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1 物理学実験 III X 線回析と可視吸収」 守友 B607 4337 [email protected] 上岡隼人 B205 4220 [email protected] 2009/6/2 改訂 本テーマの目標は、もっとも汎用的な構造解析法である X 線粉末構造解析の知識と技術 を習得 することと、分光を通じて d 電子系の電子状態の理解を深めること。X 線回折実験は 1F204 実験 室で行い、それ以外は自 B203 セミナー室で行う。関数電卓を持参すること。 I X 線構造解析概論(2日) 1.X 線の発生 2.格子と基本構造 3.原子および結晶からの回折 4.粉末試料からの回折強度 II 粉末構造解析の実際(1日) 1.Si の回折データーの解析 2.リートベルト解析と解析結果の評価 III 粉末回折データーの測定と解析(実験1日、解析1日) 1.KBr 等の粉末回折データーの測定 2.Rietan-2000 による回折データーの解析 IV d 電子系の可視吸収(実験2日、解析1日) 1.光学遷移と振動子強度 2.金属イオンの可視吸収 3.錯体結晶の可視吸収 X 線構造解析.について ・ 「X 線構造解析」 早稲田嘉夫、松原英一郎(内田老鶴圃) ・ 「X 線回折要論」 カリティ (アグネ承風社) ・ 「X 線結晶構造解析の手引き」 桜井敏夫 (裳華房) ・ 「物質の対象性と群論」 今野豊彦 共立出版 粉末構造解析の実際について ・ 「粉末構造解析の実際」 中井 泉、泉富士夫 (朝倉書店) d 電子系の可視吸収について ・ 「配位子場理論とその応用」 上村、菅野、田辺 (裳華房:物理学選書4) ・ 「金属錯体の現代物性化学」 山下正廣、小島憲道 (錯体化学会選書3) テキストや software download に関しては、 http://www.sakura.cc.tsukuba.ac.jp/~moritomo/

物理学実験 III X線回析と可視吸収」1 物理学実験 III「X線回析と可視吸収」 守友 浩 自B607 4337 [email protected] 上岡隼人 自B205 4220

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    物理学実験 III「X 線回析と可視吸収」 守友 浩 自B607 4337 [email protected] 上岡隼人 自B205 4220 [email protected]

    2009/6/2改訂 本テーマの目標は、もっとも汎用的な構造解析法であるX線粉末構造解析の知識と技術を習得

    することと、分光を通じて d 電子系の電子状態の理解を深めること。X 線回折実験は 1F204 実験室で行い、それ以外は自B203セミナー室で行う。関数電卓を持参すること。

    I X線構造解析概論(2日) 1.X線の発生 2.格子と基本構造 3.原子および結晶からの回折 4.粉末試料からの回折強度

    II 粉末構造解析の実際(1日) 1.Siの回折データーの解析

    2.リートベルト解析と解析結果の評価 III 粉末回折データーの測定と解析(実験1日、解析1日)

    1.KBr等の粉末回折データーの測定 2.Rietan-2000による回折データーの解析

    IV d電子系の可視吸収(実験2日、解析1日) 1.光学遷移と振動子強度 2.金属イオンの可視吸収 3.錯体結晶の可視吸収

    X線構造解析.について

    ・ 「X線構造解析」 早稲田嘉夫、松原英一郎(内田老鶴圃) ・ 「X線回折要論」 カリティ (アグネ承風社) ・ 「X線結晶構造解析の手引き」 桜井敏夫 (裳華房) ・ 「物質の対象性と群論」 今野豊彦 共立出版

    粉末構造解析の実際について ・ 「粉末構造解析の実際」 中井 泉、泉富士夫 (朝倉書店)

    d電子系の可視吸収について ・ 「配位子場理論とその応用」 上村、菅野、田辺 (裳華房:物理学選書4) ・ 「金属錯体の現代物性化学」 山下正廣、小島憲道 (錯体化学会選書3)

    テキストや software のdownloadに関しては、 http://www.sakura.cc.tsukuba.ac.jp/~moritomo/

  • 2

    I. X 線構造解析概論

    1. X 線の発生

    X線とは、波長が0.5-2.0Aの電磁波である。電磁波なので二つの偏光がある。また、光と同様に、“波動性“と”粒子性“を兼ね備える。物質とのエネルギーのやり取りのない回折現象では、”波動性“が前

    面に顔を出す。 連続X線 充分大きな運動エネルギーを持った荷電粒子が急

    速に加速されると X 線が発生する。X線管球では、数10keVの高い電圧が陰極(フィラメント)と金属陽極(ターゲット)の間にかけ、電子を陰極から引

    き出しターゲットに高速で衝突させ、X線を発生し

    ている。このようにして発生するX線は、いろいろ波長を持って

    いるので連続X線、または、白色X線とよぶ。このX線の短波長

    minλ は、

    minmax λ

    ν hcheV == (1.1)

    である。V は加速電圧である。実用上は、

    ][24.1][min KeVV

    nm =λ (1.2)

    が便利である。他方、X線の強度 I は、 miZVI ∝ (1.3)

    であり、i は電流、Z はターゲットの原子番号、m は2程度の定数である。したがって、強い白色X線を発生されるためには、WやAuなどの重金属を使用する。

    特性X線 X線管球の加速電圧がある値を超えると、連続X線スペク

    トルに、ターゲット元素固有の鋭いピークが現れる。これら

    元素固有のX線を特性X線とよぶ。 特性 X 線はターゲットを構成する原子の構造に関係する。

    電子には、n,l,m で指定される量子準位があるが、これらは伝統的にK殻(主量子数n=1)、L殻(n=2),M殻(n=3)とよばれている。例えば、加速電子によりK殻の電子が跳ね飛ばされ、K殻に空孔が出来たとする。すると、外殻(例えばL殻)の電子が K 殻に遷移し、そのエネルギー差に相当する X 線

    が外に放出される。特性X線の強度 I は、

  • 3

    mKVViI )( −∝ (1.4)

    であり、i は電流、 KV は特性 X 線の励起電圧、m は1.5程度の定数である。実験で使う X 線は、この特性X線である。

    元素 Kα (平均値) Kα1 (強い) Kα2 (弱い)Cr 2.29100A 2.28970A 2.293606AFe 1.937355A 1.936042A 1.939980ACo 1. 790260A 1.788965A 1.792850ACu 1.541838A 1.540562A 1.544390AMo 0.710730A 0.709300A 0.713590A 放射光X線 放射光とは、高エネルギー電子が磁場等によって偏光を受けるときに発生する光である。電子のエネ

    ルギーが充分大きければ、その光は真空紫外からX線波長領域に及ぶ。こうして得られるX線を特に放射光X線とよぶ。通常は、閉じた円軌道上(当然、真空)で、電子を繰り返し加速/蓄積する。

