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法と経済学第Ⅱ編 事故法
2016 年 5 月 15 日
オリエンテーション:自己紹介
自己紹介をお願いします お名前 お仕事 今日、ディスカッションしたいテーマ 等
2
ウォームアップ(頭の体操)
病気の検査 前提条件
病気の時、 99% の確率で検査結果は「陽性」 健康の時、 95% の確率で検査結果は「陰性」 日本人全体の 0.1% が実際に病気である
いま、あなたの検査結果が「陽性」だった場合、実際にあなたが病気である確率は何 % ?
3
➡1.94%
ウォームアップ(頭の体操)
分子→陽性&病気(緑):99%×0.1%
分母→陽性(橙): 99%×0.1% +5%×99.9%
因みに①は Type1(あわてんぼう)エラー、②は Type2(ぼんやり)エラーという 4
検査結果=陽性
真実病気
( 0.1% )健康
( 99.9% )
検査
陽性 99% 5% ①
陰性 1% ② 95%
第 10 章:抑止の分析の展開
裁判所の判断に不確実性(リスク)→情報の非対称性 適正水準(相当)を
上回る注意を払いがち
形式主義に走る恐れ 社内全体としては最
適ではない(資源の浪費)
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医療事故→医師が相当の注意を・・・
真実
払った 払わなかった
裁判所の判断
払った 問題なし(無罪)
払わなかった
問題なし(有罪)
問題あり(無罪)
問題あり(有罪)
第 10 章:抑止の分析の展開
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様々な不確実性 裁判所が当事者が払った注意水準の判定を誤る 当事者が瞬間的な注意水準をコントロールできない 裁判所が設定する「相当の注意」の水準が最適ではな
い 最適値よりも設定水準が低い→過失認定されない=
注意を払わない 最適値よりも設定水準が高い→過失認定される(厳
格責任と同じ)=最適な注意を払う➡厳格責任(過失認定に不確実性が無い)の方が効率的?
第 10 章:抑止の分析の展開
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損害賠償を支払うだけの資力がない(どうせ払えない)→注意を払うインセンティブが低下(モラルハザード) 例:ベンチャー企業がリスクの高い事業を行う→失敗
したら倒産すれば良い(有限責任) 対策
代位責任 最低保有資産額規制(最低資本金制度等) 損害保険の免責(一定額は損害を負担する) 公的な規制
第 10 章:抑止の分析の展開
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代位責任:従業員(エージェント)が引き起こした損害は会社(プリンシパル)が負う プリンシパルはエージェントに最適な注意を払わせる
ように、直接的な指導を行い、罰金(ペナルティ)を課す
エージェントの資力やプリンシパル・エージェント間の取引関係が継続的かどうか等が影響
プリンシパルが保有する情報が多い程、代位責任は有効に
ただし、当事者が増えることによる非効率も
第 10 章:抑止の分析の展開
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賠償額と損害額(非財務的損害を含む) 賠償額(期待責任額)=期待損害額:最適な注意 賠償額(期待責任額)>期待損害額:注意過剰 賠償額(期待責任額)<期待損害額:注意過少
第 10 章:抑止の分析の展開
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懲罰的(賠償額>損害額) 認められる根拠→期待責任額<損害額となる場合があ
る 加害者の特定が難しい 訴訟が難しい(費用が高い)
悪質な行為を抑止するため、米国は懲罰的損害賠償を認めている(例:米国における武田薬品の PL 責任) 日本は刑罰による抑止(損害賠償は損害回復の手段)
第 10 章:抑止の分析の展開
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事実的因果関係:あれなければ、これなし A→B の証明は困難 ➡ A では無い→ B では無い
例:サリドマイド剤が使用禁止になってからは、先天的奇形症の子は生まれていない
相当因果関係: 原因事象が結果事象の発生確率を高めたか
例:殺人犯を生んだ親に殺人の責任があるのか(生まなければ殺人は行われなかった=事実的因果関係あり)→ただし、子供を生んだ事が殺人の可能性が高めたことにはならない
第 10 章:抑止の分析の展開
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因果関係 日本→損害賠償の範囲を限定(民法)
通常損害→相当因果関係があるかどうか 特別損害→当事者に予見可能性があるかどうか 過失相殺
上記のように責任を制限してもインセンティブは不適切にならない→普通、異常な状態を想定した行動は行わない
ディスカッション
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日本の原子力損害賠償制度はどうなっている?
