7
159 陸上競技選手の心理的競技能力に関する研究 1) 丸山 章子 2) ・井箟 2) A study of Psychological Competitive Ability on Track and Field Athletes 1) Akiko MARUYAMA 2) and Takashi INO 2) 本研究の目的は、陸上競技選手の心理的競技能力を調査し、性差、競技レベル差、競技種目差について比較、検 討することである。その結果は次の通りである。 性差を比較した結果、「協調性」は男性よりも女性の方が有意に高い得点を示した。また、競技レベル差を比較 した結果、「精神の安定・集中」、「協調性」に有意差はなく、「競技意欲」、「自信」、「作戦能力」は、地区レ ベルよりも全国レベルの方が有意に高い結果であった。さらに、競技種目差を比較した結果、ほとんどの種目間で 有意差は見られず、障害と競歩の間にのみ、「協調性」の尺度で有意差が見られた。 キーワード:心理的競技能力、陸上競技、DIPCA.3、性差、協調性 ! 研究目的 陸上競技は、走・跳・投の基本的な運動であり、一見単純な競技に思われがちであるが、より速く走り、より高 く(遠くへ)跳び、より遠くに投げることを日々追求してゆく過程には、実に多くの要因が関係しているスポーツ である。世界記録は年々更新され、とどまるところを知らないが、その要因には、技術の進歩、用具・施設の改良、 トレーニング方法などが挙げられる。また、運動学や心理学などのスポーツ科学分野からのアプローチも記録更新 に関わっているものと思われる。 本研究では、その中でも特に心理学的な視点から陸上競技を考えていきたい。陸上競技は各競技種目でも、競技 特性が異なり、トレーニング方法、コンディション作りなどにおいて様々な相違点がある。日々の練習習慣や競技 会を繰り返し、競技を継続していくことで選手の心理面に何らかの影響があるものと推測される。 徳永 14) によると、心理的競技能力とは、スポーツ競技場面で必要な一般的傾向としての心理的能力のことを示し、 5つの因子と12の項目に分類される。それを診断する検査が心理的競技能力診断検査(DIPCA.3)であり、スポー ツ選手の精神力を診断する評価尺度としては、もっとも利用されている心理検査の一つである。 心理的競技能力については、国民体育大会出場選手や各競技スポーツ選手などを対象にして、男女やレベル、競 技年数などの差について研究されてきた。 13)15) しかしながら、陸上競技選手、特に競技種目別に分類し、比較した研 究は少ない。 そこで本研究では、陸上競技選手を対象に、心理的競技能力について調査し、性差・競技レベル差・競技種目差 について比較、検討することを目的とする。そして、今後の陸上競技選手の心理的特性を理解するための一資料と したい。 1):平成25年10月10日受付;平成25年10月31日受理。 Received Oct. 10, 2013 ; Accepted Oct. 31, 2013. 2):金沢学院大学 スポーツ健康学部;Faculty of Sports and Health, Kanazawa Gakuin University.

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159

陸上競技選手の心理的競技能力に関する研究1)

丸山 章子2)・井箟 敬2)

A study of Psychological Competitive Ability on Track and Field Athletes1)

Akiko MARUYAMA2)and Takashi INO2)

