1
ハンス ゲオルグ・ガー ダマーはハイデルベルクで 迎えた百歳の誕生日の祝典 で一服の講話をなした。西 洋哲学は孔子を見習い音楽 の典礼を極めねばならぬ。 それが談話の骨子だった。 音楽は文化にいかなる貢献 をなし、洋の東西の隔たり にいかに架橋するのだろう か。光平有希の博士論文に 基づく著作『「いやし」と しての音楽 江戸期・明 治期の日本音楽療法思想 史』 (臨川書店)は、この問 題に新鮮な光をあてる。西 洋音楽では「リズム・メロ ディー・ハーモニー」が三 要素とされる。リズムは生 命現象の根源であり地球の 自転と月による潮汐がそれ を司る。山崎正和の『リズ ムの哲学ノート』や 口桂 子の『日本人のリズム感』 などが最近の成果だろう。 メロディーは記憶に深く関 わり、幼少に暗唱した楽曲 が耳朶に甦る。ハーモニー は集団的な一体感を醸し出 す。修道院でミサ曲を合唱 し、仏教寺院に籠って僧侶 に交じり読経すると、脳内 では安定したα波の発生が 検出される。こうした要素 の統合からなる声楽や器楽 が、精神面を含めた療法上、 特異な効能を発揮すること は、いまさら贅言を要すま い。 天心・岡倉覚三は西洋の シンフォニーに感動し、オ ペラに開眼して英文遺作の リブレット「白狐」を残し た。同時代のラフカディオ ・ハーンこと、帰化して小 泉八雲となった作家は、西 洋人には珍しく三味線の音 に快感を催した。八雲は秋 になれば虫の音に耳傾ける 稀有な人格だった。西田幾 多郎も適切に述べるとお り、八雲にとって虫の音は 先祖の声を聴く体験に通じ ていた。その八雲が「耳な し芳一」を残したのも偶然 ではあるまい。盲目の琵琶 法師は盲目ゆえに不可視の 霊を呼び寄せる霊力を備え ていたが、それゆえに霊に 憑依される事態を招く。西 欧の楽器でもヴァイオリン などを弾けば、奏者の肉体 や頭脳までが共振・共鳴す ることを体験できる。覚三 が『茶の本』にひく伯 「琴ならし」の故事でも、 道士は琴の材料となった桐 の古木の霊と交わり、無我 の境地のうちに一体となっ て過去を再生する。ハモニ カに合わせて遠吠えする飼 犬は、コヨーテや狼だった 太古を想起しているのだろ う。 音声の反復は詩や歌の韻 に通じる。折口信夫や九鬼 周造といった幻視・幻聴者 は、韻律の再帰のうちに過 去の甦りをまざまざと実感 した。折口の「斜聴」説、 九鬼の「永劫回帰」はここ に淵源を発する。それは別 言すれば憑依現象でもあ り、歌舞音曲や和歌の唱和 は、先祖の霊との交歓でも あれば、降霊術にも接近す る。近代日本の音楽療法の 祖、呉秀三の甥に『ドグラ ・マグラ』の作者・夢野久 作があるのも偶然ではある まい。太古の記憶の隔世遺 伝は楽曲を媒体に営まれ る。また近代洋楽の祖、伊 沢修二は、手話の導入者で もあった。聾 という障害 こそが音楽への接近と表裏 をなす。伊沢は目賀田種太 郎とともに音楽取調掛の創 設を建言するが、その近傍 に『音楽利害』 1892)の著 者、神津仙三郎の姿も見え てくる。 音楽療法の病跡学に先鞭 をつけた神津は和漢洋の学 識を兼備したが、「心気」 への注目が同時代欧米の学 術との差異を際立たせる。 さらに れば貝原益軒の 『養生訓』に至るが、「養 生」とは元来「生命を養う」 の意。西洋医学では治 療養に重きを置き、和語の 「いやし」も現在ではその 影響下にある。だが中国医 学では未病段階での「養 生」に基軸を据える。「養 生」から「治療」へ。その paradigme shiftはいかなる 断絶と移行だったのか。 「気」の概念はニューサイ エンスばやりを経て、西欧 ではとかく忌避されてき た。だが近年、気功やヨガ は欧米でも隆盛をみる。 「気」とは呼気であり、ヘ ブライ語のルーアハ、ギリ シア語のプネウマであり、 そこに西方キリスト教は三 位一体の精霊の宿りを記 す。宗教学や哲学、民俗学 や人類学の応援をも得て、 東西の「気」の「ゆら ぎ」、微妙な周波数の違い が惹起する「うねり」に注 目することが、今後の文化 を跨ぐ音楽療法transcultural musical therapyの実践的課 題となろう。身体や楽器と いう「うつわ」を介して 「うつろう」音曲の息吹で ある。 *光平有希著『「いやし」と しての音楽 江戸期・明 治期の日本音楽療法思想 史』 (臨川書店、2018年9月 30日刊)を囲む書評会(11 15日、国際日本文化研究 センター)に取材した。 189 西「楽の音、詩の韻が伝える生命の息吹:東洋的養生と西洋近代の療法との〈あいだ〉」 『図書新聞』 3379号 2018年12月15日

