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35 全国 ヘモフィリア フォーラム 2015

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      全国  ヘモフィリア   フォーラム     2015

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西田: 基調講演の二題目は、ナダージュ・プラディーヌさんにお願いしております。後ほど、御自身から自己紹介があると思いますので、多くは省きます。今回主催のヘモフィリア友の会全国ネットワークは、来年(2016 年)、WFH の NMO(National Member Organization)認証を受けるべく活動しており、昨年(2014 年)、メルボルンで開かれたWFH の世界大会に多くのメンバーが参加しました。そこで彼女のスピーチを聞き、参加したメンバーは非常に驚きました。それは、彼女自身が我々にとって比較的馴染みの薄い女性の血友病患者であるということ、また、彼女は御自身の仕事をこなしながら、フランスの血友病協会の中で大きな役割を担っておられるからです。私自身も4ヵ月ほど前、バルセロナで開催された血友病の国際会議に出席し、フランスの血友病協会を代表していた彼女と御一緒させていただきました。今日は、御自身の経験に基づいた様々なお話により、我々が今まで気づかなかった多くの事を再確認させていただく良い機会になると楽しみにしております。それではナダージュさん、よろしくお願いします。

全国ヘモフィリアフォーラム 2015

「出血する女性であることを  人として受け止めて -女性患者の思い」

特別講演

ナダージュ・プラディーヌ Nadège Pradines

1990 年生まれ。ふたごの妹であるドロテ(Dorothèe)さんともども、極めて稀な女

性血友病 A の患者(X 染色体の変異により、ナダージュさんは軽症、ドロテさんは重症と診断されている)。二人はフランス血友病協会において、重要な役職に就き、活動している。

はじめに

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ナダージュ: 皆さん、こんにちは。御招待いただいてありがとうございます。日本に来るのは初めてで、本当に誇りに思います。そして今回のフォーラムに参加できたことを光栄に思っております。私のお話しする事を皆さんに御理解いただければと願います。 私は、ナダージュ・プラディーヌと申します。「ナダ」と呼んでいただければと思います。私は 25 歳で、パリに住んでいます。そして、厚生省で統計専門家として勤めています。データが大好きです。また、2009 年からボランティアとしてフランスの血友病協会の理事会で働いており、主に若者の委員会を担当し、国際プログラムの調整を行なっています。 このような活動をしているのは、私自身が血友病患者であるからです。私は血友病Aで、第Ⅷ因子活性は 20%です。フランスでデスモプレシンとトランサミン内服薬を出血時に使用していますが、一度だけ凝固因子製剤の輸注を受けたことがあります。その当時は、デスモプレシンの投与を受けられなかったからです(スライド1)。

 「女性は血友病ではあり得ない」とよく言われますが、決してそんなことはありません。私は双子なのですが、双子の妹は第Ⅷ因子活性が1%以下で、遺伝子組み換え製剤の定期補充療法を受けています。彼女には、男性患者と同じく関節内出血も起こります。ですから、彼女は女性ではありますが、非常に重症の血友病患者ということになります。 私たちは人生を通して、数多くの人たちから誤解を受けてきました。医師でさえ例外ではありません。「必要以上に手厚く扱ってもらいたくて、嘘をついている」と言われたことがあります。これは非常に失礼な言い方だと思います。また、「健康保険を欺こうとしている」と言われたこともあります。フランスでは、総ての血友病患者の医療費が健康保険で 100%賄われます。これには遺伝子検査も含まれていて、血友病患者にかかる費用は完璧に保険で支払われています。ただ、健康保険は5年ごとに申請し直さなければいけません。私たちの場合は、20 年間は非常に上手く行き、総て保険でカバーされてい

スライド1

「女性は血友病ではあり得ない」??

