17
98 99 第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑問題 2010 11 17 日、FIFA のホームページ Web イト「FIFA.COM」に、「2018/2022 FIFA ワールド カップ TM 評価レポート要約版」が公開された。また、 その 2 日後の 11 19 日には、「完全版」が同サイ ト上に公開された。 FIFA 評価レポートは、投票権を持つ各 FIFA 理事 が支持国を決める上で、極めて限られた材料であ り重要な資料となる。 FIFA 評価レポートの作成には、FIFA インスペク ショングループ団長を務めたハロルド・メイン - コルズ氏を責任者とする、FIFA 評価グループがあ たった。 評価の対象は、開催契約書、政府保証等を含む「招 致ブック」、及び FIFA インスペクションの調査・分 析結果に基づくとされた。 9.1 FIFA 評 価 レ ポ ー ト の 公 開 (要約版・完全版) 9.1.1 FIFA評価レポート要約版 公開された評価レポート要約版は、A4 43 ペー ジ、全 4 章で構成されている。 1 章は、ハロルド・メイン - ニコルズ FIFA 価グループ責任者から FIFA 会長及び理事宛のメッ セージ。 2 章は、招致プロセス及び FIFA インスペクショ ンの日程、2018 年大会及び 2022 年大会それぞれの 招致立候補国の区分。 3 章は、2018 年大会、2022 年大会合わせて 9 招致立候補国・グループの地理的配置及びスタジア ム数、大会支出予算等の全体概要が示されている。 評価レポートの本編となる第 4 章は、各招致立 候補国・グループごとにそれぞれ 4 ページを費や し、個別的な評価が報告されている。 評価レポート要約版に示された日本についての 評価は、以下に示すとおりである。 A4 判 33 ページにまとめ られた FIFA 評価レポート : 日本(完全版)

第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

98

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

99

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題

第9章  FIFA評価レポートの公開と   FIFA理事不正疑惑問題

2010 年 11 月 17 日、FIFA のホームページ Web サ

イト「FIFA.COM」に、「2018/2022 年 FIFA ワールド

カップTM評価レポート要約版」が公開された。また、

その 2 日後の 11 月 19 日には、「完全版」が同サイ

ト上に公開された。

FIFA 評価レポートは、投票権を持つ各 FIFA 理事

が支持国を決める上で、極めて限られた材料であ

り重要な資料となる。

FIFA 評価レポートの作成には、FIFA インスペク

ショングループ団長を務めたハロルド・メイン - ニ

コルズ氏を責任者とする、FIFA 評価グループがあ

たった。

評価の対象は、開催契約書、政府保証等を含む「招

致ブック」、及び FIFA インスペクションの調査・分

析結果に基づくとされた。

9.1  FIFA 評価レポートの公開 (要約版・完全版)

9.1.1 FIFA評価レポート要約版

公開された評価レポート要約版は、A4 判 43 ペー

ジ、全 4 章で構成されている。

第 1 章は、ハロルド・メイン - ニコルズ FIFA 評

価グループ責任者から FIFA 会長及び理事宛のメッ

セージ。

第 2 章は、招致プロセス及び FIFA インスペクショ

ンの日程、2018 年大会及び 2022 年大会それぞれの

招致立候補国の区分。

第 3 章は、2018 年大会、2022 年大会合わせて 9

招致立候補国・グループの地理的配置及びスタジア

ム数、大会支出予算等の全体概要が示されている。

評価レポートの本編となる第 4 章は、各招致立

候補国・グループごとにそれぞれ 4 ページを費や

し、個別的な評価が報告されている。

評価レポート要約版に示された日本についての

評価は、以下に示すとおりである。

A4 判 33 ページにまとめられた FIFA 評価レポート: 日本(完全版)

Page 2: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

�00

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

�0�

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題

FIFA 評価レポート要約版(4.4 日本)

日本の招致提案の開催理念は、オーディオ、ビデオ及び情報技術を利用したサッカーの新しいコンテンツ、

新しいハイテク・スタジアムの体験、グローバルファンフェスト、革新的なインターネット事業、そして、

教育活動の 5 つの主たる部分から構成されている。

招致提案は、全国及び地方のサッカー協会、地方自治体当局(適切に締結された開催都市契約による)及び、

スタジアム当局(適切に締結されたスタジアム契約による)によって支持されている。

招致提案においては、11 の開催都市と 13 のスタジアムが提案されており、これは FIFA の 12 スタジアムの

最低要件を上回っている。提案されている 13 のスタジアムのうち、12 のスタジアムは既に存在しており、こ

れらは改築されることになり、また、1 つのスタジアムが新たに建設される。

スタジアムの建設と改築用には、7 億~ 13 億ドルの予算が見積もられている。8 つのスタジアムは、2002

年 FIFA ワールドカップで使用されたことによって確認されているように、FIFA の従来の要件を満たしている。

しかしながら、2022 年 FIFA ワールドカップを日本が開催することになった場合、将来における FIFA ワール

ドカップのスペースと質の要件を満たすことについて、特別の注意が必要となろう。

サッカーの発展という点については、開催提案は、日本及びアジアにおける既存の活動の上に構築しよう

としており、また、更なる発展に向けた活動のための収益を生み出すために、例えば、グローバルファンフェ

ストやインターネット事業といった開催理念のいくつかの要素をてこ入れし、商業化することを計画している。

日本サッカー協会(JFA)及び J リーグは、全世界において高い評価を受けており、チームは、クラブレベ

ル及び国際レベルにおいて様々な成功を収めている。日本は、最近 20 年間において国際的なサッカーイベン

トを開催してきた経験があり、2002 年 FIFA ワールドカップ及び 2001 年 FIFA コンフェデレーションズカップ

を共催し、また、数回の FIFA クラブワールドカップを成功裏に開催している。

招致委員会は、必要な数の開催地指定チームホテル(VSTH) と契約しているが、必要な数の開催地指定ト

レーニングサイト(VSTS)と契約していない。招致委員会は、チームベースキャンプ(TBC) の必要な数のホ

テル及び練習会場とは契約している。招致委員会は、要件については十分に理解しているものと思われるが、

場所によっては、契約済みの適切な施設には、提供数に限りがある。

宿泊施設については、96,000 室が既に契約されており、これは FIFA の最低要件である 60,000 室を上回って

いる。全体としては、招致提案は、公正な契約により合意された条件で幅広い種類の豊富な客室を提供する

ことを申し出ている。

FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

ス用スペースの考え方に関する追加的な情報が必要である。

主要情報開催都市 11スタジアム 要求数:12 提案数:13 既存:12 新築:1

スタジアム建設/改修予算:700~ 1300百万米ドルチーム施設 開催地 トレーニングサイト 要求数:52 提案数:46

チームホテル 要求数:26 提案数:28チームベースキャンプ トレーニングサイト 要求数:64 提案数:71

ホテル 要求数:64 提案数:87宿泊施設 要求客室数:60,000室 契約客室数:96,000室支出予算 単位:米ドル FCC2021/FWC2022: 843.4百万米ドルチケッティング 販売可能枚数 3,280,000枚(メディア席、VIP席、見切り席を除く)

日本には、数多くの国際空港及び国内空港、並びに、充実した道路と鉄道のネットワークからなる素晴ら

しい輸送インフラがある。しかし、ピーク時における輸送能力を増強し、イベントの輸送業務を円滑化する

ための輸送量削減措置が不可欠である。

また、日本は、強力な情報通信技術(ICT)インフラを擁しており、FIFA の要件を満たしているように思わ

れる。

大規模イベントのための安全及び治安、健康及び医療サービスに関する国際基準も満たされているようで

ある。しかし、政府保証第 4 号(安全及び治安)の条件の全てが満たされているわけではないことから、安

全と治安の理念の実施は完全には保証されていない。

招致委員会は、持続可能な社会と人の発展に向けての活動及び、環境保護計画に関する招致委員会として

の理念を提出した。

招致委員会は、大会関連イベントとして適切な提案も提出している。

マーケティング、メディア及びコミュニケーションの問題にも対応している。招致ブックにおいて提供さ

れている情報によれば、日本では大規模なイベント及びサッカーのスポンサーシップの市場は十分に確立さ

れ発展しているようである。しかし、必要な保証として、政府保証第 6 号(商業的権利の保護及び利用)の

一部としては、保証及び確認が提供されておらず、FIFA の全体としての商業プログラムは、保証することが

できていない。FIFA ワールドカップが日本で開催された場合、TV 収入が減少し、その結果、ヨーロッパでの

商業的な利益が減少するリスクがある。想定されるヨーロッパでの収入の喪失を相殺するためにアジア・オ

セアニアからの収入が大幅に増加することが必要であろう。

招致委員会は、2021 年と 2022 年の FIFA コンフェデレーションズカップと FIFA ワールドカップについて、

8 億 4340 万ドル(経常)の支出予算を提出している。この予算は、根拠となる情報を添付することなしに、

所定のフォーマットで提出されたものである。販売可能なチケットを約 3,280,000 枚と予測している。

日本が開催権を得た場合、FIFA の法的リスクは、中程度のもののように思われる。政府保証及び政府表明

は、政府文書に関する FIFA の要件を遵守しては提供されていないことから、必要な政府の支援は、確保され

ていないが、日本政府は、大規模なスポーツイベントの開催及び準備を支援してきた経験があり、主要な許

可を提供し、イベントの開催者の懸念に対応する意図は証明されており、また、必要な政府保証及び法令(期

限を受け入れていない)を制定する意図を表明している。

また、契約文書に関する要件は満たされている。

Page 3: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

�0�

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

�0�

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題

法的文書 FIFAのリスク 所見政府文書政府保証 中位のリスク 追加的な保証、約束及び立法措置が必要であるが、日本政府はこれまでの経験があ

り、重大な許可を行う意図を証明しており、必要な政府保証を提供し立法措置を行う意図を表明している(期限は受け入れていない)。

契約文書招致契約 低位のリスク FIFAの要件に遵守した完全に締結済みの文書を提出した。開催都市契約 低位のリスク FIFAの要件に遵守した完全に締結済みの文書を提出した。スタジアム契約 低位のリスク FIFAの要件に遵守した完全に締結済みの文書を提出した。トレーニングサイト契約 中位のリスク FIFAの要件に遵守した完全に締結済みの文書を提出したが、6通のトレーニングサ