7 第3379号 図書新聞 2018年12月15日(土曜日) 読書 人文 絵 日記aurora/tosho/tosho181215.pdf · 新刊 11・ 23 したら、ということは、自分 11・ 29

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Page 1: 7 第3379号 図書新聞 2018年12月15日(土曜日) 読書 人文 絵 日記aurora/tosho/tosho181215.pdf · 新刊 11・ 23 したら、ということは、自分 11・ 29

新刊

11・23�11・29

目録

人文

社会科学

文学

芸術

教養

記録

実用

図書新聞�7 第3379号 2018年12月15日(土曜日)

このリストは11月23日~11月29日発行の書籍を、トーハン・

日販等各取次店仕入書籍と同時期の小社到着図書によってまと

めたものです。新刊のうちから主なものを選び、小社への寄贈

書を選んで掲げました。資料はトーハンの新刊案内を利用させ

ていただき、最新の情報をお伝えすることができました。

春成秀爾編

世界のなかの沖ノ島

二六〇〇

雄山閣

野間秀樹

言語存在論

五五〇〇

東京大学出版会

黒瀬直宏

改訂版

複眼的中小企業論

四五〇〇

同友館

湊二�

都市計画の裁判的統制

七五〇〇

日本評論社

新谷尚紀編

民族伝承学の視点と方法九五〇〇

吉川弘文館

塩川哲朗

古代祭祀構造と伊勢神宮

一二〇〇〇

鈴木元

異文化理解・協力の旅

一八〇〇

文理閣

モートン

自然なきエコロジー

四六〇〇

以文社

恩田睦

近代日本の地域発展と鉄道

五〇〇〇

日本経済評論社

土橋俊寛

ゲーム理論

二二〇〇

日本評論社

須網隆夫編

英国のEU離脱とEUの未来

二〇〇〇

黒川信重

オイラーのゼータ関数論二四〇〇

現代数学社

加納実紀代

「銃後史」をあるく三〇〇〇インパクト出版会

山崎準二編

教育原論

二〇〇〇

学文社

生田敏康他

民法総則

二〇〇〇

法律文化社

倉林秀男

言語学から文学作品を見る二九〇〇

開拓社

早瀬尚子編

言語の認知とコミュニケーション

四二〇〇同

コルバン

静寂と沈黙の歴史

二六〇〇

藤原書店

マタール

帰還

父と息子を分かつ国三二〇〇

人文書院

山田登世子

メディア都市パリ

二五〇〇

藤原書店

佐藤健一郎

十二支の民俗誌

二四〇〇

八坂書房

末木文美士

死者と菩�の倫理学

二六〇〇

ぷねうま舎

山田登世子

都市のエクスタシー

二八〇〇

藤原書店

内尾太一

復興と尊厳

三八〇〇

東京大学出版会

朝治武

水平社論争の群像

二八〇〇

解放出版社

柿澤宏昭他

保持林業

二七〇〇

築地書館

パペ

イスラエルに関する十の神話

三四〇〇

法政大学出版局

瀬木比呂志

裁判官・学者の哲学と意見二〇〇〇

現代書館

立野正裕

百年の旅

第一次大戦戦跡を行く

二五〇〇

彩流社

重田園江

隔たりと政治

二八〇〇

青土社

中村純夫

�のカラスを追う

二四〇〇

築地書館

人口学事典

二〇〇〇〇

丸善出版

南塚信吾

情報がつなぐ世界史五〇〇〇

ミネルヴァ書房

佐藤卓己

現代メディア史

新版

二九〇〇

岩波書店

吉浜文洋

看護的思考の探究

三〇〇〇

ゆみる出版

増原綾子他

はじめての東南アジア政治

二二〇〇

有斐閣

李映権

済州歴史紀行

二五〇〇

同時代社

一ノ瀬俊也

昭和戦争史講義

一八〇〇

人文書院

アジェージュ

共通語の世界史

四六〇〇

白水社

シュタイナー

秘教講義

四八〇〇

春秋社

フックウェイ

プラグマティズムの格率

五〇〇〇

高桑和巳編

デリダと死刑を考える

三〇〇〇

白水社

廣利吉治

愛着と共感による自閉スペクトラム症児の発達

支援

二五〇〇

福村出版

比較で照らすギャスケル文学

四〇〇〇

大阪教育図書

沖田吉穂

フランス近代小説の力線

六〇〇〇

水声社

熊谷治子

音楽と絵画で読むT.

S.

