15
5-1 5. 広域的評価手法の検証 5. 1 概要 本業務で検討・作成した「土砂流出防止機能の高い森林づくり指針(以下,指針)」において,机 上調査により,土砂流出防止機能が高い森林の必要性を広域的に評価し,ゾーニングすると記載さ れている。ここでいう「土砂流出防止機能が高い森林の必要性の評価」とは,自然環境条件による 災害の起きやすさと社会環境条件による災害による影響度の高さを評価するものである。しかし, 自然環境条件による災害の起きやすさ,つまり災害発生予測は多くの要因が複雑に作用する現象で あるため,予測が非常に困難であり,その手法も複雑であることが多い。 使用するデータについても,近年の航空レーザ測量成果(以下, LP データ)が日本全国を網羅さ れつつあり,その成果による 1mメッシュや 5m メッシュを用いた場合に得られる地形情報の精度 は従来型の地形図(または 10m メッシュ)と比較して高い。特に,指針の対象とする災害が表層崩 壊およびそれを起因とする土石流であり,1020m程度の地形スケールであることを考慮すると, より精度が高いデータを活用することが求められる。 本節では,指針をもとに簡便な手法で地形量による災害との関連性が高い 0 次谷を抽出し,地質, 土壌等その他の自然環境条件および社会環境条件をもとに土砂流出防止機能が高い森林の必要性を 広域的に評価し,その結果を検証した。評価にあたっては,ある火山地域を対象に実際のデータを 用いた。 5. 2 森林概要調査 5. 2. 1 目的及び調査方法 森林の土砂流出機能が求められる地域において,既往の地域森林計画に基づいて実施されている 施業状況を把握するため,国土数値情報の森林域データを用いて対象地域における森林の分布状況 を把握した。なお,本来であれば地域森林計画により対象地域における森林整備の方向性等を把握 するとされているが,地域森林計画が一般に公開された情報ではないため,本節においては国土数 値情報の森林域データで代用した。 国土数値情報の森林域データは,土地利用基本計画に基づき指定された森林地域について,表 5. 2-1 に示すとおり「森林地域」,「国有林」,「地域森林計画対象民有林」,「保安林」に関する情報が 含まれている(ただし,参考表示の扱い)。 5. 2-1 森林地域区分コード (国土数値情報 森林地域データ/SHAPE ファイル属性)

5. 広域的評価手法の検証 - maff.go.jp...5-3 5. 3 地形調査 5. 3. 1 地形分類 (1)目的および調査手法 対象地の地形的特徴を把握するため,国土交通省が公開する土地分類基本調査による20

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5-1

5. 広域的評価手法の検証

5. 1 概要 本業務で検討・作成した「土砂流出防止機能の高い森林づくり指針(以下,指針)」において,机

上調査により,土砂流出防止機能が高い森林の必要性を広域的に評価し,ゾーニングすると記載さ

れている。ここでいう「土砂流出防止機能が高い森林の必要性の評価」とは,自然環境条件による

災害の起きやすさと社会環境条件による災害による影響度の高さを評価するものである。しかし,

自然環境条件による災害の起きやすさ,つまり災害発生予測は多くの要因が複雑に作用する現象で

あるため,予測が非常に困難であり,その手法も複雑であることが多い。

使用するデータについても,近年の航空レーザ測量成果(以下,LP データ)が日本全国を網羅さ

れつつあり,その成果による 1mメッシュや 5m メッシュを用いた場合に得られる地形情報の精度

は従来型の地形図(または 10m メッシュ)と比較して高い。特に,指針の対象とする災害が表層崩

壊およびそれを起因とする土石流であり,10~20m程度の地形スケールであることを考慮すると,

より精度が高いデータを活用することが求められる。

本節では,指針をもとに簡便な手法で地形量による災害との関連性が高い 0 次谷を抽出し,地質,

土壌等その他の自然環境条件および社会環境条件をもとに土砂流出防止機能が高い森林の必要性を

広域的に評価し,その結果を検証した。評価にあたっては,ある火山地域を対象に実際のデータを

用いた。

5. 2 森林概要調査 5. 2. 1 目的及び調査方法

森林の土砂流出機能が求められる地域において,既往の地域森林計画に基づいて実施されている

施業状況を把握するため,国土数値情報の森林域データを用いて対象地域における森林の分布状況

を把握した。なお,本来であれば地域森林計画により対象地域における森林整備の方向性等を把握

するとされているが,地域森林計画が一般に公開された情報ではないため,本節においては国土数

値情報の森林域データで代用した。

国土数値情報の森林域データは,土地利用基本計画に基づき指定された森林地域について,表 5.

