市民講座 小内...

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私たちの体を守る免疫システム

その良い面と悪い面

小内 伸幸

東京医科歯科大学難治疾患研究所生体防御学分野

東京医科歯科大学難治疾患研究所 市民講座第5回 知っておきたいゲノムと免疫システムの話

「免疫って何?」

免疫は何をしているのでしょうか?

健康なときには免疫が何をしている

のかなんて気にしませんよね?

では、もし免疫がなかったらどうな

るんでしょうか?

「免疫不全症」というむずかしい名前の病気

があります。

生まれながらに免疫をぜんぜん持っていない

病気です。この病気の赤ちゃんは、生まれて

半年くらいまでに、普通の人は感染しないよ

うな弱い病原体に感染してしまい、口の中に

カビが生えたり肺炎になったりします。

「エイズ」は、HIVというウイルスに

感染した人がかかる免疫がなってしま

う病気です。この病気にかかった人は、

やはりいろいろな病原体に感染してし

まいます。

カビ

細菌

ウイルス

免疫あり

カビ

細菌

ウイルス

免疫なし

つまり、ふだん免疫は何もしていないようでも、

じつは、私たちの身体を病原体から守って、病気

にならないようにしてくれているのです。

これが免疫の一番たいせつなはたらきです。

一度ある感染症にかかったら免疫のはたらきが強くなり、

二度目にはもう病気になりません。

「わたしは一度おたふくかぜにかかっているから大丈夫」

「ぼくは今年はもうインフルエンザにかかって治ったからも

うかからない」という話は聞いたことがあるでしょう。

病原体

回復

同じ病原体前に会ったことあるぞ...

でもそれは、同じ病原体の場合だけ。新しい病原体

にはかかってしまいます。

昔かかった病原体をおぼえているのも免疫のはたら

きです。これを「免疫記憶」といいます。

同じ病原体 べつの病原体

こんなの会ったことないぞ...

もう知ってるよ.

免疫記憶

白血球=免疫細胞

赤血球

血小板

白血球

顆粒球

単球

リンパ球T細胞

B細胞

ヘルパーT細胞

キラーT細胞

単球

好中球

好酸球リンパ球

好中球

好中球

好酸球

好塩基球 免疫細胞

樹状細胞

1.ばい菌にはまずリンパ球以外の細胞!

うまそーやな

食うでー顆粒球

単球/マクロファージなどの食細胞 膿(うみ)

免疫細胞が体を守るしくみ

しかし,かれらもウイルスのように血液中を流れたり細胞の中に入り込むようなものはうまく処理できない...

感染してもーた….

?ウイルス

単球/マクロファージ

顆粒球

B細胞

抗体

2. そんなときは、リンパ球の出番だ!

ウイルス

B細胞がウイルスに対する抗体を出す。

2. そんなときは、リンパ球の出番だ!

キラーT細胞

2. そんなときは、リンパ球の出番だ!

キラーT細胞

キラーT細胞がウイルス感染した細胞を攻撃する

ミエロイド系細胞(食細胞)

Bリンパ球

キラーTリンパ球

抗体

1. 病原体を食べる

3. 感染細胞を殺す

2. 抗体をつくる

まとめ:免疫の3つの主な仕組み

自然免疫

獲得免疫

免疫は大きく自然免疫と獲得免疫に分けられます。

病原体をやっつける方法として、ま

ず食べるという殺し方があります。自

然免疫の主な仕事はこれです。体を

守るための最前線の戦いをしてくれて

います。

病原体は、例えば細菌なら細菌に共

通した成分を持っています。食細胞は

そういう共通した情報を認識できる分

子を細胞表面に出して、標的を見定

めているのです。ひとつの分子で沢山

の種類の細菌を見ることができます。

自然免疫とは?

自然免疫の働き好中球

マクロファージ

病原体細菌に共通した成分

食細胞

共通成分を認識できる分子

細菌

自然免疫ではカバーしき

れないものがあります。そ

れは、血液中に溶けて流れ

ている毒素分子や小さな病

原体、また細胞の中に入り

込んだ病原体などです。

獲得免疫は、こういう事態

に対処できます。

マクロファージ

好中球

血液中の小さな病原体

自然免疫が苦手とする相手

細胞内の病原体

自然免疫と獲得免疫の役割分担

特異性:病原体を見分けられる

ハシカ攻撃隊 ハシカウイルス

攻撃

何もしない

おたふくかぜウイルス

多様性:どんな敵でもやっつける

ハシカ攻撃隊

天然痘攻撃隊

百日咳攻撃隊

極めて多種類!

自己寛容:自分の身体は攻撃しない

免疫系

異物(非自己)

自己成分何もしない

攻撃

獲得免疫系の4つの特徴

免疫記憶:2度目はかからない

1回目 2回目

病原体

どうやって病原体を見分けているの?

ハシカにかかった人は

ハシカには2度はかかり

ませんが、おたふく風邪

にはかかってしまいます。

つまり、免疫の基本は

「狙い撃ち」です。これを

特異性といいます。

ハシカ攻撃隊 ハシカウイルス

攻撃

何もしない

おたふくかぜウイルス

どうして出会ったことのない病原体とも戦えるの?

