4
44 QC サークル No.645 組織の活力を考える時,働 く人たちの動き方,あるいは動く量といった ことも大事なポイントになるのではないでし ょうか。従業員の動きがあまり見られないよ うな組織だったら,職場のエネルギーも高ま らないはず。動きがたとえ闇雲であったり試 行錯誤であったとしても,それがやがて一定 の方向へとまとまって進むようになれば,頼 もしいパワーとなるに違いありません。 そうした面でプレス工業・尾道工場のここ 数年を振り返ると,そこで働く人たちの動き は立場の上も下も問わず,そして手も足も口 も動いているといった感じで,なかなか躍動 的です。 始まりのきっかけは “見える化”からだった 神奈川県川崎市に本社を構えるプレス工業 は,自動車の両輪を結ぶ「アクスル」やフレ ームといった,ごっつい重量級の部品などを 主に扱うグローバルレベルのトップメーカー です。その同社で国内に 5 ヵ所ある工場のう ち,広島県の尾道工場が今回の舞台です。 従業員総数が約 400 人の尾道工場は,自動 車用部品をメインとするプレス工業の中にあ って,少々特異な生産拠点。建設機械の運転 席を覆うキャビン,あるいは完成車(トラッ ク)の組立といった事業が,取扱い製品の大 半を占めるからです。 工場で改革という言葉も思い浮かぶような 展開が始まったのは,2010 年4 月からでした。 組立三課課長の道上さんによるときっかけは “見える化”がキーワードになったとか。 「大手顧客の仕入れ先が集う定期的な勉強 会で,国内の時代の流れもあって見える化が その当時のテーマになりました。そこで我々 の工場でも見える化に目を向けようと,工場 長や各課長,品質管理部門のスタッフをメン バーとした見える化推進会議を毎月 1 回開き, 活動を展開することにしたんです」 ところが,そこから意外にも 3S という活 動が始まることになったと,工場次長で組立 一課課長も兼務する八塚さんはいいます。 尾道工場で生産する主な製品 建設機械用キャビン トラック完成車組立 自動車用アクスルケース 自動車用フレーム 毎月の職場巡視が様々な コミュニケーション 改善意欲引き出し, 工場全体元気こんな工夫で 活性化 しています プレス工業㈱ 尾道工場

こんな工夫で 活性化 しています コミュニケーション改善意欲 ... · ・定置撮影にて,改善前→改善後の状態がわかるように ~「3sモデル職場現状確認シート」に集約

  • Upload
    others

  • View
    9

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: こんな工夫で 活性化 しています コミュニケーション改善意欲 ... · ・定置撮影にて,改善前→改善後の状態がわかるように ~「3sモデル職場現状確認シート」に集約

シ リ ー ズ

44 QCサークル No.645

組織の活力を考える時,働く人たちの動き方,あるいは動く量といったことも大事なポイントになるのではないでしょうか。従業員の動きがあまり見られないような組織だったら,職場のエネルギーも高まらないはず。動きがたとえ闇雲であったり試行錯誤であったとしても,それがやがて一定の方向へとまとまって進むようになれば,頼もしいパワーとなるに違いありません。

そうした面でプレス工業・尾道工場のここ数年を振り返ると,そこで働く人たちの動きは立場の上も下も問わず,そして手も足も口も動いているといった感じで,なかなか躍動的です。

始まりのきっかけは“見える化”からだった

神奈川県川崎市に本社を構えるプレス工業は,自動車の両輪を結ぶ「アクスル」やフレームといった,ごっつい重量級の部品などを主に扱うグローバルレベルのトップメーカーです。その同社で国内に 5 ヵ所ある工場のうち,広島県の尾道工場が今回の舞台です。

従業員総数が約 400 人の尾道工場は,自動車用部品をメインとするプレス工業の中にあって,少々特異な生産拠点。建設機械の運転席を覆うキャビン,あるいは完成車(トラッ