2-1 に示すとおり「森林地域」,「国有林」,「地域森林計画対象民有林」,「保安林」に関する情報が

含まれている(ただし,参考表示の扱い)。

表 5. 2-1 森林地域区分コード

(国土数値情報 森林地域データ/SHAPE ファイル属性)

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5-2

5. 2. 2 調査結果

対象地域における森林地域の分布状況を以下に示す。対象地域は,概ね森林地域でその大部分が

民有林で,保安林に指定されている。

図 5. 2-1 森林地域(左)および国有林(右)の分布状況(国土数値情報 森林地域データ)

図 5. 2-2 地域森林計画対象民有林(左)および保安林(右)の分布状況(国土数値情報 森林地域データ)

森林地域 国有林

地域森林計画対象民有林 保安林

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5-3

5. 3 地形調査 5. 3. 1 地形分類

(1)目的および調査手法

対象地の地形的特徴を把握するため,国土交通省が公開する土地分類基本調査による 20 万分の 1

地形分類図(SHAPE 形式)を用いて,対象地域の地形分布状況を把握した。

(2)調査結果

対象地域の地形分類結果を以下に示す。

対象地域は,火山地帯に位置することから,小~中起伏の火山地に分類される。対象地域におけ

る中起伏山地は,起伏量 400-500mの分布域であり,小起伏山地は,起伏量 200-400mで主に中起伏

山地周辺に分布する。

図 5. 3-1 地形分類図(土地分類基本調査による 20 万分の 1 地形分類図)

5. 3. 2 地形計測

(1)目的および調査手法

地形計測は,対象地域における地形の分布状況を定量的に把握するため,過去に取得された航空

レーザ測量成果(所管:国土地理院)による数値標高モデル(DEM)を用いて,メッシュ毎の傾斜

土および縦横断面形をそれぞれ傾斜度および断面曲率・平面曲率

また,3 章でも述べたとおり,表層崩壊は,谷頭等のいわゆる 0 次谷から発生することが多い結

果となった。0 次谷を地形計測によるメッシュデータで表現すると,断面曲率・平面曲率の凹地(谷

地形)および傾斜度分布の急傾斜地(30 ゚以上)で表現することが可能であることから,この 2 つ

の指標により表層崩壊と関連性が強い地形抽出を行った。

により数値化した。なお対象とす

る地形スケールを考慮して,1mDEMをBilinear法により 5mにリサンプリングしたものを用いた。

(i)傾斜度

傾斜度は,隣接するメッシュとの標高差の最大変化率を表す指標で度(゚)で表される。傾斜度の

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5-4

算出方法は,これまでに多数考案されているが,今回使用した式は,以下のとおりである。

図 5. 3-2 5mDEM のメッシュイメージ

傾斜角(゚)= ATAN(√[x方向の変化率 2+y方向の変化率 2])*57.578 (1) 1

x 方向の変化率 = ((c + 2f + i) - (a + 2d + g) / (8 *x_cellsize) (2)

1

y 方向の変化率= ((g + 2h + i) - (a + 2b + c)) / (8 *y_cellsize) (3) 1

(ii)断面曲率・平面曲率

地形の縦横断面形状は,DEM を用いて曲率により表現することが可能である。曲率とは,メッシ

ュ毎に近傍セル(3×3 メッシュ)による地形の凹凸具合を数値化したもので,曲率値のほか,最大

傾斜方向(等高線と直交方向)の断面曲率(ProfC)および等高線と平行方向の平面曲率(PlanC)

