View
1
Download
0
Category
Preview:
Citation preview
てんかんの診断と薬物療法
岡山大学発達神経病態学(小児神経科)
日本てんかん協会岡山県支部代表
大塚頌子
2010年10月16日 第44回日本てんかん学会 市民公開講座
バビロン王朝時代のてんかんの記録
バビロン王朝時代のてんかんの記録
紀元前718~612年の間に石版に楔形文字で書かれた記録
てんかんは「倒れ病」として石版に記載されている
てんかんは「悪魔によって捕らえられる」, 「憑きものがつく」病気悪魔の種類によっててんかん発作の姿は異なる
発作症状として, 強直間代発作, 欠神発作, Jackson発作, 複雑部分発作,笑い発作が記載されている
前駆症状, 前兆, 発作後麻痺, 誘発因子, 発作間欠期精神症状, 経過と予後にも言及している
偉人達の知られざる病
ジュリアス・シーザー(古代ローマ):皇帝
ドストエフスキー(ロシア):文豪
ゴッホ(オランダ):画家
フローベル(フランス):文学者
南方熊楠(日本):博物学者
スウィフト(英国):文学者(ガリバー旅行
てんかんとは
てんかん発作を主徴とする慢性の疾患
てんかん発作は神経細胞の過剰発射によっておこる
発作間欠期にてんかん発射を認める
新皮質の機能局在
大脳皮質の感覚野と運動野
感覚野 運動野
てんかんおよびてんかん症候群の臨床的・脳波学的分類
局在関連性てんかん 全般てんかん
特発性全般てんかん 症候性/潜因性全般 てんかん
(部分てんかん)
部分発作
単純部分発作(意識障害なし) 運動発作
感覚発作
自律神経発作
精神発作
複雑部分発作(意識障害を伴う)
二次性全般化
てんかん発作型の分類
全般発作
欠神発作 ミオクロニー発作
間代発作
強直発作
強直間代発作
脱力発作
てんかんの診断における脳波の役割
Fp2-F8
F8-T4
T4-T6
T6-O2
Fp1-F7
F7-T3
T3-T5
T5-O1
F4-C4
C4-P4
P4-O2
F3-C3
C3-P3
P3-O1
T4-Cz
Cz-T3
発作間欠期脳波
てんかん発射検出率
局在関連性てんかん 71.6% 特発性 100% 症候性 62.0% 潜因性 71.3%全般てんかん 84.3% 特発性 79.7% 潜因性および症候性 100% 症候性 81.8%未決定てんかん 83.3%合計 75.6%
てんかん発射検出率
2回目まで:88.7% 3回目以降も含めて:92.3%
初診時
発作時脳波の有用性
症例 14y 6m (男児)
主訴 腰のあたりがしびれて力が入らなくなる
現病歴 10歳頃から「右腰部に違和感が出現し、右上下肢に広がる」エピソード
が出現した。覚醒時にも睡眠時もみられた。
14歳1カ月の時初めて病院を受診した。
発作症状 はじめに右腰部がなくなるように感じ, その違和感が右手や右足
に向かって広がっていく。
睡眠中に起こると, 痛みのような感覚で目覚める。
持続時間は10数秒から数10秒
発作時脳波-1
痛がる目を覚ます
A2-T4
T4-C4
C4-Cz
Cz-C3
C3-T3
T3-A1
T6-P4
P4-Pz
Pz-P3
P3-T5
Fz-Cz
Cz-Pz
F8-Fz
Fz-F7
T6-Pz
Pz-T5
EMG
EMG
C4
発作時脳波-2
MARK OFF
A2-T4
T4-C4
C4-Cz
Cz-C3
C3-T3
T3-A1
T6-P4
P4-Pz
Pz-P3
P3-T5
Fz-Cz
Cz-Pz
F8-Fz
Fz-F7
T6-Pz
Pz-T5
EMG
EMG
C4
症例 3ヶ月 男児
現病歴
生後2ヶ月時に流涎が多く, 呆然として眼球偏位し活気がなく , 哺乳力
も低下したため近医を受診した。感冒, 脱水と診断され輸液と抗生剤
による治療を受け5日目に退院した。翌日から再び同様の症状が
続いていた。
退院数日後に流涎, 瞬目, 眼球偏位が15分以上続いたため, 救急車
で来院した。
来院時の脳波
Fp2-F8
F8-T4
T4-T6
T6-O2
Fp1-F7
F7-T3
T3-T5
T5-O1
F4-C4
C4-P4
P4-O2
