20
3.環境にやさしい住まいを実現する 世界的に地球温暖化の問題への対処のため「低炭素社会」の実現が求められる なか、神戸市では住生活に関係する家庭部門の年間のCO 排出量が平成 20 年 度で全体の約 15%を占め、温暖化対策の基準年度である平成2年度と比べ約 16 %増加しています。このことなどから、自分にあった住まい・住まい方を選択す るうえで、再生可能エネルギーの導入や省エネルギー化、省資源化、長寿命化など、 環境にやさしい住まいの実現に取り組む必要性が一層高まっています。しかし、 平成 20 年住宅・土地統計調査によると市内の太陽光発電機器の普及率は1%未 満、二重サッシや複層ガラスを使用している割合は 13%程度に留まっており、 環境にやさしい住まいの実現に係る取り組みが進んでいるとはいえないのが現状 です。 このような社会的背景のなかで、国においては、一定規模以上の住宅を建築す る際に、省エネルギー性能の届出を義務づける「エネルギーの使用の合理化に関 する法律(昭和 54 年6月法律第 49 号)(省エネ法)」の平成 17 年の改正や、住 まいを長期にわたって良好な状態で使用するため「長期優良住宅の普及の促進に 関する法律(平成 20 年 12 月法律第 87 号)(長期優良住宅普及促進法)」に規定 する認定基準により、所管行政庁に構造や設備、維持管理等に関する計画の認定 を受ける制度の創設など、法的整備が進められています。 また、「低炭素社会」の実現は、住まい・住まい方だけで完結する課題ではな いことから、市全体で取り組む環境政策と連動した施策展開を図ることで、より 効果のある対策を総合的に進めていきます。 58 第5章 2-3 図表1 市内の家庭部門における CO 排出量と世帯数の推移 資料 : 神戸市都市計画総局調べ 0.8 0.9 1 1.1 1. 2 1. 3 1.4 1.5 1990 (平成2年度) (基準年度) 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 1 9 9 0 (年度) CO2 排出量 世帯数 CO2 排出量/世帯数

第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

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Page 1: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

3.環境にやさしい住まいを実現する

世界的に地球温暖化の問題への対処のため「低炭素社会」の実現が求められる

なか、神戸市では住生活に関係する家庭部門の年間のCO2排出量が平成 20 年

度で全体の約 15%を占め、温暖化対策の基準年度である平成2年度と比べ約 16

%増加しています。このことなどから、自分にあった住まい・住まい方を選択す

るうえで、再生可能エネルギーの導入や省エネルギー化、省資源化、長寿命化など、

環境にやさしい住まいの実現に取り組む必要性が一層高まっています。しかし、

平成 20 年住宅・土地統計調査によると市内の太陽光発電機器の普及率は1%未

満、二重サッシや複層ガラスを使用している割合は 13%程度に留まっており、

環境にやさしい住まいの実現に係る取り組みが進んでいるとはいえないのが現状

です。

このような社会的背景のなかで、国においては、一定規模以上の住宅を建築す

る際に、省エネルギー性能の届出を義務づける「エネルギーの使用の合理化に関

する法律(昭和 54 年6月法律第 49 号)(省エネ法)」の平成 17 年の改正や、住

まいを長期にわたって良好な状態で使用するため「長期優良住宅の普及の促進に

関する法律(平成 20 年 12 月法律第 87 号)(長期優良住宅普及促進法)」に規定

する認定基準により、所管行政庁に構造や設備、維持管理等に関する計画の認定

を受ける制度の創設など、法的整備が進められています。

また、「低炭素社会」の実現は、住まい・住まい方だけで完結する課題ではな

いことから、市全体で取り組む環境政策と連動した施策展開を図ることで、より

効果のある対策を総合的に進めていきます。

58

第5章 2-3 図表1 市内の家庭部門における CO2排出量と世帯数の推移

               資料 :神戸市都市計画総局調べ

0.8

0.9

1

1.1

1.2

1.3

1.4

1.5

1990(平成2年度)(基準年度)

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

1990年度を「1」とした場合の指数

(年度)

CO2 排出量 世帯数 CO2 排出量/世帯数

第5章 

施策の推進と方向性

Page 2: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

第5章 

施策の推進と方向性

(1) より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

住まいの建設から取り壊しまでに排出されるCO2(ライフサイクルCO2)