スライド2

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ました。しかしある時、妹が新たに更新しようとしたところ、医師から「いや、あなたは女の子だから重症の血友病はあり得ない。嘘をついて健康保険を欺こうとしているのではないか」と言われました。20 年間問題なかったのに、これは私たちにとって非常にショックでした。 それ以外にも、「フォン・ヴィレブランド病に違いない」と言われたことがあります。つまり、血友病ではなく、止血異常であるということです。それから「一卵性の双生児で二人の因子活性が異なるのはあり得ない」とも言われました。たしかに私たちは、全く同じ遺伝子を持っています。でも、先ほどのクルカルニ先生のお話にもあったライオニゼーションという現象は、人によって起こり方が異なります。たとえ同じ遺伝子であっても、違うのです。ですから、遺伝子は関係ありません。 あと、これは少し奇妙な言われ方ですが、「女性血友病は生存不可能で、思春期には死に至るはずだ」と言われたこともあります。これも、適切に治療を受ければ、他の人以上に出血を起こすことはありません。デスモプレシンやトランサミン、あるいは凝固因子製剤の輸注を受ければ、もちろん生きて行くことが出来ます(スライド2)。

 このように「女性は血友病ではあり得ない」と言われた経験があったので、私たちは非常に孤独でした。ただ、おそらくどこか遠い異国には、私たちと同じ境遇の女性が居るのではないかと思っていました。ですから、「血友病の女性たちを啓発しよう」と思いました。最初は私たちの方が常識外れだったのかもしれませんが、年月をかけて訴えることによって、医師や患者会も、私たちのような女性血友病の話を取り上げてくれるようになりました(スライド3)。 また、患者さん自身も自ら声を上げはじめました。重症の血友病の女性は極めて稀だとしても、軽症の血友病の女性はもっと多くいらっしゃるはずです。私たちは同じ問題で苦悩している女性、血友病患者として認められない問題を抱える数多くの女性とお会いしました。彼女たちと一緒になることで強い力をもらい、もう孤独ではなくなりました。しかし、出血傾向のある女性が当然の存在として受け入れられるまで、まだまだやる事はたくさん残っています(スライド4)。

スライド 3 スライド4

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 先ほど申し上げたように、私と妹は同じ遺伝子を持っています。私たちが子供の頃、血液専門医の先生は妹を「重症血友病」、そして私を「軽症血友病」と診断しました。私たちはその病名に満足していたのですが、2008 年に両親がもっと詳しい情報を与えてくれました。そして遺伝子検査をしたところ、私たちは全く同じ遺伝子を持っていることが判りました。こうして、私たちが子供の頃には判らなかった事が明らかになるにつれて、私たちは自分たちを「重症血友病の症候性保因者」と呼ぶようになりました。少し長くなりますが、こちらのほうが正確だと思ったのです。つまり、私たちは重症血友病の遺伝子を次世代に受け渡すことになるので、それはやはり正確に病名に示そうという意味です。また、「症候性保因者」にまつわる患者会での話にも影響を受けたからでもあります。スライド5に参考文献として示しているのが、私たちの研究に使われた文献です。

 スライド6の写真は、2011 年に行なわれたヨーロッパ血友病協会の止血異常女性に関する会議での写真です。右側が私で、左側が双子の妹・ドロテです。先ほどから申し上げている通り、一卵性双生児ですので非常に似ています。 この会議の後、2012 年に WFH が女性血友病に関する冊子を発行しました。そして、初めてこのような定義が見つかりました。凝固因子活性が低い女性に対する「凝固因子活性が 40%以下の女性は、同じ程度の凝固因子活性の男性と変わることはなく、彼女は血友病である」、「もし凝固因子活性が 40%以上あっても、出血症状がある場合には症候性保因者と呼ばれる」というものです。初めて私たちは、このような用語を学びました。 クルカルニ先生がおっしゃっていたように、血友病の遺伝子を持っている女性の3分の