の 2 方向それぞれでも求められる。このとき,縦断面形状は断面曲率,横断面形は平面曲率により

表現される。縦横断面形状と断面曲率・平面曲率の関係を図 5. 3-3 に示した。

本節では,断面曲率および平面曲率を算出し,対象地域における地形の凹凸具合を表現した。使

用した式は,式(4)~(13)のとおりである。

図 5. 3-3 曲率値のイメージ 2

Z=Ax2y2+Bxy2+Cxy2+Dx2+Ey2+Fxy+GxHy+1 (4) 2

A = [(Z1 + Z3 + Z7 + Z9) / 4 - (Z2 + Z4 + Z6 + Z8) / 2 + Z5] / L4 (5)

2

1 Burrough, P. A., and McDonell, R. A., 1998. Principles of Geographical Information Systems (Oxford University Press, New York), 190 pp. 2 Zeverbergen, L. W., and C. R. Thorne. 1987.Quantitative Analysis of Land Surface Topography.Earth Surface Processes and Landforms 12: 47–56.

5m

5m

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5-5

B = [(Z1 + Z3 - Z7 - Z9) /4 - (Z2 - Z8) /2] / L3 (6) 2

C = [(-Z1 + Z3 - Z7 + Z9) /4 + (Z4 - Z6)] /2] / L3 (7) 2

D = [(Z4 + Z6) /2 - Z5] / L2 (8) 2

E = [(Z2 + Z8) /2 - Z5] / L2 (9) 2

F = (-Z1 + Z3 + Z7 - Z9) / 4L2 (10) 2

G = (-Z4 + Z6) / 2L (11) 2

H = (Z2 - Z8) / 2L (12) 2

I = Z5 (13) 2

ProfC =-2(DH2+EH2+FGH)/(G2+H2) (14) 2

PlanC = 2(DH2+EG2-FGH)/(G2+H2) (15) 2

表 5. 3-1 曲率による縦横断面形

横断面形

尾根型斜面 (PlanC>0)

直線斜面 (PlanC=0)

谷型斜面 (PlanC<0)

縦断

面形

凹形斜面

(ProfC>0) 凹形尾根型斜面 凹形直線斜面 凹形谷型斜面

等斉斜面

(ProfC =0) 等斉尾根型斜面 等斉直線斜面 等斉谷型斜面

凸形斜面

(ProfC <0) 凸形尾根型斜面 凸形直線斜面 凸形谷型斜面

(iii)0 次谷地形の抽出

0 次谷を抽出するにあたり,断面曲率(ProfC)および平面曲率(PlanC)を表 5. 3-2 のしきい値を用い

て凹地を表現した。このうち,0 次谷は表 5. 3-1 中で赤枠で囲った部分,つまり断面曲率が正の値

かつ平面曲率が正の場合のうち,30 ゚以上の傾斜度となるメッシュを 0 次谷メッシュ(谷頭メッシ

ュ)とした。0 次谷の地形条件を表 5. 3-2 に示す。作業の流れは,図 5. 3-4 に示した赤枠の部分で

ある。

表 5. 3-2 0 次谷の地形条件

データ項目 表現される地形 閾値 抽出される地形

傾斜度 最大傾斜方向の角度(゚) 30 ゚ 急傾斜地(30 ゚以上)

断面曲率 地形の凹凸を表現,特に最大傾斜角方向の凹凸

(凹地,凸地) 正の値 凹地

平面曲率 地形の凹凸を表現するが,特に最大傾斜角に直

交する方向の凹凸(尾根谷) 負の値 谷地形(特に 0次谷)

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5-6

図 5. 3-4 0 次谷地形の抽出の流れ

(2)調査結果

(i)傾斜度

対象地域における傾斜区分図を以下に示す。対象地域の傾斜区分は,概ね 20~45 ゚をとる。

図 5. 3-5 傾斜区分図(国土地理院による航空レーザ測量データを使用)

(ii)断面曲率・平面曲率

対象地域における断面曲率および平面曲率図を以下に示す。

横断曲率

(谷地形)

縦断曲率

(凹地) 傾斜度

メッシュを基本とした

評価

優先度の高い地域(流域)

