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病態と根拠に 基づいた輸液療法 松山赤十字病院 腎センター Matsuyama Red Cross Hospital Kidney Center 論理的に正しくシンプルかつ安全 な輸液を組み立てよう! =高カロリー編 = 上村 太朗

病態と根拠に 基づいた輸液療法 - Japanese Red …...病態と根拠に 基づいた輸液療法 松山赤十字病院 腎センター Matsuyama Red Cross Hospital Kidney

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病態と根拠に 基づいた輸液療法

松山赤十字病院 腎センター         Matsuyama Red Cross Hospital Kidney Center

論理的に正しくシンプルかつ安全 な輸液を組み立てよう!

=高カロリー編=

上村 太朗

65歳男性。大腸がん術後でStoma造設後。大腸がんの肝転移に対して外来抗がん剤治療中。新しいプロトコール開始3日後から突然激しい水様下痢。経口摂取は出来ていたが激しい

下痢で倦怠感著明にて入院。ストーマ交換は1日10回程度。 入院時は体温36.6度、脈拍98/分、血圧88/63mmHg、皮膚乾燥、Turgor低下、舌は乾燥し軽度萎縮。入院時体重50kg(1週間前の体重56kg)、血液検査はNa142mEq/l、K3.8mEq/l、Cr3.2mg/dl(尿所見は典型的な腎前性腎不全のパターン)。 1週間前Cr0.8mg/dl。(パッと見のStoma bag 200~300ml?) 紹介時末梢静脈の生食補液中(100ml/hr)

病態の説明と適切な計画輸液は?

症例-1

65歳男性。大腸がん術後でStoma造設後。大腸がんの肝転移に対して外来抗がん剤治療中。新しいプロトコール開始3日後から突然激しい水様下痢。経口摂取は出来ていたが激しい

下痢で倦怠感著明にて入院。ストーマ交換は1日10回程度。 入院時は体温36.6度、脈拍98/分、血圧88/63mmHg、皮膚乾燥、Turgor低下、舌は乾燥し軽度萎縮。入院時体重50kg(1週間前の体重56kg)、血液検査はNa142mEq/l、K3.8mEq/l、Cr3.2mg/dl(尿所見は典型的な腎前性腎不全のパターン)。 1週間前Cr0.8mg/dl。(パッと見のStoma bag 200~300ml?) 紹介時末梢静脈の生食補液中(100ml/hr)

病態の説明と適切な計画輸液は?

症例-1

Basic Volume(ml/日) Na+(meq/日) K+(meq/日)

Urine 1000 70 40

ISWL 750 0 0

GI loss 2000 200 20

Correction Volume(ml/日) Na+(meq/日) K+(meq/日)

Free water 0 0 0

Saline +700̃800 +105̃120 0

K 0 0 0

計画輸液 4500ml/日 390mEq/日 60mEq/日

Na:86mEq/l、K:13mEq/l、この組成の輸液を4.5L/日(180ml/h) →脱水補正液(2号液・・・Na70-90mEq/l, K20mEq/l前後)

ビーフリード(1000ml) Na:35meq K:20meq 10%NaCl (20ml) Na:34meq K: 0meq

    合計 Na:69meq K:20meq 

80歳男性。昨日から腹痛・嘔吐を繰り返すことで緊急搬送。

癒着性イレウスの診断で緊急入院。入院時Cr4.6mg/dlにて腎

臓内科紹介。尿所見は典型的な腎前性パターン。

イレウスチューブ挿入後は4時間で1L排液。同様の速度で排

液は持続。半年前の検査ではCr1.2mg/dl、Na138meq/l、

K3.6meq/lなど電解質に異常なし、軽度腎障害のみ。

体重測定は困難、パッと見て60kg程度?

症例-2

病態の説明と適切な計画輸液は?

80歳男性。昨日から腹痛・嘔吐を繰り返すことで緊急搬送。

癒着性イレウスの診断で緊急入院。入院時Cr4.6mg/dlにて腎

臓内科紹介。尿所見は典型的な腎前性パターン。Na138meq/

l、K3.6meq/lなど電解質に異常なし。

イレウスチューブ挿入後は4時間で1L排液。同様の速度で排

液は持続。半年前の検査ではCr1.2mg/dl。体重測定は困難、

パッと見て60kg程度?

症例-2

病態の説明と適切な計画輸液は?