のうち、建設段階に排出されるCO2の削減や建て替えなどによる資源の消費の

抑制を図るためには、住宅を新築する際に「いいものをつくって、きちんと手入

れして、長く大切に使う」意識を持って住まいづくりを進める必要があります。

さらに、長く住まうことを想定すると、個々の住宅の省エネルギー性能を高めて

いくことも重要といえます。

このことから、省エネルギー・省資源・環境負荷の低減など地球環境に配慮し、

快適性や維持管理も考慮した良質な住宅を普及するため、長期優良住宅認定制度

やCASBEE神戸 9 などを活用した施策を展開していきます。

一方で、市内の新築住宅の年間供給

戸数は住宅総数の1~2%程度であり、

住まいから排出されるCO2の削減を効

果的に図っていくためには、既存住宅

の対策が重要といえます。したがって、

より長く住まうための手入れによる長

寿命化や、省エネルギー性能の向上な

どを図ることにより、既存住宅をより

長期使用が可能な良質な状態に保ち、

環境にやさしい住まいにしていく必要

があります。

このため、維持管理に関する相談体制や情報提供、住教育の充実を図っていき

ます。さらに、既存住宅の性能の向上を図るため、太陽光発電機器や高効率給湯

器の設置、リフォームなどによる省エネルギー性能の向上や長寿命化を目的とし

た制度を普及していきます。

また、市民のより長く大切に住まう意識の向上を図るため、良好な状態に保つ

住まい方に対して住まい手が誇りを持てるような仕組みを検討していきます。

59

【長期優良住宅】

9

CASBEE神戸:一定規模以上の建築物について、建築主が自ら室内・室外環境や耐震性、耐用性などの「品質・

         性能」、省エネ・資源リサイクル性・敷地外環境などの「環境負荷」の両面から、建築物の環

         境性能を評価し、市に届ける制度。

【CASBEEの評価結果を活用した環境性能表示】

Page 3: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

(2) 環境にやさしい住まい方の普及

日々の生活の場である住まいやそこでの住まい方においてCO2排出量の削減

や省エネルギー化などを進めるためには、住まい手一人一人が地球環境への配慮

に対する意識を高めるとともに、環境にやさしい住まい方を実践することが重要

といえます。

このため、打ち水や敷地の緑化、雨水利用など身近な範囲で楽しみながら気軽

に取り組める環境にやさしい住まい方について、情報提供や住教育の充実を図っ

ていきます。また、近隣住環境計画制度を活用したうるおいのある路地づくりな

ど、向こう三軒両隣りの小さな範囲から始める地域での取り組みを支援していき

ます。あわせて、相談体制の充実を図るため、住まい・住まい方における環境全

般の専門家の育成を検討していきます。

60

第5章 

施策の推進と方向性

Page 4: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

4.ニーズにあった住まいを選べる仕組みを創り出す

社会環境が大きく変わり、人生設計のあり方が多様化するなか、今後は市民そ

れぞれがライフスタイルに応じて自分にあった住まい・住まい方を選択し、見つ

けていくことの重要性が増していくと考えられます。

また、ライフスタイルの変化に応じて自分にあった住まいに住むためには、例

えば、加齢に伴う身体機能の低下による住まいのバリアフリー化や、神戸の特色

である斜面地からの住み替え、同居していた子どもの独立による広すぎる住まい

からの住み替えなど、住まいのリフォームや住み替えが必要になります。

そのためには、リフォームを前提とし、長く大切に使うことを意識した住まい

づくりや、住み替えがスムーズにできる環境づくりが重要と考えられます。また、

市内に約 10 万戸ある空家のうち、良質なストックを住み替え先として有効に活

用することにより、自分にあった住まいをより広く選択できる施策を展開してい

きます。

61

第5章 

施策の推進と方向性

Page 5: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

(1) 住み替えがスムーズにできる環境づくり

ライフスタイルに応じて住まいを選択するためには、まず、住まいそのものが

良質であることが必要です。

このことから、住まいの質を向上するために、新築住宅については、長期優良

住宅認定制度や住宅性能表示制度の普及により住まいの長寿命化を進めていきま

す。既存住宅については、住まいの購入やリフォームに関する相談体制や情報提

供の充実を図り、より長く住まうために適切な流通やリフォームを推進していき

ます。

住み替え先の選択肢として、良質な既存住宅は大きな役割を果たすことから、

その流通の一層の促進が必要といえます。一方で、既存住宅の流通市場において

は、流通する住まいの安全性や、取引価格の妥当性などの住まいの情報が分かり

にくいという課題があります。

流通する住まいの情報が分かりやすく提供される環境をつくるため、住宅性能

表示制度の普及に引き続き取り組むとともに、住まいの劣化状況などの検査や住

宅履歴情報の整備を検討していきます。また、住宅瑕疵担保責任保険制度の普及

や住宅の価格設定の仕組みの「見える化」に向けた取り組みを進めていきます。

さらに、既存住宅の流通を促進するため、住み替えたい人と不動産業者をつな

げる仕組みを検討していきます。

62

第5章 

施策の推進と方向性

Page 6: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

(2) 空家ストックの有効な活用

空家の増加は、治安の悪化(窃盗、放火等の機会犯罪増加の可能性など)、雑

草の繁茂による景観の悪化、近隣住民の不安感の高まりなど、様々な問題を地域

にもたらす可能性があり、大きな課題です。

空家の発生は市内で一律に進行しているわけではなく、地域ごとに異なるのが

特徴です。

ただし、平成 20 年時点で、市内に存在する空家の約 2割が「腐朽・破損あり」

と判断されており、すべての空家が流通可能な質を保っているわけではなく、所

有者としては、空家を除却してから土地を売るか、適切なリフォームをして住宅

として活用するかなどの対応を検討する必要があります。なかでも、老朽化など

により危険性が高い空家については、地域の防災性の観点から課題が大きく、除

却・建て替えの促進を図っていく必要があります。また、長期的に人口が減少し

ていくことをふまえると、地域ごとに空家の解消と活用の方向を検討する必要が

あると考えられます。加えて、空家を除却した後の土地を有効に活用することで、

空家の解消だけでなく地域の住環境の向上を図ることが考えられます。

63

第5章 2-4 図表1 市内の空家の数と対応方策の現状

(空家戸数は平成 20年住宅 ・土地統計調査より抽出)