の選定

地形図

流域区分

加算方式による点数区分

相対評価による優先度の設定

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5-7

図 5. 3-6 断面曲率図(国土地理院による航空レーザ測量データを使用)

図 5. 3-7 平面曲率図(国土地理院による航空レーザ測量データを使用)

(iii)0 次谷地形の抽出

0 次谷地形の抽出結果を以下に示す。赤丸で示した流域では特に 0 次谷地形が多く分布する結果

となった。

PlanC < 0 PlanC = 0 PlanC >0

ProfC < 0 ProfC = 0 ProfC >0

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5-8

図 5. 3-8 0 次谷地形の抽出結果(国土地理院による航空レーザ測量データを使用)

5. 4 地質予備調査 5. 4. 1 目的および調査方法

災害発生の手掛かりとなる情報として,対象地域における地質情報を把握し,山自体の崩れやす

さを把握した。特に表層崩壊が発生しやすいとされる花崗岩類や火山砕屑物(火砕流堆積物,降下

火砕物),新第三紀・第四紀堆積岩

表 5. 4-1 土砂流出と関連性が高い地質区分

の分布を把握した。調査にあたっては,独立行政法人産業技術総

合研究所による 20 万分の 1 日本シームレス地質図 詳細版(SHAPE形式)を用いた。

地質区分 特性

花崗岩類 山腹崩壊を発生しやすく,崩壊深度は比較的浅い。マサ化すると地表から地下数十

メートルの深層部まで風化が著しく進行し,マサ土と呼ばれる深層風化帯を形成し,

表面侵食を受けやすい状態となる。

火山砕屑物(火

砕流堆積物,降

下火砕物)

山腹の中腹以上でかつ土層の比較的浅いところや渓岸侵食に伴う小面積の崩壊が多

発する。特に成層火山では,互層となっている火山灰堆積層の流亡,安山岩等の崩

落後退の繰り返しによって崩壊が縦方向横方向に拡大し,大規模な崩壊地となるこ

とが多い。

新第三紀・第四

紀堆積岩

固結の程度が低く,軟質で地下水の浸透により層理面が劣化しすべり面を形成しや

すい。層理面が流れ盤の場合,滑り面に沿って滑動する地すべりや地すべり性崩壊

を引き起こすことがある。

5. 4. 2 調査結果

当該地域は,概ね火山岩の分布域であり,表 5. 4-1 の新第三紀・第四紀堆積岩に該当する。一部,

下流域においては比較的新しい未固結の堆積物が分布する扇状地(図中赤丸)となっている。また,

対象地域の東側には火山灰が堆積しており(図中青丸),表 5. 4-1の火山砕屑物に該当する。いずれ

も災害との関連性が高い地質と考えられる。

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5-9

図 5. 4-1 地質区分図(独立行政法人産業技術総合研究所による 20 万分の 1 日本シームレス地質図 詳細版)

