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Ⅲ栄養指導 1.栄養・食生活の基礎知識及び今日的課題と対策 2.食行動の変容と栄養教育 3.ライフステージ、ライフスタイル別栄養教育

Ⅲ栄養指導 - mhlw.go.jp · 2.食行動の変容と栄養教育 ... を栄養成分の特徴別に分類したものに食品群がある(表Ⅲ-1-1)。 表Ⅲ-1-1食品群の栄養成分的特徴

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Ⅲ栄養指導

1.栄養・食生活の基礎知識及び今日的課題と対策

2.食行動の変容と栄養教育

3.ライフステージ、ライフスタイル別栄養教育

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Ⅲ 栄養指導

1 栄養・食生活の基礎知識及び今日的課題と対策 ~栄養・食生活の基礎知識~ 学習のねらい

人間は常に食品から栄養素を摂取することによって、栄養状態や体組成を維持している。栄

養、栄養素、栄養状態と食品、食事、食生活との関連を学習し、各種栄養素の機能や特徴に

ついて理解する。

1)栄養と栄養素

人間の細胞や組織は栄養素によって構成されている。また、食品も栄養素の集合体である。

そして、人間は、生まれたときから死ぬときまで、生命活動を維持するために、食品に含まれる

栄養素を絶えず摂取し続けている。

食べ物/食品diet/food 栄養

nutrition

栄養素nutrient

人間Human being

健康health

疾病diseasedisorder

(細谷) 図Ⅲ-1-1 食べ物と健康・栄養

(出典:細谷憲政:三訂人間栄養学 human nutrition 健康増進・生活習慣病予防の保健栄養の基礎知識)

「栄養」と「栄養素」の概念はしばしば混同されている。栄養 nutrition とは、生体が物質を体

外から摂取し、消化、吸収、さらに代謝することにより、生命を維持し、健全な生活活動を営む

ことを言い、取り入れる物質を栄養素nutrientとしている(図Ⅲ-1-1)。摂取する食品に含まれる

栄養素は、人間の身体の栄養状態に反映するものである。

図Ⅲ-1-2 では、日本人の平均的な栄養素摂取量と体組成を比較した。糖質の摂取量が

250~300g(エネルギー比にして 55%)と栄養素のなかで も多いが、体内で糖質は 1%未満

しか存在しない。摂取した糖質の多くは、消化・吸収されて、生体内でエネルギー源として利用

されているためである。このように、各栄養素は消化・吸収されて体内でさまざまな機能で利用

されており、これを代謝という。

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図Ⅲ-1-2 摂取栄養素と身体の栄養組成

2)人の栄養状態

「栄養」は食事から摂った栄養素の消化・吸収・代謝のことを言うので、「栄養がよい」と言えば、

消化・吸収・代謝の状態がよい、栄養状態がよい、健康であるということができる。つまり、「栄養

がよい」は食物側ではなく、人体側を見なければならないということになる。

人の栄養状態には 4 つの状態がみられる。①適正な栄養状態、②栄養素の欠乏した状態、

③栄養素の過剰な状態、④栄養素相互のバランスが崩れた状態である。

②栄養素の欠乏した状態では、欠乏症がみられ、さらに感染症等にも罹患しやすい状態と

なる。③栄養素が過剰な状態は、過栄養による高血糖、脂質代謝異常、高血圧、脂肪肝等が

誘発されやすくなる。一方、人体が必要とする栄養素は 1 種類ではないので、ある栄養素は必

要量を維持しているが、ある栄養素は不足あるいは過剰であるといった④栄養素相互のアンバ

ランスな状態もあり得る。

あらゆる栄養素が過不足なく①適正な栄養状態を保ち、栄養素をうまく利用できている健康

な状態を人間は目指していく必要がある。そして、この適正な栄養状態(健康な状態)を維持す

るために、私たちは毎日の食事から栄養素を摂取する必要がある(図Ⅲ-1-3)。

適正な状態

optimal, adequate

欠乏症+感染源

→感染症

過剰症+危険因子

→生活習慣病

死 death

潜在的な欠乏状態

marginal deficiency

潜在性の過剰状態

marginal toxicity

死death

基準値 境界値境界値 異常値異常値

(細谷)

図Ⅲ-1-3 人体の栄養状態

(出典:細谷憲政:三訂人間栄養学 human nutrition 健康増進・生活習慣病予防の保健栄養の基礎知識)

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3)栄養素の摂取から食品へ、食品から食事へ

①栄養素

人間は適正な栄養状態、健康状態を維持するために、生命活動に必要な数十種類の栄養

素を過不足なく摂取しなければならない。栄養素は人間が体に摂り入れる一番小さいレベル

である。どの栄養素をどれくらいの量摂ればいいかの基準には、食事摂取基準を利用すること

ができる。

②食品

栄養素は食品に含まれているものを摂取することになる。自然界に存在する食品は、それぞ

れに栄養素を含んでいるが、生体が必要とする全ての栄養素を、生体に過不足ない量で含む

完全食品は存在しない。したがって、各食品の栄養成分の特徴を理解する必要がある。食品

を栄養成分の特徴別に分類したものに食品群がある(表Ⅲ-1-1)。

表Ⅲ-1-1 食品群の栄養成分的特徴

食品群 食品例 栄養成分の特徴

米、小麦、大麦、ソバ、トウモロコシ 穀類

ごはん、パン、めん、小麦粉等

デンプンを主とする糖質が約 70%、

たんぱく質が約 8~13%、脂質が約 2%、

食物繊維や各種のビタミンやミネラルを含む

サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ、コンニャク

等 イモ類

片栗粉

デンプンを主成分とし、たんぱく質、食物繊維、

ビタミン C、ミネラルを含む

砂糖 砂糖類

甘味類 転化糖、糖アルコール、オリゴ糖、アスパル

テーム

ショ糖(ブドウ糖と果糖が結合した二糖類)

牛肉、豚肉、鶏肉、鯨肉と

その内臓類 肉類

ハム、ソーセージ、ベーコン、コンビーフ等

たんぱく質を約 15~25%、脂質を 3~30%、

各種ビタミン、ミネラルを含む

たんぱく質はアミノ酸スコアが高く、

脂質には飽和脂肪酸やコレステロールが多い

魚類、貝類、エビ、カニ等、水産動物

たんぱく質を約 15~20%、

脂質は食品によって異なり約 1~25%、ビタミン、ミネラル

脂質には n-3 系脂肪酸を多く含む 魚介類

干物、塩漬け、佃煮、練り製品等 塩分を多く含む

卵類 鶏卵、鶉(うずら)、アヒル等、鳥類の卵

脂質を約 34%、

良質のたんぱく質を約 15~16%、ビタミン、ミネラルを含む

卵黄にはコレステロールとリン脂質が多い

ダイズ、アズキ、インゲンマメ、エンドウ、ソラ

マメ、ラッカセイ等 豆類

豆腐、納豆類、餡等

たんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、ビタミンを含む

牛乳、哺乳動物の乳 乳類

バター、ヨーグルト、チーズ等

たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルを総合的に含む

脂質は飽和脂肪酸が多い

野菜類 ホウレンソウ、コマツナ、キャベツ、白菜等 水分、ビタミン、ミネラル、食物繊維、食品によっては糖質を含む

緑黄色野菜はビタミン、ミネラルを多く含む

藻類

緑藻類:アオノリ

褐藻類:コンブ、ワカメ、ヒジキ、モズク

紅藻類:アサクサノリ、テングサ

食物繊維、各種ミネラル

キノコ類 シイタケ、シメジ、エノキ、マッシュルーム、

松茸、ナメコ等

食物繊維、たんぱく質を約1~4%

シイタケには体内でビタミン D となるエリゴステロールが含まれる

果実類

ミカン、リンゴ、梨、桃、ぶどう、サクランボ、

バナナ、パイナップル等

イチゴ、スイカ、メロン

水分が 80~90%、糖質、食物繊維、ビタミン C、カリウム等を含む

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油脂類

[植物性油脂]ダイズ油、ナタネ油、綿実

油、コーン油、サフラワー油、米ぬか油、紅

花油、パーム油、オリーブ油、ゴマ油

[動物性油脂]豚脂、牛脂、魚油

植物性油脂には不飽和脂肪酸、豚脂や牛脂には飽和脂肪酸、魚油

にはエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸の多価不飽和脂肪酸

が多い

種実類

アーモンド、クリ、くるみ、ココナッツ、ピーナ

ッツ等がある。また、ゴマ、エゴマ、ケシの実

脂質を多く含み、たんぱく質も含む

菓子類

大福もち、もなか、ようかん、せんべい、菓

子パン、ケーキ、カステラ、ゼリー、ビスケッ

ト、スナック菓子、チョコレート等

糖質、脂質を多く含む

嗜好

飲料

アルコール飲料、茶類、コーヒー、清涼飲

料、ジュース・果汁入り飲料、スポーツドリン

ク等

アルコール飲料はエタノール 1g につき 7kcal のエネルギーをもつ

ジュースは果実や野菜に由来する糖質、ビタミン、ミネラルを含む

スポーツドリンクは吸収しやすい濃度で糖質、ビタミン、ミネラルを含む

調味料

香辛料

食塩、しょうゆ、みそ、酢、ソース、ドレッシン

グ、マヨネーズ等

香辛料には、コショウ、わさび、唐辛子、カ

ラシ、山椒等

食塩、しょうゆ、味噌、ソース等は塩分を多く含む

ドレッシングやマヨネーズは油に由来してエネルギーをもつ

さらに、食品群には 3 つ、4 つ、6 つ等の食品群も示されており、それぞれのグループから偏

りなく食品を選択して、組み合わせることによって、あらゆる栄養素をまんべんなくとる目安に利

用できる(表Ⅲ-1-2)。

表Ⅲ-1-2 6 つの基礎食品群

第 1 群 たんぱく質が多く、

おもに筋肉や血液になる 魚、肉、卵、大豆・大豆製品 おもに体を

つくるもと

になるもの

(赤) 第 2 群 カルシウムが多く、

骨や歯をつくる 牛乳・乳製品、海藻、小魚

第 3 群 色の濃い野菜で、

ビタミン、ミネラルが多い 緑黄色野菜 おもに体の

調子を整えるもと

になるもの

(緑) 第 4 群 色のうすい野菜や果物で、

ビタミン、ミネラルが多い 淡色野菜、果物

第 5 群 穀類やイモ類で、

糖質が多い 穀類、イモ類、砂糖類 おもにエネルギーの

もとになるもの

(黄) 第 6 群 油脂製品で、

脂質が多い 油脂類、脂肪の多い食品

③食事

食品群から選択した食品を、他の食品と組み合わせて調理して料理ができる。料理をいくつ

か組み合わせることによって、一食分の食事となる。一日三回の食事でトータルして見て、食品

群からまんべんなく摂れていると、栄養素もまんべんなく摂りやすくなる。

食品群からまんべんなく食品を摂ることができる料理の組み合わせ法として、主食・主菜・副

菜の料理群による方法も普及してきた(表Ⅲ-1-3)。

表Ⅲ-1-3 主食・主菜・副菜の組み合わせによる食事の構成

主食 ごはん、パン、麺等を主材料とする料理 主に炭水化物の供給源

主菜 肉、魚、卵、大豆製品等を主材料とする料理

例)焼き魚、ハンバーグ、卵焼き、冷奴 主にたんぱく質の供給源

副菜 野菜、いも、豆類、きのこ、海藻等を主材料とする料理

例)サラダ、煮物

主にビタミン、ミネラル、食物繊維の供給

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食品から食事を組み立てる際は、さらに、同じ食品の重複を避ける、同じ調理法ができるだ

け重ならないようにする。また、このような食品や調理法の「質」だけでなく「量」も重要である。

これらのことを、一食単位で確認し、つぎに一日単位で確認し、さらに一週間単位等の期間

で確認していく。例えば、「昼食のバランスはとれていても朝食は欠食、夕食は主食なしで主菜

と副菜のみ」というようでは、一日の食品群や栄養素のバランスをとるのは難しい。また、「ある

一日のバランスはとれていても、翌日以降のバランスがとれない」というようでは、栄養素の過不

足が健康・栄養状態に反映してくることになる。

以上のように、人間の体は栄養状態を維持するために栄養素を摂取するが、その過程には

栄養素レベル、食品レベル、食事レベルがあり、一日三食(+間食)を毎日積み重ねていくこと

で、個々人の食生活が営まれ、その結果が栄養状態として身体に反映されることになる(図Ⅲ

-1-4)。

食事摂取基準

食品構成

料理・献立

食事

日常生活

健康

適正なエネルギー量三大栄養素のバランス

食品の組み合わせ食品群の組み合わせ

調理方法、洋食・和食主食・主菜・副菜

一日3食、間食食事時間

運動・休養・栄養のバランス

健康・栄養状態の把握

栄養素

食品

食事

食生活

栄養状態

料理

図Ⅲ-1-4 栄養素、食品、料理、食事

4)健康を維持するために摂取すべき栄養素量(食事摂取基準)

日本人の食事摂取基準 2005 年版は、厚生労働省が 5 年毎に示すエネルギーおよび各栄養

素の摂取量の 1 日あたりの基準値である。食事摂取基準は国の健康増進施策や栄養改善施

策等において広く活用されている。2005 年 3 月まで使用された第 6 次改定日本人の栄養所要

量とは概念を大きく変容させ、個人の栄養状態には幅があることを考慮して、「所要量」という 1

つの数値ならびに所要量と摂取量の比である「充足率」という考えは用いなくなった。また、生

活習慣病に対応した目標量が設定された。

(1)食事摂取基準 2005 年版の目的

食事摂取基準は、健康な個人または集団を対象として、①国民の健康の維持・増進、②エ

ネルギー・栄養素の欠乏症の予防、③生活習慣病の予防、④過剰摂取による健康障害の予

防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものである。

(2)対象

適用する対象者は、主に健康な個人、ならびに健康人を中心として構成されている集団で

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ある。ただし、何らかの軽度な疾患(例えば、高血圧、脂質異常、高血糖)を有していても日常

生活を営み、その疾患のための食事指導、食事療法、食事制限が適用されたり、推奨されて

いない者を含む。

(3)食事摂取基準の指標 エネルギーについては、エネルギーの不足のリスク及び過剰のリスクの両者が も小さくなる

摂取量として推定エネルギー必要量 estimated energy requirement; EER が設定された。

栄養素については、下記の 5 種類の指標が示されている(図Ⅲ-1-5)。エネルギーおよび各

栄養素の食事摂取基準は巻末に掲載した。

①推定平均必要量 estimated average requirement; EAR

母集団における必要量の平均値(の推定値)。つまり、当該集団に属する 50%の人が必

要量を満たすと推定される摂取量。

②推奨量 recommended dietary allowance; RDA

ある母集団において測定された「必要量」の分布に基づき、ほとんどの人(97~98%)が

充足すると推定される量。理論的には EAR±2SD。

③目安量 adequate intake; AI

推定平均必要量、推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に算定さ

れた。健康集団を対象とした疫学研究によって得られる、特定の集団において不足状態を

示す人がほとんど観察されない量。

④目標量 tentative dietary goal for preventing life-style related diseases; DG

生活習慣病の一次予防のために現在の日本人が当面目標とすべき摂取量。循環器疾

患(高血圧、脂質異常症、脳血管疾患、心筋梗塞)、がん(特に胃がん)、骨折・骨粗鬆症に

限り、諸外国の食事摂取基準や疾病予防ガイドライン等を考慮して設定。

⑤上限量 tolerable upper intake level; UL

ほとんどすべての人々が、過剰摂取による健康障害を起こすことがない 大限の量。

図Ⅲ-1-5 栄養素の食事摂取基準の模式図

(出典:厚生労働省策定、日本人の食事摂取基準 2005 年版)

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表Ⅲ-1-4 栄養素の種類

たんぱく質

脂質

糖質

三大栄養素

微量栄養素

水溶性ビタミン

脂溶性ビタミンビタミン

ミネラルマクロミネラル

ミクロミネラル

五大栄養素

5)栄養素の種類と働き (1)栄養素の種類

私たちは、食品からエネルギーや栄養素を摂取し、生命を維持し、身体活動を行っている。

三大栄養素とは、糖質、脂質、たんぱく質をいい、エネルギー源になる熱量素である。また、

五大栄養素とは、三大栄養素にビタミンとミネラルが加わる。五大栄養素以外にも、水、食物繊

維、核酸等の食物中に含まれている生体にとって必要な栄養素がある。

(2)炭水化物

①炭水化物の種類

炭水化物は、糖質と食物繊維とに分けることができる。

糖質は、グルコースやフルクトース等のこれ以上分解できない糖質の 小単位である単糖

類、スクロース等の単糖類が2つ結合して構成している二糖類、デンプンやグリコーゲン等の多

数の単糖類がグリコシド結合によって連なった重合体である多糖類に分類することができる(表

Ⅲ-1-5)。

食物繊維は、構造上、糖質の多糖類の仲間であるが、消化酵素では消化されないためエネ

ルギー源にならない。また、食物繊維には、不溶性と水溶性に分類される(表Ⅲ-1-6)。

表Ⅲ-1-5 糖質の種類

単糖類 グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトース、リボースなど

二糖類 マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)