要 約

本研究の目的は、陸上競技選手の心理的競技能力を調査し、性差、競技レベル差、競技種目差について比較、検

討することである。その結果は次の通りである。

性差を比較した結果、「協調性」は男性よりも女性の方が有意に高い得点を示した。また、競技レベル差を比較

した結果、「精神の安定・集中」、「協調性」に有意差はなく、「競技意欲」、「自信」、「作戦能力」は、地区レ

ベルよりも全国レベルの方が有意に高い結果であった。さらに、競技種目差を比較した結果、ほとんどの種目間で

有意差は見られず、障害と競歩の間にのみ、「協調性」の尺度で有意差が見られた。

キーワード:心理的競技能力、陸上競技、DIPCA.3、性差、協調性

� 研究目的

陸上競技は、走・跳・投の基本的な運動であり、一見単純な競技に思われがちであるが、より速く走り、より高

く(遠くへ)跳び、より遠くに投げることを日々追求してゆく過程には、実に多くの要因が関係しているスポーツ

である。世界記録は年々更新され、とどまるところを知らないが、その要因には、技術の進歩、用具・施設の改良、

トレーニング方法などが挙げられる。また、運動学や心理学などのスポーツ科学分野からのアプローチも記録更新

に関わっているものと思われる。

本研究では、その中でも特に心理学的な視点から陸上競技を考えていきたい。陸上競技は各競技種目でも、競技

特性が異なり、トレーニング方法、コンディション作りなどにおいて様々な相違点がある。日々の練習習慣や競技

会を繰り返し、競技を継続していくことで選手の心理面に何らかの影響があるものと推測される。

徳永14)によると、心理的競技能力とは、スポーツ競技場面で必要な一般的傾向としての心理的能力のことを示し、

5つの因子と12の項目に分類される。それを診断する検査が心理的競技能力診断検査(DIPCA.3)であり、スポー

ツ選手の精神力を診断する評価尺度としては、もっとも利用されている心理検査の一つである。

心理的競技能力については、国民体育大会出場選手や各競技スポーツ選手などを対象にして、男女やレベル、競

技年数などの差について研究されてきた。13)15)しかしながら、陸上競技選手、特に競技種目別に分類し、比較した研

究は少ない。

そこで本研究では、陸上競技選手を対象に、心理的競技能力について調査し、性差・競技レベル差・競技種目差

について比較、検討することを目的とする。そして、今後の陸上競技選手の心理的特性を理解するための一資料と

したい。

1):平成25年10月10日受付;平成25年10月31日受理。

Received Oct. 10, 2013 ; Accepted Oct. 31, 2013.

2):金沢学院大学 スポーツ健康学部;Faculty of Sports and Health, Kanazawa Gakuin University.

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160 金沢学院大学紀要「経営・経済・情報科学・自然科学編」 第12号(2014)

� 研究方法

1.調査対象

対象は北信越学生連盟に加盟している大学陸上競技部の選手を対象とした。対象の総数は225名、内訳は男性162

名、女性63名であった。また、競技種目別では短距離55名、中長距離66名、跳躍35名、投擲29名、障害17名、競歩

1名、混成6名であった。

2.調査実施方法

北信越学生連盟に加盟している各大学、所属団体に調査を依頼し、心理的競技能力診断検査(DIPCA.3,中学生

~成人用)を実施した。

3.調査期間

調査は、平成24年8月1日~10月15日にかけて行った。

4.調査項目

本研究では、各競技者の心理的競技能力を把握するため、心理的競技能力診断検査(DIPCA.3,中学生~成人用)

による調査を行った。心理的競技能力診断検査は、スポーツ選手に大切な心理的能力を表す48項目と検査の信頼性

を表す4項目の計52項目で構成される。48項目は12尺度に分類され、12尺度は5因子に分けられる。検査の信頼性

を表す4項目は1つの尺度に分類される。調査項目は、表1に示した。

表1 心理的競技能力診断検査の因子と尺度

�.因子 競技意欲

尺度 ①忍耐力…我慢強さ、粘り強さ、苦痛に耐える

②闘争心…大試合や大事な試合での闘志やファイト、燃える

③自己実現意欲…可能性への挑戦、主体性、自主性

④勝利意欲…勝ちたい気持ち、勝利重視、負けず嫌い

�.因子 精神の安定・集中

尺度 ①自己コントロール能力…自己管理、いつものプレイ、身体的緊張のないこと、気持ちの切りかえ

②リラックス能力…不安・プレッシャー・緊張のない精神的なリラックス

③集中力…落ちつき、冷静さ、注意への集中

�.因子 自信

尺度 ①自信…能力、実力発揮、目標達成への自信

②決断力…思いきり、素早い決断、失敗を恐れない決断

�.因子 作戦能力

尺度 ①予測力…作戦の的中、作戦の切りかえ、勝つための作戦

②判断力…的確な判断、冷静な判断、素早い判断

�.因子 協調性

尺度 ①協調性…チームワーク、団結心、協力、励まし

�.尺度 ① Lie Scale…検査結果の信頼性

因子の最大値は競技意欲80、精神の安定・集中60、自信40、作戦能力40、協調性20、尺度の最大値は20となっている。

これらの尺度は、試合中の心理状態との相関が高く、試合中の心理状態を予測・分析することができる。従って、心理的競技能力

の得点が高ければ、試合中に望ましい心理状態をつくることの予測・分析が可能となる。

5.調査結果の採点方法

心理的競技能力診断検査(DIPCA.3,中学生~成人用)の採点は採点表に従って、各尺度の○印の付いた数字

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161丸山・井箟:陸上競技選手の心理的競技能力に関する研究

