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43 - 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 · あおもり 正直村(青森県) ... ィビジネスとして知られる(平成24 年度青森コミュニティビジ

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第2章 独自の工夫で課題を乗り越えた事例から学ぶ

≪第 2章の要旨≫

本章では、独自の工夫によって課題を乗り越えてきた 23の事例を 3つに分類し、

事業概要、商品開発・販路開拓の特徴、連携・ネットワークの特徴、支援の特徴、成

果と課題についてまとめた。

分類及び事例数は以下の通りである。

① 「商品開発に特徴」のあるケース(5事例)

② 「販路開拓・情報発信・営業に特徴」のあるケース(10事例)

③ 「支援機能に特徴」のあるケース(8事例)

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事例のカテゴリー (1)

今回、特徴的な取組を行っている 23 の事例についてヒアリング調査を実施した。それぞ

れの取り組みは、取り巻く環境、事業者の組織能力や事業規模、開発された商品の売上や

地域への波及効果の状況、支援の状況などが異なる。また、取り組みの多くは、各事業者

の努力と工夫に加え、連携事業者やそれを支える地域住民などの様々な要因が複雑に絡み

合いながら進められ、一定の成果を生み出している。そのため、単純に比較することは困

難であるが、今回の調査ではいくつかの共通点も明らかとなった。 そこで、事例についての理解を助けるために、①商品開発(プロセスや体制づくり含)に特

徴のある事業者、②販路開拓・情報発信・営業に特徴のある事業者、③支援機能に特徴の

ある事業者に分類して、その取り組みを紹介しよう 18。

①商品開発に特徴

コミュニティカフェでる・そーれ(青森県)

葉菜家(岩手県)

高校生レストランまごの店(三重県)

がごめ連合(北海道)

四季菜(秋田県)

②販路開拓・

情報発信・営業に特徴

江別経済ネットワーク・江別麦の会(北海道)

帯広市食産業振興協議会(秋田県)

あおもり正直村(青森県)

南部美人(岩手県)

伊賀の里モクモク手づくりファーム(三重県)

馬路村(高知県)

勝山シークワーサー(沖縄県)

寿美屋食品(沖縄県)

函館酪農公社 LABO(北海道)

菓匠禄兵衛(滋賀県)

③支援機能に特徴

シーピーエス(北海道)

GB 産業化設計(北海道)

富士市産業支援センターf-Biz(静岡県)

北洋銀行(北海道)

全国うまいもの交流サロンなみへい(東京都)

日本の御馳走えん(東京都)

ニッコリーナ(東京都)

シェフズバンク(神奈川県)

※掲載順

18 これらの分類は、あくまでもケースの理解を助けるためのものであり、当該事業者がそれ以外の部分に

特徴がないということやそれ以外の事業を展開していないということではない。あくまでも、今回の調査

においてその特徴が際立ったと筆者らが独自に判断した分類となっている。

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商品開発に特徴のある事業者 (2)

「商品開発に特徴のある事業者」は、地域資源の発掘や商品開発に地域の多様な主体の

相互協力が確認され、商品開発プロセスを通じて見込み客の獲得や情報発信を行う体制づ

くりを行っており、取り組みの基盤となる地域との関係形成を重視している事例が該当す

る。 活用される資源やその磨き上げの方法は異なるが、ネットワークを活かしながら新商品/

サービスの開発と新たな付加価値を創造することにより商品力を向上させ、地域内外の取

引ネットワークを構築し、ブランド化を図っている。 主な特徴と今回の調査でこのカテゴリーに該当する事例は、以下の通りである。

事業主体(所在地) 中心となる商品・サービス ポイント

① コミュニティカフェでる・そ

ーれ(青森県五所川原市)

コミュニティカフェ運営、青森シ

ャモロックとまとシチュー、ごし

ょがわらのめんこいドリンク「ゆ

めひみこ」など

・地域が協力して商品開発・販路開拓。

・地域内の取引ネットワークを構築し、

地域経済の循環を生み出した。

② 葉菜家有限責任事業組合(岩

手県盛岡市)

農産物生産(野菜・果物・ハーブ・

米・花卉・種苗など)、直営青果店

の運営、いちごのコンフィチュー

ルなど

・多品目少量栽培の実践。

・地元飲食店ネットワークの構築。

・ソーシャルメディアを活用した顔の見

える小さな販路の開拓。

③ 高校生レストランまごの店

(三重県多気町)

レストラン運営、花五膳、伊勢い

も入り手延べうどんなど

・「あるもの探し」を徹底した地元目線

の取り組み。

・高校生・地域住民が輝ける舞台を構築

④ 函館がごめ連合(北海道函館

市)

がごめ昆布関連商品、直営アンテ

ナショップの運営など

・産学官連携によるブランド化

・未利用資源の機能性評価により付加価

値創造

⑤ 株式会社四季菜(秋田県秋田

市)

ハチ公プリン、みたらしプリン、

鯛めし、ファーマーズブランド商

品など

・産学官連携によるクラスター形成を通

じた食のブランド化を実現

・リーダー企業として地域の産学官連携

をコーディネートし、他の事業者支援を

通じた地域の総合力の向上

地元目線にこだわり、徹底した地域資源の掘り起しと活用を展開し、地域から愛

される商品、応援される商品を開発

やる気のある人・組織で取り組みを始め、徐々にネットワークを拡大

多様な主体による商品開発体制が構築され、相互協力することで商品開発・販路

開拓を実現

試行的実践を繰り返し、消費者の声を取り入れた開発を展開

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【商品開発に特徴】

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コミュニティカフェでる・そーれは、「生産者と消費者をつなぎ『食』を通した地域交流」を目指し、「奥津軽全体を商品にする」をコンセプトに 2009(平成 21)年 4 月にオープン。地域の多様な主体の協力を引き出し、「コミュニティカフェ」、「地元生産者との地域の食材を使った商品開発」、「若者の人材育成」、「着地型観光」に取り組み、地域を代表するコミュニティビジネスとして知られる(平成 24 年度青森コミュニティビジネス表彰県知事賞受賞)。

これまで自分の農作物がどのように消費者に受け入れられているのか知らなかった生産者が、消費者と出会うことで、モチベーションや主体性を向上させ、新たな商品開発や販路開拓を進め、手取り収入の増加、新たな雇用創出へとつながっている。近隣地域では、でる・そーれをロールモデルに事業を始める主体が生まれるなど、地域活性化への機運も醸成され、地域に好循環を生み出している。

青森県五所川原地域では、これまで地域住民・観光客の足であった民間鉄道が廃線の危機に瀕していた。そこで、地域住民が「津軽鉄道サポーターズクラブ(2006 年 1 月)」を発足させ、地域の大切な資源を守ろうと、住民主体のまちづくり活動に取り組んだ。

その後、観光事業者や地域づくり団体、行政等 22 団体が参加して地域資源を活かした着地型観光の推進を目指した「奥津軽地域着地型観光研究会 (2007年 12月設立) 」、地域資源を活用した新たな商品開発を目指し、地域リーダーを結集して結成した「つながる絆パーティ(平成 20年 5月設立)」が発足した。こうした取り組みがきっかけとなり、「観光客に温かい地元のおいしい食事を提供できないか」「生産者と消費者の交流の場がほしい」という想いを募らせていった。地域の多様な主体の協力をうまく引き出しながら、試行的実践を何度も繰り返し、コミュニティカフェをオープンさせた。

当初は、「五所川原の駅前でうまくいくはずがない」とネガティブな声もあったが、地域の多様な主体が自発的に協力することで、次々と地域資源を活用した商品開発を行い、着実に販路を広げている。また、地域住民と観光客の交流の場として、交流イベントを多数開催し、年間来客数は延べ 1万 2千人を超え、地域観光の窓口としての役割を担うまでになっている。

こうした取り組みは、地域内外から注目を集め、行政やメディア、そして国外からの視察も増えているという。地域資源をローコストで活用する仕組みや、地域の女性に新たな働く場を提供するなど、地域経済のみならず、地域コミュニティの持続可能性を高める草の根の活動が評価を得ている。

絆を紡ぎ、地域が一体となって商品開発・販路開拓を実現!