混乱する女性血友病患者にまつわる用語

スライド 5

スライド 6 スライド 7

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1は凝固因子活性が 60%以下で、40%以下という方もかなり多くおられます。これらの方は、保因者であると同時に血友病患者でもあるということになります。医師や患者がこの事情に関心を寄せているとは聞いたことがありませんでしたが、非常に新鮮な用語だと思いました。ただ、私や妹が抱えている遺伝子を考えた場合、このような用語を使うことには少し戸惑いました。なぜかというと、非常に混乱してしまうと思ったからです(スライド 7)。

 スライド8は、先ほどクルカルニ先生もお示しになったグラフです。赤で示しているのが保因者の数ですが、そのうち第Ⅷ因子活性が 40%以下の女性群は、「保因者」ではなく「女性血友病」と呼ばれるべきです。この方々まで「保因者」と呼んでしまうと、混乱を招くと思います。この方々は実際に出血をしているので、臨床的な観点からも、「保因者」ではなく「血友病患者」ということになります。そして、第Ⅷ因子活性が 40 ~ 60%の女性群は、「症候性保因者」です。

 ここで起こる疑問は、なぜ血友病患者会は、血友病の遺伝子を持っていて凝固因子活性の低い女性を「血友病患者」ではなく「症候性保因者」や「因子活性の低い保因者」と呼ぶのかということです。なぜ「血友病患者」と呼ばないのでしょうか(スライド 9)。 「女性の血友病患者」を認めない人はまだ居ます。これは、今までの歴史や偏見からくる無理解が原因だろうと考えられます。たとえば、家族の中で凝固因子活性が同じように

スライド8

歴史や偏見からくる無理解

スライド9 スライド 10

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低くても、男性ならば血友病患者と認めるけれども、女性の場合は出血が少なければ真っ当な血友病患者とは認めないということが実際にあります。ですから、「兄弟のように大きな出血はしないから、私は血友病ではない」と自分でも認めない人も居ますし、あるいは「兄弟が大変な痛みを経験しているのだから、私は多少の痛みは耐えるべきだ」と考える人も居ます。自分で自分を偏見で固めてしまうのは、不公平だと思います。 また、あるフランスの保因者は、二度目の妊娠時に遺伝カウンセラーからこんな事を言われました。「血友病の子供が欲しくないなら、着床前診断で女の子を選べばいい。女の子ならば血友病のリスクはゼロですから」。でも、実は彼女は最初の出産で双子の女の子を産んでいて、そのうちの一人は重症の血友病なのです。これはジョークではありません。日本に遺伝カウンセリングがあるのかどうかは判らないのですが、フランスでは実際にこのような事が起こっています。たしかに女の子なら、重症の血友病患者が生まれるリスクは低いかもしれません。けれども、決してゼロではないということです(スライド10)。

 「血友病の遺伝子は母親が息子に受け渡す」とよく言われます。そして、血友病は男性に発症し、女性はそれを受け渡す存在だと認識されています。私も昔からそう聞かされていました。しかし、実際には男性の患者も血友病の遺伝子を娘に受け渡します。つまり、男性も血友病を遺伝させる存在であるということです。そして女性の場合も、4分の1から5分の1の保因者は因子活性が 40%以下で、男性と同じように出血症状があります。それにもかかわらず、WFH の用語は、これについては未だ浸透段階です。男性の血友病患者は、自分の娘が小児の頃は問題なくても、思春期以降には、たとえば抜歯や妊娠などの際に出血症状に見舞われるかもしれないということに留意しておかなければいけません

(スライド 11)。 軽症血友病の女性は、軽症血友病の男性患者と同じような出血症状が見られることがあります。私の妹は重症の血友病で、重症血友病の男性患者と同じ出血症状があります。ですから、軽症血友病の女性に対しては、月経や妊娠にのみ対応しておけばいいというものではありません。私は以前、抜歯をした時に大出血を起こしたことがあります。でも、ナースは定まった手順を踏んでくれませんでした。私の頬は出血で膨張してしまい、本当に醜い顔になってしまいました。これは、ただ単に月経や妊娠に関わる産婦人科医だけ