    第一世代(1950-1960)素粒子実験用につくられた電子シンクロトロンから副産物として発生する光

    で物性実験を行う。 第二世代 物性実験専用マシンの建設。一号機は、1974 年に稼動した物性研の 0.4GeV のリング

    (SOR-RING:現在は、SPring-8に展示)である。 第三世代 (1997-)放射光の質を限りなく追求した専用リング。最高性能を誇るマシンは、1997年に稼動した兵庫県のSPring-8(Super Photon RING 8GeV)である。 放射光の特徴 1. 指向性がよい(円軌道の接線方向に放射される)、したがって、高輝度である 2. 連続スペクトルである 3. 強度が安定している 4. 偏光特性(軌道面内に偏光) 5. パルス光が得られる

    X線の検出

    汎用のX線構造回折装置では、シンチレーション計測管が利用されている。X線がタリウムで活性化

    されたNaIに入射されると、微弱な蛍光を発する。この蛍光を光電子増倍管で電気信号に変え、計測する。あまり強いX線を計測管に入射すると「数え落とし」が発生する。現在では、X線CCDカメラや光輝尽作用を利用したイメージングプレートなどの二次元検出器が使われ、より迅速かつ高精度な測定

    がなされている。

  • 4

    2. 格子と基本構造

    結晶とは、原子(イオン)が規則正しく並んだものである。こ

    の並び方は、「格子」と「基本構造」の組み合わせで記述される。 まず、格子点とは周囲の環境が同一である点と定義される。右の

    原子は、規則正しく並んでいる。が、よく見ると、AとBとでは周囲の環境が異なっている。一方、AとCは並進操作で、周囲の

    環境も含めて完全に重なる。し

    たがって、これらの点(点上に

    原子がいる必要はない)は格子

    点上にある。これらの格子点を

    平均で一個含むように結んだユ

    ニットが単位胞である。一つの

    格子点に付随する構造(上の例では、AとB)を基本構造とよぶ。 格子を不変にする操作、すなわち、対称操作には以下の4つがある。

    ・ 並進操作は、 cnbmalr rrrr++= だけ移動する操作である。ここで、 nml ,, は整数で、 cba r

    rr ,,

    は単位胞を表すベクトルである。 ・ 回転操作とは、ある軸の周りに

    )6,4,3,2,1(2 =nnπ

    だけ回転す

    る操作である。 ・ 反転操作とは、ある点に対して

    反転する操作。 ・ 鏡映操作とは、ある面に対して

    鏡映する操作。 ブラベー格子と晶系

    さて、大切なことは、格子は有限であるこ

    とである。(数学的に証明されている。)3次

    元空間では、14個しかない。これをブラベ

    ー格子という。14のブラベー格子は、回転

    操作のある./なし、7つの晶系に分類される。 ・ 三斜晶系 なし ・ 単斜晶系 一つの二回回転軸 ・ 斜方晶系 互いに直交した三つの二回回転軸

  • 5

    ・ 正方晶系 一つの四回回転軸 ・ 三方晶系 一つの三回回転軸 ・ 六方晶系 一つの六回回転軸 ・ 立方晶系 四つの三回回転軸

    基本構造と点群 回転、鏡映、反転などの操作は、ある一点の周りに作用するが、その一点だけはこれらの操作で不変

    である。このような対称性を点対称性とよび、各操作を点対称操作とよぶ。これらの点対称操作の組み

    合わせにより、いくつもの閉じた対称操作の集合(「群」)ができる。これらのグループを点群とよぶ。

    点群は32個しかない。非常に大雑把に言うと、これらの点群は基本構造の可能性に対応する。

    空間群 結晶構造は、格子(ブラベー格子)と基本構造の組み合わせで記述される。格子と点群の組み合わせ

    で、対称操作の新たな閉じた集合(空間群)を作ることが出来る。格子と点群との単純な組み合わせか

    らできる空間群をシンモルフィックな空間群とよび、73種類ある。 実際には、空間群では並進操作が許されるので、回転/鏡映に部分的な並進が加わったらせん/映進とい

    った新しい対称操作が加わる。その結果、全部で空間群は230種類の空間群が存在することになる。

    空間群の実際 結晶構造、すなわち、原子配列を規定する情報は、 1. 空間群 2. 格子定数

  • 6

    3. 基本構造、つまり、原子位置 である。これらを指定すれば、結晶構造は一義的に決まる。 一例として、正方晶に属する3つの空間群を調べよう。 #75 P4 単純格子で4回回転軸がある #76 P41 単純格子で4回螺旋軸がある(4回回転の後に回転軸に平行に1/4並進) #81 P4 単純格子で4回回反軸がある(4回回転の後に反転)

    さて、Ball&Stick というソフトで三次元結晶構造を書いてみよう。File New をクリックして、以下のように入力する。 1. Group# 75 2. 格子定数は、例えば、a=5A c=10A 3. 原子座標は、例えば、C(0.1,0.2,0.3)

    OK をクリックすると表示するサイズの入力画面になる。例えば、1*1*1 のセルを表示する場合は、以下のように入力する。

  • 7

    4回回転を満たすために、単位砲中に勝手に4つの原子が発生する。

    (問題)4回対称性を確かめよ。他に対象操作は存在するか。 (問題)#76の螺旋操作を確かめよ (問題)#81の回反操作を確かめよ

    格子面と格子面間隔

  • 8

    全ての格子点は互いに平行で等間隔の平面群上に乗せることがで

    きる。これを格子面とよぶ。格子面群の中で、原点を格子面に最も近

    い格子面が結晶軸を lckbha /,/,/ で横切るとき、この格子面群を指数 )(hkl で表し、これをミラー指数とよぶ。後述するように、X 線の回折は格子面からの回折と見なせるので、回折線は対応するミラー指

    数から()をとった回折指数hkl で表す。

    格子面間隔 hkld は、幾何学的に計算できる。立方晶(a=b=c)、正方

    晶 (a=b) 、 斜 方 晶 の 場 合 に つ い て 計 算 す る 。 三 角 形 ABC は 、 辺 の 長 さ が

    222222 ,, OAOCCAOCOBBCOBOAAB +=+=+= である。したがって、ヘロンの公式

    [ ))()()((81 cbacbacbacbaS ++−+−−+++= ] より、三角形 ABC の面積 S は、

    )(21 222222 OAOCOCOBOBOAS ++= となる。他方、三角錐 OABC の体積 V は、

    OAOBOCV61

    = で あ る の で 、 面 間 隔 hkld は 、 22213

    OCOBOASV

    ++= な の で 、

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    1

    cl

    bk

    ah

    dhkl++

    = (2.1)

    となる。 結晶構造の実際

    ここでは、Si のダイヤモンド構造を例に結晶構造の記述方法を説明する。Si は立方晶系に属し、空間群は227番目である。(番号が高いほど対称性が高い。)格子定数は、5.4Aくらいである。原子位置は、 Siの位置(8aサイト):

    )0,0,0( , )21,

    21,0( , )

    21,0,

    21( , )0,

    21,

    21( , )

    43,

    41,

    43( , )

    41,

    43,

    43( , )

    41,

    41,

    41( , )

