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老留学生看中国(北京暮らし始めてみて)№1

日中関係学会レポート                             杉本勝則                  2014.3,10(2015.4改訂)

 皆さんは、「留学生」と言う言葉の語源をご存じであろうか。海外に行って勉強することを留学と言うのであるからその学生は留学生なのだ、と言うのでは答えにならないし、そもそも留学生と言う言葉が先で、留学と言う言葉はそこからできた言葉である。 その答えは、唐の時代に日本から中国の制度、文化、仏教を学ぶために多くの学生(がくしょう)が中国に渡ったが、そのうちの阿倍仲麻呂をはじめとする幾人かは勉強を終えた後もそのまま中国に「留」まった。このことから彼らのことを「留学生」と呼び、これが現在の海外から勉強に来る者のことを指す留学生という言葉になったのである。と、薀蓄を傾けてみたが、何を隠そうこれを知ったのはごく最近のことで、今、北京で習っている中国語の教科書に出ていたのである。 思えば、この言葉にあるように、日本と中国との付き合いは、記録にあるものだけでも卑弥呼の時代から(魏志倭人伝は3世紀末に成立)現在に至るまで 1,800年も続いており、記録のないものまで含めると更に数百年前の春秋戦国時代の混乱期にまで遡るのではないかと考えられているのである。これほどまでに関係の深い日本と中国であるが、近年はどちらかと言うとこの歴史の重みを学ぶ者が少なくなったせいか(国語の受験科目から古文・漢文を外している大学もある)、また、日本と中国とでは政治体制が異なり違和感を感じるせいか、日中関係を感情的、否定的に見る人が多くなっている。 そこで、今回から、筆者が中国に住んでみて実際に感じたこと、思ったことのレポートをお送りするので、等身大の現在の中国を見ていただき、今後の日中関係を考えることの参考にしていただければと思う。

 先ず、自己紹介をさせていただくと、筆者は参議院事務局・法制局で長らく日本政治の現場に関わった後、定年退職を機に、昨年の 9月から対外経済貿易大学(経貿大)の語学留学生兼客員教授として北京暮らしを始めている。中学生の頃から中国史が大好きであった筆者と中国との付き合いは、かれこれ 30年近くになるが、公務員としての仕事の関係ではほとんど中国との接点は無かったし、また、中国ビジネスに関わったこともないので、いわば趣味の世界で中国と関わってきたと言える。しかし、趣味の世界で中国と関わってき

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たということは、明日のビジネスはどうなるのかと言う短期的、実際的な観点からは難点があるが、反面、長期的、歴史的に日中関係をどう見ていくのかと言う観点からは非常に有利であったし、このことが筆者に歴史的視野に立って物事を考える力を養ってきてくれたようにも思う。そこで、本レポートの初めにこれまでのマスコミ報道等の中で中国について言われていたことが、果たして歴史的に見て妥当なことであったのかについて筆者の思うところを述べていくこととする。

1.太子党一枚岩論と薄熙来事件 読者の皆さんは太子党と言う言葉を聞かれたことがあると思う。太子党とは革命を成功させた共産党高級幹部の子弟達のグループで、このグループの人たちが親の七光りの下、実際に中国の政治、経済の分野で大きな力を持っている。現総書記の習近平はじめとする政治家の他、人間関係が重視される中国経済界においても多くの人材を輩出している。「人民大衆に奉仕する(為人民服務)」ことを党是とする中国共産党の中にこの様な世襲のグループが存在すること自体が共産主義の本旨に反するのではないかと筆者は思うが、後に詳しく述べるように中国が統治形態において歴代王朝の伝統を引き継いで共産党王朝が支配していると割り切れば理解が容易であろう。 また、この太子党グループに対抗するグループとして、14歳から 28歳の若手共産党エリート予備軍である共産主義青年団(共青団)出身者からなるグループ(団派)があり、彼らは政治、官僚組織を始め広くマスコミ、経済界の中核をなしている(共産党が支配する中国では、政治、官僚、マスコミ、経済界を問わず、共産党員の幹部人材が相互にこれらの部門を移動している)。太子党である習近平が同じく太子党の重慶市書記の薄熙来を逮捕して以来あまり言われなくなったが、胡錦濤政権末期の権力闘争を日本のマスコミは太子党 vs.共青団出身の政治家、官僚グループとの闘争に単純化し、太子党の団結ぶりを謳うと共に、中には、彼らは子供の頃から一緒に育っているのでこのグループは仲が良いと解説する者さえあった。しかし、これは常識的に見て有り得るのであろうか?中国共産党の歴史は、政権を取る前の国民党に追われて逃げ回っていた時代から現代に至るまで内部での過酷な権力闘争の歴史である。また、中国の歴史は、歴代王朝の例を見るまでもなく、その帝位を巡って親子兄弟までもが殺し合うこともある激しい権力闘争の歴史である。親同士が熾烈な権力闘争をしているのに、果たしてその子供たちが本当に仲が良いことが有りえるのだろうか。勿論、個人的に仲が悪くてもグループ全体が一つの利害で一致し、強力な敵対勢力が存在している場合には表面的には仲良く見えるであろう。しかし、現代中国を巡る利害関係は二つの利益集団の対立だけ

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で見れるような単純なものではない。ところが、日本では不思議なことに、誰かが最初に「子供の頃から一緒に遊んでいたから仲が良い」と言い始めると、後に続く者たちまでも無批判にこの枕詞を使いだし、これと異なることを言う者は「空気を読めない」人間になってしまうのである。人事や権力闘争に関する情報や記事は読み物として面白く人々の耳目を集め易いのでこれに関する記事が多くなるのもやむを得ない。権力闘争を太子党vs.共青団派の闘いとして単純化したほうが分かりやすいし、記事としても面白い。ただ、30年以上、国会という政治の現場で日々権力闘争に関する事象を目にしてきた者としては、政治の本質が権力闘争であることは言わずもがなのことであって、大事なことは、この大前提についてあれやこれやと面白おかしく解説することではなく、その権力闘争がどのような時代背景を持って行われ、その勝者、敗者はいかなる理由において勝者、敗者となったかを分析することである。この点、薄熙来事件が参考になるのでこれについて述べてみる。この事件は国務院副総理などを務めた薄一波を父に持ち、保守派の旗手として第 17期中国共産党中央政治局委員兼重慶市党委員会書記を務めていた薄熙来が、側近のアメリカ領事館への逃亡事件に端を発し、妻による英国人実業家殺害、一家の不正蓄財、マフィア撲滅運動における無実の罪人作りや拷問、女性との不適切な交際などのスキャンダルが次々と明らかになって政治的に失脚すると共に無期懲役の判決を受けた事件である。彼は、日本の経済界、マスコミには愛想が良かったので彼に好感を持っている日本人も多く、今回の事件についても、悪いのは彼だけでなく権力闘争の犠牲者として同情する声も大きいし、そのようなマスコミ論調も結構見られた。当然のことながら政治の世界は綺麗ごとの世界ではないし、歴史は勝者によって語られるのも真実である。しかし、今の中国指導者たちは政治が権力闘争だけの場になってしまった時に国家が混乱の極みに達し、不信に満ちた社会が出現してしまうことを文化大革命で骨身に沁みて知っている。薄熙来は毛沢東のやり方を真似て大衆を動員し、表の顔と裏の顔を使い分けて権力奪取を行おうとしたが(これに公安部門を統括する周永康が加担したことが明らかになっている)、歴史的に中国という国家がこれから近代化し、世界から信頼されるリーダーとならなければならない時代に、毛沢東晩年の誤りをそのままに時計の針を引き戻し、大衆運動によって不合理そのものの混乱状態を作り出し、権力を得ようとする者が許されるのかどうか、そのような者を次代の中国の指導者の地位につけることが中国の将来に取って許されるのかどうか、これを短絡的に権力闘争の犠牲者と一言で片づけてしまって良いのか甚だ疑問に思うのである。

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習近平政権は、今、しきりに『法治』と言う言葉を政府文書にも、公共広告にも使っているが、毛沢東時代さながらに反対派、非協力者を黙らせるために事件をでっち上げ、挙句の果てにはその妻が事情を知る英国人を殺害することまで行い、クーデターまで企んでいたとするなら、それは『法治』に対する重大な挑戦であり、この様な人物は、中国が近代国家と変わって行くために到底許されるべきではないのである。筆者は、大連で成功を収めたという薄熙来に関心を持ち、以後、追っていたが、呉儀副総理が引退(2008年)に際し、彼を副総理に昇進させないため、今後、自分は一切の公職に就かないことを宣言したこと(『裸退』)に、関係者だけが知る薄熙来という人物の本質と裏面を見る思いがしたものである。彼を礼賛するステレオタイプの報道が多い中で、囲みの小さい記事であったが、このような本質をうかがわせる良質の記事、ニュースも報道されている。マスコミの大勢に流されず、これを如何に発見し、本質は何かと自分の頭で考えることが中国政治に関しては(日本でも同じであるが)重要だと、長年「切った張った」の政治の世界と付き合ってきた公務員としては思うのである。なお、太子党とは別に近時、『紅二代』というグループが話題になっている。これは共産主義の理想のため命がけで革命を遂行した革命世代の父母たちの志を引き継ごうとする子弟のグループで、江沢民、胡錦濤政権下で経済は発展したが、各地で格差が蔓延、暴動も発生し、しかも人民に奉仕すべき共産党員は汚職に塗れている。このままでは、父母たちが命がけで作ってきた共産党政権が崩壊し理想が潰えてしまうので彼らが団結して共産党の原点に戻ろうとする動きであり、これが紅二代の代表である習近平を政権につける原動力になったとされている。紅二代からすると江沢民も胡錦濤も直接革命を遂行した正統の共産党員の血筋ではなく、だからこそ共産党は堕落した。彼らこそが現代中国の正統であり、共産党を正しく導くべき者ということになる。彼らの多くは共産主義の理想を追求する高邁な志操堅固の人達であると言われ、利権集団と化した太子党とは一線を画し、筆者も心情的には好意を持つが、そもそも、この様な考え方自体が現代中国に於いても国家を治めるのは血統であり、自分たちは治者の血統を引き継ぐ者であるとする、現代中国を共産党王朝の国だと考えている証左ではないかと思えてくるのである。

2.最近、北京で見かけることの多い物 さて、今回は、これまでの短期滞在と異なり、実際に北京に住んで下町を歩き回り(これには地理も覚えられるので、交通カード使用で 1回 0.4元で乗れるバスが便利 ※2014年 12月から 1元)、また、地方に旅行することで

