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JAPAN LIFELINE TVI MARKETING REPORT 症例は 70 歳男性。脳梗塞を契機に虚血性心疾患の合併を指摘され、RCA#1、LCX#11 に PCI の 既往があり、今回は LAD の CTO に対する PCI 施行目的で入院となった。冠動脈造影上、LAD は 入口部からスタンプの無い完全閉塞を呈しており、主要分岐部は中間枝 (Intermediate branch) を分岐する trifurcation となっていた (Fig. 1)。側副血行路のメインは RCA 末梢より心尖部経由で LAD へと血流を送っていたが(Fig. 2, Fig. 3)、一部septal branch経由の側副血行路も確認された。 また、冠動脈 CT では LAD の閉塞部に著名な石灰化を呈していることが確認されていた (Fig. 4)。 canPass HARD 1.2mm が antegrade の preparation に 有効であったスタンプのない LAD 入口部 CTO の一例 Vol.57 沼澤 洋平 先生  (足利赤十字病院 循環器内科 副部長兼部長代行 心臓カテーテル室長) Fig. 1 LAO-CAU Fig. 2 RAO-CRA Fig. 3 LAO-CRA Fig. 4 Guiding catheter : 〈Antegrade〉 Hyperion 8Fr.SPB 3.0SH (ASAHI INTECC) 〈Retrograde〉 Hyperion 7Fr.JR4 SH (ASAHI INTECC) Guide wire : ASAHI SION blue, X-treme XT-R, ASAHI Gaia Second, ASAHI Gaia Third, Conquest pro, Conquest pro 12, ASAHI SUOH, ASAHI RG3 (ASAHI INTECC) Penetration catheter : Corsair 135cm, Corsair 150cm (ASAHI INTECC), GuideLiner V3 (Japan Lifeline), Crusade(KANEKA MEDIX) IVUS : Navifocus WR (Terumo) Balloon catheter : canPass HARD 1.2 × 6mm (Japan Lifeline), Sapphire Ⅱ pro 2.25 × 15mm (Obus Neich) Stent : Resolute Integrity 2.25 × 30mm (Medtronic), Xience Alpine 3.0 × 28mm (Abbott Vascular Japan) 使用デバイス

canPass HARD 1.2mmがantegradeのpreparationに 有効であった … · canPass HARD 1.2mmがantegradeのpreparationに 有効であったスタンプのないLAD入口部CTOの一例

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Page 1: canPass HARD 1.2mmがantegradeのpreparationに 有効であった … · canPass HARD 1.2mmがantegradeのpreparationに 有効であったスタンプのないLAD入口部CTOの一例

JAPAN LIFELINE TVI MARKETING REPORT

症例は 70 歳男性。脳梗塞を契機に虚血性心疾患の合併を指摘され、RCA#1、LCX#11に PCI の

既往があり、今回は LAD の CTO に対する PCI 施行目的で入院となった。冠動脈造影上、LAD は

入口部からスタンプの無い完全閉塞を呈しており、主要分岐部は中間枝 (Intermediate branch)

を分岐する trifurcation となっていた (Fig. 1)。側副血行路のメインは RCA 末梢より心尖部経由で

LADへと血流を送っていたが(Fig. 2, Fig. 3)、一部septal branch経由の側副血行路も確認された。

また、冠動脈 CT では LAD の閉塞部に著名な石灰化を呈していることが確認されていた (Fig. 4)。

canPass HARD 1.2mm が antegrade の preparation に有効であったスタンプのない LAD 入口部 CTO の一例

Vol.57

沼澤 洋平 先生 (足利赤十字病院 循環器内科 副部長兼部長代行 心臓カテーテル室長)

Fig. 1 LAO-CAU Fig. 2 RAO-CRA

Fig. 3 LAO-CRA Fig. 4

Guiding catheter : 〈Antegrade〉 Hyperion 8Fr.SPB 3.0SH (ASAHI INTECC) 〈Retrograde〉 Hyperion 7Fr.JR4 SH (ASAHI INTECC)Guide wire : ASAHI SION blue, X-treme XT-R, ASAHI Gaia Second, ASAHI Gaia Third, Conquest pro, Conquest pro 12, ASAHI SUOH, ASAHI RG3 (ASAHI INTECC)Penetration catheter : Corsair 135cm, Corsair 150cm (ASAHI INTECC), GuideLiner V3 (Japan Lifeline), Crusade(KANEKA MEDIX)IVUS : Navifocus WR (Terumo)Balloon catheter : canPass HARD 1.2 × 6mm (Japan Lifeline), Sapphire Ⅱ pro 2.25× 15mm (Obus Neich) Stent : Resolute Integrity 2.25× 30mm (Medtronic), Xience Alpine 3.0 × 28mm (Abbott Vascular Japan)

