18
Ⅵ-8. 物流 みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部 217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 Æ 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ ジスティクスという概念は欧米系に比べ必ずしも浸透しておらず、物流は単なる輸送手 段、或いは物流管理に留まり、従って「改善」や「コスト削減」の対象でしかなかった。 Æ 一方、日系物流企業も日系荷主の成長の恩恵の影で、荷主の成長に付いていけさえす れば成長できた時代が続き、主体的な事業戦略やポートフォリオ形成を後回しにしてき た感は否定できない。ここに、良くも悪くも日本的な(ガラパゴス的な)荷主との相互依存 関係と物流企業間での横の分業体制が形成され、日本型高度経済成長を背景に大き な業界再編もないまま各社それぞれが成長してきたといえよう。 Æ 経済全体が成長段階にあり、その原動力が内需或いは輸出型産業であれば、この依存 関係は互いに「強み」として機能するが、内需の成長が止まり、経済のグローバル化が 不可逆的に進行し、荷主・物流企業共に不確実性の高いグローバル競争に直面する環 境下において、物流企業の「点として」或いは「特定荷主依存」のグローバル展開では 荷主の新たなニーズに応えることは困難であり、長年かけて培った荷主との強力な信頼 関係の継続すら危うくなる。 Æ 過去、グローバルロジスティクスの世界において欧米中心に淘汰再編が進んだが、日系 物流企業がその遅れを取り戻すことは容易ではない。しかしながら、これまで日系荷主と の刷り合せで培った高い品質と信頼関係を武器にしつつ、その関係に固執しない自律 的な行動に踏み出せれば、勝機も見出せよう。 Æ 物流産業は荷主依存度が高く、また属地性が強い。多くの物流企業は限られた経営資 源のなかで、「荷主紐付き」「特定地域」といった枠組みの範囲内で目先のリスクを抑え る戦略を取らざるを得ないのも事実である。しかしながら、業界をリードする日系大手に とって欧米大手と伍して戦うためには、アジアをマザーマーケットと捉え、荷主依存型で はない自律的な事業構築や荷主・機能等の柔軟なポートフォリオ形成を目指す時期に きている。やや逆説的ではあるが、従来の荷主に固執しない事業構築(≒現地化)が出 来て始めて日系荷主の新たなニーズに応えることができ、より強固な信頼関係を築ける 可能性が生まれる。日系の大手と中堅・中小は互いにライバル関係にある一方で、質的 に二極化する可能性もある。特に注目されるアジアにおいては、大手がリードする形で プレゼンスを高め、同時に局地的には互いに切磋琢磨することで、日系物流企業全体 のアジアにおける存在感を高めることができるのではないだろうか。 Æ 利用運送事業者はこれまで様々な変化に順応する形で成長を遂げてきた。それはこれ からも不変であるが、現在、或いは今後起きるであろう経営環境の変化に対しては、これ までにない抜本的な変質が必要になるのかもしれない。

217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

  • Upload
    others

  • View
    5

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

217

Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~

【要約】

日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

ジスティクスという概念は欧米系に比べ必ずしも浸透しておらず、物流は単なる輸送手

段、或いは物流管理に留まり、従って「改善」や「コスト削減」の対象でしかなかった。

一方、日系物流企業も日系荷主の成長の恩恵の影で、荷主の成長に付いていけさえす

れば成長できた時代が続き、主体的な事業戦略やポートフォリオ形成を後回しにしてき

た感は否定できない。ここに、良くも悪くも日本的な(ガラパゴス的な)荷主との相互依存

関係と物流企業間での横の分業体制が形成され、日本型高度経済成長を背景に大き

な業界再編もないまま各社それぞれが成長してきたといえよう。

経済全体が成長段階にあり、その原動力が内需或いは輸出型産業であれば、この依存

関係は互いに「強み」として機能するが、内需の成長が止まり、経済のグローバル化が

不可逆的に進行し、荷主・物流企業共に不確実性の高いグローバル競争に直面する環

境下において、物流企業の「点として」或いは「特定荷主依存」のグローバル展開では

荷主の新たなニーズに応えることは困難であり、長年かけて培った荷主との強力な信頼

関係の継続すら危うくなる。

過去、グローバルロジスティクスの世界において欧米中心に淘汰再編が進んだが、日系

物流企業がその遅れを取り戻すことは容易ではない。しかしながら、これまで日系荷主と

の刷り合せで培った高い品質と信頼関係を武器にしつつ、その関係に固執しない自律

的な行動に踏み出せれば、勝機も見出せよう。

物流産業は荷主依存度が高く、また属地性が強い。多くの物流企業は限られた経営資

源のなかで、「荷主紐付き」「特定地域」といった枠組みの範囲内で目先のリスクを抑え

る戦略を取らざるを得ないのも事実である。しかしながら、業界をリードする日系大手に

とって欧米大手と伍して戦うためには、アジアをマザーマーケットと捉え、荷主依存型で

はない自律的な事業構築や荷主・機能等の柔軟なポートフォリオ形成を目指す時期に

きている。やや逆説的ではあるが、従来の荷主に固執しない事業構築(≒現地化)が出

来て始めて日系荷主の新たなニーズに応えることができ、より強固な信頼関係を築ける

可能性が生まれる。日系の大手と中堅・中小は互いにライバル関係にある一方で、質的

に二極化する可能性もある。特に注目されるアジアにおいては、大手がリードする形で

プレゼンスを高め、同時に局地的には互いに切磋琢磨することで、日系物流企業全体

のアジアにおける存在感を高めることができるのではないだろうか。

利用運送事業者はこれまで様々な変化に順応する形で成長を遂げてきた。それはこれ

からも不変であるが、現在、或いは今後起きるであろう経営環境の変化に対しては、これ

までにない抜本的な変質が必要になるのかもしれない。

Page 2: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

218

はじめに

物流産業とは、あらゆる経済活動や国民生活に密着した産業であり、日々世

界津々浦々で事業活動が行われ、その範囲は多岐に及ぶ。本稿では、実際

にモノを運ぶ実輸送プレーヤー(キャリア)ではなく、荷主と直接対面し輸送を

取り扱う利用運送事業者1について、グローバルな視点からその戦略方向性

について論ずる(【図表Ⅵ-8-1】)。

本来、利用運送事業者は荷主企業の物流を担う「縁の下の力持ち」としての

存在であったが、経済がグローバル化し不確実性が増すなかで、荷主と実輸

送との間に立つその存在意義は益々高まる方向性にある。サプライチェーン

が広域化・多様化・複雑化するなか、物流もあらゆる意味で高度化する必要

に迫られている。荷主企業にとって物流戦略は死活問題となっており、グロー

バル企業において物流を重要な経営戦略要素の一つとして位置付けている

企業は少なくない。

当該事業領域は、大小様々なプレーヤーが存在し、競争は激しい。従来から

のフォワーダー2に加え、DHLや FedEx といった航空キャリア系(インテグレーター)、日本郵船といった海上キャリア系、大手荷主の物流子会社等も参入し

ている。一般的には、規模の経済、ネットワーク力が大きく影響を及ぼす特性

を有するが、一方で特定荷主へのオーダーメイド型の物流構築力が勝敗を分

ける特性も有しており、この分野において圧倒的覇者はいない。

本稿では、利用運送事業における、これまでの構造変化と企業変質の変遷を

俯瞰しつつ、今後の起こりうる構造変化とは何か、そのなかで日系物流企業

の生き残り策は何か、について模索したい。

1 利用運送事業者:荷主より貨物を預かり、自社以外の輸送業者の行う運送を利用して貨物の運送を行う事業者。貨物利用運送事業者とも呼ばれる。 2 フォワーダー:一般的には貨物利用運送事業者のうち国際輸送を扱う業者を指す。