多糖類 デンプン、グリコーゲンなど

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表Ⅲ-1-6 食物繊維の種類

溶性 成分 主な含有食品

セルロース 植物性食品

ヘミセルロース 植物性食品

プロトペクチン 未熟果実、野菜

リグニン 植物性食品

キチン カニやエビなどの外皮、キノコ類

イヌリン ニンジン、ゴボウ

ペクチン 果実・野菜

βグルカン 大麦、オーツ麦

グアガム グアマメ

コンニャクマンナン コンニャク

アルギン酸ナトリウム コンブ

寒天 紅藻類

カラギーナン 紅藻類

キサンタンガム 増粘剤

不溶性食物繊維

水溶性食物繊維

②糖質の働き ⅰ エネルギー源

エネルギー源となる栄養素には、糖質、脂質、たんぱく質があるが、糖質は もエネルギー

源として使われやすく、重要な役割の一つである。糖質は、体内で1gあたり 4kcal のエネルギ

ー源となる。

食事から得られる糖質は、成人で約 300gであり、総摂取エネルギー量の約 60%を占める。

体内では、糖質をグリコーゲンとして肝臓と筋肉に貯蔵している。貯蔵されるグリコーゲンの量

は、肝臓で約 100g、筋肉で約 250gと限界がある。そのため、過剰に摂取した糖質がグリコーゲ

ンとして貯蔵されなかった場合には、脂肪組織においてトリグリセライド(中性脂肪)に変換され

て貯蔵される。

ⅱ 血糖値の維持

血液中のグルコースを血糖、また、グルコースの濃度を血糖値という。血糖値は、空腹時にお

いて 99mg/dl 以下、食後に一過性に 120~130 mg/dl まで上昇するが、約 2 時間後には空腹

のレベルまで戻る。血糖値は、一定の範囲で維持されており、その範囲を超えて高い値となる

と高血糖と言われる状態となる。

血糖の調節は、一定の範囲に維持するためにホルモンが関与し、血糖値を低下させる場合

には膵臓のランゲルハンス島β細胞からインスリンが分泌される(図Ⅲ-1-6)。インスリンは、脂

肪組織や筋肉へのグルコースの取り込みを促進させる等して血糖値を低下させる。逆に膵臓

のランゲルハンス島α細胞分泌されるグルカゴン、アドレナリン、ノルアドレナリン、成長ホルモ

ン、副腎皮質ホルモンといったホルモンの作用により、肝グリコーゲンを分解させ、肝臓におい

て糖新生させることにより、血糖値を上昇させる。

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血液グルコース

血液グルコース

解糖系・グリコーゲン合成の促進 糖新生・グリコーゲン分解の促進

図Ⅲ-1-6 インスリンとグルカゴンによる血糖値の調節

(出典:奥恒行、高橋正侑編、栄養・健康科学シリーズ生化学より一部改変)

ⅲ 組織での糖の利用

脳、脂肪組織、筋肉、肝臓等の組織において糖代謝が行われており、エネルギーの供給を

はじめ生命維持のために必須の働きをしている。

ⅳ その他の栄養素との関係

糖質を過剰摂取した場合には、糖質の貯蔵としてのグリコーゲン量が摂取量に応じて増加す

ることはなく、過剰分は脂質に変換されエネルギー源として貯蔵される。しかし、脂質をグルコ

ースに変換することはできない。

糖質の摂取が少ない場合には、エネルギー代謝において、脂質からの脂肪酸を利用するこ

とが難しくなり、ケトーシスを呈することになるため、糖質の十分な供給がエネルギー代謝上重

要である。また、糖質からのエネルギー代謝過程では、補酵素としてビタミンB1、B2、ナイアシン、

パントテン酸等のビタミンが必要となる。

糖質は、アミノ基転移反応により、糖原性アミノ酸に変換される。また、糖原性アミノ酸は、飢

餓状態等の糖質の摂取が現象したときに、糖新生のための材料となる。

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図Ⅲ-1-7 食物繊維の生理作用と摂取不足に関連する疾患

③食物繊維の働き 食物繊維は、消化・吸収されずに消化管を通過することでさまざまな機能を発揮する。機能と

しては、水を吸着して体積を多くし、栄養素や栄養成分等の吸着作用があり、水に溶けると粘

性がでることである。食物繊維の種類は多く、その種類による生理作用は、大腸がんの予防、

便秘の解消や便秘による大腸憩室の予防、毒性吸収阻止、耐糖能の改善、食事性血糖上昇

抑制、血清コレステロールの是正、腸内細菌による発酵等、多様である。食物繊維の生理作用

と食物繊維の摂取不足による疾患との関連について図Ⅲ-1-7 に示した。

④アルコールの代謝

アルコールは 1g あたり約 7kcal のエネルギーをもつ。アルコールは胃・十二指腸で吸収され

たのち、肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)の経路で代謝される。これにより生成されたアセ

トアルデヒドは飲酒後の酩酊症状をもたらす。 終的にはアルデヒド脱水素酵素によって酢酸

となりアセチル CoA に至る。アルコールの酸化還元物質は、ピルビン酸から乳酸への変換の

増加を伴う TCA サイクルの抑制、糖新生の阻害、脂肪酸合成の増加、尿酸排泄の低下等をひ

きおこす。

アルコールにはほとんど他の栄養素が含まれないため、多量の飲酒者は栄養不良を引き起

こす。

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(3)脂質 ①脂質の種類

脂質は、単純脂質、複合脂質、誘導脂質に分類することができる(表Ⅲ-1-7)。一般に中性

脂肪を脂肪と呼び、1 分子のグリセロールに 3 分子の脂肪酸が結合して構成されている。脂肪

酸の種類によって脂肪の性質に違いが現れる。

表Ⅲ-1-7 脂質の種類

単純脂質 中性脂肪

複合脂質 リン脂質、糖脂質、リポプロテイン

誘導脂質 ステロイド、脂溶性ビタミン類、脂肪酸

脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の 2 つに分類することができる。飽和脂肪酸は、動

物性の脂肪に多く含まれ常温で固体、構造上二重結合を持たない。また、不飽和脂肪酸は、

常温で液体で構造上二重結合をもち、二重結合の数が1つの場合には、一価不飽和脂肪酸と

いい植物性の脂肪に多く含まれ、2 つ以上の場合には、多価不飽和脂肪酸といい魚油に多く

含まれる(表Ⅲ-1-8)。

不飽和脂肪酸における二重結合の場所により、n-3、n-6、n-9 と系列で分類されることがあり、

n-3 系列の脂肪酸には特別な生理機能があることがわかってきた。必須脂肪酸とは体内で合

成することのできない脂肪酸であり、多価不飽和脂肪酸のリノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、

エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸がある。

表Ⅲ-1-8 脂肪酸の種類と血中脂質への影響

主に含まれる食品 血中脂質への影響

ラウリン酸ミリスチン酸パルミチン酸

肉の脂身バターラード

体内でアセチルCoAからも合成される。血中総コレステロールまたはLDLコレステロール値との正相関し、多量摂取は血中LDLコレステロールを増加させる。

オレイン酸 オリーブ油飽和脂肪酸をMUFAに置き換えると、血中LDLコレステロールの低下が期待できる。HDLコレステロールは低下させない。

リノール酸 食用調理油

アラキドン酸 魚

EPADHA

青魚

αリノレン酸 食用調理油

n-3系

一価不飽和脂肪酸MUFA

飽和脂肪酸

脂肪酸の種類

多価不飽和脂肪酸PUFA

n-6系

必須脂肪酸である。血中LDLコレステロールを低下させる。多量摂取はHDLコレステロールの低下、体内のEPA、DHAの生成に競合する。炎症を惹起するプロスタグランジンやロイコトリエンを生成する。酸化されやすい。

中性脂肪の低下させる。抗血栓作用により高脂血症、高血圧、脳卒中、心疾患の予防が期待される。

②脂質の働き

ⅰ 貯蔵脂肪

中性脂肪は、貯蔵脂肪皮下、腹腔、筋肉間結合組織等に蓄積する。脂肪は1gあたり 9kcal

のエネルギーを発生し、糖質やたんぱく質に比べて 2 倍以上のエネルギーとなる。

ⅱ 機能性脂質

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リン脂質、糖脂質、ステロールは、生体膜の構成成分として広く分布している。また、脂肪は、

脂溶性ビタミンの供給源や腸管からの吸収に必要な栄養素である。

ⅲ ビタミンB1の節約作用

脂質のエネルギー代謝において糖質のエネルギー代謝過程である解糖系を使わないため、

ビタミンB1の必要量が少なくなる。

ⅳ 胃滞留時間の延長

脂質は、胃での強化作用を抑制させる作用があり、胃内滞留時間が長く、長時間空腹を感

じさせない。

ⅴ 多価不飽和脂肪酸

多価不飽和脂肪酸であり、必須脂肪酸のアラキドン酸は、プロスタグランジンやロイコトリエン

等の体内で生成される生理活性物質の前駆体である。また、多価不飽和脂肪酸の欠乏により、

皮膚炎、脱毛を生じる。

③コレステロールの働き

食事からのコレステロールの摂取は、200~400mg/日、体内での合成量は 1000~1500mg/

日であり、体内の合成量のほうが多い。コレステロールの機能は、生体膜の構成成分、肝臓に

おける胆汁酸の生成、副腎皮質ホルモンや性ホルモンの生成の材料として使われる。このよう

に、コレステロールは重要な機能を果たしているため、血中の総コレステロール値が低すぎても

問題となる。血中コレステロール量が増加した場合には、動脈硬化の原因となるため、過剰摂

取は避けるべきである。

(4)たんぱく質

①たんぱく質の種類

たんぱく質は、多数のアミノ酸がペプチド結合して構成されている高分子化合物である。アミ

ノ酸は、20 種類あり、アミノ酸が 2 個以上結合したものをペプチド、一般に 10 個程度結合した

ペプチドをオリゴペプチド、それ以上をポリペプチドといい、たんぱく質はアミノ酸が 80 個程度

かそれ以上結合したものである。

アミノ酸のうち、体内で合成されないか、合成されてもそれが必要量に達しないために必ず

食物から取り込まなくてはならないアミノ酸を必須アミノ酸という(表Ⅲ-1-9)。

表Ⅲ-1-9 必須アミノ酸と非必須アミノ酸

必須アミノ酸 非必須アミノ酸

バリンロイシンイソロイシンスレオニンリジンメチオニンフェニルアラニントリプトファンヒスチジン

グリシンアラニンセリンアスパラギン酸グルタミン酸、アスパラギングルタミンアルギニンシスティンチロシンプロリン

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②たんぱく質の働き

ⅰ エネルギー源

たんぱく質は、エネルギーとして利用された場合、1g あたり 4kcal となる。

ⅱ 特異動的作用

たんぱく質は、糖質や脂質に比べ、特異動的作用が大きい。

ⅲ 機能的役割

機能的役割として、生体内反応触媒である酵素、インスリン、グルカゴン、成長ホルモン等の

ペプチド性ホルモン、ヘモグロビン、リポプロテイン、トランスフェリン等の物質運搬たんぱく質、

免疫グロブリン、フィブリノーゲン等の生体防御反応に関与する。

ⅳ 構造的役割

構造的役割として、アクチンやミオシンの筋肉の構成成分、骨重量の約 20%を占め、骨と骨

の結合部、皮膚、腱等に含まれるコラーゲン、靱帯等に含まれるエラスチン、毛、爪、皮膚等に

含まれるケラチン等がある。

③たんぱく質の栄養価

ⅰ 窒素出納と窒素平衡

体内では、組織を構成するたんぱく質が合成と分解を繰り返し、アミノ酸のアミノ基が分解さ

れ窒素(アンモニア)放出される。また、食物から摂取したたんぱく質のうち過剰分は、分解され

窒素を放出する。このように体内の窒素は、ほとんどがたんぱく質由来である。食事からの窒素

の摂取量と糞便や尿および汗による窒素の排泄量の差を窒素出納という。

摂取した窒素量よりも排泄した窒素量のほうが少ない場合を窒素出納が正であるといい、成

長期や妊娠期、トレーニング等による筋肉の増加時、病後の回復期等に見られる。また、窒素

の排泄量が摂取量を上回った場合には、窒素出納が負であるといい、摂取量が少ないとき、飢

餓状態、強制的安静状態、火傷、外傷等に見られる。 成人の場合、窒素出納の収支バランス

が取れた状態であり、この状態を窒素平衡という。

ⅱ アミノ酸スコア

食品中のたんぱく質を必須アミノ酸の組成から評価する方法が、アミノ酸スコアである。この

方法は、1973 年に FAO(国際連合食糧農業機関)と WHO(世界保健機構)、1985 年に FAO、

WHO、UNU(国連大学)が設定したアミノ酸評価パターン(表Ⅲ-1-10)を用いた評価法であ

る。

食品中のたんぱく質の必須アミノ酸含有量をそれらの評価パターンと比べて、それよりも低い

値のアミノ酸を制限アミノ酸という。制限アミノ酸の中でも も不足しているアミノ酸(第1制限ア

ミノ酸という)含有量が、そのアミノ酸のアミノ酸評点パターンの何パーセントになるかがアミノ酸

スコアで示される。制限アミノ酸がない場合は 100 となり、100 に近いものを「良質なたんぱく質」

という(表Ⅲ-1-11)。

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表Ⅲ-1-10 アミノ酸パターンの評価法

mg/gN mg/gたんぱく質 mg/gN mg/gたんぱく質

イソロイシン 250 40 180 28

ロイシン 440 70 410 66

リジン 340 55 360 58

メチオニン+システイン 220 35 160 25

フェニルアラニン+チロシン 380 60 390 63

スレオニン 250 0 210 34

トリプトファン 60 10 70 1

バリン 310 50 220 35

ヒスチジン - - 120 19

1973年(一般用) 1985年(2~5歳)アミノ酸

1

図Ⅲ-1-8 制限アミノ酸の考え方-必須アミノ酸の桶-

表Ⅲ-1-11 食品のアミノ酸スコア

食品 アミノ酸スコア 食品 アミノ酸スコア 食品 アミノ酸スコア 食品 アミノ酸スコア

鶏卵 100 牛肉 100 あじ 100 精白米 61

牛乳 100 鶏肉 100 いわし 100 パン 44

豚肉 100 さけ 100 じゃがいも 73

まぐろ 100 とうもろこし 31

(5)ビタミン

ビタミンとは、微量で生命維持を支配する不可欠な有機物であり、体内でほとんど合成されな

いか、合成されても必要量に満たないために必ず外界から摂取しなくてはならない栄養素と定

義される。

ビタミンは、脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンに大別される。ビタミンの定義からもわかるように、

摂取が少ない場合には欠乏症を引き起こし、過剰摂取の場合には、水溶性ビタミンでは、水に

溶けるため尿中に排泄されやすいが、脂溶性ビタミンは、体内に蓄積され、過剰症を引き起こ

しやすい(表Ⅲ-1-12)。

- 90 -

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表Ⅲ-1-12 ビタミンの種類と化学名、主な作用、そのビタミンを多く含む食品、欠乏症

ビタミン名 化学名 主な作用 多く含む食品 欠乏症

ビタミンB1 チアミン 糖質代謝の補酵素に変換される

胚芽(米、小麦)、ごま、落花生、のり、酵母、レバーなどの臓器、豚肉など

脚気 ウエルニッケ脳症

ビタミンB2 リボフラビン 糖質代謝と脂質代謝の補酵素に変換される

レバー、乳、卵、肉、魚、胚芽、アーモンド、酵母、のり、乾椎茸、果物など

口角炎、舌炎 角膜炎

ナイアシン ニコチン酸

ニコチン酸アミド

NAD、NADP として糖代謝、脂質代謝、アミノ酸代謝の酸化還元反応の補酵素 トリプトファン(アミノ酸)60mg からナイアシン 1mg を合成できる

かつお節、魚、乾椎茸、レバー、肉、酵母など

ペラグラ

ビタミンB6

ピリドキシン

ピリドキサル

ピリドキサミン

アミノ酸代謝と神経伝達物質生成の補酵素に変換される

ひらめ、いわしなどの魚、レバー、肉、クルミなど

皮膚炎

ビタミンB12 コバラミン

アミノ酸代謝と脂質代謝の補酵素に変換される。葉酸代謝の補酵素 ビタミンB12の吸収には、胃で合成・分泌される内因子と結合する必要がある

にしん、さばなどの魚、レバー、肉、かきなど

菜食主義者の巨赤芽球性貧血、胃切除後の悪性貧血

ビタミン C アスコルビン酸 抗酸化作用、コラーゲン合成の酵素の補助因子、腸管からの鉄の吸収促進

新鮮な野菜や果物など

壊血病

葉酸 - アミノ酸代謝と核酸代謝の補酵素に変換される

レバー、新鮮な緑黄色野菜、豆類など

巨赤芽球性貧血 妊娠期で、胎児の神経管閉鎖障害

パントテン酸 - コエンザイム A の構成成分となり、糖質代謝と脂質代謝の補酵素に変換される

レバー、そら豆、落花生、さけ、卵など

通常の食生活では欠乏症は起こらない

水溶性ビタミン

ビオチン -

カルボキシラーゼの補酵素となり、炭酸固定反応に必須 糖新生、脂肪酸合成、アミノ酸代謝に関与する

レバー、卵黄、えんどう、かき、にしん、ひらめなど

通常の食生活では欠乏症は起こらない

ビタミン A レチノール

明暗順応、視覚作用、成長促進 カルテノイドはビタミン A の前駆体であり、プロビタミン A とよぶ 1RE=1μg レチノール=12μgβカロテン

うなぎ、レバー、 卵黄、バター、 カロテンでの摂取では、緑黄色野菜

夜盲症、角膜軟化症、眼球乾燥症

ビタミン D

コレカルシフェロ

ール

エルゴカルシフ

ェロール

骨形成、カルシウムの恒常性の維持 肝臓と腎臓で活性型ビタミンDとなり(1,25(OH)2D3)、腸管からのカルシウムとリンの吸収を促進、骨の代謝に関与する きのこに含まれるエルゴステロールと動物の表皮に存在する 7-デヒドロコレステロールはプロビタミンDであり、紫外線にあたるとビタミンDになる

