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250 における ナノテクノ ジーを ったバイオ ック 1 .はじめに 域が から っている。 ナノテクノロ ジー、バイオテクノロジー により、 ナノバイオ き学 域が に拡大している。 され マトリックス(ECM)、タ ンパク 、多 DNA )が め、 体・ による いって い。 体を し、 替し、 きかけるこ あり、 体を する ある が多 にわたる ある える。 すために、以 されている した。 による ペプチド/ /核 ハイ ブリッド 体/ポリマーミセル 維/ゲル/フィルム/バルク/ - - レオロジー による /ドラッグデリバリーシステム(DDS田口 哲志、大塚 英典、小林 尚俊 生体材料センター、物質・材料研究機構 これら して、 する医 における たすため し、 、デバイスが されている。 に、 よう した き、異 こるため、 える ってくる。 これら する され いため、 々が いる よび デバイス から する。 2 .国内外の研究動向 2.1 界面制御 ナノテクノロジーに対する まり において る。ナノ 域に まれる して /体 に大きいため、こ よう によって 域に位 しているこ ある。した がってナノ から 握しよう において をバルク えるこ り、 によって じる大き した ってくる。 ECM から シグナルによって する っている一 ECM り変えるこ っている。さらに、 ECM タンパク プロテオ グリカン レセプターによって されている。こ れら ECM しているタンパク 1.生体材料 (3)高分子系生体材料

1.生体材料 (3)高分子系生体材料 - STAM · 高分子系生体材料は、研究領域が基礎研究から応 用研究まで多岐に渡っている。近年のナノテクノロ

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Page 1: 1.生体材料 (3)高分子系生体材料 - STAM · 高分子系生体材料は、研究領域が基礎研究から応 用研究まで多岐に渡っている。近年のナノテクノロ