ク)の組立といった事業が,取扱い製品の大半を占めるからです。

工場で改革という言葉も思い浮かぶような展開が始まったのは,2010 年 4 月からでした。組立三課課長の道上さんによるときっかけは

“見える化”がキーワードになったとか。「大手顧客の仕入れ先が集う定期的な勉強

会で,国内の時代の流れもあって見える化がその当時のテーマになりました。そこで我々の工場でも見える化に目を向けようと,工場長や各課長,品質管理部門のスタッフをメンバーとした見える化推進会議を毎月 1 回開き,活動を展開することにしたんです」

ところが,そこから意外にも 3S という活動が始まることになったと,工場次長で組立一課課長も兼務する八塚さんはいいます。

尾道工場で生産する主な製品

建設機械用キャビン

トラック完成車組立

自動車用アクスルケース

自動車用フレーム

毎月の職場巡視が様々なコミュニケーションと改善意欲を引き出し,工場全体を元気に

こんな工夫で活性化しています

プレス工業㈱尾道工場

Page 2: こんな工夫で 活性化 しています コミュニケーション改善意欲 ... · ・定置撮影にて,改善前→改善後の状態がわかるように ~「3sモデル職場現状確認シート」に集約

2015年 4月号 45

「見える化という前に改めて工場内の現場を見直してみると,土台となる整理,整頓,清掃がまだ十分にはできていないことに気づいた。そこで最初は 3S からしっかりやっていこうということにしました」

むろん長い歴史を持つ尾道工場で,3S の取組みがこれまでなかったはずはなし。でも現状としてそれが十分だったのかといえば,

「?」がつく状態。判断を現場任せにしていたため,かなりばらつきや不徹底が目立っていたといいます。そのため管理職の 3S についての勉強会も交えながら活動を進めていったそうです。見える化推進と 3S は,渾然一体の取組みと見てもいいのでしょう。

工場の男の職場でビューティコンテスト!?

「見える化推進会議」という骨太な柱が立ち上がったことで,工場内では多様な動きが起こりました。中でも目立つのは,職場巡視。要職の立場にある管理職や現場リーダーが一緒になって,毎月 1 回いろいろな職場を見て回り,現場でアドバイス。 この巡視自体が,互いの職場のことをよく知る機会であり,学び合いの場にもなっているそうです。

また巡視と聞けば問題点や課題の指摘といったイメージも浮かびますが,八塚さんによればそうでないのが尾道工場らしさのようです。「我々は現場の人たち自身が本当に問題意識を持ち,自分たちで改善につなげていくという姿を目指しています。こうした活動は,

やらされ感が生まれたら続かない。けなしたり批判するのではなく,自主性,自発性を大事にし,いいところを伸ばしていくという方針を大事にしているんですよ」

巡視活動の中から,興味深いしかけとして「モデル職場コンテスト」も生まれました。

これは各職場が改善目標とするラインなり設備などを自分たちで絞り込み,それをエントリー(登録)。文字どおりの 3S から安全対策,作業性向上などと内容は自由で,半年の間にどこまで改善できるかを競い合うわけ

組立三課課長の道みちうえ

上隆たか お

生さん

【活動の始まり:2010/4~】工場全体のレベルアップのため,「見える化」の基盤である“3S”の徹底をまず展開する

整理:いらない物をなくす   身の回りのムダの排除整頓:整理の状態を見えるよう   にして維持しやすくする清掃:きれいな職場と   きれいな気持ちにする

まず,行動し,行動した結果を見ながらステップアップする

ハードへの取組み

仕組みをつくり,3Sが維持できるようにする

清潔:決められたことが守られ   気持ち良い職場を維持

ソフトへの取組み

言われながら実施する

フォローされながら実施する

自主的に実施する

定着させる

躾:日常作業をするうえで守るべ きことが,当たり前にできる

定着させる取組み

S・Q・C・Dすべてにおいての基本を身につける P・D・C・Aの『見える化』展開

見える化推進会議(1/月)

