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平成29年度アジア産業基盤強化等事業 ASEANにおけるデジタルエコノミーにかかる政策動向調査) 2018年 2月 28日 株式会社大和総研 経済産業省 通商政策局 アジア大洋州課 御中 <最終報告書>

平成29年度アジア産業基盤強化等事業 ASEANにお …平成29年度アジア産業基盤強化等事業 (ASEANにおけるデジタルエコノミーにかかる政策動向調査)

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平成29年度アジア産業基盤強化等事業 (ASEANにおけるデジタルエコノミーにかかる政策動向調査)

2018年 2月 28日

株式会社大和総研

経済産業省 通商政策局 アジア大洋州課 御中

<最終報告書>

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目次

1

第1章 事業の概要 2

1.1 本事業の背景と目的 3

1.2 調査対象地域・国 5

1.3 調査手法・対象者一覧 6

第2章 ASEANにおけるEC市場及び政策制度の状況 7

2.1 ASEAN大のEC市場の概況 8

2.2 ASEANにおけるデジタルエコノミーを巡る関連機関 13

2.3 ASEAN大のデジタルエコノミー関連施策 18

2.4 ASEAN国別のデジタルエコノミー環境 22

第3章 ASEANにおける政策的課題と目指すべき方向性 45

3.1 ASEANにおける政策的課題の特定 46

3.2 ASEANが目指すべき方向性とその背景 51

3.3 ASEANへの働きかけのチャネル 58

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1. 事業概要

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1.1 本事業の背景と目的

3

• 近年、ASEANにおいては電子商取引(EC)をはじめとしたデジタルエコノミーが黎明期を迎えており、その市場規模は、2025

年には2千億ドル、2015年比6.5倍に達すると予測されている。さらに、来年のASEAN議長国シンガポールがアジェンダの一

つとしてデジタルエコノミーを掲げており、ASEANにおけるデジタルエコノミーの関心はますます高まるものと予想される。ま

た、2016年末にはASEANにおける国内外のEC取引の調和を目的としたASEANの電子商取引分野の会合(ACCEC)が設

立され、ASEAN大でのECに関する事業環境整備が進む見込みである

• 電子商取引を行うビジネス環境においては、中国系企業によるASEANの電子商取引運営会社の買収や、各国政府に対す

る働きかけ等、官民双方のレベルにおいて働きかけを行っている。また、米国系企業は、企業団体を通じて2016年12月にデ

ジタル分野におけるルール作りに関するASEANへの提言を行っている。一方、我が国企業のASEAN電子商取引分野にお

ける働きかけは十分に行われていないため、政策づくりの段階から働きかけを行うことが求められる

• 本事業の目的は『ASEANにおける電子商取引に関する政策動向を調査すると共に、電子商取引の政策が企業活動に与え

る影響を分析し、具体的な働きかけを行うための戦略を検討する』ことである

• 以上の背景と目的を踏まえ、本事業で重要となるポイントは以下のようになると考える

本事業の目的

本事業の背景①ASEANにおけるデジタルエコノミーと電子商取引の進展

1. ASEAN大の電子商取引の動向

• EC市場規模と発展予測

• EC関連政策の現状と展望

• ビジネス環境の最新情報

• 諸外国・地域による働きかけ

• ACCEC等を通じた域内の政策対話 ASEANが 目指すべき方向性

本事業の背景② ECビジネス環境の動向と米・中によるASEANに対する働きかけ

2. ASEAN国別の電子商取引の動向

• EC市場規模と発展予測

• EC関連政策の現状と展望

• ビジネス環境の最新情報

• 諸外国・地域による働きかけ

• 各国独自のEC発展策

3. ASEANにおけるECビジネスの課題

• 関連法制度や促進策が不十分

• 通信インフラの未整備

• 物理的インフラ・物流網の未整備

• 決済システム・制度の未発達

3. 日本企業が直面し得る課題

• 参入障壁・不公平な競争

• 個人情報保護・越境データ移転の措置

• 配送前後・途中のトラブル

• 決済チャネルと手段

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フィンテック

ICT物流

メディア

エネルギー 運輸 出版 教育

小売

金融 ヘルスケア

ICT教育 電子書籍

ソーシャル・マーケティング

IoT

仮想通貨

・自動運転車

・ウェアラブルデバイス

・センサー技術による消費者行動分析

・口コミサイトでの情報発信

・クラウドファンディング

・ビットコイン

ICT医療

電子商取引

デジタルコンテンツ

EMS

・E-コマースプラットフォーム

・クラウド在庫管理

・スマートフォンによる決済

・資産管理アプリ

・クラウド会計ソフト

・電子カルテ

・オーダリングシステム

・動画共有サイト

・映画配信サイト

・HEMS、BEMS、CEMS

・スマートグリッド

・スマートシティ

・漫画・雑誌の購読アプリ

・学術論文のオンラインデータベース

・オンラインコース

・学校へのタブレット端末導入 ・クラウドを活用したサプライチェーン管理

1.1 本事業の背景と目的 デジタル・エコノミーと電子商取引

4

デジタル・エコノミーのEC含む多角的産業への波及

• 技術進歩や革新に伴い、デジタル・エコノミーは今や金融、小売、エネルギー、運輸、教育、出版、メディア、ヘルスケアといった多角的セクターへと波及してきている。中でも電子商取引(EC:E-Commerce)はデジタル・エコノミー発展において目覚しい成長を遂げる分野の代表例であり、通信インフラが整備途上の国々においても企業と個人間(BtoC)のみならずビジネス間(BtoB)、消費者間(CtoC) コミュニケーションへと浸透しつつある

• また、デジタル・エコノミー下での国境を越えたECを代表する国際取引(デジタル・トレード)は急速に進展しており、参加者共通のルール策定等、デジタル・エコノミーの更なる発展のために必要な環境整備を進めていくことが、求められている

(出所) 経済産業省委託「平成27年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(アジア太平洋地域の更なる経済成長に向けた産業政策/法制度上の諸課題に係る調査)結果より

グローバル化の進展も目覚ましい

着目

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1.2 調査対象地域・国

5

シンガポール、インドネシアを中心としたASEAN

米、欧、中も参考に

• ASEAN10か国のうち、調査対象国はEC関連政策が最も進展するシンガポール、巨大なEC市場を誇るインドネシアを重点的に、ASEAN6ヵ国(ほかタイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム)とする

• 当分野に関連して、日本をはじめ米国、欧州(EU)、中国等諸外国がASEANに対してどのような「働きかけ」を行っているかを整理することで、本調査で提案するASEANの目指す方向性の実現可能性を高める方途を探る

ASEAN

シンガポール

インドネシア

タイ

フィリピン

マレーシア

ベトナム

米国

欧州(EU)

中国

机上調査に加え、現地調査も実施

(訪問先については次々項を参照)

机上調査を実施。

現地調査国にて、当該国の状況をカバー

(関連する訪問先については、次々項を参照)

■ 以下の国・地域による ASEANに対する働きかけ

■ ASEAN大、各国(特に先進6ヵ国)における

デジタルエコノミー関連政策・法制度

ブルネイ カンボジア

ラオス ミャンマー

日本

注視

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1.3 調査手法・対象者一覧

6

文献調査と現地・国内のヒアリング

【本調査の前提(問題意識)】

ASEANにおけるデジタルエコノミー発展の軸となり得るEC政策に対して日本は積極的に働きかけをしていくべきである

調査項目(1) ASEAN大及びASEAN各国のEC関連政策の動向

調査項目(2) ASEANにおけるEC関連政策

が我が国企業にもたらす影響

ASEAN Outlook Conference 2018 における調査成果発表

調査の前提 本件調査

文献・資料等からの調査・分析

日本企業のASEANにおける ECビジネスの動向

企業が直面する課題 (各種政策を踏まえ)

ヒアリングを通じた調査

(国内と現地)

①ASEAN大と各国の政策の 現状と展望

②ACCEC等を通じた域内・国別の 政策対話

④EC市場の現状とビジネス環境

③欧米・中国等からASEANに対する 政策的な働きかけ

• 調査手法は大きく、①各種文献・資料調査、②ヒアリング調査(国内・現地調査)に分かれる

• それらを踏まえた分析を行い、ASEANに対する働きかけ案をまとめ、現地セミナーでのアウトプットと最終報告書につなげる

調査結果を踏まえた分析

働きかけ(案) のまとめ

現地セミナー

検証活動

最終報告書のとりまとめ

有識者・参加者の意見集約

働きかけ(案)の 再検証

検証活動

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2. ASEANにおけるEC市場及び政策制度の状況

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2.1 ASEAN大のEC市場の概況

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2.1 ASEANにおけるインターネット利用が活発化

9

インターネット人口が急激に成長し普及率が向上

• 世界のインターネットユーザーが直近10年間で5倍近く伸びる中、アジア太平洋地域が他地域と比べて伸びが著しい。ASEAN

地域のインターネット普及率は、日本や中国を含むアジア太平洋地域に迫る勢いである。特に近年スマートフォンやタブレット

がASEAN各国で急速に普及している。シンガポール、インドネシア、マレーシア、タイに加え、後発国のCLMV国においても近

年モバイル通信の急速な普及によるユーザー数が増加している

SNSの利用も活発化

(出所)InternetWorldStats, 2017より作成 (出所)InternetWorldStats, 2017より作成

世界のインターネット普及率(地域別) 世界のFacebookユーザー数(地域別)

(注)2017年は推計値

(出所)国際電気通信連合(ITU)より作成

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

2007

2017

(百万人)

世界のインターネットユーザー数の推移

56% 58%

88%

62%

80%

59%

31%

52%

0%

20%

40%

60%

80%

100%ASEAN アジア太平洋 北米 南米 欧州 中東 アフリカ 世界

341 434

263

4

343

87 160

1,631

0

300

600

900

1,200

1,500

1,800

(百万)

ASEANアジア太平洋 北米 南米 欧州 中東 アフリカ 世界

• 世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)であるFacebookのユーザー数においても、ASEAN地域はアジア太

平洋地域と欧州地域に次ぐ数値である。ASEAN地域の人口は2017年推計で約6億5,000万人であることから、単純換算すると

およそ半数がFacebookを利用している

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2.1 市場の成長率・規模ともにASEANが有望

10

• 世界のEC市場規模は、2015年からの5年間で年平均成長率約30%という急激なペースで伸びることが予想されている。

成長をアジア太平洋地域が牽引

アジア太平洋48%

北米24%

西ヨーロッパ20%

中央・東ヨーロッパ3%

ラテンアメリカ3%

中東・アフリカ2%

(出所) eMarketer

1.55

1.92

2.35

2.86

3.42

4.06

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年

年平均成長率(CAGR)30%

世界のEC市場規模と成長率 世界のEC市場の地域構成

(注)2016年の値

(出所) eMarketer

世界のEC市場は年平均30%で急成長

• 現時点でEC市場規模の約半分を占め、今後も潜在成長力の高いアジア太平洋地域のEC市場を取り込む動きが、国境を越えて激化してきている

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70

3329

2212 11

145

51 53

40

23 26

0

20

40

60

80

100

120

140

160

EC売上規模(2017年)

EC売上規模(2021年見込み)

(億米ドル)

2.1 インドネシアが成長牽引、中進国が続く

11

主要ASEANのEC市場規模は5年で2倍

43%

15%

16%

12%

7%

7%

インドネシア

シンガポール

タイ

ベトナム

フィリピン

マレーシア

338億米ドル(2021年見込み)

39%

19%

17%

12%

7%6%

インドネシア

シンガポール

タイ

ベトナム

フィリピン

マレーシア

178億米ドル

(2017年)

• EC市場の発展で先行するASEAN6か国(インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア)の市場規模は2017年の178億米ドルから2021年には338億米ドルとおよそ2倍に成長する見込みである

• 国別ではASEAN最大の人口を有するインドネシアを筆頭に、シンガポールとタイが先行して市場規模が拡大している中、ベトナム、フィリピン、マレーシアにおいても市場規模が向こう5年間で年平均15%以上で拡大することが期待される

年平均20%で伸びる

5年後約2倍に成長

主要ASEAN6か国のEC市場規模(2017年、2021年推計)

(出所) eMarketer

国別のEC市場規模(2017年、2021年推計)

ネット人口は今後5年で2倍

年平均15%で伸びる

(出所) eMarketer

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2.1 ASEAN各国のEC戦略

12

• EC市場が今後さらに発展することが期待される中、2015年ごろからIT整備がある程度進んだASEAN加盟国において、ECに関する戦略が各種打ち出されている(戦略の詳細は国別に後述)

• ASEANはシンガポールがデジタルエコノミーの振興を牽引しているが、今後中進国ではECがその軸として大きな役割を果たすと推察される

2015年以降、ASEAN各国でEC関連の戦略が策定

Philippines

E-Commerce Roadmap 2016-2020 (2016)

Vietnam

National EC Development Program 2014-2020 (2014)

Malaysia

National eCommerce Strategic Roadmap (2016)

Thailand

Green E-Commerce Project (2015)National e-Comerce Master Plan (2017)

Singapore

the Second Retail Productivity Plan (2015)

Indonesia

E-Commerce Road Map (2017)

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2.2 ASEANにおけるデジタルエコノミーを巡る関連機関

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【政府機関によるハイレベル協議枠組】

ASEANと日本の政府間協力枠組(一部)

地域協力関係の枠組全体像

日本

中国 韓国パプアニューギニア

インド

豪州

(米国)

NZ ペルー

メキシコ

カナダ

香港台湾

チリ

ロシアASEAN+3RCEP

TPP*

APEC**

CCC(税関)

ATFJCC(ASEAN貿易円滑化

合同諮問委員会)

CCA(ATIGA)

ACCEC

(ASEAN電子商取引調整委員会)

経済産業省JETRO

ACCSQ

(標準化・品質管理)

TFWG(運輸)

AEM(ASEAN

経済相会合)

SEOM(ASEAN高級

経済事務レベル

会合)

TELMIN(情報通信

相会合)

TELSOM(情報通信高級

事務レベル会合) セクトラルボディ

大臣・閣僚会合意思決定フロー

その他情報フロー

対話

2.2 ASEANにおける主な政府関連機関① 政策対話チャネルと各種枠組み

14

• ASEANを一部ないし全部包摂する地域的な協力関係の枠組及びASEANにおける経済分野の意思決定枠組を整理した

• APECやTPPなど重層的な地域的枠組にはASEANの全加盟国が含まれない場合もあり、加盟国の足並みを揃えてASEANとしての政策を設定していくことは容易ではない

地域枠組、セクトラルボディを中心とした多重構造

*TPPはASEANのうちマレーシア、シンガポール、ベトナム、ブルネイが交渉に参加。米国は離脱を表明

**APECはASEANのうちカンボジア、ラオス、ミャンマーを除く7ヵ国が参加

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2.2 ASEANにおける主な政府関連機関② EC・デジタルエコノミー関係委員会

15

ACCECの発足で議論が活発化することが期待

英語名称 日本語名称 設立年 役割・最近の動向

ASEAN Coordinating. Committee on

Electronic Commerce (ACCEC)

ASEAN電子商取引 調整委員会

2016

2016年11月のASEAN高級経済事務レベル会合で構想され、同年度末に発足。ATFJCC傘下の調整委員会の1つで、メンバー国がECを経済・社会発展のために安全に活用できることを目指す。後述ワークプログラムの進捗確認、プログラムの進捗における障害を踏まえた次に行うべき行動の策定、民間セクターとの対話等を使命とする。具体的な対象領域として、①ECインフラ、②教育と技術コンピテンシー、③オンライン消費者保護、④法的枠組、⑤オンライン取引のセキュリティ、⑥電子支払・決済、⑦貿易円滑化、⑧物流をカバーする。なお、2018年の議長はASEAN議長国と並行してシンガポールから選出された。