第5章 

施策の推進と方向性

住宅

居住している住宅

居住していない住宅 = 空家

二次的住宅(別荘、セカンドハウス)

売却用住宅空家

普通・良質空家

老朽空家

賃貸用住宅空家

その他の空家

賃貸用住宅空家

その他の空家

約1万戸

約2.5万戸

約1万戸

約5万戸

約7.5万戸

約2万戸

約10万戸

約66万戸

約77万戸

※住宅総数77万戸には、上記の他、一時的な使用のみの住宅など約5千戸を含む

リフォーム=価値復活

流 通

転 用

除 却

流 通

建て替え

除 却

建て替え

Page 7: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

さらに、空家の課題を権利関係から見ると、所有者は、除却するメリットが無

いことや、売却しやすい環境が無いことなどから、特に利用する予定はないが、

今すぐどうこうする必要を感じなかったり、売却したいが、買い手が見つからな

いなどの理由により、空家のまま保持しつづける場合が多くあります。その状態

が続くと、相続発生などにより権利者が増え、除却や売却など、処分がより難し

くなる可能性が高まっていきます。

これらのことから、老朽化が進み、放置しておくと周辺住民に危害が及ぶ危険

性のある住宅の所有者に対しては、適正な維持管理を行うよう積極的に指導して

いきます。また、「空家を今後どうすればいいか分からない」といった悩みをも

つ所有者に対しては、弁護士やファイナンシャルプランナーなどの専門家による

相談体制、情報提供などをさらに充実していきます。

一方、良好な状態の空家や空地の活用による地域の住環境の向上を図っていく

ため、地域のニーズにあった空家の有効活用や防災空地への活用、地域で空地を

管理することによるコミュニティの活性化など、空家や空地の活用を進めていく

仕組みの検討を進めていきます。

また、比較的良好な状態の空家は、積極的に流通を図っていくことで有効に活

用できると考えられます。

既存住宅を購入する際、市民が抱く不安の軽減を図るため、耐震性を高めるな

どの住まいの安全性を高めるリフォームに対する支援は今後も継続していきま

す。また、活用する空家の安全性や取引価格の妥当性などの住まいの情報が分か

りやすく提供される環境をつくっていくとともに、既存住宅の購入希望者と売却

希望者や不動産業者をつなげる仕組みを検討していきます。

64

第5章 

施策の推進と方向性

Page 8: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

5.人と人とのつながりを大切にした住まいづくりを支援する

阪神・淡路大震災の経験から、市民一人一人の自助努力と地域のコミュニティ

の重要性が再認識されました。一方で、時間の経過に伴い、コミュニティの存続

が難しくなっている地域の表面化など、震災の経験や記憶が薄れていくことが懸

念されています。また、近年は共同住宅の高経年化や、ニュータウンの成熟化など、

住まいの維持管理・運営や住環境に関する問題に対応するため、個人や家庭だけ

ではなく、地域で共に住まう意識の重要性が高まっています。

このような状況から、住まい手が主体となって行う身近な地域での魅力ある住

環境づくりや分譲マンション、民間賃貸住宅の管理・運営、密集市街地やニュー

タウンなど課題を抱える地域での取り組みなど、人と人とのつながりを大切にし

た住まいづくりを支援する施策を展開していきます。

また、地域的な課題は住まい・住まい方だけでなく都市全体から見た対策も重

要であることから、都市政策と連動することにより、より効果のある施策の展開

を図っていきます。

65

第5章 

施策の推進と方向性

Page 9: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

(1) 身近な地域での魅力ある住環境づくりの支援

神戸には山と海が近接し、山の手、市街地、臨海部、ニュータウンなど住宅地

として多様な選択肢があり、魅力的な住環境が形成されています。また、地域住

民が主体として魅力ある住環境の形成に積極的に取り組んできました。

こうした地理的特性や伝統をふまえ、様々な主体が連携しながら「住まい・住

まい方」の観点から地域の価値を高め、ひいてはより良好な住環境づくりに取り

組むことで、豊かな住生活の実現が図れると考えられます。

神戸市では、市民自らが地域のまちづくりに主体的に関わることができるよう、

地域の活動支援、担い手育成を行ってきました。また、地域の活動を通じて、「まち」

の特性を活かした地域のルールづくり、ものづくりを進めてきているところです。

また、地域の住環境を保全し、魅力ある個性的なまちづくりが進められるよう、

住民自らが締結する建築協定の推進や、多様な地域特性に応じて、より柔軟に住

環境の向上に活用できるよう近隣住環境計画制度を創設するなど、向こう三軒両