魚、きのこ類、酵母など

くる病、骨軟化症 テタニー

ビタミン E トコフェロール

抗酸化作用 細胞膜を構成するリン脂質中の高不飽和脂肪酸や膜たんぱく質の酸化を予防

小麦胚芽、大豆油、糠油、綿実油など

動物の不妊症

脂溶性ビタミン

ビタミン K フィロキノン

止血、血液凝固 血液凝固因子プロトロンビンの生合成に必要である

カリフラワー、ほうれん草、トマト、イチゴ、納豆、海藻など

出血傾向、血液凝固低下

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(6)ミネラル

①ミネラルの種類

ミネラルとは、生体を構成する元素のうち酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)を除く元素

の総称である。ミネラルは、生体内元素の 4%を占め、多量ミネラル(マクロミネラル)と微量ミネ

ラル(ミクロミネラル)に分類することができる(表Ⅲ-1-13)。

表Ⅲ-1-13 ミネラル(無機質)の分類

マクロミネラルカルシウム(Ca)、リン(P)、カリウム(K)、硫黄(S)、ナトリウム(Na)、塩素(Cl)、マグネシウム(Mg)

ミクロミネラル鉄(Fe)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、ヨウ素(I)、セレン(Se)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、バナジウム(V)、ヒ素(As)、コバルト(Co)、フッ素(F)

表Ⅲ-1-14 ミネラルの一般的機能

機能による分類 働き 関与するミネラルあるいは関連物質

骨や歯などの構成成分 カルシウム、リン、マグネシウムなど

生体内の有機化合物の構成成分 リン脂質、ヘモグロビンの鉄、含硫アミノ酸の硫黄など

体液の恒常性の維持(pHや浸透圧の調節) カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなど

筋肉の収縮、神経の興奮性の調節 カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、など

酵素の活性化作用 マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、セレン、マンガンなど

生理活性物質の構成成分 鉄、ヨウ素、亜鉛、モリブデンなど

生体組織の構成成分

生体機能の調節

②ミネラルの働き

ミネラルの一般的機能を表Ⅲ-1-14 にまとめた。

ⅰ カルシウム(Ca)

カルシウムは、生体内で も多量に存在するミネラルであり、99%が骨や歯に、約1%が細

胞内、約 0.1%が血液中に存在する。骨はカルシウムの貯蔵庫としての役割もある。また、血液

中のカルシウム濃度は、一定の範囲で維持されている。血中カルシウムの調節は、器官として

骨、腎臓、腸管、ホルモンでは副甲状腺ホルモン、カルシトニン、ビタミンD3である。

カルシウムは、骨や歯の主成分である以外に、神経の刺激の伝達や筋肉の収縮には必要

であり、不足すると神経の興奮性が高まり、筋肉は弛緩する。また、血液凝固、細胞の情報伝

達、酵素の活性化、体液の pH の調節等に関与している。

欠乏症は、幼児ではくる病、成人では骨軟化症、骨粗しょう症がある。低カルシウム血症では、

テタニーとなる。過剰症は、腎臓結石、軟骨組織石灰化症等がある。

- 92 -

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ⅱ リン(P)

リンは、ミネラルの中でカルシウムについで多く、生体内のすべての組織と細胞に存在し、体

重の約1%である。生体内のリンのうち、約 80%がカルシウムとともに骨や歯に存在する。リンの

血中濃度は、2.5~5.0mg/dl と広い範囲で維持され、食事からのリンの摂取量により増減し、尿

中への排泄によって調節されている。

リンは、骨や歯の硬組織や細胞膜(リン脂質)の構成成分であり、核酸、ヌクレオチド、高エネ

ルギー燐酸化合物(ATP、クレアチンリン酸)、ビタミンからの補酵素の構成元素として、多くの

機能に関与している。

リンの摂取量は食事により不足することは通常ない。リンの供給源として、食品以外に加工食

品中で添加物としてリン酸塩、栄養補助食品、清涼飲料水等があり、過剰摂取が問題となる。

ⅲ マグネシウム(Mg)

マグネシウムは、生体内に約 25g含まれ、そのうち、60~65%が骨中、27%筋肉中にあり、そ

の他に腎臓、脳、肝臓、肺等の組織、血液、細胞外液に存在する。

マグネシウムは、酵素の活性化、体温調節、神経の興奮、筋肉の収縮、副甲状腺ホルモンの

分泌、脂質代謝の改善に関与している。神経の興奮と筋肉の収縮においては、カルシウムの

作用との拮抗作用がある。

マグネシウムは、通常欠乏することはないが、欠乏すると、血清中の中性脂肪や VLDL コレス

テロールと LDL コレステロール濃度の上昇、低カルシウム血症、神経疾患、運動失調、精神疾

患等がある。マグネシウムは、摂取量が多い場合には尿中に排泄されるため過剰症は起こらな

い。

ⅳ カリウム(K)

カリウムは、細胞内に 98%、細胞外に 2%に存在し、細胞内に も多い陽イオンである。細胞

内外のカリウム濃度は、ナトリウムポンプにより維持されている。

カリウムは、細胞内の浸透圧の維持と pH の調節、膜輸送、筋肉の収縮、酵素の活性化等に

関与している。カリウムは、通常の食生活では、欠乏症や過剰症は起こらない。

ⅴ ナトリウム(Na)

ナトリウムは、細胞外液に 50%、骨中に 40%、細胞内液に 10%存在し、体液中の主要な陽イ

オンである。大部分が塩化ナトリウム(食塩、NaCl)として摂取される。生体のナトリウム量は、ナ

トリウムの排泄と摂取によって調節されており、主にレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系

で行っている。

血漿中のナトリウムイオン(Na+)は、塩素イオンとともに、浸透圧、細胞間液量、pHの調節、細

胞内外の電位差の維持、グルコースやアミノ酸の吸収における能動輸送を行っている。

ナトリウムが欠乏すると、食欲不振、吐き気、血液濃縮、筋肉痛が起こる。食塩の摂取過剰は、

細胞内液と外液のバランスを失い、細胞内液の水分量が増すことにより、細胞は膨潤し、浮腫

を呈することもある。また、長期間の過剰摂取は、高血圧の原因となる。

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ⅵ 塩素(Cl)

塩素は、約 70%が細胞外液に、30%が細胞内液に塩素イオン(Cl-)として存在し、細胞外液

中の陰イオンの 60%を占める。

塩素イオンは、重炭酸イオン(HCO3-)とナトリウムイオンとともに浸透圧、細胞間液量、pHの

調節を行い、胃酸(HCl)の構成成分である。塩素の欠乏や過剰摂取は、食塩の摂取量に影響

される。

ⅶ 鉄(Fe)

鉄は、成人の体内に約 3g存在し、その各組織での含有量を表Ⅲ-1-15 に示した。

鉄は、ヘモグロビン鉄として血液中の酸素運搬、ミオグロビン鉄として筋肉中の酸素運搬、カ

タラーゼ、過酸化水素、チトクロームの構成成分として細胞の酸化反応に関与している。

鉄の摂取が欠乏すると、貯蔵鉄が少なくなり、そのためヘモグロビンも減少して鉄欠乏性貧

血を呈する。過剰症は、組織に鉄が沈着する血色素症である。

表Ⅲ-1-15 体内の鉄含有量

鉄タンパク質 75kg男性(mg) 55kg女性(mg)

ヘモグロビン 2300 1700

ミオグロビン 320 220

ヘム酵素 80 50

非ヘム酵素 100 60

トランスフェリン鉄 3 3

計 2800 2030

フェリチン 700 200

ヘモシデリン 300 70

計 1000 270

3800 2300

形態

貯蔵鉄

総計 8)水

(1)水分の分布

水は、体重の 50~60%を占め、体内の水溶液を総称して体液という。体液は細胞内液(体重

の約 40%)と細胞外液(体重の約 15%)に大きく分けられる。体内から水分が喪失することによ

って脱水症となり、逆に体液が過剰な場合には、浮腫となる。

(2)働き

水の働きとして、溶解作用、運搬作用、体温保持がある。溶解作用とは、体内で行う化学反

応がすべて水に溶けて初めて進行することである。運搬作用とは、体内における物質の移動、

細胞内外の移動をつかさどり、老廃物の排泄や栄養物質の運搬をすることである。体温保持と

は、水は比熱が大きいため気温や室温が低下しても体温は低下しにくい。また、体温が高くな

ると、皮膚より汗をだし、気化熱を奪わせ、効率的に体温を下げる。

(3)水分の出納

水分の出納は、成人の場合、1 日の水分摂取量が約 2500ml、排泄量も約 2500ml である。水

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分摂取として、食物、飲水、代謝水(体内で栄養素が燃焼することにより得られる水)、排泄とし

て、尿、大便、不感蒸泄がある(表Ⅲ-1-16)。不感蒸泄とは、肺からの呼吸に伴う水蒸気として

の排泄や皮膚から汗としての排泄等の意識することなしに常に肺や皮膚から排泄される水分

のことである。

表Ⅲ-1-16 体内の水分出納

食物 1000 尿 1300

飲水 1200 大便 200

代謝水 300 不感蒸泄 1000

合計 2500 合計 2500

摂取量(ml) 排泄量(ml)

【引用・参考文献】

1) 細谷憲政著:三訂人間栄養学 human nutrition 健康増進・生活習慣病予防の保健栄養

の基礎知識.調理栄養教育公社、2000.

2) 厚生労働省編:日本人の食事摂取基準 2005 年版 Dietary Reference Intakes for Japanese、

第一出版、2005.

3) 小野章史、杉山みち子、鈴木志保子、外山健二、中村丁次 編著:系統看護学講座 専

門基礎3 人体の構造と機能「栄養学」、医学書院、2005.

4) Bowman BA,Russell RM 著:木村修一、小林修平 監訳:専門領域の 新情報 新栄養

学第 8 版、建帛社、2002.

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Ⅲ 栄養指導 1 栄養・食生活の基礎知識及び今日的課題と対策 ~栄養・食生活の今日的課題と対策~

学習のねらい 近年の国民健康・栄養調査等を中心に、栄養・食生活における今日的な課題と対策につい

て理解する。 1)エネルギー・栄養素等摂取状況 多様な食品が豊富に出回る現在、嗜好に偏った食生活等を無自覚に営み続けていると、慢

性的な栄養素の質的・量的な過剰摂取や摂取不足に陥り、健康障害を招く可能性がある。そ

れらに代表されるのが、高血圧症、糖尿病等の生活習慣病である。

(1)摂取エネルギーと体型の状況、および身体活動量

厚生労働省が毎年行っている国民健康・栄養調査によると、エネルギー摂取量の平均値は、

性別・年代別に差があるものの、男女ともに漸減傾向である(図Ⅲ-1-9)。一方、体内のエネル

ギー収支状態の結果を表すのが体型であるが、その状況をみると(図Ⅱ-5-3、Ⅱ-5-4 参照)、

男性ではいずれの年齢階級においても、肥満者の割合が 20 年前(1985 年)、10 年前(1995 年)

に比べて増加しており、40 歳代が も高い。また、女性では 40~60 歳代において、肥満者の

割合が 20 年前、10 年前と比べて減少している一方で、20~30 歳代の約 20%が低体重(やせ)

となっており、個々人が必ずしも適正なエネルギー摂取の状況にあるとはいい難い。さらに、エ

ネルギー消費状況の一端を表す運動習慣についてみると(図Ⅱ-5-1、Ⅲ-1-10)、運動習慣の

ある者(1回 30 分以上の運動を週 2 日以上実施し、1年以上継続している者)の割合は、男性

の 60 歳代以上で高いものの、男性の 20~50 歳代、女性の 20~40 歳代で低い。

また、その年次推移をみると、単年ではばらつきがあるものの、経年的な傾向としては、男女と

も総数でほぼ横ばいである。年齢階級別にみると、男性の 60 歳以上、女性の 50 歳以上で高く、

その他の比較的若い年齢層で低い傾向が続いている。若年において身体活動量が少ないこ

とは、将来的に肥満や生活習慣病につながることから、対象者の生活環境(労働条件、家族状

況、住宅・居住環境、周辺地域環境、社会資源の有無等)も考慮した上での日常的な運動習

慣を含めた身体活動量を高める支援が必要である。

- 96 -

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男 女(kcal)

21252158

2222

2188218921762174

220622092209

1924185718701883

1829

1000

1500

2000

2500

平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年

20-39歳

40-74歳

75歳以上

(kcal)

1714 1697 168016831744

1800 1797 1779 1775 1765

15951565 1554

16131590

1000

1500

2000

2500

平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年

20-39歳

40-74歳

75歳以上

図Ⅲ-1-9 エネルギー摂取量(20 歳以上)の平均値の推移

(出典:厚生労働省、平成 13~17 年国民栄養調査/国民健康・栄養調査より作成)

23.2

30.9

19.4

13.8

19.1

43.4

43.5

0

10

20

30

40

50

H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16

総数 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

[%]

25 .8

18 .5

13 .5

18 .4

28 .3

34 .7

30 .9

0

10

20

30

40

50

H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16

[%]男性 女性

23.2

30.9

19.4

13.8

19.1

43.4

43.5

0

10

20

30

40

50

H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16

総数 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

[%]

25 .8

18 .5

13 .5

18 .4

28 .3

34 .7

30 .9

0

10

20

30

40

50

H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16

[%]

23.2

30.9

19.4

13.8

19.1

43.4

43.5

0

10

20

30

40

50

H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16

総数 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

[%]

25 .8

18 .5

13 .5

18 .4

28 .3

34 .7

30 .9

0

10

20

30

40

50

H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16

[%]男性 女性

図Ⅲ-1-10 運動習慣のある者の割合(20 歳以上)の年次推移

(出典:厚生労働省、平成 16 年国民健康・栄養調査)

(2)脂肪の摂取状況(脂肪エネルギー比率)

脂肪エネルギー比率の増加は、動脈硬化性の心疾患発症率や乳がん、大腸がんによる死

亡率の増加につながり、また脂肪エネルギー比率の過剰は耐糖能異常、高コレステロール血

症等の原因にもなる。脂肪エネルギー比率の分布をみると(図Ⅲ-1-11)、脂肪からのエネルギ

ー摂取が 30%以上の者の割合は、成人の男性で約 20%、女性で約 30%である。また、年次

推移でみると、男女共に 25%未満の者の比率が漸減し、30%以上の者の比率が漸増している

(図Ⅲ-1-12)。今後、この上昇を抑える方策が検討課題といえるが、そのひとつとして、食生活

が欧米化する過程で培われた、あらゆる主菜に合う米を主食として、豆、魚、野菜、肉、乳等が

バランスよくとれていた食生活により、脂肪エネルギー比率を減少させることが大切であろう。

- 97 -

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総数 男 女

26.6

25.048.4

脂肪エネルギー比率が25%未満の者

脂肪エネルギー比率が25%を以上30%未満の者

脂肪エネルギー比率が30%以上の者

58.5

18.2

23.3

脂肪エネルギー比率が25%未満の者

脂肪エネルギー比率が

25%以上30%未満の者

脂肪エネルギー比率が

30%以上の者

22.7

24.253.1

脂肪エネルギー比率が25%未満の者

脂肪エネルギー比率が25%以上30%未満の者

脂肪エネルギー比率が30%以上の者

図Ⅲ-1-11 脂肪エネルギー比率の分布(20 歳以上)

(出典:厚生労働省、平成 17 年国民健康・栄養調査)

- 98 -

総数 男 女

59.5 22.5 17.955.0 23.1 21.9

図Ⅲ-1-12 脂肪エネルギー比率の分布の年次推移(20 歳以上)

(出典:厚生労働省、平成 17 年国民健康・栄養調査)

(3)食塩の摂取状況

食塩摂取量の平均値は、年々減少傾向にあるものの(図Ⅲ-1-13)、目標値である 10g未満

(2005 年より女性は 8g未満)に達しておらず、さらに性・年代別にはかなり差のある状況である

(図Ⅲ-1-14)。また、食塩摂取量の分布をみると(図Ⅲ-1-15)、目標量を超えて摂取しているも

のの割合は、男性で約 60%、女性で約 70%に達する。食塩の過剰摂取の影響は、個人差は

あるものの、高血圧、脳血管疾患、胃がん等の危険性を増加させるため、今後も減塩は重要な

課題といえる。現代においては低温貯蔵や交通網の発達により、旧来の塩蔵法の必要性は以

前より激減したが、東北等、地域によっては食塩摂取量が減らない状況であり、対象者の嗜好

の面と、背景としてその土地に根ざした食文化も考慮した改善方法の支援が必要である。

48.4

49.4

50.9

51.0

51.0

25.0

24.7

24.2

24.8

23.6

26.6

25.9

24.9

24.2

25.3

0% 20% 40% 60% 80% 100%

平成17年

平成16年

平成15年

平成14年

平成13年

58.5

58.6

60.9

60.0

23.3

22.6

21.8

22.9

18.8

17.3

17.1

18.2

0% 20% 40% 60% 80% 100%

平成17年

平成16年

平成15年

平成14年

平成13年

55.1 24.0 20.9

55.5 23.1 21.4

53.6 23.8 22.6

24.2 22.753.1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

7年

6年

5年

4年

3年

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図Ⅲ-1-13 食塩摂取量平均値(総数)の年次推移

(出典:厚生労働省、平成 5~17 年国民栄養調査/国民健康・栄養調査より作成)

