25
5 各教科の授業 高等学校には様々な教科があり、その教 科ごとに、生徒に身に付けさせたい力が違 います。 第5章では、各教科でいま求められてい る授業のポイントを紹介し、理解を深めて いきます。

各教科の授業...調査、統計、画像、文献などの地理情報の収集、選択、処理、諸資料 の地理情報化や地図化(地理B)」等が示されています。

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5

各教科の授業

高等学校には様々な教科があり、その教

科ごとに、生徒に身に付けさせたい力が違

います。

第5章では、各教科でいま求められてい

る授業のポイントを紹介し、理解を深めて

いきます。

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83

1 国語

国語で的確に理解し、効果的に

表現する資質・能力を育成する。

ここがポイント

「言葉」にこだわる授業 言葉は、人が人として暮らすための大切な基盤の一つです。「言語

に関する能力」を高めることは、あらゆる意味で人生を豊かにする

ことにつながります。

学校教育の中で「言語に関する能力」の育成を目指し、直接かつ

計画的に指導を行うのは国語科です。その役割と責任は極めて大き

いと言えるでしょう。国語科の授業では「言葉」にこだわり、生徒

が言葉への自覚を高められるようにすることが大切です。

「そうか!分かった!」が促される授業 難解な評論文や古典・漢文を扱う授業は内容の解説に陥りがち。

教員の過度な解説は、生徒自身が「読み解く」場面を無くし、生徒

の「言語に関する能力」を育む機会を奪うことになってしまいます。

生徒がよりよく資質・能力を身に付けるためには、授業を通して

生徒自身が「考え気付く」場を提供して、生徒の「そうか!わかっ

た!」を促す工夫が必要です。例えば、生徒が自分自身で感じたり、

考えたり、表現したり、創造したりする活動を、授業に取り入れて

いくことが大切です。

「古典を学ぶ意義」に気付ける授業 文語文法の習得への偏重などによって、これまで多くの「古典嫌

い」が生まれてきました。文語文法は、あくまで古典に親しみ、古

典作品を読み味わうためのツールです。文語文法の習得が古典の学

習の目的とならないように注意が必要となります。

変化の激しい現代にあって、あえて古典教材を学ぶ意義とは何で

しょう。この意義について、生徒自身が「考え」、そして「気付く」

ことができるように促すことが重要です。そのためには、

・原文を題材とした文章(解説や評論等)を副教材として扱う。

・先人のものの見方・考え方に触れ、生徒自身の経験や考えと比

較しながら広げたり、深めたりする。

といった視点を取り入れながら授業づくりをすることが大切です。

各教科の授業 5

共通教科

☆国語科の課題

平成 28 年 12 月の中央教育

審議会答申では、国語科の課題

として次の2点が指摘されて

います。

・話合いや論述などの「話すこ

と・聞くこと」、「書くこと」の

領域の学習が十分に行われて

いない。

・古典の学習について、日本人と

して大切にしてきた言語文化

を積極的に享受して社会や自

分との関わりの中でそれらを

生かしていくという観点が弱

く、学習意欲が高まらない。

☆言葉による見方・考え方

新学習指導要領解説 国語

編では、「言葉による見方・考え

方」について次のように書かれ

ています。

・生徒が学習の中で,対象と言

葉,言葉と言葉との関係を,言

葉の意味,働き,使い方等に着

目して捉えたり問い直したり

して,言葉への自覚を高めるこ

とであると考えられる。

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「教科書『を』学ぶ」ではなく「教科書『で』学ぶ」 指導事項(身に付けさせたい力)が異なれば、同じ教材であっても授業の展開は変わります。大切なの

は、教科書(教材)の内容を学ぶのではなく、教科書(教材)で資質・能力の育成を図るという視点。核

となる目標を精選し、「一つの単元に一つの指導事項」を基本として授業を組み立てていきましょう。生

徒の資質・能力をよりよく育成するために最適な学習活動を考えることが授業づくりの第一歩です。

ここでは国語総合「読むこと」の指導事項イ、ウ、エを取り上げ、『羅生門』を例に学習活動例を紹介

します。

【学習活動例】『羅生門』の内容を整理し相手に伝わるように工夫をし、ネットニュースの原

稿(タイトル 20 字以内、本文 210 字以内)の体裁でまとめ直す。

作品を「要約する」活動。伝える対象を決めてその対象に適した他の媒体(新聞社説やコ

ラム、SNS 等)を選択することで、「必要に応じ」た要約方法の学習にもつながります。

イ:文章の内容を叙述に即して的確に読み取ったり,必要に応じて要約や詳述をしたり

すること。

ウ:文章に描かれた人物,情景,心情などを表現に即して読み味わうこと。

【学習活動例】『羅生門』の続きを、本文における登場人物の描かれ方に応じて書く。

作品をモチーフにして「翻案を作成する」活動。この活動のためには『羅生門』本文の表

現に即して人物像や心情を読み取ることが不可欠です。単元の初めに「よりよい続きを書く

ために、まず下人がどのような人間か考えよう」という課題を投げ掛けることで、生徒も何

を目的とした学習活動なのかが分かります。

【学習活動例】『羅生門』を本文の構成や展開、場面設定に留意しながら紙芝居にする。

作品をモチーフにして「リライトする」活動。紙芝居は、どこで場面を切り分けるかを

考える活動が中心となりますので、構成や展開を学ぶことに効果を上げます。

エ:文章の構成や展開を確かめ,内容や表現の仕方について評価したり,書き手の意図

をとらえたりすること。

※注意事項:ここで紹介した例はすべて「書く」活動ですが、「読む」力の育成を目的にしています。

この場合の学習評価は、「書くこと」ではなく「読むこと」で実施します。

<例>『羅生門』を「読むこと」の教材とする際の学習活動

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85

目標の達成に向けた

言語活動の充実を図る

ここがポイント 各教科の授業

5

共通教科

2 地理歴史・公民(1)