エリオット

四五〇〇

彩流社

土肥美帆

北に生きる猫

二四〇〇

河出書房新社

牧逸馬

世界怪奇残酷実話

一七五〇

横溝正史

真珠郎

由利・三津木探偵小説集成1

二七〇〇

柏書房

上田慎一郎

ドーナツの穴の向こう側

一〇〇〇

講談社

古川日出男

作家と楽しむ古典

一五〇〇

河出書房新社

ケレット

クネレルのサマーキャンプ

一九五〇

唯野未歩子

彼女たちがやったこと

一五〇〇

筑摩書房

映画監督市川準

追憶・少女・東京

二五〇〇

ワイズ出版

塚本晋也

冒険監督

一四〇〇

ぱる出版

上條真埜介

そこにあった江戸

四五〇〇

求龍堂

林忠彦

昭和を駆け抜ける二五〇〇クレヴィス

東山彰良

夜汐

一六〇〇

KADOKAWA

文珠四郎義博

冬の峠

一三〇〇

幻冬舎

中山七里

静おばあちゃんと要介護探偵一四〇〇文藝春秋

舞城王太郎

されど私の可愛い檸檬

一五〇〇

講談社

菅野彰

竜頭町三丁目まだ四年目の夏祭り

一四〇〇

徳間書店

岡崎乾二�

近代芸術の解析

抽象の力三八〇〇

亜紀書房

魔術

芥川龍之介幻想ミステリ傑作集

二三〇〇

彩流社

ボードマン

イラストでわかる映画の歴史

二〇〇〇

フィルムアート社

岡田嘉夫

エエマイシャツを着た男たち

一三〇〇

出版ワークス

名木田恵子

春をあけて、私の詩をきいて

一五〇〇

野村四郎

芸の心

二八〇〇

藤原書店

浅沼圭司

映画美学入門

四〇〇〇

水声社

小沼丹

井伏さんの将棋

四〇〇〇

幻戯書房

正岡容

月夜に傘をさした話

五五〇〇

幻戯書房

福田邦夫

忘れられ失われた奇妙な色を追って

一三〇〇

青娥書房

福野礼一郎

人とものの讃歌

二〇〇〇

三栄書房

松下正樹

歌集

風音

一四〇〇

幻冬舎

宮部みゆき

昨日がなければ明日もない一六五〇

文藝春秋

萩原浩

それでも空は青い一五〇〇

KADOKAWA

久坂部羊

介護士K

一七〇〇

滝本竜彦

ライト・ノベル

一六〇〇

赤川次郎

鼠、恋路の闇を照らす

一六〇〇

伊藤暖彦

航宙軍士官、冒険者になる

一二〇〇

山田彩人

皆殺しの家

一八〇〇

南雲堂

四元康祐

前立腺歌日記

一八五〇

講談社

船場弘章

こんにちは、ディケンズ先生

改訂版

一二〇〇

幻冬舎

坂井音重

世を観よ

一二〇〇

鶴村和夫

人生を嗜む

一三〇〇

伊藤清

希望の鎖

一三〇〇

三和坂伶

新『最後の晩餐』

一二〇〇

川恵

人生、よくばリス

一一〇〇

鈴木和音

あの日の歌をもう一度

一〇〇〇

森永洋一

沖縄のいない夏

一二〇〇

黒岩涙香

死美人

二〇〇〇

河出書房新社

柏井壽

海近旅館

一三〇〇

小学館

チーヴァー

巨大なラジオ/泳ぐ人

二三〇〇

新潮社

マンロー

ピアノ・レッスン

二二〇〇

青海美砂

ラケットはつくれない、もうつくれない

二〇〇〇

梨の木舎

吉田新一編