ASEAN Consultative Committee on

Standards and Quality (ACCSQ)

ASEAN標準化・品質 管理諮問評議会

-

ASEAN事務局に設置されている分野別機関の一つ。加盟各国の基準、技術的規制、適合性評価手続きを調和させる作業、申請書類の共通化を進め、一国で承認された試験報告書、証明書、規格適合性を他の国でも通用するようにするための相互承認協定(MRA:Mutual Recognition Arrangement)の締結への取り組みを行う。傘下に11のWG(自動車、化粧品、医薬品、加工食品、ゴム製品等)がある。化粧品については2003年にASEAN Harmonized Cosmetic Regulatory Schemeが署名されている。

ASEAN Coordinating Committee on Customs

(CCC)

ASEAN税関 調整委員会

-

電子商取引にかかる物品の通関手続きについて管轄しており、2017年5月の会合で産業界がコンタクトする際の具体的ルートをTORの形で特定した。ASEANの通関関係ワーキンググループ(ASEAN Customs Procedures & Trade Facilitation Working Group (CPTFWG)/ ASEAN Customs Enforcement and Compliance Working Group (CECWG)/ ASEAN Customs Capacity Building Working Group (CCBWG))と連携している。

ASEAN Trade Facilitation Joint

Consultative Committee (ATFJCC)

ASEAN貿易円滑化 合同諮問委員会

2015 (活動再開)

ASEAN10ヵ国の代表からなる専門委員会であるセクトラルボディの1つで、傘下にECを担当するACCECや税関を担当するCCC等、5つの委員会を持つ。

Telecommunications and Information

Technology Senior Officials Meeting

(TELSOM)

通信・情報技術 高級事務レベル会合

2000

2000年のメキシコシティにおけるAPEC大臣会合において設立が決定された。TELMIN(通信・情報技術大臣会合)による方向付け・優先順位付けに従いASEANの情報通信技術(ICT)関連の政策や活動を監督、調整、実施する枠組み。具体的には、ASEAN地域の要請に応じたICT関連活動や計画の特定や実施、地域的・国際的なICTの課題に関するフォーラム機能、民間部門、地域・国際機関、NGO等の参画促進、必要に応じたワーキンググループの組織、TELMINに対する進捗報告等を行う。

• 経済意思決定プロセス(p.15参照)におけるATFJCC傘下のセクトラルボディ(分野別会合)での協議でデジタルエコノミーに関係する分野の協議が行われていた(貿易円滑化、基準、税関等)が、16年のACCECの発足によりECに特化した協議枠組が設定されたため、議論の活発化が期待される

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2.2 主なビジネス関連団体① 各種ビジネスカウンシル及びワーキンググループ

16

• ASEANと先進諸国や周辺各国との間でビジネス団体(ビジネスカウンシル)が数多く組織されている

• 近年これらの団体間の情報共有に加え、対ASEAN政府関係交渉の円滑化に向けて、日本の主導でビジネスカウンシルの合同会合(JBC)が組織され、傘下にイノベーションをはじめとするワーキンググループが組織された

ASEANとのビジネスカウンシルによるバイの協議枠組が多い 【ビジネス団体による協議枠組】

ビジネスカウンシル合同会合(JBC)

ASEAN若手企業家協会

ASEANビジネスクラブ Asia HouseヨーロッパASEAN

ビジネスアライアンス

イノベーション

JBC傘下のワーキンググループ

メンターシップ 貿易円滑化 金融統合・包摂 競争 知財税制 消費者保護環境社会・

ガバナンス

EABC(東アジア

ビジネスカウンシル)

日本が参画するビジネス団体 ビジネスカウンシル その他ビジネス団体

NZ ABC

豪 ABC

加ABC

US ABC

露 ABC

中ABC

韓 ABC

印 ABC

EU ABC

ASEAN-BAC(Asean Business Advisory

Council )

議長

中ASEAN

ビジネス協会

日ASEAN BC

FJCCIA(ASEAN

日本人商工会議所連合会)英 ABC

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2.2 主なビジネス関連団体② 日本が参画する主なビジネスカウンシル

17

• 2018年にASEAN議長国を務めるシンガポール政府と足並みを揃えるように、ASEANを代表する業界団体ASEAN-BACの代表者もシンガポールの実務者が選任され、共に「デジタルエコノミーの推進」を標榜し域内での様々な活動が予定される

• 日本の実務者が参画する各種ビジネスカウンシルのうちAJBCやEABCでは、ECをはじめとするデジタルエコノミー分野について、ASEAN及び各加盟国政府に対して意見具申や提言を行う例が増えている

日本が参画する団体はデジタルエコノミー分野に熱心

英語名称 日本語名称 設立年 役割・最近の動向

ASEAN Business Advisory Council

(ASEAN-BAC)

ASEAN ビジネスカウンシル

2003

2001年ASEAN首脳会談に基づき、2003年4月にASEAN10ヵ国から8名ずつの経済人を各国首相が指名して発足。ASEAN経済統合に向けて民間部門からのフィードバック、ガイダンスを提供すること・ASEAN首脳の検討に先立って優先分野の特定を行うこと、首脳会談にあわせてASEANビジネス・投資サミット(ASEAN-BIS)を毎年1回開催することを目的とする。2017年の同サミットは「デジタルエコノミーにおけるアントレプレナーシップ」と題され、デジタルエコノミーが活動の上でキーワードになっていることが伺える。

ASEAN Japan Business Council

(AJBC)

日ASEAN ビジネスカウンシル

1980

1977年発足のASEAN・日本経済会議を母体に1980年12月に設立された、日本商工会議所会頭を長とする日本とASEANの経済界間の定期協議組織。同会日本委員会とASEAN-BAC(=ASEAN委員会)とでASEAN・日本経済協議会を構成する。また2017年には、日本とASEANの経済団体による「日ASEANイノベーションネットワーク(AJIN)」を創設した。今後は同ネットワークを通じて、新産業・イノベーションの創出に向けた「ネットワーキング」や「調査・研究」、「政府への政策提言」等の活動に取り組む。

East Asia Business Council (EABC)

東アジア ビジネスカウンシル

2004

ASEAN+3政府による東アジア研究グループの提言を受け、ASEAN+3の経済人で構成される協議枠組。域内経済協力と成長のさらなる加速を目指し民間部門の視点とフィードバックを提供すること、ASEAN+3の経済関係を強化することを目的とする。ASEAN+3経済大臣会合等を通じて構成国の経済大臣に要望を提出。直近では2017年7月のRCEP会合(於インド)に合わせ、ワークショップの開催とその結果を政府側首席交渉官等に報告する対話会合を実施。①中小零細企業・EC・貿易円滑化、②サービス分野、③市場アクセスの3分野をテーマとし、①についてはECを支える支払・決済システムとデータコンテンツを保護する制度等の実現が議論された。また、JETROと日商と共同で行ったRCEP交渉参加16カ国の企業を対象としたEC調査の結果報告も行われた。2017年はタイ、2018年はシンガポールが議長国を務める。

Federation of Japanese Chambers

of Commerce and Industry in

ASEAN(FJCCIA)

ASEAN 日本人商工会議所

連合会 2008

ASEAN域内の日本人商工会議所の相互連携の促進と、ASEAN事務局等関係機関への意見要望活動を通じて、地域の経済発展と日系企業のビジネス環境改善を図ることを目的として設立。ブルネイを除く9カ国の約7,000企業が参加する大規模な組織で、定期的にASEAN事務総長との対話セッションを設けている。2017年7月の第10回対話では、ATFJCC(後述)との分野別会合が行われ、サービス産業分野での基準策定の重要性、ACCEC(後述)との対話機会の創出などがFJCCIA側から要望された。

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2.3 ASEAN大のデジタルエコノミー関連施策

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2.3 ASEAN大のデジタルエコノミー関連施策の概観

19

ICT

総合戦略

通信インフラ

サイバーセ

キュリティ

IoT・製造業

スマート化

EC・物流・

決済

電子政府

~2015 2016~ 加盟国

地域戦略

Asian Payment Network

ICT Masterplan 2015

Strategic Plan of the Asia-Pacific Telecommunity

APEC Telecommunications and Information Working Group Strategic Action

Work Programme on Electronic Commerce

Cyber Capacity Programme

ASEAN Single Window

e-Government Strategic Plan

ICT Masterplan 2020

ASEANを含む地域枠組

ASEAN枠組

(該当する地域戦略なし)

AEC Blueprint 2015 AEC Blueprint 2025

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2.3 ASEAN大のデジタルエコノミー関連施策① 総合戦略

20

• ASEAN域内の総合的な戦略は、「ASEAN ICTマスタープラン2020」を筆頭に「ASEAN ブループリント 2025」や「ASEAN Economic Community 2025 Consolidated Strategic Acton Plan」等がある。デジタルエコノミーについて多様な角度から振興を図る施策や目標が盛り込まれている

ASEANの総合戦略でもデジタルエコノミーに言及

英語名称 日本語名称 制定・発表年 主な内容

ASEAN ICT Masterplan 2020

ASEAN ICT マスタープラン

2020 2015

2020年を目途とした新たな情報通信分野における開発目標として、2015年のASEAN情報通信大臣会合において採択された。①経済発展と移行(デジタルトレードとサービスを優先に、加盟国をデジタルエコノミーの中核と位置づけ)、②ICTを通じた人の統合とエンパワーメント(ICTのプラットフォームを通じた人々のつながり、共通アイデンティティの醸成)、③イノベーション(ICT分野における起業支援)、④ICTインフラ開発(持続可能なデジタルエコノミーを実現するためのインフラ開発を継続的に実施)、⑤人的資本開発(スキルアッププログラムを通じた情報リテラシーの高いASEAN市民の育成)、⑥単一市場におけるICT(ASEAN内におけるビジネスコストの低下、持続可能なビジネスモデルの実現)、⑦新しいメディアとコンテンツ(ICTのチャネルを通じた、オンラインコンテンツの共同創作等の機会拡大)、⑧情報セキュリティと保護(サイバー脅威に対抗するデジタルエコシステムの構築)の8分野に目標を設定した。

ASEAN Economic Community

Blueprint 2025

ASEAN ブループリント

2025 2015

ASEAN経済共同体(AEC)の更なる深化に向けた取り組み。2025年までに域内EC市場の拡大に資する政策課題が取り決められ、具体的な協議が今後進展する見込み。ECについては「3. 連結性強化とセクター別協力」に①消費者保護法制の調和化、②オンライン上の紛争解決手段関する法制度の調和化、③相互運用可能で安全な電子認証基盤(電子署名)の構想、④個人情報保護のフレームワーク等の記載がある。また、関連分野の取組みとして、①消費者保護(ASEAN 共通の消費者保護の枠組みの設立を目指す(電子商取引についても言及))、②知的所有権協力の強化(特許、商標、意匠分野の知財強化、中小企業の知財利用促進等)、③租税協力(二国間租税条約ネットワークの改善、源泉徴収制度の強化等)、④グローバルメガトレンド・通商に関する新たな課題(労使環境の整備維持、国境を越える交流の拡大やデジタル技術の進展等)等がある。

Master Plan on ASEAN

Connectivity 2025

ASEAN コネクティビティ マスタープラン

2025

2016

AECで長年にわたり協議されてきたテーマの一つであるコネクティビティ(接続性)を発展させる地域戦略。5つの戦略領域として①「持続可能なインフラ」、②「デジタルイノベーション」、③「切れ目のない物流」、④「卓越した規制」、⑤「人の移動」が定められる。このうち②「デジタルイノベーション」においては中小企業の技術導入支援、デジタル技術を通じた金融アクセス支援、ASEAN加盟国におけるオープンデータ活用、強化されたデータ管理の支援が目的とされ、中小企業の技術プラットフォームの強化、デジタル金融包摂フレームワークの創設、ASEANオープンデータネットワークの創設、ASEANデジタルデータガバナンスフレームワークの創設、といったイニシアチブを掲げる。

ASEAN Economic Community 2025

Consolidated Strategic Acton

Plan

ASEAN経済共同体2025統合戦略行動 計画

2017

上述ブループリントの行動計画。デジタルエコノミーの関連施策としては、戦略的取組みのElement C2. Information and Communication Technology (ICT)において、①経済のトランスフォーメーション(ICT利活用を通じた経済成長とデジタルトレードの促進)、②ICTを通じた人々の統合とエンパワーメント、③イノベーション、④ICTインフラ開発、⑤人的資本開発、⑥単一市場におけるICT(ICT製品・サービス・投資の自由移動、国際ローミング料金の低減)、⑦新メディア・コンテンツ産業、⑧情報セキュリティと保全の8分野が、Element C3. E-Commerceにおいては、①消費者の権利とその保護法に関するハーモナイゼーション、②オンライン紛争の処理に関する法的枠組みのハーモナイゼーション、③電子署名スキームの整備、④個人データ保護の4分野における枠組みの整備が掲げられている。

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2.3 ASEAN大のデジタルエコノミー関連施策② 個別分野の戦略

21

• 電子政府、EC等デジタルエコノミーを構成する諸分野に関しての戦略も、近年策定されるようになってきている

• ECの分野では、2017年のASEAN電子商取引ワークプログラム、18年策定予定のASEAN電子商取引協定と、ECに特化した行動計画が実現しつつある。ECにまつわる重点分野に関してASEAN加盟国間での合意形成が重要である

個別戦略もある

分野 英語名称 日本語名称 制定・発表年 主な内容

電子政府

ASEAN e-Government Strategic Plan

2020

ASEAN電子政府 戦略計画2020

2014

ASEAN各国の電子政府サービス推進に関するイニシアチブで、特に人とモノの越境移動を促進するシェアードサービスに焦点を当てる。具体的な戦略領域として①電子政府発展計画の明確な定義づけ、②オンラインサービスコンポーネントの発展、③ICTインフラの強化が、発展に向けた提言として①電子政府を支える法規制の強化、②ICTに関する人的資本の開発が記されている

インフラ ASEAN Single Window(ASW)

ASEAN シングルウィンドウ

2003

ASEAN経済共同体実現に向けた「物品の自由な移動」を保証するスキーム。既に一部のASEAN加盟国で導入されていた通関電子化システム(National Single Window)をASEAN域内で簡易かつ共有化・標準化することで、関係国間での貿易関連情報の相互交換の実現、ASEAN 域内の貿易関連コストの削減を実現し、ASEANの輸出競争力を高め、域内を単一市場・単一生産拠点として統合する取り組み。2018年1月時点でシンガポール、インドネシア、ベトナム、タイ、マレーシアが参画している。現在、USAIDのプロジェクトU.S.-ASEAN Connectivity through Trade and Investment(ACTI)がASWを重点領域と定めて支援している

産業振興(EC・小売)

ASEAN Work Programme on

Electronic Commerce

ASEAN電子商取引ワークプログラ

ム 2017

18分野(域内ブロードバンド網へのアクセス、ECプラットフォームの規制環境、人的資本開発、オンラインB2C取引に関する消費者の権利、オンラインビジネスの行動規範、消費者権利に関する意識の向上、紛争処理、地域・国際協力、現代化されたEC法規制、透明性の高い国内EC法規制、個人情報に関するフレームワーク、本人認証、サイバーセキュリティ、決済、貿易円滑化、競争環境の平準化、物流、ASEAN電子商取引協定)に関する施策について定められている

産業振興(EC・小売)

ASEAN Agreement on

Ecommerce

ASEAN電子商取引協定

2018 (予定)

ASEAN域内の越境EC振興を目的としたECに関する協定。2018年に策定される予定。上記のワークプログラムでも同協定のレビューが盛り込まれている

サイバー セキュリティ

ASEAN Cyber Capacity

Programme

ASEANサイバー セキュリティ計画

2017 シンガポール政府が主導した、メンバー国のサイバーセキュリティ向上に向けた行動計画。1,000万シンガポールドルの投資により主として官民関係者のキャパシティビルディングを支援する。IoT標準に関するグローバルな取り組みへの貢献も盛り込まれている

