,栄 養衰 え梢 貧1血状 で胸腹部 に著

変 を認 めず,乎[房 は ロバ ール治療 のため軽 度に腫大 し

黒褐 色を呈す

泌尿器科学的所 見:幾 尿600cc,排 尿回数1日20

回,尿 は血性 ブ ドー酒檬に1國濁し,直 腸 内触診上前立

腺は鷲卵大 に腫張 し特に右葉の腫大著明で軟骨様硬 度

を呈 し凹凸不平で右葉に圧痛を訴 う.膀 胱鏡 所 見,膀

胱容量は200ccで 膀胱三角部,頸 部,内 尿道 口にか

けて表面平滑 で膀胱粘膜 と略置様な隆起を認め,そ の

加藤 ・高橋 ・鈴 木 ・柳原一高単位女性 ホル モン(Honvan)投 与後全 別出せる前立腺癌の1例337

第1図 膀 胱 鏡 所 見 略 図

治 療 前 Honvan250mg×10及 び 除 睾 術 併 用後

隆起のために膀胱三 角部 の形成不明である.イ ンジゴ

カル ミン排泄試験 は5分 後洗瀞水 中に青色 の排 出を認

め得 た.膀 胱尿道 レ線 像は,後 部尿道 が左側に蛮曲

し,膀 胱下縁 が恥骨結合部 よ り半 円球状 に突 出し梢 々

凹凸不平であ る.尚 検査時傍胱鏡 に付着 していた組織

片は,組 織学的に腺癌 の像を呈していた.

治療及び 経 過=11月8日 よりホ ソ バ ソ治療 を開始

し,1日250mgを5分 聞かか って徐 々に静注 し,

10日間連続,計2500mg静 注 した.

治療開始5日 目(1250mg)よ り,排 尿 回数減 少し

尿色は淡紅色 となった.治 療開始13日 目には,尿 奔 出

力の増強 と共に残尿40ccと な り肉 眼的血 尿は消失

したが,前 立腺分泌 液検査の 目的 でマ ツサージを行っ

た所,尚 多量 の出血を来 した.直 腸 内触診では鳩卵大

に縮 小し表面は注射前 に比 し平滑にな り硬度 も多少減

退 す.膀 胱鏡所 見は膀胱三角部に栂指頭大 の隆起を認

め,右 側壁には凹凸不平の乳 猪状 の突 出を認めた.膀

胱尿道 レ線像 は後部尿道の変曲は減少 し不規則な膀 胱

底像は平 滑 となった.其 の他の検査所見は表1の 如 く

で,リyパ 球 の著明な減少を来 した.ホ ソ・ミソ2500

mg注 射終 了7日 後に除睾術 を施行 した.

除睾術後7日 に して 尿奔 出力 は 病前の 状態 に回復

し,下 肢 の歩行時の索 引痛 も軽快 し顕微鏡的 に も赤 血

球を殆 ん ど認め得ず,前 立腺 マ ツサージを行って も血

液の排 出を見ず,直 腸 内触診では前立腺は桜実大 に縮

小し表面 は著 しく平滑 にな り,硬 度は表面 は軟 いが内

部は尚軟骨様 の硬度 を呈す.膀 胱鏡 所見は膀胱三 角部

の隆起は著明に縮 小し両側尿管 口を明かに認め得,イ

ンジ ゴカル ミy排 出試 験は,右3分30秒,左3分55秒

で濃染であった.

除睾術 に続 いて,更 に ホソバ ソ週2回,1回250mg

表1

検 査 事 項 「治 療 前 治 療 後

血 圧(mlnHg)

赤沈(一 戸等 価)

赤 」血 球 数

血 色 素SahIi

(%)

白 」血 球 数

憲鴬綴球陪 酸 球

分 好 塩 基 球

類 リ ン パ 球

%単 球

尿

混

色

濁

赤1血 球

沈 白1血 球

渣 上 皮

細 菌

B.S.P.test

CoC12反 応

排 尿 回 数残 尿

130～70

33

393×10i

72%

6150

3%

57%

3%

0%

39%

1%

ブ ドー 酒 檬

強

無

(廿)

(骨)

度

数

大腸菌(+)

140～90

69

343×IO4

65%

7ε50

2%

78%

6%

0%

14%

2%

淡

軽

黄 色

(升)

(+)

(+)

(一)

度

30分 後10%R5〔2)

20回600cc

30分 後13%

R6〔3)