スライド 11 スライド 12

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の問題ではないということです。そして軽症血友病の女性は、女性であるがゆえの問題により、軽症血友病の男性よりも一層深刻な出血にしばしば見舞われることになります(スライド 12)。

 皆さんは日々の経験に基づいて、どのような呼ばれ方をしたいでしょうか。次世代に受け渡す遺伝子に基づく呼ばれ方をしたいでしょうか(スライド 13)。たとえば、救急治療室などで、血友病についてよく知らない医療者が対応する時があると思います。このような時に、どのような用語、病名があなたに適切な治療をもたらすでしょうか(スライド 14)。 仮に「重症血友病の症候性保因者で、凝固因子活性は 20%です」と伝えた場合、

「重症の血友病を遺伝させるかもしれないこと」と「重症の血友病であること」とがどう違うのか、そして、「重症の血友病」と「ただの血友病」とがどう違うのか、出血症状の情報が十分でない時、乏しい時には判らないかもしれません。また、軽症の血友病の場合は、自分が患者であり、自分の病気に名前が付いており、自分の出血症状はその結果として生じているものであるとイメージできる伝え方が望ましいのです。 さらに、遺伝カウンセリングも必要だと思います。自分が重症の血友病の遺伝子を持っていて、それが将来どのような危険性をもたらすのかということについては、挙児希望の際、やはり遺伝カウンセリングが必要になります。病院で自分の身を守るため、私は軽症血友病患者と呼ばれることを好みます。この用語は WFH に承認されています(スライド15)。

本当の問題は「自分が疾患を持っていると知らないこと」

スライド 13 スライド 14

スライド 15

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 フランスにおいても日本においてもそうですが、診断さえ付けば、適切な治療が利用できます。問題は、実は疾患ではありません。自分が疾患を持っていると知らないことが問題なのです。一度自分に疾患があると判れば、もう次には治療があります。そこがいちばん難しく、乗り越えなければならないところです。家族歴を把握し、どのように血友病が遺伝するのかを知り、それを皆さんのきょうだい、いとこ、息子や娘に話をすることが大事です。自然界は予測不能であるという点が重要です。リスクがゼロなんて、あり得ません。重症の血友病患者は、レアかもしれませんが女性にも生まれるのです(スライド 16)。

 血友病の遺伝についてまとめてみます。次頁スライド 17 の左は男性の血友病患者からの遺伝です。お父さんが血友病患者であれば、その娘さんは保因者であり、自らも出血する可能性があります。次頁スライド 17 の右は保因者の女性からの遺伝です。保因者の女性からは、息子ならば2分の1の確率で血友病患者、娘ならば2分の1の確率で保因者になり、自らも出血する可能性があるかもしれません。

 また、血友病患者さんの3分の1には家族歴がないことがポイントです。これは一般的な例ではありません。実は私はこちらのケースに当てはまります。私の両親は、ともに血友病の遺伝子を持っていません。ですから、家族歴がなくても血友病が起こる可能性はあります。もし私の妹が「重症血友病である」と診断を受けていなければ、私自身も血友病とは判りませんでした。もちろん、何か大きな怪我をして大出血をするようなことになれば、そこで判ったかもしれません。 もう一つの例として、父が血友病患者で、母親も出血があり得る保因者という場合です。これも一般的ではないかもしれませんが、実際に起こり得ます。実は、もしかしたら私もこのケースに当てはまることになるかもしれませんでした。過去に私は血友病患者の男性と恋に落ちたことがあるからです。協会で色々な仕事をするうちに、彼に対してだんだんと恋愛感情が生まれてきてしまったのです。でも、最終的に私たちは結婚せず、子供も一緒には作らないという結論を出しました。もちろん、あれこれ考えた上での結論です。たしかに私たちが結婚すれば、子供たちに影響を及ぼしたかもしれません。けれども私たちは、それを選択しませんでした(次頁スライド 18)。