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中国が大きく変わりつつあることを実感している。今回、特に街中で見かけることが多くなったのが、ネイルサロンや宅急便のような各種各様のサービス産業である。ネイルサロンと言っても店舗を構えるものもあれば、屋台が軒を連ねるものもあるが、長春やハルピン、ウルムチにも多くあった。また、宅急便と言っても日本のようにクロネコヤマトの専用トラックが街中を走り回っているのではなく、宅急便会社の下請け、孫請けと思しき営業者が 3輪電動バイクに跨って縦横無尽に駆け回っているのである。中国では急激に増やした大学生数と大卒者に相応しい職場数とのミスマッチから、蟻族と呼ばれる大卒ながら大都市で高給の職を得られないため地下室等に住んでいる若者たちが問題になっているが、彼らの中には現状を嘆くよりも少ない資本で始められるこれらサービス産業に次々乗り出している若者が見られる。テレビドラマの中でもこのような若者が出てくるし、テレビのクイズや見合い?番組に出場している若者たちの肩書には聞いたこともないような会社の経理(時には総経理)、主幹等々の立派な肩書がついている。経貿大の日本人留学生がカラフルに爪を染めているのを見て、中国でもネイルサロンが流行っていることを知ったのであるが、宅急便についても北京オリンピックの頃にはほとんど見かけなかったものが、経貿大校内にも 3輪電動バイクを構えた店が何社もあるなど、町中、至る所で見られる。この宅急便については、この春節に泊まった天津のホテルで女房が化粧品を忘れ宅急便で送ってもらったが、彼女の帰国には間に合わないだろうと思っていたところ、翌日には北京の宿舎に届いていた。また、筆者は、北京市内の友人に小包を送るのに安全を考え中国郵政のパックを利用したが、日本で宅急便が発達する以前と同様に、包装を厳重にしなければならないのと料金が割高だった。郵政でも配達終了の携帯メールが送られてくるなどそれなりにサービスが良かったが、中国でも郵政は宅配業者との激しい競争に晒されているのであろう。

   ネイルファッション    北京三里屯の高級ネイルサロン 長春・地下道のネイルサロ

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宅急便の普及とともに驚くのはネット通信販売の活況である。中国では1990年半ば頃から 11月 11日を光棍節と称し独身者を祝うこと(1人者が 4人並んでいる)が流行っているが、これに目を付けたネットショッピング会社(淘宝)が、この日限りのネットセールスを大々的に行った結果、この日、開始から 24時間の売り上げは 350.19億元(6,650億円 ※2014年は571.12億元(1兆 849円))になった。これはニュースでも取り上げられていたし、中国語の授業でも話題になったが、現金、現物しか信用しないと思っていた中国人が若者を中心に、これほど早くネット通信販売になじむとは思わなかったし、先進国で長い時間をかけ試行錯誤の末確立されたネットショッピングの果実をすぐ取り入れて自分のものにしてしまう中国人の柔軟性には改めて驚いたのである。

経貿大の宅急便店   北京外大前の路上宅急便店    光棍節のネット広告

3.中国の格安ホテルチェーン サービス産業について言えば、春季授業が始まるまでの間を利用して、この 2月末に友人を訪ね長春・ハルピンに行ってきた。これまで中国では、5星、4星ホテルしか泊まったことがなかったので、実情を知るため大衆ホテルチェーン(如家酒店集団)に泊まってみた。予約は予約サイト(C-trip)で日本語できるし、部屋は豪華ではないが清潔で必要なものはそろっている。部屋はベッドが広いので、日本のビジネスホテルよりもはるかに快適であった。また、場所が比較的日本語教育の盛んな東北地方だったせいかもしれないが日本語の話せるスタッフもおり(日本人も結構泊まっていると話していた)、夜、怪しげな女性からの電話もなかった。客層は学生からビジネスマン、家族連れと日本の大衆ホテルチェーンと同じであったし、これで当地の5ツ星ホテルの 10分の1の料金(一泊 110元)で泊まれたので正直驚いた。中国における大衆向けホテルチェーン展開の可能性について実地調査のつもりであったが、既に中国にはそれがあったし、現在の中国では、日本にあるものはあっという間に取り入れられているというのが印象である。(如家はテナント形式なのか、エレベーターには如家へのチェーン店(ホテル)加入募集

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の広告が貼ってあった。)(※ この後、中国各地を訪れその際もネットで宿を予約したが、地方では全国チェーンのホテルは割高で、地元の安いホテルでも結構良いものがあることが分かった。但し、中国語でのみ予約)

   

 長春の如家ホテル        簡素な室内       チェーン店募集広告

この中国ビジネスのスピード感と柔軟性について、先日、友人の中国人ビジネスコンサルタントに話したところ、彼は、日本企業に中国で物になりそうなビジネスをあれこれ紹介しているが、余りにもその意思決定が遅いので次から次へと中国企業に先を越されていると嘆いていた。社会が硬直してしまった日本が、今、中国から学ぶべきものがあるとするなら、それは、このスピード感とダメならやめれば良いと何事も柔軟に考える頭の柔らかさ、そして、必死に生きていこうとする緊張感ではないかと思うのである。

この宿に関しては、友人の吉林大学中国人教授に「如家」に宿をとったと話したらかなり心配して、部屋の中までついて来てくれた。意外にいい部屋なので安心していたが、メンツを重視する中国では、遠来から来た客人には、まず、安全な一流ホテルに宿泊してもらい、宴会、案内等々で熱烈歓迎することが彼らのメンツを保つことになる。早々と自分で「如家」を取ったことで、彼のメンツが立たないのではないかと心配した筆者は彼に、今回の旅行目的が中国の老百姓(庶民)がどのような生活をしているかを自由に見て歩くことだと話すと理解してくれたし、省政府関係者を招いての宴会は行ってくれたが、全く自由時間が無くなるような熱烈歓迎を押し付けられることもなかった。これまでの友人を訪ねての中国旅行は熱烈歓迎の嵐で行動の自由が殆どなかっただけに、この点からも中国も確実に変わってきていると思ったのである

旅行と言えば中国では宿の確保が一番の心配ごとであったが、このように宿についても当の中国人が驚くぐらい進化しているし、また列車の確保についても、予約はネットでもできるし、チケットの販売もネット通信網を使っ

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ての販売なので安心して列車を選べる。また、高速列車にはこれまで都合 10数回乗っているが、一分一秒までとは言わないがすべて定時運行であった*。まだ、尋ねた地方も少なく、また、いつもこのように上手くいくとは限らないが、とにかく中国国内の旅行は飛躍的に便利になったし、交通網の発達で短時間で目的地に着くことができるようになった。ただ、これまでの中国旅行で味わえた、宿の予約が入っていない、飛行機の席がない、目的地には何時着くか分からないというようなスリルとサスペンスが無くなってきたのには反面さびしい気もしているが・・・・(*:現在、高速鉄道についてはチケットの購入にパスポート等身分証明書が必要で、駅での荷物検査、身分証明書検査に時間を要することがある。特に北京で重要行事があるときにはかなり時間を要するので注意が必要である。例えば、北京―天津間は新幹線で 35分で行けるが、列車の出発する北京南駅までは市の中心から地下鉄でも結構時間がかかるし、これに各種検査で時間がかかる時もあるので、経貿大からだと天津まで 2時間以上を見ている。このほかにも中国ではハード面ではかなり進歩しているが、各ハードを繋ぐ各種ソフト面はまだまだこれからの段階なので、ここに日本企業の活躍の余地が多くあると思う。)

4.少子高齢化社会の到来と中国経済の行方最後に、中国経済の行方について筆者の考えを述べておく。日本では未だに中国の GDPがどれぐらいになるかに関心があるようで、少し低い数値になると中国経済への悲観論がマスコミをにぎわせている。しかし、現下の中国では、経済成長の歪による社会矛盾の拡大を最も恐れており、そのためには経済の発展も安定的に行われることを最優先にしている。現在、中国には、地域格差、所得格差、戸籍・年金・保険問題(戸籍問題の本質は年金・保険問題である)、シャドーバンキングに代表される金融問題等々、日本でも報道されている様々な問題があり、これらの問題は解決できそうにないとして、日本では中国経済停滞論、時には面白半分に中国崩壊論が語られている。しかし、中国の研究者、政策担当者達は、実によくこれらの問題点を研究、理解しており、筆者が参加している清華大学の研究会では、彼らの研究テーマはそれこそ上記のような各種各様であるが、その結論に至っては、国内の格差、社会矛盾の是正を目指し、経済を安定的・持続的に発展させなければならないという点で一致している。日本では、とかく中国の個々の問題点を取り上げ、故に中国経済は「危険」とする論調が多いが、当然のことながら、中国の研究者、政策担当者は日本の研究者、マスコミよりも自国の問題点をよく理解しており、その対策のかじ取りをどのように行っていくかで

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腐心している。また、筆者は、従来から中国を経済的に見る時には、中国を一つの国として見るのではなく二つの国としてみるべきだと考えている。経済の発展した沿岸地域とこれからの西部地域を一つの国としてみた場合、どうしても国内矛盾の問題として経済をとらえてしまうことになるが、これを経済的には先進国と途上国の問題としてとらえていくと、これまで先進国日本と途上国中国との関係がどのようであったかという問題とパラレルに考えることができる。少し、短絡的かもしれないが、日本企業が今後の中国市場をどのように見ていくのか、西部開発に関し、当地にどのような拠点を持っていくのか、頭の整理には有効だと思う。

(※ 西部開発については、新疆・ウイグルを見て回った時に、単なる遅れた地域を開発するという発想だけではないことに気が付いたが、これについては後述する。)

中国経済の将来については、もう一つ、実際に中国に住んでみてこれまでの自分の考えが大きく変わったことがあるのでご紹介する。中国では急激に少子高齢化が進むと予測され(2030年には、日本を抜き世界一の高齢者社会になるとの予測もある)、我が国の少子高齢化と同様に経済成長の低下を危惧する声も大きい。また、中国では経済の成長と共に農村からの労働力の供給が逼迫し、それが

