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1 平成26年度新産業集積創出基盤構築支援事業 「ものづくり製造業の改善活動を 促進するための調査」 実施報告書 平成27年3月30日 国立大学法人山形大学

平成26年度新産業集積創出基盤構築支援事業 - Minister of … · 2019-04-23 · 1 平成26年度新産業集積創出基盤構築支援事業 「ものづくり製造業の改善活動を

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平成26年度新産業集積創出基盤構築支援事業

「ものづくり製造業の改善活動を

促進するための調査」

実施報告書

平成27年3月30日

国立大学法人山形大学

2

目 次

1. 調査目的

2. 調査概要

3. 調査分析と課題抽出

3-1. 調査結果総括

3-2. インストラクター活用事業

3-2-1. 山形県内企業の現状と課題

3-2-2. インストラクター活用の現状と課題

3-2-3. 産金官学連携の現状と課題

3-2-4. 活用事業における個社事例

3-3. インストラクター養成事業

3-3-1. 山形大学シニアインスラクター養成スクール

3-3-2. インストラクター養成スクールの現状と課題

3-3-3. スキルアップセミナー

3-3-4. 産金官学連携の現状と課題

4. 「山形大学メソッド」

4-1. 山形大学メソッドとは

4-2. インストラクターの基本スキル

4-3. 基本スキル汎用化の課題と施策

4-4. よりよい支援のための上級インストラクタースクール検討

5. ものづくり改善活動を促進するための効果的手法と仕組み

5-1. 地域インストラクター事業の長期的・安定的推進に関する課題

5-1-1. 今回の調査と山形大学の実践を通じて見えてきた課題

5-1-2. 他地域インストラクター事業の現状と課題

5-2. ものづくり改善活動の長期的・安定的推進に有効な手法と仕組み

5-2-1. 地域内展開における効果的手法と仕組み

5-2-2. 全国的推進における効果的手法と仕組み

総括 「地域価値創成」実現のために

資料

「ものづくり製造業の改善活動を促進するための調査事業」に関するアンケート調査票

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1. 調査目的

近年、製造業において、中国をはじめとする主要な新興国の賃金高騰により人件費の

格差が縮小する一方、これらの国々に比べて離職率が低く推移する日本では、まだまだ

生産性向上の余地が大きいことから、「優秀な現場を日本国内に維持してグローバルに

戦う」ことの意味が、再び大きくクローズアップされてきた。その結果、国内への生産

拠点の回帰(リショアリング)が進められる機運が、ここにきて強まっている。製造業

以外のサービス業全般についても同様の傾向があらわれつつある。このような動きの下、

国内回帰する基幹産業とその構成員である企業群を下支えするためには、これまで以上

に強いサポーティングインダストリとしての中小・中堅企業の育成が急務である。

このような期待を背負う全国の中堅・中小企業は、潜在的には優れた経営業績を残す

ポテンシャルがあっても、現場効率化と品質担保力、それらを経営業績につなぐノウハ

ウが十分ではなく、結果として無駄のないものづくりによる顧客価値と企業価値創成を

達成しきれていないケースも存在する。これらを解決し、個々の企業の「現場改善活動」

が地域に展開し、さらには全国レベルで本格化した「ものづくりカイゼン国民運動」と

なるためには、まずは初心に戻り「流れづくり」を基本に据えた改善活動の一層の推進

が求められる。実際に、地域において地域人材による指導を受けて改善活動を導入した

ことにより、短期間で黒字化を達成し、収益性が改善する例も見受けられる。他方、改

善活動は、従来、経験に基づいて進められてきた点も多く、長年にわたる製造現場等で

の実務経験を経なければ習得できないため、潜在的ニーズの大きさに比して適切な指導

者(インストラクター)を十分に供給できていないものと考えられる。

このため、①企業 OB 人材等(主として生産管理や製造ラインの責任者を想定。現役

社員も含む)に対して、自らが得意とする特定分野の改善能力をベースに、より汎用的、

あるいは専門的なスキルに高めることで、改善指導人材(以下、インストラクター)と

して養成するとともに、②インストラクターの派遣によりものづくり現場の診断、問題

点への処方箋作成、現場改善指導などにより当該企業の収益改善を支援する事業が必要

とされる。これらの支援事業の 2 つの柱であるインストラクターの養成事業と活用事業

の現状および課題と、そこから導きだされる事業遂行の効果的手法や必要な支援などに

ついて明らかにすることを目的として、本調査を行う。

2. 調査概要

山形県内企業を対象とした実態調査アンケートをはじめ、シニアインストラクター養

成スクール受講生や講師を対象としたアンケート、活動中のインストラクターや現場診

断・改善指導先企業を対象としたヒアリング、さらに県内金融機関および自治体を対象

としたヒアリング等を通じて、多岐にわたる情報を収集し、分析を行った。

(1) 企業アンケート

山形県内企業の改善活動について、企業の実態・意識・ニーズを調査・分析し、効果

的な手法の検討を目的に、県内に本社のある従業員 10 名以上で、以下の①から③のい

ずれかにあてはまる企業 931 社を対象としてアンケートを実施した。アンケート調査票

は、平成 26 年 11 月 20 日に発送し、12 月 12 日を回答締め切りとした。

①製造業で、直近の 2 期連続売上「増」

②製造業で、直近の 2 期連続売上「減」

③農業、卸売・小売、飲食店、サービス業のいずれかで、直近の 2 期連続売上「減」

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(2) シニアインストラクター養成スクール受講生アンケート

平成 26 年度開校した「第 3 期シニアインストラクター養成スクール」を受講した 20

名を対象にアンケートを実施した。

(3) 活動中インストラクターヒアリング

山形大学シニアインストラクター養成スクール修了生で現在シニアインストラクター

として活躍しているインストラクター10 名を対象にヒアリングを実施した。10 名の内

訳は、第 1 期シニアインストラクター養成スクール修了生は 4 名、第 2 期スクール修了

生が 6 名である。

(4) 現場診断・改善指導先企業ヒアリング

活動中インストラクターが、診断・指導を実施した山形県内企業 9 社を対象に、ヒア

リングを実施した。対象となった企業の業種及び従業員数は以下のとおり。

A 社 はん用機械器具製造業 従業員数 13 名

B 社 木材、木製品製造業 従業員数 31 名

C 社 印刷業 従業員数 40 名

D 社 電気機械器具製造業 従業員数 335 名

E 社 金属製品製造業 従業員数 71 名

F 社 紙加工製造業 従業員数 147 名

G 社 電気機械器具製造業 従業員数 40 名

H 社 食料品製造販売業 従業員数 18 名

I 社 衣料品製造販売業 従業員数 100 名

(5) 金融機関ヒアリング

山形県内に本店・支店を置く以下の 11 行の金融機関を対象にヒアリングを実施した。

①山形銀行

②鶴岡信用金庫

③荘内銀行

④山形中央信用組合

⑤きらやか銀行

⑥北郡信用組合

⑦米沢信用金庫

⑧山形第一信用組合

⑨山形信用金庫

⑩商工中金山形支店

⑪新庄信用金庫

(6) 自治体ヒアリング

山形県内の 8 団体を対象にヒアリングを実施した。

①山形県商工労働観光部

②山形県企業振興公社

③山形県産業技術振興機構

④村山市

⑤米沢市産業部商工観光課

⑥米沢市商工会議所

5

⑦寒河江市技術振興協会

⑧庄内産業振興センター

(7) シニアインストラクター養成スクール講師アンケート

第 3 期インストラクター養成スクールにて指導いただいた、以下の 8 名の講師にア

ンケートを実施した。

伊藤 弘一 有限会社サンクスマインドコンサルティング代表取締役

伊藤 洋 東京大学ものづくり経営研究センター(以下、東京大学 MMRC)

特任研究員

上總 康行 京都大学名誉教授、福井県立大学名誉教授

公益財団法人メルコ学術振興財団代表理事

国谷 晃雄 MMRC インストラクター

柴田 孝 山形大学教授

田中 正知 株式会社 J コスト研究所代表

成沢 俊子 ピーキューブ株式会社代表

松田 修 山形大学教授 (五十音順)

(8) 地域ものづくりスクール連絡会アンケート

地域ものづくりスクール連絡会に入会している会員団体を対象に、各地域スクールの

実態や課題を調査するために、以下の 11 拠点から回答を得た。

①新潟県長岡市 商工部工業振興課

②財団法人 茨城県中小企業振興公社

③群馬県 産業経済部産業人材育成課、公益財団法人 群馬県産業支援機構

④福井県 産業労働部労働政策課

⑤静岡県 経済産業部商工業局商工振興課

⑥愛知県安城市 商工課

⑦愛知県幸田町 企画部企業立地課

⑧三重県 雇用経済部雇用対策課

⑨滋賀県 商工政策課

⑩和歌山県 商工観光労働部企業政策局 産業技術政策課

⑪広島県 商工労働部産業政策課

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3. 調査分析と課題抽出

3-1.調査結果総括

前述したとおりの調査概要で、広範なアンケートおよび詳細なヒアリング調査の結果を

詳述するにあたり、まずは、以下の項目ごとに概略をまとめておく。

(山形県企業が抱える課題と支援ニーズ)

インストラクター事業に関する個別調査の他に、当該事業の必要性や実効性検証のため、

山形県内企業に対する大規模アンケート調査を実施し、県内産業全体の状況と個別企業が

どのような課題認識を持ち、いかなる外部支援を求めているかを分析した。結果として、

「収益改善」が急務との課題認識が改めて確認されるとともに、業種を問わず「人材確保」

「人材育成・教育体制」の多さが目立った。現場課題では「品質確保・向上」「原価低減」

などの外に、「現場指導」「座学・研修」を望む声が多いのが特徴的である。一方で、「生産

の流れ化」「リードタイム短縮」などの少なさは、収益改善の重要ファクターが見落とされ

ている可能性を示唆する。見方を変えれば企業躍進の「宝の山」が隠されているともいえ

る。外部支援希望として業種を問わず「人材育成」があるのは当該事業の意図と整合する

だけでなく、埋もれた宝の山を一緒に発見できる貴重な機会でもある。なお、金融機関が

認識する「後継者問題」について企業側の認識がそれほどでない点も新たな発見である。

(山形県における産金官学連携とインストラクター事業への理解・支援)

今後の当該事業推進にあたり、県内の支援体制として今後とも連携が必要となるだろう

金融機関、自治体などのパブリックセクターへの詳細ヒアリングも実施した。その結果、

金融機関に関しては、ヒアリング先の約半数がインストラクター活用事業を知らなかった。

一方で当該事業の概要を説明するとほぼ全ての金融機関がこのような事業が有効かつ必要

であるとの認識を示した。なお、金融機関が認識する取引先企業の課題は売上・利益改善・

原価低減に加え、後継者問題を深刻にとらえており、生産性向上も課題と認識している。

自治体関係 8 団体へのヒアリングでは、自らの企業支援活動の課題として、「財源の確保」

「研修内容と集客」「長期的な支援」をあげ「経営者の意識改革」についても高い課題意識

を持っていた。インストラクター活用事業については「認知度が低い」「理解度不足」ある

いは「有効かどうかが判断できない」などがあったほか、企業が自社課題を認識している

場合は従来支援、そうでなくて問題発見や意識改革から取り組む場合はインストラクター

事業という明確なすみわけの提言もあった。産金官学連携による支援体制の必要性は認識

が一致し、そのために柔軟な予算運営や国による広域的支援を望む声が多く聞かれた。

(インストラクター活用事業と養成事業の現状と課題)

インストラクター事業の要ともいうべき「インストラクターのバリューチェーン(後述)」

実現のためにまずは出口戦略としてのインストラクターの企業支援について実態調査した。

支援先企業と支援したインストラクターの両サイドに詳細ヒアリングを行い、それらを統

合して分析することにより、様々な事例を通じて「企業はどのような支援を期待しており、

インストラクターは何を提供できるのか、円滑かつ効果的な支援実現のためにはインスト

ラクターおよびその候補はどのような知識・スキルを必要とするのか」が明らかになった。

そのようなインストラクターを輩出すべきスクールはいかにあるべきかについても詳細

なヒアリング調査を行った。スクール受講生、講師はもちろん、実際に支援活動に入って

いるインストラクターにも経験に基づいて「どんな教育をスクールに求めるか」を語って

もらった。その結果「流れづくり」の重要性の再認識と、指導にあたって重要な経営層や

現場に柔軟に対応できるヒューマンスキルへのニーズが強いことが明らかとなった。

また、これらの調査を通じて、インストラクターのバリュー向上のためステップ標準化、

活動を総合支援する「運営のワンストップサービス」、チーム制を統括する活動支援人材の

「プロデューサー」などの必要性と実効性についても検討、検証された。

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3-2. インストラクター活用事業

3-2-1. 山形県内企業の現状と課題

(1) 調査概要

山形県内の従業員数 10 名以上の企業 931 社を対象としたアンケートと、県内金融 11 機

関を対象としたヒアリングの結果を基に、県内企業の現状と課題を分析した。アンケート

は(株)帝国データバンクによる企業分類に基づき、業種・業績ごとに「農業」、「サービ

ス業」、「卸売業・小売業・飲食店」(以下、「小売業」)、「製造業(増収)」、「製造業(減収)」

と分類し、業種・業績ごとの分析を行った。ここでは、平成 24 年~26 年度の間、2 年連続

で売上高が増加した製造業企業を「製造業(増収)」、2 年連続で売上高が減少した製造業

企業を「製造業(減収)」と分類した。「農業」、「サービス業」、「小売業」に分類される企

業は、2 年連続で売上高が減少した企業のみを対象とした。アンケート送付先企業の内訳

は「製造業(増収)」169 社、「製造業(減収)」372 社、「小売業」225 社、「サービス業」

159 社、「農業」6 社である。

(2) 基本情報

アンケート回答企業の業種別の回答率・業種の内訳・売上金額・従業員数等は、以下の

とおり。

ⅰ) 回答率

アンケートは山形県内企業 931 社に送付し 149 社の回答があった(回答率 16%)。

回答数が最も多かったものは「製造業(減収)」の 52 社、最も少なかったものは「農業」

の 0 社であった。(図 1)

また、回答率が最も高いものは「製造業(増収)」の 30%で、最も低いものは「農業」

の 0%であり、業種・業績別に顕著な差が表れた。(図 2)

図 1. 業種・業績別アンケート回答数 図 2. 業種・業績別アンケート回答率

8

ⅱ) 業種の内訳

複数回答形式で詳細な業種を質問した。「食料品・飼料・飲料製造業」が 32 社で最も多

かった。以下、「金属製造業」16 社、「各種小売業」14 社、「卸売業」13 社、「電気機械器

具製造業」13 社、「一般機械器具製造業」11 社、「窯業・土石製品製造業」11 社と続いた。

ⅲ) 従業員数および年間売上金額

従業員数は 10~49 人の企業が 70%で最も多かった。次いで 50~99 人が 13%であった。

(図 4)

直近売上年度の年間売上金額は 1 億円~5 億円未満が 52%で最も多かった。次いで 5 億円

~10 億円未満が 16%であった。(図 5)

図 3.アンケート回答企業の業種の傾向

図 4. アンケート回答企業の従業員数 図 5.アンケート回答企業の年間売上金額

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(3) 課題

県内企業が抱える課題を経営課題と現場課題に分け、複数回答形式で質問した。また、

県内 11 金融機関に取引先企業が抱える課題について、企業アンケートと同様にヒアリング

した。以下に得られた結果を示す。

ⅰ) 企業の課題

経営課題として、「利益(純利益)」を挙げた企業が 107 社で最も多かった。さらに「人

材確保」101 社、「売上高」99 社、「販路開拓」86 社、「人材育成・教育体制」85 社と続き、

経営面では財務、組織に課題を感じる企業が多い傾向にあった。(図 6)

現場課題としては「原価低減」を挙げた企業が 83 社で最も多く、「品質確保・向上」が

81 社、「座学・研修など」、「現場指導・OJT」がともに 72 社で続く。現場課題においても、

コストや人材育成に関する課題を挙げる企業が多い傾向がみられた。一方、「生産の流れ化」

や「リードタイム短縮」を課題としている企業は少ない。(図 7)

・金融機関が認識する取引先企業の課題

図 8 は、県内 11 金融機関に、取引先企業が

抱える課題についてヒアリングを行って得ら

れた結果を示している。「後継者問題」、「コス

ト低減」ともに、すべての金融機関が課題と

して挙げた。次いで 10 機関が「売上高」、「利

益」を、9 機関が「販路開拓」、「人材確保」、

「生産性向上」などを課題として挙げている。

図 8 と図 6,7 を比較すると、金融機関が認識

する企業の課題と、企業が自認する課題との

間にギャップが認められる。特に「後継者問

題」については、金融機関は 11 機関すべてが

課題として挙げているが企業は全体の 1/3 程

度(50/149 社)にすぎなかった。「市場調査」

や研究開発に関しても違いが顕著である。

図 6. 県内企業 149 社の経営課題 図 7. 県内企業 149 社の現場課題

図 8. 県内金融 11 機関が把握する

取引先企業の課題

10

以下に、業種別の状況を示す。

・製造業(増収)の課題

経営課題として、「人材確保」を挙げた企業が 37 社で最も多かった。さらに「利益(純

利益)」、「販路開拓」がともに 31 社、「人材育成・教育体制」が 30 社、「設備投資」が 27

社と続いた。(図 9)

現場課題としては、「品質確保・向上」が 31 社で最も多く、「設備保全」、「原価低減」が

ともに 29 社、「現場指導・OJT」が 26 社、「座学・研修など」が 25 社と続いた。(図 10)

・製造業(減収)の課題

製造業(増収)と比較して、経営・現場ともに多くの課題が挙げられている。

経営課題では、「利益(純利益)」を挙げた企業が 40 社で最も多かった。「売上高」、「人

材確保」がともに 36 社、「人材育成・教育体制」が 33 社、「販路開拓」、「組織体制」がと

もに 32 社と続いた。(図 11)

現場課題としては、「原価低減」を挙げた企業が 38 社で最も多かった。さらに「品質確

保・向上」が 35 社、「工数低減」が 32 社、「5S」、「管理監督者育成・活用」がともに 31

社、「座学・研修など」が 30 社と続いた。(図 12)

図 9. 県内製造業(増収)企業の経営課題 図 10. 県内製造業(増収)企業の現場課題

図 11. 県内製造業(減収)企業の経営課題 図 12. 県内製造業(減収)企業の現場課題

11

・小売業の課題

経営課題では、「売上高」を挙げた企業が 26 社で最も多かった。「利益(純利益)」が 24

社、「人材確保」が 19 社で続いた。(図 13)

現場課題では、「原価低減」を挙げた企業が 12 社で最も多く、次いで「在庫低減」、「現

場指導・OJT」、「管理監督者育成・活用」がそれぞれ 10 社であった。(図 14)

・サービス業の課題

経営課題では、「利益(純利益)」を挙げた企業が 12 社で最も多かった。「売上高」が 11

社、「販路開拓」、「人材確保」がともに 9 社で続いた。(図 15)

現場課題では、「座学・研修など」を挙げた企業が 9 社で最も多かった。「現場指導・OJT」

が 7 社、「5S」、「品質確保・向上」が 6 社で続いた。(図 16)

図 13. 県内小売業企業の経営課題 図 14. 県内小売業企業の現場課題

図 15. 県内サービス業企業の経営課題 図 16. 県内サービス業企業の現場課題

12

(4) 取引先(顧客)からの要求

県内企業の取引先からの要求項目(価格・品質・納期・海外サプライチェーンへの参加・

アフターサービス・新製品の提案)それぞれの要求の強さ(1~5 の五段階選択式、5 が最

も強い)を確認した。

図 17.18 は得られた回答の集計値から、それぞれの要求項目について平均値を求め、表

したものである。値が 5 に近いほど取引先から強く要求される傾向にあることを示す。

ⅰ) 取引先(顧客)からの要求

全体として、「品質」、「価格」、「納期」の 3 つの要求が圧倒的に多い。中でも「品質」が

最も強く求められている。次いで「価格」、さらに「納期」の順で続く。一方で、「海外サ

プライチェーンへの参加」についての要求の強さは著しく低かった。

以下に、業種別の状況を示す。

いずれの業種でも「品質」、「価格」、「納期」に関する取引先の要求は、図 17 の全体の傾

向と同様である。製造業では、「価格」、「納期」に関しては、増収企業よりも減収企業の方

が強く求められる傾向がみられた。

小売業は「アフターサービス」、「新製品の提案」に関する要求も高い

サービス業は「納期」についての要求が他業種に比べ著しく低い。(図 18)

図 17. 県内企業 149 社に対する取引先(顧客)からの要求事項

図 18. 取引先(顧客)からの要求事項(業種・業績別)

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(5) 外部コンサルティング等に求める支援

県内企業に外部コンサルティング等の利用経験、今後希望するコンサルティング内容な

どについて質問した。以下に得られた結果を示す。

ⅰ) 外部コンサルティング等の利用経験

アンケート回答企業全体では、外部コンサルティング等の利用経験があると回答した企

業が 56%(83 社)、経験がないと回答した企業が 41%(62 社)であった。(図 19)

業種別では、利用経験があると回答した企業が過半数を下回ったのは製造業(増収)の

みであった。製造業(減収)、小売業、サービス業の企業は過半数以上がコンサルティング

の利用経験ありと回答していた。(図 20)