図Ⅲ-1-14 食塩摂取量の平均値

(出典:厚生労働省、平成 17 年国民健康・栄養調査)

11.0

12.8 12.8 13.2 13.0 12.9 12.7 12.6 12.3

11.5 11.4 11.210.7

0.0

2.5

5.0

7.5

10.0

12.5

15.0

H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17

男 女

3 5 .5 %6 4 .5 %

1 0 g 以 上 の 者 1 0 g 未 満 の 者

3 5 .5 %6 4 .5 %

1 0 g 以 上 の 者 1 0 g 未 満 の 者 8 g 以 上 の 者 8 g 未 満 の 者

2 8 .2 %7 1 .8 %

8 g 以 上 の 者 8 g 未 満 の 者

2 8 .2 %7 1 .8 %

(g)

図Ⅲ-1-15 食塩摂取量の分布

(出典:厚生労働省、平成 17 年国民健康・栄養調査)

- 99 -

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2)外食・中食の状況 我が国では、近年「単独世帯」の増加や、女性雇用者増加等、社会情勢の変化の中で、調

理や食事を家の外に依存する食の外部化が進展し、簡便化志向が高まった。その結果、「外

食」あるいは調理済み食品や惣菜、弁当といった「中食」(なかしょく)を利用する傾向が増大し

ている(図Ⅲ-1-16)。

(%)

図Ⅲ-1-16 食糧消費支出に占める外部化率の推移

(出典:内閣府、平成 19 年食育白書)

- 100 -

男 女

図Ⅲ-1-17 ふだんの外食の頻度(15 歳以上)

(出典:厚生労働省、平成 17年国民健康・栄養調査)

また、日常における外食の頻度は高く、20~50 歳代の男性の約 50~60%、20 歳代の女性

の約 50%が、ほぼ毎日外食を利用している状況である(図Ⅲ-1-17)。

一方、外食の頻度の高い者ほど野菜の摂取量が少ないという結果もあることから(図Ⅲ

-1-18)、外食における適切なメニューの選択方法に関する支援とともに、栄養成分表示を行う

健康づくり協力店の普及拡大等の食環境整備の推進が望まれる。

3.0 0.07.8 5.6 2.9 3.8 1.2

14.410.1

25.622.0

20.5 17.4

7.81.8

23.226.9

29.631.5

31.023.1

17.3

11.4

59.4 63.0

36.9 40.9 45.755.7

73.686.4

0.40

20

40

60

80

100

総 数 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

(%)

2.45.0 3.714.3

9.0 5.6 4.8 2.1 0.8

17.220.6

29.3

26.6

22.417.7

10.26.4

77.0 72.5

54.063.4

71.777.0

87.292.7

1.00.8 3.2 0.40.50.3 0.10

20

40

60

80

100

総 数 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

(%)

毎日2回以上(週14回以上)外食をする 毎日1回以上2回未満(週7回以上14回未満外食をする

週2回以上7回未満外食をする 外食しない、または週2回未満外食をする

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- 101 -

男   性

1 0 9 .2

9 5 .5

8 9 .3

2 1 4 .5

1 8 8 .7

1 7 1 .2

0 5 0 1 0 0 1 5 0 2 0 0 2 5 0 3 0 0 3 5 0

ほ と ん ど 利 用 し な い

週 2 - 5 日

ほ と ん ど 毎 日 1 回 以 上

摂 取 量 ( g )

緑 黄 色 野 菜 そ の 他 の 野 菜

(N = 1 ,1 3 1 )

(N = 1 ,1 1 0 )

(N = 2 ,4 8 9 )

女   性

緑 黄 色 野 菜

91 .8

1 05 .7

8 5 .4

1 90 .0

1 69 .9

1 4 3 .1

0 50 100 1 50 200 2 50 3 00 350

ほ と ん ど 利 用 し な い

週 2 -5日

ほ と ん ど 毎 日 1回 以 上

摂 取 量 (g )

そ の 他 の 野 菜

(N = 4 0 6 )

(N = 1 ,1 4 1 )

(N = 3 ,8 9 7 )

図Ⅲ-1-18 外食の利用頻度別にみた野菜摂取量

(出典:厚生労働省、平成 12年国民栄養調査)

3)欠食の状況 朝食の欠食率の推移は、全体的に増加傾向にあり(図Ⅲ1-19)、年代別には男女ともに 20

歳代で も高く、男性で約 30%、女性で約 20%であり、男性の 30 歳代でも約 30%に上ってい

る(図Ⅲ-1-20)。 一方、一人世帯に限った朝食の欠食率は、各年代とも全体より高い傾向であり、年代別には

20 歳代で も高い約 50%となっているが、30 歳代でも約 40%、40 歳代でも約 30%となって

いる(図Ⅲ-1-21)。一人世帯は自ずと外食(中食)利用頻度が高くなる可能性があるため、これ

に対応した支援とともに、朝食の摂取に直接結びつくような具体的な指導が必要である。

8.99.7

10.1 10.5 10.711.111.6 11.8

12.6 13.0

6.97.9 8.5

8.7 8.6

0

5

10

15

H13 H14 H15 H16 H17

総数 男性 女性

図Ⅲ-1-19 朝食の欠食率の推移(15 歳以上)

(出典:厚生労働省、平成 13~17 年 国民健康・栄養調査より作成)

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14.7

5.52.8

11.7

5.62.8

10.7

4.53.2

28.3

20.8

13.0

9.913.0

4.4 3.8

18.8

33.1

27.0

16.2

8.6

4.72.7

10.4

23.5

15.0

10.38.3

5.52.8

0

5

10

15

20

25

30

35

総数 1-6歳 7-14歳 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

総数 男性  女性

図Ⅲ-1-20 朝食の欠食率の推移(1 歳以上)

(出典:厚生労働省、平成 17 年国民健康・栄養調査)

9.913.05.5 2.8

20.828.3

11.6

21.2

9.14.5

49.441.1

33.3

17.5

0

20

40

60

80

100

総数 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

全体 一人世帯(%)

図Ⅲ-1-21 朝食の欠食率-一人世帯と全体- (20 歳以上) (出典:厚生労働省、平成 17年国民健康・栄養調査)

4)栄養・食生活、健康増進にかかわる政策・制度と環境の整備 (1)食生活指針(2000 年年 3 月文部省・厚生省・農林水産省策定)と食事バランスガイド(2005

年 7 月厚生労働省・農林水産省決定)

我が国では、第三次改定日本人の栄養所要量に対応する形で、1985 年に「健康づくりのた

めの食生活指針」が発表され、1990 年には「対象特性別の食生活指針」が示された。その後、

国民の健康の向上を目指した栄養・食生活の実現という健康政策面と、食料自給率の向上を

目指した食料政策面という2つの政策意図の下に、2000 年に文部省・厚生省・農林水産省(当

時)の合同で、新たな「食生活指針」(表Ⅲ-1-17)が策定された。健康政策面に関連する背景

としては、厚生労働省が推進する「健康日本21」があり、食料政策面に関連する背景としては、

食料の安定供給等、農林水産省の重要施策である「食料・農業・農村基本計画」(「食料・農

業・農村基本法」)がある。

- 102 -

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表Ⅲ-1-17 食生活指針

2000 年 3 月文部省・厚生省・農林水産省策定

食事を楽しみましょう。

(実践のために)

・心とからだにおいしい食事を、味わって食べましょう。

・毎日の食事で、健康寿命をのばしましょう。

・家族の団らんや人との交流を大切に、また、食事づくり

に参加しましょう。

1日の食事のリズムから、健やかな生活リズムを。

(実践のために)

・朝食で、いきいきした1日を始めましょう。

・夜食や間食はとりすぎないようにしましょう。

・飲酒はほどほどにしましょう。

主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。

(実践のために)

・多様な食品を組み合わせましょう。

・調理方法が偏らないようにしましょう。

・手作りと外食や加工食品・調理食品を上手に組み合わ

せましょう。

ごはん等の穀類をしっかりと。

(実践のために)

・穀類を毎食とって、糖質からのエネルギー摂取を

適正に保ちましょう。

・日本の気候・風土に適している米等の穀類を利用

しましょう。

野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚等も組み合わせて。

(実践のために)

・たっぷり野菜と毎日の果物で、ビタミン、ミネラル、

食物繊維をとりましょう。

・牛乳・乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚等で、

カルシウムを十分にとりましょう。

食塩や脂肪は控えめに。

(実践のために)

・塩辛い食品を控えめに、食塩は1日10g未満にしましょ

う。

・脂肪のとりすぎをやめ、動物、植物、魚由来の脂肪を

バランスよくとりましょう。

・栄養成分表示を見て、食品や外食を選ぶ習慣を身に

つけましょう。

適正体重を知り、日々の活動に見合った食事量を。

(実践のために)

・太ってきたかなと感じたら、体重を量りましょう。

・普段から意識して身体を動かすようにしましょう。

・美しさは健康から。無理な減量はやめましょう。

・しっかりかんで、ゆっくり食べましょう。

食文化や地域の産物を活かし、ときには新しい料理も。

(実践のために)

・地域の産物や旬の素材を使うとともに、行事食を取り入

れながら、自然の恵みや四季の変化を楽しみましょう。

・食文化を大切にして、日々の食生活に活かしましょう。

・食材に関する知識や料理技術を身につけましょう。

・ときには新しい料理を作ってみましょう。

調理や保存を上手にして無駄や廃棄を少なく。

(実践のために)

・買いすぎ、作りすぎに注意して、食べ残しのない適量を

心がけましょう。

・賞味期限や消費期限を考えて利用しましょう。

・定期的に冷蔵庫の中身や家庭内の食材を点検し、

献立を工夫して食べましょう。

自分の食生活を見直してみましょう。

(実践のために)

・自分の健康目標をつくり、食生活を点検する習慣を

持ちましょう。

・家族や仲間と、食生活を考えたり、話し合ったりして

みましょう。

・学校や家庭で食生活の正しい理解や望ましい習慣を

身につけましょう。

・子どものころから、食生活を大切にしましょう。

さらに、「食生活指針」を具体的な行動に結び付けるため、「何を」「どれだけ」食べたらよい

か、望ましい食事のとり方や、おおよその量をわかりやすくイラストで示した「食事バランスガイ

ド」(図Ⅲ-1-22)が作成された。折しも「健康日本21」においては、特に中高年男性の肥満が

増加する等、指標の改善がみられておらず、食事・運動面の取組みの強化とともに、栄養・食

生活分野におけるポピュレーションアプローチとしての食環境の整備も重要な課題となってい

た。「食事バランスガイド」はそれらの解決に向け、厚生労働省と農林水産省によって様々な角

度から検討されている。この基本的な考え方は、以下に示す 4 点があげられる。

① 1 日の食事の量的な目安を簡潔に示すものであること。

② 日常生活の中で手軽に活用でき、無関心層にも注目され得るものであること。

③ 高い理想を追うよりも、ある程度の幅は許容しながら、食事のバランスが大きく乱れてい

る人たちの食事の改善につながるものであること。

④ フードシステムの様々な場で、活用・展開が期待できるものであること。

- 103 -

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図Ⅲ-1-22 食事バランスガイド

前項1-1.における「日本人の食事摂取基準(2005 年版)」と、「食生活指針」、「食事バラン

スガイド」、「健康日本21」の位置づけや関連について述べる。まず、「食事摂取基準」が管理

栄養士等の専門家に対し、詳細な数値を示したガイドラインであるのに対し、「食生活指針」は

国民一人ひとりが「食事摂取基準」を満たした食事や、望ましい食生活を実践するための定性

的なメッセージ群である(表Ⅲ-1-18)。

表Ⅲ-1-18 食事摂取基準(特に推奨量)と食生活指針

食事摂取基準 食生活指針目的(使命)

生命現象の維持(必要量) 生活習慣病の1次予防、健康の維持・増進、QOLの向上

要素 栄養素 食事(diet):調理された者、食品(食物)食品群、非栄養素成分

科学的 栄養生理学、栄養生化学 栄養疫学

摂取量 現在のあり方を定量的に示す 将来のあり方を定性的に示す

適用者 性・年齢・生理状態別(例:妊娠、授乳)に示す

一般の人々、生活習慣病のハイリスク・グループ

利用者 管理栄養士等・栄養士等、保健・医療専門家、農業専門家、政策立案者、行政官、食品産業従事者、学校教師、ほか

一般の人々

(出典:田中平三:食生活指針のあり方と活用法.より一部改変)

「食事バランスガイド」は、人々が実際の食事をする際に、何を、どのくらいとればよいのかを

具体的に示しており、専門職が一般的な食生活の指導に活用したり、ボランティアが普及啓発

に活用したりできる。さらに、その決定には「食事摂取基準」で示された科学的根拠に基づいた

数値が活用され、「食生活指針」で示された各項目が実践できるように工夫されている。今後は、

「健康日本21」の栄養・食生活分野における項目が、それぞれの目標値に近づくよう、栄養教

育におけるポピュレーションアプローチとして、「食事バランスガイド」の活用が期待される。

(2)食育基本法(2005 年 7 月施行)と食育推進基本計画

2005 年 4 月、第 162 回国会において、「近年における国民の食生活をめぐる環境の変化、具

体的には、栄養の偏り、不規則な食事、肥満や生活習慣病の増加、過度の痩身志向等の問題、

- 104 -

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また、食の安全や海外依存の問題の発生に伴い、国民が生涯にわたって健全な心身を培い、

豊かな人間性をはぐくむための食育を推進することが緊要な課題となっていることにかんがみ、

食育に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、食育

に関する施策の基本となる事項を定めることにより、食育に関する施策を総合的かつ計画的に

推進し、もって現在及び将来にわたる健康で文化的な国民の生活と豊かで活力ある社会の実

現に寄与すること」を提案理由とし、食育基本法(表Ⅲ-1-19)が成立し、同年 6 月に公布、7 月

に施行となった。

これに基づき、食育の推進に関する施策の総合的、かつ計画的な推進を図るため、2006年3

月に食育推進基本計画が決定された。この基本計画は、2006 度から 2009 年度までの 5 年間

を対象とし、その中で食育の推進の目標については、「4.基本的施策」7 項目に則った食育の

国民運動としての推進にふさわしい、定量的な 9 項目を掲げ、その達成を目指している(図Ⅲ

-1-23)。

表Ⅲ-1-19 食育基本法の概要

②食育の推進の目標に関する事項

③国民等の行う自発的な食育推進活動等の総合的な促進に関する事項

④その他必要な事項

(2)都道府県は都道府県食育推進基本計画、市町村は食育推進基本計画を作成するよう努める。

4.基本的施策

①家庭における食育の推進

②学校、保健所等における食育の推進 ③地域における食生活の改善のための取組の推進 ④食育推進運動の展開 ⑤生産者と消費者との交流の促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化等 ⑥食文化の継承のための活動への支援等 ⑦食品の安全性、栄養その他の食生活に関する調査、研究、情報の提供及び国際交流の推進 5.食育推進会議 (1)内閣府に食育推進会議を置き、会長(内閣総理大臣)及び委員(食育推進担当大臣、関係大臣、有識者)25名以内で組

織する。 (2)都道府県に都道府県食育推進会議、市町村に市町村食育推進会議を置くことができる。

1.目的

国民が健全な心身を培い、豊かな人間性をはぐくむ食育を推進するため、施策を総合的かつ計画的に推進すること等を目

的とする。

2.関係者の責務

(1)食育の推進について、国、地方公共団体、教育関係者、農林漁業関係者、食品関連事業者、国民等の責務を定める。

(2)政府は、毎年、食育の推進に関して講じた施策に関し、国会に報告書を提出する。

3.食育推進基本計画の策定

(1)食育推進会議は、以下の事項について食育推進基本計画を作成する。

①食育の推進に関する施策についての基本的な方針

- 105 -

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図Ⅲ-1-23 食育の推進に当たっての目標値

(出典:内閣府、平成 18 年版食育白書)

(3)健康や栄養に関する表示の制度

①栄養表示基準制度

我が国では、特定の栄養素を強化した食品、すなわち強化食品が、過去に許可・販売されて

いたが、この強化食品制度に替わり、1995 年に栄養改善法(現健康増進法)に基づき、栄養表

示基準制度が設けられた。対象食品は加工食品であり、日本語で熱量と栄養成分に関する表

示を行う場合に、この基準が適用される。それに違反した場合には罰則規定もあるが、表示す

ること自体は強制ではない。

栄養成分を表示する際は、熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物(糖質および食物繊維)、ナト

リウムの順に、その含有量とともに表示する。なお、熱量は「エネルギー」、たんぱく質は「蛋白

質」、ナトリウムは「Na」での表示が可能である。含有表示については、販売される状態での可

食部 100gもしくは 100ml、または一食分、一包装等で表示する。

さらに、表示には「強調表示」と「相対表示」がある。「強調表示」には、「栄養成分が補給でき

る旨」(すなわち“高”、“多”、“豊富”等の「高い旨」に類する表示や、“源”、“供給”、“含有”、

“添加”等の「含む旨」に類する表示)を表示する場合と、栄養成分が少ないことで「適切な摂取

ができる」旨(すなわち“無”、“ゼロ”、“ノン”等の「含まない旨」に類する表示や、“低”、“控え

め”、“ダイエット”等の「低い旨」に類する表示)を表示する場合とがあり、それぞれ分析された

栄養成分量が一定の基準に従っていなければならない。また、「相対表示」には他の食品と比

較して、栄養成分やエネルギーが強化されていることを強調する「強化表示」と、低減されてい

ることを強調する「低減表示」があり、それぞれ一定の基準に従うとともに、比較対照とする食品

名および比較値が必要である。

②アレルギー物質を含む食品の表示

近年、アトピー性皮膚炎等の過敏症(アレルギー疾患)を引き起こすアレルギー物質を含む

食品による健康危害が散見されている。このような状況に対応し、2001 年 4 月の食品衛生法改

- 106 -

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正に伴い、アレルギー物質を含むとした表示を義務づける特定原材料と、特定原材料に準ず