地理歴史科の目標 現行の学習指導要領(平成 21 年告示)における地理歴史科の目標

は次の通りです。

国際的な相互依存が進むグローバル化の流れの中で、「自ら」が国

際社会の形成者であること、平和で民主的な国家・社会を維持・発展

させることについての「日本国民」として必要な自覚と資質を養うこ

とが高等学校の地理歴史科には求められています。

資料・情報の活用と作業的・体験的学習 現行の学習指導要領では、情報の活用と作業的、体験的な学習が、

自ら考え正しく判断出来る力を育成するという観点から求められて

います。日本史・世界史では「年表、地図その他の資料」の活用や

「(地域の)文化遺産、博物館や資料館の調査、見学」が、地理では

「地図の読図や作図など(地理 A)」、「地球儀や地図の活用、観察や

調査、統計、画像、文献などの地理情報の収集、選択、処理、諸資料

の地理情報化や地図化(地理 B)」等が示されています。

言語活動の充実 現行の学習指導要領では、言語に関する能力を高めていくことが

求められています。地理歴史科においても教科の特質に応じて言語

活動の充実を図りましょう。

例えば、世界史や日本史では、生徒に主題を設定させ、資料を活用

して探求し、その成果を論述したりするなどの学習活動を積極的に

取り入れましょう。また、地理では、地図を活用して事象を説明した

り、論述したり、討論したりするなどの活動を考えていきましょう。

★資料・情報活用も言語活動の充実も、年間や単元指導計画の中で意図的・

計画的に組み込む事が重要となります。「主体的・対話的で深い学び」の実

現のため、ねらいを明確にした授業を心掛けて下さい。

☆社会的事象の地理的な見

方・考え方

新学習指導要領解説 地理歴

史編では、地理領域科目の見

方・考え方として、「社会的事象

を、位置や空間的な広がりに着

目して捉え、地域の環境条件や

地域間の結び付きなどの地域

という枠組みの中で、人間の営

みと関連付けること。」として

います。

我が国及び世界の形成の歴史的過程と生活・文化の地域的特

色についての理解と認識を深め、国際社会に主体的に生き平和

で民主的な国家・社会を形成する日本国民として必要な自覚と

資質を養う。

☆社会的事象の歴史的な見

方・考え方

新学習指導要領解説 地理歴

史編では、歴史領域科目の見

方・考え方として、「社会的事象

を、時期や推移などに着目して

捉え、類似や差異などを明確に

したり、事象同士を因果関係な

どで関連付けたりすること。」

としています。

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86

平成 30 年の学習指導要領の改訂で、公民科の必履修科目として「公共」が設定されます。「公

共」は三つの大項目から構成されていますが、二つ目の大項目は、「自立した主体としてよりよ

い社会の形成に参画する私たち」となっており、「法」「政治」「経済」に関わる事項から 13 の主

題が示されました。

ここでは幸福、正義、公正に着目し、他者と協働しながら主題を追究したり解決したりする学

習活動が求められています。その際、主題から生徒の学習意欲を高める具体的な「問い」を立て

ることも求められています。また、選挙権年齢の引き下げや、2022 年度に実施される成年年齢

の 18 歳への引き下げを念頭に「多様な契約及び消費者の権利と責任」「政治参加と公正な世論の

形成,地方自治」等の学習活動を展開することが求められます。

公民科の目標 公民科の目標は、「広い視野に立って、現代の社会について主体的

に考察させ、理解を深めさせるとともに、人間としての在り方生き方

についての自覚を育て、平和で民主的な国家・社会の有為な形成者と

して必要な公民としての資質を養う」です。

「公民としての資質」とは、教育基本法第 1 条にある「平和で民

主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」であり、国民として

備えるべき資質です。このように、公民科の目標は、「教育の目的」

(教育基本法第 1 条)を実現することなのですから、公民科の教員

として、重要な責務があることを、改めて自覚しましょう。

道徳教育と公民科 新学習指導要領解説 総則編には「道徳教育は、豊かな心をもち、

人間としての在り方生き方の自覚を促し、道徳性を育成することを

ねらいとする教育活動」とあります。「現代社会」及び「倫理」の目

標には「人間としての在り方生き方」を掲げており、公民科は道徳教

育の中核的な指導の場面として重視されています。

生きる主体としての自己を確立し、自らの人生観や世界観・価値観

を形成し主体性をもって生きる人間としての在り方生き方について

の自覚を深めるための指導が必要となります。

他教科・科目や中学校との関連について 公民科の中でも特に現代社会は、他教科・科目との関連の重要性に

留意してください。地理歴史科とは言うまでもありませんが、例え

ば、家庭科とは消費活動や生涯設計について、情報科とは情報社会に

おける法と個人の責任について、などが挙げられます。

さらに、中学校社会科との関連については、内容項目だけではなく

課題解決学習や作業的、体験的学習の成果を生かすことを意識しま

しょう。

☆教育基本法第 1条

「教育は、人格の完成を目指し、

平和で民主的な国家及び社会の

形成者として必要な資質を備え

た心身ともに健康な国民の育成

を期して行われなければならな

い。」

☆人間と社会の在り方につい

ての見方・考え方

新学習指導要領解説 公民編で

は、「公共」の見方・考え方として、

「社会的事象等を、倫理、政治、

法、経済などに関わる多様な視点

(概念や理論など)に着目して捉

え、よりよい社会の構築や人間と

しての在り方生き方についての

自覚を深めることに向けて、課題

解決のための選択・判断に資する

概念や理論などと関連付けるこ

と。」としています。

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87

「基軸となる問い」

を立ててみよう

ここがポイント 5

各教科の授業

共通教科

神奈川県高等学校教育課程研究会研究推進委員会の地理歴史及び公民部門では、「基軸となる

問い」を意識した授業研究を行っています。「基軸となる問い」とは、①事象の理解を促す学習内

容を持つ、鍵となる概念を持つ「問い」②深い思考や新しい理解を促し考察が持続する、学ぶ価

値のある「問い」③特定の単元を超えた比較や関連付けが可能である、転移を促す「問い」と位

置づけ、単元全体を貫く「問い」を意味します。単元を貫く「問い」とあわせて、本時の「問い」

や、授業内の「問い」も構想していきます。

「問い」は重層的な役割を持ち、単一の「問い」で完結するものではなく、いくつかの小さな

「問い」を考察して、順次深める事が出来るような階層構造を持ちます。当然ですが、「問い」を

構想する作業とともに学習過程や評価規準を検討していくことになります。

「問い」に関しては、新学習指導要領解説地理歴史編には「生徒や学校の実態を踏まえて適切

な『主題』とそれに応じた『問い』を立て」とあり、新学習指導要領解説公民編「公共」には「現

代の諸課題を取り上げ,主題や問いを設け,考察,構想する」とあります。「問い」の具体例も新学

習指導要領解説に例示されています。

ここでは歴史総合の課題(問い)設定例と地理 B の「授業のシナリオ」を例示します。

3 地理歴史・公民(2)

【歴史総合】B 近代化と私たち (2)結び付く世界と日本の開国

イ(イ)産業革命の影響,中国の開港と日本の開国の背景とその影響

主題の設定:学習上の課題(小項目全体に関わる問い)として設定

☞「イギリスに始まる産業革命は,世界各地の社会や経済をどのように変えたのだろうか。

また,その変化は,アジア諸国と欧米諸国の関係をどのように変えたのだろうか」

☟工業化と世界市場の形成を理解する学習

・中国の開港と日本の開国について「問い」を設定

推移や展開を考察するための「問い」

☞「欧米は,なぜ中国の開港,日本の開国を求めたのだろうか」

☞「中国や日本は,その後,貿易の拡大にそれぞれどう対応したのだろうか」 ☟資料活用等を通じて欧米諸国のアジア進出のねらいや背景を読み取り、

中国や日本の対応や開港・開国の影響を考察し、理解する学習

事象を比較し関連付けて考察するための「問い」

☞「あなたは、中国の開港と日本の開国が国際社会に与えた影響のうち,注目すべき点は何だ

と考えるか,それはなぜか」 ☟アジアと欧米諸国との貿易や、アジア各地域間の貿易の

変化や課題を多面的・多角的に考察し、表現する学習

(引用:高等学校学習指導要領解説 地理歴史編 平成 30 年 7 月(一部編集))

「基軸となる問い」からの授業改善

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授業のシナリオ(地理 B)

(参考:平成 26年度高等学校教育課程研究集録【地理歴史】神奈川県教育委員会)

単元名:東南アジアの生活・文化

ねらい

基軸となる「問い」

「問い」が持つ意味

学習過程

1時間目

2時間目

3時間目

東南アジアの成長を、東南アジア産業(農業・工業・観光)・自然環境・文化(宗教・

言語・民族)・歴史的背景を地図(分布図等も含む)、写真、グラフなどの資料を活用

して考察させる。

「今、東南アジアの成長が世界から注目されているのはなぜか?」

→時代の流れを活かした成長が続いている。

【鍵となる概念】「ASEAN」「植民地」「中国の影響」

【学ぶ価値がある】「国際協調」「国際理解」「エスニシティ」

【転移を促す】「東南アジアと日本の関係性」「他地域との比較」

「本時の問い:東南アジアの地理的特徴は何だろうか」

・地図を利用して東南アジアの半島部と島嶼部の自然環境を気候・植生と関連させ

てそれぞれ理解する。

・東南アジア諸国の位置関係を地図で確認をし、民族構成の分布を統計資料で整理

する。

・地図とグラフを利用して各宗教の地理的分布を自然環境と歴史的背景を関連させ

て理解する。

・「華人」「華僑」と東南アジアの関係を代表的な事例を用いて理解する。

(例:マレーシアのブミプトラ政策)

【半島部と島嶼部で自然環境が異なり、また多種多様な民族が共生している。】

「本時の問い:プランテーション農業が東南アジアに与えた影響は何だろうか」

・伝統的農業として自給的稲作や焼畑が中心であることを写真資料で理解する。

・植民地時代に定着したプランテーション農業による農業の変化(栽培作物・生産

量)を整理する。

・近年における農業の変化を代表的な事例を用いて理解する。

(例:ベトナムのコーヒー生産)