イト契約がない。29のトレーニングサイトの場所を明確化することが必要。確認契約 低位のリスク FIFAの要件に遵守した完全に締結済みの文書を提出した。

総合法的総合リスク 中位のリスク

運営 FIFAのリスク 所見競技スタジアム建設 低位のリスク 一つのスタジアムを建設(大阪)。当初予算の再検討が必要な可能性あり。スタジアム運営 中位のリスク 将来における FIFAワールドカップのスペースと質の要件を満たすことについて、

特別の注意が必要となろう。チーム施設 低位のリスク 法的なリスクは中程度である。招致委員会は、要件については十分に理解してい

るものと思われるが、場所によっては、施設の数の提供数に限りがあるようである。最終的な選択基準を満たし、不足を補うことができそうである。

競技関連イベント 低位のリスク輸送空港及び国際経路 低位のリスク 既存のインフラ及び計画されている(保証されている)インフラは、要件を満た

すことになると思われる。陸上交通 低位のリスク 信頼できる高速で効率的な既存の地上輸送機関(高速鉄道及び道路)。開催都市内交通 低位のリスク 既存の信頼できる効率的な地方輸送機関。11の開催候補都市のうち(大分以外の)

10都市に十分な能力あり。宿泊宿泊全般 低位のリスク 96,000室が契約済み。各開催候補都市に十分な既存在庫。輸送機関との良好な接続。テレビ国際放送センター(IBC) 低位のリスク

付属書 3: 法的リスクの概要

付属書 4: 運営上のリスク

9.1.2 FIFA評価レポート完全版

FIFA 評価レポート完全版の日本編は、A4 判 33

ページ、全 4 章で構成される。

第 1 章は、概要版と同様に、ハロルド・メイン -

ニコルズ FIFA 評価グループ責任者から FIFA 会長及

び理事宛のメッセージ。

第 2 章は、招致委員会の設立、招致契約の締結、「招

致ブック」提出、FIFA インスペクション日程など、

主要な招致プロセス。

第 3 章は、日本招致に対する評価の概要が記さ

れている。

第 4 章は、概ね「招致ブック」の章立てと同様、

20 項目により構成されており、各項目ごとに図表

を交えた詳細な報告が記述されている。

さらに巻末には、付属書 1:国内交通網(地図)

付属書 2:開催都市交通網(地図)、付属書 3:法的

リスクの概要、付属書 4:運営上のリスク、の評価

表が添付されている。

上記、付属書 3:法的リスクの概要、付属書 4:

運営上のリスクについては、評価レポート中、当

該箇所について他の招致国との比較対照がしやす

いよう、評価を一覧表にまとめたものである。

以下に、付属書 3:法的リスクの概要、付属書 4:

運営上のリスクを抜粋して示す。

※ FIFA 評価レポート完全版の日本編 ( 和訳 ) については、資料 集 10.1 を参照。

FIFA 評価レポート:日本(完全版) 付属書 3:法的リスクの概要、付属書 4:運営上のリスク

9.1.3 日本に対する評価結果

FIFA 評価レポートの全体を俯瞰すると、スタジ

アム、トレーニングサイト、宿泊施設、情報通信、

交通輸送など大会運営のためのインフラ、及び大

会運営にかかる政府保証に、評価のウエイトが置

かれていることが理解できる。言い換えれば、大

会開催のための最低限の条件を満たしているか、

というポイントに評価の焦点が向けられていると

いえる。

また、2010 年大会招致では、総括的な評価に基

づき各招致立候補国の格付けが行われたが、今回

の評価レポートでは行われていない。記述部分に

ついても、各招致立候補国ごとにフォーカスされ

ている点が異なるため、単純には比較できない内

容となっている。

そうした中で、唯一、評価の優劣が想定できる

のは、評価レポート完全版 付属書 3:法的リスク

の概要、付属書 4:運営上のリスクで示されたハイ

リスク、ミディアムリスク、ローリスクによる 3 段

階評価とその総合数のみである。

一方、日本が提案する次世代ワールドカップの

実現など、大会開催理念に関わる部分については、

概要版・完全版ともに言及してはいるものの、リ

スク評価などの比較対象項目からは除外されてい

る。

これは大会開催に際してのリスク回避を最優先

事項とする、大会主催者としての FIFA の立場を明

確にしているとも言える。2 大会同時決定により 9

カ国・グループもの招致立候補国が存在する状況に

おいては、リスク回避を優先することも止むを得

ないともいえる。

しかし、新たな提案などの “加点要素” は、日本

の招致活動のすべての根幹をなす部分であっただ

けに、明確な評価が示されなかったことは、日本

にとっては大きな痛手であるとともに不満の残る

ものであった。

日本の評価については、交通輸送、宿泊施設、

情報通信などのインフラ、及び JFA 及び J リーグの

運営、国際サッカーイベントの運営実績等で高い

評価を得た。一方、スタジアム周辺スペース、テ

レビ放送権料、政府保証等では、細部についてい

くつかの指摘があった。

政府保証については、FIFA が定める政府保証等

の提出書類様式と一部異なったため、レポートの

文言としては「中程度のリスク」とせざるを得なかっ

た側面がある。このことについては、あらかじめ

政府とも協議・連携し、FIFA とも事前に十分な調整

が行われていたことから、評価レポートの記述は

想定の範囲内であった。

その他の指摘ポイントについても、十分に説明

可能な事項であり、FIFA 理事の投票行動にネガティ

ブな影響を与えるものではなかった。

 ●政府保証

政府保証については、あらかじめ FIFA が用意し

た所定の書類様式に、所管の政府機関の最高責任

者が署名して提出することが求められていた。し

かし、わが国の法制度上、日本での大会開催が確

定する前の段階では、国会による法改正も含めて

国として FIFA の求める保証の全てを承認すること

はできない。そのため、日本が提出した政府保証は、

FIFA が定める書類様式とは一部異なる内容となら

ざるを得なかった

招致委員会はその旨を事前に FIFA に連絡し、

日本の法制度への理解を促すとともに、政府保

証の書類様式が異なることについての了解を得

ていたという経緯がある。しかし、契約書類の

評価・分析を行う FIFA 評価グループとしては、

他の招致立候補国との比較において、書類様式

が異なることから、最終的に Medium(中位のリ

スク)との評価を下さざるを得なかった。

FIFA は、日本が大会開催が確定する前の段階

では、政府による支援要件を国会で通せないシ

ステムであることは、十分理解しているところ

である。また、2002 年 FIFA ワールドカップTM、

Page 4: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

�0�

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

�0�

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題

及び過去 3 回のオリンピックにおける日本政府

の対応については、FIFA 及び FIFA 理事にも十分

に周知されているところではある。この評価を

もって投票行動に決定的な影響があったとは考

えにくいが、ワールドカップ以外も含めた今後

の日本での国際競技会招致を見据えれば、継続

的な課題として認識する必要がある。

 ●スタジアム運営

スタジアムに付帯する運営スペースの問題に

ついては、招致委員会実行本部としてもあらか

じめ十分に認識していたところである。そのた

め FIFA に提出した 「 招致ブック 」 においても、

改修に際して各種スペースを確保する意志を示

した。また FIFA インスペクションにおいても同

様の主張を展開してきた。FIFA 評価レポートで

は、日本の主張について認識されていたものの、

他の招致立候補国との比較という立場から、ス

タジアム現況によって評価されたものと考えら

れる。

●トレーニングサイト数

トレーニングサイトの数については、1 つの開

催候補スタジアムに付き、4 つのトレーニングサ

イトの提案が求められていた。日本は 13 のスタ

ジアムに対し、46 のトレーニングサイトを提案

した。これは FIFA が要求するトレーニングサイ

ト数 52 に対し、6 つのトレーニングサイトが不

足している。

東京都及び大阪市は、それぞれ 2 つのスタジ

アムを提案した。2 つのスタジアムに対する必

要トレーニングサイト数は 8 つであったが、招

致委員会は、開催地自治体と調整し、東京都は

6 つのトレーニングサイトを、大阪市は 4 つのト

レーニングサイトを提案することとした。

以上のように、招致委員会としては、FIFA が

要求するトレーニングサイトの数を満たしてい

ないことはあらかじめ認識していた。

要求数に満たない提案を行ったことについて

は議論の分かれるところではあるが、FIFA は、

大会開催が決定した際にスタジアム数を 12 に絞

ることを開催契約書に示していた。また、各ス

タジアムのトレーニングサイトについても、こ

れまでの通例では最終的に 4 つは使わず 3 つに

絞り込んでいた。さらに、実態としてはチーム

ベースキャンプで練習してから試合開催地に移

動するチームが多く、試合開催地近隣のトレー

ニングサイトは実際には使用されないことも多

いという背景があった。これらを踏まえ、FIFA

の示す諸条件を全て満たすトレーニングサイト

が物理的に不足する中、所定数を揃えることだ

けを目的に、自治体・施設所有者に責任が及ぶ

契約書の提出を要請することは、時間的にも、

また自治体等との長期的な信頼関係を維持する

上でも非現実的であるとの判断による、苦渋の

選択であった。

FIFA 評価レポートにおける「中位のリスク」

という評価については、重く受け止める必要が

あるが、12 年後の大会開催という長い時間の

経過を考慮すれば、現時点におけるトレーニン

グサイトの設定自体に大きな疑問が残るととも

に、リスク評価の対象として影響を持つものと

は考えにくい。

 ●テレビ放送権

評価レポートでは、最大の放送権マーケット

であるヨーロッパと最適な放送時間帯が異なる

ため、放送権利料収入の低下という経済性のリ

スクが指摘された。しかし、アジアにおける人

口分布、及び経済的ポテンシャルは驚異的な勢

いで拡大しており、今後のサッカーマーケット

においても、非常に大きな影響力を持つものと

考えられる。仮にヨーロッパにおける放送権料

に減少が見られたとしても、十分にカバーでき

るのみならず、さらなる巨大マーケットの掘り

起こしになる。

テレビ放送権についての FIFA 評価レポートの

指摘には恣意が感じられ、大きな疑問が残ると

考えるものである。

FIFA 評価レポートの公開に伴う小倉純二委員長コメント

招致ブックならびに FIFA インスペクションの分析を経て、評価報告書の結果が発表された。

日本は、開催能力や情報技術、交通インフラの分野で高い評価が得られ、フットボールの発展に寄与する

ために提案しているファンフェスト開催やインターネット事業革新についても記載があった。

今回の報告書は、各招致国・地域が持つリスクにフォーカスを当てた内容となった。日本に対しては、

FIFA 本部ホテルの部屋数やべニュートレーニングサイトの数、スタジアム周辺のスペースに関する指摘があっ

た。また政府保証の分野において、日本で FIFA ワールドカップを開催した場合の法的リスクが、Low ではな

く Medium(中程度)であると評価された。

FIFA の定める様式通りに政府保証書類を提出しなかったと指摘されたが、同時に、日本政府の国際的イベ

ントの開催実績を認める記載があった。これらはいずれも招致委員会内で把握をしている点であり、改善策

は FIFA 理事にも伝えていく。

我々は、208 の国と地域すべてとワールドカップを共催する、次世代のワールドカップを提案している。新

たなチャレンジの中身を、最終プレゼンテーションでしっかりと伝えていきたい。

評価レポートの公開を受けて、小倉純二委員長

は 2010 年 11 月 18 日、以下の通りコメントを発表

した。

Page 5: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

�06

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

�07

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題

2010 年 10 月 17 日、英紙・サンデー・タイムズ(電

子版)が、「FIFA 理事会メンバー 2 名が 2018 年

FIFA ワールドカップTMの開催国決定の投票への見返

りに多額の金銭を要求した」と報道した。記事は、

米国招致のロビイストを装った同社記者が、アダ

ム FIFA 理事(ナイジェリア)、テマリー FIFA 副会

長(オセアニア連盟会長・タヒチ)に接触、2018

年大会の開催国決定投票で米国に投票することを

依頼、両理事は多額の見返りを要求することで、

米国に投票することを約束したとするものであっ

た。

9.2 FIFA 理事不正疑惑問題翌 10 月 18 日、FIFA は 2018 年大会及び 2022 年

大会の開催地決定に関わる不正疑惑に対し、当該

の FIFA 理事会メンバー 2 名の調査に乗り出したこ

とを発表した。調査はFIFA倫理委員会に委ねられ、

相応の処分を科すことを明らかにした。また、FIFA

倫理委員会は、同様に倫理規定に違反した可能性

のある各国協会・連盟と各国招致委員会の調査も

開始した。

10 月 20 日、FIFA 倫理委員会が開催され、テマリー

副会長及びアダム理事を暫定的に職務停止にする

こととし、11 月中旬に開催する同委員会において

最終決断を下すとの決定を行った。この FIFA 倫理

委員会の決定について、FIFA は、翌 10 月 21 日、

以下のとおり声明を発表した。

2010 年 10 月 20 日

FIFA 理事 2 名、暫定資格停止

FIFA は 2010 年 10 月 20 日にクラウディオ・サルサー委員長のもと、倫理委員会を開催し、2018/2022 年

FIFA ワールドカップTM招致決定に関わる調査の後、FIFA 理事メンバーであるアモス・アダム及びレイナルド・

テマリー両氏のすべてのサッカー活動(運営、スポーツ他)を、直ちに資格停止することを決定した。アモス・

アダム及びレイナルド・テマリー両氏からの事情聴取を経て、倫理委員会は本件の重大性や FIFA 規約、FIFA

倫理規定及び FIFA 懲罰規定への抵触があった可能性を考慮し、本件の調査が進行中は、この暫定資格停止の

措置が必要であると判断した。

さらに、倫理委員会は 4 名の役員、Slim Aloulou 氏、Amadou Diakite 氏、Ahongalu Fusimalohi 氏及び Ismael

Bhamjee 氏が、2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM招致決定に関し、FIFA 規約、FIFA 倫理規定及び FIFA 懲罰規

定への違反関与を調査した。その結果、委員会はこの 4 名の役員についてもサッカー関連の活動の資格停止

を決定した。

FIFA は 2010 年 10 月 18 日に 2 名の理事に対する議題を上げ、倫理委員会に本件に関する独立した、かつ徹

底的な調査を依頼した。倫理委員会は、この 6 名に関する更なる情報を収集し、11 月中旬に最終決定を下す。

 「この暫定資格停止の決定は完全に正当なものであり、疑問の余地はない。本日提示された証拠は、暫定的

な措置を取るに十分な条件であった。2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM招致決定に関する品位を守ることは

重要である。倫理規定へのいかなる抵触も許容の範囲は皆無である。」と、倫理委員会のクラウディオ・サルサー

委員長は語った。

FIFA の再要請により倫理委員会は、2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM招致に関連して招致登録書類及び倫

理規定への抵触した可能性のある加盟協会と招致委員会の調査を開始した。本件に関する決定についても、

徹底的な調査に続いて 11 月中旬開催の倫理委員会で決定される。

2010 年 10 月 21 日付け FIFA 声明

サンデー・タイムズの報道からおよそ 1 ヵ月後

の 11 月 18 日、FIFA 倫理委員会が開催された。会

議終了後、クラウディオ・サルサー FIFA 倫理委員

会委員長、ジェローム・バルク FIFA 事務総長が記者

会見を行い、テマリー副会長及びアダム理事の資

格停止処分を含む、FIFA 倫理委員会の決定を発表

した。

翌 11 月 19 日、ブラッター FIFA 会長は、不正疑

惑問題について記者会見を行った。同会長は、FIFA

倫理委員会が副会長 1 名と理事 1 名を資格停止処分

としたことについて、「仲間が処分されたのは喜ば

しいことではないが、その決定には満足している」

と述べ、これで一連の問題に決着がついたという

認識を示した。

この結果、12 月 2 日の 2018/2022 年 FIFA ワール

ドカップTMの開催国決定投票は、上記 2 名を除く

FIFA 理事 22 名で投票が行われることが決定した。

【FIFA 理事他処分内容】

レイナルド・テマリー ( タヒチ ) - FIFA 理事  国際及び国内のフットボールに関連する業務に従事すること

を 1 年間禁止 +CHF5,000(約 42 万円)の罰金

アモス・アダム ( ナイジェリア ) - FIFA 理事  国際及び国内のフットボールに関連する業務に従事すること

                    を 3 年間禁止 +CHF10,000(約 84 万円)の罰金

Slim Aloulou (Tunisia) - FIFA Dispute Resolution Chamber and member of the FIFA Players' Status Committee 