コミュニティカフェ でる・そーれ(青森県)

事業概要

取組の経緯

でる・そーれメンバー

(真中が代表の澁谷氏)

農家が初めて樹熟させたトマトで作った

「青森シャモロックとまとシチュー」

鉄道会社と連携した社会貢献型商品

「ストーブ列車石炭クッキー」

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【商品開発に特徴】

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まちづくりの延長にある商品開発・販路開拓:まちづくり

活動をベースに多様な主体との間でのコミュニケーショ

ンを通じて商品開発・販路開拓を進める体制を構築。

信頼関係を通じた取引関係の構築:生産者との直接取

引関係を結ぶことで、安心安全な農産物をローコストで

確保できるチャネルを獲得し、それ自体が参入障壁と

なって活動が継続している。

取組の前提条件の重視:商品の意味・コンセプト・誰と

何のために作るのかを明確にしてから取り組みや商品

開発をスタートする。

マーケットの徹底した明確化:「自分たちが食べたい・

みんなに知ってほしい」と心から思える商品を徹底的に

磨き、それに共感する(=欲する)マーケット・顧客を深

掘する。

試行的実践の積み重ね:最初から完成品を目指すの

ではなく、試作品をターゲットとなる市場に試験的に投

入し、その反応を見て即座に軌道修正できる機動性・

柔軟性を持つことが有効。

主導権を持った販路開拓:類似商品との競争関係とな

らない独自販路を探し出し、取り組みや商品の本質を

理解していない取引先には、安易に販路を広げない。

効果的な情報発信:津軽半島観光アテンダントや観光

バスガイドなど、地域内で顧客に直接触れる諸主体(タ

クシー運転手、お土産品店店員、まち歩きガイドなど)に

対して商品情報の提供、販売依頼を行った。地域内の

諸主体をコアなファンとして味方につけることで効率的

な情報拡散を図った。

オープンな活動:取り組みのプロセスをオープンにし、

誰でも関与できる状況を作り出すことで、関わった諸主

体それぞれが自分の商品として販路開拓を展開する協

働関係が生まれ、商品の優位性が確立された。

商品開発・販路開拓の視点

地域の顔が見えるパンフレット

青森シャモロックと地元の野菜をふんだんに使

って作られた「津鉄汁」

弘前大学生・コピーライター協働開発、プロ

テオグリカン入赤~いりんごジュース「ごしょ

がわらのめんこいドリンクゆめひみこ」

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【商品開発に特徴】

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地域資源活用の特性を認識:地域資源を活用した商品は、資源量の限界があることを前提に開

発と販路拡大を進めることを意識しておく必要がある。

消費者の声を重視:商品開発・販路開拓共に、消費者からの評価を得ることを最重視している。

やる気のある人・組織で始める:やる気のある人・組織が集まり、肩書や立場に関係なく楽しみな

がら活動を進めることで、共感のネットワーク広がり、仲間づくりに成功。

合意形成の場と実践の場を区別:地域全体についての意見交換や合意形成を図る場と、商品開

発や着地型観光などの実践的活動を行う場を区別し、実践の場を中心に活動を進めたことでダイ

ナミズムが生まれ、新たな主体の巻き込みが進展した。

試行的実践をベースに小さな成功体験を共有:着地型観光・商品開発など、具体的な実践を目的

とした小さなプロジェクトを複数形成し、試行的実践を繰り返すことで、関係者が小さな成功体験を

積み重ね、自信を深めながら身の丈に合った取り組みを展開。

人材育成の仕組み化:新たな担い手が育成されるようなシステムを活動の中に取り込み、「一歩

先を歩く先輩」が、次の世代に気付きと自信を与えるように、同じ目線でインキュベートを図った。

地域コーディネートの重要性:組織や事業、経営のマネジメントと同等、もしくは、それ以上に、地

域コーディネート、ネットワークのマネジメントを行う人材が複数存在し、地域の組織化を図ったこ

とが商品開発や販路開拓に好影響を与えた。

緩やかなネットワークと強固なネットワークの連結:地域外・異分野の緩やかなネットワークと地域

内・同分野の強固なネットワークをつなぐポジションに自らを置き、必要に応じて柔軟にネットワー

クを連結することで、自社が保有しない資源や技術、ネットワークを活用しながらローコストでの商

品開発、販路開拓、情報の受発信を可能とした。

連携・ネットワークの視点

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【商品開発に特徴】

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商品開発や販路開拓、マーケティングなどの個別専門的支援よりも、取り組み全体の意味や方向

性を理解し、現場の声を引き出し、関係者のモチベーションを高めながら、一緒に考え、汗をかい

てくれる人・組織による支援が最も有効であった。

「現場に対して本気でコミットしてくるかどうか」「一緒に仕事をしたいと思えるかどうか」によって、

同じ支援でも有効に機能するかが分かれる。

ある程度活動が評価されると、様々な支援機関や専門家が入り込んでくるため、それらを評価し

たり、評判を探ってくれるパートナー(中間支援機関)がいたことが役立った。

支援を受ける際は、専門性の高さよりも地域を深く知っており、共感能力、対話能力があり、事業

進捗に応じて必要な視点や道筋を提示できる人材であることを重視し、表面的、形式的な支援を

受けなかった。

地域資源を活用した商品は、商品開発の方法や売り方、マーケットが一般のものとは異なるとい

う基本前提に対する理解が必要。

資金提供や専門家のマッチングは、各主体の目指す価値とマッチングによるメリット/デメリットを提示し、現場側の自己決定に沿って進められるかが鍵。

地域の多様な主体間に信頼関係が形成され、自発的協働による内発的で持続的な商品開発・

販路開拓体制を構築。

これまで地域では光の当たらなかった農産物を活用し、生産者と一緒に商品開発・販路開拓を

進めたことで地産地消が進み、生産者の収入・モチベーションの向上へ貢献。

子育て中の女性にそれぞれのライフスタイルに合わせた働く場を提供。

売上だけではない成果を見える化し、更なる共感を獲得していくことが課題。

収益向上と事業及び地域のマネジメントのバランスをどのように図るかが課題。

想いの詰まった地域商品開発

地域の多様な主体(生産者、地元企業、研究機関、行政、NPO、地域づくり団体など)が関わる商品開発体制を構築し、関わる全ての主体が「私たちの商品」と語る地域の想い(=物語)が詰まった地域商品を開発。

ネットワークを活かし、次々と新商品を開発

多様なネットワークが有機的に連結し、そこからの協力で、新たな地域商品を次々に創発。

活動を支える応援団の存在

地域全体をサポートする支援機関や複数の専門家が応援団として活動を自発的に支援。

地域内の関係を再構築

生産者と消費者、観光客と地域住民の間の交流を生み出す「場」を意識的に作り、共感に基づいた新しい関係性を創り出した。

地域住民の主体性向上

多様な主体を活動の場に導き、商品開発や着地型観光に一緒に取り組むことで、参加意識が高まった諸主体のモチベーションが向上し、まちづくり活動の活性化へ波及した。

地域エコシステム(=生態系)が販路拡大を促進

でる・そーれを中心に形成された地域エコシステムの中で、自発的に新たな販路を紹介する仕組みができた。

[事業者情報]