【自給的農業しか行っていなかった地域が植民地政策のプランテーションで変化

し、独立後にはプランテーション農業を基盤として世界的ニーズに合わせた商品作

物の生産に発展している。】

「本時の問い:東南アジアの工業はなぜ急成長を遂げたのか」

・ASEAN結成以後の輸出品の変化を近隣諸国の需給と関連させて整理する。

・東南アジア諸国における工業の発展と、それに伴う経済格差を理解する。

・東南アジア諸国の経済的な結び付きを歴史的背景を踏まえて理解する。

【急成長の原因が、自国の努力以外に新しいフロンティアを求めた先進国による資

本や技術を取り入れなど「グローバル化」の流れが関係している。】

【研究推進委員による「基軸となる問い」に関する成果と課題】

①教員が単元全体を常に意識して授業をするだけでなく、生徒も単元全体を常に意識して学習できることから、

「基軸となる問い」は、「教員にとって指導の軸、生徒にとって学習の軸」になり得ること。

②該当単元のスタンダード化が促される効果があること。また、「基軸となる問い」の作成を通して、

内容の精選(考察するための基礎知識の精選)が図られるということ。

③「基軸となる問い」は、教科の専門家による吟味を経なければ立てるのは困難であるということ。

また、答えを意識して問いを立てる方が、より実用的な問いになること。

★学び続ける教員であるため、そして何より生徒の学びのため、「問い」を磨き続け、力量向上に努めましょう。

→ダウンロードは、P115 へ

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89

習得と活用のバランス

を意識した授業を

ここがポイント 各教科の授業

5

共通教科

☆高等学校数学の目標

「数学的活動を通して、数学

における基本的な概念や原理・

法則の体系的な理解を深め、事

象を数学的に考察し表現する

能力を高め、創造性の基礎を培

うとともに、数学のよさを認識

し、それらを積極的に活用して

数学的論拠に基づいて判断す

る態度を育てる。」

☆数学的活動

事象を数理的に捉え、数学の

問題を見いだし、問題を自立

的、協働的に解決する過程を遂

行することです。これは、「数学

学習に関わる目的意識をもっ

た主体的活動」であるとする従

来の意味をより明確にしたも

のです。

☆数学的な見方・考え方

数学的に考える資質・能力を

支え、方向付けるものであり、

数学の学習が創造的に行われ

るために欠かせないものです。

「事象を、数量や図形及びそれ

らの関係などに着目して捉え、

論理的、統合的・発展的、体系

的に考えること」として整理す

ることができます。

4 数学 どのような力を生徒に育成するのか

数学教育では、自ら学び自ら考える力などの「生きる力」の礎となる

ために、「学力の 3 要素」に対応した

① 数学に関する基礎的・基本的な概念・原理・法則の理解と技能

② 数学的に考察し、表現する能力

③ 数学のよさを認識し、数学を活用して考え、判断する態度

を、日々の授業において育成することが特に大切です。

これらの力を育成するためには、数学科の目標にある「数学的活動」

をより一層充実させることが求められます。

数学的活動とは 数学の学習では、数学的に問題発見・解決する過程を学習過程に反映

させることが重要です。「数学的な見方・考え方」を働かせながら、知識

及び技能を習得したり、それらを活用して探究したりすることにより、

複雑な事象の問題を解決するための思考力、判断力、表現力等や、自ら

の学びを振り返って次の学びに向かおうとする力などが育成されます。

数学的活動は、主として二つの過程を考えることができます。一つは、

日常生活や社会の事象などを数理的に捉え、数学的に表現・処理し、問

題を解決し、解決過程を振り返り得られた結果の意味を考察する過程で

あり、もう一つは、数学の事象から問題を見いだし、数学的な推論など

によって問題を解決し、解決の過程や結果を振り返って統合的・発展的、

体系的に考察する過程です。

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90

数学的活動の充実 ~目標達成の姿を生み出す活動へ~

○ 一斉授業において

「整数 n の平方が3の倍数ならば、nは3の倍数であることを証明せよ。」という数学的に表現された問題

を、日常生活に関連させ、予想させる問いかけに変えました。予想することで、興味がかき立てられ、理由

を考えようとします。なぜ?という気持ちから課題意識が高まり、それが主体的な活動につながります。

〈授業づくりの工夫〉

「問題の解答を板書させ、どのように考えて解いたかを説明させたり、どのようにすればよりよい表現に

なるかを考えさせたりする活動」や「生徒の誤りや疑問を積極的に取り上げ、それを解決することを通して

理解を深める活動」は、思考力や表現力を高め、学びを深める指導として有効です。

また、なるべく多くの生徒に発言させたいときには、黒板に考えだけを書かせておき、あえて板書した生

徒には説明させず、他の生徒に説明させます。「友達の考えを読み取る」活動で、話合いを豊かにするために

も有効な方法です。

○ グループ学習において

身の周りの課題について、条件(お好み焼きの値段と販売個数の関係)を設定

しながら考察し解決する過程を通して、二次関数の有用性を認識することができ

ます。また、下の問題のように、解決の過程を振り返ってよりよい解決の方法を

考えたり,更に課題を発展させたりすることは、内容の理解を深め、思考力や表現力を高めることにつながります。

〈授業づくりの工夫〉

問題 正方形の床に正方形のタイルを敷きつめたところ、使ったタイルの枚数は 3の倍数でした。このとき、床の一辺のタイルの枚数は、何の倍数になるか 予想してみましょう。

事象を命題として表現し、考察

することができる。

目標達成の姿

① 個人で考える活動 思考力を高めるには、一方的に説明を聞くだけではなく、自ら考える活動が大切です。まずは、自分の考えや意見をしっかりと持たせます。

② 個人で考えたことを書く活動

表現力を高めるには、思考したことを整理しまとめる(書く)という表現活動が大切です。あとで、「ここまで考えることができた」と振り返ることができるように、考えたことも記録させます。

③ 多様に考える活動

(グループ活動)

思考力や表現力に関わる態度を育てるには、多様な解法が考えられる問題を与え、「別の解法はないか?」「条件を変えてみたらどうか?」といった投げ掛けを、最初は教員が意図的に行うことが大切です。生徒自身が推論する活動を行い、自らに問い掛けるようになれば、「多様に考える態度」が育まれたといえます。 ※ 推論する活動・・・帰納的・類推的・演繹的に推論しながら問題を解く活動を取

り入れて、数学的な考え方を高めることはとても大切です。

思考力と表現力には密接な関係があります。自分の考えを他の人に分かりやすく説明したり、他の人の考えを評価したりする活動は、自分の考えを深めます。

また、他の人と考えを伝え合う活動は、新しい考えに出会う機会となり、自らの考えにいかすことで、自分の考えや集団の考えを発展させます。

自己の成長を実感させるためには、数学的活動を振り返らせることが大切です。どの考えが役立ち、自分の数学的な見方や考え方がどのように変わってきたのか自己評価させることで、自分の理解度が明確になり、学習の定着にもつながります。

④ 振り返り

二次関数を用いて数量の変化

を表現することの有用性を認

識し、それらを具体的な事象の

考察に活用しようと、自ら課題

意識を持って取り組んでいる。

問題 文化祭でお好み焼きの模擬店を開き、利益を寄付することになりました。 利益が最大となるように販売する値段を決定したいと思います。どのよう に値段を決定すればよいか考えてみましょう。

問題 お好み焼きの値段と販売個数の関係について、どのように設定するとより現実的になるでしょうか。 グループで考えてみましょう。 (例)材料費や光熱費といった必要経費を考慮する など。

目標達成の姿

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91

「なぜ?」をいかして

考えさせる授業を

各教科の授業

5

共通教科

ここがポイント

5 理科

「探究の過程」を意識する 科学は、自然の事物・現象に対する気付きから仮説を設定し、観

察・実験により仮説の妥当性を検証することを繰り返して体系化さ

れてきた学問です。授業の学習過程でも、課題の把握(発見)、課題

の探究(追究)、課題の解決という「探究の過程」を意識した学習活

動を行い、生徒が主体的に全体像の追求を遂行できるようになるこ

とを目指しましょう。その際、授業においては、次の例のように、「探

究の過程」の一部を取り扱うことも可能です。

例1)プラスチックの種類を決定するための実験を計画する

「科学と人間生活」において、プラスチックの種類についての知識

を学んだあとで、種類の分からないプラスチック片について、どの

ような実験を行えば種類が特定できるかを考える。

例2)DNAが遺伝子の本体であることを実験結果から説明する

「生物基礎」において、実験方法とその結果をまとめた資料をもと

に、結果を分析・解釈し、他者に説明する。

理科の「見方」 理科における「見方」については、理科を構成する領域ごとに特徴

的な視点があります。

領域 特徴的な見方(高等学校)

エ ネ ル

ギー

自然の事物・現象を「見える(可視)~見えない(不可

視)レベル」において、主として量的・関係的な視点で

捉えるとともに、より包括的・高次的に捉える。

粒子 自然の事物・現象を「物質レベル」において、主として

質的・実体的な視点で捉えるとともに、より包括的・高

次的に捉える。

生命 生命に関する自然の事物・現象を「分子~細胞~個体~

生態系レベル」において、主として多様性と共通性の視

点で捉える。

地球 地球や宇宙に関する自然の事物・現象を「身のまわり(見

える)~地球(地球周辺)~宇宙レベル」において、主

として時間的・空間的な視点で捉える。

※特徴的な視点は領域固有のものではなく、これら以外にも、定性と

定量、全体と部分、構造とはたらきなどもあることに注意する。

☆小学校・中学校理科と高

等学校理科との対応

小学校・中学校理科と高等

学校理科の内容の対応は、

「エネルギー」と「物理」、

「粒子」と「化学」、「生命」

と「生物」、「地球」と「地

学」となっています。「新学

習指導要領解説 理科編 理

数編」(15~18ページ)に記

載されている、内容の構成表

を参考にしてください。

☆理数探究

各学科に共通する教科「理

数」では、探究すること(プロ

セス)を重視しており、失敗し

てもその原因について考えた

り、再チャレンジしたりする

資質・能力の育成を重視して

います。「新学習指導要領解説

各学科に共通する教科 理数

編」(38~43ページ)の「探究

的な学習の指導のポイント」

は理科の授業や総合的な探究

の時間の指導にも生かせる内

容となっています。

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92

分野ごとの授業づくりのアドバイス

物理、化学、生物、地学、各分野別の授業づくりのワンポイントア

ドバイスは次のとおりです。

朝永 振一郎の言葉

(物理学者。1965 年にノーベル物

理学賞を受賞。)