イギリスの絵本(下)

二八〇〇

朝倉書店

ダントー

アートとは何か

二六〇〇

人文書院

刊行する会編

音楽の「根」を掘る

安達元彦三七〇〇高文研

北沢栄

南極メルトダウン

一六〇〇

産学社

最果タヒ

百人一首という感情

一五〇〇

リトルモア

川内有緒

空をゆく巨人

一七〇〇

集英社

カワセミ

ゾンビビジネス英会話

一二〇〇

扶桑社

菅原勇一郎

東京大田区・弁当屋のすごい経営一五〇〇

野地秩嘉

世界に一軒だけのパン屋

一六〇〇

小学館

高木正勝

こといづ

一八〇〇

木楽舎

藤竹暁編著

図説

日本のメディア

新版

一五〇〇

NHK出版

山西雅子

俳句づくりに役立つ!旧かな入門一七〇〇

浜田敬子

働く女子と罪悪感

一三〇〇

集英社

池田理代子

大人のぬりえ

ベルサイユのばら

一三〇〇同

帚木�生

信仰と医学

一六〇〇

KADOKAWA

春海四方

前略、昭和のバカどもっ�

一五〇〇

リーズ

世界の歴史を変えたスゴイ物理学50

三八〇〇

ゆまに書房

山本健吉

奥の細道

現代語訳・鑑賞

軽装版

一五〇〇

飯塚書店

宮澤七郎監修

ミクロワールド人体大図鑑

庭と感覚器

二八〇〇

小峰書店

東菜奈

みんなたいせつ

世界人権宣言の絵本

一七〇〇

岩崎書店

網代幸介

サーベルふじん

一五〇〇

小学館

長新太

やまがあるいたよ

一四〇〇

亜紀書房

山崎善弘

村役人のお仕事

二二〇〇

東京堂出版

ヘンツ

大雪

一八〇〇

岩波書店

ウルスリのすず

二〇〇〇

ユール

10代からの社会学図鑑

二二〇〇

三省堂

ささきひとみ

イギリスアンティーク手帖

一九〇〇

河出書房新社

小泉和子編

楽しき哀しき昭和のこども史

一九〇〇

久米明

僕の戦後舞台・テレビ・映画史70年二八五〇同

安田純平

シリア拘束

安田純平の40か月

八〇〇扶桑社

花房ゆい

遊郭へ

一六〇〇

柏書房

テルトレ

地図で見る東南アジアハンドブック

二八〇〇

原書房

はしもとみお

猫を彫る

一五〇〇

辰巳出版

太田篤子

母とヨーロッパへ行く

一四〇〇

講談社

ヴェリコヴィッチ他

ドローン情報戦

二四〇〇

原書房

パヴリチェンコ

最強の女性狙撃手

二四〇〇

冨岡一成

ぶらべん

一四〇〇

旬報社

ささきあり

天地ダイアリー

一四〇〇

フレーベル館

安里昌利

未来経済都市

沖縄

一六〇〇

日本経済新聞出版社

藤井青銅

「日本の伝統」という幻想

一五〇〇

柏書房

ゲラー

ゲラーさん、ニッポンに物申す

一六〇〇

東京堂出版

田中聡

明治維新の「�」を見破るブックガイド

一七〇〇

河出書房新社

�田敦子

東大を出たあの子は幸せになったのか

一五〇〇

大和書房

田崎健太

全身芸人

二〇〇〇

太田出版

ガッティ

ぼくたちは幽霊じゃない

一七〇〇

岩波書店

マークマン他

この脳の�、説明してください!