代表者名…澁谷 尚子 設立年月…2009(平成 21)年 4月(2010年企業組合法人格取得)

資本金…100万円 スタッフ数…7名(非常勤含) 事業規模(2011年度)…1,300万円

住所…〒037-0063青森県五所川原市大町 39 TEL/FAX…0173-34-3971/0173-34-3971

URL…www.delsole-aomori.jp

支援の視点

成果と課題

ケースのポイント

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【商品開発に特徴】

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葉菜家は、100 種類近い作物(野菜・果物・ハーブ・米・花

卉・種苗など)を栽培する小規模農園である。従来のような少品目の大規模栽培ではなく、多品種少量栽培を行い、収穫した作物は農園に隣接した直営の青果店で販売される。また、加工品開発(ケチャップ、ドライトマト、自家製田舎味噌、麹南蛮味噌等)にも取り組んでいる。 事業内容は、1)野菜・種苗・加工品の販売、2)加工品の製

造と開発及びそれに付随する事業、3)農業人材育成及びインキュベーション事業、4)地域ブランド化事業、5))生産者向けチラシ・シール制作。 生産・加工・販売・流通の一元化ビジネスを目指し、仲間

づくりを行いながら、少量だが中長期的な取引ができる販路の開拓と、一元化された身の丈に合った生産体制を確立している。その信念は、「毎日食べる野菜は旨くなければならない」とシンプルそのもの。青果店や移動販売によるBtoCのほか、地域内のレストランへのBtoBも進め、さらには、ソーシャルメディアを活用した顔の見える小さな販路(首都圏岩手県出身者等)の開拓を丁寧に進めている。

種苗メーカーに勤務し、全国各地、様々な農家と関わってきた佐々木氏は、 しがらみや既得権益、内向き思考などの 農業分野によくあるが有する課題を目の当たりにしていた。そこで、農家に転身し、前職時代の知識とノウハウを生かし、土づくりにとことんこだわった少量多品種栽培を始めた。

それと並行し、農業とは異なる異分野の仲間とのつながりを大切にしていった。農業の未来を考えたとき、同業者だとどうしてもリスクや問題を先に考えてしまうのに対して、異分野の仲間とは農業の将来に対してポジティブな意見交換ができることが新たな気づき、モチベーションを向上させた。 そして、地元 IT企業と連携した葉菜家有限責任事業組合

を設立し、WEB を活用した新たな販路開拓に取り組んでいった。しかし、小さな農家が生産と加工をしながら EC サイトを運営することは、経費面に加え、労務コストの面でも課題があることが明らかになった。また、ただ EC サイトを作っただけではコストが回収できず、更なる投資も必要なことが分かった。そこで、ソーシャルメディアを活用した新たな販売戦略を練り、徐々に重心を移していった。 首都圏でのイベントにも意識的に顔を出し、消費者の生

の反応を理解し、生産物や商品とともに自分自身(農家自身)を売り込むことで新たなファンの獲得へとつなげている。特に、東日本大震災以降は、地元のレストランを盛り上げることを目的に、イベントの企画運営を仲間とともに行い、地域を盛り上げようと奮闘している。

仲間づくりをベースとした独自の販路を確立!

葉菜家有限責任事業組合(岩手県)

事業概要

取組の経緯

採れたての苺詰め合わせ

畑で採れる野菜を詰め合わせた

採れたての苺で手作りした 「いちごのコンフィチュール」

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【商品開発に特徴】

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こだわりの商品:「自分がおいしい」と本気で思う商品だ

けを仲間と一緒に開発し、販売する。 売る人の魅力を売る:「おいしい」を越え、売る人の魅力

が消費者に伝わるようなストーリーを仲間や消費者とと

もに作る。 消費者の声を積極的に聞く:イベントへ積極的に出向き、

消費者の反応を聞きながら試行錯誤を繰り返す。 試作品への評価:開発商品は試作段階で仲間やマー

ケットに試行的に投入し、評価をフィードバックして改善

を繰り返す。 地元飲食店ネットワークの構築:地元飲食店をネットワ

ーク化し、旬な生産物や新たな加工品を試供することで

継続販売のきっかけ作りを行う。 地域内の経済循環を意識:地元飲食店を盛り上げるこ

とを意識し、「飲食店に人が来る→材料の購入量が増

える→生産者の手取りが増える」という循環を意識し

た。 新たな販売チャンネルの獲得:地元飲食店を利用する

消費者からもオーダーを受けられるようにし、直接販売を行える体制を構築した。 目の届く範囲への販路の限定:際限なく販路を広げるのではなく、近隣飲食店や自営の青果店な

どに限定し、ブランド管理を徹底した。 ソーシャルメディアを活用した魅力発信:ソーシャルメディア(facebook)を活用し、「売る人」の魅力

を発信し、ネットワークを構築した。 同郷者ネットワークが販路開拓へ:県外に住む岩手県出身者が、それぞれの地域で PR 窓口とな

って販路開拓につながっている。 地域内から地域外への販路開拓プロセス:「地元」での消費を活性化させた上で「地域外」マーケ

ットへと展開するプロセスを意識。 息の長い取引関係の構築:消費者との息の長い関係を重視し、自分たちの商品が持つ価値や物

商品開発・販路開拓の視点

こだわり商品のパンフレット

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【商品開発に特徴】

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語に共感してくれる相手との取引を重視する。 地元企業と商品開発・販路開拓の役割分担:地元 IT 企業(株式会社ホップス)が EC サイト「まが

りや.net」の運営と商品パッケージの開発、マーケティングを担当し、生産者が生産に専念できる

環境を構築した。

異業種の人々が集まるエコシステムの形成:異業種の人々が肩書や立場に関係なく集まる場を

意識的に作ることで、新しい情報の入手や、商品や売り方に対するアドバイスを得られる関係が

形成された。 出入りの自由な緩いネットワーク:何かをやらなければならない、という義務感ではなく、やりたい

こと、参加したいことに自由に参加できる緩やかな関係が長続きするポイントとなっている。 やる気あるメンバーによる小規模なネットワーク:やる気のある主体と連携し、無理やりネットワー

クを広げようとせず、考え方や価値観の合う小規模なネットワークを作っていく。 コミュニティを形成し、消費者の課題を明確化:商品開発や販路開拓の前提として、コミュニティの

形成を優先し、コミュニティの相互作用を通じて、消費者の抱えている課題や要望を引き出した。 地域活動への積極参加で多様な主体との接点作り:地域内外のイベント(映画際、観光、物産等)

へ主体的に参画(地域内のものは企画も行う)し、飲食業者や他の業種との接点作りの機会を創

出した。 地元農家の資源を集約:耕作放棄地や農業資材を共有化しコストを削減。各農家の開発する加

工品も集約し販売委託を請け負うことで農家の手取り収入増加に貢献している。 地元農家の困り事を解決:高齢化した農家の困り事(種苗づくりや生産販売の人手不足)を、ネット

ワークを活用して解決につなげている。

支援機関からの支援ではなく、信頼できる仲間からの商品開発アイデア、新たな販路、イベントや

首都圏のレストラン情報などより有効に活用できた。

首都圏側の小さな小売店、レストラン、コミュニティに関する情報を、そのままではなく、分析して、

連携・ネットワークの視点

支援の視点

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【商品開発に特徴】

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地域に合った形で提案できる支援者が必要。

農商工連携、商品開発、販路開拓という一部の連携や支援だけではなく、地域内外を広くつなぐ

ような集落、地域全体に対する細かな支援が急務。

支援担当者は現場と中長期で関われる体制が必要で、現場との信頼関係がその後の成果や納

得感に影響する。

支援する側と支援を受ける側が Win-Win の関係(=支援がうまくいけばお互いに利益がある関係)

