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IIJmio meeting 14
「SIMロックについて」
2017/1/21
株式会社インターネットイニシアティブ
佐々木太志
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「SIM」とは
• Subscriber Identity Moduleの略で、携帯電話の加入者を識別するためのIDを記録し、携帯電話に装着するためのカードのこと
• 歴史– ヨーロッパの電気通信標準化団体ETSIが標準化
– 1991年にヨーロッパで2G携帯電話サービス(GSM)のために利用開始
• その後、GSMのサービス圏(日本等一部を除くほぼ世界中)で普及する
• GSMの発展規格である 3G(W-CDMA)、 3.9G(LTE)、 4G(Advanced LTE)でもそのまま採用
– 日本では、2G携帯電話サービス(PDC)でSIMカードを採用せず
• 2000年の3G携帯電話サービス(NTTドコモFOMA)の開始の際に初導入
• ソフトバンク3Gでも導入された他、各社のLTE、WiMAX2+、AXGPでも利用
– 来たるべき5Gでも引き続き利用
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SIMがまだない頃の思い出
• 1994年3月までは、携帯電話は利用者による購入ができなかった– 「端末レンタル制度」
– 当時は端末が非常に高額のため、端末は携帯電話事業者からのレンタル方式で提供されており、当然、その携帯電話事業者での利用しか想定されていなかった
– 1994年4月に、携帯電話の販売が解禁
• 制度としては、完全売り切り制(誰でも携帯電話端末を販売できる)
• 実態は、事業者売り切り制(携帯電話会社のみが携帯電話を販売)
• 端末の売り切り制度の開始後も、契約情報は携帯電話端末(本体)に直接書き込み– 他社の端末をショップに持ち込んでも、ごく一部のケースを除き契約情報の書き込みはできなかった
• 第3世代携帯電話以降では、契約情報はSIMカードに書き込み、そのSIMカードを携帯電話端末(本体)に差し込むことで利用可能となる– 利用者がSIMを抜き他の端末に挿すことで、他社の端末を使えてしまうケースが
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他社の端末が使えてしまうと起きること
販売奨励金・割賦債権の回収問題顧客の容易な流出
• 携帯電話会社により通信規格や周波数が様々で、他社の端末では通信規格が不一致となってしまうケースも
• 当時の通信サービスは、端末側と携帯電話事業者側設備の双方に作り込みを行っているケースがあり、そういったサービスの提供ができない(iモード、Ezweb、J-スカイ等)
端末とサービスの不一致
• 他社に端末を持ち出されてしまうことで、端末販売にあたり価格に充当した販売奨励金や、割賦債権の回収ができず、ビジネスモデルが成立しない可能性も
• ただ、実際には、2000年代まではSIMカードだけの契約はほとんど受け付けられておらず、他社の端末を持ち込むことはできなかった
SIMロックによる他社端末利用の制限が各社で導入された
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モバイルビジネス研究会
• 2007年に開催された総務省の有識者会議
• 携帯電話の成熟化を踏まえ、「オープン型モバイルビジネス環境の実現に向けて」と題する報告書を作成
• 報告書の骨子– モバイルビジネスにおける販売モデルの在り方
• 通信料金と端末代金の分離の促進(販売奨励金の在り方の見直し)
• SIMロック解除の促進
– MVNOの新規参入の促進
– モバイルビジネスの活性化に向けた市場環境整備の推進
• プラットフォーム機能の連携強化
• 端末プラットフォームの共通化の促進
• 基本理念は、以下の3つ1. ネットワークの別を問わず、自由に端末を接続して利用できる環境
2. 端末に自由にアプリケーション等を搭載して、利用者が希望するサービスを自由に選択できる環境
3. 端末・通信サービス・コンテンツ等のそれぞれの価格・料金が利用者に分かりやすく提示されている環境
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モバイルビジネス研究会におけるSIMロック解除に向けた議論
• SIMロックに関する課題– W-CDMA陣営(ドコモ、ソフトバンク、イー・モバイル)と、CDMA2000陣営(KDDI)の間で通信方式の互換性がない→SIMロックを解除しても端末は持ち込めない