労働者賃金の上昇をもたらし経済成長の足かせになり(ルイスの転換点)、中国が産業構造の転換に成功しないまま、いわゆる「中進国の罠」に陥り、このまま経済が停滞するのではないかとの議論が多くなされている。日本では様々な経済学者がこの点を指摘しているのでこの考えが一般に広まっている。また、中国で接した日本語の分かる中国人たちも日本から経済ニュースを輸入しているせいか、中国経済の先行きにはかなり悲観的なようであった。しかし、筆者が北京に来て、最初に感じたことは、果たして中国における少子高齢化・労働力不足の問題をそこまで悲観的に考えなくてもいいのではないか、ルイスの転換点を迎えた中国(進学率の向上等が原因で転換点を迎えていないとの議論もあるが)が、産業構造の転換に失敗し、経済が停滞してしまうと考えなくてもいいのではないかということである。すなわち、中国では街の商店等で見られるように、日本では1人で行っている仕事を現在でも 3~4人で行っている。公共バスにしても原則的に車掌が乗っているし、建物のガードマンにしても何人も屯している。これは、雇用を確保するためで、先進国で言うところのワークシェアリングでもあるが、

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今回、住んでみて中国も色々な所が変わったと思ったが、この点だけはあまり変わっていなかった。そして、日本で 1人で出来る仕事を 3~4人で行っているということは、やろうと思えば中国でもその仕事を1人でできるということであり、このことは残りの 2~3人分の余剰労働力が生まれるということである。また、3~4人の仕事を 1人でやるということは、1人あたりの労働生産性が上がることに他ならず、1人当たりの労働生産性が上がるということはその者の所得が増えるということである。その場合、賃金が2人分、3人分に急上昇するとは考えられないので、人件費コストもそれほど上昇しない。そして、個人の所得の増加は、通常、可処分所得の増加となるので個人消費が活発になり、経済に好循環をもたらすのではないか。この様に考えたのである。実際、先進国では既に省力化が行われているが、これは省力機器が存在するからであり、これら機器を導入することで中国でも労働生産性を高めることは比較的容易である。また、中国では、現在、1978年の国務院暫定規定により、男性は 60歳(経貿大学の先生は 61歳であった)、ホワイトカラー女性は 55歳、ブルーカラー女性は 50歳が定年で、定年後は基本的に年金生活に入っているが、この規定を変えるだけでも労働力人口は確実に増加する。確かに、現状では沿岸地域の一部で労働力不足が起こり、統計上の賃金も上昇している。しかし、これは中国全体から見れば生活レベルの向上と雇用のミスマッチがもたらす賃金の上昇であり、この一部地域のミスマッチを持って中国経済を労働力不足として一般化するのには疑問を感じるのである。また、これは中国各地を旅して実感したことであるが、中国は既に地方に至るまで消費大国となっており、日本でのルイスの転換点議論は、中国を依然として世界の工場、輸出加工生産基地としか見ていないのではないかと思うのである。筆者は、この問題意識について確認のため、ある研究会の席で清華大学の経済専門家に質してみたが、彼は基本的に筆者の考えに賛同したうえで、彼が日本に行ったとき最も驚いたのは成田空港で白髪交じりの高齢者がカート整理で働いている姿であったと答え、更に、13億という膨大な人口を抱える中国ではまだまだ余剰労働力があると答えていた。また、中進国の罠については胡錦濤政権当時から十分に認識されており着実に産業構造の転換対策が行われている。最近(2015年 3月)、全国人民代表大会で行った李克強総理の政府活動報告でも中国自身が「中進国の罠」に陥らないためには何をすれば良いかが述べられており、決して無為無策なわけではない。

因みにこの問題について悲観的発言をされていた日本の高名な経済学者と話

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したことがあるが、彼は中国国内事情には詳しくないと断っておられた。マクロで経済を見るにあたってもやはりその国々の特殊な状況は経済に影響を与えると筆者は思うし、筆者が経済学の素人であるということで発言を許してもらえれば、ルイスが分析したのは 1930年代の世界経済であり、また、中南米諸国で中進国の罠が問題になった 1980年代と現在とでは、産業構造の面でも、産業技術の面でも大いに異なっている。省力化技術が発達した現代においては比較的容易に労働生産性を高めることができるのではないかと思うのであるが、如何であろうか。

老留学生看中国(北京暮らし始めてみて)№2日中関係学会レポート    

                         杉本勝則               2014.4.7(2015.4改訂)

前回は中国におけるサービス業についてレポートしたので、今回は製造業を中心に述べていくが、その前に、前回のレポートの後、面白い体験をしたのでこれについて先ず報告する。

5.大衆レストランでの面白い体験筆者は現在、経貿大でビジネス中国語を勉強しているが、このクラスの多国

籍留学生に連れられて、先日、『海底撈火鍋』という中国式鍋物料理店に行ってきた。この店は大衆向けの大きな店であるが、まず驚いたのが、席待ちの待合所の広いことである。待合所と言っても椅子が置いているだけでなく小さなテーブルもあり、テーブルの上には食べ放題の酸梅茶とスナック菓子が置いてある。最初はここが待合所とは知らず、こんな狭いテーブルと椅子では料理が食べられないとクレームしたら、これが席待ちの場所で、何十人もの待機客がお茶を飲みスナックを食べていた。 ようやく席が空き料理を注文するが、服務員がネームプレートを見せて、必要な時はいつでも呼んでくれと言うし、唐辛子鍋が辛すぎるというとダシを取り換えて薄めてくれる。また、麺類を注文すると、運動服姿のお姉さんが踊りながら面を引き延ばしていくパフォーマンスを見せてくれる。隣の席では芸人が早変わり仮面の余興を行っている。味も悪くないし、アルコールも入っているから、隣近所、これらのパフォーマンスには拍手喝采である。

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 そして、トイレから帰ってきたクラスメートが面白いことをしているよと言うので何事かと行ってみると服務員のおじさんが手を洗い終わった客にタオル(紙タオルであるが)を手渡している。これまで中国では 5つ星ホテル以外では見たことのないサービスである。また、最後に帰る時、制服姿の警備員のおじさんがエレベータのボタンを押して待っていてくれた。クラスメートの留学生たちも自分達の国にはこんなサービスはないと大喜びであったし、これまでの中国のサービスを知る筆者にとっては信じられない体験であった。中国でも高級ホテル、レストランに行けばこれに近いサービスを行っているし、万事サービスの行き届いた日本では別に驚くこともないであろう。しかし、これまでサービスという概念が無きに等しかった中国でも、庶民レベルにまでこのようなサービスが普及し始めているのには正直驚いた。後日、若い中国人ビジネスマンに聞いたところ、初めて『海底撈火鍋』に行った人がこのサービスに驚き、ネットの書き込みをしたところ大反響があり一躍有名になったとのことであり、他の中国人にも聞いてみたが皆この店のことを知っていた。数年前までは言葉の上でしかなかった『サービス』の概念が、今やネットという媒体を巻き込みながら激しい競争を始めているのである。日本には『おもてなし』があると、いつまでもこの言葉に胡坐をかいていては、いつの間にか時代に取り残されてしまうのである。なお、火鍋の料金は 1人あたり 70元であった。お酒は持ち込んだが、お腹いっぱい食べてこの値段である。街なかの日本料理店だと最低でも2~300元はするところである。(※ 後日行った『海底撈』は、王府井の超高級ブランド店が入居する敷居の高いビルの上層階にあり外には店の看板も出されていなかったが、店内は庶民で溢れ返っていた。また、『海底撈』は、社員の福利厚生、提案制度等社員のやる気を起こさせる経営にも力を入れており、新しい企業モデルになっているとのことである。)

   

海底撈火鍋店入口        同店内待合所       同級生との火鍋料理

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麺伸ばしのパフォーマンス     超高級ブランド店ビル内の海底撈・王府井店

6.道路事情と日本車の優位性筆者は、春季授業が始まる前を利用して、長春、ハルピンを旅行してきたことは前回述べたが、高速鉄道の窓からずっと眺めていたのは車窓に映る道路である。翌々日に乗った長春-ハルピン間は雪が積もっていたので確認できなかったが、北京―長春間の 6時間、車窓からずっと眺めていた道路は、畑のあぜ道以外すべて舗装されていた。 なぜ、何の変哲もない道路を眺めていたかというと、道路が整備されてきた中国で果たして日本車はどこまで優位性を発揮できるのかという問題意識を自分の目で確かめるためである。 北京では、様々な研究会に参加しているが、その中で東・南アジアを中心に世界中を放浪しレポート記事を書いている方から話を聞く機会があった。その方の話では、モンゴルでは今でも圧倒的に日本車に人気があるという。理由は勿論、日本車は故障しないからである。道路が未整備で過酷な自然環境のモンゴルでは他国車はすぐに故障してしまうが、日本車はとにかく故障しないからということである。これこそわが日本製品の最大の優位点であり、日本人なら誰しも誇りを持って頷く場面である。しかし、その時ふと思ったことは、確かに以前の中国では舗装道路も少なく、大都市を少し離れるとガタガタ道であったが、今では高速道路が国中に伸び、奥地の山岳地帯にでも行かない限りガタガタ道はない。要するにメード・イン・ジャパンがその実力を発揮できる場所が、中国でも確実に少なくなってきているのである。そして、これはその後、四川省山奥のコンカ山氷河見学の地元ツアーに参加した時の体験だが、この地方では外車は全く見かけず、すべて中国国産車であったが、それが物凄いガタガタ道をすっ飛ばしているのである。イメージの中の中国車ならとっくに壊れているはずが、平気で走っているのである。それだけ中国車も良くなってきているのである。また、経貿大校内に止めてある車を見ていると、ベンツ、BMW、アウディといったお決まりのドイツ車(ポルシェも何台か見かけたが)を中心に