250

第3部 物質・材料研究における今後の研究動向第4章 ナノテクノロジーを使ったバイオ材料

第4章 ナノテクノロジーを使ったバイオ材料

2006年度物質材料研究アウトルック

1.はじめに

高分子系生体材料は、研究領域が基礎研究から応

用研究まで多岐に渡っている。近年のナノテクノロ

ジー、バイオテクノロジーと高分子材学の技術融合

により、高分子ナノバイオ材料学と称すべき学問領

域が急速に拡大している。生体内には、機能化され

た有機系高分子(細胞外マトリックス(ECM)、タ

ンパク質、多糖類、DNAなど)が構成要素中重要

な位置を占め、生体・機能発現そのものが生体高分

子によるものといって過言ではない。生体材料研究

の本質は、生体を模倣し、生体機能を代替し、生体

に積極的に働きかけることであり、生体を構成する

主要素である高分子系の材料の研究が多岐にわたる

のは必然であると言える。

高分子系生体材料研究の大枠を示すために、以下

に研究の対象とされている分野を記載した。

対象物質による分類

生体内分解吸収性高分子

ペプチド/糖鎖/核酸

合成高分子/天然高分子/合成・天然高分子ハイ

ブリッドなど

材料的分類

粒子/粉体/ポリマーミセル

繊維/ゲル/フィルム/バルク/高分子溶液

有機-無機複合材料/高分子-金属複合材料など

研究の分類

高分子合成/表面改質/加工

機能解析/構造解析

レオロジーなど

応用分野による分類

汎用医療用具関連材料

再生医療用足場材料

薬剤/ドラッグデリバリーシステム(DDS)用材

田口 哲志、大塚 英典、小林 尚俊 生体材料センター、物質・材料研究機構

生化学分析/検査関連材料など

これらの物質・材料・研究・応用分野に関して、

目的とする医療分野における要求特性を満たすため

の科学的な要素技術を研究し、具体的に応用可能な

材料、デバイスが開発されている。特に、生体組織

は材料のような異物と接触したとき、異物認識、免

疫反応、生体内取り込みなどの生体反応が生体組

織-材料間界面で起こるため、生体組織-材料間の

界面現象が材料の生体適合性を考える上で重要な要

素となってくる。

これらの研究開発動向を網羅的に解説するのは情

報が膨大で紙面的にも許されないため、現在我々が

取り組んでいる研究領域の最近の動向を界面制御お

よび高分子系生体材料のデバイス化の観点から記載

する。

2.国内外の研究動向

2.1 界面制御

近年のナノテクノロジーに対する世界的関心の高

まりは高分子系生体材料の分野においても顕著であ

る。ナノの領域に含まれる材料の特徴としては、表

面積/体積の比が極端に大きいため、このような系

では相当数の分子が材料-媒体の界面によって生じ

た不均一な領域に位置していることである。した

がってナノの次元から材料の物性を掌握しようとす

る潮流においては、全系をバルク相内の分子的特質

の総和で考えることは不可能となり、界面領域の分

子によって生じる大きな、時には支配的な影響に着

目した研究が必要となってくる。例えば、細胞は常

に ECMからのシグナルによって環境に関する情報

を受け取っている一方で、細胞はしばしば ECMを

作り変えることも行っている。さらに、細胞と ECM

間の相互作用は細胞表面の糖タンパク質とプロテオ

グリカンのレセプターによって調節されている。こ

れらは ECM中に結合しているタンパク質と相互作

1.生体材料

(3)高分子系生体材料

Page 2: 1.生体材料 (3)高分子系生体材料 - STAM · 高分子系生体材料は、研究領域が基礎研究から応 用研究まで多岐に渡っている。近年のナノテクノロ

用するので、そのマトリックスを空間配置・密度な

ど、ナノスケールで制御した表面によって、デザイ

ンされた機能・構造を有する細胞を誘導することが

盛んに研究されている。

重要な研究例の一つは、種々の微細加工技術を用

い、細胞が付着する基板、その付着面の位置と形状、

細胞周囲の流動場などを、マイクロ・ナノメータの

精度でパターニング・制御した表面によって達成さ

れている。これらのパターン化表面は細胞の付着、

増殖および機能に対しての基本的な決定因子を探る

ために有用である。重要なもう一つの例は、生物学

的な活性を決定する接着性ペプチドの量に関するナ

ノスケール制御である。これは Palecek(1997)に

よって非常に明確に証明された 1)。彼らは少量の接

着分子が細胞遊走を高め、多量の場合には阻害され

ることを示した。さらに彼らはこの効果がレセプ

ターとリガンドとの間の親和性、レセプターの数、

および細胞が移動する際の先端と尾部との間におけ

るレセプターの分極に依存することを明らかとし

た。このように、生体に接触する材料表面のナノ次

元での特徴に関する研究は、近年特に盛んである。

2.2 デバイス化

近年盛んに行われている再生医工学に関連した高

分子系生体材料の開発が行われている。特にこれま

では軟骨・皮膚などの比較的単純な組織を再生する

ための足場材料が研究されてきたが、それらの知見

をもとに臓器をターゲットとした足場材料開発が進

んでいる。臓器再生で最も重要な点は、血管の再生

制御である。血管再生技術には、ゼラチンなどの足

場材料と細胞増殖因子(塩基性繊維芽細胞増殖因

子: bFGFなど)とを組み合わせた研究があり、一

部は倫理委員会で承認されている。

一方、エレクトロスピニング法などの繊維加工技

術、人工ペプチドなどの自己組織化高分子を用いて

ナノ繊維を再生医工学用の足場材料とする研究も行

われている。これらは、細胞周囲に存在し、生体内

のホメオスタシス(恒常性)を維持している ECM

を模倣したものと言える。

また、低侵襲治療を目的としたゲル化材料の研究

も行われている。デバイスとしては、シーラントや

接着剤の用途がある。主なものは、フィブリン系、

生体高分子・ポリアミン-架橋剤系などがあり、架

橋剤には活性エステル化した低分子あるいは高分子

誘導体、ゲニピン、ミセルなどが報告されている。

これらのゲル化材料は、シーラント、接着剤として

だけではなく、DDS用担体としての応用が可能で

あるため、今後の展開が期待される。

3.NIMSにおける研究

3.1 界面制御

3.1.1 スフェロイド形成を促すナノ制御材料の

構築 2-6)