使用デバイス

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JAPAN LIFELINE TVI MARKETING REPORT

手技手順・方法

Fig. 7

アプローチは右大腿動脈 8Fr.sheath、

左橈骨動脈 7Fr.Glidesheath とした。

まず中間枝に ASAHI SION blue を挿

入し、IVUS にて左前下行枝の閉塞断

端を観察した。CTO の入口部には著

名な石灰化は認めなかった。IVUS を

中間枝に留置したまま、Corsair+X-

treme XT-R に て LAD の CTO 内 部

にワイヤーを挿入することを試みた

が、予想以上に LMT-LAD への角度が急であり、ワイヤーは容易に中間枝方向へと流れてしまう状況であった。Wire を ASAHI Gaia

Second、ASAHI Gaia Third へと step up していったが、同様の理由で CTO 内に入り込むことができず、pre-shape に加え、2nd

curve をつけても同様であった。IVUS を一旦体外へ抜去し、中間枝に挿入した ASAHI SION blue に Crusade をのせて LAD へのワ

イヤリングを試みた。最終的に Conquest pro 12 に比較的大きな 2nd curve をつけ、ようやく LAD の CTO 内にワイヤーを進めるこ

とができた (Fig. 5)。しかし、ここでもやはり LMT-LAD への角度が急峻であることが原因で、その後 Corsair を LAD 内へと挿入する

ことができなかった。IVUS にてワイヤーが LAD の入口部をきちんと捉えていることを確認の上、石灰化を頼りに Conquest pro 12 を

遠位部へと進めていったが、対側造影にて subintimal space に迷入していることが判明した (Fig. 6)。Crusade を用いた Parallel wire

technique を施行したいところであったが、Corsair も LAD 方向へは入らないため、CTO の入り口を小径バルーンで POBA する方針

とした。Corsair が全く入り込めない上に CTO 内では CT上高度の石灰化も認められているという厳しい条件であったが、canPass

HARD 1.2×6mm をデリバリーしたところ、LMT-LAD ヘの屈曲をスムーズに乗り越え、CTO 内の中間部まで容易に挿入することがで

きた (Fig. 7)。最大 12atm まで拡張を行ったところ、その後で Navifocus WR を挿入することができ、病変内を観察することができた。

IVUS 所見上、LAD の入口部は問題なく真腔を捉えていたが、CTO の中間部付近で subintimal space に迷入していることが判明した。

IVUS にて subintimal space に迷入した位置を同定し、Crusade による Parallel wire technique を試みたが、やはり LMT-LAD への

屈曲のこともあり、ワイヤーのコントロールが非常に難しく、この時点で retrograde approach へ切り替えた。

Fig. 6Fig. 5

canPass Hard 1.2 × 6mm

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Vol.000対 側 の Guiding catheter と し て

7Fr.AL1ST(brite tip)を選択したが、

右 冠 動 脈 に engage す る と side

hole が空いていても wedge して

しまい、血圧が低下してしまう状

況であった。そのため、Guiding

catheter を 7Fr.JR4(Hyperion) に

変更し、back up 不足を補うため

に 7Fr.GuideLiner V3 を併用して

retrograde approach の手技を行っ

た。まず #4PD に挿入した Corsair から tip injection を行い、septal channel を ASAHI SUOH 03 にてワイヤリングしたところ、

近位部の channel ではあったが、LAD の本幹から遠位部へ通すことができた。Guiding による support の不足から当初は Corsair が

septal channel を通過しなかったが、7Fr.GuideLiner V3 を deep engageすることで最終的に Corsair を通過させることに成功した

(Fig. 8)。続いて、ASAHI Gaia Second にて retrograde から CTO 内へ向けてワイヤリングを行い、CTO 中間部まで進めることがで