    43,

    43,

    41( ,

    である。つまり、単位胞内に Si 原子が8つ含まれている。これが基本構造である。複雑であると落胆しないで欲しい。勘のよい人は気づいていると思うが、Siの原子位置は、空間群227の対称操作で互いに入れ替わる。したがって、一つの原子位置を指定すれば、残りは自動的に決まるのである。そして、

    通常の構造計算プログラムでは、一つの原子位置を指定するだけである。 さて、Ball&Stick というソフトで三次元結晶構造を書いてみよう。File New をクリックして、以下のように入力する。

  • 9

    1. Group# 227 2. 格子定数aは5.4A 3. 原子座標は、好きなものを一つ(siteは原子座標の名前である。例えば、8aと入力する。) 今度は、boundary を 3 くらいにして結晶をまわしてみよう。格子が原子面から出来ていることが実感できると思う。 (問題)(111)格子面を探せ。 (問題)4つの三回回転軸は見つかるか。 同様に、他の結晶も書ける。 例1:金、(銀、白金も同じ) 立方晶、空間群#225、a=4.1A、原子位置 )0,0,0( 例2:岩塩構造 NaCl(KBrも同じ)

    立方晶、空間群#225、a=5.6A、原子位置Na )0,0,0( 、Cl )21,

    21,

    21(

    例3:閃亜鉛鉱構造 ZnSe

    立方晶、空間群#216、a=5.6A、原子位置Zn )0,0,0( 、S )41,

    41,

    41(

    例4:ウルツ鉱構造 ZnS

    六方晶、空間群#186、a=3.8A、c=6.3A 原子位置Zn )0,32,

    31( 、S )37.0,

    32,

    31( ≈

    例5:塩化セシウム鉱構造 CsCl

    立方晶、空間群#221、a=4.1A、原子位置Cs )0,0,0( 、Cl )21,

    21,

    21(

    例6:グラファイト C

    六方晶、空間群#194、a=2.46A、c=6.71A、原子位置C )41,0,0( とC )

    41,

    32,

    31(

    例7:フラーレン C60 立方晶、空間群#205、a=14.04A、 原子位置 C )10.0,03.0,23.0( − 、 )01.0,05.0,24.0( − 、 )13.0,06.0,21.0( 、 )04.0,14.0,21.0( −− 、

    )16.0,10.0,17.0( − 、 )04.0,11.0,22.0( − 、 )06.0,02.0,24.0( − 、 )06.0,13.0,21.0( 、)02.0,20.0,15.0( − 、 )12.0,18.0,13.0( −

  • 10

    3.原子および結晶からの回折

    電子による散乱

    X 線は電子より散乱される。この意味は、「入射X 線により電子が加速/減速し、それにより同じ波長の X 線が発生する」、ということである。X 線は全ての方向に散乱されるが、その散乱強度は散乱

    角に依存する。電子による X 線の散乱強度 I はThomsonにより研究された。

    α22 sinrKII o= (3.1)

    r は電子からの距離である。α は電子の加速方向と散乱方向がなす角である。 今、散乱角 θ2 をxz面内にとる。X線の偏光が

    散乱角に垂直な場合は、

    2rKII operp = (3.2)

    であり、X線の偏光が散乱面内にあるときは、

    θ2cos22rKII opara = (3.3)

    である。X線が偏光していないときは、

    22cos1 2

    2

    θ+=

    rKII o (3.4)

    となる。また、2

    2cos1 2 θ+を偏光因子とよぶ。なお、原子核の質量は電子に比べて大きいで、原子

    核によるX線の散乱は無視できる。この意味で、X線は「電子を見る」のである。 原子による散乱

    原子よるX線の散乱波は、電子による散乱された

    X 線の散乱波の位相を考慮した重ね合わせである。

    今、X線(波数 iqr:

    λ1

    =iqr

    )が位置rr離れた二点

    で fqr

    方向に散乱されたとする。散乱された X 線の

    位相差は、

    )(2 if qqrrrr

    −⋅= πδ (3.5)

  • 11

    と表せる。したがって、散乱角が大きいほど、また、X 線の波長が短い(波数が大きい)ほど、散乱強度は小さくなる。

    電子一個による散乱強度を基準にした原子によるX線の散乱強度(原子散乱因子 f )は、

    ∫ ⋅= dvrqirqf )2exp()()(rrrr πρ (3.6)

    となる。つまり、 f は電子分布を散乱ベクトル if qqqrr

    −=

    でフーリエ変換したものである。さらに、電子分布が球対称

    の場合は、

    ∫∞

    =0

    24sin)()( drrsr

    srrqf πρ (3.7)

    となる。原子散乱因子は、λ

    θππ sin42 == qs にのみ依存する。

    ブラックの回折条件

    結晶はマクロな数の格子点から

    構成されている。これの格子点から

    の散乱波が強め合わなければ、散乱

    波の和はゼロになってしまう。この

    散乱波が強めあう条件がブラックの

    回折条件である。格子面間隔をd とすれば、ブラックの回折条件は

    λθ nd =sin'2 (3.8) となる。回折角θ は、散乱角 θ2 の

    半分であることに注意して欲しい。面間隔d の格子面からのn

    次の回折は、面間隔nd '

    の仮想的な格子面からの回折と考える。

    つまり、(100)面のn 次の回折線は、(n00)面からの一次回折

    線と考える。ndd '= を書き換えると、

    λθ =sin2d (3.9) となる。ブラックの回折条件、つまり、散乱角から格子点の

    情報が得られる。 単位胞による散乱

  • 12

    単位胞内の原子による散乱波の和は、 )(hkl 面における回折では、

    ∑ ++=j

    jjjjhkl lzkyhxifF )(2exp π (3.10)

    となる。 hklF を(単位胞の)構造因子とよぶ。 jjj zyx ,, は、単位胞の各辺( zyx ucubuavvv ,, )を基底

    ベクトルとした原子の座標である。 zyx uuuvvv ,, は単位ベクトルである。構造因子の自乗 2hklF 、つまり、

    回折強度から、基本構造の情報が得られる。

    (問題)斜方晶に関して、(3.10)式を確かめよ。[ )(hkl 面における散乱ベクトルの向きは面に垂直、大きさは面間隔

    1−d である。つまり、

    zyx uclu

    bku

    ahq vvvr ++= で あ る 。 他 方 、 各 原 子 座 標 は

    )()()( zjyjxj uczubyuaxrvvvv ++= である。]

  • 13

    4. 粉末試料からの回折

    粉末回折と単結晶回折

    Bgagg の回折条件は非常に厳しいものである。入射X 線の波数ベクトル iqrと散乱X 線(つまり、検

    出器の位置)の波数ベクトル fqr

    の差ベクトルに垂

    直に目的とする原子面が並んでいなければ回折が起

    こらないのである。回折強度(または、構造因子)