ⅱ) 過去に受けたコンサルティング内容

図 21 は、県内企業が過去に受けたコンサルティング内容とそれぞれの企業数を表してい

る。最も多かったコンサルティング内容は「経営改善」で 42 社であった。次いで「人材育

成」が 34 社、さらに「生産革新」が 30 社で続いた。また、「その他」の内容として、「特

許出願」、「ISO 導入」などがあった。

図 19. 県内企業 149 社の外部コンサルティング等

の利用経験

図 20. 外部コンサルティング等の利用経験(業種別)

図 21. 過去に受けたコンサルティング内容

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図 22 は、県内企業が過去に受けたコンサルティング内容の比率を、業種別に表している。

製造業では、増収・減収企業ともに「生産革新」のコンサルティングを受けた比率が最も

高く、24%を占めた。製造業(増収)では「人材育成」が 20%、「経営改善」が 13%で続

いた。また、製造業(減収)では「経営改善」が 22%、「人材育成」が 14%で続いた。小

売業とサービス業はともに「経営改善」の比率が最も高く、それぞれ 25%と 32%を占めた。

次いで両業種とも「人材育成」の比率が高く、22%と 18%であった。小売業では「生産革

新」のコンサルティングを受けたことがあると回答した企業はなかったが、サービス業で

は 9%を占めた。

ⅲ) 外部コンサルティングの成果

過去に外部コンサルティングを利用したことがある、と回答した企業 83 社の内、47 社

がコンサルティングについての意見を記述した(自由記述式)。その内訳は製造業(増収)

17 社、製造業(減収)15 社、小売業 10 社、サービス業 5 社であった。

意見には成果に対して肯定的なものが 31 件、否定的なものが 7 件、肯定的な意見と否

定的な意見両方を含むものが 7 件あった。以下に、意見の例を示す。

・肯定的な意見

《製造業増収》

「新たな見方が出来る。知らなかったことが身に付く」

「短期間で成果を得ることができた」

「社内標準化ができた」

《製造業減収》

「財務分析ができた」

「財務、労務費、社員意識調査を客観的に分析できた」

「事業計画策定の手法を学ぶことができた」

《小売業》

「意思決定までのプロセスや、考え方を学んだ」

「モチベーションが高まる」

《サービス業》

「社員教育によりサービス向上」

「IT システム化のスムーズな導入」

図 22. 過去に受けたコンサルティング内容(業種別)

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・否定的な意見

《製造業減収》

「不要だった」

「頭の中だけで指導されても現場・現状で役に立たない」

「指導内容がありきたりで、主務に生かせなかった」

「費用が高かったが、効果なし」

《小売業》

「時代、時代で変わるのでよくならない」

「会社の内容に合わない」

《サービス業

「現場との乖離がありすぎた」

「効果が実感しにくい」

・肯定的な意見と否定的な意見両方を含むもの

《製造業増収》

「計画達成指導については良いが資金調達方法についてはいまひとつ」

「手掛けるきっかけができたが、コンサルタントが職種を理解できていない」

「TPM(Total Productive Maintenance 全員参加の生産保全) .カイゼン活動の礎となっ

た。一方的になり、社員の主体性に欠けた」

《小売業》

「フレッシュな意見が聞けるが、コストがかかる」

「良→士気の向上 悪→実効性の乏しい提案」

ⅳ) 外部コンサルティングを利用しない理由

過去に外部コンサルティングを利用したことがない、と回答した企業 62 社の内、28 社

が利用しなかった理由について記述した(自由記述式)。その内訳は製造業(増収)10 社、

製造業(減収)8 社、小売業 4 社、サービス業 4 社であった。

コンサルティングを利用しない理由の内、最も多かったものは、「必要がない」という理

由で、17 社が該当した。その他の理由としては、「成果が期待できない」、「費用が高い」

などがあった。

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ⅴ) 今後、外部コンサルティング等に求める支援

図 23 は県内企業が、今後外部コンサルティング等に求める支援を、複数回答形式で質

問し、得られた結果である。経営革新と生産革新に分けて表した。

今後希望する支援のうち経営革新に関して最も多かったものは「人材育成」で、71 社が

希望した。以下、「顧客 /販路開拓」が 57 社、「顧客満足度向上」が 52 社で続いた。

生産革新に関して最も多かったものは「現場人材育成」で、67 社が希望した。以下、「原

価低減」が 55 社、「品質確保・向上」が 52 社で続いた。一方、「生産の流れ化」や「工場・

職場レイアウト」などに対する希望は比較的少ない。

経営革新、生産革新ともに「人材育成」に対するコンサルティングを希望する企業が多

い傾向がみられた。

以下に、業種別の状況を示す。

・製造業(増収)の希望する支援

製造業(増収)企業では、経営革新に関して、「人材育成」を希望した企業が最も多く、

24 社が回答した。以下、「新規事業開拓」が 19 社、「顧客/販路開拓」が 17 社で続いた。

生産革新に関しては、「品質確保・向上」を希望した企業が最も多く、22 社があげた。

以下、「原価低減」、「現場人材育成」がともに 21 社で続いた。一方、「在庫削減」に関する

希望は最も少ない。

図 23. 今後希望するコンサルティング内容

図 24. 県内製造業(増収)企業の今後希望するコンサルティング内容

17

・製造業(減収)の希望する支援

製造業(減収)企業では、経営革新に関して製造業(増収)企業と同様、「人材育成」を

希望した企業が最も多く、25 社が回答した。以下、「顧客 /販路開拓」が 21 社、「顧客満足

度向上」が 18 社で続いた。

生産革新に関して、「現場人材育成」を希望した企業が最も多く、28 社が回答した。以

下、「原価低減」が 25 社、「品質確保・向上」、「納期順守・リードタイム短縮」がともに

20 社で続いた。

・小売業の希望する支援

小売業企業では、経営革新に関して、「顧客満足度向上」、「人材育成」を希望した企業

が最も多く、ともに 16 社が回答した。以下、「顧客 /販路開拓」が 15 社で続いた。

生産革新に関して、「現場人材育成」を希望した企業が最も多く、13 社が回答した。以

下、「在庫削減」が 8 社、「原価低減」、「品質確保・向上」がともに 7 社で続いた。

図 26. 県内小売業企業の今後希望するコンサルティング内容

図 25. 県内製造業(減収)企業の今後希望するコンサルティング内容

18

・サービス業の希望する支援

小売業企業では、経営革新に関して、「人材育成」を希望した企業が最も多く、6 社が回

答した。以下、「顧客満足度向上」、「顧客 /販路開拓」が 4 社で続いた。

生産革新に関して、「現場人材育成」を希望した企業が最も多く、5 社が回答した。以下、

「品質確保・向上」が 3 社で続いた。

ⅵ) 外部コンサルティングへの支払可能金額(年間)

図 28 は、県内企業が外部コンサルティングを利用する際に、支払可能な金額(年間)を

表している。「無回答」が全体(149 社)の 48%(71 社)を占めていた。回答があった中

では、「10 万円未満」、「10 万円以上 50 万円未満」がともに 15%、「50 万円以上 100 万円未

満」が 12%で続いた。

図 29 は、外部コンサルティングへの支払い可能金額(年間)を、コンサルティングの利

用経験がある企業(83 社)と、利用経験がない企業(62 社)に分けて表したものである。

利用経験について無回答の企業(4 社)は含まれていない。

コンサルティングの利用経験がある企業では、「10 万円以上 50 万円未満」が最も多く、

23%を占めた。「50 万円以上 100 万円未満」が 22%で続いた。

コンサルティングの利用経験がない企業では、支払可能金額(年間)について、「無回答」

が 85%を占めた。また、50 万円以上支払可能と回答した企業もなかった。

図 28. 外部コンサルティングへの

支払い可能額(年間)

図 29. 外部コンサルティング経験の有無と

支払い可能額(年間)の関係

図 27. 県内サービス業企業の今後希望するコンサルティング内容

19

(6) 新規事業に対する取り組み

県内企業に、5 年以内の新規事業について質問した。以下に得られた結果を示す。

ⅰ) 5 年以内の新規事業への取り組み

図 30 は、県内企業の 5 年以内の新規事業の予定の有無を表している。「取り組む予定が

ある・取り組みたい」は 35%、「取り組まない」は 60%であった。

図 31 は新規事業の予定の有無を業種別に表したものである。全分類で「取り組まない」

と回答した企業が過半数以上であった。製造業は小売業とサービス業に比較して「取り組

む予定がある・取り組みたい」と回答した割合が高い傾向にあった。

ⅱ) 新規事業に取り組まない理由

図 32 は、5 年以内に新規事業に「取り組まない」と回答した企業 89 社が新規事業に取

り組まない理由を表したものである(複数選択)。

全体では、最も多かった理由は「自社の業種・業態にそぐわない」で、23%を占めた。

以下、「本業が順調で、必要性がない」が 15%、「投資対効果がわからない」が 13%で続い

た。

製造業(増収)では、「本業が順調で、必要性がない」と回答した企業が、「自社の業種・

業態にそぐわない」の 24%に次ぎ、20%を占めた。サービス業では「資金不足」が最も多

く、28%を占めた。

図 30. 5年以内に新規事業

に取り組む予定

図 31. 5年以内に新規事業に取り組む予定(業種別)

図 32. 新規事業に取り組まない理由

20

ⅲ) 新規事業に取り組む際に必要な準備

ここでは、県内企業が新規事業に取り組む際に必要であると考える、準備および準備を

担う組織について示す。小売業とサービス業では統計的に有為な回答数を得られなかった

ため、製造業(増収)(図 33)と製造業(減収)(図 34)の企業の傾向のみを示す。

製造業(増収)においては、基礎研究は「自社でのみ実施」、「大学」がともに 29%で最

も比率が高かった。応用研究は「大学」が 33%、実証実験は「公的な研究機関」が 36%、

販路開拓・マーケティングは「自社でのみ実施」が 38%で、それぞれ最も高かった。

製造業(減収)においては、基礎研究は「自社でのみ実施」、「民間企業(その他)」がと

もに 24%で最も高かった。「大学」と回答した企業の割合は 14%で、製造業(増収)とは

異なり、最も低かった。応用研究では「自社でのみ実施」が 30%で最も高かった。ここで

も「大学」と回答した企業の割合は 13%で、「民間企業(受注先・発注先)」と並んで最も

低かった。実証実験は「民間企業(その他)」が 31%、販路開拓・マーケティングは「公

的な研究機関」が 27%で、それぞれ最も高かった。

図 33. 新規事業に取り組む際に必要な準備 - 製造業(増収)-

図 34. 新規事業に取り組む際に必要な準備 - 製造業(減収)-

21

ⅳ) 公的機関や大学、金融機関等に望む支援

図 35 は、県内企業が新規事業に取り組む際に、公的機関や大学、金融機関等に望む支援

について示している。

全体の傾向として、「助成金の申請手続き」が最も多く、18%を占めた。以下、「市場調

査・マーケティング」が 17%、「最新設備・装置の貸与」が 14%、「自社の現状分析」が

11%で続いた。

製造業(増収)では、「助成金の申請手続き」が最も多く、20%を占めた。以下、「最新

設備・装置の貸与」が 14%、「自社の現状分析」、「設計・試作機能の提供」がともに 12%

で続いた。

製造業(減収)では、「助成金の申請手続き」が最も多く、19%を占めた。以下、「最新

設備・装置の貸与」が 17%、「市場調査・マーケティング」が 15%、「自社の現状分析」、

「産学官連携・共同研究のコーディネート」がともに 10%で続いた。

小売業では、「市場調査・マーケティング」が最も多く、27%を占めた。以下、「助成金

の申請手続き」が 15%、「自社の現状分析」、「人材交流」がともに 12%で続いた。

サービス業では、「市場調査・マーケティング」と「助成金の申請手続き」がともに 20%

で最も多かった。以下、「最新設備・装置の貸与」、「人材交流」がともに 15%、「自社の現

状分析」、「最新設備・装置の貸与」がともに 10%で続いた。

(7) 企業アンケートから見えてきた山形県内企業の課題

課題として、「利益(純利益)」をあげる企業が多く、当然のことながら、収益改善は急

務である。また、経営課題として「人材確保」と同時に「人材育成・教育体制」をあげる

企業も多い事は注目すべきである。「現場指導」、「座学研修」を現場課題としてあげる企業

が多くあり、さらに外部コンサルティングに希望する支援も、業種を問わず「人材育成」

であった。安定的な人材確保、人材育成のために、体系的な仕組みが必要と考えられる。

また、取引先からの「品質」要求に応じ、「品質確保・向上」を課題とする企業も多か

った。取引先からは、「価格」に関しても強く求められているため、企業は収益改善の為に

品質維持・向上とコスト低減の両立という難しい課題に直面しているといえる。一方で、

「生産の流れ化」や「リードタイム短縮」、「在庫削減」を課題として挙げる企業は少数派

であり、収益改善におけるこれらの重要性が十分理解されていない可能性がある。

さらに、企業が認識する課題と、金融機関から見た取引先企業の課題(特に後継者問題)

が合致していないことは着目すべき点である。

図 35. 新規事業に取り組む際に公的機関等に望む支援

22

3-2-2. インストラクター活用の現状と課題

それでは、実際のインストラクター事業にはどのような現状や課題があるのか。実際に

インストラクターが支援(診断・処方箋作成および個別指導)を行ってきた県内企業 9 社

と、当該企業を支援した(している)主なインストラクター10 名(1 期 4 名、2 期 6 名)

を対象に、詳細なヒアリング調査を実施した。

(1) 活動状況

これまでに、インストラクターの支援対象となった企業は述べ 9 社であり、その内訳は

診断のみで終了 1 社、現在診断中 1 社、診断後に個別指導継続中 7 社となっている(表 1)。

担当インストラクター 期間 現活動状況

A社

はん用機械器具製造

診断 a インストラクター(1 期) 平成 24 年 8 月~9 月 診断済

指導 a インストラクター(1 期) 平成 24 年 10 月~ 継続中

B社

木材、木製品製造業

診断 a インストラクター(1 期) 平成 24 年 9 月~10 月 診断済

指導 a インストラクター(1 期) 平成 24 年 11 月~ 継続中

C社

印刷業 診断 a インストラクター(1 期) 平成 24 年 8 月~9 月

診断済

(終了)

D社

電気機械器具製造業

診断 b インストラクター(1 期)

c インストラクター(2 期) 平成 25 年 8 月~10 月 診断済

指導 c インストラクター(2 期) 平成 25 年 12 月~ 継続中

E社

金属製品製造業

診断 d インストラクター(1 期)

e インストラクター(2 期) 平成 25 年 9 月~12 月 診断済

指導 e インストラクター(2 期) 平成 26 年 1 月~ 継続中

F社

紙加工製造業

診断 a インストラクター(1 期) 平成 25 年 12 月~2 月 診断済

指導 a インストラクター(1 期) 平成 26 年 3 月~ 継続中

G社

電気機械器具製造業

診断 c インストラクター(2 期) 平成 26 年 6 月~7 月 診断済

指導 c インストラクター(2 期) 平成 26 年 8 月~ 継続中

H社

食料品製造販売業 診断

f インストラクター(2 期)

g インストラクター(2 期) 平成 26 年 10 月~ 診断中

I社

衣料品製造販売業

診断 h インストラクター(2 期) 平成 26 年 5 月~7 月 診断済

指導 h インストラクター(2 期) 平成 26 年 8 月~ 継続中

表 1 インストラクター支援の状況(平成 27 年 3 月 30 日現在)

現在診断中の 1 社は別にして、ほとんどの企業が診断を受けた後、個別に契約を結び、

個別にインストラクターの現場指導を受けている(3 月 30 日現在、全社継続中)。診断を

希望する企業が、実際の治療までを望んでいる事実とともに、インストラクターが行った

診断結果とそれによる処方箋に納得感があったことを示すと考えられる。ただし 1 社のみ

診断で終了し指導を希望しなかったところがあった。これについては後述する。

23

(2) 診断・指導した企業ヒアリング

これらの企業について、実際に診断、指導を受けてどうであったかについて詳細にヒリ

ングした。

ⅰ) 指導を受けようと思った動機

まずは、各企業がインストラクターの指導を受けようと思った段階の主たる動機や希望

について尋ねた。結果は、表 2 のとおりである。

動機

A社

(はん用機械器具製造)

・会社がずっと赤字続きだったから。それなりに利益をあげていた

ならば取り入れていなかったのではという想いがある。

B社

(木材、木製品製造)

・スタート時の希望(動機)としては、(次期)幹部の成長を促す

ような人材育成をしてもらいたいという主旨を持っていた。

C社

(印刷)

・現場指導による改善(実践)を希望。

・人材育成をすることで、滞留在庫の削減という現実の問題を解決

してほしかった。

D社

(電気機械器具製造)

・依頼内容として、ボトルネック工程の解消を希望した。

・(指導スタンスとして)全体最適による生産革新へのアプローチ

を希望していた。

E社

(金属製品製造)

・山形大学の教授が数回訪問された時に勧誘を受けた。少々興味が

あったので受けてみた。

F社

(紙加工製造)

・診断のきっかけとして費用が無料だったことと、山形大学の教授

からの強い薦めにより決意した。

G社

(電気機械器具製造)

・山形県のセミナーで(インストラクター事業を)知り「これまで

とは違った形(のトライ)で自社の為になるなら」という思いで

依頼した。

H社

(食料品製造販売)

・製造業の作業方法を知らないという弱みを自覚している。まずは、

社員を含めての基礎的な教育を希望して依頼した。

I社

(衣料品製造販売)

・朝日新聞の記事(A社)を読んで山形大学に連絡した。

・財務的に厳しい状況(負債増)の中、日々の仕事で精一杯の状態

だった。トヨタ式導入等でこの状況を改善出来ないかと思った。

表 2 インストラクターに支援を受けたいと思った主な動機

当然ではあるが、「現場改善を望んで」という理由が多かった。しかし、中には「費用

が無料だった」という理由もみられた。「お試し」というスタンスであり、必ずしも明確な

目的(動機)ではなかったことがわかるが、これについては事業開始直後の成果事例もな

い状況下で、ある程度想定され得たことである。さらに、この回答をした F 社が「診断を

受ける前は自分達の現場の問題に気づいていなかった」ことに後から気づいたという回答

も考慮する必要がある。自治体ヒアリングでも明らかになった「対象(候補)企業がそも

そも自分達の問題点に気づいていない可能性」と考えあわせると、「まずはやってみる」と

いう「お試し版」の意義は大きい。具体的な施策案については、第 5 章で提言する。

24

ⅱ) 指導の成果と要望

続いて、実際にインストラクターの診断や指導を受けてどう感じたかを質問し、達成で

きたと当該企業が感じている成果、今後の要望について自由に延べてもらった(表 3)。

指導に対して感じている成果と今後への要望

A社

(はん用機械器具製造)

・インストラクターに生産革新たるものを教わる前は、利益の出し

方そのものがわかってなかった。長年の経験、やってきたものに

しがみついていたことがわかり、(そこから)変化がはじまった。

・ある程度教えてもらって(はじめて)何をやるかがわかる。目か

ら鱗が落ちた。何をやるか、やり方も教えてもらったので、あと

はやるだけ(という状態まで到達した)。

B社

(木材、木製品製造)

・生産革新の効果で、(依頼当初からの)本来の意図である幹部の

人材育成ができてきたと感じている。

・これからも継続してインストラクターと関わっていきたい。

C社

(印刷)

・学習意欲の低い社員に対し、座学時間が 1.5~2 時間は長いと感

じた。専門用語が多く、知識不足の社員には理解が難しかったと

いうのもあり、(当初の)座学中心の指導に疑問を持ち始めた。

・別のやり方(インストラクター)で再スタートしてみたいという

気持ちはある。

D社

(電気機械器具製造)

・当社に合わせた指導で、粘り強さと我慢強さで対応してもらった。

メンバーとの交流会を企画するなど、きめ細やかに意識改革に努

めていただいている。

E社

(金属製品製造)

・2 人のインストラクターに来ていただいた(タイプが異なった)。

・当社の場合、強く指摘されることに現場が慣れておらず、それで

は混乱する為、若手社員などに根気強く付き合ってくれるタイプ

のインストラクターに(今後も)お願いしたいと思う。

F社

(紙加工製造)

・指導受ける以前の自分たちは、現場の問題点に気づかなかった。

・分析手法を教え続けてくれたおかげで、(自分達で分析ができる

ようになり、その結果として)これまでは、現状のままで満足し

ていたということに気づいた。

・a インストラクター(1 期)が作ってくれた生産革新の基礎(力)

を現場に(さらに)展開していきたい。

G社

(電気機械器具製造)

・一人完結の作業で見えなかった問題が、「流す」ことでよい流れ

の良さを実感できた。

・モノの移動のムダ、部品トラブルの中には仕入先の要因がある等、

これらの問題が顕在化したことが最大の成果である。

H社

(食料品製造販売)

・率直に言って素晴らしい。(インストラクターのこれまでの)経

験の中で作り上げてきた見方を上から目線でなく言ってくれる。

・年間計画を(自社で)作れなくて困っているので改善して欲しい。

I社

(衣料品製造販売)