                    国際及び国内のフットボールに関連する業務に従事すること

                    を 2 年間禁止 +CHF10,000(約 84 万円)の罰金

Ahongalu Fusimalohi (Tonga) - トンガサッカー協会 GS、元 FIFA 理事 

                    国際及び国内のフットボールに関連する業務に従事すること

                     を 3 年間禁止 +CHF10,000(約 84 万円)の罰金

Amadu Diakite (Mali) - CAF 理事       国際及び国内のフットボールに関連する業務に従事すること

                    を 3 年間禁止 +CHF10,000(約 84 万円)の罰金

Ismael Bhamjee (Botswana) - CAF 名誉メンバー 国際及び国内のフットボールに関連する業務に従事すること

   を 4 年間禁止 +CHF10,000(約 84 万円)の罰金

【カタールとスペイン / ポルトガルの票取引疑惑について】

・ カタールとスペイン / ポルトガル間及びその他の招致国の間では、特に票取引の証拠となるものは発見

には至らなかった。従って、違反をした証拠がないものと判断し、処分は行わない。

【2018/2022 年 FIFA ワールドカップTMの投票について】

・ 処分の対象となった 2 名の理事は、サッカーに関わる業務に従事することは禁止される。よって、投票は

22 名により行われる。

【2018 年大会及び 2022 年大会の開催国決定時期について】

・ サッカーの試合は一度始まってからルールを変更することはない。よって、12 月 2 日に 2018 年大会と

2022 年大会の開催国を決定する。

2010 年 11 月 18 日付け FIFA 発表

Page 6: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

�08

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

�09

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション

2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM開催国決定の

ための最終プレゼンテーションが、2010 年 12 月 1

日、2 日の 2 日間にわたり、FIFA 本部(スイス・チュー

リヒ)内のオーディトリアムにて行われた。

最終プレゼンテーションは、開催国決定の投票

権を持つ 22 名の FIFA 理事(資格停止処分の 2 理事

を除く)に対し行われるもので、FIFA 理事に自国

の提案や計画を直接的に説明できる、唯一の公式

の機会である。また、最終プレゼンテーションは、

「招致ブック」の提出、FIFA インスペクションな

どと並び、各招致立候補国にとって最も重要な招

致プロセスであるとともに、長期にわたった招致

活動を締めくくる最大のイベントでもある。

12 月 1 日には 2022 年大会の招致立候補国が、2

日には 2018 年大会の招致立候補国がそれぞれス

テージに立ち、自国への FIFA ワールドカップTM招

致に向けて、熱気のこもったプレゼンテーション

を行った。

招致立候補国の登壇順は、10 月 28 日に開催され

た FIFA 理事会において抽選で決定された。出席者

は、FIFA 会長、FIFA 理事 21 名、FIFA 事務総長の

FIFA 理事会メンバーと、単独招致国では最大 30 名、

共同開催招致国では最大 40 名の招致国メンバーと

された。

10.1 最終プレゼンテーション概要

第10章 最終プレゼンテーション

左から、鈴木寛文部科学副大臣、小倉純二委員長、佐々木りおさん、ブラッター FIFA 会長、ハワード・ストリンガー氏

差換え

Page 7: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

��0

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

���

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション

各招致国プレゼンター

※ FIFA発表による

また、登壇者は、単独招致国は最大 5 名、共同

開催招致国は最大 6 名とされた。

プレゼンテーションの時間は 30 分以内とされ、

その内容・構成は各招致立候補国の裁量に委ねら

れたが、既存の技術機器以外の機器及び装飾物等

の持ち込みは禁止された。

なお、招致国メンバーが他の招致国のプレゼン

テーションを会場内で見ることは禁止された。ま

た、メディアの会場内への入場も禁止されたが、

プレゼンテーションの模様は、FIFA 公式ウェブサ

イトから全世界にインターネット中継された。

12月 1日(2022年大会招致立候補国) 12月 2日(2018年大会招致立候補国)14:00     オーストラリア 09:00     オランダ/ベルギー15:00     韓国 10:00    スペイン/ポルトガル16:00     カタール 11:00    イングランド17:00     米国 12:00    ロシア18:00     日本

最終プレゼンテーション登壇順

※時間は現地時間

2018年大会招致立候補国オランダ/ベルギー

氏名 所属・役職Ruud Gullit President The Holland Belgium BidJohan Cryuff Ambassador The Holland Belgium BidJean-Marie Pfaff Ambassador The Holland Belgium BidGuus Hiddink Ambassador The Holland Belgium BidPaul van Himst Ambassador The Holland Belgium Bid

スペイン/ポルトガル

氏名 所属・役職Jose Socrates Prime Minister of PortugalJose Luis Rodriguez Zapatero Spanish Government PresidentGilberto Madail Iberian Bid Deputy PresidentMiguel Angel Lopez Managing Director of the Iberian BidPedro Mourinho Master of Ceremonies

イングランド氏名 所属・役職

HRH Prince William of Wales President of The Football AssociationRt. Hon. David Cameron, MP Prime MinisterDavid Beckham Vice President, England 2018Andy Anson CEO, England 2018Eddie Afekafe Ambassador, England 2018

ロシア氏名 所属・役職

Igor Shuvalov Deputy Prime MinisterAlexey Sorokin CEO Russia 2018 Bid CommitteeAndrey Arshavin National team captainYelena Isinbayeva Athlete

2022年大会招致立候補国オーストラリア

氏名 所属・役職Her Excellency Ms Quentin Bryce AC Governor-General of the Commonwealth of AustraliaFrank Lowy AC FFA ChairmanBen Buckley FFA CEOElle Macpherson FFA Guest

韓国氏名 所属・役職

His Excellency Hwang Sik KIM Prime MinisterDr Mong-Joon CHUNG KFA Honorary PresidentSung Joo HAN Chairman of the Bidding CommitteeHong Koo LEE Member of the Bidding CommitteeJi Sung PARK Bidding Ambassador

カタール氏名 所属・役職

HH Sheikha Moza bint Nasser Chair of Qatar Foundation for Education, Science and Community

DevelopmentHE Sheikh Mohammed bin Hamad Al-Thani Chairman of Qatar 2022 Bid CommitteeHassan Al-Thawadi CEO of Qatar 2022 Bid CommitteeBora Milutinovic Bid AmbassadorMohammed Abdulridha Jawad Al-Nufal Qatar Foundation

米国氏名 所属・役職

President Bill Clinton Honorary Chairman, USA Bid CommitteeSunil Gulati Chairman, USA Bid CommitteeCarlos Cordeiro Vice Chairman, USA Bid CommitteeDon Garber Commissioner, Major League SoccerMorgan Freeman Academy Award winning actor

日本氏名 所属・役職

Sir Howard Stringer Chairman and CEO, Sony CorporationJunji Ogura FIFA ExCo, Chairman, Japan 2022 Bid CommitteeKohzo Tashima CEO, Japan 2022 Bid CommitteeKan Suzuki Minister in Charge of Sports, Ministry of Education, Culture, Sports,

Science and TechnologyMs Rio Sasaki Presenter

※ FIFA発表による

最終プレゼンテーションに臨む日本代表団

Page 8: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

���

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

���

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション

2010 年 12 月 1 日、現地時間午後 6 時(日本時間

12 月 2 日午前 2 時)から、日本の最終プレゼンテー

ションが行われた。

はじめに、ブラッター FIFA 会長から、鈴木文部

科学副大臣、小倉委員長、岡野俊一郎顧問、田嶋

副委員長ら、日本の招致代表団の紹介が行われた。

ブラッター会長がステージから降りると、日本の

最初のプレゼンターとしてステージに上がったの

は、FIFA ワールドカップTM日韓大会が行われた

2002 年に生まれた、佐々木りおさん(8 歳)であっ

た。

●佐々木りおさん

最前列に座る FIFA 理事一人一人の目を見つめな

がら話す、佐々木りおさんの溌剌としたスピーチ

は、大人たちばかりの各国プレゼンテーターの中で

も異彩を放った。そして、日本に対する「too soon(開

催はまだ早すぎる)」という声に対し、“2022 年には

こんな小さな子が 20 歳になっている、決して早す

ぎることはない” ということを、しっかりと印象付

けた。

10.2  最終プレゼンテーションの実施

FIFA 理事一人一人の目を見つめ、元気よくメッセージを伝える佐々木りおさん

Hello.My name is Rio Sasaki

I am 8 years old.

2002 年に、日本で生まれました。

私のパパは、サッカーが大好きです。

私が特別な年に生まれたことを、覚えておいた方がいいよと、パパは言っています。

2002 年は、日本と韓国がワールドカップをやって、仲良くなった年です。

2022 年に、私は 20 歳になるんです。

20 歳です。想像できますか?

すごくたくさんのことが変わっていると思います。

みなさんは今、私の日本語がわからないと思いますが、2022 年には、こんな小さい機械をみんなが持って

いて、どんな言葉でもわかるようになるんですって。

でも、ひとつだけ変わらないことがあります。

それは、私の夢は変わらないっていうこと。

私の夢は、2022 年に日本で、本当に大勢の友達を世界中に作りたい、ということ。

世界中に 208 の笑顔を作るために。どうか、私の願いを叶えてください。

�ank you !

佐々木りおさんスピーチ全文

●小倉委員長

佐々木りおさんの挨拶を受けて、次にステージ

に立った小倉委員長は、ブラッター FIFA 会長と同

僚の FIFA 理事に向けて、静かに語り出した。

小倉委員長のスピーチでは、日本のコンセプト

と大会構想の考え方を語るに止められ、詳細な提

案内容の説明については、次に登壇する田嶋副委

員長に譲られた。

他の招致立候補国の多くが、スタジアム、セキュ

リティ、宿泊、輸送など、大会運営のためのインフ

ラの説明に多くの時間を費やしているのに対し、

日本は招致コンセプト及び大会構想に焦点を絞っ

てプレゼンテーションを行った。

2002 年大会あるいは FIFA クラブワールドカップ

の開催により、日本の開催運営能力の高さについ

ては、FIFA 理事は既に十分に認識している。それ

らの説明に時間を費やすよりも、限られた時間を

最大限有効に活用するため、日本は訴求ポイント

の説明に重点を置いたのである。

Page 9: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

���

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

���

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション

りおさん、ありがとう。

ブラッター会長、そして、親愛なる同僚のみなさん。我々が招致活動において多々使用してきたフレーズがあります。FIFA WORLD CUP …FOR THE NEXT GENERATION.