スライド 16

血友病の遺伝

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スライド 17

スライド 18

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 血友病患者会において、男性の問題のみならず女性の問題も全員に関わります。総ての血友病患者に関して、出血傾向を持つ母親、姉妹、叔母、娘が居る可能性があります。あらゆる改善が勝利をもたらします。2012 年の WFH の用語改定は、出血症状のある女性に対するガイドラインですが、まだまだ改善の余地は残されていると思います。たとえば「凝固因子活性が 40%以下であれば血友病患者である」という定義は一つの有用なツールではあるものの、やはり大事なのは、自分にとって重要な問題に声を上げることだと思います。保険のカバーにしても、家族や医師に対しても、皆さん自身の健康のために声を上げることが重要なのです(スライド 19)。

 私自身について言えば、血友病は今や私の誇りです。私の人生は、早くから絶え間ない説明と弁明の連続だったのです。そして、それはもう私の一部になっています。ですから、「血友病によって私の運は尽きた」というよりも、むしろ「血友病によって恵まれた」と思っています。これは私の強みでもあります。そして、これらの様々な活動により、多くの素敵な人たちと知り合えました。今日お会いしている皆さん一人ひとりもそうです。また、自分の事を説明するための「言葉」、相手の言う事への「傾聴」、そして、それらを常に「根気」良く行なっていかなければならないという意味で、私は様々な素晴らしいスキルを得ることができました。そして、それが特別なものだと感じられました。また、日々の生活の中で私は強くなっています。ですから、皆さんもまた、自分の人生のみならず、家族や親類の人生をも際立ったものにしていただきたいと思います(スライド 20)。

立ち上がり、声を上げる

スライド 19

スライド 20 スライド 21

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 出血する女性はあなただけではありません。スライド 21 の写真は、WFH の世界大会で出会った女性たちです。このような大会に参加すると、必ず止血異常の女性に出会い、彼女たちは皆、写真に映っている黄色のリボンを付けています。これは、誇りを意味しているのです。「止血異常のある私を見て下さい。私は、誇りを持ってここに来ています」という意味です。こうして立ち上がり、声を上げて注目を集める。これは本当に素晴らしいことだと言いたいのです。ありがとうございました。

西田: ナダージュさん、どうもありがとうございました。私の方から一つ質問をさせていただきたいと思います。北米やヨーロッパにおいては、女性たちが声を上げている機会が多いと聞きます。残念ながら、日本においてはそういう機会は今までほとんどなかったと思うのですが、そのような女性たちが声を上げる集まりを作っていくためのヒントやアドバイスがあれば教えていただければと思います。

ナダージュ: まずは、女性たちの中から1人か2人のリーダーになれる方を見つければいいのではないでしょうか。女性は、男性に対して自分の症状をあまり話したがらないことが多く、男性と同じような力は出せないかもしれません。でも、非常に強い意志を持って取り組める方をリーダーにしてグループを作り、血友病など止血異常を持つ男性の親戚の女性が居るならば、それらの女性と話をする機会を設けることから始めればいいと思います。十分な認識が進んでいない社会では、これは簡単ではないかもしれません。強力なリーダーを見つけることが必要だと思います。また、自らに出血症状はなくても、このような事柄に関心のある女性を見つけてもいいと思います。 ただ、女性特有の問題については、直接言及しないほうがいいかもしれません。これは非常に個人的な事だからです。ほとんど知らない女性を前に、たとえば「あなたは月経過多ですか?」というような質問をすると、これはおそらく私でも答えないと思います。そんな質問をされれば混乱しますし、「答えたくないな」と感じてしまいます。ですから、最初は「お父様が血友病だとお聞きしましたが、あなた御自身に何らかの止血異常はありますか? 歯を抜いた時の出血はどうですか? 御家族はどうですか?」というような聞き方で、あくまでも出血に関する質問をします。相手を困らせるような質問はしないという配慮も重要です。特に女性にとっては答えやすい、他の女性と一緒でも話がしやすいよう

質疑応答

西田 恭治 氏

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な環境作りが重要だと思います。

大西赤人(むさしのヘモフィリア友の会 副会長): ナダージュさん姉妹は非常に珍しいケースとのことですが、お二人のお父さんやお母さんは、お二人が成長していく過程で、どういう接し方をし、またどのように病気について説明やアドバイスをされたのでしょうか?

