6
循環型社会に対応した河川工事について -ライフサイクル思考の観点から- 帯広開発建設部 治水課 ○西村 宗倫 津村 喜武 塚本 博紀 1.研究の背景 これまで、大量生産・大量消費・大量廃 棄を前提とした社会構造を基盤に、便利で 物質的に豊かな生活を手に入れてきた一方 で、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、 森林破壊、海洋汚染などの地球規模の環境 問題や廃棄物問題は深刻化し、資源の枯渇 化は進んでいる。これらの問題を根本的に 解決し、地球を永続的に次の世代に受け渡 していくためには、社会のあり方そのもの を、環境負荷・資源消費量の少ない循環型 社会に変革する事が求められている。 しかしながら、現在顕在化している問題の多くは、それぞれがトレードオフの関係にあり、 局所的な問題解決を試みても、それが、循環型社会の到来に向けて、普遍的な正答とは言えな い。このトレードオフの認識が高まることによって、環境のみならず経済的側面まで含めて、 総合的・総体的に考える「ライフサイクル思考」が今後の環境対策に重要視されるようになっ た。 また、1997 年 12月に、国連気候変動枠組み条約第 3回締約国会議(COP3 )が開催され、「京 都議定書」の中で、2008 年から 2012 年まで5年間の温室効果ガスの排出量を、1990 年比べて 6%の減少することを我が国は義務づけられている。これを受けて、事業者は、製造から廃棄・ リサイクルまで一連のライフサイクルの過程を通じて、より環境負荷の少ない製品やサービス を提供する責任が求められ、消費者も、より環境への負荷が少ない製品を選択しようとする意 識が定着してきている。これに従い、公共においても、社会資本の開発整備管理運営の手法に 関して、時間的空間的に総体的な事業の検討を行い、循環型社会形成に貢献することが求めら れている。 2.研究の概要 本研究は、この「ライフサイクル思考」の基幹技術であるライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment:LCA) を河川工事に先駆的・実験的に実施するものである。その際、循環型 経済社会への貢献度を表した3R指標(Reduce 、Reuse 、Recycle )と3E指標(Economy 、Energy Sourin Nishimura , Yoshitake Tsumura , Hironori Tuk 1052 百万トン(1990 年排出量の 6%減) -日本の二酸化炭素排出量の推移

循環型社会に対応した河川工事について -ライフサイクル思考の … · 図-2 ライフサイクルアセスメントのフロー Environment)をもって河川工事を評価し、環境に配慮した先進的な工法を適用した場合と感

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 循環型社会に対応した河川工事について -ライフサイクル思考の … · 図-2 ライフサイクルアセスメントのフロー Environment)をもって河川工事を評価し、環境に配慮した先進的な工法を適用した場合と感