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2.4 ASEAN国別のデジタルエコノミー環境

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2.4 既存の関連指標による対象国比較

23

• 公的機関・研究機関等の発表から、ASEANおよび主要国のデジタルエコノミーに関連する指標を比較した。ASEANの加盟国間では発展段階に大きな差があり、デジタルエコノミーの効果的な推進に向けて、地域的に対処すべき政策課題と国別に対処すべき政策課題があることが明らかである

ASEANメンバー国の発展度合は多様

BRN KHM IDN LAO MYS MMR PHL SGP THA VNM JPN CHN USA DEU GBR SWE

1 Networked Readiness Index(WEF/INSEAD/Cornell University) 2016 139 109 73 104 31 133 77 1 62 79 10 59 5 15 8 3

1-a Environment subindex 2016 139 119 62 93 21 133 89 1 54 86 17 83 13 20 3 12

1-b Readiness subindex 2016 139 100 81 107 73 118 92 16 62 82 15 75 5 13 20 7

1-c Usage subindex 2016 139 110 78 117 30 137 66 1 63 81 2 51 8 14 11 4

1-d Impact subindex 2016 139 117 78 104 30 135 62 1 65 76 14 39 5 15 7 3

2 Global Competitiveness Index (WEF) 2017 137 46 94 36 98 23 56 3 32 55 9 27 2 5 8 7

2-a Technological readiness pillar 2017 137 60 97 80 110 46 83 14 61 79 15 73 6 8 4 5

3 ICT Development Index (International Telecommunication Union) 2017 176 53 128 111 139 63 135 101 18 78 108 10 80 16 12 5 3

4 World Digital Competitiveness Ranking (IMD) 2017 63 59 24 46 1 41 27 31 3 17 11 2

5 Digital economy rankings (Economic Intelligence Unit/IBM) 2010 70 65 36 54 8 49 64 16 56 3 18 14 1

6 Digital Evolution Index (Tufts University/Mastercard) 2017 60 45 51 6 42 48 15 36 10 17 8 2

7 電子政府世界ランキング(早稲田大学) 2017 65 32 36 33 1 21 47 4 44 3 15 9 12

8 E–Government Development Index (United Nations) 2016 193 83 158 116 148 60 169 71 4 77 89 11 63 12 15 1 6

9 E–Participation Index (United Nations) 2016 193 114 179 114 133 47 170 67 8 67 43 2 22 12 27 1 27

10 The Digital Economy and Society Index (European Commission) 2017 29 11 7 3

11 Bloomberg Innovation Index 2018 50 26 3 45 6 19 11 4 17 2

12 OpenData Barometer (World Wide Web Foundation) 2016 114 38 53 113 22 23 53 79 8 71 4 14 1 14

13 IoT国際競争力指標(日本国総務省) 2017 10 3 2 1 6 8

European

toprunnersASEAN Member States

Dig. economic

powers最新年度

対象国数

Digital Economy-related Indices

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国 ICT環境 整備度

ICT政策の動向と重点分野

シンガポール 1位 • 世界初の「スマート国家」を目指し、先端ICTを活用を通じた個人の生活・企業活動・政府サービスの向上を企図 • 小売については実体店舗のIT化、EC活用等を念頭に置いた「第二次小売業振興計画」を実施中 • IoT、自動運転車等先端製造業研究にも多額の予算を捻出

マレーシア 31位 • 国有企業Malaysia Digital Economy Corporationを中心にEC、IoT、クラウド、ビッグデータ分析等デジタルエコノミーの発展を推進 • 中国アリババと組んでデジタル自由貿易区を発足(2017年5月)

ブルネイ 対象外 • 石油・天然ガス価格に大きく左右される経済(2017年の実質GDP成長率はマイナス:IMF推計)のため、新産業としてのITに注力 • 電子政府、ITインフラに関する戦略を進めている

タイ 62位 • 「Thailand 4.0」の経済発展モデルを念頭に、ICTによる格差の解消や福祉の向上に期待 • 2016年に情報通信技術省をデジタル経済社会省に改組し、電子政府、スマートシティを中心にIT化を進める意向 • National Digital Economy Master Plan2017-2021、ECマスタープランがデジタル経済社会委員会で承認(2017年9月)

インドネシア 73位 • 若年層中心の人口大国ゆえ、特にスマホを通じたECが興隆。外資規制緩和やロードマップ策定(2017年9月承認)等を通じてEC振興に注力

• ただし島嶼国のため基本的ITインフラすら未整備で、政府も急務と認識

フィリピン 77位 • 基幹産業のIT-BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)に注力 • 貿易産業省は2020年までのECロードマップの策定、ECに関する情報提供等を行う専用ウェブサイトの開設を行ったECを軸にインフラ、セキュリティ、投資促進、スタートアップ支援等にも注力の意向を示し、この数年で関連戦略が矢継ぎ早に公表・更新

ベトナム 79位 • オフショアのソフトウェア開発を中心としたIT産業振興に注力するが、安価な労賃を背景にした受託が中心。先端分野はハノイ近郊に初のIoT研究施設(Hoa Lac IoT Lab)ができた程度

• 2020年までのEC振興計画を策定し、包括的な制度構築を目指す

カンボジア ・ラオス ・ミャンマー

109位/104位/133位

• 韓国の国際援助機関KOICAと郵便情報通信省が共同で2020年までのICT戦略を策定。(1)人々のエンパワーメント、(2)接続性の強化、(3)キャパシティの強化、(4)電子サービスの充実の4本柱を掲げる(カンボジア)

• 2017年1月にマイクロソフトとパートナー契約を締結し、電子政府に向けた取り組みの強化を図っているが、ICTに関する包括的な総合戦略・個別分野の戦略はドラフト段階(ラオス)

• ICTの整備度合いはASEANでも最低クラスだが携帯電話の普及スピードは非常に早く、2017年には一部都市で4Gが利用可能に。2015年にADBの技術協力で電子政府マスタープランを策定(ミャンマー)

2.4 対象国の概況

24

対象国間で課題分野、公的制度の整備度合いは大きく異なる

• 本件調査対象国の状況を定性的に概観する。国によってICTの利活用により発展を期待する分野、課題となっている分野が異なる

• 本調査ではp.24のデジタルエコノミー関連指標を元に、先進国(シンガポール)、上位中進国(マレーシア・ブルネイ)、中進国(タイ・インドネシア・フィリピン・ベトナム)、後発国(カンボジア・ラオス・ミャンマー)に分類(本件調査対象国は緑で表示)した

先進国

上位

中進国

中進国

後発国

発展段階

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43.11

45.21

46.53

50.67

54.43

60.05

0 10 20 30 40 50 60 70

Vietnam

Philippines

Thailand

Indonesia

Malaysia

Singapore

2.4 DIR独自分析による対象国比較①

25

(注)各データは、世界銀行や世界経済フォーラム、国連等を主な出所とする。

総合評価スコア

• 調査対象国のデジタルエコノミー環境について、総合的な発展度合いを定量的に把握するため、インデックス化による独自の評価を実施した

• ①市場規模、②市場の成長性、③インフラ、④物流、⑤金融・資金調達、⑥人材・教育、⑦電子政府の7項目につき、標準偏差を取った後、7項目の平均として総合スコアを算出した

• 結果、シンガポールが60.05点で1位となった。市場規模と成長性は見劣りするが、他の項目では他の調査対象国を圧倒する高いスコアを示している。2位のマレーシアは全ての項目で比較的バランスが取れている

• インドネシアは市場規模と成長性で高いスコアを示すが、インフラや電子政府化の進展が大きな課題となっている

• タイ、フィリピン、ベトナムは僅差ではあるが、ベトナムは他国に比してデジタルエコノミーに関する総合的な発展段階において見劣りしない

ASEAN主要国のデジタルエコノミー環境を独自に評価

■インデックス SGP MYS THA IDN PHL VNM

総合評価 7項目の平均 60.0 54.4 46.5 50.7 45.2 43.1

市場規模 EC市場規模 46.6 46.5 48.9 71.7 40.9 45.5

市場の成長性 EC市場成長率 33.9 53.8 46.2 67.6 49.2 49.2

インフラ サーバー数+ネット利用者数 の平均 67.6 54.8 45.6 39.5 47.4 45.1

物流 LPI(総合評価) 70.1 53.5 49.6 43.3 40.4 43.1

金融・資金調達 VCの利用可能性 66.3 59.6 46.3 47.3 44.4 36.2

人材・教育 ICT特許申請数+理数教育の質 の平均 65.2 61.4 42.7 46.2 45.8 38.8

電子政府 電子政府インデックス 70.7 51.4 46.6 39.0 48.4 43.9

インデックスを構成する項目と国別スコア

(出所)大和総研による試算

シンガポールが1位

ベトナムは健闘

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2.4 DIR独自分析による対象国比較②

26

S: Market Size

P: Market Potential

I: Infrastructure

L: Logistics

F: Financial Access

H: Human Capital and Education

E: E-Government

Philippines Vietnam

Singapore Malaysia Indonesia

Thailand

0

20

40

60

80S

P

I

LF

H

E

0

20

40

60

80S

P

I

LF

H

E

0

20

40

60

80S

P

I

LF

H

E

0

20

40

60

80S

P

I

LF

H

E

0

20

40

60

80S

P

I

LF

H

E

0

20

40

60

80S

P

I

LF

H

E

• カテゴリー別の評価結果をレーダーチャートで示したのが以下である

• シンガポールはデジタルエコノミー環境は整っているものの、市場規模は比較的小さい

• インドネシアは市場規模と成長率以外の項目を改善することで、事業環境の有望性を大きく向上させることができるだろう

• 一方、タイ、フィリピンはより発展段階の低いベトナムと僅差であり、デジタルエコノミー環境の更なる改善が必要である

シンガポール、インドネシアは一部の課題を克服できれば理想的なデジタルエコノミー環境に

(出所)大和総研による試算

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英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

Personal Data Protection Act 2012 個人情報保護法 2012

初の包括的個人情報保護法が2013年に施行され、翌14年1月から部分適用、7月から完全適用された。個人情報保護委員会(Personal Data Protection Commission, PDPC)が各種ガイドライン制定、同法に基づく立入検査等を一元的に管轄する。国外・域外に本人の許可なくデータを持ち出してはならないとする「トランスファーアウト」条項や、登録した番号からのセールス電話やSMSを拒否できる「Do Not Call Registry」等が特徴

Electronic Transactions Act 電子商取引法 2010 1998年に制定され、翌99年に電子商取引規則が制定された。国連国際法委員会による電子商取引に関するモデル法に則っている。何回か改定され、最新のものは2010年改正版。電子署名についても同法で規定。最近の規則に「電子商取引(認定機関)規則」Electronic Transactions (Certification Authority) Regulationsがある

分野 英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

総合戦略 Infocomm Media 2025(ICM2015)

Infocomm Media 2025(ICM2015)

2015

シンガポール政府の目指すICM(ICT+Media)分野の10ヵ年計画。世界初のスマート国家(先進ICTの活用により個人の生活・企業・行政サービスが向上した国家)をめざし、①データ及び先進コミュニケーション、コンピュータ技術の活用、②リスクテイキングで継続的な実証を推進するICMエコシステムの涵養、③ICMを通じた人々の結びつきの強化を基幹戦略とする。また重要な技術とビジネスの潮流として、ビッグデータ解析、IoT、コグニティブコンピューティングと高度ロボティクス、次世代通信技術、サイバーセキュリティ、VRのような没入型(イマーシブ)メディア、モバイル端末、プラットフォームフリーなメディアコンテンツ、ICMの収斂(convergence)を挙げている

産業振興 (IoT、製造業)

Research, Innovation and Enterprise 2020

Plan(RIE)

研究・イノベーション・企業2020計画

2016

2016年~2020年の研究開発、イノベーション5ヵ年計画。本計画は95年から継続的に策定されている5ヵ年計画の6代目にあたり、過去最高額の政府予算190億Sドル(≒1.5兆円)が割り当てられている。①高度製造業とエンジニアリング、②ヘルスケア・バイオ医薬、③サービスとデジタルエコノミー、④都市ソリューションとサステナビリティという4つの優先分野に対して、調査研究、人的資源、イノベーションと企業活動の3側面から支援する。190億Sドルの予算のうち、サービスとデジタルエコノミーへの割当額は2%にあたる4億Sドル

EC・小売 the Second Retail Productivity Plan

第二次小売業効率化計画

2015

2011年に開始された第一次計画の後継として2015年9月に貿易産業省上級大臣が発表した5ヵ年計画。雇用の5%、GDPの1%を占める小売業の競争激化に鑑み、EC・ブランディング・コンセプトイノベーションの支援とノウハウ提供を行う。ECについては伝統型店舗をSingPost、Google、eBay等と協働させつつ、物流・倉庫の共有プラットフォームの確立、在庫管理、デジタルマーケティング等の支援を行う。その他、RFIDやセルフラベリング等の技術による省人化を促進する

サイバーセキュリティ

National Cyber Security Masterplan

2018

国家サイバーセキュリティマスタープラン

2018 2013

Infocomm Security Masterplan、Infocomm Security Masterplan2の後継として策定されたサイバーセキュリティの基本計画。政府情報や重要な情報インフラに加え、ビジネスと個人も含む情報通信エコシステム全体が対象となった

インフラ Wireless@SG Wireless@SG 2006 無料公共wi-fi整備計画。個人向けのみならず、事業者向けのwifiアクセスポイントの設定、POSターミナルを用いたデジタル決済、GPSやジオフェンシング技術を用いたデータ分析等のパッケージを提供している

27

• 世界初のスマート国家を目指し、基本的なインフラの質向上のみならず先端分野の研究開発、小売業の活性化、サイバーセキュリティの強化等を戦略的に行っている

• 個人情報保護法が14年に完全適用され、ビッグデータ活用にもつながるデータの匿名化に関するガイドラインも発出

高水準のICT利活用によるスマート化をめざす

2.4 ①シンガポール: デジタルエコノミー関連政策・法律

(上表:主要なICT戦略、下表:主要なICT関連法。出所:各種公知情報より大和総研作成)

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社名 分野 取組内容 発表年月

Lazada (地場)

EC 同社サイトで米アップルの製品の販売を開始すると発表。公認代理店として、まず同日にシンガポール、インドネシア、タイ、フィリピンのサイトにアップル専用ページを開設。iPhoneやiPad等を取り扱う

2017年12月

Amazon (米)

EC シンガポール国内に配送センターを設け、最短1時間で商品を届ける「アマゾン・プライムナウ」サービスを始めた。東南アジア内で同社がEC事業を手掛けるのは初めて。周辺国への進出も視野に入れる。食料品や飲料、おむつ等の日用品を取り扱う。

2017年7月

螞蟻金融服務集団(中国)

フィンテック EC中国最大手の阿里巴巴集団(アリババ)系で電子決済サービス「支付宝(アリペイ)」を運営する螞蟻金融服務集団は、東南アジアのEC大手「ラザダ」傘下のオンライン決済サービス「ハローペイ」を統合すると発表。

2017年4月

Siemens (ドイツ)

IoT ドイツの総合電機大手シーメンスは21日、シンガポール航空産業協会(AAIS)と航空関連産業のデジタル化促進で協力する覚書を交わした。会員企業にデジタル技術の恩恵等を啓発し、新たなサービスや製品の導入を促す考えだ。

2017年8月

Bosch (ドイツ)