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欧米車が大きな顔をして停まっている。知っている限りの中国人たちの憧れは日本車でなくドイツ車であり、日本人がドイツ車に対し持っている憧れを中国人たちも持っているようなのである。 日中関係の悪化で落ち込んだ日本車のシェアも少し回復してきているが、かつて圧倒的人気を誇っていた日本車は、筆者が思っていたほど中国では人気がないのには正直驚いた。日本では日中関係の悪化により日本車が伸び悩んでいるという論調が多いが、筆者にはそれだけではないように思える。憧れのドイツ車と大衆的でソコソコに走れる韓国、中国車の間で、日本車は今一つ魅力に欠け存在感を発揮できないでいるように思えてくる。これまでのように故障しないことだけに誇りをもっていれた時代は確実に終わろうとしているのである。 故障の少ないという日本車の優位性を謳うのであれば道路状況がまだ十分でない西部地域、山間地域でこの優位性を大いにアピールすればいいと思うし、平坦で道路状況の悪くないところでは、他の魅力をアピールしてはどうかと思うのである。何しろ中国では、今では一般労働者でも車を持っている時代になっているのであるから。 この点、自動車の安全性に関して、中国でも交通事故の時にドイツ車・スウェーデン車(ボルボ)は大きく壊れないが、日本車はグチャグチャに壊れるので安全でないという誤解?が広く蔓延している。事故の際にボンネット部分が壊れることで衝撃を吸収し乗員の安全を確保する日本車の安全設計思想が理解されていないのである。未だ、シートベルトを締める習慣のない中国でこのような設計思想がすぐに理解されるとは思わないが、テレビニュースでは交通事故現場の悲惨な状況を繰り返し報じ交通安全を呼びかける番組が多くなっている。また、チャンネルを回せば病気の相談や食生活など健康に関する番組をやっている。これまでは少しぐらいの酒は平気で飲んでいた運転者は、最近は宴会だけでなく、昼食の一杯でもアルコールに手を出さなくなっているし、先日乗せてもらった自家用車では運転者と助手席はシートベルトを締めていた。また、四川省で参加したツアーの観光バスでは隣の中国人からシートベルトを着けるように言われた。 安全性を謳う日本車のコマーシャルが受ける時代も近づきつつあると思うが如何であろうか。

    

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経貿大に駐車するアウディ   四川省の山奥悪路で活躍する中国製自動車(東風小康)

7.中国の高齢化対策で思うこと 中国では一人っ子政策の影響もあり、驚くべき勢いで高齢化が進むが(但し、WHO合計特殊出生率統計では、日本 1.4に対し、中国は 1.6で日本のほうが出生率が低い)、経済的影響については日本とパラレルに考えるべきでないことは前回述べたが、高齢者介護の問題は、日本と同様に中国も避けて通れない重要な問題である。 筆者は、福祉の専門家でもないし、介護制度についても一般常識以上の知識を持っているわけでもないが、福祉は極一部の金持ち層を相手にするものでない限りビジネスとして成り立つとは思えないし、介護保険制度の有意義性は認めるにしても、それがどこまで現実に対応できるのか疑問を拭えないでいる。結局のところ介護の問題は、特に中国では、地域社会のなかで要介護者を支えていく仕組みを新たに作っていくしかないのではないかと筆者は思い始めている。この点、先日、経貿大で行われた日中経済・ビジネス連携研討会で日本の経済団体の方から、中国政府は高齢化対策についても民間資本の参加を期待しており、介護保険制度、老人養護施設、人材育成等について日本の協力を期待している旨、また、中国でも富裕層を対象にした介護ビジネスが展開されている旨の報告があった。ただ筆者の実感としては、巨大な人口を抱える中国で日本でのビジネス経験をそのまま中国に持ってきても中国の現実に会っていないような気がするし、激しい貧富の格差のある社会で一部金持ちだけが恩恵を受ける制度を積極的に導入していけば、その恩恵を被れない庶民層がそれこそ反乱を起こすのではないかと思ってしまう。社会主義?国として現在も各種統制組織が比較的健在な中国なら、例えば、地域コミュニティー(社区など※)を活用して、地域で要介護者を支えていく制度を充実させていったほうがよほど中国の現実には合っていると思うし、庶民からも有難がられるのではないかと思うのである。では、具体的にどのようなことをイメージしているかというと、これは日本でも同じであるが、各地の地域コミュニティーでその世話を焼くことができるのは一般的に定年退職者や子育ての終わった女性になるが、このような人たちを中心に要介護者を支える仕組みを作っていくのである。つまり、若い人たちは外に働きに出かけ、退職後の老人がより高齢の老人を支えていく社会の仕組みを作っていくのである。この点、定年後の 60歳(女性の場合中国では 55歳と 50歳)を過ぎた老人や女性に体力的に介護の世話ができるのかということが重要な課題になってくるが、そこに日本の介護ロボット技術の活躍する余地が生まれてくるのである。つまり、介護者にアーム型ロボッ

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トスーツを取り付ければ力がなくても楽々と要介護者を運べるし、歩行困難な要介護者には歩行型ロボットスーツを取り付けることで介護者なしに行動することも可能になる。要介護者を風呂に入れる時も工夫次第でかなりの省力化を図れ、体力のない老人、女性でも介護の苦労を大幅に軽減することができる。

   

 この介護ロボット技術は実用化が進んできているが、かなり高価であるし、まだまだ、開発・改良の余地がある。少子高齢化は日本や中国だけの問題でなく韓国でも、そして、将来の東南アジアでも起こってくる問題である。そして、介護の問題は洋の東西を問わず現在も未来も人類が直面していく課題である。これから、日中が協力し合って、「世界最高の日本の開発技術力」と安くて良いものを作れる「世界最高の中国の生産技術力」が結び付けば、将来、安くて便利な介護ロボットを広く世界に普及させることができることになり、長年の人類の課題解決に重要なツールを提供することができるとともに、巨大なビジネスの新天地が開けてくる。 この点、研討会後の懇親会で、中国人学者、マスコミ関係者に介護ロボットの話をし、反応を伺ってみたが、中国では介護ロボットの存在がほとんど報道されておらず彼らは介護ロボットのことを全く知らなかったし、ネット検索で具体的な介護ロボットスーツの写真を紹介すると一様に驚いていた。この席で通訳をしてくれた女子学生は、高齢化問題が自分たち一人っ子の肩に重く圧し掛かっているかと思うと、未来に希望が持てないと話していたが、筆者が介護ロボットの紹介をすると目を輝かせ、少しは未来に期待が持てそうだと喜んでいた。 また、このロボットスーツを開発している山海嘉之筑波大教授のところには、開発当初、世界の軍事関係者から軍用ロボットスーツの共同開発の話が持ちかけられたが、彼は、ロボットは人類の幸福のために使うべきだと、これらの協力をすべて断ったという話をすると、学者、学生、ジャーナリスト問

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わすすべての中国人がその通りだと大いに賛同してくれた。人類の未来のためには、これまでの戦争のための歴史哲学を変えていくことの必要性を誰しも心の底では思っているのである。 この介護ロボットの開発は、これまでこの世になかった自動車の発明により自動車産業が生まれたのと同様に、人類の英知が平和と豊かな生活のための新しい産業を生むということである。そして、介護という将来直面する(現在も直面しているが)大きな問題に解決の糸口を見つけてくれるだけでなく、経済的に見ても新たな有効需要を創出し、経済を活性化させ、更に生活を豊かにしてくれるのである。 近時、アメリカ、イギリス帰りが増えたせいか、中国でも福祉においても何かと金融とか保険の話にしたがるように思えるが、実体経済の発展なくして、そこに注ぐ血液だけが豊富にあっても社会全体の発展も幸福もないのである。日中間の長期的安定的な発展のためにも、経済協力の分野において未来を拓く新たな産業の創設を目指した協力が進められていくことを祈念して止まないのである。

※ 社区とは、中国独特の地域コミュニティー制度で、日本では自治会、町内会に例えられるが、所によっては社区住民の就職のあっせんから商店の開設、老人の介護まで行っており、政府も社区の充実に力を入れているようである。北京の街中ではアパート群が社区の敷地フェンスに囲まれた団地になっているが、近年の民間デベロッパーの開発した団地では、管理会社が管理だけを行っているなど変化がみられる。なお、四川大地震の被災地で被災住民たちの民主的コミュニティー造りが実験的に行われているが、これを指導している清華大学教授は何と台湾人で、台湾のコミュニティー制度を導入しているとのことであった。先生によると台湾のコミュニティー制度は日本の制度を参考にしているとのことであるが、お互いの面子を乗り越えて直接的な日中間の協力ができれる時代が一日でも早く来ればと思うのである。

8.日中環境協力について 高齢化問題については、現在、日本でも進行中の問題であり、これからこの問題に直面する中国とは同時進行的に協力し合っていかなければならない関係にあるが、環境問題については、かつて激しい公害を経験した日本は様々な対策を行うことで一応はこの問題を解決しており、日本は中国に対し、これまで得た環境対策の経験と環境技術を偏に提供する立場にある。一昨年の尖閣国有化問題以降、政府間の交流が全く途絶えた中で環境問題に関する交流だ

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けは行われてきたことは、激しい公害に悩まされている中国にとっては、それだけ日本を頼りにしている証左でもあるのである。 中国の公害については、例えば、北京の大気汚染について日本ではまるで365日スモッグがあるような報道ぶりであるが、生活実感では 1週間に 1日か 2日有るか無いかの感じで(但し、P.M2,5の日本の基準値は超えているが)、この原稿を書いている 3月 30日(日)などは抜けるような青空の下、爽やかな気候で窓を開け放しにしている。流石に P.M2,5が 300を超えるような日にはスモッグが立ち込め、日中も薄暗いので朝のジョギングをする気になれないが(それでも結構多くの人が走っている)、それもそう多くあるものではない。

   

  晴天の 6月        ジョギングする人達     民間企業の運動会

 なぜ、このように北京の大気汚染がひどいかというと、自動車の排ガス、工場、家庭の排煙等の影響が大きいが、建設現場や街の砂ぼこりの影響もかなりある。実際、北京で生活してみて実感するのは、夏の一時期を除いては、とにかく雨が降らないことである(北京の年間降雨量は東京の 3分の1)。日本ではカバンの中にいつも雨傘を入れていたが、こちらではその習慣も無くなってしまった。兎に角、雨が降らないので空気中の浮遊物質は増えるばかりで、そこに風も吹かないと一日一日とスモッグが濃くなっていくのが目でもわかってくる。同じように北京の河川も最近、多少綺麗になったところもあるが、淀んだところはアオコで緑のペンキを流したようであるし、悪臭が立ち込めている。ただ、これも雨が少なく、日本のように上流で降った雨が山から一気に汚染物質を海に流し込むような自然環境にないからである。 このような自然環境の下では、北京のスモッグ、環境汚染は、筆者が子供のころ経験した日本のそれとは大きく異なるものであり、日本流のスモッグ、環境汚染対策を行ったら劇的に P.M2.5等が下がるのか疑問である。汚染物質の内容を正確に分析し、結果を焦らず、中国の現実に合わせて改良を重ねつつ、じっくりと時間をかけた協力をしていく必要があると思うのである。(中国の環境問題について詳しくは拙著「大転換期の中国環境戦略」「フクシマ発未来行き特急」をご参照いただきたい。)