F3-C3
C3-P3
P3-O1
T4-Cz
Cz-T3
ジアゼパム静注後
わが国には何人のてんかん患者が存在するのか
てんかんの有病率の調査
岡山県における小児てんかんの有病率の調査
1999年の患者数調査(13歳未満)
調査方法
医療機関の診療録の調査による全数調査
県下の小児てんかんを診療している医療機関
隣接県で岡山県の患者が受診する可能性がある医療機関
有病率 8.8/1,000有病率を当時の人口に単純に当てはめて約100万人とされた
年齢別のてんかん有病率
米国の有病率は70歳頃から急激に上昇する
米国
成人・高齢発症のてんかん
成人発症:1) 急性脳障害の後遺症としてのてんかん
2) てんかんのみが唯一の症状である場合
高齢発症:米国の疫学調査では発症率が70歳以降急激に上昇する
脳血管障害、認知症とともに頻度の高い疾患
2) では発作のコントロールがよくても, 社会的立場もあり,
患者にとっては受け入れがたいことが多い
小児てんかんの長期予後
15歳未満で初診した後10年以上経過観察した小児てんかんの治療予後 Yamatogi Y, Terasaki T, Ohtsuka Y et al. 1983
5年以上発作(-) 3年以上発作(-) 発作減少 不変または悪化
571(78.7%) 21(2.9%) 94(13.0%) 39(5.4%)
寛解
592(81.7%)
発作の抑制されていた592例中383例(64.7%)は断薬出来ていた725例全例では52.8%で断薬出来ていた
10年以上経過観察した725例
小児てんかんの長期予後
小児期に発症したてんかんの8割以上は成人に
達するまでに発作が抑制される。半数以上は
抗てんかん薬も中止できる。
しかし・・・ キャリーオーバー患者の問題
小児期発症のてんかん
20y
完全寛解施設入所ドロップアウト
59%
発作存続
41%
寛解
発作頻発(月に数回以上)
新しい治療法の開発QOLの改善リハビリテーション
発作頻度が低い(年に数回以内)
精神・心理学的問題社会・経済的問題への取り組み
完全寛解
寛解-再発-寛解- -
・ 発作でけがをしていなければ, 安静に寝かせておく。
多くの場合には発作でけがをすることはない。
・ 発作の様子や時間を記録しておいて, 患者・家族を通じて
医師に伝える。
・ 発作時に舌をかむことを心配して口の中に物を入れないように。
・ 発作中・発作後に嘔吐しそうであれば、ゆっくり頭を横に向けて
嘔吐物を取り除き, 気道を確保する。
・ 発作が5分以上続くときには救急車を呼ぶ。
・ 発作後もとに戻れば, 普通に活動して良い。
てんかん発作の救急処置
てんかんの治療
薬物療法(抗てんかん薬療法):発作型などから適切な薬を選択
し, 毎日規則正しく内服する。治療期間は数年以上。
この間脳波検査, 薬の濃度測定, 副作用の検査などを
定期的に行う。
てんかん外科治療:てんかん焦点となる病巣が明らかな場合
には, その部位を切除する。脳内での伝播を遮断する。 薬が効きにくいてんかんのなかに外科治療に適するタイプの
てんかんもある。
発作型の診断
原因の特定
病歴聴取
脳波検査
原因検索
てんかん分類
てんかん症候群診断
てんかん発作
非てんかん発作
てんかんの薬物療法開始までのへのプロセス
抗てんかん薬療法の基本
・ 単剤で開始し, 漸増しながら有効性と忍容性により最適な量を決定
・ 抗てんかん薬の有効量は個々の患者によって異なる
・ 治療域を参考に副作用の出る手前の十分量まで増量して効果を 判定する
・ 無効であれば, 次の薬を導入し, 無効な薬と徐々に置き換えていく
・ 抗てんかん薬は半減期が長い薬が多いので, 体内で定常状態に 達するのに数日以上かかることが多い
抗てんかん薬の定常状態と生物学的半減期
持続投与では半減期の5倍の時間で定常状態に達する(Levy RH らを改変)
持続投与
1回の経口投与25%
50%
75%
100%
1 2 3 4 5半減期
半減期3倍 87.5%4倍 93.7%5倍 96.9%
抗てんかん薬の効果判定
・ 発作頻度, 発作の様相の変化
発作表をつけることが大切