になれるかどうかが鍵で、その関係は対等であることが必須である。

補助金等は、申請書や報告書作成の負担があるため、現場では手を上げにくい。初期には事務

面をサポートしてくれる支援機関があれば有効に作用する。

規模の小さな生産者や事業者は、大きな販路には対応できないことを理解し、小さな販路を着実

に形成するサポートが必要。

現場を動かす人、それを応援する人、活動全体をサポートする人という役割分担が大切で、その

前提には日々の関係構築が重要となる。

現場に支援者側の考えを押し付けず、問いかけや考えを整理するきっかけを作ってくれる支援者

がいることが現場側の主体性を生み出す。

葉菜家を運営していくことで自社商品のブランド形成が図られた。 地域内で経済循環が生まれたことで、新たな支え合いの関係が生まれていった。 販売やプロモーションを外部化(連携組織が担当)することで「出る杭は打たれる」、「先駆者の足

を引っ張る」という地方ならではのしがらみが緩和された。 高齢農家の困り事をサポートすることで、地域の農業を下支えすることに貢献。 農業従事者の意識形成が課題となっており、高齢化した農家は営農支援をも希望しなくなるなど、

地域の農業・景観が失われることへの危機感が顕在化。 自社製品で「日本一」という評価を獲得できる商品を生み出すことが今後の目標。

多品目少量栽培の実践

種、水、肥料、堆肥にこだわりぬいて約 100 品種の作物を栽培し、小規模農園の強みを追求したことで他との差別化を図った。 本気でおいしいと思えるものを作る

自分たちが食べて、本気でおいしいと思えるものを丁寧に作り、野菜だけではなく味噌、ジャムなどの加工品を開発販売する複合型農業にチャレンジしている。 近隣に出荷を限定し、おいしいものをおいしいうちに顧客へ届ける

「採れたてのおいしいものをおいしいうちに食べてもらいたい」との想いから、出荷範囲を限定。 仲間や顧客との関係から新たな商品開発を実現

商品開発は、同世代、異分野の仲間、常連客とのコミュニケーションの中で進め、プロシューマー(生産的消費者)の輪を広げ、想いや時間を共有するコミュニティを形成。 地元 IT 企業と連携した EC サイトでの販路開拓

EC サイト(岩手県産品を扱う「まがりや.net」)での販売や商品デザイン、マーケティングなどを地元 IT 企業がサポートしたことで販路が広がり、葉菜家は作ることに専念できる環境を構築。 ソーシャルメディアを活用した販路形成

全国に広がる友人・知人が窓口になってソーシャルメディアを活用しながら口コミで新たな販路を広げ続けている。 地域内取引を重視し、小さくても経済の循環を創り出す

地域内のレストラン・事業者との関係を重視し、地域内経済が循環する仕組みを構築。 [事業者情報] 代表者名…佐々木浩之 設立年月…2008(平成 20)年 4 月 資本金…100 万円 組合員数…3 名、パート 2 名 事業規模…非公開 住所…岩手県盛岡市上太田大堀 9 番地 1

成果と課題

ケースのポイント

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【商品開発に特徴】

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高校生レストランまごの店は、食材の仕入れから調理、盛

り付け、接客、配膳、会計、メニュー開発のすべてを高校生が行う、全国でも話題のレストランである。2002(平成 14)年10 月、本物の現場で生徒を育てたい三重県立相可高校(食物調理科調理師コース)、地元農産物の PR や地域活性化の起爆剤を作りたい多気町役場、高校生を応援したい五桂池ふるさと村の協働が始まった。高校生の運営でありながら、料理の腕はプロ並みで、料理の基礎を徹底したやさしい味が好評である。 また、高校、地元企業、地元生産者、JA 多気郡、三重大

学、多気町役場、地域住民が協働し、地元農産物や人を活かしてメニュー開発、商品開発を展開し、地元農家の手取り収入の増加、観光客・交流人口の増加、併設する観光施設の来場者数・売上の向上、町の知名度アップ、地域経済の活性化へ寄与している。平成 20 年 8 月には、地域の協力で株式会社を設立し、卒業生が働く惣菜店を立ち上げ、町内に 2 店舗経営している。さらに、多気町モデルを他地域(北海道三笠市など)へ移転し、その支援を実施している。 子どもたちの素直で必死な姿に地域住民が元気づけられ、全力で子どもたちを応援し、今度は、子

どもたちが地域のために汗をかく。多様な主体が自発的に次々と協働を創発させ、地域に活気と賑わいを生み出し、機運を高め続けている。

平成 14 年 2 月、町の認定農業者に焦点を当てた「おいしい多気町まるかじりフェスティバル」を多気町役場岸川政之氏が仕掛け、そこで試食品の調理を相可高校へ依頼したことをきっかけに取り組みが始まった。両者はすぐに意気投合し、地元 JA と協働した商品開発などに発展。その中で、岸川氏は、相可高校教諭村林新吾氏から「授業では接客とコスト管理が教えられない。何とか教えられる環境がほしい」と相談を受ける。すぐに「ならば、高校生が運営する店を開くのがいい」と岸川氏は考え、早速、住民自治会が運営するふるさと村に提案。しかし、「事故が起こったらどうするのか」など、反対され、却下となった。そこで、生徒たちの姿を見れば納得すると考え、夏休み期間のアルバイトを提案し、受け入れてもらった。夏休み明けの役員会で、再度提案したところ、生徒たちのひたむきで一所懸命に料理をする姿、そして、礼儀正しさと清々しさに感動し、満場一致で賛成となり、改築費用までも捻出してくれることになった。 こうして2002年10月、全国どこにもない高校生レストランまごの店がオープンした。運営は、相可高

校食物調理科調理クラブのクラブ活動の一環として行われた。すぐに多くのメディアに取り上げられ、一躍地域の代名詞となっていった。2005 年 2 月には、県と町が約 9,000 万をかけて高校生のためだけに新たな店舗を建築し、今では、開店時には行列ができるほどの人気ぶりである。

レストランの運営に留まらず、地元企業や大手企業と連携した商品開発や商品プロデュースへと発展している。2008 年 8 月には、卒業生の受け皿として株式会社相可フードネット「せんぱいの店」を設立、町内に惣菜とお弁当の店を 2 店舗経営し、売上は約 9,400 万円(平成 23 年度)、27 名の雇用を創出している。加えて、相可高校の他の生徒たちも影響を受け、生産経済科の生徒が運営する NPO 法人「植える美 ing は、地元企業や大手企業ト地域資源を活用した化粧品等の開発に取り組み、国内外への販路を広げている。

高校生が輝ける最高の舞台を提供し、協創体制構築!