    を実験的に決める方法には、大きく分けて、単結晶

    法と粉末法の二つがある。単結晶法は、Bragg条件を満たすように結晶の向きと検出器の位置を制御し

    ながら、回折強度を測定する方法である。他方、粉

    末法は、ランダムな方位向いた微結晶の集団からの回折強度を測定し、統計的に回折強度を測定する方

    法である。粉末法では、“ランダムであること“が構造解析

    の必要条件である。そのためには、試料は、 1. 充分細かく 2. 無配向 であることが必要である。

    粉末X線回折装置 粉末回折装置には、試料の回転軸(ω軸)と検出器の回

    転軸( θ2 軸)がある。試料は、平板状の試料ホルダーにセットする。通常は、ω軸がθ 回転すると、 θ2 軸は θ2 回転するように設計されている。この場合、試料面の法線が散乱ベクトルに垂直である。このような装置

    から得られる回折線の強度より、原子配列の構造を決めることができる。

    回折線の強度を決める要因

    実際の回折強度には、構造因子以外の下記の因子が寄与する。 1. 偏光因子P

    22cos1 2 θ+

    =P (4.2)

    2. 多重度因子m 面間隔が同じで同じ構造因子を示すが、方位が異なる格子面の数を表す。例えば、立方晶では、

    (100),(010),(001),(-100),(0-10),(00-1)の面間隔が等しいので、 6=m である。

  • 14

    3. ローレンツ因子L 実験装置の幾何学的な要因による因子で、平板試料の場合は、

    θθ cossin21

    2=L (4.3)

    となる。偏光因子と組み合わせて、ローレンツ偏光因子として扱いことも多い。 4. 吸収因子 X 線が試料に吸収されるために因子である。X 線が試料ホルダーの底まで到達しなければ、散乱角に寄らず一定になる。 5. 温度因子(デバイワーラー因子) 原子は熱振動により平衡位置から変位している。この変位により、散乱振幅は減衰する。平衡位置か

    らのずれが正規分布

    )2

    exp(21)( 2

    2

    σσπrrp −= (4.4)

    すると仮定すると、平均的電子密度 ∫ −= dttrtpr )()()( ρρ となる。平均的な原子形状因子は

    ])sin(exp[])sin(8exp[ 2222λθ

    λθσπ Bfff o −=−= (4.5)

    と得る。B を等方性原子変位パラメターとよぶ。 回折線強度の実際

    Siのhkl 回折線の強度を実際に計算しよう。Siの原子散乱因子 Sif は、

    ))sin(7.81exp(54.1))sin(68.0exp(98.1

    ))sin(3.32exp(05.3))sin(44.2exp(29.614.1

    22

    22

    λθ

    λθ

    λθ

    λθ

    −+−+

    −+−+=Sif (4.6)

    と近似できる。λの単位はA(オングストローム)である。 例えば、111回折線に関しては、構造因子 111F は

    )1(4

    )(

    )(2exp

    23

    )41

    43

    43(2)

    41

    41

    41(2)

    43

    43

    41(2)

    43

    41

    43(2)0

    21

    21(2)

    210

    21(2)

    21

    210(2)000(2

    8

    1111

    i

    Si

    iiiiiiiiSi

    jjjjj

    ef

    eeeeeeeef

    lzkyhxifF

    π

    ππππππππ

    π

    +=

    +++++++=

    ++=

    ++++++++++++++++

    =∑

    0.2 0.4 0.6 0.8 1

    5

    10

    15

    0sin(θ)/λ (Å-1)

    f Sic

    al

  • 15

    となる。 j は8aサイトの8つのSi原子位置:

    )0,0,0( , )21,

    21,0( , )

    21,0,

    21( , )0,

    21,

    21( , )

    43,

    41,

    43( , )

    41,

    43,

    43( , )

    41,

    41,

    41( , )

    43,

    43,

    41( ,

    について和をとる。Siの格子定数は約5.4Aなので、面間隔 111d

    AA

    AAA

    d 12.33

    14.5

    4.51

    4.51

    4.51

    1222111

    =×=

    ⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛+⎟

    ⎠⎞

    ⎜⎝⎛+⎟

    ⎠⎞

    ⎜⎝⎛

    =

    である。ブラックの回折条件 λθ =sin2 111d より、回折角θ(散乱角 θ2 )が計算できる。多重度因子

    hklm を考慮すれば、散乱強度 hklcalI は hklhkl mF

    2となる。 [より正確には、偏光因子、ローレンツ因子、

    温度因子、吸収因子を考慮する必要がある。] [課題 1] 空欄を計算し、以下の表を完成せよ。Si の格子定数は、5.4Åである。X 線源は Cukα線( A54.1=λ )である。[Cukα1線とCukα2線を区別しない。]

    hkl 構造因子

    hklF

    面間隔

    hkld Sif

    散乱角

    calθ2

    多重度因子

    hklm hklhklhkl

    cal mFI 2=

    hklcalI

    の規格化

    100 12.35 16.3度 6 110 11.26 23.2度 12 111 )1(4 if Si − 3.12A 10.56 28.1度 8 28500 1 220 Sif8 1.91A 8.65 47.5度 12 57500 2.02 300 8.44 50.6度 6 310 8.25 53.6度 24 311 8.08 56.4度 24 400 7.40 69.5度 6 330 7.17 74.5度 12 331 7.06 76.9度 24 422 6.57 88.6度 24 500 6.48 90.9度 6 511 6.30 95.6度 24 440 5.89 107.5度 12 531 5.66 115.0度 48 620 5.31 128.9度 24 533 5.24 138.4度 24

  • 16

    II. 粉末構造解析の実際

    1. Si の回折データーの解析

    実験データーからの情報の取得 構造解析で重要な情報は、強い Kα1線による散乱角 12 obsθ 、弱いKα2線による 22 obsθ 、回折強度の和 hklobsI である。ここでは、Sma4 というシェアソフトを使って、粉末回折パターンを解析する。Si の回折パターンのデーターは、Si Folder の中のSi.int である。一列目

    が散乱角 iθ2 、二列目が回折強度 iy である。実験データーを図示すると、数本の鋭いピークが観測され

    る。これが回折線である。ローレンツ関数

    2222 )()()(

    bdxf

    baxcxf

    +−+

    +−=

    によるフィッティング(但し、 da < )により、散乱角 )(2 1 aobs =θ と )(2 2 dobs =θ と回折強度

    )( πb

    fcI hklobs+

    = を 求 め る 。 [ ロ ー レ ン ツ 関 数 22)( baxc+−

    の 囲 む 面 積 は 、

    πbcdx

    baxc

    =+−∫

    ∞− 22)(である。]

    [課題2] 空欄を計算し、以下の表を完成せよ。実験と計算の一致はよいか。

    指数付け hkl

    観測された散乱

    角 12 obsθ 観測された散

    乱角 22 obsθ 線幅 2b

    回折強度

    hklobsI

    hklobsI

    の規格化 hkl

    calI の規格化

    111 28.392 28.458 0.080 1492 1 1 220 47.257 47.381 940 0.63 2.02 311 400 331 422 511 440 531 620 533

    Si.intの測定条件:X線出力 40kV, 30mA

    ターゲットCu θ2 レンジ 10deg – 150 deg ステップ 0.02deg, 積算時間 1s

  • 17

    Sma4の使い方

    汎用グラフ作成ソフト Gnuplotの使い方 http://t16web.lanl.gov/Kawano/gnuplot/

    1. ファイル読み込み,保存、印刷のためのコマンド

    [Open] [Save](拡張子も必要)

