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1 神奈川大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 教授 井川 疎水性物質の膜分離システム 2017年12月5日

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1

神奈川大学 大学院工学研究科

応用化学専攻

教授 井川 学

疎水性物質の膜分離システム

2017年12月5日

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2

研究分野の背景

疎水性物質は生体膜を透過しやすい性質があり、生体内で濃縮され、生体に有害なものが多い。したがって、環境中から除去する必要がある。

Log B

CF

Log Kow

バイカル湖アザラシ

BCF: 生物濃縮係数(生物体内濃度と水中濃度の比)

Kow: オクタノール-水分配係数

親-疎水性の指標として使われることが多い。この値が大きいほど疎水性が高い。

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3

研究分野の背景

排水:厳しい排水基準による規制(水質汚濁法)

有機物質の除去無機物質の除去

親水性物質:微生物による分解(活性汚泥法等)

疎水性物質:活性炭による吸着除去

As

Cr

CuMn

Pb

Cd

Hg

CN

F

N

Zn

B

P

凝集沈殿やキレート剤等

排水処理の必要

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従来技術とその問題点

膜分離法:液体膜(省スペース・連続分離)

活性炭法

溶媒抽出

問題点:溶媒・抽出剤の漏出

水に溶けた微量の疎水性物質の除去法

原相溶液

受相溶液

膜相溶液

原相溶液

受相溶液

膜相溶液

エマルション生成 混合 分離 エマルション分解

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新技術の特長・従来技術との比較

• 疎水性物質が選択的に膜内を移動し、親水性物質の膜内移動は抑制

• 膜材料にテフロンを用いるなら膜素材の劣化が起こりにくく、長期使用が可能

フッ素系高分子(疎水性)膜による抽出透過法

膜材料としてテフロンを主に用いた疎水性物質の濃縮・除去を行う新しい拡散透析プロセスを提案

駆動力としては濃度勾配を用いるが、加圧等、他のエネルギーを用いることも可能

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原相溶液pH変化の影響

pKa以上の高pH 疎水性から親水性へと特性が変化膜透過が困難

高pHでの解離

原相pHの透過量に及ぼす影響膜:コーティング膜(FEP量:1.70 mg/cm2)

0

20

40

60

80

100

120

8 10 12

フェノール チモール

原相pH

流束(

nm

ol/

cm2m

in)

フェノールpKa=10.0

チモールpKa=10.9 OH O

-

フェノール

CH

C(CH3 2)

H

O

3

-

)(CHCOH

3 2H

CH3

チモール

高pHでの解離

新技術

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7

新技術

透析セル

セル

原相 受相

原相溶液 受相溶液

評価:流束 (単位時間単位面積当たりの移動量 mol cm-2 min-1)

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新技術

フロロポア膜(PTFE膜)を最初に300℃で10分乾燥

4~6倍希釈したテフロンFEP-120水性ディスパージョンを噴霧

数回繰り返す

最後に300℃で30分加熱し、FEPを液化後、室温で固化

フロロポア(無処理膜) コーティング後(FEP量:1.50mg/cm2)

120℃で5分乾燥

コーティング法

15μm 15μm

PTFE

FEP

融点 330 ℃

融点約 270 ℃

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新技術

FEP膜

チモールl

フェノール

安息香酸

パラトルエンスルホン酸

グルコース

10-5

10-6

10-7

10-8

-4 42-2 0log POW

流束

(mm

ol/

cm2

min

)

疎水性親水性

100

101

102

103

104

Pow

分配係数

リポゾーム膜(生体膜類似特性人工膜)

100 101 102 103 104

疎水性膜の選択透過性

生体膜の選択透過性

第11回EDIワークショップ2006年3月22日(於:東工大)

