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トレンチャー式撹拌工法の改良強度に関する評価 ~『より良く、より早く、より安く』3拍子揃った浅層改良工法を確立するために~ 橋本  聖 西本  聡 ** 林  宏親 *** 浅層混合処理工法は従来3m 程度の改良深であっ たが、トレンチャー式撹拌工法 は深度10 mまで改良が可能であり、10m以浅では深層混合処理 工法(以後、DMMとする)と比較して経済的なため、 今後も施工実績が増加すると考えられる。しかし、ト レンチャー式撹拌工法は改良強度のばらつきが、どの 程度存在するかが明確でないため、改良効果を明らか にする必要がある。本稿では道内3箇所の現場におい て現地調査を実施し、改良地盤について強度のばらつ き(RQD、一軸圧縮試験)、現場強度と室内強度の関 係を評価したので報告する。 トレンチャー式撹拌工法は、原位置土に改良材を供 給し改良材を化学的に反応させて土質性状を安定させ る機械撹拌工法である。本工法は低振動、低騒音であ ること、改良強度の設定が広範囲で多くの土質に適用 可能であること等の特徴を有している。改良深さは、 浅層(1.0m~ 3.0m)、中層(3.0m~ 10.0m以内)を 対象とし、構造物、建築、盛土基礎などの地盤改良や 本設や仮設の用途に応じて全面、帯状、千鳥、格子状 などの施工パターンを有する工法である トレンチャー式撹拌工法の主な特徴は機動性に優れて いるところである。改良機械はバックホウ(0.8m 3 1.9m 3 クラス)をベースとし、多様な現場へ対応が可 能である。狭隘な施工現場や、超軟弱地盤、傾斜地な ど従来の機械式撹拌工法では、対応困難な施工条件下 においても施工が可能である。 2に標準的な施工 システムを示す。 現在のトレンチャー式撹拌工法の改良材はスラリー 系が主流である。改良材スラリーは、トレンチャー先 端部に設けた吐出口より噴射され、チェーンに装着さ れた撹拌翼にて原位置土と撹拌混合する トレンチャーは回転しながら前後・上下動し所定の改 良深度まで先端が到達する。トレンチャーでの撹拌回 技術資料 寒地土木研究所月報 №641 2006年10月 43

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トレンチャー式撹拌工法の改良強度に関する評価~『より良く、より早く、より安く』3拍子揃った浅層改良工法を確立するために~

橋本  聖* 西本  聡** 林  宏親***

1.はじめに

 浅層混合処理工法は従来3m程度の改良深であったが、トレンチャー式撹拌工法(写真-1)は深度10mまで改良が可能であり、10m以浅では深層混合処理工法(以後、DMMとする)と比較して経済的なため、今後も施工実績が増加すると考えられる。しかし、トレンチャー式撹拌工法は改良強度のばらつきが、どの程度存在するかが明確でないため、改良効果を明らかにする必要がある。本稿では道内3箇所の現場において現地調査を実施し、改良地盤について強度のばらつき(RQD、一軸圧縮試験)、現場強度と室内強度の関係を評価したので報告する。

2.トレンチャー式撹拌工法とは

 トレンチャー式撹拌工法は、原位置土に改良材を供給し改良材を化学的に反応させて土質性状を安定させる機械撹拌工法である。本工法は低振動、低騒音であること、改良強度の設定が広範囲で多くの土質に適用可能であること等の特徴を有している。改良深さは、浅層(1.0m~ 3.0m)、中層(3.0m~ 10.0m以内)を対象とし、構造物、建築、盛土基礎などの地盤改良や

本設や仮設の用途に応じて全面、帯状、千鳥、格子状などの施工パターンを有する工法である(図-1)。トレンチャー式撹拌工法の主な特徴は機動性に優れているところである。改良機械はバックホウ(0.8m3 ~1.9m3クラス)をベースとし、多様な現場へ対応が可能である。狭隘な施工現場や、超軟弱地盤、傾斜地など従来の機械式撹拌工法では、対応困難な施工条件下においても施工が可能である。図-2に標準的な施工システムを示す。