(参加:工場長~課長~品管スタッフ)

・活動方針・展開要領決め・活動活性化(現場がやる気を起こす方策)の提案・工場全体のモラル向上の方策決め・身だしなみ・夏季Tシャツ統一・食堂での作業服着用など・他社事例(MAZDA洋光会)のレビュー

どうやってやる何をやる

モデル職場コンテスト(半期ごと)

(参加:工場長~課長~製造係長・品管スタッフ)

・評価シートによる採点:1位~3位・特別賞:努力が顕著に見受けられる職場

※工場長により『表彰状』,『賞金』を授与 ⇒品質月間朝礼・小集団活動日

達成感を共有する

モデル職場展開(1ライン・エリア以上/半期)

(対象:現場=区長が在籍する全組織を対象)

・モデル選定は,上司よりの指示ではなく区長が自ら申告し た工程/ラインとする・モデル展開するにあたり事前に目指す姿(区長の思い)を 明確にする・定置撮影にて,改善前→改善後の状態がわかるように ~「3Sモデル職場現状確認シート」に集約

全員参加でやらされ感がない活動

モデル職場巡視(1/月)

(参加:工場長~課長~製造係長・品管スタッフ~全区長)

・区長により目指す姿と進捗をレビュー・やり方/状態の良かった点と改善のアドバイスを現地にて 実施~「コミュニケーションシート」に集約*指摘・バッシングは絶対にしない!!!・月次,メンバーのローテーションによる巡視で,各職場の 良い点を参考にし,自職場へ展開

良いことをさらに伸ばす

改善力を身につける

ムリ・ムダ・ムラの排除する

作業者との人間関係を築く

尾道工場で推進する見える化の取組みと3S活動の概要

工場次長の八やつづか

塚孝義さん

こんな工夫で活性化しています

Page 3: こんな工夫で 活性化 しています コミュニケーション改善意欲 ... · ・定置撮影にて,改善前→改善後の状態がわかるように ~「3sモデル職場現状確認シート」に集約

シ リ ー ズ

46 QCサークル No.645

です。最後は所定の評価シートに基づき,審査担当者たちがチェック。採点結果で 1 ~ 3位まで表彰されるほか,顕著な努力があった職場には特別賞も授与されるそうです。職場の美観を高める 3S 活動を踏まえていうなら,工場内のビューティコンテストと表現しても,あながち間違いではないかもしれません。

道上さんは,こういいます。「コンテストはやはりいい刺激をもたらし

たようで,意欲的な職場は上位入賞を目指すし,評価されれば達成感が生まれる。それと見える化推進会議の取組みの成果として,各職場の管理職同士,現場の人同士で話し合ったり相談することがすごく多くなった。それも大きな変化だといえます」

職域間の見えない垣根をシャッフルで乗り越える

見える化推進や 3S は改善活動だといえますが,一方,工場内では小集団活動と呼ぶQC サークル活動も昔から続けてきました。見える化,3S 活動と小集団活動は車の両輪の関係にあり,どちらかに気運の高まりがあれば,もう一方にも相乗効果をもたらすのは当然のことでしょう。2013 年度上期のモデル職場コンテストで 1 位に輝いた組立三課も,そんな効果を感じさせる職場でした。

組立三課が担うのはトラック完成車の組立業務ですが,同課の製造係長を務める白石さんは,以前から気がかりな点があったといい

ます。それは職域間の意識の隔たりといっ た も の。30 名 の従業員が働くこの組立三課の建屋内にはフレーム,シャーシ,トリムという 3 つのラインがありますが,それぞれはかなり異なる業務。従業員同士の交流はほとんどなく,そこには「見えない垣根」が長年あったと白石さんは表現しました。「お互いのラインのことはよく知らず,品