高校生レストラン まごの店(三重県)

事業概要

取組の経緯

まごの店の外観

まごの店の人気№1メニュー

「花五膳」

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【商品開発に特徴】

55

徹底した地域目線:地域にある資源(農産物、歴史、文化、

生活、技術など)に焦点を当て、その資源を輝かせること

のできる人・技術・組織を巻き込みながら地域の文脈が見

える商品・サービスを協創している。 資源獲得チャンネルの優位性:応援する生産者グループ

が希少な農産物や規格外品、未利用資源を独占的に安

価で入手できるチャンネルを開拓したことで、食材の調達

コスト、安全性確保に関するコストが低下した。 明確な目的:目的や成果(どの位置を目指すのか)を明確

にしてから商品開発を進めることを徹底し、安易な開発は

行わない。 背景の価値を重視:メニュー・商品の味や品質などの機

能的価値ではなく、ストーリーや関わる人の想い、生産者

の顔といった意味的価値・背景的価値を重視している。 多様な商品開発:開発商品は、「伊勢いも入り手延べうど

ん『とろろ麺』(JA・地元製麺事業者・行政と連携)」、「豆サ

ブレ(せいわの里と連携)」、「相可高校オリジナル醤油(地元醸造所と連携)」、「鯛のみそ茶漬け・鯛茶漬け(地元漁

港と連携)」の他、駅弁やお弁当開発、地元スーパーや商

工会等からの依頼で地産地消レシピの開発へと拡大。 他の主体と連携した商品開発:大手企業(井村屋)と連携

し、「伊勢茶餅」の開発販売を展開するなど、他主体と連

携した商品開発も積極的に展開。 他の生徒への好影響:食物調理科調理師コースの生徒

に触発され、製菓コースの生徒たちも「まごの店 Sweets」をオープンさせ、洋菓子の商品化と販売に取り組む。

企業との連携:生産経済科の生徒が運営する「NPO 法

人植える美 ing」は、地元農産物を活用した化粧品開発

を地元企業(万協製薬・川原製茶)や大手企業(近江兄弟

社)と行い、国内外へ販路を拡大。 地域内マーケットの重視:地域内マーケットの掘り起しを

商品開発・販路開拓の視点

高校生の調理風景

せんぱいの店に並ぶ地元食材を ふんだんに使った惣菜

高校生と JA、役場が連携開発した

「伊勢いも入り手延べうどん」

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【商品開発に特徴】

56

行い、確実に買ってもらえるファンを獲得し、買った人が自慢したくなるような商品づくりの視点を

徹底。 マーケットの限定:安易な販路開拓はせず、取り組みの意味が分かる相手・マーケットとの連携を

意識。 身の丈に合った活動:まごの店では、1 日 250 食のランチに限定し、無理な拡大は行わず、高い

品質を維持。 手段としての売上:目的は売上ではなく、「若者が真剣にチャレンジできる環境の提供」、「地域の

新しいあり方の提案」。

不平等でもやれる人で始め、やる:モチベーションややる気の高いメンバーに基準を合わせ、不平

等でもあってもすぐに動ける人で始める。 目指すべきゴールを明確化してから始める:商品開発・販路開拓自体よりも先に、目指す場所(成

果)、目的、コンセプト、意味を明らかにし、共有を図ってから開始する。 オープン系の発想に基づいた場の構築:“オープン系”の発想で、取り組みに共感した人・組織は

誰でも関わることのできる開かれたオープンプラットフォームを構築し、多様な主体が開発や活動

に参画できる仕組みを作った。 連携を目的化しない:連携を目的にし、際限なく連携主体を広げるのではなく、実践を進めるのに

必要な主体との連携を行い、関わる全ての人が取り組みを語ることのできる仕掛けを作った。 ロールモデルを作り、その連鎖により活動を増幅させる:地域全体を巻き込むには、一つのロー

ルモデルを作り、その仕組みを活用したプロジェクトを複数同時に運営することで活動に厚みを持

たせ、地域全体の取組へと拡げた。 多気町まちづくり仕掛人塾が地域住民のコミットメントを強化:地域住民、行政職員などが個人の

資格で参加するまちづくり集団を組織。町長がお墨付きを与え、多様なまちづくり活動を展開。新

商品開発や販路開拓の基盤を形成。 役割分担の明確化:学校・生産者・地域住民・地元企業・行政・NPO などが果たすべき役割を明

確にすることで、それぞれが主体的に関与できるようコーディネートが行われている。

連携・ネットワークの視点

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【商品開発に特徴】

57

各主体(行政・企業・生産者、専門家など)がそれぞれの強みを持ち寄り、役割を分担をしながら機

能(支援)を発揮することのできるエコシステムが商品開発・販路開拓に有効に機能している。

支援者と一緒に開発や活動に取り組み、仲間意識を形成できる連携を生んでいる。

外部専門家やコンサルタントに丸投げせず、現場が主導権を持って進める。

売上目的だけでは大手企業と関わらず、活動のビジョンに対する強い共感があるところとの関係

を形成する。

行政の支援は、資金的補助(イニシャルコストのみ)、活動自体の信用付与に特化。

発展プロセスに応じて必要な専門家を峻別できる目利き人材がいることが有効に機能した。

関わる専門家は、コンサルタント的な人材ではなく、現在進行形で自ら現場を持つ一流の職人や

経営者を中心に構成。

レストランの売上向上、新規雇用の抄出、地元生産者の収入増加、交流人口の増加など、地域

経済活性化へ多面的に貢献。 メディア露出の増加により、地域の知名度向上、地域ブランドの向上が図られ、地元農産物に対

する評価も高まった。 地域住民が主体的に地域に関与するようになり、多様な主体との自発的協働の機運が生まれ

た。 生徒たちが中心となり、地域での料理教室や食育活動にも取組、地産地消、地域の食文化の伝

承に貢献。 内部マネジメントを行う人材の育成と発掘が課題。 多気町モデル(仕組みや思考)の他地域展開を進め、全国で新たな地域のあり方に関する共感を

広げていくことが今後の目標。

「ないものねだり」ではなく「あるもの探し」 「ないものねだり」をするのではなく、「あるもの探し」を徹底し、地域にある資源を活かした商品

開発を進め、視点を徹底して足元(地域)に向けて地域内マーケットの掘り起しを行い、確実に購入してくれるファンを形成。 買って「自慢できる」商品づくり

買った人がその商品を人に自慢して語れるストーリーを見える化した商品づくりを行い、口コミで販路を広げ、地域のストーリーに対するファンを増やした。 地産地消の推進と農業振興

地元農産物を活用することで地産地消を推進し、生産者の手取り収入の増加、農産物の価値向上、地域ブランド化による農業振興へ貢献。 地域住民が輝ける舞台(=仕組み)の構築

地域の人・ものが輝き、活躍することのできる舞台(=仕組み、場、機会)を整え、そこでそれぞれの強みを活かすことのできる取り組みを展開。 外部専門家に依存しない自律的取組

専門家に依存せず、見栄えが悪くても自分たちの手で取り組みを進め、現場にノウハウを蓄積。

[事業者情報] 運営主体…五桂池ふるさと村、三重県立相可高校調理クラブ 設立年月…2002(平成 14)年 10 月 事業規模(2011 年度)…まごの店 約 5,000 万円、(株)相可フードネット 約 9,400 万円 住所…重県多気郡多気町大字五桂 956「五桂池ふるさと村」内 TEL…(多気町役場)0598(38)1111 URL…http://jr2uat.net/mago/mago.htm

支援の視点

成果と課題

ケースのポイント

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【商品開発に特徴】

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函館がごめ連合は、「がごめ昆布」に関わる函館近郊の事

業者 42 社が加盟し、産学官連携を基盤に、アンテナショップの運営、販売促進を行う。

「がごめ昆布」はイカに次ぐ、函館地域の新しい食材として注目され、北海道大学水産学部を中心に、産学官連携での活動を 9 年間続けており、地域全体の取り組みとして認識されてきた。その結果、地元企業によるがごめ昆布を活用した商品が 110 品目以上開発されるなど、地域クラスターを形成している。

これらの取り組みのよる売上は、累計 50 億円以上に上り、地域経済への貢献と新たな地域ブランド化に成功している。 その中で函館がごめ連合は、地域企業が開発した「がご

め昆布」関連商品をアンテナショップや、催事への出店、EC販売による販売促進や PRを担っている。また、一般市民を対象に講習会を開き、「がごめ昆布」料理を提供する「がごめカフェ」を開催するなどして、地域内でのがごめ昆布の魅力の浸透と認知拡大に積極的に取り組んでいる。