循環型社会に対応した河川工事について

-ライフサイクル思考の観点から-

帯広開発建設部 治水課 ○西村 宗倫

津村 喜武

塚本 博紀

1. 研究の背景

これまで、大量生産・大量消費・大量廃

棄を前提とした社会構造を基盤に、便利で

物質的に豊かな生活を手に入れてきた一方

で、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、

森林破壊、海洋汚染などの地球規模の環境

問題や廃棄物問題は深刻化し、資源の枯渇

化は進んでいる。これらの問題を根本的に

解決し、地球を永続的に次の世代に受け渡

していくためには、社会のあり方そのもの

を、環境負荷・資源消費量の少ない循環型

社会に変革する事が求められている。

しかしながら、現在顕在化している問題の多くは、それぞれがトレードオフの関係にあり、

局所的な問題解決を試みても、それが、循環型社会の到来に向けて、普遍的な正答とは言えな

い。このトレードオフの認識が高まることによって、環境のみならず経済的側面まで含めて、

総合的・総体的に考える「ライフサイクル思考」が今後の環境対策に重要視されるようになっ

た。

また、1997 年 12 月に、国連気候変動枠組み条約第 3 回締約国会議(COP3)が開催され、「京

都議定書」の中で、2008 年から 2012 年まで5年間の温室効果ガスの排出量を、1990 年比べて

6%の減少することを我が国は義務づけられている。これを受けて、事業者は、製造から廃棄・

リサイクルまで一連のライフサイクルの過程を通じて、より環境負荷の少ない製品やサービス

を提供する責任が求められ、消費者も、より環境への負荷が少ない製品を選択しようとする意

識が定着してきている。これに従い、公共においても、社会資本の開発整備管理運営の手法に

関して、時間的空間的に総体的な事業の検討を行い、循環型社会形成に貢献することが求めら

れている。

2.研究の概要

本研究は、この「ライフサイクル思考」の基幹技術であるライフサイクルアセスメント(Life

Cycle Assessment:LCA)を河川工事に先駆的・実験的に実施するものである。その際、循環型

経済社会への貢献度を表した3R指標(Reduce、Reuse、Recycle)と3E指標(Economy、Energy、

Sourin Nishimura , Yoshitake Tsumura , Hironori Tukamoto

1052 百万トン(1990 年排出量の 6%減)

図-1 日本の二酸化炭素排出量の推移

Page 2: 循環型社会に対応した河川工事について -ライフサイクル思考の … · 図-2 ライフサイクルアセスメントのフロー Environment)をもって河川工事を評価し、環境に配慮した先進的な工法を適用した場合と感

図-2 ライフサイクルアセスメントのフロー

Environment)をもって河川工事を評価し、環境に配慮した先進的な工法を適用した場合と感

度分析を行うことで、より循環型社会に対応した河川工事ついて検討を試みた。本研究では、

今後の公共事業について、環境への排出物質・資源消費量を定量的に把握し、ライフサイクル

思考に基づいて検討・評価する事を提言するものとし、ライフサイクルアセスメントを用いた

この手法自体を研究対象に位置づけている。

本報告では、帯広開発建設部管内で現在進捗中の「上幌岡締切樋門工事」をとりあげ、その

ライフサイクルアセスメント結果を例に、研究成果の報告を行う。

3.ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment:LCA)とは?

ライフサイクルアセスメント(以後、LCA

と呼ぶ)とは、対象となる製品およびサービ

スについて、資源→製造→使用→廃棄または

再利用されるまで、すべての段階における環

境への排出物を総合的に定量評価することを

いう。 投入されるエネルギー量、資源の使

用量、排出される二酸化炭素量などの数値を

使って「商品の一生」を評価するものである。

自動車の排気ガスのように、消費者が製品を

使用している時の排出物による環境への影響

だけではなく、自動車が製造されるまで、お

よび廃棄される段階など、消費者・利用者が

実際に見ることができない場所での排出物や

資源の消費まで、評価対象になるのが LCA の特徴である。

国際標準化機構(ISO)は、1997 年に、いわゆる 14040 シリーズで LCA の調査の実施および

報告の作成にかかわる原則ならびに枠組みを定義している。しかし、LCA の技術的な側面・ガ

イドラインに関しては、まだまだ未整備な状況にある。土木工事に関しても、土木学会による

取りまとめが進行中であり、河川工事に関する LCA の普遍的な手法は殆ど確立されていない。

本研究では、ISO14040 シリーズを基礎に、日本建築学会地球環境委員会配布の LCA 計算マニ

ュアル1)2)に準拠しつつも、考え方が未整備な箇所においては、河川工事の特性を踏まえて、

適宜、独自の判断を行った。

4.本研究で用いた検討手法

昨今、環境意識の高いグリーンコンシューマーは増加し、国立環境研究所のアンケートによ

れば、平成10年の段階で43.4%の消費者が「同種類の製品なら高くとも環境に優しい製

品を購入する」と回答している。また、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」

によれば、国等が率先して環境物品の調達することで、静脈経済の整備の呼び水とし、我が国

全体で環境物品への転換に資することが述べられている。

本研究では、LCA 結果に感度分析を行うことで、代替工法・資材を用いた場合と比較し、よ

り循環型社会に対応した手法について検討を試みた。その際、上で述べた二つの点を踏まえて、

Page 3: 循環型社会に対応した河川工事について -ライフサイクル思考の … · 図-2 ライフサイクルアセスメントのフロー Environment)をもって河川工事を評価し、環境に配慮した先進的な工法を適用した場合と感