3.施工方法

 現在のトレンチャー式撹拌工法の改良材はスラリー系が主流である。改良材スラリーは、トレンチャー先端部に設けた吐出口より噴射され、チェーンに装着された撹拌翼にて原位置土と撹拌混合する(図-3)。トレンチャーは回転しながら前後・上下動し所定の改良深度まで先端が到達する。トレンチャーでの撹拌回

写真-1 トレンチャー式撹拌工法

表層処理工法

深層混合処理工法

トレンチャー式撹拌工法

表層処理工法

深層混合処理工法

トレンチャー式撹拌工法

ローリー車

サイロ

スラリープラント

バックホウ

パワーブレンダー

施工管理装置

ローリー車

サイロ

スラリープラント

バックホウ

パワーブレンダー

施工管理装置

図-1 トレンチャー式撹拌工法と多工法との比較

図-2 施工システム

技術資料

寒地土木研究所月報 №641 2006年10月 43

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数は改良地盤の均一性を確保するため最低2回撹拌とし、隣接箇所とラップさせた施工を基本とする。一区画の施工が終了するとベースマシンが移動し、新たな区画の施工を開始し順次繰り返す(図-4)。

4.施工管理の現状

4.1 改良地盤の品質管理法および強度関係式

 トレンチャー式撹拌工法の強度管理は、トレンチャー式撹拌工法に関する公的マニュアルが存在しないため、パワーブレンダー工法協会から発刊されている技術資料1)に基づいており、一般的にボーリングでサンプリングしたコアを一軸圧縮試験で評価している。パワーブレンダー工法協会では、その他の手法として、原地盤をスラリーで混合・撹拌完了後に流動化した状態の混合土の中に、油圧式バックホウのバケットに装着したモールド付試料採取器(写真-2 H=140㎜、

φ =70㎜)を改良地盤に建込み(写真-3)、所定の深度に到達した試料採取モールドを引抜き採取し、一軸圧縮試験で評価する方法を提案している。試料採取は改良体の上部・中部・下部をそれぞれ1試料ずつ採取する。品質管理は土の一軸圧縮試験(JIS A 1216)を行い、①3本の供試体(資料採取モールド)の一軸圧縮強さは設計基準強度の85%を確保、かつ、②3本の試験結果の平均値が設計基準強度以上、としている1)。また、測定頻度は、500m3

~ 1,000m3ごとに1回、行うと定義されている。ここで不明確な点が二点ある。 一つは、改良強度の評価方法である。トレンチャー式撹拌工法の品質管理手法は上述のとおり2通りあるが、これらの運用は発注機関の監督員の裁量によるところが大きく、モールド付試料採取器による品質管理法は発注者の承認の元に行われている。モールド付試料採取器による品質管理法は、低コストで行える有効な手段と考えられるが、混合条件や養生条件の相違が固化強度に及ぼす影響について指摘2)されている。トレンチャー式撹拌工法に関しては、コアサンプリングで得た一軸圧縮強さとの相対的な評価を行った実績がないため、双方を検証した後に運用した方が良いと思われる。 もう一つは、設計基準強度と室内目標強度の関係式である。トレンチャー式撹拌工法の強度式は quck= 0.3 ~ 0.4・qul (quck:設計基準強度、qul:室内目標強度)であり、DMMのquck = 1 / 3~ 1 / 4・qul の関係式に近いため、DMMに準拠しているとも考えられるが、トレンチャー式撹拌工法の改良強度のばらつきはDMMと同等程度なのかが明らかになっていない。仮にトレンチャー式撹拌工法の改良強度のばらつきが少ないのであれば、トレンチャー式撹拌工法独自の設計基準強度と室内目標強度の関係式を設定できると考えられる。