・素晴らしい指摘事項(問題点)を抽出してもらった。

・今後、業績の見える化もお願いしたい。

表 3 診断、指導に対して企業が認識している成果と今後の要望

25

ここで、成果と要望の関係にもいくつかのパターンがあることがわかった。たとえば、

A 社、B 社のように当初意図していた目的が達成されて、さらに次の要望が出てきたケー

スもあれば、G 社や I 社のように、自分達が何となくわかってはいたがクリアではなかっ

た問題を「見える化」してもらったことに価値を認めるケースもある。あるいは、同じよ

うに自分達の問題がわかっていなかった例の中でも、H 社のように自分達が「問題がわか

らない」ことを自覚していて活動の中でインストラクターにより要望を引き出されたケー

スもあれば、F 社のように「自分達はわかっているつもり」だったが指導を受けて「わか

っていなかったことが、わかった」ケースもある。いずれにせよ、これらは「問題そのも

のが明確に見えていない企業」という意味では共通する。このパターンが最も数が多く、

また、バリエーションも様々であることが検証された。

また、インストラクターの指導スタンス(タイプ)に関わる指摘や要望にも一定の傾向

が見られた。D 社を指導したインストラクターの「粘り強さや我慢強さ」を評価する声や、

I 社の「上から目線でなく言ってくれる」ことへの感謝などは、従業員や改善プロジェク

トメンバーに対する丁寧な取り組みや指導ノウハウの必要性を示している。E 社の「根気

よく付き合ってくれるインストラクターを希望する」という要望などと合わせて考えると、

インストラクターには、改善スキルや知識だけではない、人をその気にさせ、粘り強く導

くといったヒューマンスキルも強く期待されていることが検証された。

一方で、C 社のように当初の指導に充分満足できず活動打ち切りとなった企業もあった。

向後のために、この事例を分析する必要と意義は大きいと思われるので、今回、C 社の協

力を得て状況を振り返り検討する。C 社は当初から即効性のある現場改善を希望していた。

しかし、担当インストラクターは逆に、まずは座学を中心に基礎知識を詰め込んでから現

場実践指導に入るという独自スタイルを持っていた。このインストラクターは同手法で、

これまでに幾つもの成功例を出している。そのため自らのスタイルに疑問をもつことなく

指導を続けた結果、不満の声があがった。今回のヒアリングで、C 社では社員が(それま

でに馴染みの薄い)座学形式にそもそも抵抗感があり、しかも改善活動自体も業務多忙な

どの理由で必ずしも積極的でなかったとされた。そこにいきなり訪れたインストラクター

が座学続きの指導を行えば心理的抵抗は充分にあり得たであろう。さらに業績等の前提条

件の違いもあった。当該インストラクターがそれまで対応した企業は、赤字が続いたなど、

インストラクターに頼る必然性の高い企業が多かった。それらのケースと、そこまで困っ

てはいない状態の企業とは区別して認識すべきだった。たとえば、A 社の気づきを見れば、

改善への意気込みやインストラクターの指導への親和性は当該企業の置かれた環境に強く

影響されることがわかる。

これは、必ずしも心理的な部分だけではない。赤字が続く程に仕事がなければ生産ライ

ンを止めて勉強する時間は充分にあるかもしれない。一方で、業務繁多な企業の場合には、

ラインを止めて勉強する時間がなく、物理的な負担感も大きくなる。この条件の違いが、

同じ指導方法であっても企業によって受取り方が 180 度異なる要因であったと考えられる。

また、このケースは一見してインストラクターの指導問題のように見えるが、実はイン

ストラクターのマッチングの課題事例でもある。C 社は、評価の高い A 社、B 社と同じイ

ンストラクターが担当した。このことから、企業にあわせた柔軟性のある指導方法と多彩

なスキルをインストラクターに求めるだけでなく、初期段階で企業の現場課題や組織課題

を含めた状況を詳細に把握し、それに合わせたインストラクターを想定できるかが重要で

あることがわかる。同社は、別の方法(インストラクター)で再トライしたいという意向

も持っており、実際にスクール事業 3 期では改善道場を提供した。継続したかどうかによ

り成果と期待を一筋縄では評価できないという点でも、本事例は、今後の事業の PDCA を

まわすための貴重な事例と捉えるべきであろう。

26

ⅲ) 指導中の変化点

インストラクターの指導に関して詳細にヒアリングする中で、特に 3 社から、「インス

トラクターが入ることで自社が変化した」と明示的に自覚した回答があった。後述のイン

ストラクターへのヒアリング内容も一部加味して、変化の前後を比較した(表 4)。

当初(変化前)の状況 変化要因 変化後の状況

E社

(金属製

品製造)

・10 年前に大手メーカー

からの指導を受けて生産

革新で苦労した苦い経験

があった。

・現場社員は強い口調での

指導に不慣れで、外部指導

に対する抵抗感が懸念さ

れていた。

・e インストラクターが、

若手社員に対して、強制せ

ず粘り強く指導を行って

くれた。むしろ、これから

はもっと強くでてもらっ

てもいい(と思う程、慎重

に進めた)。

・若手中心の改善チームを

結成し、5S から着手した。

・社員が 5S 活動に対して

手早く実施できるように

なった。

・メンバーが自発的に疑問

点を質問しにやってくる

ようになった。

・社員 3 名を選出し 3 期の

養成スクールを受講させ

た。

G社

(電気機

械器具製

造)

・社長が即効性と結果を求

める傾向が強かった。

・個別場面ではインストラ

クターと社長の意見が

合わないこともあった。

・作業手順の改善を行い、

2 人分の工数(2 人工)

を削減した。

・改善の効果を実感できた

ことで社長の意識が変

化して、信頼感につなが

った。

・社員 1 名に 3 期の養成ス

クールを受講させた。

H社

(食料品

製造販

売)

・製造業の作業方法を知ら

ないという弱みを自覚

していた。

・2S(整理整頓)もできて

おらず理解もしていな

い全くの素人状態であ

った(と自分達が思って

いた)。

・だからこそ、何ができる

のか不安も感じていた。

・何でも教えてほしいとい

うスタンスに対して丁

寧な指導で、とにかく話

をよく聞いて進めた。

・インストラクターが入り

ながらも、社員自身に現

場の兆候をだしてもら

った。

・活動を通じて日常業務に

刺激が増えた。

・社員からたくさんの提案

が出るようになった。

・提案に対してすぐ実行に

かかる社員が増えた。

・「率直に言って素晴らし

い、経験の中で作り上げ

てきた見方」という評価

を得て、インストラクタ

ーと顧客の間に強い信

頼関係が構築された。

表 4 変化を明確に自覚して語ったヒアリング事例

3 社とも状況は異なるものの、いずれも何らかの不安や懸案事項を抱えていたところは

共通する。それに対して、これが正解というのではなく、試行錯誤の中で何等かの変化の

きかっけを捉えた。たとえば E 社は、過去の苦労があった分、活動に前向きに入るより、

改善活動のプレッシャーに対して社員が萎縮気味だった。そこで、インストラクターは、

あえて若手を中心にメンバーを構成し粘り強く指導するとともに、意識的に「あらゆる疑

問に答える」ことを徹底して指導をしたところ、メンバーが自発的に質問してくるように

なり、そこから積極性につながっていったケースである。

一方で G 社は、経営者が比較的短期的な改善を求めていた。それをインストラクターが

直ちに否定することなく、まず、小さな成功事例を作りだす中で、「これをやれば成功する」

という信頼感を醸成した。結果として、それがきっかけになり経営者の意識が長期的展望

へと変化してきたケースである。

27

最後の H 社は、従業員も経営者も、これまでこのような活動をしたことがなく、全くの

素人という自覚のもとに、そのことを不安に感じていたケースである。しかし、全員参加

で兆候(現場の問題点)を出しあい、無理をせずスモールステップで進めることで、活動

そのものを新鮮に感じてみんなが頑張ることができ、自信と信頼につながった。

このように、状況に応じて無理はせず、しかし確固とした信念と柔軟性を同時に持った

指導が重要であり、そのためにも、企業とインストラクターの相性も含めた組み合わせの

検討が大事であることがわかる。今後の課題として、こういった知見を積み上げることに

よりマッチングのパターンを標準化するなど、様々な角度から支援の成功率をあげる努力

が必要である。

(3) 診断、指導インストラクターヒアリング

一方で、支援側であるインストラクターにもヒアリングを行ったところ、企業に入って

活動していて、「上手くいった」とともに「こういう点で困った」という回答も見られた。

また、現在指導継続中で、現に「困っている」「苦労している」「支援が欲しい」との回答

もあった。これらについては、対象企業の状況によって、あるいは指導方法によって、ま

た、それらの組合せによっても異なる可能性がこれまでのヒアリング分析で明らかなため、

以下、インストラクターと企業の組みあわせごとに上手くいった点、困った(困っている)

点を列挙する。中にはペアを組んだインストラクターとの相性に言及するケースもあった。

<上手くいったと回答した組合せ例>

① a インストラクター(1 期):A 社

初めに座学を徹底的に行った。結果として、現場改善を始めてから非常に進みが速

かった。また、A 社からも座学を繰り返し受けたからこそ実効性があがったとの評

価を受けた。

② c インストラクター(2 期):G 社

作業員に女性が多くまじめな取り組みが見られた。決めたルールを守って(ルール

が)定着しやすかった。1回の説明で(現場でのルール)を守って下さるのには(イ

ンストラクターの方が)びっくりした。

③ e インストラクター(2 期):E 社

5S活動から着手したが、社員が手早く実施してくれた。当初は(過去の別の外部指

導の折の苦い経験もあり)活動への抵抗感もあったようだが、若手を中心にじっく

りと向かいあうことで自発的にメンバーが疑問点を質問に来てくれるようになった。

活動が進む中で、プロジェクトメンバーからバリューストリームマップ(Value

Stream Map、以下 VSM)について知りたいと要望がでてきたので、今後はこれにつ

いても活動していく予定。

④ f インストラクター(2 期):H 社

とにかく支援先企業の方たちが素直に取り組んでくれる。また、今回ペアを組んで

いる g インストラクターの指導方法は、非常にやわらかい対応でいいと思う(自分

にとってもとても参考になる)。

⑤ g インストラクター(2 期):H 社

兆候を出すときでも、インストラクターがすぐに出すのではなく、企業のみなさん

に出してもらったら、(はじめての活動にもかかわらず)びっくりするくらい、た

くさん出てきた。これが活動を活発にするきっかけにもなったと思う。(H 社に限

らず)インストラクターとして企業さんに行くのは楽しみ。たとえば(自分の好き

な)ゴルフに行くようなワクワク感が(前日から)ある。楽しく通っている。

28

<困った(困っている)・苦労した(苦労している)と回答した組合せ例>

① c インストラクター(2 期):D 社

プロジェクトメンバーは過去のコンサルタント失敗経験から生産革新に拒否感を

持っていた。診断をして(個別指導開始前に)同意していたはずの改善方法が、

指導開始後、現場には周知徹底されてないことが判明した。そのためもあってか、

製造現場が従来の作業方法の変更に難色を示すことが(最初は特に)多かった。

② c インストラクター(2 期):G 社

(開始当初は特に)全員が作業に追われている状態で、改善すべき点や対象につ

いての質問もはばかられるような雰囲気もあった。実施すべきことは、理論的に

は簡単なことであっても、思い通りに進捗することが出来ない状況でもあった。

さらに、経営者が即効性のある結果を求める傾向があり、プロセスとしての指導

に対しての理解を頂くのに苦労してきた(今も苦労している)。

③ h インストラクター(2 期):I 社

診断当初の要望は収益改善であった。この段階で、他工場との問題などについて

の情報は得られていなかった。個別指導開始後に、同社が買収した県内別工場と

の間での品質課題や作業方法の相違などの問題点が発覚した。また、取り組みの

中で、すぐに(理解して)行動に移す現場もあれば、そうでない現場もあった。

今回、複数リソースからの重複するヒアリングを行う機会を得て、これらの結果を総合

的に分析したところ、あらかじめ想定していた点、想定以上、想定外であった点を含め、

いくつかの特徴がわかった。たとえば A 社のように、どうしても改善しなければならない

理由、すなわちせっぱつまった状況にある方が、もちろん経営環境・条件は厳しいものの、

活動そのものへの注力を含め、組織として一体で取り組める可能性はむしろ高いケース。

想定通りとはいえ、改めてはっきりと検証された事例(後述)である。

B 社のように、初めから人材育成を意図して、経営層の方針がぶれないようなケースは、

時間はかかっても確実に成果につながるという点では想定通りとはいえ非常に勇気づけら

れる知見である。逆に、E 社のように、当初はインストラクターが改善活動への抵抗感に

苦労したケースもある。このことは、現場の課題だけで改善の難易度や成功率が規定され

るのではなく、むしろ、経営者の認識や支援、あるいは組織の体制や文化・風土のような

前提条件によって大きく左右される可能性も高いことを示唆する。これらは調査前から想

定されていたとはいえ、実際には想定を上回るバリエーションの可能性を示した。

また、H 社のように初めて改善指導を受けたにもかかわらずそれなりの成果を出して、

かつ指導したインストラクターも活動を楽しみにして通うケースもあれば、D 社のように、

過去にも似たような現場改善の取組み経験があり、それなりの知識もあったと想定される

にもかかわらず、むしろその苦い経験の記憶ゆえに、思うように改善活動が進まず、当該

企業だけでなく、インストラクターも不完全燃焼になるケースもある。これは、現場改善

活動の進捗が、必ずしもそれまでの経験値やメンバーの知識等に影響されるのではなく、

むしろそれらの過去の経験がモチベーションを下げたり、逆に何も知らないからこそ速く

吸収できたりということを意味しており、調査前の想定を超える事実が明らかにされた。

あるいは、F 社のように、そもそもの自分達の問題の全貌を把握できていなかったとい

うケースの存在も重要であり、今後特に注目すべき可能性が秘められている。すなわち、

インストラクター事業の意義づけとして、「問題解決」の前の「問題発見」にこそ、その価

値があるという可能性が明らかになったからである。

支援先企業とインストラクターのマッチングを考えること、そのための当該企業の状況

を極力把握することの重要性は当初想定とおり検証された。しかし一方で、インストラク

29

ター事業が「マッチング」の巧拙だけを意識するのではなく、支援の当事者であるインス

トラクター自身の絶えざる研鑽と、時には経営者に意識づけを行うくらいの積極的取り組

みまでもが必要であることが明らかになった。これらについては、第 4 章および第 5 章で

詳細検討していく。

30

3-2-3. 産金官学連携の現状と課題

(1) 産学金コーディネータ育成の取り組み

山形大学の金融機関との連携は、平成 19 年の金融機関職員を対象とした産学金連携コ

ーディネータ研修と、コーディネータ認定制度発足に始まる。研修では、金融機関が産学

連携を実践する必要性についての理解が重視される。基礎理解を深めるための座学の後、

実際に工場のラインを視察し、課題分析と改革提案を作成し、対象となった企業に提案す

るという実践的な研修カリキュラムが組まれている。

研修1か月後に各自が実践した内容についてレポートを課し、一定の条件を満たした者

に「産学金連携コーディネータ」の認定が行われる。認定期間は 1 年間で、期間内にコー

ディネータの活動実績がある者が更新される。平成 26 年度までの 8 年間で山形県内 12 の

金融機関及び県の信用保証協会から延べ 320 名が受講し、うち 185 名が認定され、平成

26 年 12 月現在では、144 名が更新された認定コーディネータとして活動している。

平成 23 年からは、産学金連携コーディネータを 3 年程度経験した者を対象としたスキ

ルアップ研修を実施しており、4 年間で 58 名が受講し、条件をクリアした 32 名がシニア

コーディネータの称号を付与されている。(平成 26 年 12 月現在)

山形大学は、認定コーディネータの活動をシステムとしてサポートしている。研修を受

けたコーディネータが企業現場で経営課題分析を行う。その相談をプラットフォームとし

ての山形大学国際事業化研究センターに持ち込む。センターには数名のアドバイザーが配

備され、コーディネータとともに課題解決に向けたプランを作成する。技術的課題につい

ては山形大学の研究者や公設試験研究機関の技術者等に相談し、経営的課題については国

や県の中小企業支援制度を通じてコンサルタントなどを活用する。アドバイザーとコーデ

ィネータは、専門家と現地に同行し相談案件のフォローを行う。年によって実績数は変化

するが、年間約 200 件から 700 件程度の企業からの相談が持ち込まれ、それに対する様々

なソリューションの提供が行われている。大学の研究シーズとのマッチングも 40 件から

60 件程度行われ、共同研究等や技術的課題の克服、新しい製品化等に結びついている。

提供されるソリューションの一つに生産現場の効率化があり、企業及び金融機関からの

要請を受けて、シニアインストラクターが派遣され現場改善が図られたケースもある。

(2) 金融機関ヒアリングから見えてきた現状と課題

山形県内に本・支店を置く 11 の金融機関を対象にヒアリング調査を実施した。ヒアリ

ングにあたっては、アンケート調査と同様の調査票を作成し、事前に調査票を送付したう

えで、調査項目に従って 1.5 時間から 2 時間のインタビューし、聴取した内容を調査担当

者が記入する方法で行った。

調査実施日及び調査対象は以下のとおり。

○鶴岡信用金庫

日時:平成 26 年 11 月 27 日 場所:鶴岡信用金庫役員室

○山形中央信用組合

日時:平成 26 年 12 月 2 日 場所:山形中央信組理事長室

○第一信用組合

日時:平成 26 年 12 月 3 日 場所:山形第一信用組合会議室

○米沢信用金庫

日時:平成 26 年 12 月 4 日 場所:米沢信用金庫会議室

○商工中金山形支店

日時:平成 26 年 12 月 8 日 場所:商工中金山形支店応接室

31

○山形信用金庫

日時:平成 26 年 12 月 8 日 場所:山形信用金庫応接室

○北郡信用組合

日時:平成 26 年 12 月 16 日 場所:北郡信用組合応接室

○新庄信用金庫

日時:平成 26 年 12 月 16 日 場所:新庄信用金庫応接室

○きらやか銀行

日時:平成 26 年 12 月 17 日 場所:きらやか銀行応接室

○山形銀行

日時:平成 26 年 12 月 17 日 場所:山形銀行本部会議室

○荘内銀行

日時:平成 26 年 12 月 18 日 場所:荘内銀行山形本部会議室

前述のとおり、金融機関と連携してシニアインストラクターが派遣され現場改善が図ら

れた事例があるにもかかわらず、それ以外の金融機関を含む半分以上の金融機関が派遣事

業の存在を知らなかった。これは意外な結果であり、この点について課題が浮き彫りにさ

れた。(図 36)

インストラクター派遣事業の概要を説明したうえで、このような派遣事業が有効である

と考えるか質問したところ、ほぼ全ての金融機関が「有効である」もしくは「ほぼ有効で

ある」と回答した。(図 37)

併せて、今後このような派遣事業は必要と考えるかについて聞いたところ、同様に、ほ

ぼ全ての金融機関が「必要である」もしくは「ほぼ必要である」と回答した。(図 38)

図 36. インストラクター派遣事業に対する認知状況

図 37. インストラクター派遣事業の有効性に対する認識

図 38. インストラクター派遣事業の必要性に対する認識

32

このように、インストラクター派遣事業について、金融機関がその有効性と必要性を認

めていることが明らかになった。このような意識の背景として、金融機関にとって顧客で

ある地域企業が抱える課題について、金融機関側からどのように把握しているかについて

聴取した。また、その課題に対して、金融機関として果たす役割の有無について聴取した。

その集計結果は以下のとおり。

91%

55%

91%

45%100%

64%

82%

55%

82%

82%64%

100%

55%64%

55%

36%

73%

64%

64%

64%55%

36%

9%

36%

0%

36%

0%9%9%9%0%

9%9%

0%

18%27%

0%18%

9%

18%

18% 9%

18%9%

0%9%

9% 18%

0% 27%

9%

36%18%9%

27%

0%

27%

9%

45%

45%

18%

18%

18%

27%

27%

55%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

売上高

業界での売上シェア

利益(純利益)

資金繰り

コスト低減

顧客満足度

販路開拓

業界景況

人材確保

生産性向上

人材育成教育体制

後継者問題

組織体制

設備投資

ITシステム

省エネ環境対応

市場調査

開発・研究資金

研究・開発者

テーマの選択

新商品開発

その他の経営課題

県内企業の経営課題 該当の有無

有 なし NA

82%

36%

55% 73%

55%

45%

100%27%9%

64%

27%

73%

9%

55%

45%

36%

36%

36%

45%27%

27%

9%9%9%

27%

0%27%

18%0%

36%

55%36%

45%

18%

45%

9%18%

18%

27%

27%

27%

36% 27%27%

9%

55%

18% 27%

18%36%

0%

36%

36%

0%

27%

9%

45%

36%

36%

45%

36%

36%

27%

36%

45%

64%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

売上高

業界での売上シェア

利益(純利益)