隣りといった小さな範囲から住環境をより良くするための仕組みを整えてきまし

た。

コミュニティに関する神戸市民の満足度は全般的に高く、平成 20 年住生活総

合調査からは「近隣の人たちやコミュニティとの関わり」について約 65%の市

民が「満足している」「まあ満足している」と回答しています。その一方で、自治会、

マンション管理組合など、地域で活動する主体は弱体化しつつあるという声や、

震災復興の中で地域の個性の希薄化を危惧する声などがあります。

これらのことから、すでにある住環境の魅力を体感することにより、身近な地

域の住環境に対する意識向上を図るため、神戸の多様な住まいの選択肢を活かし

たライフスタイルに応じた住まい方や住み替えを普及促進していきます。例えば、

山の手を中心とした斜面地の特性である日当たりや風通しの良さを活かした住ま

い方など、神戸の特性を活かした住まい方の発信を検討していきます。

また、神戸の特性を活かした住まい方を推進していくため、景観や植栽に配慮

された住まいや神戸らしさを意識したおしゃれな住まい方への顕彰制度の検討な

ど、ご近所で気軽に住環境の向上に取り組める仕組みづくりを検討していきます。

例えば、耐震改修や、建て替え時のセットバックに伴う細街路の整備など、個々

の住まいでの取り組みの積み重ねが重要である施策についても、地域住民との協

働により効果的に進めていきます。さらに、将来にわたって良好な住環境を維持・

向上する建築協定の推進や向こう三軒両隣りの範囲から地域の良好な住環境を柔

軟につくりあげていく近隣住環境計画制度のより一層の活用など、地域コミュニ

ティを活かしたまちづくりに取り組んでいきます。

66

第5章 

施策の推進と方向性

Page 10: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

(2) 分譲マンション、民間賃貸住宅の管理・運営に関する適切な支援

共同住宅は、市内の居住世帯のある住宅の6割を超えており、神戸市における

重要な居住形態となっています。

築年代の古いマンションを中心に、賃貸・分譲マンションともに、大規模修繕

の適切な計画策定や実施が困難なものが多くあります。このようなマンションは、

今後も増加すると推測され、課題への積極的な取り組みが必要となっています。

これらを支援するため、すまいるネット等での相談体制の充実や、管理組合同士

の情報交換や交流の仕組みの拡充などに引き続き取り組んでいきます。また、築

年代の古いマンションを中心に空家が多く発生しています。空家は適正な取引・

流通のための施策は比較的遅れていることから、今後本腰を入れて取り組んでい

かなければならない課題です。

共同住宅では、居住者間のコミュ

ニティ意識の向上はもちろん、地域

とのつながりにおいても「共に住ま

う」という意識が特に重要といえま

す。これまでにも、東灘区では、コ

ミュニティ育成の取り組みをマンシ

ョン管理組合と協働して行っていま

すが、引き続き実施していくととも

に、他の区でもそれぞれの条件に応

じた取り組みを検討していきます。

また、築後数十年経過したストックを、古いという面だけで捉えるのではなく、

適切に維持管理されている共同住宅や、「大切に住まう」、「共に住まう」ことを

実践している管理組合を顕彰したりするなど、住んでいる方が誇りを持てる仕組

みを創っていく必要があります。さらに、購入・入居前の市民に向けた維持管理

やコミュニティに関する住教育などに取り組むことも重要であり、このような点

からも、「大切に住まう」、「共に住まう」意識の向上に向けた取り組みを進めて

いきます。

①分譲マンション

かつて、分譲マンションはカギ一つで外出でき、隣人関係にわずらわされるこ

となく、都市生活を享受できると思われていました。マンションの数が増えて、

市民の住まいとして一般的になってくると、実はそうではなく、日々の生活や手

入れ、維持管理など多くの面でマンション内のコミュニティの重要性が明らかに

なってきました。現在、分譲マンションは神戸市内に約 18 万戸あると推定され

ています。これは居住世帯のある住宅の約4分の1を占めており、これからもま

すます比重を増していくものと思われます。

67

【共同住宅 コミュニティづくりの様子】

第5章 

施策の推進と方向性

Page 11: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

分譲マンションは、区分所有という特殊な所有権や共同管理という特有の課題

を有しているとともに、維持管理には専門的・技術的知識が必要です。このことは、

阪神・淡路大震災の復興の経験からも、被災マンションの居住者を始め、多くの

関係者が、その重要性を認識させられました。また、マンションの立地は、周辺

地域のまちづくりやコミュニティの形成に大きな影響を与えることから、マンシ

ョンの適正な維持管理は、単にマンション居住者だけの課題に留まりません。

