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昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 16 年 9 月 10 日発行(年 6 回 1,3,5,7,9,11 月の 10 日発行)富士時報 第 77 巻 第 5 号(通巻第 828 号) ISSN 0367- 3332 特集1 半導体 特集2 放射線システム Sept. 2004

特集1半導体 特集2放射線システム · ワー半導体デバイスの限界性能を超えるsicデバイスは, 600v/50aのショットキーバリアダイオードが市販され

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Page 1: 特集1半導体 特集2放射線システム · ワー半導体デバイスの限界性能を超えるsicデバイスは, 600v/50aのショットキーバリアダイオードが市販され

昭和40年6月3日 第三種郵便物認可 平成16年9月10日発行(年6回1,3,5,7,9,11月の10日発行)富士時報 第77巻 第5号(通巻第828号) ISSN 0367-3332

雑誌コード 07797-9 定価 735円(本体 700円)

昭和40年6月3日 第三種郵便物認可 平成16年9月10日発行(年6回1,3,5,7,9,11月の10日発行)富士時報 第77巻 第5号(通巻第828号)

本誌は再生紙を使用しています。

特集1 半導体特集2 放射線システム

Sept. 2004

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目 次

特集1 半導体

特集2 放射線システム

電子機器や電気機械,自動車などには,時

代の進展とともに省エネルギー,小型化,高

機能化がますます強く要求されてきている。

それらの製品の進化には,半導体技術が無く

てはならないものであり,半導体は正に産業

の米といっても過言ではない。

富士電機は,産業,自動車,情報・電源分

野向けの半導体に注力し,パワーエレクトロ

ニクスを支えるパワー半導体,パワー IC な

どについて研究開発から生産販売までを一貫

して手がけている。

表紙写真では,IGBT モジュール,パワー

MOSFET,圧力センサ,電源 ICを示し,ま

た,それらが用いられる産業,自動車,情報

通信,家電分野をイメージ的に表現している。

表紙写真

パワー半導体デバイスへの期待 307( 1 )松瀬 貢規

半導体の現状と展望 308( 2 )金田 裕和 ・ 松田 昭憲

富士の放射線管理システム

高精度,高信頼性で皆様のお役に立ちます。

身体内部の汚染レベルを測定するホールボディカウンタ

放射性物質が放出されていないかを調べるサンプルラック

中性子の線量率を測定する検出器

身体表面の汚染レベルを測定する体表面モニタ

γ線の線量率を測定する検出器放射線の外部被ばく線量を測定する個人線量計

個人の線量測定

環境の放射線測定

原子力施設および放射線利用施設の安全管理に欠かせない各種放射線測定機器と

計算機システムの開発に積極的に貢献しています。

Sept. 2004

特集1 半導体

お問合せ先:富士電機システムズ株式会社 電力営業本部 放射線営業部 電話(03)5435-7007

Uシリーズ IGBTモジュール 313( 7 )宮下 秀仁

Uシリーズ IGBT-IPM(600V) 317(11)関川 貴善 ・ 遠 藤 弘 ・ 脇本 博樹

新絶縁基板を用いた次世代 IGBTモジュール技術 321(15)西村 芳孝 ・ 望月 英司 ・ 高橋 良和

パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術 326(20)松本 良輔 ・ 加藤 博久

ワンチップ技術による高圧センサ 330(24)上柳 勝道 ・ 篠 田 茂 ・ 芦野 仁泰

電源二次側整流器用ダイオード「低 IR-SBDシリーズ」 334(28)掛布 光泰 ・ 一ノ瀬正樹

60V耐圧MOSFET内蔵型降圧同期整流電源 IC 338(32)藤井 優孝 ・ 米 田 保

PDP用中耐圧MOSFET 342(36)原 幸 仁 ・ 井上 正範

汎用PDPスキャンドライバ IC 346(40)小林 英登 ・ 多 田 元 ・ 澄田 仁志

PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術 350(44)澄田 仁志

放射線機器の可能性について 355(49)中村 尚司

放射線システムの現状と展望 356(50)河野 悦雄

個人線量モニタリングシステム 358(52)青 山 敬 ・ 上 田 治 ・ 河村 岳司

環境放射線モニタリングシステム 364(58)高木 俊博 ・ 木 村 修 ・ 皆 越 敦

環境放射線測定器 369(63)小林 裕信 ・ 酒 巻 剛 ・ 増 井 馨

放射性物質汚染検査装置 373(67)長谷川 透 ・ 橋本 忠雄 ・ 橋 本 学

大規模放射線監視システム 380(74)藤本 敏明 ・ 伊藤 勝人 ・ 中島 定雄

放射線管理計算機システム 385(79)三保谷英一 ・ 田辺 健一 ・ 明石 倫雄

RI 利用施設向け放射線管理システム 389(83)佐藤 正昭 ・ 水野 裕元 ・ 籔谷 孝志

放射線応用機器 392(86)門野 浅雄

特集2 放射線システム

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最近,太陽電池,燃料電池や風力発電など小形分散電源

の普及,電力自由化による電力託配,およびユビキタスコ

ンピュータや IP 電話などが話題になっている。これらの

背景には社会のニーズにすばやく応えている IGBTなどの

高耐圧パワー半導体デバイス,およびMOSFETなどの低

耐圧デバイスの高度化技術がある。

今年の夏は異常に暑く,東京で 30 ℃を超える日が 40 日

も続きエアコン稼動による電力消費量も過去に例を見ない

ほど上がっている。世界では約 20 %に上昇している 1次

エネルギーを電気エネルギーとして使う割合の電力化率が,

現在 41 %を超えている我が国ではさらに高くなりそうだ。

電力エネルギー有効利用を促進しているパワーエレクト

ロニクス技術の進歩発展は,地球規模のエネルギー環境問

題を解決し,ユビキタス情報社会のニーズに応える重要な

要素でもあり大きな期待が寄せられている。とくに,我が

国では電力の約 65 %が電動力に消費されており,パワー

エレクトロニクスの主要技術であるパワー半導体デバイス

は,電力変換装置や各種電源の小形・軽量,高性能化や製

品の高品質化のためだけでなく高効率による省エネル

ギー・省資源のためにも重要な技術である。

そのため,パワー半導体デバイスの開発はきわめて活発

であり,高耐圧デバイスでは,6.5 kV/600A の HVIGBT,

4.5 kV/2 kA の縦形 MOSFET,6 kV/6 kA の GCT,さら

に 4kVのダイオードなどが次々に開発されており,低耐

圧デバイスではディスクリートでもパワー IC でも MOS

FETを主体として開発実用化が進んでいる。また,Si パ

ワー半導体デバイスの限界性能を超える SiC デバイスは,

600V/50A のショットキーバリアダイオードが市販され

ており,スイッチング電源分野を対象に実用化が始まると

共に,並列接続および直列接続による大容量化の研究も進

んでいる。

大電力応用の主要な技術分野のひとつは,電動機可変速

駆動システムであるが,その応用は電力,産業,搬送,輸

送,家電や新エネルギー関連など多岐にわたっており,そ

れぞれの分野でパワー半導体デバイスに要求される機能と

性能もさまざまである。可変速駆動システムでは,高耐圧

パワー半導体デバイスの高性能大容量化,電力変換ドライ

ブ制御技術の確立,さらに CPU,DSP,ASIC など制御用

電子デバイスの高速・低価格化にともない,最新制御理論

を取り入れた実用化が可能になり飛躍的な発展を遂げてい

る。

また,最近の電力変換器の主回路方式では,マルチレベ

ルインバータ方式,マトリクスコンバータの開発実用化,

瞬時電圧低下時の運転継続機能の付加などがある。さらに,

クリーン電源と環境対応への要求として高力率・高調波低

減機能つき電力変換器,制御機能向上にオートチューニン

グ技術,センサレスベクトル制御方式の導入などがある。

マトリクスコンバータは,①変換回路が単純でコンパクト,

②任意の電圧と周波数の供給,③入力と出力電流の正弦波

化,④任意の負荷に対して電源力率 100 %が可能,⑤電源

への電力回生が可能であるなどの性質を持っているが残さ

れた課題も多い。しかし,最近注目されてきた理由は,回

路解析と制御技術の進展,過電圧保護回路の向上,逆阻止

IGBTなどパワー半導体デバイスの性能向上などが挙げら

れ,現在 10 kVA程度以下の中小容量の電力力行・回生が

繰り返し行われる交流電動機駆動に実用化が始まってきた。

低電圧エネルギー分野では,移動体通信や無線 LANな

どの無線通信機器のマイクロ波パワーMOSFETが携帯端

末信号処理用や基地局用のパワーアンプに適用されている。

また,携帯電話や PHS,ノート形パソコンの電池入力形

携帯端末機器には同期整流用パワーMOSFETが使われて

いる。0.5 V/200A の低電圧大電流用電源や小形・軽量化

による携帯性の向上,動作時間の長時間化,マルチメディ

ヤ機能化にはDT-MOSFETの適用も始まった。自動車用

電源システムの 42V 化も進んでおり,低耐圧パワー半導

体デバイスの高性能化には大きな期待が寄せられている。

世界的に電力化率が上昇している状況で再生可能エネル

ギー利用の普及などエネルギー環境問題の解決に向けた高

耐圧パワー半導体デバイスの絶え間ない開発努力と,ユビ

キタス情報社会のニーズにすばやく応える低耐圧デバイス

の技術開発に社会的な要請と期待はますます高まっている。

パワー半導体デバイスへの期待

松瀬 貢規(まつせ こうき)

明治大学理工学部教授 工学博士IEEE Fellow 清華大学客座教授

307(1)

特集1 半導体

特集1

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金田 裕和

MOSFET,IGBTを中心とするパ

ワー半導体の製造技術に従事。現

在,富士電機デバイステクノロ

ジー(株)半導体事業本部半導体工

場長。

松田 昭憲

電源 ICを中心とする CMOSパ

ワー IC 技術の研究開発に従事。

現在,富士電機デバイステクノロ

ジー(株)半導体事業本部半導体工

場副工場長。電気学会会員。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

21 世紀になりブロードバンド・ユビキタス情報社会の

進展が大きな潮流となっている。これを支える重要な技術

の一つがエネルギーの供給と制御技術である。パワーエレ

クトロニクス技術は,まさにこれからの社会を支える重要

技術といっても過言ではない。

富士電機の半導体事業は,この「パワーエレクトロニク

ス」をキーワードとして事業ドメインを定めて市場セグメ

ントを絞り込み,そこに富士電機独自の半導体技術を開発

して製品を提供するビジネスを展開してきている。富士電

機では,電池電源のような低電圧・小容量領域から数千

V・数百 Aを超える高電圧・大容量領域にわたって,そ

れぞれのアプリケーションに応じて,IGBT(Insulated

Gate Bipolar Transistor),MOSFET(Metal Oxide Semi-

conductor Field Effect Transistor),ダイオード,制御 IC

(Integrated Circuit)などのパワーエレクトロニクス用半

導体デバイスを開発し製品展開している。

本稿では,主な用途分野ごとに,富士電機の半導体製品

とその技術の動向について概括する。

産業用半導体

2.1 富士電機の IGBT

インバータに代表される産業用分野では,パワーエレク

トロニクスの根幹を支えてきた半導体デバイスは IGBTで

あるといえる。IGBTは,1980 年代後半から従前のバイ

ポーラトランジスタ以上の電圧・電流容量を有すること,

高速スイッチングが可能なことから,パワーエレクトロニ

クスの代表デバイスとして発展してきた。

富士電機では 1988 年から製品化を始め,以降一貫して

独自の最先端技術を開発して,低損失化と高速スイッチン

グ性能を実現した製品を市場に送り出してきた。図1に第

一世代から第五世代までの IGBTの製品経緯と主要なデバ

イス技術を示す。第一世代から第三世代においては,エピ

タキシャルウェーハを用い,注入効率とライフタイムコン

トロールの最適化,および加工技術の微細化により特性の

改善を行ってきた。第四世代からは設計コンセプトを大き

く進化させ,それまでの PT(Punch Through)構造から

ライフタイムコントロールを行わないで輸送効率を上げる

NPT(Non Punch Through)構造とすること,および

100 µm近くまで薄ウェーハ化した FZ(Floating Zone)

ウェーハを使用するプロセス技術革新を行ったことにより,

大幅な低損失化を実現した。

さらに最新の第五世代においては,FS(Field Stop)構

造を採用したことと,トレンチゲート構造により表面セル

密度を大幅に増加させたことで,低損失化と高速スイッチ

ング化の双方を達成している。図2,図3に 600Vおよび

1,200V IGBTを例としてデバイス構造の変遷を示す。

2.2 IGBTの高性能化

今後も IGBTは産業用の主流パワーデバイスとして進化

していくと考えられる。富士電機では IGBTの高性能化の

要請に対し,次の四つの観点から技術開発を精力的に進め

ている。第一のポイントは最先端のプロセス技術の適用で

ある。トレンチゲート構造などの微細表面構造は,オン電

(2)

(1)

半導体の現状と展望

308(2)

金田 裕和(かねだ ひろかず) 松田 昭憲(まつだ あきのり)

1985年

第一 世代 次世代

第二世代 (L,Fシ  リーズ)

第三世代 (J,Nシ  リーズ)

第四世代 (Sシ

 リーズ)

第五世代 (T,Uシ リーズ)

1990年 1995年 2000年 2005年

PT型(エピタキシャルウェーハ, ライフタイムコントロール) 薄ウェーハ技術

微細加工技術

トレンチ技術

NPT型(FZウェーハ)

FS型(FZウェーハ)

図1 IGBTチップ技術のロードマップ

特集1

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半導体の現状と展望

圧とターンオフ損失のトレードオフ特性を飛躍的に改善す

ることができる。ICで開発された技術との融合を進め,

さらに微細な加工プロセス技術を適用することにより特性

の改善を図っていく。第二のポイントは微細化を採用する

ことにより負荷短絡などの耐量低下を引き起こす問題と,

高速スイッチングにより顕在化してきているノイズ問題に

対するブレークスルーである。これに対しては,チップだ

けでなく,IGBTモジュールとして材料,配線構造,冷却

構造を含めた総合的な技術が必要になる,

。故障なし・ノイ

ズフリーを究極の目標として,お客様にとってより使いや

いデバイスを実現・提供していくことを目指している。第

三のポイントは,次の世代に向けたパワーエレクトロニク

ス技術の革新に寄与できる新しいコンセプトのパワーデバ

イスを創出していくことである。例えば,これまでの電力

変換方式をまったく新しく変革できる可能性を持つ逆阻止

IGBTについても積極的な研究開発を進めている。

これにより,今後もより高度なパワーエレクトロニクス

の進展を具現化するデバイスを提供していく計画である。

自動車用半導体

3.1 富士電機の自動車用半導体

自動車の電子化は,エネルギー効率向上および低排出化,

安全性・快適性向上などの目的から急速に進んでおり,こ

れに伴って自動車への半導体使用量は拡大の一途をたどっ

ている。自動車用半導体は,その使用環境の過酷さと安全

性の観点からきわめて高い信頼性が要求されると同時に,

小型・軽量・小面積・低コスト化が強く求められる。

富士電機では自動車用半導体として,使用目的に合わせ

て各種の製品を提供してきている。エンジン系統向けには,

吸気制御・大気補正用の圧力センサ,イグナイタ用スマー

ト IGBTやハイブリッド IC,過早着火防止用高圧ダイ

オードなどを製品化している。シャーシ系統では,トラン

スミッションコントロール,トラクションコントロール,

ブレーキコントロール,サスペンションコントロール,パ

ワーステアリングなどの用途に,MOSFET,スマート

MOSFET,ダイオードを提供している。ボディー系統で

は,パワーウィンドウ,パワーロック,オートミラー,ワ

イパなどに富士電機のMOSFET,ダイオードが使用され

ている。

3.2 自動車用半導体のインテリジェント化

自動車用MOSFETは,デバイス構造の革新と微細加工

プロセス技術の進展により性能改善を行ってきた。図4に

富士電機の自動車用MOSFETのロードマップを示す。パ

ワーステアリングやエアコンなど多くの用途に使用され,

今後も用途が広がる可能性がある低耐圧クラス品では,ト

レンチゲートの採用と微細加工技術により,現在では単位

面積あたりのオン抵抗が 0.8mΩと従来比約 40 %にまで改

善している。また,ハイブリッド車の DC-DCコンバータ

や電子バラスト用の高耐圧クラス品では,擬平面接合構造

の開発により,単位面積あたりのオン抵抗とスイッチング

時間はともに従来の 1/2 以下と飛躍的に改善してきた。

一方,より高度な電子制御が求められるに従い電子制御

ユニットは大規模化・複雑化すると同時に,搭載スペース

の制約から温度環境は年々上昇しており,半導体デバイス

に対してはより高い信頼性の達成がますます求められてい

る。富士電機ではこの要請に対し,従来のMOSFETと周

辺保護回路,状態検出・出力回路,ドライブ回路をワン

チップに集積するスマートMOS技術を開発し,デバイス

のインテリジェント化を実現することで応えてきた。

縦型構造のパワーMOSFETと制御回路を集積したイン

テリジェントデバイスでは,その分離構造が重要となる。

富士電機では安定した分離を最小のコストで実現できる技

術として,独自の自己分離型 CDMOS(Complementary

MOS/Double-diffused MOS)技術を開発し適用している。

図5,図6に代表的な構造を示す。自己分離方式では,出

力段となるパワーMOSFETと同一シリコン上に低・高耐

圧MOSFET,保護用ツェナーダイオードなどが各デバイ

(6)

(5)

(4)(3)

309(3)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

G E

C

GE GE GE

n- n+

p+基板

n+

n+バッファ

p

Nシリーズ C

n- n- n-

p+基板

n+バッファ

Sシリーズ 微細化

CTシリーズ NPT構造

CUシリーズ トレンチ構造

図2 600 V IGBTチップ断面構造の推移

G E

C

G E EG

n- n+

p+基板

n+

n+バッファ

p

Nシリーズ

n- n-

CSシリーズ NPT構造

CUシリーズ

FSトレンチ構造

図3 1,200 V IGBTチップ断面構造の推移

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半導体の現状と展望

スの pn 接合により分離・集積される。この構造は誘電体

分離構造や接合分離構造などの他方式に比べ,既存の

MOSFETに容易に周辺回路を集積でき,かつ大幅に低コ

スト化ができる優位性がある。

今後,自動車用半導体では,さらに小型化が進展すると

考えられる。富士電機では横型MOSFETを用い多チャネ

ル集積を実現できる統合 IC技術,搭載面積をさらに低減

できるチップオンチップ技術や CSP(Chip Size Package)

技術を積極的に開発し市場要求に応えていく。また,重要

性が高まっている環境対応として,これら半導体製品の鉛

フリー化を先行して進めていく計画である。

情報機器・電源システム用半導体

4.1 富士電機の情報機器・電源システム用半導体

IT 化の進展に伴い,パソコンをはじめとするディジタ

ル家電・携帯情報機器が急速に普及している。省資源,省

エネルギーの観点から低消費電力化がますます重要となっ

ており,これらの機器に搭載される電源システムは高効

率・低損失かつ小型化・薄型化・軽量化が強く求められて

いる。富士電機では電源システム用半導体として,AC-

DC および DC-DC 電源制御用 IC,MOSFET,SBD

(Schottky Barrier Diode),LLD(Low Loss fast recov-

ery Diode)を製品系列化し提供してきた。

富士電機の ICは高耐圧パワー技術,高精度 CMOS

(Complementary Metal Oxide Semiconductor)アナログ

技術,CMOSディジタル技術をコアとして,これらをワ

ンチップに集積するアナログ・ディジタル・パワー混載技

術を特徴としている。比較的小容量の AC-DC変換用には,

700 V 耐圧のパワー MOSFETを集積したパワー ICによ

り,最小部品点数で小型の ACアダプタを構成できる製品

を提供している。また,より大きな容量の AC-DC変換に

は,電圧モードおよび電流モード制御が可能な CMOS 制

御用 ICとMOSFET,SBDなど,電源システムを構成す

るのに必要な半導体デバイスをトータルに提供している。(7)

310(4)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

1985年 1990年 1995年 2000年 2005年

第一世代 (FAP-3Aシリーズ) (FAP-2シリーズ)

第二世代 (FAP-3Bシリーズ) (FAP-2Aシリーズ)

第三世代 (FAP-T1シリーズ)

(SuperFAP-Gシリーズ)

プレーナ型DMOS トレンチゲート 擬平面接合 超接合

6 m 4 m 3 m 1.5 m 0.8 m 0.5 m 0.35 m

3.5mΩ・cm2 800mΩ・nC

2.3mΩ・cm2 540mΩ・nC

1.4mΩ・cm2 260mΩ・nC

130mΩ・cm2 20Ω・nC

125mΩ・cm2 15Ω・nC

76mΩ・cm2 5.5Ω・nC

24mΩ・cm2 3Ω・nC

0.8mΩ・cm2 175mΩ・nC

0.65mΩ・cm2 125mΩ・nC

0.5mΩ・cm2 90mΩ・nC

R AR Q

R AR Q

製品変遷

デバイス 技術

デザイン ルール 性能指数 60V  on

 on  gd

600V  on

 on  gd

図4 自動車用MOSFETの技術推移

低耐圧NMOS 低耐圧PMOS 中耐圧NMOS 中耐圧PMOS ツェナーダイオード

n+ n+ p+ p+ n+ n+ p+ p+ n+ p+

pウェル pウェル pウェル pウェル

pツェナー nウェル

pエピタキシャル

p基板

nツェナー pツェナー

nオフセット

図5 自己分離方式パワー ICの断面構造(制御回路部)

n+ p+ n+ n+

nウェル

nツェナー nツェナー

pウェル

nウェル

pエピタキシャル

p基板

出力段MOSFET 縦型パワー ツェナーダイオード

図6 自己分離方式パワー ICの断面構造(パワーMOSFET部)

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半導体の現状と展望

DC-DC変換用では,各種の携帯機器アプリケーション

ごとに専用 IC化が進んでいる。これらの機器ではシステ

ムブロックごとに異なる電源電圧を必要とすることが多く,

複数出力をワンチップに集積したマルチチャネル ICが多

用されている。

また,情報機器用としては,今後の伸長が期待できる

FPD(Flat Panel Display)に向け,液晶バックライト制

御 IC,PDP(Plasma Display Panel)ドライバ ICを製品

化している。

4.2 パワー IC技術

携帯情報機器では電池が電源となる。また,画像表示や

高速なマイクロプロセッサが搭載されており,内部の回路

によって必要な電源電圧が異なっている。したがって,携

帯情報機器の電源では,多種類の電源を,高効率に,かつ

最小面積・体積で実現できることが重要となる。

これに対し富士電機では,いち早く独自の横型CDMOS

構造の開発に取り組み,複数のパワーMOSFETと CMO

S 回路をワンチップ化できるアナログ・ディジタル・パ

ワー混載技術を実現し,各種の製品を提供してきた。図7

に富士電機のパワー ICの技術ロードマップを示す。微細

加工技術の採用と独自の横型 DMOS構造により,パワー

MOSFETのオン抵抗の低減と大規模な制御回路搭載を可

能として,マルチチャネル化と高機能化に応えてきている。

今後さらにパワー MOSFETのオン抵抗低減と高速ス

イッチング性能向上を目指したデバイス技術として,図8

に示すようなシリコン上に三次元的にデバイスを形成する

技術や,受動部品を制御 ICと一体化して DC-DCコン

バータの飛躍的な小型化を図る研究開発を進めており,近

く製品への適用を図っていく予定である,

4.3 MOSFETの低損失化

AC-DC変換を行うスイッチング電源では,パワーMO

SFETのターンオフ損失とオン抵抗損失が全損失の大半を

占める。したがって,スイッチング電源の高効率化・低損

失化を実現するには,パワーMOSFETのターンオフ損失

とオン抵抗損失の双方を同時に低減する必要がある。さら

に,スイッチング電源の小型化要求に応えるためスイッチ

ング周波数は高周波化していくため,今後はターンオフ損

失に代表されるスイッチング損失低減がますます重要にな

ると考えられる。

富士電機では,このニーズに応えるため,独自の低損

失・超高速パワーMOSFET技術を開発し「Super FAP-G

シリーズ」として製品化してきた。「Super FAP-G」では

擬平面接合(Quasi-Plane-Junction)技術により,シリコ

ン限界値に対して 10 %以内のレベルにまで低オン抵抗化

を達成している。

富士電機の「Super FAP-G」により高耐圧パワー

MOSFETの性能はほぼ理論限界近くに到達したといえる

が,SJ-MOSFET(Super Junction MOSFET)技術はシ

リコンを使いながらシリコン限界を超えるブレークスルー

技術として注目されている。富士電機ではこの SJ-MOS

FET技術についても精力的に研究開発を進めており,近

く製品化の計画である。(10)

(6)

(9)(8)

311(5)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

1985年 1990年 1995年 2000年 2005年

バイポーラ

Bi-CDMOS(エピタキシャルウェーハ)

CDMOS(ノンエピタキシャルウェーハ)

トレンチ横型MOS

4 m 2 m 1.5 m 1 m 0.6 m 0.35 m

300mΩ・mm2 60mΩ・mm2 20mΩ・mm2 10mΩ・mm2R A

デバイス技術

デザイン ルール 性能指数 30V  on

図7 電源用パワー ICの技術推移

n+

n+

D S D

デバイスピッチ ゲート ポリシリコン

拡張ドレイン

p基板

pベース

nウェル

酸化膜

電極

図8 トレンチ横型パワーMOSFET集積パワー IC

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半導体の現状と展望

あとがき

富士電機は,「パワーエレクトロニクス」をキーワード

として,独自のパワーデバイス,IC 技術を開発し,顧客

と一体になってソリューション提案型のスマート化・イン

テリジェント化を実現した製品を開発し提供している。本

稿では富士電機の半導体の取組みについて,用途分野別に

概括的に紹介した。それぞれの技術・製品の詳細について

は本特集号の各稿をご参照いただきたい。

今後,ロボットやブロードバンドがますます個人の生活

に広く浸透した社会になることは確実視されており,それ

に伴いパワーエレクトロニクスの重要性はますます高まっ

てくる。富士電機ではこれからも,先進的で独自の半導体

技術を開発することにより,パワーエレクトロニクスの基

幹となる半導体デバイスを製品化していく。加えて,われ

われは「Quality is our message」をポリシーに据え,将

来にわたってお客様に確かな品質の製品を提供していく所

存である。

参考文献

関康和.IGBTの開発動向.電気学会論文誌C.vol.122-C,

no.6, 2002, p.174.

Otsuki, M. et al. Investigation on the Short-Circuit Ca-

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Otsuki, M. 1200V FS-IGBT Module with Enhanced

Dynamic Clamping Capability. Proceedings of ISPSD’04.

2004, p.339-342.

Nishimura, T. et al. New Generation Metal Base Free

IGBT Module Structure with Low Thermal Resistance.

Proceeding of ISPSD’04. 2004, p.374-350.

Naito, T. et al. 1200V Reverse Blocking IGBT with

Low Loss for Matrix Converter. Proceedings of ISPSD

’04. 2004, p.125-128.

Kobayashi, T. et al. High-Voltage Power MOSFETs

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小山正晃ほか.自動車用パワー半導体の鉛フリー化技術.

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Fujishima, N. A Low On-resistance Trench Lateral

Power MOSFET in 0.6 µm Smart Power Technology for

20-30V. International Electron Devices Meeting. 2002.

Hayashi, Z. et al. High Efficiency DC-DC Converter

Chip Size Module with Integrated Soft Ferrite. Proceed-

ings of 2003 IEEE International Conference Symposium.

2003.

大西泰彦,藤平龍彦.シリコン超接合デバイス.電子情報

通信学会論文誌C.vol. J85-C, no.11, 2002, p.968-977.

(10)

(9)

(8)

(7)

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

312(6)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

Page 9: 特集1半導体 特集2放射線システム · ワー半導体デバイスの限界性能を超えるsicデバイスは, 600v/50aのショットキーバリアダイオードが市販され

宮下 秀仁

IGBTモジュールの開発・設計お

よび応用技術の開発に従事。現在,

富士日立パワーセミコンダクタ

(株)松本事業所開発設計部チーム

リーダー。電子情報通信学会会員。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

汎用インバータや無停電電源装置(UPS)などの電力変

換機器には,常に高効率化・小型化・低価格化・低騒音化

が要求されており,そのインバータ回路に適用される電力

用半導体素子にも高性能化・低価格化・高信頼性が求めら

れている。近年,電力用半導体素子としてはその低損失性,

駆動回路の設計の容易さから IGBT(Insulated Gate Bipo-

lar Transistor)が最も普及している製品であり,富士電

機においても 1988 年の製品化以来,さらなる特性改善や

高信頼性化が進められてきた。

本稿では,第四世代 IGBTモジュール(Sシリーズ)に

対して大幅に特性改善された第五世代 IGBTモジュール

(Uシリーズ)について,その素子技術と製品系列を紹介

する。

新型 IGBTの特徴

2.1 トレンチゲート IGBT

富士電機ではトレンチ型のパワー MOSFET(Metal

Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を生産し

ており,高い信頼性を保証するための設計とプロセス技術

が適用されている。この技術を IGBTに応用したのがトレ

ンチ型 IGBTである。

図1にプレーナ型とトレンチ型のセル構造の比較を示す。

トレンチ型 IGBTでは,セル密度を大幅に増加させられる

のでチャネル部の電圧降下を最低限に抑えることができる。

また,プレーナ型 IGBT特有のチャネルに挟まれた JFET

といわれる部分がトレンチ型 IGBTでは存在しないのでこ

の部分の電圧降下を完全に削減でき,結果としてオン電圧

を大幅に低減することができる。

一方でトレンチ型 IGBTではチャネル密度が高いため,

一般的には短絡耐量が低いことが短所となるが,今回富士

電機が開発した構造では,MOSの総チャネル長を最適化

することにより,オン電圧を損なうことなく高い短絡耐量

を実現している。

2.2 NPT-IGBT

NPT(Non Punch Through) -IGBTと PT(Punch

Through)-IGBTの単位セル構造の比較を図2に示す。

NPT-IGBTは以下のような特徴を持っている。

Uシリーズ IGBTモジュール

313(7)

宮下 秀仁(みやした しゅうじ)

V-pn V-pn

R-ch

R-acc

R-JFET

R-drift

R-ch

R-acc

R-drift

n+

n+

pp

p+ p+

n-

n-

C C

(b)トレンチ型IGBT(a)プレーナ型IGBT

EG EG

図1 プレーナ型 IGBTとトレンチ型 IGBTの構造比較

特集1

(b)NPT-IGBT(a)PT-IGBT

100 m

350 m

EG

n+

n+バッファ

p

p+

p+

n-

C

n+

EG

n+p

n-

C

エピタキ シャルSi ウェーハ 使用

FZ-Si ウェーハ 使用

n+

図2 PT-IGBT と NPT-IGBT の構造比較

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Uシリーズ IGBTモジュール

コレクタ側からの注入が抑制されるのでライフタイム

コントロールが不要であり,高温でもスイッチング損失

が増加しない。

出力特性の温度依存性が正(高温でオン電圧が増加)

であるので並列使用に有利である。

負荷短絡耐量などの破壊耐量が高い。

コストメリットのある FZ(Floating Zone)ウェーハ

を使用でき,低結晶欠陥であるので信頼性も高い。

また,NPT-IGBTではコレクタ - エミッタ(C-E)間

耐圧を確保しつつ,オン電圧を低くすることが重要である。

オン電圧はウェーハが薄いほど低くなるが,C-E 間に最

大定格電圧が印加されても空乏層端が広がりきらない厚さ

とする必要があり,これが最小値となる。したがって,

C-E 間耐圧の低い素子ではその最適厚さは薄くなり,加

工は困難となる。600 V 耐圧 IGBTチップにこの NPT構

造を適用するにあたり,富士電機はウェーハ仕様の見直し

と,バックグラインド加工技術の精度向上を図り,最適な

ウェーハ厚の製造を量産技術として確立し,オン電圧の低

減を達成した。

ウェーハ厚を薄くしたさらなる効果として,ターンオフ

損失の低減が挙げられる。ターンオフ波形の比較例を図3

に示すが,PT型素子ではコレクタ側からの注入が多く,

ターンオフ時のキャリヤの再結合を促す目的のためライフ

タイムコントロールを実施している。この効果は高温では

緩和してしまうため,電流下降時間が長くなってターンオ

フ損失が増加する傾向がある。一方,NPT-IGBTではラ

イフタイムコントロールを実施していないのでその温度特

性がなく,ターンオフ波形は高温でもほとんど変わらない

のでターンオフ損失はほとんど増加しない。以上から

NPT-IGBTを使用することによりオン電圧とターンオフ

損失のトレードオフが改善され,これらの低減が同時に達

成された。

また,NPT-IGBTは n-ドリフト層が厚く,負荷短絡時

にはこの厚い層で電圧を支えるので温度上昇が緩和され,

結果として高い短絡耐量を得ることができる。ウェーハの

薄い 600V 耐圧品でも 22 µsの耐量が達成されている。

2.3 フィールドストップ(FS)構造

図4に NPT-IGBT と FS-IGBT の断面図を示す。

NPT-IGBTではオフ時に空乏層がコレクタ側に到達しな

いように n-ドリフト層を厚くする必要があるが,FS-IG

BTでは空乏層を止めるための FS 層が形成されているた

め,NPTに対してドリフト層の厚さを薄くでき,オン電

圧を低減することができる。また FS-IGBTではドリフト

層の厚さが薄いので過剰キャリヤが少なく,空乏層が伸び

切った状態での中性領域の残り幅が少ないため,ターンオ

フ損失を低減することができる。1,200Vと 1,700V 耐圧品

にこの FS 構造を適用することにより,オン電圧とターン

オフ損失のトレードオフが改善され,これらの低減が同時

に達成された。

新型 FWDの特徴

インバータ回路に適用される IGBTモジュールには通常

IGBTとともに FWD(Free Wheeling Diode)も内蔵さ

れるが,IGBTの改善に伴いこの FWDにも改善がなされ

るべきである。オン電圧による定常損失や逆回復損失の低

減はもちろん,特に IGBTの高速化に対する FWDのソフ

トリカバリー化は,サージ電圧の発生を抑制し,IGBTへ

のダメージ,周辺回路の誤動作などを抑制するうえで重要

な素子特性となる。富士電機ではこの FWDに使用する

ウェーハの仕様を最適化し,アノード側からの注入を抑制

する構造を採用し,さらに最適なライフタイムコントロー

ルの実施により,よりソフトなリカバリー特性を持つ新型

(4)

(3)

(2)

(1)

314(8)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

600V/50A素子

DCV =300V

CEV :100V/div

cI :25A/div

CEV :100V/div

cI :25A/div

GEV =±15V

GR =51Ω

cI =50A

jT =125℃

t:200ns/div

0

0

(a)PT-IGBT

600V/50A素子

DCV =300V

GEV =±15V

GR =51Ω

cI =50A

jT =125℃

t:200ns/div

(b)NPT-IGBT

図3 ターンオフ波形の比較

n+

p

p+

n-

C

(a)NPT-IGBTp+

n+

p

n-

C

(b)FS-IGBT

n+ n+

FS層

EG EG

図4 NPT-IGBT と FS-IGBT の構造比較

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Uシリーズ IGBTモジュール

の FWDを開発した。

図5にそのセル構造の比較を示す。新型 FWDは,この

構造によりキャリヤの注入を抑制し,逆回復時のピーク電

流が減少され,ソフトリカバリーのみならず逆回復損失も

低減されている。図6に順方向電圧と逆回復損失のトレー

ドオフ特性の例を示す。従来品よりも逆回復損失が改善さ

れた良好な結果が得られている。また,順方向電圧は高温

で約 1.6 V(Tj = 125 ℃)となるように設計されており,

従来品よりも低減されているため,インバータ回路適用時

のオン電圧損失も低減可能となる。さらに,IGBTと同様

に正の温度特性が得られているため,並列接続時の電流ア

ンバランスが緩和されるので,大容量インバータ回路など

への並列接続適用が容易となる。

Uシリーズ IGBTモジュールの系列

富士電機は,前述の IGBT技術と FWD技術を組み合わ

せ,またパワーサイクル耐量の高い第四世代 IGBTモ

ジュールのパッケージ技術を引き続き適用し,第四世代 S

シリーズ IGBTモジュールに対し大幅に特性改善された U

シリーズ IGBTモジュールの開発を完了し,系列化した。

図7にそのトレードオフ特性の 1,200 V 品の例を示す。オ

ン電圧とターンオフ損失が同時に低減され,トレードオフ

特性が第四世代品に比べて飛躍的に改善されており,イン

バータ回路に適用された場合に約 20 %の素子発生損失の

低減が期待できる。図8に Uシリーズ IGBTモジュール

のパッケージの代表例と,表1にその系列内容を示す。

600 V,1,200 V,1,700 Vの 3 種類の耐圧系列に,10 ~

3,600Aという広範囲な電流容量,および多彩なパッケー

ジが準備されており,さまざまな電力変換機器に適用可能

となっている。また,今回の製品化において,ベクトル制

御インバータ用としてシャント抵抗を内蔵したモジュール

も系列化した。そのパッケージ外形と等価回路を図9に示

す。三相インバータブリッジの AC出力端子にシャント抵

抗とその電圧検出端子を設けたものである。モータ出力電

流を外部電流検出器にて検知制御する従来の方式を電圧検

出で代替することが可能で,インバータ装置の簡素化・小

型化が可能となる。

315(9)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

p

n-

カソード

(a)従来型FWD

n+

p pp

n-

カソード

(b)新型FWD

n+

アノード アノード

図5 従来型 FWDと新型 FWDの構造比較

1.4 1.6 1.8 2.0 2.2 2.4

15

10

5

0

逆回復損失(mJ/pulse)

1,200V/150A FWDs

従来品

j=125℃ T

順方向電圧(V)

新型品

図6 順方向電圧と逆回復損失のトレードオフ特性

12

10

8

6

4

2

01.4 1.6 1.8 2.0 2.2 2.4

オン電圧〔 j=125℃〕(V)

2.6 2.8 3.0 3.2 3.4

T

1,200V/50A素子

Eターンオフ損失 off(mJ/pulse)

T j=125℃ V DC=600VI c=50AR G=推奨値 V GE=±15V

Pシリーズ

Nシリーズ

第四世代 Sシリーズ

第五世代 Uシリーズ/ FSトレンチ

図7 オン電圧とターンオフ損失トレードオフ特性

図8 Uシリーズ IGBTモジュールのパッケージ例

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Uシリーズ IGBTモジュール

あとがき

Uシリーズ IGBTモジュールの IGBT,FWD技術とそ

の特徴,および製品系列について紹介した。本製品は最新

の半導体技術とパッケージ技術を駆使し,より低損失な素

子となっており,インバータ回路装置の小型化・低損失化

に大きく貢献できるものと確信する。

富士電機では今後も素子の高性能化・高信頼性化に取り

組み,さらなる技術のレベルアップを図るとともにパワー

エレクトロニクスの発展に貢献していく所存である。

参考文献

Laska,T. et al. The Field Stop IGBT (FS IGBT)A

New Power Device Concept with a Great Improvement

Potential. Proc. 12th ISPSD. 2000, p.355-358.