一般個人・小規模法人

大企業法人

汎用性

特殊性

航空キャリア航空キャリア フォワーディング事業フォワーディング事業

ロジスティクス事業ロジスティクス事業

参入

海上キャリア海上キャリア

参入

DHL

FedEx

UPS

日本郵船

商船三井

川崎汽船

ヤマトホールディングス

KWE KUEHNE+NAGEL PANALPINA

日新西日本鉄道 郵船ロジスティクス

阪急阪神エクスプレスTOLL

日本通運DB SCHENKER

CEVASGホールディングス

日立物流

山九

対象事業領域

【図表Ⅵ-8-1】 物流の事業領域と主なプレーヤー

(出所)みずほコーポレート銀行産業調査部作成

Page 3: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

219

物流は端的に言えば「モノの流れ」であり、古来より存在する。近代ビジネスに

おいては、その国(地域)の経済発展や国民所得水準といった社会成熟度、

荷主の競争環境、各種インフラの整備状況、政治形態等、様々な社会的要

請により段階的に発展するものであろう。

A地点からB地点に安全・確実に運ぶ単純輸送に始まり、迅速・低廉といった要素が加わる。次に広域化や多品種化、決済機能等が求められるようになり、

関連する荷役・梱包・仕分け・保管といった付帯要素への要求が加わる。

上記初期段階から成熟段階に移行し、経済、或いは荷主がグローバル化しサ

プライチェーンが広域化すれば、企業経営全体に直結する問題として、より一

層のスピードやトレーサビリティ、在庫極小化、品質管理、最適輸送モード(ト

ラック、鉄道、海運、航空)の選択、三国間輸送対応、BCP 対応等が求められるようになり、IT化による高度な情報管理が必要不可欠となろう。

企業経営全体における物流戦略をロジスティクス3というが、この概念はもともと

欧米発祥の考え方である。日系企業におけるロジスティクスに対する経営認

識度は欧米系企業に比べれば依然として低く、経営マターとしては、全体最

適を図る、或いは売上拡大に向けた戦略的手法ではなく、単なる「物流」の枠

組みの中で「改善」や「コスト削減」の対象でしかないケースが多い。

しかしながらあらゆる業種においてグローバル競争に晒される今日、国や地

域を問わず「物流」は益々高度化が求められるであろうし、日系企業の経営戦

略におけるロジスティクスの重要度と経営陣の認識は高まることが予想される。

これは、利用運送事業者、特に 3PL 企業4にとって、その存在価値が高まるこ

とを意味しており、ビジネスチャンスの創出に期待できよう。

3 ロジスティクス:語源は軍事用語における兵站(へいたん)術。必要物資をタイミングよく前線に供給する仕組み。現在では、企業経営における物流戦略全般を指すケースが多い。 4 3PL:(third-party logistics)荷主の物流機能の全体もしくは一部を第三の企業に委託する物流業務形態。

物流の発展段階

【図表Ⅵ-8-2】3PLの定義

荷主企業(1stParty)荷主企業(1stParty)

実輸送企業(キャリア)(2ndParty)

実輸送企業(キャリア)(2ndParty)

3PL(Third Party Logistics )

3PL(Third Party Logistics )

付加価値倉庫サービス(含む、梱包、仕分け、輸配送)

≒主にアセット型3PL

付加価値倉庫サービス(含む、梱包、仕分け、輸配送)

≒主にアセット型3PL

国際物流を含む輸送の効率化

(含む、フォワーディング、通関)

≒主にノンアセット型3PL

国際物流を含む輸送の効率化

(含む、フォワーディング、通関)

≒主にノンアセット型3PL

Global

Regional

Local

Low HightExternal Risk

FMCGFood

FMCGFood

AutoHight Tech

AutoHight Tech

『荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託する新しいサービス』(注1)

『荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託する新しいサービス』(注1)

注1)1997年「物流施策大綱」における3PL定義通商産業省・運輸省・建設省・農林水産省・警察庁

物流高度化・アウトソーシング(選択と集中)

規制緩和・競争環境の激化

(出所)みずほコーポレート銀行産業調査部作成

物流とロジスティ

クス

Page 4: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

220

1.現在に至る産業構造変化の軌跡 ~垣根の低下と 3PL 市場の拡大~

はじめに我が国物流産業の構造変化の軌跡を俯瞰するため、その変遷と現

状について整理したい。広義の物流プレーヤーとしては、陸送(トラック)、倉

庫、3PL、フォワーダー、宅配等様々な事業領域が存在するが、ここでは主に利用運送事業者と密接な関係にある陸送(トラック)と、国際物流を中心とする

フォワーダーについて記載する。

我が国の陸送(トラック)は、高度経済成長期において順調に拡大してきたと

いえる。その後の日本経済の停滞に伴い、国内貨物量は減少傾向が続いて

いる。一方、1990 年の貨物自動車運送事業法(所謂「物流二法」)施行により参入障壁が緩和されたことを機に事業者数は増加の一途を辿っている(【図

表Ⅵ-8-3】左図)。ここに需給ギャップの拡大が生じ、各事業者は厳しい経営環境にあるといえる。

しかしながら陸送は、ドラスティックな企業淘汰や業界再編は起きづらい事業

特性・企業構造を有する。我が国の陸送(トラック)事業者は今や 6万 3,000社を超えるといわれる。荷主と直接契約を結ぶ大手はごく一部にとどまっており、

その大部分は下請け・孫請けと共にピラミッド構造を形成している(【図表Ⅵ

-8-3】右図)。大・中・小、各社とも互いに協力関係を保ちながら事業を形成しており、また参入障壁も低く小規模事業者は存在し続けることから、必ずしも

企業淘汰によって効率化が図れる世界ではなく、この長年続いている企業構

造自体は今後も不変であろう。

日本における利

用運送事業者

【図表Ⅵ-8-3】 我が国における陸送の環境変化と企業構造

中小・零細

中堅

大手

全63,083社(2012年3月末現在)

1,001人以上:52社

51人~1,000人:5,057社

50人以下:57,974社

92%

8%

0.1%

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

1990年(H2)貨物自動車運送事業法施行

正の相関正の相関 負の相関≒需給ギャップ拡大負の相関≒需給ギャップ拡大(百万トン) (社数)

事業者数の推移(右軸)