最近では、巨大な超高層マンションも増えつつあり、将来大きな問題が生じた

ときに、住民の合意形成ができるのかといった不安が指摘されています。また、

築 30 年以上経過した高経年マンションもすでに4万戸近くなり、大規模な修繕

工事や、場合によっては建替えを考えなければならないマンションは、今後確実

に増加していきます。一方で、居住者の高齢化に伴って、管理組合の運営が困難

に陥っているマンションも増加傾向にあります。

かつては仮の住まいとして考えられていた時代もあったマンションですが、今

や、マンションに永住しようと思っている人は、居住者の約半数にのぼっており、

その住居観は大きく変化しつつあります。これからは、いつまでも快適に住み続

けることのできるマンションライフを追求することが重要となります。

このような点からみると、自分たちのことは自分たちで決めるというマンショ

ン自治を基本としつつも、行政や専門家の積極的な関与が求められる時代が到来

しているという認識に立って、分譲マンションに関する施策を考える必要があり

ます。

これまで、神戸市では、すまいるネットを通じて、マンションの適切な維持管

理のための情報提供や相談体制の充実を図ってきました。また、神戸市マンショ

ン管理組合ネットワークの活動などによって、管理組合同士の交流や情報交換、

さらには人材育成等に取り組んできました。これらは全国的にみても充実した施

策となっていますが、いっそうきめ細かな対応に努めていきます。

高齢化・賃貸化・空室化が進行しているマンションでは、管理組合の担い手不

足により、適切な管理が困難になっていることが多く、重い課題となっています。

それぞれのマンションの実情に応じて、たとえば、区分所有者ではない賃借人に

も管理組合の運営に参加してもらうなど、マンション管理の柔軟な仕組みづくり

が必要になってきています。また、住民による管理困難という現実をみすえ、よ

り合理的な管理の方法として、マンション管理業者等が「建物の区分所有等に関

する法律(昭和 37 年 4月法律第 69 号)(区分所有法)」上の管理者となる、いわ

ゆる第三者管理者方式の導入も視野に入れた条件整備を進める必要もあります。

これに関しては、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(平成 12 年

12 月法律第 149 号)(マンション管理適正化法)」に基づき、国家資格として創

設された専門家であるマンション管理士が、管理組合のよきアドバイザーとして

活躍することが求められます。また、多くのマンションが実際の管理業務をマン

ション管理業者へ委託しているのが現状では、管理組合と管理業者との良好な関

係を築くことも大切です。今後、こういった点をふまえた適切な管理のための支

68

第5章 

施策の推進と方向性

Page 12: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

援のあり方を検討していきます。

特に、高経年マンションについては、引き続きバリアフリー化や耐震化を促進

し、安全で安心して住めるマンションとしての再生や長寿命化が重要です。一方、

今後建替え問題が現実化してくることも想定し、震災復興におけるマンション再

建の経験をふまえ、法の運用や財政的・人的支援策について、具体的な検討を進

めていきます。

また、超高層マンションはいまのところ比較的新しいため、維持管理に関する

問題はほとんど顕在化していませんが、住民合意の難しさと、技術的に未経験の

ことが多いことから、将来的に問題が生じることが懸念されます。新たな課題と

して今後調査、研究していきます。

②民間賃貸住宅

民間賃貸住宅は、平成 20 年住宅・土地統計調査では、神戸市内に約 16 万戸と

なっており、生活の多様化や住宅セーフティネットの重要な構成要素として位置

づけが考えられることを背景に、今後需要が増加すると考えられます。

しかし、築年代の古い民間賃貸住宅は改修による入居率の改善が見込まれにく

く、バリアフリー化や省エネ化、耐震化が遅れていることや、郊外を中心とした

空家率の高さが課題となっています。その状況は、平成 19 年度の神戸市民間賃

貸住宅実態調査では、空家率は 17%、完成時期が昭和 56 年以前のものは 25%と

さらに高くなっています。また区別にみると、地域によって空家の状況に差があ

ります。

69

第5章 2-5 図表1 民間賃貸住宅区別空家率の状況

   資料 :平成 19年度神戸市民間賃貸住宅実態調査

第5章 

施策の推進と方向性

0%

10%

20%

30%

40%

50%

東灘区

(356)

灘区

(371)

中央区

(214)

兵庫区

(214)

長田区

(149)

須磨区

(159)

垂水区

(300)

西区

(219)

北区

(117)

神戸市

(2,205)