  • 18

    [PrtSc] si-lorentz.pltは、Lorentz関数による fittingの雛形である。 si.pltは、Rietveld解析結果表示の雛形である。

    2. (X,Y)の組をプロット

    plot “si.int” using 1:2 with line plot “” using 1:2 with points “si.int”に書かれた実験データの plot は,using X:Y の様にコロンの左がX 座標のカラム,右が Y 座標のカラムになる。入力行が長いときは,¥(¥記号,もしくはバックスラッシュ)を行末にいれると,次の行も継続行とみなる。一度与えたファイル名を gnuplotは覚えおり、"" と略すことができる。データーと関数を同時に表示するには、 plot f(x) title “Lorentzan”, “si.int” using 1:2 title “experiment”

    3. XYの範囲を変更する set xrange [5:10]; replotで描画

    4. グラフのタイトルと軸名を入れる set xlabel “X-Rabel”; set title”title”;replotで描画

    5. 目盛を入れる set xtics 0.2;set mxtics 10;replot set xtics ((初期値), 増分)は大目盛、mxticsは小目盛の数

    6. Postscriptで出力する set term postscript enhanced color; set output “si-lorentz.ps”; replot

    7. 最小自乗法でパラメータを求める ローレンツ関数の定義 f(x)=c/((x-a)*(x-a)+b*b)+f/((x-d)*(x-d)+b*b);a=47.2;b=0.03;c=7;d=47.4;f=3 最小二乗 fit f(x) “si.int” using 1:2 via a,b,c,d,f

    格子定数の最適化 より精確には、格子定数は観測された散乱角

    obsθ2 を最もよく再現するように、決

    定されるべきである。格子定数をa とすると、例えば、222 lkh

    adhkl++

    = と表せる。ブラックの回

    折条件 λθ =sin2d を書き換えて、

    222sin2 lkha obs ++= λθ となる。右辺は実験から決定される。 obsθsin2 を横軸、

  • 19

    222 lkh ++λ を縦軸にとれば、その傾きが格子定数となる。

    [課題3] obsθsin2 を横軸、 222 lkh ++λ を縦軸にとり、格子定数を求めよ。

    ヒント: CuKα1 線( = 1.540562A)とCuKα2線( = 1.544390A)それぞれについて、(111)と(220)反射をプロットした。

    0 0.5 1 1.5 20

    5

    10

    2sinθobs

    λ/η

    (Å)

    y=Σan xna0=0.00000000e+00a1=5.43780024e+001.44751628e-03|r|=9.99998539e-01

    0 0.5 1 1.5 20

    5

    10

    2sinθobs

    λ/η

    (Å)

    y=Σan xna0=0.00000000e+00a1=5.43780024e+001.44751628e-03|r|=9.99998539e-01

    0.488 0.49 0.4920.4942.66

    2.67

    2.68

    2sinθobs

    λ/η

    (Å)

    CuKα1

    CuKα2

    (111)

    (220)

  • 20

    2.リートベルト解析と解析結果の評価

    リートベルト解析 リートベルト法を一言で説明するなら、

    「粉末X線・中性子回折パターン全体を対象として構造パラメターと格子定数を、

    直接、精密化する」方法ということが出

    来る。1969 年 Rietveld が考案した。リートベルト解析では、近似構造モデルに

    基づいて計算された回折パターンを計算

    し、そのパターンが実測パターンと最も

    一致するように構造パラメターを最適化

    する。すなわち、i 番目の測定点(散乱角 iθ2 )に対する計算強度を )(),,,;2( 321 xfxxxf iir

    ≡⋅⋅⋅θ 、統

    計的重み )1(i

    i yw = としたとき、残差2乗和

    ∑ −=i

    iii xfywxS2)]([)( rr (2.1)

    を最小にする一組の可変パラメター ixrを非線形最小2乗方で精密化する。散乱角 iθ2 における計算回

    折強度は、ブラック反射の強度とバックグラウンド関数の和に等しい。

    ∑ +−Φ=hkl

    ibghklihklhklhklii yLFmsAxf )2()22()()()(2 θθθθθr (2.2)

    s は尺度因子、 )( iA θ は吸収因子、 hklm は多重度因子、 hklF は構造因子、 )( hklL θ はローレンツ偏光因

    子、 )22( hkli θθ −Φ はブラック反射のプロファイル関数、 hklθ はブラック回折角、 )2( ibgy θ はバック

    グラウンド関数である。 可変パラメター リートベルト解析プログラムRietan-2000で使われる主だった構造パラメターを示す。格子構造の決めるということは、5-8の精密化を行うことに他ならない。これ以外にも可変パラメターはあるが、

    むやみにパラメターを増やすことはやめるべきである。

    1.角度や回転中心のずれ補正 )0(,, =ss TDZ

  • 21

    2. バックグラウンドパラメター 11210 ,,,, bbbb ⋅⋅⋅

    3. 尺度因子s

    4. プロファイルパラメター )0(,),0(,),0(,,, === ee YYXXPWVU

    5. 格子定数 γβα ,,,,, cba

    6. 原子座標 iii zyx ,,

    7. 等方性原子変位パラメター iB

    8. 占有率 ig

    解析結果の評価 計算結果と実験との一致の度合いを示す尺度(R 因子)はい

    くつか考えられる。最も重要な尺度は、分子が残差2乗和に等しいR 因子

    21

    2

    2)}({

    ⎥⎥⎦

    ⎢⎢⎣

    ⎡ −=

    ∑∑

    i ii

    i iiiwp yw

    xfywR

    v

    (2.2)

    である。ただし、 wpR の分母は観測強度の2乗和に等しいので、

    回折強度やバックグラウンドの高さがこの値を左右する。そこ

    で、統計的に予測される最小の wpR であるR 因子は

    21

    2 ⎥⎥⎦

    ⎢⎢⎣

    ⎡ −=∑i ii

    e ywPNR

    と表される。N はデーター点数、P は可変パラメターの数である。 wpR と eR との比S

    21

    2)}({

    ⎥⎥⎦

    ⎢⎢⎣

    −== ∑

    PNxfyw

    RR

    S i iiie

    wpv

    (2.3)

    が実質的な尺度となる。S が1.3以下なら満足すべき解析結果であるといえる。[満足できる解析結果に得る必要条件は、質のよい実験データーを取ることである。] 他方、回折強度の積分値を対象とするR 因子

  • 22

    21

    ⎥⎥

    ⎢⎢

    ⎡ −=

    ∑∑

    hkliobs

    hkl

    hkl hklobs

    hklI I

    IIR

    も広く用いられる。ただし、“観測回折強度”は、孤立反射を除けば、構造モデルに基づいて評価される

    点に注意する必要がある。 次回から実験が始まる。まずは、後半のスケジュールを確認しよう。

    X 線回折(1F204) 可視吸収(B203) 解析(B203)