国内貨物量の推移(左軸)

新規参入規制の緩和

内訳

下請

下請

陸送の環境認識

陸送の事業特性

と企業構造

(出所)総務省統計局、及び国交省HPよりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

(FY)

Page 5: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

221

一方、国際物流の担い手であるフォワーダーもその事業環境は非常に厳しい。

日本発航空貨物は、リーマンショックで激減した後、一定水準にまで回復した

ものの、従前の水準にまでは至っていない。

加えて、円高やアジア各国の経済成長といった所謂「六重苦」を背景とする日

本産業空洞化の影響もあり、その後も徐々に減少し続けているのが現状であ

る(【図表Ⅵ-8-4】)。

上記のような厳しい事業環境のなか、日系物流企業は大手を中心に新しい事

業領域を求める為に、或いは高度化する荷主の要請に応える為に、総合化を

展望するケースが目立ってきている。

従来、国内陸送をメインの事業領域とする物流企業は、フォワーディングとい

った国際物流の取り込みに活路を見出し、一方、従来国際物流をメインに手

掛けてきたフォワーダーは、海外における倉庫事業や陸送、或いは輸送モー

ドの対応力強化(多様化)といった形で総合化を志向している。

各社ともに、新たに参入する事業領域は必ずしも自社のポートフォリオ上、大

きなシェアではないが、自社のなかでドア to ドアの複合一貫輸送ができる体制を整えることで、荷主からのあらゆる要請に対し自社事業として取り込もうと

している。

ドア toドア複合一貫輸送といった荷主側の要請と大手物流企業の総合化は、いずれも物流分野の垣根を低下させる方向に作用する。日本の物流市場に

おいて 3PL という概念の浸透は欧米に比べ遅れてはいるものの、日系物流企業は荷主からの要請に取り漏れることなく応えるために自社内での総合化を

模索しており、特に国際物流を舞台としてその動きは顕著である。

【図表Ⅵ-8-4】 日本発航空混載貨物量の推移

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

06/7 06/12 07/5 07/10 08/3 08/8 09/1 09/6 09/11 10/4 10/9 11/2 11/7 11/12 12/5 12/10

(トン)

△100.0%

△50.0%

0.0%

50.0%

100.0%

150.0%

TC1(米州) TC2(欧州) TC3(アジア)

TC1(前年同月比) TC2(前年同月比) TC3(前年同月比)

六重苦Lehman Shock

フォワーダーの環

境認識

日系物流企業が

目指す総合化

垣 根 の 低 下 と

3PLの拡大

(出所)CARGO よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

Page 6: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

222

但し、ここで注視すべきは、その荷主ポートフォリオである。大手日系物流企

業は早くから国際展開を果たしているが、主要な荷主は殆どが日系企業であ

り、その構造自体は今も殆ど変わらない。これは、日系物流企業が日系荷主

の要請に愚直に応えることで信頼関係を構築した証左でもあり、その舞台が

海外であっても変わらない関係を維持継続できることは、日系物流企業の最

大の強みに他ならない。

しかしながら別角度からみれば、本質的には海外の成長を取り込めていない、

ともいえるかもしれない。ドイツやオーストラリアにおいて国を代表する物流企

業は自国の GDP 成長よりも遥かに大きな成長率を刻んでいる(【図表Ⅵ-8-5】)。一方で実際に地場物流企業などからは、日系物流企業は日系荷主しか扱わない(日系荷主は日系物流企業しか起用しない)、といった意見をよ

く耳にする。海外では閉ざされたネットワークを形成しているといえる。

現在に至る変化の軌跡は各企業によって違いが多く、そのプロセスや時期は

各社各様ではあるものの、敢えて総論として言えば、日系物流企業は日本経

済の高度成長を背景として、日系荷主の要請に応える形で成長してきた。

発祥とする事業領域はそれぞれ別々であっても、日系荷主との信頼関係の維

持が最大の生き残り策であり、故に変質する荷主の行動や要請に対して、自

らも「総合化≒3PL 化」という形で変質し対応してきたといえよう。言い換えれば、自力ではなく他力によって変質してきた。

このような構造変化の軌跡を経て、我が国には大きな(グローバルベースでは

中規模レベルの)3PL 企業が多く存在する。他力で変質することで総合化(3PL 化)した各社は、各々の荷主紐付きで海外展開を図り、またその強化を展望している(【図表Ⅵ-8-6】)。

しかしながら頼みの綱である日系荷主の海外事業は、質・量共に変化し続け

ている(後述)。日系物流企業はその新たな変化のなかで従来同様「他力」に

よる変質の延長線上で対応していけるのだろうか。また、欧米系物流企業や

地場物流企業との対峙のなかで、伍して戦っていけるのであろうか。

0

100

200

300

400

500

600

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

日本GDP推移(左軸) 日本通運(右軸)

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

独GDP推移(左軸) DHL(右軸)

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

豪GDP推移(左軸) TOLL(右軸)

(億円)(兆円) (Mユーロ)(10億ユーロ) (10億AUD)

CAGR:0.6%

CAGR:△0.4%

CAGR:1.4%

CAGR:9.0%

CAGR:3.3%

CAGR:26.4%

日本通運 DHL TOLL

【図表Ⅵ-8-5】 各国の GDP 成長と主要物流企業の売上高成長比較

日系物流企業の

最大の強みと課

現在に至る産業

構造変化の軌跡

(出所)ロイターよりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

Page 7: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

223

次章以降、今後想定される物流企業としての競争力要素の変化を整理したう

えで、日系物流企業が直面するリスクと生き残りをかけた取るべき戦略につい

て述べたい。

2.今後想定される産業構造変化の予兆 ~アジアの物流市場はどう変わるのか?~

我が国は戦後の高度経済成長のなかで、貿易立国として発展を遂げてきた。

原材料を輸入し完成品を輸出するビジネスモデルにおいて、国際物流の役

割は、主に日本と消費大国を繋ぐ「点」としての機能が求められた。その後、

生産コスト削減の動機から製造拠点をアジア等にシフトする段階においては、

工場移転に関連する大型貨物輸送の需要が発生した。

このような海外ネットワークや大型貨物に対応できる物流企業は限定的であり、

機能を有する限られた日系物流企業が対応し、海外拠点を増加させた。結果

として資金的、或いは人的リソースのある比較的大手の日系物流企業が、日

系荷主の要請に応える形で徐々に海外拠点を拡充し機能を強化していった

プロセスであり、海外については大手の専売特許的な構造となった。

その後、経済のグローバル化が進行し、あらゆる日系荷主が製造拠点或いは

販売拠点として海外展開する過程において、日本で取引実績のある気心の

知れた日系物流企業へ海外でのサポートを要請するケースが増加した。

海外における現地輸送や保管の要請を受けた中堅日系物流企業は、海外事

業経験やリソースに欠けるものの、少なくとも当該荷主の日本における貨物を

死守する(或いは信頼関係維持のため)という動機により、赤字覚悟で進出す

るケースも散見された。

【図表Ⅵ-8-6】 現在に至る産業構造変化の軌跡

過去 現在 未来

陸運

海運空運

倉庫 フォワーダー

欧米大手

地場

日系荷主 日系荷主日系荷主 日系荷主

経済成長 外資系荷主

陸運(倉庫)(フォワーダー)