資金繰り

コスト低減

顧客満足度

販路開拓

業界景況

人材確保

生産性向上

人材育成教育体制

後継者問題

組織体制

設備投資

ITシステム

省エネ環境対応

市場調査

開発・研究資金

研究・開発者

テーマの選択

新商品開発

その他の経営課題

課題克服に向けた金融機関としての果たす役割の有無

有 なし NA

調査結果から、金融機関は地域企業が非常に広範な経営課題を抱えていると認識してい

ることが明らかとなった。特に、「売上」と「利益」(の低迷)、「コスト」(の上昇)といっ

図 39. 金融機関が認識する県内企業が抱える経営課題

図 40. 県内企業の経営課題に対して金融機関が果たす役割の認識

33

た金融機関から目につきやすい課題に加え、地域の高齢化を反映して後継者問題に対して

も深刻な見方をしている。また、インストラクター活用事業と関連する「生産性向上」に

ついても高い課題意識をもっている。

一方、これらの課題に対して、金融機関自らがどのような役割を積極的に果たそうとし

ているのかを尋ねたところ、ビジネスマッチング等を通じた「販路拡大」や、「売上高」(向

上支援)、「資金繰り」というように、金融機関がもともと保有していた機能に限った回答

が多かった。換言すれば、それ以外の事項については課題の存在は意識していても、金融

機関としては必ずしも何らかのアクションを起こそうとしているわけではないといえる。

このように、インストラクター派遣事業との関係では、顧客企業が抱える課題として「生

産性の向上」について多くの金融機関も認識しているものの、金融機関にとって必ずしも

自らが直接貢献できる分野ではないと考えていることが推測される。

この点について、インストラクター派遣事業を長期安定的に推進するためには、インス

トラクターの登録・管理・派遣等の運営をどこが担うべきか、その理由とともに尋ねた。

その結果は、大学と回答した金融機関が 4 機関、国や自治体等の行政団体が 2 機関、商工

団体が 2 機関、大学発ベンチャーとしての民営化提案が 1 機関であった。金融機関が自ら

運営するべきと回答した機関は無かったが、既に生産性向上のコンサルタントの斡旋など

類似の取組みを手掛けている金融機関が 2 機関あった。ただし、これらの機関とは運営の

スキームが異なっており、本事業のスキームでの担い手となるのは難しいという回答だっ

た。回答の詳細は下表のとおり。

担うべきと

考える機関 左のように考える理由

A 金融機関 NA

当行では7年前から元メーカー勤務で退職後にコンサルタント経

験がある専門家を独自に雇用し、顧客企業派遣を実施している。し

かし、実態として地域企業からフィーはとれない。フィーがとれる

ところがやるべき。

B 金融機関 国、自治体、

県商工会、大学

県内の資金力ある企業は既に有料で PECなどのコンサルティングを

受けている。資金力ないところは、国、自治体、大学等が担ってほ

しい。

C 金融機関 NA インストラクター派遣よりも、現在取り組んでいる4金融機関によ

る経営者交流会のような企業間交流の方が良い。

D 金融機関 大学 他ではノウハウがない。先行して実施しているところはノウハウが

あると思われる。

E 金融機関 商工会 企業との接点は金融機関の方が多いが、業務の内容は商工会が近

い。

F 金融機関 大学発ベン

チャー

大学発ベンチャーはどうだろうか。大学発である理由は大学名とい

うブランドが使えるから。資金は、公的団体が支援すべき。例えば

官民ファンドの造成など。大学もファンドに出資してはどうか。

G 金融機関 大学 現状の他機関を見てもできるところがない。

H 金融機関 NA

仮に実施するとした場合、インストラクターのカイゼンメニューの

見える化、効果の見える化が不可欠と思われる。長期安定化に向け

ての課題は費用負担である。現在は無料であることから活用できて

いるが、企業からすれば効果が予め見えない中で費用負担できな

い。有償なのに効果が出なければ、紹介した金融機関にもクレーム

が来る。現場診断までは無料が前提。

I 金融機関 商工会議所 地域に近いところが主体となる方が育成も派遣も責任を持って行

いやすいのではないか。県内1か所では県内移動が大変である。

J 金融機関 自治体 主体は自治体が担い、経費は国が支弁し、大学が知見を提供するの

が現実的。

K 金融機関 大学 経験があるから。

N/A:Not Answer 表 5 派遣事業を担うべきと考える機関

34

山形大学は、県内 12 の金融機関と連携して、「学金連携プラットフォーム」

を組織化して地域中小企業に取り組んでいる(平成 19 年から)。国立大学法人

として唯一、中小企業庁の「中小企業経営革新支援認定機関」の認定も受けて

いる。

地方創生に向けて今後の活動範囲の拡大を図るべく、地域経済の成長エンジン

として地域に貢献する「学金連携プラットフォーム 2.0」を掲げた。

機能拡大の具体化の第一弾として、平成 27 年 3 月 10 日に山形県信用保証協会

と連携協定締結を締結した。保証協会が地域企業支援を目的として大学と連携す

るのは全国初の試みとなる。

山形大学『学金連携プラットフォーム2.0』

35

(3) 自治体ヒアリングから見えてきた現状と課題

山形県内の 8 団体を対象にヒアリングを実施した。1.5 時間から 2 時間のインタビュー

をし、聴取した内容を調査担当者が記入する方法で行った。

インストラクター活用事業の概要を説明したうえで、各自治体の企業向け現行支援事業

について質問したところ、種々の取り組みが行われていることがわかった。

自治体 企業に対する支援実態

米沢市

産業部商工観光課

・米沢産業育成運営委員会(企業、市、商工会の財源で 10 年継続)

経営者スキルアップ研修(会計、経営運営)

製造業の共通技術者の育成(はんだ認定制度)

米沢市商工会議所 ・帳簿の付け方、融資の受け方の指導

・経営者向け研修

・経営指導員(商工会職員 6 名)とエキスパートバンクのコンサルによる

実践的指導(無料で2~3回 /年)

・各種支援機関の窓口

村山市商工観光課 ・コーディネータによる現場改善、マッチングなどの企業支援

・企業ガイドブックを作成し県外の商談会でマッチング

寒河江市技術振興協会 ・人材育成研修

会員企業アンケートによる研修内容の整合

講師は山形大学などの専門機関に依頼

特別講座として 6 次産業に関する研修も開催

鶴岡市庄内産業振興セン

ター

・産業人材育成支援

ものづくり中核人材の育成講座

職業能力開発講座

(若手社員から経営・マネジメントまで 30 ほどの講座を開設)

・企業経営力強化支援

セミナー・ビジネスマッチング・経営者フォーラム

山形県産業技術振興機構 ・企業の人材育成

高度技術者養成

・産学官連携コーディネート

山形県企業振興公社 ・ものづくり企業 OB の派遣

企業 OB が、無料で月1~2 回の指導 平成 20 年からスタート

・専門家派遣

総勢 400 名の専門家登録、実働は 30 名(経営・販路などの指導は中

小企業診断士や税理士)

・中小企業再生支援

・よろず支援

山形県商工労働観光部

雇用対策課

・現場技術者 /経営者向け

産業技術振興機構や工業技術センターに委託

職業能力開発、マネジメント、自動車関連、組み込みソフトなど実

践的な内容

・専門的立場から企業を指導

企業振興公社、山形大学に委託

表 6 自治体が取り組む企業に対する支援事業

36

各自治体が実施している企業向け支援事業は、地域性や機関の特徴を生かしたものが展

開されている。内容は、座学中心の研修が多い。共通する課題としては、以下のように、

「研修内容と集客」、「長期的な支援と財源確保」、「ワンストップ」があげられた。また、

小規模経営者は目先のことが優先で先のことはなかなか考えられないことから、経営者の

「意識改革」についても課題意識を持っている。

<研修内容と集客>

・研修を開催するも参加企業を集めるのが難しい

・研修内容の妥当性

<長期的な支援と財源確保>

・長期的な企業育成の取り組みが必要

・人材育成には、時間がかかり効果が見えにくい

・長期支援のための財源確保

<ワンストップ>

・企業側はどこに相談すればよいかわからない

・自治体の枠があり、広域的な活動に支障がある

<意識改革>

・小規模経営者は目先のことが優先で先のことはなかなか考えられない

・経営者への動機づけ、意識改革

・経営者に危機感はあるがどうしたらよいかわからない

・現時点で困っていないと変えようとしない

<その他>

・公的支援などの申請手続きが煩雑

・研究会はできるが、事業化が出来ない

以上のことから、経営者の意識改革まで可能な、広域的で長期的な企業支援活動が必

要だと考えていることが伺われる。

続いて、山形大学が実施しているインストラクター事業に関して、その有効性について

の認識を伺ったところ、以下のような回答が得られた。

・ピンポイントの改善ではない

・人材育成も兼ねていることが良い

・ワンステップ上の気づきを誘導する

・製造業だけではなく他業種にも応用できる手法

・企業のやる気、現場の意識改革に役立つ

・企業の個別の状況に合わせてかなりつっこんだ指導

さらに、類似の支援活動との違いについては以下のようなすみ分けが可能であるとの

指摘をいただいた。

<企業振興公社の専門家派遣>

依頼する企業は何が自社の課題かを自覚していて、ピンポイントでエキスパー

トを派遣する。

<山形大学のシニアインストラクターによる支援>

収益改善したいが課題がぼやっとしている。危機感はあるがどうしたらいいの

かわからない企業に対する気づき、意識改革を行う。

37

次に、インストラクター活用事業の課題について尋ねたところ、「事業の認知度、理解度

不足」、「限られた情報では、有効(ご利益がある)かが判断できない」、「企業に紹介した

いが、効果・成果がきちんと見えない」などの回答が得られた。もっと具体的な活動内容

の見える化や、共通の評価尺度などによる効果や成果の見える化が重要な課題との認識で

ある。さらに、「有益なシステムであるが、継続性が重要」、「企業は派遣コンサルに対して

心理的ハードルがある」も改善すべき課題である。

これらの課題に対して有効と考えられる手段として、以下のような提案があげられた。

<窓口の一本化および事業の認知度・理解度を高める>

・金融機関と連携し、各エリアの商工会議所などを窓口として企業に紹介する

<インストラクター活用事業を利用したことによる有効性(ご利益)の明確化>

・第3者によるお墨付き

・インストラクター認定制度による企業の信用度

<課題を解決したいが一歩を踏み出せない企業への普及方法案>

・成功モデルの口コミやワンポイント見学、プロモーションビデオの活用

・お試し版

・金融機関や経営者団体に働き掛けての導入促進

この他にも、「運営資金を企業が出資する」、「NPO 法人化(窓口は各市町村)」、「資金の

ある企業に特化」などもあげられた。加えて、「専門家派遣事業を推進する企業振興公社と

山形大学とが連携して情報共有を図る必要がある」との意見も頂いた。また、インストラ

クターのスキルアップのためには、チーム体制での活動として「ベテランインストラクタ

ーが経験の浅いインストラクターを指導」という提案もあがった。

以上のことから、産金官学が連携して組織的な支援体制が必要であるとの認識は一致し

ている。インストラクター活用事業については金融機関も含めた組織的な連携が不可欠で

ある。しかしながら、地域内での完結は難しく、組織的な広域的な活動を推進するには、

以下のような進言を得られた。

・広域的な大きなフレームは国で行うべき

・金とモノではなく「人」。「人」に投資して育てるしくみづくり

・予算施行サイクルを変え、年度をまたぐことができる予算計画

・単年度の支援では企業が育たないため複数年続く支援

・各自が出資するしくみづくり(商工会と連携、自治体と連携)

・自治体の補助金は個別企業より実施機関への方が広く波及効果を期待できる

・縛りの弱い事業資金

38

<改善前> コネクター端子部品組立工程レイアウト変更 <改善後>

3-2-4. 活用事業における個別事例 <玉澤精機株式会社>

活用事業の成果検証として個別事例を報告する。スクール修了インストラクターによる

指導先第 1 号としてメディアでも紹介された玉澤精機株式会社である。前述の支援先企業

ヒアリング A 社であるが、ここでは同社の許可を得て社名を表記する。

◆会社概要

社名:玉澤精機株式会社 所在地:山形県米沢市 創立:昭和 32 年 資本金:1000 万円

役員:2 名(代表取締役 大竹浩、取締役会長 玉澤 昇) 従業員:12 名(正社員)

主な製品:電気・通信機器部品、コネクター端子部品(切削およびプレス加工)

◆インストラクター導入までの経緯

公衆電話部品およびコネクター端子部品製造の同社は、製品市場の急激な縮小の影響で

売上が激減、リーマンショックの影響もあり、平成 22 年 1 月期決算段階で 4 期連続赤字、

経営層自ら会社存続を危ぶむ状況だった。腹をくくって交渉した主要取引先の納品価格値

上交渉が奏功し、いったんは息をついたが、抜本的解決手段が必要であった。

◆生産革新活動とインストラクター支援(現場指導:現行のステップ 3 に相当)

平成 23 年 10 月、全員参加「生産革新プロジェクト」キックオフ。当初週 3 時間×2 回

指導で座学中心。インストラクターの口ぐせ「頭につく、心につく、身につく」を地道に

実践。半年後の平成 24 年 5 月コネクター端子部品組立工程で 1 回目の大規模レイアウト変

更。壁を取り払い「流れ」の基本形をつくった。同年、玉澤会長がインストラクター養成

スクール受講と改

善道場提供(2 期)。

平成 24 年の黒字

に続いて平成 25

年は受注 2 割減で

も利益確保、経営

も社員も自信がで

てきた。平成 25

年 5 月、確保した利益で設備改善実施、7 月生産革新 100 回記念。自立化のため隔週 1 回

にまで支援回数を減らしつつも活動継続中。平成 26 年大竹社長インストラクター養成スク

ール受講(3 期)。現在、切削工程大規模レイアウト変更進行中。4 期黒字継続中。

◆成果と展望(玉澤会長・大竹社長ヒアリングより)

(玉澤会長)棚卸資産圧縮がキャッシュフローを改善、それがまた改善にまわせると実感。

トップの指示待ちでなく作業改善や経営提案がボトムアップででてくるようになった。

(大竹社長)生産革新で毎週、業績数値も話すので社員がよくわかっている・・社員から

フォローされることの方が多い程。この規模の会社の中での世界 No.1 を目指したい。

活動の中で新たに浮上した 2 課題「原価管理」と「現場進捗管理情報収集(システム)」。

これに対しては山形大学との共同研究、米沢市の助成、学会産学共同研究グループの支援

などを受け、現在進行形で「ステップ n」事例として模索中である。特に、現場システム

では、SCRUM-TMZW-MODEL-R4(玉澤 Ver)構築(協力:株式会社 956)。すでに次段階

の開発を計画中。切削工程レイアウト変更後には現場に大規模ディスプレイが現れる!

(遠藤 SCRUM-PJ リーダー)正確に原価を知りたかった(のが動機)。タブレットを初め

て使う人もいて慣れるのに約 3 か月。1 年程使っているが現場の進捗データを手間なく、

正確に取れるようになり、自分達のやっていることが結果に反映されるのを感じている。

玉澤精機 「ステップ n」事例 ―原価管理とシステム構築―

39

3-3. インストラクター養成事業

3-3-1. 山形大学シニアインストラクター養成スクール

(1) 概要

山形大学 OB で、元ホンダエンジニアリング取締役であり、現在東京大学 MMRC 特任研

究員である伊藤洋先生を校長に迎え、平成 23 年からこれまでに 3 回のインストラクター養

成スクールを開校した。今年度の 3 期では、初めて女性の受講生 2 名が参加した。また、

現場実習先企業として受講生の所属企業の協力を得ることができた。

今年度の 3 期目を含めたインストラクター養成スクールの概要は以下のとおり。

第一期 第二期 第三期

実施期間 平成 23 年8月 1 日~11

月 1 日

平成 24 年 9 月 4 日~11

月 20 日

平成 26 年 10 月 7 日~

平成 27 年 1 月 27 日

受講生数 22 名

(企業 OB:11 名 /企業

現役:11 名(金融 0 名))

27 名

(企業 OB:10 名 /企業

現役:17 名(金融 5 名))

20 名

(企業 OB:5 名 /企業

現役:15 名(金融 1

名))

カリキュ

ラム

総時間 62.5 時間(13 日間) 52.5 時間(11 日間) 62.5 時間(13 日間)

講義 47.5 時間 37.5 時間 35 時間

現場実習 12.5 時間 12.5 時間 25 時間

成果発表 2.5 時間 2.5 時間 2.5 時間

講師数 講義 10 名

現場実習 5 名

計 15 名(延べ人数)

講義 11 名

現場実習 5 名

計 16 名(延べ人数)

講義 10 名

現場実習 5 名

計 15 名(延べ人数)

運営費 全国中小企業団体中央

会 /ものづくり指導者養

成支援事業

経済産業省 /ものづく

り指導者養成支援事

業・受講料

山形大学学長裁量・受

講料

受講料 無料 3 万円 企業 OB 4 万円

時間当たり :640 円 /H

企業現役 12 万円

時間当たり :1920 円 /H

※1 期~3 期まで、開校式および修了式は、上記カリキュラム以外に時間を確保している。講義は座学で

ある。

表 7 山形大学インストラクター養成スクール概要

受講生は、2 期、3 期と企業現役の割合が増加している。また、金融機関や団体職員、学

生など多様な参加者を受け入れている。

現在インストラクターとして活躍しているのは、1 期生 4 名、2 期生 6 名の計 10 名であ

る。自社に戻って企業内で活躍しているのは、1 期生 7 名、2 期生 8 名である。

40

(2) 第 1 期カリキュラム

インストラクターに必要なスキルを習得すべく、地元企業出身の教員のノウハウを生かし、

ものづくりに関連するカリキュラムを作成した。初めての開催であったことから内容が網

羅的になった。

テーマ 時間数 講師 内容

ものづくりの基礎

概念

2.5 伊藤洋 ものづくり現場の生産管理・技術管理の体系を総合的に

把握し、各分野の位置付けを理解する。

競争力と企業パフ

ォーマンス

2.5 ものづくり現場の組織能力、競争力、収益性など、企業

の実力を測定する諸指標と測定方法、それらの相互関係

などを相対的に理解する。

コストと生産性 2.5 石川裕之 原価管理・原価改善の概念と目的を把握し、さらに生産

性の定義・管理アプローチの改善方法を理解する。

納期・工程管理・フ

レキシビリティ

2.5 柴田孝 各工程における工程設計、在庫管理などの基礎概念を理

解し、問題発見のポイント、目の付け所、改善指導の進

め方などを体系的に理解するとともに、QCD に加え第

4の競争力要素として必須であるフレキシビリティの

概念、構成要素の理解を通じて、ものづくりにおける全

体最適化についての理解を深める。

製品開発プロセス 2.5 柴田孝 技術・設計・開発部門における新製品開発管理の基礎概

念を体系的に理解する。

製品開発と総合商

品力

2.5 柴田孝 イノベーションと総合商品力との関係を体系的に把握

し、総合商品力を高める開発組織のあり方、総合商品力

改善のための様々な方策を理解する。

ものづくりと IT シ

ステム

2.5 阿部武志 ものづくり現場全般における IT システムの導入につい

て、その有用性や注意点などを理解する。

「見える化」を超え

る現場の IT 活用

5 奥雅春 ものづくり現場のグローバル化や分散が進む中、それぞ

れの現場を総合的に「見える化」するために、 IT を活

用した手法や基礎概念を理解する。

品質管理の基本 2.5 松田修 ものづくりの各工程における品質測定・品質管理などの

基礎概念を理解し、問題発見のポイントについて理解す

る。

これからの品質管

2.5 松田修 これからのものづくり産業における品質管理システム

について重要な視点、具体的な進め方など体系的に理解

する。

ものづくりに必要

な管理会計

2.5 石川裕之 ものづくり現場の生産性向上等改善成果を評価するこ

とができる、技術者のための基本的管理会計を学ぶ。

標準原価会計 2.5 石川裕之 ものづくり現場における投入資源の利用能率を高めて

行く原価管理を習得するため、標準原価についての基本

的知識を学ぶ。

これからの管理会

2.5 石川裕之 グローバル化する中で、これからの技術者としての管理

会計の考え方を習得する。

これからのものづ

くり人材像

2.5 安房毅 ものづくり現場の人材の理想像、人材育成方針や方法な

どを学ぶ。

41

コンサルティング

研修

5 伊藤弘一 ものづくりインストラクターとしてのコミュニケーシ

ョンを中心とした基本動作・心得、コンサルティングの

基礎知識を習得する。

生産マネジメント 2.5 阿部武志 現場改善における、経営者とものづくり現場との関係に

おいて指摘される各種問題に対し、総合的かつ論理的に

解決するマネジメントの仕組みづくりを習得する。

生産革新概論 2.5 柴田孝

伊藤洋

国谷晃雄

堀井求

トヨタ方式による生産管理について学習し、計画、品質

管理、工程管理、信頼性、開発、問題解決、論理的思考

方法等に関した生産システム全般について理解を深め

る。

ものづくり現場見

2.5 伊藤雄三

国谷晃雄

堀井求

地域企業のものづくり現場において、改善の取り組み事

例を学ぶ。

生産革新(現場改善

実習①)

2.5 松田修

伊藤洋

国谷晃雄

堀井求

受入先企業の現場において、業務を理解し、現場診断を

実施。課題を抽出し、解決に向けて実効性のある対策を

検討する。

生産革新(現場改善

実習②)

2.5

生産革新(現場改善

実習③)

2.5 柴田孝

松田修

伊藤洋

国谷晃雄

堀井求

実習受入先企業のものづくり現場における改善の提案

書を作成。

プレゼンテーションの準備を行う。

生産革新(グループ

討議)