「がごめ昆布」はそれまで、市場価値の低い雑昆布とし

て扱われていた。それが、約10年ほど前、昆布のねばりに、高血圧予防に効果的とされるアルギン酸、整腸作用や免疫活性化、制癌作用、皮膚再生などに効果があるとされるフコイダン、という成分含まれているという研究結果を北海道大学水産学部の安井教授が発表したことを契機に、健康食品として注目を集めることになった。 それを受け、2003 年~2008 年に「文部科学省都市エリ

ア産学官連携促進事業」に採択され、函館地域特有の水産資源である「がごめ昆布」を使った商品開発を函館地域の企業が連携して行うことになった。また、2009 年には、(財)函館地域産業振興財団が函館市より「地域資源を活用した新商品の販売チャンネル開拓事業」を受託し、これまで生まれた商品を活用し、自主的・持続的に取り組みを継続するために販路開拓に取り組んでいる。 函館がごめ連合発足のきっかけは、2008(平成 20)年、

「がごめ昆布」商品開発企業の有志 10 社ほどが集まり、資金を出しあって函館駅前 WAKO デパート 1 階にアンテナショップを期間限定でオープンさせたことであった。「がごめ昆布」のブランド化へ向けた企業主体の継続的な広報活動とブランド化の必要性が共有され、2009 年 6 月、組織化した。また、アンテナショップが顧客からも好評であったことから 2009 年~2011 年の 3 か年、函館市の緊急雇用対策促進事業を活用して、常設のアンテナショップへと発展させ、事業が終了した後も、自主事業として運営を続けている。

未利用資源のがごめ昆布に注目し、 産学官連携による商品ブランド化を成功!

函館がごめ連合(北海道)

事業概要

取組の経緯

がごめ昆布関連商品

アンテナショップ「ねばねば本舗」

がごめ連合 布村代表

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【商品開発に特徴】

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未利用資源を活用した商品開発:「がごめ昆布」を新たな地域資源と捉え、地域企業が 110 品目以上の商品開発を展開。定番商品も生まれている。

販売促進・PR機能の集約化:商品開発に取り組むのは中小零細企業が多いため、1 企業当たりの商品数は少なく、利益率も低い。また、経営資源に限界を抱えるため販売促進やPRを個別に取り組むことが難しかっため、販促機能と PR 機能を集約化し、地域全体としての PR を担っている。

民間主導による販売機能をもった中間支援:がごめ連合が中間支援的な役割を果たし、販路開拓や催事出展など、販売機能を自ら持ちながら、各企業の支援を実施。

がごめ昆布を使った飲食店メニューの開発と提供:土産物・加工品のほか、函館市内飲食店(えん楽)と連携し、「がごめ塩やきそば」を提供。がごめ昆布を使った B 級グルメとして観光客から人気を呼んでいる。

ご当地キャラの有効活用:ゆるキャラ「がごめマン」を活用し、催事・イベントへの出展時のアイキャッチ効果を引き出している。

ソーシャルメディアの活用:Fcacbook を活用したソーシャルメディアによる情報発信を積極的に実施。ファンと直接的なコミュニケーションチャンネルを構築し、

商品開発・販路開拓の視点

函館がごめ塩やきそばを

「えん楽」にて提供

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【商品開発に特徴】

60

効果的な情報発信へつなげている。

産学官の連携による事業推進:「がごめ昆布」に注目をした北海道大学水産学部(安井教授)、地

域企業、行政、支援機関(北海道立工業技術センター)が連携し、商品づくりから販路開拓を展開。連携で生まれた成果を、がごめ連合がビジネス化している。

コーディネーター(代表)が異分野からの参入:代表を務める布村氏は、もともと建設系コンサルタントであったため、企業支援の視点を活かして開発事業者の支援と組織運営を行っている。外部人材であったコーディネーターが運営することで、利害関係やしがらみに縛られず、地域の協力も受けやすく、多様な主体を有機的にコネクティングすることを可能とした。

役割を踏まえた連携体の構築:布村代表ががごめ連合とアンテナショップの運営、物販などを束ね、安井教授が研究領域からがごめ昆布の機能性評価や生産技術の開発を担っている。また、函館がごめ連合会員企業が個別の企業活動はもちろんのこと、地元のガゴメ昆布製造業界を統合し、全国規模の催事、ローカルイベント(不定期)へ共同出展するなど、個別企業では難しい販路開拓や PR を相互に補完し合っている。

アンテナショップを活用した顧客との接点づくり:アンテナショップを顧客とのコミュニケーション、接点作りの場として位置づけ、顧客からのダイレクトな反応を開発企業へフィードバックする仕組みが構築されている。

がごめ連合の認証マークによるブランド化:がごめ連合の認定マークを作り、類似品や模倣品対策を講じ、ブランドを守っている。また、認定マークがついた商品の売上の一部を、がごめ連合本体の運営費に充て、販売促進や PR 経費として活用。

函館市の北海道の「ふるさと雇用再生特別対策推進事業(厚生労働省:ふるさと雇用再生特別基金事業)」として委託事業を受託したことが事業化の基盤づくりと体制づくりに役立った。

(財)函館地域産業振興財団が、「地域資源を活用した新商品の販売チャンネル開拓事業」を函館市より受託し、販売促進専門員 2 名を雇用。都市エリア事業の成果品の販売促進支援などの活動に取り組んだことがブランド化に役立った。

支援者との思いや目標の統一化が重要である。専門家として入ってくる人が現場の意図することの本質をわかっていないと、地域側が苦労することになる。

連携・ネットワークの視点

支援の視点

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【商品開発に特徴】

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「がごめ昆布」の有効性を実証PRしていくうえで、ヒト介入試験 *が必要であるが、函館市には医学部が無いため取り組むことができないなど、他地域との研究連携などが必要となっている。

開発費用としてしか使えない補助金ではなくて、目的に沿っていれば一定の自由裁量を認める助成制度があると有効である。特に、商品開発の場合、当初予定している商品と実際に市場に投入して、その反応を踏まえて改良していく際に異なる仕様、商品コンセプトへ変更を余儀なくされる場合も多々ある。

地域での取り組みを進めるにあたっては、特定事業者の利益になるのではなく、アンテナショップの運営費などに必要な、地域の事業者全体の利益になるような場の構築経費等を地元行政と連携して捻出していくことが必要である。

「がごめ昆布」を使った開発商品の売上が累計売上 50 億円以上。 「がごめ昆布」を活かした地域商品開発体制の構築と取り組みを通じた地域連携基盤を構築。 「がごめ昆布」が有名になることで取り扱う業者が増加し商品の価格が下がってきている。(価格

競争) 販売量を増やすには、実店舗での対面販売だけではなく、EC 販売も有効であるが、大手の安売

りサイトとの競争に巻き込まれてしまい、思うような成果が生まれないことが課題。 「がごめ昆布」がメディアに取り上げられると一気に注文が増えるが、その後は落ちてくる。「がご

め昆布」をブランド化したことで原料価格が高騰してしまい、加工業者の利幅が減ってしまうことが課題。

アンテナショップの必要性については関係者で共有されていても、リスクを負える事業者が少ないため、特定の事業者に負担が過重にかかっている状況を打開しなくてはならない。

地域未利用資源(がごめ昆布)に注目して新たな地域ブランド化

これまで捨てられていた未利用資源である「がごめ昆布」の機能性を評価したことで、健康面への好影響など新たな資源の価値を提示し、地域企業との連携によって地域ブランドへ発展。