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次に、筆者が体験した中国のゴミリサイクル問題について述べておく。筆者の友人である経貿大日本語学科の先生は環境問題にも関心が深く、大学構内で日本で行われているようなゴミの分別収集を実験的に行いたいので協力してほしいと頼まれた。大学構内のゴミ箱では、すでにリサイクル品とその他のゴミに分けられておりそれなりに分別はされているが、これを日本のようにもっと細かく分別して収集したいというので、筆者も協力することにした。が、しばらくしてそれは非現実的な話だと分かり、時期尚早として断念してもらわざるを得なかった。理由は、毎日、ゴミあさりのオバサン(時にオジサン)が、ペットボトル、空き缶等のゴミ箱の中の少しでもお金になりそうなものを勝手に持って行ってしまうのである。何のことはない、リサイクル制度を導入しなくても現実に分別リサイクルが行われているのである。筆者のノートパソコンが壊れ、結局廃棄したが、日本では処理に困るところ、ゴミ箱の横に置いた途端に誰かが持って行ってくれていた。中国ではまだまだ物は大事で、制度がなくても必要なリサイクルは行われているようである。なお、このゴミあさり中のオバサンに持ってきた空き缶、ペットボトルを手渡すと小さな声で「謝謝」と言ってくれる。中国では貧しい人も貧しいなりに必死に生きている。国も誰も助けてくれないからかもしれないが、心なしか高福祉の日本社会では味わえなくなった清々しさを感じたのである。

 環境協力に限らず、中国と産業・技術協力を行う時にいつも問題になるのは知的財産権の問題である。中国と技術交流をするのは良いが、技術を盗まれ、盗まれた技術で市場を席巻されるといった類いの話はこれまでいくつもあった。日本も親切なアメリカ人からTQCをはじめいろいろ親切に教えてもらって技術大国になれたのであるから、あまり人のことを言えないとも思うが、兎も角、知的財産の保護をきちんとしておかないと、日本の企業、特に中小企業は中国に足を踏み入れることに躊躇してしまう。 この点、先日、中国環境保護部の幹部の方と私的に長時間話をする機会があり、彼は日本との環境協力の必要性を訴え、日本企業の参入を求めてくるので、日本の企業、特に中小企業は、中国と技術協力すると吸い取るだけ技術を吸い取られ後は放り出されることを心配していると、はっきりと彼に言った。これに対し反論を試みるかと思いきや、彼は、新幹線にしろ、自動車にしろ、これは自分たちの技術だと言っているが、日本等の技術を導入して自分のものとしてきたことを率直に述べ、これまでのやり方を続けていくと誰も中国に協力してくれなくなる、知的財産に関する法律も整備していくので、これ

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からは安心して日本の企業にも来てもらえるようにすると、すんなりとこれまでの行為を反省する言葉を発していた。紹介者を交えての私的な交流なので彼自身の率直な気持ちを語ったのであろうが、私としては絶対に自分の非を認めない中国人も随分変わってきたなあという感じがしたのである。それだけ日中の環境協力は彼らにとって切実な問題なのであろう。

9.体制の違いと相互誤解 経貿大に留学している日本人留学生に中国のどこが好きかを聞いたところ、彼の答は「自由なところ」であった。あまりにも意外な答えに、思わずエッと叫んでしまったが、彼の言う、日本では「あれをしてはダメ、これをしてはダメと色々周りが五月蠅いし他人の目を気にしなければならないけれど、中国では自分がすることに誰も文句を言わない」から好きという答えを聞いて筆者にも大いに納得するところがあった。 また、友人のジャーナリスト、彼は主に欧米畑だったので中国について勉強するため北京に来ていたが、彼は「日本には制度としての言論の自由はあるが、自主規制だの空気が読めないなど、果たして本当に自由があると言えるのか疑問に感じることがある。これに対し中国では制度としての言論の自由はなく報道統制も行われているが、ネットやメール網(微信)を通じて多くの人がいち早く事実を知っているし、また、報道の自由がない分だけネット情報に重みがある。自由と言うものについて考える良い機会になった。」と話していた。日中の体制の違いについて考える時、筆者は、前提としてこのことを指摘しておきたい。前回も指摘したように、日本マスコミの中国報道にはあまりにもステレオタイプの報道が多く、このことが日本人の中国に対する認識を歪め、将来に向けて大きく国益を害する事態ともなっている。関係者(特に編集に当たる方たち)にはよく考えてもらいたいところである。

 筆者は、30年以上にわたり国会と言う議会制民主主義の殿堂で働いてきたので、民主主義に対しては揺るぎない信念を持っているつもりだが、反面、数多く見てきた現実から議会制民主主義に対して幻想は抱いておらず、これを人類が生み出した最高の英知だとも思っていない。W.チャーチルの言うように、民主主義は「これほどひどい制度はないが、これよりマシな制度を見つけられない」だけのことであり、「絶対権力は絶対に腐敗する」というサガ(性)から人類が逃れられない限り、この制度を続けるしかないだけの話だと思っている。従って、中国の国家体制を見る時も日本、欧米流の制度を絶対最高のものとして、これを一方的に否定する気にはなれないし、ましてや、人間らしい生存と言う絶対的価値は存在するにしても、価値相対性を本質とす

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る民主主義において、自分たちにとって都合の良い価値観を絶対視することをもって民主的とするようなやり方(価値観外交等)には、到底馴染めないのである。これらのことを前提に、これから中国の現体制について筆者なりの考えを述べていくが、まず、中国は、中華人民共和国憲法の前文にしばしば出てくる「中国共産党の指導の下」という言葉のとおり、憲法を超える存在として共産党が存在し、これが中国と言う国家を支配する一党独裁の国家体制を採っている。この点が、国民自身が代表者を選び、国民自身が制定した憲法が最高法規であるとする(このことを法律の世界では、治者と被治者の同一性と言っている)日本国憲法と大きく異なるので、この憲法の下で育った現在の日本人としては、中国の体制は何とも理解し難いものなのである。では、これをどのように理解すれば良いのか。ここでは筆者が中国に住んでみて感じたことを独断と偏見を承知の上でご紹介してみたい。先ず、実際に中国で暮らして感じたことは、変な言い方かもしれないが中国歴代王朝下での生活、例えば、唐の太宗の時代、清の康熙帝等の時代もこんな風だったのかなと思ったことである。地方に行けば、○○人民政府の上に必ず中国共産党と書かれた看板に遭遇するし、大学においても共産党委員会があり、学長、学部長の上には党書記が存在し、基本方針を指導している。政府組織にしてもその上部には共産党組織があり、これが政府組織を指導している。中国がこのような政治形態をとったのは、共産主義革命と言うイデオロギー主体の革命を実現するために必要だったからであるが、イデオロギーを抜きにし、支配体制としてだけ捉えると中国 3,000年の王朝支配の歴史とそう変わらない体制を採っているのであり、それであるがゆえに今もって中国では共産党一党支配が受け入れられているのではないかと思うのである。つまり、過去の王朝においては皇帝という絶対権力者がおり、その下で国家が形成されていたが、今は、これが共産党と言う支配組織に変わっただけだと考えると現在の中国がすんなりと理解できるし、また、そこで暮らす老百姓(庶民)たちはどうなのかと言うと、自分たちの生活に危害が加えられない限りはこの権力に逆らうことなくその支配を素直に受け入れているが、実際やっていることは禁止事項(明文化されているとは限らない)以外は好き勝手にやっているし、意に沿わない支配に対しては「上に政策あれば、下に対策あり」と言われるように表面上は支配に服従しながら、如何にして自分たちの利益を守るかに汲々としている。考えてみれば、これは、中国 3,000年の王朝の歴史の中で繰り返されてきたことであり、特に共産党政権になってから始まったことではない。そして、歴代王朝では、社会が行き詰まり、皇帝が老百姓に危害を加え始め老百姓がこれに耐えきれなくなった時に反乱が

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起こり、信頼を失った皇帝は天意を失ったとして当該王朝は滅亡し、新たな王朝が生まれるのである。勿論、新中国になり皇帝主体の王朝制度は打倒され民主中国が生まれたのであるし、中国共産党員は現在では、8,500万人もいて(国民の 15人に一人)、どこまでが支配層でどこからが被支配層かは簡単には区別できないが、国家の体制を支配(指導)と被支配(被指導)と言う単純な関係で見てみると、中国共産党が指導する中国はこの 3,000年の歴史を現在も脈々と受け継いでいるのである。そして、現在、反汚職対策など中国共産党が必死に自己改革を示し、反面、統制を強めているのも歴代王朝の行く末の歴史をよく理解しているからである。中国共産党と一般庶民との関係についてみると日本では政党の党員になるのには会費さえ払えば比較的簡単になれるが、中国では生まれる以前のことから記入される個人の活動記録(档案)の中で共産党員として相応しいとされた者でないと党員になれない仕組みである(資本家の入党も認めるようになり、どこまでが相応しいのか曖昧になっているが)。つまり、国家を指導する共産党員としての考えを同じくし、相応しい者を個別的に共産党員として選別しているのであって、住民の民主的投票によって党員を選んでいるのではないのである。もちろん現代中国では歴代王朝のように少数の支配層が被支配層とは異なる官衣を着て歩いているようなことはないので、大学構内を歩いていても誰が共産党員で誰が非党員かは外国人である筆者には分かるはずもないが、前述のように大学では、学長の上には党書記が存在するし、掲示板には普段はブルー系統のパネルで大学の学内行事等が紹介されているが、時に同じ掲示板に鎌と槌の紋章のついた赤系統のパネルで大学の共産党委員会の活動報告が行われている。これなどは日本人の感覚からすると、なぜ、公的な大学の掲示板で政党の活動報告をするのかと文句の一つも言いたくなるが、中国人学生たちは別に気に留めている様子もないし、また、熱心に読んでいる学生も見かけない。

 共産党について言えば、今回、中国で聞いた話の中で一番面白いと思ったのは、中国では上に行けばいくほど民主的であるという話である。そういえば中国では庶民層には政治談議は別として制度的に投票することで民主的に社会を変えていく手段は与えられていなし、そのための情報も制度的には得ることが難しいが、共産党内部では上層部に行けばいくほど豊かな情報の下で、政治、政策方針を巡って活発な議論が戦わされているようである。また、共産党としての独裁はあるが、最高指導部の共産党政治局常務委員会(現在、7名の委員)でもすべて多数決で決せられるので、一人の独裁者が好き勝手に振舞え