図-3 改良材スラリー噴射部と撹拌部

図-4 区割りブロックの施工

改良材スラリー 改良材スラリー

撹拌翼

撹拌翼

改良材スラリー突出口

回転方向

進行方向

改良材スラリー 改良材スラリー

撹拌翼

撹拌翼

改良材スラリー突出口

回転方向

進行方向

断 面 平 面

4.0m

6.0m

ベースマシン移動方向

断 面 平 面

4.0m

6.0m

ベースマシン移動方向

写真-2 試料採取モールド

写真-3 試料採取状況

44 寒地土木研究所月報 №641 2006年10月

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5.現場試験概要および当該地盤の性質

 現場試験は道内の3現場を対象に行った。現場概要および地盤性状については下記のとおりである。各現場においてサンプリングした改良地盤コアから、①RQD、②一軸圧縮強さからばらつき(ヒストグラム、深度分布)、③現場強度と室内強度との比、をそれぞれ評価した。5.1 火山灰質土地盤(千歳 A・千歳 B)

 路線:一般国道337号 道央圏連絡道路 場所:千歳市泉沢 改良目的:補強土壁基礎地盤改良 設計基準強度:quck = 220kN/ m2、180kN/ m2

 現場試験は一般国道337号(道央圏連絡道路)の千歳中央にある中央 IC(仮)附近で実施された。現場は千歳市街地から北東に位置し、恵庭降下軽石層、支笏火山噴出物層が卓越した地域である。改良対象層は支笏火山噴出物を主としたN値3前後の軟弱層であるが、層構成は若干異なる。千歳A(本線橋台付き補強土壁工)の改良対象層は火山灰質砂、砂質シルト、火山灰、軽石混じり火山灰、腐食土の互層構成となっているのが特徴である。これに対し、千歳B(ランプ橋付き補強土壁工)の改良対象層は層上部が約3.0m程度の軽石混じり砂があり、その下にシルト質火山灰の2層構成となっている。浅層改良の目的は本線橋台およびランプ橋台付きの補強土壁工の基礎地盤改良である(図-5)。

5.2 泥炭混じり粘土・粘土(宗谷管内)

 路線:宗谷管内 場所:宗谷管内 改良目的:盛土基礎地盤改良 設計基準強度:quck = 200kN/ m2

 現場試験は宗谷管内において実施された。現場は3つの河川によって形成された氾濫源地形部に位置し、氾濫源堆積物(泥炭混じり粘土、粘土)、段丘堆積物(砂礫)で構成されている。浅層改良の目的は盛土の基礎地盤改良である(図-6)。

5.3 粘性土質砂質礫(幌加内)

 路線:一般国道275号 幌加内峠 場所:深川市、幌加内町行政境界(一次改築路線) 改良目的:トンネル坑口地盤改良 設計基準強度:quck = 1,000kN/ m2

 現場試験は一般国道275号の一次改築路線に位置する幌加内峠附近の幌加内トンネル起点側坑口附近で行った。本現場は深川市と幌加内町の行政境界に位置し、カモイルベシュベ川によって形成された扇状地地形と右岸側の山腹斜面からなる。調査地の地盤は腐食土、粘性土質砂質礫および粘土化した蛇紋岩で構成されている。浅層改良の目的は,腐食土、粘性土質砂質礫および粘土化した蛇紋岩が幌加内トンネル起点側坑口に位置するため、トンネル掘削時に地山が不安定になることを懸念し、トンネル坑口部の固化処理を行った(図

-7)。

6.浅層改良地盤のばらつき評価

 浅層改良地盤のばらつきの評価は、次の項目で行う。一つは、浅層改良28日後に採取したボーリングコアから改良体の亀裂度合(RQD)、もう一つは、一軸圧縮強さ(qu)のばらつき(ヒストグラム、強度分布)を評価する。

図-5 地盤改良断面図(千歳A、千歳B)

C:設計粘着力(=1/2・quck)

図-6 地盤改良断面図(盛土断面)

C:設計粘着力(=1/2・quck)

図-7 地盤改良断面図(幌加内トンネル坑口)

C:設計粘着力(=1/2・quck)

寒地土木研究所月報 №641 2006年10月 45

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6.1 採取したコアの亀裂度合い(RQD)