質などで何か不具合が生じれば,他ラインの問題だと考えるような感覚が。それを何とかしたいと思ったんです」

そこで浮かんだのが,シャッフル作戦。小集団活動の間だけシャッフル,つまりメンバーを混在させるわけです。

とはいえ,いきなりメンバーの混ぜ合わせをしたら,戸惑いや混乱を生じるのは必至。では,どうすれば?「まずは各ラインの班長だけ,一時的に移

動させてその職場を実感してもらい,元のラインに戻って現場の人たちに伝えてもらうことに。そうやって事前に多少の情報を知ってからメンバーのシャッフルをしていったので,危惧していた混乱はあまりなく,ライン間の相互理解はずいぶん深まったと思います」

職場ごとに設置している「活動板」で,品質,生産,安全,改善などに関する情報を掲示。見える化や3S活動で生まれた成果であり,職場巡視や朝礼などの際にも大いに活用し,コミュニケーションボードの役割を果たしている

取材の日,組立三課の総勢約30名が勢揃い。シャッフル効果もあって,仲間同士の相互理解はかなり進んでいるようだ

組立三課・製造係長の白石康男さん

Page 4: こんな工夫で 活性化 しています コミュニケーション改善意欲 ... · ・定置撮影にて,改善前→改善後の状態がわかるように ~「3sモデル職場現状確認シート」に集約

2015年 4月号 47

リーダーの率先垂範の動きがやる気を見える化し,チームを牽引 

そんな職場の変化を実感している白石さんの組立三課では,誰もが目を見張る小集団活動の改善事例も登場しているので,合わせて紹介しておきましょう。

サークル名は,エンジン,フレームから名づけた「ENG・F サークル」。注目したい改善の牽引役を果たしたのはリーダーの江原豊喜さんで,テーマは「F3 Assy 機の汚れ撲滅」でした。F3 Assy はフレームに組み付ける足回りの調整機で,昔から赤い塗料のベンガラやオイルによる汚れが常態化。その撲滅をテーマに掲げたわけですが,誰に尋ねても超困難な課題。その改善,解決にあえて挑もうと,江原さんは声をあげたのです。「自分たちのラインは,すぐに作業着も靴

もベンガラやオイルで汚れ,他の人たちも近づこうとしない職場でした。それを誰もが入れる,見てくれる職場に変えたいという一心で取り組みました」

では,誰もが無理だと思うような挑戦に,メンバーの気持ちをどうやって引き寄せるのか─その方策はいたって素朴なもので,率先垂範でした。江原さん自身が一人で黙々と掃除を継続。するとわずかずつでもきれいになり,リーダーの奮闘に誘い込まれるようにチームが変化していったといいます。しかも驚かされるのは,掃除の徹底では終わらなかったこと。自分たちで“芋づる改善”と名づけたように,汚れやオイル漏れの根元的な対策にまで深掘

りを徹底的に重ね,見事撲滅に成功。この改善事例は尾道工場で最優秀の評価を得ただけでなく,プレス工業の全社大会でも感動賞の獲得につながりました。

職場の区長である畑さんは,こう語ります。「自分たちでやった成果

に,自分たちでびっくりしたのではないですか。それほど見事な改善活動で,しかも感心するのは,今も毎週末に掃除を徹底し,維持していること。その姿がほかのラインにも刺激を与え,負けてはならないという気運が育ったんです」

(取材・文,井上邦彦)

「ENG・Fサークル」が改善した現場の一例

区長として組立三課の現場最前線を束ねる畑成

なるひこ

彦さん「ENG・F サークル」リーダーの江原豊

とよき

喜さん

カラーで紹介できないのが残念だが,左は装置周りには赤黒い汚れが広がり,オイル受け皿にはあふれるのを防ぐためウエス(布)を被せている状態。それが今は,見事きれいに

汚れ対策だけでなく,作業のしやすさも大幅改善

こんな工夫で活性化しています