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る体制でなく、皇帝独裁の歴代王朝と異なる民主主義的な体制も採られている。ただこれが、一般国民の世界と切り離されている点で、治者と被治者が同一である日本の体制と異なるのであり、このことが日中間で多くの誤解を生んでいると思うのである。そこで以下に筆者が体験したこの誤解の中で最も重要だと思うものについて述べていく。

日本では国会議員は時に選挙民の受けを狙った無責任な発言や過激な発言、派手なパフォーマンスをマスコミ向けに行っている。また、総理大臣は微妙な問題であっても国会で質問されれば、答弁技術の問題はあるが、これに答えざるを得ず、その内容は国会中継等を通じて国民に知らされている。そして、この総理答弁の揚げ足取りや、一部分だけを歪曲した質問も行われ、これが報道されることも日常茶飯事行われているが、国民のほうもこのことを承知の上で政治家を見ている。では、中国ではどうかと言うと、国会議員に相当する全人代の議員が勝手に無責任な発言、パフォーマンスを行うことはないし、そもそもそのような人物は全人代議員になれない。また、総書記が公の場で揚げ足を取られたり、質問攻撃を受けることは、まず、無いし、あったとしてもそれは報道されない。そして、中国の人民は政治家とはそのようなものだと理解しているし、全人代の議員が過激な発言をしたときは、それは個人としての発言ではなく党の方針に従っているだけだと理解している。そこで、全人代議員に相当する日本の国会議員が、個人的に無責任、過激な発言をしたら日中両国民・人民はこれをどのように受け取るであろうか。日本では多くの国民が、また、無責任な発言をしていると受け流すであろうが、国会議員を全人代議員と同様な存在とみている中国人民からすれば、この国会議員の発言は上からの指示によるものであり、これは日本政府の方針であると受け取るであろう。また、総理の発言についても発言趣旨とマスコミ報道が異なる場合でも、中国ではマスコミは政府方針を伝えているだけなので、マスコミ報道を聞いた中国人民はそれは一国を代表する総理の方針だと受け取るであろう。実際、筆者はこのような場面に何度も出くわしている。会議や宴会の席で、ある国会議員の発言が話題になった時、彼らから、その発言内容は日本政府の方針なのかとの詰問から始まって、筆者がそれはその議員の個人的立場であるといくら説明しても理解してもらえず、挙句の果てには、あなたは国家公務員なのだから、この議員と同じ立場なのかと糾問されたこともある。また、筆者は国家公務員であるが、立法府の職員で政府職員とは立場が異なるのだが、このこともなかなか理解してもらえず、日本政府を代表して?弁明に追われたこともある。この立法府職員と行政府職員の違いについては、日本に留学経

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験のある学者からも糺されたので、彼らにとっては全く理解できないことなのかも知れない。また、総理の発言についても、2012年 9月の尖閣国有化問題のデモの最中、筆者は、駐中国日本大使館向かいのホテルで中日関係史学会とのシンポジウムに出席していたが、中国側関係者との個人的な会話の中で彼があまりにも深刻な顔をして「本当に日本は戦争する気なのか」と問われたので驚いてその理由を尋ねると、野田総理が国会答弁の中で 3度も自衛隊のことについて言及していたからと答えた。この総理答弁が彼のところにどのようなニュアンスで伝わったのか分からないが、日本の国会ではあらゆる場合を想定した質問が行われ、それに総理が答えているので自衛隊についての何らかの言及があったのかもしれない。しかし、その主旨から日本人なら当然それは戦争を前提にしたものでないと理解できるものが、中国ではそのように受け取られない可能性もあるのである。彼らにとって総書記が人民解放軍について言及したときは戦争の覚悟を固めた時と受け取り、これを日本の総理にも当てはめて理解したかもしれないのである。斯く斯様に日中間では同じ現象を巡ってもお互いの受け取り方が異なるのである。このことを我々はまず理解しなければならないのである。よく、日中間では、相互理解と言う言葉が常套句として使われているが、日中間の交流が緊密になってきた現在では、相互理解ではなく相互誤解を如何に防ぐのかが最大の課題になっている。そのためには体制の違い等、日中間の相違点をお互いがよく知り、理解することが何よりも重要になってきているのである。好むと好まざるとに関わらず日中関係はそこまで進んできているのである。

10.アジアと日本の未来に向けて 筆者が経貿大で中国語の勉強を始めた時、先ず驚いたのが韓国人留学生の多さである。国際学院内ではハングルが飛び交っている。これに対し、日本語が聞こえてくることは滅多になく、日本語が聞こえてくるとアッ日本人がいたというような感じである。中国語の勉強にはこのほうが有利なのであるが、それにしても寂しい気がする。経貿大は、経済・ビジネス関係の名門大学で国家重点大学の一つであるが、中国で最も海外からの留学生を多く受け入れている大学の一つでもあり、現在、約 1万 5千の学生のうち 3,000人以上が世界123カ国からの留学生である。そのうちで最も多いのがやはり韓国からの留学生で 750名弱と全体の 4分の1を占めている。これに続くのがインドネシアで約 400名、タイがその半分の約 200名、ベトナムがその半分の約 100名と続き、ロシアからは約 220名であるが、旧ソ連圏諸国からの留学生も多い

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のでロシア語も結構幅を利かせている。米国からは 100名弱と思ったほど多くないが、アフリカ諸国からは約 120名が来ているのでそれなりの存在感を示している。では、日本からの留学生はどれぐらいなのか?少ないとは言っても、最近、中国に抜かれるまで世界第 2位の経済大国であったし、日中経済の緊密さ、数量から言ってベトナムを下回ることはないと思われるであろう。しかし、実際はそのベトナムの 6割にも達しないたったの 60人である。しかも年々減っているとのことで、この事情は、聞いた限りでは清華大学、北京大学でも同様で、経貿大よりも規模の大きい人民大学でも日本からの留学生は、ついに 60名を切ったとのことである。また、経貿大の日本語学科はかつては人気学科で優秀な人しか入れなかったが(中国では統一入試成績順で大学・希望学科が割り当てられるとのこと)、現在は、志望順位が低位にランクされる学科になってしまったとのことで日本語学科の先生は嘆いていたが、最近のアニメブームのおかげでたまに優秀な学生も入ってくるようになったとホッとしていた。ちなみに、大学および大学付近の掲示板、看板等で使用されている言語は、中国語、英語、ハングルの3カ国語で、日本語を見ることができるのは一軒ある日本料理店の看板だけである。

 皆さんはこの現実をどう思われるであろうか。歴史的に見てもこれからますます重要になってくる中国に対しては、世界各国から、特に中国近隣諸国からは多くの留学生が来ている。そして、彼らは一様に中国の重要性を語っている。筆者は、これまでいろいろ日本の地位の低下を心配する記述を行ってきたが、皆さんは少しオーバーではないかと思われていたかも知れない。しかし、筆者は北京に来て最初にこの衝撃的な数字を知り、日本の地位の低下について色々観察するようになった。そして、日本の地位が再び高まるには何をすればいいのかを色々考えてきた。筆者が北京で中国語を勉強し始めて驚き、感動したことを述べ、日本の若者は何をすべきかを最後に述べて、今回のレポートを終わることとしたい。

 北京で中国語を勉強し始めて驚き、感動したこととは何か。それは、先生が黒板に「漢字」を書いてその意味を問うた時に真っ先に手を挙げることができたのは、日本人と韓国人だけだということである。なんだ、そんなことかと思われるかも知れないが、筆者の勉強している中国語クラスにはそれこそ世界各国から色々な言語の留学生が来ている。彼らは黒板で初めて見る「漢字」に対し、画数、発音から辞書を調べ、ようやくその漢字を見つけ出してから意味を理解するという作業を行わなければならない。それは義務教育で漢字を習っていない彼らにとっては大変な作業である。しかし、義務教育で漢

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字を習っている(韓国でも習っているそうである)我々日本人と韓国人は、中国語とは多少意味が違う場合があるにせよ、ほとんどが同じ意味の漢字を使っている。漢字の発音は兎も角、意味は辞書を調べなくても分かるのである。なんでこんな当たり前のことに感動しているのかとお思いになるかもしれないが、筆者は、日本で日本人に囲まれて中国語を勉強していた時にはこのことに全く気付かなかった。中国で外国人に交じって中国語を勉強して、始めて日本も韓国も同じ漢字文化圏の仲間なのだと気が付いたのである。そして、日本と中国、韓国とでは個々の文化も考え方も異なり、彼らとだけといるとその違いのほうに目がいくが、世界各国からの留学生たちの中にいると、むしろ彼らとの同一性が多いことのほうに気が付かされる。これが同じ漢字・儒教文化圏なのかもしれないが、とにかく多くの点で共通した考え方を持っていることに気づかされるのである。 今、日本は、中国、韓国との間で色々な問題を抱えているが、今回、北京で暮らし彼らとも交流することで、その違いとともに多くの共通性に気が付かされ、決して仲良くできない相手でないと思った。日本の半分以下の人口の韓国からは実に多くの留学生が中国に来ている。韓国だけではなく、他のアジア諸国からも実に多くの若者が中国語を学びに中国に来ている。彼らには「漢字」というこれまで接したことのない文字を習得するハンディが有るにも拘らずにである。日本人は彼らに比べ中国語の習得に大きなハンディキャップをつけてもらっている。より多くの若者が中国に来て中国語を学ぶことを願ってやまない所以である。『若者よ!中国に来て中国語を学べ!君たち自身の未来のために。』還暦を過ぎてから中国で中国語を学んでいる筆者が、若者たちに贈れるのはこの言葉である。 前述のように経貿大に来ている日本人留学生数は少ないのであるが、意欲のある留学生も多い。その中の一人は、高校生時代に父親に中国を見てくるように言われて実際中国に来てその重要性に気付き、高校卒業と同時に経貿大に入学したとのことである。そして、なぜ経貿大を選んだのかと聞くとアジアからの留学生が多くいるので彼らとの交流を深めアジアを中心にビジネスをしたいからだという。このような若者が増えてくれれば日本もそう捨てたものではないと元国家公務員としては嬉しさがこみ上げてきたのである。   

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ウイグル・レポート

―シルクロード経済帯の現場に立ってー2014.7.14~21(2015.4改訂)

 私は、当初、この 7月で語学留学を終える予定でしたが、閲読、書写の成績は兎も角、会話のほうはイマイチなので北京滞在を半年伸ばし、年末まで会話を中心に勉強を続けることにしました。そして、中国滞在を伸ばしましたので、この機会を利用して 7月 14日から 21日までの間、新疆ウイグル自治区に行ってきました。