「ふしぎだと思うこと

これが科学の芽です。

よく観察してたしかめ

そして考えること

これが科学の茎です。

そうして最後になぞがとける

これが科学の花です。」

☆理科を学ぶことの意義付け

平成30年に実施した全国学力・

学習状況調査(中学3年生対象)に

おいて、「理科の授業で学習したこ

とは,将来,社会に出たときに役に

立つと思いますか」の問いに肯定

的な回答が56.1%、「将来,理科や

科学技術に関係する職業に就きた

いと思いますか」の問いに肯定的

な回答が22.8%という結果になっ

ています。理科の授業の中におい

て、理科を学ぶことの有用性及び

実社会・実生活との関連を意識す

ることが求められています。

物理分野

物理の学習で大切なことは、まず現象を詳しく観察し、よく

似た現象はないか、どのような原理・法則が働いているのかを

考えさせます。次に現象を単純化したモデルを構成させ、図で

表せるようにします。その後で現象を方程式で表し、それを数

学的に解きます。「実際には解かないで解の性質を知る方法が

あるとき私は方程式の意味を理解する。」(ディラック)

化学分野 理科の観察・実験は、安全に配慮して行ってください。化学

実験で扱う器具の操作方法、薬品の取り扱い方については、必

ず予備実験を行って確認し、生徒の動きを想定して準備をす

ることが大切です。日頃から安全への意識を高めるような指

導を心掛けましょう。また、物質やその変化の内容を扱うとき

は生徒にとって身近な例を挙げるなどして日常生活との関連

を図るとよいでしょう。

生物分野 生徒の自然体験は一人ひとり大きく異なり、最近は生き物に

触れたことの少ない生徒が多くなっています。授業で扱う生き

物は実物、映像、写真等を用いたり、身近にいる生物の紹介を

したりするなど生徒が実感できるようにしましょう。また、授

業で取り扱う内容は単元ごとに別々に途切れているわけでは

なく、それぞれ互いに密接な関係を持っています。全ての内容

が互いに結び付くような授業の展開を心掛けましょう。

地学分野 地学で扱う題材は、時間経過や空間の広がりが、我々の人生

から比べると雄大なものが多いです。地学的な事象を実感す

るためには、現実に起きている気象、地震・火山・天体現象を

扱ったり、コンピューターシミュレーション等を行うとよい

でしょう。

また、岩石などは実物に触れるようにすると、理解が深まり

ます。ただし、屋外での実習を行う前には、現場の安全性を十

分確認しましょう。

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93

「知識と技能」

を関連させて学習させる

ここがポイント 各教科の授業

5

共通教科

(1) 運動の合理的、計画的な実践を通して、運動の楽しさや喜び

を深く味わい、生涯にわたって運動を豊かに継続することができ

るようにするため、運動の多様性や体力の必要性について理解す

るとともに、それらの技能を身に付けるようにする。

(2) 生涯にわたって運動を豊かに継続するための課題を発見し、

合理的、計画的な解決に向けて思考し判断するとともに、自己や

仲間の考えたことを他者に伝える力を養う。

(3) 運動における競争や協働の経験を通して、公正に取り組む、

互いに協力する、自己の責任を果たす、参画する、一人一人の違

いを大切にしようとするなどの意欲を育てるとともに、健康・安

全を確保して、生涯にわたって継続して運動に親しむ態度を養

う。

保健の目標

(1) 個人及び社会生活における健康・安全について理解を深める

とともに、技能を身に付けるようにする。

(2) 健康についての自他や社会の課題を発見し、合理的、計画的

な解決に向けて思考し判断するとともに、目的や状況に応じて他

者に伝える力を養う。

(3) 生涯を通じて自他の健康の保持増進やそれを支える環境づく

りを目指し、明るく豊かで活力ある生活を営む態度を養う。

「生涯を通じて自らの健康や環境を適切に管理し、改善していくための資質・能力の育成」

高等学校では、体育の見方・考え方を働かせ、課題を発見し、合理的、

計画的な解決に向けた学習過程を通して、心と体を一体として捉え、生

涯にわたって豊かなスポーツライフを継続するとともに、自己の状況に

応じて体力の向上を図るための資質・能力を次のとおり育成することを

目指す。

☆保健体育科の目標とは

保健体育科の目標は、体育

や保健の見方・考え方を働か

せ、課題を発見し、合理的、計

画的な解決に向けた学習過程

を通して、心と体を一体とし

て捉え、生涯にわたって心身

の健康を保持増進し豊かなス

ポーツライフを継続するため

の資質・能力を次のとおり育

成することを目指す。

(1)各種の運動の特性に応

じた技能等及び社会生活にお

ける健康・安全について理解

するとともに、技能を身に付

けるようにする。

(2)運動や健康についての

自他や社会の課題を発見し、

合理的、計画的な解決に向け

て思考し判断するとともに、

他者に伝える力を養う。

(3)生涯にわたって継続し

て運動に親しむとともに健康

の保持増進と体力の向上を目

指し、明るく豊かで活力ある

生活を営む態度を養う。

6 保健体育

体育の目標 「生涯にわたる豊かなスポーツライフの継続」「体力の向上を図るための資質・能力の育成」

高等学校では、保健の見方・考え方を働かせ、合理的、計画的な解

決に向けた学習過程を通して、生涯を通じて人々が自らの健康や環境

を適切に管理し、改善していくための資質・能力を次のとおり育成す

る。

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94

1 授業の構想

まず、学習指導要領解説で、指導内容・例示を確認し、生徒の実態を踏まえ単元の学習内容を決定します。

そして、より具体的な学習内容や学習活動を構想します。

2 学習内容(生徒に身に付けさせたい力)の例

3 授業展開例

学習活動1 発問による生徒との応答(生徒の気付きを促す活動)

発問「右図のような守備のケースでは、レシーバー(後衛)の2人は、どこをカバーすればよいでしょうか?」

ボールが飛んでくる可能性が高い(低い)コースを理解する。

※ アタックの位置を変えて発問する。

学習活動2 学習活動1で学んだ知識を生かしたチームでの練習

ブロック アタック

レシーバー

の2人

体育の授業を構想する!~「知識及び技能」の例~ ここでは、入学年次の球技(ネット型バレーボール)の「知識及び技能」に

ついて、ボールを持たないときの動きである「空いている場所のカバー」に着

目した授業構想について紹介します。

「わかってできる」授業づくりを目指しましょう。

「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」や「学びに向かう力、人間性等」を各領域で学ぶことができるように指導内容を学習指導要領解説で確認しましょう。

体育学習ハンドブック(平成 25 年 3 月体育センター)、保健学習ハンドブック〈改訂版〉(平成 24 年 3 月体育センター)も

参考にしてください。

【知識】(解説例示)

球技の各型の各種目において用いられる技術や戦術、作戦には名称があり、それらを身に付けるため

のポイントがあること。

→(具体的内容)ラリーの中では、味方の動きに合わせてコート上の空いている場所をカバーするこ

とが必要であることを理解し、相手のスパイクに対し前衛がブロックに跳んだ場合、ボールの飛ん

でくる可能性が高い(低い)場所を理解すること。

【技能】(解説例示)

ラリーの中で、味方の動きに合わせてコート上の空いている場所をカバーすること。

→(具体的内容)相手のスパイクに対し前衛がブロックに跳んだら、残りのメンバー(後衛)で、ボ

ールの飛んでくる可能性が高い場所を優先的にカバーすること。

※ 関連させて指導する内容

(解説例示)ネット付近でボールの侵入を防いだり、打ち返したりすること。・・・ブロック

学習課題 「空いている場所のカバー」

ブロック アタック

・このケースでは、ブロッカーの後ろ(扇形)には、ボールが飛

んでくる可能性が低いと考え、それ以外の場所を2人でカバー

する練習を行う。

・<教員>「ブロックの横からボールが見える位置で守ろう!」

・コーチ役の生徒は、空いている場所をカバーできているかチェ

ックし、その都度フィードバックする。

・アタックの場所を変えて練習をする。

・アタックが難しい場合、投げてもよい。

コーチ役

カバーすべき場所が わかる

空いている場所をカバー できる

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95

☆高等学校芸術科の

「見方・考え方」 新学習指導要領解説 芸術編より

音楽的な見方・考え方(音楽)

感性を働かせ,音や音楽を、

音楽を形づくっている要素と

その働きの視点で捉え,自己

のイメージや感情,芸術とし

ての音楽の文化的・歴史的背

景などと関連付けること。

造形的な見方・考え方(美術・工芸)

感性や美的感覚,想像力を働

かせ,対象や事象を,造形的な

視点で捉え,自分としての意

味や価値をつくりだすこと。

書に関する見方・考え方(書道)

感性を働かせ,書を,書を構

成する要素やそれらが相互に

関連する働きの視点で捉え,

書かれた言葉,歴史的背景,

生活や社会,諸文化などとの

関わりから,意味や価値を見

いだすこと。

芸術の本質に迫る

授業づくりを目指して

ここがポイント

7 芸術

あなたにとっての芸術とは 好きな(影響を受けた)作家(作曲家、画家、書家等)は誰ですか?