5. 5 土壌調査 5. 5. 1 目的および調査方法

土壌は,風化した岩石が母材となりさまざまな自然条件のもとで長い年月をかけて生成され,樹

木の生長に大きく影響を与えるだけでなく,災害との関連性においても重要である。特に花崗岩類

を母材として生成されるマサ土やシラス等の特殊土壌は,「特殊土壌地帯災害防除及び振興臨時措置

法」により指定されており,災害が発生しやすい地帯として把握する必要がある。また近年では,

火山砕屑物が厚く堆積し,それを基盤として生成された腐食を多く含む黒色土(黒ボク土)も土砂

流出が多い土壌であることから,災害との関連性が高いといえる。土砂流出との関連性が高い土壌

群を表 5. 5-1 に示す。

調査にあたっては,国土交通省が公開する 20 万分の 1 土地分類基本調査による土壌図データ

(SHAPE 形式)を用いて,対象地域における土壌の分布状況を把握した。

表 5. 5-1 土砂流出との関連性が高い土壌群

区分 土壌名 特徴

特殊土壌地

帯災害防除

及び振興臨

時措置法に

よって指定

される特殊

土壌地帯

シラス 多量の軽石を含んだ火山灰土砂でできた厚い層。乾燥すると凝固し,水分を

含むと崩れやすい。大規模な崩壊,地すべり,土砂流出が発生しやすい。

ボラ 桜島周辺に分布する火山噴火に伴い噴出した比較的新しい粗粒の軽石が堆

積した層。保水力が低く養分も乏しく作物の生育を著しく阻害。

コラ 開聞岳から噴出した細粒の火山噴出物が凝固した不透水性の固い層。 非常に固い層で植物の根を通しにくい。

アカホヤ 浮石質の火山噴出物が風化を受けた土壌で極度に空隙が多い。植物の根の伸

長を阻害し,土壌が流亡しやすい。 花崗岩風

化土 (マサ)

花崗岩が風化した腐植の少ない黄褐色の砂土又は砂礫土で粘質に乏しい。降

雨による崩壊,土砂流出が激しい。耕土は養分に乏しく,干害も起きやすい。

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5-10

近年の豪雨

災害から注

意すべき土

壌群

黒色土 (黒ボク)

有機物を大量に含む黒色の火山灰。土壌の保水力は高いが,表面流水が発生

するときわめて侵食しやすい。突固めにより透水係数が低下し不透水層がで

きる。

5. 5. 2 調査結果

当該地域の土壌は,比較的層厚の黒ボク土

の分布域に該当する。ただし,波状形状が発達したと

ころでは,腐植層の薄い黒ボク土壌である。黒ボク土は,有機物を大量に含む黒色の火山灰であり,

土壌の保水力が高いが,表面流水が発生すると極めて侵食しやすい。

図 5. 5-1 土壌区分図(土地分類基本調査による 20 万分の 1 土壌図)

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5-11

5. 6 社会環境調査 5. 6. 1 目的および調査方法

指針では,社会環境調査として保全対象の把握(指針 2.7.1),法指定区域の把握(同 2.7.2)おお

よび災害履歴調査(同 2.7.3)を実施するとされるが,本節では,一般に国土交通省 HP または都道

府県の HP 等で公開されている土砂災害危険箇所の位置および土砂災害警戒区域・土砂災害特別警

戒区域の指定状況を把握した。

土砂災害危険箇所は,土砂災害の発生の恐れがある箇所を一定条件のもと抽出したもので,土石

流危険渓流,急傾斜地崩壊危険箇所,地すべり危険箇所

また土砂災害警戒区域は,土砂災害危険箇所を対象に「土砂災害警戒区域等における土砂災害防

止対策の推進に関する法律」に基づき実施される基礎調査により法指定される区域である。

を総称したものである。ただし,法規制は

ない。

5. 6. 2 調査結果

対象地域における土砂災害危険箇所および土砂災害警戒区域の指定状況を以下に示す。対象地域

の南側が主に土石流による土砂災害危険箇所であり,特に図 5. 4-1(右)中赤丸で示した範囲は,

土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域に指定されており,特に注意を要するエリアである。

図 5. 6-1 土砂災害危険箇所(左)および土砂災害警戒区域図(右)(熊本県土砂災害情報マップ)