 新疆と言えば、今、中国で最も危険な所として、テロのニュースや現地潜入ルポ等が、連日、日本でも報道されていますし、ウルムチでも 4月 30日と 5月 22日に無差別テロがあったばかりなので(一般住民を巻き込んだテロ行為には、ウイグル族、漢族を問わず強い反感を持っているようです)、私が一人で行くことに対し家族は猛反対しましたが、ウルムチ在住のウイグル人友人に聞いたところ、今は、街中の至る所に武装警察隊(武警)と特別警察隊(特警)がいるので泥棒もいないし、かえって安全とのことで、思い切って行くことにしました。

因みに、現在、新疆でも特に危険なところは、イスラム過激派組織の介在が伝えられるパキスタン、アフガニスタン国境近くの最西南部一帯で、最近のテロ報道や現地潜入ルポの記事も丹念に読めば、この地域に限られていることが分かります。しかし、福島原発事故報道を見た中国人が九州も高度の放射性物質に汚染され危険であると受け取ったのと同様に、新疆の一部地域での出来事で日本人(多くの中国人も同様に思っているようですが)が、新疆全体が非常に危険であると思ってしまうのも無理はありません。実際のところ、新疆は日本の 4.5倍の面積がある広大な自治区なので、こと現在のウルムチについて言えば圧倒的な警察力でテロ組織を抑え込んでいるのではないかと言うのが私の印象でした。

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 ウルムチへは飛行機だと 3時間少しで行けますが、私は、中高生の頃憧れたシルクロードのロマンを味わいたい一心で列車で行くことにし、早々とチケットの手配を旅行社に頼みました。ところが、ネットでも買えるようになった列車チケットは発売と同時に売り切れで※、いろいろ手配してもらいやっとのことでチケットが取れましたが、硬臥(二等寝台)の上段という最も期待に反した所しか残っていませんでした。帰省の学生がネットを利用して席を取ってしまうので、旅行社でも手配が難しくなっているとのことですし、後日、別の友人が鉄道関係者に電話して席が取れないかを聞いてくれましたが、やはり空き席はありませんでした。以前だと、このような場合でも口利き一つで何処からともなくチケットが手に入ったのですが、中国もネット社会に入り確実に以前のような口利き利用は難しくなってきたようです。(※ネットによる列車チケット販売は、20日前の午後 6時からですが、後ほど湖南、湖北の旅として報告する今年の国慶節休暇の際の経験では、寝台列車の始発駅から途中区間駅までの乗車券だと数分後にはチケットはなくなりました。従って作動の遅い旧型のパソコンで買うのは不可能のようです。無駄な出費になりますが、列車全区間の切符だと 30分ほどの時間的余裕をもって買えますので学生はこれで帰省のチケットを手に入れていました。)

北京からウルムチまで 2泊 3日 38時間「硬臥上段ベッド」の旅は、苦行の旅になると覚悟し、『法顕』の時代に比べればましだと自分に言い聞かせながら列車に乗り込みましたが、実際に乗ってみると上段はベッドに潜り込むのに一苦労しますが、一人旅で荷物の盗難が一番心配だった私にとっては、盗難のリスクがぐっと下がり(盗むのにも一苦労する)精神的に楽でしたし、個室の軟臥(4人部屋の一等寝台)だと、片側の窓からしか景色を見れませんが、仕切り壁のない硬臥だと両側の窓から景色が見れ、開放感もあって寝ている以外は窓から景色を眺めている私にとっては、予想外に快適な 38時間の列車の旅でした。

列車の旅は、黄河の流れを真近に見て、西に進むにつれ砂漠とオアシスの繰り返しになりますが、地平線の西に沈む夕日の息をのむ美しさは生涯忘れられない思い出になりました。

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 二等寝台の 3 段ベッド   嘉峪関の万里の長城    地平線の西に沈む太陽

列車は、3日目の朝にウルムチ駅に到着し、ウイグル人の友人、正確には友人は日本滞在中で、その妹さんが対応してくれることになりましたが、出産と重なり、結局、そのご主人が迎えに来てくれましたが、駅前から多くの武警、特警がマシンガン片手に警戒の目を光らせているのでかなり緊張しました。ただ、地元の人たちは見慣れているせいか、さほど気にする様子もなく歩いていましたし、私も 2日目には慣れてしまいました。ホテルは、お願いして旧市街のウイグル人地区に取ってもらいましたが、街を歩く人のほとんどが彫の深い顔をし、ウイグル帽やスカーフ(ヘジャブ)を被ったウイグル人なので、一瞬ここが中国なのかと思ってしまうほどです。

   

 泊まったトマリスホテル    通りのウイグル人      街には豊富な果物

当日は、友人の車であちこち連れて行ってもらいましたが、特に 2009年 7月に 200人近くの死者を出した騒乱事件があった人民広場(人民解放軍が新疆に進軍してきた記念碑のあるところ)周辺は武警、特警が特に多く警戒していますし、その近くの繁華街にも多くの武警、特警がいましたが、ここでも住民たちは慣れた様子で、私も特に緊張することは有りませんでした。写真も普通に撮れますが、ただ、武警、特警にカメラを向けると警官が飛んできますので、この点は注意して撮影しました。翌日以降は、一人で街中をいろいろ歩き回り、ウイグル人貧民街等も見てきましたが、街中には結構多くのショッピングモールがあり(なぜか地下商店街が多くありました)、そこでは店のつくりは北京と同様ですし、売ってい

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る物も同じような物でした。ただ、北京で多く見られる外国ブランド品は少ないように思われました。また、北京の中関村を小さくしたような百花村電脳城があり、中を覗いてみるとここでも北京で売っているものと同じパソコンや部品が売られていましたし、若者たちの集まる原宿のようなところもありました。

商店街では、漢族、ウイグル族の別なく多くの人が買い物を楽しんでいますし、店の作り、品揃えも北京と似たようなものなので、ここが北京から3,000㎞離れた中国最西部の都市なのかと思ってしまうほどでした。

    ウルムチ市内のビル群    百花村電脳城      女性ファッションの店

このように、治安は一応は安定していますし、警官が多いことを除いては中国のほかの街と変わりがないので、友人に習近平政権になって問題は解決してきたのかを訪ねたところ、彼曰く、相変わらず若者の失業率は高く、中央政府の言っていることと実際とは随分異なる。ウイグル人の雇用を義務付ける法律はあるもののこれがほとんど守られておらず、彼が勤める国有企業(彼は高級幹部)では 200人のウイグル人を雇わなければならないのに 20人しか雇っていないとのことでしたし、多くの若者がアルバイトのその日暮らしで生活が安定せず、特に若者の間では不満がたまっているとのことでした。後日、他のウイグル人友人も交え夜の民族舞踊ショーを見た帰り、丁度、ラマダン明けで、多くの人が街に出てスイカを食べていましたが(無料で配られていました。ラマダンに友人を食事に誘ってしまったことをこの時知りました)、その友人によると、自分たちが子供の頃よりも若い人たちの間でイスラム回帰、戒律重視が目立つようになってきている。定職もなく不安定な生活の中で神に救いを求める人が多くなってきているようだ。他民族相手のショーを行っている踊り子たちに危害が加えられないか心配していると話していました。その民族ショーでは、最後に観客を舞台に招き入れ、踊り子が漢族の客(白い服の男性)と表面上にこやかに踊っていましたが、曲が終わり漢族の

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客が舞台から降りる時、一瞬、凍るような視線を彼に送ったのを見てしまいました。何か見てはいけない物を見てしまったような、民族間の拭い難い不信を見てしまった思いでした。また、貧民街を歩いていて偶然発見したモスクの中に入れてもらい写真を撮らせてもらいましたが、これを漢族の友人に見せたところ驚いて、漢族は絶対に入れてくれない。よく中に入れてくれたとビックリしていました。私の中国語が余りに下手なのですぐに外国人と分かったのでしょうか。

   

ウイグルショー参加の漢族     貧民街モスクの内部     屈託のない子供たち

また、市内には多くの警察官が配備されていますが、ウイグル住民を強制的に立ち退かした跡地に警察官等が住む公務員住宅が建ち並び、挙句の果てには地元で授業を行っていた小学校が、突然、廃校・接収され、これが何と付近を警戒する警察官の宿舎に変わるなど、日本人の感覚では到底考えられないような、地元住民の反感を買うようなことを平気でやってきたようです。当時の治安責任者は汚職で処分された?ようですが、日本の良心的ジャーナリストが指摘していた、中国は国防費を上回る治安対策費を使いながら反抗分子を増やしているだけと言う指摘は正しかったようです。この治安対策費を雇用対策に使っていたら治安はもっと安定したのではないかという点で彼らと同じ思いを持ちました。ただ、ウイグル人雇用については、彼らは小学校から中国語を習っていますが(これまで 3年生からであったものを 1年生からにしたそうです)、中国人と同様には話せない者が多いこと、また、土木作業にしろこれまで経験がないので漢族に比べ必要な技術を習得していないこと、イスラムの風習との違いから中国系企業がウイグル人を受け入れたがらないという問題があり、現在、政府は、ウイグル人の起業を助ける政策を進めているとのことですが、中国政府がこれまで使ってきた治安対策費中心の多額の少数民族対策は一体何だったのか、もっと職業訓練に力を入れるべきでなかったかと疑問に感じざるを得ないというのが正直なところの感想でした(彼らははっきりとこれまで

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の政策は失敗だったと言っていました)。新疆には新疆王と呼ばれた自治区政府の最高権力者(王楽泉、漢人)が、政治、経済を恣にし、5年前の大暴動につながりましたが、その後も、国防費を上回る治安対策費を使いながら、問題の解決につなげることができなかった点について、当時の国の治安担当最高責任者(周永康)の治安責任の所在を明らかにして再出発することが、新しい中国にとって最も必要なことではないかと私は思います。この点、現在進められている『整風運動』について、それが権力闘争の一面があることは当然ですが、それだけでなく中国がどのような社会を目指して苦闘しているかの面からも見ることが特にマスコミには必要だと、今回の旅行を通じてその思いを強くしました。

ウイグル人の彼らと話していて、表面的な治安の安定とその深層にあるウイグル住民の不満を垣間見ることができましたが、問題の解決には若者の失業をなくすことが必要だと言う点で一致しましたので、次に、ウルムチ、新疆の未来がどのようになるのかについて実際にこの目で見てきたことを述べたいと思います。これまでは、特に庶民生活を知りたいと思いウルムチの旧市街地(ここはウイグル人地区)をあちこち歩き回りましたが、この街を知るためには漢族を中心に暮らしている地域も見なければならないと思い、住民のほとんどが漢族である新市街地(新市区)に連れて行ってもらいました。