心を揺さぶられた作品(芸術的体験)はどのようなものですか?

生徒にとって芸術科の教員は、最も身近な芸術家であるとともに、味わ

い方の伝道者でもあります。日常的に、芸術を愛好し芸術文化を尊重して

いる教員の姿から、生徒たちは何かを感じています。

生徒には、どのような姿に育ってほしいですか?

A さん:「ここに『f』と書いてあります。『フォルテは強く』

だから、ここは強く演奏します。」

B さん:「何か書いてあると、いつも雰囲気が変わるなぁ。

この『f』の意味は何だろう?」どのような音色、

大きさ、形になるように歌おうか…」

芸術科が大切にしたいこと 高等学校芸術科では、芸術文化に対する理解を深め、愛着を持つととも

に、一人ひとりがそれぞれの興味・関心や個性をいかし、感性を高め、芸術

と幅広く、かつ、多様な観点から主体的に関わっていくことが重要です。

学校を卒業した後も、社会とのつながりの中で芸術を愛好し、生涯にわた

り豊かな情操を持ち、芸術文化を尊重する態度の育成を目指していくこ

とが大切です。

「見方・考え方」と「感性」

芸術科における「見方・考え方」の重要な点は、知性と感性を相互に働か

せて対象や事象を捉えることです。

知性だけでは捉えられないことを、身体を通して、知性と感性を融合させ

ながら捉えていくこと、客観的事実と感情とを往還させて考えることは、他

教科等以上に芸術科が担っている学びです。また、多様性の包容、柔軟な発

想や他者との協働、自己表現とともに自己を形成していくことなども含ま

れており、そこにも、芸術を学ぶ意義や必要性があります。

また、特に重要な「感性」の働きは、感じるという受動的な面だけではあ

りません。感じ取って自己を形成していくこと、新しい意味や価値を創造し

ていくことなども含めて「感性」の働きです。また、「感性」は知性と一体

化して創造性の根幹をなすものです。芸術科は、子どもたちの創造性を育む

上で大切な役割を担っているのです。

保健学習ハンドブック(平成 25年 3月)神奈川県立体育センター 各教科の授業

5

共通教科

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96

美術科の授業例 美術Ⅰ「A表現(1)絵画・彫刻」、「B鑑賞」の授業例 〈題材名〉 心の形(石彫)

〈題材の目標〉

「心の形」というテーマを基に、自己の内面を深く見つめ、主題を生成し、造形的な効果をいかし創造的

に表現するとともに、他の生徒の作品から作者の心情や意図と創造的な表現の工夫などを感じ取り味わう。

自分が表したい主題を明確にもち、イメージを具現化することを重視して表現します。また、他者から承

認される鑑賞の活動を行うことにより、自己肯定感を高めます。

表現と鑑賞の活動を通して、美しいものやより良いものを求めていこうとする豊かな情操を養います。

美術・工芸の授業のコツ

①教材研究は必須 事前に自身で制作や鑑賞をする

ことで指導のポイントを確認で

き、ワークシートやプリント等も

作りやすくなります。

②安全指導は確実に 美術・工芸の道具や材料には危

険なものが沢山あります。使い方、

特性をきちんと伝えて事故や怪我

を防ぎましょう。

③作品を展示する 美しく飾られた作品を見ると生

徒は達成感を得ることができ、

自己肯定感が育まれます。

①教材研究は必須 試奏や聴き比べから、特徴や扱

う要素を整理しておくだけでな

く、楽譜のある楽曲は音符にとど

まらず、“楽譜”を読みましょう。

②安全指導は確実に 楽器等の正しい持ち方・構え方

の指導や、生徒の動線も意識した

座席等の配置の工夫、配線を伝え

る等、事故や怪我を防ぎましょう。

③拍手される機会を設ける 記憶に残る音楽体験の機会を計

画し、他者を尊重しながら自己肯

定感が高まるよう努めましょう。

【関心・意欲・態度】 主体的に学習に取り組む態度

自己の内面を見つめて、主体的に表現活動や鑑賞の創造活動に取り組めるよう、授

業の導入や展開を工夫しましょう。

【発想や構想の能力】 思考力・判断力・表現力 アイデアスケッチや言葉により、思いや考えを整理させ、自分が表したい主題を生成

させることが重要です。また、石の特性の理解、単純化や強調など、主題を表現するた

めの構想を練るよう、指導しましょう。

【創造的な技能】 知識及び技能

「心のこもっていない、何を表現したいのか分からない作品」には感動が伴いませ

ん。自分が表したいイメージを具現化させるために、本当にこの形で良いのかと主題を

追求させましょう。道具の特性の理解も大切です。

【鑑賞の能力】 思考力・判断力・表現力 知識及び技能 鑑賞も創造活動です。作品に対して、自分としての意味や価値をつくりだすよう指導

しましょう。また、根拠を持って互いに批評し合う活動を通して、自他の特性や個性に

ついて理解を深めさせるよう配慮しましょう。

石 材

ヤスリで成形

完 成

音 楽 の授業のコツ 書 道 の授業のコツ

①教材研究は必須 書道は「伝統と進取」の科目。

古典書跡・書風への正しい理解と

いう「土台」があって、はじめて

生徒の創造性は育まれます。

②安全指導は確実に 篆刻をする際には印刀や鑿(の

み)、彫刻刀など刃物を使います。

使い方や片付け方の指導は徹底

し、事故を未然に防ぎましょう。

③「書」を活用する 掲示物等、校内で実用可能な作

品の制作によって、学習への主体

性と自己肯定感が育まれます。

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97

授業を「実際のコミュニケー

ションの場」にする

ここがポイント 5

共通教科

各教科の授業

8 外国語(英語)

コミュニケーションを図る資質・能力の育成 新学習指導要領では外国語科の目標を、「外国語による聞くこと、読む

こと、話すこと、書くことの言語活動及びこれらを結び付けた統合的な言

語活動を通して、情報や考えなどを的確に理解したり適切に表現したり

伝え合ったりするコミュニケーションを図る資質・能力を育成すること」

としています。語彙や文法などの知識を、目的や場面、状況などに応じて

適切に活用できる技能を身に付け(知識及び技能)、聞いたり読んだりし

たことを的確に理解したり、それを活用して適切に表現したり伝え合っ

たりすることができる力を養うことで(思考力、判断力、表現力等)、相

手に配慮しながら、主体的・自律的にコミュニケーションを図ろうとする

態度(学びに向かう力、人間性等)を養うことを目指します。

英語を使って言語活動を 英語を「読む」とはどういうことでしょうか。単に英語を日本語に置き

換えるだけでは、必ずしも「英語を読んでいる」とは言えません。同様に、

英語を「話す/書く」とは、単に英語を書いたり英語が口から出てくるこ

とではなく、「英語を使ってメッセージを伝える」ことです。言語形式だ

けに目を向けるのではなく、適切な支援を行った上で、英語を使って内容

を理解したりメッセージを伝え合ったりする活動ができているか(右ペ

ージに「授業中の活動の例」があります)、また、生徒の思考・判断・表

現を促す場面を授業の中で設定できているか、常に意識するようにしま

しょう。

発信力の強化のために 適切なコミュニケーションのためには、「聞いたことや読んだことを理

解する力」と、「考えや気持ちを適切に話したり書いたりする力」の両方

が必要です。その育成のためには、それぞれに指導すべき事項があること

に留意しましょう。特に「話すこと」、「書くこと」の指導に当たっては、

使用する語句や文、具体例を十分に示した上で、生徒がそれらを参考にし

ながら自分で表現できるようにするなど、生徒の実態に応じた適切な支

援を行うことが求められます。

☆文法はコミュニケーショ

ンを支えるもの

文法を指導する際には、用

法などの説明や形式的な問題

演習に終始することなく、使

用場面をイメージした言語活

動の機会を設定し、実際のコ

ミュニケーションにおいて活

用できるようにすることを目

指しましょう。

☆複数の領域を結び付けて

新学習指導要領においては、

国際的な基準である CEFR を参

考に、五つの領域(聞くこと、

読むこと、話すこと[やり取

り]、話すこと[発表]、書くこ

と)別に目標が設定されていま

す。また、それぞれの領域にお

いて、他の複数の領域と結び付

けた統合的な言語活動例(聞き

取った内容を話したり書いた

りして伝え合う、など)が示さ

れているのも大きな特徴です。

☆中学校との接続を

中学校の学習指導要領を踏

まえ、言語活動を行う際は、

既習の語句や文構造、文法事

項などの学習内容を必要に応

じて振り返り、定着を図るこ

とが必要です。

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98

*<参考資料> Paul Nation (2013) What Should Every EFL Teacher Know? Compass Publishing