るとして表示を奨励する食品が規定された。それぞれに該当する食品は、以下の通りである。

・特定原材料:卵、乳、小麦、そば、落花生

・特定原材料に準ずるもの:あわび、いか、いくら、えび、オレンジ、かに、キウイフルーツ、牛肉、

くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン

③保健機能食品制度

近年、国民の健康への関心の高まりとともに、食品に新たな機能を期待する傾向が強まり、

市場には多種多様な食品が流通しているが、消費者がその食品の特性を十分理解し、自分の

食生活の状況に応じた食品を選択するためには、適切な表示・広告及び情報提供が必要であ

る。そのため、その有効性及び安全性について、国の定めた基準に従い評価された食品を「保

健機能食品」と称することを認める保健機能食品制度が、2001 年に創設された。国の許可等

の有無や食品の目的、機能等の違いによって、それらは「特定保健用食品」と「栄養機能食

品」の2つのカテゴリーに分類される(図Ⅲ-1-24)。また、2005 年 2 月には制度の見直しが行わ

れ、保健機能食品には「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」の表示を

義務づけることや、それらの安全性確保の推進等が強化された。

保 健 機 能 食 品

栄 養 機 能 食 品

医 薬 品 ・ 個 別 許 可 型 ・ 規 格 基 準 型一 般 食 品

* い わ ゆ る 「 健 康食 品 」 を 含 む

特 定 保 健 用 食 品

・ 条 件 付 き 特 保

・ 規 格 基 準 型* 医 薬 部 外 品 を 含 む

・ 個 別 承 認 型

( 疾 病 リ ス ク 低 減 表 示 含 む )

食   品医 薬 品

保 健 機 能 食 品

栄 養 機 能 食 品

医 薬 品 ・ 個 別 許 可 型 ・ 規 格 基 準 型一 般 食 品

* い わ ゆ る 「 健 康食 品 」 を 含 む

特 定 保 健 用 食 品

・ 条 件 付 き 特 保

・ 規 格 基 準 型* 医 薬 部 外 品 を 含 む

・ 個 別 承 認 型

( 疾 病 リ ス ク 低 減 表 示 含 む )

食   品医 薬 品

図Ⅲ-1-24 保健機能食品の分類

なお、健康に関する効果や食品の機能等を表示して販売されている食品(栄養補助食品、

健康補助食品、サプリメント等)を、一般的には「健康食品」と呼んでいるが、これらは上記の厚

生労働省が認める保健機能食品と、それ以外の一般食品に分類される「いわゆる健康食品」と

に区別される。これらを適切に利用するためには、その有効性・安全性についての信頼性の高

い情報(例 独立行政法人 国立健康・栄養研究所:「健康食品」の安全性・有効性情報

http://hfnet.nih.go.jp/)に基づいた、正しい理解が必要である。

【引用・参考文献】 1) 中村丁次、外山健二編著:管理栄養士講座 栄養教育論Ⅰ-栄養教育の概念と方法-、

建帛社、2006.

2) 田中平三:食生活指針のあり方と活用法、臨床栄養、97(3)、271-274、2000.

3) 山田和彦、松村康弘編著:健康・栄養食品アドバイザリースタッフ・テキストブック(第 3 版)、

第一出版、2005.

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4) (社)日本栄養士会監修・武見ゆかり、吉池信男編:「食事バランスガイド」を活用した栄養

教育・食育実践マニュアル、第一出版、2006.

5) 内閣府:平成18年版食育白書、(社)時事画報社、2006.

6) 内閣府:共生社会政策統括官 食育推進担当ホームページ

http://www8.cao.go.jp/syokuiku/about/index.html

7) 坂本元子編著:栄養教育論、第一出版、2004.

8) 厚生労働省:保健機能食品・健康食品関連情報

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/index.html

9) 厚生統計協会:国民衛生の動向・厚生の指標 臨時増刊.54(9).2007.

10) 厚生労働省:平成 5~17 年国民栄養調査/国民健康・栄養調査

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Ⅲ 栄養指導 2 食行動の変容と栄養教育

学習のねらい

食行動変容の栄養教育を行うためには、第一に対象者の栄養状態のアセスメントを行い、

第二に身体にその状態をもたらした食行動のアセスメントを行うことが必要となる。ここでは、

個々人に 適な栄養ケアを提供する栄養ケア・マネジメントについて知る。

栄養ケア・マネジメントは、管理栄養士が主体となって多職種が協働して行うものであるが、

栄養教育は個々人に 適な栄養ケアを提供する栄養ケア・マネジメントの一環で行われるもの

であるため、ここでは栄養ケア・マネジメントの意義について理解したうえで、個人の栄養・食事

の問題に応じた栄養教育を行うために重要となる栄養アセスメントについて解説する。

1)栄養ケア・マネジメント (1)栄養、栄養ケア、マネジメント

①栄養

栄養とは、生体が物質(食品)を体外から摂取し、消化、吸収、さらに代謝することにより、生

命を維持し、健全な生活活動を営むことを言う。

②栄養ケア

栄養ケアとは、ヘルスケアの一環として栄養の状態を良好にするための実践活動を包括的

に表現したものである。

③マネジメント、PDCA サイクル

マネジメントとは、組織がある目的を達成するために、それぞれの段階において、現状を分

析、評価し、改善策を実行することを周期的に繰り返して、常によい状態を保持することであり、

Plan(計画)-Do(実行)-Check(確認)-Action (処置、改善)の PDCA サイクルを繰り返す

ことである(図Ⅲ-2-1)。

Plan

Do

Check

Action P

DC

A

図Ⅲ-2-1 PDCA サイクル(マネジメント)

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栄養ケアプランnutritional care plan

栄養スクリーニングnutritional screening

栄養アセスメントnutritional assessment

栄養教育nutrition educationnutrition counseling

多領域からの栄養ケアmultidisciplinary nutrition

care

栄養補給nutrition support

実施implementation

モニタリングmonitoring

評価evaluation and quality control

栄養ケアプランnutritional care plan

栄養スクリーニングnutritional screening

栄養アセスメントnutritional assessment

栄養教育nutrition educationnutrition counseling

多領域からの栄養ケアmultidisciplinary nutrition

care

栄養補給nutrition support

実施implementation

モニタリングmonitoring

評価evaluation and quality control

図Ⅲ-2-2 栄養ケア・マネジメント nutrition care and management: NCM

(出典:旧厚生省、平成 8 年厚生省老人保健事業推進等補助金研究「高齢者の栄養管理サービスに関する研究報告書)

(2)栄養ケア・マネジメントの定義とポイント

栄養ケア・マネジメントとは、「ヘルスケア・サービスの一環として、個々人に 適な栄養ケア

を行い、その実務遂行上の機能や方法、手順を効率的に行うためのシステム」と定義される。

栄養ケア・マネジメントは、栄養スクリーニング、栄養アセスメント、栄養ケア計画、実施、モニタ

リング、評価で構成される(図Ⅲ-2-2)。

栄養ケア・マネジメントのゴールは個人の栄養状態を改善し、QOL(生活の質)を向上させる

ことにある。

栄養ケア・マネジメントのポイントは、そのゴールを単に栄養状態の改善にとどまらず、QOL

の向上とした点、①人間栄養学の観点からの栄養ケア、②栄養ケアの標準化、③アウトカム・マ

ネジメント、④品質改善活動にある。

①人間栄養学の観点からの栄養ケア

かつては、「こういう食事を食べていれば健康でいられる」「この食べ物は健康に良い」といっ

た「食べ物→健康」を推し測ることが行われていた。一方、現在では人のエネルギーや栄養素

の要求(必要量)は、体組成・生活活動・身体活動・疾患等の身体状況によって個人差があると

いう考えが定着した。人の栄養状態をアセスメントする方法も確立し、個人の栄養状態をベー

スにその人に必要なエネルギー・栄養素量を求めるといった人間栄養学の観点での栄養ケア

が行われるようになっている。

②栄養ケアの標準化

栄養状態や栄養状態に関連する食行動・ライフスタイルは、個人によって様々である。栄養

問題の質や程度によって十分な栄養ケアを受けられないようでは困るし、担当者によって栄養

ケアの効果に大きな差があっても困る。栄養ケア・マネジメントでは、栄養アセスメント、栄養ケ

ア計画の作成、実施、モニタリング、評価の各機能や方法、手順を標準化することにより、一定

水準の栄養ケアを保持することができる。

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③アウトカム・マネジメント

栄養ケア・マネジメントでは、評価の過程において、栄養ケアを提供して得られる成果(アウト

カム)がどれくらいかを客観的に示す。

アウトカム・マネジメントとは、予め目標とするアウトカムを設定し、その実現に向けて業務の

マネジメントを行う結果からの統制方法である。栄養ケアの各業務がシステム化されていること

で、アウトカム・マネジメントが可能となる。

④品質改善活動

栄養ケア・マネジメントの評価は、構造評価、経過(プロセス)評価、成果(アウトカム)評価の

三点について行われる。これらの評価は、次に栄養ケアを行う際の反省材料となる。期待した

成果を達成できなかった場合には、なぜ達成できなかったのかを分析し、業務の機能・方法・

手順の改善に活かし、より質の高い栄養ケアを探求していくことができる。

(3)保健・医療・福祉における栄養ケア・マネジメント

現在では、栄養ケア(栄養教育を含めて)を単に提供するだけではなく、マネジメントの概念

を取り入れて、ケアの質を向上させていくことが、重要視されている。

表Ⅲ-2-1 保健・医療・福祉における栄養ケア・マネジメント

2005 年 10 月 介護保険施設入所者に対する栄養マネジメント加算

2006 年 3 月 入院患者に対する栄養管理実施加算(診療報酬制度)

2006 年 4 月 在宅要介護高齢者に対する居宅療養管理指導

2008 年 4 月 アウトカム・マネジメントによる特定健診・保健指導

2)栄養スクリーニング

栄養リスクの有無の判定、あるいは栄養リスクの程度に応じて対象者を階層化する過程であ

る。

取り組む課題に応じて、スクリーニングに用いる指標は異なってくる。例えば、低栄養状態の

スクリーニングでは、血清アルブミン、BMI、体重減少率等が用いられている。

特定健診・保健指導においては、腹囲、BMI、血圧、脂質代謝(HDL コレステロール、中性

脂肪)、糖代謝(血糖値)の組み合わせによって、メタボリックシンドロームのリスクの程度を判別

すると同時に、保健指導による支援形態を階層化する。

3)栄養状態の評価(栄養アセスメント)

個別の栄養状態を評価(アセスメント)する方法には、身体計測(A)、生化学検査(臨床検

査)(B)、臨床診査(C)、食事調査(D)がある(表Ⅲ-2-2)。

栄養教育を行うには、栄養状態の評価に加えて、食行動やライフスタイル、これらに影響す

る知識や価値観、環境要因等をアセスメントする必要がある。

- 111 -

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表Ⅲ-2-2 栄養アセスメントの ABCD

A Anthropometric methods 身体計測

B Biomedical methods 生化学検査

C Clinical methods 臨床診査

D Dietary methods 食事調査

(1)栄養アセスメントは組み合わせて行う

栄養アセスメントの ABCD は、いずれも単独では栄養状態を正確に判定することはできない。

栄養状態は複数の指標を組み合わせて評価することが重要である。

①栄養状態を総合的に評価

例えば、体重の増減だけでは、身体構成成分の内容がどのように変化したのかはわからな

い。食事調査による栄養素等摂取量だけでは、栄養素が体内でどのように利用(代謝)された

かはわからない。

栄養アセスメントは、客観的及び主観的情報をできるだけ多く集め、栄養状態を総合的に評

価することが必要になる。

②栄養状態と食事の関連を明らかにする

例えば、血清中性脂肪が高値である場合、糖質の過剰摂取によるものなのか、果物あるい

は間食あるいは飲酒によるものなのか、個人の栄養状態の結果と食事の問題とのストーリーが

明らかになると、効果的な栄養ケア・栄養教育を展開することができる。そのためには、中性脂

肪が高値の場合であれば、γGTP や血糖値、体重や腹囲の変化等と食事調査のデータから

組み合わせて評価する。

③詳細な問診を行う

組み合わせによる栄養アセスメントによって、栄養状態と食事摂取状況のストーリーがある程

度みえてくると、的を絞った問診によって、さらに詳細な食事摂取状況が判明し、ストーリーが

はっきりとみえる。

例えば、「肥満 1 度」「中性脂肪が高値」「γGTP は基準値内」「コレステロールがやや高値」

「便秘」、食事調査では「毎食サラダ」「飲酒なし」とあれば、「糖質の摂取量」「主食の量」「果物

の量」「嗜好飲料」「夕食過多」「サラダの種類・量」を中心に問診をしていくと、「マカロニサラダ

が好物」「生野菜は好きではない」「嗜好飲料は食事調査に記入していなかった」等が確認され、

「マカロニや嗜好飲料による糖質摂取過剰」「食物繊維の摂取不足による便秘、コレステロール

やや高値」等が明らかとなってくる。

④問題点の整理、優先順位をつける

収集したデータのなかから、問題点を整理し、優先順位をつけることである。優先順位は、問

題点が根本的なものか、副次的なものか、重大性、食事によって改善できるか等から判断す

る。

(2)栄養アセスメントの ABCD

①身体計測 Anthropometric method

身長、体重から算出される BMI は痩せ・肥満の判定に用いられている。成人では、食事によ

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るエネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回り、エネルギー出納が「プラス」であれば、皮

下脂肪や内臓脂肪、体重の増加がみられる。一方、エネルギー出納が「マイナス」であれば、

脂肪や筋肉の減少がみられ、体重が減少する。体重の増大あるいは減少が、内臓脂肪である

のか、皮下脂肪であるのか、筋たんぱく質であるのかを評価するために、体脂肪率や腹部 CT

の測定値が用いられる(表Ⅲ-2-3)。

身体計測は測定機器が比較的安価で簡便であり、被測定者への侵襲性も低いので、繰り返

しの測定が可能となり、経時的な変化を観察しやすいという利点がある。

表Ⅲ-2-3 栄養アセスメントにおける身体計測

身体計測指標 測定値の解釈・留意点

体重 体重を自己測定する場合は、日々同じ条件にする。

BMIBMI=体重(kg)÷身長2(m)BMI18.5未満で:低体重、18.5~25未満:普通体重、25~30未満:肥満1度、30~35未満:肥満2度、35~40未満:肥満3度、40~:肥満4度

腹囲

男性85cm、女性90cmが内臓脂肪面積100cm2に相当するとして、メタボリックシンドロームの判定に利用されている。体重1kgの変化につき、腹囲1cmに相当すると考えられている。呼気時の臍位を測定する。

体脂肪率測定には、生体電気インピーダンス法(BIA法)が一般的に利用されている。BIA法は、筋肉は水分を多く含み電気を通しやすく、脂肪は水分を含まないので電気を通さないという特徴を利用している。測定値の変化に、体水分の分布状態を考慮する必要がある。

腹部CTX線CTによって臍位の断面像を撮影し、内臓脂肪面積ならびに皮下脂肪面積を計測する。腹囲が内臓脂肪面積の推測指標であるのに対し、腹部CTでは正確な内臓脂肪面積を評価できる。しかし、測定装置が高価・大がかりであり、汎用は難しい。

②臨床検査 Biomedical method

血液検査は、身体の栄養状態を直接みることになる。他のアセスメントとの組み合わせによ

って、個人の栄養状態をかなり明確に分析することができる。また、症状や形態的変化が出現

する前の潜在的な栄養状態の変化を評価することができる。

栄養状態に関連する血液・生化学検査を表Ⅲ-2-4 に示した。ただし、1 つの検査項目の異

常値だけでは栄養状態を断定することはできない。複数の検査項目また他の臨床診査、食事

調査と組み合わせて評価することが大事である。

表Ⅲ-2-4 栄養アセスメントにおける血液・生化学検査

- 113 -

基準値 栄養状態との関連

中性脂肪(TG) 30~149mg/dl

血中のTGには、食事の脂質に由来しカイロミクロンに含まれるものと、肝臓で糖質から合成されて超低比重リポたんぱく質VLDLに組み込まれて運搬されるものがある。エネルギー源となる。余剰分は脂肪組織として貯蔵される。

総コレステロール(TC)

140~219mg/dl

食事から摂取されるが、体内のコレステロールの大部分は肝臓で合成される。肝臓で合成されたコレステロールは、肝臓で合成されたTGとともにVLDLとして血中に放出され、代謝によりIDLを経てLDLとなり、細胞膜にあるLDL受容体より細胞内に取り込まれる。胆汁酸、ステロイドホルモン、細胞膜の成分となる。220mg/dl以上で高脂血症。

HDLコレステロール(HDL-C)

40~119mg/dl

高比重リポタンパク(HDL)はタンパク質50%、脂質(リン脂質・コレステロール・TG)50%から構成される。末梢から肝臓へコレステロールを輸送し、異化させる。40mg/dl未満で高脂血症。

