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鉄に代表される強磁性体はもちろん、工業的には非磁性体に分類される物質であっても、磁場の影響を受けることは古くから知られていた。しかし、その名のとおり『磁性体に非ず』という観点ばかりが先行したせいか、非磁性体に及ぼす磁場効果は追究されることがほとんどなく、研究の空白地帯といえる分野だった。「非磁性体は大きく反磁性体と常磁性体に分けることができます。水やプラスチックは反磁性体。これらを強い磁場の中に置くと無重力状態のように浮かび上がることはよく知られています。他方、異方性をもつ材料は、それぞれの性質に合わせて、一定の方向に向きを変えます。左右に磁

場を配置した環境の中では、たとえばカーボン繊維は磁場に対して平行、つまり横に、ナイロン繊維は垂直、つまり縦に向きを変えるのです。磁場の効果をしっかり把握しておけば、対象が非磁性体であっても、工業的な利用ができることはいうまでもありません」山登正文准教授が語るように、

磁場に対する物性を利用して開発された材料が、すでに製品化されている。

磁場の効果は、特に材料や医薬品等の開発を目的にした基礎研究での応用が期待される。「医薬品などを開発するには、物質の結晶構造をつぶさに解析する

必要があり、多くの場合、X線構造解析の手法が用いられます。そのときに必要なのが大きな結晶ですが、物質によっては粉末状の微結晶しか得られないケースが少なくありません。私たちは、特殊な磁場を印加することで微結晶を三次元的に配向させる方法を見いだしました。この方法を用いると、あらゆる微結晶が同じ方向に配列されます。つまり、微結晶を使って単結晶に等しい擬単結晶を創ることができるわけです」そうやって創った擬単結晶を実

際にX線解析測定してみると、単結晶のそれと同等の像を得ることができたという。この方法を用いることで、構造

解析ばかりでなく、大きな結晶が得られない材料であっても、そこから見かけ上の単結晶を創り出すことが可能となった。

2006年4月、山登准教授ら研究者が集まって、日本磁気科学会が発足した。主な研究対象は、もちろん非磁性体である。「磁気科学は、物理学、化学、生物学、材料科学、電気化学、熱力学、流体力学、分離工学ほか、分析、物性論、磁場発生等の分野を集めた学際分野です。日本の超伝導研究にも深く関与しており、この先、さまざまな成果を発信できると確信しています」まだ生まれて間もない日本生まれの磁気科学。磁場というきわめてクリーンな科学特性で、あらゆる分野に向けた環境対応型の提案にも期待がかかる。産業界との連携が進めば、その発展に拍車がかかることは間違いない。

吉田研究室-2都市環境学部 材料化学コース都市環境科学研究科 環境調和・材料化学専攻

研究テーマ

磁場を用いた、微結晶の精密配向の研究および高分子材料のプロセッシングキーワード

三次元配向、擬単結晶、高次元配向材料、パターニング、相分離構造制御

研究者◎山登正文准教授連絡先◎042-677-1111(内4891)E-mail◎[email protected]

山登正文准教授Masafumi Yamato博士(工学)。東京都立大学卒業。東京都立大学助手を経て、05年より現職。

非磁性体に対する磁場効果に着目して医療、バイオ、環境などの基礎研究をささえる微結晶の三次元配向微粒子のパターニング方法を開発日本磁気科学会の発足で学際的研究の進展に期待がかかる

ナノ・マイクロテクノロジー

研究の空白地帯非磁性体にスポット

研究概要

単結晶なみのデータが得られる微結晶三次元配向システム

最近のトピックス

日本生まれの新科学分野日本磁気科学会が発足

今後の展望

ポリスチレン微粒子が作る自己組織構造を磁場を使ってパターン化

磁場を利用した針状結晶(白色)の配向制御。この場合、結晶長軸が磁場Bと垂直に配向している

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