水溶液

疎水性物質

疎水性膜

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新技術

◎疎水性膜の加圧下の透過特性

分配係数

分配係数pH

Cu2+: 0.02 mM アセチルアセトン: 0.2 mM

圧力差M4: 10 kg cm-2

M5: 40 kg cm-2

疎水性膜

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新技術

◎疎水性膜の加圧下の透過特性

原液 : 1×10-4 mol/dm3 芳香族炭化水素水溶液

圧力 :10 kg/cm2

加圧下における疎水性膜抽出透過‐透過度(SP)と溶解度パラメーターの関係‐

溶解度パラメーター小 → 疎水性

疎水性物質は疎水性膜に高分配

→ 加圧下で濃縮されるが、吸着が強すぎると移動しない。

2

1

2 0 2 5

1

2

3

4

5

6

SP

0

膜:ポリスチレン膜

溶解度パラメーター(J/cm3)1/2

1.キシレン2.エチルベンゼン3.トルエン4.ベンゼン5.ニトロベンゼン6.ベンジルアルコール

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新技術

10

10 150

5

T = PLi/CLi

PK/CKi

Li

K

選択透過係数

, T

Li

K

膜材料の溶解度パラメーター

(疎水性)← ポリスチレン ポリ塩化ビニルポリ醋酸ビニル ポリメチルメタクリレート醋酸セルロース ビスキング透析膜 →(親水性)

親水性疎水性SP

イオン半径 (nm)

1.0

0.5

01.10 0.15

Li+

Na+

K+ Rb+Cs+

FEP膜 塩化物各0.1 mM 40 kg cm-2

SP(solute passage):溶質の透過度(透過液濃度/原液濃度)

親水性 疎水性

加圧下の透過特性

膜 溶質

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ICIE 18 Oct. 2007!

Salt flux vs pressure

Feed solution ○ 1×10-4mol / dm3 CsCl ●)1×10-4 mol / dm3 CuCl2

3

2

1

0 20 40 60 80

Pressure (kg/cm2)

×10-9

Salt f

lux (

mo

l / cm

2 m

in)

CuCl2

CsCl

Selectivity is inverted with the lowering of pressure.

新技術

疎水性膜の選択透過性

加圧下では水の流束とカップリングし易い親水性イオンの高い選択透過性

加圧しない拡散透析では水和の強いイオンは拡散しにくくなり透過性低下

→ 選択透過性の逆転

親水性イオン

疎水性イオン

親水性イオン(強い水和のため拡散しにくい)

疎水性イオン

Ds:水溶液内拡散係数、Dm:膜内拡散係数

濃度 0.1 mM

圧力減少で選択透過性逆転

圧力

流束

濃度勾配下の透過性

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新技術親水性-疎水性による有機溶質の透過特性の違い

グルコースとチモールの受相濃度変化膜:コーティング膜(FEP量:1.70 mg/cm2)

0

0.004

0.008

0.012

0.016

0 100 200

測定時間(min)

濃度(m

M)

グルコース チモール

>230

選択性

◎親水性溶質の非常に低い膜透過性

溶質

原相溶質の水-オクタノール分配係数

チモール 3.3フェノール 1.48グルコース -3.3

logPow

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新技術

コーティング膜の親水処理の影響

0.07

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0 50 100 150 200

測定時間(min)

濃度(m

M)

◎親水処理 透過量の増加選択性の低下(処理前13.0→処理後2.8)

フェノール

チモール

親水処理

フェノール

チモール

未処理

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新技術

膜膜

孔径

0

5

10

15

20

25

30

0 5 10 15 20 25 30 35

チモール流束 フェノール流束

放置時間 / min

流束

/ n

mo

l cm

-2m

in-1

空気

空気

放置時間 / min

選択性

(チモール

/フェノール

)

0

1

2

3

0 5 10 15 20 25 30 35

〇親水処理後の放置時間による影響〇実験条件

PTFE膜孔径 0.1 mm

コーティング なし親水処理後に放置

放置時間増加

流束 選択性

空気層厚み増大

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17

新技術

0

5

10

15

0

1

2

3

4

0.1 1.0 10

選択性 チモール流束

膜孔径 / mm

選択性

(チモール

/フェノール

)