Basic Volume(ml/日) Na+(meq/日) K+(meq/日)

Urine 800 56 32

ISWL 700 0 0

GI loss 6000 600 60

Correction Volume(ml/日) Na+(meq/日) K+(meq/日)

Free water 0 0 0

Saline +500̃1000 +70̃140 0

K 0 0 0

計画輸液 8000ml/日 730mEq/日 100mEq/日

Na:91mEq/l、K:12mEq/l、この組成の輸液を8L/日(333ml/h) →脱水補正液(2号液・・・Na70-90mEq/l, K20mEq/l前後)

ビーフリード(1000ml) Na:35meq K:20meq 10%NaCl (20ml) Na:34meq K: 0meq

    合計 Na:69meq K:20meq 

54歳女性。下部胆管がんによる閉塞性黄疸でPTGBD中。

絶食中で末梢補液管理(ビーフリード2000ml/日)。

処置後外見上黄疸は改善しているが、倦怠感が強くなり血液

検査施行したところ、Na118meq/l、K4.2meq/l、Cr0.5mg/dl

と低Na血症を来しており腎臓内科紹介。体重45kg(入院時

46kg)、入院時検査でNa146mEq/l、K3.8mEq/l、Cr0.5mg/dl、

取りあえず意識は清明。

紹介時、末梢補液(ビーフリード80ml/hr)、PTGBD開始後

チューブからの胆汁500ml/日程度持続。

症例-3

病態の説明と適切な計画輸液は?

54歳女性。下部胆管がんによる閉塞性黄疸でPTGBD中。

絶食中で末梢補液管理(ビーフリード2000ml/日)。

処置後外見上黄疸は改善しているが、倦怠感が強くなり血液

検査施行したところ、Na118meq/l、K4.2meq/l、Cr0.5mg/dl

と低Na血症を来しており腎臓内科紹介。体重45kg(入院時

46kg)、入院時検査でNa146mEq/l、K3.8mEq/l、Cr0.5mg/dl、

取りあえず意識は清明。

紹介時、末梢補液(ビーフリード80ml/hr)、PTGBD開始後

チューブからの胆汁500ml/日程度持続。

症例-3

病態の説明と適切な計画輸液は?

Basic Volume(ml/日) Na+(meq/日) K+(meq/日)

Urine 1500 105 60

ISWL 700 0 0

GI loss 100 10 1

Bile juice 500 70 2

Correction Volume(ml/日) Na+(meq/日) K+(meq/日)

Free water -500 0 0

Saline 0 0 0

K 0 0 0

計画輸液 2300ml/日 185mEq/日 63mEq/日

Na:80mEq/l、K:27mEq/l、この組成の輸液を2̃2.5L/日(80̃100ml/h) →脱水補正液(2号液・・・Na70-90mEq/l, K20mEq/l前後)

ビーフリード(1000ml) Na:35meq K:20meq 10%NaCl (20ml) Na:34meq K: 0meq

    合計 Na:69meq K:20meq 

75歳男性。脳梗塞後遺症で右不全マヒ、尋常性乾癬にて近医

通院中。この数ヶ月尋常性乾癬の悪化あり皮膚病変が顔面・

頭部を含む全身に拡大していた。チガソン(VitD,A)やVitD外

用薬の増量を行っていたが改善見られず。顔面の皮膚病変の

ために食事量も少なっていた。倦怠感も強くってきており血

液検査したところ、Cr5.6mg/dl(半年前Cr0.8mg/dl)、

Na174mEq/l、K4.2meq/l、Ca12.2mg/dlと腎機能、電解質異常

を来しており腎臓内科紹介され緊急入院。

病態の落ち着いている時の血液検査は電解質異常は認めず。

体重測定は困難、パッと見70kg程度?

症例-4

病態の説明と適切な計画輸液は?

75歳男性。脳梗塞後遺症で右不全マヒ、尋常性乾癬にて近医

通院中。この数ヶ月尋常性乾癬の悪化あり皮膚病変が顔面・

頭部を含む全身に拡大していた。チガソン(VitD,A)やVitD外

用薬の増量を行っていたが改善見られず。顔面の皮膚病変の

ために食事量も少なくなっていた。倦怠感も強くってきてお

り血液検査したところ、Cr5.6mg/dl(半年前Cr0.8mg/dl)、

Na174mEq/l、K4.2meq/l、Ca12.2mg/dlと腎機能、電解質異常

を来しており腎臓内科紹介され緊急入院。

元々血液検査で腎機能障害や電解質異常は認めず。

体重測定は困難、パッと見70kg程度?