りおちゃんの言葉を聞くと、次世代のためのワールドカップというのは、ただの字面の問題ではないと思い知らされます。

私たちは、情熱的な、大きなこころざしを持っています。そしてそれは、りおちゃんたちの世代、さらにその先の世代のため、日本のため、世界中のため、そして、

208 の FIFA 加盟国全てのためであります。

先日私たちは FIFA の招致評価報告書を受け取りました。重要な論点がいくつか挙げられていました。私たちは頂いたご指摘をとても真剣に検討しました。そのすべてのポイントが全く問題ないということをお伝えしたいと思います。

2022 年大会に向けてのわれわれのビジョンについてお話をするとき、みなさんが日本だったら当然だと思うこと、セキュリティとか、交通とか、宿泊施設とかについてのお話もします。

日本中の 13 のすばらしいスタジアムについてのお話もします。東京の、そして、大阪の。大阪には、すばらしい、次世代型のスタジアムが出来ることについてもお話しします。しかし、我々は、世界中の 400 カ所の印象的なスタジアムで、何が起こるかについてもお話したいのです。ウェンブレーや、マラカナンや、アリアンツ、サッカーシティ、アステカ、といった世界中のすばらしい

スタジアムに、巨大な平置のスクリーンがピッチ中に敷き詰められた時に、何が起こるかについてもお話したいのです。

世界中の 400 カ所のスタジアムが、完全に新しいワールドカップの日本からのライブ中継を目撃しようとしている満員の人々で埋め尽くされている、その光景についてもお話したいのです。

等身大で、3D で、リアルタイムに行われる、新しいワールドカップの中継。

私たちがお話したいことは、たったひとつの、しかしとても大きなアイディアです。それは、これまでよりも多くの人々が、これまでよりも多くの国々で、これまでよりももっともっと、フッ

トボールを楽しむようになるということです。

我々の「次世代型ワールドカップ」の大会構想は、一つの国でワールドカップを開催することでもなく、二つの国でワールドカップを共催することでもありません。

我々のコンセプトは、「208 の FIFA 加盟国全てと一緒にワールドカップを開催すること。」です。

日本? 我々はただの進行役(コーディネーター)です。FIFA が様々な新しいことを起こすためのパートナーなのです。その新しいこととは、スポーツの楽しみ方が革命的に変わることだったり、ワールドカップを次世代のた

めに作り上げていくことだったり、208 の笑顔を世界中にもたらしていくことだったり、後世によいレガシーを残してゆくことだったりします。

我々の提案の詳細をお話しするために、田嶋幸三をご紹介します。彼は日本サッカー協会の副会長であり、招致委員会の CEO でもあります。

幸三さん、よろしく。

小倉純二委員長スピーチ ( 和訳 ) 全文●田嶋副委員長

小倉委員長の紹介を受けて登壇した田嶋副委員

長は、平均年齢 70 歳以上という高齢の FIFA 理事を

意識し、また、論点が散漫になることを避けるため、

「キッズドリームツアープログラム」、「夢先生プロ

グラム」、「ユニバーサル・ファンフェスト」の 3 点

に絞り込んで説明した。

これまでのロビー活動では、またメディアの論

調においても、しばしば「日本はハイテクノロジー

を駆使したワールドカップを提案」と言われてき

た。しかし、日本が提案しているのはハイテクノ

ロジーそのものではなく、それによってもたらさ

れる、世界中の人々がワールドカップの感動と喜

びを共有することのできる次世代のワールドカッ

プである。

ハイテクノロジーはあくまで手段であり、そこ

にハイテクノロジーが存在したとしても、日本人

がもつおもてなしの心や、他者を思いやる心といっ

たヒューマニティがなければ、世界中の人々と感

動と喜びを共有するワールドカップを実現するこ

とはできない。このことをもう一度 FIFA 理事に説

明することが、田嶋副委員長のスピーチにおける

使命であった。

さらに、もう1つのミッションは、FIFA 評価レ

ポートが指摘するテレビ放送権収入の減少への懸

念に対する、論理的で明確な反証を行うことであっ

た。

田嶋副委員長の熱意のこもったスピーチに、会

場からは、次世代育成をはじめとする日本の提案

に理解を示す拍手が巻き起こった。

小倉さん、ありがとうございます。

(画像)

この写真は昔でして、いまは、これです。(笑)私はシンプルにそして簡単に、3 つのことについてお話したいと思います。

「ドリームツアー」について「夢先生(ドリームティーチャー)」についてそして、世界中 400 カ所のスタジアムで体験される新しいワールドカップのプランについて、です。これらが一つになって、我々の大会構想の核心が出来上がります。

田嶋幸三副委員長スピーチ ( 和訳 ) 全文

田嶋幸三 副委員長

Page 10: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

��6

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

��7

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション

ドリームツアー。私たちは FIFA 加盟の 208 の国から 6,000 人の子どもたちを日本に招待します。日本にやって来て、有意義な時間を過ごします。そして、私たちの提案する次世代型ワールドカップがもたらす笑顔を自分の国に帰って振りまきます。だから私たちはドリームツアーの簡易版を、先日トライしてみました。子どもたちが何を得たのか、見てみてください。

(映像)

このツアーには私は個人的に非常に思い入れがあります。実際に出来るのが待ちきれないです!キッズドリームツアーは、JFA が 4 年前に作ったプロジェクトを基にして作られています。みなさんご存知の川淵さんの明確なビジョンによってできました。我々はこのプロジェクトを夢先生、ドリームティーチャーと言います。このプロジェクトがどう機能しているか、もうひとつの短い映像をご覧ください。

(映像)

このプロジェクトは非常に機能しています。FIFA インスペクションの団長を務めた、ハロルド・メイン - ニコルズさんが最初にこのプログラムを体験

したとき、4 つの単語でこう感想をおっしゃいました。「これが、真のサッカーである。」

私たちは、世界中のファンフェスト会場でこの夢先生たちに「キッズドリームワークショップ」をやってもらったらどうかと思いました。

想像してみてください。世界中すべての国の、その国のそのときの象徴的なサッカー選手が「夢先生」になって、次世代に大切な

ことを教えてゆくことを。

しかし私たちは、そのときのプレーヤーたちだけにやってもらおうと思っているわけではありません。私たちは FIFA の過去のレジェンドたちにも夢先生の企画の中心に立ってもらいたいと思っており、それを FIFA

と一緒に実現したいのです。ペレさん、マラドーナさん、ベッケンバウアーさん、プラティニさん、ボビー・チャールトンさん、ボビー・

ムーアさん、そんなレジェンドたちのストーリーです。

ドリームツアー、そして、夢先生。これらのプログラムは、これまでにないほどに、次世代の子どもたちに届きます。しかし、私たちはもっともっと広く届けてゆきたいのです。私たちは FIFA の加盟国のみなさんと一緒になってユニバーサルファンフェストを作ります。400 カ所の、4 万人以上のキャパシティを持つスタジアムでそれは行われます。

私はうれしいことに、みなさんのうちの何人かを知っていますが、私が純粋なフットボーラーだということをご存知だと思います。

私は、テクノロジー大好き人間ではありません。それでも、私はみなさんにお伝えしたいのです。このテクノロジーのアイディアが、スゴく心を動かした、

ということを!

世界中 400 カ所の「ユニバーサルファンフェスト」で 3 億 6000 万人の人々が、ワールドカップの試合の完全なるスタジアム体験をするのです。

3 億 6000 万人。これは過去最大とされる 1994 年アメリカ大会の観戦者数を、実に 100 倍以上も上回る数字です。この数字を私たちは注意深く計算しています。時差を越えることが容易ではないことはわかっています。ヨーロッパのスタジアムで行われる試合のほと

んどについて、私たちは 30%~ 50%のキャパシティで計算しているのです。

新しいテクノロジーは、現在 260 億人と言われるワールドカップのテレビ視聴者数も劇的に増加させるだろうと予想しています。

新しいテクノロジーによって、のみならず、急速に人口が増加しているアジアで新しい視聴者を獲得してゆくことを考えれば、アジアで開催される 2022 年の大会では、500 億人のレベルに到達すると見込んでいます。

この技術は、官と民が一致団結して努力をし、私たちが持っているものを全てつぎ込んでゆくことを意味しています。

私たちのイノベーションのすべてを。私たちのノウハウのすべてを。

新しい技術には、ひとつひとつに名前があります。私たちの最先端の技術を、我々はこう呼んでいます。「フルコート 3D ビジョン」、そして、「フリービュー

ポイントビジョン」しかし、名前が重要なのではないのです。技術でさえも重要ではないのです。重要なのは、楽しむ、ということなのです。

完全に新しいフットボールの楽しみ方を世界中の本当に大勢のファンのみなさんにお届けするのです。これは、世界のサッカーのあらゆる体験に革命を起こすマジックなのです。サッカーの興奮、サッカーの普及、広がり、そして収入拡大の可能性など世界中のサッカーのあらゆる面

に革命を起こすのです。

私たちが予想する視聴者数の増加によって、TV の放映権料の増加が保証されていることを意味しているだけではなく、さらにこれに加えて、フルコート 3D ビジョンとフリービューポイントビジョンの権利についてはテレビの放送権料と全く切り離されており、FIFA にとっての収入の劇的な増加を生み出すのです。

より多くの人たちに、より多くの国々に、今まで以上のフットボールの楽しみを。これが、日本の提案する「WORLD CUP THE NEXT GENERATION」なのです。

非常に立派で尊敬すべき、日本からの友人をご紹介させていただきます。ソニーの会長兼社長、CEO である、サー・ハワード・ストリンガーハワードさん、よろしくお願いします。

Page 11: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

��8

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

��9

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション

●ハワード・ストリンガー氏

続いて登壇したのは、FIFA パートナーであるソ

ニー株式会社のハワード・ストリンガー代表執行

役会長兼最高経営責任者(CEO)である。ハワード・

ストリンガー氏は、自身のサッカーにまつわるウ

イットに飛んだエピソードから語りはじめ、経営

者の立場から、また FIFA パートナーの立場から、

日本の提案がもたらす世界サッカーの未来と、チャ

ンスについて語った。

ハワード・ストリンガー氏の語った内容は、難

解なハイテクノロジーの解説ではなく、ハイテクノ

ロジーがもたらす、世界の人々をひとつにするサッ

カーの未来と、次世代ワールドカップへの FIFA の

チャレンジを促すものであった。

田嶋さん、ありがとうございます。

このようなすばらしい方々を前にさせていただいて、非常に光栄に存じます。

私はフットボールが大好きです。

しかし、ひとつ恥ずかしい事実があるのを認めないといけません。

私がイングランドで学生だった頃ですから、ずいぶんずいぶん昔、私はラグビーのチームに入っていまし

た。

学校にはよくあるちょっと馬鹿げた校則により、ラグビープレーヤーはサッカーをプレーすることが厳禁

されていました。

それでも私たちのグループは週末に、こっそりと、丸いボールを蹴るスリルを味わっていたのです。

ちょっと変わった形のボールではなくて。

そうなんです。校則違反な 10 代のサッカープレーヤーだったんです。

そして、信じられないかもしれませんが、これが私です。

(画像)

そんなわけで、招致委員会が私にチームの一員になるようにと話をもらったとき、私はちょっとしたスリ

リングな喜びを味わいました。

私はフットボールに情熱を持っています。

そして、私は日本について大変情熱を持っています。

ハワード・ストリンガー氏スピーチ ( 和訳 ) 全文

とはいえ、私は告白しなくてはいけません。招致委員からの話を聞いて、私が最初に思ったのが、「2022 年っ

て言うのはちょっと早すぎるんじゃないか?」ということだったということです。

やはり、2002 年の日韓共催のワールドカップは昨日のことのように思えるのです。

私が年を取ったからなのかも知れませんけど!