8回

20cc

宛計10回 総量2500mgを 与え,自 覚的 には一応病前

の状態 に回 復したがゆ除睾術後約2ケ 月して,直 腸内

338加 藤 ・高 橋 ・鈴木 ・柳 原一高単位女 性ホルモ ソ(Honvan)投 与後全別出せる前 立腺癌 の1例

触診,膀 胱尿道 レ線像及び膀胱鏡的 に増悪の徴 候を認

めたので前立腺全別除術 を施行 した。叩ち先づ人工肛

門形 成術 を行った後,会 陰式 及び恥 胃後前立腺全別除

術 を併 用し,上 下2方 向 よ り剥離して前立腺 に達 し,

驚 卵大 の前立腺を膀胱頸部近 くよ り切除 し尿道断端 と

縫 合した.腫 瘍内容は血性,軟 で脆弱物質で充盈 して

お り,嚢 腫状を呈し,初 診時 の触診 に よる硬い腫瘍 の

予 想 とは全 く相反していた.

第2図

鍵

劉 ノ

'誌

{遥

も

齢 ≡蝉 轡 幽.擁 、,、 .、 バ ー縛

前立腺別出標41

ま

術後経 過良好 で,自 然排尿,歩 行可能 な状態に迄回

復 したが,そ の後3ケ 月して左坐骨結節部に隆起を生

じ,左 大 腿部に神経痛様痙痛 を訴え,レ 線像に骨破壊

像を認 めたので,前 立腺癌転移巣 と考へ,概 部軟腫瘍

を摘出 した.摘 出物 は内部 に硬い数 ケの小結節を有す

る軟い腫 瘍であった(第3図)

別出前 立腺組織所見で,癌 細胞は一部に空胞形成等

の変化 を認め る も,尚 活動性 と考え られ る細胞 も多

く,ヌ 転 移 巣の組織 も高円柱性 の癌細胞を認め前立腺

組織 と類 似の所見を呈 していた.

尚転移巣摘 出後1ケ 月して,左 下肢放散痛再発 し,

コーチ ゾy50mg宛20日 間,計1000rng投 与で疹

痛は一旦軽快 したが,腫 脹は可 成 り急速に増 大し現在

に到っている(コ ーチ ゾソ投与前後 の検査成績は白血

球,酸 及びアル カリフオスフアターゼ,総 プロテイン

値 の減少 をみ たが,何 れ も正 常範 囲内 の減少で あっ

た)

尚ホンバ ソに よる副作用 と考 え られた ものは食慾減

退,軽 度 の両下肢浮腫,注 射時約1分 間肛門周囲に灼

熱感を訴えた以外は悪心,出 血傾 向,女 性化 現象等 は

著明には認め られなかつた.

第3図

軽傷1繊辮麹継 瓢嚢 麟

卿 灘ド霧〆

鼠

転移巣摘出標本

髪

左坐骨緯・節部隆起(転 移巣)

総括並びに考按

Huggins&Hodges(1941)に よ る除 睾 術

の 効 果 及 びHerbst(1941)の 女 性 ホ ルモ ン有

効性の実証に始 まつた所謂損男性ホルモン療法

の前立腺癌に対する効果は,既 に多 くの人汝に

より検討 され,今 更云 々する時期ではないと思

加藤 ・高橋 ・鈴木 ・柳京一高単位女1生ホルモ ン(Honvan)投 与後 全別出せ る前立腺癌 の1例339

うが,我kの 症 例 は既 往 に ロバ ー ル130本,計

650万 単 位 を使 用 し,或 る程 度 エ ス トロゲ ン に

抵 抗 性 を 有 す る と考 え られ る前 立腺 癌 患 者 に,

超 大量 の 合 成情 発 物 質(ホ ンパ ン)の 投 与 及 び

除 睾 術 を 併 用 し,一 且 は劇 的 効 果 を収 め た症 例

で あ る.即 ち 自覚 症 状 は殆 ん ど病 前 の状 態 に回

復 し,直 腸 内 触 診,膀 胱 鏡 所見 も前 述 の如 く著

明 な改 善 が認 め られ,叉RoberteC,Thumann

が 尿 道膀 胱 レ線 像 につ い て経 験 的 に 案 出せ る公

式 か ら,前 立 腺 重 量 を測 定 す る と,初 診 時 重 量

50gmで あ つ た が,ホ ン バ ン投 与5日 目 に は

35.28gmと な り,更 に除 睾 術 施 行後7日 目 に

は19.22gmと 著 明 に 縮 少 した.し か し ホ ン

バ ンを 週2回 継 続 投与 し て い た に拘 わ らず 除 翠

術 後2ケ 月 に し て,他 覚 的 に腫 瘍 の 増 大 傾 向を

示 し,本 剤 に対 し反応 を 示 さな くな つ た.