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5-12

5. 7 机上調査にもとづく広域的ゾーニング 5. 7. 1 目的および調査方法

土砂流出防止機能が高い森林の必要性を広域的に評価するため,これまでの調査結果を重ね合わ

せ,ゾーニングを行った。

ゾーニングにあたっては,まず 5. 3. 2 地形計測で実施した 0 次谷地形の抽出結果をもとに,0 次

谷メッシュ数を流域別(A~V 流域)にカウントし,多い順に自然分類法により区分し,比較した。

自然分類法とは,データの分類手法の 1 つでデータの変化量が大きいところにしきい値が設定され

る手法である。

またこれまでの調査結果から,地形分類,地質,土壌区分は対象地域において概ね同様である。

しかし,地形計測結果による 0 次谷メッシュの発生域および土砂災害危険箇所および土砂災害警戒

区域等は,対象地域内でも差異が生じている。このことから,土砂流出との関連性が高い 0 次谷メ

ッシュの分布域と災害の危険性が高いとされる土砂災害危険区域等を重ね合わせ,森林による土砂

流出防止機能の必要性が高い地域を評価した。

5. 7. 2 調査結果

流域ごとの 0 次谷メッシュ数は,以下のとおりである。

図 5. 7-1 流域別の 0 次谷メッシュ数

最も 0 次谷メッシュ数が多い流域は,C および V 流域の 2 流域(図 5. 7-1 中流域を枠で示した箇

所)であった。ただし,いずれの流域も流域面積がそれぞれ 612ha および 800ha と大きく,その影

響で合計メッシュ数が大きくなった可能性が否定できない。流域面積による影響を除去するため,

流域ごとの 0 次谷メッシュ数を各流域の面積で除し,面積率とした。その結果を図 5. 7-2 に示す。

A流域

V流域

B

C流域

D E

F

G

H I

J

K

L

M

O P

Q

R

S T

N

U

Page 13: 5. 広域的評価手法の検証 - maff.go.jp...5-3 5. 3 地形調査 5. 3. 1 地形分類 (1)目的および調査手法 対象地の地形的特徴を把握するため,国土交通省が公開する土地分類基本調査による20

5-13

図 5. 7-2 流域別の 0 次谷メッシュ面積率(メッシュ数/m2)

その結果,C,V 流域のほか,G,H,J,M 流域も面積当たりの 0 次谷メッシュの発生頻度が高

いことがわかった。

さらに土砂災害危険箇所および土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域を図 5. 7-2 に重ね合わ

せた。その結果を図 5. 7-3 に示す。

図 5. 7-3 流域別の 0 次谷メッシュ面積率と法指定区域の重ね合わせ

土砂災害危険箇所に該当する流域 土砂災害警戒区域・特別警戒区域に該当する流域

A流域

V流域

B

C流域

D E

F

G H

I J

K L

M

O P

Q

R

S T

N

U

A流域

V流域

B

C流域

D E

F

G H

I J

K L

M

O P

Q

R

S T

N

U

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5-14

図 5. 7-3 から,G,H,J,M流域は,0 次谷メッシュ面積率が高く,かつ土砂災害危険箇所に該

当する。またV流域は,0次谷メッシュ数が最も多い流域の1つでかつ 0次谷メッシュ面積率も高い。

さらに土砂災害警戒区域および土砂災害特別警戒区域に指定

このことから,

されている。

G,H,J,MおよびV流域で土砂流出防止機能の高い森林の必要性が高いと判断さ

れる。

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5-15

5. 8 広域的評価手法の検証結果 5. 8. 1 広域的評価結果のまとめ

机上調査結果から,対象地域における地形分類,地質,土壌による差異は小さく広域的評価には

考慮されなかった。他方,地形計測による傾斜度および曲率を用いた 0 次谷地形および法指定区域

による地域内でのばらつきを踏まえて広域的な評価を行った。

その結果,対象地域の 22 流域中 5 流域が土砂流出防止機能の高い森林の必要性が高いと判断され

た。

5. 8. 2 今後の課題

指針にもとづき実施した広域的評価において,LP データを活用したため従来の地形図と比較して

地形情報の精度が向上し,またメッシュベースでの地形計測や既往の GIS データを活用した評価手

法は簡便で,市町村単位など比較的広い範囲を対象にした検討においては有用であるといえる。

他方,一部で課題も明らかになった。その内容を以下に挙げる。

① 地域森林計画や保全対象,災害履歴等,ゾーニング実施者によっては入手可能なデータにばら

つきがあり,評価結果に影響が生じる可能性がある。

② 地質,土壌区分が地域内で変化がない場合,それ以外の要素の比重が高くなり,各指標の重み

が地域によって異なる。

③ 流域サイズのばらつきが極端に大きい場合があり,評価結果に差が出ることがある。

④ 災害履歴がある場合,ある特定の気象条件下で発生した災害であるにも関わらず,既往崩壊地

=危険度が高いエリアと単純に判断される可能性がある。

①,④については,指針や本報告書を十分に理解した上で評価が実施されることが重要である。②,

③については,面積率による相対評価等,現地の状況に応じて,また最新の危険度評価手法等を踏

まえて評価を実施することが重要である。