ある程度のコスト増分を流動的に考えた上で、環境への排出物量や資源消費量がどのように変

化するか比較を行った。本報告では、「自走式破砕機」を用いた場合を例に、LCA 結果に感度

分析を行った。また、帯広開発建設部では矢板を支給するなど、本樋門工事においても、環境

対策をおこなっている。それらをすべて行わなかった分に関しても感度分析を行い、従前の取

り組みに対しても評価を行っている。

国際標準化機構(ISO)では、LCA の客観性を確保する理由から、LCA 結果に恣意的に重みを

つけ、何らかの指標に写像することを禁止している。しかし、LCA を厳密に行う程に、その結

果は多変数になり、評価が困難になる。本研究では、総合評価することを優先し、LCA 結果か

ら直接導かれる3E指標(Economy、Energy、Environment)の他に、3R指標(Reduce、Reuse、

Recycle)を提案し、本工事の評価を行った。

1)3R指標 3R指標は循環型社会貢献度指標と位置づけた。LCA 結果のうち、

「Reduce」は、施工する際に、資材の再利用やリサイクル材を購入する

ことで、資源を直接消費することなく調達できた部材量で評価した。

「Reuse」は、構造物を撤去・廃棄工事の際に、資材を廃棄するのでは

なく、再利用した部材量で評価した。「Recycle」は、現場から排出され

る全部材のうち、加工リサイクルされるものを積み上げた。

2)3E指標 3E指標は「Economy」=コスト(工事費)、「Energy」=エネルギー、

「Environment」=環境への排出物量として算出を行った。この3E指

標は、環境対策を評価する上でよく用いられている指標である。ただし、

今回の「Environment」では、CO2、NOx、SOx排出量の総和で評価を行

った。

5.LCA の計算方法について

本研究では、十勝管内で現在進捗中の「上幌岡締切樋門工事」をとりあげ、そのライフサイ

クルアセスメント結果を例に、研究成果の報告を行う。

河川構造物はメンテナンスに関わる分が非常に少ない。本樋門を「施工」・「供用」・「廃棄」

のインベントリに大別した場合、「施工」・「廃棄」と比較して「供用」期間中の LCA は十分小

さいものと考え「施工」・「廃棄」にのみ LCA を行った。また、本工事は改築工事であり、「新

樋門」を近傍に新築した後、「旧樋門」を撤去している。「廃棄」に関しては、「旧樋門撤去」

の設計書を元に数量の掛け合わせを行い、適宜、調整を加え、「新樋門撤去」の LCA を行った。

LCA は、数量を把握することから始める。「施工」に関しては、設計書を工程別に整理し、こ

れを元に土木工事積算基準書から部材使用量・機械使用量3)を算出した。また、搬入時の作業・

仮設材など、設計書では厳密な数量が把握出来ない箇所に関しては、現地にて聞き取りを行い、

算出している。また、「廃棄」に関しては、本工事は現在進行中であるため、「再生資源利用促

進計画書」と現地での聞き取りで、推定を行った。

以上の作業から、工事の解析を行い、3R指標を算出した。3E指標の算出には別途、「補

助物量」・「原単位」という二つの数量が必要である。「補助物量」とは、m3 や m2 など様々な単

位で表される部材数量を、重量ベース(kg)に換算するためのものである。土(粘性土)やコンク

リート、アスファルト、木材、鋼類などは日本道路協会の道路橋示方書にある単位重量を用い

Page 4: 循環型社会に対応した河川工事について -ライフサイクル思考の … · 図-2 ライフサイクルアセスメントのフロー Environment)をもって河川工事を評価し、環境に配慮した先進的な工法を適用した場合と感

図-3 LCAの計算例(エクセル)

たが、特殊な部材に関してはよっては、製造メーカに確認を行った。また、「原単位」とは、

ある財の単位あたりの生産に対し,直接および間接的に誘発される環境負荷量を表す係数にな

る。現在、複数の学会及び研究機関で、原単位の整備が進められている中で、今回の研究では、

伊香賀俊治、外岡豊らによる「1990 年産業連関表に基づく重量当りの原単位」を利用した。下

に、諸値の計算手法を記す。

1)工事におけるコスト(円)

工事費おけるコストは以下の式により計算した

=Σ{ 部材によるコスト(円)+機械によるコスト(円) }+緒費

部材によるコスト=部材数量×単価・機械によるコスト=作業日数×単価

2)工事におけるエネルギー消費量(MJ)