 浅層改良地盤のばらつきを評価する手法として、RQD 値(Rock Quality Designation)を採用した。RQD値は一般的に岩盤の亀裂の度合いを表す指数で、オールコアサンプリングなどで得られた試料から、岩盤の不連続に関する情報を表す。3箇所の現場から採取したコアの観察結果を表-1に示す。各現場から得た RQD値を比較すると差異が認められる。千歳Aの採取深度0~2m、千歳 Bの採取深度5~6m、宗谷管内の採取深度0~1mは相対的に数値が低い。千歳については明確な原因は特定できないが、宗谷管内は施工時期が12月に行われた工事であり、浅層改良工事が終わった後も原地盤に覆土を行っていないことから、低温による影響が考えられる。幌加内では1月~3月に工事が行われたが、浅層改良後に2.0m程度の覆土を行ったため気温の影響を受けず、亀裂が少ない改良地盤を形成したと推測される。

6.2 一軸圧縮強さ(qu)のばらつき

6.2.1 ヒストグラム

 各現場における改良地盤の一軸圧縮強さ(qu)をヒストグラムで整理すると、各現場によってばらつきが生じていることが判る(図-8)。林ら3)は深層混合処理工法(粉体系)の北海道における粘性土を対象とした改良土の変動係数を求めており、泥炭を対象とした改良土の変動係数は Cv=46%、粘性土を対象とした改良土の変動係数は Cv=33%と報告している。これに対し、千歳A・B、宗谷管内における改良土の変動係数は Cv=51 ~ 98%と、粘性土を対象とした深層混合工法と比較してばらつきが大きい。ただし、幌加内の変動係数は Cv=28%であった。また、qu28の発生不良率(設計基準強度を下回る品質)は千歳A(11%)、千歳B(0%)、宗谷管内(52%)、幌加内(9%)であった。統計的手法4)を用いて改良土の品質を評

表-1 採取したコアの観察結果(RQD:%)

採取深度(m) 千歳A 千歳B 宗谷管内 幌加内

0 ~ 1 50 100 29 100

1 ~ 2 65 80 74 98

2 ~ 3 100 90 69 98

3 ~ 4 100 95 78 ‑

4 ~ 5 100 70 84 ‑

5 ~ 6 95 25 ‑ ‑

図-8 一軸圧縮強さ(qu28)のヒストグラム

0

5

10

15

0 002004

006 800

1000 1

002 1400

1600

1800 002

0 0220

2400

のそ

一軸圧縮強さ qu (kN/m2)

度頻

平 均 値    733.0中 央 値   1702.2標準偏差    951.1最  小    211.0最  大   3775.0変動係数    129.8合  計  30989.8標 本 数     17

設計基準強度

quck=180kN/m2

         千歳B  qu28 quck=180kN/m2

0

5

10

15

0 020

400 006 08

010

001

0020041 1

060 0081 2

000

2002 24

00の

一軸圧縮強さ qu (kN/m2)

度頻

設計基準強度

quck=220kN/m2

        千歳A  qu28 quck=220kN/m2

平 均 値    308中 央 値    630標準偏差    411最  小     28最  大   1569変動係数    133合  計  14133標 本 数     21

0

5

10

15

0 002 400 06

0 080

1000

1200

1400

1006 18

002000 0022 2

040 他

のそ

一軸圧縮強さ qu (kN/m2)

度頻

平 均 値    733中 央 値   1702標準偏差    951最  小    211最  大   3775変動係数    130合  計  30990標 本 数     17

設計基準強度

quck=180kN/m2

         千歳B  qu28 quck=180kN/m2

0

5

10

15

0200 004

006008 1

000

1200

1400 0061

00810002 2

020

2040

他の

一軸圧縮強さ qu (kN/m2)

度頻

平 均 値    222中 央 値    188標準偏差    217最  小      8最  大    781変動係数     98合  計   4630標 本 数     21

設計基準強度

quck=200kN/m2

         歌登qu28 quck=200kN/m2

0

5

10

15

0 020

400 06

0800 0001 12

00 0041 1600 81

00 0200 0022 42

00 他の

そ一軸圧縮強さ   (kN/m2)

度頻

平 均 値   1825中 央 値   1880標準偏差    519最  小    692最  大   2916変動係数     28合  計  11863標 本 数     64

設計基準強度

quck=1,000kN/m2

        幌加内qu28 quck=1000kN/m2

(a)

(b)

(c)

(d)