    四日目 I グループ II グループ

    金属錯体の吸収

    五日目 II グループ I グループ

    金属錯体の吸収

    六日目

    Rietan2000 の使用法

    構造解析

    七日目 I グループ/II グループ

    錯体固体の吸収

    八日目 吸収スペクトルの解析

    九日目 レポート準備、他

  • 23

    III.粉末回折データーの測定と解析

    1.KBr 等の粉末回折データーの測定

    試料として、NaCl、KCl、KBr、RbCl、RbBrを用意した。

    化合物 結晶構造 格子定数(A) 化合物 結晶構造 格子定数(A) NaCl 岩塩構造 5.63A RbCl 岩塩構造 6.59A NaBr 岩塩構造 5.98A RbBr 岩塩構造 6.90A KCl 岩塩構造 6.29A CsCl 塩化セシウム構造 4.11A KBr 岩塩構造 6.59A CsBr 塩化セシウム構造 4.30A

    [課題 4] 自分たちが測定する試料に関して、以下の表を埋めよ。

    指数付け hkl

    計算された面間隔 d

    計算された散乱角 calθ2

    111 200 220 300 311 222 400 331 420 422

    X線回折装置の使い方 操作は教官かTAが行う。X線装置を操作するには、資格が必要である。

    1. PCのスイッチを入れる 2. 「装置制御=>通信ソフト」と「右測定=>標準測定」を立ち上げる 3. エージング(10分程度)を行う 4. X線回折実験を開始する。 5. X線回折実験を終了する。 6. X線管球の冷却のため、X線を消してから、10分間送水を行う。 7. PCのスイッチを切る 粉末回折用試料作成

  • 24

    1. 試料を取り出し、メノウ乳鉢でシャリシャリ音がしなくなるまで粉砕する。 2. 試料ホルダーに試料を載せ、平らになるように別の試料ホルダーで押す。力を入れすぎて、試

    料ホルダーを割らないように。 3. 試料をX線回折装置にセットする 4. X線回折パターンの測定 5. 測定条件を確認する。スリット(DS、SS、RS)をセットする。 ・X線出力 40kV, 40mA ・ターゲットCu ・ θ2 レンジ 20 – 70 度 ・ステップ 0.05度 ・積算時間 1.0s ・DS=1度 ・SS=1度 ・RS=0.15mm 6. 測定を開始する。X線が自動で発生する。 7. 測定が終了する。X線が自動で止まる。 8. データーを USB メモリーに格納する。ファイル名は、NaCl.int 等。Rietan に読み込ませる

    には、ASCII変換(角度 強度 [タブ])して、ファイルの先頭に、[GENERAL(改行)データー数]を書き込む必要がある。

    集中カメラ:

  • 25

    試料のある範囲から出てくる回折X線が、すべて検出器の一点に収束するカメラを集中カメラと呼ぶ。このカメラでは、散乱角2θの値に依存性してX線の照射面積は変化するが、X線の照射量は変化しない。集中カメラは、右図のような構造をしている。A はX 線光源、C は検出器である。試料位置 B 点での回折線は、全て、Cに収束する。なお、試料板はACに平行なので、その傾きはθでなければな

    らない。つまり、検出器の

    回転角2θと試料板の回転

    角θを連動する必要がある。 X 線光源の広がりを制限

    するのがダイバージェンス

    スリット(DS)、検出器へ入射する X 線の広がりを制限するのがスキャッタリン

    グスリット(SS)である。本実験では、1度に設定する。レシービングスリット

    (RS)は装置の分解能を決定する。 [課題5] DSが1度であるとする。散乱角 2θが 20 度の場合、X 線が照射される幅はいくらか。10 度の場合はいくらか。ゴニヲ半径は185mmである。

  • 26

    2.Rietan-2000 による回折データーの解析

    Si Folderの中を見ると、 Si.bat (Rietan-2000 起動ファイル) Si.ins (可変パラメターの記述されているファイル) Si.plt (表示パラメターの記述されているファイル) Si.int (データーファイル) Si.itx (計算結果:回折パターン) 等のファイルがある。 これらは、全て text ファイルである。Rietan-2000 では、これらのファイルをワードパット等で編集しながら、解析を進める。なお、編集をする前にコピーをとっておくように。si.bat をクリックするとRietan-2000が起動する。

    計算が終わると結果をGnuPlotでグラフ表示する。

  • 27

    また、パラメターは更新値に上書きされる。GnuPlotでは、縦軸・横軸は、xmin,xmax,ymin,ymaxで定義されている。変数の変換したい場合には、例えば、 xmin=20; xmax=100; replot と入力する。毎回の表示のデフォルトを変更するには、si.pltの xmin = 10 # Minimum for the x-axis xmax = 150 # Maximum for the x-axis ymin = -3000 # Minimum for the y-axis ymax = 12000 # Maximum for the y-axis を変更する。 実際の構造解析は、

    ・ パラメターの初期値を入力 ・ 最適化するパラメターを選択 ・ 計算結果を見て、最適化がうまくいっていることを確認 ・ 最適化するパラメターを選択 ・ 計算結果を見て、最適化がうまくいっていることを確認 ・

    の繰り返しである。Si.ins を編集しながら解析を進める。なお、最適化がうまくゆかない場合には、初期値が変な値に書き換えられてします。こんな場合に一つ前のステップにもどれるよう、Si.ins のコピーをとるのか解析のコツである。 相の名前 PHNAME1 = 'Si': Phase name (CHARACTER*25). 空間群 VNS1 = 'A-227': (Vol.No. of Int.Tables: A or I)-(Space group No)-(Setting No). 以下は、パラメターの入力である。1100 はフラグであり、0 は固定、1 は最適化、2 は条件付最適化である。これらのパラメターを最適化する。□で括った数字が fitting parameterである。

  • 28

    装置補正 SHIFT0 0.0 0.0 0.0 0.0 0000 バックグラウンド関数 BKGD 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 000000000000 尺度因子 SCALE 0.0001 0 プロファイル関数 GAUSS01 0.001 0.001 0.001 0.0 0000 LORENTZ01 0.001 0.0 0.001 0.0 0000 格子定数(a,b,c,α,β,γ:立方晶の場合は、 acab == , の束縛がある) CELLQ 5.4 5.4 5.4 90.0 90.0 90.0 0.0 0000000 原子座標(占有率、x座標、y座標、z座標、等方性原子変位パラメター) Si/Si 1.0 0.0 0.0 0.0 0.5 00000 さらに、詳しく勉強したい方は、「粉末構造解析の実際」 中井 泉、泉富士夫 (朝倉書店)を

    読むか、http://homepage.mac.com/fujioizumi/rietan/angle_dispersive/angle_dispersive.html にアクセスすること。 精密化の手順

    1. バックグラウンド関数の精密化(BKGDのフラグを全て1にして、計算。) 2. 格子定数の精密化(CELLQのフラグを100000して、計算。) 3. 装置補正を精密化(SHIFT0のフラグを1100して、計算) 4. 尺度因子、プロファイル関数の精密化(SCALE のフラグを 1、GAUSS01 のフラグを 1110、