工事におけるエネルギー消費量(MJ:メガジュール)は以下の式により計算した。

=Σ{ 部材によるエネルギー消費量(MJ)+機械によるエネルギー消費量(MJ) }

部材によるエネルギー消費量=部材数量×補助物量×エネルギー消費原単位

機械によるエネルギー消費量=日当たり燃料消費量×作業日数×エネルギー消費

原単位

3)工事における CO2 排出量(kg-CO2)の計算

工事における CO2 排出量(kg-CO2)は以下の式により算定した。

=Σ{ 部材による CO2 排出量(kg-CO2)+機械による CO2 排出量(kg-CO2) }

部材による CO2 排出量=部材数量×補助物量×CO2 排出原単位

機械による CO2 排出量=1 日当たり CO2 排出量×作業日数

同様に、NOx排出量(kg- NOx)・SOx排出量(kg- SOx)の算出を行った。

ここで、1)がいわゆる積算作業と考えると、2)・3)も積算作業と同等の労力で算出

できるのがわかる。本研究では、実際の諸計算は下図-3に、その一部を記す。

6.ライフサイクルアセスメント結果および考察

LCA 結果より、3Rの結果を図-4、表-1に、3Eの結果を図-5、表-2を記す。

1)3R指標

右図-3より、現況工事と非対策工事を比較すると Recycle は殆ど変わらなかったが、

Reduce、Reuse については大幅な増分が見られた。現在また、自走式破砕機を使うことに

よって、Recycle は 3.4%減少したが、Reduce、Reuse はそれぞれ 2.7%、3.4%増加し、

3Rの合計に関しても、現況工事の 2577 万トンから 2745 トンに増加し、2.6%の増分が

Page 5: 循環型社会に対応した河川工事について -ライフサイクル思考の … · 図-2 ライフサイクルアセスメントのフロー Environment)をもって河川工事を評価し、環境に配慮した先進的な工法を適用した場合と感

0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

70.0%

80.0%

REDUCE REUSE RECYCLE 3Rの合計 購入・廃棄

各工事の3R(土除外)【重量ベース】

非対策工事

現況工事

自走式破砕機使用

表-1 上幌岡締切樋門工事の3R

図-4 上幌岡締切樋門工事の3R

確認された。

本研究では、各資材を等価として扱い、

重量ベースでの算術和を行った。しかし、

資源の枯渇化という点から考えると、当

該資源の可採年数(資源埋蔵量を年間採

掘量で割ったもの)で重み付けを行うべ

きで、生物資源(木材など)との整合性

を含めて、今後の課題にしたい。また、

現在、リサイクル・廃棄に関する様々な

指標、が提案され3Rと呼称される指標

だけでも多数存在する。従って、今回用

いた3R指標も、一般的なものではない。

しかしながら、本研究では、資源採掘量

・廃棄量の変化量に注目し3R指標の提案を行った事は一定の評価が得られると考える。

2)3E指標

3E指標に関しても、非対策工事と現

況工事とで、大幅な改善が確認された。

また、自走式破砕機使用を現況工事と比

較すると、Economy で 0.3%増加したもの

の、Energy で 1.36%、Environment では

0.38%減少した。Environment のうち特

に、CO2 排出量は 0.38%減少した。 図-5 上幌岡締切樋門工事の3E

本研究では、原単位が未整備な故に、 表-2 上幌岡締切樋門工事の3R

CO2・NOx・SOxおよびエネルギー・コ

ストの算出にとどまった。しかしながら、

本研究において、原単位データ存在すれ

ば、設計書上でコストを積み上げるのと同様に、当該物質の環境への排出物量の積み上げ

が可能であることを示した。従って、今後、様々な物資に対して、原単位データの整備が

急務と言える。

3)「自走式破砕機」を用いる事の検討(感度分析)