百田聖自ほか.T, Uシリーズ IGBTモジュール(600 V).

富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.559-562.

小野澤勇一ほか.Uシリーズ IGBTモジュール(1,200 V).

富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.563-566.

星保幸ほか.Uシリーズ IGBTモジュール(1,700 V).富

士時報.vol.75, no.10, 2002, p.567-571.

(4)

(3)

(2)

(1)

316(10)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

表1 UシリーズIGBTモジュールの系列

汎用インバータ用

600V

小容量

1,200V

1,700V

小容量

パッ ケージ

3,600A2,400A1,600A1,200A10A 15A 20A 30A 50A

(5.5kW)

75A 100A

(11kW)

150A 200A

(22kW)

300A 400A

(40kW)

600A 800A

3,600A

2,400A

1,600A

1,200A

10A

15A

25A

(5.5kW)

35A

50A

(11kW)

75A

100A

(22kW)

150A

200A

(40kW)

300A

400A

450A

(75kW)

600A

800A

VCES定格

(インバータ     定格)

定格

PIM

PIM/ 6 in1

6 in1

2 in1

2 in1/ 1 in1

I C

パッ ケージ

VCES定格 (インバータ

    定格)

定格 I C

PIM 6 in1

PIM 6 in1

EP2 EP3

PIM EP2EP3

6in1

6 in1 2 in1 1in1

NewPC2NewPC3

M232

NewPC3 (シャントR入り)

ベクトル制御用

EconoPack-Plus*(6in1)

EconoPack-Plus(6in1) M248

M233 M247M234 M142 M143

M142 M143

M249M235 M127

M138

NewPC2

NewPC3

M232 M233 M247

高機能インバータ用 *EconoPack-Plus:Eupec GmbH. Warsteinの登録商標

14 15

33 32

25 2427 2630 21 20

215

6U

29,30

22

78

R2

271

2

28

34

R1

179

10

18

W

1112

R3

15,16

13,14

31,32

33,34

23,24 19,20V

3.81

20.5

17

62

50

122

110

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

図9 シャント抵抗内蔵6個組モジュール

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関川 貴善

インテリジェントパワーモジュー

ルの開発に従事。現在,富士日立

パワーセミコンダクタ(株)松本事

業所開発設計部。

遠藤  弘

インテリジェントパワーモジュー

ルの開発に従事。現在,富士日立

パワーセミコンダクタ(株)松本事

業所開発設計部。

脇本 博樹

パワーデバイスの研究・開発に従

事。現在,富士電機アドバンスト

テクノロジー(株)デバイス技術研

究所。電気学会会員。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

IPM(Intelligent Power Module)は駆動回路,保護回

路などの機能をモジュールに組み込んだインテリジェント

型パワーデバイスであり,モータ駆動(汎用インバータ,

サーボ,エアコン,エレベータなど)や電源(UPS,太陽

光発電など)などに広く適用されている。

これらの装置では小型化,高効率化,低ノイズ化,長寿

命化,高信頼性化などが要求されている。

このような要求に対し富士電機では,1997 年に業界で

初めて IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)チップ

過熱保護機能を内蔵するとともに,オールシリコン化によ

る部品点数の削減により高信頼性化を目的とした R-IPM

シリーズを開発した。

2002 年には, IGBT チップ構造をこれまでの PT

(Punch Through)からキャリヤライフタイムコントロー

ルが不要な NPT(Non Punch Through)に変更すること

により高温時のターンオフ損失を低減し,なおかつプレー

ナゲートの微細化と薄ウェーハプロセス技術の確立を行い,

定常損失の低減を実現した R-IPM3シリーズを開発した。

今回,さらなる低損失化を目的に,トレンチ NPT構造

を適用した IGBTの開発により定常損失の低減を図るとと

もに,新構造 FWD(Free Wheeling Diode)の開発を行

いスイッチング損失とノイズのトレードオフの改善を行っ

た。この二つの技術を適用した Uシリーズ IGBT-IPM

(U-IPM)の開発を行ったので紹介する。

U-IPMの開発コンセプトと製品系列

U-IPMの開発コンセプトは,以下のとおりである。

低損失化の実現

新型パワー素子の開発とドライブ能力の最適化により低

損失化を実現し,装置の高キャリヤ周波数化による制御性

能向上に寄与する。また,同一キャリヤ周波数動作時にお

いては,装置の高出力化が可能となる。

従来品のパッケージ継承

従来品と同一パッケージであることにより,装置設計を

変更せず,IPMの置換えにより装置性能のアップが可能

となる。

表1に 600 V 系 U-IPMの製品系列,特性および内蔵機

(2)

(1)

(1)

Uシリーズ IGBT-IPM(600 V)

317(11)

関川 貴善(せきがわ きよし) 遠藤  弘(えんどう ひろし) 脇本 博樹(わきもと ひろき)

特集1

表1 U-IPMの製品系列,特性および内蔵機能

素子数

インバータ部 ブレーキ部 内蔵機能 パッケージ 型式

上下アーム共通 上アーム 下アーム

Dr

(V) VDC

(V) VCES

型 式

6MBP 20RUA060

6MBP 50RUA060

6MBP 80RUA060

6MBP100RUA060

6MBP160RUA060

7MBP 50RUA060

7MBP 80RUA060

7MBP100RUA060

7MBP160RUA060

4506in1

7 in1

600

450 600

(A) I C

20

50

80

100

160

50

80

100

160

(W) PC

84

176

283

360

431

176

283

360

431

(A) I C

30

50

50

50

UV

TjOH

OC

×

P619

P610

P610

P611

P611

P610

P610

P611

P611

ALM

×

×

×

×

×

×

×

×

×

OC

ALM

TcOH

×

(W) PC

120

176

176

176

Dr:IGBT駆動回路,UV:制御電源不足電圧保護,TjOH:素子過熱保護,OC:過電流保護,ALM:アラーム出力,TcOH:ケース温度 ※6MBP20RUA060は,Nラインでシャント抵抗による過電流検出方式を採用

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Uシリーズ IGBT-IPM(600 V)

能を示す。U-IPMは従来の R-IPMシリーズと内蔵機能,

パッケージで互換性を維持し,定格電流は 6 個組で 20 ~

160A,7 個組(ブレーキ用 IGBT内蔵)で 50 ~ 160Aを

ラインアップしている。図1にパッケージの外観を示す。

パワー素子の特徴

パワー素子としては第五世代である Uシリーズ IGBT

(U-IGBT)を適用している。U-IGBTはこれまでに培っ

た FZ(Floating Zone)ウェーハ,薄ウェーハプロセス技

術,キャリヤの注入抑制,輸送効率の向上を基本設計とし

たうえで,トレンチゲート技術を融合させている。

図2は従来のプレーナ型 IGBTとトレンチ型 IGBTの構

造を比較したものである。トレンチゲートを採用したこと

により,表面セル密度の増加によるチャネル部の電圧降下

(R-ch)の低減,およびプレーナ型デバイス特有の JFET

部分(R-JFET)がなくなることよる電圧降下低減によっ

て低オン電圧が実現した。また,短絡耐量の確保は表面構

造設計の最適化により実現している。図3は U-IGBTと

従来の IGBTの断面構造の推移を示したものであり,表2

は適用技術を比較したものである。

FWDは U-IGBTに合わせて,ウェーハ仕様の最適化,

アノード側からの注入抑制,最適なライフタイムコント

ロールなどの新設計により,逆回復時のピーク電流の低減,

発生損失の低減とともにソフトリカバリーな特性を実現し

た。

U-IPMの損失

4.1 発生損失比較

IPMの新製品に対する市場要求として低損失化がある。

これは,①装置の制御性向上を狙った高キャリヤ周波数化,

②同じキャリヤ周波数での出力電流アップの二つを実現さ

せることを目的としている。ここでは,既存機種と U-

IPMの発生損失について述べる。

図4に U-IPMと,既存素子である R-IPM,R-IPM3を

キャリヤ周波数 4,8,16 kHz,電流 50Arms(1/3 定格)

で使用した場合の損失比較を示す。この図から分かるよう

に,今回開発した U-IPMは,トータル損失において対

R-IPMで約 22 ~ 28 %,対 R-IPM3で約 11 ~ 12 %の低

損失化を実現している。特に,R-IPMとの比較で見た場

合では,R-IPMをキャリヤ周波数 4kHzで使用した場合

の損失よりも,U-IPMをキャリヤ周波数 8kHzで使用し

た場合の損失の方が低くできるため,同一パッケージを使

用している U-IPMへ置き換えることにより,キャリヤ周

波数を 4 kHzから 8 kHzにすることが可能である。また,

(3)

(2)

318(12)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

P619

P610

P611

図1 U-IPMの外観

n+ ソース

p- チャネル

エミッタ 電極

(a)プレーナ型 (b)トレンチ型

層間絶縁膜

ゲート電極

ゲート 酸化膜

n-シリコン 基盤

n+ ソース

p- チャネル

R-ch

R-acc

R- JFET

R- drift

R- driftR- accR- ch

V- pn

V- pn

p+層

コレクタ 電極

図2 プレーナ型 IGBTとトレンチ型 IGBTの構造比較

n+バッファ

n- pn+ n+

p+基板

n- n-

p p

U-IPM トレンチNPT構造

R-IPM3 プレーナNPT構造 表面微細化

R-IPM プレーナPT構造

C

G EG EG E

C

C

図3 600 V IGBTチップ断面の推移

表2 IGBT技術の推移

IGBT技術 R-IPM

N-IGBT

R-IPM3

T-IGBT

U-IPM

U-IGBT

トレンチ

ウェーハ

ウェーハ厚

構 造

ゲート構造

ライフタイムコントロール

キャリヤ注入

輸送効率

エピタキシャル

約350 m

PT

あり

高注入

低効率

プレーナ

FZ

約100 m

NPT

なし

低注入

高効率

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Uシリーズ IGBT-IPM(600 V)

図5に示した fc = 4 kHzにおける電流と発生損失の関係

では,R-IPMと同等損失とした場合,U-IPMは R-IPM

に対して 24.5 %,R-IPM3に対して 13.7 %の出力電流

アップが可能である。

今回の損失低減の改良ポイントは,全体損失の 50 %以

上を占める定常損失と,R-IPM3のスイッチング損失の中

に占める割合の大きいターンオン損失の低減である。次に,

このおのおのの低減に関して述べる。

4.2 定常損失低減

図6に U-IPMと R-IPM3の IC-VCE(sat)特性を示す。

この図から,U-IPMは IC = 150Aにおいて対 R-IPMで

0.45 V,対 R-IPM3で 0.55 V VCE(sat)が低くなっているこ

とが分かる。これは, 章で紹介したトレンチ型 IGBTに

よる VCE(sat)低減効果である。

4.3 ターンオン損失と放射ノイズ

図7にターンオン時の電流と電圧の模式図を示す。この

図のように一般的には,dv/dtを大きくすることにより損

失の低減ができ,di/dtを小さくすることにより放射ノイ

ズの低減ができる。しかし,ターンオン動作を一般的な手

法であるゲート抵抗のみで制御した場合,表3のようなト

レードオフの関係となってしまい両立化することは困難で

ある。

今回,U-IPMでは,ゲート抵抗を小さくし di/dtを大

きくした際に増える放射ノイズを下記の二つの技術の適用

319(13)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

発生損失(W)

=4kHzf c =8kHzf c =16kHzf c

20

0

40

60

80

100

R-IPM:6MBP150RA060 R-IPM3:6MBP150RTB060 U-IPM:6MBP160RUA060

 =125℃,  =300VT j E d  =15V,  =50ArmsV cc I o力率=0.85, =1λ

P rrP fP offP onP sat

R-IPM

45.50

26.9

6.13

7.01

4.121.34

R-IPM3

40.55

26.3

5.76

3.033.901.59

U-IPM

22.2

4.21

3.85

3.891.22

R-IPM

59.80

26.7

12.3

14.0

4.12

2.68

R-IPM3

50.90

26.2

11.6

6.04

3.903.18

U-IPM

44.57

22.1

8.46

7.68

3.892.44

R-IPM

88.79

26.7

24.7

27.9

4.12

5.37

R-IPM3

71.67

26.1

23.2

12.1

3.89

6.38

U-IPM

63.08

22.0

17.0

15.3

3.89

4.89

35.37

図4 シリーズごとの発生損失(U-IPM,R-IPM3,R-IPM)

100

150

50

0

発生損失(W)

120 100 80 60 40 200

R-IPM

R-IPM3

U-IPM

53A

58A

66A

(Arms) I o

R-IPM:6MBP150RA060 R-IPM3:6MBP150RTB060 U-IPM:6MBP160RUA060

 =125℃,  =300VT j E d =4kHz,  =15VVccf c力率=0.85, =1λ

図5 電流と発生損失(U-IPM,R-IPM3,R-IPM)

(V) V CE(sat)

(A)

I C

1.5 2 2.5 3 3.510.50

50

0

100

150

R-IPM3

R-IPM

U-IPM

 =125℃,   =15VT jV ccIPM端子での  V CE(sat)

図6 IC-VCE(sat)特性(U-IPM,R-IPM3,R-IPM)

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Uシリーズ IGBT-IPM(600 V)

により抑え,放射ノイズを増やすことなく di/dtを大きく

してターンオン損失を低減することができた。

ソフトリカバリー化した新規 FWDの適用により,

dv/dtを抑制した。

ゲート抵抗が小さくなったことにより大きくなった

di/dtをゲート-エミッタ間の容量を最適化することに

より dv/dtを小さくすることなく最適化した。

この適用により,全電流領域を同一のゲート抵抗で制御

しても,図8のように放射ノイズを R-IPM3と同等レベ

ルで維持し,さらなる低損失化を行うことができた。この

ため,製品全体の発生損失は,電流に対して直線的になっ

ており,実使用するにあたり容易に発生損失・温度上昇の

推定を行うことが可能である。

あとがき

NPTトレンチ構造である Uシリーズ IGBTチップを用

いた 600 V U-IPMの紹介を行った。この U-IPMは,さ

らなる低損失化を必要とする市場において十分に適用でき

るものと考える。今後も富士電機では,市場要求を満足す

る新しい IPMの開発を行っていく所存である。

参考文献

渡辺学ほか.インテリジェントパワーモジュール「R-

IPM3, Econo IPMシリーズ」.富士時報.vol.75, no.10,

2002, p.572-576.

百田聖自ほか.T, Uシリーズ IGBTモジュール(600 V).

富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.559-562.

重兼寿夫ほか.パワー半導体の現状と動向.富士時報.

vol.75, no.10, 2002, p.551-554.

(3)

(2)

(1)

(2)

(1)

320(14)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

低ノイズ

低損失

V GE

V CEI C

t 1 t 2

:電流ピークまで t 1:電流ピークから電圧ゼロまで t 2

を小さくして  が長くなる→低ノイズ / tdi dt 1

/dv dtを大きくして  が短くなる→低損失 t 2

図7 ターンオン波形と損失,放射ノイズの関係

表3 ゲート抵抗とターンオン特性

特 性

区 分

ゲート抵抗 RG

di dtターンオン

/

小さい

大きい

dv dtターンオン

/

小さい

大きい

増える

減る

損失

減る

増える

ノイズ

測定条件:サーボアンプ-アンテナ間=2m,垂直方向,励磁動作

ノイズレベル(dB)

周波数(MHz)

(a)R-IPM3(150RTB)

(b)U-IPM(160RUA)

周波数(MHz)

8030

50

100

ノイズレベル(dB)

80

130

13030

50

100

図8 放射ノイズ

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西村 芳孝

IGBTモジュールの構造開発に従

事。現在,富士日立パワーセミコ

ンダクタ(株)松本事業所開発設計

部。

望月 英司

半導体パッケージのコア技術開発

に従事。現在,富士日立パワーセ

ミコンダクタ(株)松本事業所開発

設計部チームリーダー。エレクト

ロニクス実装学会会員。

高橋 良和

パワー半導体の設計・開発に従事。

現在,富士日立パワーセミコンダ

クタ(株)松本事業所開発設計部グ

ループマネージャー。工学博士。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

近年,電機製品の省エネルギー化の要求により IGBT

(Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールは従来の

産業用途から,家庭用電気製品など,適用範囲が拡大して

いる。この家庭用電気製品を中心とする低容量帯では低価

格,軽量・コンパクトな IGBTモジュールの要求が高い。

富士電機はこの需要に応えるべく,Small Packシリー

ズの開発を完了し,生産を開始している。このシリーズで

は,放熱用金属ベースを持たない放熱用ベースフリー構造

を用い低価格,軽量の IGBTモジュールを実現している。

本稿では,新絶縁基板を用いることにより熱抵抗をさら

に 30 %改善した放熱用ベースフリー構造について紹介す

る。

設計コンセプト,

一般的に放熱用ベースフリー構造は放熱用金属ベース付

き構造と比較し熱抵抗が大きく,産業用途など過酷な使用

条件下では適用が難しく,現状では,電力容量の小さな領

域でのみ使用され,新しい技術アプローチなしでは,中・

大電力容量への展開は厳しい状況である。

図1に,一般的な IGBTモジュールの断面図を示す。図

1 の放熱用金属ベース付き構造では,DCB基板(セラ

ミック絶縁基板)が放熱用金属ベースにはんだ付けされ,

ベースが冷却フィンに取付けされる。図1 の放熱用ベー

スフリー構造では,DCB基板が直接冷却フィンに取付け

される。

熱を効率よく冷却フィンに伝えるためには,フィンとモ

ジュールを,薄いサーマルコンパウンドを用いてすきまな

く埋める必要がある。実際はねじ止めにより,フィンとモ

ジュール間の面圧を確保することが重要であり,ねじ止め

の際,モジュールの破損を防ぐために,モジュール自身の

機械的強度を確保する必要がある。現行の放熱用ベースフ

リー構造は,この機械強度を確保するために,DCB基板

のアルミナセラミックス部分を厚くすることで対応してい

る。この結果として放熱用金属ベース付き構造に比べ,熱

抵抗が大きくなってしまう。放熱用ベースフリー構造の適

用を制限している原因である。

図2に富士電機の 6 in 1 IGBTモジュールを示す。各構

造による電力容量は,図2 の放熱用金属ベース付き構造

では,IGBTモジュールの単位面積あたり 4.7W(max)/

mm2 容量に対し,図2 の放熱用ベースフリー構造は 3.5

W(max)/mm2までの容量での使用である。

このような背景から,IGBTモジュールの単位面積あた

りの,使用可能な電力容量を大きくすると同時に,軽量・

コンパクト,低コストを実現するための検討,具体的には

低熱抵抗・高強度の DCB基板開発を行った。

(b)

(a)

(b)

(a)

(2)(1)

新絶縁基板を用いた次世代 IGBTモジュール技術

321(15)

西村 芳孝(にしむら よしたか) 望月 英司(もちづき えいじ) 高橋 良和(たかはし よしかず)

IGBTチップ

冷却フィン 冷却フィン

DCB基板

DCB基板

放熱用金属ベース

(a)放熱用金属ベース付き構造 (b)放熱用ベースフリー構造

IGBTチップ

図1 IGBTモジュールの断面図

特集1

PC2

(a)放熱用金属ベース付き構造

22kW(75A 1,200V) 面積 107×44(mm) 22kW/4,708mm2=

4.7W(max)/mm2

Small Pack

(b)放熱用ベースフリー構造 (低容量帯/低コスト)

7.5kW(35A 1,200V) 面積 63×34(mm) 7.5kW/2,142mm2=

3.5W(max)/mm2

図2 6 in1 IGBTモジュール

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新絶縁基板を用いた次世代 IGBTモジュール技術

新アルミナ絶縁基板の設計

3.1 IGBTモジュール構造の違いによる特性比較

表1に現行の放熱用ベースフリー構造,放熱用金属ベー

ス付き構造における特性を示す。放熱用ベースフリー構造

では,IGBTモジュールの機械強度を確保するために厚さ

0.635mmのアルミナセラミックスを用いている。一方,

十分な機械的強度を持つ放熱用金属ベース付き構造では,

アルミナセラミックス厚を 0.32mmまで薄くすることが

可能である。

この違いによる熱抵抗は,放熱用ベースフリー構造では

放熱用金属ベース付き構造の 1.6 倍である。

3.2 熱伝達阻害要因のメカニズムと改善策

図3に,放熱用ベースフリー構造 IGBTモジュールの断

面図を示す。IGBTチップの接合部から発生した熱は,

DCB基板を通り放熱フィンに抜ける。DCB基板絶縁部の

アルミナセラミックスの熱伝導率は 20W/(m・K)で,電

気回路として使用されている銅の熱伝導率は 390W/(m・

K)であるので,DCB基板のアルミナセラミックス層は

IGBTチップから発生した熱が通過しにくい熱抵抗層に

なっている。

熱を通過しやすくする方策は,「熱抵抗層を少なくする」

「単位面積あたりの熱流量(熱密度)を下げる」ことが有

効となる。この具体的な改善案としては次の二つがある。

アルミナセラミックス層の厚みを薄くする。

銅はくを厚くすることで,熱を分散させ,アルミナセ

ラミックスの単位面積あたりの熱流量を小さくする。

これらにより,DCB基板の熱抵抗を下げることで,IG

BTチップの温度を効率的に下げることができる。また,

銅はくの厚みを厚くすることにより,DCB基板自体の機

械強度の向上が見込まれる。

3.3 FEM解析結果

次に効果の検証を行うために第 1ステップとして,FE

M(有限要素法)による定常熱解析を実施した。解析条件

は,IGBTチップサイズ 9.25mm角,DCBセラミックス

サイズ 33 × 30(mm),DCB 表面の銅回路サイズ 25 ×

17(mm)の三次元 1/2モデルに DC 80A印加とした。定

常熱解析においてアルミナセラミックスの厚み,銅はく厚

みを変化させ,IGBTチップ温度との影響解析を実施した。

結果を図4に示す。

この結果から,アルミナセラミックス厚を 0.635mmか

ら 0.32mmに減少させることにより,IGBTチップ温度は

23 ℃下がることが分かる。さらにアルミナセラミックス

厚 0.32mmのまま銅はく厚を 0.25mmから 0.6mmに増加

させることで,チップ温度がさらに 32 ℃下がることが分

かる。

次に,IGBTチップ温度を 126 ℃に固定して定常熱解析

を実施し,銅はくの厚みと熱広がりの関係について解析を

行った。この結果を図5に示す。

(2)

(1)

322(16)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

表1 IGBTモジュール構造比較

DCB 基板特性

R th(j-c)

現行の放熱用 ベースフリー構造

アルミナ厚み

曲げ強度

0.635mm

108N

100

放熱用金属 ベース付き構造

0.32mm

53N

3.0mm

62

金属ベース厚み

熱抵抗比

IGBTチップ

IGBTチップ

厚く

厚く

薄く

放熱フィン

サーマルグリース

銅 390W/(m・K)

アルミナ 20W/(m・K)

(a)現行の放熱用 ベースフリー構造

(b)新構造

:0.25mmt

:0.635mmt

:0.25mmt

熱広がり

図3 放熱用ベースフリー構造断面模式図と熱特性

IGBTチップ

(チップ温度  126℃定常状態)

銅回路厚み 0.25mm

銅回路厚み 0.6mm

表面銅はく

印加電力

アルミナ厚み

銅回路厚み

109W

0.32mm

0.25mm

150W

0.32mm

0.6mm

 =126℃ T j  =126℃ T j

図5 DBC基板銅回路厚と熱伝導面積の関係のシミュレーショ

ン結果

IGBTチップ

①セラミックスを薄く

現行の放熱用 ベースフリー構造

アルミナ厚 0.32mm

銅回路厚 0.6mm

アルミナ厚

銅回路厚

0.635mm

0.25mm

0.32mm

0.25mm

0.32mm

0.6mm

 =181℃ T j  =158℃ T j  =126℃ T j

Δ 23deg Δ 32deg

②銅回路を厚く

表面銅はく

図4 放熱用ベースフリー構造と熱特性のシミュレーション結果

(DC 80 A定常状態)

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新絶縁基板を用いた次世代 IGBTモジュール技術

DCB基板銅はく厚 0.6mmにおいて通常の銅はく厚 0.25

mmと比較し熱が広がっていることが分かる。この結果か

ら,銅はくを厚くすることでアルミナセラミックスを通過

している熱流密度は小さくなっていることが分かる。

さらに,アルミナセラミックス厚 0.32mm,0.635mm

の 2 種類について,銅はく厚とチップ温度の相関関係につ

いて定常熱解析を実施した。この結果を図6に示す。

アルミナセラミックス厚の減少,銅はく厚の増加は

IGBTチップ温度を下げるために有効な手段であることが

分かる。また,同条件による定常熱解析において,放熱用

金属ベース付き構造での場合,IGBTチップ温度が 125 ℃

であった。放熱用ベースフリー構造で IGBTチップ温度

125 ℃を実現させるためには,アルミナセラミックス厚

0.32mm,銅はく厚 0.6mmを選択することで,同等の熱

抵抗性能を得られることが分かった。

実機による実験・検証結果

以上の解析結果の検証をするため,DCBテストピース

による過渡熱抵抗,定常熱抵抗の実測,および DCB基板

の機械特性の測定を実施した。

4.1 過渡熱抵抗

IGBTチップに DC 80 Aを印加し,通電時間と IGBT

チップ温度の関係について,DCB基板 3種類を用い調査

を実施した(図4の FEMシミュレーションと同条件)。

図7に通電時間とチップ温度の関係を示す。

第一に通電後 1秒経過時において,現行の放熱用ベース

フリー構造(アルミナセラミックス厚 0.635mm,銅はく

厚 0.2mm)では,放熱用金属ベース付き構造(DCB:ア

ルミナセラミックス厚 0.635mm,銅はく厚 0.2mm,ベー

ス厚 3mm)と比較した場合,IGBTチップ温度は 85 ℃高

いことが分かる。

第二として,放熱用ベースフリー構造のまま,DCB基

板のアルミナセラミックス厚を 0.635mmから 0.32mmに

減少させると IGBTチップ温度が約 20 ℃下がることが分

かる。(図7の①)。

第三に,DCB 基板のアルミナセラミックス厚を 0.32

mmに,かつ銅はく厚を 0.6mmに増加させると銅回路厚

0.25mm(図7の②)と比較し IGBTチップ温度は 66 ℃下

がることが分かる。

さらに第四として,セラミックス厚を 0.32mm,銅はく

厚を 0.6 mmにすることにより,現行の放熱用ベースフ

リー構造と比較し IGBTチップ温度が 86 ℃下がることが

分かる。

この値は,放熱用金属ベース付き構造の IGBTチップ温

度とほぼ同じ値である。以上のことから DCB基板のアル

ミナセラミックス厚を薄くすること,銅はく厚を厚くする

ことは過渡熱抵抗の改善にきわめて有効であることを検証

した。

4.2 定常熱抵抗

過渡熱抵抗測定と同一条件にて,定常熱抵抗の測定を実

施した。図8に IGBTチップの定常状態におけるサーモグ

ラフ写真を示す。アルミナセラミックス厚 0.32mm,銅は

く厚 0.6mmを用いた新しい放熱用ベースフリー構造では,

IGBTチップ温度は,現行の放熱用ベースフリー構造に比

べ,62 ℃下がり,放熱用金属ベース付き構造とほぼ同じ

であった。この実験結果から DCB基板のアルミナ厚を薄

くすること,銅回路厚を厚くすることは,定常熱抵抗の改

善においても有効であることを検証した。

4.3 DCB基板の機械的特性

図9に DCB基板の断面写真を示す。 が現行の放熱用

ベースフリー構造に用いられている DCB基板, が今回

開発した厚銅はく DCB基板である。

一般的な純度 96 %のアルミナセラミックスに銅はく厚

(b)

(a)

323(17)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

IGBTチップ温度(℃)

DCB基板回路厚(mm) 0.50.40.30.20.1 0.6 0.7 0.8

120

140

160

180

200

100

0.635mm

0.32mm

アルミナセラミックス厚

図6 DCB基板回路厚と IGBTチップ温度の関係

0.1 1 100.010.001

80

100

120

140

160

180

200

220

60

40

20

IGBTチップ温度(℃)

通電時間(s)

アルミナ厚 0.32mm

銅回路厚 0.6mm

放熱用金属 ベース 付き構造

現行の放熱用 ベース フリー構造

↓①

↓②

図7 通電時間と IGBTチップ温度の関係

現行の放熱用 ベースフリー構造

186℃

開発品

124℃

放熱用金属 ベース付き構造

120℃

図8 サーモグラフ写真(定常状態)

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新絶縁基板を用いた次世代 IGBTモジュール技術

0.4mm以上接合の直接接合を行うと,アルミナセラミッ

クスと銅の熱膨張係数差によりアルミナセラミックス接合

部にクラックが発生する。純度 96 %のアルミナセラミッ

クスの曲げ強度は 400MPa 程度であり,DCB基板として

厚銅回路を接合するのには不十分である。

そこでアルミナセラミックスにジルコニアを添加するこ

とにより機械強度の向上を図り,曲げ強度を 700MPaま

で向上させることにより,銅はく厚 0.6mmを接合するこ

とに成功した(表2)。

現行の放熱用ベースフリー構造と比較し,この新しい

DCB基板を用いた構造は,アルミナセラミックスが薄い

にもかかわらず,銅はく厚を増したことによりトータルで

は機械強度は約 30 %向上した。

銅はくを厚くすること,薄いジルコニア添加アルミナセ

ラミックスを用いることにより,現行の放熱用ベースフ

リー構造と比較しモジュールの機械強度向上,低熱抵抗化

を実現した新しい放熱用ベースフリー構造を可能とした。

4.4 信頼性試験評価と結果

銅はくを厚くしたことにより,銅回路の見かけ熱膨張係

数が増加し,シリコンチップ下はんだの劣化,アルミナセ

ラミックスの割れなどが懸念された。ヒートサイクル試験,

パワーサイクル試験を実施し,新しい DCB基板による,

放熱用ベースフリー構造における信頼性を調査した。

試験条件-40 ~+125 ℃にてヒートサイクル試験を 500

サイクルまで実施し,IGBTチップ下はんだの劣化,はん

だ劣化による熱抵抗変化,アルミナセラミックス割れがな

いことを確認した。

また,パワーサイクル(断続運転)試験は試験条件

ΔTj-c = 75 degにて実施した。熱抵抗,その他の電気特

性についても 350 kサイクルまで変化が見られない。以上

の結果から,新 DCB基板を用いた IGBTモジュールは,

従来と同等の信頼性特性を持つことが分かる。

製品評価結果

表3に新しい放熱用ベースフリー構造を適用した Small

Pack 評価結果を示す。

新しい放熱用ベースフリー構造を適用することにより,

現行の Small Packと比較し熱抵抗を 30 %改善することが

(3)

324(18)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

(a)現行の放熱用ベースフリー構造DCB基板

アルミナ=0.635mm

銅回路=0.25mm

銅回路=0.25mm

(b)開発品

アルミナ=0.32mm

銅回路=0.6mm

銅回路=0.6mm

図9 DCB基板断面写真

表2 セラミックスの種類と銅はくダイレクトボンディングの

   限界値

DCB基板回路厚(mm)

アルミナ

ジルコニア 添加アルミナ セラミックス

セラミックス厚:0.32mm ○:可  ×:不可

0.3

0.4

×

0.5

0.6

0.7

×

表3 新DBCによるモジュール熱抵抗比較

R th(j-f) 熱抵抗比 100

現行の放熱用 ベースフリー構造

71

新構造

Tj-c

Δ (deg)

(Arms) I o

20100 30 40 50

5

0

10

15

20

25

30

35

40

45

50

現行の放熱用ベースフリー構造

新構造

7.5kWinv. 150%

11kWinv. 150%

図10 富士電機の IGBTチップ特性

容量

モジュールサイズ

5.3W/mm2PC2

PC3100A (22kW)

50A(11kW)

35A(7.5kW)

75A

放熱用ベースフリー構造

25A(5.5kW)

10A

4.7W/mm2

3.5W/mm2

21.5 48.4 75.6(cm2)

放熱用金属ベース付き構造

図11 富士電機の1,200V IGBTモジュール系列

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新絶縁基板を用いた次世代 IGBTモジュール技術

できた。また,新しい放熱用ベースフリー構造を適用した

Small Packにおいて十分なモジュールの機械強度,信頼

性を持つことを確認した。

図 に,Small Packに使用されている富士電機の IGBT

チップ特性(ΔTj-cと出力特性)を示す。現行の放熱用

ベースフリー構造の Small Packは最大 7.5 kWインバータ

システムに使用されている。この新 DCB基板を適用する

ことにより最大 11 kWインバータシステムまで使用する

ことが可能になる。

図 に富士電機の 1,200 V 系 IGBTモジュール系列を示

す。放熱用ベースフリー構造において,新しい構造を適用

することにより単位面積あたり印加電力は 3.5W/mm2か

ら 5.1W/mm2に増やすことができた。

あとがき

DCB基板のアルミナセラミックスにジルコニアを添加

し,アルミナセラミックス厚を薄くすること,加えて銅は

く厚を厚くすることにより,低熱抵抗の放熱用ベースフ

リー構造を適用した軽量・コンパクトかつ低コストの IG

BTモジュールを開発した。

以上,新 IGBTモジュール構造についての取組みを紹介

した。今後はこの技術の適用拡大を図り,さらに厳しさを

増す顧客ニーズ,新しいデマンドに合致できる IGBTモ

ジュールを開発していく所存である。

参考文献

Nishimura, Y. et al. Improvement of Thermal Resist-

ance in Metal Base Free Structure IGBT Modules by

Thicker Cooper Foil Insulation Substrate. Publication in

Industry Applications Societyー Annual Meeting IAS’03.

Salt Lake City, USA, October 2003.

Nishimura, Y. et al. New generation metal base free

IGBT module structure with low thermal resistance. The

16th International Symposium on Power Semicon-ductor

Devices & ICs(ISPSD’04). Kitakyushu, Japan, May 2004.