・ 脳波検査
・ 血中濃度検査
・ 副作用の観察と検査
個々の薬の副作用の知識が必要
抗てんかん薬の副作用
用量依存性
急性反応:血中濃度が中毒域に達すると出現
服用量が関係
慢性中毒:服用量のみならず服用期間が関係
あらゆる臓器に影響
過敏反応 特異体質
薬疹:カルバマゼピン(商品名テグレトール)
ラモトリギン(商品名ラミクタール)
致死的肝障害:バルプロ酸(商品名デパケン)
発作表
発作表(入院患者)
2010
開発中止
開発中止
2007
2006
2000
1989
日本(年)
2000
1999レベチラセタム
1997タイアガビン
1995ラモトリギン
1993フェルバメート
1996トピラマート
1993ガバペンチン
‐クロバザム
2000ゾニサミド
米国(年)抗てんかん薬 欧州(年)
2005
1993-95
1993
1990-95
1996-97
2000
1987-2000
開発中止 2009 1989
‐ 2007
ビガバトリン
ルフィナマイド
プレガバリン 2004
主な新規抗てんかん薬の日本, 米国, 欧州の承認年
2008 2007
2008
‐ 2004
1976-83
治験中オクスカルバゼピン
治験中
治験中スティリペントール
新規抗てんかん薬
既存の薬に抵抗性の患者に対する新規抗てんかん薬の付加試験
発作抑制 5~8%
発作の有意な減少 <約50%
Gabapentin(ガバペン*) 26%Lamotrigine(ラミクタール*) 34%Levetiracetam(イーケプラ*) 40%Oxcarbazepine(オクスカルバゼピン) 50%Topiramate(トピナ*) 51%
* 商品名
最大有効率
安全性、忍容性の特徴
最近承認された新規抗てんかん薬
小児適応 成人適応*
ガバペンチン(商品名ガバペン) 申請中 (+)
トピラマート(商品名トピナ) 治験中 (+)
ラモトリギン(商品名ラミクタール) (+) (+)
レベチラセタム(商品名イーケプラ) 治験中 (+)
*: 成人適応とは16歳以上
最近承認された新規抗てんかん薬の適応症
部分発作 全般発作
ガバペンチン(商品名ガバペン) ○
トピラマート(商品名トピナ) ○
ラモトリギン(商品名ラミクタール) ○ ○
レベチラセタム(商品名イーケプラ) ○
オーファンドラッグとして治験中の抗てんかん薬
スティリペントール 乳児重症ミオクロニーてんかん
(Dravet症候群)
ルフィナマイド Lennox-Gastaut症候群
2剤とも発作型というより, 特定のてんかん症候群が対象
オーファンドラッグ:希少疾患の薬
従来の抗てんかん薬と新しい抗てんかん薬の主要な作用機序
Naチャネル阻害
GABA受容体促進
グルタミン酸受容体阻害
Caチャネル阻害
CBZ (++) (+) PHT (++) (+) ZNS (+) (+) ESM (++) Lamotrigine (++) Oxcarbazepine (++) Benzodiazepines (++) Tiagabine (++) Vigabatrine (++) PB (+) (+) (+) (+) VPA (+) (+) (++) (+) Gabapentin (+) (+) Topiramate (+) (+) (+) (+)
我が国で最近承認された薬と治験中の薬 我が国に導入されていない薬
障害の3つのレベル (WHO, 1980)
機能・形態の障害 (Impairments) 身体のレベル (Physical level)
能力障害 (Disabilities) 個人のレベル (Personal level)
社会的不利 (Handicaps) 社会のレベル (Social level)
「人間には体験としての心の世界、客観的世界のすべてのものを自己の価値体系に従って価値づけ、意味づけする心の世界というものがある」
Stigmaの問題
体験としての障害 心の世界 (上田, 1985)
100万人の仲間~わかってください てんかんを~
第38回日本てんかん協会全国大会(岡山) 2011年11月26日(土), 27日(日)
Recommended