LDLコレステロール(LDL-C)

60~119mg/dl低比重リポタンパク(LDL)はコレステロールが50%近く占める。LDL高値のときは酸化LDLも多く、動脈硬化を促進する。

項目

脂質代謝

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表Ⅲ-2-4 栄養アセスメントにおける血液・生化学検査(つづき)

基準値 栄養状態との関連

空腹時血糖(FPG) 99mg/dl以下

血糖値はブドウ糖の細胞への取り込みや利用を促進するインスリンと、血糖値を上げるグルカゴン、アドレナリンなどのホルモンで一定濃度になるよう調節されている。糖質は不足しても、ホルモン作用により血糖値は維持されるが、糖質が長期にわたり不足したり、糖尿病により糖質が利用できないと、脂質代謝が活発になりケトーシスをおこしたり、アミノ酸から糖新生が亢進する。

HbA1C 5.1%以下 ブドウ糖とヘモグロビン分子が結合したもの。過去1~3ヶ月間の平均血糖値を反映する。

タンパク質 アルブミン(Alb) 4.0g/dl以上

血清総タンパク質の50~70%を占める。肝臓で合成され、血漿浸透圧の維持、遊離脂肪酸、ビリルビンや甲状腺ホルモンなどの運搬機能をもつ。タンパク質栄養状態の低下、肝機能低下の場合に低値となる。2.5g/dl以下で腹水や浮腫が出現する。

AST 30IU/l以下

ALT 30IU/l以下

γ-GTP 0~50IU/L

核酸代謝 尿酸(UA) 7.0mg/dl以下尿酸は①体内でのプリン体の生合成亢進、②細胞の崩壊亢進による核酸分解の増加、③プリン体を含む食品の過剰摂取などで増加する。また、腎での排泄が障害されていると上昇する。

尿素窒素(BUN) 8~20mg/dl

生体内で不要となったアミノ酸の代謝産物アンモニアは、肝臓の尿素サイクルで尿素に合成され、尿中へ排泄される。腎糸球体濾過能の低下、あるいは尿素産生増加として高タンパク質食、消化管出血、発熱・感染症などで高値となる。

クレアチニン(Cr)男1.0mg/dl以下女0.7mg/dl以下

筋肉内でクレアチンとクレアチンリン酸から産生され、尿中へ排泄される。食事や尿量の影響を受けにくいので、腎糸球体濾過能の指標として用いられる。筋肉量と関連する。

ナトリウム(Na) 137~150mEq/l

カリウム(K) 3.5~5mEq/l

貧血 血色素(Hb)男13.1~17.9g/dl女12.1~15.9g/dl

鉄欠乏で赤血球内のヘモグロビン合成が障害されて鉄欠乏性貧血がおこる。ビタミンB12・葉酸の欠乏では核酸合成の異常が生じ、赤血球の成熟が障害されて巨赤芽球性貧

血がおこる。貧血の原因は血清鉄、フェリチン、MCV(平均赤血球数)と合わせて評価。

栄養素の代謝の大部分は肝臓で行われている。これらの肝機能の指標は、栄養状態と関連するものが多い。AST、ALTはアミノ基転移酵素で、肝疾患急性期では高度に上昇するが、軽度上昇(100IU/L)の場合には、慢性肝疾患(脂肪肝、肝硬変など)か肥満などによる過栄養も考えられる。ΓGTPは肝疾患、飲酒、薬剤などで上昇する。

体液は体重の約40%の細胞内液と、約20%の細胞外液に分けられ、各種の電解質が含まれる。ホルモン、自律神経系、呼吸器の酸・塩基平衡調節によって一定の濃度に維持されている。電解質の異常は、これらの調節能をこえる過剰摂取や腎からの排泄障害などでおこる。したがって、あらゆる疾患で電解質のモニタリングが必要である。

電解質

腎機能

糖代謝

肝機能

項目

③臨床診査 Clinical method

既往歴、現病歴、現在の病態や臨床症状の観察により栄養状態を評価する。ここでは特に、

栄養状態と関連する自他覚症状や肝疾患・消化器疾患・循環器疾患・呼吸器疾患等、栄養疾

患に関連する自他覚症状の観察が必要である。ビタミンに関しては、血液レベルの測定が一

般に行われないために、症状の観察が欠乏症を発見する手がかりとなる。

一般的に、食欲や倦怠感等の問診、皮膚、爪、頭髪、口腔粘膜の状態の観察、下痢・便秘

等の消化器症状、浮腫や腹水等の水分貯留状態等を確認する(表Ⅲ-2-5)。

食事摂取に偏りがあったり、身体状況によっては、ある栄養素は充足あるいは過剰であって

も、同時に別の栄養素が欠乏している場合がありえる。肥満患者の場合、栄養不足はないと思

い込んでしまうと、症状を見逃してしまうので注意が必要である。

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表Ⅲ-2-5 栄養アセスメントにおける臨床診査:栄養障害に関係した自他覚症状

項目

低栄養 食欲不振、倦怠、疲労、免疫機能の低下、各種欠乏症など

過剰栄養 体脂肪の増大、活動性の低下、動悸、息切れ、関節痛など

脈拍・血圧

毛髪

皮膚・粘膜

舌・口唇

軟骨・骨

浮腫

貧血

無月経 極端な減食により低栄養状態となり、無月経になる場合がある

食欲、便秘、悪心・嘔吐、その他の主訴

栄養状態との関連

角膜は、ビタミンA、ナトリウム、レンズはカルシウム、ビタミンB2、トリプトファンの影響を受ける

カルシウム、リン、ビタミンD、ビタミンA、マンガンの欠乏によって影響を受ける

たんぱく質低栄養状態、特に血清アルブミン濃度の低下により、浸透圧低下を伴った場合腎機能低下による水分貯留、心不全による循環血液の停滞

鉄欠乏により鉄欠乏性貧血食事摂取量そのものの減少、偏食による鉄欠乏の場合がある

一般症状

低栄養では、脈拍数は減少、血圧は収縮期および拡張期とも降下

重度のたんぱく質・エネルギー低栄養状態では、らせん毛など形態的変化特に毛根の径が栄養状態を反映する

角質増殖を伴った皮膚乾燥症はビタミンA欠乏、脂漏性皮膚炎はビタミンB2欠乏でみられる

ニコチン酸欠乏の際にはペラグラ皮膚炎がおこる

鉄欠乏により舌乳頭萎縮がおこる。悪性貧血でも舌は平滑化。ビタミンB2の欠乏で口角炎がおこる。

④食事調査 Dietary method

体組成や栄養状態は、食事から摂取する栄養素によって常に置き換えられている。実際に

は食事から入ってくるエネルギーや栄養素(IN)に対して、身体が利用するエネルギー・栄養素

(OUT)があっての栄養状態であるので、食事調査による IN の評価は、栄養状態の間接的なア

セスメント法とされている。

食事調査は、摂取エネルギー・栄養素量のほかに、日常摂取している食事・食品群・食品の

量やバランスについての情報にもなる。

食事調査法には、表Ⅲ-2-6 のような方法がある。

表Ⅲ-2-6 食事調査法

方法 特徴

秤量法食べたもの全てを秤量して、食品成分表から算出する

正確であるが、被験者の負担が大きい。

目安記録法食べたもの全てを定量化されている単位で記録し、食品成分表から算出する

秤量法より負担は軽減。被験者の定量の見積もり間違いがありえる。

24時間思い出し法前日24時間で食べたものを思い出させ、フードモデルなどを用いてインタビューで聞き取りを行う。食品成分表から算出する。

被験者の記憶に依存する。

食物摂取頻度調査法食品リストに従って習慣的な食物摂取量と摂取頻度を調査し、食品群摂取量と栄養素摂取量を推定する。

習慣的な平均摂取量の把握が可能。実施が容易。料理からは連想しにくい。

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1日のエネルギー消費量(1日に必要なエネルギー)

安静時エネルギー 活動に必要なエネルギー

安静時エネルギー低強度の身体活動

中等度(3メッツ)以上の身体活動

運動

図Ⅲ-2-3 エネルギー消費量の構成

表Ⅲ-2-7 エネルギー消費量の測定法

①直接的測定法外気と熱の交流を遮断した部屋のなかに人が入り、身体から発散する熱量(温度の上昇)からエネ

ルギー消費量を測定する方法。 生活そのまま、24時間以上にわたって正確に測定することができる。

②間接的測定法一定時間内に消費した酸素量と発生した二酸化炭素量、尿中に排泄された窒素量から体内で燃焼

した糖質、脂質、たんぱく質の量を算出し、この値から発生した熱量を算出する方法。

③二重標識水法酸素の同位体18Oと水素の同位体2Hで標識した水2H2

18Oを一定量摂取し、これが再び自然存在比

に戻るまでの間に体外へ排出された同位体の経時変化からエネルギー消費量を推定する方法。「日本人の食事摂取基準」で利用された方法。

④時間調査票(タイムスタディ)1日の生活活動を分毎に記録し、活動別の消費エネルギー×時間を1日分積み上げて、1日のエネ

ルギー消費量を求める方法。

⑤加速度計法

身体の動きを感知する装置をつけ、そのデータをもとに身体活動量の測定やエネルギー消費量を推算するもの。

(3)エネルギー消費量の評価

食事から摂取するエネルギー量(IN)に対して、身体が 1 日に消費するエネルギー量(OUT)

は図Ⅲ2-3 のように考えられる。エネルギーの IN と OUT を比較し、体重の変化を組み合わせ

てみることによって、エネルギーバランスを評価する。

基礎代謝、安静時代謝、身体活動、運動等の解説は、Ⅴ章を参照のこととする。エネルギー消

費量の測定には、表Ⅲ-2-7 のような方法がある。

4)栄養ケア計画

栄養アセスメントをふまえて、個人の栄養状態の問題を解決するための栄養ケア計画を作成

する。まず、栄養アセスメントの結果をもとに、問題の要点、優先順位を決定し、目標を明確に

する。次に、栄養補給、栄養教育、他領域からの栄養ケアの三本柱で計画を作成する。

- 116 -

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(1)栄養ケアの目標設定

栄養アセスメントで明らかになった栄養・食事の問題について、問題の重大性と実現可能性

の両観点から優先順位をつける。その優先的な課題について、いつまでにどの程度の変化を

求めるかを目標として設定する。目標は長期目標(ゴール)と短期目標を設定する。

(2)栄養補給、栄養教育、他領域からの栄養ケア

①栄養補給

個人が栄養問題を解決するために必要なエネルギー量ならびに各栄養素量、それをどのよ

うな方法で摂取するのかを計画する。

②栄養教育

必要なエネルギー量や栄養素量の摂取は、個人の食行動のなかで行われる。栄養教育に

おいて栄養状態の問題を解決するための食行動変容を促す。ここでは栄養教育をどのように

行うかを計画する。

栄養教育を計画し、実施するためには、すでに述べた栄養状態のアセスメントに加えて、食

行動・ライフスタイルのアセスメント、食行動に関わる要因(準備因子・強化因子・実現因子)や

行動変容ステージのアセスメントも必要となる。

③他職種からの栄養ケア

栄養・食事の問題は、多領域に及ぶため、問題の内容に応じて必要な専門職が介入し、一

人の対象者に対してチームを組んでケアに取り組んでいく必要がある。

(3)栄養ケア計画の立て方

栄養ケア計画は、その先に続く実施、モニタリング、カンファレンス、評価の一連を考慮して

作成する。

栄養ケア計画は、文書化して残す必要があり、その際、いつ、どのような頻度で、だれが、何

をつかって、何をするのか等を示す。例えば、栄養教育の計画では「初回面談をいつ・どこで・

担当者はだれで・時間は○時~○時の○分で行う」に加えて、栄養教育実施後の対象者の実

行状況の把握方法、継続支援の方法、再アセスメントをして栄養問題の改善度・目標達成度の

評価をいつ行うか、 終的な評価はどの指標を用いて行うかまで検討する必要がある。

いつ:日時、所要時間、回数

どこで

だれが

だれに

何を

どのように:用いるもの、形態

ケア計画栄養補給

栄養教育

他職種による栄養ケア

実施状況の確認方法

継続支援方法

再アセスメント(モニタリング)

全体の評価

・・・

図Ⅲ-2-4 栄養ケア計画の作成内容

- 117 -

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5)実施・モニタリング 栄養ケア計画に従い栄養ケア(栄養教育を含む)、継続支援の実施及びモニタリングを行う。

モニタリングの目的は、一点目は予想どおりの経過を追っているかを確認する、二点目は計画

の逸脱が発見された場合に計画を修正・変更する、三点目は再アセスメントをして栄養状態の

改善度や目標の達成度を確認することである。 特定保健指導では、担当者が継続支援において、計画と異なる状況が生じた場合には、速

やかに医師・保健師・管理栄養士に報告する。 6)評価

栄養ケア・マネジメントにおける評価とは、①栄養スクリーニングにはじまる一連の流れにお

いて実施上の問題点がなかったかどうかを検討し(経過評価、プロセス評価)、改善点をみつ

ける(品質改善活動)、②栄養ケアの有効性・効果・効率を明らかにする(成果評価、アウトカム

評価)という 3 つの目的で行われる。これまでの保健指導や栄養指導は、実施人数や個人の改

善度の評価にとどまってきた。これからは PDCA の概念を利用して業務をマネジメントし、目的

の達成度の評価を行い、より効果的な保健指導や栄養指導の提供にむけての改善活動が必

要とされる。

7)栄養教育のための Plan-Do-Check

栄養教育は、栄養ケア・マネジメントの一環で行われるものであり、メタボリックシンドローム有

病者・予備群に行う栄養教育や保健指導も同様である。

医療や介護領域においては、栄養・食事の問題の改善は主に専門職等が提供するケアや

サービスによってはかられるのに対し、保健指導では対象者自身の行動変容やセルフケアに

よって問題を解決していく。したがって、メタボリックシンドロームにおける栄養ケアは、対象者

の行動変容を支援する栄養教育が主体となると言える。栄養教育の Plan-Do-Check を表Ⅲ

-2-8 にまとめた。

表Ⅲ-2-8 栄養教育のための Plan-Do-Check

- 118 -

目的の明確化場所・環境時間:実施時間、時間配分指導形態事前に入手できる情報の収集方法追加して収集すべき情報の内容、収集方法使用する媒体・記録票関連する人の明確化と役割分担費用

栄養教育の実施―信頼関係の構築―事前にある情報の確認、追加情報の収集―アセスメント、問題点の優先順位づけ―栄養の問題と食生活・ライフスタイルの関連性の明確化―知識の提供、目標の設定、行動変容事項の提案―行動変容事項およびモニタリングの計画―今後の予定の確認

栄養教育は計画どおり実施されたかモニタリング・継続支援は計画どおり実施できたか計画どおり実施できなかった事項について、その理由の分析栄養教育による成果の分析―行動変容計画の達成度―目標の達成度―栄養状態の改善度―健康感・QOLの変化

Plan

Do

Check

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- 119 -

8)食行動変容と栄養教育 栄養教育は幅広い年齢層のさまざまな特性をもつ対象に行われるものである。栄養教育の

目標を表Ⅲ-2-9 に挙げた。 人の行動やライフスタイルは、価値観・信念・態度、社会的要因によるその人の生き方そのも

のであり、その変容は容易ではない。したがって、一般的かつ画一的な教育は避けるべきであ

り、また、一方的な指導や解決方法の提言も望ましくない。個々人の現状を把握・理解したうえ

で、個人に対応したより具体的で、実際的な方策を提示し、 終的には対象者がセルフケアで

きるように学習援助していく栄養教育が必要となる。 そこで、栄養教育実践者は、栄養の専門知識に加え、教育学、社会学、行動科学の知識を

あわせもつことが必要とされている(Ⅳ健康教育 1 健康教育の理念と方法を参照)。

表Ⅲ-2-9 栄養教育の目標

① 健康・栄養知識の理解と定着

② 学習および行動変容の動機づけ

③ 健康感の形成

④ 食知識の理解と定着

⑤ 食態度の形成

⑥ 食スキルの習得

⑦ 食行動の変容と維持

⑧ 栄養・食生活情報の評価と選択能力の獲得

⑨ セルフケア能力の習得

⑩ 食環境づくり

ⅰ コンプライアンスとアドヒアランス

コンプライアンスとは「受容」または「応諾」という意味で、専門家の指示する健康増進や疾病

治療に関する指示や助言に対象者が従うことであり、これに応じる行動をコンプライアンス行動

という。一方、アドヒアランスとは対象者が健康増進や疾病治療の計画やセルフケア行動の遂

行に主体的に参加することをいう。栄養教育ではコンプライアンスではなく、アドヒアランスを増

強するよう努める必要がある。

(1)人にとっての食事

人にとっての食事は、極めて多面的である。大きく分類して①よりよい健康状態を作り出すた

めの栄養成分の確保、②おいしい、満足する等の心理的側面、③仲間と食事をする、伝統的

な文化を伝える、その土地環境、食品の安全情報等、文化・社会的側面が挙げられる。

①は生理的要求であり、②は個人的要求である。足立は「①と②の相反する要求を一つの

対象物:食物に求めるところに“薬をのむ”とか“読書をする”等とは違った“食べること”のユニ

ークさがある」と述べている。①②そして③は、人にとっての食べ物を考えるうえで切っても切り

離せない関係にある。

さらに、人は食物を購入して、調理して、食事として食べたり(実はその前に、何をつくって食

べるかを考えて、食品を選ぶという過程がある)、あるいは調理されたものを飲食店や食堂で食

べたり、誰かと食事をするために飲食店の情報を調べたりと、栄養成分が口に入るまでにも多

様なプロセスがあり、その行動に影響する要因も様々にある。また、今日は、食品の範囲も嗜

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好品・嗜好飲料、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)等幅広くなっている。

これらのことをふまえて、栄養教育は身体の栄養状態の問題を明確にするだけではなく、た

とえ同じ栄養状態の課題を持っていたとしても、個々人の食意識・食態度・食行動に応じて行

っていく必要がある。

(2)栄養教育におけるアセスメント

栄養状態のアセスメント(A 身体計測、B 臨床検査、C 臨床診査、D 食事調査)に加えて、栄

養状態に関連する①食行動、②ライフスタイル・身体活動量のアセスメント、③行動変容への

準備段階や、意欲のアセスメントを行う(表Ⅲ-2-10)。①~③には、個人の知識、価値観・信念、

環境が影響する。

表Ⅲ-2-10 栄養状態に関連する要因のアセスメント

食意識・食行動 ライフスタイル・身体活動量 行動変容の準備段階、意欲

食事の回数・タイミング・時間 生活活動時間 行動変容ステージ(朝食の欠食、就寝前の夕食など) 通勤時間・通勤方法 栄養教育への参加態度・意欲空腹感・満腹感と食べる量 仕事の形態・内容 自身の健康の認識・不安感食べる速さ 運動の有無・運動量・頻度・内容 ストレスの有無嗜好品・嗜好飲料の頻度・内容 1日の歩数食事の環境 平日と休日の違い飲酒の頻度・量・種類・理由 行動変容への負担感外食や中食の利用頻度 周囲の人のコメント・それに対する感想メニュー選択の根拠 減量経験の有無・結果・その分析食品購入の際に考えること など など調理の実践度、担当者味付け嗜好サプリメント等の利用

など

健康のためにすでに取り組んでいること・  準備していること

よく使われる表現に「バランスのよい食事」というのがあるが、栄養教育を行う者と対象者が正

確に一致した解釈をしているだろうか。本来は、身体が必要とするエネルギーおよび各種栄養

素を必要な量、過不足なく摂れる食事(食品の種類と量の組み合わせ)のことである。しかし、

個人の知識や価値観、環境によって表Ⅲ-2-11 に挙げる例を捉えていることもある。食事への

着眼点は多岐に及び、いずれも誤りではない。個人の栄養・食事の問題点に対応する場合に

は、要点をおさえた提案が必要となる。

表Ⅲ-2-11 食事のバランス

エネルギーのこと? 米食とパン食?