流束

/ nm

ol cm

-2m

in-

1

〇孔径の差異による影響〇実験条件

PTFE膜孔径 0.1, 1.0, 10 mm

コーティング なし親水処理なし

膜孔径大

流路サイズの増加

流束 、選択性

孔径 流路

空気

空気

膜膜

孔径 小 孔径 大

膜膜 空気

空気

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新技術膜内ガスによる有機物質透過への影響

0

2

4

6

8

10

流束

(nm

ol

cm-2

min

-1)

10110-1 10010-2

0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

チモール

フェノール

選択透過係数

選択透過係数

(チモール

/フェノール

)

ヘンリー定数 (Gpa M-1)

ガスの溶解度減少

ヘンリー定数ガスの疎水性の指標

水への溶解度の低い疎水性の高いガスほど透過性大

CO2 < Ar < Air < N2 < He

膜孔内のガスの影響大

CO2 < Ar < Air < N2 < He

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新技術

コーティング量 / mg cm-2

0

10

20

30

0

1

2

3

4

0 0.5 1 1.5

選択性 チモール流束 フェノール流束

選択性

(チモール

/フェ

ノール

)

流束

/ n

mol cm

-2

min

-1

0

10

20

30

0

1

2

3

4

0 0.5 1 1.5

孔径 1.0 mm親水処理 あり

孔径 0.1 mm親水処理 あり

選択性

選択性

〇コーティング膜の親水処理による影響〇

膜膜

孔径

コーティング

コーティング

孔径の小さな膜なら親水処理後も選択性発現

→ 疎水性相互作用が及ぶ

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新技術

流束増加傾向

各物質で膜内拡散係数に大きな差は無し

0

2

4

6

8

10

0 5 10 15受相pH

流束

(nm

ol

cm-2

min

-1)

pKa(フェノール)

pKa(チモール)

受相 pH 依存性

溶質の律速段階の違い 溶質選択透過性向上

チモール フェノール 安息香酸ベンジルアルコール パラトルエンスルホン酸

共存塩の透過挙動に及ぼす影響

0

2

4

6

8

10

0 500 1000 1500

原相KCl濃度 (mM)

チモール流束

(nm

ol cm

-2

min

-1)

原相共存塩(KCl)濃度増加

共存塩によるチモール流束増加

チモール濃度:1 mM

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1 ベンジルアルコール 2 フェノール3 ニトロベンゼン 4 ベンゼン5 トルエン 6 スチレン7 チモール8 メタノール 9 エタノール10 1-プロパノール 11 1-ブタノール12 1-ペンタノール 13 1-ヘキサノール

新技術

傾き=1

● メタノール▲ チモール

・例外的に大きな流束のアルコール類

・共存メタノール高濃度→チモール流束減少

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膜による差異

1000100101

8

6

2

0

原相グルコース濃度 (mmol/L)

8

4

0

12

疎水性膜

親水性透析膜

流束

(mm

ol/

cm2

min

)

10-8

10-7

10-5

10-6

10-4

10-3

10-4

10-5

10-6

×103

疎水性膜

透析膜(再生セルロース膜)

原相親水性物質濃度 高

チモール流束わずかに減少

選択透過性 約12,000

選択透過性 約 6

原相親水性物質濃度 高

グルコース流束増加

4

グルコース:検出下限値以下

チモール流束変化なし

グルコース

チモール

選択透過係数グルコース

チモール

新技術

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想定される用途

• 活性炭に代えて、水に溶けた疎水性物質の系からの除去と濃縮。

• 疎水性物質と親水性物質の分離。

<原理的な課題>

・ 透過機構(特に膜-溶質間相互作用)の解明

<実用化のための課題>

・ 疎水性物質流束の増大

・新たな透過駆動力の検討

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企業への期待

• 疎水性物質に対する高選択透過性の膜へ⇨膜素材と膜構造(より緻密な表面層とより多孔性の支持層)の改良

• 個々の企業ニーズに基づいた、この膜分離システム活用のご提案

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お問い合わせ先

神奈川大学研究支援部

産官学連携コーディネーター 尾谷 敬造

TEL 045-481 - 5661

FAX 045-481 - 2764

e-mail fs130175kp@kanagawa-u.ac.jp