ポリエチレングリコール(PEG)ブラシ表面構築

法の知見に基づき、本格的な細胞スフェロイドパ

ターン培養に取り組んでいる。PEG を親水性ブ

ロックに有する親-疎水型ブロック共重合体のスピ

ンコート法によって基盤表面へのブラシ層の構築を

行い、細胞培養基材として最も適切な機能を示すブ

ロック共重合体の組成を PEG-PLA:Mw=6000-8000

と特定し、ブラシ先端には、細胞機能を制御する適

切なリガンド糖鎖(ラクトース)の導入を行った。

その表面にプラズマエッチング処理を行うことに

よって、ブラシ表面に数十から数百ミクロン程度の

円形パターンを形成し、10000個/ 4 cm2の血管内

皮細胞をフィーダー層とする肝細胞のスフェロイド

培養に成功した(図 1)。円形パターン間の間隔、

ならびにパターンの直径、ブラシ末端のリガンド、

251

第3部 物質・材料研究における今後の研究動向第4章 ナノテクノロジーを使ったバイオ材料

第3部 物質・材料研究における今後の研究動向

2006年度物質材料研究アウトルック

図 1 血管内皮細胞をフィーダー層とする肝細胞スフェロイドアレイの蛍光抗体染色。(a)F-actin 染色、(b)アルブミン染色、(c)微分干渉像、(d)a-c の重ね合わせ

Page 3: 1.生体材料 (3)高分子系生体材料 - STAM · 高分子系生体材料は、研究領域が基礎研究から応 用研究まで多岐に渡っている。近年のナノテクノロ

これらが肝スフェロイドアレイの長期維持に重要な

因子であることが明らかとなった。また、肝特異的

機能としてのアルブミン産生能が 4週間以上にわた

り維持できることも明らかになっている。さらに、

薬物代謝活性機能としてテストステロンを基質に用

いた CYP3Aの反応を見積もった結果、P450活性は

2週間以上にわたって維持された。

現在、P450酵素活性に着目し、肝スフェロイド

アレイの薬物代謝活性を遺伝子レベルで評価し、細

胞センシングとしての有用性を実証している。

3.2 デバイス化

3.2.1 人工角膜材料の開発 7-9)

年間 2万人以上の患者が、角膜移植の対象疾患で

移植治療を待っているが、移植角膜の不足等の問題

で実際に行われている角膜移植は年間約 1600人で

ある。角膜疾患による失明者を救済するため、優れ

た光学的機能を持つ透明な高分子材料に、生体親和

性と組織接着性を付与し、長期間にわたって安全に

機能する、角膜代替材料の開発およびそのデバイス

化の研究を行っている。Type Iコラーゲンをポリビ

ニルアルコール(PVA)ハイドロゲル表面上に共有

結合で固定化する方法を開発し、コラーゲン(COL)

を固定化した PVA- COLハイドロゲルの辺縁部分

に、組織接着性を向上させるためのアパタイト複合

化技術を開発した。処理後も、光学特性を失うこと

なくデバイス辺縁部分のアパタイト複合化に成功し

た。コラーゲンを固定化した PVA- COLハイドロ

ゲル及び PVA- COLとハイドロキシアパタイト

(PVA- COL- HAp)の複合体に関してヒト正常角

膜上皮、鶏卵由来角膜実質様細胞(Chick embryonic

keratocyto like cell)を用いて細胞との相互作用の検

討をおこなった結果、図 2に示すようにコントロー

ルの PVAハイドロゲルに比較して、PVA- COL、

PVA- COL- HAP共に多数の細胞付着が観察さ

れ著しい細胞との親和性の向上が認められた。この

材料を家兎角膜内に移植して短期的な組織反応の検

討を行ったところ、約 3週間、角膜内に安定に存在

することを明らかにしている。

現在、医学系研究機関との共同研究により臨床応

用に向けた基礎的検討を行っている。

3.2.2 医療用接着剤の開発 10-12)

