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一般演題4 演題11 MIF レドックス制御を介したチオレドキシン(TRX)による抗炎症作用 淀井淳司、加藤紀子、孫安生、原富次郎、近藤則彦、三井彰 京都大学ウイルス研究所・生体応答学研究部門・感染防御学 TRXは分子の酸化還元反応を介したタンパク質の構造変化、特にシステイン残基上のチオール 基の可逆的構造変化などにより、細胞内外のレドックス制御を行い、細胞の増殖、分化、シグナ ル情報伝達などを制御する。種々の酸化ストレスで誘導された TRX は、ストレスに対する防御タ ンパク質として働き、血清・血漿 TRX 値は酸化ストレスの良い指標となるほか、細胞外からの TRX 投与によって、抗酸化作用、抗アポトーシス作用、炎症部位の白血球浸潤抑制による抗炎症 作用、細胞傷害抑制、細胞保護作用などを示すことが明らかにされてきた(1,2)。ヒト TRX は成 人T細胞白血病の研究過程で発見されたが、感染、虚血などの様々な酸化ストレスによって誘導 され、細胞内外で生体防御反応を制御している。TRX を高発現させたマウスは、thioacetamide による急性肝障害、慢性肝障害に抵抗性をしめす(3,4)ほか、抗体誘導性関節リウマチ、マウス 自己免疫性心筋炎、接触性皮膚炎などのアレルギー症状を TRX が軽減することが明らかになり、 そのメカニズムとして TRXによる白血球遊走抑制と抗炎症作用、特異的ケモカイン産生やシグナ ル伝達制御などが示唆されている。一方、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)は分子内に Csy-X-X-Cys 配列を含む TRX ファミリーに属し、生体内の様々な細胞から産生される炎症性サイ トカインとして知られている。我々はヒト TRXを ATL-2 細胞の培養上清から精製した際に、同時 に MIF を精製している(特許申請 1985)。また、MIF と同じ遺伝子配列を持つにも関わらず、分 子内の 60 番目の Cys 残基がシステイン化した糖転化阻害因子 (GIF)は抗体産生を抑制する炎症 抑制タンパク質である。近年、我々の教室では TRX と MIFの発現が相反的に制御されること、さ らに TRX が MIF 産生を抑制し、炎症反応を抑制する知見を得ている。具体的には、TRX を高発現 した T 細胞では MIF の発現が抑制すること、MIF 欠損マウス由来の CD4+ T 細胞では、TRX の発現 が上昇していることを発見した(5) 。デキストラン硫酸ナトリウム誘導での大腸炎モデルマウス を用いた実験において、TRX は MIF 産生を抑制すること(6)や、 過剰量喫煙させた TRX 高発現マ ウスでは、MIFのmRNA発現を抑え、炎症性応答反応を軽減することについても見出している(7)。 今回は、炎症反応における TRX ファミリー分子を介したレドックス制御について紹介し、TRX に よる炎症・免疫アレルギー性疾患の予防治療法について提案する。 【引用文献】 1) Nakamura, H., Nakamura, K., and Yodoi, J. Annu. Rev. Immunol. 1997; 15:351-369. 2) 淀井淳司 松尾禎之編集:レドックス-ストレス防御の医学. 別冊・医学のあゆみ, 医歯薬 出版、2005 3) Okuyama H, et al. Hepatology 37: 1015-1025, 2003 4) Okuyama H, et al. J. Hepatol. 42: 117-123, 2005 5) Kondo N, et al. Immunol. Lett. 92: 143-147, 2004 6) Tamaki H, et al. Gastroenterology in press 7) Sato A, et al. Antioxid. Redox Signal. 8: 1891-1896, 2006

TRX)による抗炎症作用 - 医療関係者の皆様へ エー …netconf.eisai.co.jp/nash/report/003/11.pdf一般演題4 演題11 MIFレドックス制御を介したチオレドキシン(TRX)による抗炎症作用

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一般演題4

演題11

MIF レドックス制御を介したチオレドキシン(TRX)による抗炎症作用

淀井淳司、加藤紀子、孫安生、原富次郎、近藤則彦、三井彰

京都大学ウイルス研究所・生体応答学研究部門・感染防御学

TRXは分子の酸化還元反応を介したタンパク質の構造変化、特にシステイン残基上のチオール

基の可逆的構造変化などにより、細胞内外のレドックス制御を行い、細胞の増殖、分化、シグナ

ル情報伝達などを制御する。種々の酸化ストレスで誘導された TRXは、ストレスに対する防御タ

ンパク質として働き、血清・血漿 TRX値は酸化ストレスの良い指標となるほか、細胞外からの

TRX投与によって、抗酸化作用、抗アポトーシス作用、炎症部位の白血球浸潤抑制による抗炎症

作用、細胞傷害抑制、細胞保護作用などを示すことが明らかにされてきた(1,2)。ヒト TRXは成

人T細胞白血病の研究過程で発見されたが、感染、虚血などの様々な酸化ストレスによって誘導

され、細胞内外で生体防御反応を制御している。TRXを高発現させたマウスは、thioacetamide

による急性肝障害、慢性肝障害に抵抗性をしめす(3,4)ほか、抗体誘導性関節リウマチ、マウス

自己免疫性心筋炎、接触性皮膚炎などのアレルギー症状を TRX が軽減することが明らかになり、

そのメカニズムとして TRXによる白血球遊走抑制と抗炎症作用、特異的ケモカイン産生やシグナ

ル伝達制御などが示唆されている。一方、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)は分子内に

Csy-X-X-Cys 配列を含む TRX ファミリーに属し、生体内の様々な細胞から産生される炎症性サイ

トカインとして知られている。我々はヒト TRXを ATL-2 細胞の培養上清から精製した際に、同時

に MIFを精製している(特許申請 1985)。また、MIFと同じ遺伝子配列を持つにも関わらず、分

子内の 60番目の Cys残基がシステイン化した糖転化阻害因子 (GIF)は抗体産生を抑制する炎症

抑制タンパク質である。近年、我々の教室では TRX と MIFの発現が相反的に制御されること、さ

らに TRX が MIF 産生を抑制し、炎症反応を抑制する知見を得ている。具体的には、TRXを高発現

した T細胞では MIFの発現が抑制すること、MIF欠損マウス由来の CD4+ T細胞では、TRXの発現

が上昇していることを発見した(5) 。デキストラン硫酸ナトリウム誘導での大腸炎モデルマウス

を用いた実験において、TRX は MIF産生を抑制すること(6)や、 過剰量喫煙させた TRX高発現マ

ウスでは、MIFの mRNA発現を抑え、炎症性応答反応を軽減することについても見出している(7)。

今回は、炎症反応における TRXファミリー分子を介したレドックス制御について紹介し、TRXに

よる炎症・免疫アレルギー性疾患の予防治療法について提案する。

【引用文献】

1) Nakamura, H., Nakamura, K., and Yodoi, J. Annu. Rev. Immunol. 1997; 15:351-369.

2) 淀井淳司 松尾禎之編集:レドックス-ストレス防御の医学. 別冊・医学のあゆみ, 医歯薬

出版、2005

3) Okuyama H, et al. Hepatology 37: 1015-1025, 2003

4) Okuyama H, et al. J. Hepatol. 42: 117-123, 2005

5) Kondo N, et al. Immunol. Lett. 92: 143-147, 2004

6) Tamaki H, et al. Gastroenterology in press

7) Sato A, et al. Antioxid. Redox Signal. 8: 1891-1896, 2006