海運(フォワーダー)(ロジ)

空運(フォワーダー)

倉庫(陸送)(フォワーダー)

フォワーダー(陸送)(倉庫)

3PL化

3PL化3PL化

3PL化 3PL化

地場 地場

3PL

3PL3PL

3PL 3PL

日系荷主の成長 ⇒ 物流企業の成長 ⇒ 荷主との強固な関係日系荷主の成長 ⇒ 物流企業の成長 ⇒ 荷主との強固な関係

荷主との強固な関係 ⇒ 各々で3PL化 ⇒ 各々で海外展開荷主との強固な関係 ⇒ 各々で3PL化 ⇒ 各々で海外展開

荷主企業の成長鈍化

経済のグローバル化 経済統合・自由貿易内需+輸出

今後、どう変わるのか?

大手企業の海外

進出

中堅企業の海外

進出

(出所)みずほコーポレート銀行産業調査部作成

Page 8: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

224

現在は、あらゆる規模・分野の日系物流企業が海外進出を果たしており、乱

立の状態といえる(【図表Ⅵ-8-7】)。その多くは、日本での特定荷主の要請に応えるものであり、それぞれが身の丈を超えた多大なリスクを抱えながら、進

出している例も少なくないのが実態であろう。

これまでの日系荷主のサプライチェーンが、「日本国内」或いは「日本と海外」

という関係から、「アジア域内」或いは「アジアと世界」という関係にシフトするな

かで、「物流」も大きく変化する。あらゆる産業の経済活動がグローバル化・多

様化しているが、代表的な事例としてトヨタ自動車とイオンを取り上げたい。前

者は耐久消費財メーカーの代表企業として、後者は一般消費財小売の代表

企業として、その動きと物流の変化における特徴を俯瞰したい。

トヨタ自動車は、特に物流に強い企業といえよう。自動車 1台の部品数が 2万~3万点と言われるなか、カンバン方式や JIT5といった物流戦略で他を凌駕し、

経営陣のロジスティクスに対する意識も高い。これまでもグローバルでの適地

生産・適地販売をより効率的に運営するために様々な工夫や「カイゼン」が取

られてきており、グローバルロジスティクスの先進企業といえるであろう。

このようなトヨタ自動車も更なる発展を展望している。世界戦略車である IMV6

において、部品の現地調達率の向上と世界生産体制・世界販売戦略を発表

しており、グローバルベースでのロジスティクス戦略の更なる発展、高度化が

窺える(【図表Ⅵ-8-8】)。

5 JIT(Just In Time):「必要なものを必要な時に必要な量だけ生産する」システム 6 IMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle):2002年に発表された新興国市場をターゲットとしたトヨタ自動車の世界戦略車プロジェクト。全世界の新興国市場をカバーする最適生産及び供給体制を構築。

【事例 1】 トヨタ自動車

(件)(件)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1963196719711975197919831987199119951999200320072011

現地法人

駐在員事務所

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1962~

1970~

1980~

1990~

2000~

2010~

アジア

欧州

北米

その他

【図表Ⅵ-8-7】 我が国フォワーダーの海外拠点数と年代別推移(累計)

(出所)一般財団法人国際フレイトフォワーダーズ協会「我が国フォワーダーの海外進出状況、

外国フォワーダーの日本進出状況」よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

現在は乱立状態

日系荷主の変化

(FY) (FY)

Page 9: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

225

また、自動車完成車メーカー各社の問題認識として、タイ洪水時に発生した

グローバルサプライチェーンの分断の教訓は大きく、BCP 対応を含めたグローバルベースでのロジスティクス体制の整備を本格検討している。

また小売の代表企業であるイオンは、先般、アジアでの事業拡大を発表して

いる7。物流面として注目すべきは、買収による事業拡大であり、店舗数が急

増する点である。

今後、あらゆる経営改善がなされることが予想されるなか、商品品揃えのため

のディストリビューションセンター機能、仕分け、梱包、検針検品、といった物

流面での体制変更に着手することは想像に難くない。

上記、トヨタ自動車とイオンのケースは産業特性や事業環境等、状況は全く異

なるものであるが、両者の共通点は全体最適の物流(ロジスティクス)の高度

化が必要な点である。前者はグローバルベースのサプライチェーン体制の構

築であり、後者は特定地域における多店舗展開であるが、いずれにしても高

度な物流体制を整える必要があろう(【図表Ⅵ-8-9】)。

限定された国内での部品物流や、少数店舗への配送等、全体最適を図る必

要が比較的少ない段階においては、物流に求める条件は単純な輸送機能で

あり、対応可能なプレーヤーは多数存在するであろう。

しかしながら、今後は上記事例のように、全体的な最適ロジスティクスを構築

する必要が有り、これに対応できる物流企業は多くは存在しない。

このような荷主の変化に対し、パートナーとしてのポジションを獲得できた物流

企業は、元請けとして確たるポジションを得られるであろうし、それ以外の企業

7 2013年 2月 8日付日経流通新聞の第一面に掲載されている。

インドネシア

タイ

生産国

75%

81%

自国内調達

94%13%

計自国・日本以外からの調達

95%20%インドネシア

タイ

生産国

75%

81%

自国内調達

94%13%

計自国・日本以外からの調達

95%20%

100%に向けた取り組み継続

現地調達率(IMVの例)

為替変動リスク為替変動リスク

効率的な生産体制

効率的な生産体制

輸送コストリードタイム

輸送コストリードタイム

輸送リスク輸送リスク

BCP対応BCP対応

グローバル販売体制

グローバル販売体制

JITシステムJITシステム

アジアアジア

オセアニアオセアニア

アフリカアフリカ

中近東中近東

中南米中南米

欧州欧州

バックアップ供給

メイン供給

アジアアジア

オセアニアオセアニア

アフリカアフリカ

中近東中近東

中南米中南米

欧州欧州

バックアップ供給

メイン供給

【事例 2】 イオン

求められる物流

の変化と二極化

【図表Ⅵ-8-8】 トヨタのグローバル生産体制

(出所)トヨタ自動車HPよりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

Page 10: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

226

は下請けに回らざるを得ず、多大な開きが生じる可能性がある。グローバルで、

或いは特定地域において、物流企業は荷主のパートナーに選ばれるか否か

で、二極化が進む可能性が想定される。

つまり、日本国内において現実性が低い業界再編が、海外については進む

可能性が有り得るのではないだろうか。

3.競争環境とリスクシナリオ ~欧米勢の戦略と日系のリスク要因~

上述の通り、荷主の物流企業に対するニーズが変化するなかで、物流企業は

大きく二極化することが想定される。大手については、既に構築したグローバ

ルネットワークを活かしグローバルベースでの荷主の SCMにパートナーとしてのポジションを確保することが重要となるが、世界には当該分野における競合

大手が多く存在する。日本の大手といえども、対欧米との比較においては必

ずしも優位なポジションではない(【図表Ⅵ-8-10】)。

世界大手の顔ぶれは、その発祥や環境によって異なる。欧州はドイツ・スイス・

フランス・オランダ勢が上位にランクインするが、多くがフォワーダーである。

1993 年の EU 発足以来、各種の規制が撤廃されるなか、域内におけるフォワーダーの存在意義に危機感もあったが、自由度拡大によって総合化を進め、

逆にその存在感を高める結果となった。

一方、米州勢も数多くが上位にランクインするがその殆どは陸送企業である。

米国という広大且つ単一市場の中、各種自由化の流れを受けて、ロジスティク

世界の物流企業

世界大手の特徴

【図表Ⅵ-8-9】 国際物流における荷主の潮流変化

現在

今後

従来

現在

今後

従来

海外市場への進出

(少数店舗)