そして私は何人かの人たちは、日本の立候補に対して同じような反応をしていることも知ってます。

Too soon(早すぎる)

私のビジネスの中で、too soon(早すぎる) と言うフレーズは非常によく聞くフレーズなのです。

ウォークマンを発売したときも、too soon でした。

ヘッドフォンをして音楽を聴きながら歩き回りたいとみんなが思っているなんて、想像できませんでした

よね。

ビデオカメラは too soon だよ、プレイステーションは too soon だよ、3DTV は too soon だよ、そのリストは続

きます。

私が FIFA に最大の敬意を払うのは、FIFA は常にパイオニアになる勇気を持って来たことです。

1970 年代に人々がスポーツにおいて、グローバルなスポンサーシップを持ち込むことは「too soon」だと言っ

ていた時に、FIFA は前に進みましたね。

FIFA は世界をリードしました。そして、世界はそれに従ったのです。

FIFA が、サッカーがヨーロッパとラテンアメリカだけのためではなく、世界中すべてのためであるべきだ

と言い出した時に、FIFA は世界をリードしましたね。

そして、世界は FIFA ワールドカップのすばらしいゲームに恋に落ちたのです。

いくつかの機会において、FIFA とソニーがともにパイオニアとして新しいものを切り開いたことを、私は

誇らしく思います。たとえば、今年の前半に、世界初の 3D FIFA ワールドカップを実現したこともそうです。

そして、私はこの Bid は驚くべきチャンスだと思います。

日本にとってはもちろんのこと、FIFA にとっても、世界をリードする大きなチャンスです。

世界はこれまでに比べてずっと速いスピードで変わっている、ということは、ここにいらっしゃる方々が

感じていることだと思います。

2022 年には、20 億もの画面が人々の手のひらの中にある、という時代になります。

携帯電話とか手のひらコンピューター的なものがそうです。

すべて、放送品質のテレビの映像を手元で見られるということを意味しています。

どのように、そして、どこで、人々がワールドカップを追いかけてゆくのか、という視点でこのことを考

えてみてください。

とはいえ、これは、テクノロジーを使いこなすことができて、最新の端末を買う余裕のある人たちにとっ

ハワード・ストリンガー氏

Page 12: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

��0

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

���

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション

ストリンガーさん、ありがとうございます。

日本国の政府と総理大臣を代表してこの場に立てることを本当に、光栄に思います。

FIFA の理事の方を前にして、私は誇らしくもあるのですが、同時にちょっと緊張していることも言わない

といけませんね。なぜなら、高校生のとき、私は寝室の壁にこの中の二人の方のポスターを貼ってましたから!

ベッケンバウアーさん。プラティニさん。私の子ども時代のヒーローです。

いまでも私は、国会チームのミッドフィールダーとして時々スパイクを履くチャンスを作っているんです。

5 日前、私は国会にいたのですが、この招致活動を支援し、必要なすべての準備を行うように、政府に求め

る国会決議が提出されました。国会決議は国会メンバーの満場一致によって、議決されました。

私は、このことを通じてみなさんに日本の招致活動についての、我々日本人の情熱や熱気に気づいていた

だければと思っています。

わたしはFIFAのみなさんに、日本国政府が、あなたがたFIFAに対して行った約束が、政治的、経済的、技術的、

全ての意味で十分に行われる、ということを全面的に保証します。

しかし、もっと言わせていただければ、私たちはこの政府の関与が、いわゆる公式的な意味での保証、と

いう意味に限定されていると FIFA のみなさんに思ってもらいたくはないのです。

日本政府は、FIFA の必要、つまり、いつでも進化したり変化したりする必要についても、喜んで対応した

いと思っている、ということも、FIFA のみなさんに知っておいていただきたいのです。

ブラッター会長。あなたが総理からの個人的な書簡を受け取ったと聞いています。

そして、その手紙の中には「チューリッヒで会いましょう」と書いてありましたね。

総理が不在を詫びる手紙をしたためましたので、持ってきました。

そして、東アジアの現在の情勢の中、総理が来れなかったことを理解していただけると思います。

ストリンガーさんがお話ししたように、我々の招致活動は、単に日本のためだけではなく、FIFA のためにも、

そして、次世代のためにも良いチャンスなのではないかと、確信しています。

私は平に、みなさんにお願いします。

あなた方が日本を選び、日本が実現する次世代ワールドカップを、レガシーとして残してゆくことを。

それでは、小倉委員長にプレゼンテーションをまとめていただきます。

小倉さん、お願いします。

●鈴木文部科学副大臣

日本政府代表として登壇した鈴木文部科学副大

臣は、自身が高校時代に自分の部屋にベッケンバウ

アー選手とプラティニ選手のポスターを貼ってい

たほどのファンであったことを紹介しながら語り

はじめた。それは単に過去を懐かしんでのエピソー

ドではなく、今では FIFA 理事となって会場の最前

てのみに、サッカーの楽しみを拡大する、という話ではないのです。

ワールドカップの興奮を、電気がなくてテレビがないような、人里離れた小さな村にも届けてゆく、テク

ノロジーはそのためにも使われてゆくのです。

私たちは今年、太陽発電と持ち運び可能な大きなスクリーンをアフリカへ持っていって、どうやってそれ

を実現するかの手はずを整えました。

2022 年をフットボールが真の意味で全世界に広がってゆく、という年にしましょう。

想像してみてください。

400 のスタジアムで日本からのワールドカップの中継を見ている満員の観客を。

大画面を見上げるのではなく、巨大な画面と化しているピッチを見下ろして、サッカーを見ているのです。

これは、世界を互いにもっと近づける、真の意味での変化と言えます。

そして、こう言うことが出来ると思います。

「これは、SF ( Science Fiction ) じゃあないんだ」と。

2022 年には、科学的な事実 ( Science Fact ) になるのです。

12 年というのは、技術の世界にとっては、とても長い時間です。

今日この場において、日本の FIFA ワールドカップ招致活動は、我々にとって、FIFA に何かをお返しするこ

とができるチャンスであり、フットボールに何かをお返しすることができるチャンスであり、世界に何かを

お返しするチャンスでもあるのです。

そのチャンスをより強いものにするために、日本政府が如何に支援してくださっているか。

私は鈴木寛さんを紹介したいと思います。

彼は、総理大臣の代理として、日本政府を代表して来てくださいました。

ありがとうございます。

鈴木寛文部科学副大臣スピーチ ( 和訳 ) 全文

列に座る、2 名の元プレーヤーに対する明確なメッ

セージがこめられていた。

鈴木寛 文部科学副大臣

Page 13: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

���

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

���

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション

●小倉委員長

最後に再び小倉委員長が登壇し、同僚でもある

鈴木さん、ありがとうございます。

FIFA はすでに、日本に多くのものを与えてきました。

ヨーロッパと南米大陸の中間に位置することもあり、我々はトヨタカップ、そして FIFA クラブワールドカッ

プを成功させることができました。

我々は世界初の共催によるワールドカップを実現しました。

FIFA の使命はワールドカップが持つポテンシャルを可能な限り引き出すことだと思います。

そう、次世代のために。

FIFA のための挑戦、そしてフットボールのための挑戦とは次世代の革新的なアイディアと、次世代の驚く

べき商業的な発展という、次世代に向けての大きな一歩をはっきりと記すことです。

FIFA のためのチャレンジとはテクノロジーに起こっている革命を認め、受け入れることです。

これはチャンスなのです。

この手のチャンスはひと世代に一度はあります。人生の中で一度、という感じでしょうか。

これは世界が FIFA に期待していることです。日本はそれを可能にします。

我々の夢は、次世代に向けた準備をすることです。

(映像)