根拠法 原子力損害の賠償に関する法律 原子力損害賠償補償契約に関する法律
内容 原子力事業者は故意・過失を問わず、無限責任を
負う 民間保険・政府補償契約義務( 1,200億円 / 事業
所) 政府による支援
ディスカッション
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東電を潰さない理由は?
東電が倒産すれば・・・ 政府が全額賠償責任を負う→納税者が納得するか?
電力債への支払いが賠償支払いに優先される 電力債のデフォルト→債券市場のシステミックリ
スクを誘発 対策として・・・
政府と原子力事業者 12 社の共同出資による原子力損害賠償・廃炉等支援機構を設立し、東電に資金を供給
優先株式の引き受けにより、過半数を掌握
第 11 章:責任、リスクの負担、保険
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リスク許容度 リスク愛好的:同じ期待収益でも変動が大きい方が良
い リスク中立的:期待収益が同じであれば効用は同じ
企業は資産が多く、株主も分散 リスク回避的:同じ期待収益でも変動が小さい方が良
い 個人は資産が少ない→賠償の影響が大きい プロスペクト理論(損失効果) 負担能力の無い人にリスク負担→非効率(注意過剰)
保険への加入が合理的→リスクの再配分
第 11 章:責任、リスクの負担、保険
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保険制度
再保険を通じたリスク分散 ロイズ(英国) トーア再保険(日本)
大数の法則
第 11 章:責任、リスクの負担、保険
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責任保険(厳格責任の場合)
保険の必要性(厳格責任の場合)
加害者
(リスク回避的な人は)必要• 保険会社が被保険者の注意水準を観察・・・
できる→注意水準を反映した保険料(社会的に最適) できない→保険料と注意水準は独立、不注意に罰則が課され
ないから社会厚生上の最適水準を下回る注意しか払わない被害者 不要
第 11 章:責任、リスクの負担、保険
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責任保険(過失責任の場合)
保険の必要性(過失責任の場合)
加害者
• (完全な過失責任ルール下では)不要→相当の注意を払えば免責• 現実的には過失認定に不確実性があるため必要
過失を促進する事にはならない(保険料が高くなり過ぎるから)
過剰な注意が減少(社会的に望ましい方向へ)被害者 (リスク回避的な人は)必要
第 11 章:責任、リスクの負担、保険
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非財産的損害の存在 保険=被保険者の効用を損害発生前の水準に回復する
ものではない損害 (本人の)金銭ニーズ 保険家族写真を紛失 変化なし 保険金による補償の意味は小さい
ケガ 変化なし or 高まる(特別な移動手段等が必要な場合)
治療費のみ or より広範囲な補償をカバーする保険のニーズあり
死亡 低下する遺族が遺産を受け取る事を知る事による効用の範囲(家族が存在しなければ保険金の意味は無い)
第 11 章:責任、リスクの負担、保険
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賠償責任制度 加害者に適正な注意を払わせる→財産的+非財産的損
害の両方を賠償させるべきであるが・・・ 被害者が受け取るべき金額→財産的損害のみ
加害者が払う注意水準が過少となるため、罰金による補完
罰金に備えた保険→リスク回避的な人にとっては意義あり(ただし、悪意のある行動を抑止する観点から禁止されていることが多い)
第 11 章:責任、リスクの負担、保険
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賠償保険に関する規制 賠償保険の加入を・・・
義務化保険会社が注意水準を観察できる場合
注意水準に応じて保険料を増減→加害者がリスク低減を行うインセンティブあり
保険会社が注意水準を観察できない場合
加害者がリスク低減を行うインセンティブが弱まる→義務化しない方が良い
禁止 注意を払うインセンティブが高まるが、過剰となる可能性
ディスカッション
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役員責任限定保険( D&O 保険)→メリット&デメ
リットは?
会社の役員(取締役および監査役)がその業務につ
き行った行為に起因して株主代表訴訟によりまたは
第三者から損害賠償請求を受けた場合に、会社役員
が被る損害を保険金として支払う保険
意思決定の時点に係らず、請求時点が保険期間に該
当しているかどうかで判断
保険料は会社が負担(税務上も損金参入)
ディスカッション
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役員責任限定保険( D&O 保険) メリット
役員の無資力の問題を解消 適正なリスクを取る業務執行が可能→役員就任を促進
デメリット 会社との利害相反→各種免責条項