全体 昭和56年以前建設

( )内は、回答数

10.7%

13.9%16.9% 16.5%

22.2%

19.0%21.4%

15.1%

30.5%

17.4%

20.9%18.2%

21.1%

30.5%

27.0%

34.4%

26.9%

45.6%

24.9%

17.1%

Page 13: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

また、新しい民間賃貸住宅にも、比較的小規模な住戸の供給が多く、小規模世

帯の集まりとなり、地域とのつながりが希薄になる課題があります。

これまでも改修については、耐震化や共用部分のバリアフリー化に対する補助

金やアドバイザー派遣、「すまいるネット」での相談により対応を図っており、

今後も継続して取り組むとともに、修繕計画の作成をするためのアドバイザー派

遣など、さらに適切な管理・運営に向けた支援の充実を図っていきます。

さらに、高齢者や障がい者などに対する入居制限や賃貸人と賃借人との契約上

のトラブル、家賃滞納など、住宅セーフティネットの機能を十分に発揮するため

にはソフト面でも多くの課題があります。平成 18 年度から5年間、高齢者や障

がい者などの入居を拒まない民間賃貸住宅を登録する「あんしん賃貸住宅」の取

り組みが行われましたが、住宅セーフティネット全体を考え、より安心な入居と

生活が可能となる取り組みを検討する必要があります。また、家賃滞納や契約関

係などの入居者と家主のトラブルについては、これまで「すまいるネット」で相

談や情報提供を行ってきましたが、家賃滞納件数が増加する傾向にあることから、

保険会社が行う家賃債務保証制度の活用なども含めて、取り組みの改善を図って

いく必要があります。

これらの点をふまえて、住宅セーフティネットを再構築し、その機能の充実を

図るなかで、民間賃貸住宅への支援のあり方を検討していきます。

また、民間賃貸住宅を多くの市民が生活の根拠としているにもかかわらず、そ

の居住者は地域コミュニティとのつながりが希薄な傾向があります。地域との良

好なコミュニティ形成を図るには、防災や公園の管理、あるいは地域のお祭りな

ど、地域全体で共有しやすいテーマを通じて、一緒にまちづくりに取り組む仕掛

けを広げていく必要があります。

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第5章 

施策の推進と方向性

Page 14: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

(3) 密集市街地、ニュータウンなど課題を抱える地域への対応

良好な住環境づくりを進めていくうえで、防災面の課題がある密集市街地や年

齢構成の偏在による課題が顕在化してきているニュータウンなどへの対応も不可

欠です。

また、これらの課題を抱えている地域についても、その特徴を活かした住環境

づくりを検討していく必要があります。

①密集市街地

阪神・淡路大震災で大きな被害を受けるなど、木造建築物が建て詰まっている

密集市街地では、地震などの災害時の被害がより大きくなる危険性が指摘されて

います。このことは、木造建築物が建て詰まっていることで、延焼被害の恐れが

大きいことや地域内に細い道が多く、避難や消火活動を困難にしていることが原

因となっています。

さらに、各建物の建て替えや除却を検討しても、権利関係が複雑化しているこ

とや、法的規制により同じ敷地での再建が難しいこと、除却後の空地の活用が難

しいことが、課題の解決をより困難なものにしています。

今後、密集市街地では、人口減少・高齢化により、高齢者世帯や空家のさらな

る増加が懸念され、地域の活力の低下や住環境の悪化といった課題も大きくなっ

ていくと考えられます。

防災上の課題を解決するために、老朽空家の更新や除却と良質な空家や空地の

活用、防災空地の確保、一定の道路幅の確保などに取り組んでいきます。

空家の更新や除却、活用については、住民の自力だけでは限界があることから、

老朽空家については、各種補助事業の推進など、これまでの取り組みを今後も継

続することで更新や除却を進めていきます。また、良質な空家や空地の地域のニ

ーズにあった活用を図っていくため、都市政策や福祉政策と連動し、活用を進め

ていく仕組みを検討していきます。住民が更新や除却を検討する中で、権利関係

の整理や法的規制などを専門家のアドバイスが必要なことも多いことから、情報

提供や相談体制の充実を進めていきます。

さらに、防災空地の確保や一定の道路幅の確保を進めるためには、地域住民が

主体となった取り組みが必要です。例えば、一定の幅員が確保できていない道路

沿いの住民による道路中心線の確定を促進することで、住まいの建て替えにあわ