2.5

生産革新(成果発

表)

2.5 松田修

伊藤洋

国谷晃雄

堀井求

現場改善実習の成果と反省点についてグループ発表を

行い、受講生間で知見を共有する。

計 62.5

表 8 山形大学インストラクター養成スクール 第 1 期カリキュラム

(3) 第 2 期カリキュラム

現場指導に必要な知識に特化してより実践的なカリキュラムを目指すとともに、現役企

業の受講生の負担を減らすため、第 1 期に対して総時間の短縮を図った。現場実習におい

て、先輩インストラクター1 名も指導に加わった。

テーマ 時間数 講師 内容

ものづくりの基礎

概念

2.5 伊藤洋 ものづくり現場の生産管理・技術管理の体系を総合的に

把握し、各分野の位置付けを理解する。

競争力と企業パフ

ォーマンス

2.5 ものづくり現場の組織能力、競争力、収益性など、企業

の実力を測定する諸指標と測定方法、それらの相互関係

などを相対的に理解する。

納期・工程管理・フ

レキシビリティ

2.5 柴田孝 各工程における工程設計、在庫管理などの基礎概念を理

解し、問題発見のポイント、目の付け所、改善指導の進

め方などを体系的に理解するとともに、QCD に加え第4

の競争力要素として必須であるフレキシビリティの概

念、構成要素の理解を通じて、ものづくりにおける全体

42

最適化についての理解を深める。

製品開発プロセス 2.5 柴田孝 技術・設計・開発部門における新製品開発管理の基礎概

念を体系的に理解する。

設計情報説・投下資

本回収率・組織能力

2.5 柊紫乃 原価管理とものづくりとを一体的に把握し、生産性の定

義・管理アプローチの改善方法を理解する。

「見える化」を超え

る現場の IT 活用

5 奥雅春 ものづくり現場のグローバル化や分散が進む中、それぞ

れの現場を総合的に「見える化」するために、IT を活用

した手法や基礎概念を理解する。

品質管理の基本 2.5 松田修 ものづくりの各工程における品質測定・品質管理などの

基礎概念を理解し、問題発見のポイントについて理解す

る。

これからの品質管

2.5 松田修 これからのものづくり産業における品質管理システムに

ついて重要な視点、具体的な進め方など体系的に理解す

る。

ものづくりに必要

な管理会計

2.5 伊藤雄三 ものづくり現場の生産性向上等改善成果を評価すること

ができる、技術者のための基本的管理会計を学ぶ。

標準原価会計 2.5 伊藤雄三 ものづくり現場における投入資源の利用能率を高めて行

く原価管理を習得するため、標準原価についての基本的

知識を学ぶ。

これからの管理会

2.5 柊紫乃 グローバル化する中で、これからの技術者としての管理

会計の考え方を習得する。

コンサルティング

研修

5 伊藤弘一 ものづくりインストラクターとしてのコミュニケーショ

ンを中心とした基本動作・心得、コンサルティングの基

礎知識を習得する。

生産革新概論 2.5 鈴木喜代美

トヨタ方式による生産管理について学習し、計画、品質

管理、工程管理、信頼性、開発、問題解決、論理的思考

方法等に関した生産システム全般について理解を深め

る。

生産革新(現場改善

実習①)

2.5 柴田孝

松田修

長澤貞治

国谷晃雄

堀井求

受入先企業の現場において、業務を理解し、現場診断を

実施。

課題を抽出し、解決に向けて実効性のある対策を検討す

る。

生産革新(現場改善

実習②)

2.5

生産革新(現場改善

実習③)

2.5

生産革新(現場改善

実習④)

2.5

生産革新(グループ

討議)

2.5 実習受入先企業のものづくり現場における改善の提案書

を作成。プレゼンテーションの準備を行う。

生産革新(成果発

表)

2.5 現場改善実習の成果と反省点についてグループ発表を行

い、受講生間で知見を共有する。

計 52.5

表 9 山形大学インストラクター養成スクール 第 2 期カリキュラム

43

(4) 第 3 期カリキュラム

第 3 期養成スクールは、当初平成 25 年度の開催を予定していたが、期待した外部資金の

公募事業が廃止となったため、開催を断念した。休校したことにより、現場診断のステッ

プ標準化、経営者とのコミュニケーションなどの実践的な知見を蓄えることができ、これ

らを平成 26 年度の第 3 期養成スクールに反映することが出来た。

平成 26 年度は、山形大学学長裁量経費を運営費として開催した。3 期では開校当初から

の「よい流れをつくる」をより明示的にすることを目的としてカリキュラムの手直しを行

った。具体的には、現場実習時間の拡大(前回の 2 倍以上)、実践に沿った講義内容に加え、

インストラクター同士のネットワーク化を図るため、先輩インストラクター4 名に現場指

導に参加してもらうことにした。

テーマ 時間数 講師 内容

ものづくりの基礎

概念

2.5 伊藤洋 ものづくりインストラクターとしての基本姿勢とものづ

くりの基礎概念とは何かを理解する。

競争力と企業パフ

ォーマンス

現場でのものづくり組織能力の大切さと収益力、インス

トラクターの仕事領域、パフォーマンスの計り方を理解

する。

良い設計良い流れ

のものづくり

2.5 柴田孝 固有技術をつなぎ「設計情報の良い流れ」を作る「もの

づくり技術」を理解する。

経営戦略論 ,マーケ

ッティング論

2.5 今野千保 会社経営に必要な、戦略,マーケッティング論を理解す

る。

アメーバ経営によ

る経営改革

2.5 柴田孝 全員参加経営で現場力を生かすアメーバ経営による経営

改革について理解する。

品質管理の基本 2.5 松田修 「ものづくり」で取り上げる品質の範囲と定義、品質管

理のアプローチ、現場での兆候の発見方法などを理解す

る。

モノと情報の流れ

2.5 成沢俊子 モノと情報の流れ図を使い現場の見方を理解する。(その

1)

2.5 成沢俊子 モノと情報の流れ図を使い現場の見方を理解する。(その

2)

生産革新理論,J コ

スト論

2.5 田中正知 トヨタ生産方式の基本的な考え方を現場の見学や議論や

講義を通して経営革新(生産革新)の考え方、J コストを

理解する。

中小企業経営に役

立つ管理会計

2.5 上總康行 管理会計の基礎を習得し、特に中小企業の経営全般に役

立てる理論と方法論を理解する。

ものづくり現場に

おける資金のよい

流れ

2.5 柊紫乃 ものづくり現場における資金(お金)の流れと、流れづ

くりを支える組織・人材について理解する。

現場改善の進め方 5 国谷晃雄 ものづくり現場に立ったときの基本パターン(兆候から

定石への展開)を理解する。

コンサルティング

の基本

5 伊藤弘一 経営者や企業人と協力し、いかに効果を上げるかという

視点に立った活動の進め方を理解する。

44

現場改善実習 25 柴田孝

国谷晃雄

長澤貞治

佐藤裕孝

原田善吉

西山和義

伊藤豊幸

チームに分かれ、企業の現場で現場診断及び改善策を検

討する実習を行う。

現場診断結果報告

と改善策提案

2.5 現場実習先に対して、チーム単位による現場診断結果報

告と改善策の提案を行う。

計 62.5

表 9 山形大学インストラクター養成スクール 第 3 期カリキュラム

3 期養成スクールには、診断・指導を経験した企業 4 社から、受講生として 6 名が参加

した。このことは、企業が有効性を実感し、受講生を参加させたものであり、連続して受

講生を参加させたいとの声を頂いている。

45

3-3-2. インストラクター養成スクールの現状と課題

養成スクールではこれまで毎期、当該スクールの成果確認と主催者側が PDCA を回して

次期以降の取り組みを進化させることを目的する「受講生アンケート」を実施してきた。

1 期生(22 名)、2 期生(27 名)についてはスクール終了時のみ実施であったが、今回

の調査にあたり、3 期生(20 名)については受講成果や今後への課題などをより具体的に

精査すべく、受講生全員の協力を得て各講義終了時に全件アンケートを実施した。

あわせて、教わる側と教える側双方向での分析をすべく 3 期スクール講師(9 名)にも

アンケートを実施した。さらに、過去にスクールを修了し、現在インストラクター活用事

業で実際に支援活動を行っているインストラクター(10 名)のヒアリング調査においても、

かつて受講したスクール内容について現役インストラクターの立場からこれを振り返って

もらった。これらの調査結果を総合することで、スクール事業の課題を抽出する。

(1) 養成スクール受講生アンケート

ⅰ) 受講動機

まずは、インストラクター養成スクール 1 期、2 期、3 期生それぞれに、受講をしよう

と決めた動機、どういう目的があったのか尋ねた(複数回答)。

受講目的の最多回答が期によって変化してきている。1 期生では「これまでの経験や知

識を体系的に整理するため」という自己総まとめ的な位置づけが全体の 3 割近くを占めた

(12 名)が、2 期生では「業務改善等に係る新たな知識を習得するため」が最多(15 名)

になり、3 期生では同じく「業務改善等に係る新たな知識を習得するため」と「企業(自

社を含む)の業務の具体的な改善を図るため」が並んだ(いずれも 9 名)(図 41)。

自分自身の経験の振り返りをすることで社会に役立つという初期のスクールで意図し

て(主催者側が仕掛けた)目的から、今まさに取り組んでいる業務課題への解を求めると

いう即効性のある動機へと、期を重ねるごとに若干ではあるがシフトが起きている。

図 41 スクール 1 期~3 期の受講動機

この傾向は、各期の受講生の構成とも関係する。1 期生はスクール開始当初の募集意図

も影響して企業 OB が比較的多かったが、2 期、3 期と企業現役の割合が増える(1 期 50%、

2 期 63%、3 期 75%)方向で推移した。3 期では現役大学院生も加わりさらに平均年齢を

下げたという事実もある。また、2 期で 5 名、3 期で 1 名の金融機関現役の参加があった。

出身母体についての多様性を含め、これらが受講動機にも反映されたと考えられる。

このことは、地域スクールというのは限られた域内での受講生募集であるため、特定の

46

意図に沿った層だけではなく、現在課題を抱えている様々な人材(現役、OB ともに)が

集まるわけで、いきおいその全体を対象にせざるを得ないという状況を示す。しかしなが

ら、これは必ずしもマイナス要素ではない。確かに、比較的高い年齢層に相当する「地域

のベテランものづくり人材」の発掘は、地域スクール構想初期からの命題であるが、一方

で、地域特性に合わせて「その地域が必要とする『ものづくり人材』を輩出する」という

重要ミッションを鑑みれば、多様性にいかに対応するかというのがむしろ今後の「地域ス

クールとしての課題」となる。実際に 3 期では地域企業から初の女性管理職 2 名も参加し

研鑽を積んだ。このようなケースが拡がるような仕掛けも今後の課題である。

とはいえ、受講生を漫然と想定すれば、それだけカリキュラムが総花的になり、実効性

が下がるリスクもある。そこで、今回の調査を機に、改めて「誰のためのスクールか」を

検討するため、山形大学が推進しているインストラクター事業においてスクールが輩出し

地域で活躍してもらう「シニアインストラクター」について再定義を試みた。

すなわち、「ものづくり、あるいはものづくり概念を適用できるあらゆる実践現場にお

いて、自ら努力し、他人をまきこみ、共に成長し続けることのできる率先人材」である。

「シニア」とは、「すぐれた」「率先垂範できる」「キラリと光る」地域人材の総称である。

ⅱ) 講義

講義について 1 期、2 期、3 期の受講生からアンケートで満足度を調べている。ただし、

1 期、2 期ではあらかじめ層別した 5 分野ごとに尋ねたが、3 期では今回の調査意図もあり、

全講義を個別に質問した。なお、図 42、図 43 ともに全体傾向を見るための平均値である。

図 42 スクール 1 期、2 期の満足度(全分野の平均値)

1 期、2 期では、「非常に参考になった」「参考になった」の合計が 90%以上と高い満足

度を示している。また、1 期 2 期とは厳密な意味で評価継続性のない 3 期も、「充分に満足

した」が 6 割近くを占め、「分かり難かった」は 5%にとどまっている。

図 43 スクール 3 期の満足度(全講義の平均値)

さらに、3 期では講義ごとにも尋ねている(図 44)。「充分に満足した」という回答が最

47

も多かった講義は『コンサルティングの基本』であった。この講義は、講師の分かりやす

さについても満足度が高かった。両者、すなわち「分かりやすさ」と「満足度」の間に何

等かの関連性が示唆される。

図 44 スクール 3 期の満足度(各講義)

一方で、分かりやすさが高いにもかかわらず満足度が低めという傾向が、『アメーバ経

営による経営革新』、『生産革新理論、Jコスト』、『品質管理の基本』において見られた。

先ほどの傾向と異なる要因を解明するため受講生のコメントを見ると、以下のような指摘

があった。

・時間がない中でより多くのことを伝えようとしてくれたのだが、資料があってもほ

とんど説明されずに飛ばされたものが多く、時間不足であった。

・講師自身も言っていたが、盛りだくさんの内容を短時間の中に詰め込まれたように

思う。

この他にも、今回のアンケートでは受講生から講義時間(の短さ)に関する意見が多く

出された。全般的に、時間内に全ての講義内容理解しきることが難しく、未消化で終わっ

たと感じている。あるいは、講師自身からも後述のアンケートにあるように、時間不足を

感じたというコメントを寄せられた。

このような講義、特に初めて聞くに近い内容についての受講は、いくら時間をとっても

充分とは言えないという想定はされるものの、限られた時間の中でいかに効率よく、受講

生が納得、満足して取り組めるかというのは永遠の課題でもある。そのヒントが講師アン

ケートの中から見出された。すなわち、「主催者側との講義の詳細な事前打合せがなかっ

た」との指摘である。講義内容の打ち合わせが充分ではなく、担当講義のプログラムを絞

り切れなかった結果、受講生にも講師にも不満感が残ったと推測される。主催者側として、

講師との間でのプログラム「内容と範囲」事前すり合わせの充実が望まれる。

ⅲ) 現場実習

スクール後半のプログラムの目玉である「現場実習」について尋ねると必ず出てくるの

が「時間が足りない、短い」というコメントである。当初からのこのような声も反映して、

3 期では 1 期、2 期に比べて現場実習の時間を 2 倍以上にしたが、それでも 53%と半数超

の受講生が「短い」と回答した(図 45)。実習の際の人数構成については、3 期は 1 グルー

48

プ 6~7 名につき先輩インストラクター1 名が専属でつき、さらに統括指導に講師 2 名が巡

回した。こちらについては、95%の受講生が「丁度良い」と回答している。

図 45 現場実習の時間(3 期) 図 46 現場実習の人数構成(3 期)