アジア(日本)発輸出

産業系

多店舗展開

商品品揃え

適地生産適地販売

(緊急対応)

地産地消

荷主の戦略 アジア日本

消費財系

欧米業種

現在

今後

従来

現在

今後

従来

海外市場への進出

(少数店舗)

アジア(日本)発輸出

産業系

多店舗展開

商品品揃え

適地生産適地販売

(緊急対応)

地産地消

荷主の戦略 アジア日本

消費財系

欧米業種

生産地 販売地

DC

メーカー

メーカー

メーカー

直送

メーカー

メーカー

メーカー

物流パートナーの

必要性

物流パートナーの

必要性

多くの物流企業が

対応可能

多くの物流企業が

対応可能

(出所)みずほコーポレート銀行産業調査部作成

Page 11: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

227

スがその概念も含め早期に確立され、業界再編も進んだ結果、国内陸送企業

のプレゼンスが高い。

また、日本企業は輸出型経済発展を担った海運系企業や日本の商習慣や地

理的条件より独自の成長を遂げた宅配企業大手 2 社もランクインしており、その特徴が窺える。

上記のとおり世界には大手物流企業が存在するが、その巨大化・総合化のプ

ロセスは欧米と日本では大きく異なる。欧米勢は、今後発生する新たな需要

や事業領域に対して早期に参入することを重要視しており、その参入手法は

企業買収が目立つ。物流需要が高い国・地域・分野のマーケットをいち早く押

さえるという意図が窺え、経営陣はそのマネジメントに注力している。

一方、日本企業の総合化のプロセスは、それとは対照的に「自前育成」或い

はソフトなビジネスアライアンスによる連携である。特定荷主との関係が強く、

経営目線も「主要荷主の要請に応えること」が第一の目的であり、アライアンス

という形態で対応することになる。良く言えば「顧客重視」であるが、見方を変

えれば、特定荷主次第でその場凌ぎ的な対応、と取れなくもない。少なくとも

中長期的な展望に立脚した主体性を持った戦略的行動とは言い難い。

総合化へのプロセスの違いはそれぞれに一長一短があり、一概に「どちらが

正しい」という性質のものではないが、日増しに貿易の自由化が進行し国際輸

送の垣根が下がり、ボーダレスでのドア to ドアの一貫物流、或いは全体のSCM管理の重要性が増す中で、グローバル荷主と対峙し 3PLパートナーとなり得るためには、日系の取ってきたプロセスでは不利となるケースが多いので

はないだろうか(【図表Ⅵ-8-11】)。

物流企業総合化

へのプロセス差

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000

DHL

UPS

FEDEX

A.P.MOLLER-MAERSK

DB.SCHENKER

MEDITERRANEAN SHIPPING CO.

KUEHNE+NAGEL

NYK GROUP

UNION PACIFIC

BURLINGTON NORTHERN SANTE FE

MITSUI O.S.K LINES

CMA CGM

YAMATO HOLDINGS

SNCF GEODIS

CHINA COSCO HOLDINGS

K LINE

CSX

BOLLORE

NORFOLK SOUTHERN

NIPPON EXPRESS

SG HOLDINGS

TNT

CEVA LOGISTICS

NEPTUNE ORIENT LINES

CANADIAN NATIONAL

0 10,000 20,000

C.H.ROBINSON WORLDWIDE

TOLL HOLDINGS

HAPAG LLOYD

HANJIN SHIPPING

DSV

PANALPINA

DPD/GEOPOST

SINOTRANS

HYUNDAI MERCHANT MARINE

HAMBURG SUD

HITACHI TRANSPORT

EXPEDITORS INTERNATIONAL

ORIENT OVERSEAS INTL

DACHSER

CON-WAY

GEFCO

CANADIAN PACIFIC

CSAV GROUP

NORSERT DENTRESSANGLE

UTI WORLDWIDE

YRC WORLDWIDE

J.B.HUNT

AGILITY

CHINA SHIPPING CONTAINER LINES

RHENUS

RailUSA

OceanJapan

3PLSwitzerland

OceanSwitzerland

3PLGermany

OceanDenmark

ParcelUSA

ParcelUSA

3PLGermany

OceanFrance

OceanJapan

RailUSA

OceanChina

3PLFrance

ParcelJapan

3PLFrance

RailUSA

OceanJapan

ParcelJapan

3PLJapan

RailUSA

RailCanada

OceanSingapore

3PLNetherlands

ParcelNetherlands

RailUSA

OceanJapan

3PLSwitzerland

OceanSwitzerland

3PLGermany

OceanDenmark

ParcelUSA

ParcelUSA

3PLGermany

OceanFrance

OceanJapan

RailUSA

OceanChina

3PLFrance

ParcelJapan

3PLFrance

RailUSA

OceanJapan

ParcelJapan

3PLJapan

RailUSA

RailCanada

OceanSingapore

3PLNetherlands

ParcelNetherlands

OceanChina

3PLFrance

3PLUSA

OceanSouth Korea

3PLChina

ParcelFrance

3PLSwitzerland

3PLDenmark

OceanSouth Korea

OceanGermany

3PLAustralia

3PLUSA

OceanChina

3PLJapan

OceanGermany

3PLFrance

TruckingUSA

3PLGermany

3PLUSA

OceanChile

RailCanada

3PLKuwait

TruckingUSA

TruckingUSA

3PLGermany

OceanChina

3PLFrance

3PLUSA

OceanSouth Korea

3PLChina

ParcelFrance

3PLSwitzerland

3PLDenmark

OceanSouth Korea

OceanGermany

3PLAustralia

3PLUSA

OceanChina

3PLJapan

OceanGermany

3PLFrance

TruckingUSA

3PLGermany

3PLUSA

OceanChile

RailCanada

3PLKuwait

TruckingUSA

TruckingUSA

3PLGermany

1位~25位 26位~50位(M$) (M$)

【図表Ⅵ-8-10】 世界のロジスティクス企業 TOP50

(出所)THE JOURNAL OF COMMERCE よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