せて道路幅を確保していきます。このほか、向こう三軒両隣りの範囲で路地のう

るおいを創出しながら一定の道路幅を確保するなど、住環境をより良くするため

「近隣住環境計画制度」のより一層の活用を図っていきます。また、住環境の向

上に取り組む地域団体や地域の活動に対して、専門家の派遣や活動費用の助成な

どの支援も引き続き取り組みます。

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第5章 

施策の推進と方向性

Page 15: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

神戸の特徴である山麓密集市街地は、一般的な密集市街地に加えて、地理的に

生活利便性やバリアフリー面、道路の拡幅の難しさといった課題があります。一

方で、眺望や日当たり、風通しが良いなど、良好な住環境が得られる特徴があり

ます。このような地域的な長所や短所をふまえた地域の活動や住み替えに伴う地

域の更新を図っていくことで、課題の解決だけでなく、地域の特性を活かした住

まい・住まい方を推進していく必要があります。

また、密集市街地が抱える地域的な課題へ対応するためには、行政や住民のそ

れぞれの取り組みだけでは限界があるため、民間事業者、NPO法人など様々な

主体が連携することが重要です。そして、地域の特性を活かした将来像を地域住

民と共有することで、より魅力のある住環境を形成していく必要があります。

今後は、このことをふまえて、地域ごとのライフスタイルに応じた住まい・住

まい方の研究を進めていきます。また、「密集市街地再生方針」もふまえ、地域

的な課題への対応を進めていきます。

②ニュータウン

昭和 40 年代前後に開発されたニュータウンは、比較的所得の低い若い世帯で

も持家を取得しやすく、低密度で自然の豊かな郊外地域は高い人気を得てきまし

た。「まち」としての蓄積を重ね、今やニュータウンは成熟しつつあります。

現在、成熟期を迎えたニュータウンは、住民の年齢構成の偏在に伴う急速な高

齢化により、地域の活力の低下や居住世帯人数と住宅規模のミスマッチなどの課

題を抱えています。今後ますます高齢化が進み、課題の深刻化が懸念されます。

また、既存住宅が住み継がれないなどにより発生する空家が増加することで、地

域の安全性の低下も懸念されます。さらに、高経年のマンションが多く立地する

地域では、住民の高齢化に伴い管理組合の運営・維持が困難になってきているマ

ンションも出てきています。

これらの課題へ対応するために、地域の活性化に向けた取り組みとして、居住

世帯の年齢構成の偏在の解消や空家の有効活用を進めていく必要があります。

ニュータウンの居住世帯の年齢構成の偏在を解消していくためには、高齢世帯

と子育て世帯などの比較的若い世帯の住み替えを誘導することが有効と考えられ

ます。例えば、世帯人数の減少等により住宅規模にミスマッチが生じている高齢

世帯が、比較的広さに余裕のある住まいに居住したいと考える子育て世帯に対し

て既存住宅を賃貸することにより、若い世帯のニュータウンへの居住誘導が図ら

れ、また高齢世帯は賃料収入を得ることで、居住ニーズにあった新たな住まいへ

と住み替えを行うことが可能となると考えられます。このことから、住み替えが

スムーズにできるよう取り組みを進めていきます。

具体的には、住み替えていく住まいの安全性や取引価格の妥当性などの住まい

の情報が分かりやすく提供される環境をつくっていくとともに、既存住宅の購入

希望者と売却希望者や不動産業者をつなげる仕組みを検討していきます。

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第5章 

施策の推進と方向性

Page 16: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

地域の活性化のためには、地域の特性を活かしたライフスタイルに対応した住

まい・住まい方をふまえて、地域住民が様々な主体と連携したまちづくりの中で

進めていく必要があり、地域のニーズにあった空家の有効活用を図るための仕組

みや地域を活性化する活動への支援を検討していきます。

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【ニュータウンの風景】

第5章 

施策の推進と方向性

Page 17: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

6.すまいるネットを核とした住まい手の総合支援

(1)すまいるネット基本業務の充実

神戸市すまいの安心支援センター(す

まいるネット)の開設(平成 12 年 10 月)