現場改善がそれほど簡単なものでない以上、さらに長い時間をかけても、おそらく時間

的に満足という状況にはなり得ないことが想定できる。しかしながら、スクールとしての

「実習」である以上、改善に終わりはなくても、カリキュラムに区切りは必要である。こ

れは「どこまで実習するか(時間をかけるか)」の前に「この実習で何を学んでもらうか」

についての精査が必要であることを如実にあらわしている。すでに修了した 2 期生までが

実際にインストラクターとして活躍している。彼らの知見をフィードバックして PDCA を

まわすことで、この解を探っていくのが今後の課題であるが、これまでの知見をここでま

とめておきたい。

現場実習を行って「学んだ事」、「もっと学びたかったこと」、としての主なコメントを

列挙する。

<現場実習で学んだこと>

・VSM の実際の作成体験やビデオ分析、マンマシンチャートの実際の作成体験・問題

点の見つけ方。

・兆候の見定め方・改善提案の進め方。

・座学で学んだことを実践で学習できた。

・工程を知るには、現場で働く従業員に聞かないと理解出来ないことが多くあり、診

断の重要性を認識した。

・自分の経験の少なさを思い知った。

・知恵やアイディアは自分だけではなく、グループのメンバーで話を出すことで、よ

りよいものとなり自分も学ぶことが出来た。

これらの学びは、①実際の改善現場で使えるツールに対する取得と習熟、②体験するこ

とでわかる知識の実装化(座学から実践へ)、③診断、すなわち「問題を発見すること」の

重要性認識、④自らの足りないところへの気づき、⑤チームで取り組むことの意義の実感、

などの効果に分けられる。中でも、「やってみて初めて分かる」という経験は、実際の支援

活動に際して指導先メンバーに同様の体験をさせる動機付けとなり、さらに「問題は見つ

けることが大事」という気づきもインストラクターとしての重要な知見となるはずである。

このような実習で学ぶ(体験、体感する)目的の達成には、カリキュラムの練り上げが

喫緊の課題であることも再認識された。多くの受講生が実習先企業(改善道場提供)での

初めての改善活動に戸惑い、チームで連携して段取りよく進めることに困難を感じている。

49

<現場実習でもっと学びたかったこと>

・VSM を使った、モノと情報の流れを(ひととおりではなく)しっかりと学びたかっ

た。

・今回は提案だけで終わったが、提案を具現化する為にどのような手法が必要か教えて

頂きたかった。

・その後の改善の方向性や、実施してからの成果などを、長時間には渡るが(今後継続

して)確認したい。

・現場改善から(さらに)財務改善まで踏み込んで学びたかった。

ツールの習得を深めたいというものから、その先の処方箋作成、あるいは、さらにその

先の現場改善成果までこだわりがでてきていることがうかがえる。現場実習を進める中で、

実習先企業の実際の問題点を見つける過程で多くの気づきが生まれ、それが「もっと学び

たい」という気持ちにつながったと考えられる。コメントで最も多かったのが、「実習先で

提案した内容の効果の確認がしたい」であった。スクール修了後も継続的に情報共有を希

望していると考えられる。

このような継続的フォローは、受講生、あるいは修了生としてのインストラクターに対

するものだけではない。改善道場として現場を提供して頂いた地域企業に対して、そのま

ま修了生が改善活動に入ったというケースが、2 期ですでに起きている。地域スクールの

良さとして、地域内での様々な機会をとらえた全方位の関係性構築は、今後も大きなポイ

ントになるであろう。

さらに、現場改善の域を超えて財務改善まで(取り組みたい)というのは、当該スクー

ルの時間的制限や主目的としてはなかなか難しいものの、実支援に入ってからの重要課題

であることも確かである。これらについては、スクールを修了して支援開始したインスト

ラクターの継続的、発展的研鑽(スキルアップセミナー、上級スクールなど)が相当する。

これらについては第 4 章で詳述する。

ⅳ) スクール全般に対する要望

最後にスクール(育成事業)全般に対するコメントを求めたところ、多くの受講生から

率直かつ前向きのコメント、提案が寄せられた。その一部を以下に紹介する。

<1 期生>

・第 2 期、第 3 期と続けてほしい。また、修了者で定期的な交流を続けたい。

・現場実習の時間がもう少し長いとより深い実習が行える。実習の改善成果まで見届け

たかった。

・TOC(Theory of Constraints、制約理論)について具体例をあげた講義があれば、なおよ

かった。

<2 期生>

・同スクールの主旨である、生産革新の講義にもっと時間をとってもらいたかった。

・コンサルティング研修は非常に参考になり、この時間(講習)をもっと長くし、より

深いコンサルティングのスキルを習得したい。

・現場実習の時間を長くとり、具体的に改善が実行できるレベルまで提案できる内容に

してほしい。

講義内容に対するコメント同様、現場指導に必要な知識に対して特に要望が高い。実践

50

的なカリキュラムが望まれている。このことは、後述のインストラクターヒアリングでは

さらに強くでている。また、現場実習についてはこれらの要望を踏まえ、実習内容も充実

させたため、3 期において大幅に見直し、従来の 2 倍以上の時間設定とした。

<3 期生>

・難しすぎてわからないことも多くあるので、復習の意味等も込めて定期的に学習会等

を開いていただきたい。

・受講者のレベルの(に対して)ある一定の基準(が必要)、又は、経験少ない人は事

前の課題図書義務化など(の配慮が望ましい)。

・各講義で必要な基礎知識は身についた。しかし、ほとんどの講義が基礎で終わるため、

その応用実例等をもっと学びたかった。

3 期における実習時間大幅拡大にもかかわらず、まだ短いという声は前述したが、この

他に、学んだことの復習の機会や応用編への期待も明示された。また、受講生の多様化に

ともない基礎知識や経験値のばらつきを指摘するコメントもあったが、地域事情を理解し

てか、対象(受講生)を絞り込むべきと言う意見ではなく、むしろ多様性への配慮を求め

る方向での発言は特徴的である。「地域の中で学びを求める様々な人材」に対して「誰が、

どこまで応えるか」という点は、地域スクールの価値であり課題でもある。

ⅴ) アンケート全体からの課題

以上のアンケート結果をまとめると、全期を通じて多かったのが「講義・実習時間拡大」、

「実習先の効果の確認機会」、「スクール終了後のスキルアップ研修」などを望む声である。

受講生の声から得られる知見としては、「カリキュラム内容の充実」はもちろんだが、

そのためには、知識レベルやニーズが広範な地域からの受講生に対応する「柔軟かつ基本

を押さえたカリキュラム」編成や、終了後の継続的情報発信やスキルアップの機会設定が

必要である。カリキュラムの充実には当然ながら予算がかかるため、これらの財源確保の

問題も含め、これらは今後の課題である。

(2) 活動中インストラクターヒアリング

さらに、今回の調査では、スクール修了直後ではなく、その後、実際に支援活動に従事

した上でのスクールに関する意見、「こんなことを学びたかった」という振り返りと、実際

に活動中インストラクターにヒアリングした。

ⅰ) 受講動機

再度、過去を振り返って、スクール受講当時の自らの動機を尋ねたところ「足りない知

識を補う機会」、「生産管理、サプライチェーンを学びたい」、「経理関係の勉強がしたい」

等の、「自己成長欲求」と「社会貢献欲求」が顕著であった。特に、フリーコメントながら

「世の中の為になりたい」という明確に同じ表現が 10 名中 5 名に共通して見られた。個人

のモチベーションを地域に活かすというインストラクター事業開始以来の基本コンセプト

と一致している。

ⅱ) スクールカリキュラム

修了時に一度聞いている質問であるが、改めてスクールカリキュラムについて質問した。

これは、実際の支援をしてみて、どんな知識やスキルが役に立ったのか、欲しかったのか

を確認する意図がある。

51

まず、10 名中 5 名が『コンサルティングの基本』への満足度が非常に高かった。また、

改めて実習時間が不充分との指摘も多かった。これらはスクール修了時のアンケートとも

整合し、実務でも裏付ける結果となった。

それとは別に、活動後のインストラクターに目立つニーズとして、コンサルティングス

キル以外に、実践の際に参考になっている講義として『原価低減』、『管理会計』、『品質管

理』があがった。『品質管理』の講義の中で豊富に紹介された参考文献への感謝(評価)も

見られた。これなどは、スクール時点での時間制約を克服するヒントになり得るだろう。

一方で、「現場改善(指導)のイロハは具体的に教わってない」、「実習はもう少し時間

をとってもいい」などの実践に絞った感想が多く聞かれた。今回のヒアリング対象は、1

期、2 期生であるので、現場改善実習の時間についてはすでに拡大しているが、改善指導

のイロハについては、今後、さらにカリキュラムを作り込んでいく必要がある。

ⅲ) スクールに対する今後の要望

さらに将来を見据えて、発展的内容に関するコメントも多く見られた。

・リーン(生産方式)について(の講義)はいらないと思っていたが、活動してみる

と、もっとやるべきだったのではないかと思っている。

・サプライチェーン、ロジスティックについて学べると良い。

・中小企業で実際に指導して、うまくいった事例を紹介してほしい。

・オーナー企業の経営者の実態を理解しておくようなプログラムがあったらいい。

・講義の一つとして「工場視察のチェックポイント」のようなものがあるといい。

・フォロー(スキルアップセミナーなど)は年 1~2 回は開いて、(希望する)全員が

集まれるようにしてほしい。

山形大学の育成事業(スクール)で特に重視する「流れづくり」については、リーン生

産方式という講義だけでなく、あらゆる講義を通じて強調しているが、まずはその有効性

について説明を深める必要が明らかになった。また、実践の中から実際に出てくる課題と

して、サプライチェーンや、中小企業に特化した具体的事例、経営者との関係性構築など

を求めていることがわかった。また、これらを含めて、半数以上が、継続的スキルアップ

の機会として「スキルアップセミナー」、「実習報告会(情報交換会)」などの開催を希望し

ていた。また、集合研修だけでなく、「HP などで、随時、情報共有がしたい」との声もあ

った。このような専用のデータベース構築については、セキュリティ管理、メンテナンス

などを含め、早急かつ継続的な体制検討が必要である。

ⅳ) インストラクターヒアリングからの課題

以上を整理すると、実践で活動することで出てくる更なるスキルアップへの希求や、専

門的知識へのニーズが明らかになった。全てをスクールカリキュラムに入れ込むことは時

間的にも難しく、また、かえって消化不良をおこしかねない。そこで、どこまでを基本カ

リキュラムに含めて練り上げるか、何を継続フォロー、あるいは上級スクールにおいて発

展させるかは今後の検討課題である。

52

(3) 講師アンケート

ⅰ) アンケート結果

3 期では受講生だけでなく講義の担当講師に対してもアンケートを実施し、講師 10 名の

うち主催者を除く 9 名の回答を得た。質問項目①~⑮についての回答結果と主なコメント

を示す。

<スクール運営>

①スクール開催時期、期間、頻度

期間については、全員が「適当」と回答した。時期と頻度では 9 名中 7 名が「適当」

と回答した。「改善の余地あり」と回答した講師の個別コメントは以下のとおり。

(時期について)

・雪が降る前の年内終了が良いのでは(9 月から 12 月実施)。

・インストラクターの実務に必要な時間が足りない。

(頻度について)

・可能であれば週 2 日がよいと思います。

・現場改善に入ってからは週 2 日として、資料分析およびまとめの自主活動日を設定

した方がよいと思います。

②スクールの開催場所

8 名が「適当」と回答した。「改善の余地あり」とした 1 名はよりアクセスのよい(駅

近)山形大学の別施設での開催を提案した。

③講義時間(1 日 5 時間)

講師の半数以上(5 名)が「改善の余地あり」。主なコメントは以下のとおり。

・受講生の「勤務時間」は 8 時間(なので)、5 時間で切っても残り 3 時間の使いよ

うがない。講義内容で長短調整して、正味7時間まで使うべきではないか。

・7 時間を 2 時間×3 コマで、残りを休憩にする。

・私が担当している講座であれば、あと1時間程度あるとやり易いです。

・1日 6 時間はほしいところです。(遠方からの参加者を考慮すると工夫を要する)。

・必要に応じて補習時間がとれるとよい。

④スクール運営全般

「このままで良い」6 名、「改善の余地あり」3 名であった。「このままで良い」に関わ

るコメントは、以下のとおり。

・参加者の皆さんが目的意識を持っていること。スクール参加者募集の際に、スクー

ルで何を学べるかをしっかりお伝えしているのだと感じました。

・現場改善に対して、研修修了生(1 期生、2 期生)がインストラクターを努めた事

は良かった。

「改善の余地あり」とした講師のコメントは、以下のとおり。

・今回はまず(主催者が担当する)講師を選び、(講師)全員に 2.5 時間ずつ話をさ

せたが、まずどういう構成の講座にすべきかを考え、それに所要時間を割振り構成

すべきと思う。

・スクール初めの意識づけ、修了あとの総まとめの質問(時間)があるとよい。

53

⑤その他のスクール運営

スクール運営について自由に意見を書いてもらった。以下のような提案があった。

・昼食は弁当をとって皆で食べることも考えてみたらどうでしょうか。話が弾みます

よ。

・目標は何か?・・山形県の置かれている立場から見ると、定年退職者を活性化して

再雇用するという前に、企業経営そのものをどう活性化するかという「トップマネ

ジメント講座」が必要ではないのか。その後で「シニアインストラクター」となる

はずです。

・研修の後半、現場改善について担当させて頂いたが、座学の構成に関してある程度

理解をしておく必要性を感じた。受講生に配布された資料が入手出来れば、(講師と

しても)予備知識を学んでおきたかった。

<担当科目>

⑥担当した講義テーマの運営事務局とのすり合わせ

5 名が「十分理解できた」と回答、「不十分なところがあった」1 名、「その他」3 名で

あった。主なコメントは以下のとおり。

(不十分)

・ものづくり全体を理解してもらうためには時間不足だった。質問時間もとるべき。

(その他)

・今回は詳細講義の事前打ち合わせが無かったので、東京大学 MMRC での講義その

ものを使いました。これで良かったのでしょうか。

・今回は、当初から「モノと情報の流れ図を」とご説明頂いていましたから、大きな

迷いはありませんでしたが、他の先生方が教えていらっしゃる内容と重複があるか

もしれないと少し気になりました。また、「モノと情報の流れ図」は「到達目標」を

設定しやすいテーマですが、その他のテーマでしたら、到達目標をどのレベルに置

くのかを事前にご相談することができればありがたいです。

⑦講義の到達目標設定

到達目標をどのように設定したかを自由に答えてもらった。主な回答は以下のとおり。

・目的も対象者も知らないままに参加しました。東京大学 MMRC と同じように話し

ましたが、レベル差を感じています。

・現場改善の進め方の講義を担当し、現場改善実習の経過を観察することで受講生の

理解度を確認した。

・管理会計に関しては全員初心者として講義しました。

⑧講義の中で意図した内容を伝えられたか

「伝えられた」5 名、「伝わらなかった」1 名、「わからない」3 名であった。

⑨講義の時間

適当 3 名に対し、6 名が「改善の余地あり」と回答した。主な改善提案は以下のとお

り。

・最低4時間は必要。

・話したいことはたくさんあり、時間が不足気味、理解度を上げようとすればもっと

時間が欲しい。

・VSM の活用に関して、現状の姿から流れを阻害している問題点を抽出し「兆候シー

54

ト」に展開する。

⑩講義室の環境や受講生の雰囲気など

全ての講師が「講義しやすかった」と回答した。

<スクール全体カリキュラムについて>

⑪カリキュラムのボリューム

「適当」7 名、「改善の余地あり」1 名からは「新しい改善のノウハウに関する部分が

少ない」という指摘があった。

⑫担当以外のカリキュラム(内容、テーマ揃え)

「適当」3 名に対して、「改善の余地あり」が 5 名。主な意見は以下のとおり。

・講義内容のすり合わせが必要ではないだろうか。

・改善を指導・サポートする人として必要な、コミュニケーションスキル、問題の真

因を追究するための対話方法といったノンテクニカルスキルも織り込まれるとよい

と思います。

・他講師が講義された VSM 手法の活用方法と私の担当した現場改善の内容の整合性

をとる必要を感じた。

⑬カリキュラム内容を『初級コース』、『上級コース』に分ける必要性

「必要あり」、「必要なし」の回答が半々であった。「必要あり」と回答した講師からは、

上級コースに対し「時代に即した内容」「実習実技中心」などの提案があった。また、

すでに実施しているスキルアップセミナーへの評価もあった。一方で、「必要なし」回

答に関するコメントは以下のとおり。

・初級レベルと上級レベルで内容の違いはないと思う。専門用語はその都度解説して

いけばよいし、質問時間を設けて理解度を確認して進めればよい。

・受講生の多くは、現役の方であり、職場の中での改善指導する上では、現在のカリ

キュラムで十分だと思います。

・初参加でもあり、初級・上級という区分がよいかどうかの判断はできませんが、イ

ンストラクターとして経験を積みながら、ブラッシュアップすることは必要と思い

ます。また、独立した「からくり的な改善」のコースがあってもよいと思います(改

善を進めていくと、いずれ必要になるものですが、実務に役立つ公開講座は少ない

ように思います)。

<受講生について>

⑭受講生のモチベーション、レベル

モチベーションについては「高い」7 名、無回答 2 名。レベルについては、「高い」8

名、無回答 1 名。主な感想は以下のとおり。

(モチベーション)

・目的意識を持って参加されている点。

・講義を真剣に聞き内容も理解されていた。

(レベル)

・企業在籍者は、自社の状況を考えながら理解しようとする態度である。コンサルタ

ント希望者はレベルアップをはかろうとする意欲が見られた。

・質問の内容が的を射ている。グループワークでリードできる。

55

・有料での受講、経験者がいたこと。

・問いかけに対してポジティブな姿勢で意見を言ってくれたこと、わからないことは

積極的に質問していたこと。

⑮養成スクールを今後どのような人が受講すべきか

受講してほしい人の「業種」、「職位」についての回答は図 47、図 48 のような結果で

あった(複数回答)。「業種」では『製造業』が多く、「職位」では『管理監督者』が多

い。この結果から、製造業の管理職を対象に社内指導できる人材を育成し、企業内部か

らの改善を促進するといった方向性が示唆される。また、「その他」の意見としては、

製造業以外に『医療・介護』『金融機関』『自治体』などの回答があり、同一コースでは

なく、別コースの設定の提案もあった。具体的な提案(下記)を含め、今後の検討課題

である。

図 47 今後受講してほしい人(業種) 図 48 今後受講してほしい人(職位)

また、その他を選んだ講師のコメントとして、以下があった。

・経営が厳しくなり、昔のような新人教育、中堅社員教育、監督者教育、管理者教育

といった階層別研修を「やれない」「やめてしまった」企業も増えているように思い

ます。企業の人事部門(人材育成担当)の人々も悩んでいると想像しますが、人事

部門や品質管理部門の管理職クラスの皆さんがこのコースを受講することで、社内

の先生として活躍するのに役立つのではないかと思います。

なお、⑪から⑮に関しては、自身の担当カリキュラム外についての質問のため外部講師

には回答できない旨のコメントもあった。

ⅱ) 講師アンケートからの課題

講師からの改善点が圧倒的に多かったのが「講義時間の不足」である。時間配分および

総時間については今後も非常に大きな課題である。一方で、「スクール全体の流れがわから

ない」という意見もあったことから、運営側との目的共有が足りず、講師自身カリキュラ

ムを絞り込めなかったという点も推測される。今後は、講師と事務局が事前に充分に目的

を共有し、同じ意識を持った状態でのスクール運営も重要な課題である。

56

(4) スクールの課題

1 期から 3 期の全受講生、インストラクターとして活動している過年度受講生、3 期講師

から多面的に調査をした結果、以下のような課題が改めて浮かびあがった。

① 養成方針の共有と進化:

講師と事務局がスクールの目的を共有することによって、「スクール全体の流れが

見通せる」体系的なカリキュラムを編成する。さらに、これらは単年度で完結させ

ず、担当講師との事前事後のコミュニケーションを密にすることで、講師からのア

ドバイスを次期スクールの設計に反映していくなどの PDCA をまわすことが必要で

ある。

② クラス・コース設定:

地域スクール受講生の多様性を前提に、広範な対象にどう対応するかという課題

は大きい。一方で、スクールを修了後、実践に入ってから、さらに学びたいこと、

学ばねばらなないことが多いという要望も多かった。これらを踏まえた、受講生の

レベル分けの検討、上級スクールの検討なども課題となる。

③ カリキュラム内容:

前述のクラス設定とも関係して、知識レベル、実務経験が異なる受講生に対して

柔軟に対応できるカリキュラム構成、講義・現場改善実習の時間配分などは、常に

見直しを図っていく基本課題である。

④ 終了後のフォロー:

スクール修了したら終わりというのではない。今期の受講生だけでなく、過年度

修了生に対して、定期的な情報発信ができる仕組みへの希望が多い。インストラク

ターとして支援活動を始めた後のフォローや育成事業との連携も課題である。

⑤ 養成(事業)方針の継続的改善と体系化:

前述の講師と事務局間のスクール目的共有を前提に、受講生、修了生、活動中の

インストラクターなど、今回の調査で対象とした全ての関係者の意見も反映しつつ、

養成事業そのものの進化を図っていく必要がある。「誰もが理解できるスクールの価

値」の構築と発信が必要である。

課題⑤でも述べたように、育成事業全体としては、スクール実施中だけでなく、活用

事業においても、個々のインストラクターが活躍し、地域企業が活性化していくことを

目指して、全体最適での事業運営 PDCA が必要なことは、いうまでもない。これらにつ

いては、第 4 章、第 5 章でさらに検討する。

57

3-3-3. スキルアップセミナー

受講生や活動中のインストラクターの要望や、養成スクール運営上の反省から、インス

トラクターとしての基本スキルを強化し、診断・改善指導のスキル底上げを行うために、

スキルアップセミナーを計 3 回実施した。平成 25 年度以降毎年実施している。

・第 1 回

日時 平成 25 年 2 月 14 日(木) 9:00~18:30

平成 25 年 2 月 15 日(金) 9:00~17:30

場所 山形大学工学部 米沢街中サテライト

講師 東京大学 MMRC インストラクター 国谷晃雄

テーマ

・目で見る管理 5S とは /目で見る管理の実践等

・現場改善の進め方 インストラクターの役割 /改善手順 /改善方法

(マンマシンチャートや QA マトリックスの作成⇒活用等)

講師 東京大学 MMRC インストラクター 堀井 求

テーマ ・5S について

講師 山形大学 教授 柴田孝

テーマ ・生産革新について

・現代の情勢について

参加者 ・受講者 1 期生:6 名 2 期生:16 名 計:22 名

・国際事業化研究副センター長、スクール事務局含め 6 名参観

表 10 第 1 回スキルアップセミナー

・第 2 回

日時 平成 26 年 4 月 1 日(火) 13:00~17:30

場所 山形大学 国際事業化研究センター

講師 山形大学 教授 柴田孝

テーマ ・革新方式を核に生産革新の指導を

講師 山形大学 教授 今野千保

テーマ ・企業と地域の持続的成長を目指して

参加者 ・受講者 1 期生:7 名 2 期生:8 名 計:15 名

・国際事業化研究センター長、スクール事務局含め 2 名参観

表 11 第 2 回スキルアップセミナー

・第 3 回

日時 平成 27 年 2 月 3 日(火) 10:00~16:00

平成 27 年 2 月 4 日(水) 10:00~16:00

場所 山形大学工学部 百周年記念会館

講師 一般社団法人 日本産業訓練協会 主幹講師 山口和人

テーマ 山形大学シニアインストラクタースキルアップセミナー

~ 人の気持ちのつかみ方 ~

参加者 ・受講者 1 期生:3 名 2 期生:6 名 計:9 名

・国際事業化研究センター長、スクール事務局含め 8 名参観

表 12 第 3 回スキルアップセミナー

58

◆ねらい

現在活動中のインストラクターにヒアリングを行った際、半数以上のインストラ

クターから、「コミュニケーション力」の重要性があげられた。そこで、地域の企業に

収益改善指導を行う際に、指導先企業の経営者・従業員と良好な信頼関係を構築する

ために、実際に経験した課題事例を相互に検討し、更にコミュニケーションスキルを

磨き上げることを目的とした。

◆実施概要

一般社団法人日本産業訓練協会 山口和人主幹講師を迎え、9 名のインストラクタ

ーが参加し、2 日間にわたり実施した。

◆カリキュラム

第 3 回スキルアップセミナーカリキュラム内容

◆参加者の感想

「学んだこと」

・話たがらない相手から理由を聞き出すテクニック

・人の欲求を理解し対応する必要性

・傾聴力の重要性(背景の理解)

「もっと聞きたかったこと」

・指導先内での人間関係の問題への対応方法

・経営方針にはどこまで介入すべきか

・初期コミュニケーションのあり方

・事例内容・相互検討は各人の思いが表れて議論が白熱した

・活動中のインストラクターに限定したことで効果が上がり良かった

1 日目 2 日目

(オリエンテーション)

1. 問診のコミュニケーション

※グループワークと小講義

2. 言い分や気持ちのつかみ方

※グループワークと小講義

3. 実施した現場診断と改善指導の現状理解と

相互検討

※事例発表(2 事例)

⇒受講者相互検討

⇒グループ発表とアドバイス

※相互検討の間に講師によるアドバイス

3. 実施した現場診断と改善指導の現状理解と相互検討

※事例発表(6 事例)

⇒受講者相互検討

⇒グループ発表とアドバイス

※相互検討の間に講師によるアドバイス

4. 問題ある経営者とのコミュニケーション

※グループワークとロールプレイング

5. まとめ(小講義)

第 3 回スキルアップセミナーの模様

第 3回スキルアップセミナー<コミュニケーションスキル>

59

3-3-4. 産金官学連携の現状と課題

(1) 金融機関ヒアリングから見えてきた現状と課題

インストラクター養成事業について、知っているか聴取したところ、知っていたと回答

したのは、わずか 4 機関にとどまり、多くの金融機関が山形大学での取組みを知らなかっ

た。(図 49)

一方、その継続の必要性について尋ねたところ、多くの金融機関が必要であると回答し

た。(図 50)

図 49. インストラクター養成事業に対する認知状況

図 50. インストラクター養成事業の必要性に対する認識

今後とも継続的に必要であるとする理由として、「人口が減少する中、経験豊富な OB 世

代の活用は有効」、「顧客企業に生産改善の潜在的ニーズがある」、「関与する全ての人にメ

リットがある(企業、インストラクター、金融機関)」、「カイゼン活動指導の要求の声があ

る」など積極的に評価する声が多かった。

一方で、「20 人くらいの小規模の会社にはトヨタ式生産方式等はハードルが高いのでは

ないか」、「当事者が外部の人を受け入れるまでの必要性を意識しているかどうか問題」と

いった不安の声もあり、「シニアに限らず、現役社員の教育ニーズはある」ので企業側を対

象とした人材育成や意識改革を求める声もあった。

インストラクター養成を継続的に運営するとした場合に、養成を担うべき主体はどこか

理由とともに尋ねた。また、その場合に、金融機関が果たす役割について意見を聞いた。

その結果、大学とするところが 6 機関ともっと多く、国や自治体とするところが 3 機関と

続いた。大学や自治体が養成を担うとしても、経費については国が負担するべきという意

見も多かった。金融機関が果たす役割として、受講者の候補となる企業 OB の紹介や養成

スクールの PR など、受講生を確保するための積極的役割を回答する金融機関が多くあっ

た。(表 13 参照)