US PAT. 5675181, 5869890.(3)

(2)

(1)

11

10

325(19)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

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松本 良輔

MOSゲート型パワー半導体のプ

ロセス開発に従事。現在,富士電

機デバイステクノロジー(株)半導

体事業本部半導体工場デバイス・

プロセス開発部。応用物理学会会

員。

加藤 博久

MOSゲート型パワー半導体のプ

ロセス開発に従事。現在,富士電

機デバイステクノロジー(株)半導

体事業本部半導体工場デバイス・

プロセス開発部。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

シリコンデバイスは年を追うごとに微細化し,ゲート酸

化膜も最近では数 nm程度の極薄酸化膜に注目が集まって

いる。しかし,スイッチング電源,インバータ,自動車な

どの制御に用いるパワーデバイスでは,高耐圧,高速スイ

ッチング,低損失であることが求められるため,200 nm

程度までの非常に厚いゲート酸化膜がしばしば用いられる。

また,ゲート酸化膜形成後に 1,100 ℃以上の高温アニール

を必要とする場合もある。そのため,極薄ゲート酸化膜で

は見られないようなさまざまな特有の現象が生じる。

そこで今回は,厚いゲート酸化膜について,電気的特性

により,酸化方法,および膜厚に対する高温アニールの影

響の比較,検討を行った。

サンプル作製条件

サンプル作製条件を表1に示す。酸化方法は,ウェット

O2によるパイロジェニック酸化(以下,パイロ酸化と略

す),ドライ酸化,塩素雰囲気中の酸化(以下,HCl 酸化

と略す)の 3とおり,酸化膜厚は 30 nm,120 nmの 2と

おり,アニール条件は高温 N2アニールのみ行う場合と,

高温 N2アニール後に O2アニールを行う場合の 2とおり,

アニールフローはゲート酸化直後に行う場合と,ポリシリ

コン電極形成後に行う場合の 2とおりでサンプルを作製し

た。

パイロ酸化は,Siを水蒸気雰囲気にさらして熱酸化す

る方法で,水素ガスと酸素ガスを接触させ燃焼させる。水

素が終端するので正孔トラップは低減しやすい。ウェット

酸化時に発生した Hや H2Oが酸化膜中に残留すると,

SiHや SiOH 結合を形成し電子トラップとなりホットキャ

リヤ劣化を加速させる。さらに水素結合はストレス誘起

リーク電流の原因ともされる。他の酸化方法に比べて最も

酸化速度が速い。

ドライ酸化は,水分のない純粋な酸素を酸化種として用

いる。水に起因したトラップがほとんどないため,電界な

どのストレスをかけた後の界面準位の発生を抑え,ホット

キャリヤ寿命を向上する。ただし正孔トラップ密度が大き

くなる。よって,TDDB(Time Dependent Dielectric

Breakdown)寿命を短くするという欠点がある。3 種の酸

化方法の中で最も酸化に時間がかかる。

HCl 酸化は,水と塩素が発生する中で酸化を進行させる。

Naなどの可動イオンの中和,揮発除去に用いられ,絶縁

耐圧の向上,少数キャリヤライフライムの向上,界面準位

密度の低減がもたらされる。また,HCl 酸化は Cuなどの

重金属を蒸気圧の高い塩化物として除去する働きもあり,

耐圧の向上,酸化誘起積層欠陥(OSF)の低減に効果があ

る。

測定方法

I-V特性と Qbd 特性により,ゲート酸化膜の電気的特性

(1)

(1)

(1)

パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術

326(20)

松本 良輔(まつもと りょうすけ) 加藤 博久(かとう ひろひさ)

(n+)ポリシリコン

SiO2

n型Si

図1 印加方法

特集1

表1 サンプル作製条件

酸 化 方 法

酸 化 膜 厚

アニール条件

アニールフロー

パイロ,ドライ,HCl

30nm,120nm

™ゲート酸化直後 ™ポリシリコン電極形成後

™高温N2アニール ™高温N2アニール/O2アニール

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パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術

を評価した。I-V特性とは,電圧を徐々に増加させ,絶縁

破壊するまでに流れた電流変化を評価する手法である。

Qbd 特性とは,酸化膜に一定の電流を流し,絶縁破壊する

までに酸化膜中を流れた総電荷量を評価する手法である。

I-V特性の印加パルスの上昇速度を 0.5 V/s,Qbd 特性の定

電流印加を 0.01 A/cm2とした。また,図1に示すように,

ゲート電極側に正電圧を印加した。実験は室温(約 20 ℃)

で行った。

高温N2アニールおよびO2アニールの影響調査

4.1 サンプル作製プロセス

ゲート酸化直後に高温 N2アニールを行い,さらに,O2

アニールを行う場合のサンプル作製プロセスを図2に示す。

基板には n 型リンドープ FZ(Floating Zone)ウェーハ

を用いた。パイロ酸化,ドライ酸化,HCl 酸化の 3 種の方

法で 900 ℃のゲート酸化を行った。

その後のアニールは図2に示す三つの条件で行った。

条件①では,高温N2アニールを行わなかった。

条件②では, 1,150 ℃ 200 minの高温 N2アニールを

行った。

条件③では, 1,150 ℃ 200 minの高温 N2アニールを

行った後,さらに,1,000 ℃ 1 ~ 4minの O2アニールを

行った。

最後に,ポリシリコン電極を形成し,I-V特性と Qbd 特

性を測定した。

4.2 測定結果

作製したサンプルの I-V特性測定結果を F-Nプロット

(Fowler-Nordheim plot)で示したものを図3,図4に示

す。F-Nプロットとは,電流密度と電界を用いた JOX/

EOX2(A/MV2)と 1/EOXの二次元プロットであり,酸化

膜への電流の流れやすさを示す。また,Qbd 特性測定結果

を図5に示す。どのサンプルも 900 ℃のパイロ酸化でゲー

ト酸化膜を形成した。図3,図5のサンプルの酸化膜厚は

120 nm,図4は 30 nmである。

図3,図4から,高温 N2アニールを加えると,それが

効果的に作用し,膜厚に関係なく波形が下にシフトするこ

とが分かる。これは,界面準位が減ったことを示すと考え

られる。ただし,より低電界において F-Nトンネル電流

から急峻(きゅうしゅん)にずれる波形になる。F-Nト

ンネル電流とは,高電界が印加されたときに,電子がトン

ネル機構によって酸化膜に流れ込むことで生じる電流のこ

とである。また,図5から Qbd 特性も低下することが分か

(2)

(3)

(2)

(1)

327(21)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

③N2&O2  アニール

①アニール  なし

②N2  アニール

n-リンドープ基板,FZウェーハ

ゲート酸化(900℃)(パイロ,ドライ,HCI)

高温N2アニール,1,150℃,200min

O2アニール 1,000℃ 1~4min

ポリシリコン電極形成

測定

図2 サンプル作製プロセス1

10-2

10-3

10-4

10-5

10-6

10-7

10-8

10-9

10-10J

Eox/ ox 2 (A/MV2)

E1/ ox(cm/MV)

0.09 0.10 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15

アニールなし N2(1,150℃    200min) →O2(1,000℃    1min)

N2(1,150℃    200min)

N2(1,150℃ 200min) →O2(1,000℃ 3min)

図3 F-Nプロット(酸化膜厚120 nm)

10.5

10.0

9.5

9.0

8.5

8.00.01 0.1 1

Q bd(C/cm2)

Eox(MV/cm)

アニールなし

N2(1,150℃ 200min) →O2(1,000℃ 3min)

N2(1,150℃ 200min)

N2(1,150℃ 200min) →O2(1,000℃ 1min)

図5 Qbd 特性(酸化膜厚120 nm)

10-2

10-3

10-4

10-5

10-6

10-7

10-8

10-9

10-10

JE

ox/ ox 2 (A/MV2)

E1/ ox(cm/MV)

0.08 0.09 0.10 0.11 0.12 0.13 0.14

アニールなし

N2(1,150℃ 200min)

N2(1,150℃ 200min) →O2(1,000℃ 1min)

図4 F-Nプロット(酸化膜厚30 nm)

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パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術

る。これはホールトラップ密度が増大したことを示すと考

えられる。

一方,図3,図4から,O2アニールを加えると,それ

が効果的に作用し,F-Nトンネル電流からの急峻なずれ

が高電界側にシフトすることが分かる。これはホールト

ラップ密度が減少したことを示すと考えられる。図5から,

Qbd 特性も回復することが分かる。30 nmにおいては O2

アニールの時間が 1minで十分であるのに対し,120 nm

においては 1minでは不十分で,3minの時間を要する。

4.3 酸化方法依存性

高温 N2アニールに対する酸化方法依存性について調べ

た。酸化方法は,パイロ酸化,ドライ酸化,HCl 酸化の 3

種類である。酸化膜厚は 30 nmとした。また,ゲート酸

化膜形成後に 1,150 ℃ 200minの高温 N2アニールを行い,

さらに 1,000 ℃ 1minの O2アニールを行った。

I-V特性測定結果を F-Nプロットで示したものを図6

に示す。酸化方法が異なっても,高温 N2アニール前の

F-N プロットに見られた若干の差異はほとんど見られな

くなる。

4.4 考 察

高温 N2アニール,および O2アニールの効果について

以下にまとめる。

高温 N2アニールを行ったことで,SiO2/Si 界面が窒化

され界面準位が低減したと考えられる。図7,図8にバン

ドの概念図を示す。図7は界面準位がほとんど存在しない

場合のバンド図,図8は界面準位が多数存在する場合のバ

ンド図である。図7に比べて図8は Si 基板側の電位こう

配が急峻となり,より低電界で F-Nトンネル電流が発生

する。そのため,図3,図4において波形が上にシフトし

ている。

ただし,ホールトラップ密度はアニール温度と時間に依

存するため,ホールトラップ密度が増大し,局所破壊が生

じた。これは,図5において高温 N2アニール後に EOXが

低減し,Qbdの変動とともに,EOXが大きく変動するよう

になったことにより示される。

N2アニール後に O2アニールを行うことで,過剰に存在

している Siが酸化された。そのため,過剰な Siが減少し,

ホールトラップが大幅に減少したと考えられる。これは,

図5において O2アニール後に EOXが増大し,かつ,波形

がフラットになったことにより示される。また,厚膜にな

るほど O2アニール時間を伸ばす必要があったことから,

ホールトラップの緩和時間は膜厚に依存するといえる。

また,高温 N2アニール処理を行うことで,ゲート酸化

膜形成方法によらない,同等の電気特性を有するゲート酸

化膜が形成されることが分かった。

ポリシリコン電極形成後の高温N2アニールの

効果

5.1 サンプル作製プロセス

ポリシリコン電極形成後に高温 N2アニールを行う場合

のサンプル作製プロセスを図9に示す。

基板には n 型リンドープ FZウェーハを用いた。900 ℃

のパイロ酸化で 120 nmのゲート酸化を行った。

その後のアニールは図9に示す四つの条件で行った。

条件①では,アニールを行わなかった。

条件②では, 1,100 ℃ 30 minの高温 N2アニールを

行った。

条件③では, 1,150 ℃ 200 minの高温 N2アニールを

行った。

条件④では, 1,150 ℃ 200 minの高温 N2アニールを(4)

(3)

(2)

(1)

(2)

(3)

(2)

(2)

(3)

328(22)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

10-2

10-3

10-4

10-5

10-6

10-7

10-8

10-9

10-10

JE

ox/ ox 2 (A/MV2)

E1/ ox(cm/MV)

0.08 0.09 0.10 0.11 0.12 0.13 0.14

パイロ酸化,ドライ酸化,HCI酸化の 間でほとんど差異は見られない。

図6 F-Nプロット(酸化方法依存性,酸化膜厚30 nm)

n型Si

(n+)ポリシリコン

SiO2

図7 バンドの概念図(界面準位が存在しない場合)

n型Si

(n+)ポリシリコン

SiO2

図8 バンドの概念図(界面準位が多数存在する場合)

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パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術

行った後,さらに,1,000 ℃ 4minの O2アニールを行っ

た。

続いて,ポリシリコン電極を形成し,最後に 1,150 ℃

200minの高温 N2アニールを行った。その後,I-V特性

と Qbd 特性を測定した。

5.2 測定結果

図9に示す 4 種類の条件で作製したサンプルの電気特性

測定結果を図 ,図 に示す。図 が Qbd 特性,図 が

F-Nプロットである。図 ,図 ともに,条件による差

異はほとんど見られない。

5.3 考 察

ポリシリコン電極形成後に高温 N2アニールを行うと,

それまでのゲート酸化膜形成後の熱履歴によらない,ほぼ

等しい電気特性を有するゲート酸化膜を形成できることが

分かった。

あとがき

パワーデバイスに用いられる厚いゲート酸化膜の形成技

術について紹介した。パワーデバイスに対する高耐圧,高

速スイッチング,低損失化の要求は,今後ますます強くな

っていくと思われる。それらを実現するためには,ゲート

酸化膜のさらなる性能向上は必要不可欠な技術の一つであ

り,今後もゲート酸化膜形成技術の研究を推し進めていく。

そして,より高度なパワーデバイス製品を実現し,世の中

に貢献していく所存である。

参考文献

中西俊郎ほか.次世代 ULSIプロセス技術.REALIZE

INC. 2000, p.164-172.

Hori, T. Gate Dielectrics and MOS ULSIs. Springer.

1997, p.149-207.

丹呉浩侑.半導体プロセス技術.培風館.1998, p.138-

164.

(3)

(2)

(1)

1110

11101110

329(23)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

① ② ③ ④

n-リンドープ基板,FZウェーハ

900℃,パイロ,120nm

O2アニール 1,000℃, 4min

N2アニール 1,100℃, 30min

N2アニール 1,150℃, 200min

ポリシリコン電極形成

N2アニール,1,150℃,200min

測定

図9 サンプル作製プロセス2

10-2

10-3

10-4

10-5

10-6

10-7

10-8

10-9

10-10

JE

ox/ ox 2 (A/MV2)

E1/ ox(cm/MV)

0.10 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15

条件による差異は ほとんど見られない。

図10 F-Nプロット(ポリシリコン電極形成後の高温N2アニール)

10.5

10.0

9.5

9.0

8.5

8.00.01 0.1 1 10

Q bd(C/cm2)

Eox(MV/cm)

条件による差異は ほとんど見られない。

図11 Qbd 特性 (ポリシリコン電極形成後の高温N2アニール)

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上柳 勝道

圧力センサの研究開発に従事。現

在,富士電機デバイステクノロ

ジー(株)半導体事業本部半導体工

場自動車電装開発部マネージャー。

篠田  茂

圧力センサの研究開発に従事。現

在,富士電機デバイステクノロ

ジー(株)半導体事業本部半導体工

場自動車電装開発部。

芦野 仁泰

圧力センサの研究開発に従事。現

在,富士電機デバイステクノロ

ジー(株)半導体事業本部半導体工

場自動車電装開発部。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

制御システムの電子化が進む中,環境対応のため高効率

を目指したシステムが要求され,高い圧力を測定する圧力

センサの需要が拡大している。

民生用や自動車用のエアコンにおいて,脱フロン化によ

る圧力媒体の制御性を高度化するために,これまで圧力ス

イッチが使われているが,アナログ信号を制御するため 1

~ 5MPaの圧力体を検出する高圧センサへ切り替わりつ

つある。

また,自動車用ではサスペンションの姿勢制御やトラン

スミッションの潤滑油圧力制御,さらにブレーキに必要な

油圧制御などのアプリケーションの普及に伴い,圧力の高

い油圧を検出するための高圧センサのニーズが拡大してい

る。

富士電機はこれらの市場ニーズに対応するため,2002

年から CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semicon-

ductor)プロセスによるディジタルトリミング型自動車用

圧力センサの技術を用いて,世界最小の高圧センサを開発

した。

本稿では今回開発した高圧センサ(相対圧用途,ゲージ

圧用途)を紹介し,今後の展開について述べる。

富士電機の高圧センサの特徴

従来の高圧センサには,セラミック電極板を重ねた静電

容量タイプや金属ダイアフラム上にひずみゲージを蒸着し

たものを検出素子として利用しているものがある。これら

の高圧センサは受圧面積が大きいため,検出圧力に対する

反力を確保する堅ろうなパッケージ構造を設計することが

必要で,最終的な製品寸法が大きくなってしまうというデ

メリットがあった。また,これらのセンサは,検出素子の

特性を調整する回路,EMC(Electromagnetic Compati-

bility)対策としての SMD(Surface Mounted Device)部

品(チップコンデンサやチップ抵抗など)を搭載するため

の回路基板などの部品が多い。さらには,電気的接続部分

が多く故障確率が高いなどの問題点があげられる。

今回開発した高圧センサは,従来のワンチップ技術での

メリットを最大限に生かして「小型・高信頼性の製品」を

ターゲットとし,以下の基本コンセプトを基に開発した。

“All in one chip”によるワンチップ構成

受圧面積最小構造による小型パッケージ

, を最大限に生かした世界最小製品を実現

独自のダイアフラム加工による高耐圧性

相対圧またはゲージ圧で最大 5MPaの用途

製品構成

図1に今回開発した高圧センサの検出体ユニットの概要

を示す。ダイアフラム上に ICプロセスと同時に拡散配線

からなるピエゾ抵抗を形成し,四つのピエゾ抵抗でホイー

トストンブリッジを構成している。

また,ダイアフラムは富士電機独自の三次元エッチング

技術により高精度かつ丸みのあるダイアフラムが形成され

ており,過大耐圧性を確保している。

信号処理回路は 2002 年度に開発し量産化されている低

圧センサ(100 ~ 400 kPa)の技術~

を高圧用にチューニン

グしたもので,ホイートストンブリッジから出力される電

圧信号を増幅する高精度増幅器と,センサ特性を校正する

調整回路を形成している。また,自動車のエンジン制御系

から発生するサージ波形やアセンブリ工程内での静電気,

(3)(1)

(5)

(4)

(2)(1)(3)

(2)

(1)

ワンチップ技術による高圧センサ

330(24)

上柳 勝道(うえやなぎ かつみち) 篠田  茂(しのだ しげる) 芦野 仁泰(あしの きみひろ)

ピエゾ抵抗 (ダイアフラム)

シリコンチップ ダイアフラム

信号処理回路/ EMC保護素子

台座ガラス 圧力導入口

図1 高圧検出体ユニット

特集1

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ワンチップ技術による高圧センサ

さらには外部からの電磁波などから,CMOSで形成され

た内部回路を保護するための保護素子もすべてワンチップ

上に備えている。

また,相対的な圧力または大気圧力に対するゲージ圧力

を測定するために,シリコンチップの裏面には貫通穴を形

成し,下部の金属ベースおよび接合層からの応力を緩和さ

せるための台座ガラスを静電接合プロセスによって接合し,

信頼性の高い気密性を確保した。

図2に今回開発した高圧センサセルの概要を示す。高圧

検出体ユニットと金属ベースは高温時の強度を確保した接

合構造を用いており,自動車用途における厳しい環境にお

いても高い信頼性を実現している。図3に高圧センサセル

の外形を示す。検出機能と処理回路をワンチップで構成し

た世界最小の高圧センサセルを実現した。

耐圧設計と評価結果

4.1 耐圧設計

高圧センサの耐圧設計について述べる。図4に示すのは

高圧センサセルを模式化したもので,圧力を印加した際の,

印加圧力受圧面積とそれに対する反力の面積を表したもの

である。ここで示す筐体(きょうたい)とは,高圧センサ

セルを取り付ける側を表しており,後述のアプリケーショ

ン例で詳細に述べる。

この高圧センサセルは固定部から反力を支持して固定す

るため,印加圧力と固定荷重との関係は以下のように表す

ことができる。

印加圧力と固定荷重

Pin×(Ao+Ad)=Pr×Af ………………………………

Pin:印加圧力,

Ao:Oリング内部面積,Ad:ダイアフラム面積,

Pr:固定圧力,Af:固定圧力面積

式 から固定圧力 Pr =Pin×(Ao+Ad)/Afと置き換え

られ,実際の構造において(Ao+Ad)/Afが非常に小さい

ため,固定圧力 Prを小さくすることができ,固定圧力を

発生させるアプリケーション側の構造を小型化することが

可能となる。

また,印加圧力が発生した際に各部材(センサユニット

と金属ベースとの接合部材,金属ベース)に要求される機

械的強度はそれぞれ応力バランスを考慮した以下の式に

よって表すことができる。

印加圧力に対する構造設計

Pin×(Ao+Ad)<σm×Af ……………………………

σm:金属ベース弾性限界応力

Pin×Ad <σs ×As ………………………………………

σs:接合材破断応力,As:ユニット接着面積

また,自動車アプリケーションで使用される温度環境

は-40 ~+130 ℃と広いため,熱膨張係数の違いによって

発生する熱応力を考慮した設計が必要となる。特にセンサ

ユニット-金属ベース間に発生する熱応力に関しては,接

合材料,金属ベース材料の選定が重要なポイントとなる。

図5に高圧センサの FEM(有限要素法)解析モデル図

を示す。このモデルを用いて圧力 Pinを印加したときの変

形・発生応力分布,温度を変化させた場合の熱応力変形・

応力分布を図6に示す。この計算結果を考慮して,各部材

(3)

(2)

(2)

(1)

(1)

(1)

331(25)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

固定部 Oリング Oリング シーリング部

11 4.45

8.50

図3 高圧センサセルの外形

検出体ユニット

リード端子

金属ベース

図2 高圧センサセルの概要

金属ベース

Oリング

筐体

固定圧力

センサユニット (ユニット接着面積) A S

(Oリング内部面積) A O

(ダイアフラム面積) A d

(固定圧力面積) A f

圧力 P

図4 受圧面・反力面の関係

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ワンチップ技術による高圧センサ

および構造寸法を設計した。

4.2 圧力限界試験結果

図7に各温度における圧力限界試験の結果を示す。いず

れの破壊モードも,シリコンでの破壊であり,ここでの実

験ではシリコンの感度を 5MPaに適した厚さに設定した

ものである。したがって,5MPaの使用圧力に対して破壊

限界圧力が 20MPa 以上あることが確認された。

4.3 圧力-出力特性

図8に 5MPaをフルスケールとした高圧センサセルの,

圧力-出力特性,圧力-出力誤差特性の一例を示す。ここ

で圧力-出力特性はダイアフラムの厚さおよび回路の調整

によって,1 ~ 5MPaの特性までの広いレンジに対応する

332(26)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

シリコン

シリコン

ガラス

台座ガラス

接合部材

接合部材

金属ベース

金属ベース

固定荷重領域

印加圧力領域

図5 FEM解析モデル図

シリコン

ガラス

接合部材

シリコン

ガラス

金属ベース

金属ベース

(a)圧力印加時の応力分布

(b)熱応力

小 応力

熱応力による 最大応力発生箇所

図6 FEM解析結果

50 100 150 0

50

101520253035404550

圧力限界(MPa)

温度(℃)

min typ max 圧力限界

図7 圧力限界試験結果

出力(mV)

圧力(MPa)

出力誤差(mV)

(b)圧力誤差

(a)出力電圧

3 4 5210

圧力(MPa) 3 4 5210

-20

0

20

40

60

80

100

-40

-60

-80

-100

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500

5,000

2,000

1,500

1,000

500

0

図8 圧力ー出力特性

Page 29: 特集1半導体 特集2放射線システム · ワー半導体デバイスの限界性能を超えるsicデバイスは, 600v/50aのショットキーバリアダイオードが市販され

ワンチップ技術による高圧センサ

ことが可能である。

4.4 信頼性評価

信頼性試験として以下の項目について検証済みである。

高温放置試験:130 ℃/2,000 h

低温放置試験:-40 ℃/2,000 h

液層熱衝撃試験:40 ~ 150 ℃/1,000サイクル

圧力サイクル試験:1,000 万サイクル(0 ~ 1 0MPa)

サージ試験:ISO7637 LEVEL-Ⅳ

EMI 試験:GTEMcell 100V/m

4.5 基本仕様

今回開発した高圧センサの基本仕様は表1に示すとおり

である。

あとがき

今回開発した高圧センサセルのアプリケーションは,セ

ル単体での実装のほか,図9に示すような外装パッケージ

内部(ねじ込みタイプ,樹脂ねじ止めタイプ)へ組み込ん

で使うことが可能で,お客様の使い方に合わせた工夫を盛

り込んでいる。富士電機では今後ともお客様に喜ばれる製

品開発を目指す所存である。

参考文献

上柳勝道ほか.ディジタルトリミング型自動車用圧力セン

サ.富士時報.vol.74, no.10, 2001, p.581-583.

上柳勝道ほか.自動車用圧力センサ.富士時報.vol.76,

no.10, 2003, p.616-618.

上柳勝道ほか.自動車用圧力センサの要素技術.富士時報.

vol.76, no.10, 2003, p.619-621.

(3)

(2)

(1)

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

333(27)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

表1 高圧センサセルの基本仕様

項 目

絶対最大電圧

絶対最大圧力

保 存 温 度

使 用 圧 力

出 力 範 囲

インタフェース

ダイアグ領域

*1:0~1MPa,0~5MPaまで任意設定可能 *2:配線断線時の出力範囲

単 位

V

MPa

MPa(gauge)

V

V

仕 様

16.5V

10

-30~+125℃

1~5

0.5~4.5

PU300 PD100

<0.2/>4.8

備 考

<1min

*1

*2

ねじ込みタイプ

高圧センサセル

ねじ止めタイプ

外装パッケージへの 組込みアプリケーション

図9 高圧センサアプリケーション例

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掛布 光泰

パワーダイオードの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部。

一ノ瀬 正樹

パワーダイオードの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

近年,携帯機器の小型・高機能化やコンピュータの

CPU高速化に代表されるように,電子機器の小型・軽量

化,高性能化が急速に進んでいる中で,電子機器の回路基

板やスイッチング電源では低消費電力,高効率,低ノイズ,

高密度実装化が不可欠となっている。また,スイッチング

時のダイオードに印加されるサージ電圧および急峻(きゅ

うしゅん)な dv/dtによるノイズを抑制するために,スナ

バ回路やビーズなどを適用しており,部品点数の増加,コ

ストアップなどを招いている。ノートパソコンの ACアダ

プタでは携帯性重視のため小型化が進む一方,消費電力の

増加傾向により内部は高温となり,ここに使用される半導

体デバイスの使用環境は厳しくなる一方である。このため

半導体デバイスへの要求特性として,低損失,熱暴走温度

抑制,使用温度限界の向上,低ノイズ化の要求が強い。特

に,スイッチング電源の 50 %弱の損失を占める二次側出

力整流ダイオードの特性改善が強く望まれている。

概 要

ショットキーバリヤダイオード(SBD)は,低順方向電

圧(VF),ソフトリカバリー性,低ノイズなどの性能を有

し,スイッチング電源の二次側整流用途に広く使用されて

いる。富士電機では,従来の 20 ~ 100V 耐圧の SBD(低

VFタイプ),120 ~ 250V 耐圧の SBD〔低逆漏れ電流(IR)

タイプ〕の開発系列化を推進し,多岐にわたるパッケージ

にて各種出力電圧・電流容量に対応し,さまざまな電源ア

プリケーションに最適なダイオードをシリーズ化してきた。

しかしながら,従来の低 VFタイプの SBDは,高温時の

IRが大きいことにより逆方向損失が増大し,効率を低下

させ熱暴走を起こす可能性もあり,ACアダプタのような

小型電源パッケージでの適用に難点があった。

今回,開発した低 IR-SBDは,スイッチング電源の二

次側整流,特に高温環境下での整流用に最適なダイオード

と考えている。図1に SBDチップの断面構造を示す。今

回のチップ設計に際しては,耐圧構造にはガードリング方

式を採用し,その濃度,エピタキシャル層(n-層)の比

抵抗と厚さ,拡散深さ,およびバリヤメタルの最適化を図

ることで,低 IRかつ従来なみの VFを有する 40,60,100

V 耐圧の低 IR-SBDシリーズを開発した。本製品は,従来

の同耐圧 SBDと比較して,IRを約一けた低減し,逆方向

損失を大幅に低減させることに成功し,熱暴走開始温度の

改善,使用温度限界の向上が図られた。また,高アバラン

シェ耐量特性を有し,電源起動時などの過渡サージ電圧へ

の対応が期待でき,スイッチング電源の高効率化,小型化,

より柔軟で幅広い回路設計に寄与できるものと考える。表

1に低 IR-SBDシリーズの絶対最大定格と電気的特性,図

2にパッケージの外形を示す。電流定格は 10A,20A,

30A,製品外形は TO-220,フルモールドタイプの TO-

220F,表面実装タイプの T-Pack(S)である。

以下に今回開発した低 IR-SBDを紹介する。

素子特性

図3に低 IR-SBDと従来品との順方向特性比較を,図4

に逆方向特性比較を示す。SBDの損失は,順方向と逆方

向の損失の合計であり,特に実使用温度領域で,この損失

を減らすことが課題である。特に高温時には IR 増加によ

る逆損失を実用上考慮に入れなければならない。しかしな

電源二次側整流器用ダイオード「低 IR-SBDシリーズ」

334(28)

掛布 光泰(かけふ みつひろ) 一ノ瀬 正樹(いちのせ まさき)

ガードリング ショットキー電極 (バリヤメタル)

酸化膜

エピタキシャル層

Si基板

図1 SBDチップの断面構造

特集1

Page 31: 特集1半導体 特集2放射線システム · ワー半導体デバイスの限界性能を超えるsicデバイスは, 600v/50aのショットキーバリアダイオードが市販され

電源二次側整流器用ダイオード「低 IR-SBDシリーズ」

がら,VFと IRにはトレードオフの関係があり,一般に低

IR 化を図ると,VFが増加する。今回の 40 ~ 100 V 耐圧

SBDにおいては, 章で述べたように,新規バリヤメタ

ル採用と結晶仕様最適化により,定格電流で比較したとき

335(29)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

表1 低 R-SBDシリーズの絶対最大定格と電気的特性一覧 I

型 式 パッケージ

絶対最大定格 電気的特性

V RRM(V)

YG862C04R

YA862C04R

TS862C04R

YG862C06R

YA862C06R

TS862C06R

YG862C10R

YA862C10R

TS862C10R

YG865C04R

YA865C04R

TS865C04R

YG865C06R

YA865C06R

TS865C06R

YG865C10R

YA865C10R

TS865C10R

YG868C04R

YA868C04R

TS868C04R

YG868C06R

YA868C06R

TS868C06R

YG868C10R

YA868C10R

TS868C10R

TO-220F

TO-220

T-Pack

TO-220F

TO-220

T-Pack

TO-220F

TO-220

T-Pack

TO-220F

TO-220

T-Pack

TO-220F

TO-220

T-Pack

TO-220F

TO-220

T-Pack

TO-220F

TO-220

T-Pack

TO-220F

TO-220

T-Pack

TO-220F

TO-220

T-Pack

V RSM(V)

45

45

45

60

60

60

100

100

100

45

45

45

60

60

60

100

100

100

45

45

45

60

60

60

100

100

100

45

45

45

60

60

60

100

100

100

45

45

45

60

60

60

100

100

100

45

45

45

60

60

60

100

100

100

I o(A)

10

10

10

10

10

10

10

10

10

20

20

20

20

20

20

20

20

20

30

30

30

30

30

30

30

30

30

I FSM(A)

125

125

125

125

125

125

125

125

125

145

145

145

145

145

145

145

145

145

160

160

160

160

160

160

160

160

160

VFM(V) I IF=0.5× o( j=25℃)

0.61

0.61

0.61

0.68

0.68

0.68

0.86

0.86

0.86

0.63

0.63

0.63

0.74

0.74

0.74

0.86

0.86

0.86

0.63

0.63

0.63

0.74

0.74

0.74

0.86

0.86

0.86

PRM(W)

330

330

330

330

330

330

330

330

330

330

330

330

660

660

660

660

660

660

1,000

1,000

1,000

750

750

750

750

750

750

T

I RRM( A) R= RRM

150

150

150

150

150

150

150

150

150

175

175

175

175

175

175

175

175

175

200

200

200

200

200

200

200

200

200

V V

Rth(j-c) (℃/W)

3.50

2.00

2.00

3.50

2.00

2.00

3.50

2.00

2.00

2.50

1.75

1.75

2.50

1.75

1.75

2.50

1.75

1.75

2.00

1.25

1.25

2.00

1.25

1.25

2.00

1.25

1.25

YG868C

YA868C

TS868C

型式:YG868C□□R 型式:YA868C□□R 型式:TS868C□□R

10 10 10

10

9.5

15

4.5

2.7

4.5

1.3

4.5

1.32

13

15 9.5

1.5

3

13.5

P矢視図参照

P矢視図

図2 パッケージの外形

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電源二次側整流器用ダイオード「低 IR-SBDシリーズ」

の VFを従来品の 10 %程度の増加に抑えつつ,IRは従来

品の約 1/10にまで低減させ,高温時の損失の大幅な低減

を実現した。

発生損失検討

LCD(液晶ディスプレイ)テレビ用 24V 出力電源

(Vdc = 380 V,I= 5A)の条件にて,損失計算をシミュ

レーションした。図5に 60 V/20A 品の接合温度(Tj)-

推定発生損失(Wo)の関係を示す。比較のため従来の

SBDも示した。Tjが低い領域では,従来品の方が損失は

小さいが,高温では IRが損失に大きく影響するため低 IR

品の方が損失は低く,Tj = 150 ℃においては従来品と比

較して約 76 %と大幅に損失低減が図られており,電源の

高効率化が期待できる。

熱暴走温度検討

素子の温度は損失が大きいほど上昇し,高温での IRが

大きいほど顕著になる。IRは高温であるほど増大するた

め,IR 増大/損失増大/素子発熱/IR 増大・・・と悪循

環となり,最後には素子が熱破壊(熱暴走)を引き起こす

場合がある。図6に 40V/30A 品の周囲温度-逆方向印加

電圧の熱暴走データを示す。比較のため従来の SBDも示

336(30)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

逆方向電圧 (V) V R

10 20 30 40

100

101

102

103

逆方向電流 ( A)

I R

 =100℃ T j

 =25℃ T j

YG805C04R

YG865C04R

YG805C04R

YG865C04R

逆方向電圧 (V) V R

10 20 30 40 50 60

101

100

102

103

逆方向電流 ( A)

I R

 =100℃ T j

 =25℃ T j

YG805C06R

YG865C06R

YG805C06R

YG865C06R

逆方向電圧 (V) V R

10 20 30 40 50 60 70 80 901001100

101

100

10-1

102

103

逆方向電流 ( A)

I R

 =100℃ T j

 =25℃ T j

YG805C10R

YG865C10R

YG805C10R

YG865C10R

図4 逆方向特性比較

1

順方向電流 (A)

I F

順方向電圧 (V) V F

0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.00

0.01

0.1

1

10

YG805C04R 100℃ YG805C04R 25℃ YG865C04R 100℃ YG865C04R 25℃

順方向電流 (A)

I F

順方向電圧 (V) V F

0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.00

0.01

0.1

1

10

YG805C06R 100℃ YG805C06R 25℃ YG865C06R 100℃ YG865C06R 25℃

順方向電流 (A)

I F

順方向電圧 (V) V F

0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20

0.01

0.1

10

YG805C10R 100℃ YG805C10R 25℃ YG865C10R 100℃ YG865C10R 25℃

図3 順方向特性比較

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電源二次側整流器用ダイオード「低 IR-SBDシリーズ」

した。低 IR 化が図られているため,従来品と比較して使

用温度範囲が広がっていることが分かる。また,より実装

条件に近い 23インチ,30インチ LCDテレビ用 24V出力

電源(Vdc = 380 V,I= 3.5 Aまたは 5 A)に 60 V/20 A

品を使用した場合の推定熱暴走温度を表2に示す。熱暴走

温度は従来品と比較して,23インチ LCDではフォワード

側が 32 %向上(98 ℃),フライバック側が 28 %向上

(108 ℃)し,30インチ LCDではフォワード側が 34 %向

上(97 ℃),フライバック側が 29 %向上(100 ℃)すると

推測され,動作限界温度が高く高温使用に適したデバイス

となっている。

あとがき

低 IR-SBDの概要,スイッチング電源二次側整流用途へ

の適用などについて紹介した。

今後,電源のさらなる小型化・低損失化・高効率化の要

求が高くなることが予想され,それに対応するべく,SBD

の特性改善・小型パッケージ品の系列化を図り,製品系列

の拡充とさらに高品質な製品の開発に向け,レベルアップ

を推進していく所存である。

参考文献

北村祥司,伊藤博史.高耐圧ショットキーバリヤダイオー

ド.富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.589-592.

(1)

337(31)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

推定発生損失  (W)

WO

接合温度 (℃) T j

10080604020 120 140 160 180

1

2

3

4

5

6

7

8

0

YG805C06R フォワード側 YG805C06R フライバック側 YG865C06R フォワード側 YG865C06R フライバック側

新製品 YG865C06R

従来品 YG805C06R

図5 接合温度-推定発生損失(60 V/20 A)

逆方向印加電圧  (V)

VR

周囲温度  (℃) T a

500 100 150 200

5

0

10

15

20

25

30

35

40

45

DC

DC21

新製品 TS868C04R

従来品 TS808C04R

図6 熱暴走データ(TS868C04R,TS808C04R)

型 式

従来品 YG805C06R

新製品 YG865C06R

23インチLCDテレビ電源 (+24Vout/3.5A)

フォワード

約74℃

約98℃

フライバック

約84℃

約108℃

30インチLCDテレビ電源 (+24Vout/5.0A)

フォワード

約72℃

約97℃

フライバック

約77℃

約100℃

表2 LCDテレビ用24V出力電源実装熱暴走推定温度

条件:放熱フィン30℃/W取付け

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藤井 優孝

スイッチング電源 ICの開発に従

事。現在,富士電機デバイステク

ノロジー(株)半導体事業本部半導

体工場情報・電源開発部。

米田  保

スイッチング電源 ICの開発に従

事。現在,富士電機デバイステク

ノロジー(株)半導体事業本部情

報・電源事業部 TAC(テクニカ

ルアプリケーションセンター)。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

近年,電子機器はますます小型化・軽量化・高機能化が

進んでおり,この電子機器を駆動するための電源において

は小型・高出力・高効率の要求がなされている。

この要求に対し,富士電機ではこれまでも 60V 耐圧の

メインのパワー MOSFET(Metal Oxide Semiconductor

Field Effect Transistor)と PWM(Pulse Width Modula-

tion)制御回路をワンチップ化した1チャネルパワー

MOSFET内蔵の降圧型スイッチング電源制御用 DC-DC

コンバータ ICの開発および製品化を行い,出力負荷電流

値による系列化を進めてきている。

本稿では,電源の小型化・高出力化・高効率化の要求を

さらに満足させるためにメイン側および同期整流側の高耐

圧パワー MOSFETを内蔵した 3チャネル出力および 2

チャネル出力の降圧型DC-DCコンバータ IC「FA7726F」

および「FA7730F」を開発・製品化したので,その概要

を紹介する。

製品の概要

図1に今回開発・製品化した ICの製品外観を示す。ま

た,表1に 60 V 耐圧パワー MOSFET 内蔵の降圧型ス

イッチング電源制御用 DC-DCコンバータ ICの系列一覧

を示す。

2.1 IC全体の特長

本 ICは直流安定化電源として機能するためのPWM制

御を行う基本機能のほか,電源の小型・高効率・高出力に

有利となる以下の特長を有する。特に,電源電圧が 10 ~

45Vで負荷電流を各 1.2Aまで出力することができ,電源

総合効率は最大で 90 %以上を実現することができる。こ

れは従来の富士電機製品 FA3685Pに対して同期整流化す

ることによって電源総合効率で 5 ~ 10 %以上の効率アッ

プが可能となった。

低オン抵抗 60V 耐圧のパワー MOSFET内蔵の同期

整流方式で高効率を実現:電源総合効率 90 %以上

(1)

60 V耐圧MOSFET内蔵型降圧同期整流電源 IC

338(32)

藤井 優孝(ふじい まさなり) 米田  保(よねだ たもつ)

図1 FA7726Fおよび FA7730Fの製品外観

特集1

表1 60V耐圧パワーMOSFET内蔵の降圧型スイッチング電源制御用DC-DCコンバータICの系列一覧

入力電圧 出力

チャネル数

10~45V

10~45V

10~45V

10~45V

10~45V

1

1

1

2

3

出力電圧 過電流保護

ラッチ電流0.9A

ラッチ電流1.0A

ラッチ電流2.0A

パルスバイパルス 制限電流2.5A

パルスバイパルス 制限電流2.5A

チャネル1:1.5Vまたは5V チャネル2:3.3V

チャネル1:5V チャネル2:3.3V チャネル3:1.5V

3.3Vまたは1.5V

任意設定

任意設定

動作周波数

80kHz

80kHz

40kHz

40~200kHz

40~200kHz

回路方式

非同期MOS内蔵

非同期MOS内蔵

非同期MOS内蔵

同期整流MOS内蔵

同期整流MOS内蔵

パッケージ

PDIP8

PDIP8またはSOP8

PDIP8

E-pad TQFP48

E-pad TQFP64

型 名

FA7702P

FA3635P/S

FA3685P

FA7730F

FA7726F

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60 V耐圧MOSFET内蔵型降圧同期整流電源 IC

高出力負荷電流(~ 1.2A)

電圧検出抵抗を内蔵し,高精度出力電圧を実現:各

チャネルとも 2.5 %

™1.5 V,3.3 V,5Vの 3チャネル出力:FA7726F

™3.3 V,1.5 V/5 Vの 2チャネル出力(SEL 端子で 1.5

V/5V 切換可能):FA7730F

電源電圧範囲が広い:IC電源入力 10 ~ 45V

動作周波数範囲が広い:40 ~ 200 kHz

チャネルごとのソフトスタート回路

チャネルごとのオンオフ機能内蔵(FA7730Fのみ)

チャネルごとのタイマラッチ式出力短絡保護回路内蔵

低電圧誤動作防止回路内蔵

パルスバイパルス方式の 2.5 A 過電流制限機能内蔵で

パワーMOSFETの保護,コイルの電流飽和防止および

電源の過負荷保護

過熱保護回路内蔵

小型・薄型・許容損失大の E-pad TQFPパッケージ

™TQFP64ピン(FA7726F)

™TQFP48ピン(FA7730F)

2.2 動作説明

図2に FA7726Fの内部ブロック図を,図3に FA7730F

の内部ブロック図を示す。また,各種動作について以下に

述べる。

ソフトスタート回路(共通)

チャネルごとのソフトスタート回路にて起動時にデュー

ティサイクルを徐々に広げ,入力電圧の突入電流と出力電

圧のオーバシュートを抑制する。ソフトスタート端子

(CS)には内部電流源を内蔵しているため外部にコンデン

サを接続して使用する。

オンオフ回路(FA7730Fのみ)