ビタミンのこと? 主食とおかずのバランス?

糖質・脂質・たんぱく質のバランス? 主食・主菜・副菜のバランス?

動物性の脂肪と植物性の脂肪? 朝食・昼食・夕食のバランス?

食塩の量? 食事と間食のバランス?

緑黄色野菜と淡色野菜? 運動・栄養・休養のバランス?

生鮮食品と加工食品? 輸入食料と自給食料のバランス?

日本料理と外国料理? 栄養的に良いことと  おいしいことのバランス?

(出典:足立己幸、食生活論)

- 120 -

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表Ⅲ-2-12 エネルギー摂取・消費・出納に関する行動アセスメント表の例

- 121 -

問題の有無

○ × - 初回 中間 3ヶ月後 6ヶ月後 中間 3ヶ月後 6ヶ月後

体重(腹囲)の測定をしている a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

体重(腹囲)の測定時間を設定している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

体重(腹囲)の測定結果を記録している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

体重(腹囲)の変動に興味・関心を抱いている a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

生活状況に応じてエネルギーの摂取と消費を考えている a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

食生活の問題を自覚している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

食生活の問題を解決しようとしている a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

栄養成分表示の正確な読み取りができる a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

油の摂取量を減らす調理法を選択している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

食品を必要以上に買わないようにしている a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

料理を必要以上つくらないようにしている a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

野菜を多く食べている a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

飲酒量を制限している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

おやつを制限している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

夜食を制限している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

油脂類の使い方を調節している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

砂糖の使い方を調節している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

塩分の使い方を調節している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

よく噛んで食べるようにしている a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

エネルギー摂取量と体重(腹囲)の関係を実感できている

a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

体重(腹囲)が増加したときには、それに応じてエネルギー摂取量を調節している

a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

生活活動を増やしている a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

運動をしている(増やしている) a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

身体活動量(歩数)を記録している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

身体活動に興味・関心を抱いている a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

身体状況に応じて身体活動量を調節している a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

エネルギー摂取量が多いときには、それに応じて身体活動量(エネルギー消費量)を調節している

a b c d a b c d a b c d a b c d 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5

○:×:-:

達成されている問題である当てはまらない

a:現状維持b:話し合ったc:補足d:話し合っていない

1:1度も示されない2:めったに示されない3:時折示される4:しばしば示される5:一貫して示される

指導状況 実行の程度

エネルギー収支に関する行動アセスメント

エネルギー消費に関する行動アセスメント

エネルギー摂取に関する行動アセスメント

項目

(出典:金川克子他編著、新しい特定健診・特定保健導の進め方 メタボリックシンドロームの理解からプログラム立案・評価までより一部

改変)

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- 122 -

①食行動のアセスメント実施方法

食に関連する情報は幅広く、限られた栄養教育の時間内でこれらの情報を一つ一つ聞き取

っていくことは困難である。そこで、「問題だと感じていることはありますか」「今回の健診結果を

どう思っていますか」等、対象者の自己分析を聞き出し、その回答から掘り下げて聞き出す。こ

れは、対象者が自身の食行動やライフスタイルに向き合い、問題点の気づきへつなげることも

ねらいとしている。

栄養教育の前に食行動やライフスタイルについての質問票や食事記録票、行動記録票へ

の記入を依頼しておくと、予め自身の習慣を見直す機会となる。

②行動アセスメント表の例

アセスメントはできる限り数値化あるいはカテゴリー化したほうが変化の評価を行いやすい。

表Ⅲ-2-12 は、行動アセスメントにおける問題の有無に応じて、栄養教育の実施状況、実行の

程度のモニタリングを一覧で記録できる例である。

(2)食行動変容のための栄養教育の実施

①対象者の栄養問題(課題)と食生活の関連の分析

身体の栄養状態の評価、食事からの栄養素等摂取量の評価は、栄養素のレベルで行うが、

対象者が実際に見て、選んで、口にするのは、食品であり、食品を調理した食事である。

栄養教育を行うためには、アセスメント情報を総合して、①栄養状態の問題とリンクする②栄

養素等摂取量・質の問題を、さらに、その栄養素等摂取状況をもたらした③食行動やライフス

タイルの関連を明確にし、対象者にフィードバックする必要がある。この謎解きは、対象者一人

で解明することはできず、栄養・食事について高度な知識を有する専門職の支援が必要であ

る。この過程を経て、個人の栄養問題を改善するための行動変容のターゲットが絞られることに

なる。

対象者にフィードバックする内容に応じて適切な学習教材を用いると、対象者の視覚的な理

解も促され、また後日の復習にも利用することができる。健康教育の理論と方法を用いて、栄

養教育を展開する(Ⅳ章 1 節参照)。

②食習慣についての改善意識の現状

平成17年国民健康・栄養調査の結果によると、「食習慣を改善したいと思っている」者の割合

は 48.5%であった(図Ⅲ-2-5)。具体的に改善したい項目は「食品を選んだり、食事のバランス

を整えるのに困らない知識や技術を身につける」が 50.8%、「痩せすぎや太りすぎでない体重

を維持する」が 45.9%であった(図Ⅲ-2-6)。

一方、食習慣を改善しようとする場合、「どのようなことが必要と思いますか」については男女

共に「時間的なゆとり」が約 75%であり、「市販食品や外食メニューの栄養成分表示」も高頻度

であった(図Ⅲ-2-7)。

食習慣改善の意識があっても「時間的なゆとりがない」という現状を意味するので、この場合、

単に食事や食習慣の問題点を指摘するだけでは行動変容には働きかけられない。仕事の時

間が、対象者の生活や精神面・身体面にどう影響しているのか、その人の生活全体を捉えて

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考慮する必要がある。あるいは、時間的なゆとりがない中でもできることの提案、時間的なゆとり

がなければできないと思っていることの負担を減らす働きかけが必要になる。

現在の食習慣について、改善したいと思いますか

48.5%51.5%

いいえ はい

48.5%51.5%

いいえ はい

図Ⅲ-2-5 食習慣についての改善意識 (15 歳以上)

(出典:厚生労働省、平成 17 年国民健康・栄養調査)

26.4

27.6

34.9

36.5

37.5

37.6

45.9

50.8

55.1

57.5

55.4

55.2

54.5

47.2

31.5

13.5

7.7

8.0

7.3

7.9

7.0

17.7

11.5

14.1

15.3

31.4

30.7

29.1

80.1

65.6

75.3

78.3

60.5

62.4

61.5

8.4

7.6

9.3

8.0

10.9

8.6

8.7

0 20 40 60 80

テレビCMや、おまけに影響を受けて特定の食品を食べ過ぎない

朝食を食べる

主食を十分に食べる

主菜を多すぎず少なすぎず食べる

果物を食べる

食事時間を規則正しくする

主食・副菜・主菜を組み合わせて食べる

牛乳・乳製品をとる

菓子や甘い飲み物をほどほどにする

油の多い料理を控える

副菜(野菜)を十分に食べる

食塩の多い料理を控える

やせすぎや太りすぎでない体重を維持する

食品を選んだり、食事のバランスを整えるのに困らない知識や技術を身につける

[%] 100

図Ⅲ-2-6 食習慣についての改善意識(項目別)(15 歳以上)

(出典:厚生労働省、平成 17 年国民健康・栄養調査)

- 123 -

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男 時間的なゆとり(77.4%) 女

時間的なゆとり(73.5%) 市販食品や外食メニューの栄養成分表示(70.9%)

学校での教育(70.4%)

学校での教育(66.1%) 食品メーカーからの情報提供(67.8%)

市販食品や外食メニューの栄養成分表示(62.1%) 保健所、保健センター等、行政からの情報提供(64.7%)

食品メーカーからの情報提供(60.4%) スーパーマーケット、コンビニエンスストア等での情報提供(60.9%)

保健所、保健センター等、行政からの情報提供(58.6%)

スーパーマーケット、コンビニエンスストア等での情報提供(52.1%) 身近な場所での栄養士など専門家によるアドバイス(58.9%)

身近な場所での栄養士など専門家によるアドバイス(52.1%) 飲食店での情報提供(51.4%)

飲食店での情報提供(46.4%)

職場での情報提供(33.8%) 職場での情報提供(34.2%)

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

図Ⅲ-2-7 食習慣改善のために必要なこと(15 歳以上)

(出典:厚生労働省、平成 17 年国民健康・栄養調査)

【引用・参考文献】 1) 中村丁次、外山健二 編著:管理栄養士講座 栄養教育論Ⅰ-栄養教育の概念と方法

-、建帛社、2006.

2) 日本健康・栄養システム学会 編:栄養ケア・マネジメントのリーダーになるために、厚生科

学研究所、2003.

3) 奈良信雄 著:看護・栄養指導のための臨床検査ハンドブック第 3 版、医歯薬出版、

2005.

4) 金川克子、津下一代、鈴木志保子、宮崎美砂子 編著:新しい特定健診・特定保健指導

の進め方 メタボリックシンドロームの理解からプログラム立案・評価まで、中央法規出版、

2007.

5) 足立己幸 編著、秋山房雄 共著:食生活論、医歯薬出版、2005.

6) 厚生労働省:平成 17 年国民健康・栄養調査、2006.

- 124 -

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Ⅲ 栄養指導 3 ライフステージ、ライフスタイル別栄養教育 学習のねらい

身体的、精神的、社会的状況等ライフステージ、ライフスタイルに応じた栄養教育のあり方、

方法について理解する。 1)成人期の特徴

成人期とは、25~64 歳までの長い年齢期間をさし、25~44 歳までを壮年期、45~64 歳まで

を中年期という。壮年期は成長期を終え、肉体的にも精神的にも成熟度を増した、充実した時

期といえる。同時に、生体機能の恒常性(homeostasis)を乱す、さまざまな生活環境要因にさら

されることになり(表Ⅲ-3-1)、その後、中年期に入ると個人差はあるものの、それらの影響など

から諸臓器の機能低下をきたし、生活習慣病を誘発しやすくなる。また、40 歳代後半から女性

は更年期を迎え、外部環境の変化に対応しきれずに自律神経失調症をおこしやすく、不定愁

訴が現れやすい。このように、同じ成人期というライフステージの中でも壮年期と中年期、ある

いはその年齢によって特徴は異なってくる。

表Ⅲ-3-1 成人期を取り巻く生活環境

① 長距離通勤、残業、休日出勤など多忙で不規則な生活に起因する慢性疲労の蓄積

② 外食や欠食の増加による栄養素摂取のアンバランス

③ 職場や地域社会における複雑な人間関係、そして子育てや子どもの教育等から生じる悩みや精神的ストレスの増加

④ 日常的な体調不良、食欲不振、睡眠不足、生体リズムの変調による自律神経失調

⑤ エネルギーの過剰摂取や運動不足による肥満化傾向

⑥ 過度の飲酒や喫煙などによる疾病の誘発

(出典:藤田美明、池本真二編、管理栄養士講座 ライフステージ栄養学)

壮年期は精力的に活動する時期であり、多くはこの時期に就職、結婚、出産、育児などを迎

え、生活環境がつぎつぎと変わる。その一方で、社会的な活躍も期待され、次第にその責任も

重くなる。また、共働きの家庭も多く、仕事と育児が重なることにより、男女ともに疲労の蓄積が

みられ、このような変化や責任に伴うストレスの発生が考えられる。また、男性のこの期の変化と

しては、体型において肥満者の増加がみられる時期のため、単身生活の期間から結婚後にい

たっても、この時期の食生活管理は重要といえる。その反面、この期の女性は近年、低体重者

の割合が増加しており、貧血や将来的な骨粗しょう症の健康問題とともに、健康的な妊娠・出

産に向けた適正体重の管理が課題となる。

中年期は、社会的には指導的な役割を担い、家庭では子育てが終わり、一生のうちで も

円熟した時期といえるが、その反面、社会的にも家庭内でも責任が重くなる時期である。仕事

面では、部下を抱える管理的な立場であり、慢性的な超過勤務、あるいは転勤、単身赴任、国

内外の出張なども多くなる。また、家庭面では高齢者の世話なども抱える場合もあるため、睡眠

- 125 -

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不足や過労とともに精神的ストレスの蓄積もみられる。さらに、仕事上の外食・飲酒の機会も増

加するなど、自己の健康管理が困難な状況となり、これらが生活習慣病発症のひきがねとなる

ことがある。また、身体的には基礎代謝の低下が著しくなる時期であり、それに運動不足が加

わることで、消費エネルギーが減少してくる時期である。老化現象としては、感覚機能の衰えも

始まる。特に、加齢とともに味蕾細胞が変化し、味覚閾値が上がることで、塩味の濃い味つけを

好むようになるため、塩分摂取過剰に陥りやすい。中年期は、次に迎える高齢期を健やかに過

ごすためにも、毎日の健康チェックが欠かせない年代である。

壮年期、中年期ともに仕事に重点を置いた生活を送る者は、精神的ストレスが高くなると考

えられる。現代人の悩み、ストレスについての調査は複数行われているが、「平成 14 年国民栄

養調査結果」によると、普段の生活でストレスを感じるものは 20~40 歳代で多く、男女ともに 40

歳代が も高い(図Ⅲ-3-1)。また、ストレスを感じているとき、食事量に明らかな変化があるも

の(「多くなる」「少なくなる」「多くなるときも少なくなるときもある」と回答したもの)の割合は、女

性で約 50%を超え、男性でも約 30%強である(図Ⅲ-3-2)。さらに、ストレスで体重の増加がみ

られるのは女性15.8%、男性6.2%、体重が減少するのは女性12.5%、男性10.2%となっている(図

Ⅲ-3-3)。このように食生活管理や体重管理においても、ストレスの影響は少なくないことから、

ストレス管理は重要といえる。

- 126 -

男 女

図Ⅲ-3-1 ふだんの生活でのストレスの状況

(出典:厚生労働省、平成 14 年国民栄養調査)

図Ⅲ-3-2 ストレスを感じているときの食事量の変化

(出典:厚生労働省、平成 14 年国民栄養調査)

19.8 17.5 21.227.6 30.9

22.712.6

6.7

57.155.9

61.9

62.059.4

60.0

53.9

47.4

23.0 26.616.9

10.4 9.717.2

33.5

45.9

%

%

%

%

100%

総数 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

0%

20

40

60

80

よく感じる 時々感じる まったく感じない

21.2 24.830.4 25.4 26.6

19.9 18.311.6

63.064.2

62.7 68.0 67.7

68.062.0

52.0

15.7 11.0 6.9 6.6 5.712.1

19.8

36.4

0%

20%

40%

60%

80%

100%

総数 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

よく感じる 時々感じる まったく感じない

男 女

12.1

15.856.5

6.8

8.8

多くなる

変わらない

少なくなる

わからない

多くなるときも少なくなるときもある 6.3

17.9

38.0

15.4

22.4

変わらない

少なくなる

わからない

多くなるときも少なくなるときもある

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図Ⅲ-3-3 ストレスを感じているときの体重の変化

(出典:厚生労働省、平成 14 年国民栄養調査)