従 来 前 立 腺 癌 に対 す る抗 男 性 ホル モ ン療 法 の

効 果 は 根 治 的 な も の で な い事 は衆 知 の 事 で あ る

が,手 術 不 能 例 が 本 療 法 に よつ て手 術 可能 な 状

態 に まで軽 快 し,或 い はNesbit&Baumは

統 計 的 に 両者 の 併 用 よ り更 に生 存 期 間 の延 長 が

見 られ る と報 告 して い る.即 ち,一 且 著 効 を 示

した が再 増 悪 を 防 ぎ得 ず,且 つ組 織 学 的 に も ホ

ン バ ン に よ る と考 え られ る変 化 を一 部 に認 め た

が,大 部 分 は 街 活 動 性 の 細 胞 を認 め た.唯 別 出

前 立 腺 の組 織 が嚢 腫状 を 呈 し,軟 且 つ 脆 弱 で あ

つ た点 は本 剤 の影 響 で は な いか と考 え られ る.

次 に抵 抗 性 に つ い て は,わ れ わ れ は臨 床 経過

及 び 転 移 組 織 の 雌 家 兎 眼 房 内 移 植 成 功 よ りみ

て,Deningの 海 狽 眼 房 内 移 植 実 験 に よる抗 男

性 ホル モ ン耐 性 と認 め た.唯 落 合 の報 告 か ら考

え て,少 くと も半 年以 上 は 有 効 と予 想 して居 た

が 幾 分 早 く抵 抗 性 を 獲i得した と思 わ れ る.

コー チ ゾ ン療 法 はHarrison,Thorn&Jen-

kins(1953)の 創 案 に な り,副 腎 皮 質 ホル モ ン

の分 泌抑 制 を 目的 と して い るが,そ の効 果 は 自

覚 症 状 特 に疹 痛 の 消失 が主 で 他 覚 的 所見 の 改 善

は著 明 で な く,落 合,Shubik&Baserga等 は

コー チ ゾン投 与 に よ る転 移 巣 拡 大 とい う逆 効果

を 認 め て い るが,本 症 例 に於 て も コーチ ゾン投

与 に よ り疹 痛 は軽 快 した が,投 与 中止2ケ 月後

に は転 移 巣 の 急 激 な拡 大 を 認 め,コ ーチ ゾンが

転 移 巣 の拡 大 を促 進 した こ とは注 目す べ き こ と

と考 え られ る.

結 語

1)我 々 は73才 の前 立腺 癌 患 者 にホ ンバ ンを

使 用 し,そ の経 過 を追 求 した.

2)そ の 結 果,或 程度 エ ス トロゲ ン抵 抗 性 を

有 す る と考 え られ た の に劇 的 効 果=を認 め 得 た.

3)之 を 全別 した 結 果,腫 瘍 実質 は 案 に相 違

して嚢 種状 を な し脆 弱 物 質 を み た し,本 剤 の影

響 に よ る もの な る こ とが 推 定 され た.

欄筆.こ当 りホソバ ソを提供 して戴 いた杏林 蒸皐1:こ対

し深甚 の謝意を表す

尚本論文要旨は,第9回 西 日本皮膚泌尿 盗斗連 合地

方会:こ於 て発表 した.

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線 像

・ ジ遍 幽、《 ～〉

鵠.灘 綜:糞 ∵,

前立腺全別除術後3ケ 月目

翔『

」

ヨ

Cortisone50mg×10投 与 後1ケ 月 目

組

灘灘1難灘 　 灘麟螺窮 、鑛

灘講難

治 療 前

懸

織 像

易1j出前立腺(Honvan250mg×20と 除睾術 併用後)

1部 細胞に空胞形 成を認 めた.

カpas・高橋 ・鈴木 ・柳原 一高単位女性 ホルモ ソ(Honvan)投 与後全易11出せ る前立 腺癌 の1例341

別 出 前 立 腺

空胞形成を認む.

Fig.1

転 移 巣 組 織

高円柱性癌細胞を認め前立腺組織と類似の腺癌の像を呈す

尿 道 膀 胱 レ 線 像

初 診 時

Fig,2

姦

擁気,

零

Honvan25Crrg×10..投 与 後3日 目

Fig,3

饗

除睾徐後7日 目

網

Fig.4

除睾術後2ケ 月目