チャネルごとに出力を停止することができる。

パルスバイパルス過電流制限回路

チャネルごとにメインMOSFETに流れる電流を監視し,

2.5 A 以上の電流が流れるとメイン MOSFETのオン期間

を小さくすることでメインMOSFETを流れる電流を制限

する。

タイマラッチ式出力短絡保護回路

チャネルごとに誤差増幅器の出力電圧異常を監視し,タ

イマラッチ式出力短絡保護回路にてある一定の遅延時間経

過後,IC 出力を停止する。この遅延時間は内蔵の電流源

で充電されるタイマラッチ用端子(CP)に接続されるコ

ンデンサ容量で設定することが可能である。

過熱保護回路

ICの温度異常を監視し,145 ℃以上の温度となると,

IC 出力を停止する。誤動作防止のために OHP端子にはコ

ンデンサを接続する。

低電圧誤動作防止用回路

電源入力端子(VCCおよび PVCC)電圧が低下(5.5 V

以下)するとすべてのチャネルの出力を停止する。

三角波発振器

三角波発振器の発振周波数はタイミング抵抗接続端子

(RT)に 4.6 ~ 24 kΩの抵抗を接続することで 40 ~ 200

kHzの間で任意に設定できる。三角波の振幅は 0.6 ~ 2.0

Vであり,各チャネルの PWMコンパレータに入力され

る。

(7)

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

(12)

(11)

(10)

(9)

(8)

(7)

(6)

(5)

(4)

+-

(3)

(2)

339(33)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

P

P

P

N

N

N

過電流制限信号

REG5

VCC

PVCC1

OUT1

PGND1

PVCC2

OUT2

PGND2

PVCC3

OUT3

PGND3

CP

OHP

REG3

FB1IN1- VIN1

FB2IN2- VIN2

FB3IN3- VIN3

CS1

CS2

CS3

GND

RT

誤差増幅 器1

誤差増幅 器2

誤差増幅 器3

OSC

デッドタイム

デッドタイム

デッドタイム

過電流 検出回路

ソフト スタート 回路 UVLO_L

UVLO_H

S Q R

FB検出

ch1

ch2

ch3

ch1

ch2

ch3

PWM コンパ レータ1

PWM コンパ レータ2

PWM コンパ レータ3

内部 電源回路

基準 電圧

3V

1V

1V

1V

5V内部 電源回路

短絡保護 ラッチ 回路

過熱保護 ラッチ 回路

- + +

+ -

- +

+ -

- +

図2 回路ブロック図(FA7726F)

P

P

N

N

過電流制限信号

REG5

VCC

PVCC1

OUT1

PGND1

PVCC2

OUT2

PGND2

CP

OHP

REG3

FB1IN1- VIN1

SEL

FB2IN2- VIN2

CS1

CS2

GND

RT

誤差増幅 器1

誤差増幅 器2

OSC

デッドタイム

デッドタイム

過電流 検出回路

ソフト スタート 回路 UVLO_L

UVLO_H

S Q R

FB検出

ch1

ch2

ch1

ch2

PWM コンパ レータ1

PWM コンパ レータ2

内部 電源回路

基準 電圧

3V

1V

1V

5V内部 電源回路

短絡保護 ラッチ 回路

過熱保護 ラッチ 回路

- +

+ -

+ -

- +

図3 回路ブロック図(FA7730F)

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60 V耐圧MOSFET内蔵型降圧同期整流電源 IC

応用回路例

図4に FA7726Fの応用回路例を,図5に FA7730Fの

応用回路例を示す。一例として,FA7730Fは SEL 端子を

GND端子に接続しており,出力 5Vと 3.3 Vの構成とな

る。また,SEL 端子オープンで出力 1.5 Vと 3.3 Vの構成

に切り替えることもできる。

FA7726Fの電源総合効率を図6~図8に示す。出力電

圧は 5 V,3.3 Vおよび 1.5 Vの 3チャネルである。図6に

動作周波数 120 kHz 時の入力電圧と電源総合効率の関係を

示す。出力負荷電流は各チャネルとも 0.4 ~ 1.0 Aであり,

このときの電源総合効率は入力電圧および出力負荷電流値

にもよるが 78 ~ 91 %である。次に,図7および図8に入

力電圧 10V時および 40V 時の動作周波数と電源総合効率

の関係をそれぞれ示す。入力電圧 10V時には出力負荷電

流が 0.4 A,0.6 Aおよび 0.8 Aで 40 ~ 200 kHzの全動作

周波数領域にて電源総合効率が 85 %以上となっている。

入力電圧 40V時には動作周波数 40 ~ 100 kHzで電源総合

340(34)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

32

33

34

35

36

37

38

39

40

41

42

43

44

45

46

47

48

49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64

31 30 29 28 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17

16

15

14

13

12

11

10

9

8

7

6

5

4

3

2

1

IN2-

FB2

IN3-

FB3

OHP

CP

VIN1

VIN2

VIN3

(NC)

(NC)

(NC)

(NC)

(NC)

(NC)

RT

(NC)

CS3

CS2

CS1

VREG3

(NC)

VREG5

(NC)

VCC

FB1

IN1-

(NC)

(NC)

(NC)

(NC)

OUT2

OUT1

PGND2

PGND3

GND

OUT3

PVCC3

PVCC1

PVCC2

PGND1

FA7726F

VIN (10~ 45V)

GND

GND

GND

GND

Vo2 (3.3V/ 1.2A)

Vo1 (5.0V/ 1.2A)

Vo3 (1.5V/ 1.2A)

図4 応用回路例(FA7726F)

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36

12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1

48

47

46

45

44

43

42

41

40

39

38

37

CP

OHP

VREG5

VREG3

(NC)

RT

(NC)

IN1-

(NC)

FB1

(NC) SEL

CS1

CS2

(NC)

VIN1

(NC)

IN2-

(NC)

FB2

(NC)

VIN2

GND

OUT1

VCC

(NC)

PGND1

OUT2

PVCC1

PVCC2

PGND2

FA7730F

VIN (10~ 45V)

GND

GND

Vo1 (5.0V/ 1.2A)

GND

Vo2 (3.3V/ 1.2A)

(NC)

(NC)

図5 応用回路例(FA7730F)

95

90

85

80

75

70

65

60

55

500 10 20 30 40 50

効率(%)

I o=0.4A

f=120kHz

I o=0.6AI o=0.8AI o=1.0A

入力電圧(V)

図6 動作周波数 120 kHz 時の入力電圧と電源総合効率の

関係(FA7726F)

95

90

85

80

75

70

65

60

55

500 50 100 150 200 250

効率(%)

I o=0.4A

Vin=10V

I o=0.6AI o=0.8AI o=1.0A

動作周波数(kHz)

図7 入力電圧 10 V時の動作周波数と電源総合効率の関係

(FA7726F)

95

90

85

80

75

70

65

60

55

500 50 100 150 200 250

効率(%)

I o=0.4A

Vin=40V

I o=0.6AI o=0.8AI o=1.0A

動作周波数(kHz)

図8 入力電圧 40 V時の動作周波数と電源総合効率の関係

(FA7726F)

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60 V耐圧MOSFET内蔵型降圧同期整流電源 IC

効率は 80 %以上と比較的高い効率となっている。

FA7730Fの電源総合効率を図9~図 に示す。出力電

圧は 5 Vと 3.3 Vの 2チャネルである。図9に動作周波数

120 kHz 時の入力電圧と電源総合効率の関係を示す。出力

負荷電流は各チャネルとも 0.4 ~ 1.0 Aであり,このとき

の電源総合効率は入力電圧および出力負荷電流値にもよる

が 84 ~ 92%と高効率を実現している。次に,図 および

図 に入力電圧 10V時および 40V 時の動作周波数と電源

総合効率の関係をそれぞれ示す。入力電圧 10V時には出

力負荷電流が 0.4 Aおよび 0.6 Aで 40 ~ 200 kHzの全動作

周波数領域にて電源総合効率が 90 %以上となっている。

入力電圧 40V時には入力電圧 10V時と比較して入力電圧

と出力電圧の差が大きくなることでスイッチング損失が増

加し,電源総合効率は若干低下するが,電源総合効率は

82 ~ 87 %と比較的高い効率となっている。

あとがき

入力電圧が 10 ~ 45Vの同期整流パワーMOSFET内蔵

の 3チャネル出力および 2チャネル出力の降圧型 DC-DC

コンバータ ICの概要を紹介した。

現在,電子機器はますます小型化・軽量化・高機能化が

進んでおり,この電子機器を駆動するための電源において

は小型化・高出力化・高効率化のほか低コスト化の要求が

高まっている。そこで,富士電機ではこうした市場要求に

応えるべく,今後パワーMOSFETのさらなる低オン抵抗

化,スイッチングスピードの高速化などにより,電源総合

効率の向上を図った高耐圧同期整流パワーMOSFET内蔵

の DC-DCコンバータ ICの系列化を進めていく所存であ

る。

参考文献

野村一郎ほか.汎用 2チャネル DC-DCコンバータ IC.

富士時報.vol.74, no.10, 2001, p.557-560.

山田谷政幸.LCDパネル用電源 IC.富士時報.vol.74,

no.10, 2001, p.561-563.

藤井優孝.液晶モニタ用 3チャネル DC-DCコンバータ制

御 IC.富士時報.vol.76, no.3, 2003, p.153-155.

(3)

(2)

(1)

11

10

11

341(35)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

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90

85

80

75

70

65

60

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500 10 20 30 40 50

効率(%)

I o=0.4A

f=120kHz

I o=0.6AI o=0.8AI o=1.0A

入力電圧(V)

図9 動作周波数 120 kHz 時の入力電圧と電源総合効率の

関係(FA7730F)

95

90

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80

75

70

65

60

55

500 50 100 150 200 250

効率(%)

I o=0.4A

Vin=10V

I o=0.6AI o=0.8AI o=1.0A

動作周波数(kHz)

図10 入力電圧 10 V時の動作周波数と電源総合効率の関係

(FA7730F)

95

90

85

80

75

70

65

60

55

500 50 100 150 200 250

効率(%)

I o=0.4A

Vin=40V

I o=0.6AI o=0.8AI o=1.0A

動作周波数(kHz)

図11 入力電圧 40 V時の動作周波数と電源総合効率の関係

(FA7730F)

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原  幸仁

パワーMOSFETの開発・設計に

従事。現在,富士日立パワーセミ

コンダクタ(株)松本事業所開発設

計部。

井上 正範

宇宙用パワーMOSFETの開発・

設計およびパワー半導体素子の開

発・設計に従事。現在,富士日立

パワーセミコンダクタ(株)松本事

業所開発設計部。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

近年,ディジタル家電の「新三種の神器」の一つである

薄型テレビの中で,大画面で高精細画像を実現するプラズ

マディスプレイパネル(PDP)は高画質化・大画面化・低

価格化が進み,地上波ディジタル放送が一部で開始された

こともあり急速に普及している。

PDP の動向として,低電力化・高輝度化・静音化

(ファンレス化)・薄型化が進んでいる。また,プラズマ

発光を制御するサステイン回路も同様に,高効率化・小型

化・薄型化が求められている。図1に PDPの基本回路構

成を示す。サステイン回路はオンオフ回路,メイン回路

(X/Yサステイン回路),電力回収回路などから構成され

ており,数十個のパワー MOSFET(Metal Oxide Semi-

conductor Field Effect Transistor)が用いられている。

このサステイン回路は瞬間的に大電流が流れるため,低オ

ン抵抗特性に対するニーズが大きい。また,小型化(パラ

レル素子数の低減)・薄型化(面実装化)も同時に求めら

れている。

富士電機では,PDPサステイン回路の要求に対応する

ため,高耐圧系を中心に系列化している SuperFAP-G 技

術を用い,新たに PDPサステイン用として 150 ~ 300 V

の SuperFAP-Gを開発し系列化した。また,さらなる小

型化・高効率化の要求に対応するため,より低いオン抵抗

特性を実現できるトレンチMOSFETの開発を行っている。

これらの製品を適用することで,サステイン回路部のMO

SFETパラレル素子数削減による実装面積の縮小・実装の

効率化,低損失化による高効率化および冷却体(ヒートシ

ンク)の小型化が期待できる。

以下,SuperFAP-Gシリーズおよびトレンチ MOS

FETについて,系列および特徴について紹介する。

PDP用パワーMOSFETの特徴

PDPサステイン回路に使用されるパワー MOSFETは

低オン抵抗特性が重要である。SuperFAP-Gシリーズと

トレンチMOSFETは以下の特徴を持っている。

2.1 SuperFAP-Gシリーズの特徴

SuperFAP-Gシリーズは従来の MOSFETと比較して,

オン抵抗とターンオフ損失を決める充電時定数であるゲー

ト - ドレイン間電荷量(Qgd)のトレードオフを改善し,

MOSFETの性能指数である Ron・Qgdを大幅に改善させ

た。これを実現するために,以下の技術を適用した,

QPJ 技術

MOSFETのオン抵抗はエピタキシャル層の比抵抗が支

配的であるが,単に比抵抗を下げるだけではドレイン -

ソース間耐圧が低下する。従来のMOSFETはセル構造が

三次元的であり,部分的に電界の高い部分が存在していた。

これを改善するため,図2に示す QPJ(Quasi-Plane-

Junction)構造を開発し,従来の深い p+ウェル層に代え

て,低濃度の浅い p-ウェル層を密に配置することで,平

面的な接合のセルを実現した。これによりセル部の電界を

緩和させることができ,従来に比べ低比抵抗のエピタキ

シャル抵抗層を使用できるようになった。

QPJ 構造を適用することで n-型シリコンの幅(電流経

路)が狭く,かつ短くなり Qgdが低減できる。一方で n-

型シリコンの幅を狭くすることはオン抵抗の増加につなが

(1)

(2)(1)

PDP用中耐圧MOSFET

342(36)

原  幸仁(はら ゆきひと) 井上 正範(いのうえ まさのり)

PDP パネル

アドレス ドライバ

PFC DC-DC

サステイン

オンオフ回路

スキャンドライバ

 サステイン

    回路

スキャンドライバ

電力回収

  回路

信号処理

X サステイン

    回路

電力回収

  回路

Y

™インタフェース回路 ™ロジック回路

図1 PDP基本回路構成

特集1

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PDP用中耐圧MOSFET

り,Qgdとはトレードオフの関係になる。オン抵抗の増加

は n-型シリコンの電流経路が空乏層の広がりに狭められ

ることが原因で,この空乏層の広がりを抑えるために n-

型シリコン領域の不純物濃度の最適化を行い,トレードオ

フを改善した。この成果の適用により従来の富士電機製

MOSFETと比較して約 60 %の Ron・Qgd 低減を実現した。

表1に SuperFAP-Gと従来製品の特性比較を示す。

ガードリング

QPJ 構造を適用することで,セル部の電界を緩和する

設計となり,低比抵抗のエピタキシャル層を用いることが

できるようになった。しかし,従来設計の耐圧構造のまま

では耐圧構造部の方がセル部より電界が高くなり耐圧を確

保できない問題が生じる。セル部に対して耐圧構造部の電

界を低くすることが必須であり,電界を緩和できる耐圧構

造の開発が必要となった。低比抵抗のエピタキシャル層を

用いて耐圧構造部の電界を緩和させるために,不等間隔

ピッチの多段ガードリングを適用した。ピッチとガードリ

ング本数は電界シミュレーションを行い,セル部より電界

が低くなるように最適設計を行っている。また,信頼性を

確保するため電荷によるチャージアップの影響を受けない

設計とした。

2.2 トレンチMOSFETの特徴

従来,富士電機では低オン抵抗を実現する Super

FAP-Gシリーズにて製品の系列化を進めてきた。しかし,

PDP 分野のさらなる低オン抵抗の要求に対応するため,

次世代品の開発に注力しており,耐圧 60V,75 Vの自動

車用にて実績のあるトレンチゲート構造技術をベースに,

トレンチ深さ,ウェーハ仕様の最適化などを行い,高性能

化を図っている。

図3にプレーナチップ構造とトレンチチップ構造の断面

比較を示す。トレンチチップ構造はチャネルを貫通した溝

(2)

343(37)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

n+ n+

p+

n+

n-

n+

n-

n+

n+ n+

ゲート

ゲート

ドレイン

ドレイン

ソース

ソース

p+ p- p- p+p- p- p-

(a)従来のパワーMOSFET

(b)SuperFAP-G

p- p+n+ n+

p- p+n+ n+

p- p+n+ n+

p- p+n+ n+

p- p+n+ n+

p- p+ n+ n+

図2 SuperFAP-Gと従来製品のチップ構造比較

表1 SuperFAP-Gと従来製品の特性比較

系列 型式

SuperFAP-G

2SK3535

250V

±25A

270W

3~5V

75mΩ

50nC

16nC

1.20Ω・nC

従来製品

2SK2254

250V

±18A

80W

2.5~3.5V

130mΩ

52nC

16nC

2.08Ω・nC

項目

V DS

I D

P D

V GS(th)

R DS(on)(typ)

Qg

Qgd

Ron・ gdQ性能指数

n+

n+

n-

p+

p p p p

ゲート酸化膜

ゲート酸化膜

トレンチ

ゲート ソース ゲート

ドレイン

ソース

Rch(  ) Rch(  )

Rch(  ) R jFET(   )

Repi(  )

(   ) Rsub (   ) Rsub

Repi(  )

n+ n+ n+ n+ n+p+ p+

p

(a)プレーナチップ構造

n+

n-

ドレイン

(b)トレンチチップ構造

図3 プレーナチップ構造とトレンチチップ構造

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PDP用中耐圧MOSFET

部(トレンチ)にゲート部を形成することで,セルを微細

化でき,図4に示すプレーナチップ構造では困難であった

チャネル抵抗(Rch)成分と JFET抵抗(RjFET)成分の低

減を図ることが可能となる。表2に富士電機の従来MOS

FETのオン抵抗とトレンチ MOSFETのオン抵抗比較を

示す。トレンチゲート構造とすることでオン抵抗を大幅に

低減できる。

2.3 内部配線抵抗の低減

PDP 用 MOSFETは低オン抵抗が必要なため,MOS

FETチップの低オン抵抗化とともにパッケージ内部の配

線抵抗の低減が重要となる。特に,オン抵抗が低い 150V

クラスのチップになると,製品のオン抵抗に占めるチップ

表面のソース A1 電極が有するシート抵抗の割合が大きく

なる。図5に T-Packパッケージの内部構造を示す。ソー

スアルミワイヤをチップのソース電極の複数箇所にボン

ディング接続することで,シート抵抗の低減を図っている。

表3にシート抵抗の低減効果を示す。

344(38)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

オン抵抗比率(%)

プレーナMOSFET

+ R ch R acc

R epi

R sub

R jFET

20

0

40

60

80

100

120

トレンチMOSFET

図4 プレーナチップオン抵抗成分(200 Vクラス)

表2 オン抵抗の比較

耐圧 オン抵抗 on(mΩ)

従来MOSFET

66

100

トレンチMOSFET

50.6

84

23.3%

16%

200V

250V

Ron低減率 R

エポキシ樹脂

半導体チップ

リードワイヤ

ベース フレーム

図5 MOSFETの内部構造(面実装タイプ)

表3 シート抵抗(計算値:TO-220系)

φ=400 m×2本

0.4mΩ

φ=400 m×2本 ステッチボンディング

0.2mΩ シート抵抗 計算値

表4 PDP用パワーMOSFETの系列一覧

耐圧 DSSBV

150V

200V

250V

300V

※:開発中

定格電流 DI

57A

65A

92A

100A

45A

49A

73A

100A

37A

38A

59A

100A

32A

53A

86A

オン抵抗 パッケージ

DS(on) R

41mΩ

28.5mΩ

26mΩ

16mΩ

66mΩ

50.6mΩ

36mΩ

20mΩ

100mΩ

84mΩ

53mΩ

30mΩ

130mΩ

72mΩ

40mΩ

TO-220

2SK3590

※FMP65N15T2

2SK3594

※FMP49N20T2

2SK3554

※FMP38N25T2

2SK3772

TO-220F

2SK3591

※FMA65N15T2

2SK3595

※FMA49N20T2

2SK3555

※FMA38N25T2

2SK3773

T-Pack (D2-Pack)

TFP

2SK3592

※FMB65N15T2

2SK3596

※FMB49N20T2

2SK3556

※FMB38N25T2

2SK3774

2SK3593

2SK3597

2SK3535

2SK3775

TO-247

2SK3788

2SK3882

2SK3780

2SK3883

2SK3778

2SK3884

2SK3776

2SK3885

TO-3PF

2SK3789

2SK3781

2SK3779

2SK3777

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PDP用中耐圧MOSFET

系列および外観

表4に PDP 用パワー MOSFETの系列一覧を示す。ま

た,そのパッケージの外観を図6に示す。耐圧は 100 ~

300Vクラスを系列化しており,パッケージは TO-220 系,

TO-3PF 系,TO-247 系を系列化している。また,サステ

イン回路の薄型化に貢献できる面実装品の T-Pack(D2-

Pack)と TFPも系列化している。

あとがき

富士電機が PDP 向けに系列化した SuperFAP-Gシ

リーズと開発中の中耐圧トレンチMOSFETの特徴につい

て紹介した。今後も PDPに最適化された製品の開発を行

い,PDP 分野の発展に貢献していく所存である。

参考文献

山田忠則ほか.低損失・超高速パワー MOSFET

「SuperFAP-Gシリーズ」.富士時報.vol.74, no.2, 2001,

p.114-117.

徳西弘之ほか.パワー MOSFET「SuperFAP-Gシリー

ズ」とその適用効果.富士時報.vol.75, no.10, 2002, p.593-

597.

堀内康司ほか.自動車用パワー MOSFET.富士時報.

vol.76, no.10, 2003, p.601-605.

Kobayashi, T. et al. High-Voltage Power MOSFETs

Reached Almost to the Silicon Limit. Proceedings of

ISPSD’01. 2001, p.435-438.

(4)

(3)

(2)

(1)

345(39)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

図6 パッケージ系列の外観

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小林 英登

PDPドライバ ICの開発・設計に

従事。現在,富士電機デバイステ

クノロジー(株)半導体事業本部半

導体工場情報・電源開発部プリン

シパルエンジニア。

多田  元

高耐圧 ICのデバイス・プロセス

開発に従事。現在,富士電機デバ

イステクノロジー(株)半導体事業

本部半導体工場情報・電源開発部

グループマネージャー。電気学会

会員。

澄田 仁志

高耐圧デバイスの開発に従事。現

在,富士電機デバイステクノロ

ジー(株)半導体事業本部半導体工

場デバイス・プロセス開発部。工

学博士。電子情報通信学会会員。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

アナログ機器からディジタル家電への世代交代が始まり,

テレビは CRTからフラットパネルディスプレイ(FPD)

への移行が進んでいる。FPDの普及に伴いプラズマディ

スプレイパネル(PDP)市場も,急速に伸びてきている。

FPD市場は,その画面サイズによって 30 型以下では液晶

パネル(LCD),40 型から 50 型までは PDP,それ以上は

プロジェクタとすみ分けがされていた。しかし,FPDの

中での競争が激しくなり,画面サイズによるすみ分けがな

くなりつつある。このような状況の中,PDPには消費電

流低減や発光効率などの性能向上と,低価格化が求められ

ている。

PDPドライバ ICは,走査線を選択するスキャンドライ

バ ICとデータを選択するアドレスドライバ IC(または

データドライバ IC)の 2 種類がある。ドライバ ICはその

特性が表示品質に影響し,一つのパネルに数多くの ICが

使用されていることより,高性能で低コストであることが

要求される。

富士電機では,スキャンドライバ ICとアドレスドライ

バ ICの開発を行っており,本稿では大電流でかつ出力オ

ン抵抗が低い汎用 PDPスキャンドライバ IC「FD3284F」

の技術について紹介する。

PDPスキャンドライバ ICの特徴

PDPモジュールの駆動回路を図1に示す。スキャンド

ライバ ICは出力本数が 64ビットで,XGA(eXtended

Graphics Array)パネルでは 12 個使用される。スキャン

ドライバ ICの主な動作を図2に示す。

スキャン期間

100Vの電圧で走査線を選択しアドレスドライバ ICの

信号により,表示するセルに予備放電を行う。

サステイン期間

160Vの電圧でサステインドライバ ICと交互に動作し,

スキャン期間に予備放電を行ったセルに表示放電を起こす。

この表示放電の繰返しで階調表示を行う。

スキャンドライバ ICは,高耐圧で,予備放電時や表示

放電時には大電流を流せることが要求される。

PDPスキャンドライバ IC技術

3.1 プロセス・デバイス技術

富士電機では,従来から SOI(Silicon On Insulator)方

(2)

(1)

汎用PDPスキャンドライバ IC

346(40)

小林 英登(こばやし ひでと) 多田  元(ただ げん) 澄田 仁志(すみだ ひとし)

アドレスドライバIC

アドレスドライバIC

アドレスドライバIC

アドレスドライバIC

アドレスドライバIC

アドレスドライバIC

サステインドライバIC

スキャンドライバIC

PDPパネル

スキャンドライバIC

スキャンドライバIC

スキャンドライバIC

図1 PDPモジュールの駆動回路

特集1

スキャンドライバIC

スキャンドライバIC

スキャンドライバIC

サステインドライバIC

スキャン動作 サステイン動作

図2 スキャンドライバ ICの主な動作

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汎用PDPスキャンドライバ IC

式誘電体分離技術を採用している。SOIプロセスでは

ウェーハコストが高いという欠点があるが,デバイス分離

領域が小さく,寄生トランジスタフリーという特徴があり,

高耐圧・大電流を必要とするスキャンドライバ ICには,

SOIプロセスが適している。

出力デバイスは,IGBT(Insulated Gate Bipolar Tran-

sistor)をトーテムポールで使用している。スキャンドラ

イバ ICでは,出力回路が 6 割を占めるため出力デバイス

サイズがコストに大きく影響する。IGBTは小さな面積で

も大電流を流せるため,スキャンドライバ ICの出力デバ

イスとして最適である。今回は図3および表1に示すよう

に,従来より小型化し,従来よりさらに駆動能力を向上さ

せた第三世代の SOI-IGBTデバイスを開発した。

3.2 回路技術

図4にスキャンドライバ ICの出力段回路を示す。n

チャネルの IGBTがトーテムポール出力として接続されて

いる。ハイサイド側の IGBT(図の N2)は,レベルシフ

タによって制御されるが,IGBTのゲートは 5.5 Vで駆動

するため,5.5 Vのツェナーダイオードをゲート - ソース

間に入れて保護している。

次に出力段回路の動作について簡単に説明する。

スキャン期間

N1の IGBTと N2の IGBTが動作し選択波形や非選択

波形を出力する。予備放電時には N1の IGBTが大電流を

供給する。

サステイン期間

N1の IGBTと D1のダイオードが動作し,表示放電の

電流を N1と D1の両デバイスから供給する。

表示パネルが大きくなると予備放電や表示放電の放電電

流を多く必要とするため,デバイスのオン抵抗が問題とな

る。このデバイスのオン抵抗が高いと発熱量が多くなり,

温度上昇によるデバイス特性の低下,またそれに伴う表示

品位の低下を招くことになる。N1の IGBTと D1のダイ

オードのオン抵抗を比較すると,D1のダイオードのオン

抵抗が 1.4 V/400mAであるのに対して,N1の IGBTは

6.0 V/400mAと高い。N1の IGBTは,スキャン期間とサ

ステイン期間ともに動作することから,N1の IGBTのオ

ン抵抗が発熱の影響に対して支配的である。よって,N1

の IGBTデバイスが高い駆動能力を出せるかがスキャンド

ライバ IC 開発の鍵となる。

3.3 IGBTのゲート制御技術

IGBTは,小さな面積で多くの電流が取れるようにデバ

イスの電流密度を上げると,安全動作領域が狭くなるため,

予備放電や表示放電時に異常放電が起き過負荷短絡状態と

なると,デバイスが安全動作領域を超えデバイス破壊に至

る。

また,出力端子間に金属性のくずが付着して,予期せぬ

過負荷状態に陥った場合も同様に,デバイスが安全動作領

域を超えデバイス破壊に至る。

一方,安全動作領域を広げようとして電流密度を下げる

とデバイス面積が大きくなり,コスト的に高くなるという

電流密度と安全動作領域との間にはトレードオフの関係が

存在する。

この電流密度と安全動作領域のトレードオフの問題を解

決するため,N1の IGBTのゲート電圧を出力の動作タイ

(2)

(1)

347(41)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

従来の第二世代IGBT 今回の第三世代IGBT

面積比率90%

図3 IGBTデバイス比較

(ツェナー  ダイオード)

D1 (ダイオード)

N2(IGBT)

N1(IGBT)

アドレス期間時 電流経路

サステイン 期間時電流経路

レベルシフタ

ゲート コントローラ

図4 出力回路動作図

表1 FD3284Fの特性

最大電源電圧(ロジック)

最 大 電 源 電 圧 (高圧)

動 作 電 圧 (ロジック)

動 作 電 圧 (高圧)

項 目 従来品

7.0V

165V

5.0V

30~130V

-200mA/    +1,000mA

-1,000mA/   +1,000mA

FD3284F

7.0V

165V

5.0V

30~130V

-200mA/    +1,500mA

-1,200mA/   +1,500mA

ド ラ イ バ 出 力 電 流

ダ イ オード出力電流

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汎用PDPスキャンドライバ IC

ミングに合わせて制御する技術を開発した。図5にその動

作を示す。

スキャン動作時,電源電圧 VDLが 5 Vのとき,出力を

立ち下げるに十分な電流だけを供給するため,N1の

IGBTのゲートに 4.5 V 程度を印加して出力電圧を 100 V

から 0Vに変化させ走査線を選択する。

予備放電が始まり,より多くの電流が必要となると N1

の IGBTのゲート電圧を 7 Vへ上げることによって,N1

の IGBTの電流供給能力を引き上げる。

予備放電が終わると,ゲート電圧を再び 4.5 Vまで下げ

駆動能力を絞る。さらに,スキャン期間の 1.5 µsを過ぎる

と N1の IGBTゲートを徐々に下げ,やがてオフする。こ

れは,N1の IGBTの正常動作期間以外で動作しないよう

制御することで,異常放電や端子間短絡などによる,予期

せぬ過負荷状態による破壊を防止することができる。

ゲート制御を取り入れた N1の IGBT 特性を図6に示す。

従来の N1の IGBT より 10 %面積が小さくても,ゲート

制御することによって,ゲート制御しない場合と比較して

出力電流能力を 2 倍にすることができた。

汎用PDPスキャンドライバ ICへの適用

今回開発した,第三世代 SOI-IGBTデバイスやゲート

制御回路技術を適応した PDPスキャンドライバ IC FD

3284Fについて以下に紹介する。

4.1 特 徴

64ビット双方向シフトレジスタ(15MHz CLR 機能

付き)

絶対最大電圧: 165V(高耐圧部),7V(ロジック部)

出力動作電圧: 30 ~ 130V

ロジック電圧: 5V

ドライブ電流:-0.2A/+1.5A(ソース/シンク)

ダイオード電流:-1.2A/+1.5A(ソース/シンク)

外形:TQFP 100ピン(エクスポーズドパッド)

4.2 回路構成

図7にブロック図を示す。回路構成は,64ビット双方

向シフトレジスタ回路部,64ビットラッチ回路部,デー

タセクタ回路部,トーテムポールの出力駆動回路部から構

成される。

(7)

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

348(42)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

N1 ゲート電圧

N1 IGBT出力電圧

N1 IGBT出力電流

スキャン動作

100V

0V

1A500mA

4.4V

7.0V

図5 アドレス期間予備放電動作

1.6

1.4

1.2

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

00 5.0 10.0 15.0

出力電流(A)

出力電圧(V)

ゲート制御あり

ゲート制御なし

図6 FD3284Fのローレベル出力オン抵抗(N1)

OC1

DO1

DO32

OC2

LE

CLK

DA

CLR

A/B

DB

VDL VDH1 VDH2

セレクタ

DO33

DO64〜

VDH1

GND

VDH2

GND

GND

セレクタ

64ビットラッチ

LEQ1 L1

Q2

Q3

Q64 L64

64ビットシフトレジスタ

CLKDATA Q1

Q2

Q3

CLR

A/B

DATA Q64

図7 FD3284Fのブロック図

表面 表面

裏面 (エクスポーズドパッド)

図8 FD3284Fのパッケージ外観

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汎用PDPスキャンドライバ IC

4.3 従来 ICとの特性比較

表1に従来のスキャンドライバ ICと FD3284Fの主な

特性の違いを示す。ドライバの出力電流とダイオードの出

力電流能力が大きく向上している。これは,FD3284Fが

大型の PDPパネルでも駆動できるように対応しているた

めである。また,FD3284Fのパッケージを図8に示す。

放熱に適したエクスポーズドパッドの TQFP100ピンを採

用している。

あとがき

本稿では,汎用 PDPスキャンドライバ ICとして,PDP

スキャンドライバ IC 技術とスキャンドライバ IC FD3284F

の特徴について説明した。

これからさらに激化する FPD内の競争において,PDP

の高性能化と低価格に向けて,今後ともデバイス技術や回

路技術・プロセス技術を進化させて市場の要求に応えてい

く所存である。

参考文献

澄田仁志ほか.PDPスキャンドライバ IC 技術.富士時報.

vol.76, no3, 2003, p.169-171.

多田元ほか.PDPアドレスドライバ IC 技術.富士時報.

vol.76, no3, 2003, p.172-174.