一八〇〇

青土社

荒木健太郎

ろっかのきせつ

一五〇〇

ジャムハウス

ローゼンストック

ゴッホの星空

一七〇〇

ほるぷ出版

東村アキコ

偽装不倫

九五〇

文藝春秋

蜂なゆか

アラサーちゃん

無修正

6九〇〇

扶桑社

峰なゆか

オシャレな人って思われたい!

一二〇〇

ディー

サイコパスの言葉

一六〇〇

エクスナレッジ

仲代達矢

演じることは、生きること

一六〇〇

PHP研究所

なかにし礼

がんに生きる

一三〇〇

小学館

宇野維正

日本代表とM

r.Children

一六〇〇

ソル・メディア

斎藤明美

女優にあるまじき高峰秀子

一四〇〇

草思社

ともよ

わたし中学生から統合失調症やってます。

一三〇〇

合同出版

岳本恭治

リフレッシュ・ピアノ・メソッド

一八〇〇

春秋社

栖来ひかり

台湾と山口をつなぐ旅一五〇〇

西日本出版社

西村洋子

新装版

古代エジプト語基本単語集

二八〇〇

平凡社

ストック

ゴッホ

最後の3年

二〇〇〇

共栄書房

ティリー

牡蠣の歴史

二二〇〇

原書房

クレイジス

その魔球に、まだ名はない

一四〇〇

あすなろ書房

森田学

イタリア語のルール

一七〇〇

白水社

竹内栄美子他編

中野重治・堀田善衛

往復書簡

三八〇〇

影書房

森田学

イタリア語のドリル

一七〇〇

白水社

鍋倉賢治

続・マラソンランナーへの道

一六〇〇

大修館書店

神川靖子

野球母ちゃん

一八〇〇

新評論

渡辺哲雄

ものがたりでわかる成年後見制度

一〇〇〇

中日新聞社

齊藤英和編

妊娠・出産のリテラシー一七〇〇

大修館書店

ヴァイキング

デンマーク幸福研究所が教える「幸せ」の定義

一七五〇

晶文社

和田春樹

安倍首相は拉致問題を解決できない

一五〇〇

青灯社

この海/山/空はだれのもの�一七〇〇高文研

土居豊

司馬�太郎『�ぶが如く』読解

一九〇〇

関西学院大学出版会

野本三吉

まちに暮らしの種子を蒔く一七〇〇社会評論社

平野秀典

感動の創造

一六〇〇

講談社

後藤正治

拗ね者たらん

本田靖春人と作品

二四〇〇同

小池昌代

影を歩く

一六〇〇

方丈社

ジョーンズ

ニイハウ・ゼロ

三五〇〇

双葉社

コルネオ

よりよき世界へ

三四〇〇

岩波書店

大石直紀

この道

一七〇〇

小学館

LGBTと家族のコトバ

一五〇〇

双葉社

赤塚不二夫

これでいいのだ・・・さよならなのだ

一三〇〇

小学館

草加大介

「ナンパ塾」秘伝

一四五〇

河出書房新社

前田正子

無子高齢化

出生数ゼロの恐怖

一七〇〇

岩波書店

上馬キリスト教会の世界

一三〇〇

講談社

水木しげる

妖怪たちのいるところ

三〇〇〇

KADOKAWA

大竹伸朗

ナニカトナニカ

三〇〇〇

新潮社

吉川景都

さよならわたしのおかあさん

一〇〇〇

愛内あいる

自分の顔が�すぎて、整形に行った話

一〇八〇

KADOKAWA

寺田健太郎

絵でわかる宇宙地球科学

二二〇〇

講談社

西本恵

日本野球をつくった男