IoT 自動車部品世界最大手の独ボッシュが6月から、あらゆるモノをインターネットにつなぐIoT技術を活用した建物管理システムをシンガポールで導入する。

2016年5月

• 日本企業、外資企業ともIoTやフィンテックといった先端分野での活動が注目される。日本の場合はシンガポール政府や政府系機関との協働事例も目立つ

• ECの分野では、昨年Amazonがシンガポールに進出。ECサイト間の競争が激化すると考えられる

IoT、フィンテック等先端技術の実験場

社名 分野 取組内容 発表年月

NTTドコモアジア IoT NTTドコモのシンガポール現地法人NTTドコモアジアが、プラスチック射出成形周辺機器で世界トップメーカーの松井製作所と組み、あるインドネシアのプラスチック成形工場でドコモアジアが開発したプラットフォームの実証実験を実施。来年初めには東南アジア各国で、商業サービスを開始する。さらにプラスチック成形業界だけでなく、他の製造業や農業、ヘルスケア産業等にも広げていく計画

2017年11月

カカクコム フィンテック 東南アジアで個人向け金融ポータルサイト「MoneySmart.sg」を運営するシンガポールの「カタプルトベンチャーズ」に20%出資。インターネットビジネスの成長著しいアジアへの事業展開を強化

2017年6月

トランスコスモス EC シンガポールのSaaS型ECロジスティックス・販売プラットフォーム提供企業「アンチャント」に追加出資。今回の追加出資に伴い、アンチャントから複数のECマーケットプレイスおよび顧客企業の自社ECサイトを一元管理(出品、受注、在庫等)するSaaS型EC販売プラットフォーム「SelluSeller」の日本国内向けおよび日系企業(国内・海外販売)向けの独占販売権を取得

2017年6月

住友化学 IoT

シンガポール経済開発庁の支援を受け、IoTプロジェクトを開始。プラント内センサーを活用した情報分析による機器の予測保全や現場作業員へのスマートデバイスの導入等を進めることで業務効率化・標準化や稼働率の向上、エネルギー効率の最適化を図る。また、バリューチェーン全体の情報を活用できるプラットフォームを構築し、グループ内サプライチェーン管理のリアルタイム化やデータ分析機能を強化するほか、AIやロボット工学等を活用したバックオフィスの環境整備により業務体制の変革を目指す

2016年11月

NEC IoT 公共交通運営大手SMRTの路線バス運行子会社向けに、臨時バスターミナルでIoTと動画解析技術、ソフトウエア・デファインド・ネットワーキング(SDN)を組み合わせ、リアルタイムの情報を収集。インタラクティブディスプレーを通じて乗客にバスや列車の実際の出発時刻のほか、バスの路線や料金、推定所要時間等を知らせる

2016年4月

2.4 ①シンガポール: 企業のデジタルエコノミー関連動向

(上表:日系企業の動向、下表:外資・地場企業の動向。出所:各種公知情報より大和総研作成)

28

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2.4 ①シンガポール: 急拡大するシェアサイクル

29

• シンガポールでは近年、シェアサイクルが急速に普及してきており、その背景には中国企業の相次ぐ進出がある

• 特に、Mobike、oBike、ofo(いずれも中国企業)のシェアが大きく、街の至る所で見かけることができる

• シンガポール企業も参入している。地場スタートアップのTelepodは、キックスクーターのシェアリングサービスを提供している

自転車やスクーターのシェアリングサービスが拡大

台頭する中国系シェアサイクル企業:

シンガポールでは、中国系のシェアサイクル企業が進出、急速にシェアを拡大している。

シンガポールでシェアサイクルを提供するのは、主にMobike、oBike、ofoの3社。中でもMobikeのシェアが大きく、街のあちこちで特徴的なオレンジ色の自転車を見ることができる。oBikeはイエローとシルバー、ofoはイエローの車体である。

いずれの企業もスマートフォンに専用のアプリをインストールして使うことができる。登録した電話番号にワンタイムパスワードが送られてくるため、それを利用して開錠する仕組みだ。

どこで乗り捨てるのも可能で、MobikeとoBikeには地図機能で利用可能な自転車がどこにあるか分かるようになっている。

自転車だけではない。シンガポールのスタートアップ「Telepod」による、キックスクーターのシェアリングサービスも人気である。

写真:大和総研撮影

左上:Mobikeの自転車(横)。右上:Mobikeの自転車(後)

左下:oBikeの自転車。右下:Telepodのスクーター

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2.4 ①シンガポール: 意外と進まないキャッシュレス化と乱立する電子決済システム

30

• シンガポールでは電子決済サービスが進み、クレジットカードやデビットカードは多くの場所で問題なく使用することができる

• シェア最大の決済サービスは「NETS」。サービスの歴史が長く、多くの小売店や飲食店で用いることができる

• 一方、現金支払のみとする場所も未だ多く、現金主義が根強く残っている面もある

電子決済サービスは多々あるが、未だに現金支払も根強い

市場を席巻する電子決済サービス「NETS」:

シンガポールでは小売店や飲食店で利用可能な決済サービスが普及している。中でもよく見られるのが、Network for Electronic Transfers(Singapore)Pte Ltdの「NETS」である。

NETSは、シンガポールの3つの銀行が株主となっており、キャッシュ

カードにひもづいたデビットカードして利用できる。シンガポールの人口は約500万人だが、ATMカードは900万枚が発行されている。

同社は1985年にサービスを開始し、クレジットカードの普及以前に国民に浸透したことがシェアを大きく広げた要因であるといえる。

根強い現金主義:

一方で、国民の生活に根差したホーカーセンターや一部のタクシーでは現金での支払しか受け付けていない場合も多く、キャッシュレス化が進んでいない一面も見受けられた。

また、店舗のレジには決済サービス用の端末が多く並べられており、決済システムが乱立している印象も受ける。サービスの共通化や互換性の担保が課題となる。

写真:大和総研撮影

左:飲食店のレジに並ぶ決済サービス用端末。所狭しと並べられている。

右:NETSで支払えることを示す飲食店のメニュー台座。

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2.4 ②インドネシア: デジタルエコノミー関連政策

31

• 1万以上の島から成る島嶼国で、地方部へのインフラ整備が長らく課題とされてきた。政府の優先課題にも通信網、物流インフラ、電力等が挙げられる

• 2017年に入り決済ゲートウェイやECロードマップが整備され始め、デジタルエコノミーへの積極的なスタンスが伺われる

インフラの質・量の拡充が優先課題、近年はECや決済も

分野 英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

総合戦略

Medium-Term National

Development Plan(RPJMN)

2015-2019

中期国家開発計画2015-2019

2014 2025年までの長期開発計画National Long‐Term Development Plan (RPJPN 2005‐2025)の第3期に当たる2015-2019年の中期計画。IT活用によるコミュニケーションの強化、情報共有の推進を重要テーマに位置付けている。

Indonesia Broadband Plan(IBP) 2014-2019

インドネシア ブロードバンド計画

2014-2019 2014

「ICTインフラとセキュリティ」「ICTインフラの利活用」「資金調達」「規制・制度」の4分野の整備強化を通じて、①経済成長と競争力強化、②国民の質的能力強化、③国家主権の保護の向上を支援しようとする5ヵ年計画。2019年末までに地方部を含めた広範なブロードバンド網の整備、下記分野におけるブロードバンドICTの利活用(電子政府、教育、医療・ヘルスケア、物流、政府調達)を目指す。

EC・小売 E-Commerce

Road Map ECロードマップ 2017

大統領令74号(President Regulation No. 74/2017)により制定された2017-2019年の3ヵ年EC促進ロードマップ。①資金調達、②税制、③消費者保護、④教育と人材、⑤コミュニケーションインフラ、⑥物流、⑦サイバーセキュリティ、⑧本ロードマップの実施機関の設立の8分野のプログラムを整備する。

決済 National Payment Gateway (NPG)

国家決済ゲートウェイ 2017

インドネシア中銀(BI)による規則(BI Regulation No. 19/8/PBI/2017 on National Payment Gateway)により創設が着手された。NPGはBIによって管理され、インドネシア国内で行われるあらゆる金融取引を接続し、あらゆる決済手段の相互運用性を保証するものになる予定。NPGは標準化技術や運用を開発、管理する標準機関(Standard Institution)、決済システム間の切替を行うスイッチング機関(Switching Institution)、クリアリングやセキュリティ等決済サービスに要求される機能を充足するサービス機関(Services Institution)により組織される。

インフラ Palapa Ring Project - 2015 全国総延長13,000kmの光ファイバー通信網整備計画。西部、中部、東部の3セクションから構成される。2017年7月、通信事業者3社によるコンソーシアム「PT Palapa Timur Telematika」が東部地域の通信網建設を開始すると報道された。

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2.4 ②インドネシア: デジタルエコノミー関連法律

32

• ソースコード開示請求、一部施設の国内設置要求等が明文化されており、データ管理に関しては厳格な規制が敷かれている

• ECに関しては電子データ保護規制が2016年に施行され、ECマーケットプレイス事業が外資に開放された データ管理制度に制約が多い

英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

Regulation No. 20 of 2016 on Personal Data Protection in Electronic Systems

電子取引における個人データ 保護に関する規制

2016

電子情報及び取引法の施行規則として2016年12月に施行された、個人情報保護に関する規則。個人情報(Personal Data)の取得、加工・分析、保存、公開、消去の各取扱に対して取扱者の義務やデータ所有者の権利が規定される。(例:データ保存の際は暗号化すること、域外へのデータ移転の際は通信情報省の承認を要する)

Presidential Decree Number 44 Year 2016 Concerning Lists of Business Fields that are

Closed to and Business Fields that are Open with Conditions to Investment

投資禁止および条件付開放 業種リストに関する規則

2016

所謂外国投資ネガティブリスト。今般の改正では、投資額が1,000 億ルピア未満の電子システムを通じた商業取引の実施(ECマーケットプレイス)が外資に開放され、出資上限49%と定められた。その他通信分野では、コールセンター、インターネットアクセスサービスプロバイダー 、固定・移動通信体事業、コンテンツ通信サービス等が外資の出資上限67%とされている。

Government Regulation No. 82 of 2012 regarding the Implementation of Electronic

Systems and Electronic Transactions

電子システム及び電子取引の運用に関する政府規定

2012

電子情報及び取引法に関連して、電子システム、電子エージェント(電子情報に対して自動的に何らかの反応を返すデバイス)、電子取引運用、電子署名、電子証明書、証明機関、ドメイン名管理等についての細則を定める。個人情報保護、データセンターや事業継続のための災害復旧センターのインドネシア国内への設置義務、ソフトウェア開発時のソースコードを政府機関または信頼できる第3者機関に提供する等の義務を、関連する事業者に対して課している。

Law No. 11 of 2008 on Electronic Information and Transactions

電子情報及び取引法 2008

情報通信技術が市民生活に対する諸刃の剣であるという認識に立ち、ICTや電子取引の原則的理念から電子署名、電子契約、個人情報、電子サービスプロバイダ(Electric System Provider:ESP)に求められる最低限の規制等個別具体の論点をカバーした法律。2016年11月に改正法が施行され、ESPの定義の確立、裁判所を通じたESPに対する重要でない情報や文書を消去するよう求められる権利(「忘れられる権利」)の行使に関する条文の新設、政府がヘイトスピーチ等法規に照らして不適切なコンテンツに対するアクセスを禁止できる権利の明示等、政府権限の明確化等が盛り込まれた。併せて、電子情報及び取引に関する違法行為(侮蔑的・中傷的・脅迫的な表現の流布)に関する罰則が緩和された。

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社名 分野 取組内容 発表年月

京東商城 (中国)

物流 中国のEC最大手アリババ系の「ラザダ」と、中国のインターネット通販大手京東(JD.com)がインドネシア各地で倉庫の増設を進めている。顧客への配送効率化とコスト削減を図る。先月稼働した南スラウェシ州マカッサルの倉庫に続き、12月初旬には東カリマンタン州バリクパパンの倉庫も運用を始める。ラザダの倉庫は、既存倉庫と合わせて年内に5ヵ所となり、将来的に10ヵ所以上とする計画

2017年11月

Uber Technologies (米国)

EC インドネシアのECサイト運営トコペディアは、米配車大手ウーバー・テクノロジーズと業務提携する。トコペディアのスマートフォンアプリを通じた、ウーバーの送迎サービスの利用が可能になる

2017年10月

Ralph Lauren Corporation

(米国) EC

米衣料品大手ポロ・ラルフ・ローレンは20日、インドネシア向けのオンラインサイトの運営を開始した。ECサイトで出回る模倣品の抑制を図るともに、今年の売上高目標である前年比3割増の達成を目指す

2017年8月

Lotte Group (韓国)

EC インドネシアEC市場に参入する。地場財閥サリム・グループと今年7月までに合弁会社を設立し、来年初めにインターネットショッピングモールを立ち上げる意向

2016年2月

2.4 ②インドネシア: 企業のデジタルエコノミー関連動向

33

• 日本企業では、同国の高い通信・物流インフラ需要に対して日本の高品質なインフラを輸出しようとする試みが目立つ

• 外資の分野では、韓国ロッテ、中国京東、米国ウーバー・テクノロジーズ等がEC分野で参入・事業拡大を図っており、同国のEC市場規模への成長期待が大きいことが伺える

通信・物流関係が多い。ECの競争も活発

社名 分野 取組内容 発表年月

三菱倉庫 物流 4温度帯に対応可能な新配送センターを西ジャワ州に開所した。コールドチェーンの確立により原材料の輸入から製品の保管、配送までをワンストップで行う「ディストリビューションパーク」の構築を目指す

2017年10月

伊藤忠グループ 物流

2017年10月、インドネシア法人「ILCロジスティクス・インドネシア」で「第二物流センター」を稼働。地場における物流等の新規引き合いが増え、既存の第一物流センター(延床面積8,700㎡)が手狭になってきたため、同6,541㎡の物流センターを増設するもので、完成後、インドネシアでの物流拠点の総延床面積は3万7,000㎡超に拡大

2017年10月

郵船 ロジスティクス

物流

2017年11月、インドネシア法人「郵船ロジスティクスソリューションズインドネシア」が西ジャワ州ブカシ市の倉庫を移設・拡張へ。MM2100工業団地に保有する3倉庫のうちそのうち第3倉庫を同団地の別の敷地に移設し、スペースを倍の1万1,000㎡に拡張。これによりYS-IDの倉庫の総延床面積は4万5,000㎡に拡大

2017年5月

NTTコミュニ ケーションズ

通信 地場データセンター事業者PT.Cyber CSFの株式100%を取得。ジャカルタ都心部にサーバールーム面積合計約7,700㎡の高品質データセンターを獲得し、成長著しいインドネシア市場における地場企業および外資企業の事業展開を支えるICTサービス基盤を確保

2015年7月

ソニー 通信 非接触IC技術「フェリカ」をインドネシアの鉄道会社「ジャカルタ首都圏鉄道」に提供する。まず同鉄道のIC乗車券としてフェリカを採用してもらい、電子マネーとして使えるようにする予定

2015年2月

(上表:日系企業の動向、下表:外資・地場企業の動向。出所:各種公知情報より大和総研作成)

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2.4 ②インドネシア: 普及が進む電子マネー・ポイントサービス

34

• インドネシアの大手財閥・Lippoグループのデジタル事業が拡大している。中でも、「OVO」ブランドで提供される電子マネー・ポイントサービスが広がりを見せている

• OVOには、日本の東京センチュリーも約130億円の出資を行う等、注目が集まる。同社との提携により、電子マネーから収集されるビッグデータ活用等も展開が見込まれ、インドネシア経済のデジタル化が一層進展するといえる

インドネシアで拡大する電子マネー・ポイントサービス。日系企業の出資も

Lippoグループのデジタル事業会社「OVO」:

電子決済の普及が遅れているインドネシアでも、地場財閥であるLippoグループの「OVO」によるデジタル事業は近年大きく拡大してきている。

「OVO」は電子マネー・ポイントサービスで、Lippoグループが保有する不動産やIT、メディア、病院、金融の他、様々な加盟店で活用することができる。

商機を見出した日系企業との連携も進む。東京センチュリー株式会社は、2017年12月に「OVO」の持株会社であるPT. Bumi Cakrawala Perkasa(BCP)に対し、追加出資を行うことを発表した。これにより、同社の出資金は総額1億1,600万ドルとなった。