ご覧頂きましたように、2022 年に向けて私たちにはたくさんの夢があります。

我々の提案が未来の技術についてを多く語っているのはご存知だと思いますが、ストリンガーさんには、

これは、科学的真実であり、SF ではない、ということをお話頂きました。

ブラッター会長、そしてみなさん。

私たちの大会構想は、とてもシンプルです。

より多くの人々がより多くの国々で、歴史上未だかつてないくらいにたくさん、楽しんでくれるようなワー

ルドカップ。

それが、我々の夢なのです。

これは、FIFA がとるべき次の新しい大いなる旅路なのです。

これは、FIFA が導くべき新しい大いなる冒険なのです。

そして、これが、本当の意味での次世代に向けてのワールドカップです。

小倉純二委員長スピーチ ( 和訳 ) 全文

FIFA 理事たち一人ひとりに、自らの夢の実現を訴

えかけた。そしてこれが、2022 年に向けての、私の、夢なのです。

どうか、日本を応援してください。

ご清聴ありがとうございました。

みなさんありがとうございました。

これでプレゼンテーションを終わります。

小倉委員長のスピーチが終わると、佐々木りお

さんを含むすべてのプレゼンターが再び登壇し、

FIFA 理事たちに挨拶を行った。他の招致国が全員

スーツ姿でプレゼンテーションを行った中、日本

は、プレゼンター全員が 2022 と書かれた日本代表

のユニフォームを着用した。その姿は、日本のチー

氏 名 所 属(役職)招致委員会役員小倉 純二 招致委員会委員長、FIFA理事、JFA会長、プレゼンター岡野 俊一郎 招致委員会顧問、JFA最高顧問田嶋 幸三 招致委員会副委員長、JFA副会長兼専務理事、プレゼンター高橋 治之 招致委員会委員、株式会社電通顧問奥田 泰久 JFA秘書室長、岡野顧問秘書川瀬 みどり 小倉委員長秘書志水 かず美 田嶋副委員長秘書招致委員会実行本部丸山 高人 本部長五香 純典 チーフダイレクター中島 勇一郎 エグゼクティブダイレクター濱口 博行 エグゼクティブアドバイザー伊地知 直亮 シニアアドバイザー平井  徹 国際部門ダイレクター貝瀬 智洋 政府 /自治体部門・事業部門ダイレクター林  信貴 コミュニケーション部門ダイレクター永松 繁隆 コミュニケーション部門ダイレクター代理島本  寛 コミュニケーション部門プロモーション担当ダイレクター種蔵 里美 コミュニケーション部門広報担当ダイレクター小西 あおい 国際部門マネジャーマーティン・ニューマン プレゼンテーショントレーナーパトリック・ナリー 招致アドバイザー政府関係者鈴木  寛 文部科学副大臣、招致委員会副会長、プレゼンター遠藤 利明 招致推進議員連盟幹事富田 茂之 招致推進議員連盟幹事友近 聡朗 招致推進議員連盟幹事藤原  誠 文部科学省審議官(スポーツ・青少年局担当)村田 直樹 外務省広報文化交流部長プレゼンターほかハワード・ストリンガー ソニー株式会社代表執行役会長兼最高経営責任者(CEO)、プレゼンター河内 聡一 ソニー株式会社執行役員、プレゼンター随行佐々木 りお プレゼンター佐々木 真理 プレゼンター随行

最終プレゼンテーション日本代表団

ムワークとフレンドリーな雰囲気を十分に表現し

た。

※ 最終プレゼンテーションのスピーチ全文(英語)は、資料集を 9. 参照。

Page 14: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

���

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

���

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション

FIFA 理事会における最終プレゼンテーション

は、FIFA 理事の投票行動を最後に決するとも言わ

れていた。そのため、日本はその実施に向けて入

念な準備を行った。

一方、最終プレゼンテーション及び開催国決定

のレギュレーションが確定したのは、10 月 28 日、

29日に開催されたFIFA理事会であった。そのため、

既に進行していた計画の一部変更も余儀なくされ

た。

また、11 月 17 日には FIFA 評価レポートが発表

された。同レポートでは、各招致立候補国の大会

開催能力を評価したのみで、開催理念など日本招

致の柱である大会構想については、簡単に触れら

れるに過ぎなかった。この結果を受け、最終プレ

ゼンテーションの方向性については、「最後まで日

本の主張である “次世代ワールドカップ” の実現を

訴えていく」ことを、再度確認することとなった。

●最終プレゼンテーションの計画・準備

最終プレゼンテーションの計画・準備は、FIFA

インスペクション終了後の 2010 年 8 月から開始し

た。最終プレゼンテーションに際しての日本の戦

略は、日本が提案する “次世代ワールドカップ” の

実現可能性を実証する “決定的な物的証拠” を、

いかに FIFA 理事に対し提示するかであった。しか

し、最終プレゼンテーションのレギュレーション

では、FIFA インスペクションで用いた Freeviewpoint

Vision ( フリービューポイント・ビジョン)、Full

Court 3D Vision(フルコート・3D・ビジョン)など

のデモ機材を、ステージに持ち込むことは認めら

れていなかった。

そのため、スピーチ原稿の制作、プレゼンテー

ション会場に映し出す映像及びスライドの制作、

プレゼンターの選定など、あらゆる局面において“徹

底した事実主義” を貫き、それを積み重ねることに

より、日本の提案の実現可能性を証明することと

した。

12 月 2 日の本番までの間、FIFA 理事に関する様々

な情報の収集・分析に基づき、スピーチ原稿には

再三にわたり検討と修正が加えられた。日本のメッ

セージが熱意を持って FIFA 理事に伝わるよう、ス

ピーチの一つひとつの単語の選定にも、細心の注

意が払われた。

映像及びスライド制作では、日本が提案する次

世代教育事業の柱である 208 Kids Dream Japan Tour

(208 キッズ・ドリーム・ジャパン・ツアー)の有

効性を実証するため、トライアル版である 208 Kids

Dream Mini Tour(208キッズ・ドリーム・ミニ・ツアー)

を 10 月に実施し、これを収録した。

また、プレゼンターの選定に際しても、多くの

議論と検討が行われた。2002 年に生まれた佐々木

りおさんの起用は、「2002 年大会の開催からまだ間

もない。too soon である。」という意見に対する反証

でもあった。

ハワード・ストリンガー氏の起用には、日本で

開催することのメリットを伝えるためには、日本

人だけが説明していてはならない、日本のよさを

理解している外国の方にお願いしたい、という意

図が込められていた。同時に、FIFA パートナーで

あるソニー㈱の CEO を務めるストリンガー氏が、

自らの言葉で日本の提案内容が実現可能であるこ

とを語っていただきたい、との期待があった。こ

うした招致委員会の考えをストリンガー氏に伝え

てお願いしたところ、幸いにも快諾していただく

ことができた。

さらに、多忙な中、日本政府を代表して鈴木寛

文部科学副大臣に出席いただいた。特に、FIFA 評

価レポートで中位のリスクが指摘された政府保証

についての踏み込んだ発言は、FIFA の各理事に対

し、日本国民及び日本政府の大会開催への期待の

高さ、意識の高まりを表現するに十分であった。

10.3 最終プレゼンテーション対応●最終プレゼンテーションリハーサルの実施

最終プレゼンテーションの登壇者は、佐々木り

おさんを除き全員、英語によるスピーチを行うこ

ととした。FIFA の理事たちに訴えかける万全なプ

レゼンテーションを行うため、繰り返しリハーサ

ルが行われた。

リハーサルに際してはプレゼンテーショント

レーナーとして、マーティン・ニューマン氏を起

用した。ニューマン氏の指導は発音のチェックを

はじめ、視線の向け方、間の取り方、強調ポイン

トでの身振り手振りなど、細部にまで及んだ。

リハーサルは、プレゼンテーションのさらなる

クオリティ向上を目指し、チューリヒに入ってか

らも続けられた。椅子の配置や大型画面の位置、

部屋の大きさなど本番のプレゼンテーション会場

と全く同じ環境を用意し、出演者から技術担当ス

タッフまで、当日与えられる時間を踏まえ、本番

さながらの練習が続けられた。11 月 29 日には FIFA

本部で公式リハーサルを行い、実際の会場を使用

しての確認を行った。 FIFA 理事として公務を抱え

る小倉委員長も、多忙な時間の合間を縫ってリハー

サルに参加した。

● 208 Kids Dream Mini Tour の実施

最終プレゼンテーションの開催に先立つ、2010

年 10 月 23 日、24 日の 2 日間にわたり、「208 Kids

Dream Mini Tour(208 キッズ・ドリーム・ミニ・ツ

アー)」を実施した。このツアープログラムは、日

本が大会構想の一部として提案する次世代育成活

動、208 Kids Dream Japan Tour(208 キッズ・ドリーム・

ジャパン・ツアー ) の有効性を確認することを目的

に、同プログラムの縮小版として実施したもので

ある。それは、“徹底した事実主義” に基づき、事

実を積み重ねることにより日本の提案の実現可能

性を証明しようとする、最終プレゼンテーション

のための準備の一環でもあった。

208 Kids Dream Japan Tour は、日本でのワールドカッ

プ開催中に、世界から 6,000 人規模の世界の次代を

担う子供たちを日本に招待し、ワールドカップ、サッ

カーを通じて、文化・言語を超えた国際交流体験、

平和学習を推進することとしている。縮小版とな

る今回の 208 Kids Dream Mini Tour では、言語・文化

に違いのある東京のインターナショナルスクール

の児童と、広島の小学生の計 23 名を対象として実

施した。

ツアーに参加した子供たちは、大人たちの心配

をよそに、子供たち同士すぐに打ち解けて、各プ

ログラムに楽しそうに参加した。国籍や言語、文

化の違いに全く戸惑うことなく、自然に子供たち

の交流が広がった。それは日本が提案する 208 Kids

Dream Japan Tour が極めて有用であること、かつま

た十分に実現可能であることを物語るものであっ

た。

また同時に、208 Kids Dream Japan Tour のベースで

あり、JFA がこれまでに取り組んできた「JFA ここ

プレゼンテーションのリハーサルに臨む小倉委員長とニューマン氏

プレゼンリハーサルの様子

Page 15: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

��6

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

��7

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション第 11 章 開催国の決定

2010 年 12 月 2 日、FIFA 理事会が開催され、2018

年 FIFA ワールドカップTM及び 2022 年 FIFA ワール

ドカップTMの開催国を決定する投票が行われた。

投票方法は、10 月 29 日の FIFA 理事会で決定し

たとおり、以下の手順により行われた。

なお、2010 年 11 月 18 日の FIFA 倫理委員会で資

格停止処分の下されたテマリー副会長及びアダム

理事の 2 名は、FIFA 理事会に参加することができ

11.1 開催国決定投票

最終プレゼンテーションが行われた FIFA ハウス(スイス・チューリヒ)