から、10 年が経過しました。この間、住

まいに関する市民からの相談に対する助

言と、情報提供及び啓発活動を中心とし

た事業を行ってきました。すまいるネッ

ト 10 年の実績を評価・検証してみると、

次のようにいえます。

①相談業務

契約、工事など住まいに関するあらゆ

る相談・トラブルなどに対して的確なア

ドバイスを行い、消費者を保護するとい

う重要な役割を果たしており、利用者の

満足度は高いです。また、相談業務の蓄

積を市民へ還元していくため、よくある

相談事例(FAQ)の公開と紹介を行っ

ています。簡単な相談や問合せであれば、

FAQを見ることで、解決の糸口を見つ

けることができます。

②情報提供業務

住まいに関する情報を幅広く提供しており、公的窓口ということで市民の信頼

も非常に高く、ホームページのアクセス数も増加しています。高齢者の住み替え・

住まい探し支援のための情報提供のホームページや、市民が設計事務所や建設業

者を探すときの手がかりとなる「業者選定支援システム」は、全国の自治体に先

駆けて実施し、高く評価されています。

③普及啓発業務

住まいに関する市民向けセミナーを数多く開催し、住まいに関する知識の普及

に努めています。学校現場及び専門家とタイアップした住教育支援活動は、全国

的にもきわめて先駆的な取り組みとなっています。また、出前トーク・出前講座

など地域単位での住まい学習支援にも取り組んでいます。

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第5章 

施策の推進と方向性

Page 18: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

④ネットワーク形成

住まいに関連する団体や組織が参加する「すまいるネット運営委員会」の定期

的開催により、外部からの意見を反映した運営に努めています。法律をはじめと

する専門相談や耐震診断員等の専門家の現地派遣など、専門家や専門家組織との

協力体制を構築し、総合的な支援体制を整えています。さらに、分譲マンション

管理への支援という面では、様々な場面で専門家のアドバイザー派遣を行うとと

もに、「神戸市マンション管理組合ネットワーク」の運営支援を行っています。

このようなすまいるネットの基本的な業務は、今後とも住まい手支援の中心と

して位置づけ、継続実施していきます。

(2) 今後、より強化していくべきすまいるネットの機能

①住まいに関するプラットホーム機能の強化

住まいに関する市民のニーズが多様化・高度化してきたことを背景に、相談内

容が複雑化しており、すぐには解決の道筋が見えにくいケースが増えつつありま

す。一方では、住まいに関する様々なサービス(相談や情報提供、普及啓発)を

提供する団体や事業者が新たに現れてきています。複雑化する住まいに関する課

題や相談に対しては、すまいるネット単独での助言や解決をめざすことにこだわ

らず、市民団体、NPO法人、ボランティアグループ、民間事業者などのノウハ

ウを活用することも有効だと思われます。このような観点もふまえ、従来の枠組

みにとらわれない、プラットホーム的な新しい協働の取り組みも求められます。

また、行政組織に関していうと、住まいに関する問題は、建築行政、まちづくり、

福祉、環境、教育などの部局との関係が、ますます深くなってきています。庁内

関係部局とのさらなる連携の強化・情報の共有を図ることが必要です。また、国、

県、大学、民間企業など関連セクターとも連携し、情報交換や共同研究、人材の

活用などを行うことにより、情報の共有や問題解決能力の向上を図っていく必要

があります。

②わかりやすい住情報の発信

住まいに関する情報の発信側(住宅供給などの事業者)と、受取側(住まい手、

消費者)との間には、情報量の圧倒的な差が存在していますし、住まい手には、

自ら住情報を取捨選択できるだけの知識や判断力が不足しているのが実情です。

このため、すまいるネットが公的な立場で、住情報をわかりやすく整理・加工して、

住まい手に向けて発信することによって、住まい手の住情報の理解を助けること

ができます。住まい手のライフステージやライフスタイルに対応した情報が、そ

れを必要とする場面で的確に届くような情報提供に努めることや、情報の理解の

ために安心して相談できる窓口を充実させることも大切になってきます。

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第5章 

施策の推進と方向性

Page 19: 第5章 施策の推進と方向性 3.環境にやさしい住まいを実現する · 第5章 施策の推進と方向性 (1)より長く使うことを意識した住まいづくりの推進

また、住宅確保要配慮者(特に、高齢者、障がい者、外国人など)は、必要な

住情報にアクセスしにくいことが多いので、NPO法人をはじめとする様々な支

援組織や、地域の世話役(民生委員など)等と連携した住情報提供の仕組みを構

築することも重要な課題です。

③住教育支援の充実

良い住まいや住環境を実現していくに

は、住まい手自身が「大切に住まう」「共

に住まう」といった意識を身に付け、住

まいへの絶えざる関心を高めることが求

められます。これを進めていくには、様々

な啓発・啓蒙活動を行う必要があり、ラ

イフステージに応じて、社会教育、学校

教育など、いろんな場面で展開していく

ことがのぞまれます。

社会教育や生涯学習では、セミナーや出前講座などを引き続き実施するほか、

地域ぐるみや家庭みんなで住まいへの関心を高めるため、企業や地域団体等も巻

き込んで、取り組みの裾野を広げることも重要です。

一方、学校教育では、家庭科などにおいてわずかながらも住生活分野の学習が

行われているものの、将来の良き住まい手を育てるという意識的な教育にはほど

遠いのが現実です。すまいるネットでは、学校教員や建築士などと住教育ワーキ

ンググループを設け、住教育の実践と普及に取り組んできました。これは全国的

に見ても貴重な実践となっており、関係者からは非常に高い評価を受けています。

とはいえ、住教育に本腰を入れている学校はごく一部であり、今後とも一層の普

及と定着を図る必要があります。

④認知度の向上

すまいるネットは、住まい手の総合支援拠点という重要な役割を持ち、利用者

や関係者からは大いに評価されています。ただ、残念ながら知名度はそれほど高

くはなく、大半の市民には存在を知られていません。今後は、すまいるネットの

存在価値を市民に広く、わかりやすくアピールするなど、その認知度の向上に努

めていく必要があります。

また、個々の市民(住まい手)にはすまいるネットが知られていなくても、神

戸市各部局や区役所等の窓口で、市民から住まいに関する相談や問合せがあった

際、すみやかにすまいるネットにつなげていけるような仕組みがあれば、その役

割を発揮できます。このため、庁内での認知度を上げる努力を当然のこととして

行うとともに、地域で住まいの相談にも関わることが考えられる民生委員やケア

マネジャーなどにも、すまいるネットをもっと知ってもらうことが重要な課題で

す。

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【住教育 授業風景】

第5章 

施策の推進と方向性

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住まい手地域

独立行政法人公益法人住宅供給公社

など

公的住宅セクター

住宅供給事業者工務店宅地建物取引業者金融機関家主

など

民間・個人事業者

建築士弁護士ファイナンシャルプランナー消費生活専門相談員マンション管理士

など

専門家

社会福祉法人医療法人民間事業者NPO法人マンション管理会社

など

住生活関連サービス事業者

神戸市

相談窓口情報提供住教育支

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第5章 2-6 図表1 すまいるネットを中心とするネットワークの概念図 第5章 

施策の推進と方向性