Speaking

(やり取り)

思考力・判断力・表現力等を育む授業づくり

○それぞれの活動が、目標(年間、単元)とつながっているかを意識する。

○指導と評価(筆記テスト、パフォーマンステスト、評定など)の一体化について、教科で共通理解を持つ。

○「意味」にフォーカスしたインプットとアウトプット(meaning-focused input[MFI]/output[MFO]*)を

行う。※英語を使って内容を理解したり、メッセージを伝え合ったりする活動【「授業中の活動の例」参照】

○「教科書の世界」と「生徒の世界」を結び付けた活動を取り入れる。

Picture Description [MFO]

会話フレームを使って、教科書の写真を見て読み取れる情報をペア

で伝え合う

New Vocabulary

新出語句の確認をペアで行う

Key Words [MFO]

提示されたキーワードを参考に、会話フレームを使ってペアで本時の内

容について推測し、話す

Listening Comprehension [MFI/MFO]

1回目はトピック(主題)など、あらかじめ提示された概要を聞き取る

2回目は聞き取れた情報をメモし、グループで情報を共有し内容を伝え合う

3回目を聞いた後、True or False Question に取り組む

Reading in Detail

ワークシートを利用して本文の詳細、文法事項を理解する

Retell [MFO]

キーワードを参考にしながら、ペアで本文の内容を自分の言葉で伝え合う

Think and Share [MFO]

本文の内容に対しての自分の意見を簡潔に書いてから、

会話フレームを使ってグループの中で発表する

グループ内の代表者が、クラス全体に発表する

Reading Aloud

ペアで Cloze reading、Shadowing などの音読活動を行う

Homework [MFO]

授業で自分が発表した内容(Retell)について、表現を吟味しながら書く

Speaking

(やり取り)

Speaking

(やり取り)

Listening

Reading

Speaking

(やり取り)

Writing

Speaking

(発表)