異業種が関わることのできる場づくり 情報発信を目的とした誰でも関わることのできる場をまず設け、そこでの議論を積み重ねてか

ら商品開発や販路開拓を進めていった。その前段階での関係形成がその後の取り組みの基盤、連携の素地として機能した。

産学官連携による地域が一体となったプロジェクトによる商品開発 研究機関による資源評価、地域企業による商品開発と販路開拓、行政や支援機関による側

面的支援という役割分担が図られ、110 品目以上の商品開発、累計 50 億円以上の売上へとつながり、地域経済へ貢献。

販売機能と支援機能を併せ持った中核機関によるコーディネート 異分野で活動していた人材を中心に、自ら販売機能と支援機能を有する取り組みの中核となる

組織を立ち上げ、そこに販売促進や PR 機能を集約化し、対外的な窓口を一本化したことで各事業者はそれぞれの本業に集中する環境が整い、より効率的な商品開発を可能とした。

[事業者情報] 代表者名…代表 布村重樹 設立年月…2009(平成 21)年 6 月 資本金…0 円 スタッフ数…3 名

事業規模…約 2,000 万円 住所…函館市若松町 19 番 3 号 TEL/FAX…0138-27-4777 URL…http://www.konbu-gagome.com/

* 機能成分を有する食材の素材を使用した製品を科学的根拠に基づいて正しく評価し、真に疾病の予防と健康

増進に役立つことを証明するためには、人を対象とした臨床試験が必要。

成果と課題

ケースのポイント

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【商品開発に特徴】

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株式会社四季菜は、生産現場と直結した製品を生み出し、

農商工連携で地域の農業活性化に寄与することを信条としている。代表取締役の高橋真木夫氏は、1991 年(平成 3 年)、秋田米を美味しくすることを目的に四季菜を創業した。

事業は、食品開発の研究受託、仕出し、弁当・惣菜・和洋菓子・特産品・機能性食品の製造販売、飲食店の経営、団体給食サービス、特産品の研究開発(秋田県総合食品研究所開放研究室)、穀類相乗効果・活性酸素消去能を持つ食品開発、骨をまるごと食べられる骨付き食品の開発(国際特許申請中)、かばのあなたけ(チャガ)の機能性食品の開発、食品開発の研究受託などに取り組んでいる。また、穀類相乗効果(米や大豆などの穀類に相乗的に活性酸素を消去する機能を付加)を持つ機能性食品に関する特許などを活用し、米粉を使用した和洋菓子、惣菜、特産品の商品を開発販売する。 これまで「ハチ公プリン」や「みたらしぷりん」、「鯛めし」等、

数々のヒット商品を生み出すことで地域にブランドを創出し、農協等の他の市場とも協力をした販路開拓を展開。地域の農業生産者との連携により、穀類・野菜類・山菜・茸類といった地場農産物を活用した「ファーマーズブランド」と名付けた製品も数多く開発するなど、生産現場と直結した製品を生み出すことで地域の活性化に寄与している。

秋田県地域の大自然の中での循環型社会・農業生産から加工流通、雇用、消費と地域の中核企業を目指して企業活動を進めており、地域の灯を仲間との広域で連携し、大きな松明に成長する仕組みを、自然にやさしく、人にやさしく、強い絆を皆と創り上げることを目指している。

秋田県は米作地帯として全国第 3 位の生産量があり、農業生産

高の約 60%を占める。しかし、1971 年(昭和 46 年)を境に米の消費量は年々減少し、現在は 50%を割るような事態になっている。それに対応するために、2003 年度(平成 15 年度)から地域資源である秋田県産米での米粉を使用した加工品の開発を行ってきたが、一般的な認知が低く、低迷していた。そこで、米の機能性に着目し、米の抗酸化作用の研究を産学で行い、活性酸素消去能を有する栄養菓子食品の開発を行った。生理機能を持ったデザートの開発も行い、米プリン、シュークリームやロールケーキ、米と野菜のプリン、パウンドケーキ等を市場に送り出した。 また、製品開発を積極的に推進するための取り組みとして、秋田

県機能性食品研究会を設立しリーダーとして産学官連携の先導役として活動を展開。研究課題別にグループを作り、会員企業の資質向上、秋田県の経済発展に寄与することを目指し、会員相互の情報交換、共同経済事業(共同販売等)の実施、技術研修のため 2 ヵ月に 1 回以上の研究定例会を開催している。また、会員の持つ技術・製品のデータベースをホームページによって発信、全国対応の可能なシステムを構築するほか、会員相互の既存流通を利用し、開発された製品の共同流通販売を促進するなど、本会の目的である秋田県経済発展のための建設的な目標達成のため、異業種の会員の加入を勧めている。

産学官連携による商品開発で地域資源をブランド化!

株式会社 四季菜(秋田県)

事業概要

取組の経緯

同社の「みたらしプリン工房 こだわりロ

ール」は「第 29 回秋田県特産品開発コ

ンクール」奨励賞 秋田県観光土産品公

正取引協議会会長賞を受賞

代表取締役 高橋真木夫

(調理師・開発アドバイザー)

同社のヒット商品「ハチ公プリン」

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【商品開発に特徴】

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生産者とモノづくりの目的を共有:生産者は単に地域資源の供給源ではなく、共にモノづくりに取

り組む目的と想いを共有するパートナーであるとの認識を持ったことで、商品開発が効果的に展開された。

産学官連携による研究開発の体制づくり:商品開発にあたって、秋田県総合食品研究所、秋田県立大学、秋田大学と共同研究に取り組むために、秋田県機能性食品研究会を設立。産学官連携による研究開発に取り組んだ。産学共同研究が技術開発のスピードアップに繋がり、パブリシティの構築にも効果が見られた。

一過性でない商品・サービス:地元に雇用が生まれるためには開発される商品のストーリー、思い入れを土台として商品サービスが一過性で終わることなく、続いていくことが必要である。

ブランド化に必要な商品情報のアピール:完成された商品が消費者に認知され、商流が形成されるには、あらゆる機会、支援に基づいて、商品の持つ情報を社会にアピールすることが必要である。地域資源には地域社会のバックグラウンドがあり、相乗的な努力が必要。そのためには、一度、首都圏側でブランド化してから地域に戻すといった取り組みが効果的である。

開発担当者、経営者が販路開拓の機会へ参加:全国規模の展示商談会、海外展示商談会、ビジネスマッチングフェアー、商社系商談会等への参加。まず、開発担当者、経営者が先頭に立ち、あらゆる機会にアピールすることがスタートラインに立つということになる。マーケティングの教科書や、専門家の視点ではなく、人との出会いにどう反応出来るかが、次の展開につながる。

見せ方を変えた異なるマーケットへのブランディング:安定的な取引に耐えうるか、効果と時間の観点からの評価が必要。全国に販売するには、ある程度の設備、技術、許可などが必要なため、同じ地域資源で3つくらいのマーケットに対して見せ方を変えた商品を作るブランディングが必要。マーケット、購買層、嗜好の違いで変えれば、新規開発ではなく、既存商品のアレンジで対応できるため、地域に負荷がかからない(「わさおブランドのみたらしプリン」と「浅草プリン」などは、キー商品をベースとして、作って販路先(首都圏が主)を確保したのち、新しい商品として投入された例である)。地域資源がクローズアップされ、商品が増えても、パイは少しずつ縮小していることから、商品が露出しにくい。地域の代表的なブランドを作ってある程度広いエリアに出すか、技術的にも食べておいしく、さらには背景やストーリーを極限まで付加したような強烈な商品を開発しないと、地域間競争=地域格差が生じることとなる。

主力商品の販売ルートを活用した商品開発:自社の販売ルートを持っており、収穫物の加工品を試作しながら、主力商品等のブランド力を活用して、販路を確保している。高級志向層をねらうプリンの販路開拓では、自分で歩いて挫折と失敗を繰り返したが、渋谷ハチ公という物語が首都圏との架け橋になった。