Page 12: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

228

欧州を代表する伝統的フォワーダーもその総合化戦略の中で、明暗も分かれ

ている。スイスを地盤とする大手 2社(Kuehne+Nagel、Panalpina)の業績推移は以下の通りである(【図表Ⅵ-8-12】)。

この2社は2000年当初、売上高も営業利益もほぼ同水準であったが、足許では大きく乖離している。その要因として、Kuehne+NagelによるACRロジスティクス(ドイツ)の買収が挙げられる。特に環境変化の激しい近年において営業

利益率が安定的に推移しており、企業買収による総合化、ポートフォリオ戦略

に成功しているといえ、日系企業の参考にもなる事例ではないだろうか。

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

Panalpina売上高(左軸) Kuehne-Nagel売上高(左軸)

Panalpina営業利益(右軸) Kuehne-Nagel営業利益(右軸)

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

4.0%

5.0%

Panalpina総資産(左軸) Kuehne-Nagel総資産(左軸)

Panalpina営業利益率(右軸) Kuehne-Nagel営業利益率(右軸)

独ACRロジスティクス買収独ACRロジスティクス買収

(MUS$) (MUS$)

KUEHNE+NAGEL

PANALPINA PANALPINA

KUEHNE+NAGEL

欧州フォワーダー

の総合化戦略

フォワーダー総合物流

2005

2006

2007

2008

2001

2000

2003

2002

2009

2004

KWE日本通運

フォワーダー総合物流

2005

2006

2007

2008

2001

2000

2003

2002

2009

2004

KWE日本通運

ACR買収オーバナイト

買収エクセル買収2005

セムコープ買収2006

2007

バルトランス

買収

ポーラーエアカーゴ

資本参加2008

USCO買収フリッツ買収2001

タンザス買収2000

Pracht買収2003

DHL買収2002

フットワーク買収アロン買収2009

NetherCargo買収メンロー買収2004

TollK+NUPSドイツポスト

フォワーダーインテグレーター

ACR買収オーバナイト

買収エクセル買収2005

セムコープ買収2006

2007

バルトランス

買収

ポーラーエアカーゴ

資本参加2008

USCO買収フリッツ買収2001

タンザス買収2000

Pracht買収2003

DHL買収2002

フットワーク買収アロン買収2009

NetherCargo買収メンロー買収2004

TollK+NUPSドイツポスト

フォワーダーインテグレーター

経営目線・動機経営目線・動機

スピードスピード

イシューイシュー

既存荷主の要請に応える既存荷主の要請に応える

遅い遅い

人材育成・教育人材育成・教育

物流マーケットを押さえる(荷主・機能・地域)物流マーケットを押さえる(荷主・機能・地域)

早い早い

マネジメントマネジメント

手法手法 オーガニック or アライアンスオーガニック or アライアンス 買収買収

オーガニック成長

日-日ビジネスアラアンス

(物流子会社の買収)

【図表Ⅵ-8-11】 日系企業と欧米企業の総合化プロセス差異

【図表Ⅵ-8-12】 欧州フォワーダーの総合化事例

(出所)各社公表資料よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

(出所)ロイターよりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

(CY) (CY)

Page 13: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

229

上記のような巨大化・総合化を果たし、グローバルベースでプレゼンスを高め

ている欧米勢と如何に戦っていけばいいのであろうか。ポイントとなるのはアジ

ア市場であろう。

世界のモノの動きを俯瞰すれば、アジアでの動きが最も大きく魅力的な市場と

いえる。このアジア市場は多くの国が集まっており外形的には欧州型といえる。

今後、各種の経済連携が提唱・交渉されるなか、人口・GDP・貿易額も他経済圏を凌駕し、且つ成長が期待できるマーケットである(【図表Ⅵ-8-13】)。

加えて、このアジア市場は物流という面においては全体的に後進地域でもあ

り、地場物流企業も大手不在の状況である。今後の更なる可能性が見込まれ

るなか、欧州系の大手物流企業はこのアジア市場のポートフォリオを着実に

広げつつある(【図表Ⅵ-8-14】)。

魅力的なアジア

市場の可能性

【図表Ⅵ-8-13】 注目されるアジア市場とその特徴

主戦場

人口34億人(世界の半分)GDP20兆ドル(世界の3割)

貿易総額10兆ドル(世界の3割)

複数国

東アジア地域包括的経済連携(RCEP:16カ国)(2011年提唱~2015年交渉完了目処)

複数国

アジア

物流企業

経済市場

単一市場単一市場欧州連合(EU:27カ国)

(1993年~)経済圏

日系多国籍多国籍主な荷主

人口1.2億人GDP6兆ドル

貿易総額1.5兆ドル

人口3億人GDP15兆ドル貿易総額3兆ドル

人口5億人GDP17兆ドル

貿易総額3.6兆ドル経済規模

主に日本主に米州主に欧州主な事業エリア

海運・宅配

(キャリア系)

鉄道・トラック

(キャリア系)フォワーダー系3PLプレゼンスの高い

物流企業

単一単一複数国市場形態

日本USA西欧項目

人口34億人(世界の半分)GDP20兆ドル(世界の3割)

貿易総額10兆ドル(世界の3割)

複数国

東アジア地域包括的経済連携(RCEP:16カ国)(2011年提唱~2015年交渉完了目処)

複数国

アジア

物流企業

経済市場

単一市場単一市場欧州連合(EU:27カ国)

(1993年~)経済圏

日系多国籍多国籍主な荷主

人口1.2億人GDP6兆ドル

貿易総額1.5兆ドル

人口3億人GDP15兆ドル貿易総額3兆ドル

人口5億人GDP17兆ドル

貿易総額3.6兆ドル経済規模

主に日本主に米州主に欧州主な事業エリア

海運・宅配

(キャリア系)

鉄道・トラック

(キャリア系)フォワーダー系3PLプレゼンスの高い

物流企業

単一単一複数国市場形態

日本USA西欧項目

大手不在

フォワーダー系3PLのプレゼンスが高まる可能性

(出所)外務省HPよりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

Page 14: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

230

魅力的なアジア市場であるが、故に欧米系物流企業も注目、参入してきてお

り、競争環境は厳しい。日系物流企業もアジアにおけるプレゼンス向上を目

指し積極的に取組んではいるが、日系荷主紐付きが多いのが実態であろう。

更なる売上拡大を目指すべく「日系荷主以外の貨物取扱量の増加」を展望す

る日系物流企業も多いが、規模に勝る欧米系、現地に根ざした地場系との間

で、日系荷主以外の貨物は容易には獲得できない。むしろこれまで扱ってき

た日系荷主の貨物すら危うい環境にあるのが実態ではないだろうか。

外資系荷主の貨物獲得よりも、日系荷主の貨物死守の方が、目の前にある切

実な解決すべき重要課題である(【図表Ⅵ-8-15】)。

(2004) (2011)