石本秀一伝二三〇〇同

黒川剣

鶴見俊輔伝

二九〇〇

新潮社

佐藤愛子

冥界からの電話

一二〇〇

福岡伸一

ナチュラリスト

生命を愛でる人

一五五〇同

筒香嘉智

空に向かってかっ飛ばせ!一四〇〇

文藝春秋

沢木耕太郎

作家との遭遇

全作家論

一八〇〇

新潮社

坂口克

家をセルフでビルドしたい一六五〇

文藝春秋

津野海太郎

最後の読書

一九〇〇

新潮社

浪江啓子

しあわせ貧乏

昭和の上野で

一五〇〇

山形修

天啓聖典

一二〇〇

磯野雅治

担任力がそだつ

一七〇〇

解放出版社

濱口英樹

ヒットソングを創った男たち

二二〇〇

シンコーミュージック

斎藤飛鳥

子ども食堂かみふうせん

一五〇〇

国土社

池川明他

�がる

一六〇〇

牧野出版

読書絵日記

秋竜山

山�武也『「孤独」はつく

って愉しむものこの「贅

沢時間」の過ごし方』(三笠

書房知的生きかた文庫、本体

650円)では、意をえたり。

無人島マンガ、あるいは孤島

マンガとも呼ぶが。これは世

界的なマンガの一つのテーマ

であり分野である。マンガと

なると、ナンセンス・マンガ

となるだろう。無人島マンガ

がどのようなものであるか、

有名であり過ぎるから説明す

るまでもなかろう。なぜ、み

んな無人島マンガが好きであ

るのだろうか、という説明も

あえてすることもない。現実

的無人島といったら、ロビン

ソン・クルーソーであるが、

それを突きつめると漫画の、

一人のれるかほどの小さな島

にヤシの木が一本という無人

島になる。「あなたは、無人

島へ行くとしたら……」と、

いうと無人島マンガの無人島

へ行くとしたら、ということ

になる。そんな島へ行けると

したら、ということは、自分

がマンガの人間になったら、

ということになるだろう。自

分をマンガ化させるのが、人

間がいかに知的動物であるか

がわかるというものだ。みん

な無人島にあこがれるのは、

独りになりたいからである。

のがれたいからだ。人間社会

からである。文明社会から逃

げ出して、独りになりたいと

いうことだろう。こんなこと

を説明するまでもあるまい。

〈人々が大勢いる喧噪の中

のほうが創作活動にいい、と

いう人もいる。だがその場合

や周囲の騒がしさを「無機質」

なものとして感じとっている

ので、それ自体が一種の「壁」

となっている。有機的なもの

を�断する「エアカーテン」

にも似た働きをしているので

ある。群集の中の孤独が実現

されている場合なのだ。〉(本

書より)

外国のことはよくわからな

いが、今、日本人は無人島の

住人になったような時間の中

にいる。

〈最近は大多数の人が携帯

電話やその派生製品であるス

マートフォンの類いに見入っ

ている。情報を取ったりチェ

ックしたり、さらに交信した

りゲームに興じたりするのに

忙しそうだ。乗り物の中にい

て静止しているときだけでは

なく、歩いているとき、すな

わち自分が移動しているとき

でも、その行為をやめようと

はしない。まさに、ネットに

うつつを抜かしている。〉(本

書より)