Writing

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99

学習したことを

生活にいかす力を育てる

ここがポイント 5

共通教科

各教科の授業

9 家庭

学習指導要領における家庭科の目標 現行の学習指導要領の目標は、「人間の生涯にわたる発達と生活の

営みを総合的にとらえ,家族・家庭の意義,家族・家庭と社会とのか

かわりについて理解させるとともに,生活に必要な知識と技術を習

得させ,男女が協力して主体的に家庭や地域の生活を創造する能力

と実践的な態度を育てる」です。生徒たちは、授業を通して生活をよ

り良くするための知識や技術を学び、学習したことを、自分自身の生

活で活用できるようになることが教科としての大事なねらいです。

ねらいを実現するためにも、いま話題になっている社会の問題な

どを取り入れた授業内容を工夫していくとよいでしょう。

また、新学習指導要領の目標は「生活の営みに係る見方・考え方を

働かせ,実践的・体験的な学習活動を通して,様々な人々と協働し,

よりよい社会の構築に向けて,男女が協力して主体的に家庭や地域

の生活を創造する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。」

です。続いて(1)として「知識及び技能」を、(2)として「思考

力,判断力,表現力等」を、(3)として「学びに向かう力,人間性

等」が示されているので、確認しておきましょう。

家庭科における「見方・考え方」 生活の営みに係る見方・考え方とは、「家族や家庭,衣食住,消費

や環境などに係る生活事象を,協力・協働,健康・快適・安全,生活

文化の継承・創造,持続可能な社会の構築等の視点で捉え,よりよい

生活を営むために工夫すること。」としています。

新学習指導要領にある「見方・考え方」を働かせ、「主体的・対話

的で深い学び」の授業改善を心がけていきましょう。

☆「空間軸」と「時間軸」

高等学校家庭科の学習指導要

領における教科目標から読み取

れるキーワードです。個人から

地域・社会へと視野を拡げてい

くという「空間軸」の捉え方に

より、社会から求められる課題

への対応が可能となります。ま

た、過去から未来という「時間

軸」の捉え方で次世代を担う役

割を自覚し、生涯を見通したキ

ャリア教育にも通じる考え方が

可能となります。

☆新学習指導要領への移行

措置について

新学習指導要領の契約の重要性

及び消費者保護の仕組みに関する

規定の事項を、平成 30年度以降に

高等学校に入学した生徒に限り平

成 31 年度から適用することとな

りました。ただし、家庭に関する

科目が 1学年(年次)(中等教育学

校においては 4 年次)にのみ設置

されている場合には、平成 30年度

から特例を準用して実施となりま

す。成年年齢引下げを見据え、指

導していくことが大切です。

→ 1章-6

→ダウンロードは、P115 へ

参考 評価規準作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料

(高等学校 普通教科「家庭」) 平成 24 年 7 月 国立教育政策研究所

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100

☆他教科とのつながり

家庭科の学習内容は生活全般

にわたるので、他の教科と関連

する内容も多くあります。他教

科と連携すると「内容が深ま

る」、「より理解しやすくなる」と

感じたこともあるのではないで

しょうか。他教科と授業内容に

ついて情報交換し、より良い授

業を考えてみましょう。

☆地域とのつながり

乳幼児施設として保育所・子

育て支援センター、児童関連施

設として放課後児童クラブ、高

齢者施設として特別養護老人ホ

ーム・デイサービスセンター等

があります。実習を行う際は、生

徒の安全はもとより、乳幼児や

高齢者のプライバシーを含む相

手に対する配慮や安全の確保に

配慮し、生徒が自覚と責任をも

って行動し、目的が効果的に達

成できるよう留意しましょう。

【参考資料】

神奈川県健康医療局

「健康・未病学習教材」

→ダウンロードは右

の2次元コードから

くらし安全防災局くらし安全部

消費生活課 「Jump up」等

→紹介ページは

右の2次元コー

ドから

学習指導要領改訂のポイント 小・中・高等学校の系統性を踏まえ,内容構成をA「家族・家庭及び福

祉」,B「衣食住」,C「消費生活・環境」にD「ホームプロジェクトと学

校家庭クラブ活動」を加えた四つに整理した。

「生涯の生活設計」について

まとめとしてではなく、科目の導入として位置付け、A~Cの内容と

関連付けることで、生活課題に対応した意思決定の重要性についての理

解や生涯を見通した生活設計の工夫ができるようにする。

少子化の進展に対応して

「家庭基礎」…子育て支援、乳幼児と関わるための基礎的技能

「家庭総合」…子供の遊びと文化、子育て支援、子供の発達に応じた適

切な関わり方の工夫をする。

高齢化の進展に対応して

高齢者の尊厳と介護(認知症を含む)に関する内容を充実を図る。

「家庭基礎」…高齢者の生活支援に関する基礎的な技能

「家庭総合」…高齢者の心身の状況に応じた生活支援に関する技能

衣食住について

日本の伝統的な生活文化の継承・創造に関わる内容の充実を図る。

→和食・和服・和室を扱う

「家庭基礎」…自立した生活を営むために必要な基礎的・基本的な内容

「家庭総合」…生涯を見通したライフステージごとの生活を科学的に理

解させることを重視

消費生活・環境について

成年年齢の引下げを踏まえ、契約の重要性や消費者保護の仕組みに関

する内容を充実するなど、消費者被害の未然防止に資する内容の充実を

図る。

ホームプロジェクトと学校家庭クラブ活動について

家庭や地域及び社会における生活の中から課題を見いだして解決策を

構想し、実践を評価・改善して、新たな課題の解決に向かう過程を重視

した学習の充実を図った。家庭科の授業の一環として、年間指導計画に

位置付けなければならない。

生活の科学的な理解を深め、生活の自立に向けて主体的に活用できる

技能の習得を図るために、実践的・体験的な学習活動を重視し、問題解

決的な学習を充実していかなくてはなりません。

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101

(1) 情報社会の問題解決

科目の導入として位置付け,(2)から(4)までの内容に結び付けられるように

するとともに,情報と情報技術を用いて,生徒が情報社会の問題を主体的に発見

し,明確化し,解決策を考えられるようにする。

(2) コミュニケーションと情報デザイン

情報のデジタル化や,コミュニケーションとメディアの関係を理解し,情報の

構造と関係性を適切に表現したデザインについて作成,評価,改善を繰り返す

ことで,情報伝達やコミュニケーションにおける問題を解決できるようになる。

(3) コンピュータとプログラミング

自然現象や社会現象の問題点を発見し,コンピュータやプログラミングを活用し

解決策を考えられるようにする。

(4) 情報通信ネットワークとデータの活用

情報通信ネットワークの管理,運用ができ,データベースや Web 上のテキスト

データ,オープンデータ等を可視化,分析する力を育成する。

これからの社会で

求められる能力を育てる

ここがポイント 5

共通教科

各教科の授業

10 情報

共通教科「情報」とはどのような教科か? 新学習指導要領において、「情報に関する科学的な見方・考え方を重

視するとともに,問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ

効果的に活用するための知識及び技能を身に付け,実際に活用する力を

養うとともに,情報社会に主体的に参画する態度を養うことを目指して

いる。」としています。

情報科における「見方・考え方」

新学習指導要領において、共通教科情報科における「情報に関する科

学的な見方・考え方」は、「事象を,情報とその結び付きとして捉え,

情報技術の適切かつ効果的な活用(プログラミング,モデル化とシミュ

レーションを行ったり情報デザインを適用したりすること等)により,

新たな情報に再構成すること」であると整理しています。

この「情報に関する科学的な見方・考え方」を働かせ、成長させる授

業の実現が、主体的・対話的で深い学びにつながるのです。

新学習指導要領実施に向けて準備をしよう 新学習指導要領では、共通必履修科目として「情報Ⅰ」、選択科目と

して「情報Ⅱ」が設けられました。「情報Ⅰ」の構成は次の通りです。

☆共通教科情報科の位置

付け

新学習指導要領解説 情

報編には、次のように書か

れています。「共通教科情報

科は,小・中・高等学校の

各教科等の指導を通じて行

われる情報教育の中核とし

て位置付けられる。」

小・中・高等学校を通して体

系的・系統的に行われる情報

教育の目標について正しく

理解する必要があります。

☆プログラミング教育

小学校段階におけるプロ

グラミング教育の在り方に

ついて(議論の取りまと

め)では、「自分が意図する

一連の活動を実現するため

に、どのような動きの組合

せが必要であり、一つ一つ

の動きに対応した記号を、

どのように組み合わせたら

いいのか、記号の組合せを

どのように改善していけ

ば、より意図した活動に近

づくのか、といったことを

論理的に考えていく力」で

ある、プログラミング的思

考などを育成するもの、と

しています。

Page 21: 各教科の授業...調査、統計、画像、文献などの地理情報の収集、選択、処理、諸資料 の地理情報化や地図化(地理B)」等が示されています。

102

高等学校

☆「情報Ⅰ」実施に向けて

新設された共通必修科目

「情報Ⅰ」を教える準備を進

めるための教員研修用教材が

文部科学省より公開されてい

ます。具体的な演習例が紹介

されており、実際の授業等で

も活用できる内容になってい

ます。詳細は以下を参考にし

てください。

高等学校情報科「情報Ⅰ」

教員研修用教材

→ダウンロードは下の2次元

コードから

☆情報活用能力

情報活用能力の定義と解

説は「教育の情報化に関する

手引」(令和元年文部科学省)

や「新学習指導要領解説 総

則編」「新学習指導要領解説

情報編」に詳細があります。

原典と併せて巻末の参考資

料も確認してください。

教育の情報化に関する手引

→ダウンロードは下の2次

元コードから

他教科との関係

高等学校段階における情報教育の実施を、共通教科情報科だけが担う

ように極めて限定的に捉えてはいけません。

新学習指導要領において、情報活用能力は、言語能力などと同様に、教

科等を越えた全ての学習の基盤として育まれ活用される資質・能力とし

ています。義務教育段階と同様、高等学校段階においても、教科等の特質

に応じて教科等横断的に情報活用能力を身につけさせる教育のより一層

の充実が求められています。特に、統計の指導に当たっては数学科と、情

報モラルなどの指導に当たっては公民科との関連を図ることが大切で

す。

また、共通教科情報科の学びによって身につけた能力や態度を他の教

科・科目等の学習において積極的に活用していくことが重要です。

学校全体での情報教育を考えるときには,共通教科情報科と他教科等

の学習内容や学習活動との関連をよく検討してカリキュラム・マネジメ

ントを行い,効果的な指導計画を立てることが大切です。

「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の項目の対応関係は次の通りです。

小・中学校との学習内容の接続

情報科 数学科、公民科など

各教科

小学校段階におけるプログラミ

ング教育や、中学校技術・家庭科

(技術分野)の学習内容など前段

階での学びを踏まえ、学習内容の

適切な接続・連携により学習に広

がりや深まりが生まれるよう留

意する必要があります。

小学校 例:プログラミング教育

中学校 例:技術・家庭科(技術分野)