– 事業者毎のプラットフォーム(データ通信サービス、メール、アプリや決済等)が異なっていたため、W-CDMA陣営でもプラットフォームの互換性がない→SIMロックを解除して端末を持ち込んでも、音声やSMSしか使えない
– W-CDMA陣営でも周波数や無線制御技術の互換性がない→SIMロックを解除して端末を持ち込んでも、通信できなかったり基地局間のハンドオーバーが失敗する場合が考えられる
• 議論の方向性– 端末代金(販売奨励金)の回収が完了した後は、SIMロックをかけることに正当性がない
• 顧客の囲い込みを目的としたSIMロックはNG
– 通信方式や事業者間のプラットフォーム等に互換性がない問題については、LTEが開始される将来には解消されうるのでSIMロックを正当化するものではない
– LTEが開始される2010年頃までに法制化することを念頭に、SIMロックを原則解除するという取組を開始することが望ましい
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SIMロック解除ガイドライン
• 2010年に、総務省が事業者等へのヒアリングの結果まとめたもの
• モバイルビジネス研究会の報告書では「法制化」という表現が用いられたものの、結局は「ガイドライン」となり、努力目標的なものにとどまる– 2010年時点では、まだLTEやスマートフォンは普及の黎明期であり、2007年にモバイルビジネス研究会が期待したほど、通信方式やプラットフォームがオープンな環境とはなっていなかった
• SIMロック解除ガイドラインの骨子– 移動電気事業者にSIMロック解除を強制するものではない
– 平成23年以降に発売される端末のうち、可能なものからSIMロック解除に応じる
• SIMロック解除ガイドラインの効果– ドコモは、その後発売されたほとんど全ての機種でSIMロック解除に応じた
• が、2013年にiPhoneの取扱を始めると、iPhoneのみSIMロック解除に応じなかった
– ソフトバンクは、ごく限られた一部の機種でのみSIMロック解除に応じた
– KDDIは、SIMロック解除には応じなかった
• この時点ではまだ通信方式がドコモ・ソフトバンクとは異なる状況が続いていた
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SIMロック解除ガイドラインの改定
• 第一次改定– 2014年12月
– この改正で、SIMロック解除は単なる努力目標ではなくなり、2015年5月以降に発売されるSIMロック端末は原則として全てSIMロック解除に応じることが明記された(強制力を持った規律へ)
• 第二次改定– 2017年1月
– 端末購入補助の適正化のガイドラインと合わせて「モバイルサービスの提供条件・端末に関する指針」として生まれ変わる
• その中の第一章が「SIMロック解除ガイドライン」に
– 第一次改定から、以下の点についてさらに義務が強化
• 端末販売後SIMロック解除に応じるまでの期間が、100日程度(もしくは代金支払いが確認できるまでの期間)と明示
• 解約時にSIMロック解除の条件や手続きを説明することを求める(原則SIMロック解除)
• 同じネットワークを利用するMVNOに対するSIMロックはしてはならない
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端末提供方法の変遷
端末未開放の時代
端末が0円だった時代
端末が実質0円だった時代
端末実質0円が禁止された時代
• 1993年以前• 端末はレンタルであり、端末所有の概念すらなかった
• 1994〜2006年• 端末はユーザ所有だが、0円のため事実上所有概念は希薄• SIMロックを不可とする議論は未だ存在せず
• 2007〜2014年• 端末価格と通信料金が分離され、端末販売補助で「実質0円」化• SIMロック解除ガイドラインが設けられたが、MNOは端末が
0円だった時代と同じエコシステムを継続
• 2015年〜• 端末を実質0円で売ることが悪とされるように• SIMロック解除ガイドラインが強化され、SIMロックは必要最小限にとどめることが規律となった
端末売り切り制(1994年)SIMの導入(2000年)
モバイルビジネス研究会(2007年)
スマートフォンの普及MVNOの登場
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SIMロックの意義の変遷
投資・債権保全顧客の囲い込み
• 「サービス提供事業者が端末を提供するもの」という神話• サービスが端末と不可分だった(クローズドサービス)
端末とサービスの一体提供
• 端末をロックすることで、奨励金・購入補助といった投資や分割払いの債権を回収するまでのリスクを低減させる