電子マネーサービスから得られる顧客のビッグデータを活用した与信サービス等、融資への展開を見込んでいる。

写真:大和総研撮影

左上:Lippoグループ本社オフィス

右上・左下・右下: Lippo本社1階にあるOVOのプロモーションスペース。駐車場サービスの無料等、加入特典を色々と打ち出している。

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• 2016年10月、政府がデジタルエコノミーの新興と国内EC市場の拡大を目指したロードマップを発表した

• 2017年3月には、政府と中国のアリババ集団が連携し、デジタル自由貿易地域(DFTZ)を設置すると宣言した。税関や物流管理等がワンストップサービス化されることで、制度面や物流面等の課題克服が期待される

• 今後もEC利用の増加が見込まれ、2012年に個人情報保護法が制定、2014年に完全適用された

中国との連携強化によるデジタル貿易に注力

分野 英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

総合戦略 11th Malaysia Plan(2016~2020) (Vision2020)

第11次マレーシア計画 2016 先進国入りを目指す2016年から2020年の経済開発政策として、国内EC市場の底上げを目的としたロードマップを発表した。2017年3月には、デジタルエコノミー化の進捗を図るため、政府が首都圏地域に世界初となるデジタル自由貿易区(DFTZ)を整備すると発表した。

総合戦略 Public Sector ICT Strategic Plan 2016-2020

ICT戦略プラン2016-2020

2016

Malaysian Administrative Modernisation and Management Planning Unit (MAMPU)が2016年2月に発表した。重点施策として、次の5点が挙げられた。①統合化されたデジタルサービス、②データ指向政府の実現(各機関でのデータ価値の把握と共有化)、③シェアードサービスの最適化(IT資源の共有化)とサイバーセキュリティの強化、④協働的かつ機動的なIT統治の実現、⑤専門的で能力の高い労働力の確保。(公共分野向けIT専門家の能力強化)

EC National eCommerce Strategic Roadmap

EC戦略ロードマップ 2016 販売会社によるECの早期購入を推進、既存インセンティブの再編成を目指す。現地企業のECを通じたグローバル化を図る制作を実施する。19年末をめどに開始予定。クアラルンプール・インターネット・シティ(KLIC)という、東南アジアをビジネス対象とするIT企業を集積し、ネットワーキングや情報共有を行う都市構想も含まれている。

2.4 ③マレーシア: デジタルエコノミー関連政策・法律

35

英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

Personal Data Protection Act 個人情報保護法 2010 個人データの収集、保有、処理および使用について規制を加えるものであり、個人情報の取扱いやセキュリティ、プライバシー保護についての指針が示された.。個人情報を取り扱う業種を問わず適用される横断的な法律であるが、保護される個人情報が「商行為に関するもの」と限定されている点が大きな特徴である。

Guidelines on Foreign Participation in the Distributive

Trade Services Malaysia

マレーシア流通取引・サービスへの外国資本

参入に関する ガイドライン

2010 EC事業を行おうとするネット通信販売事業者またはネット市場運営事業者のうち、外資が50%を超える場合は、国内取引・協同組合・消費者省による認可が必要とされる。

Electronic Transaction Act 電子商取引法 2007 電子的手段による商取引について、明確な法的位置づけを与えることにより電子商取引の加速を目指し制定された。しかし実際は、電子商取引や政府と国民との間の情報のやりとりに関して、電子的メッセージを使用する場合の法的根拠を規定するという内容にとどまった。

Communications and Multimedia Act

通信マルチメディア法 1998 消費者保護のため、通信業界に対して「消費者フォーラム」を設置し、自主的なガイドラインを策定することに言及した。2017年3月には、インターネット普及拡大等の通信環境の劇的な変化に対応するため、改正案が国会に提出された。改正案には、主にサイバー犯罪対策の強化や法令違反への罰則強化等が含まれている。

(上表:主要なICT戦略、下表:主要なICT関連法。出所:各種公知情報より大和総研作成)

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• ECやIoT、フィンテック、物流等多分野において、日系・外資企業の進出が見受けられる。日本でも話題となっている仮想通貨の関連事業に乗り出す日系企業も登場してきた

• 地場企業は、アリババを筆頭とする中国企業と提携した事業活動が顕著にみられる

アリババを筆頭に中国企業が多数進出

2.4 ③マレーシア: 企業のデジタルエコノミー関連動向

社名 分野 取組内容 発表年月

アリババ・クラウド

(中国) フィンテック

マレーシア・デジタルエコノミー公社(MDeC)と提携し、2017年内にマレーシアにデータセンターを開設する計画であると発表。マルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)で優遇措置が適用される。

2017年7月

テンセント

(中国) フィンテック

電子決済サービス「WeChatPay」を通じて現地通貨での支払いサービス展開に向けて、マレーシアで免許を申請した。承認されれば、銀行口座とWeChatPayをつなぎ、マレーシア現地通貨リンギでの支払いが可能となる。

2017年7月

CIMB

(地場) フィンテック

CIMB子会社が、アリババ傘下の金融会社アント・ファイナンシャル・サービシズ・グループとモバイル・ウォレットおよび関連金融サービスを提供する合弁会社を設立すると発表した。

2017年7月

POSマレーシア

(地場) 物流

シンガポールのECロジスティックス・販売プラットフォーム提供企業アンチャントと提携し、同社の倉庫管理技術を利用することでEC

向け物流業務「Eフルフィルメント」を強化する計画を発表。倉庫業務から配送業務までの一貫サービスが提供可能になる見込みである。

2017年7月

アリババ集団

(中国) EC

マレーシアに地域物流センターを設立し、同国政府と協力して「デジタル自由貿易区」(DFTZ)を建設し、ECと中小企業の発展を牽引すると発表した。

2017年3月 36

(上表:日系企業の動向、下表:外資・地場企業の動向。出所:各種公知情報より大和総研作成)

社名 分野 取組内容 発表年月

OKWAVE フィンテック マレーシアに仮想通貨関連事業の新会社「OKフィンク」を設立。ブロックチェーン技術を軸に仮想通貨に関わる事業および仮想通貨の取引、ICO(Initial Coin Offering)や事業に関するコンサルテーションを行う。

2017年10月

日本通運 物流

マレーシア法人「マレーシア日本通運」がマレーシア政府の認証機関である「マレーシアイスラム開発局」から倉庫のハラール認証を取得。取得拠点はセランゴール州の「クランロジスティクスセンター」で、これによりマレーシアと日本の発着地を日本通運グループが全てサポートするハラール一貫輸送体制を実現。同時にマレーシア国内でも運送と合わせてハラール製品のサプライチェーン全体を幅広くサポートすることが可能となる。

2017年5月

アイスタイル EC

マレーシアで美容・化粧品のECサイトを運営するHermoを子会社化する。Hermoは15万人の登録会員を保有し、取扱いブランドは300超。アイスタイルでは今回の株式取得により、自社のデータベースやメディア、ECサイト運営に関するノウハウとHermoの経営資源を統合し、事業拡大につなげる計画である。

2017年3月

三井住友カード フィンテック 地場フィンテックベンチャーのソフトスペースと決済サービス提携で覚書を締結。同社の小型決済端末を活用し共同ブランドのクレジットカード発行、日本市場への逆展開も視野に入れる。

2017年1月

GMOペイメントゲートウェイ

フィンテック

マレーシアのモバイル決済サービス会社マクロキオスク社を買収すると発表。マクロキオスク社は、大手銀行・航空会社・コンテンツ会社等に対して、複数のモバイルキャリアとの接続環境や決済・認証・通知サービスを一括提供する世界最大手企業。GMO-PGは同社の買収により、日本のEC事業者の海外進出支援から、東南アジアでの現地銀行・大手企業への決済サービス等の提供まで、現地事業を拡大していく考えである。

2016年9月

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• タイランド4.0に基づき、IT技術開発推進活動や経済特区へのデジタルセンターの建設等が動き出している

• データローカリゼーションやソースコード開示にかかる法令は導入されていないが、2017年にコンピューター犯罪法が改正され、事業者へトラフィックデータの保管を義務化したほか、政府によるデータ管理の監視体制が強化された。また、個人情報保護については法案が提出され、策定に向けた作業が進められている。

タイランド4.0に基づくICT活用

分野 英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

総合戦略 Thailand Digital

Economy and Society Development Plan

デジタルエコノミー 社会開発プラン

2016 タイの経済と社会全体をデジタル技術で変革し、豊かで安定した国への成長を目指す政策フレームワーク。目標は、競争力や機会均等、人材、政府の4領域の改革と改善。計画期間の20年を4つのフェーズに分けている。

EC

National Digital Economy Master

Plan National e-

Commerce Master Plan

デジタルエコノミー マスタープラン

Eコマースマスタープラン 2017

デジタル経済社会省(MICT)が2017年から2021年の5ヵ年計画として打ち出した。タイ郵便協力のもと、国内の電子マネー決済やe-ロジスティクスサービス普及の拡充を目指す。また、スマートシティ開発が進むバンコクやプーケット等に加え、タイ東部経済回廊Eastern Economic Corridor(EEC)プロジェクトの対象地域であるラヨーン等での開発も推進する。その他にも、電話番号逼迫への対策や遠隔医療の実証実験を行う予定である。

EC Green E-Commerce

Project グリーンEコマースプロジェクト 2015

電子商取引開発庁(ETDA)が健全な市場醸成を目指して、中小企業向けのデジタルマーケティングのトレーニング等を実施する。

電子政府 Digital Government Development Plan

2017-2021

デジタル政府開発計画 2017-2021

2017

主に次の4点の目標を掲げている。①電子政府の主要指標の向上、②公共サービスの正確性、利便性の向上、③情報公開による政府の透明性、信頼性の確立と市民参加、デジタル・インフラ強化によるデータ利用の効率化。上記目標達成のため、戦略として、ビジネス分野の競争力の最大化や公共の安全保障の改善、パブリックセクターの効率化、デジタル政府の統合が打ち出された。

電子政府 E-Government Road

Map 電子政府ロードマップ 2010

MICTが2010年から2014年までの電子政府推進のためのフレームワークとして策定。同計画実行にあたり、MICT傘下に2011年2月に電子政府機関(EGA)が新設され、以後電子政府に関する政策は同庁により推進されている。

2.4 ④タイ: デジタルエコノミー関連政策・法律

英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

Act on Digital Development for Economy and Society

デジタルエコノミー社会発展法 2017 国家デジタル経済委員会の設置やデジタル経済基金の開設、デジタル経済社会促進局の設置が定められた。

Computer Crimes Act コンピュータ関連犯罪法 2007 2017年5月に改正され、E-businessを手がけるすべての事業者にトラフィックデータを90日以上記録・保管することを義務化した。スパムメールの取り締まりの強化や、政府(コンピューターデータ審査委員会)によるデータブロックや廃棄、ウェブの監視体制が厳しくなった。

Electronic Transaction Act 電子商取引法 2002 電子署名や文書の法的効力を明文化するとともに、事業者の登録制度を規定。消費者保護庁への登録が必要であり、店舗を保有しない場合はダイレクトマーケティング事業者の登録も必須である。

(上表:主要なICT戦略、下表:主要なICT関連法。出所:各種公知情報より大和総研作成)

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• 日系企業は、IT人材育成やセキュリティサービスの向上等、IoT分野でのタイ現地進出が目立つ。また、物流機能の強化を目指した支援も見受けられる

• 外資・地場企業は、EC分野での取り組みが多く見られる

各国企業により多分野での発展を目指す

社名 分野 取組内容 発表年月

NTTセキュリティ IoT サイバー攻撃に対するサービスの提供エリアを拡大するため、タイに現地法人を設立した。セキュリティ高度分析技術や、グローバルで収集・蓄積・活用するセキュリティ脅威情報を基盤としたマネージドセキュリティサービス(MSS)等を企業や政府等へ提言する。タイの主力産業の製造業は、多くの地域でサイバー攻撃対象のトップ3に入っており、アジア地域では金融業に次ぐという。

2018年1月

日本通運 物流 メコン地域におけるロジスティクス機能の強化を目的とした「NSAOメコン開発センター」を10月1日に開設した。グループのロジスティクス、輸送ネットワーク、自動車、新規事業、ITの企画・開発・営業機能を多角的に支援する地域統括組織である。

2017年10月

丸紅 IoT タイ王国電力庁と石炭火力発電所を対象にした電力IoT ソリューションの導入に係わる覚書を締結。燃焼効率の一定化による効率運転・消費燃料の最適化のニーズに応答する。

2017年9月

名港海運 物流

タイ現地法人メイコーアジア社がバンコク郊外のアジア工業団地内に設けた自社倉庫を稼働開始する。メイコーアジア社は2014年の設立で、レムチャバン港近くのフリーゾーン倉庫を賃借し、国際物流センター業務を行っている。また、別の現地法人メイコートランス(タイランド)がスワンナプーム空港近くに倉庫を賃借しており、このたびの新倉庫稼働により、同倉庫での貨物取扱いをメイコーアジア社の自社倉庫へ移管する。

2017年8月

GMOインターネット IoT

タイでドメイン・ホスティング事業を展開するネットデザイングループを子会社化する。これまでに同グループの株主と、株式取得について基本合意した。ネットデザインは、現地でドメイン・ホスティングサービスやIT人材を育成する教育事業等のインターネット関連事業を展開しており、ドメイン、ホスティング事業では国内有数のシェアを持つ。このたびの子会社化で、東南アジアでのITインフラ事業拡大を図る。

2016年6月

2.4 ④タイ: 企業のデジタルエコノミー関連動向

社名 分野 取組内容 発表年月

アリババ集団 (中国)

物流

関税局が、アリババが東部経済回廊に地域配送センターを開設する計画について、月内に交渉する予定を明らかにした。アリババは2019年までに地域配送センターを開設したい考えである。関税法が障害になるとの指摘については、2017年11月に改正関税法が施行され、問題はなくなる。改正関税法では、通関手続きの迅速化が図られる。タイを経由した第三国への輸出については、輸入許可の取得が必要なくなり、関税は撤廃される。

2017年9月

ビッグC (地場)

EC ECサイト「ビッグECオンライン」を刷新した。生鮮食品5,000以上を追加し、注文してから2時間以内に配達される。注文した生鮮食品を調理してもらうことも可能である。配達サービスは当面、バンコク首都圏やチェンマイ等、人口が多い地方都市で対応予定である。

2017年8月

フォース・スマート・サービス (地場)

EC 携帯電話の料金補充・支払機の設置サービスを手がけるフォース・スマート・サービスは、ECプラットフォームの運営会社を設立すると発表した。ECサイト「Be Mall」を運営予定である。

2017年8月

トイザらス (米国)

EC 米国トイザらスのタイ現地法人トイ・リテーリングは、オンライン販売を強化するため、17年下期に直営ECサイトを立ち上げを発表した。これまで、ラザダ等を通じてオンライン販売してきたが、顧客の問合せやアフターサービスに対応しやすくなると判断したようである。

2017年3月

11ストリート (地場)

EC 営業所兼サービスセンター「11ストリート・キャンパス」を拡充する。2017年は6ヶ所を新設する計画であり、バンコク市内にはすでに2ヶ所開設した。

2017年3月

(上表:日系企業の動向、下表:外資・地場企業の動向。出所:各種公知情報より大和総研作成)

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• 近年、情報通信省を中心に関連施策や制度の情報集約が進められ、デジタルエコノミー関係の諸戦略が立て続けに策定されている。 特に2016年に定めたECロードマップが包括的なデジタルエコノミー戦略としての色を強く持っており、ECを軸としたデジタルエコノミーの振興が図られている