地域資源を地域社会のバックグラウンドと結びつける:開発商品は、地域資源を活かしたこだわり

商品開発・販路開拓の視点

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【商品開発に特徴】

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商品であることが要点であり、単に市場ニーズにこたえる商品ではない。地域資源の特徴を活かした、こんな商品があればいい、こんな商品が欲しかったと言わしめるウオンツに応える商品でなければ、市場に出ても、消費者の心はつかめない。新たな商品は、あらゆる機会で商品の持つ情報を社会にアピールすることにより、初めて消費者に認知される。商流が形成される地域資源には地域社会のバックグラウンドがあり、相乗的な努力が必要である。

近隣農家への波及効果や事業者間の連携を促進:食品加工業者を始め、農業生産者、水産業

者、食品機械メーカーなど他方面に渡るメンバーで自社技術を活用。6 次産業の実践を目指し、新たな加工品開発による近隣農家への波及効果(ファーマーズブランド等)に期待している。県内の食品企業、生産者で構成される秋田県食品研究会、中国貿易促進会などの組織を通じて、メンバー間で設備、市場も共有し、切磋琢磨することで成果を挙げている。

産学官連携により特産品を活用した開発:「あきた食と農応援ファンド」の助成により、上小阿仁村役場産業課、秋田県総合食品研究所や秋田県立大学、秋田大学等と連携し、秋田県上小阿仁村の特産品「こはぜ」を使ったゼリーを開発。

説得力あるブランドで中核となりコーディネート:物語と地域資源の結びつき(生産者と消費者も中に入っていること)が重要。そのエリアの中核企業が色々なものを共有し、代表して流通させることができる説得力あるブランドであることが必要。自ら中核になってコーディネートすることにより得られる気づきもある。

OEM とマーケティングの共有:都市エリア産学官連携促進事業で、産学官のマッチング事業で、生体に機能する食品開発共同研究が推進され、それらの成果が製品化の段階に入っている。そこで会員相互の持つ企業ポテンシャルを相互に活用できる仕組みを模索し、それぞれの製造のキャパシティに応じて、相互OEMやマ-ケティングの共有を行い、相乗効果を生み出す、新たな連帯を目指している。

作り手側と市場の発展のプロセスのリンク:一定の安定に見合う投資と見積もりや、作り手側と市場の発展のプロセスを加味し、販路開拓の支援に対応できるように事業を進めることが必要。

地区内の耕作放棄地の増加に歯止めをかけるため、国の「耕作放棄地再生利用緊急対策交付

金」を活用して、秋田大学の大学生、秋田市と対策に取り組んだ。特用林産物の生育情報を得るため、本社工場の付近で国の耕作放棄地再生事業を活用し、試験栽培用の果樹農園を開設。地区の生産者へ栽培情報を構築し、付加価値農業の支援を進めている。自社の加工品販売ルートを通じて、収穫物の加工品を試作しながら主力商品等のブランド力を活用し、販路を確保できる。

中小企業総合展のほか、ビジネスフェア出展支援、ビジネスマッチング支援、復興弁当業務用食材提供支援、海外販路拡大支援を活用している。

地域全体が 1 つのグループ会社であるかのように、設備機材をお互いに融通しあう。公的な機関が地域をつないで全体として向かう方向性を共有できる関係になるプロセスが必要。

株式会社日本政策金融公庫(略称:日本公庫)秋田支店中小企業事業の資本性ローン(「挑戦支

連携・ネットワークの視点

支援の視点

Page 24: 43 - 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 · あおもり 正直村(青森県) ... ィビジネスとして知られる(平成24 年度青森コミュニティビジ

【商品開発に特徴】

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援資本強化特例制度」)が適用され、設備資金並びに運転資金の融資が実施された *。同社は、2008 年に本県の地域資源である米を活用した新商品開発事業として東北経済産業局の認定を受けて商品開発に取り組み(2010 年製法等特許登録)、生活習慣病等の原因となる活性酸素の消去機能を有する米粉(秋田県産米)を原料とした機能性食品として、ロールケーキ・シュークリーム・メレンゲ菓子等各種米粉菓子を商品化、秋田県産の原料へのこだわり等が注目され県内外からの引き合いが増加、今後の販売拡大が期待されており、当融資により本事業の拡大に必要な長期資金が供給された。

商品企画力が弱い製造・加工業者は一緒に育つ必要があるとの考えから、ファーマーズブランドを地元事業者へ提供(比内地鶏プリン)することで地域全体の底上げを図った。

開発力ある地元業者が身近でブランド化すれば農協系で開発した製品と市場が違い、双方向でのものづくりができる。パイが小さくなる市場に商品が増えることで販売先がなくなることを避けることが出来る。

地域で生産性をあげるため、一番の顧客は社員であるとの考えのもと、設備・労務環境の改善を

図ること。 現在、大手商社系流通業には多くの取引口座を持つが、こだわりの食材の生産が少なく、販売先

への商品供給が追い付かない。 循環型の地域社会をつくるためにも、地域資源の製品化を担う社員の雇用が不可欠であり、雇用

環境(福利厚生施設の拡充・社員教育等)を整えるための資金確保。 秋田市内での直売店の展開が課題。

生産者と目的を共有したモノづくり

生産者は単に地域資源の供給源ではなく、共にモノづくりに取り組む目的と想いを共有するパートナーであるとの認識を持ったことで、商品開発が効果的に展開された。 自らがコーディネート組織として地域の 6 次産業化を支援

エリアの中核企業として色々なものを共有し、代表して流通させることができる説得力あるブランドが必要。他方面に渡るメンバーと、自社技術の活用等により、6 次産業化の実践を目指した。 産学官連携、公的機関を活用した研究開発体制で 6 次産業に参入

産学官連携、公的機関で共同研究に取り組むため、秋田県機能性食品研究会を設立したことは技術開発のスピードアップに繋がり、パブリシティの構築にも効果が見られた。また、機能性食品研究会、秋田大学との連携といった産学活用と、生産現場と直結した製品開発による地域への波及効果、耕作放棄地再生による生産者への付加価値農業の支援を考えた。 安売り競争では無く、いいものを探して特産品に特化

事業に取り組んだきっかけは、産学活用の環境があったことと、大手市場を目指す安売り競争の論理ではなく、「安いもの」より「いいもの」を探して特産品に特化しなければならないと考えたことによる。具体的には、以下の 3 点に対する強い想いを抱いている。

① 農商工連携に取り組んだことにより、改めてものづくりの大切さを知ることができた。その価値観を消費者へアピールしたい。

② 食品事業者直営農園の企業イメージが消費者に安心感を与えるなど、メリットが多い。 ③ 6 次産業の実践に製品開発コンセプトや品質を掘り下げた経験を積むことの重要性を求め

たい。 [事業者情報] 代表者名…高橋 真木夫 設立年…1991(平成 3)年 3 月 資本金…1,000 万円 スタッフ数…18 名 事業規模…12,000 万円 住所…秋田県秋田市太平八田字和岱 58 番 1 TEL/FAX…018-838-2570 / 018-838-2988 URL…http:// www.akita-shikisai.com/

* 資本性ローンは、新事業や企業再建等に取り組む中小企業の財務体質の強化を図るために、資本性資金を供給する制度で、

2008 年 4 月より取扱いが開始されたもので、無担保・無保証人、融資期間 15 年又は 10 年の期限一括償還型で、融資後 1 年

ごとに直近決算の成功度合いに応じた利率が適用されるほか、本特例による債務については、金融検査上自己資本とみなすこ

とができ、また、法的倒産手続時は他の債務に劣後する等の特徴がある。

成果と課題

ケースのポイント