• 端末をロックすることで、利用者の心理的・経済的なハードルを上げて顧客を囲い込む
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SIMロックの意義の変遷
端末未開放の時代
端末が0円だった時代
端末が実質0円だった時代
端末実質0円が禁止された時代
端末売り切り制(1994年)SIMの導入(2000年)
モバイルビジネス研究会(2007年)
スマートフォンの普及MVNOの登場
端末とサービスの一体提供
投資保全囲い込み端末とサービスの一体提供
投資・債権保全顧客の囲い込み
投資・債権保全囲い込み
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SIMロックの意義の変遷
投資・債権保全顧客の囲い込み
• 「サービス提供事業者が端末を提供するもの」という神話• サービスが端末と不可分だった(クローズドサービス)
端末とサービスの一体提供
• 端末をロックすることで、奨励金・購入補助といった投資や分割払いの債権を回収するまでのリスクを低減させる
• 端末をロックすることで、利用者の心理的・経済的なハードルを上げて顧客を囲い込む
スマートフォンの普及によるオープンサービス化により、サービス提供事業者がサービスに適合した端末を提供するというビジネスモデルが崩壊
「顧客の囲い込みを目的としたSIMロックはNG」という総務省の指導ただ、その後も心理的な囲い込み効果は残る
必要最小限の範囲に限り、債権の保全を目的としたSIMロックが認められた
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端末提供方法の変遷
端末未開放の時代
端末が0円だった時代
端末が実質0円だった時代
端末実質0円が禁止された時代
脱SIMロック時代???
端末売り切り制(1994年)SIMの導入(2000年)
モバイルビジネス研究会(2007年)
スマートフォンの普及MVNOの登場
SIMフリースマートフォンの浸透端末のコモディティ化
• 端末のコモディティ化→サービスのアプリ化• SIMフリースマートフォンの浸透→
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SIMロックへの心理的ハードルの低下
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2015Q1 2015Q2 2015Q3 2015Q4 2016Q1 2016Q2
SIMロック解除の利用件数
0%
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40%
60%
80%
100%
1
SIMロックの認知度
系列1 系列2 系列3 系列4 系列5
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80%
100%
1 2 3 4
SIMロック解除の利用状況
系列1 系列2 系列3
• グラフはいずれも総務省「電気通信事業分野における市場分析に関するデータブック(平成27年度)」から
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eSIMとSIMロック
• 現在のプラスチックのSIMカードではなく、今後、スマートフォンの中にSIM
カードの中のICチップを組み込むタイプのSIM(eSIM)の登場が予想される
• eSIMになると、SIMカードの物理的な交換なくSIMプロファイルをダウンロー
ドすることで携帯電話事業者を乗り換えられるようになり、ハードルがより下がることが想定される
• 反面、GSMAのeSIMの基本原則には、eSIMの実装においてもSIMロックを有効にできるようにすべきとされている
• Jean-Christophe Tisseuil, Head of SIM, GSMAのプレゼンテーションより引用
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まとめ
• SIMロックは、これまでの携帯電話市場の様々な商慣習や必要性から歴史的に続いているもので、直ちになくすことができるものではない
• 今後、普及が見込まれるeSIMになっても、直ちにSIMロックがなくなるようなことはなさそう
• ただ、利用者の意識は確実に変わってきていて、SIMロック解除の制度強化がそれを後押ししている
• MNOの中にも、SIMフリー端末の活用など、スマートフォンのコモディティ化を戦略として受け入れる動きが見られる
• IIJでも、今後フルMVNOサービスやeSIMの提供などを通し、SIMロック解除による利用者メリットがより大きくなるよう努力していきます