(得点)を合計し、小計を求める。○印の付いた数字を合計して、小計と合計の得点を計算し、記入する。なお、

Lie Scaleの合計得点が12点以下であるならば、検査の信頼性が乏しいので、回答傾向をチェックし、問題があれば、

診断しないこととする。14)

6.解析

1)比較対象の分類

比較対象を性差、競技レベル差、競技種目差に分類した。性差は男女別、競技レベル差は全国大会の経験の有無

で全国レベル、地区レベルで分類した。また、種目差は短距離、中長距離、跳躍、投擲、障害、競歩、混成の7つ

に分類した。

2)解析方法

各競技者個人に心理的競技能力診断検査を実施し、採点、分析した。また信頼性を表す Lie Scaleの合計得点が

12点以下の競技者については、回答の信頼性に欠ける恐れがあるので統計処理から省いた。

まず、性差においては男性、女性の2群、レベル差においては全国大会出場レベル、地区大会出場レベルの2群

に分類し、この2群の因子、尺度ごとの心理的競技能力の得点をもとに t検定を用いて差異を比較した。有意水準

は5%水準に設定した。

次に競技種目別においては短距離、中長距離、跳躍、投擲、障害、競歩、混成の7項に分類し、この7項の因子、

尺度ごとの心理的競技能力の得点をもとに F検定を用いて一元配置分散分析にて差異を比較した。有意水準は5%

水準に設定した。

� 結果及び考察

1.陸上競技選手の心理的競技能力にみられる性差

表2は、対象者の心理的競技能力における性差について、尺度別、因子別の平均値を算出し、t検定を行なった

結果である。また、図1は因子別得点の平均値、図2は尺度別得点の平均値をグラフ化したものである。

性差を比較検討した結果、平均値においては若干の差は見られたものの、顕著な差はなく、因子・尺度ともに、

「協調性」においてのみ、女性が男性より有意に高い得点を示した。この結果から、陸上競技は、心理的競技能力

において、性差が表れにくい競技と考えられる。

陸上競技の特徴として、リレーなどの団体競技を除

いては、ほぼすべて個人競技であり、自分1人の実力

を試し、自己の記録に挑戦していくという比較的孤独

で地道な競技と言える。「協調性」の因子で性差が表

れたのは、孤独な競技に男性は一人でも立ち向かって

いくことができ、女性は、個人競技とはいえ、練習仲

間など周囲との関わりを持ちながら、競技を遂行して

いきたい気持ちが強いことが予想される。宮下7)も2000

人近い日本人スポーツ選手を対象とした調査で「女性

は男性に比べ、自信、精神の安定・集中が低く、協調

性が高い傾向がある」と報告している。自信、精神の

安定・集中では結果は一致しなかったが、協調性の尺

度では、本研究も同じ結果を示している。

多くの心理学者や脳生理学者は人の行動に対して、

明らかに男女差が認められることを指摘している。1)2)8)

一般的に女性は周囲との協調性に優れていると言われ

る。このことから、男女の差で「協調性」に有意差が

あったのではないかと考えられる。これは、陸上競技

表2 心理的競技能力の尺度別、因子別性差

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162 金沢学院大学紀要「経営・経済・情報科学・自然科学編」 第12号(2014)

だけに限らず、スポーツ全般に共通して言えるのかも

しれない。

一方、図2から、男女とも予測力、判断力である「作

戦能力」の数値が他の数値に対して低いことが伺える。

陸上競技というスポーツは、比較的安定した環境のも

と行われるクローズドスキルスポーツであるので、他

のオープンスキルスポーツと比較し、作戦能力を必要

としない傾向にあるのではないかと思われる。9)

2.陸上競技選手の心理的競技能力にみられる競技レ

ベル差

表3は、対象者の心理的競技能力における競技レベ

ル差について、尺度別、因子別の平均値を算出し、t

検定を行なった結果である。また、図3は、因子別得

点の平均値、図4は尺度別得点の平均値をグラフ化し

たものである。

競技レベル別(全国レベル、地区レベル)で比較し

た結果から、因子・尺度ともに全国大会に出場経験が

ある選手の平均値が全国大会に出場経験がない選手の

図1 因子別得点の性差 図2 尺度別得点の性差

表3 心理的競技能力の尺度別、因子別レベル差

図3 因子別得点のレベル差 図4 尺度別得点のレベル差

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163丸山・井箟:陸上競技選手の心理的競技能力に関する研究