第11章 開催国の決定

1. 開催国決定日

本年12月2日に、2018年大会及び2022年大会の両大会を決定する。

2. 投票方法

FIFA事務局の提案どおり、下記の方法にて承認した。

・ 2018年大会の投票が行われ、続いて2022年大会の投票が行われる。投票は無記名にて行われ、現職

FIFA理事は全員が両大会の投票を行うことができる。

・ 招致国が開催を勝ち取るには、出席しているFIFA理事の過半数による投票を得なければならない。

・ 2つの招致国が残り、同じ獲得票数の場合は、FIFA会長が決選投票を行う。

・ 過半数の票を得た招致国が存在しない場合、最少得票数の招致国は次の投票に進むことができない。

・ 最少得票数の招致国が並んだ場合、該当する招致国のうち次の投票に進むことができない国を決する

ための投票が即座に行われる。

・開催国決定の投票は、12月2日午後2時から4時の間に開催される理事会で行われる。

3. 開催国発表プロセス

開催国が決定された際、結果は二つの封筒に入れられ、公証人にてメッセ・チューリヒへ運ばれFIFA

会長に手渡される。最終的な開催国決定の発表は、当日午後4時、メッセ・チューリヒにて行われる。

正式な発表があるまでは、結果はFIFA理事にも知らされない。したがって、2018年大会の開催国に影

響されず、2022年大会の投票がなされることになる。

開催国投票方法(2010 年 10 月 29 日 FIFA 理事会決定事項)

ないため、投票は 22 名の理事により行われた。

ろのプロジェクト」のメソッドが、未来に向けた

展開・実施に際しても十分に有効であることを証

明するものでもあった。

208 Kids Dream Mini Tour で見せた子供たちの本物

の笑顔は、未来の可能性を実証する何よりの “物的

証拠” として、最終プレゼンテーションにおいて

208 Kids Dream Japan Tour のプログラムを紹介するた

めの映像として収録された。

ツアーにおけるプログラムの内容は以下のとお

りである。

① スポーツを通じたコミュニケーション(フッ

トサル、マスゲーム)

② 広島平和公園散策、平和記念資料館見学

③ 平和を考えるワークショップ学習

④ 工作レクリエーション

⑤ プロサッカー選手との交流

⑥ J リーグ公式戦の観戦

なお、ツアーの実施に際しては、JFA こころのプ

ロジェクトで講師を務める元 J リーガーの安永氏、

平間氏、式田氏、井手口氏がツアー・アテンダン

トとして同行し、子供たちの交流を深める力添え

をいただいた。

広島平和公園散策

スポーツを通じたコミュニケーション

Page 16: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

��8

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

��9

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション第 11 章 開催国の決定

開催国の発表は、12 月 2 日午後 4 時(日本時間

12 月 3 日午前 0 時)から、スイス・チューリヒの

「チューリヒ・メッセ」において行われた。会場

には、開催国決定の模様を伝えようと、世界各国

から 70 のテレビ局、1,000 名のレポーターがつめか

けた。

定刻より 30 分ほど遅れて開催された開催国発表

では、ブラッター FIFA 会長がステージに立ち、は

じめに各招致立候補国に対し感謝の意を表明し

た。そして、2018 年 FIFA ワールドカップTMの開催

国から発表した。

ブラッター会長は手渡された封筒を受け取り開

封すると、「Russia(ロシア)」と記されたカードを

会場内に示した。その瞬間、ロシアの招致関係者

から歓声が沸きあがった。ステージに招かれたロ

シアの招致関係者に対し、ブラッター会長から開

11.2 開催国決定投票結果

開催国を発表するブラッター FIFA 会長

催国の証書が手渡されるとともに、祝辞が述べら

れた。

続いて、同様の手順により 2022 年 FIFA ワールド

カップTM開催国の発表が行われた。そして、ブラッ

ター会長が示したカードには「Qatar(カタール)」

と記されていた。

その結果、2018 年大会は旧共産圏の東欧地域、

2022 年大会はアラブ圏の中東地域でともに初の開

催となった。両大会の開催国決定に際し、ブラッター

FIFA 会長は「我々は新たなる地に向かう」と語っ

た。

2022年 FIFAワールドカップTM投票結果招致立候補国 第 1回投票 第 2回投票 第 3回投票 第 4回投票

カタール 11 10 11 14米国 3 5 6 8韓国 4 5 5 ―日本 3 2 ― ―オーストラリア 1 ― ― ―2018年 FIFAワールドカップTM投票結果

招致立候補国 第 1回投票 第 2回投票ロシア 9 13スペイン/ポルトガル 7 7オランダ/ベルギー 4 2イングランド 2 ―

2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM開催国決定投票結果

2022 年開催国に決定したカタール招致チーム

2018 年開催国に決定したロシア招致チーム

Page 17: 第9章 FIFA評価レポートの公開と FIFA理事不正疑惑 …...FIFA 本部については、提案しているホテルの契約した客室総数は、700 室の要件を満たしていない。オフィ

��0

第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録第 1 部 招致活動記録

���

第 1 章 日本招致に向けての意思決定第 2 章 招致に向けての準備・プランニング第 3 章 日本招致委員会の設立第 4 章 開催候補都市の募集と閣議了解第 5 章 2018/2022 年 FIFA ワールドカップTM日本招致委員会の開催第 6 章 「招致ブック」及び「開催契約書」の提出第 7 章 FIFA ワールドカップTM南アフリカ大会の開催第 8 章 FIFA インスペクション第 9 章 FIFA 評価レポートの公開と FIFA 理事不正疑惑問題第 10 章 最終プレゼンテーション第 11 章 開催国の決定

スイス・チューリヒで開催国決定の発表があっ

た翌日 12 月 3 日、日本招致委員会の Web サイト

「DREAM 2022」に、小倉純二日本招致委員長のメッ

セージを掲載した。

11.3  開催国決定記者ブリーフィングの開催

小倉委員長は、多くのサッカーファミリーの期

待にこたえられなかったことを陳謝するととも

に、チャンスがある限り引き続き FIFA ワールドカッ

プTMの招致にチャレンジして行くことを明らかにし

た。

本日 12 月 2 日、FIFA 理事会で行われた 2018/2022 年 FIFA ワールドカップ™開催国決定投票の結果、日本の

2022 年 FIFA ワールドカップTM招致は叶いませんでした。サッカーファミリーの皆さんの期待に応えられず残

念であり、申し訳なく思います。

2018 年開催国に決定したロシア、2022 年開催国のカタールに、心から祝福の意を送ります。日本に対して

は「2002 年に開催したばかりで早すぎる」という意見もあり、今回は初めて開催する地域がいずれも開催国

に選ばれました。

私たちは、世界 208 の国と地域すべてで、先端技術を活用した「次世代のワールドカップ」を開催すると

いうコンセプトを掲げ、招致活動を進めてきました。このコンセプトは大変興味深いと多方面で評価を受け

ました。

日本サッカー協会の方針や、「JFA こころのプロジェクト」に代表される日本サッカー界の社会的な取り組

みを世界中に発信できたことには、大きな意義があったと考えています。またこうした日本の提案が今後の

ワールドカップで実現されることを願っています。

日本サッカー協会は、「サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の

発展に貢献する」ことを理念としています。サッカーファミリーの裾野を広げてゆくためにも、FIFA ワール

ドカップTMの日本開催は達成すべき目標です。チャンスがある限り、引き続き、チャレンジを続けてまいりま

す。

日本招致にご支援・ご協力いただいた、すべてのサッカーファミリーの皆さんにこの場を借りまして厚く

御礼申し上げます。

今後ともご支援のほど、よろしくお願いします。

2022 年 FIFA ワールドカップ™日本招致委員会 委員長 

財団法人日本サッカー協会 会長 

小倉  純二 

開催国決定報告メッセージ

また、スイス・チューリヒから帰国後の12月7日、

JFA ハウスにおいて開催国決定に関する記者ブリー

フィングを開催した。

小倉委員長はこの中で、落選の無念さをにじま

せながらも、次に向けてのビジョンを力強く語っ

た。

招致という試合に出た以上、負けたことが悔しいです。

2018 年は東欧のロシアに、2022 年は中近東のカタールに決まりました。新しい地域で開催し、サッカーを

全世界に発展させ広めていくことを FIFA 理事会が選択したことになります。

ワールドカップの楽しさを日本のみなさんにまた味わってほしいと立候補し、最終プレゼンテーションに

いたるまで精一杯戦いました。

アジアサッカー連盟に所属している日本が次に立候補できるのは 2034 年。それを踏まえ、JFA、J リーグな

どが日本のスタジアムをどう変えていくか考える必要があると考えています。

FIFA の大会には女子の大会や年代別ユース大会、ビーチサッカーなどいろいろあります。いずれも現在で

は多くの国々が名乗りをあげ競争は激しいですが、日本はただ黙って 2034 年まで待つのではなく、常に FIFA

の大会に興味があり、開催できる国であるべきだと考えています。

国内の機運を醸成し、なおかつこうした大会でサッカーを日本の人々にさらに理解してもらって、進めて

いきます。

小倉純二委員長談話

記者の質問に答える小倉委員長(JFA ハウス)