外科手術における創傷部の接合・閉鎖には縫合糸

が用いられているが、患部をより簡便・迅速に閉鎖

するため、数種類の医療用接着剤が使用されている。

その中でもフィブリン系は、最も多く臨床で使用さ

れているが、原料として用いるヒト血液のウイルス

感染の危険性により、規制が厳しくなっている。そ

こで、クエン酸に代表される有機酸のカルボキシル

基にスクシンイミジル基を導入した誘導体(CAD)

を硬化成分とし、生体高分子を硬化成分とする 2成

分系の接着剤を開発した。コラーゲンケーシングを

使用した in vitro 接着強度評価を行ったところ、

CADとコラーゲンから構成される接着剤の強度は、

5分以内に最大強度の 50%に達し、10分でほぼ平

衡に達した。この強度は、市販のフィブリングルー

系接着剤と比較して約 9倍高く、アルデヒド系とほ

ぼ同等の値を示した。図 3には、本接着剤をマウス

皮膚に塗布後 10日目の組織反応を示す。10日目で

はアルデヒド系に強い炎症反応が観察され、本接着

剤を用いた場合には治癒・創部の閉鎖が認められ

た。以上より、有機酸誘導体と生体高分子から構成

される接着剤が高い接着強度と生体親和性を示すこ

とが明らかとなった。

現在、外科領域を中心とした本接着剤の医学応用

を展開している。

4.今後の研究動向

4.1 界面制御

ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合分

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第3部 物質・材料研究における今後の研究動向第4章 ナノテクノロジーを使ったバイオ材料

第4章 ナノテクノロジーを使ったバイオ材料

2006年度物質材料研究アウトルック

図 2 角膜材料へ接着した角膜実質細胞

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野であるため、診断・生化学分析・薬剤スクリーニ

ングなどの用途展開が加速すると予想される。

4.2 デバイス化

安全性の問題でこれまで再生医療用足場材料に使

用されてきたコラーゲンなどの生体高分子は、豚由

来から魚類由来、ペプチド等を含む人工合成物へと

移っていくことが予想される。さらに、低侵襲治療

への応用が可能な生体内の環境下で相転移する材料

は、今後注目されると考えられる。

引用文献

1 )S. P. Palecek: Nature 388(1997)210.

2 )H. Otsuka, et al.: Chembiochem. 5(2004)850.

3 )T. Ishii et al.: J. Photopolym. Sci. Tecnol. 17(2004)95.

4 )Y. Nagasaki et al.: Langmuir 20(2004)6396.

5 )石井武彦ら: Kobunshi Ronbunshu 62(2005)81[in

Japanese].

6 )S. Takae et al.: Biomacromolecules 6(2005)818.

7 )H. Miyashita et al.: J. Biomed. Mater. Res. B Appl.

Biomater. 76(2006)56.

8 )S. Shimmura et al.: Br. J. Optamol. 89(2005)134.

9 )H. Kobayashi et al.: Mater. Sci. Eng. C 24(2004)729.

10)T. Taguchi et al.: Mater. Sci. Eng. C 24(2004)775.

11)H. Saito et al.: Mater. Sci. Eng. C 24(2004)781.

12)H. Aoki et al.: Mater. Sci. Eng. C 24(2004)787.

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第3部 物質・材料研究における今後の研究動向第4章 ナノテクノロジーを使ったバイオ材料

第3部 物質・材料研究における今後の研究動向

2006年度物質材料研究アウトルック

図 3 切開したマウス皮膚へ接着剤適用後の創部(a:アルデヒド系、b:本接着剤)