平均値を全て上回った。因子では「精神の安定・集中」、「協調性」に有意差はなく、「競技意欲」、「自信」、「作

戦能力」に有意な差が見られた。徳永ら13)の研究によると、スポーツ選手を対象にレベル別で心理的競技能力を比

較した結果、「競技レベルの高い選手ほど、自信、作戦能力が顕著に優れ、そのほか競技意欲や精神の安定・集中

も優れていた。しかし、協調性については、顕著な差は認められなかった」と報告している。「精神の安定・集中」

の結果以外は、本研究の結果とほぼ一致する。

陸上競技に限らずスポーツ競技においては、高い競技レベルを維持するためには、「競技意欲」が不可欠である

ため、低いレベルの選手に比べ有意な差が見られたものと考えられる。また、記録達成や大会での順位などの結果

が出ていることによって、それが裏付けとなり「自信」にもつながっているものと予測される。さらに、クローズ

ドスキルといえども、予選、準決勝、決勝と勝ち抜いていくための戦術などが関与している「作戦能力」も、高い

レベルの選手にはある程度は必要になってくると思われる。一般的に、予選突破が目標のレベルの低い選手は、予

選のレースや試技から全力で戦う一方、決勝で勝つことや入賞を目標としている高いレベルの選手は予選は突破す

るだけで余力を残し、準決勝や決勝に力をためておくものであるが、その傾向が裏付けられたものと考えられる。

尺度別では、「自己実現意欲」、「リラックス能力」、「集中力」、「協調性」に有意な差は見られなかった。全

国大会を経験していなくても、目標、やる気を持ち、日々努力して競技レベルを上げようとする面や試合でも不安

やプレッシャー等のない精神的なリラックス、落ちつきや冷静さをもって臨む集中力、部内または各種目内で協力

し合う面などの協調性はレベルに差はないものだと思われる。

一方、「忍耐力」、「闘争心」、「勝利意欲」、「自己コントロール能力」、「自信」、「決断力」、「予測力」、「判

断力」には有意な差が見られた。全国レベルの大会を経験していることで、自分自身を追い込む練習や地味な練習

に耐える忍耐力、普段していることを試合で発揮ことや試合に向けての自己調整、自己管理などの自己コントロー

ル能力が身についているものと思われる。また、練習経験や試合経験を積むことによりを得られる自信、さらに陸

上競技は天候や寒暖、時間の遅延等への対応力が必要となってくるため、体を温めるウォームアップの段階からそ

れらの要素を考え、予測、決断、判断する力といった試合に必要不可欠な精神面の強さもレベルの差で結果に表れ

たものと考えられる。

3.陸上競技選手の心理的競技能力にみられる競技種目差

表4は、対象者の心理的競技能力における競技種目差について、尺度別、因子別の平均値を算出し、F検定を用

いて一元配置分散分析を行なった結果である。また、図5は、因子別得点の平均値、図6は尺度別得点の平均値を

グラフ化したものである。

競技種目別で比較した結果、因子・尺度ともに障害競技(110mH、400mH)と競歩競技(5000mw、10000mw等)

に関して唯一「協調性」に有意差が見られた(障害が、競歩と比較し、有意に高い得点を示した)が、他の因子、

尺度には有意差は見られなかった。

この結果からまず考えられることは、陸上競技は色々な競技種目があるが、共通の競技特性を持ち、種目が違っ

ても選手の心理面では、共通点が多いということである。一つに個人競技であり、練習はもくもくと自己と向き合

って、地道に積み上げていくという競技特性の影響と言えよう。その競技特性は、各種目共通であると思われる。

障害と競歩の「協調性」の得点に有意差が見られた理由は以下のように考えられる。調査対象である大学や所属

団体での練習方法は、個人競技ではあるが、各種目別でブロック(グループ)を作り、行うことがほとんどである。

これは、陸上競技の練習によく見られるスタイルである。障害競技は、スタート練習などが技術練習となる短距離

ブロック(グループ)や個人または集団で長い距離を走りこむ中長距離ブロック(グループ)に分かれ練習が行わ

れることが多い。また、用具(ハードル等)の準備や練習時間を合わせ、決められたレーンを使用し、走る順番の

譲り合いなど様々な場面で協力し合うことが多々ある種目である。それに対して、競歩競技は、練習でも黙々と長

い距離を歩き続ける種目であり、中長距離のブロックと違い、個々のスピードの差が出やすく、集団で同じペース

で歩くことが難しいため、個人のペースで練習することが多い種目である。このように、障害競技と競歩競技では、

練習方法に違いがあるため、「協調性」に差が見られたのではないかと考えられる。

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164 金沢学院大学紀要「経営・経済・情報科学・自然科学編」 第12号(2014)