(2)

(1)

349(43)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

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澄田 仁志

高耐圧デバイスの開発に従事。現

在,富士電機デバイステクノロ

ジー(株)半導体事業本部半導体工

場デバイス・プロセス開発部。工

学博士。電子情報通信学会会員。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

家庭用テレビのフラットパネルディスプレイ(FPD)

化が目を見張るスピードで進んでいる。この FPD化を牽

引(けんいん)しているパネルの一つがプラズマディスプ

レイパネル(PDP)である。PDPは 2000 年から 2001 年

にかけて 30 型以上の画面サイズで日本のテレビ市場を立

ち上げ,その市場は伸び続けている。そしてこの市場拡大

を受け,発光効率の向上や低消費電力化,また低コスト化

など PDP 技術の開発にますますの拍車がかかっている。

PDPではパネルの周辺回路が占めるコスト比率が高く,

PDPを駆動するドライバ ICに対するコストダウンの要求

は年々厳しくなっている。また,ドライバ ICはパネルの

発光を制御するため,ドライバ ICの性能が PDPの性能

に直接影響を及ぼす。そのため,ドライバ ICに対しては

低コスト化とともに,高性能化が常に求められている。

PDPはスキャンドライバ ICとアドレスドライバ ICの

二つのドライバ ICで駆動されている。富士電機では両ド

ライバ ICを 1980 年代から製品化してきた。そして,パ

ネルメーカーからの上記要求に応えるべく,現在も PDP

ドライバ ICの形成に必要な要素技術の開発を進めている。

本稿では,富士電機で開発した PDPドライバ ICの要

素技術である,デバイス・プロセス技術について説明する。

あわせて,開発技術の動向についても触れる。

PDPドライバ ICの特徴

PDP 駆動システムを図1に示す。PDPを駆動するドラ

イバ ICはアドレスドライバ ICとスキャンドライバ ICに

大別される。XGA(eXtended Graphics Array)クラスの

PDPでは 1 台のパネルに 2 種類の ICがそれぞれ 10 個以

上搭載されている。

PDPドライバ ICの特徴として,80V 以上の高電圧出力

特性を備えていること,また一つの ICに 64 以上の出力

端子を有していることが挙げられる。さらに,各 ICには

それぞれ固有の性能が求められる。前記の特徴以外にアド

レスドライバ ICには,次の性能が求められている。

高速出力スイッチングスピード

40MHz 以上の高速データ転送

また,スキャンドライバ ICには,次の特徴がある。

1 出力あたり 400mA以上の大電流駆動

150V 以上の高電圧スイッチング

PDPドライバ ICに搭載する出力回路構成用の高耐圧デ

バイスは,ICの性能を大きく左右する。富士電機では,

各ドライバ ICの上記性能を実現するデバイス・プロセス

技術を IC 別に開発を進めている。現在保有する PDPド

ライバ IC 用高耐圧デバイスの性能を図2に示す。

アドレスドライバ IC 向けには 90 ~ 110Vの耐圧と,3

~ 80mAの駆動電流をカバーする性能のデバイスを開発

している。スキャンドライバ IC 向けには耐圧が 140 ~

230 V,駆動電流が 5 ~ 600mAの性能を備えたデバイス

を開発している。

アドレスドライバ ICでは出力回路部を高耐圧の CMOS

(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)回路で構

成可能なため,搭載する高耐圧デバイスは pチャネル

MOS(PMOS)と nチャネルMOS(NMOS)だけでよい。

一方,スキャンドライバ ICでは大電流駆動を要すること

から出力部には二つの横型 nチャネル IGBT(Insulated

Gate Bipolar Transistor)を組み合わせたトーテムポー

(2)

(1)

(2)

(1)

(3)

(2)

(1)

PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術

350(44)

澄田 仁志(すみだ ひとし)

Xサステイン

1 2

1

2

3 m

1 2 3 m

PDPパネル

スキャンドライバIC

アドレスドライバIC

アドレスドライバIC

図1 PDP駆動システム

特集1

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PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術

ル回路の構成が不可欠であり,上アーム側の IGBTを駆動

するための高耐圧 PMOSと NMOSの搭載も必要となる。

また,IGBTに並列に接続する高耐圧ダイオードも搭載さ

れている。このように,スキャンドライバ ICでは搭載す

る高耐圧デバイスの種類と数がアドレスドライバ ICに比

べて多く,それぞれの駆動電流も回路適用部によって異な

る。そのため,図2に示したとおり,スキャンドライバ

IC 用高耐圧デバイスの仕様はアドレスドライバ ICに比べ

て広範になる。

PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術

表1に,2003 年度に開発した PDPドライバ IC 用デバ

イス・プロセス技術の要素技術を示す。

富士電機ではアドレスドライバ IC 用技術を,8インチ

埋込みエピタキシャル基板を用いた pn 接合分離技術を

ベースにして開発している。一方,スキャンドライバ IC

用技術は 6インチはり合わせ SOI(Silicon On Insulator)

基板を用いた誘電体分離技術をベース技術として開発を進

めている。

章で説明したとおり,アドレスドライバ ICの高耐圧

出力回路部は横型 PMOSと NMOSで構成されている。一

方,スキャンドライバ ICでは横型 IGBT,横型 PMOSと

NMOS,そして横型ダイオードによって出力回路部が構

成されている。両 ICともロジック回路部は低耐圧 PMOS

と NMOSで構成されている。

富士電機では PDPドライバ ICの高性能・低コスト化

を目指し,アドレスドライバ IC 向けに第四世代デバイ

ス・プロセス技術を開発した。また,スキャンドライバ

IC 向けに第三世代デバイス・プロセス技術を開発した。

以下,それぞれの概要について説明する。

3.1 アドレスドライバ IC用デバイス・プロセス技術

3.1.1 素子間分離技術

章で述べたとおり,アドレスドライバ IC 用デバイ

ス・プロセス技術のベース技術は埋込みエピタキシャル基

板を用いた pn 接合分離技術である。pn 接合分離技術適

用の背景は,アドレスドライバ ICの駆動電流が 80mAと

小さいことと,高性能・低コスト ICを実現するための蓄

積技術が豊富なことにある。そして,2002 年に 8インチ

ラインへの移行が完了し,8インチ埋込みエピタキシャル

基板を用いた製品の供給を開始している。

PDPには電力回収動作があり,アドレスドライバ ICは

電力回収時において無効電力の発生源となる。電力回収の

効率を上げるためには無効電流の発生を抑える必要があり,

そのためには ICに搭載された高耐圧出力デバイスとエピ

タキシャル基板間で構成される寄生トランジスタの動作を

阻止しなければならない。

富士電機では長年の経験から,この寄生トランジスタの

動作防止ノウハウを蓄積している。第四世代デバイスでは,

第三世代デバイスよりもデバイス面積の縮小を達成しつつ

寄生トランジスタの注入効率低減も図り,製品仕様を満足

する値に制限できている(素子間分離技術は 354ページの

「解説」参照)。

3.1.2 デバイス・プロセス技術

表2に第四世代デバイスの基本 DC(直流)特性を示す。

基本仕様ならびに素子構造は第三世代デバイスと同等であ

る。第四世代デバイスの製造上の特徴は,次のとおりであ

る。

微細ルールの採用

3層メタル配線の適用(2)

(1)

(4)

(4)

351(45)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

1.0

0.5

0

駆動電流(A)

0 50 100 150 200 250 300

スキャン ドライバIC用 高耐圧 デバイス

アドレスドライバIC用 高耐圧デバイス

耐圧(V)

図2 富士電機製のPDPドライバ IC用高耐圧デバイスの性能

表1 2003年度に開発したPDPドライバIC用要素技術

要素技術

分離技術

プロセス

デバイス

分離方式

基板

ウェーハサイズ

配線

ゲート駆動電圧

ロジック部 (低耐圧部)

出力回路部 (高耐圧部)

アドレスドライバIC

接合分離

埋込み     エピタキシャル

8インチ

3層メタル/    1層ポリシリコン

ロジック部:5V 出力回路部:      max 90V

PMOS/NMOS

横型PMOS

横型NMOS

スキャンドライバIC

誘電体分離

はり合わせSOI

6インチ

2層メタル/    1層ポリシリコン

ロジック部:5V 出力回路部:     max 165V

PMOS/NMOS

ダイオード

横型nチャネルIGBT

横型PMOS

横型NMOS

ダイオード

表2 第四世代アドレスドライバIC用デバイスの主要DC特性

ロジック部 (低耐圧部)

出力回路部 (高耐圧部)

PMOS

NMOS

PMOS

NMOS

12

13.5

110

115

デバイス V(V) B

0.8

0.6

3

0.5

th(V) Von(Ω・cm)

第四世代

7.1

5

R

第三世代

10.5

9.6

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PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術

これら二つのアイテムともに ICのチップサイズシュリ

ンクによる低コスト化の実現が採用の大きな狙いである。

微細ルールの採用には高速データ転送の実現も目的として

ある。

第四世代デバイスの特性上の改良点は,次のとおりであ

る。

高耐圧 PMOSの低しきい値電圧化

高耐圧NMOSの低オン抵抗化

に関しては,しきい値電圧調整用イオン注入工程の最

適化により実現している。また, に関しては微細ルール

の採用によるデバイスシュリンクと,拡散層形成条件の最

適化により実現した。

図3に出力デバイス用の高耐圧 PMOSと NMOSの電

流・電圧波形を示す。図の縦軸は単位チャネル幅あたりの

電流値を示している。表2のとおり,第四世代 PMOSの

オン抵抗は第三世代デバイスの約 70 %,NMOSでは約

50 %の値を達成している。

3.2 スキャンドライバ IC用デバイス・プロセス技術

3.2.1 素子間分離技術

富士電機では SOI 方式誘電体分離技術をスキャンドラ

イバ ICのベース技術として,デバイス・プロセス開発を

進めてきた。この分離技術には,狭い分離面積と適用デバ

イスが無制限といった大きな利点がある。この利点を生か

すことにより,高耐圧・大電流・多出力の特徴を備えたス

キャンドライバ ICにはコストと性能の面から最適な分離

技術となる。

第三世代スキャンドライバ IC 用デバイス・プロセス技

術では,第二世代と同一の誘電体分離技術を適用している。

現在,ICの低コスト化を狙いとして,素子間分離形成工

程の簡略化を実現できる改良誘電体分離技術の開発に取り

組んでいる。

3.2.2 デバイス・プロセス技術

表3に第三世代デバイスの主要DC特性を示す。第三世

代デバイスの開発における高性能化のキーワードは,高破

壊耐量化と高速化である。以下,この二つのアイテムに焦

点を絞って第三世代の技術について説明する。

高破壊耐量化

第二世代までは ICのチップシュリンクを狙いとしたデ

バイスシュリンクを主目標としてきたが,駆動能力向上に

よるデバイス電流密度の増加がデバイスの破壊耐量に影響

を与えるようになってきた。そこで,第三世代においては

破壊耐量の向上を重点目標にして取り組んだ。

具体的には IGBTに対して第二世代なみの電流駆動能力

(1)

(6)

(5)

(2)

(1)

(2)

(1)

352(46)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

3

2

1

0

3

2

1

0

0 20 40 60 80

0 20 40 60 80

ドレイン ソース間電圧(V) -

(a)PMOS

ドレイン ソース間電圧(V) -

(b)NMOS

ドレイン ソース間電流(A/cm)

-ドレイン ソース間電流(A/cm)

-

ゲート電圧:5V

ゲート電圧:4V

ゲート電圧:3V

ゲート電圧:2V

ゲート電圧:50V

ゲート電圧:40V

ゲート電圧:30V

ゲート電圧:20V

ゲート電圧:60V

図3 第四世代アドレスドライバ IC用高耐圧PMOSと

NMOSの電流・電圧波形

25

20

15

10

5

0

500 1,000 1,500

短絡破壊に至るまでの時間( s)

短絡開始時の電流(A/cm2)

第二世代IGBT

第三世代IGBT

図4 第三世代 IGBTと第二世代 IGBTの負荷短絡耐量破壊時

間と電流の関係

表3 第三世代スキャンドライバIC用デバイスの主要DC特性

ロジック部 (低耐圧部)

出力回路部 (高耐圧部)

PMOS

NMOS

ダイオード

nチャネル IGBT

PMOS

NMOS

ダイオード

12

13.5

5~10

230

230

230

190

デバイス V(V) B

0.8

0.6

1.2

13

1.2

th(V) V第三世代

600A/cm2

13Ω・cm

6.5Ω・cm

1.2V/  400mA

電流駆動能力

第二世代

600A/cm2

22Ω・cm

6.5Ω・cm

1.2V/  400mA

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PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術

を維持しつつ,3 倍以上の負荷短絡耐量の確保を目標とし

た。図4に第三世代 IGBTと第二世代 IGBTの負荷短絡耐

量の結果を示す。図の横軸は負荷短絡開始時の電流を示し,

縦軸は素子が破壊するまでの時間を示す。

この結果から,第三世代 IGBTは第二世代 IGBTに比べ

て同一電流での破壊時間は長く,電流 1,000A/cm2では 3

倍以上の破壊時間を確保できていることが分かる。すなわ

ち,第三世代 IGBTは第二世代 IGBTよりも優れた破壊耐

量を備えている。

破壊耐量の向上は高耐圧NMOSおよび PMOSに対して

も実施し,各端子に絶対最大電圧が DC的に印加されても

破壊することがないように設計されている。特に,PMOS

ではゲート端子とドレイン端子に絶対最大電圧が同時に印

加される状態が存在し,この電圧印加状態での安全動作領

域を確保しなければならない。第三世代デバイスでは素子

のソース・ゲート領域の構造を最適化することで安全動作

領域の確保を可能とした。

図5に PMOSの電流・電圧波形を示す。第三世代デバ

イスの絶対最大電圧は 165Vである。図のとおり,ゲート

電圧が 170 Vの状態においてドレイン - ソース間電圧が

170Vでも素子は正常に動作しており,絶対最大電圧であ

る 165V 印加時の安全動作領域を問題なく保証できること

が分かる。

高速化

高速化においては出力用 IGBTに並列に接続するダイ

オードに対して実施した。近年,PDPドライバ ICにおい

ても逆回復特性の優れたダイオードの搭載要求が強くなっ

ており,第三世代デバイスの開発においては逆回復特性の

性能向上を図った高速ダイオードの開発に取り組んだ。

高速ダイオードの実現にあたってはカソード領域とア

ノード領域のパターンを最適化することにより,第二世代

ダイオードに対して 0.2 V 程度の順方向電圧の増加で 1/2

の逆回復時間,逆回復電荷量で 1/5の性能を達成している。

PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術

の将来動向

図6は富士電機における PDPドライバ IC 用デバイス・

プロセス技術の開発ロードマップである。図中には各世代

における重点開発アイテムと,その開発完了年度を示して

いる。

富士電機では,2003 年までに第四世代アドレスドライ

バ IC 用デバイス・プロセス技術と,第三世代スキャンド

ライバ IC 用デバイス・プロセス技術を開発完了した。

2004 年は第四世代スキャンドライバ IC 用デバイス・プロ

セス技術の開発完了を目指し,取り組んでいる。

PDPドライバ ICに対する低コスト化への要求は一層厳

しくなることが明らかであり,技術開発の狙いとするとこ

ろはチップシュリンク可能技術の実現になる。その一つの

ソリューションが微細化であり,第五世代ではスキャンド

ライバ ICも含めてより一層の微細化を進める予定である。

また,第五世代の重要開発アイテムとして,下記が挙げ

られる。

アドレスドライバ ICでは,センシング機能の搭載を

可能とする高精度アナログ技術の開発

スキャンドライバ ICでは,パネルの大画面化に伴う

大電流駆動化の要求を背景に,さらなる電流密度の向上

と高破壊耐量を実現する新構造デバイスの開発

あとがき

富士電機における PDPドライバ IC 用デバイス・プロ

セス技術について,現状技術と今後の取組みを紹介した。

PDPドライバ ICにはアドレスドライバ ICとスキャンド

ライバ ICがあり,それぞれの ICを形成するために開発

した素子間分離技術とデバイス技術,そしてプロセス技術

を概説した。

(2)

(1)

(2)

353(47)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

ゲート電圧:170V

ゲート電圧:150V

ゲート電圧:130V

ゲート電圧:110V

15

10

5

00 50 100 150 200

ドレイン ソース間電流(mA)

-

ドレイン ソース間電圧(V) -

図5 第三世代スキャンドライバ IC用高耐圧 PMOSの電流・

電圧波形

8インチ ★第三世代

3層メタル ★第四世代

高破壊耐量 高速スイッチング

★第三世代

改良誘電体分離技術 相補型IGBT

★第四世代

8インチ 微細化 新構造 デバイス

★第五世代

低 on ツインゲート

★第二世代 R

低 on 大電流駆動 ツインゲート

★第二世代 R

アドレスドライバIC用 デバイス・プロセス

スキャンドライバIC用 デバイス・プロセス

2001年

2003年

2005年

0.35 mルール 高精度アナログ

★第五世代

図6 PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術の開発動向

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PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術

40 型以上の大画面用 FPD市場は液晶パネルとの熾烈

(しれつ)な競争が起こっている。液晶パネルとの差異化

を図るために,PDPの高性能化と低価格化に向けた技術

開発が息をつく間もなく進められている。今後ともパネル

メーカーからの要求を満足する PDPドライバ ICをタイ

ムリーに提供できることを使命とし,その要素技術となる

高耐圧デバイス・プロセスの技術力を魅力あるものに高め

ていく所存である。

参考文献

田中直樹ほか.FPDが開くテレビ新機軸大画面,モバイ

ルが離陸.日経マイクロエレクトロニクス.no.209, 2002,

p.89-97.

大久保聡ほか.フラットパネル・ウォーズ艶やかさで競う.

日経エレクトロニクス.no.835, 2002, p.89-125.

石川弘之ほか.プラズマディスプレイ駆動用 IC.富士時

報.vol.61, no.7, 1988, p.478-481.

多田元ほか.PDPアドレスドライバ IC 技術.富士時報.

vol.76, no.3, 2003, p.172-174.

Sumida, H. et al. A high performance plasma display

panel driver IC using SOI. Proceedings of the 10th

ISPSD. 1998, p.137-140.

澄田仁志ほか.PDPスキャンドライバ IC 技術.富士時報.

vol.76, no.3, 2003, p.169-171.

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

354(48)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集1

解 説 素子間分離技術

パワーデバイスとその制御・駆動回路をワンチップ

上に搭載するパワー ICの開発が盛んに行われている。

パワー ICの要素技術の一つとなるのが素子間分離技

術である。これは,隣接するデバイス間で電気的な相

互作用が起こることを防止すための技術であり,パ

ワー ICではパワーデバイス部と制御・駆動回路部の

分離,あるいはパワーデバイス同士の分離を行うため

に用いられる。

素子間分離技術には自己分離技術,pn 接合分離技

術,誘電体分離技術の三つがある。右表は分離技術の

性能を比較したものである。右表のとおり各分離技術

とも長所と短所があり,パワー ICへの要求性能とコ

ストをかんがみて,適用する分離技術が選ばれている。

素子間分離技術と密接に関係するのがパワー ICに

搭載する高耐圧横型デバイスの選択である。自己分離

技術および pn 接合分離技術は電気的な完全分離が不

可能なため,搭載デバイスには主にユニポーラデバイ

スが適用される。一方,電気的な完全分離を達成でき

る誘電体分離技術を適用した場合には搭載デバイスに

制限はなく,デバイス選択の自由度は無制限である。

誘電体分離技術は他の分離技術と比べてコスト的に

不利であった。しかし,その特徴を生かすことにより

コストメリットが見いだされるようになり,最近では

パワー ICへの適用が積極的に試みられている。

素子間分離技術の性能比較

コスト

自 己 分 離

pn接合分離

誘電体分離

分離面積 分離性能

*優劣の順は◎>○>△である。

分離技術 項目

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放射線の利用は現在,工業,農業,医療等と非常に多方

面にわたっていて,いまや,その経済効果は原子力エネル

ギー利用と匹敵するようになっている。放射線利用の進展

に伴い,放射線利用機器と放射線測定器への要求は今後と

もますます増えていくものと思われる。

特に医療の分野での利用は,FDG(フルオロ・デオキ

シ・グルコース)の保険適用や I-125 の永久刺入線源の治

療が認められたことや IMRT(強度変調放射線治療)の開

発も相まって最近急速に進んでおり,X線 CT,X線癌治

療,PET*

(陽電子断層撮影)や SPECT(単一光子断層撮

影),粒子線(陽子,重イオン)癌治療,BNCT(ボロン

中性子捕捉療法),ガンマナイフ,サイバーナイフなど,

広く利用されている。この分野では放射線分布の画像化と

そのための良好な位置分解能が必要とされ,それぞれの目

的に適した様々な放射線検出器システムが次々と開発され

ている。また,放射線治療においては,被験者の体内外や

人体模擬ファントム内の線量分布の高精度測定が極めて重

要であり,小型で人体組織等価な特性を持つ検出器が必要

とされている。

また,宇宙環境利用の進展,特に国際宇宙ステーション

(ISS*

)での放射線計測が注目され,また最近マスコミ等で

航空機乗務員の宇宙線被ばくの問題が取り上げられている。

一方,地上における宇宙線中の中性子成分が半導体集積素

子(DRAM,SRAMなど)のソフトエラーを引き起こす

ことが近年大きな問題となりつつあり,地上における宇宙

線中性子測定の重要性が増している。宇宙環境においては,

荷電粒子(電子,陽子,α線,重イオン),特に陽子が多く存在し,それと弁別して,非荷電粒子(γ線,中性子),

特に中性子を測定することが必要になる。宇宙環境での使

用には,小型,軽量の測定器の開発が必要となる。

加速器の医療利用に加えて,産業利用として,非破壊検

査,X線 CT,滅菌,排ガス処理,イオン注入による材料

改質,放射化分析,ラジオグラフィー,PIXE(粒子生成

特性 X線分析),AMS(加速器質量分析),放射性医薬品

製造なども急速に進展し,より安価で,工場や病院などに

簡単に設置できる小型加速器の開発も様々に進められてい

る。また,電子蓄積リングからの放射光を用いた,リソグ

ラフィーなどのマイクロ加工技術,蛋白質等の構造解析な

どの利用も非常に盛んになっている。これらの放射線を利

用するところでは,様々なモニタリングのために適した

様々な放射線機器が必要である。

一方,今回のBSS(国際基本安全基準)免除レベルの取

り入れによる法令改正と近々予定されているクリアランス

の導入により,ごく低レベルの放射能や線量を検認する測

定装置が今後の開発課題になるであろう。さらに,NORM*

(自然起源放射性物質)の法令規制が検討されており,昨

今のテロ対策や地雷検知など,広く一般市民にも放射線検

出器の利用が進む可能性が十分考えられる。現在,富士電

機が製造している簡易線量計が市民対象の教育や PA活動

に利用されているが,これがもっと小型軽量化,低価格化

されていくと,将来たとえば,スーパーマーケットなどの

店頭で市民線量計などとして販売されるようになる日が来

るかも知れない。そうなると,一般国民の放射線アレル

ギーも随分良くなって,放射線に対する正しい理解が進む

ことが期待される。

このような状況にかんがみて,今後の放射線機器は,放

射線レベルの位置分布の画像化が進むであろうし,また現

在のシリコンを中心とする素材から,新しい素材,例えば

今注目を集めている有機半導体素材に移っていくことも十

分考えられる。このような様々な放射線利用に対応して,

新しい機器の開発に意欲的に取り組んでいくことが非常に

重要であろう。この技術開発への取り組みに最も重要なの

が人材であることは言うまでもない。中堅や若手の技術者

が臆することなく伸び伸びと力を発揮出来て,次代を荷う

技術者を次々と育て上げる職場環境を作るとともに,直ぐ

に儲けにつながらなくても新しい事に積極的に取り組める

ような雰囲気,まさに「プロジェクトX」を組めるような

状況にすることが不可欠である。

(*印の PET,ISS,NORM の詳細は 368 ページの

「解説」参照)

放射線機器の可能性について

中村 尚司(なかむら たかし)

東北大学名誉教授 工学博士東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター研究教授

355(49)

特集2 放射線システム

特集2

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河野 悦雄

放射線機器の開発・設計,放射線

モニタリングシステムのエンジニ

アリング業務に従事。現在,富士

電機システムズ(株)e-ソリュー

ション本部放射線システム統括部

長。電気学会会員。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

1895 年にドイツの科学者レントゲンが X線を発見して

から 100 年以上が経過し,その間放射線は理工学分野,医

学分野において利用が進められてきた。工業において放射

線計測技術が応用されたのは,主として放射線の物質透過

能力を利用したものであり,鉄鋼や紙・フィルムなどの製

造ラインに組み込まれて,対象物の厚さや液面を非接触か

つ高精度で迅速に計測する厚さ計や鋳鉄レベル計として利

用されてきた。近年,鉄鋼・化学繊維などの生産の海外移

転が進んだことや海外を含めた生産量が伸びないことから

放射線応用計測器の需要は低下傾向が継続している。

一方,放射線モニタは,原子力発電所・原子力関係研究

機関と大学・病院・薬品工業などラジオアイソトープ利用

施設に納入されている。原子力発電所の建設が始まると放

射線モニタリング機器としての需要が増加し,次第に放射

線機器市場の大部分を占めるようになってきた。病院にお

ける放射線診断装置の導入が進んでおり,患者に投与する

医療用放射性同位元素の使用・管理に合わせて放射性排水

処理設備とともに放射線モニタの設置が進められている。

図1に(社)日本電気計測器工業会で作成した放射線計測

器の生産高の実績と今後の予測を示す。放射線モニタの需

要は,原子力発電所の新規建設計画に大きく依存しており,

建設計画の延期が市場規模に影響している。

放射線システムの現状

放射線モニタは,環境放射線モニタリング,個人線量モ

ニタリング,表面汚染モニタリング,放出放射性物質モニ

タリング,エリアプロセスモニタリングに分類される。

環境放射線モニタリングの測定対象は空間γ線線量率,

ガス状放射性物質濃度および空気中浮遊放射性物質濃度で

ある。空間γ線線量率測定には,バックグラウンド線量率

から 10 µSv/hまでの低レンジモニタと,10 µSv/hから 10

mSv/hまで測定する高レンジモニタがある。放射線検出

器は NaI(Tl)シンチレーション検出器と球形加圧電離箱

が使われている。病院における検査にラジオアイソトープ

放射線診断装置の利用が増加しており,放射性同位元素を

体内投与された患者が環境モニタリング装置に近づいたり,

放射性元素運搬車がそばを通過するなどでモニタの指示値

の変動する機会が増えるようになってきた。最近では,低

レンジモニタにエネルギースペクトル測定機能を持たせて,

通常の測定状況下では予想されないような指示変動がある

場合に放射線源の特定ができるようにしている空間γ線モ

ニタリング機器が増えている。この機能と相まってエネル

ギー特性補償方式は,計数精度のよいディジタルエネル

ギー荷重補正になってきている。

施設内外の定点連続γ線モニタリングの積算線量測定に

おいては,素子の加熱など測定に関係した処理が必要とな

放射線システムの現状と展望

356(50)

河野 悦雄(こうの えつお)

200

150

100

50

0

250

生産高(億円)

’93

11

25

32

149

’94

10

28

27

149

’95

11

30

37

133

’96

9

29

32

136

’97

8

29

37

117

’98

13

26

21

110

’99

21

21

20

132

’00

(年度)

18

20

21

136

’01

25

16

22

142

’02

18

13

17

108

’03

20

14

18

123

’04 予測

18

14

19

115

’05

18

15

18

110

’06

20

15

17

120

’07

20

16

17

130

総合機器 放射線モニタ 放射線応用機器 その他

図1 放射線計測器の生産高の実績と今後の予測

特集2

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放射線システムの現状と展望

る熱ルミネセンス線量計などのパッシブ型線量計から線量

の時間変化が履歴として記録できる電子式線量計への移行

が進んでいる。

個人線量モニタリングの外部被ばく線量測定では,γ

線・β線・中性子が測定できる電子式線量計が実用化され

て線量記録用線量計として使用されるようになってきた。

特にγ・β線量測定は近い将来,電子式線量計に置換され

ていく。線量計と線量リーダとの通信は,赤外線通信から

次第に無線通信に移行しており,近距離通信によって線量

計を作業服などのポケットに着用した状態でのデータ通信

が可能となりつつある。

表面汚染モニタリングは,測定対象物に対応して,全身

表面モニタ,物品モニタ,ランドリモニタなどがある。広

い範囲を短時間で測定することから放射線検出器には,β

線検出用のプラスチックシンチレーション検出器が使われ

ている。

エリアプロセスモニタリングに使用されるダストモニタ

では,1 台の放射線検出器でβ線とα線を同時・個別に検出できる放射線検出器が採用されて,ラドン・トロン娘核

種などの天然放射性同位元素から放出される放射線の影響

を低減できるようになってきた。核燃料取扱施設では,α線のエネルギー分別ができる大面積の半導体検出器を使い,

プルトニウムの分離測定ができるダストモニタが導入され

ている。

技術動向

放射線モニタリング機器には高い信頼性が要求される。

今後は,小型軽量化・低価格化・長寿命化・高信頼化を目

指して技術開発が進められていく。

放射線検出器については,ガス入り計数管などの有寿命

放射線検出器やパッシブ型検出器は,小型化・軽量化が可

能な半導体検出器に置き換えられていく。半導体素子の中

でもシリコン半導体は,常温で安定して動作し,かつ比較

的人体組織に近い成分を持っているので線量測定に適した

素子であり,主要な放射線検出素子として今後も使用され

ていく。

核燃料再処理施設や加速器施設の建設が進んでおり,こ

れらの施設では中性子線量計測が重要になってくる。特に

加速器施設では測定対象とする中性子のエネルギーが 10

MeVを超過し,高エネルギーで低下する中性子検出器の

感度を向上させる物質を従来の減速材に加えるなどの新し

い中性子検出器の開発が進められていく。

あとがき

富士電機としては,主として半導体放射線検出器を搭載

し,さまざまな測定条件に最適な特性を持った各種放射線

モニタリング機器の製品化を進めていく所存である。

357(51)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

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青山  敬

放射線モニタリングシステムの開

発,エンジニアリング業務に従事。

現在,富士電機システムズ(株)

e-ソリューション本部放射線シス

テム統括部放射線システム部担当

課長。原子力学会会員。

上田  治

放射線検出器の開発・設計に従事。

現在,富士電機システムズ(株)機

器本部東京工場ファインテック機

器部。

河村 岳司

放射線汚染測定装置の開発・設計

に従事。現在,富士電機システム

ズ(株)機器本部東京工場放射線装

置部。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

原子力分野や放射線利用施設の放射線安全管理において

は,国際放射線防護委員会(ICRP Pub.60)の勧告を取り

入れた放射線障害防止法令などが 2001 年 4 月に改正され,

個人被ばく線量限度は従来の 50 mSv/年に加えて 100

mSv/5 年の限度が追加され,管理レベルは厳しくなった。

線量管理に用いる個人線量計は 2001 年から従来のフィ

ルムバッチに変わって蛍光ガラス線量計,OSL(Optically

Stimulated Luminescence)線量計が使用されるように

なった。これらの線量計は測定値を直読できないため,線

量値を直読できかつアラーム機能を備えた電子式線量計が

近年線量管理用に採用されつつある。

海外でも電子式個人線量計の採用が増えており,IEC 規

格においてはγ線,β線および中性子測定可能な電子式線

量計の規格が制定されている。

国内の電子式個人線量計の規格としては 2002 年に IEC

規格と整合を図り,JIS Z 4312「X線,γ線,β線及び中

性子用電子式個人線量(率)計」が改定された。

富士電機は 1980 年に半導体検出器を用いた警報付線量

計を開発して以来,現在まで改良を重ねてきている。この

電子式線量計を高機能化し,入退域管理装置を組み合わせ

た富士電機の個人線量管理システムは現在,国内の原子力

施設で約 70 %のシェアを持っている。

システムの概要

個人線量モニタリングシステムは,原子力発電所などの

放射線管理区域内に入域する際に電子式線量計を従事者が

携帯して作業中に受けた放射線の量を測定し,退域時に入

退域管理装置で線量データを読み取り,計算機システムで

個人ごとの線量や作業ごとの線量を管理するものである。

図1にシステムの概要を示す。図中の線量計は電子式線量

計の略である。

電子式線量計

電子式線量計は,従事者が胸のポケットに携帯して作業

中に受けた放射線の量をリアルタイムで測定・表示し,設

定値以上の線量を被ばくした場合に警報を発する機能を持

つ。センサには小型・低消費電力という特徴からシリコン

半導体検出器を使用している。

個人線量計は構造がシンプルで耐久性・信頼性が高い

フィルムバッジなどのパッシブ線量計が従来から広く用い

られてきたが,これらの線量計は線量データを直読できな

いうえ,月間積算線量データを得るのに時間がかかるとい

う欠点があった。そのため国内の原子力発電所では,パッ

シブ線量計と併用して作業中の線量監視用(アラーム機能)

として電子式線量計を用いていた。

近年では電子式線量計の開発が進み,耐ノイズ・耐衝撃

性を改善して信頼性が向上し,X線・γ線はもちろんβ線,

中性子の測定が可能になってきている。さらに,電子式線

量計のデータ通信機能は赤外線・無線方式により外部の

データ処理システムとの連携が容易であり,迅速な測定記

録の管理,入退域管理,トレンドデータ測定などシステム

の高機能化が図れる。

電子式線量計の主な特徴を以下にまとめる。

多線種を同時測定

X線,γ線に加えてβ線,中性子の同時測定が可能であ

る(世界初)。

データの信頼性

従来の法定線量計(パッシブ線量計)と同等性能である。

これは実際に原子力発電所で並行運用した測定データの評

価から確認済みである。

国際規格にも準拠

国際電気標準会議(IEC)の電子式線量計の規格(IEC

61526),および国内 JIS 規格(JIS Z 4312)を満足してい

る。

無線通信による操作性改善,時間短縮

電子式線量計と入退域管理装置のデータ通信は無線通信

を採用し,ポケットに入れたままでも通信でき,入退域の

(4)

(3)

(2)

(1)

個人線量モニタリングシステム

358(52)

青山  敬(あおやま けい) 上田  治(うえだ おさむ) 河村 岳司(かわむら たけし)

特集2

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個人線量モニタリングシステム

操作性が改善され,かつ処理時間を短縮できる。

最近ではこの無線通信機能を拡大して遠隔無線モニタリ

ングにも適用し,システム化を実現している。

国内の多くの原子力発電所では線量管理の合理化,作業

者の負担軽減を目的として,一つの電子式線量計だけを用

いる管理に移行している。これらの要求を受けて開発した

γ(X)線・β線用線量計(以下,γ・β線量計と略す)

およびγ(X)線・中性子線量計(以下,γ・中性子線量

計と略す)について以下に紹介する。

3.1 γ・β線量計

γ・β線量計はγ(X)線用とβ線用の二つのセンサを

搭載し,それぞれの放射線を同時に計測することができる。

γ・β線量計を図2,主な仕様を表1に示す。

γ線用センサはシリコンセンサチップを耐環境性向上の

ためにセラミックパッケージに封止し,入射方向に数種類

の金属から成るエネルギーフィルタを備えてエネルギー特

性(γ線のエネルギーによる感度の違い)を補正している。

エネルギー特性を図3,方向特性を図4に示す。

β線用センサは,β線がアルミ板 1枚で止まるほど透過

力が弱いため,セラミックパッケージの入射方向を厚さ数

359(53)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

図2 γ・β線量計 表1 γ・β線量計の仕様

線 量 計 型 式

検  出  器

検 出 線 種

検出エネルギー

エネルギー特性

方 向 特 性

表 示 範 囲

指 示 精 度

警     報

通 信 方 式

電     源

使 用 温 度

寸     法

質     量

γ(X)線

50keV~6MeV

±20%以内 137Cs基準

0~999.99mSv

±10%以内 0.1~999.9mSv

±15%以内 上下左右60°まで        137Cs基準

β線

300keV~2.3MeV

±30%以内 90Sr/90Y基準

0~999.9mSv

±15%以内 0.1~999.9mSv

±30%以内 上下左右60°まで       90Sr/90Y基準

NRN64311

半導体

音:100dB以上,表示灯:LED点滅(赤)

無線(LF)および接点

NiCd充電池(連続12時間以上)

0~50℃

110×57×17(mm)

120g

APD充電器 1 2 3 4 5 6 8 7 9 10A

B

C

D

F

E

G

H

I

J

線量計

mS V設定値

時 間

γ

β

MULTIDOSEMETER

I Dカード

線量計

I Dカード

線量計

I Dカード

線量計

A A P P D

A P D

入退域 管理装置

入退域 管理装置

線量計貸出装置

線量計貸出

線量チェックの自動化

ポケットに入れたままで, 線量計と無線交信

作業エリア

管理区域

作業情報入力

ポケットに入れた ままでデータ通信

無線通信

管理区域内 管理区域外

計算機システム サーバ

入域

線量計貸出

線量計返却

退域

作業

10cm

線量計

図1 個人線量モニタリングシステムの概要

特集2

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個人線量モニタリングシステム

十 µmの樹脂膜で製作している。エネルギー特性を図5に

示す。

改定された JIS Z 4312に準拠するため,図6に示すよ

うにβ線方向特性を改善している。これはβ線入射方向の

立体角を拡大して,β線入射窓を大口径化したことによる。

β線入射窓の破損防止については補強材により,通常の取

扱いでは破損しない構造にしている。

3.2 γ・中性子線量計

γ・中性子線量計はγ(X)線用,中性子用の二つのセ

ンサを搭載し,それぞれの放射線を同時に計測することが

できる(図7)。γ・中性子線量計の主な仕様を表2に示

す。

γ(X)線用センサはγ・β線量計と同様であり,ここ

では省略する。

中性子用センサは,中性子が電離作用を持たないためこ

れを直接検出することはできず,水素やボロンと中性子が

反応して発生する荷電粒子を検出している。また,熱中性

子から 15MeVまで測定エネルギー範囲が広いため,低エ

ネルギー用に熱中性子センサ,高エネルギー用に高速中性

子センサの 2 種類を搭載している。熱中性子センサは表面

にボロン薄膜を形成したシリコンセンサチップをセンサ

パッケージで封止している。

ボロン膜中の 10B 原子は低エネルギーの中性子との反応

断面積が大きく,中性子と反応して発生したα線と Li 原

360(54)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

10.1 10

0.2

0

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

相対レスポンス(90Sr-Y;30cm基準)

JIS規格 (EB1形) 500keV~ 2.2MeV

±30% 500keV~ 2.3MeV (製品仕様)

β線残留最大エネルギー(MeV)

図5 β線のエネルギー特性

-70%

-60%

-50%

-40%

-30%

-20%

-10%

0%

10%

20%

30%

-70%

-60%

-50%

-40%

-30%

-20%

-10%

0%

10%

20%

30%

上 基準  0゜

左 右

(a)方向特性(β線 上・下)

(b)方向特性(β線 左・右)

下20゜

下40゜

下60゜

下80゜

上20゜

上40゜

上60゜

上80゜

基準  0゜

左20゜

左40゜

左60゜

左80゜

右20゜

右40゜

右60゜

右80゜

図6 β線の方向特性

図7 γ・中性子線量計

相対レスポンス(137Cs基準)

X・γ線エネルギー(MeV)

0.10.01 1 10

0.2

0

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

±30% 60keV~ 1.5MeV JIS規格 (EP2形)

±20% 50keV~ 6MeV

(製品仕様)

図3 γ(X)線のエネルギー特性

20%

10%

-10%

-30%

-40%

-50%

-60%

0%

-20%

20%

10%

-10%

-20%

-30%

-40%

-50%

-60%

0%

基準  0゜

下15゜

下30゜

下45゜

下60゜

下75゜

下90゜

上15゜

上30゜

上45゜

上60゜

上75゜

上90゜

基準  0゜

左15゜

左30゜

左45゜

左60゜

左75゜

左90゜

右15゜

右30゜

右45゜

右60゜

右75゜

右90゜

左 右

(b) 線方向特性(137Cs 左・右) γ

(a) 線方向特性(137Cs 上・下) γ

図4 γ(X)線の方向特性

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個人線量モニタリングシステム

子核をシリコンセンサで検出している。

高速中性子センサはセンサパッケージ内のシリコンセン

サ上にポリエチレン(CH2)を配置し,ポリエチレン中の

水素と中性子が反応して発生したリコイルプロトンをシリ

コンセンサで検出している。

中性子センサの校正は 252Cf 線源(平均エネルギー 2.3

MeV)を用いている。実際の運用にあたっては,作業環

境の放射線場に適した校正定数を事前に取得しておくこと

が重要であり,そのために熱中性子センサと高速中性子セ

ンサの計数値の重み付けを変えられる補正定数を内部に設

け,実作業環境下に応じた加重計算を行い,適正な線量値

を表示できるように工夫している。

エネルギー特性を図8に,方向特性を図9に示す。

(1)

361(55)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

表2 γ・中性子線量計の仕様

線 量 計 型 式

検  出  器

検 出 線 種

検出エネルギー

エネルギー特性

方 向 特 性

表 示 範 囲

指 示 精 度

警     報

通 信 方 式

電     源

使 用 温 度

寸     法

質     量

γ(X)線

50keV~6MeV

±20%以内 137Cs基準

0~999.99mSv

±10%以内 0.1~999.9mSv

±15%以内 上下左右60°まで       137Cs基準

中性子

0.025keV~15MeV

-50~+150% (熱中性子場および 241Am-Be線源:252Cf基準

0~999.99mSv

±20%以内 0.3~999.9mSv

±50%以内 上下左右60°まで        252Cf基準

NRY50312

半導体

音:100dB以上,表示灯:LED点滅(赤)

無線(LF)および接点

NiCd充電池(連続12時間以上)

0~50℃

110×57×17(mm)

120 g

-50~+150% 0.025eV~15MeV (製品仕様)

相対レスポンス(252Cf基準)

中性子エネルギー(MeV) 2.5 3.0 3.5 4.0 4.52.01.51.00.50

0.5

0

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

図8 中性子のエネルギー特性

-100%

-80%

-60%

-20%

-40%

0%

20%

-100%

-80%

-60%

-20%

-40%

20%

0%

下15゜

下30゜

下45゜

下60゜

下75゜

下90゜

上15゜

上30゜

上45゜

上60゜

上75゜

上90゜

(a)中性子方向特性(252Cf 上・下)

基準  0゜

左15゜

左30゜

左45゜

左60゜

左75゜

左90゜

右15゜

右30゜

右45゜

右60゜

右75゜

右90゜

(b)中性子方向特性(252Cf 左・右)

左 右

基準  0゜

図9 中性子の方向特性

表3 入退域管理装置

納入先 A社 B社 C社 D社

外 観

特 徴 線量計貸出装置と一体型 線量計台数:150台

小型・軽量化で省スペース化

仕 様

対象線量計:NRY1,NRN1 通過方式:フラッパゲート 通過時間:約15秒 寸法(H,W,D):  約1,440×1,350×300(mm) 質量:約300kg

対象線量計:NRY4 通過方式:フラッパゲート 通過時間:約7~8秒 寸法(H,W,D):  約1,300×1,100×300(mm) 質量:約160kg

警報表示は大きなLEDを採用

対象線量計:NRY5,NRN5 通過方式:ポールゲート 通過時間:約7~8秒 寸法(H,W,D):  約1,700×1,120×420(mm) 質量:約210kg

IDカードは無線交信(胸ポケット)

対象線量計:NRY6,NRN6 通過方式:ゲートなし 通過時間:約7~8秒 寸法(H,W,D):  約1,600×780×400(mm) 質量:約200kg

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個人線量モニタリングシステム

入退域管理装置

入退域管理装置は管理区域の境界に設置し,入退域の資

格審査を自動で行うものであり,下記の特徴を有する。

電子式線量計と装置間は無線でデータ(線量データや

線量計番号,立入時間,警報値など)を交信する。

作業番号の入力を簡素化し,入域時,画面に最新作業

件名を表示して選択可能として通過時間の短縮を図って

いる。

装置全体を薄型化・高機能化している。

装置の主要構成は,操作画面,線量計交信部,IDカー

ド読取部,人検知センサ,状態表示灯などである。ユー

ザーのニーズに応えて,電子式線量計貸出装置と一体型の

構造をしたものやゲートを設けたものなどがある。いまま

で原子力関連施設に納入した装置の特徴,仕様などについ

て表3に紹介する。外観写真を見ると分かるように,装置

ゲートの有無,装置デザイン,カラーなど設置場所ごとに

特色を出して,多種多様のニーズに対応した製品作りを

行っている。

電子式線量計の校正

電子式個人線量計の校正は JIS Z 4511に示されている

図 の体系で行う必要がある。計量法上の認定事業者にて

電子式個人線量計をファントム付きで校正し,これを実用

(2)

10

(3)

(2)

(1)

362(56)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

校正装置

実用校正

基準校正

校正区分 照射線量(率)基準

個人線量計

ICRUスラブ線量 当量(率)基準

特定標準器

照射線量(率) 国家標準

一次照射線量(率) 基準

二次照射線量(率) 基準

ファントム 校正

線量当量 換算係数

ファントムを 用いない校正

個人線量計

ICRUスラブ線量 当量(率)基準

実用照射線量(率)または 実用空気カーマ(率)基準

 線照射装置 X線照射装置 γ

 線照射装置 X線照射装置 γ

特定二次標準器

 線照射装置 X線照射装置 γ

基準 線源 γ

 実用 線照射装置 γ

実用基準 線源 γ

基準測定器

実用基準測定器

図10 線量計の校正体系

M

7.2°

γ線源照射用 シリンダ

音量計

β線照射部 (測定完了ごとに回転し  50台の線量計を校正  する。)

線量計50台同時照射

γ線源収納ケース

6スロット中の任意の γ線源を選択する。

図11 γ線・β線校正装置

A7169-18-489

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個人線量モニタリングシステム

基準測定器として他の同一形式の電子式個人線量計を置換

法によってファントムを用いずに校正することができる。

この方法は JIS 規格の実用校正に対応しており,γ線のみ

ならずβ線および中性子についても同じ方法で実用校正が

可能と考えている。電子式線量計の実用校正は多数の電子

式線量計を校正する必要から,富士電機ではパノラマ照射

装置やロボットアームによる自動化装置などの実用校正装

置を開発している。γ線・β線用と中性子用の校正装置の

例をそれぞれ図 ,図 に示す。

あとがき

個人線量モニタリングシステムにおける富士電機の取組

みについて電子式個人線量計を中心に紹介した。今後は多

くの施設で使用できる安価で,使いやすくかつ正確な電子

式線量計を開発し,利用の拡大を図っていく所存である。

最後に電子式個人線量計の開発,製品化にあたり,多く

のご指導・ご協力をいただいた電力会社,原子力施設,各

研究機関などの関係各位に深く感謝する次第である。

参考文献

被ばく線量の測定・評価マニュアル5.3.3.原子力安全

技術センター.2000.