新市街地は、旧市街地と異なり看板等にはウイグル文字表記があるものの、街そのものにウイグル色、イスラム色はほとんどなく、また、街を歩く住民の中にウイグル人を見かけるのも稀で、これまで見てきた中国の他の都市と同じような感じの街でした。連れて行ってもらったのは新市街の中の高新技術開発区と言うところで、高層ビルの立ち並ぶオフィス街といった所です。その中には、地元資本の大企業が本社を構えており、一つは『野馬集団有限公司( YEMA group CO.,LTD)』と言う、金融からロシア、中央アジア諸国との貿易、美術館等の文化事業を行っている会社がありました。董事長は全国優秀企業家にも選ばれた実業家で、馬が大変好きで、馬の写真の腕も確かな方のようです。本社ビルの中も石の美術館になっており、一味違う存在感のある企業の様でした。 もう一つは、『美克・美家』という家具を製造・販売している中国最大の会社で、本社のショールームを見てきましたが、高級感あふれるハイセンスな家具を中国国内のみならず、ヨーロッパ、アメリカを中心に販売しているとのことでした。日本では今一つ気に入った家具が手ごろな値段で見つからな

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いので、日本に輸出すればと思いましたが、日本にはほとんど輸出していないとのことでした。 この 2つの会社は、いずれも歴史が新しく、日本では知られていない会社で私も初めて知りましたが、こんな中国の最奥部に、センスの良い感じの企業が存在しているとは思いませんでしたし、これまで中国政府の言う遅れた西部地域の開発と言うイメージからは想像できないような企業がウルムチにはありました。

   

 新市街の高層ビル群     野馬本社ビル玄関      美克・美家ショールーム

 そして、「西部地域の開発」が、中国国内の遅れた地域を開発し、豊かにすることだけと思っていた私のイメージは、この後、連れて行ってもらった新開発区を見ることで大きく変わっていきました。 

 これまで中国のいくつかの街を歩き回ったり、列車の車窓から田舎町の様子も見てきましたが、今の中国ではどこに行ってもビルの建設ラッシュで、中・高層のビルが林立しているのが目に入ってきます。 しかし、ここウルムチで目にしたものはそれらをはるかに上回る規模で開発が進められているということと、それが単にこの地域の開発・発展だけでなく、中国全体の発展の可能性を秘めているということです。 つまり、これまでの中国の発展のイメージは、沿岸地域を中心に開発を進め、ここが豊かになった後、西部の内陸部を終点として開発して行くというイメージでしたが、ここウルムチでは、内陸部を新たな起点として、更に西に向かって世界との交流を広げ発展していこうとする新しい中国の姿がありました。 これが、中国政府の言うところの『シルクロード経済帯(ベルト)』構想なのかと思いましたが、丁度、工業団地を訪れたのが、西に太陽が沈む時でしたので、この西に向かって一本の道と鉄道がまっすぐ伸び、ハザフスタン、ロシア、東欧諸国を通って、終着のオランダ・ロッテルダム港まで大量の物資が行き交うことになるのかと思うと、現代シルクロードのロマンに言いようのない感動を覚えました。そして、あたかも唐王朝がそうであったように、

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これからの中国が世界の中心として東西に広がっていく歴史の進展の中で日本だけが置いてきぼりにされないかと心配になりました。

 ここで、この中国の『シルクロード経済ベルト』構想について簡単に説明しますと、この構想は、2013年 9月、習近平国家主席が、カザフスタンのナザルバエフ大学で講演した際に打ち出したもので、西方への拡大を通じて、中国の中・西部と中央アジア、南アジア、西アジアとの貿易往来や経済協力を強化し、更に、中国西部地域の発展や拡大を欧州・アジアの内陸地域やさらにはオランダのロッテルダムを終点に欧州地域全体にまで広げていこうとする広大な経済構想で、「経済ベルト」がカバーする人口は 30億人にのぼるということです。そして、この地域には豊富なエネルギー資源、鉱物資源、観光資源、文化資源、農業資源があり、この先5年間、中国の対外投資総額は5000億 を超えると言われていますが、その内、1500億 以上が中央アジア㌦ ㌦諸国を中心に投資されるということです。

皆さんはこの『シルクロード経済ベルト』構想をご存知でしょうか。中国では『21世紀海上シルクロード』とともに『一帯一路』建設としてよく報道されていますが、日本ではあまり知られていないようですし、聞いたことがある人にしても何か漠然としたイメージで具体的に何をしようとしているのか分からないのではないかと思います。しかし、習近平は、去る 4月 28日から 30日(2014年)まで新疆を視察しており(この視察をテレビ放映した 30日午後 7時にウルムチ駅前で、爆弾テロがありました。)、そのあと中央新疆工作座談会を開くなど積極的にこの地域の発展を後押し、2014年 11月に北京でのAPEC期間中に行われた「相互交流パートナーシップ強化対話会議」では 400億ドル(約4兆 5800億円)の基金を創設し、対象地域のインフラ整備を支援すると表明しています。また、調べてみるとシルクロード経済ベルトの対象国は中国が主導する上海協力機構の構成国と同じですし、日本だけが置いてきぼりを食ってしまったアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立もこの構想と絡んでいます。これまでの公務員の仕事を通じての経験だと、日本では構想を打ち出して、それから予算を取ってきて開発を進めるので、構想の現地に行っても何もないのが通例です。しかも、中国政府は一般に構想については日本流の予算を取るためのような青写真をはっきり示さないで、どちらかというと基本構想だけがあり、やってみて上手く行かなければやり直すというようなやり方です。故に、日本人は中国である構想が示されても、その将来性について疑問視する意見がまず最初に多く出るようです。しかし、私が新疆で実感したのは、中

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国では構想が宣伝された時には既にインフラや建物、設備はかなり出来上がっているという現実です。中国では構想の実現に紆余曲折はあっても、国家戦略に基づく必要な構想は必ず実現させています。シルクロード経済ベルトの構成国が、上海協力機構メンバーと同じであることのように、共産党や政府の我々の知り得ない何処かの中枢でキチンと国家戦略は組み立てられているのではないかと思います。要するに、日本人の感覚で中国の『構想』を見ているととんでもない誤りを犯してしまうということだと思います。

また、この『シルクロード経済ベルト』構想の戦略的意義については日本ではほとんど報道されていませんが、分かりやすく言うとこれまでの新中国の発展はすべて東側の海を通じての発展でしたが、これからは西側の陸路を通じての発展も可能になったということです。嫌な言い方をすると、日本がなくても中国が発展することができるもう一つのフリーハンドを得たということです。この戦略的意義について、日本大使館の方や国際協力銀行の方とも議論しましたが、全く同じ意見でしたし、特に、国際協力銀行の方は新疆をじっくりと視察してきたそうで、これに注目しない日本国内に対し非常な危機感を持っていました。私も、案内してくれたウイグル人友人からロシア、中央アジア諸国の人たちのほか韓国人、イスラエル人ビジネスマンは多く来ているけれど日本人ビジネスマンはほとんど来ない。また、日本から帰ってきたウイグル人留学生、研究者も日本語を生かす機会が全くないという話を聞き、非常に残念に思いました。ウイグル人友人の一人はコンピュータ言語の専門家ですが日本で 10年間暮らした後、こちらに帰ってきましたが、仕事で日本語を見る機会は全くないし、私と出会って 2年ぶりに日本語を話せたと喜んでいたぐらいです。(今回の新疆旅行では、トルファン、天山天池にも行きましたが、実に出会った日本人はトルファンの火焔山で出会った一人だけでした。)

日本では、新疆・ウイグル自治区の危険な点ばかりが報道され、大きな歴史的意義に気づかないまま、日本人全体がステレオタイプ的に立ち入るべき所でないと思い込んでいるところに今の日本が直面している大きな問題があると思います。事実を事実として見る努力を怠り、「見たいと思う事実」だけを見ようとしているところは、福島原発事故に至る経緯と全く同じですし(詳しくは拙著『フクシマ発未来行き特急』をご覧ください)、海外から日本を見ていると、日本人が自己満足している間にどんどん歴史から置いてきぼりにされている感じがしてなりません。

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ウイグル旅行の後、中国在住の日本の化学工業会社幹部の方等と話しましたが、新疆については消費人口が少ないこと、工業用水に問題があること、彼がドイツの自動車メーカの人に聞いたところ自動車輸送だと大量に輸送できないと言っていたことから新疆地区の発展は期待できないと言下に否定されました。しかし、考えてみてください。新疆地区には現代の家電、電子機器、自動車部品に必要な希少金属が豊富にあります。水についてもウルムチは砂漠地帯にありますが、天山山脈から引いてくることなど中国にとってはどうということはありません。輸送の問題も、これまでの中国の沿岸地域で生産したものをシベリア鉄道経由で輸送するのとは訳が違います。希少金属を多く産出するところで工業製品を作れば一番合理的ですし、ヨーロッパ、中央アジアに一気に繋がる最も近いところで工業製品を作ればこれほど有利なこともありません。また、生産するのも自動車に限られるわけではなく、家電製品はコンパクト化し、パソコン等も小型軽量化されるに連れ輸送コストの占める比率も下がってきます。つまり、ウルムチに工業生産基地ができれば、中央アジア、ヨーロッパに向けてこれほど有利な輸出基地はないわけです。

ウルムチの友人に新疆の産業は何かと尋ねた時に彼は、石油と「外貿」と答えました。「外貿」って何と尋ねると、新疆で製品を加工し輸出することだと教えてくれました。新疆問題を考える時、私の頭からはこの「外貿」という言葉が離れません。北京で日本企業の方たちと話していても、その多くは日本を中心に物事を考えているように思えますし、このシルクロード経済ベルトについてももっと先の話と受け取っている方がほとんどのようです。しかし、私がこれまで経験してきたことで言うと、科学技術が加速的に進歩している現代では、もっと先という話は数年後には変わっています。欧米の物流大手はこのシルクロード経済ベルトにかなり関心を持っているようです。ウルムチまでは高速鉄道(2014年 12月)ができましたし、ウルムチから中央アジア国境までの高速鉄道は 5年後(旅行当時)に完成します。この頃に新疆がどのようになっているのか、好奇心の強い私としては興味津々のところで是非その時に訪れてみたいと思います。

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