� まとめ

本研究では陸上競技選手の心理的競技能力を調査し、性差、レベル差、競技種目差について比較、検討した。そ

の結果は次の通りである。

1.性差

性差を比較した結果、「協調性」は男性よりも女性の方が有意に高い得点を示した。女性陸上競技選手は、男性

陸上競技選手よりも仲間や周囲との関わりを持ちながら競技を行うことを好み、協調性を重視する傾向があると考

えられる。

2.競技レベル差

表4 心理的競技能力の因子別、尺度別競技種目差

図5 因子別得点の競技種目差 図6 尺度別得点の競技種目差

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165丸山・井箟:陸上競技選手の心理的競技能力に関する研究

競技レベル差(全国大会出場レベル、地区大会出場レベル)を比較した結果、「精神の安定・集中」、「協調性」

に有意差はなく、「競技意欲」、「自信」、「作戦能力」は、地区レベルよりも全国レベルの方が有意に高い結果で

あった。陸上競技においては、競技レベルが上がると、より勝ちたいという闘争心が増し、結果がついてくること

で自信がつき、さらに作戦能力が増すと考えられる。

3.競技種目差

陸上競技の種目差を比較した結果、ほとんどの種目で有意差は見られなかった。これは、陸上競技の競技種目は

共通の競技特性を持ち、種目が違っても選手の心理面では、共通点が多いということを示唆している。障害と競歩

の間にのみ、「協調性」の因子・尺度で有意差が見られた。この差は練習方法が影響していると思われる。

� 今後の課題

今回の調査では、北信越学連加盟校陸上競技部を対象に調査を実施し、その中での心理的競技能力の差異を比較

した。調査対象が競技レベルや競技経験の異なる集団であるため、所属団体の特徴や考え方、練習方法などが様々

である。調査の研究対象をより広範囲で行い、全国有数の学校、大学、実業団等で比較できれば、陸上競技選手に

必要な心理的競技能力のより明確な資料が得られると思われる。また、他の競技との心理的競技能力の違いを調査

できれば、興味深い結果が得られると考えられる。そして、陸上競技選手を理解し、指導面に役立てていくことが

課題である。

引用参考文献

1)新井康允 ここまでわかった!女の脳・男の脳 ブルーバックス 講談社 1994

2)新井康允 脳の性差-男と女の心を探る ブレインサイエンス・シリーズ16 共立出版 1999

3)古 章子 トランポリン競技選手における心理的スキルトレーニングプログラムに関する研究―県内ジュニアトップクラス選手

8名の事例研究― 金沢学院大学紀要 経営・経済・情報科学・自然科学編 第9号 p175-183 2011

4)市村操一編著 Taipel,D共著 トップアスリーツのための心理学―スポーツ心理学入門―同文書院 1993

5)Jim Loehr著 小林信也訳 メンタル・タフネス―勝つためのスポーツ科学― TBSブリタニカ 1987

6)松田岩男 陸上競技の心理 スポーツ新書 ベースボール・マガジン社 1966

7)宮下充正監修 山田ゆかり編 女性アスリート・コーチングブック 大月書店 2004

8)中村桃子 言葉とジェンダー 剄草書房 2001

9)杉浦 隆 運動指導の心理学―運動学習とモチベーションからの接近― 大修館書店 2003

10)徳永幹雄 ベストプレイへのメンタルトレーニング―心理的競技能力の診断と強化― 大修館書店 1996

11)徳永幹雄 競技者の心理的コンディショニングに関する研究―試合前の心理状態診断法の開発― 健康科学 第20巻 p21-20

1998

12)徳永幹雄 心理的競技能力の変化から見たスポーツ継続の心理的効果 第一福祉大学紀要 2号 p65-77

13)徳永幹雄他 スポーツ選手の心理的競技能力にみられる性差、競技レベル差、種目差 健康科学 第22巻 p109-120

14)徳永幹雄 T.T式メンタルトレーニングの進め方―心理的競技能力診断検査の手引き― トーヨーフィジカル 2009

15)徳永幹雄他 全日本柔道選手の心理的競技能力に関する研究 柔道科学研究 Vol.3 p9-21 1995