いずれにしても、世はネッ

ト時代である。と、本書では

述べているが、ネットに興じ

ているヒトは、無人島マンガ

におけるマンガ人間の姿その

ものである。スマホをしてい

る人に、ちょっとでも話しか

けたりすると、「うるさい�」

といわんばかりの顔でにらみ

かえしてくる。うっかり話し

かけたりできない世の中にな

ってしまったのである。スマ

ホなんてものがあるからだ�

と、スマホのせいにするわ

けにもいかんだろう。ネット

にはまることは、

〈結局は、孤独を紛らわせ

る作業に没頭する結果になっ

ている。多くの人たちとネッ

トでつながれば、仲間意識を

味わう機会が多くなり、それ

だけ寂しくはない。〉(本書よ

り)ま

すます、無人島マンガ人

間になっていく。一人一人が

小さな無人島をつくりその島

の住人となっている。ヤシの

木が一本。かつては無人島マ

ンガといえば、そこへ漂着し

た人が、水平線にむかって、

「オーイ、助けてくれー」と、

叫んだものであったが、今、

その言葉を発したとしたら、

何の意味を求めているのだろ

うか。

連載第1462回

無人島マンガ人間化する日本人、の巻

ハンス�ゲオルグ・ガー

ダマーはハイデルベルクで

迎えた百歳の誕生日の祝典

で一服の講話をなした。西

洋哲学は孔子を見習い音楽

の典礼を極めねばならぬ。

それが談話の骨子だった。

音楽は文化にいかなる貢献

をなし、洋の東西の隔たり

にいかに架橋するのだろう

か。光平有希の博士論文に

基づく著作『「いやし」と

しての音楽��江戸期・明

治期の日本音楽療法思想

史』(臨川書店)は、この問

題に新鮮な光をあてる。西

洋音楽では「リズム・メロ

ディー・ハーモニー」が三

要素とされる。リズムは生

命現象の根源であり地球の

自転と月による潮汐がそれ

を司る。山崎正和の『リズ

ムの哲学ノート』や�口桂

子の『日本人のリズム感』

などが最近の成果だろう。

メロディーは記憶に深く関

わり、幼少に暗唱した楽曲

が耳朶に甦る。ハーモニー

は集団的な一体感を醸し出

す。修道院でミサ曲を合唱

し、仏教寺院に籠って僧侶

に交じり読経すると、脳内

では安定したα波の発生が

検出される。こうした要素

の統合からなる声楽や器楽

が、精神面を含めた療法上、

特異な効能を発揮すること

は、いまさら贅言を要すま

い。

天心・岡倉覚三は西洋の

シンフォニーに感動し、オ

ペラに開眼して英文遺作の

リブレット「白狐」を残し

た。同時代のラフカディオ

・ハーンこと、帰化して小

泉八雲となった作家は、西

洋人には珍しく三味線の音

に快感を催した。八雲は秋

になれば虫の音に耳傾ける

稀有な人格だった。西田幾

多郎も適切に述べるとお

り、八雲にとって虫の音は

先祖の声を聴く体験に通じ

ていた。その八雲が「耳な

し芳一」を残したのも偶然

ではあるまい。盲目の琵琶

法師は盲目ゆえに不可視の

霊を呼び寄せる霊力を備え

ていたが、それゆえに霊に

憑依される事態を招く。西

欧の楽器でもヴァイオリン

などを弾けば、奏者の肉体

や頭脳までが共振・共鳴す

ることを体験できる。覚三

が『茶の本』にひく伯の

「琴ならし」の故事でも、

道士は琴の材料となった桐

の古木の霊と交わり、無我

の境地のうちに一体となっ

て過去を再生する。ハモニ

カに合わせて遠吠えする飼

犬は、コヨーテや狼だった

太古を想起しているのだろ

う。

音声の反復は詩や歌の韻

に通じる。折口信夫や九鬼

周造といった幻視・幻聴者

は、韻律の再帰のうちに過

去の甦りをまざまざと実感

した。折口の「斜聴」説、

九鬼の「永劫回帰」はここ

に淵源を発する。それは別

言すれば憑依現象でもあ

り、歌舞音曲や和歌の唱和

は、先祖の霊との交歓でも

あれば、降霊術にも接近す

る。近代日本の音楽療法の

祖、呉秀三の甥に『ドグラ

・マグラ』の作者・夢野久

作があるのも偶然ではある

まい。太古の記憶の隔世遺

伝は楽曲を媒体に営まれ

る。また近代洋楽の祖、伊