ナダージュ: 私たちの両親は、あまりアドバイスはしませんでした。なぜなら、これは私たち家族にとって全く新しい疾患だったからです。私の妹が診断されたのは生後9ヵ月の頃でした。その直後に私も検査をして診断が付きましたので、本当に病気と一緒に成長してきたと言っても過言ではありません。ですから、病気について両親が常に情報を与えてくれていたというわけではありません。 学校では、先生は状況についての心理や安全性のルールを教えてくれて、同級生に向かっては「あまり押してはいけない」とか「あまり暴力的なことをしてはいけない」というようには言ってくれていました。でも、子供は「するな」と言われると、だんだんやりたくなるものだと思います。私の妹は、同級生に押されて壁にぶつかって救急病院に運ばれたことがあります。その子は「本当に死ぬかどうか試したかった」そうなのですが、や

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はり同級生たちとの関係は難しかったです。私たちにとっては、自分たちを管理することよりも、自分たちの周りにいる人たちをどうするのかという問題のほうが大きかったと思います。 いずれにしても、私の両親はあまり過剰にケアをするようなスタンスではなく、でも、それは良かったと思います。なぜなら、私たちはしたい事は何でも自分でするように育てられたと思いますし、通常の人生を送る余地を残してくれたからです。ただ、色々な問題もありました。それは、私たちの症状を知らない周りの人たちについてです。私の妹が、家からかなり離れた公園で遊んでいた時、足首に切り傷を負ってしまいました。慌てて病院へ行ったのですが、血友病患者であることを示すカードを持たずに外へ出ていたので、お医者さんは「こんなの大したことないよ。自然に治るから心配しなくていいよ」と言うわけです。そこで母親は、「この子は血友病患者なので適切な処置をして下さい」と言ったのですが、お医者さんはお医者さんで「自分は医師なんだから、言うことを聞きなさい」という態度を変えず、結局妹は十分な処置が受けられませんでした。そのため、未だに妹の足首にはその時の傷跡が残ってしまっています。 両親の私たちに対する接し方はあまりにも自然過ぎて、私たちが「何か特別な事をしてくれたのだろうか?」とわざわざ考え込んでしまうぐらいです。私の妹は子供の頃、頭をぶつけて脳に損傷が起きないように、ヘルメットを被っていました。私は凝固因子活性が

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20%あるから安全だということで、必要ありませんでした。ですから、私たちは子供の頃からそのような検査を受けていたことを覚えています。

西田: ナダージュさんとクルカルニ先生に共通したメッセージの一つとして、必ずしも遺伝学的な呼称に捉われる必要はないのではないかというお話がありました。実際に私も、保因者の健診をする際には、彼女たちの病名は「血友病」にしています。それによって検査の費用を保険でカバーすることが出来るからですが、このような事は、我々にとって今まで気が付かなかった新たなメッセージだと思います。 先ほどナダージュさんが、自分は凝固因子活性が 20%で、一卵性双生児の姉妹が1%以下だというお話をされた時に、天野先生が少し驚いた表情をされていました。何かコメントがありましたら、お願いします。