60

担うべきと

考える機関 左のように考える理由 金融機関が果たす役割

A 金融機関 NA コンサルティングフィーを得て

やれるところがやるべき

B 金融機関 国、自治体、

県商工会、大学

受講者候補となる取引企

業 OB の紹介

C 金融機関 NA 判らない

D 金融機関 大学 商工会等では人材育成のノウハ

ウがない

E 金融機関 NA

国が、スクールに参加する企業に

対して雇用補助金のような補て

ん措置を用意してくれると参加

促進されるのではないか。

顧客企業の紹介

F 金融機関 大学等

実行できるところ。地域によって

事情が異なる。山形県では山形大

学。

PR。まだまだ全国的には認

知度不足。

G 金融機関 大学 企業と近すぎない距離。情報量の

多さ。

H 金融機関 国と大学 成果が定着し、認知されるまでの

間は、国と大学の負担で。

I 金融機関 商工会議所

地域に近いところが主体となる

方が育成も派遣も責任を持って

行いやすい

金融機関として企業 OB を

紹介する責務はある

J 金融機関 自治体

主体は自治体が担い、経費は国が

支弁し、大学が知見を提供するの

が現実的

入学の動機付けのつなぎ

役を果たす

K 金融機関 大学

これまでの経験からノウハウが

あると思われる。大学ということ

で情報発信できる。

良い人を集めるのに金融

機関から紹介

N/A:Not Answer

表 13 インストラクター養成を担うべき機関と金融機関が果たす役割

61

(2) 自治体ヒアリングにて得たスクールに対する提案

受講者、特に企業 OB 人材の確保、修了したインストラクターの企業内活用など、実現

的な提案をいただいた。また、運営に関しては、「県や市町村などの自治体が独自に行って

いる人材育成プログラムを体系的につなぐ」という提案があり、これは、「人に着目」し「人

を育てる」ための重要な構想であり、是非実現したいものである。

<集客や人材確保>

・企業にスクール受講者を募る

・企業 OB 人材の確保には以下を活用するのがよい

①産業雇用安定センター

②県の振興公社の人材バンク

③取引先からの情報

<企業内活用>

・企業の現役社員がインストラクター養成スクールを修了し、職場で改善活動を行

う際に、先輩インストラクターが修了性をフォローしてあげるしくみ

・企業内で研修システムが出来れば良い

<運営>

・県や市町村などの自治体が、独自に行っている人材育成プログラムを体系的につ

なぐ

・スクール修了生を自治体がコーディネータとして雇用する

・スクールの運営は山形大学がよい

(3) 自治体の人材育成プログラム事例

山形県産業技術振興機構が主催する「ものづくり産業マネジメント人材育成セミナー」

を例としてあげる。

山形県産業技術振興機構は、平成 24 年度から、山形県ものづくり産業マネジメント人

材育成事業として、県内ものづくり企業の経営者・管理者・後継者を対象としたマネジ

メント人材育成セミナーを実施している。山形大学国際事業化研究センターもこれに賛

同し後援している。

最初の 2 カ年度は、東京大学 MMRC や山形大学等から講師を招き、産業構造の変化

や方向性の把握、自社の強みの見極め、産学連携等ネットワークの形成を目的として、経

営者や比較的若い世代を対象に開催してきたが、3 回目の今年度は、企業経営者・後継者

に対象を絞り、成長戦略やリーダーシップ、企業に成長をもたらす経営力の獲得を目指す

研修内容となっている。

山形大学シニアインストラクター養成スクールにおいても、ものづくり経営概論で一

部同じ講師が同様のカリキュラムを提供している。このことから、山形県が企業経営の活

性化の目的でトップ経営者セミナーを提供し、山形大学がシニアインストラクター養成ス

クールにて、それをレビューしながらものづくり概論を講義するという形にすれば、自治

体からの前述の提案に対する1つの解になりえる。各機関が独自に行っている人材育成研

修を長期的視点で企業人のステ-ジに合せて必要な人材育成カリキュラムをつなげ、体系的

に管理されることが望ましい。

以下(図 51、図 52、図 53)は、平成 24 年度、平成 25 年度、平成 26 年度のカリキュラ

ムである。

62

図 52 平成 25 年度カリキュラム 図 51 平成 24 年度カリキュラム

図 53 平成 26 年度カリキュラム

63

4. 「山形大学メソッド」

山形大学はこれまで、インストラター事業を遂行するだけでなく、それらの活動を通じ

て「地域に貢献するための効果的手法と仕組み」について研究してきた。いわば、大学が

主体となって行う地域実践の中で、同時に、主体者が客観的に自らを研究する「アクショ

ン・リサーチ」を行ってきた。これは、地域に根ざした大学のあるべき姿であると同時に、

個別の工学分野の専門性とは別に、実務に直結した「ものづくり(全体)を科学する」と

いう新たな研究分野への挑戦でもあった。

本章では、このようなアクション・リサーチを通じてこれまでに得た山形大学の知見、

「山形大学メソッド」を紹介することで、当該事業の成功可能性を高めることを企図する。

なお、山形大学メソッドそのものが現在進行中であり、今後の進化形については後日を期

すことを付記する。

4-1. 山形大学メソッドとは

山形大学が、これまでのスクール事業実践から得た経験知を、自ら研究分析することで

得た知見を、「インストラクターに必要な「理論」と、現場指導の「実践手法」についての

効果的・効率的なメソッド」として定義したものが「山形大学メソッド」である。

図 54 山形大学メソッド定義

「山形大学メソッド」は、①全体最適の視点で、②標準ステップに則って、③分かる化、

見える化の手法を駆使し、④チーム体制で取り組む「現場実践」である。それにより対象

職場である現場だけでなく当該企業全体に顧客価値の「よい流れ(後述)」を実現すること

を目指す(図 54)。したがってこのメソッドは別名「よい流れ方式」と名付けられる。

流れを最重要視するこの手法は、自動車製造現場発のいわゆる「トヨタ生産システム」

をベースに、東京大学 MMRC 藤本隆宏教授が提唱する「よい設計、よい流れ」という概

念を、実際の現場、しかも製造現場に限らず可能な限りのビジネスの現場で実現するため

の「具体的実践方法論」として山形大学が現在開発中のものであり、最終目的を地域社会

および日本経済への寄与に置いている。

「よい流れ方式」を追究することで、地域企業が自ら変わり、継続的収益改善が適う。

それにより当該企業の顧客満足向上はもとより、当該企業で働く従業員の雇用確保・拡大、

当該企業が立地する地域の産業活性化と、恩恵が連鎖することが重要である。売り手(企

業と従業員)よし、買い手(顧客)よし、世間(地域)よしの「三方よし」現代版として、

「地方価値創成」の基盤となることを目指す。

64

図 55 山形大学メソッド「よい流れ方式」

「よい流れ方式」とはその名のとおり、流れを滞留させず、サラサラと川の流れのよう

に流すことを意味する。この場合の流れには、「モノの流れ」「情報の流れ」といった従来、

生産管理、製造現場で重視されてきたものもあれば、それらを包括する企業全体の投資と

回収、すなわち「お金の流れ」や、それらを実現するための組織のマネジメントコントロ

ールシステム(MCS)、すわなち「組織の流れ」なども含まれる(図 55)。「よい流れ方式」

とは、企業に関わる「あらゆる流れを徹底的によくする」ことにこだわる方式である。

図 56 山形大学メソッド「全体最適をチーム体制で」

このような企業全体の「流れ」を実現するには、部分最適の視点や縦割りの分業体制で

充分とはいえない。製造現場でのノウハウを最大限活かすといっても、実際の企業活動、

経営においてはずすことのできない「全体最適」の視点が非常に重要である。そのために、

インストラクター養成事業では、生産システムにかかわる「よい設計、よい流れ」実現の

ための方法論だけでなく、生産を含むビジネス全体の俯瞰、それらを支える最重要リソー

スとしての人材育成や組織能力構築にも考慮したプログラムが必要である。

もちろん、大前提として「当該企業が実現したい夢や目標」を設定し、それに向けての

スモールステップとして現場改善があるという位置づけも忘れてはならない。このような

大きな構想を実現するのは容易なことではなく、支援するインストラクターの役割につい

65

ても個人の能力だけでは限界もある。そのためには、インストラクターを中心にしながら

関係者が「チーム体制」で連携して柔軟に取り組むことも重要である。これらの取組みは、

いまだ試行錯誤の面もあるが、PDCA をまわすことを自らにも課して継続進化中である。

図 57 山形大学メソッド「標準ステップ」

さらに、山形大学メソッドの中心に、支援ステップの標準化がある。これまでの実践を

基に、汎用性の高い指導ステップを設定し、その上で個別状況にあわせて柔軟に応用しな

がらアクション・リサーチを現在も続けている(図 57)。基本となるのはステップ 1(診断)、

ステップ 2(処方箋作成)である。この段階では、前述のようにインストラクターはチー

ムを組んで取り組むことが望ましい。またこの際に、第 5 章で詳述するプロデューサーの

役割も重要である。さらに、処方箋に納得した企業が希望する場合は、インストラクター

による個別指導に入る。これがステップ 3(基本指導)である。この段階では、チームで

対応する場合もあるが、個人での対応が多い。なお、ステップ 3 について現在の山形大学

のインストラクター事業では企業とインストラクターの間の個別契約を進めている。とは

いうものの、全くの分離ではなく、ここでもプロデューサーの支援、あるいは、インスト

ラクター間の知見交換やスキルアップセミナー実施などのフォロー体制を整えつつある。

これらの基本ステップを踏まえ、ここであわせて強調したいのは、診断に入る前すなわ

ち支援開始段階、あるいはもっと遡って支援前段階での働きかけの重要性である。これを

ステップ 0(ゼロ)と名付ける。ここでは主に 2 つの働きがポイントとなる。ひとつは、

当該企業の置かれた外部・内部環境の概要を把握することである。これによりチーム編成

の調整がなされる。もうひとつは、当該企業の経営層への事前コンタクトである。ここで

は経営者自身が、インストラクターやプロジェクトメンバーにお任せではなく当事者とし

て活動に参画、支援頂くよう理解活動を行う。これが現場改善活動の成否に大きく影響を

与えるというのは、活動当初からの知見であったが、経験によりさらに実証されている。

さらに、最近の知見として、現場の流れづくりによる改善活動からなる課題や当該企業

の支援希望が展開するケースがでてきている。たとえば、現場改善を進めるうちに、進捗

管理その他のための ICT システムの整備が必要になったり、あるいは、生産現場の実力ア

ップを反映できる管理体制の構築が望まれたりといった例がある。第 3 章で述べた、玉澤

精機株式会社の事例における、原価管理や現場データ収集システム SARUM の導入などが

これに相当する。このような応用テーマは、まだ網羅性には至っていないが、現時点で様々

な可能性を込めてこれをステップ n と名付け、今後の継続検討課題としている。

66

4-2. インストラクターの基本スキル

山形大学メソッドの構築、実践にあたっての最重要リソースは、やはりインストラクタ

ーである。それでは、インストラクターに求められる基本スキルとはどのようなものか。

これを整理したのが表 14 である。

表 14 インストラクターの基本スキル

ここでは、基本スキルを、管理スキル・改善指導スキル・ヒューマンスキルの 3 種類に

層別している。現場改善というとまず思い浮かぶのは改善指導スキルであるが、実際の製

造現場では、改善以前に日常の生産現場の管理・維持・運営が大前提である。したがって、

これらに関わるスキルが、改善指導スキルと並んで必要となる。特に、体系的管理体制が

ある程度整った大企業と異なり、中小企業、あるいはさらに小規模企業においては、これ

らの日常管理そのものが充分でないケースが多い。管理が先か、改善が先かというのでは

なく、それらを両輪で遂行、指導していく必要がある。

これらのスキルと併行して非常に重要になるのが、「人を指導する」スキルであり、さら

にそれに先立つ「人を理解する」「人をその気にさせる」といったヒューマンスキルである。

今回、インストラクターへの個別ヒアリングを通じて集まったスキルアップ希望の多くが

この中に含まれる。現場改善のプロといえど、必ずしも経験知だけで充分とはいえないこ

とが検証された。今後、さらに充実すべく検討が必要である。

67

4-3. 基本スキル汎用化の課題と施策

基本スキルが確認できたとして、ではそれを「誰(どのインストラクター)が行っても

同じレベルで実現できる」ようにするためには、どのような方法論があるのか。これにつ

いても、これまでの活動実践を通じて検討してきた。その結果わかったこととして、ステ

ップの標準化と、ステップごとのツールの整備充実をあげる。

(1) ステップ標準化 <ステップ毎の実施内容>

本調査以前、特に活用事業に特化して注力した平成 25 年度の実践から得られた知見と

して、「支援ステップの標準化」の効果が大きいことがわかっている。トヨタをはじめとす

る日本企業の多くが取り入れている「問題解決の 8 ステップ」を見てもわかるように、お

さえるべきステップを明確に規定することで、活動するインストラクターにとっても自信

や確信を持って活動できる上、それを支援する側にとっても、横串で事業全体の進捗、成

否を把握しやすくなる。すなわち、個別活動の進捗とそのために必要な能力や課題が明確

になるのである。その結果として、比較的短期間で現場診断と処方箋作成ができ、改善プ

ロセスや成果の見通しがつきやすくなるため、改善活動とその支援の進捗スピードも上が

る。

表 15 標準ステプごとの主な実施内容、推奨ツール

68

すでにステップ 0 からステップ n までの段階は前述したが、表 15 は、各ステップの実

施内容をまとめたものである。また、ステップを決めるだけでなく、各段階での推奨ツー

ルを整理し、使用した結果を共有、検討することで、標準ステップ自体を進化させる PDCA

をまわすことが可能となる。

(2) インストラクターツールマップ

前述の標準ステップにおいて、推奨ツールを現在整備中であるが、これらの関係をまと

めたのが図 58 である。各ツールは、支援ステップの流れの中で、有機的につながっている。

また、従前からのいわゆる IE ツールの他に、山形大学独自ツールも検討開発しつつある。

これらについては、現在進行形であり、今後の進化、充実を図るべきところである。

図 58 標準ステプごとの主な実施内容、推奨ツール

69

4-4. よりよい支援のための上級インストラクタースクールの検討

これまでに明らかにしてきた、インストラクターの基本スキルと、それを駆使した支援

活動が実現したとして、当然ながら、さらなる希望、目標がでてくることが想定される。

それらについても、ここで若干の考察を加える。

(1) 上級インストラクターに求められるスキル

前述のステップ 1~3 において、基本的な改善活動にとどまらず、高度なテーマ設定や困

難な企業環境下での改善実施なども充分に想定される。あるいは、より専門的知識などを

必要とする企業課題について相談されることもあるだろう。このような場合、たとえば、

表 16 に示すようなスキルを備えた、一段高いレベルの支援ができる人材が必要とされる。

これを上級インストラクターと名付ける。

表 16 上級インストラクターに求められるスキル

上級インストラクターについては、現段階では、これまでの実践と今回の調査、特にイ

ンストラクターや指導先企業へのヒアリングを通じて明らかになった「さらなる目標」に

ついての検討が始まったところであり、今後、詳細な検討が望まれる。その上で、上級イ

ンストラクター養成コースの設定検討、カリキュラム開発、なの次課題が想定されている。

また、これらにともない、将来的にはインストラクターの基本スキルあるいは上級イン

ストラクターに期待されるスキルについての、評価手法の策定が望まれる。これらは今後

の課題である。

70

5. ものづくり改善活動を促進するための効果的手法と仕組み

本章では、地域で取り組むインストラクター事業(活用事業・養成事業)を長期的かつ

安定的に推進するための効果的手法と仕組みについて考察する。

5-1. 地域インストラクター事業の長期的・安定的推進に関する課題

効果的手法と仕組みを考察するにあたり、まずは、地域インストラクター事業が抱える

現状の課題を整理する。

5-1-1. 今回の調査と山形大学の実践を通じて見えてきた課題

今回の調査、特に山形県内企業へのアンケート、山形県自治体関係者、協力金融機関へ

のヒアリングを通じて発見できた事実と、そこから考えられる必要サービスを述べる。

まず、「企業自身が、自社課題や求める支援などについて必ずしも明確にできていない」

「支援側(自治体・金融など)も、企業の個別課題までは詳細には把握しきれていない」

可能性があげられる。このことは、支援の初期段階で「何が問題かを明確にする」という

価値提供の必要性を示す。

次に、当該事業の実効性を上げるためには、インストラクター支援が常に一定の品質を

担保しつつ、個別課題・事情に応じた柔軟な対応ができることが望まれる。そのためには、

個としてのインストラクラーの良さを活かしつつも、チームでの活動や専門家との連携を

踏まえた全体マネジメントが必須である。たとえば、ステップ 1 および 2 の診断と処方箋

作成プロセスで、多方面から情報を整理し対策を検討するチーム制の有効性は今回の調査

でも検証された。しかし、インストラクターのチームは常に固定しているわけではない。

そのような場合、チーム内のバランスを図り、あるいはチームを超えた知見の共有、継承

を意図する統括的存在の意義は大きい。実際に、山形大学のインストラクター事業展開で

はこのような役割が徐々に強化され成果に寄与してきた。このことは、自ら現場に入り詳

細に現状を把握しつつ、全体を統括する役割を持つ「プロデューサー」の必要性を示す。

さらにこれらの事業は、地域全体にくまなく波及することに意義がある。したがって、

当該地域における広域連携は大前提である。しかしそのためも、サービス提供側はしっか

りと連携しつつも、受け手側企業にとっての最適支援を実現する仕組みが望まれる。この

ことは、地域全体の連携を大前提とした、養成および活用事業を統括する「運営のワンス

トップサービス」の必要性を示す。

これらの必要性に対する具体的手法と仕組みについては後述する。

5-1-2. 他地域インストラクター事業の現状と課題

今回の調査では、日本各地で急速に広がりつつある各地の地域インストラクター事業に

ついても、各地の自治体など事業運営機関にアンケートにご協力頂き、現状と課題をまと

めた。結果は、以下のとおりである。

(1) これまでの地域インストラクター事業実施地域

過年度および今年度において、インストラクター養成スクールを開校、あるいはインス

トラクターの活用事業を実施してきた地域は、群馬(公益財団法人群馬県産業支援機構)、

滋賀(野洲市ものづくり経営交流センター)、新潟(長岡市商工部工業振興課)、山形(山

形大学国際事業化研究センター)の 4 地域(( )内はいずれも平成 26 年度現在の実施母

71

体名称)である。山形地域以外は、全て自治体および自治体関連組織が企画・運営を行っ

ている。

(2) 平成 27 年度以降にインストラクター事業を継続実施ないし計画・検討中の地域

一般社団法人ものづくり改善ネットワークが主催する「地域ものづくりスクール連絡会」

の協力を得て当該連絡会会員団体へのアンケートを実施し、11 地域から回答を得た。アン

ケート回答時点(平成 27 年 1 月)で、養成事業については、過年度より継続実施 2 地域、

来年度事業実施を計画中 8 地域、次年度以降実施検討中 1 地域であった。また、支援事業

については継続 2 地域、計画 7 地域、検討 1 地域、未定(未回答)1 地域であった(表 17)。

運営母体(予定含む)は自治体直轄組織の他、産業振興財団・支援機構・支援センターな

どの自治体関連組織が最も多く、民間設立の NPO 法人との連携を企図する地域も見られた。

継続実施 計画 検討または未定

インストラクター養成事業 2 地域 8 地域 1 地域

インストラクター活用事業 2 地域 7 地域 2 地域

表 17 地域インストラクター事業の実施・計画・検討

このように、各地域における異なる環境、地域特性、諸事情を踏まえて様々な組織が主

体となり当該事業を実施、計画、検討している。その中で、地域特性の多様性にもかかわ

らず、今回のアンケートでは、共通の運営課題が浮かびあがった。さらに、これらの課題

克服の一手段として、他地域との地域間連携を挙げるところが多かった。具体的な課題、

希望については表 18 のとおり。

事業別 自スクールの運営課題 他スクールとの連携に関する希望

インストラク

ター養成

・スクール受講生の確保

・カリキュラムの計画策定

・講師の選定と確保

・現場実習受入れ先企業確保

・定員オーバーの際の受講生の相互斡旋

・講師選定、カリキュラム、教材などに関する

情報共有

・スクール講師の紹介、相互派遣

・インストラクターのスキルアップ講習

(合同あるいは相互)