    LORENTZ01のフラグを1010にして計算) 5. 原子座標・等方性原子変位パラメターの精密化(Si/Siのフラグを00001にして計算)

    計算結果やその評価はSi.lstというファイルに書かれる。また、「NPRINT = 1」とすると、全ての指数付けを含んだより詳細な計算結果が得られる。Siの格子定数は、25度で5.4309Aである。 KBr等のRietveld解析 ***.batや***.pltの中身をいじりたくないので、以下の手順で解析を行う。 1. Si Folderをコピーし、Folderの名前をNaCl等に換える。 2. si.intを消去 3. NaCl.intをNaCl Folderにコピーし、ファイル名を si.intに換える。 こうすれば、si.batをクリックすると、NaCl.intであったデーターが読み込まれ解析される。

  • 29

    あとは、si.insの中身を書き換えればよい。 相の名前 PHNAME1 = 'NaCl': Phase name (CHARACTER*25). 空間群 VNS1 = 'A-225': (Vol.No. of Int.Tables: A or I)-(Space group No)-(Setting No). 以下は、パラメターの入力である。1100 はフラグであり、0 は固定、1 は最適化、2 は条件付最適化である。これらのパラメターを最適化する。 装置補正 SHIFT0 0.0 0.0 0.0 0.0 0000 バックグラウンド関数 BKGD 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 000000000000 尺度因子 SCALE 0.0001 0 プロファイル関数 GAUSS01 0.001 0.001 0.001 0.0 0000 LORENTZ01 0.001 0.0 0.001 0.0 0000 格子定数(a,b,c,α,β,γ, B:回折データーから格子定数を見積もって?.?に代入) CELLQ ?.? ?.? ?.? 90.0 90.0 90.0 0.0 0000000 原子座標(占有率、x座標、y座標、z座標、等方性原子変位パラメター) Na/Na+ 1.0 0.0 0.0 0.0 0.5 00000 Cl/Cl- 1.0 0.5 0.5 0.5 0.5 00000 Na/Na+の意味は、サイトの名前/原子またはイオンである。/の後の原子またはイオンに対応する原子散乱因子に基づいて構造因子が計算される。 精密化の手順はSiの場合と同じである。

    1. バックグラウンド関数の精密化(BKGDのフラグを全て1にして、計算。)

    2. 格子定数の精密化(CELLQ のフラグを1000000して、計算。)

    3. 装置補正を精密化(SHIFT0のフラグを1100して、計算)

    4. 尺度因子、プロファイル関数の精密化

    (SCALE のフラグを 1、GAUSS01 のフラグを 1110、LORENTZ01 のフラグを 1010にして計算)

    5. 原子座標・等方性原子変位パラメターの精密

    25 30

    NaClNaBr

    KClRbCl

    RbBr

    2θ (degree)

    Inte

    nsity

    (arb

    . uni

    ts)

  • 30

    化(Na/Na+とCl/Cl-のフラグを00001にして計算) [課題6]Ball&Stickで原子面を示せ。(100)回折線が観測されない理由を述べよ。 [課題7] 格子定数と有効イオン半径との関係を考察せよ。有効イオン半径は、Na+(1.02A)、K+(1.34A)、Rb+(1.52A)、Cl-(1.81A)、Br-(1.96A)、 [課題8] 岩塩構造を有する物質では、(200)回折線と(111)回折線との相対強度が異なる。構造因子に基づいて、定量的に考察せよ。

    X線粉末構造解析を体験して、計算は実験をあまり再現しないという印象をもたれた方がいれば、それは大きな誤解である。一致が悪い原因の大半は実験データーにある。例えば、粒子が荒い、粒

    子が配向している、表面が平らでない、分解能が悪い、統計精度が足らない、、、等々。 下の例は第三世代放射光施設であるSPring-8 のBL02B2 ビームラインで測定したCeO2粉末の

    Rietveld解析結果である。放射光X線を用いれば、こうしたデーターが5分で測定できる。

  • 31

    IV.d電子系の可視吸収

    1.光学遷移と振動子強度

    遷移金属とは、最外殻がd電子である元素を指す。遷移金属は、結晶中や水溶液中では遷移金属イオンとして存在する。下記に遷移金属イオンとd電子の数の関係を示す。

    M Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn M2+ --- 3 4 5 6 7 8 9 10 M3+ 1 2 3 4 5 6 --- --- ---

    これらの遷移金属イオンは水溶液中では、水分子が6配位している。孤立イオンの場合が d 電子軌道は 5 重縮退しているが、6 配位の立方対称場の中では、縮退が解けて3重縮退の t2g軌道と 2 重縮退の eg軌道に分裂(結晶場分裂)する。さらに、d 電子のスピンはなるべく平行になろうとする(フント則)。 (問題) 結晶場分裂とフント則について、その起源を説明せよ。

    さて、ペクトルポテンシャルがある場合のハミルトニアンは UAcep

    mH +⎟

    ⎠⎞

    ⎜⎝⎛ −=

    2

    21 rr

    である。

    したがって、電磁波と電子系との相互作用ハミルトニアンは、 2A の項を無視して、

    ( ) ( )[ ]peArApmceH r

    rrr⋅−⋅−=

    2intと な る 。 電 場

    h

    rr rr πω 2)(0

    trkieEE −⋅= に 対 し て 、

    01

    int EMemeiH t

    rr⋅−= − ω

    ω、 但 し 、 ( )peepM rkirki rrr rrrr ⋅⋅ +=

    21

    で あ る 。 Fermi の 黄 金 率

    ( )(2 2int2 iffi HP ωωδπ

    −=h

    )を用いると光遷移な遷移確率が計算できる。振動子強度とは、こ

    の遷移確率と古典的なローレンツ振動子モデルにおける遷移確率との比として、以下のように定義

    される。

    ( ) ⎣ ⎦22 iMf

    mf E

    iffi ωω −=

    h

    下付のEはE方向の成分を意味する。

    【電気双極子遷移】光の波長は典型的な波動関数の広がりに比べて充分長いので、 0=kr

    と近似(長

    波長近似)できる。このときの振動子強度は、

  • 32

    ( ) ⎣ ⎦( )

    ⎣ ⎦22 22)1( ixf

    mipf

    mEf E

    ifE

    iffi

    hh

    ωωωω

    −=

    −=

    となる。この近似の範囲で起こる光遷移を電気双極子遷移(E1)と呼び、 0≠f の場合を許容遷移、 0=f の場合を禁制遷移と呼ぶ。電気双極子遷移の f は、原子の場合1の程度である。例えば、

    水素原子の1s 2p遷移では、 42.0=f である。電気双極子遷移は、球対称の場合は、始状態 nlms

    と終状態 '''' smln が以下の条件を満たすときに許容される。

    0'0,1'

    1'

    =−=Δ±=−=Δ

    ±=−=Δ

    sssmmm

    lll

    このような判定規則を選択則という。対称性がこれより低い系(例えば、6配位の立方対称場の中)では、群論を用いて波導関数をその対称性により分類し、選択則が求められる。ただし、電気双極