本工事の LCA に感度分析を行った結果、自走式破砕機を使用することで、二酸化炭素排

出量は 327.4(kg/年)減じ、コストは 50492(円/年)増加することがわかった。この

比を整理すると、1285 ドルを用いて二酸化炭素 1 トンを削減したことになる。

日本興業銀行の試算では、二酸化炭素の排出枠取引の市場規模については、年間売買量

にして 4.1 億トン(OECD の試算)から 59 億トンで、1 トン当たりの単価にして 10 数ドル

から 200 ドル(1,000 ドルの予測もある)、と予測されている。

自走式破砕機を使用することで、CO2 以外の排出物質も削減されてはいるが、今回、そ

の大部分を占める CO2 の削減にのみ限定して議論を行えば、本工事における「自走式破砕

機」の使用は CO2 の削減量に比べて、コストの増分が大きく、適当とは言えない。

1.0E+00

1.0E+01

1.0E+02

1.0E+03

1.0E+04

1.0E+05

1.0E+06

1.0E+07

1.0E+08

Environment(kg/年) Energy(MJ/年) Economy(円/年)

上幌岡締切樋門工事の3E

非対策工事

現況工事

自走式破砕機使用

非対策工事 現況工事 自走式破砕機使用

LCCO2(kg-CO2/年) 178612 85948 85621

LCSOx(g-Sox/年) 121209 4956 4501

LCNOx(g-Nox/年) 285099 26492 25151

Energy LCE(MJ/年) 1668568 485106 478529

Economy LCC(円/年) 17014539 16587215 16637707

Environment

単位(t) REDUCE REUSE RECYCLE 購入・廃棄

非対策工事 520157.2905 0 16767511.24 46511244.32

現況工事 5380874.318 3023636.949 17363337.34 38031064.23

自走式破砕機使用 7062149.81 5175596.32 15211377.97 36349788.74

Page 6: 循環型社会に対応した河川工事について -ライフサイクル思考の … · 図-2 ライフサイクルアセスメントのフロー Environment)をもって河川工事を評価し、環境に配慮した先進的な工法を適用した場合と感

4)今後の課題

本件では、特段、比較対象がなかった故に、CO2 のみの検討となった。各工法について

データの蓄積を行い、新規工法・資材を適用する上での基準の作成を今後の検討課題とし

たい。

建設の LCA では、オゾン層破壊・酸性雨等の指標を提案しているものの、現段階では CO2、

NOx、SOxに重みをつけているに過ぎない。多変数になる LCA 結果を、どのような指標で

まとめて、データの蓄積を行うかは、今後の LCA 全体の最重要課題といえる。本研究では

3R指標を提案したが、今後も精査していきたい。

7.まとめ

本研究は、循環型社会の形成に配慮した河川工事の在り方について、ライフサイクル思

考の観点から定量的は把握を試み、評価・検討を行った初めての取り組みであろう。本論

文により、LCA を用いたこの評価手法を実施することで、設計時に、積算と同様の積み上

げの作業で、本工事における資源消費量・環境への排出物量の予測が可能になる事を示し

た。しかし、冒頭でも述べたとおり、河川工事のライフサイクルアセスメントにおいては、

現在のところ普遍的な手法は確立されておらず、原単位データが存在する物質が少ないこ

とから、今回用いた解析手法及び数値データについても、多分に仮定・推定の粋をでない。

この点については、今後、さらに精度を向上するためにデータの蓄積が急務と考える。

しかしながら、本研究の目的は、今後の公共事業においては資源消費量・環境への排出

物量を把握すべきと提言し、循環型社会の到来に向けて、河川整備の在り方、ひいては公

共事業の評価手法にライフサイクルアセスメントを導入することの有効性を研究し、それ

を世に訴えることにあった。本研究が、諸賢の叱正によって、さらなる的確な評価手法を

確立するための端緒となることを切に期待している。

8.謝辞

本研究の遂行にあたり、様々な大学研究期間、資材・機材メーカーの方には、資料をご提

供頂きました。この場を借りて、感謝致します。また、上幌岡締切樋門工事、現場監督員青

木功様には、本研究で重要な位置を占める工事の解析にあたって、現地での聞き取りにご協

力頂きました。ここに、深甚に感謝の意を表します。最後に、研究全般においてご指導いた

だきました帯広開発建設部治水課の皆様には心より厚く御礼申し上げます。

参考文献

1)建物の LCA 計算ソフト・LCA データベース:(社)日本建築学会 地球環境委員会

2)建設の LCA:名古屋大学大学院環境学研究科教授 井村秀文

3)建設機械等損料算定表 平成十三年度版:(社)日本建設機械化協会