0

5

10

15

0 002004

006 800 01

00 00210041

0610

1008

00020022

0420

その他

一軸圧縮強さ   (kN/m2)

度頻

平 均 値    222中 央 値    188標準偏差    217最  小      8最  大    781変動係数     98合  計   4630標 本 数     21

設計基準強度

quck=200kN/m2

     宗谷管内qu28 quck=200kN/m2(c)

0

5

10

15

0200 4

00 600 008 01

001

0020041

00610081

00020022

0042その他

一軸圧縮強さ   (kN/m2)

度頻

平 均 値   1823中 央 値   1702標準偏差    923最  小    211最  大   3775変動係数     51合  計  30990標 本 数     17

設計基準強度

quck=180kN/m2

         千歳B  qu28 quck=180kN/m2

0

5

10

15

0200

400 006

0080001

0021 1400

1600 0081 2

000 2200

2400

その他

一軸圧縮強さ   (kN/m2)

度頻

設計基準強度

quck=220kN/m2

        千歳A  qu28 quck=220kN/m2

平 均 値    673中 央 値    630標準偏差    401最  小     28最  大   1569変動係数     60合  計  14133標 本 数     21

(b)

(a)qu

qu

qu

qu

価する場合、データの個数が25個以上のサンプル数を有し、発生不良率(設計強度を下回る確率)が15%以下5)であれば、その改良現場は統計的な品質管理基準を満たすという指標がある。幌加内以外は所定のサ

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ンプル数を満たさないため、参考的な評価となるが、各現場から得た変動係数、不良率の値から次のように整理される。ⅰ)千歳A・Bの改良土は、ばらつきが認められるものの不良率が少ない、ⅱ)宗谷管内の改良土はばらつきが大きく不良率が多い、ⅲ)幌加内の改良土はばらつき・不良率ともに少ない、と評価できる。

6.2.2 深度分布

1)火山灰質土地盤(千歳 A・千歳 B)

 千歳Aおよび千歳 Bにおける、深度方向の強度分布を図 - 9に示す。千歳Aは設計基準強度quck=200kN/ m2に対して、qu7、qu28ともに深度方向の各箇所において、設計基準強度を下回る結果が確認されたが、その傾向は一様ではない。一方、千歳Bは qu7で設計基準強度 quck=180kN/ m2を上回っており、深度方向に一様な強度分布が確認された。qu28においては、深度によってばらつきが生じているものの、大幅な強度増加が認められる。

2)泥炭混じり粘土・粘土(宗谷管内)

 盛土下の深度方向の強度分布を図-10に示す。改良地盤のサンプリングは、改良深GL=0~ 5.2mの位置で改良1週間後と4週間後、それぞれ2箇所で行われた。設計基準強度 quck=200kN/ m2に対して、qu7では一部で設計基準強度を上回ってる箇所もあるが、全体的には設計基準強度以下が多い。また、qu28の一軸圧縮強さでは特に深度が浅い箇所において、設計基準強度を大きく下回る結果が多く見られた。これは、施工箇所の12月の気温は、日中でも-10度を下回る日々が続き、最低気温が-23.8度まで冷え込んだこと、

現場では浅層改良工事が終了した後も、施工箇所に覆土を行わなかったため、低温の影響で改良土の強度増加が阻害されたと推測される。

3)粘性土質砂質礫(幌加内)

 幌加内トンネル起点側坑口において浅層改良を行った深度方向の強度分布を図-10に示す。2)同様、qu7および qu28において、各2箇所でトリプルサンプリングを行った。設計基準強度 quck=1,000kN/ m2

に対して、qu7は設計基準強度を下回っているが、qu28はすべてのサンプルの90%以上が設計基準強度を上回った。施工は1月下旬~2月下旬の厳冬期に行われ、施工時の気温は2)と同様に、日中でも-10度を下回る日々が続いた。幌加内の現場においては、浅層改良工事が終了した後に約2mの覆土を行ったため、気温の影響を受けず、強度増加が確保され均一な改良地盤が形成されたと推測される。

6.3 現場強度と室内強度の関係

6.3.1 火山灰質土地盤(千歳 A・千歳 B)