天野景裕(東京医科大学病院 臨床検査医学科 医師): 東京医大の天野です。よろしくお願いします。そうですね、たしかに驚きました。ライオニゼーションが人によってそれぞれ違って起こるということは当然知っているのですが、私はライオニゼーションも何らかの遺伝によってコントロールされているのではないかと認識していたので、一卵性双生児の場合はライオニゼーションも同じように起こるだろうと理解していました。ですから、一卵性双生児でライオニゼーションが違い、片方が重症で片方が軽症になるということは、非常に驚きでした。ライオニゼーションがどうレギュレーション(調節、制御)されているのかもまだ明らかになっていないと思いますが、私の理解や認識とは違うのかもしれないと感じました。 用語に関して、女性血友病やシンプトマティック・キャリア(症候性保因者)と呼ぶことに対しては私も反対で、「血友病」ではないかと思っています。そのまま、たとえば「軽症血友病の女性」と呼べばいいと思います。凝固因子活性が 40 ~ 60%の女性をシンプトマティック・キャリア(症候性保因者)と言うべきなのかもよく判りませんが、そういう方たちも「出血症状のある女性」でいいのではないかと思っています。今日の御講演を聞いていて、女性に対しても「血友病である」と考えて対応していくことが、その人個人のケアにはいちばん良いのだろうという気持ちがより強くなりました。

会場: 先ほど保険に関して「詐欺ではないか」と疑われたことがあるというお話がありました。少し細かい事ですが、フランスの保険制度では、血友病であれば血友病の項目だけが保険対象になるのか、それとも血友病以外の疾患についても、100%カバーされるのでしょうか?

ナダージュ: フランスの健康保険制度は非常に整っています。コストの1、2割は私たちが負担しますが、ほとんどの部分は保険がカバーしてくれます。これは、非常に良いシステムだと思っています。フランスでも国民皆保険制度が採られているので、仕事をしていてもしていな

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くても、全ての国民が保険によってカバーされます。ただ、たとえばコストの高い血友病の治療などは、それだけでは十分ではありません。凝固因子製剤のようにコストの高い治療の場合は、仮に 90%を保険がカバーしてくれても、残りの 10%でもまだまだ高額です。ですから国は、「血友病」という診断が付けば、血友病の治療で病院に行った場合には保険が 100%カバーするようにしました。ただ、先ほども申し上げたように、血友病治療にかかるコストを完全にカバーさせるためには、5年ごとに申請し直さなければなりません。フランスでは、高額なコストのかかる難しい病気は、ほぼ 100%保険がカバーしてくれるようになっています。これは就業しているかどうかには関わりません。通常は1、2割の自己負担がありますが、非常にフェアな制度だと思います。

西田: クルカルニ先生は、一週間前にも長時間作用型製剤の小児に対する利用に関しての講演をしておられたので、この新しい製剤について、期待や展望などを述べていただけたらと思います。

クルカルニ: アメリカはバイオジェン・アイデック社やバクスター社が新しい長時間作用型製剤に取り組んでいますが、私はこれについて、男性だけではなく、女性の治療のための臨床試験をぜひやってほしいのです。長時間作用型製剤には、まだ適応症がきちんと出ていませんので、特に少女については、男性とは別で見てほしいと製薬企業に求めています。これからも多くの企業がこの型の製剤を出してくると思いますが、とにかく女性にも臨床試験を行なってほしいと思います。そして、本当に効果があるのか、本当に「長時間作用型製剤」と言えるのかということを確認してほしいと、私は FDA(米国食品医薬品局)に言っています。 どれだけの女性が止血異常で困っているのかをデータで示せば、政府はそれを信じます。アリソン・ストリートさん(元・WFH 副会長)は「一人の血友病患者には、4人の保因者が居る」とおっしゃいましたが、止血に問題を抱えた女性はそれくらい多く存在するわけです。もちろん突然変異などもありますが、データベースにそれら一人ひとりの情報を載せれば、政府はそれを見ざるを得ません。「止血異常の女性をこのまま放っておくと、国にとって大きな経済的損失になる」という事実を、データをもって国に訴えることが大事です。政府にとって目から鱗の情報を出して、「これは本当に目を向けなければならない」、「女性のための治療や治験が必要だ」と思わせなければいけません。

西田: お二人にはこの後の分科会や懇親会にも参加していただく予定ですので、機会を捉えてコミュニケーションを図っていただければと思います。どうもありがとうございました。