Total : CHF 6,120m Total : CHF 6,500m

11%Asia Pacific

49%Europe

19%North America

19%

22%

57%

アジアの拡大アジアの拡大

欧州が事業基盤欧州が事業基盤

PANALPINA

日系物流企業に

とってのリスクシ

ナリオ

【図表Ⅵ-8-14】 欧州フォワーダーのアジアシフト事例

Global

Regional

Local

Low HightExternal Risk

FMCGFood

FMCGFood

AutoHight Tech

AutoHight Tech

ネットワーク力コスト競争力

輸送モード対応力

実輸送能力地場ネットワーク力

DCノウハウ

3PL 欧米大手

3PL

日系荷主 外資系荷主

地場 地場

地場

3PL

日系荷主

グローバル化グローバル化

現地化現地化

日系荷主の剥落

日系荷主の剥落

規模の経済

属地性

地場荷主

日系貨物すら

扱えなくなるリスク

【図表Ⅵ-8-15】 リスクシナリオ

(出所)みずほコーポレート銀行産業調査部作成

(出所)PANALPINA Annual Report よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

Page 15: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

231

4.構造変化を踏まえた日系物流企業の戦略方向性

冒頭記述の通り、日系物流企業の最大の強みは日系荷主との信頼関係であ

ろう。そして、その過程のなかで培った、日系荷主の厳しい要請に応えうる品

質は自信を持ってもいいのではないだろうか。

「サービス品質」は定量的に図りづらいが、各種アンケート等により、日系物流

企業の品質が高く評価されている事例は多く目にする8。日系物流企業はサ

ービス業である以上、そのサービス品質は最大の武器になり得る。

物流産業は元来、非常に属地性の高い産業である。利用運送事業について

も適切な現場処理能力が求められ、地場物流企業と連携し機能構築すること

が不可欠である。欧米大手といえども条件は等しく、マザーマーケットではな

い地域への事業参入では、その撤退事例も多く見られるのが実態であろう。

日系物流企業は、アジアの一員であるという一日の長を活かし、その強みを

発揮できる可能性はないだろうか。アジアを日本と同一の経済圏として一早く

捉え積極展開できるかどうかということである。地理的にも文化的にも欧米勢

に比べれば優位性は高い。

グローバルに展開している欧米系大手であっても、その地域ポートフォリオは

自国経済圏が大半を占める。欧米系大手と日系の違いは、自国経済圏にお

ける自国以外のシェアである。アジアにおいても、各種FTAやEPAが存在し、TPP や経済統合が議論され提唱されるなか、アジアをマザーマーケットとしていち早く捉え、日本以外のアジアにおけるシェアを拡大させることが重要では

ないだろうか(【図表Ⅵ-8-16】)。

8 詳細は Logistics Management 「29th Annual Quest for Quality Awards: Freight forwarders」ご参照。

日系物流企業の

強み

【図表Ⅵ-8-16】 大手物流企業の地域別ポートフォリオと撤退事例

アジア・オセアニア北米(USA)ヨーロッパ

ー(米:92)ーC.H.Robinson米

92063K+N瑞

1417

65(独:33)

自国以外:32

DHL独

77(日:70)

自国以外:7

33日本通運日

91(豪:70)

自国以外:21

36Toll豪

ー(米:74)ーUPS米

アジア・オセアニア北米(USA)ヨーロッパ

ー(米:92)ーC.H.Robinson米

92063K+N瑞

1417

65(独:33)

自国以外:32

DHL独

77(日:70)

自国以外:7

33日本通運日

91(豪:70)

自国以外:21

36Toll豪

ー(米:74)ーUPS米

数字は売上シェア(%)

20082008

20112011

20122012

【DHLエクスプレス 米国事業から撤退】米国国内のエクスプレス事業から撤退(過去5年間で75億ドルの損失)

2003年にエアボーン・エクスプレス買収により参入した経緯

国際エクスプレスサービスは継続

【DHLエクスプレス 米国事業から撤退】米国国内のエクスプレス事業から撤退(過去5年間で75億ドルの損失)

2003年にエアボーン・エクスプレス買収により参入した経緯

国際エクスプレスサービスは継続

【DHL 中国内エクスプレス事業からの撤退】2010年は約100M元程の赤字計上

地場企業との競争激化が要因

【DHL 中国内エクスプレス事業からの撤退】2010年は約100M元程の赤字計上

地場企業との競争激化が要因

【Toll 日本からの撤退検討】2009年旧フットワークエクスプレス(特積み)を買収し参入

不採算事業が改善せず

【Toll 日本からの撤退検討】2009年旧フットワークエクスプレス(特積み)を買収し参入

不採算事業が改善せず

日系物流企業の

「アジア」という可

能性

(出所)各社IR資料、及びニュースリリースよりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

自国経済圏にお

ける自国以外の

シェア拡大

Page 16: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

232

日系物流企業にとって当面の課題は、アジアにおいて日系荷主の貨物死守

に主眼が置かれるべきであろう。そのためには、これまでのように特定の日系

荷主に追随し、「仮に赤字であってもその要請に120%応える」という姿勢ではいずれ限界が生じ、当該事業すら剥落する可能性は否定できない。

日系荷主を確実に中長期的におさえるには、日系荷主の変化に柔軟に対応

しなければならない。日系荷主の求める、品質、ネットワーク、コスト競争力のう

ち特に劣勢なのがコスト競争力であろう。コスト競争力を備えるためには、①日

本人スタッフの削減、②日系としての品質やシステムといった強みを最大限に

活かしつつ、有力な地場企業としっかり組んで広く事業展開し単位コストを低

下させること、が有効な手段ではないだろうか。情報システム投資は不可欠で

あるならば、なおさら特定荷主だけでは事業採算の確保は難しい。

特定の日系荷主の要請に応えることに主眼を置き右往左往し続けるよりも、現

地化し、自律的な経営を進めることが、日系物流企業の取るべき戦略と考える。

日系荷主といえども現地の物流担当スタッフは現地人にシフトしているケース

も多く、現場でのコミュニケーションという意味においては問題ないであろう。

いずれにしても現地化が求められる(【図表Ⅵ-8‐17】)。

上記のような自律的な戦略は、荷主依存度が高い物流産業の性質上非常に

ハードルの高いものであろう。当然のことながら特定荷主がいないなかで闇雲

に投資するのは避けるべきであるが、物流には様々な事業領域が存在するた

め、需要の高い、或いは自社が強みを有する地域・商材・機能に照準を絞り、

日系荷主に拘らない、自律的な戦略立案が求められる。

近年、日系物流企業の海外展開では、そのような新たな動きが散見されてい

る(【図表Ⅵ-8-18】)。形式上は、自社展開、JV、企業買収等、従来の手法と何ら変わらないようにも見えるが、ターゲットとする荷主が特定の日系荷主に拘っ

ていない点でこれまでにないチャレンジングな取組みとして注目したい。

【図表Ⅵ-8-17】 日系物流企業の取るべき戦略

単位コストの削減・ボラティリティ抑制

外資系荷主の取り込み

アジアにおけるネットワーク強化

日本技術・ノウハウの積極的横展開

戦術 競合比較

日系荷主剥落回避コスト競争力

グローバルネットワークネットワーク力

高付加価値

差別化品質力

目的競争力要素

単位コストの削減・ボラティリティ抑制

外資系荷主の取り込み

アジアにおけるネットワーク強化

日本技術・ノウハウの積極的横展開

戦術 競合比較

日系荷主剥落回避コスト競争力

グローバルネットワークネットワーク力

高付加価値

差別化品質力

目的競争力要素

特定荷主の要請に拘らない自律的なアジア事業への投資

ホームタウンの強み(産業特性)