 室内配合試験で得られた一軸圧縮強さ qul と現場で得られた一軸圧縮強さ quf の関係を図-11に示す。千歳Aの室内強度(qul)は、7日材令で qul=300kN/m2、28日材令で qul=510kN/ m2である。一方、現場強度(quf)は7日材令のサンプリングの約90%が設計基準強度を上回っている。また、28日材令ではサンプリングの約85%が設計基準強度を上回っている。千歳 Bの室内強度(qul)は、7日材令で qul=380kN/m2、28日材令で qul=650kN/ m2である。一方、現場強度(quf)は7日材令のサンプリングの約90%が設計基準強度を上回っており、28日材令においてはすべて設計

図-9 改良強度の深度分布(千歳A、千歳B)

図-10 改良強度の深度分布(宗谷管内、幌加内)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 1000 2000 3000 4000

一軸圧縮強さ   (kN/m2)

)m

‑L

G(

度 

0

1

2

3

4

5

6

0 500 1000 1500 2000

一軸圧縮強さ  (kN/m2)

)m

‑L

G(

度 

qu qu

0

1

2

3

4

5

6

0 1000 2000 3000 4000

一軸圧縮強さ  (kN/m2)

)m

‑L

G(

度  深

qu qu

0

1

2

3

4

5

6

0 1000 2000 3000 4000一軸圧縮強さ  (kN/m2)

)m

‑L

G(

度  深

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基準強度を満足している。しかし、千歳Aと千歳Bの強度増加に大きな差異が生じている。この理由として、千歳Aの改良対象層は砂質シルト、火山灰、腐食土など数層の軟弱地盤を改良しているのに対し、千歳Bの改良対象層は軽石混り砂とシルト質火山灰の2層であることから、層構成の違いによって撹拌効率に差が生じたと推測される。

6.3.2 泥炭混じり粘土・粘土(宗谷管内)

 室内配合試験で得られた一軸圧縮強さ qul と現場で得られた一軸圧縮強さ quf の関係を図-12に示す。宗谷管内の室内強度(qul)は、7日材令で qul=335kN/m2、28日材令で qul=538kN/ m2である。一方、現場強度(quf)は28日材令のサンプリングの約50%強が設計基準強度を下回っている。 宗谷管内の地盤と同様な地盤条件で整理されているDMM(スラリー系)の quf とqul の関係は、quf/qul=1/2 ~1の範囲にある傾向6)

が多いが、宗谷管内においては quf/qul <1/2が多い傾向であった。また、宗谷管内の quf(qu28)は千歳

Bの quf(qu28)のような大幅な強度増加が確認されなかった。宗谷管内と千歳 Bの地盤性状は、それぞれ粘土層とシルト質火山灰層の違いはあるが、同じ2層の軟弱地盤層で構成されており、設計基準強度もほぼ同様である。宗谷管内の quf(qu28)の強度発現が小さい理由として、現場強度発現は外気温(低温)に依存すると推測される。冬期の施工にはこの点に十分留意する必要がある。

6.3.3 粘性土質砂質礫(幌加内)

 室内配合試験で得られた一軸圧縮強さ qul と現場で得られた一軸圧縮強さ quf の関係を図-13に示す。幌加内の室内強度(qul)は、7日材令で qul=1,682kN/m2、28日材令で qul=2,587kN/ m2である。現場強度(quf)は28日材令のサンプリングの約90%弱が設計基準強度を上回っている。幌加内の地層は腐食土,粘性土質砂質礫、粘土状蛇紋岩で構成されており、粘性土質砂質

図-11 quf と qul の関係(千歳A、千歳B)

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

0 200 400 600 800

室内強度   (kN/m2)

度強

場現

m/Nk

(2)

σ7

σ28quf/qul=1/2

quf/qul=1quf/qul=2

quck=220kN/m2

  千歳‑A

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

0 200 400 600 800

室内強度   (kN/m2)

 度

強場

現m

/Nk

( 2)

σ7

σ28

quf/qul=1/2

quf/qul=1

quf/qul=2

quck=180kN/m2

  千歳‑B

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

0 200 400 600 800

室内強度   (kN/m2)