    子遷移はスピンと無関係なので、スピン選択則は変わらない。 (問題) 6 配位の立方対称場の中に原子を置く。s s、s p、s d、p p、p d、d d のうち許容遷移を選べ。また、その理由を述べよ。

    【電気四重極子遷移】電気双極子遷移が禁制の場合は、 rkierr⋅ を展開してその一次までをとる。この

    ときの振動子強度は、

    ( )⎣ ⎦

    2

    2

    3

    2)2( ixxf

    cm

    Ef kEif

    fih

    ωω −=

    となる。下付のkはk方向の成分を意味する。この近似の範囲で起こる光遷移を電気四重極子遷移

    (E2)と呼ぶ。電気四重極子遷移の f は、2

    ⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛λa

    の程度である。例えば、水素原子の1s 3d遷移

    では、 6104.2 −×=f である。電気四重極子遷移の場合は、d d遷移も可能である。

    (問題) 電気双極子近似での振動子強度の総和側 1)1( =∑j

    fi Ef を証明せよ。(ヒント:電子座標と運動

    エネルギーハミルトニアンm

    pH2

    2

    = との交換関係 [ ][ ] 1,,2 =xHxmh

    を利用する。)

  • 33

    2.金属イオンの可視吸収

    遷移金属イオンを溶液のモル吸光度を測定する。これらのイオンは水溶液中で、正八面体の錯体

    [M(H2O)6]を形成している。得られた吸収スペクトルに基づき、d 電子の数と吸収スペクトルの相関を理解する。

    溶液 CrCl3 MnCl2 FeCl2 CoCl2 NiCl2 CuCl2 イオン Cr3+ Mn2+ Fe2+ Co2+ Ni2+ Cu2+ 濃度 0.1mol 0.1mol 0.1mol 0.1mol 0.1mol 0.1mol d電子の数 3 5 6 7 8 9

    吸収スペクトルの測定方法

    1) ファイバー分光器の USB 端子をノートパソコンにつなぎ、SpectraWiz を立ち上げる。

    2) 光源を onにする。

    3) イオンの含まれていないセルの透過光のスペクトル ( )ω0I を測定する。

    4) 次に、イオンの含まれているセルの透過スペクトル ( )ωI を測定する。 5) この際に、セルの交換以外はまったく同一条件で測定する必要がある。

    6) 一通り測定したら、もう一度、 ( )ω0I を測定する。測定前と測定後で同じスペクトル

    であれば、OK.。違っていたら、測定のやり直し。

    7) 測定が終わったら、すぐに、Sma4で解析する。モル吸光度【cm-1mol-1】は、

    ( )

    ( )( )

    MdIIωω

    ωα 010log−

    = である。M は

    溶液のmol濃度、dは溶液の厚さである。αは1molの溶液を1cm進むとどれだけ光量が減るかを表す。溶液の厚

    さは 1cm である。結果の表示の例を右に示す。

    SpectraWizの使用方法 1) まずは、設定パラメターの確認。露光時間 31ms(Times:31ms)、平均回数 10 回(Avg:10)

    1 2 30

    10

    20

    Photon Energy (eV)

    α (c

    m-1

    mol

    -1) [Cr3+(H2O)6]

  • 34

    スムージング処理をしない(Sm:0 Sg:0) 2) 光の強度が上の図程度になっていることを確認。 3) CCD検出器は光が来なくても、少しずつカウントが増加する。これをダークカウントと呼ぶ。

    ダークカウントを補正するために

    光源を offにして を押す。 4) スペクトルをテキストファイルで

    記録する場合は、 を押す。フ

    ァイル名を聞いてくるので、名前

    を入力する。 [課題 9] モル吸光度を図示せよ。また、モル吸光度のスペクトルパターンを I)吸収帯の無いもの、II)吸収帯が1つのもの、III)吸収帯が2つのものに分類せよ。三つの分類とd電子の電子配置との相関を考察せよ。 モル吸光度 ( )ωα から、振動子強度 f は下記の式で計算できる。

    ( ) NfeVmolcmNfmced

    b

    ⋅×=⋅= −−−∫ 111622

    10477.03.2

    πωωα h

    左辺は吸収帯の面積であり、Nは1 mol 1cm3内のイオンの数である。 bε は下地誘電率で、1と近似

    する。 [課題10] モル吸光度より各吸収帯の振動子強度を求めよ。単位に注意して計算すること。

    イオン種 Cr3+ Mn2+ Fe2+ Co2+ Ni2+ Cu2+ 振動子強度

  • 35

    3.錯体結晶の可視吸収

    最後に、錯体結晶であるPrussain blue類似体の吸光度を測定

    しよう。Prussain blue類似体(MII [FeIII (CN)6]2/3)は、フェリ

    シアンカリウム(K3[Fe(CN)6])溶液と二価の金属イオン溶液

    (MCl2)を混ぜると生成する。その結晶構造は右図に示す。赤丸

    はシアノ基に配位された鉄イオンであり、青丸は加えられた遷移

    金属イオンである。二種類の金属が岩塩構造をなしており、金属

    間距離はおよそ0.5nmである。【鉄化合物では価数の入れ替えが

    起こり、FeIII[FeII(CN)6]3/4が生成する。】

    溶液の濃度を十分薄くすれば、水溶液中に分散しているナノ粒

    子のモル吸光度を測定することはできる。実験方法は、一日目と同じである。FeCl2溶液、CoCl2溶

    液、NiCl2溶液は100倍に希釈されているので、ほぼ透明である。

    溶液 K3[Fe(CN)6] FeCl2 溶液+

    K3[Fe(CN)6]溶液

    CoCl2溶液+

    K3[Fe(CN)6]溶液

    NiCl2溶液+

    K3[Fe(CN)6]溶液

    イオン [Fe(CN)6]3- Fe2++[Fe(CN)6]

    3- Co2++[Fe(CN)6]3- Ni2++[Fe(CN)6]

    3-

    濃度 0.001mol 0.0005mol 0.0005mol 0.0005mol

    1) まずは、0.001molのフェリシアンカリウム(K3[Fe(H2O)6])溶液を4つのセルに1cm入れる。 2) そのうちの3つのセルに、等量の量の0.001molFeCl2溶液(0.001mol CoCl2溶液、0.001mol NiCl2

    溶液)を加える。しばらく待つと、錯体結晶が形成に溶液が着色する。錯体結晶は充分小さく、

    溶液中に分散する。

    3) 4つのセルのモル吸光度を測定する。

    (問題)上図のような錯体結晶が形成されていることを証明するには、どんな実験を行えばよいか?

    [課題 11] モル吸光度を図示せよ。混合前と混合後のスペクトルを比べ、新たな吸収帯の起源を考察せ

    よ。

    [課題12] 新たな吸収帯の振動子強度を求めよ。どうして振動子強度が大きい理由を考察せよ。

    溶液 FeCl2 溶液+

    K3[Fe(CN)6]溶液

    CoCl2溶液+

    K3[Fe(CN)6]溶液

    NiCl2溶液+

    K3[Fe(CN)6]溶液

    振動子強度