JIS Z 4511 照射線量測定器,空気カーマ測定器,空気吸

収線量測定器及び線量当量測定器の校正方法.日本規格協会.

2004.

南賢太郎,村上博幸.実用測定器校正の現状と今後の展開

Ⅲ,JIS Z 4511の改正と実用測定器校正に関する現状と今

後のあり方について.RADIOISOTOPES. vol.53, no.4,

2004.

(3)

(2)

(1)

1211

(3)

363(57)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

カセットを固定する。 カセットの有無を検知する。

線量計(4台)

252Cf 線源が,測定位置 まで上昇し線量計の 校正を開始する。

制御盤

アームロボット

線量計ロッカー (5カセット収納)

252Cf 線源

図12 中性子校正装置

A7203-18-255

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高木 俊博

原子力関連施設の放射線管理シス

テムのエンジニアリングに従事。

現在,富士電機システムズ(株)

e-ソリューション本部放射線シス

テム統括部放射線システム部担当

課長。

木村  修

原子力施設向けの放射線管理シス

テムのエンジニアリング業務に従

事。現在,富士電機システムズ

(株)e-ソリューション本部放射

線システム統括部放射線システム

部課長補佐。

皆越  敦

原子力発電所向けの放射線管理シ

ステムのエンジニアリングに従事。

現在,富士電機システムズ(株)

e-ソリューション本部放射線シス

テム統括部放射線システム部。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

原子力発電所などでは,周辺監視区域境界近傍の状況把

握を目的として,環境放射線モニタリングシステムにより,

連続的に環境γ線の線量率の測定を行っている。

また,近年においては,原子力発電所の運転に対する一

般公衆への理解を得ることを目的として,測定データを一

般公開するとともに,地方自治体の原子力環境監視施設に

データ伝送するなど,設備として重要な位置づけにある。

本稿では,富士電機の最新の環境放射線モニタリングシ

ステムを紹介する。

システム構成

本システムは,原子力発電所の周辺監視区域境界近傍な

どに設置されるモニタリングポストや気象観測設備,測定

データを原子力発電所の中央制御室に送信するテレメータ

装置,中央側で測定データと警報を表示・管理するデータ

監視装置で構成される。図1にシステム構成の例を示す。

環境放射線モニタリングシステム

高木 俊博(たかぎ としひろ) 木村  修(きむら おさむ) 皆越  敦(みなごし あつし)

モニタリングポスト局舎(周辺監視区域境界) 発電所内設備

NaI 検出部

IC 検出部

計測部

MOテレ メータ 装置 子局

警報 表示灯

光コン バータ

光コン バータ

通話装置 通話装置

感雨計

UPS

空調機,蛍光灯,ファンなど

外部電源

放射性ダストモニタ

気象観測設備

分電盤, 耐雷トランス

光ケー ブル

計測部

MO

モニタリングポスト局舎(周辺市町村)

NaI 検出部

IC 検出部

計測部

MOテレ メータ 装置 子局

テレメータ装置 親局A系

テレメータ装置 親局B系

警報 表示灯

伝送部

通話装置

PR用ディジタル表示器

UPS

空調機,蛍光灯,ファンなど

外部電源

分電盤, 耐雷トランス

公衆 回線

計測部

MO

中央制御室監視盤

伝送監視盤

伝送部

通話装置

テレメータ装置 親局A系

データ 伝送装置

計算機室

地方自治体への 伝送設備

放射線管理 システム

プロセス コンピュータ

データ 監視装置

緊急時対策所

端末 装置

大型 プラズマ 表示装置

テレメータ装置 親局B系

表示・監視 制御装置

警報表示

線量率表示

線量率記録

図1 システム構成(例)

特集2

364(58)

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環境放射線モニタリングシステム

モニタリングポスト

モニタリングポストは,環境γ線の線量率を連続測定す

るための線量率測定装置をその局舎内に収納する。また,

線量率測定装置と空気中の放射性ダスト濃度を連続測定す

る放射性ダストモニタを備える局舎は,モニタリングス

テーションと呼ばれる。一般的にモニタリングポスト,モ

ニタリングステーションは,原子力発電所の周辺監視区域

境界近傍に 3 ~ 9 基,周辺市町村に 3 ~ 22 基設置される。

3.1 環境γ線の線量率測定装置

環境放射線モニタリングに関する指針に基づき,環境γ

線の線量率バックグラウンド(BG)レベル(数十 nGy/h)

~ 108nGy/hの広範囲にわたる測定範囲を低レンジ測定用

の NaI(Tl)シンチレーション検出部(図2参照)と高レ

ンジ測定用の球形電離箱検出部(図3参照)を組み合わせ

て測定している。

線量率測定装置は,ディジタル化と小型高密度実装技術

により,基本構成を検出器と約 21(W)× 23(H)× 30

(D)cmの計測部(図4参照)の組合せによるシンプルな

構成にまとめ,大幅な省スペース化と高い信頼性を実現し

ている。

低レンジ測定系の検出部は,NaI(Tl)シンチレータ,

フォトマル,アンプ回路,高圧回路,温度補償回路を実装

し,検出器からは温度に依存しない規格化されたパルス信

号を出力できる。計測部は,約 6インチの TFT(Thin

Film Transistor)カラー液晶表示器,エネルギー補償回

路を含む計測用の CPU 基板と,測定データの表示・伝

送・保存を行う CPU基板の 2 枚を実装している。本測定

系では,エネルギー補償方式に DWM(Digital Weighting

Method)方式によるスペクトル荷重計算方式を採用する

ことで,計数精度を落とすことなく線量率に換算するとと

もに,スペクトルデータ分析機能によりγ線エネルギー情

報から放射性同位元素の同定が行える。また,スペクトル

データは定周期で中央側に伝送し,現場に行かなくても解

析が可能である。

高レンジ測定系の検出部は,電離箱,アンプ回路,電圧

周波数変換回路,高圧回路を実装し,計測部は検出部から

のパルス信号を計数することにより線量率データを表示し

ている。本測定系では,球形電離箱検出器の材質を従来の

ステンレス鋼材から比重の小さいアルミニウム製にし,

400 keV 以下の低エネルギー領域のγ線測定精度を向上さ

せたタイプも備えている。

測定データの現場での記録方式は,従来の記録計による

データ記録方式から,測定値をディジタル化して光ディス

クに保存することにより,測定値変化の把握,機器の状態

記録,データ保存期間の拡大を図るとともに,パソコンを

利用して簡単にデータ解析ができるようにしている。

通常,高レンジ測定系には,球形電離箱検出器を採用し

ているが,低レンジ測定系に事故時測定の補助機能を付加

することを目的として,BGレベル~ 108 nGy/hの領域を

測定することができるワイドレンジ NaI(Tl)シンチレー

ション検出器を開発し,システム構築している。本システ

ムは,BGレベル~ 105 nGy/hの低レンジ領域は検出器か

らのパルス信号を計測処理し,パルス計測ができなくなる

105 nGy/h 以上の高レンジ領域は線量率に比例した電流信

365(59)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図2 NaI(Tl)シンチレーション検出部

図3 球形電離箱検出部

図4 線量率測定装置の計測部

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環境放射線モニタリングシステム

号を計測処理する方式を採用している。

低レンジ測定系,高レンジ測定系,ワイドレンジ NaI

測定系の主要仕様を表1に示す。

3.2 放射線ダストモニタ

放射線ダストモニタは,空気中の放射性ダスト濃度を連

続測定する装置で,ろ紙に集じんしたダスト濃度を測定す

るダストモニタとダストサンプラを一体型とし,検出器に

はβ線測定用のプラスチックシンチレーション検出器を採

用している。また,環境γ線の線量率が警報設定値を超過

した場合にチャコールカートリッジに放射線よう素を自動

サンプリングする機能も付加している。

サンプリングポンプは,ろ紙の目づまりなどで流量変動

が発生した場合でも,250 L/minの一定流量で連続サンプ

リングができるようにインバータによる定流量制御を行っ

ている。

3.3 局 舎

局舎(図5参照)は,ALC(Autoclaved Lightweight

Concrete)板組立局舎を採用し,局舎建設工事期間の短

縮と低コストを実現している。

発電所周辺の市町村に設置する局舎には,環境放射線測

定データの一般公開を目的として,モニタリングポストの

役割と付近のモニタリングポストの配置をグラフィックパ

ネルで紹介するとともに,高輝度 LED(Light Emitting

Diode)式表示器により,環境γ線の線量率をディジタル

表示している(図6参照)。

局舎内に設置する監視盤は,監視盤の背面を壁に近接し

て設置できるフロントメンテナンス方式の監視盤を採用す

ることにより,従来必要とした背面メンテナンススペース

をなくし局舎内の小スペース化を図っている。

ラドン・トロンによる線量変動対策としては,送風ファ

ンにより検出部の空気を換気するとともに,温度変化を発

生させないよう局舎内の換気を行う熱交換式換気装置を設

置している。

また,局舎内には,局舎屋上に設置される検出器を室内

に取り出す機構を取り付けている。特に,球形電離箱検出

器は重量物のため,昇降装置の設置により,作業性と安全

性を向上させている。

テレメータ装置

モニタリングポストから中央制御室の監視盤へのデータ

伝送は,24 時間連続運転に対して高い信頼性と使用実績

のあるプログラマブルコントローラ(MICREXシリーズ)

をテレメータ装置とした伝送システムで構築している。伝

送路は,発電所の周辺監視区域境界近傍のモニタリングポ

ストについては,雷などの外来ノイズ混入による誤信号の

366(60)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図5 局舎の外観 図6 ディジタル表示器

表1 主要仕様

項 目 低レンジ測定系 高レンジ測定系 ワイドレジNaI測定系

検  出  器 NaI(Tl)シンチレーション検出器

±10%以内

±3%以内

直径2インチ×高さ2インチなど

BGレベル~105nGy/h

±10%以内

検 出 器 サ イ ズ

測 定 範 囲

指 示 誤 差

エネルギー依存性 50keV~3MeV:±10%以内

方 向 依 存 性

温度特性(20℃基準)

球形電離箱検出器

±3%以内

±5%以内

約14.5L

BGレベル~108nGy/h

±10%以内

50~400keV:±15%以内 0.4~3MeV :±10%以内

NaI(Tl)シンチレーション検出器 (エネルギーフィルタ付き)

±10%以内

±5%以内

直径2インチ×高さ2インチ

BGレベル~108nGy/h

±20%以内

50~100keV :±20%以内 50keV~3MeV:±10%以内

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環境放射線モニタリングシステム

防止を目的とした光ファイバケーブルを使用し,周辺市町

村のモニタリングポストについては,伝送路確保を容易と

するため,公衆回線を使用している。

テレメータ装置の伝送プロトコルは,アプリケーション

ソフトウェアによるデータ送受信の確認が不要なブロード

キャスト伝送であり,モニタリングポストの測定データを

1 秒周期リフレッシュすることもでき,高速かつ信頼性の

高い伝送を実現している。

モニタリングポストのテレメータ装置は,伝送路の障害

発生時を考慮して,メモリカードに 30 秒値で最大 14 日分

の測定データを保存する機能を有している。保存データは,

伝送路の障害復旧後に中央側のデータ監視装置などから収

集することも可能である。

各モニタリングポストの測定データを収集する中央制御

室のテレメータ装置(親局)は,機器故障による欠測を回

避することを目的に二重化を図り,信頼性を向上させてい

る。

また,テレメータ装置は,モニタリングポストからの測

定データを線量率に換算する演算機能も有していることか

ら,従来,計算機システムの機能であった警報設定値や測

定データの工学値への換算を可能とし,システムの簡素化

が実現できる。

さらに,テレメータ装置は,PEリンク伝送(富士電機

独自の LAN)によりコントローラの拡張が可能であり,

かつ,シリアル通信,Ethernet〈注 1〉

などの通信インタフェー

スを備えていることから,地方自治体の原子力環境監視施

設への測定データ伝送についても容易に実現が可能である。

データ監視装置

モニタリングポストの測定データを収集・保存し,デー

タ集計処理を行うことにより,データ表示,システム運転

状況の監視,帳票作成などを行うデータ監視装置を中央側

に配置している。データ監視装置は,UNIX〈注 2〉

サーバ,FA

パソコンなどがあり,システム規模により選定し 24 時間

連続監視を考慮した設計としている。

データ監視装置に UNIXサーバを使用した場合の主要

機能の一例を以下に記す。

5.1 画面表示

現在線量率一覧

線量率データ,気象データの現在値一覧を表示する。

線量率マップ表示(図7参照)

線量率データ,気象データの現在値を地形図上のモニタ

リングポスト位置に表示する。

線量率トレンド表示

線量率データ,感雨データをトレンドグラフに表示する。

感雨データを同時表示させることにより,降雨に伴う線量

率の変動を一目で把握することができる。なお,グラフの

縦軸スケールは自動変更が可能である。

警報履歴表示

システムで発生した警報の発生・復帰を表示する。

警報表示パネル

システム構成機器の運転状態を一目で把握できるように

システム構成模式図上に緑(正常),赤(警報発生)を表

示する。

スペクトルデータ表示

スペクトルデータを局別または 10 分ごとに時系列に表

示する。

運用定数設定

警報設定値や測定データの工学値への換算定数を設定す

る。本設定画面は,パスワード管理者,設定変更者,設定

閲覧者の分類でセキュリティ管理している。

5.2 帳票出力

日報

指定日のモニタリングポストごとの線量率など(1 時間

値)を印字する。

月報

指定月のモニタリングポストごとの線量率(1 時間値)

や管理水準値(前年度 1時間値の平均 3σ)を印字する。

線量率トレンド

指定期間の線量率などのトレンドを印字する。

5.3 緊急時対策所でのデータ表示機能

原子力発電所の緊急時対策所には,緊急時のプラント状

態を的確に把握するため大型のプラズマディスプレイ表示

装置が設置され各種プラント情報が表示できる緊急時シス

テムが構築されており,環境放射線のデータも緊急時の重

要データと位置づけられている。

本システムでは,この緊急時システムと連携するために

データ監視装置に LAN接続することで容易に環境放射線

データを出力できる機能を有している。

(3)

+-

(2)

(1)

(7)

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

367(61)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図7 線量率マップ表示

〈注1〉Ethernet :米国Xerox Corp. の登録商標

〈注2〉UNIX :X/Open Company Ltd. がライセンスしている米国

ならびに他の国における登録商標

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環境放射線モニタリングシステム

あとがき

環境放射線モニタリングシステムは,システム保守時を

除いて,原子力発電所の周辺の環境放射線を欠測なく 24

時間連続監視しなければならないことから,非常に高い信

頼性が求められている。最近では,原子力発電所周辺地方

自治体の原子力環境監視施設に環境放射線モニタリングシ

ステムの測定データを伝送され,また,各発電所のホーム

ページにも公開されている。

こうした状況の中,富士電機では,放射線計測,データ

伝送,計算機システムによる管理などの総合的な技術を駆

使して,より信頼性の高いシステムを構築することにより

顧客ニーズに応えていく所存である。

最後に,本システムの開発設計にあたり,多大なるご指

導をいただいた関西電力(株)大飯発電所をはじめとする電

力会社,研究施設などの関係各位に対し,厚く謝意を表す

る次第である。

参考文献

木村修ほか.環境放射線監視システム.FAPIG. no.163,

2003-3.

(1)

368(62)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

解 説 放射線関連用語

PET(Positron Emission Tomography:陽電子

断層撮影)11C,13N,15O,18F 等生体を構成する元素で,β+壊

変により陽電子を放出する核種で標識した放射性薬剤

を人体に投与し,それから反対方向に 2 本放出される

511 keV 消滅γ線を人体を取り巻く多数の検出器で測

定して,体内の蓄積放射能分布を 3 次元的に求め,そ

の結果から生体機能や病気の診断を行うものである。

脳,心臓,癌の診断等によく使われている。

ISS(International Space Station:国際宇宙ス

テーション)

アメリカ航空宇宙局(NASA)が中心となり,ロシ

ア,日本,カナダ,ヨーロッパ連合(EU)が協力し

て進めている,地上から約 400 km上空に建設中の巨

(2)

(1) 大な有人の実験研究施設である。1998 年から建設が

始まり,2010 年に完成予定であり,ここには日本の

実験棟「きぼう」も設置され,研究者が長期滞在して

様々な実験が予定されている。

NORM(Naturally Occurring Radioactive Mate-

rials:自然起源放射性物質)

地球誕生以来地殻に存在するウラン,トリウム,40K

等の放射性核種を含む物質,モナザイト,チタン鉱石,

石炭他や,宇宙線により生成される放射性核種 3H,14C 等を含む物質をいう。これらは産業用や一般消費

材として生活環境中に広く存在している。現在これら

は放射線防護の対象外とされているが,BSS 免除レベ

ルより高い濃度や数量の NORMもあるので,対応が

検討されている。

(3)

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小林 裕信

放射線検出器,測定器の設計・開

発に従事。現在,富士電機システ

ムズ(株)機器本部東京工場放射線

装置部グループマネージャー。

酒巻  剛

放射線測定器の設計・開発に従事。

現在,富士電機システムズ(株)機

器本部東京工場放射線装置部主任。

増井  馨

放射線検出器,測定器の設計・開

発に従事。現在,富士電機システ

ムズ(株)機器本部東京工場放射線

装置部課長補佐。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

環境放射線測定器は,原子力発電所,研究所,病院など

で環境放射線の測定および管理のため多く用いられおり,

富士電機は用途に応じたさまざまな環境放射線測定器を供

給している。環境放射線測定器は近年,小型化,感度向上

および省力化を求められており,これらニーズに対応した

新製品の開発が急務となっている。

ここでは環境放射線測定器の概要と近年開発した新機種

について紹介する。

放射線測定器の種類と用途

富士電機の放射線測定器は,大別すると放射線管理用機

器,放射線監視装置,それらの装置に組み込まれる検出器

に分類できる。表1に主な製品とその用途を示す。

放射線管理用機器はサーベイメータに代表され,事業所

内での放射線漏えい,表面汚染,線源の探索などのため簡

便に使用される。ここで紹介する近年開発した放射線測定

器は,パソコンと組み合わせてデータ処理が行える簡単な

システム構成で,かつ可搬型のため場所を選ばず環境の放

射能測定ができる「低線量環境線量計」と「可搬式モニタ

ポスト」の 2 機種である。前者は従来に比べ感度を約 100

倍(当社比)に高めた半導体検出器で低レベルの線量まで

測定可能とした機器であり,後者は環境レベルの低線量率

から高線量率まで一つの検出器で測定できるワイド NaI

(Tl)シンチレーション検出器を用いた機器である。

低線量環境線量計

3.1 概 要

低線量環境線量計は,2000 年から日本原子力発電(株)

敦賀発電所と共同開発を開始し,2004 年 3 月に製品化を

完了した。今回開発した低線量環境線量計は従来に比べ検

出器感度を約 100 倍高くすることにより,従来 1 µSv 以上

の線量に対してしか測定範囲がなかったものを 0.01 µSv

まで測定できるようにした。また,トレンドデータ量は従

来 1週間分のデータであったのに対し,ポスト内設置の外

部バッテリーにより 3か月間連続測定を可能にした。これ

により従来,原子力発電所周辺の環境モニタリングにおい

て使用していた熱ルミネセンス線量計と同様に 3か月線量

データの収集が可能となった。また,熱ルミネセンス線量

計よりデータ収集が容易なことから作業者のランニングコ

スト低減となり,熱ルミネセンス線量計の代わりに使用す

ることが可能となった。システムの流れを図1に示す。

3.2 特徴と仕様

低線量環境線量計(1)

環境放射線測定器

369(63)

小林 裕信(こばやし ひろのぶ) 酒巻  剛(さかまき つよし) 増井  馨(ますい かおる)

特集2

表1 主な放射線測定器

種 類 製品名 用 途 測定線質 測定範囲

放射線 管理用機器

電離箱式サーベイメータ シンチレーション式サーベイメータ GM式サーベイメータ 中性子レムカウンタ 個人線量計

1cm線量当量,X瞬間線量測定 低レベルの放射線監視,探索 γ線漏えい線量,β線表面汚染の測定 中性子漏えい線量の測定 原子力施設などの個人被ばく管理

放射線  監視装置

可搬式モニタポスト 低線量用環境線量計

野外での環境放射能測定 環境放射能測定

γ(X)線,β線 α線,β線,γ線 β線,γ線 中性子 中性子,β線,γ線

γ線 γ線

1 Sv/h~30mSv/h 1~104カウント/s 1~105カウント/m 0.1 Sv/h~9.999mSv/h 0.01~1,000mSv

10~108nGy/h 0.01~999,999.99 Sv

検出器,   その他

半導体エリアモニタ検出部 ダストモニタ半導体α線・β線検出器 シンチレーション検出器 γ線電離箱検出器 RIキャリブレータ

放射線施設での空間γ線の監視測定 空気中のじんあいに含まれるα線・β線の測定 プロセスモニタなどに使われる検出器 放射線施設での空間γ線の監視測定 病院で用いるRIの放射能量の測定

γ線 α線,β線 γ線 γ線 γ線

0.1 Sv/h~10mSv/h 1~105カウント/m 用途により各種用意 用途により各種用意 0.1MBq~99.99GBq

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環境放射線測定器

特徴を以下に記す。

① 本体は結露や水の飛沫(ひまつ)にも耐えられる防

滴構造である。

② 検出器感度が高いためバックグラウンド(BG)レ

ベルの変動をモニタリングできる。

③ 3チャネルのエネルギー情報データが収集できる。

④ データ収集ターミナルとの非接触通信機能(赤外線

通信)を装備している。

⑤ 測定データは不揮発メモリに記憶されており,万一

故障した場合でも測定データを読み出すことができる。

概略仕様を表2に示す。

データ収集ターミナル

データ収集ターミナルは,低線量環境線量計の測定結果

を収集するための機器である。特徴を以下に記す。

① 小型・軽量で,肩掛けベルトで携帯できる。

② 最大 20 台,3か月分の低線量環境線量計のデータ

を収集することができる。

③ 万一,電池切れが発生した場合でもデータを保持で

きる。

データ処理装置

データ収集ターミナルに保存したデータは,RS-232C

でデータ処理装置(パソコン)に伝送される。収集データ

は, 1 時間間隔の積算線量値および各エネルギーごとのカ

ウント値を一覧表示する。また,各トレンドデータに大幅

な変動が認められた場合,その時間における 1 分トレンド

データが採取され詳細にデータ分析ができる。

低線量環境線量計用ポスト

線量計を設置する際の専用ポストで内部にはバッテリー

が搭載でき,低線量環境線量計を 3か月以上連続動作でき

る。ポストは,直射日光を受けた場合の内部温度上昇を抑

える通気性,および雨の浸入を防ぐ防滴性を備えた構造と

なっている。また,低線量環境線量計をポストに設置した

状態でデータ収集ターミナルと通信できるよう配慮されて

いる。

3.3 低線量環境線量計の特性データ

線量率直線性は 137Cs 基準での相対感度で 10 %以内で

ある。また,低線量環境線量計をポストに設置した際の方

向特性は,上下左右ではバッテリーによる不感帯を除けば137Cs 基準で 30 %以内である。方向特性を図2に示す。+-

+-

(4)

(3)

(2)

370(64)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

LAN

データ処理

ポストで・・・・

室内で・・・・

データ収集

図1 低線量環境線量計システムの流れ

330° 30°

300° 60°

270° 90°

240°

210°

120°

150°

180°

0° 0° 0°

80%

60%

40%

20%

0%

330° 30°

300° 60°

270° 90°

240°

210°

120°

150°

180°

100%

80%

60%

40%

20%

0%

330° 30°

300° 60°

270° 90°

240°

210°

120°

150°

180°

100%

80%

60%

40%

20%

0%

100%

条件:137Cs 10 Sv

(a)水平方向 (b)上方向 (c)垂直方向

図2 ポストに設置した場合の低線量環境線量計方向特性

表2 低線量環境線量計の仕様

項 目

測 定 対 象

測定エネルギー

測 定 線 量

指 示 誤 差

方 向 特 性

使 用 温 度

外 形 寸 法

質     量

内 容

γ(X)線

50keV~6MeV

0.01~999,999.99 Sv

±10%(137Cs)

±30%(不感帯を除く)

-10~+50℃

W80×D140×H29(mm)

約300g

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環境放射線測定器

3.4 フィールドにおける比較データ

低線量環境線量計とモニタリングポスト(NaI 検出器)

との比較データを図3に示す。モニタリングポストの指示

値(nGy/h)の変動に伴い低線量環境線量計の指示値(カ

ウント値)も追従して変動していることから,BGレベル

での測定で本線量計が高精度で測定可能なことが分かる。

可搬式モニタポスト

4.1 概 要

可搬式モニタポストはワイド NaI(Tl)シンチレーショ

ン検出器を使用し,BGレベルから 108nGy/hまでの広い

範囲の空間γ線線量率を測定することができる。小型・軽

量であり運搬・測定が容易に行える。また,内部に GPS

(Global Positioning System)装置,データ送信端末を内

蔵することにより,線量率,位置情報を携帯電話などで送

信することができる。そのため,非常時における環境放射

線監視用機器として用いられる。外観を図4に示す。

線量率,位置情報を用いた環境放射線量率マップ例を図

5に示す。

4.2 特 徴

特徴を以下に記す。

固定式環境放射線モニタのバックアップ測定が可能で

ある。

小型軽量で,運搬・設置が容易である。

全天候型で,野外設置が可能である。また,AC電源

がない場所では外部バッテリーにて動作可能である。

測定値は内部メモリに 1 週間(1 分間値にて)の記録

が可能である。

エネルギー特性補償回路および温度補償回路を装備し

ている。

4.3 仕 様

仕様を表3に示す。

4.4 特 性

10 ~ 108nGy/hの測定範囲を一つの検出器で測定する

ために,検出器は低レンジ領域,高レンジ領域で使用方法

を変えている。低レンジ領域では,パルス出力型として使

用し,高レンジ領域では,電流出力型として使用している。

それぞれの領域でのエネルギー特性を図6,図7に示す。

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

371(65)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図4 可搬式モニタポストの外観

図5 環境放射線量率マップ例

表3 可搬式モニタポストの仕様

項 目

線量率測定範囲 10~108nGy/h  低レンジ領域:10~5×105nGy/h  高レンジ領域:3×105~108nGy/h

線量率測定精度 ±10%(基準:137Cs照射線量率に対して)

方 向 特 性 ±20%(0~±90°)

エネルギー特性

低レンジ領域:  ±20%(50keV以上~100keV未満)  ±10%(100keV以上~3MeV以下) 高レンジ領域:  -50~+25%(50keV以上~100keV未満)  -10~+20%(100keV以上~400keV未満)  ±10%(400keV以上~3MeV以下)

指 示 値 変 動 変動係数0.1以下

温 度 特 性 ±5%(20℃基準)

仕 様

(カウント)

(nGy/h)

日時

1,400

1,600

1,800

1,200

1,000

800

600

400

200

10/29 16:27

10/30 4:27

10/30 16:27

10/31 4:27

10/31 16:27

11/1 4:27

11/1 16:27

11/2 4:27

11/2 16:27

11/3 4:27

11/3 16:27

11/4 4:27

11/4 16:27

11/5 4:27

11/5 16:42

11/6 4:42

11/6 16:42

11/7 4:42

11/7 16:42

11/8 4:42

11/8 16:42

11/9 4:42

11/9 17:29

11/10 5:29

11/10 17:29

11/11 5:29

11/11 17:29

11/12 5:29

11/12 17:29

11/13 5:29

100

120

140

160

180

200

80

60 0

環境線量計(カウント)左軸

局舎(nGy/h)右軸

図3 モニタリングポストとの比較データ

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環境放射線測定器

あとがき

今後,放射線管理の目指す方向は,さらなる被ばく線量

の低減と線量測定の省力化・高機能化である。低線量環境

線量計や可搬式モニタポストは従来の大型の測定器とほぼ

同等の性能を持ち,かつ,より多くの放射線データを収集

でき,今後の活用が期待される。今後は,低エネルギーお

よび方向特性改善の性能向上を図っていく所存である。

最後に,低線量環境線量計の開発にあたりご指導ならび

にデータ提供をいただいた日本原子力発電(株)敦賀発電所

環境保安課の各位に謝意を表する。

372(66)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

レスポンス比

エネルギー(keV)

10010 1,000 10,000

0.7

1

1.3

1.6

1.9

0.4

0.1

JIS許容範囲

図7 高レンジ領域のエネルギー特性

レスポンス比

エネルギー(keV)

10010 1,000 10,000

0.7

0.4

0.1

1

1.3

JIS許容範囲

図6 低レンジ領域のエネルギー特性

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長谷川 透

汚染モニタ,放射線装置などの開

発・設計に従事。現在,富士電機

システムズ(株)機器本部東京工場

放射線装置部。

橋本 忠雄

汚染モニタ,放射線装置などの開

発・設計に従事。現在,富士電機

システムズ(株)機器本部東京工場

放射線装置部。日本機械学会会員。

橋本  学

汚染モニタ,放射線装置などの開

発・設計に従事。現在,富士電機

システムズ(株)機器本部東京工場

放射線装置部。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

原子力発電所では,管理区域外へ放射性物質による汚染

が広がるのを防止するため,管理区域境界に表面汚染検査

モニタを設置し,管理区域から外へ移動されるすべての物

品の表面汚染を監視している。主な表面汚染検査装置とし

て,作業者の身体の表面汚染を測定する体表面汚染モニタ,

足場板などの大物から作業員が携帯する工具などの小物ま

での表面汚染を測定する物品表面汚染モニタ,管理区域内

で着用する作業服などの表面汚染を測定するランドリモニ

タがある。

さらに,管理区域内で作業する人の体内被ばく(内部汚

染)を測定するホールボディカウンタ,また主に病院など

で使用され,手足および着衣の表面汚染を測定するハンド

フットクロスモニタがある。

富士電機はこれらの装置を,大面積放射線検出器,高速

で演算処理可能な信号処理部,最適な条件で測定可能にす

る機構部,さらに音声案内や大型カラー液晶を採用した

ヒューマンマシンインタフェースを用いて,放射性物質の

高感度・高速な測定を実用化し,全国の原子力発電所に納

入してきた。加えて,これらの装置は自己診断機能を備え,

さらにデータ処理装置とつなげることによって,汚染検査

測定データの一括管理が可能である。

本稿では,これらの装置の概要・特徴について説明する。

体表面汚染モニタ

2.1 概 要

体表面汚染モニタは,管理区域の出口に設置され,管理

区域から退出する人の身体表面の汚染の有無を検査する装

置である。本装置は,全身表面をカバーできるように検出

器を配置しており,効率よく短時間で測定が行える。また,

頭部は感度よく測定するため頭上検出器が自動昇降する。

昇降範囲は小学生から外国人まで検査が受けられるように,

1,300mmから 2,000mmまでとなっている。

検査の結果,汚染がない場合は出口側(非管理区域)へ

の退出を促し,汚染がある場合は非管理区域側へ退出させ

ないようにしている。装置の外観を図1に示す。

2.2 特 徴

検出感度

β線を 0.4 Bq/cm2の感度で測定できる。条件を表1に

(1)

放射性物質汚染検査装置

373(67)

長谷川 透(はせがわ とおる) 橋本 忠雄(はしもと ただお) 橋本  学(はしもと まなぶ)

図1 体表面汚染モニタ

特集2

表1 体表面汚染モニタの仕様

項 目

検 出 器

検 出 器 数

検 出 感 度 <条件>  BG  測定時間  線源  距離

処 理 能 力

外 形 寸 法

測定室内寸法

質    量

仕 様

プラスチックシンチレーション検出器

15~18面

0.4Bq/cm2 0.1 Sv/h 10秒 U3O8 100×100(mm) 手・足 密着 頭 50mm その他 100mm

約20秒

W860×D1,000×H2,250(mm)

W500×D700×H2,000(mm)

780kg

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放射性物質汚染検査装置

示す。

検出器

β線用の大面積プラスチックシンチレーション検出器

を採用している。

最適測定時間運用機能

通常は一定時間(運用により設定可能)で測定を行う

が,モニタのタイプによっては処理時間短縮の目的で,

バックグラウンド(BG)計数率から検出感度を満足する

最適な測定時間を算出し,自動設定することにより最短の

測定時間でも測定できる。

見学者対応機能

最近は見学者も増加しており,測定時に扉開状態で操作

説明ができる。

装置の小型化

幅 860mm,奥行 1,200mmのタイプ,および限られた

スペースで設置台数を増やす目的で幅 800 mm,奥行

1,200 mmのタイプもある。測定室の内寸法幅は前者が

400 ~ 500mm,後者が 400 ~ 440mmで設定できる。

メンテナンス性の向上

非管理区域側のオープンスペースでメンテナンスするこ

とができる。

案内機能

作業者が測定するときは LCD(Liquid Crystal Display)

表示および音声による操作案内を行っているが,外国人へ

の対応として表示および音声を英語に切り替える機能を装

備したタイプもある。

データ処理装置との接続

データ処理装置とのインタフェースは LANまたはシ

リアル伝送が選択できる。データ処理装置では,動作状況

のリアルタイム監視,測定結果表示,帳票,トレンドグラ

フの作成および測定データの長期保存ができる。

デザイン性の向上

開放感のある構造になっているため,被測定者に圧迫感

を与えず測定することができる。

物品表面汚染モニタ

3.1 概 要

物品表面汚染モニタは,管理区域から搬出する物品の表

面および内面が汚染していないことを検査するための装置

で,大物物品搬出モニタ,小物物品搬出モニタ,可搬型小

物物品搬出モニタ,PHS(Personal Handyphone System)

搬出モニタ,クリアランスレベル測定装置がある。それぞ

れの外観を図2~7に示す。

3.2 共通の特徴

検出感度

β線は 0.4 Bq/cm2,γ線は 1.1 Bq/cm2の感度で測定で

きる。条件を表2に示す。

β+γ線検出器の採用

β線用とγ線用シンチレータを一体化した検出器を取り

付け,パイプなどの内面汚染(γ線)を測定できる。

上面検出器の移動(3)

(2)

(1)

(9)

(8)

(7)

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

374(68)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図2 大物物品搬出モニタ

図3 小物物品搬出モニタ

図4 可搬型小物物品搬出モニタ(タイプ1)

プリンタ AC供給 ユニット

図5 可搬型小物物品搬出モニタ(タイプ2)

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放射性物質汚染検査装置

物品の形状に合わせて上面検出器を下降させて測定を行

うため,物品により近い距離での測定が可能であり,物品

の形状によらず効率のよい測定が行える。

安全対策

装置の可動部分であるコンベヤや扉には,測定者が指や

腕をはさまれないように,触れると停止するバースイッチ

や光電スイッチを取り付けている。

3.3 大物物品搬出モニタ

大物物品搬出モニタは,大物物品搬出口に設置し,定期

検査時に管理区域から大量に搬出する足場板やパイプなど

の大型で平面状の物品の汚染を効率よく測定するための装

置である。

処理能力

検出部の幅が 1,500mmあるので,足場板やパイプなど

をまとめて測定できる。例えば,パイプ(長さ 4m)は,

1 時間に 150 本以上測定することができる。

測定方法

足場板,パイプなどの長い物品は,コンベヤ上に直接載

せ測定する。一方,クランプ,ボルトなどの小型物品は,

測定皿に並べてコンベヤに載せ測定する。

搬出票の作成

測定物品,数量を登録して測定することによって,モニ

タ内蔵プリンタにて搬出票を作成することができる。

コンベヤ速度

コンベヤ速度は,10 ~ 100mm/sまで 10mm/s 単位で

自動設定できる。自動設定では,設置場所の BGによって,

最適のコンベヤ速度を演算して自動設定することができる。

装置の移動

装置には,移動台車(タイヤ付き)を取り付けており,

バッテリー付きの自走式の移動台車の場合には,一人で装

置を移動させることができる。

横方向への移動

装置を切り返すスペースのない場所で,装置を任意の位

置に移動させるため,横方向移動用の横向きの車輪を取り

付けている。

3.4 小物物品搬出モニタ

小物物品搬出モニタは,出入管理室付近に設置し,作業

者が手持ちで管理区域に持ち込んだ筆記具,工具など小型

の物品の汚染を効率よく測定するための装置である。

検出器の配置

汚染測定を行う測定物の形状に対応するため,測定物の

上下,前後,左右の全周囲に検出器を取り付けたタイプと,

測定物の上下の 2 面に検出器を取り付けたタイプを製作し

ている。

測定物の保管機能

測定物は測定後非管理区域側のコンベヤに搬出されるが,

測定物を収納するストッカも接続することができる。ス

トッカの収納数は,測定物高さ 100mmのものを 8 段,測

定物高さ 300mmのものを 4 段など運用によって選択する

ことができる。

(2)