沢修二は、手話の導入者で

もあった。聾という障害

こそが音楽への接近と表裏

をなす。伊沢は目賀田種太

郎とともに音楽取調掛の創

設を建言するが、その近傍

に『音楽利害』(1892)の著

者、神津仙三郎の姿も見え

てくる。

音楽療法の病跡学に先鞭

をつけた神津は和漢洋の学

識を兼備したが、「心気」

への注目が同時代欧米の学

術との差異を際立たせる。

さらに�れば貝原益軒の

『養生訓』に至るが、「養

生」とは元来「生命を養う」

の意。西洋医学では治�や

療養に重きを置き、和語の

「いやし」も現在ではその

影響下にある。だが中国医

学では未病段階での「養

生」に基軸を据える。「養

生」から「治療」へ。その

paradigme shiftはいかなる

断絶と移行だったのか。

「気」の概念はニューサイ

エンスばやりを経て、西欧

ではとかく忌避されてき

た。だが近年、気功やヨガ

は欧米でも隆盛をみる。

「気」とは呼気であり、ヘ

ブライ語のルーアハ、ギリ

シア語のプネウマであり、

そこに西方キリスト教は三

位一体の精霊の宿りを記

す。宗教学や哲学、民俗学

や人類学の応援をも得て、

東西の「気」の「ゆら

ぎ」、微妙な周波数の違い

が惹起する「うねり」に注

目することが、今後の文化

を跨ぐ音楽療法transculturalmusical therapyの実践的課

題となろう。身体や楽器と

いう「うつわ」を介して

「うつろう」音曲の息吹で

ある。

*光平有希著『「いやし」と

しての音楽��江戸期・明

治期の日本音楽療法思想

史』(臨川書店、2018年9月

30日刊)を囲む書評会(11

月15日、国際日本文化研究

センター)に取材した。

訃報

入沢康夫氏が死去

入沢康夫(いりさわ・やす

お)氏 詩人、フランス文学

者。10月15日、死去、86歳だ

った。

1931年生まれ、松江市

出身。東京大学でフランス文

学を学び、詩作のかたわら明

治大学教授などを務め、論文

や翻訳を多数手掛けた。66年

『季節についての試論』でH

氏賞を受賞、その後『死者た

ちの群がる風景』で高見順賞、

『漂ふ舟』で現代詩花椿賞、

『遐い宴楽』で萩原朔太郎賞

など、数多くの賞を受賞した。

08年、日本芸術院会員。宮沢

賢治研究の第一人者としても

知られ、『校本宮沢賢治全集』

の編集に携わり、宮沢賢治学

会イーハトーブセンター初代

代表理事を務めた。

高取英氏が死去

高取英(たかとり・えい)氏

劇作家・演出家・マンガ評論

家。11月26日、虚血性心疾患の

ため死去し、66歳だった。葬

儀は近親者のみで営まれた。

後日、しのぶ会が行われる。

1952年大阪府堺市生ま

れ。大阪市立大学在学中に白

夜劇場を結成、演劇活動に入

る。また、『漫画エロジェニ

カ』の編集長として三流劇画

ブームを起こした。86年に

「月�歌劇団」を旗揚げ、自

身の作品や寺山修司作品など

を多数発表。「聖ミカエラ学

園漂流記」「女神ワルキュー

レ海底行」などの脚本・演出

を行った。06年に京都精華大

のマンガ学部の教授、14年か

ら大正大学表現学部表現文化

学科の客員教授も務めた。

長谷邦夫氏が死去

長谷邦夫(ながたに・くに

お)氏 漫画家。11月25日、

うっ血性心不全で死去、81歳

だった。葬儀は親族で営んだ。

1937年�飾区生まれ。

赤塚不二夫のブレーンの一人

として、ギャグ漫画の創作を

支えた。漫画評論も活発で、

手塚治虫文化賞の選考委員な

ども務めた。著書に『パロデ

ィ漫画大全』『あるマンガ家

の自伝

桜三月散歩道』など。

稲賀繁美

国際日本文化研究センター研究員・

総合研究大学院大学教授

連載189

楽の音、詩の韻が伝える生命の息吹

東洋的養生と西洋近代の療法との〈あいだ〉

稲賀繁美

国際日本文化研究センター研究員・

総合研究大学院大学教授

景「楽の音、詩の韻が伝える生命の息吹:東洋的養生と西洋近代の療法との〈あいだ〉」

『図書新聞』 3379号 2018年12月15日