・スクール運営、事業内容全般に関する情報共有

・補助(支援)制度に関する前広な情報共有

インストラク

ター活用

・継続的な予算確保

・インストラクターの確保

・指導先企業の確保

・企業とインストラクターと

の日程などの調整

・活用事業スキームの構築

・インストラクターの指導内容・方法についての

情報共有

・インストラクターの相互派遣

・成功事例、失敗事例の情報共有

・事務局運営全般についての情報共有

・補助(支援)制度に関する前広な情報共有

表 18 各地域スクールの運営課題・他地域との連携希望事項

明らかな特徴として、受講生や講師、あるいは実習受入れ先企業、指導先企業などの確

保といった具体的な運営ノウハウに関わる課題が多くあげられた。平成 27 年度スタート予

定の地域が多いことにも起因すると思われるが、だからこそ、当該年度のスタートアップ

支援体制の充実が望まれる。それらは、運営全般に関わる情報共有はもちろんだが、より

72

細かい部分での「すぐに参考にできる事例情報」などへの期待が大きくなっている。

地域間での全般的な運営情報共有については、ほとんどの地域が強く希望していた。そ

のような情報を求めて「地域スクール連絡会」会員になったということでもあるが、これ

らの地域が、平成 27 年度からの経済産業省の「ものづくりカイゼン国民運動」に一斉に参

加することで、同運動の初年度からの実効性と即効性が高まると期待される。特に、広範

な交流と情報共有だけでなく、さらに一歩踏み込んだ地域間での相互支援体制を望む声の

多さが特徴であり、そのための仕組み構築も喫緊の課題である。

ここで、運営母体のほとんどが自治体および自治体関連組織である以上、やはり当該地

域への貢献を第一義的に求められることは否めない。一方で、地域間の連携協力が強く求

められても、現在のところ各地域の自助努力および、地域スクール連絡会などの民間の働

きに負っているところが大である。より長期的、安定的な事業運営のためにも、地域の個

別最適に終わることなく、全体最適の視点で、かつ、個別の地域特性に対しても充分かつ

柔軟に配慮した「地域間の横串を意識した国レベルの支援体制」が期待される。

73

5-2. ものづくり改善活動の長期的・安定的推進に有効な手法と仕組み

それでは、より具体的に、インストラクター事業を中心に据えた各地のものづくり改善

活動が、「長期的」かつ「安定的」に推進されるためには、どのような手法が有効であり、

そのためにどんな仕組みが必要なのであろうか。以下、本調査と山形大学メソッド(知見)

を基にした、具体的提言をあげる。その際、現在の地域ごとの事業区分を前提に、単独の

地域内活動展開と、地域間で連携することで拡がる活動の全国推進の 2 段階で述べる。

5-2-1. 地域内展開における効果的手法と仕組み

地域内展開での手法と仕組みについては、前述の 3 課題から導かれた必要性、すなわち、

何が問題かを明確にすることの価値、自ら現場に入りつつ全体を統括する人材、地域全体

の連携を大前提に養成および活用事業を統括する運営体制のそれぞれについて詳述する。

具体的には、当該企業の問題点を明確にするという診断価値提供の主体としての「インス

トラクターのバリューチェーン」、インストラクターを中心としたチーム活動を統括し、長

期的視点で安定的推進を支える「プロデューサー」、地域全体の連携を大前提としつつ、利

用者の利便性と事業の全体最適をともに満たす、継続的な「運営のワンストップサービス」

である。

(1) 地域内での価値提供を実現する「インストラクターのバリューチェーン」

従来の支援事業は、「何等かの(明確に認識できている)支援を求める企業」に対して、

「それに応えることのできる専門家」を派遣するスキームが多かった。そこでは、企業と

専門家を適正にマッチングすることが主に求められた。たとえば、山形県へのヒアリング

(第 3 章)で産業支援担当部署の方は「(山形)県の企業振興公社の専門家派遣(既存の

企業支援事業)では、依頼する企業は何が自社の課題かを自覚していて(希望するため、

公社側としては)ピンポイントでエキスパートを派遣する」と述べている。

たとえて言えば「風邪を引いたので薬が欲しい」「持病の胃炎を治して欲しい」「メタ

ボ対策で投薬を含めた生活指導をして欲しい」などという状態である。これに対して「何

だかわからないがこの頃、身体の調子が悪い」「咳がとまらないのだが風邪薬では効かな

い」「太り続けるのだが、このままではメタボになってしまうのだろうか」などのような

漠然とした症状(症候群)を訴える患者さんには、まず全体的な問診が必要である。ある

いは、周囲が心配して病院に連れてきたが「そもそも本人は病状の深刻さを理解していな

い」ケースもありえる。

このような「自覚が必ずしも十分ではない」患者あるいは患者予備軍に相当する企業が

相当数あるのではということは、企業と金融機関の認識課題のずれなどからも推測される。

だとすれば、インストラクター事業が企業ごとの実態(現場)調査を重視し、当該企業の

課題に沿った診断と処方箋にこだわることで、病気(病識)を明らかにし、治療に向けた

意識統一と方針決定ができる。つまり、現場改善の効果的取組みが可能になる。

その意味で、前述の県担当者のインストラクター支援に関する「収益改善したいが課題

がぼやっとしている。危機感はあるがどうしたらいいのかわからない企業に対する気づき、

意識改革を行う」という発言は、県の従来事業(たとえば専門家派遣)とインストラクタ

ー事業による地域企業支援の違いと相互補完の可能性を明確に示す。

この位置づけが正しいなら、インストラクターに求められる最初の仕事は診断、処方箋

の作成であって治療ではない。しかも、治すことが最終目的ではなく、なぜそうなるのか、

どこが悪いのか、どうすれば最も効率的に治せるのかを判断し、その上で実行する必要が

ある。それにより再発を防ぎ、根本的に当該企業を元気(たとえば健全な収益状況)にす

74

るのである。これには自らの改善スキルだけでなく、第 4 章で示したような様々なスキル

が必要とされる。ベテラン製造人材であっても経験値だけでは支援活動を行うのに充分で

はないかもしれないし、大企業で活躍した経験がそのまま中小企業の困りごと相談に役立

つわけではないこともあり得る。

自分が経験した病気(問題点)だけではなく、あらゆる症状に対してひととおりの知識

と柔軟な対応力(総合的な問題解決力)が求められる。だからこそ、高度産業人材として

の企業経験を活かしつつも、あらためてスクールという学び合いの場で、「確固とした依

拠理論」「それを説明できる(地域の)共通語」「人に理解させ、やる気にさせるスキル」

などを学び、同じ地域出身の「チームとして連携できる仲間」を得て、地元企業への「親

和性」を持って支援に入る人材が必要とされる。地域でインストラクターを育て、そのま

ま地域で活躍する、あるいは出身組織に戻り、それぞれの場所で地域に貢献してもらうこ

とに大きな意味がある。

地域の人材を、地域が育て、地域で活躍してもらう。その中でさらに進化し続け、地域

に価値を届け、価値を受け取った地域が、次の人材を育てていく。これを、地域における

「インストラクターのバリューチェーン」と名付ける(図 59)。

図 59 地域における「インストラクターのバリューチェーン」

(2) チーム活動を統括する「プロデューサー」の役割と意義

このようにして、地域に価値を届ける存在のインストラクターが、価値を提供し続ける

ために必要な支援の仕組みはあるのだろうか。インストラクターには基本的に産業の現場

での一定以上の経験が求められるため、どうしても年齢層が高くなりがちである。その結

果、活動頻度や時間が限られたり、活躍期間に制約があったりする。だとすれば、これら

の高度なシニア人材を、個々人ではなく、制度として活用する継続的仕組みが必須である。

インストラクター事業自体がすでにひとつの答えであるが、その事業の運営側にあって

統括的な立場でありながらインストラクターの支援現場にも精通した存在があれば、事業

の実効性は非常に高くなる。この知見は、山形大学のシニアインストラクター事業を推進

するというアクション・リサーチとも言うべき活動の PDCA の中で、経験的に発見された。

75

たとえば、第 4 章で述べた、インストラクター活用事業において、インストラクターが

チームを組んでステップ 1 の診断をする際に、限られた時間の中で効率よくデータを集め

るためには全体を俯瞰し、時には他部署にも調査に入るくらいの横断的視点が必要である。

さらに、ステップ 2 の具体的処方箋作成でも、個々の改善案だけでなく当該企業の業績に

つながるプロセス設計が重要な意味を持つ。このような俯瞰視点を持つ専門人材の必要性

が認識されるにつれて、山形大学の実践でもこの「インストラクターを支援する」役割は

徐々に拡大されてきた。今回の調査でインストラクターからも支援先企業からもこの専門

担当者の存在が評価され、意義が検証された。

より高度で広範なスキルを持ち、企業支援の効率と品質をともに高めるミッションを果

たす、このような専門人材を「プロデューサー」と名付ける(図 60)。

図 60 チームを統括し事業を支える「プロデューサー」

(3) 地域内連携を前提とした、継続的な「運営のワンストップサービス」

よく聞かれる質問に、地域でのインストラクター事業におけるインストラクターの登録、

管理、派遣の主体はどこに置くべきかというものがある。地域というくくりが前提となる

以上、第一義的には当該地域を行政範囲とする自治体およびその関連組織というのが典型

的解答となろう。このことは各地の運営母体の現状からも納得性が高い。

しかし、地域社会には、自治体(官)の他にもいくつかのプレーヤーが存在する。たと

えば地元優良企業や地元に地方工場を持つ大手企業(産)、地域に密着して地元を支える

地域金融機関(金)、地域貢献を掲げる大学など研究機関(学)である。その他にも地元

企業と密接な関係にある商工会議所、各種の公的支援センター、民間企業やセンター、非

営利団体などもある。

これらの中には、インストラクター事業と類似あるいは一部重複する事業を独自展開し

てきたところもある。そのような組織と連携し、相互補完することは当該事業の実効性だ

けでなく、地域全体の活性化の効率にも大きく関わる重要課題である。地域課題に対処す

るには「地域での連携が必要」という回答は基本的に誰もが賛同するであろう。

このような総論を、インストラクター事業の具体的な施策レベルで考える。たとえば、

76

有能な企業 OB を巻き込む仕掛けとして、地域の優良企業からインストラクターにふさわ

しい人材をリストアップする、OB ではなく現役世代にも社内人材育成だけでない他流試

合としてのスクール経験、インストラクター貢献活動を行うなどは、すでに一部で実績が

ある。企業にとっても地域でリスペクトされる企業メセナとして今後の充実が望ましい。

また、長期的活動を支えるためには、地域金融機関の資金援助も含めたリレーションシッ

プバンキングも有効である。企業実態の把握では、金融機関はもちろん商工会議所などの

情報も大きな意味を持つ。実際に今回のヒアリングにおいて、金融機関はもとより商工会

議所からもインストラクターと支援企業のいずれについても紹介可能との回答を得ている。

このような諸組織を統括して定期的にあるいは都度、インストラクター候補や支援希望企

業が紹介されるスキームを作ることが可能であろう。

今回の調査を通じて、地域ごとの実情を調査分析、適材適所の設計図を描く知恵や知見を

提供する役割を大学に求められていることも明らかになった。大学からのノウハウ提供は、

自治体、金融機関、企業のいずれもが期待していた。今回の調査事業を大学が請け負って

いることの意味が検証された結果でもある。

図 61 地域インストラクター事業「運営のワンストップサービス」

これらを踏まえ、地域内のあらゆる組織が集まり地域の活性化に資するという基本形と、

各々が強みを発揮しつつも、誰か(どこか)が主体性を持ってそれを統括することで事業

が長期的、安定的に継続するという 2 つの課題が浮かびあがっている。従来、行政サービ

スなどで主張されるワンストップサービスの主な目的でもある「窓口の一本化」は、利用

者の利便性を高めるだけでなく、評価や時にクレームも含めた貴重な情報フィードバック

機能としても意義がある。しかし今回提言するのは、地域連携という動的活動の中にあっ

ても、全体を統括して新しい価値提供を模索・提言し続けられる何等かの組織の役割と価

値である。これを「運営のワンストップサービス」と名付ける。もちろん具体的な運営母

体をどこが担うかについては、各地域の特性によるバリエーションがあってよい。ここで

はあえて「連携をふまえた統合」を実現する主体の必要性を強く主張しておく。

77

5-2-2. 全国的推進における効果的手法と仕組み

ここからは、地域ごとの事業にとどまることなく、全国的にこの活動を推進するにあた

っての大事な点を述べる。

(1) 情報共有の場としての「地域スクール連絡会」

すでに実効性を持って存在する貴重な場として、一般社団法人ものづくり改善ネットワ

ークが主催する「地域ものづくりスクール連絡会」の存在は大きい。同連絡会をネットワ

ーキングするのは一般社団法人ものづくり改善ネットワーク(MKN)である。これは「全

国各地で活躍し、あるいは孤軍奮闘する、ものづくり改善の指導者(たとえば改善インス

トラクター、改善コンサルタントなど)の皆さん、および地域のものづくり改善活動や指

導者育成を支援する自治体、地域金融機関、NPO 等の皆さんに、知識共有の場所としくみ

を提供することを目的として、東京大学も MMRC センター長の藤本隆宏(東京大学大学

院経済学研究科教授)を中心に平成 25 年 6 月に設立された団体」である。

地域スクール連絡会は「地域スクールの運営担当者、自治体、商工関連団体、大学等各

地域の関係者、及びコンサルタント企業として地道に結果を残して地場企業の能力構築に

寄与している企業、団体、あるいは今後地域ものづくりスクールの開校を検討されている

自治体、金融機関」などを参加対象とした「地元に根付いたものづくり人材育成事業の主

催団体担当者、修了者、地域ものづくり改善能力構築に尽力されている民間団体などのネ

ットワーク」である(MKN ホームページ http://www.mkn.or.jp/cmsr.html)。地域スクールに

関わる様々な団体が連絡会に集まってくる。年 3~4 回の定例会では全国から集まって情報

交換をする。本調査の他地域スクールアンケートもこの「情報交換のための場」を通じて

協力を得た。

(2) 相互連携の効果的手法・仕組みとそのために必要な支援

「場」があるならば、そこで「何をするか」も検討されなければならない。また、全国

的展開というからには、地域を超えた共通性と、一方で地域ごとの多様性の確保も考慮さ

れなければならない。このような観点を踏まえ、地域スクール立上げ時のポイントやスク

ールを含むインストラクター事業の課題を振り返りながら、事業推進に有効な手法と仕組

み、そこで必要な支援を Q&A で整理する。これは、今回の調査とともに、これまで山形

大学に寄せられた多くの問合せからも抽出している。

Q. スクールのスムーズな立ち上げの主体はどこがいいか?

A. 山形大学のシニアインストラクタースクールは、大学が主として、地域の支援のもと

で行っているが、地域特性に合わせて、自治体自らあるいはその関係組織なども考え

られる。実際に、このパターンが最も多い。また、これまでに挙げた地域インストラ

クター事業の価値を理解し積極的に地域連携を牽引する前提であれば、民間を含め

様々な可能性も考えられる。その意味では「どの組織か」よりも「どんな(心構えの)

組織か」が重要である。その上で、欠かせないポイントとして「より広域で大局的視

点からの支援」の存在がある。この点からもやはり、公共性の観点ははずせない。こ

れらを勘案すると、少なくとも立ち上げ時の基本形としては、「国の支援のもとで、

自治体あるいは自治体関係組織、または大学などのパブリックセクターが運営」する

のがいいのではないかと考えられる。

78

Q. スクールを速やかに立ち上げ、安定的に維持するための方策は?失敗することはある

のか、あるとすればどんなケースか?

A. まずは、財源確保が大前提。また、当該事業の継続性とその意義を鑑みると、財源は

単年度構想ではなく、長期的展望にたったものであるころが望ましい。

それらを確保した上で、実際の立ち上げ、特に初年度の成功には筋道を持った計画が

必須。すでに実施している他地域スクール状況をふまえるのも非常に有効である。そ

の後の継続性については、しっかりとした理念がないと厳しい。ノウハウだけでなく、

何を目指すのか、地域でどのような位置づけになるのかの設計と実践の PDCA が最も

重要。また、本調査で詳述したように、インストラクター自体の継続的スキルアップ

はもちろん、活動を統括するプロデューサーなどの存在が非常に大きく、この点はも

っとクローズアップされていく必要がある。

Q. 地域ごとの実効性、自由度、自立性を高めるスクール運営の在り方とは?

A. 地域の特徴にあった運営方法は、各地域が現在模索中。スクールカリキュラムや講師、

受講料設定などだけでなく、スクール修了後のインストラクターが活躍できる出口戦

略が非常に重要。また、事業自体の自立性追究という点では、運営資金を地域企業(組

織)が出資する、各自治体などを窓口とした NPO 法人化などの民間活用や、逆に、ス

クール修了生を自治体がコーディネータとして雇用するといった公的政策との連携な

ども考えられる。いずれにせよ、事業の長期安定のためには、継続的な国や自治体の

支援は欠かせない。

Q. インストラクター事業を実施する際の(現時点での)実態と課題は?

A. まだまだ認知度は低い。しかしここ 2~3 年、課題が共通する地域、企業、マスコミな

どからようやく注目されはじめた。山形大学のインストラクター事業についても、全

国紙を含む新聞各紙(日刊工業新聞、日経新聞、朝日新聞、山形新聞、米沢新聞など)

でも紹介され、書籍も刊行された(光文社新書「ものづくり成長戦略-「産・金・官・

学」の地域連携が日本を変える」)。今回の調査および調査結果の公表を含め、継続

的な告知活動により認知度は上げられるし普及のためにも上げるべきだと考え、これ

までも積極的に情報発信や取材・見学の受入などを続けてきている。

事業への支援という点では、これまでは事業主体への直接的支援の制度がなかった。

また、現状の間接的支援制度も、対象企業や運営母体の手続きが複雑で使いづらいな

どの声もきかれる。今後、新しい支援制度が国により準備される見込みであるが、こ

れらの活用はもとより、活用を通じて地域と国が協力して、さらなる「政策の PDCA」

がまわることを期待したい。

Q. 当該事業の全国への普及・広報などの効果的手法は、また地域内での積極展開は?

A. 山形大学のインストラクター事業としては、これまでにも積極的に全国からの問合

せ、見学希望に応えてきた。この姿勢は今後も変わらないが、単独地域での受け入れ

には、事業継続のための活動もありリソースに限界がある。このほど、新しいトライ

アルとして事例紹介映像を作成した。活動紹介、成功事例などをコンパクトにまとめ

た映像を活用することで、遠隔地ともバーチャルだが「場」を共有、実感してもらえ

79

るのではと考えている。あわせて、このような映像は、実際に支援を検討している企

業に対するステップ 0 のツールとしても有効であると思われる。

地域内での普及活動については、今回の調査でも示唆された「成果や具体的事例の

紹介」、あるいは、実際の「活動のお試し版」なども検討していく。さらには、イン

ストラクター事業の前に、自社あるいは外部指導を受けて何等かの改善活動をして失

敗したなどの、いわば「負の遺産」の存在も今回の調査で明らかにされた。インスト

ラクター事業により払しょくした事例も前述したが、個別企業の事情に合わせた解決

の方法論については今後の課題である。たとえば、当該企業の従業員へのメンタル面

支援から経営者への理解活動を含めた様々な観点が想定される。

最終的には、個々の課題解決にとどまらない長期的視点こそが重要であり、そのた

めにも「継続性のある体制」の構築が必須である。いずれの地域においても、当該地

域のリソース活用と連携を幅広く検討する必要がある。

80

総括 「地域価値創成」実現のために

この調査報告書は、日本中の「元気になりたい」地域と企業にとって、有効な「ある方

法」について、これまで取り組んだ実践と今後の取り組み可能性について調査を行った記

録と提言である。

経済産業省の、平成 26 年度新産業集積創出基盤構築支援事業「ものづくり製造業の改

善活動を促進するための調査」とは、つまり、企業を元気にすることで地域を元気にし、

地域が元気になることで日本全体が元気になっていくための道筋を描くための基礎調査で

ある。山形大学が数年来(想いと構想に至っては 10 年来)継続して挑戦し続けてきた地域

実践(貢献)からの知見と、今回の調査事業落札による一斉調査の結果で構成されている。

「インストラクター事業」というのがその解であり、それはインストラクターの「養成」

と「活用」の両輪からなる。地域に貢献する人材を地域で育てる。しかし、単なる人材の

地産地消ではない。「地域に貢献できるインストラクターのバリューチェーン」の方法論構

築である。それを進化させ全国拡大する重要性は調査が裏付けた。

そのために大学も努力を惜しまない。報告書では「山形大学メソッド」3 本柱について

(まだまだ進化予定だが)詳述した。①全体最適の視点、②標準ステップ、③分かる化、

見える化の手法、④チーム体制とプロデューサーからなる「現場実践」の方法論であり、

企業全体に「顧客価値のよい流れ」実現を目指す、山形大学式『よい流れ方式』である。

「よい流れ方式」を追究することで地域企業が自ら変わっていき、継続的収益改善が適う。

それにより当該企業の顧客満足向上はもとより、当該企業で働く従業員の雇用確保・拡大、

さらに、当該企業が立地する地域の産業活性化と「恩恵が連鎖する」ことが重要である。

今回の調査を好機として様々な現状と課題を分析することで、多くの懸念点とそれ以上

に多くの夢と可能性を見つけ出すことができた。「よい流れ方式」に基づくインストラクタ

ー事業の進化と、それを支える「運営のワンストップサービス」をとりまく地域の努力と、

それらの全てを包括、統合して力強く支援する国の存在があいまって地域は元気になる。

売り手(企業と従業員)よし、買い手(顧客)よし、世間(地域)よしの「三方よし」の

現代形の実現である。切磋琢磨と相互協力の先に全国各地の「地域価値創成」が実現する。

やる気のある人がいる。頑張ることのできる現場がある。従業員を守って、共に生きて

いきたいと思う経営者がいる。そんな経営者を支援して、元気な地域を実現したいと願う

ステークホルダーがあちこちにいる。日本には、本当にたくさんの元気の「素」がある。

この調査が、そのような元気の「素」を育て、「地域価値創成」の一助となれば幸いである。

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資 料

「ものづくり製造業の改善活動を促進するための調査事業」に関するアンケート調査票

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