日系荷主を確実におさえる

日系物流企業の取るべき基本戦略

×日系荷主に追随する

日系物流企業の

取るべき戦略

新たな取組み事

(出所)みずほコーポレート銀行産業調査部作成

Page 17: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

233

多くの国において、地場の物流企業は過当競争の状態にあり、熾烈なコスト

競争に苦しんでいる状況は変わらない。係る状況下、特にマルチナショナルク

ライアントを顧客に抱える地場有力企業ほど、次なる成長を展望する上で、外

資系先進企業とのアライアンスによって差別化を図ることへの関心が高い。ど

の国も物流企業は星の数ほど存在するが、上記のような成長を展望する企業

の数は限られる。

日系荷主が自前で構築した現地物流機能をそのまま受託する手法も否定し

ないが、その場合は、その物流網を使って他の荷主に展開していくことは当

該荷主との関係上困難であろう。

物流市場として成長期待が展望できる国や地域、分野であれば、上記のよう

な関心を持つ地場企業とパートナーとして組めるかどうか模索し、自律的な発

展を模索することが必要ではないだろうか。

これまで日系物流企業は、日系荷主の要請に応える形で自らを変質させなが

ら成長してきたといえる。まさに「大きいものではなく、環境の変化に順応出来

たものが生き残れる世界」であり、それはこれからも不変であろう。今日の「より

高度化する荷主企業の変化」に対応し、利用運送事業者が元請企業として成

長するためには、物流企業としても「より高度化」し変質しなければならない。

必要とされる投資の対象もトラックや倉庫から、IT、情報システムへ変わってきており、利用運送事業者であっても「ノンアセット」では通用しない。

冒頭、ロジスティクスとは軍事用語だと述べた。第二次世界大戦における日本

軍人の戦没者 230 万人のうち餓死者が過半数を占めるという分析もあり、まさに組織としての兵站術≒ロジスティスクの戦略欠如の結果との見方もある。近

代ビジネスにおいても、経済活動範囲が広域になればなるほど、複雑になれ

ばなるほど企業におけるロジスティクスの重要性は増し、同時にその失敗は致

70% 30%

AGS(米国)

AGS(米国)

買収

2012年3月

Franco Vago(イタリア)

Franco Vago(イタリア)

2013年1月2012年5月

JV

買収

【トラック企業】

米国における国内輸送(トラック)の拡充

米系顧客

【トラック企業】

米国における国内輸送(トラック)の拡充

米系顧客

高級ファッションブランドへのリーチ

高級ファッションブランドへのリーチ

100% 100%

【フォワーダー】

*社長は継続

日本技術・ノウハウの積極的横展開日本技術・ノウハウの積極的横展開 アジアにおけるプレゼンス向上アジアにおけるプレゼンス向上 外資系荷主の拡大外資系荷主の拡大

地場大手とのJVによる新興国ドアtoドア輸送機能補完

地場大手とのJVによる新興国ドアtoドア輸送機能補完 企業買収による外資系荷主の獲得企業買収による外資系荷主の獲得

Gati KWE

Gati-Kintetsu Express

日本通運鴻池運輸

【6つのポイント】①インド全土の99.3%をカバー②約3,500台のトラックを運行③日時指定配送可能④メールで貨物配送完了報告配信⑤GPS搭載⑥充実した倉庫施設とネットワーク

【6つのポイント】①インド全土の99.3%をカバー②約3,500台のトラックを運行③日時指定配送可能④メールで貨物配送完了報告配信⑤GPS搭載⑥充実した倉庫施設とネットワーク

【定温物流センター概要】・敷地面積 :22,400㎡・倉庫面積 : 9,858㎡・収容力 :24,682t・仕様 :-26~+15℃迄の

4温度帯対応

【定温物流センター概要】・敷地面積 :22,400㎡・倉庫面積 : 9,858㎡・収容力 :24,682t・仕様 :-26~+15℃迄の

4温度帯対応

需要を見据えた先行投資需要を見据えた先行投資

タイ“初”の定温倉庫を着工タイ“初”の定温倉庫を着工

2011年3月

【図表Ⅵ-8-18】 日系物流企業の新たな取組み事例

日系物流企業の

戦略方向性

(出所)各社HP等よりみずほコーポレート銀行産業調査部作成

地場物流企業の

状況

Page 18: 217...217 Ⅵ-8. 物流 ~利用運送事業者における海外展開戦略論~ 【要約】 日系企業は戦後高い成長を遂げてきた。その発展過程において、経営戦略としてのロ

Ⅵ-8. 物流

みずほコーポレート銀行 みずほ銀行 産業調査部

234

命的なものともなり得る。東日本大震災やタイ洪水の教訓を踏まえ、荷主企業

もロジスティクスの位置付けや在り方を見直す機運が高まりつつあるなか、利

用運送事業の存在価値そのものが高まる可能性もあり、物流企業もそのロジ

スティクスパートナーとなり得る準備を整えなければならない。

これまでみてきたように、近年起きている(或いは今後起こるであろう)荷主や

環境の変化は、物流企業にとっては抜本的な変質が求められる難易度の高

いものかもしれない。利用運送事業もサービス業である以上、「顧客重視」の

視点が重要であることは紛れのない事実であるが、荷主にばかり視線を注ぎ

追随する過度な依存関係では長続きはしない。荷主にとって代替不可能な戦

略パートナーとして選ばれるためにはライバルに勝つ必要があり、そういった

経営目線に立脚した自律的戦略の策定が必要不可欠となるのではないだろ

うか(【図表Ⅵ-8-19】)。

上記の戦略アプローチはこれまでの従属的なプロセスとは異なり、高度な経

営判断が求められるが、変化の激しい物流市場において、日系利用運送事

業者がプレゼンスを発揮しシェアを高め勝ち残っていくためには必要不可欠

な方法論かもしれない。

【図表Ⅵ-8-19】 構造変化を踏まえた日系企業の戦略方向性

・・・・・

・・・・・

荷主変化に順応

特定荷主に拘らない自律的なアジアへの投資

「他力本願型」からの脱却

経済のグローバル化 経済統合・自由貿易

欧米大手

地場

日系荷主 日系荷主 外資系荷主

3PL

3PL3PL

3PL 3PL

地場 地場

3PL 3PL

荷主要請に応え得る物流企業への集約

欧米勢・地場との対峙

従来の目線

今後意識すべき目線

大手

【特定分野】

中小

中小

中小

中小 中小× ×淘汰

(出所)みずほコーポレート銀行産業調査部作成

(社会インフラ・物流チーム 吉岡 圭一) [email protected]