度強

場現

m/

Nk(

2)

qu7

qu28quf/qul=1/2

quf/qul=1quf/qul=2

quck=220kN/m2

  千歳‑ A

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

0 200 400 600 800

室内強度   (kN/m2)

 度

強場

現m

/Nk

( 2 )

qu7

qu28

quf/qul=1/2

quf/qul=1

quf/qul=2

quck=180kN/m2

  千歳‑B

quf

quf

qul

qul

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

0 200 400 600 800

室内強度   (kN/m2)

度強

場現

 m

/Nk

(2)

qu7

qu28quf/qul=1/2

quf/qul=1quf/qul=2

quck=200kN/m2

  宗谷管内

quf

qul

図-12 quf と qul の関係(宗谷管内)

図-13 quf と qul の関係(幌加内)

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

0 1000 2000 3000

室内強度   (kN/m2)

 度

強場

現m/

Nk( 2)

qu7qu28quf/qul=1/2quf/qul=1quf/qul=2quck=1000kN/m2

 幌加内

quf

qul

48 寒地土木研究所月報 №641 2006年10月

Page 7: トレンチャー式撹拌工法の改良強度に関する評価thesis.ceri.go.jp/center/doc/geppou/jiban/00160040601.pdf強度)であり、DMMのquck = 1 / 3~1 / 4・qulの関係

礫の粗粒分が平均64.8%(礫分:33.1%)であり、幌加内は6.3.1、6.3.2と比較して粗粒分が卓越している。 トレンチャー式撹拌工法は、軟弱地盤を対象とした工法であるが、トレンチャーが改良対象層をすべて撹拌・混合するために、多量の礫材が原地盤に介在していても、大部分が設計基準強度を満足していることがわかった。これらから、トレンチャー式撹拌工法は、盛土基礎地盤改良や構造物基礎改良といった設計基準強度が比較的低い地盤改良だけでなく、高強度でかつ礫分が卓越した軟弱地盤層に対しても、効果を発揮することがわかった。

7.まとめ

 今回の調査は、トレンチャー式撹拌工法の一軸圧縮強さのばらつき、深度方向の改良強度分布ならびに改良強度の現場強度と室内強度の関係について取りまとめた。その結果、次のような傾向がわかった。・ RQD値と一軸圧縮強さのばらつきに明確な相関は見られない。・一軸圧縮強さのばらつきは大きいが、発生不良率は小さいことから品質は確保されていると考えられる。・改良対象層の浅部において、設計基準強度を下回った要因は外気温の影響と推測され、施工時期、施工後の覆土の有無を十分考慮する必要がある。

・ 現場強度と室内強度の関係は、地層や層構成、施工時期、養生条件によって、強度増加に違いがあることがわかった。

8.おわりに

 道内の3現場を対象に現場改良土の品質評価を行った。一部、発生不良率を評価するにあたってサンプル数が少なく暫定的な評価があることから、今年度も継続して調査を進めていきたい。 今回の現場調査を行うにあたり、札幌開発建設部千歳道路事務所ならびに深川道路事務所などの協力を頂きました。この紙面をお借りしてお礼申し上げます。

【参考文献】

1)パワーブレンダー工法協会:パワーブレンダー工法技術資料【第五版】、2004.4

2)社)地盤工学会:セメント系安定処理土に関するシンポジウム発表論文集 pp. 45 ~ 46、1996.2

3)林宏親、能登繁幸、山崎達哉:深層混合処理工法における改良材投入量と強度、第19回日本道路会議論文集 pp.134 ~ 135、1991.10

4)財)土木研究センター:深層混合処理工法設計・施工マニュアル改訂版 pp.170 ~ 172、2004.3

5)社)地盤工学会:セメント及びセメント系固化材を用いた固化処理土の調査・設計・施工方法と物性評価に関するシンポジウム発表論文集 p79、2005.6

6)財)土木研究センター:深層混合処理工法設計・施工マニュアル改訂版 pp.38 ~ 39、2004.3

西本  聡**

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム上席研究員技術士(建設・総合)

林  宏親***

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム主任研究員博士(工学)技術士(建設・総合)

橋本  聖*

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム研究員

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