症例-4

病態の説明と適切な計画輸液は?

Basic Volume(ml/日) Na+(meq/日) K+(meq/日)

Urine 800 70 40

ISWL 700 0 0

GI loss 100 10 1

Correction Volume(ml/日) Na+(meq/日) K+(meq/日)

Free water +3000 0 0

Saline +500 70 0

K 0 0 0

計画輸液 5100ml/日 150mEq/日 40mEq/日

Na:30mEq/l、K:6.2mEq/l、この組成の輸液を5L/日(200ml/h)

Free waterの不足分 = 70kg x 0.6 x (174-140)/140 = 10.2kg/body 補正時間      =(174-140)/0.5 = 68hrs ・・・3日間 一日自由水補正量 = 10.2Kg/3日間           = 3.4kg・・・3000L/日

細胞外液量の補正 *正確な細胞外液の不足量は測定困難 →ただし、病歴からも細胞外液の不足  (脱水)は明らか →+500ml/日程度の補充を割り当てる

1)必要な水・電解質量を決定。       (計画輸液 = 維持輸液 + 補正輸液)

2)必要なカロリーを決定。

3)必要な窒素量(アミノ酸量)を計算。

  ◎ここで1)~3)をまとめる。

4)微量元素・ビタミン製剤も必要。

5)血糖測定(インスリン)も忘れずに。

*脂肪製剤など枝葉も・・・

TPNの作成手順

維持輸液(basic allowanace) → outの補充

 ○ Urine・・・腎臓からのロス

 ○ Insensible Water Loss(IWL)・・・不感蒸泄

 ○ GI loss・・・消化管のロス(嘔吐・下痢・ドレーン)

補正輸液(correction allowance) → 通常との解離

○ 補正に必要な輸液・・・(+)のAllowance

 ○ 投与を控える輸液・・・(-)のAllowance

計画輸液 = 維持輸液 + 補正輸液

1)必要な水・電解質量を決定

Basic Allowance

水 (ml/日)

電解質(mEq/日)

Na K

Urine 1500 105(70meq/L

60(40meq/L

ISWL 900(60kgx

0 0

GI Loss 100 10(100meq/L

1(10meq/L

合計 2500ml/日 115mEq/日 61mEq/日

標準的なBasic Allowance

2)必要なカロリーを決定a) BEE(Basal Energy Expenditure;基礎代謝量)。   Harris Benedictの式を使って性別・年齢・身長・体重から計算 BEE (♂) = 66.5 + (13.75 x Weight) + (5 x Hight) - ( 6.8 x Age) BEE (♀) = 66.5 + ( 9.56 x Weight) + (1.85 x Hight) - (4.86 x Age)

臨床的には25̃30kcal/kgで概算する事が多い

b) TEE(Total Energy Expenditure;総必要代謝量)。

  TEE = BEE x ストレス因子 x 活動係数

ストレス因子;低侵襲手術・・・1.0       ;中等度手術・・・1.2~1.3       ;高侵襲手術・・・1.3~1.5 活動係数  ;寝たきり・・・・1.1       ;ベッド上・・・・1.2       ;歩行・・・・・・1.3

病態 ストレス係数

低侵襲手術 1

中侵襲手術 1.2

軽症感染症 1.2

熱傷0~20% 1.2

高侵襲手術 1.3

筋骨格外傷 1.3

中等度感染症 1.5

頭部外傷 1.6

熱傷20~40% 1.6

ステロイド 1.6

重症感染症 1.8

熱傷40~100% 1.9

37歳(♂)、176cm、65kgの必要カロリーは?