(1)

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

(4)

375(69)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

表2 モニタの仕様

モニタ名称

項 目

検  出  器

検 出器の配置

大物物品搬出モニタ

プラスチックシンチ レーション検出器

被測定物の上下

検出感度(β線) <条件>  BG  移動速度または     測定時間  線源  距離

0.4Bq/cm2 0.1 Sv/h 20mm/s U3O8 100×100(mm) 30mm

検出感度(γ線) <条件>  BG  移動速度または     測定時間  線源  距離

1.1Bq/cm2 0.1 Sv/h 20mm/s 60Co 100×100(mm) 30mm

被測定物の寸法 W1,500mm D 4,000mm H 300mm

被測定物の質量 200kg

被測定物の例

™ビディ足場 ™足場用機材 ™足場板 ™パイプ

外 形 寸 法 W4,550mm D 2,110mm H 1,950mm

質     量 4,000kg

小物物品搬出モニタ

プラスチックシンチ レーション検出器

被測定物の上下左右前奥

0.4Bq/cm2 0.1 Sv/h 10s U3O8 100×100(mm) 30mm

1.1Bq/cm2 0.1 Sv/h 10s 60Co 100×100(mm) 30mm

W 500mm D 500mm H 300mm

20kg

™書類 ™工具 ™筆記具 ™小型測定器

W1,000mm D 1,900mm H 1,600mm

1,800kg

可搬型小物物品搬出 モニタ(タイプ1)

プラスチックシンチ レーション検出器

被測定物の上下

0.4Bq/cm2 0.1 Sv/h 10s U3O8 100×100(mm) 30mm

W 420mm D 300mm H 120mm

5kg

™書類 ™工具 ™筆記具

W 550mm D 450mm H 600mm

50kg

可搬型小物物品搬出 モニタ(タイプ2)

プラスチックシンチ レーション検出器

被測定物の上下

0.4Bq/cm2 0.1 Sv/h 10s U3O8 100×100(mm) 30mm

W 310mm D 220mm H 120mm

5kg

™書類 ™工具 ™筆記具

W 400mm D 315mm H 470mm

18kg

PHS搬出モニタ

プラスチックシンチ レーション検出器

被測定物の上下

0.4Bq/cm2 0.1 Sv/h 10s U3O8 100×100(mm) 30mm

W160mm D 60mm H 30mm

PHSなどの軽量物

™PHS

W 260mm D 350mm H 270mm

15kg

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放射性物質汚染検査装置

3.5 可搬型小物物品搬出モニタ(タイプ1)

可搬型小物物品搬出モニタは,測定対象をノートや用紙

のみに限定しており,駆動機構を取り付けていないため,

質量約 50 kgの小型の装置である。また,設置スペースが

小さいので,搬出品の多い時期を対象として臨時に設置す

る運用にも対応できる。

上面検出器の取付け高さを物品搭載面から 40,70,100,

130(mm)の 4 段階から選択して手動設定することがで

きる。

3.6 可搬型小物物品搬出モニタ(タイプ2)

前述の可搬型小物物品搬出モニタをさらに軽量化(約

18 kg)したもので,付属の肩掛けベルトを使用すること

で,作業員一人で容易に移動させることができる。また,

オプションのバッテリーユニットを使用すると,電源の供

給ができない場所でも運用することができる。

3.7 PHS搬出モニタ

PHSなどの小物の測定に特化したモニタである。装置

外形が 260 × 350 × 270(mm)と小型であるため,カウ

ンタの上の空きスペースを利用して設置することができる。

3.8 電中研式クリアランスレベル検認装置

電中研式クリアランスレベル検認装置は,原子炉施設な

どの廃止措置に伴って発生する金属廃棄物の放射性物質濃

度の放射能レベルを測定し,放射性物質として扱う必要が

ないクリアランスレベル以下であることを確認するもので

ある。本装置は財団法人電力中央研究所が開発した校正手

法を適用した初の実用規模の装置であり,以下の特徴を有

している。

構成

本装置は,形状計測部,重量計,本体部,検出測定部,

信号処理部で構成される。形状計測部は,不定形状の金属

廃棄物の形状をレーザ光によって三次元的に計測する。検

出測定部はγ線を測定する大面積のプラスチックシンチ

レーション検出器を採用し,金属廃棄物の上下各方向から

測定している。また,検出器全体を鉛で遮へいして,高感

度に測定できるようにしている。

機能

金属廃棄物の形状データおよび質量データを用いてモン

テカルロ計算を行い,検出器の放射能測定値を形状を考慮

した値に補正する。質量を測定後,金属廃棄物から放出さ

れるγ線を検出測定することにより,放射能レベルを測定

している。

ランドリモニタ

4.1 概 要

ランドリモニタは,管理区域内で使用した衣類などを洗

濯前,または洗濯後に衣類表面の汚染の有無を効率よく検

査するための装置である。測定対象は,つなぎ服・下着類

などの衣類,帽子・手袋・靴下などの小物,ヘルメット・

靴などの成形品である。

前モニタは,洗濯前の衣類などで洗濯に適さない高汚染

品を選別するための装置であり,小物前モニタなどがある。

後モニタは,洗濯後の衣類などに汚染が残っているかどう

かを検査する装置であり,衣類モニタなどがある。折りた

たみ機,仕分け機は汚染品と正常品を自動的に分別する装

置であり,折りたたみ機は分別と同時に正常品の衣類を自

動的に折りたたむ装置である。これらをモニタと連動させ

ることにより作業の省力化と高速化が実現できる。ここで

は特に前モニタ,小物前モニタ,衣類モニタを中心に紹介

する。

4.2 特 徴

衣類,小物,成形品などのモニタや前モニタなど,検

査目的と対象物に対応したモニタが完備している。

衣類,小物前モニタは管理区域から持ち出す法令基準

値の 1/10を満足する検出感度を有している。

処理能力が高く,衣類モニタではつなぎ服を 1 時間に

250 着程度処理できる。

衣類モニタの搬送部では従来の金網コンベヤに替わり,

最近では低コスト,低騒音,高寿命の樹脂性丸ベルトも

採用している。

除電器を搭載することにより,作業員を静電気の(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

(2)

(1)

376(70)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図6 PHS搬出モニタ

図7 電中研式クリアランスレベル検認装置

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放射性物質汚染検査装置

ショックから守る。

測定系の動作については豊富な自己診断機能を持って

おり,健全性の確認が容易にできる。

4.3 機 能

衣類モニタ

測定対象は洗濯後の衣類,小物であり,折りたたみ機と

連動して使用するときは衣服だけを対象とする。モニタに

投入された測定対象物は上下のコンベヤで挟み,上下に配

置された検出器の間を移動することによって汚染検査され

る。搭載している大面積β線検出器はコンベヤ全幅にわた

って不感体部分がなく,従来に比べて全体を小型・軽量化

している。折りたたみ機を接続する場合は正常品と汚染品

は自動的に分別され,正常品は折りたたまれる。衣類モニ

タの外観を図8,仕様を表3に示す。

小物前モニタ

測定対象物を洗濯前の小物専用とし,測定方式は衣服モ

ニタと同様で,本体後部に仕分け機を搭載し正常品と汚染

品の分別をしている。また,運用方法の違いで,汚染品を

挿入部に戻すことにも対応している。また,ぬれた小物に

対応可能な耐久性の高いベルトを採用している。小物前モ

ニタの外観を図9,仕様を表4に示す。

前モニタ

洗濯前の衣類などをステンレス鋼製バケット(ウェル部)

に投入し,汚染検査を行う。投入すると自動的に測定を開

始し一定時間測定後結果を表示する。汚染ありと判定され

たときには警報を出す。また,バケット部は除染を考慮し,

(3)

(2)

(1)

(6)

377(71)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図8 衣類モニタ,折りたたみ機

表3 衣類モニタの仕様

項 目

測定線種

検 出 器

検出感度

処理能力

外形寸法

質  量

内 容

β線

プラスチックシンチレーション検出器

約250着/h以上

約3,000kg

1.0Bq/cm2 以下(使用線源 60Co) 0.37Bq/cm2 以下(使用線源 U3O8)

約H1,350×W1,000×D2,500(mm) 突起物含まず。

図9 小物前モニタ

表4 小物前モニタの仕様

項 目

測定線種

検 出 器

検出感度

処理能力

外形寸法

質  量

内 容

γ線

プラスチックシンチレーション検出器

下着相当 約250着/h以上

約1,600kg

1.0Bq/cm2 以下 (移動速度100mm/s,使用線源 60Co)

約H1,420×W950×D2,500(mm)

図10 前モニタ

表5 前モニタの仕様

項 目

測定線種

検 出 器

検出感度

処理能力

外形寸法

質  量

内 容

γ線

NaI(Tl)シンチレーション検出器

約2,500kg

37Bq/cm2 以下(使用線源 60Co)

約H1,000×W800×D950(mm) 突起物含まず。

300kg/h以上 (収集袋1袋あたり5kg処理時間60秒/回で評価)

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放射性物質汚染検査装置

簡単に取外しできる構造となっている。従来に比べ全体を

小型化し設置スペースが小さい。前モニタの外観を図 ,

仕様を表5に示す。

ホールボディカウンタ

5.1 概 要

ホールボディカウンタ(WBC)は,管理区域内で作業

を行う放射線業務従事者の体内汚染有無の判定および体内

汚染時の定性・定量分析,預託実効線量当量(内部被ばく

線量当量)算出に必要な体内放射性物質量の把握のために,

体内の放射性物質から放出されるγ線を体外から測定する

装置である。

5.2 特 徴

目的に合わせた測定系

体内汚染有無判定のための測定をスクリーニング測定,

体内汚染時に実施する測定を精密測定といい,それぞれス

クリーニング測定用WBC,精密測定用WBCを製作して

いる。

スクリーニング測定用WBC,精密測定用WBCのベッ

ド型の仕様を表6,表7に示す。

形状

WBCは測定時の被検者の姿勢により,ベッド型とチェ

ア型に分類される。ベッド型では被検者が寝たベッドを遮

へい体内に進入させることで測定を実施する。チェア型で

は被検者が開放型の遮へい体の中のいすに座って測定を受

けるようになっている。また,部屋全体を 200mm厚さの

鉄板で囲った密閉型の遮へい体を使用した場合もある。出

入口は扉を使用したタイプと迷路にしたタイプとがあり,

低BGで精密な測定が行えるという特徴がある。

それぞれの外観を図 ,図 に示す。

被検者への配慮

被検者は遮へい体内部に入って受検しなければならない

が,音声や表示により測定案内を行い被検者が戸惑うこと

のないように配慮している。また,角の少ない柔らかいデ

ザインにすることで遮へい体の威圧感を軽減している。

さらに,測定中にビデオなどの映像を提供するなど,被

検者の測定中の負担を軽減する事例もあり,受検時の快適

さの向上を図っている。

管理者の負担軽減

被検者への測定案内から測定までを自動的に実施するこ

とができ,測定終了と同時に測定データは上位計算機に伝

送される。このデータは,管理区域入域の際に実施される

WBC受検有無のチェックなどに使用される。

また,測定結果はデータ処理装置に保存され,その画面

で確認することができる。データ処理装置のソフトウェア

にWindows〈注〉

を採用したことにより視認性が向上し,測定

結果の確認チェックを容易にしている。

さらに,夜間や休日でも IDカードがあれば測定できる

(4)

(3)

1211

(2)

(1)

10

378(72)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

表6 スクリーニング測定用ホールボディカウンタの基本仕様

検  出  器

遮 へ い 方 式

測 定 時 間

エネルギー範囲

BG     値

検 出 感 度

シャドウシールド方式(ベッド型)

30秒~2分

0.1~2.0MeV

約2,500~4,000m-1(30分測定)

プラスチックシンチレーション検出器 またはNaIシンチレーション検出器

約150~250Bq(137Cs) 約50~100Bq(60Co)

表7 精密測定用ホールボディカウンタの基本仕様

検 出 器

遮へい方式

測 定 時 間

BG   値

検 出 感 度

シャドウシールド方式(ベッド型)

約10分

約2,500~4,000m-1(0.1~2.0MeV:30分測定)

高純度ゲルマニウム検出器 またはNaIシンチレーション検出器

約120~150Bq(137Cs) 約60~90Bq(60Co)

図11 ベッド型ホールボディカウンタ

図12 チェア型ホールボディカウンタ

〈注〉Windows :米国Microsoft Corp. の登録商標

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放射性物質汚染検査装置

ことから,管理者の負担低減に大きく貢献している。

データ管理方法多様化への対応

データ処理装置にエンドユーザーコンピューティング

(EUC)機能を付加し,管理内容に応じて必要なデータを

抽出でき,要求に応じた画面帳票レイアウトにすることが

可能である。

無人化対応

入力作業の省力化から無人化までに対応するために,

ネットワークを有効活用して,上位計算機と入力データを

共有し,さらに関連部門,関連会社に対する該当測定デー

タの送信,WBC受検スケジュール管理などのシステム化

を実施している。そして,定期利用者には,無人で測定が

可能になるようなシステムも進めている。

ハンドフットクロスモニタ

6.1 概 要

ハンドフットクロスモニタは,研究所,病院,原子力発

電所など,放射性物質を取り扱う施設の汚染検査室などに

設置し,作業者の手・足,衣服などに付着した放射性物質

の表面汚染を検知するモニタである。放射性物質から放出

される放射線のうち,β線を検出し,あらかじめ設定され

た警報レベルを超えると警報音を発し,手・足および衣服

の汚染部位を表示する。

ハンドフットクロスモニタの外観を図 ,仕様を表8に

示す。

6.2 特 徴

手・足を測定位置に載せるだけで,自動的に測定・汚

染判定・表示を行う。

定期的に BGを自動測定し,最新 BG値による減算を

行い,BGの変動による影響を少なくして正確な汚染の

測定を行うことができる。

最新 BG値により検出限界を算出し,測定時間を自動

的に変え,短時間で汚染測定ができる。

汚染発生時は,カラー表示器に汚染部位がグラフイッ

クで表示され,測定結果が容易に確認できる。

プラスチックシンチレーション検出器を使用している

ので寿命のある GM管と違い,交換の必要がない。

衣服汚染測定用の検出器はプラスチック製で軽い。

足台が低いので,測定時に乗りやすい。

背面側の車輪を利用すると,一人でモニタを移動させ

ることができる。

3 分割が可能であり,搬入・設置が簡単にできる。

足測定部の汚染防止膜の巻取り,交換が容易である。

オプションでプリンタ印字も可能である。

6.3 機 能

BG 測定と汚染測定の二つを繰り返し行う。BGが未測

定の場合は BG測定を優先し,設定回数の BG測定が終了

した後で汚染測定が可能になる。通常は BG測定を行い最

新の BG値に更新する。

汚染測定は,手・足汚染測定と衣服汚染測定の 2 種類が

あり,それぞれ単独で行う。手・足汚染測定は手・足検知

用のセンサがすべて検知した時点で測定を開始し,測定終

了後に判定結果を画面で表示する。衣服汚染測定は備え付

けのプローブ形の検出器を使用し,衣服表面をサーベイし

ながら測定する。結果はリアルタイムで画面に表示される。

汚染測定が終了した後,測定結果が異常の場合には,測定

者の汚染かモニタの異常か否かを判定できる BG確認の設

定も可能である。

あとがき

今後は,①最近の表面汚染検査装置類の JIS 制定に伴う

装置の開発,②海外拡販に向けた,IEC 規格に対応した低

価格機種の開発,という課題を推進し,さらなる市場拡大

を図っていく所存である。

最後に,ご指導・ご協力をいただいた電力会社の関係各

位に深く感謝する次第である。

(11)

(10)

(9)

(8)

(7)

(6)

(5)

(4)

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(2)

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13

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(5)

379(73)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図13 ハンドフットクロスモニタ

表8 ハンドフットクロスモニタの仕様

項 目

測定線種

検 出 器

検出感度

測定時間

外形寸法

質  量

内 容

β線

プラスチックシンチレーション検出器

15秒(1~999秒で任意設定可能)

約80kg

1.0Bq/cm2 以下(使用線源 36Cl) 0.2Bq/cm2 以下(使用線源 U3O8)

H1,350×W630×D730(mm)以下

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藤本 敏明

放射線管理システムのエンジニア

リング業務に従事。現在,富士電

機システムズ(株)e-ソリューショ

ン本部放射線システム統括部放射

線システム部担当部長。

伊藤 勝人

放射線管理システムのエンジニア

リング業務に従事。現在,富士電

機システムズ(株)e-ソリューショ

ン本部放射線システム統括部放射

線システム部担当課長。

中島 定雄

放射線管理システムのエンジニア

リング業務に従事。現在,富士電

機システムズ(株)e-ソリューショ

ン本部放射線システム統括部放射

線システム部課長。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

原子力施設では,施設に従事する者および周辺住民の放

射線防護の観点からさまざまな法令,基準に基づいて適切

な放射線管理を行っている。放射線監視システムは,施設

内の作業環境の放射線状況や施設外に放出する気体,液体

の放射能濃度の監視を 24 時間連続で行うためのものであ

り,非常に重要なシステムに位置づけられている。

放射線監視システムは,各作業場所に放射線検出部を設

置し,そこから得られた信号を中央制御室に伝送し,放射

線監視盤にて放射線レベルや警報発生の有無を集中監視す

るとともに,放射線管理用計算機にてデータ処理を行い,

画面や帳票を出力するものである。

従来のシステムは,放射線というごく微弱な信号を電気

信号に変換しその信号を増幅,伝送しなければならないこ

と,また,測定する放射線の種類により検出機構が異なっ

ており,それに起因して後段の信号伝送方法が異なってい

ることから,各作業場所に設置された放射線検出部と中央

制御室に設置の放射線監視盤とは 1 対 1にケーブル接続さ

れた構成となっていた。この基本的システム構成は,従来

から大きな変化がみられず,多数の放射線モニタが複数施

設に分散配置されたような大規模な放射線監視システムで

はシステム構成上大きな制約を受けることとなる。

近年,原子力施設の放射線管理の高度化が進む中で,放

射線監視システムに対して,より一層の信頼性の向上や保

守・点検の省力化,監視機能の向上が求められてきた。

一方,技術開発面においては,ICなどの半導体技術,

情報処理技術の開発の進歩が目覚ましい。

このような背景のもと,富士電機は,最新技術を取り入

れた大規模放射線監視システムを開発したので紹介する。

大規模放射線監視システムの概要

放射線監視システムの開発は,図1に示す方針により

行った。

新しい放射線センサの開発を行う。

放射線検出部をインテリジェント化し,信頼性,保守

性を向上するとともに,従来現場と中央に分散していた

放射線計測特有の機能を放射線検出部に集約し,伝送イ

ンタフェースの汎用化を図る。

放射線検出部から中央制御室までの信号伝送に最新の

情報伝送技術を取り入れ,大量データの高信頼・高速伝

(3)

(2)

(1)

大規模放射線監視システム

380(74)

藤本 敏明(ふじもと としあき) 伊藤 勝人(いとう かつひと) 中島 定雄(なかしま さだお)

高信頼,大量リアルタイム伝送

情報伝送技術の取入れ

Web技術 セキュリティシステム リモートメンテナンス

ー現場ー ー中央制御室ー

放射線モニタの高機能化 (信頼性・保守性向上)

(性能<応答速度など>向上)

汎用インタ フェース化

情報処理技術の開発

イントラネット化 新しい放射線 センサの開発

半導体センサ, 高エネルギーセンサ など

図1 放射線監視システムの開発方針

特集2

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大規模放射線監視システム

送化を図る。

放射線管理用計算機には,最新の情報処理技術の開発

を適用する。

これらの開発方針に基づき開発したシステムの構成を図

2に示す。

放射線モニタには,放射線計測に必要なすべての機能を

集約し,信号処理結果をディジタルコード化情報として出

力を可能とした。この伝送インタフェースは,モニタの種

類によらず IEEE-488 規格(GP-IB)と IEEE-802.3 規格

(Ethernet〈注1〉

)の 2 種類を用意した。また,常時自己診断機

能,遠隔自動点検機能を付加し,保守・点検の大幅な省力

化を実現した。なお,放射線センサは,従来のセンサに加

えて,新しく大面積半導体センサを開発した。

情報伝送システムは,検出部接続台数や施設規模に応じ

て自由に構築できる。図2は IEEE-802.3 規格(Ethernet)

を伝送インタフェースとした場合の大規模システムの概念

図で,各放射線検出部からは IEEE-802.3 規格(Ethernet)

に規定される 100BASE-TXで出力され,メディアコン

バータを介して中央の放射線監視盤へ多量の情報を光伝送

する。

放射線管理用計算機には,最新の情報処理システムであ

るWeb 技術を採用し,関係者および関連部門全体で監視

情報の共有化を行い,リアルタイム監視機能強化や情報公

開を可能とした。

放射線モニタ

放射線検出部の機能構成を図3に示す。従来の放射線モ

ニタは,現場にセンサ,プリアンプのみが設置され,残り

の機能はすべて放射線監視盤に収納されていた。従来は,

各センサの種類に応じ専用のハードモジュールを複数個組

み合わせてモニタループを構成していたが,今回ワンチッ

プマイコンを使用し,これらすべての機能を 1 枚の CPU

ボードにまとめて検出部に収納した。

放射線検出部は,センサ部と計測部から構成されており,

モニタの種類によらず共通している機能は計測部に持たせ,

測定対象放射線に応じて異なる部分はセンサ部側に機能を

持たせている。

放射線検出部は,以下の常時自己診断機能を有しており,

異常時は自動で中央へ通知できる。

① ディスクリレベル常時監視

② バイアス電圧常時監視

③ CPUチェック(RAM,ROM)

④ DO/AO常時監視

(4)

381(75)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

放射線モニタ 情報伝送システム 情報処理システム

エリアモニタ 検出部

ダストモニタ 検出部

ガスモニタ 検出部

Ethernet Ethernet

光Ethernet 計算機 システム

放射線 監視盤

メディア コンバータ

図2 放射線監視システムの概念

センサ

センサ部

プリアンプ 波形整形

光パルス 発生器

自己診断 回路

バイアス 電源

セレクタ

電気パルス

計測部

SCA 計数回路

外部入出力部

警報 判定部

演算 処理部

テスト 回路

自己 診断部

低圧 電源部

時定数処理 物理量変換処理

警報設定値保存 警報判定 (HH,H,L)

故障警報判定 テスト結果判定

測定値 など

警報 内容 ディジタル化

情報

故障 内容 テスト 結果

供給電源 +24V

SCA:シングルチャネルアナライザ

図3 放射線検出部の機能構成

〈注1〉Ethernet :米国Xerox Corp. の登録商標

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大規模放射線監視システム

⑤ 温度異常常時監視

さらに,中央からの遠隔指令を受け,以下のテストを自

動で実施し,結果を中央へ通知できる機能を有している。

光パルステスト

内蔵光パルス発生器から光パルスを発生させ,センサを

含めたモニタループ全体の健全性の確認を行う。光パルス

周波数は,放射線監視盤にて任意に設定可能である。

警報テスト

内蔵警報回路の健全性を確認するもので,入力データを

アップダウンさせ,警報出力を確認する。

上下限校正

内蔵テスト回路により電気パルスを発生させ,測定範囲

上限および下限まで計数することを確認する。

放射線検出部の主な仕様を表1に示す。また,一例とし

て n 線エリアモニタを図4に示す。

また,中央への伝送のためのインタフェースの仕様は以

下のとおりである。

① 伝送方式:IEEE-488 規格(GP-IB)または IEEE-

802.3 規格(Ethernet)

② 伝送項目:放射線測定値,警報内容,故障内容,テ

スト結果など

信号伝送システム

放射線モニタの開発により,後段の中央への信号伝送シ

ステムは,施設の規模に応じてシステム構築が可能であり,

その一例を紹介する。図5にシステム構成を示す。

本システムは, 1ループが最大 30チャネルの放射線モ

ニタが接続可能であり,複数ループ構成とすることで大規

模システムの構築が可能である。各放射線モニタからの信

号はスイッチングハブ(HUB)に入力され,メディアコ

ンバータ(MC)を介して光 Ethernetで放射線監視盤に

伝送される。HUBには最大 3チャネルの放射線モニタが

接続され,施設のレイアウトから適した場所に設置される。

放射線監視盤では,プログラマブルコントローラ(PLC)

(3)

(2)

(1)

382(76)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

表1 放射線検出部の種類と主な仕様

モニタ種類

γ線エリアモニタ

n線エリアモニタ

α線ダストモニタ

β線ダストモニタ

β線ガスモニタ

よう素モニタ

主要仕様

検出器

半導体検出器

3He比例計数管

半導体検出器

半導体検出器

プラスチックシンチレーション 検出器

NaI(Tl)シンチレーション 検出器

測定範囲

10-1~105 Sv/h

10-2~104 Sv/h

10-2~104S-1

10-1~105S-1

10-1~105S-1

10-1~105S-1 センサ部

計測部

図4 n線エリアモニタ

ディスプレイ

警報表示灯

記録計

MC

MC

MC

HUB HUB

上位計算機

HUB

MC

MC

HUB

Ethernet (バックアップデータ)

SXバス

PEリンク

PEリンク

Ethernet

(max.30チャネル)

Ethernet

(max.30チャネル)

(max.15チャネル)

Ethernet

(max.15チャネル)

MC

HUB

(max.15チャネル)

Ethernet

(max.15チャネル)

光Ethernet

光Ethernet

各モニタ

各モニタ

接続ボックス n

接続ボックス1

放射線監視盤 合計モニタ数max.30チャネル

PLC/A系

PLC/B系

PLC/C系

メンテナンス パソコン

HUBMC:メディアコンバータ

HUB:スイッチングハブ

図5 放射線監視システムの構成

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大規模放射線監視システム

が A系,B系の 2セット収納され,光 Ethernetの両端と

MCを介して接続している。放射線モニタのデータは,こ

れら両系に 1 秒周期に伝送され,現場 LAN機器および監

視盤 LAN機器の故障時でもデータの収集を可能としてい

る。

HUBは,システム共通とし,故障時には簡単に交換可

能としている。

放射線監視盤

放射線監視盤は,放射線モニタから送信される放射線

データ,警報信号などを受信し,表示・記録するとともに,

放射線管理用計算機にデータを伝送する機能を有する。

また,放射線モニタの遠隔自動点検指令,警報設定・変

更操作などをタッチ式フラットディスプレイ上から行える

機能を有している。

さらに放射線管理用計算機の故障を考慮し,数日間の

データバックアップを行っており,放射線管理用計算機の

故障復旧時にオンラインでバックアップデータの送信が行

える。なお,万一,放射線管理用計算機の復旧が数日間以

上にわたる場合には,外部接続のパソコンにデータセーブ

を行える機能を有している。

図6に放射線監視盤の例を示す。この例は,タッチ式フ

ラットディスプレイを 27 台組み込んだものであり,約

300チャネルの放射線モニタを監視できるようにしたもの

である。

タッチ式フラットディスプレイは,最大 30チャネルの

放射線モニタのデータを表示できるものであり,カラー

LCDディスプレイが使用可能である。図7にカラー LCD

ディスプレイ上に表示した例を示す。

タッチ式フラットディスプレイ上で行う主な機能を以下

に記す。

放射線データ表示機能:ディジタル表示および対数

バーグラフ表示機能

警報表示機能:各チャネル個別に以下を表示

「HH」:放射線高高,「H」:放射線高,「L/TBL」:

放射線低・モニタ故障

警報設定表示:バーグラフ右側に設定レベル表示。ま

た,個別チャネルごとに数値表示

警報設定変更:タッチ操作により,個別チャネルごと

に設定・変更可能

個別点検機能:タッチ操作により,以下のテストを個

別チャネルごとに行える。

™光パルステスト ™上下限校正

™警報テスト「HH」 ™リニアリティテスト

™警報テスト「H」 ™外部信号テスト

™警報テスト「L」

モニタ状態:タッチ操作により個別チャネルごとにバ

イアス電圧値,ディスクリレベルなどのモニタの詳細

データを表示する。

放射線管理計算機

放射線管理計算機は,放射線監視盤から伝送されたデー

タを受信し,放射線管理に有効な形にデータ処理を行い,

画面や帳票を出力している。

放射線管理用計算機のハードウェア構成例を図8に示す。

各施設の放射線監視盤から基幹 LANを介して放射線管理

用サーバにデータが伝送され,データベースに一括保管さ

れる。放射線管理用サーバは二重化している。また,ハー

ドディスクは各サーバ内でミラー構成としており,サーバ

間,ハードディスク間の健全性のチェックを実施している。

サーバのオペレーティングシステムには Solaris〈注 2〉

を,デー

タベースには ORACLE〈注 3〉

を採用している。

各施設端末では,ブラウザソフトウェアをインストール

することで画面を見ることができ,特別なソフトウェアや

設定作業が不要なため,端末増設が容易である。

放射線管理用計算機が行う主な機能を表2に示す。放射

線監視盤からのオンラインデータやその他のバッチデータ

は,施設内のマップ画面や施設外への放出系統図画面上に

(6)

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

383(77)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

〈注2〉Solaris:(株)サンマイクロシステムズ製のオペレーティング

システム

〈注3〉ORACLE:米国オラクル社製のリレーショナルデータベース

図6 放射線監視盤の例

図7 フラットディスプレイの表示例

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大規模放射線監視システム

表示するとともにトレンド出力も行える。マップは,測定

場所の変更に対して,ユーザーが簡単に測定点の追加や変

更を行えるようにしている。トレンド出力は,複数モニタ

の組合せ表示やリアルタイム表示が行え,関係部署での同

時監視が可能である。

あとがき

本稿では,原子力施設向けに開発した大規模放射線監視

システムについて報告した。これまでのシステムは,放射

線という非常に微弱な信号を取り扱うという点で,大規模

な放射線監視システムを構築するうえで問題があった。今

回開発したシステムは,放射線計測特有の機能を放射線検

出部に集約し,信号処理結果をディジタルコード情報とし

て出力できるようにしたことにより,システムを構築する

うえでの制約がほとんど解消でき,今後ますます発展して

いくであろう情報処理技術の取込みを容易にしたものと考

えている。

また,放射線管理用計算機については,Web 技術を採

用したことによりデータの共有化を可能とした。一方,セ

キュリティ対策が重要な課題となってきており,信頼性の

高いシステムを開発していく所存である。

参考文献

青木勝則ほか.NUCEF 放射線管理システム.FAPIG.

no.135, 1993, p.25-32.

田辺健一.原子力発電所における放射線管理システムの開

発.FAPIG, no.165, 2003, p.3-8.

(2)

(1)

384(78)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

表2 放射線管理用計算機が行う主な機能

機能名

シ ス テ ム 管 理

モ ニ タ 管 理

気 象 管 理

デ ー タ 管 理 区 域 管 理

固体廃棄物管理

放 出 管 理

定期サーベイ管理

機能概要

™二重化管理     ™警報メッセージ管理 ™セキュリティ管理

™気象データ収集,データ表示 ™周辺公衆の線量評価     ™帳票編集・出力      

™区域区分管理

™放出放射能管理(気体・液体廃棄物など)

™定期サーベイ条件登録       ™定期サーベイ測定値登録      ™定期サーベイオンラインデータ登録 ™定期サーベイ報告書       

™廃棄物データ管理(封入データ,線量データなど) ™貯蔵庫搬出入管理 ™帳票編集・出力

™プロセスモニタデータ収集  (周期:2.5秒または10秒ごと),データ表示 ™プロセスモニタ状態監視(警報機能)     ™帳票編集・出力              

™モニタサーバのデータ管理  (1分値,10分値,1時間値,1日値)

A施設 D棟

指示 ・ 記録 ・ 警報

放射線 監視盤

ギガ スイッチ

HUB

ギガ スイッチ

HUB

E施設群

(将来計画対応)

F施設群

H棟

(将来計画対応)

放射線監視設備

スタック モニタ

屋内・屋外 エリアモニタ

室内空気 モニタ

光 Ethernet

放射線 管理用端末

情報表示 端末

B施設

指示 ・ 記録 ・ 警報

放射線 監視盤

ギガ スイッチ

HUB

放射線監視設備

スタック モニタ

屋内・屋外 エリアモニタ

室内空気 モニタ

光 Ethernet

放射線 管理用端末

情報表示 端末

C施設

指示 ・ 記録 ・ 警報

放射線 監視盤

ギガ スイッチ

HUB

放射線監視設備

スタック モニタ

屋内・屋外 エリアモニタ

室内空気 モニタ

光 Ethernet

放射線 管理用端末

情報表示 端末

放射線 管理用端末

放射線管理用 サーバ 情報表示

端末

集中監視システム

HUB 情報表示端末

G棟

ギガ スイッチ HUB 情報表示端末

基幹LAN

ギガ スイッチ

図8 放射線管理用計算機のハードウェア構成例

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三保谷 英一

放射線管理システムの設計に従事。

現在,富士電機システムズ(株)電

力営業本部第二統括部放射線営業

部課長。

田辺 健一

放射線管理システムなどの設計お

よび製作とりまとめに従事。現在,

富士電機システムズ(株)e-ソ

リューション本部放射線システム

統括部放射線システム部。

明石 倫雄

放射線管理用計算機システムの応

用ソフトウェアの開発・設計に従

事。現在,(株)エフ・エフ・シー

社会インフラソリューション部。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

放射線管理システムは,原子力施設の放射線管理区域で

働く作業者の被ばく情報や,施設内外の放射線関連情報の

管理を行うためのもので,原子力発電所ではミニコン

ピュータなどを用いたシステムが導入されている。最近で

は,放射線管理業務の合理化および高度化が進み,これに

伴い放射線管理システムの重要性も高まってきた。このた

め,放射線管理システムには,以前に増して高い信頼性や

操作性,リアルタイム処理性などが要求されている。

富士電機は作業者の被ばく情報を管理する個人被ばく管

理システム,主に施設周辺の放射線関連情報を管理する環

境放射線管理システム,さらにこれらを統合化した総合放

射線管理システムにおいて,国内最多の納入実績を有して

おり,原子力発電所の放射線管理業務の合理化に資するシ

ステムをユーザーとともに構築し,提供し続けてきた。こ

のような放射線管理分野におけるシステム構築実績をもと

に,最近の計算機分野における新技術を積極的に取り入れ,

ニーズの高度化・多様化に対応した総合放射線管理システ

ムを開発し,これを 2003 年 3 月,北海道電力(株)泊発電

所に納入した。

このシステムでは,まず個人被ばく管理機能においては

さらなる合理化や各種申請業務の迅速化のニーズに応える

べく,申請業務における将来の電子化にも対応したワーク

フロー機能を付加したWebシステム(395ページ「解説」

参照)を開発した。また,施設の放射線関連情報の管理機

能においては監視機能の強化を中心にロギング機能向上

ニーズが強まっていることに対応し,リアルタイムデータ

監視機能や警報監視機能を強化させた。

本稿では,富士電機が開発した放射線管理計算機システ

ムの概要について紹介する。

システム構成

図1に本システムの全体構成を,また図2に本システム

のサーバ群の外観を示す。本システムは総合放射線管理シ

ステムであるが,リアルタイム処理については,管理デー

タに相関のない個人被ばく管理用のサーバ(以下,個人管

理サーバという)と,施設内外の放射線データ管理用の

サーバ(以下,施設管理サーバという)は独立構成として

負荷分散,危険分散化を図るとともに,おのおの二重化構

成として処理の連続性を確保させている。

個人管理サーバ

個人管理サーバは,作業者の放射線管理区域の入域・退

域の制御や実績データの管理,退域時の汚染測定データな

どの収集・管理を行っており,データを時系列で管理する

必要があることから,異常時に運転系から待機系に機能お

よびデータを引き継ぐデュープレックス方式としている。

系切替え中に発生した入退域実績データはソフトウェア的

に処理抜けを防止している。共有ディスクは筐体(きょう

たい)自体を二重化しており,電源部異常(片系)を含め,

装置異常による処理中断の発生を防止している。

施設管理サーバ

施設管理サーバは,プロセス入力装置や施設内外の放射

線関連設備から各種データを収集・管理するとともに,自

治体や国に送信を行うデータ送信局装置への伝送を行って

いる。本サーバは,系切替え時の欠測(データ収集の欠落)

を防止するため,データの収集処理を運用系・待機系の両

系ともに行うデュアル方式としている。データベースへの

書込みや送信処理は運用系のみで行うが,伝送相手が二重

化されている設備との伝送は,2 : 2の伝送(相手側設備

の両系からサーバの両系に伝送)とすることで,伝送異常

時のデータ欠測を極力回避させている。ディスクは個人管

理サーバ同様,筐体を二重化している。

運用管理サーバ

これらのサーバと別に,非定型業務のサポート機能や,

業務スケジュール管理,電子文書管理機能などを行うため

に運用管理サーバを設けている。このサーバは,大量デー

タや大量の電子文書データを取り扱うことなどから,負荷

分散化のため個人管理サーバおよび施設管理サーバと独立

の構成としている。

本システムは,画面機能をブラウザ方式とすることで,

(3)

(2)

(1)

放射線管理計算機システム

385(79)

三保谷 英一(みほや えいいち) 田辺 健一(たなべ けんいち) 明石 倫雄(あかし みちお)

特集2

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放射線管理計算機システム

ユーザーの LANに接続された端末も利用可能としている。

このため,端末装置としてユーザーの既存パソコンなどを

利用することも可能であり,また将来的にユーザーの

LANに接続できる環境が整えばユーザーの自席のパソコ

ンを本システムの端末装置として利用することも可能とな

り,電子承認業務をはじめとした各種申請業務の大幅な合

理化が期待される。

システム機能の特徴

個人管理機能

本システムの個人管理機能の概要を表1に示す。

本システムの最大の特徴は,ヒューマンマシンインタ

フェースのWeb 化により所内 LANに接続された所員や

協力会社の端末での操作を可能にしたことと,申請業務の

ためのワークフロー機能を付加したことである。Web 画

面上で表示された本システムの画面例を図3および図4

に示す。ワークフロー機能は,放射線管理における各種申

請業務に対応させるため,アプリケーションソフトウェア

(1)