各学習指導要領解説 →ダウンロードは P115へ

Page 22: 各教科の授業...調査、統計、画像、文献などの地理情報の収集、選択、処理、諸資料 の地理情報化や地図化(地理B)」等が示されています。

103

社会で生きて働く知識や

技能を育成する

ここがポイント 5

専門教科

各教科の授業

11 農業・工業・商業・水産・看護・福祉

各教科における見方・考え方

☆専門高校の現状

高等学校における職業教育

は、農業、工業、商業、水産、家

庭、看護、情報、福祉など職業

に関する教育を行う専門高校を

中心に行われています。

平成30年5月現在、専門高校

の生徒数は、約59万人であり、

高等学校の生徒数全体の18.3%

を占めています。

専門高校は、有為な職業人を

多数育成するとともに、望まし

い勤労観・職業観の育成や豊か

な感性や創造性を養う総合的な

人間教育の場としても大きな役

割を果たしています。

☆専門教科に求められるもの

「県立高校改革実施計画(全

体)平成28年1月」では、「将来

のスペシャリストの育成」、「将

来の地域産業を担う人材の育

成」、「人間性豊かな職業人の育

成」という3つの人材育成の視

点に基づき、生徒の多様な進路

希望に対応した教育課程とな

るように、より一層の改善に取

り組みます。また、社会、経済、

産業の動向、グローバル化・情

報化の急速な進展や少子高齢・

人口減少への対応なども踏ま

えて取り組むことが、専門教科

に求められています。

農業や農業関連産業に関する事象を,安定的な食料生産と

環境保全及び資源活用等の視点で捉え,持続可能で創造的な

農業や地域振興と関連付けること。

ものづくりを,工業生産,生産工程の情報化,持続可能

な社会の構築などに着目して捉え,新たな時代を切り拓く

安全で安心な付加価値の高い創造的な製品や構造物などと

関連付けること。

工業

企業活動に関する事象を,企業の社会的責任に着目して

捉え,ビジネスの適切な展開と関連付けること。

商業

水産や海洋に関連する事象を,漁業生産や船舶運航,海

洋工学,情報通信,資源増殖,水産食品の製造や流通,海

洋の環境保全や活用などの視点で捉え,地域や社会の健全

で持続的な発展と関連付けること。

水産

健康に関する事象を,当事者の考えや状況,疾病や障害

とその治療等が生活に与える影響に着目して捉え,当事者

による自己管理を目指して,適切かつ効果的な看護と関連

付けること。

看護

生活に関する事象を,当事者の考えや状況,環境の継続

性に着目して捉え,人間としての尊厳の保持と自立を目指

して,適切かつ効果的な社会福祉と関連付けること。

福祉

農業

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104

専門教科の教科指導で意識するポイント

教科指導の座学、実習等の場面で意識しましょう。

専門高校に求められる役割 「県立高校改革実施計画に係る専門高校のあり方 報告」(神奈川県産業

教育審議会 平成30年7月)では神奈川の専門高校に求められる役割が次

のように示されています。

平成28年12月の中央教育審議会がまとめた「幼稚園、小学校、中学校、

高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等につ

いて(答申)」では、専門学科においては、我が国の産業経済の発展を担う

人材又はその他の特定の分野における専門的な人材を育成することが求め

られています。

☆課程・学科等の改善

参考:「県立高校改革実施計画

(全体)平成28年1月」

農業 神奈川の農業の特性をい

かすとともに、6次産業化の進展

への対応や先進的な農業技術の

習得などを図るため、農業にかか

る教育機関や企業などとの連携

を一層推進する。

工業 科学技術の進歩とともに

高度化する工業技術の習得や実

践的なものづくり教育を進める

ため、企業や大学、職業技術校な

どとの連携を一層推進する。

商業 急速に進展する経済社会

のグローバル化に対応するとと

もに、他の産業分野との連携、協

働による生産から加工、流通、販

売までの総合的で実践的な教育

を進めるため、地域の企業や商工

業団体、大学などとの連携を一層

推進する。

水産 水産業及び海洋関連産業

の担い手となる人材を育成する

ため、地元の漁業協同組合や企

業、行政機関、さらに、大学や

研究機関などとの連携を一層推

進する。

看護 人間の健康の保持増進に

寄与する専門的な知識や技能を

養うとともに、看護に関する能力

や態度を育成するため、医療技術

の進歩などにより、高度化する看

護や保健、医療、福祉の進展を見

据えながら、今後の看護教育の実

践の中で不断の検証を図る。

福祉 社会福祉に対する地域や

行政等のニーズが高まる中で、介

護福祉や手話言語などについて

の専門的な知識・技能の習得や、

社会福祉にかかわる人材を育成

するため、社会福祉施設をはじめ

社会福祉協議会や行政機関、大学

や専門学校などとの連携を一層

推進する。

・実験・実習や他教科等との関連性に留意し、指導計画を立てる。

・実際の製品等を用いて、生徒がイメージできるように工夫を図る。

・自分自身の技術・技能の向上を図る。

・授業の開始時に、服装、機器や機械等の点検・確認などの安全教育を確実に行

い、生徒の安全を確保し、事故防止に努める。

・作品等の完成度や技術・技能のレベルのみでの評価にならないようにする。

・専門分野への興味・関心が高く、専門性の深化を目指す生徒にとって、重要な

学びの場である教科に関係する部活動(農業クラブ、ロボット、簿記会計等)

の指導者としての資質を身に付ける。

・資格取得へ向けての指導に積極的に取り組む。

○本県の専門高校に求められる役割 ・科学技術の発展、グローバル化、産業構造の変化を踏まえた、高度かつ専門的な

知識・技術の習得

・専門的な知識・技術の定着を図るとともに、多様な課題に対応できる課題解決能

力を育成

・地域や産業界との連携のもと、産業現場等における長期間の実習等、実践的な教

育活動のより一層の充実

見方・考え方を意識して授業をつくる 見方・考え方は、「各教科等を学ぶ本質的な意義の中核をなすもの」です。

商業科を例に「見方・考え方」の重要性について考えてみましょう。

商業の見方・考え方は「企業活動に関する事象を(中略)ビジネスの適切

な展開と関連付ける」とされ、様々な事象を企業の側から捉えることが求

められています。

例えば、「電子決済」について学ぶ単元で、ある生徒の授業後の振り返り

の記述が次のようなものであったとします。

・電子マネーのいいところや問題点がわかった。今使っている電子マネ

ー以外も試しに使ってみたい。

この生徒は「消費者」として授業内容を捉えており、教科を学ぶ本質で

ある「商業の見方・考え方」(企業の側から捉える)から離れています。「何

のために商業を学ぶか」が把握できていなければ、この単元の目標はもと

より、教科・科目の目標の達成も難しいでしょう。

生徒が教科・科目を学ぶ「本質的な意義」の部分を踏み外すことが無いよ

う、各教科の「見方・考え方」を意識した授業づくりを心がけましょう。

Page 24: 各教科の授業...調査、統計、画像、文献などの地理情報の収集、選択、処理、諸資料 の地理情報化や地図化(地理B)」等が示されています。

105

自分と向き合う学びを

させよう

ここがポイント 5

各教科の授業

共通教科

「総合的な探究の時間」の活用 移行措置が始まる高校の新学習指導要領では、各教科等で育成する資

質・能力を相互に関連付け、実社会・実生活での活用や、各教科等を越え

た学習の基盤となる資質・能力の育成を重要視しています。これまでの総

合的な学習の時間は「総合的な探究の時間」として令和元年度から先行実

施されています。「総合的な探究の時間」は教科の学びを教科内だけにと

どめず、生徒自身がこれまでの学びを総動員しながら、主体的に課題に向

き合い、解決していく資質・能力を育成するための教科横断的なカリキュ

ラム・マネジメントの軸とされています。

探究的な学習

探究的な学習とは、問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく一連の

学習活動で、次の流れに沿ってスパイラルに進みます。

探究が自律的に行われるために

自己課題:学校が探究課題を設定するに当たっては、生徒の多様な課題に

対する意識をいかすことが求められています。したがって、一人ひとりの多

様な学びを把握すること、活動を支える学習環境を整えること、他者と交流

する場を設けることの配慮が必要です。

運用:課題解決のために見通しを持って、自ら計画を立てて、自分の力で進

められることが求められています。そのために他者と協働することは、個人

ではつくりだすことができない価値をを生み出し、解決の糸口もつかみやす

くなります。

社会参画:探究に主体的・協働的に取り組む中で、新たな価値を創造し、よ

りよい社会を実現しようとする態度を養うことが重要です。そのために探究

の意義を自覚したり、自分のよさや可能性に気付いたり、学んだことを自信

につなげたりする内省的な視点をふまえて内容を設定しましょう。

課題の設定

情報の収集

整理・分析

まとめ・表現

12 総合的な探究の時間

☆探究課題

テーマを決めて、調べ学習

するだけの授業になっていま

せんか。生徒に身近な学習対

象(ひと・もの・こと)の中か

ら自分にとって意味や価値の

ある探究課題を設定させるこ

とが大切です。日常生活や社

会に見られる事象は複合的な

要素から成り立っているの

で、各教科・科目等で学習した

知識だけでは解決できないこ

ともあります。そうしたこと

を課題として、探究させても

よいでしょう。

☆神奈川県の「総合的な探究

の時間」に係る研究

県立高校改革で教育課程研

究開発校に指定された高校で

は、自ら課題を発見し解決す

る探究の学びについての研究

に取り組みます。いくつかの

指定校ではSDGs(持続可能な

開発目標)をテーマとした研

究に取り組みます。

SDGsとは、「 Sustainabule

Development Goals」の略称で、

2015年9月の国連サミットで

採択されました。

みなさんも理解を深めてい

くことが大切です。

Page 25: 各教科の授業...調査、統計、画像、文献などの地理情報の収集、選択、処理、諸資料 の地理情報化や地図化(地理B)」等が示されています。

106

探究的な学習における学習指導例

(その他の活動事例)

・体験活動の対比 ・シミュレーション

・資料の比較 ・グラフの解読

・ブレインストーミング ・ウェビングマップ

・KJ法 など

(その他の活動事例)

・アンケート調査 ・インタビュー

・電話、電子メール ・図書館

・インターネット ・講演会、セミナー

・実験、観察、実習 ・フィールドワーク など

(その他の活動事例)

・時系列表 ・KJ法

・ベン図 ・メリット、デメリット

・ビフォー、アフター ・マトリックス

・二次元表 ・Yチャート

・ロジックツリー ・グラフ

・統計的手法 ・フィッシュボーン など

(その他の活動事例)

・レポート、論文 ・新聞

・プレゼンテーション ・ウェブページ

・制作、ものづくり ・パネルディスカッション

・地域社会に向けた報告会 など

探究課題:災害について ~自分(たち)の住んでいる地域における災害~

~~

ランキングで課題を設定する

災害の種類について、カードに書き出し、社会的影響

の大きい順に並べ換えてみる。

課題の設定

地図を使って整理・分析する

収集した情報を地域の地図に落とし込み、写真や数値な

どを使って整理・分析を行い、災害について考える。

整理・分析

☆効果的な思考ツールを選択するこ

とで、新たな気付きが生まれます。

教員自身が思考ツールの引き出し

を多く持つことが大切です。

学習の対象や領域は、特

定の教科・科目等に留ま

らず、横断的・総合的に

考えましょう。

自分の地域ではどのような災害が起きるのか調べる

地形、地質を実地調査したり、地域の文献やインタ

ビュー、インターネットなどで調べる。

ネット

情報の収集

ポスターとしてまとめ・表現する

整理・分析に使用した地図をポスターにまとめ、写真や

図表を用いながら、災害への気付きや防災についての考

えを述べ、聞き手とディスカッションする。

まとめ・表現

☆まずは、実際に体験したり、聞い

たりすることで、情報を収集させ

ましょう。また、生徒が安易に情

報メディアに頼らないように、適

切に指導することも必要です。

複数の教科・科目等にお

ける見方・考え方を総合

的・統合的に働かせて探

究しましょう。

解決の道筋が明らかに

ならない課題や、唯一の

正解が存在しない課題

に対して、最適解や納得

解を見いだすことを重

視しましょう。