ICTに関する戦略が着々と策定

分野 英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

電子政府 E-Government Master Plan 2.0

電子政府 マスタープラン2.0

2016 2013-2016の第1次計画に続く、電子政府に関する6カ年計画(2016-2022)。電子政府に関する枠組としては、ポータルサイトiGovPhilippinesを整備し、政府の提供する政府向けオンライン支払システム(PhPay)等へリンクを張っている。

インフラ

National Broadband Plan

国家ブロードバンド 計画

2017 地方部への投資加速、官民協働の実現、ブロードバンドで接続された場所の増加、ネット需要に応えるプログラムの早期実現を企図したインフラ開発計画。規制改革、ブロードバンドインフラへの公共投資、ブロードバンドインフラ需要喚起の支援を実行内容の軸とする。17年3月に大統領により承認され、PPP(官民連携)フレームワークでの開発が模索されていると報道。

Free Wi-Fi Nationwide Program

全国無料Wi-Fi計画 2015 科学技術省が主導する、全国的なWi-Fi普及計画。2015年の計画開始当初は歳入が少ない自治体(合計967自治体)と主要都市に対象が限定されていたが、今後大都市へと拡大予定し、対象自治体数は1,435を予定。

サイバーセキュリティ

National Cybersecurity Plan

2022

国家サイバーセ キュリティ計画2022

2017

2017年5月に情報通信省と傘下機関により策定・公表されたサイバーセキュリティに関する5ヵ年計画。2022年までにフィリピンを「信頼でき、頑健な情報通信インフラ」を備えた状態とすべく、情報資産、アプリケーション、ネットワーク、インターネットのセキュリティ、重要なインフラ保護といった各分野について、法務省等他省庁、民間企業、外国機関等との連携を図りつつ強化していく計画。

EC・小売 Philippines E-

Commerce Roadmap 2016-2020

フィリピン電子商取引ロードマップ 2016-2020

2016

フィリピンがECにより享受可能な便益を最大化しようとする戦略。重点領域として①インフラ、②投資、③イノベーション、④知的資本、⑤情報フロー、⑥統合を設定。2020年までにECのGDPに対する寄与度を現在の10%から25%に引き上げる、10万社の中小零細事業者がECを利用する、インターネットユーザーのうち4-50%がECを利用する、高速で競争力あるインターネットアクセスを提供する、サイバー犯罪から保護する、オンラインで各ステークホルダーが繋がることを成功の目安としていることからも、狭義のECというよりデジタル・エコノミーに関する総合戦略的な色が強い。

産業振興(サービス業)

Philippine IT-BPM Roadmap 2022

IT-BPMロードマップ2022

2016

2012-2016 Philippine IT-BPM Road Mapの後継計画で、フィリピンの基幹産業であるIT・ビジネスプロセスマネジメント産業の振興計画。アニメーション・ゲーム、コンタクトセンター・BPO、健康情報マネジメント、IT・ソフトウェア開発、グローバルインハウスセンター(多国籍企業の研究開発等を担う機関)等の既存産業と新産業が対象とされる。対象産業合計で、180万人の直接雇用(間接雇用含め760万人、うち首都圏以外に50万人)の創出、雇用のうち中程度から高度なスキルを要求するものを73%とする、400億ドルの収益獲得、世界のIT・BPM市場の15%を獲得することを目標とする。

決済 National Retail

Payment System 国家リテール 決済システム

2015

中央銀行(Bangko Sentral ng Pilipinas :BSP)が主導する、全国的リテール決済プラットフォーム創設プロジェクト。銀行間送金手数料の引き下げ等によりフィリピンの現金主義をキャッシュレスに移行させ、「unbanked」な人々の金融サービスへのアクセスを確保することをめざす。2017年3月末にBSPにより、決済システム参加者からなる自主規制体として「決済システム管理体」(PSMB)の創設に関する署名、及び自動クリアリングハウスの設立に関する関心表明がなされた。

スタートアップ

Philippine Roadmap for Digital Startups

フィリピン・デジタル・スタートアップ・ ロードマップ

2015

科学技術省のプロジェクトとしてスタートアップイベント「Geeks on a Beach」で発表されたスタートアップ振興計画。ICT関連スタートアップ企業数を500社(15年時点:100社)、総投資額2億ドル(同:4000万ドル)、企業時価総額20億ドル、高度スキルを要求する求人数8,500、企業家数1,250人、ユーザー1500万人、全世界のサービス有料顧客70万人をめざす。知財、インターネットインフラ、サイエンスパークとイノベーションハブ、立法・政策、草の根活動、資金調達と投資、アンブレラ機関、研究開発、教育、オープンソース情報、協働、政府の役割の12分野におけるアクションプランを策定。

2.4 ⑤フィリピン: デジタルエコノミー関連政策

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• ASEANの中ではプライバシーに関する法制が早く制定され、2016年に実施機関が設立されるなど高水準のプライバシー保護が定められている

• データ管理等、デジタルエコノミーの事業者に対して拘束的な規制がかけられているという事例はほとんど聞かれていない

規制は比較的整えられている

2.4 ⑤フィリピン: デジタルエコノミー関連法律

英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

Data Privacy Act データプライバシー法 2012

プライバシーを個人の根本的権利として認め、個人情報(媒体への記録の有無を問わず、その情報から個人の特定が明らか若しくは合理的かつ直接的に確定しうるもの、又は他の情報と併せることにより直接的かつ確実に個人を特定するもの)および「センシティブ個人情報」(人種、民族、婚姻の有無、年齢、肌の色、信教、哲学又は政治的信条に関する情報・個人の健康状態、学歴、遺伝若しくは性生活、又は犯罪歴 ・病歴、納税申告書等の情報等)等の定義を定める。 センシティブ個人情報の処理に際しては、当該情報の主体による事前の同意が必要となる。また情報の主体に付与される権利や、同法の域外適用等についても定めがある。2016年に同法の実施機関として国家プライバシー委員会(National Privacy Commission)が設立された。

Cybercrime Prevention Act サイバー犯罪法 2012 システムへの不正アクセス、データの偽造、児童ポルノの流布等代表的なサイバー犯罪を定め、罰則規定を設けている。

Electronic Commerce Act 電子商取引法 2000 電子契約、メッセージ、電子署名、電子商取引、情報の保管等に関する定義やデータの不正な取扱に対する罰則規定等を定めた基本法。

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• 企業のデジタルエコノミー関連動向の一例として、グローバルモビリティサービス(GMS)によるIoTデバイスを活用した自動車ローンの拡大、スイス重電大手のABBによる水道部門のIoTによる効率化等が挙げられる。一人当たりGDPが3,000ドル未満とまだ低いため、社会問題を解決する方向のビジネス事例が多いものと思われる

• その他、外資や地場企業によるEC事業の事例も増えている

社会問題へアプローチするビジネスモデルもみられる

社名 分野 取組内容 発表年月

グローバル モビリティサービス

IoT

独自開発のIoTデバイス「MCCS」及びIoTプラットフォームシステムを活用し、低所得者(BoP層)を対象とした自動車ローン普及サービスを提供。信用力に乏しく自動車ローンを利用できない人々の多い同国において、MCCSを通じて車両運用状況データを収集し、ローンの支払滞納や盗難に対してはエンジンをかけられないようにすることで対処し、デフォルトリスクを軽減することでローンの利用を拡大する。環境配慮型車両の導入や、タクシードライバー等車両を利用する雇用の創出に向け、フィリピンの都市との間に覚書を締結。2018年1月末時点で5都市と提携(マカティ市、パサイ市、ケソン市、パラニャーケ市、ナボタス市)。同国最大手通信会社のPLDTや大手金融グループのBPI Globe BanKOとも通信・金融面で協業する。

JCB フィンテック 地場スマートフォン決済サービス提供事業者ペイマヤと事業提携し、同社カードの利用店舗を増やす狙い。JCBはペイマヤに対して2015年に加盟店契約権とプリペイドカード発行権を付与する契約を締結した。

2016年11月

2.4 ⑤フィリピン: 企業のデジタルエコノミー関連動向

社名 分野 取組内容 発表年月

Robinsons Retail Holdings, Inc.

(地場) EC

フィリピンのゴコンウェイ財閥系小売大手ロビンソンズ・リテール・ホールディングス(RRHI)は13日、化粧品EC市場「ビューティーMNL」を運営する地場テイスト・セントラル・キュレーターズの株式20%を取得したと発表。ビューティーMNLは化粧品やスキンケア、ヘアケア商品等1万3,000品目を扱う。ゴコンウェイ・グループはEC事業の拡充を進め、5月にはECアプリ開発等を手掛けるシンガポールの新興IT企業シー・リミテッドに出資。

2017年12月

Gojek (インドネシア)

フィンテック 二輪タクシーの配車アプリを運営するインドネシアのゴジェックは、フィリピン等東南アジア3~4カ国への進出を検討しているもようだ。共同創業者で最高経営責任者(CEO)のナディエム・マカリム氏は、具体的な国名は明らかにしなかったものの、人口が多く電子決済サービスが利用できる東南アジアに進出する考えを示した。

2017年10月

アイレミット (地場)

EC フィリピンの送金事業者アイレミットは18日、ECサイトを展開するラザダ・フィリピンと提携したと発表した。割引や特典の付与を通じて、ラザダでの買い物にアイレミットの送金サービスを利用するよう促す。

2017年9月

ABB (スイス)

IoT スイスの重電大手ABBは、フィリピン事業の水道部門をIoTの活用で強化したい考えだ。自社の先端技術を用いて水供給の最適化や経費削減を実現し、サプライヤーとしての存在感を高める。ABBは50年以上前にフィリピンの水道産業に参入し、メーターや関連機器を供給している。今後は、水供給の最適化や経費削減を実現できるIoTを積極的に売り込む考えのようである。

2017年7月

(上表:日系企業の動向、下表:外資・地場企業の動向。出所:各種公知情報より大和総研作成)

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• IT人材の育成や通信環境の整備等に関する戦略が打ち出され、通信インフラ市場が拡大する要因となっている

• 近年、個人情報保護の強化やローカル・サーバの設置が要求されており、ASEAN他国と比較するとデータ管理について厳格に規定されている

IT・通信市場の拡大を目指す

分野 英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

総合戦略 Decision

No.1755/2010

マスタープラン: ベトナムを情報通信技術大国にするための決

2010 目標として、次の4点が掲げられている。①情報通信技術人材を国際水準にすること、②情報産業、特にソフトウェア産業とデジタルコンテンツ産業を経済分野の推進力とし、GDP成長と輸出に貢献すること、③全国規模のブロードバンド通信インフラを構築すること、④情報技術を社会決済分野、防衛安全保障分野で利活用すること。

電子政府 Decision No. 1605/2010

国家行政運営電子化計画

2010 2011年から2015年までの計画として発表された。地方政府や各省庁、国家が整備すべきサービスの電子化、プロジェクト等が200項目以上にわたり規定された。主とされているのは、電子政府用ITインフラ開発、中央政府内ITアプリケーション開発、国民及び企業向けサービスのためのITアプリケーション開発である。

EC Decision

No.1073/2010 電子商取引発展計画 2010

2011年から2015年までの計画として公布された。2016年から2020年にかけての同計画では、全国を網羅する物流網の整備が掲げられ、迅速で安全な物流サービスに向け、配達状況の管理体制の構築等も盛り込まれた。

サイバーセキュリティ

Decision No.63/2010

情報セキュリティ発展プラン

2010 ①安全なネットワークインフラの構築、②データ取引の安全性確保、③人材育成、④法整備の観点から、2015年までのアクションプラント2020年までの目標・ビジョンが示されている。情報セキュリティに関する関係省庁の担う役割も示されている。

2.4 ⑥ベトナム: デジタルエコノミー関連政策・法律

英語名称 日本語名称 制定年 主な内容

No. 56/2017/ND-CP 児童法 2017

児童法の規定内容に、未成年者の個人情報保護が盛り込まれた。企業・個人が16歳未満の未成年者の個人情報(本人の氏名、年齢、識別特性、健康状態、写真、家族構成、資産、電話番号、所在地、出身地、学校、友人関係、本人が利用しているサービスの情報等)をインターネットに掲載するにあたり、事前に父母またはそれに準じる保護者から了承を得なければならず、7歳以上の未成年者の場合は本人からも了承を得なければならない。そのため、インターネットでサービスを提供する各企業は、未成年者である利用者を保護するためのセキュリティサービスを確保する必要がある。

e-Transaction Law 電子商取引法 2015 オンライン取引の安全を脅かす行為や情報の改ざんを禁じる規定等が盛り込まれている。その他、電子商取引における課税手続の簡素化や、すべての法人へ電子納税の申告を義務化した。

Law on Cyberinformation

Security

インターネット情報 セキュリティ法

2015

2017年7月に施行。個人や法人、官公庁等に関わるインターネット上の情報保護・管理について規定。具体的な規定内容は次の通りである、①収集・保管する個人情報の保護のための適切な管理・技術的対応、サイバー情報保護のための技術基準・規制のクリア、②収集・利用の前に、利用の範囲と目的を示して情報所有者の同意を得ること。情報所有者の同意または権限ある国家機関の要求なく、収集した個人情報を第三者に提供・共有・流布しないこと。

No. 72/2013/ND-CP インターネットサービスおよび オンライン情報の管理、提供 および使用に関する命令

2013 情報通信企業に対して、ベトナム国内に少なくとも1台のサーバーをベトナム国内に設置することや、外国の法人もしくは個人によるベトナム国民向けのオンラインゲームサービス事業者へベトナムの法律に準拠した法人を設立することが要求されている。

(上表:主要なICT戦略、下表:主要なICT関連法。出所:各種公知情報より大和総研作成)

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• EC利用の急速な普及に伴い、EC市場の競争が激化している

• 日系企業の出資によるECサイト開設が目立ち、日本製品が多く流通している。課題の一つである物流面においては、日系や外資、地場企業によりベトナム各地で配送サービスの提供が進んでいる

EC市場の競争激化の中、日系企業も健闘

社名 分野 取組内容 発表年月

三井倉庫 物流 北部ハイフォン市で現地法人と拠点倉庫の竣工式を開催。2018年開港予定のラックフェン国際港の至近圏内に拠点を構え顧客のグローバル戦略をサポートし、海外拠点同士を結ぶ物流機能を提供する。

2017年10月

アーバン・コーポレーション

EC 日本の商品・サービスを専門とするECサイト「e-jan」が、ベトナムへの商品販売を希望する日本企業や個人の募集を開始。ベビー用品やシャンプー等を中心に販売しており、2017年中に3,000品目に拡大させる予定である。

2017年6月

伊藤忠ロジスティクス

物流

ベトナムに国際貨物輸送事業会社「AITCロジスティクス(ベトナム)」を設立。伊藤忠ロジは、2007年10月にホーチミン駐在員事務所を開設し、ASEAN地域の情報収集等を展開。近年ではベトナムから日本への輸入貨物量が急激な伸びを示していることから、法人化することで事業の拡大を図る。国際輸送サービスの拡充を図るとともに、国際貨物運送に加え、ベトナム国内での3PL業も展開する。

2017年6月

ミスミグループ EC ECサイトを開設。関連商品300万点を英語とベトナム語で販売する。ECサイト公開に併せて、2016年7月に設立したミスミベトナムが本格的に営業を開始。北部バクニン省ティエンソン工業団地に入居し、従業員は約70名である。

2017年2月

イオン EC ECサイト「AeonEshop.com」を開設する。展開する商品はPB「トップバリュ」の商品や日本の商品を中心に、5,000以上のアイテムをそろえる。当初はホーチミン市内に販売と配送を限定し、試験的にスタートする。

2016年12月

2.4 ⑥ベトナム: 企業のデジタルエコノミー関連動向

社名 分野 取組内容 発表年月

ノバオン・インターネット(地場)