きた。ASAHI Gaia Second が進まなくなったため、X-treme XT-R に step down してみたところ、antegrate の wire と重なるところ

まで進めることができた。antegrate から Sapphire proⅡ 2.25×15mm にて ballooning を行ったところ、reverse CART が成立し、

retrograde の wire を antegrate の Guiding catheter に挿入

することができ、ASAHI RG3 にてexternalization が成立し

た (Fig. 9)。

その後は antegrade より Crusade を進め、LAD の本幹へ

ワイヤリングを試みた。しかし Crusade が CTO 内部を通

過しなかったため、再度 canPass HARD 1.2 × 6mm にて

閉塞部を拡張したところ、Crusade を挿入することが可能と

なった (Fig. 10)。X-treme にて LAD の遠位部をワイヤリング

することに成功し、IVUS にて真腔であることを確認の上で、

SapphireⅡ 2.25 ×15mm にて閉塞部全体を POBA した。

最終的に distal より Resolute Integrity 2.25 × 30mm を留

置し、さらに LAD の入口部に合わせる形で Xience alpine 3.0

× 28mm を留置し、良好な血流を得て手技を終了した (Fig.

11, 12)。

Fig. 12Fig. 11

Fig. 9

Vol.000Fig. 8

Fig. 10

canPass Hard 1.2 × 6mm

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JAPAN LIFELINE TVI MARKETING REPORT

2015-12-10-01

考察 / まとめ

LMT-LAD への分岐部におけるスタンプのない CTO であり、かつ LMT-LAD ヘの角度が急峻であったため治療に難渋した。分

岐部であるため、retrograde approach を行っても direct cross は非常にリスクが高く、antegrade の preparation が極めて

重要な状況であった。ワイヤーが遠位部で subintimal space に迷入してしまい、かつ Corsair が CTO 内部へ挿入できない状

況であったが、canPass HARD 1.2 × 6mm が CTO 内へ入り込む事で、antegrade の preparation が可能となった。これに

より CTO 内部で reverse CART を成功させる事ができる可能性が極めて高くなり、自信を持って retrograde approach へ切

り替える事ができた。

canPass は、先端チップを柔軟にすることで血管追従性に優れ、且つ、高度狭窄病変内に潜り込むこんでいく特徴をもったバ

ルーンである。しかしながら、高度石灰化を伴う病変においては時として先端チップの柔らかさ故に先端チップのエントリー

部分が僅かではあるが変形をきたし、病変通過が困難となることがあった。

今回使用した canPass HARD は、canPass よりも先端チップ長を短くし、若干ではあるが硬めの材質を採用することで石灰

化病変通過時の耐久性を向上させている。

これにより本症例のような屈曲と石灰化を伴う CTO 病変内部へも優れた通過性を有していると考える。

canPass と canPass HARD のそれぞれの特性を理解し、活かすことで、様々な CTO 病変形態に対応できることが期待される。

術者紹介 足利赤十字病院 循環器内科 副部長 兼 部長代行・心臓カテーテル室長

沼澤 洋平  先生

2003 年 3 月 慶應義塾大学医学部卒業2003 年 4 月 慶應義塾大学病院 内科研修医2005 年 5 月 北里研究所病院 内科2006 年 5 月 佐野厚生総合病院 内科2007 年 6 月 慶應義塾大学病院 循環器内科2011 年 4 月 足利赤十字病院 循環器内科2014 年 4 月 足利赤十字病院 循環器内科 副部長 兼 部長代行2015 年 4 月 足利赤十字病院 循環器内科 副部長 兼 部長代行・心臓カテーテル室長

〈資格〉日本内科学会認定内科医  日本心血管インターベンション治療学会認定医  日本循環器学会認定循環器専門医  日本脈管学会認定脈管専門医  日本プライマリケア連合学会プライマリケア認定医  日本プライマリケア連合学会プライマリケア指導医

〈所属学会〉日本内科学会、日本循環器学会、日本心血管インターベンション学会、日本冠疾患学会、日本脈管学会、日本動脈硬化学会、日本不整脈学会、日本心臓病学会、日本心臓リハビリテーション学会、日本プライマリケア連合学会

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