2)成人期の栄養教育の特徴

成人期の栄養教育の目標は、主として生活習慣病予防・改善のための自己管理能力の習

得といえる。これまでの自身の生活習慣を見直し、食習慣に問題があれば食行動を適正に変

容し、それらを維持する。すなわち、自己観察、自己決定、自己評価を繰り返しながら、主体的

に自己管理能力を習得することが重要である。

また、近年、食に関する情報が氾濫する一方で、図Ⅲ-3-4 に示したように自身で食事づくり

をする機会の減少とともに、食に関する正しい情報を適切に選別し、活用することが困難な状

況がみられるようになり、個々人にとって健全で望ましい食生活の実現に欠かせない、食に関

する知識や判断力が低下しているという問題がある。適切な食事摂取のために必要な知識技

術の有無(図Ⅲ-3-5)の状況をみると、「知識・技術があまり・まったくない」とするものは、男性

の 20~40 歳代で約 70%、女性の 20~30 歳代で約 50%にも及ぶ。適切な自己管理能力を、

若年世代(壮年期)から習得できるような早期のアプローチが必要である。

- 127 -

男 女

19.2

10.2

6.2

64.4

減る(やせる)

増える(太る)

変わらない

わからない

50.5

15.8

12.5

21.2

減る(やせる)

増える(太る)

変わらない

わからない

男 女

図Ⅲ-3-4 食事づくりの状況

(出典:厚生労働省、平成 12 年国民栄養調査)

1.26.8 7.73.6 4.4 4.7 5.07.0 9.0

7.711.7 12.5 12.0 10.4

13.314.1

89.282.2 80.5 81.0 80.1

72.9 69.1

2.7 2.3 4.52.41.90%

20%

40%

60%

80%

100%

15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

20.9

59.568.5 65.0 62.1

39.2

12.1

16.3

16.9 21.515.8

17.3

16.9

22.5

13.0

10.9 10.214.9

14.177.3

44.5

11.2 7.1

29.4

1.14.7

3.33.7

0%

20%

40%

60%

80%

100%

15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

ほとんど毎日2回以上 ほとんど毎日1回 週2~5回 ほとんどしない

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- 128 -

男 女

 十分にある  まあまあある  あまりない  まったくない

図Ⅲ-3-5 適切な食事摂取のために必要な知識・技術の有無

(出典:旧厚生省、平成 11 年国民栄養調査)

(1)生活習慣病の予防・治療と栄養教育

日本人の疾病構造は、この半世紀の間に結核や肺炎などの感染症型の疾病から、生活習

慣型の疾病へと大きくシフトしてきた。生活習慣病は、身体活動レベルの低下や運動不足、喫

煙や過度な飲酒、休養の少ない多忙な日々、エネルギーや動物性脂肪の過剰摂取、外食や

欠食による不規則で偏った食生活等、長年にわたって行ってきた生活習慣が起因となる病気

全般をさす(図Ⅲ-3-6)。その大きな特徴は、原因が個人の生活習慣に大きく依存しているた

め、一人ひとりの努力でかなりのレベルまで予防が可能となる点である。

生活習慣病予防のための食生活上の留意点としてあげられることは、脂肪の量と質に配慮

した摂取エネルギーの適正化、食塩摂取の適正化、食物繊維等の十分な摂取のための野菜・

果物等の摂取量増加、欠食等不規則な食事や嗜好中心の外食に偏った食生活の是正などで

ある。

図Ⅲ-3-6 生活習慣病の発生要因

(出典:藤田美明、池本真二編、管理栄養士講座 ライフステージ栄養学)

3.5 3.3 1.9 3.7 3.7 3.8 3.3 4.7

28.318.6 22.6 23.0

28.132.7 33.3 33.4

49.4

48.551.6

54.151.2

45.9 48.4 46.0

18.9

29.623.9

19.3 17.0 17.6 15.1 15.9

0%

20%

40%

60%

80%

100%

総数 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

4.2 4.0 2.94.7

9.1 10.418.2

33.932.8 31.338.4 43.5 33.9

47.0

57.3

56.456.0 57.049.749.4 47.5

40.3

22.6

6.17.2 7.65.7 3.6 6.14.91.9

6.5

0%

20%

40%

60%

80%

100%

総数 15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

・病原性微生物

・有害物質

・事故

・ストレッサー

外部要因 遺伝的要因と加齢 生活習慣要因

・不適切な食生活

・生活活動強度の低下

・喫煙・過度の飲酒

・休養の少ない多忙な生活

・遺伝子異常

疾病の発症

・病原性微生物

・有害物質

・事故

・ストレッサー

外部要因 遺伝的要因と加齢 生活習慣要因

・不適切な食生活

・生活活動強度の低下

・喫煙・過度の飲酒

・休養の少ない多忙な生活

・遺伝子異常

疾病の発症

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(2)労働と栄養教育

近年、雇用形態が終身雇用から契約社員、派遣労働者など様々に変化してきており、また

就労条件も夜間勤務や夜間と日中の交替勤務、シフト制等、日常生活が規則的に送れない状

況が多くなっている。また、就労状況は労働者自身の食生活だけではなく、その家族の食生活

への影響も考慮される。

不規則勤務者の場合、家族との生活リズムが異なることで家族が揃って食事をすることがで

きなくなり、それだけ楽しくバラエティに富んだ食事ができないことも少なくない。外食や市販食

品を利用した場合、偏った食事となることもあるため、家族の協力により栄養のバランスを考慮

した弁当を持参する、あるいは外食や市販食品を利用したとしても、その内容を自身で適切に

選択できるような食スキルの習得が必要である(次々項(4)外食と栄養教育 を参照)。

交替(夜間)勤務者の健康課題としては、睡眠障害、慢性疲労、消化器疾患、循環器疾患等

があげられる。昼間勤務の 3 食摂取のリズムから、引き続き夜間勤務となる場合は、夜間就労

時のエネルギー必要量を補充する摂取が必要となるが、その1食量が過剰となると、生活習慣

病の引き金にもなることから、低エネルギーの内容を選択するなどの配慮が必要である(表Ⅲ

-3-2)。また、勤務明けで昼間に休養する際の、直前の食事についても同様である。さらに、夜

間勤務者は概日リズム変動への影響が考慮されるが、勤務以外での家庭生活や社会生活な

ど一般生活の環境が逆転していない場合は、概日リズムも完全には逆転しないといわれる。規

則正しい食事は、光刺激とともに概日リズムを是正する要因なので、交替勤務者でも日中勤務

の場合は、なるべく規則正しい食生活を心がける努力が大切である。また、このような不規則勤

務者に対しては、食生活の配慮とともに、睡眠障害の面においても、食生活におけるセルフケ

アが可能となる支援が重要である(表Ⅲ-3-3)。

表Ⅲ-3-2 夜間勤務時の食事における留意点

夜10時~朝6時くらいまでは、消化機能が低下するため、しっかりした食事は避ける

勤務中の間食には軽めで消化のよい食品を選ぶ(おにぎりやサンドイッチなどの炭水化物や、フルーツ、野菜、牛乳・乳製品)

水分は消化を助けるため、定期的に補給する(甘味のあるスポーツ飲料、利尿効果のあるカフェイン、アルコールは避ける)

味が濃く、香辛料に富む食品、コーヒー、濃い紅茶・緑茶、トマトジュース、アルコールといった胃酸分泌を促す食品は少なめにする

脂肪を多く含む食品は胃の不快感を起こすので避ける

できるだけ温めてよく噛んで食べると胃の負担が少ない

表Ⅲ-3-3 睡眠障害予防の食事における留意点

① 就寝3~4時間前のカフェイン摂取は避ける

アルコールは入眠しやすくするが睡眠サイクルを乱し、結果的に睡眠の質を低下させるので避ける

深夜の糖分が多い食品の摂取は、食直後(20分程度)に元気が出るが、その後摂取前より眠気が強くなるため、控えめにする(肥満予防や、口腔保健からも必要)

勤務明けに仮眠をとる際、安眠効果を高めるアミノ酸(L-トリプトファン)が含まれる牛乳・乳製品、ナッツ、マグロ、鶏肉などを取り入れた軽食をとるとよい

- 129 -

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前述のように、成人期には仕事による精神的疲労やストレスの蓄積がみられる。ヒトはストレス

下にあると、体たんぱくの分解が亢進され、たんぱく質必要量が増大する。身体的ストレスや細

菌感染などの生物学的ストレスのみならず、緊張、悲しみなどの精神的ストレスも同様である。

また、ビタミンCの消費量も増大するため、両者の十分な摂取が必要である。 なお、日常の身体活動量は、就労内容により異なる。特に、現代における機械化や技術の

進展により、肉体的労働に伴うエネルギー消費量は減少しているため、栄養・食生活の改善に

向けた支援の際は、日常の作業内容を確認してから、身体活動によるエネルギー消費量を推

定することも忘れてはならない。

(3)職場給食と栄養教育

2003 年に施行された健康増進法および施行規則において、適切な食事の提供を通して、

生産性や作業能率の向上を図るとともに、労働者の健康の保持・増進や生活習慣病等の予防

を目的とした特定給食施設のひとつとして、職場給食が明確に位置づけられた。また、「健康

日本 21」においても栄養・食生活分野の“環境レベルの目標”として、ヘルシーメニューの提供

の増加と利用の促進や、学習の場の増加と参加の促進などが示されており、これらにおける職

場給食が果たすべき役割は大きい。

職場給食で提供される食事はそれ自体が教材であり、それに関連して提供される多様な形

態の情報もまた教材である。健康に配慮した食事を継続的に対象者に提供することにより、教

育的な効果が大いに期待でき、かつ健康的な食生活に向けた対象者の行動変容を支えること

ができる。そのため、事業者とともに教育の場である給食施設とその周辺を含めた食環境を整

備することは、対象者の健康づくり施策上も重要な課題である。

(4)外食と栄養教育

「外食」とは、飲食店での食事や家庭以外の場所で出前をとるなど、家庭で調理せず、また

食べる場所も家庭ではない場合をいう。成人の昼食における外食率(調理済み食品を含む)は

高く(図Ⅲ-3-7)、男性では 20~50 歳代の約 50%、女性では 20~30 歳代の約 40%になる。

- 130 -

36.650.6 50.3 48.6 45.3

26.1

11.1

6.1

7.0 7.1 6.45.6

5.7

5.6

54.036.3 37.9 42.6 47.0

65.6

80.5

6.1 4.73.2 2.4 2.1 2.6 2.6

0

20

40

60

80

図Ⅲ-3-7 昼食の外食率(20歳以上)

(出典:厚生労働省、平成 17 年国民健康・栄養調査より作成)

100

総数 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

(%)

19.730.9 28.8 25.3 23.5

12.77.9

8.0

8.4 8.810.2

8.3

6.07.4

68.554.7 58.5 59.3 64.7

78.9 81.4

5.9 3.83.32.43.45.33.8

0

20

40

60

80

100

総数 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

(%)外食、給食 調理済み食 家庭食 欠食

男 女

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外食の主な特徴を、料理の種類別に以下に示す。 ・洋食:肉類、バター、生クリーム由来の脂質が多く、高エネルギーである。スパゲティやピラ

フなどは糖質と脂質中心の組み合わせになりがちである。付け合せの野菜だけでは

必要量には満たない。塩分は、和食、中華に比べて少ない。 ・中華:調理に油脂類を多く使用し、高エネルギーである。ラーメンなどめん類では塩分が多

くなる。野菜は比較的多めに摂取できる。 ・和食:エネルギーは他の料理と比べ全般的に低いが、中には油ものとごはんの組み合わせ

で、天丼、カツ丼のように高くなるものもある。めん類、寿司、丼ものなど単品ものは野

菜が不足しやすい。また、塩分が全般的に多いのが特徴である。 ・ファーストフード類:

全般的に油と糖質の組み合わせであり、高エネルギーであり、野菜が不足している。

上記の特徴をふまえ、外食を利用する際は、毎日料理の種類に変化をつける、油を多く使う

料理が重ならないようにする、野菜の多いメニューやセットメニューを選択する、めん類の汁は

残す、飲酒時のつまみもエネルギーや脂質の少ないものを選ぶなどの注意が必要である。ま

た、外食が多くなると不足しがちな牛乳・乳製品や果物も、間食として取り入れることを勧める。 食環境整備の一環として、食品や料理に栄養成分表示が行われているが、特に男性におい

ては、それらが十分に活用されているとはいいがたい(図Ⅲ-3-8)。また、 近は食品関連企業

などの努力によって、栄養成分表示だけではなく、食事バランスガイドを活用した表示も行わ

れている。栄養・食教育の際は、それらの活用を促すことも必要である。

図Ⅲ-3-8 栄養成分表示を利用する人の割合 -15 歳以上、性・年齢階級別-

男 女

3.8 8.3 3.7 5.9 8.7 7.2

23.9

59.6 51.547.5

54.3 45.4

65.644.6

36.5 40.248.8

39.8 45.9

27.2 31.5

0%

20%

40%

60%

80%

100%

15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

10.8 6.1 8.3 10.1 14.0 12.723.4

55.473.9 74.0 72.9 66.2 74.2 59.3

33.820.0 17.7 17.0 19.8

13.1 17.4

0%

20%

40%

60%

80%

100%

15-19歳 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

いつも参考にして選ぶ 時々参考にして選ぶ ほとんど参考にしない

(出典:厚生労働省、平成16年国民健康・栄養調査より作成)

(5)単身生活者と栄養教育 単身生活者の特徴としては、生活リズムが乱れやすいために、欠食や間食・夜食による食生

活の乱れや、外食や調理済み食品の利用による栄養のバランスの偏りがみられる。特に、20~30 歳代の若年男性の一人世帯においては、朝食の欠食率がかなり高いため、朝食の重要

性を理解してもらいつつ、栄養バランスの良い朝食を手軽に用意できるような支援を行う。また、

20 歳代は他の年代と比較し、野菜摂取量が も少ないため(図Ⅲ-3-9)、前項の外食における

野菜の増やし方についても指導する。

- 131 -

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総数

99.0 77.4 89.0 87.8 101 .7 111 .2 113 .3

200.3

165.3172.8 193.2

213 .4228 .6 207 .8

0

50

- 132 -

図Ⅲ-3-9 野菜類の年代別摂取量

(出典:厚生労働省、平成17年国民健康・栄養調査)

【引用・参考文献】 1) 藤田美明、池本真二編:管理栄養士講座 ライフステージ栄養学、建帛社、2007.

2) 内閣府:平成18年版食育白書、(社)時事画報社、2006.

3) (社)日本栄養士会、他監修:管理栄養士受験講座 応用栄養学、第一出版、2007.

4) 石井功、佐々木敏、他:応用栄養学 第 3 版、第一出版、2006.

5) 坂本元子編著:栄養教育論、第一出版、2004.

6) 笠原賀子、川野因編:栄養科学シリーズNEXT 栄養教育論 第 2 版、講談社、2007.

7) マーティン・ムーアイード著、東敏昭訳:深夜に働く人の健康ガイド、中央労働災害防止協

会、2000.

8) 旧厚生省:国民栄養調査、1999~2000.

9) 厚生労働省:国民健康・栄養調査、2002~2005.

男 女

■緑黄色野菜 □その他の野菜(緑黄色野菜以外)

100

150

20歳以上(再掲) 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

〔g〕 (339.8g)

200

250

300

350

(299.3g)

(242.7g)(261.8g)

(281.0g)(315.1g)

(321.1g)

99.0 77.4 89.0 87.8 101 .7 111 .2 113 .3

200.3

165.3172.8 193.2

213 .4228 .6 207 .8

0

50

150

20歳以上(再掲) 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

〔g〕 (339.8g)

300

350 (321.1g)

(315.1g)(299.3g)

(281.0g)(261.8g)

(242.7g)250

200

100

99.4 78.8 89.4 86.8 103.9 113.7 109.0

193.4

160.3 161.7 188.0209.0

216.6200.6

0

50

100

150

200

250

300

350

総数(20歳以上) 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

〕〔g

(292.8g)

(239.1g) (251.1g)(274.8g)

(312.9g)(330.3g)

(309.6g)

99.4 78.8 89.4 86.8 103.9 113.7 109.0

193.4

160.3 161.7 188.0209.0

216.6200.6

0

50

100

150

200

250

300

350

総数(20歳以上) 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

〕〔g

(292.8g)

(239.1g) (251.1g)(274.8g)

(312.9g)(330.3g)

(309.6g)

99.9 80.1 89.8 86.0 105.7 115.8 105.6

187.3

155.3 151.2 183.6205.4 206.6

195.2

0

50

0

0

0

0

0

0

20歳以上(再掲) 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

〔g〕

10

15

20

25

30

35

(287.2g)

(235.4g) (241.0g)(269.6g)

(311.1g)(322.4g)

(300.8)

99.9 80.1 89.8 86.0 105.7 115.8 105.6

187.3

155.3 151.2 183.6205.4 206.6

195.2

0

50

0

0

0

0

0

0

20歳以上(再掲) 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70歳以上

〔g〕

10

15

20

25

30

35

(287.2g)

(235.4g) (241.0g)(269.6g)

(311.1g)(322.4g)

(300.8)

*( )内は、「緑黄色野菜」及び「その他の野菜

(野菜類のうち緑黄色野菜以外)」摂取量の合

計。

Page 58: Ⅲ栄養指導 - mhlw.go.jp · 2.食行動の変容と栄養教育 ... を栄養成分の特徴別に分類したものに食品群がある(表Ⅲ-1-1)。 表Ⅲ-1-1食品群の栄養成分的特徴

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