EC ベトナムのIT企業ノバオン・インターネットは、アリババのベトナムでの代理業者になったことを発表した。ノバオンは、アリババへのベトナム企業の出店や輸出入業務を支援する。ECサイトを通じた輸出額は全体の1%にとどまる。

2017年10月

GHN(地場) 物流 EC向けラストワンマイルの配送を手がけるGHNは、2018年末までに取り扱い能力を現在の1日10万件から100万件に引き上げる。EC市場の急速な拡大に備え、人員の増加や最新技術の利用、集配ボックスの設置を行うことで、取り扱い能力を大幅に向上させる。

2017年10月

DHLeコマース (ドイツ)

物流 ベトナムのECサイト「ビズウェブ」と、ドイツの物流大手DHL傘下のDHLeコマースが、EC市場拡大に向けて業務提携を発表した。これにより、ビズウェブ上の3万余りのオンライン店舗がDHLの配送サービスを利用することが可能になる。

2017年9月

ショッピー (シンガポール)

EC ショッピーの累計ダウンロード数が、ベトナム事業の開始から1年で500万を達成した。現在、取り扱い品目は400万点にのぼり、当初から2.3倍に増えた。今後は全国で利用できるよう、サービスを拡大させる方針である。

2017年8月

ロッテ(韓国) EC ベトナムでECサイトを開設すると発表。サイトは新設された子会社ロッテEコマースが運営する。同サイトでは、ロッテグループが提供するすべての食品や日用品、ファッション用品、化粧品等を販売予定である。

2016年10月

(上表:日系企業の動向、下表:外資・地場企業の動向。出所:各種公知情報より大和総研作成)

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• 主にECに関連するデジタルエコノミーの規制分野について、各国の政策課題(規制自体がもたらす課題または政策的に対処の余地が大きい課題)を特定した

• 次章ではこれら国別の課題を踏まえ、ASEAN大での課題特定を行い、ASEANが目指すべき方向性について検証する

調査結果を踏まえ、各国の政策的な課題を概括

分野 シンガポール インドネシア マレーシア タイ フィリピン ベトナム その他

電子データの取扱い

サーバ設置義務について不透明

域外へのデータ移転に対する規制、データセンターの国内設置義務、ソースコード開示義務等がある

データ管理規制が厳格化

プライバシー規定が厳格

ローカル・サーバ設置要求あり

インターネット普及が急速に進むものの、IT利活用の側面ではシンガポールやマレーシアに比して発展途上

プライバシー法制自体が未整備で、事業者にとってのリスク(カンボジア・ラオス・ミャンマー)

通信・決済 インフラ

携帯・ブロードバンド料金が高い

通信インフラが未整備で、インターネット利用率やネット帯域で劣後

セキュアサーバー数が少なく、セキュリティに不安

全国ブロードバンド通信網の整備等、地方部の通信インフラが未整備

インターネット利用率は高いものの、電子決済はまだ少ない

電力需要に対して供給が逼迫

携帯・ブロードバンド料金が高い

セキュアサーバー数が少なく、セキュリティに不安

基本的な通信・決済インフラが未整備(カンボジア・ラオス・ミャンマー)

物流・通関

地方部の物流・電力・通信インフラが未整備

小口貨物の通関について規制が強化され、通関に時間がかかるようになっている

地方部の物流・電力・通信インフラが未整備

地方部の物流・電力・通信インフラが未整備

地方部の物流・電力・通信インフラが未整備

基本的な物流・通関インフラが未整備(カンボジア・ラオス・ミャンマー)

事業者規制

複数事業を展開する場合は別々の法人でライセンスを取得する必要があり、管理費が高騰しがち

食品輸入に関する規制が厳しい

外資50%超の企業でEC事業に取り組む場合、国内取引・協同組合・消費者省の認可が必要

2.4 各国の分野別課題

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3. ASEANにおける政策的課題と目指すべき方向性

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3.1 ASEANにおける政策的課題の特定

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• 前章のデジタルエコノミーの主要分野に関する国別の課題を、国ごとの発展段階に応じて整理し、領域横断的な課題についてまとめた。その上で、特に本調査の重点的な政策課題(表中赤いボックスで表示)についてさらに分析を進めた

• 重点的な政策課題の選定基準は、①今後域内EC市場を牽引するボリュームゾーンである中進国に着目し、②個別国よりASEANの枠組で対応するのが効果的であるが、現状ASEANの枠組での対応が不十分である、を基準とした

重点的な政策課題を抽出

分野 先進国

(シンガポール)

上位中進国 (マレーシア・ブルネイ)

中進国(タイ・インドネシア・ フィリピン・ベトナム)

後発国(カンボジア・ラオス・ミャンマー)

領域横断

電子データの 取扱い

通信・決済インフラ

物流・通関

EC事業者規制

3.1 各国のデジタルエコノミー振興における課題

官民の連携強化

データ(産業・行政)の利活用

データの越境移動規制

ICT人材育成

プライバシー法制

先端的インフラ

通関の共通化

外資に対する事業規制

パーソナルデータの利活用

基本的なインフラ整備

(通信網/銀行) インフラの高度化

基本的な物流インフラ整備 インフラの高度化 ASEAN Single

Window (p.22参照)で実現に向けて進捗

基準・認証の共通化

事業規制は国ごとに異なるため、個別の対応が望ましい

ACCSQ (p.16参照)に

おいて議論が相当程度進捗

サイバーセキュリティ

インフラは国ごとに事情が異なるため、個別の対応が望ましい

デジタルエコノミー市場のボリュームゾーン

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3.1 ASEANにおける政策的課題の特定① 官民交流の促進

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提言チャネルの官民相互交流の促進

• 政府機関や各国業界団体、企業から、政策を議論する官民のプラットフォームにおいてさらなる相互交流を求める声がある

①官民相互交流の促進

■現地ヒアリングで参集された意見

日系業界団体:

“政策提言を打ち出しても、その提言が実際に政策アジェンダとして取り扱われているのか、取り扱われているとしたらどのように進展しているかが不明。民間から官への一方的な提言ばかりで、官から民へのフィードバックが不足している”

日系政府機関:

“ASEAN事務局事務局内の従前の体制(ATF-JCCが民間の意見を収集する受け皿として機能)に加え、新設のACCECとその傘下のワーキンググループが個別課題の対応を行うことで、官民連携の機能強化が進むことが望ましい”

EU業界団体:

“あらゆるチャネルを活用し働きかけを続けたい。官民チャネルの情報交換を強化したい。誕生したばかりなのでACCECの詳細は知らないが、今後始動するようになればECの分野では政府側のカウンターパートして機能するよう期待している”

米国業界団体:

“働きかけは米国独自で進めているものの、他国と協働できるテーマがあれば特段チャネルにこだわらない。近年EU-ABCを含め各国ABC等業界団体のほか日本ではJETROと協力しており、共同提言等で相互交流を強化していきたい”

ASEAN業界団体:

“いくつかの分野では各国のビジネス団体と共同で取り組む等民間の連携は進んでいるが、民から官への提言に比べて官側の対応は不十分に感じられる。情報共有のための会合等あれば出席したい”

インドネシア地場企業:

“インドネシアでは、インターネット上のチャットアプリを利用してEC関連の政府機関や業界団体、事業者が意見交換等を行うプラットフォームが存在し、官民の交流が活発、このような仕組みがASEAN大であればよいのではないか”

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3.1 ASEANにおける政策的課題の特定② データの越境移動

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データの越境移動 • TPPの電子商取引章等、地域的な枠組ではデータのフリーフローを進めようという動きがある中、インドネシアやベトナムではデータの自由な移動を阻害する規制が敷かれている

• グローバルに展開するIT企業や、クラウドサービス事業者にとって、事業上の大きな制約・コストとなっている

グローバルIT企業:

“ASEAN内ではインドネシアやベトナムで、自国内へのデータセンターの設置を義務付ける等、データの自由な越境移動を阻害するような規制が打ち出されようとしている。

特に日本は製造業の海外展開が進んでいるため、各拠点を結ぶ統合基幹業務(Enterprise Resource Planning: ERP)システムを利用するためには、データの越境移動がボーダーレスに行われる必要がある。

データセンターの設置は企業にとって膨大なコストが伴い、発展の足かせになるであろう。また、データをローカライズする作業は一般に考えられているほど容易ではなく、複数のシステムを統合するので、実は技術的にとても難しい。そのため、企業にとっては大きな機会費用となる。”

日系IT企業:

“クラウドサービスを提供する事業者としては、データに国境という概念はないので、国境を意識するのはナンセンス。ASEAN経済共同体(AEC)といいながら、ベトナム等一部では逆行するような動きが出てきたことに危機感を持っている。”

■ASEANで活動する事業者の声

インドネシア「電子システム内の個人データの保護に関する 2015 年第 号インドネシア共和国通信情報大臣規則 (案)」:

“第 17 条 (1)第 3 条「個人データの保護に使用される公共サービス電子システムプロバイダーのデータセンターおよび災害復旧センターは、インドネシア共和国の領土内に位置するものとする」。”

ベトナム「インターネットサービスおよびオンライン情報の管理、提供および使用に関する命令(Decree 72)」(2013年9月1日より施行):

“情報ウェブサイト企業/ソーシャルネットワーク企業/移動通信情報コンテンツサービスプロバイダー/オンラインゲームサービスプロバイダーは、ベトナム国内に少なくとも 1 台のサーバーを設置することが要求されている(第24、25、28、34)”

■現行法制度における具体的事例

②データの自由な越境移動

データの自由な越境移動を実現する仕組み/自由な移動を制限する規制の撤廃が求められる

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3.1 ASEANにおける政策的課題の特定③ データの利活用

50

データ利活用の促進 • ASEAN各国では行政(オープン)データを中心とするデータ利活用充実が図られつつある一方、データの定義、公開方法、データベース等の仕様は必ずしも共通化が進んでおらず、共通言語対応、データセット数、法制面での課題を持つ国もある

グローバルIT企業:

“世界的に展開する事業者としては、各国がバラバラに政策対応を取るのではなく、統合された地域においては、ハーモナイゼーションを進め、オープンなポリシーをとってほしい

日系IT企業:

“現在、消費者のデータ(性別や年代等)を収集しようとすると、各国の各企業で限定的なデータしか入手することが出来ない。包括的なデータベースを構築してほしい”

■ASEANで活動する事業者の声

■ASEAN各国のオープンデータポータルサイト

③データの利活用の促進

インドネシアやタイでは、ポータルサイトが英語に対応していない

データセット数には、最小26のラオスから最大2,651のインドネシアまで、大きな開きがある

統一的で包括的なデータベースの構築が重要となる

データの利活用に向け、ASEAN大でデータに関する共通枠組み(契約・権利責任関係など)を定めることが今後期待される

電子政府に関する

国家計画

個人情報

保護法制

オープンデータの

ポータルサイト

有無

ポータルサイトの

英語対応

ポータルサイトの

データセット数

ブルネイ ○ × ○ ○ 519

カンボジア × × △ ○ (不明)

インドネシア ○ ○ ○ × 2,651

ラオス ○ × △ ○ 26

マレーシア ○ ○ ○ ○ 2,577

ミャンマー ○ × △ ○ 175

フィリピン ○ ○ ○ ○ 280

シンガポール ○ ○ ○ ○ 1,271

タイ ○ ○ ○ × 1,063

ベトナム ○ ○ △ ○ 137

• 日本では、 IoT(モノのインターネット)の観点から機械や設備の稼動履歴といった産業データの利活用も活発化しているところ、ASEAN大でこれらデータの利活用に関する共通枠組みや包括的なデータベース構築が実現すれば、新事業の創出や産業再編、行政サービスの向上が期待できる

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3.2 ASEANが目指すべき方向性とその背景

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3.2 ASEANが目指すべき方向性(提案)

52

方向性①:政府間(G2G)とビジネス間(B2B)の連携促進

この分野では、政府間の対話フレームワークと民間の対話フレームワーク(各国ビジネスカウンシル等)が数多く存在しているものの、

政府と民間のコミュニケーションは十分ではない。これまでビジネス側の要望は主としてATFJCCに向けられていたが、今後はテーマレ

ベルでACCECを含むASEAN関連委員会に向けて打つことも一案である

政府間で交わされる情報(規制や促進策等)は民間事業者の意思決定に役立ち、民間の素早い取組みをタイムリーに把握することはよ

り質の高い政策形成につながる一方、民間事業者側も施行予定の政策への対応をスムーズかつ迅速に行える

方向性②:データの自由な越境移動の推進

EC事業者からは、ASEANの一部の国でデータの移動制限やサーバー設置要求等、データの自由な流れを阻害するような措置が取ら

れていることで、事業の円滑な推進を阻まれている問題が指摘されている

データのローカライゼーションやサーバーの設置には莫大なコストがかかり、特にグローバルに事業を展開する企業にとっては、世界的

なサーバーの最適配置を実現することが困難となる。また、クラウドサービス事業者にとっては、そもそもビジネスを実施すること自体が

困難となる場合もある

方向性③:データ保護のみならず、データ利活用の促進

ASEANの多くの国では、現状は個人情報等のデータの保護・規制に関心が集中し、産業・行政データの利活用により産業・行政・市民

生活の向上を実現するという発想が弱い

データを適切に保護しつつ、うまく利活用して経済・ビジネス、社会の活性化につなげるような仕組みづくりの重要性を啓発する

目指すべき方向性として3種提案

• これまで実施してきた国内および海外調査や分析を踏まえた上で目指すべき方向性の案として、以下の3つを提案する

① 政府間(G2G)とビジネス間(B2B)の連携促進

② データの自由な越境移動の推進

③ データ保護のみならず、データ利活用の促進

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3.2 提案①の背景: 多国間・二国間枠組みを通じた政策対話

53

多国間協定・合意枠組み(Multilateral) 二国間協定・合意枠組み(Bilateral)

日本・ASEAN(AJCEP)2008年12月

発効

中国・ASEAN(ACFTA)2005年7月発

韓国・ASEAN FTA2007年6月発効

インド・ASEAN FTA 2010年1月発効

ANZ・ASEAN FTA 2010年1月発効

※このほか目下、香港とEUが交渉中

現状、マルチ枠組みでの合意内容は具体性を伴わず、デジタルエコノミーまたはEC市場発展に資する方向性を共有。

このほか、WTOでもデジタル貿易/電子商取

引に関する協議が一部の加盟国にて進展中。

2国間レベルではECに特化した合意形成はないものの、IT化・デジタル化推進に関する共通の理解や協力体制を協議する方向性ではそれぞれ一致。

【政府機関によるハイレベル協議枠組】

ASEANと日本の政府間協力枠組(一部)

地域協力関係の枠組全体像

日本

中国 韓国パプアニューギニア

インド

豪州

(米国)

NZ ペルー

メキシコ

カナダ

香港台湾

チリ

ロシアASEAN+3RCEP

TPP*

APEC**

CCC(税関)

ATFJCC(ASEAN貿易円滑化

合同諮問委員会)

CCA(ATIGA)

ACCEC

(ASEAN電子商取引調整委員会)

経済産業省JETRO

ACCSQ

(標準化・品質管理)

TFWG(運輸)

AEM(ASEAN

経済相会合)

SEOM(ASEAN高級

経済事務レベル

会合)

TELMIN(情報通信

相会合)

TELSOM(情報通信高級

事務レベル会合) セクトラルボディ

大臣・閣僚会合意思決定フロー

その他情報フロー

対話

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【ビジネス団体による協議枠組】

ビジネスカウンシル合同会合(JBC)

ASEAN若手企業家協会

ASEANビジネスクラブ Asia HouseヨーロッパASEAN

ビジネスアライアンス

イノベーション

JBC傘下のワーキンググループ

メンターシップ 貿易円滑化 金融統合・包摂 競争 知財税制 消費者保護環境社会・

ガバナンス

EABC(東アジア

ビジネスカウンシル)