BEE = 1646 Kcal/日 TEE = BEE x 1.0 x 1.3 = 2140 Kcal/日

約2000Kcalをブドウ糖で作るとすると・・・

50% Tz (200ml) x 5 本= 2000 Kcal (1000ml)

3)必要な窒素量を計算

a) アミノ酸投与量を決定する。

 1) タンパク異化を抑制するには1.0~1.5g/kg/日のアミノ酸が必要

 2) NPC(非タンパクカロリー)/N(窒素)比で計算    タンパク同化にとって有効なカロリーとアミノ酸の比 正常人 :225   発熱・外傷のない内科疾患:165   術後患者 :180   熱傷・感染症等の代謝亢進:185~250 腎不全 :300~500 急性腎不全       :1000~2000

 3)窒素バランスからのタンパク投与目標量      窒素投与量   = 尿中窒素排泄量 + 2 タンパク投与量 = 窒素投与量 x 6.25

3’)2000Kcalに必要な窒素量

1)NPC(非タンパクカロリー)/N(窒素)比で計算   タンパク同化にとって有効なカロリーとアミノ酸の比 正常人 :225  発熱・外傷のない内科疾患:165 術後患者 :180  熱傷・感染症等の代謝亢進:185~250 腎不全 :300~500 急性腎不全     :1000~2000

NPC / N 比 = 225

2000 / 窒素量 = 225

    窒素量 = 8.8 (g/日)

一般的なアミノ酸製剤 (1.5g/dl) であり・・・

アミノ酸製剤(アミゼッット etc) = 600ml→窒素 9g

アミゼッット(300ml) x 2本(600ml/アミノ酸9g)

1)~3)をまとめてみると・・・Volume 2.5L Na 115mEq K 60mEq

50% Tz (200ml)   x 5本 = 1000ml (2000Kcal)

アミゼッット(300ml) x 2本 = 600ml (AA;9g)

生食(500ml)     x 1本 = 500ml (Na75mEq)

生食(250ml)     x 1本 = 250ml (Na38mEq)

KCL(K20mEq/20ml) x 3本 = 60ml (K 60mEq)

2.4L Na 110mEq K 60mEq

4)微量元素とビタミンも

微量元素 所要量(成人)

男性 女性

カルシウム 600~700 mg 600 mg

鉄 600~700 mg 600 mg

リン 700 mg

マグネシウム 280~320 mg 240~260 mg

カリウム 2000 mg

銅 1.8 mg 1.6 mg

ヨウ素 120~150 μg

マンガン 3.5~4.0 mg 3.0~3.5 mg

セレン 50~60 μg 45 μg

亜鉛 10~12 mg 9~10mg

クロム 30~35 μg 25~35 μg

モリブデン 25~30 μg 20~25 μg

ビタミン 所要量(成人)

男性 女性

ビタミンA 2000 IU 1800 IU

ビタミンD 100 IU

ビタミンE 10mgα-TE 10mgα-TE

ビタミンK 65 μg 55 μg

ビタミンB1 1.1 mg 0.8 mg

ビタミンB2 1.2 mg 1.0 mg

ナイアシン 16 mgNE 13mgNE

ビタミンB6 1.6 mg 1.2 mg

葉酸 200 μg

ビタミンB12 2.4 μg

パントテン酸 5 mg

ビタミンC 100 mg

5)インスリン(血糖測定)も忘れずにTPN施行時に血糖測定を忘れ、いつの間にか高血糖性昏睡! 非DMではインスリン不要の事もあるが、血糖測定は忘れずに

DM → Glcose:Insulin = 15~20:1

非DM → Glcose:Insulin = 20~30:1

50%Tz1000ml→Glucose500g・・・Insulin 25̃30単位

50%Tz1000ml→Glucose500g・・・Insulin 15̃25単位

*もちろん、病態によってインスリン抵抗性が異なる  ので、スライディングスケールは忘れずに!

最終的に、TPNの処方は・・・

50% Tz (200ml)   x 5本 = 1000ml (2000Kcal)

アミゼッット(300ml) x 2本 = 600ml (AA;9g)生食(500ml)     x 1本 = 500ml (Na75mEq)生食(250ml)     x 1本 = 250ml (Na38mEq)KCL(K20mEq/20ml) x 3本 = 60ml (K 60mEq) エレジェクト x 1本     =  微量元素ビタジェクト x 1本    = 総合ビタミン剤ヒューマリンR(20単位) = G:I = 25 : 1

2400ml (2000Kcal) Na   110 mEq K   60 mEq 窒素  9 g

フルカリック3号(1103mL)

Glucose 250g(1000Kcal)

Na 50mEq、K 30mEq、Mg 10mEq、

 Ca 8.5mEq、Cl 49mEq、P 250mg、

 Zn 20μmol、窒素量 6.4g