どんな病原体に対し

てでも狙いうちできる

免疫細胞が、身体に

は用意されています。

このようにいろいろな

異物に反応できること

を、免疫の多様性とい

います。

ハシカ攻撃隊

天然痘攻撃隊

百日咳攻撃隊

極めて多種類!

どうして自分の身体は攻撃しないの?

免疫系には自分の身体

中の成分と異物とを見分

けるしくみがあります。自

己非自己の識別といいま

す。

自己成分に対しては

攻撃しないことを、自己

寛容といいます。

免疫系

異物(非自己)

自己成分

何もしない

攻撃

抗原受容体が特異性をもっている

T細胞やB細胞は、

抗原受容体という分

子を表面に出してい

ます。 抗原受容体

は、いわばT細胞やB細胞が抗原を調べる

ときの「目」のよう

な働きをします。

免疫反応を起こすも

とになる病原性微生

物由来の物質を抗原

といいます。T細胞受容体

TB

B細胞受容体

放出されたものが「抗体」です。

抗原

抗原を発見!

T細胞もB細胞も、いろんな種類の受容体をもっている

T細胞

B細胞

どんな物でも、攻撃できる。 多様性

自己寛容

はしか攻撃隊

おたふくかぜ攻撃隊

結核攻撃隊

それなのに、自分自身は攻撃しない。

リンパ球のすごいところは…

けがなどで病原体が体内に入ると、樹状細胞がその病原体を取り

込んでリンパ節へ移住します。リンパ節の中で、樹状細胞は病原体

襲来の情報をT細胞に伝えます。

リンパ節

樹状細胞

病原体

樹状細胞 T細胞

情報伝達

けが樹状細胞

樹状細胞(待機中)

獲得免疫の仕組み

獲得免疫系反応の基本的な仕組み

感染細胞

樹状細胞

ヘルパーT細胞 キラーT細胞

B細胞

抗体

液性免疫細胞性免疫

刺激

刺激 刺激

刺激

細胞障害

抗体産生

貪食

マクロファージ

分化・増殖免疫反応

活性化T細胞

活性化T細胞

T細胞1回目の感染

病原体

メモリーT細胞

エフェクターT細胞

免疫反応

2回目の感染

メモリーT細胞はすぐにエフェクターT細胞になれる。

メモリーT細胞はたくさん用意されている。

2回目の感染では速やかに免疫反応が起こる仕組み

免疫記憶の仕組み

1回目 2回目

メモリーT細胞

エフェクター細胞の一部はメモリーT細胞になって残る。

免疫応答のブレーキ役、制御性T細胞

制御性ってどういうこと?

免疫系の細胞は、攻撃する細胞ばかりではありません。中には、免疫反応を

抑制する役割をもった細胞もいます。抑制性細胞があることはかなり前から知ら

れており、また、いろいろな種類があることがわかっています。

その中の代表選手が、制御性T細胞です。

自己反応性T細胞

抗原提示細胞

攻撃

T細胞レセプター

自己抗原

MHC分子制御性T細胞が無い時

自己免疫病発症

組織やめなさい!

制御性T細胞が有る時

制御性T細胞

サイトカインによる情報伝達

サイトカインは細胞が放出する情報伝達物質です。

遠く離れた細胞でも、それを見分ける受容体を持ってい

れば、働きかけることができます。

サイトカインは、いわば「増えろ」とか「働け」とい

う指令書のようなものです。中には「おとなしくしてな

さい」とか「死んで下さい」というメッセージを伝える

ものもあります。

サイトカイン

情報

情報

インターロイキン(IL) 1,2,3,4,・・・・31

細胞増殖因子

インターフェロン(IFN) 

コロニー刺激因子(各種CSF)

造血因子(エリスロポエチンなど)

ケモカイン(RANTESなど)

炎症性因子(腫瘍壊死因子TNFなど)

抑制因子 IL‐10, TGF‐

サイトカインの種類

私たちはたくさんの種類のサイトカインを持っています。

鳥インフルエンザウイルスは防ぐことができるか?

鳥インフルエンザウイルスH1N1型

樹状細胞やマクロファージが異常に活性化する

炎症性サイトカインがたくさん作られる

インフルエンザで最悪の場合、死にいたる

私たちの体を守る免疫システムですが、コントロールできなくなり、暴走すると自分自身の組織を傷つけ、最悪の場合、死に至る

免疫システムは諸刃の刃である

免疫反応をコントロールする必要がある

私たちは新しい免疫反応をコントロールする仕組みを発見

ウイルス感染時に死んだ赤芽球を食べた樹状細胞が免疫反応を抑制するサイトカインIL‐10を出して免疫反応にブレーキをかけている。

ウイルス感染によって死んだ(アポトーシスを起こした)

赤芽球

免疫反応を抑制するIL‐10を出す

樹状細胞が食べて消化する

ウイルス感染によって死んだ(アポトーシスを起こした)

赤芽球樹状細胞が食べて消化する

免疫反応を抑制するIL‐10を出す

自分の組織

T細胞

ブレーキさじ加減を調節

まとめ

1.免疫システムは私たちの体を守っています。

2.免疫システムは巧みに病原体を見つけ、除去しています。

3.免疫システムが暴走してコントロールできないと私たちの体を傷つけます。

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