日本が参画するビジネス団体 ビジネスカウンシル その他ビジネス団体

NZ ABC

豪 ABC

加ABC

US ABC

露 ABC

中ABC

韓 ABC

印 ABC

EU ABC

ASEAN-BAC(Asean Business Advisory

Council )

議長

中ASEAN

ビジネス協会

日ASEAN BC

FJCCIA(ASEAN

日本人商工会議所連合会)英 ABC

合同会合の効率化の一環でテーマごとに作業部会が始動。ECを含むデジタルエコノミー関連の推進に向けた具体的な協議はイノベーション部会にて展開される模様。

3.2 提案①の背景: 業界団体主体の協議枠組み

54

業界団体によるASEANとの協議枠組み ASEAN大で取り組む活動としてはASEAN-BACが積極的な活動を進める。

他方、国単位では各国ビジネスカウンシルを通じて対ASEAN向けに対話を進め、米・EUは政策提言も行っている。

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3.2 提案①の背景: 政府対話チャネルと民間主体対話の連携不足

55

業界団体主体の協議チャネル 多国間・二国間政策対話チャネル

ACCECが主体的に業界団体と交流を

図り意見交換を行うことで、ASEANにお

けるECに関する様々なアジェンダを効

率良く協議することが可能となる。

また、関連委員会と密接に連携しながら

協議を重ねることにより、各種課題を有

機的に前進させることが可能になること

が期待される。

現状、この両チャネル間の連携や情報共有の場・機会が不足しているという声が方々で聞かれた。

現状

理想

ATF-JCC

ACCEC

【ビジネス団体による協議枠組】

ビジネスカウンシル合同会合(JBC)

ASEAN若手企業家協会

ASEANビジネスクラブ Asia HouseヨーロッパASEAN

ビジネスアライアンス

イノベーション

JBC傘下のワーキンググループ

メンターシップ 貿易円滑化 金融統合・包摂 競争 知財税制 消費者保護環境社会・

ガバナンス

EABC(東アジア

ビジネスカウンシル)

日本が参画するビジネス団体 ビジネスカウンシル その他ビジネス団体

NZ ABC

豪 ABC

加ABC

US ABC

露 ABC

中ABC

韓 ABC

印 ABC

EU ABC

ASEAN-BAC(Asean Business Advisory

Council )

議長

中ASEAN

ビジネス協会

日ASEAN BC

FJCCIA(ASEAN

日本人商工会議所連合会)英 ABC

【政府機関によるハイレベル協議枠組】

ASEANと日本の政府間協力枠組(一部)

地域協力関係の枠組全体像

日本

中国 韓国パプアニューギニア

インド

豪州

(米国)

NZ ペルー

メキシコ

カナダ

香港台湾

チリ

ロシアASEAN+3RCEP

TPP*

APEC**

CCC(税関)

ATFJCC(ASEAN貿易円滑化

合同諮問委員会)

CCA(ATIGA)

ACCEC

(ASEAN電子商取引調整委員会)

経済産業省JETRO

ACCSQ

(標準化・品質管理)

TFWG(運輸)

AEM(ASEAN

経済相会合)

SEOM(ASEAN高級

経済事務レベル

会合)

TELMIN(情報通信

相会合)

TELSOM(情報通信高級

事務レベル会合) セクトラルボディ

大臣・閣僚会合意思決定フロー

その他情報フロー

対話

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3.2 提案②の背景: データフローの自由化に対する規制

56

現状

ASEANの一部の国ではデータの越境

移動が完全には自由化されていない

データ移動への規制として、ローカライ

ゼーション要求、サーバー設置要求等

が挙げられる

グローバル企業だけでなく、域内の中

小零細企業もこれらの課題に直面して

おり、地域大のビジネス展開が難しく

なっている

米国・欧州を筆頭に、各国の業界団体

(BC)はASEANに対してデータの越

境移動を提言等を通じて要請している

施策

ASEAN域内はもちろん、域外へのデ

ータの自由な移動をさらに推進する

そのためには左記のようなメリットをよ

く理解すると同時に、フリーフローによ

る弊害や想定リスクに対する認識も強

化する

デジタルビジネスの発展を阻害するよ

うな規制を撤廃し、よりビジネスフレン

ドリーで持続可能なエコシステムを構

築する

メリット

データ移動の自由化により、各国のビ

ジネス環境が向上するだけでなく、

ASEAN全体としてより多くの外国直接

投資を呼び込むことが可能になる

既存のASEANのグローバル企業・地

場企業はより自由にビジネスを行うこ

とが可能となり、中小零細企業の発展

にも資すると考えられる

ASEANの個々のメンバー国だけでな

く、地域全体の利益につながる

• ASEANの一部の国では、国境を超えるデータの移動が完全には自由化されていない

• 日系・ローカルを問わず、一部の企業は、データの移動にかかる規制により自由なビジネス活動を阻害されている

• ASEANはデータ移動にかかる規制を撤廃し、よりビジネスフレンドリーな事業環境を構築すべきだと考える

ASEANにおけるデータの越境移動の自由化の推進

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3.2 提案③の背景 : データの利活用

57

現状

近年、多くのASEANメンバー国では個

人情報保護法制等、データの保護に

関する規制が拡充傾向にある。政府も

オープンデータ(OD)の活用環境を整

えつつあるが、言語や法制度とのバラ

ンス、人材面などで課題を抱える

IoTの分野では設備稼動データから更

新時期を予測、電力の使用状況から

エネルギー需給の効率化など、産業

データの利活用も始まっているが、既

存法制では契約の履行、権利責任関

係の不明瞭さが課題

サーバ設置要求等を通じたデータロー

カライゼーション規制により、海外企業

の参入障壁となっている

ASEAN横断で、産業・行政・市民生活

の向上に資するデータ利活用制度の

整備に向けた取り組みが求められる

施策

ASEANにおいてデータ利活用を促進

するために、以下の施策を実施する

• ASEAN大で共通化されたデータベース

構築の推進

• 制度の改善や拡充:データ利活用契約の

明確化及び履行の確保、一定の水準を

満たすデータ保護を前提とした利活用の

イニシアチブ(各種イベントの開催)

• 日本を含む先進国と現地関係者との協

働の推進、海外のデータ活用事例の共

有(例:https://www.open-

governmentdata.org/examples/)

• データサイエンティスト等専門人材の育

成・研修制度の拡充

メリット

2017年3月に安倍総理が提唱した

「Connected Industries」(東京イニシ

アティブ)では、様々な業種、企業、人

、機械、データがつながることで、産業

競争力の強化による国民生活の向上

や国民経済の健全な発展を実現に向

けた指針となっている

2014年に日本国総務省が策定した「

電子行政オープンデータ戦略」では、

OD利活用のメリットとして①行政の透

明性・信頼性の向上、②公共サービス

の迅速かつ効率的な提供、ニーズや

価値観の多様化への対応、③経済活

性化・行政効率化が挙げられる

民間部門にとってはデータの利活用を

通じた新規事業の創出や他国への展

開というメリットが期待できる

• ASEAN各国では近年、個人情報等データ保護法制の充実が図られてきたが、産業や行政のデータの利活用は十分に制度化されておらず、新規事業やサービスの創出の流れには至っていない

• 日本政府が進めている産業データや行政データ利活用に向けた取組み状況と、そのノウハウや実例の共有を通じ、ASEANにおけるデータ利活用推進に向けた環境整備が図られる

データの利活用に向けた環境整備が肝要

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3.3 ASEANへの働きかけのチャネル

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加盟メンバー:154社(’18年1月)

会長/CEO:Alexander Feldman

副会長/地域統括: Michael Michalak

首都ワシントン、NYに加え、ASEAN6か

国(CLMB除く)に事務所を構える

3.3 ASEANに対する諸外国の働きかけ(米国の動向)

ASEANに対する諸外国の政策対話は活発

• 米国は主に企業団体(US-ABC)を通じ、ASEANにおけるEC化推進に向けた提言を等の働きかけを行っている

• 個別の国に対する働きかけでは各国大使館やUS-AID、US-ASEAN Connectのプログラムを通じても行う

• 他国と共同で働きかけが必要なテーマについてはEUのほか今後は諸外国との連携も模索したい意向である

セクター横断的な政策協調の優先化

1. セクター横断的な政策協調のうち、周辺産業を含めた越境ECのバリューチェーン全般に関するテーマを協議

越境物流の促進

2. 国境手続きの強化と簡素化

3. 物理的インフラと配達先までの道のりの改善

ASEAN事業者及び消費者を巡る規制の拡充

4. 中小企業(SME)向けに規制緩和の実現

5. オープンで安全、安心な決済システムの普及

6. オンライン取引やプラットフォーム構築の促進

7. 物流・速達、配達サービス、決済サービスを含む越境ECの自由化

安全かつ信頼性の高いオンライン環境の構築

8. 越境データ移動の促進

9. 成長に資するデータ保護の支援

10. 強力なサイバーセキュリティの導入

ASEAN事業者と消費者の強化

11. インターネットアクセスの向上

12. デジタル商品取引の促進

(出所) US-ASEAN Business Council “Enabling Cross-Border e-Commerce Trade in ASEAN”

在ASEAN各国米国大使館(商務官)

ビジネス寄りのテーマの働きかけ

政策寄りのテーマや共同セミナー等の実施

ASEAN-BACが行う提言も寄り添ってサポート

米国ASEANビジネスカウンシル(US-ABC)

によるEC関連の提言(2016年4月)

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3.3 ASEANに対する諸外国の働きかけ(EUの動向)

ASEANに対する諸外国の政策対話は活発

• 欧州も企業団体(EU-ABC)を通じ、ASEANにおけるEC推進に向けた提言を行う等の働きかけを行っている

• 欧州の場合、EU及びASEAN両地域における円滑な貿易推進に関する内容が中心である

• 他方で、ドイツが規格基準策定等の支援を行う等個別にASEANへ働きかけを行う国もある

EU-ASEAN企業団体(EU-ABC)は円滑な貿易推進に向けた提言を発

表(2017年5月)

同提言には2025年を目標としたASEANと欧州間の貿易ルール取り決

め推進に向けた短期と中期の提言がそれぞれまとまっている。

この中でEC関連では中小零細企業(MSME)の越境EC促進に向けた

提言として、国境取引手続き上の強化と簡素化等が記述されており、

この提言をベースにした政策対話が進展する模様である。

欧州(EU)の動向 2014年創設。

加盟メンバー:34社(’18年1月)

Executive Director:Chris

Humphrey(英)

事務所:シンガポール

直近ではUS-ABC

と共同で提案

ASEAN-BACが行う提言も寄り添ってサポート

各国EU商工会議所

ドイツの動向

ドイツODA機関GIZを中心としたデジタル化関連の各種技術支援を

ASEAN各国に対して行っている。

シンガポールでは中小企業振興機構(SPRING)に対して中小企業金

融プログラムの下、共同研究やデジタル関連の国家規格・基準策定に

関連した支援を行う。

ドイツ企業も独自で有する高度な技術力を活かす場として、ASEAN主

要国にて。例えば、ボッシュとダイムラー・ベンツによる四輪自動車の

自動運転走行を共同でシンガポールにて実証実験を行い、地域限定

の実装が開始。

テーマに応じて直接働きかけも行う

欧州(EU)の動向

ドイツ動向

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3.3 ASEANに対する諸外国の働きかけ(中国の動向)

中国によるASEANに対する働きかけは民間主導

• 中国も「電子商取引シルクロード」構想を打ち出すなど、ASEANのEC市場を取り込む動きを積極的に進めている

• 実態としてはアリババやタオバオなどECプラットフォーマーによるASEAN地場企業の買収を通じた民間主導型

• 米・EUと比べ業界団体を通じたロビー活動はこれまでのところ影響力は大きくない

中国EC事業者アリババが2016年に買収したLAZADAは、ASEANに

おけるECオンラインショップ事業を手掛ける最大手。同社はASEAN

主要6か国において売上規模ベースでトップ。

マレーシアが「Eハブ」構想下で進めるEC拠点の新設に伴い、アリ

ババの馬雲(ジャック・マー)会長などと覚書を締結。アリババは電

子決済やクラウドサービスといった関連技術をマレーシアの新興企

業に提供、金融支援や人材育成で協力する。

第12回中国-ASEANビジネス投資引サミット(CABIS)にて「電子商

取引シルクロード構想」を2015年9月に発表。

同構想は中国-ASEAN自由貿易協定(CAFTA)の一環で、中国と

ASEAN間のEC市場を取り込み、円滑な取引を実現することを目的

に各種政策協議を行う枠組みとして発足。

直近では中国とASEAN双方の中小企業(SME)の市場参画や取引

拡大に関する協議が行われたようである。

中国の動向 中国の動向

※買収時期:2016年11月 (金額:30百万米ドル)

主な中国企業による地場EC企業の買収事例

(1) 中国を代表するECプラットフォーム事業者

(2) 中国を代表するコンテンツ事業者

※買収時期:2016年12月 (金額:不明)

(出所) Bloomberg、プレスリリース、報道記事各種より

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3.3 ASEANに対する諸外国の働きかけ(日本の動向)

• 日ASEANとしての取組みには、「日ASEAN10年間戦略的ロードマップ(2016~2025)」がある

• デジタルエコノミーの促進に資するような協力ロードマップが掲げられる。主な分野には、中小企業、知財、基準、税関、産業・サービス、貿易円滑化等があり、それぞれの分野で政策対話が行われている

日ASEANの政策動向とその内容

政策動向 内容

日ASEAN10年間戦略的ロードマップ(2016~2025)

• 2016年度策定された「日ASEAN10年間戦略的ロードマップ(2016~2025)」において、日本とASEANの協働して両国・地域間におけるEC市場拡大に向けた諸課題に取り組むことが盛り込まれた

• 具体的には、以下の分野が挙げられる 中小企業

「中小企業の発展に向けたASEAN戦略的行動計画(SAP SMED 2010-2015)」の評価と、ポスト2015(SAP SMED 2010-2015)のドラフト作成の支援

特に信用保証・信用情報制度の開発協力を通じた「ファイナンスアクセスの拡充」に注力 知財

日ASEAN知財事務局の責任者間会合の開催 「ASEAN知財局、特許庁IPR(知財権)アクションプラン2016-2025」の承認

基準 「ACCSQ Strategic Plan 2016-2025」の実施支援と、人材育成プログラムの提供

税関 技術協力プログラムの提供。日本の協力における優先事項としては「安全で安心な社会を実現するためのキャパビル」と「貿易円滑化のためのWTO合意の実施」

産業・サービス 「日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)」の活用によるASEANのサービス産業の競争力強化への支援

貿易円滑化 「在ASEAN日本人商工会議所連盟」とASEANとの対話、ASEAN議長らとの対話通じた日本企業によるASEAN経済統合への貢献

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3.3 ASEANに対する諸外国の働きかけ(日ASEANのビジネス団体の協力)

• ASEANにおけるデジタルエコノミーやイノベーションを推進する体制として、ASEAN-Japan Innovation Network(AJIN)が構築。

• 同体制の下、ASEANに向けた政策提言のほか、ビジネスマッチングや各種支援などが進められる。

日本のビジネス団体は連携体制を構築

ASEAN-Japan Innovation

Network (AJIN)

経済同友会

ASEANビジネス団体

経団連

アセアン日本人商工会議所連盟(FJCCIA)

日本貿易会(JFTC)

日本貿易振興機構(JETRO)

日ASEANイノ

ベーションサポートネットワーク(JAIS)

新経済連盟(JANE)

日本商工会議所(JCCI)

ASEAN-BAC

ASEAN ビジネスクラブ

(ABC) AJBC 日本委員会

(AJBC: ASEAN-Japan Business Council)

(JANE: Japan Association of New Economy)

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