386(80)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

プロセス モニタ

エリア モニタ 野外

モニタ 設備

野外 モニタ 設備

プラント 運転 データ

排気筒 モニタ

4チャネル 19チャネル 51チャネル 108チャネル

ゲート モニタ

ホール ボディ カウンタ

退出 モニタ

物品 搬出 モニタ

プロセス 入力装置

・・・ 全13局 :放射線管理計算機

 システム更新範囲

並列冗長型 UPS

運用管理 サーバ

放射線管理専用LAN15台

ファイア ウォール

北海道電力 LAN

北海道電力 LAN接続端子

SPDS 送信局装置

北海道庁向け 送信局装置

国(経済産業省) 受信局

北海道庁 受信局

専用端末

8台 2台 6台

海水温 モニタ

核種分析 装置

テレメータ 設備

1セット 1セット 1セット 1台 3セット

個人管理 サーバ

施設管理 サーバ

UPS

図1 システム構成

図2 本システムのサーバ群 表1 個人管理機能の概要

業 務 機 能 機能概要

個人線量   管理

出入管理

放射線 作業管理

一時立入   管理

区域区分   管理

物品情報   管理

報告書   管理

手帳印字   処理

従事者登録管理

外部被ばく管理

内部被ばく管理

健康診断,    教育管理

入退域管理

身体汚染処理

作業件名管理

作業線量管理

一時立入管理

区域区分図処理

物品データ管理

定期検査報告書      作成

運転実績管理

対外報告書作成

放射線管理手帳      印字

原子炉等規制法および障害防止法の従事者 登録およびデータの管理,申請書印字

日々の線量データを収集,月線量とともに 管理。年度記録を自動作成

ホールボディカウンタの測定データ管理, 期限管理帳票の自動配布

健康診断,教育データの登録,管理。期限 管理帳票の自動配布

入退域管理装置での入退域資格チェック, 入域時間監視

全身表面汚染モニタの測定データを登録, 汚染記録作成

作業件名を電子申請(作業者申請も電子申 請可能)

管理区域入域実績をもとに,作業件名ごと の被ばくを自動集計

一時立入件名を電子申請。実績および人数 を管理

管理区域の区域区分図データを号機ごと, プラント状態ごとに管理

物品モニタでの汚染発生情報,放射性物品, 衣服モニタ運転状態を管理

定期検査計画を登録し,実績データを集計。 対外報告用の定検報告書を作成

プラントの運転状況などのデータを入力, 運転実績報告書を作成

経済産業省や労働基準監督署向け定期報告 書を自動作成

放射線管理手帳に従事者のデータを自動印 字

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放射線管理計算機システム

により放射線管理システム専用に開発し,きめ細かい機能

性・操作性を持たせている。以下にその概要を記す。

従事者指定申請時には,過去の指定データを再利用でき

る参照登録を可能とし,承認操作は申請ごとでも一括でも

可能である。健康診断受診情報や放射線防護教育受講情報

の申請は,所属ごとで同一日付のケースが多いため,所属

ごとにまとめて申請できる。指定解除申請機能では,解除

が可能な者を自動抽出し,申請のための線量値などをデ

フォルト表示するなど,申請操作の簡略化を図っている。

作業件名の申請・登録機能についても,作業件名情報の事

前台帳登録機能を設け,ここに事前登録しておくことで定

期検査ごとに毎回行う同じ作業件名の登録は容易に行える。

また,作業件名情報に付随する作業員情報の登録も,所属

ごとにリストアップされた中から選択して登録できる。放

射線管理の要領書や報告書など作業申請者側からの提出書

類は,提出状況が確認できるようにしている。

さらに,申請用の HTML(Hyper Text Markup Lan-

guage)フォーマットを外部媒体にダウンロードし,これ

にデータを入力してのアップロード申請もできるようにす

ることで,所内 LANに接続された端末を持たない協力会

社でもフロッピーディスクなどを用いて容易に電子申請が

行えるようにしている。

入退域管理装置から収集した線量実績情報は,必要な形

に自動集計される。また,表形式で画面表示されたデータ

は,すべてワンタッチ操作で Excel〈注〉

に直接はり付けできる

ため,その後のデータ加工が容易に行える。

なお,将来の申請電子化に伴うペーパーレス化に対応し,

申請書や許可証は当該アドレスに電子メールで送付できる。

申請業務の合理化だけでなく,放射線管理の主管部署か

ら各所属や協力会社への通知書などの配布についても電子

メールによる自動配信とし,受信側で必要に応じてデータ

として保存または印刷する方式とすることで,配布業務を

不要とし,紙の削減化も図っている。

施設・環境管理機能

本システムの施設・環境管理機能の概要を表2に示す。

本機能では,収集したデータから瞬時値,1 分値,10 分

値, 1 時間値などの集計値を作成する前に,収集した値が

正常なデータの範囲内であることを判定しており,この範

囲を逸脱した場合は異常値として警報出力を行う。

本システムに登録された各種データは,一覧表形式や各

建屋内の平面図に線量率値を表示した線量率マップ,施設

周辺地図に環境管理情報を表示した環境マップ(図5),

時系列のトレンドグラフ(図6)など,管理目的に合致し

(2)

387(81)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図3 従事者指定申請画面

図4 定期検査の線量推移図画面

〈注〉Excel :米国Microsoft Corp. の登録商標

表2 施設・環境管理機能の概要

業 務 機 能 機能概要

所内放射線    管理

環境放射線    管理

気象データ    管理

海水管理

計測器管理

防護具管理

廃棄物管理

放射性同位  元素管理

公衆被ばく    管理

オンラインデータ       収集

測定データ管理

オンラインデータ       収集

空気吸収線量,    線量率測定

測定データ管理

オンラインデータ       収集

測定データ管理

オンラインデータ       収集

測定データ管理

計測器 スケジュール管理

防護具在庫管理

気体廃棄物管理

液体廃棄物管理

固体廃棄物管理

線源情報管理

公衆被ばく評価

所内放射線モニタのデータを収集,10 分値,1時間値などを演算

トレンドグラフ,系統図,マップおよ び表形式で画面・帳票に出力

オフサイトモニタ,PAモニタのデータ を収集,10分値,1時間値などを演算

周辺環境データを端末から登録,帳票, 対外報告書を自動作成

トレンドグラフ,マップおよび表形式 で画面・帳票に出力

気象観測データを収集,10分値,1時 間値などを演算

トレンドグラフ,マップおよび表形式 で画面・帳票に出力

海水温度データを収集。また海水状態 をリアルタイム監視

トレンドグラフ,マップおよび表形式 で画面・帳票に出力

計測器の貸出情報,部品情報,保守情 報などを管理

防護具の在庫数量を防護具の種類ごと, 場所ごとに管理,帳票作成

排気筒モニタなどから放射性希ガス放 出量を算出,管理帳票作成

廃液測定データなどから液体廃棄物放 出量を算出,管理帳票作成

固体廃棄物管理システムと連携し廃棄 物管理帳票を作成

密封線源情報,チェッキングソース情 報などを登録

気体廃棄物と液体廃棄物データから周 辺公衆被ばくを算出

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放射線管理計算機システム

た表示が行える。このうちトレンドグラフでは,表示グ

ループを任意に選択できるほか,グラフスケールの変更や

リニア/ログの表示切替えが画面上で容易に行えるように

し,プラント異常時の監視機能に柔軟性を持たせている。

表形式の表示データは,個人管理機能と同様,ワンタッ

チ操作で Excelに直接はり付けできる。

また,計測器の貸出し状況がスケジュール表形式で確認

できるなど,各種物品の管理機能も充実させている。

さらに,対外報告書の出力機能や,周辺公衆被ばく評価

機能など,管理業務全般をサポートする機能を有すること

で,放射線管理業務全般に関する総合管理システムとして

の機能を具備させた。

共通管理機能

本システムにおける共通機能の概要を表3に示す。

富士電機が従来から開発・提供していた EUC(エンド

ユーザーコンピューティング)機能をWebシステムに対

応させ,本システムに取り入れた。本機能では,協力会社

も必要なデータのみを必要な形式で取り出せるため,デー

タ加工や自社の管理システムとの連携も容易になった。ま

た,あらかじめデータ抽出日時を予約しておくこともでき

るため,ルーチン業務で必要なデータは,その都度操作す

ることなく決められた時間に自動的に抽出させることがで

きる。本機能は,協力会社にも開示するにあたり,出力

データに制限を設けてセキュリティ管理を行っているため,

市販のデータ抽出用ソフトウェアと異なりデータの無用な

開示が回避できる。

本システムには緊急通報機能を設けており,システムの

異常時や,システムで収集したデータの異常を検出した場

合にはあらかじめ指定された電話に自動通報を行う。この

機能により,従来より迅速かつきめ細かくシステムの異常

検知が行え,重要障害を事前に回避することも可能になる。

また,本システムでは,システム内で発生した電子文書

やその他の文書を任意に管理できる文書管理機能として,

チームウェアソフトウェアを放射線管理業務に適した形に

改良したものを導入している。また,管理業務に必要な各

種スケジュールを登録し,期限に達するとアラームを発報

するスケジュール管理機能なども設けた。

このような機能アップだけでなく,システムのランニン

グコストを低減させるべく,帳票はすべて Excel 様式とし,

よく行われる印欄や固定印字文字の変更など,帳票の固定

部の変更はユーザーにより行えるようにした。

あとがき

本システムは,ヒューマンマシンインタフェース機能の

Web 化により発電所内の LANに接続されたユーザー側

の端末でも操作可能としたほか,非定型の各種集計業務な

どに対応した機能の付加を行った。これにより,ユーザー

の申請から承認までの各種業務が大幅に合理化されただけ

でなく,帳票の軽微な変更をユーザーで行えるようにする

など拡張性の向上や,非定型業務の支援機能によるランニ

ングコスト低減など,実質的にメリットの大きいシステム

とすることができた。

最後に,本システムの設計・製作および本稿執筆にあた

り,多大なご指導・ご協力をいただいた北海道電力(株)泊

発電所殿に深く感謝する次第である。

(3)

388(82)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図5 環境放射線マップ画面

図6 放射線モニタのトレンドグラフ画面

表3 共通機能の概要

業 務 機 能 機能概要

システム   管理

業務支援   機能

システム管理

セキュリティ     管理

メンテナンス     管理

ヘルプデータ     管理

緊急通報機能

EUC検索     機能

文書配布機能

™システム状態を監視し,異常時は系切替え,  警報出力 ™システム運用状態などをシステム系統図に集  約表示 ™システム警報をメッセージ表示およびチャイ  ム鳴動

当該者が利用可能な機能をパスワードで制限

システム定数を管理,運用に合わせて変更可能

取扱説明書などを画面の「ヘルプ」で参照可能

システムの検出異常情報を指定箇所に自動通報

任意様式でデータを高速検索,ExcelやCSV形 式で出力

システムの出力帳票や,その他の電子文書を管 理,電子配布

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佐藤 正昭

放射線計測機器のエンジニアリン

グ業務に従事。現在,富士電機シ

ステムズ(株)e-ソリューション本

部放射線システム統括部営業技術

部。

水野 裕元

放射線計測機器のエンジニアリン

グ業務に従事。現在,富士電機シ

ステムズ(株)e-ソリューション本

部放射線システム統括部放射線シ

ステム部。

籔谷 孝志

放射線計測機器の品質保証業務お

よびエンジニアリング業務に従事。

現在,富士電機システムズ(株)

e-ソリューション本部放射線シス

テム統括部放射線システム部。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

大学・病院・研究所などのラジオアイソトープ(RI)

利用施設ならびに加速器使用施設では,放射線の安全管理

が義務づけられている。これらの施設において放射線管理

をより確実に行うために,各種放射線測定装置(以下,モ

ニタという)と施設放射線管理設備(以下,設備という)

を設置している。モニタおよび設備とこれらを統合管理す

るオペレーションコンソール(以下,オペコンという)か

らなる放射線管理システムについて紹介する。

機器の構成

放射線管理システムは RI 使用施設内の空間,空気,排

水中の各種放射線を検出する放射線測定装置と施設から環

境に出ていく空気,水などを管理する施設放射線管理設備,

放射線管理区域への入域・退域を管理する出入管理装置

(入退域者の管理,汚染の管理)およびこれらのデータを

集約して統合管理するオペコン(リアルタイム監視,各種

操作,データ処理)で構成されている,

放射線管理システムの代表的な構成を図1に示す。

放射線測定装置

放射線測定装置(以下,モニタという)は,検出部と受

信部で構成する。

検出部には,放射線測定をするための機能をすべて持た

せたインテリジェント型の機器を使用している。検出部と

受信部のデータ伝送は双方向通信が可能な光ケーブルを使

用したシリアル伝送方式を採用し,長距離伝送を可能にす

るとともに耐ノイズ性を向上させている。

受信部はオペコン内に取り付けられ,パソコンと接続し

(2)(1)

RI 利用施設向け放射線管理システム

389(83)

佐藤 正昭(さとう まさあき) 水野 裕元(みずの ひろゆき) 籔谷 孝志(やぶたに たかし)

施設管理設備 (フィルタ,ポンプ)

オペレーションコンソール

γ線エリアモニタ

γ線ガスモニタ

β線ガスモニタ

β線水モニタ

現場制御盤

γ線水モニタ

中性子エリアモニタ

ハンドフットクロスモニタ

カードリーダ

ルームガス,よう素モニタ

出入管理

図1 放射線管理システムの代表的な構成

特集2

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RI 利用施設向け放射線管理システム

て検出部のデータを収集し,パソコンで測定データの処理

をしている。検出部の測定に関する各種設定は,光ケーブ

ルを通じてパソコンからの遠隔操作による設定が可能で,

オペコンによる集中管理を可能としている。保守作業など

の現場作業では,検出器側における設定も可能としメンテ

ナンス性の向上を図っている。モニタは,常設して使用す

るモニタと,作業場所に移動して使用するモニタがあり,

移動式モニタには,サーベイメータ,ルームモニタがある。

これらのモニタは随時移動させて作業中の汚染を管理する

ために使用される。一例として水モニタの特性(表1)と

設備の例(図2)を示す。

施設放射線管理設備

RIを使用する施設では,放射性ガスおよび粒子(ダス

ト)が発生する可能性があるので専用の排気処理設備を設

け,施設内の空気を清浄するとともに,施設外に汚染した

空気が漏出することを防止する必要がある。排気処理設備

は,RIフィルタユニット,排気ファン,排気フードなど

により構成されており,最終排気口にモニタ検出部を設置

しオペコンと接続してリアルタイムで放射能濃度を監視し

ている。一方,施設内で発生する放射性排水は排水処理設

備にて放射能濃度を測定し法規制値以下であることを確認

後,一般排水として施設外へ放流する。

排水設備は流入槽,貯留槽,希釈槽,ポンプ,バルブ,

水位計などにより構成される。放射性排水は,流入槽に集

められ貯留槽に移し放射能を減衰させる。この貯留槽は複

数設けられおり,水位が設定値に到達すると自動的に他の

貯留槽に切替えを行う。放射性排水は貯留槽で RIの減衰

を待って放流する。放流前に当該貯留槽の水をサンプリン

グし,モニタにより測定をして放射能濃度が法規制値以下

であることを確認し,一般排水に放流する。放射能濃度が

法規制値以上の場合は,自動的に希釈槽に移し,必要量の

一般水(上水)を加えて希釈し放流する。

これらの一連の操作は,プログラマブルコントローラ

(PLC)を用いた排水制御装置で自動的に処理される。

なお,制御装置は PLCとオペコンを専用伝送ケーブル

で結び,オペコンに設置されたパソコン画面から遠隔操作

ができる構成にしている。モニタと排水処理をオペコンで

一元管理することでオペレーターの作業を簡略化している。

図2に排水処理設備の施工例,図3にオペコンの排水制

御・監視画面を示す。

出入管理機器

出入管理は,放射線業務従事者の管理区域への入退域を

管理するものである。カードリーダと自動開閉扉で構成さ

れる。退域時は,ハンドフットクロスモニタで測定し,

RIによる汚染を管理区域外に広げないようにしている。

出入管理は,オペコンで行っている個人管理と連携し,入

退域時に個人ごとの要件をチェックして入域あるいは退域

の要件が整っている場合のみ,出入口の自動扉を開く。入

退域時のチェック項目を表2に示す。

オペコン

オペコンは,モニタ,施設放射線管理設備,出入管理機

器などの管理を一括して行うもので,PLC,パソコンなど

390(84)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

図2 排水設備(貯留槽)

図3 排水制御・監視画面

表1 水モニタ感度データ

(a)β線水モニタ検出感度

感度係数 (min-1/Bq/cm3)

核種

14C

32P

89Sr

40K

1.2×101

6.8×102

5.8×102

4.3×102

最高検出感度 (Bq/cm3)

1.5×100

1.8×10-2

1.0×10-1

4.2×10-2

排水濃度限度 (Bq/cm3)

2×100

3×10-2

3×10-1

1×10-1

感度係数 (min-1/Bq/cm3)

核種

67Ga

99mTc

125I

131I

3.0×103

7.6×103

1.1×103

1.9×104

最高検出感度 (Bq/cm3)

5.0×10-3

1.9×10-3

3.7×10-3

3.5×10-3

排水濃度限度 (Bq/cm3)

4×100

4×101

6×10-2

4×10-2

(b)γ線水モニタ検出感度

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RI 利用施設向け放射線管理システム

を収納した中央管理装置である。

PLCは,排気・排水処理設備の遠隔制御,各種サンプ

リングポンプの制御を行う。パソコンはモニタ検出部から

伝送されてくるデータを収集し,放射線レベルのリアルタ

イム表示とトレンド表示を行う。また,測定値を設定した

警報レベルと比較し,設定値を超えた場合にブザーと画面

表示で警報を発信する。収集データは日,月,3か月,年

などの管理単位で編集し,データの画面表示,管理用帳票

作成を行う。管理室に設置したオペコンで状態の監視,報

告データ作成など,ほとんどの管理業務を行うことができ

る。

最近の動向

近年,核医学の分野で,ポジトロン断層撮影(PET)

など,RIを用いた画像診断技術が注目されている。ここ

で使用される RIは,短寿命の核種が多く,RIの製造と利

用施設が近い場所であることが必須である。このため RI

の製造を目的とした加速器施設が全国に多数建設されてい

る。また,PET用以外にも研究用のシンクロトロンなど

の加速器,大線源を用いた照射装置(食品,生物照射)な

どの施設では一般の RI 利用とは異なり,高線量率のγ線

あるいは中性子の線量管理や個人被ばく線量の管理,イン

タロック装置などを必要とする。

富士電機では,これら施設に対応した放射線管理システ

ムを供給している。エリアモニタにはエネルギー特性なら

びに測定範囲の広い電離箱型エリアモニタ,中性子エリア

モニタがある。個人被ばく線量管理には警報機能付電子式

線量計と出入管理機能を組み合わせた管理機器があり,こ

れに加速器制御装置とモニタを関連させたインタロック装

置がある。インタロック装置は安全で確実な管理による被

ばく事故防止を可能にしている。エリアモニタの仕様を表

3に,モニタの外観ならびに照射室出入口に設置した大型

の線量率表示装置の例を図4に示す。この表示器は,作業

者が照射室などに入室する前に室内の線量率を確認してか

ら入室することを目的に設置してより安全性を向上させて

いる。

あとがき

RI 利用施設における放射線管理システムについて紹介

した。放射線管理システムは,業務従事者の被ばく低減な

らびに施設からの環境への排出管理を目的とした統合した

システムである。従来から放射線の管理には多くの時間が

費やされている。これらの管理業務に費やされる時間を少

なくし,かつより安全に放射線管理を実施できるシステム

の構築により管理者の負担低減につなげられる製品を供給

していく所存である。

最後に,放射線監視システムの設計にあたり多くのご指

導・ご協力をいただいている,大学,病院,研究所などの

関係各位に深く感謝する次第である。

参考文献

放射線障害防止法に基づく安全管理ガイドブック.原子力

安全技術センター.2002.

病院管理の手引.東京都衛生局医療計画部医療指導課.

2001-3.

(2)

(1)

391(85)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

表2 入退域処理チェック項目

(a)入域処理 管理区域入口チェック項目

チェック内容 項目 No.

1

2

3

4

5

6

7

8

9

従事者,一時立入者として登録され,管理番号が登録済みであるこ と。

教育受講要の人については,受講日から1年以内であること。

健康診断有効期間の設定期間内であること。

被ばく線量を超過していないこと。

立入開始日から立入終了日の期間内であること。

夜間立入資格があること。

休日立入資格があること。

1日および1か月在域時間を超えていないこと。

立入可能場所であること。

チェック項目 項目 No.

1

2

従事者,一時立入者登録の管理番号が登録済みであること。

汚染測定結果が汚染なしであること。

(b)退域処理 管理区域出口でのチェック項目

表3 エリアモニタの仕様

γ線

10-3~103mSv/h

80keV~1.3MeV

L,H

中性子

10-2~104 Sv/h

0.025eV~15MeV

L,H

測 定 範 囲

エネルギー特性

警 報 出 力

項 目 線 種

図4 エリアモニタ・表示器の外観

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門野 浅雄

放射線応用機器の研究開発,設計

に従事。現在,富士電機システム

ズ(株)e-ソリューション本部放射

線システム統括部放射線システム

部担当課長。計測自動制御学会会

員,日本機械学会会員。

富士時報 Vol.77 No.5 2004

まえがき

ラジオアイソトープ(RI)を利用した工業計測器は,放

射線により,厚さ,レベル,密度,水分などを測定する装

置である。その優れている点は,非接触,非破壊,オンラ

インリアルタイム高速応答などにあり,RIの物理的性質

から,熱,電気,振動など,ノイズ要因の影響を受けにく

いため,鉄鋼圧延制御,化学プラント,プラスチック,製

紙工業などの過酷な製造ラインで幅広く利用されている。

これらの計器は,単に製品検査を目的に使用されるので

はなく,製造工程制御系のセンサ「目」の役割を担ってお

り,各種製造工程に不可欠な特殊センサとして位置づけら

れている。

例えば,鉄鋼用熱間厚さ計は,プロセスコンピュータ下

で自動運転し,圧延機のリアルタイム制御用出力として熱

寸測定値を 50ms 程度の応答で伝送すると同時に,最終製

品の厚さ,すなわち冷寸測定値の出力,蓄積を行っている。

富士電機では,鉄鋼向けγ線厚さ計,プラスチック・紙

用β線厚さ計,各種レベル計,水分計などを幅広くライン

アップしている。

本稿では,厚板ミル直近厚さ計,シームレス鋼管熱間肉

厚計,および日立製作所製互換タイプの放射線応用計測器

を紹介する。

厚板ミル直近γ線厚さ計

熱間厚板厚さ計は,従来,厚板熱間圧延機の後方(また

は前方)10m 以上離れた場所にしか設置できないとされ

ていた。

厚板ミル直近γ線厚さ計は,圧延機直近,具体的には圧

延機中心から,2m程度の搬送ロール間のわずかなすきま

からγ線を照射し,測定を実施する。板が相当厚いスラブ

の段階から,ミル制御の早期開始に寄与する。さらに,ミ

ル後方 10m以上の位置まで,板を搬送しなくても,圧延

制御情報が得られるので,圧延能率が向上する,

これを,実現するために,圧延機内の過酷な環境,すな

わち,熱,衝撃,大量の水,また酸化鉄粉,鉄片の付着,

落下などに耐えられる耐環境性能が必要であるのみならず,

オフラインに引き出してのメンテナンスが不可能な場所に

設置されているため,従来の厚さとは質的に異なる高度な

信頼性,あるいは遠隔保守性などを具備している必要があ

る。

検出器単体の性能に関しては,すでに発表しているので,

ここでは装置の性能,システム構成,保守性などを紹介す

る。

厚板ミル直近γ線厚さ計の主要諸元を表1に示す。現在

製作中のシステムの構成を図1に示す。出力としては,圧

延制御用の 100ms 程度のリアルタイム出力のほかに,10

msの高速応答出力をし,よりきめ細かく板プロフィール

を把握できるようにしている。圧延オペレーターには,厚

さをディジタル表示するほかに,圧延パスごとの板厚プロ

フィール画像をリアルタイム表示し,瞬間的な判断行動を

支援している。

遠隔保守としては,オンライン状態のまま,内蔵サンプ

ルにより,ゼロ点を含む多点校正を自動的にできるように

している(特許 広報平 4-43207)。このことと検出器の安

定性により,計器校正のメンテナンスフリー化を実現して

いる。

(3)

(3)

(2)(1)

放射線応用機器

門野 浅雄(もんの あさお)

特集2

392(86)

表1 厚板ミル直近γ線厚さ計の主要諸元

線     源

検  出  器

検出器アンプ

検出器安定方式

最大衝撃加速度

衝 撃 低 減 率

耐  熱  性

測 定 範 囲

短周期ノイズ

ド リ フ ト

計 器 応 答

137Cs 1.11TBq

プラスチックシンチレーション検出器

パルスアンプ方式(ディジタル計数方式)

近紫外光参照スペクトル安定化方式

735m/s2(75G)

1/10以下

厚板圧延機内にて連続運転可能

約2~150mm

例:90%信頼度で33 m at 20mm,0.2s応答

実測例 5.5 m/8h

10ms~

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放射線応用機器

また,予防診断機能の目的で独立のプロセッサを具備し,

スタンバイ系を含む検出系の各種保守情報,振動衝撃加速

度などをリアルタイムで計測,データベース化し,障害解

析の診断,トラブル予防のための情報を提供している。

シームレス鋼管熱間肉厚計

シームレス鋼管は,油井掘削など過酷な条件下で使用さ

れる高強度の鋼管である。シームレス鋼管熱間肉厚計は,

圧延ライン,特にストレッチレデューサ(肉厚を延伸し,

径を絞る圧延機)における圧延制御の目的で,肉厚を 10

ms 程度の高速応答でリアルタイム出力すると同時に,管

端カットオフ位置を決定し,また,肉厚プロフィール情報

を記録・蓄積する自動運転の計測システムである。

圧延オペレーターに対するガイダンスとして,肉厚プロ

フィール画像を圧延ピースごとにリアルタイム表示すると

同時に,任意の過去の肉厚プロフィールを随時表示させる

ことができる。

表2に 2004 年度製作中の装置の主要緒元を,図2に装

置の構成を示す。また,図3に従来器の外観を,図4に測

定原理を示す。走行に伴い,鋼管が上下左右に瞬間的位置

変動しても,誤差を生じない測定原理(特許 登 1474136-

00)である。

この原理を実現するためには,γ線の照射場を均一にす

るだけではなく,検出器の感度を均一にする必要がある。

この課題を,約 350mm幅のプラスチックシンチレータと,

シンチレーション光を均一に集光し光電子増倍管に導く,

特殊なライトガイドを組み合わせることで解決している。

電子回路部は,ミル直近γ線厚さ計用と同一で,安定方式

は近紫外光参照方式を用いている。

本装置では,この検出器を 2 台用いて高計数を得,10

msの高速応答における統計変動誤差を低減している。

日立製作所製互換タイプ放射線応用計測器

富士電機は,日立製作所製放射線応用計測器の完全互換

機を製造・販売している。

同機は,測定システム一式として互換性があるだけでは

なく,線源容器,検出器,電子回路部,ケーブル,付属品

(3)

(5)

(4)

393(87)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

PL

PBL閉 開 閉 開

厚板工場プロセス コンピュータ

ターミナルリンク

ミルオペレーター 用HMI

ミルオペレーター用 操作パネル

保守用 タッチパネル

板プロフィール 表示など

パソコン 19インチ LCD

スタンバイ系 スタンバイ 検出器

スタンバイ系 γ線源

PIO リアルタイム出力100ms

圧延制御用DDC

ミル直近制御盤

LAN#1

LAN#2

LAN#3

HMD 速度信号など

γ計数,検出部,高圧,温度,振動

γ計数,検出部,高圧,温度

検出部

γ線源

冷水装置

エア

シャッタ駆動エア

ミル内搬送 ロール

内蔵サンプル

加速度センサ

操作用タッチパネル

プロセッサリンク

プリンタ データハンドリング HMI用FAパソコン 遠隔保守用

パソコン

予防診断装置用 FAパソコン

リアルタイム出力10ms リアルタイム出力100ms

[操作パネル]

HMI:Human Machine Interface

図1 厚板ミル直近γ線厚さ計のシステム構成

表2 シームレス鋼管熱間肉厚計の主要諸元

線     源

検  出  器

検出器アンプ

検出器安定方式

測 定 範 囲

測 定 精 度

ド リ フ ト

計 器 応 答

137Cs 1.11TBq 長さ223mm

感度均一化型 350mm測定幅  プラスチックシンチレーション検出器

パルスアンプ方式(ディジタル計数方式)

近紫外光参照スペクトル安定化方式

外径 φ25~φ180mm 肉厚 2~45mm    

肉厚の±0.2%以下

実測例:0.2 m/12h at φ81mm  9.21mm

8ms~

t

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放射線応用機器

など,要素単位での互換性を確保しており,部分更新にも

対応できる。

特に線源容器は,線源カプセル,部品,製作図,製造方

法のすべてを完全同一品としているので,ユーザーにとっ

て法規制上大きなメリットがある。

本機は日立製作所と富士電機の綿密な協力の下,発売開

始以来すでに数十件の納入実績があり,いずれも安定稼動

をしている。

図5に互換機の一例を示す。

394(88)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

シームレス鋼管工場 圧延プロセスコンピュータ

LAN

速度信号

シームレス鋼管熱間 肉厚計制御盤

制御盤HMI用 FAパソコン

プロセッサリンク

中継箱

冷却水装置

速度センサ

熱間肉厚計 機側制御盤

エア

ミルオペレーター用HMI FAパソコン 肉厚プロフィール表示など

オペレーター 操作パネル

LAN

図2 シームレス鋼管熱間肉厚計のシステム構成

図3 シームレス鋼管熱間肉厚計の測定機構部

(a)γ線レベル計検出器

(b)線源容器(遮へい容器)

図5 日立製作所製と互換タイプの放射線応用計測器

γ線検出量

検出器

パイプが位置変動しても γ線検出量は不変

位置変動

被測定パイプ

絞り

ライン線源

図4 シームレス鋼管熱間肉厚計の測定原理

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放射線応用機器

あとがき

厚板ミル直近γ線厚さ計は,従来の富士電機製厚さ計に

比して,耐衝撃・耐熱性など耐久性能の飛躍的向上,安定

性・メンテナンスフリー化,高速応答,およびデータベー

ス機能の拡大を実現した。今後は,これら技術を富士電機

製厚さ計全般に適用し,より信頼性の高いシステムを提供

していく考えである。

シームレス鋼管熱間肉厚計は,鋼管径が約 180mmと,

比較的大きいサイズに対応しているなどの理由から,やや

大掛かりなシステムになっている。今後は,より小径サイ

ズ向け,あるいはシンプルなシステム構成の,比較安価な

装置にも取り組んでいく所存である。

レベル計,密度計に関しては,従来の富士電機製品と日

立製作所製互換機の両メニューを有している。今後は,両

者の長所を生かした製品開発を推進していきたい。

参考文献

岩村忠昭.鉄鋼プラントにおけるセンシング技術.日本機

械学会誌.vol.92, no.842, 1989, p.38-40.

片山二郎ほか.厚板仕上げミル直近γ線厚さ計の開発.計

測自動制御学会第 27 回学術講演大会.JS13-6. 1988, p.151-

152.

門野浅雄ほか.ライジオアイソトープ応用計測器.富士時

報.vol.72, no.6, 1999, p.348-352.

鋼管製造技術の最近の進歩.日本鉄鋼協会.1978.

わが国における最近の鋼管製造技術の進歩.日本鉄鋼協会.

1974.

(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

395(89)

富士時報 Vol.77 No.5 2004

特集2

解 説 Webシステム

従来は端末(クライアント)にもアプリケーション

プログラムを配置したクライアント・サーバ方式が主

流であったが,最近ではWWW技術を用いたWebシ

ステムに置き換わりつつある。Webシステムではす

べてのアプリケーションプログラムをサーバに配置し,

端末側にブラウザソフトウェアを配置するのみでシス

テムを利用できる特徴を持つ。すなわち,不特定多数

のユーザーに対してサービスを提供するシステムでは

Webシステムが優位である。

本システムではこの特徴を生かして各種申請業務

(データ入力)から承認結果や集計データの通知

(データ出力)の流れを自動化することで業務効率化

に寄与している。

なお,個人情報を取り扱うWebシステムでは,適

切なデータ提供を行うようにするためには,本体シス

テムとのネットワーク分離,ファイアウォールの設置,

個人承認および認証に基づく機能制限・データ参照制

限を行うなどのセキュリティ対策が重要である。

Web 方式を用いることにより,各種システムの操

作を一つのメニューから行うこともできるようになっ

た。

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2004 Fuji Electric Holdings Co., Ltd., Printed in Japan(禁無断転載)

396(90)

主要営業品目

富 士 時 報

編集兼発行人

発 行 所

印 刷 所

発 売 元

富士電機ホールディングス株式会社技 術 企 画 部

富士電機情報サービス株式会社

株 式 会 社 オ ー ム 社

平 成 16 年 8 月 30 日 印 刷平 成 16 年 9 月 10 日 発 行

定価 735 円(本体 700 円・送料別)

〒141 -0032 東京都品川区大崎一丁目 11 番 2 号

〒151 -0053 東京都渋谷区代々木四丁目 30 番 3 号

(ゲートシティ大崎イーストタワー)

(新宿コヤマビル)

〒101 -8460 東京都千代田区神田錦町三丁目 1 番地

電 話(03)3233 -0641振替口座 東京6-20018

電 話(03)5388 -8241

編 集 室 富士電機情報サービス株式会社内「富士時報」編集室

〒151 -0053 東京都渋谷区代々木四丁目 30 番 3 号(新宿コヤマビル)

電 話(03)5388 -7826FAX(03)5388 -7988

第 巻 第 号77 5

情報・通信・制御システム,水処理・計測システム,電力システム,放射線管理システム,FA・物流システム,環境シス

テム,電動力応用システム,産業用電源,車両用電機品,クリーンルーム設備,レーザ機器,ビジョン機器,電力量計,

変電システム,火力機器,水力機器,原子力機器,省エネルギーシステム,新エネルギーシステム,UPS,ミニUPS

電磁開閉器,操作表示機器,制御リレー,タイマ,ガス関連機器,配線用遮断器,漏電遮断器,限流ヒューズ,高圧受配

電機器,電力制御機器,電力監視機器,交流電力調整器,検出用スイッチ,プログラマブルコントローラ,プログラマブル

操作表示器,ネットワーク機器,インダクションモータ,同期モータ,ギヤードモータ,ブレーキモータ,ファン,クーラ

ントポンプ,ブロワ,汎用インバータ,サーボシステム,加熱用インバータ

磁気記録媒体,パワートランジスタ,パワーモジュール,スマートパワーデバイス,整流ダイオード,モノリシック IC,

ハイブリッド IC,半導体センサ,サージアブソーバ,感光体,画像周辺機器

原 嶋 孝 一

自動販売機,コインメカニズム,紙幣識別装置,貨幣処理システム,飲料ディスペンサ,自動給茶機,冷凍冷蔵ショーケー

ス,カードシステム

富士電機デバイステクノロジー(株)

富士電機システムズ(株)

富士電機機器制御(株)

富士電機リテイルシステムズ(株)

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富士電機は,「パワーエレクトロニクス」をキーワードとして,

ダイオード,MOSFETなどのディスクリート半導体,IGBTモ

ジュール,およびパワー ICなど,パワーを制御するための半導体

製品に特化して製品を提供してきている。本稿では,われわれが重

要な市場ととらえている産業分野,自動車電装分野,情報・電源機

器分野の三つの用途分野の代表的な製品群について,その基盤とな

る富士電機の半導体技術の特徴と今後の動向について概要を紹介す

る。

半導体の現状と展望

金田 裕和 松田 昭憲

富士時報 Vol.77 No.5 p.308-312(2004)

汎用インバータや無停電電源装置に代表される電力変換機器は,

常に高効率化・小型化・低価格化・低騒音化が要求されている。こ

のインバータ回路に用いられる電力変換素子にも高性能化・低価格

化・高信頼性が求められており,第四世代 IGBTモジュール(Sシ

リーズ)に対して大幅に特性改善された第五世代 IGBTモジュール

(Uシリーズ)の開発を行った。本稿では,NPT,トレンチゲート,

フィールドストップおよび新型FWDの構造といった最新の素子技

術とその製品系列について紹介する。

Uシリーズ IGBTモジュール

宮下 秀仁

富士時報 Vol.77 No.5 p.313-316(2004)

600V 系 U-IPM(20 ~ 160A)の開発を行った。トレンチゲー

ト構造の IGBTを使用することにより大幅に定常損失を低減した。

また,FWDチップにソフトリカバリー化を行った新規開発チップ

を使用することにより,ノイズを増やすことなくターンオン di/dt

を大きくできたため,ターンオンロスに関しても低減することがで

きた。以上の損失低減を行ったことで実使用においては,R-IPM

から U-IPMに置き換えることでキャリヤ周波数を 2 倍にすること

が可能である。

Uシリーズ IGBT-IPM(600 V)

関川 貴善 遠藤  弘 脇本 博樹

富士時報 Vol.77 No.5 p.317-320(2004)

近年,電機製品の省エネルギー化の要求により IGBTモジュール

は従来の産業用途ばかりでなく,家庭用電気製品用途にまで幅広く

適用されている。したがって,IGBTモジュールへの市場デマンド

は,低コストと高信頼性はもちろんのこと,さらなる軽量・コンパ

クト化を強く望まれている。このようなニーズに対応するために,

低熱抵抗・高強度の絶縁基板を開発し,従来同等構造比で,熱抵抗

を約 30 %改善した新構造 IGBTモジュールについて紹介する。

新絶縁基板を用いた次世代 IGBTモジュール技術

西村 芳孝 望月 英司 高橋 良和

富士時報 Vol.77 No.5 p.321-325(2004)

シリコンデバイスの微細化に伴い,最近では極薄酸化膜に注目が

集まっている。しかし,MOSFETや IGBTなどのパワーデバイス

では,非常に厚いゲート酸化膜や,高温アニールを必要とするなど

特有のプロセスを用いる場合があるため,極薄酸化膜では見られな

いさまざまな現象が生じる。本稿では,パワーデバイス用ゲート酸

化膜における酸化方法,酸化膜厚,アニール条件の違いに対して,

電気的特性により比較,検討した結果について述べる。

パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術

松本 良輔 加藤 博久

富士時報 Vol.77 No.5 p.326-329(2004)

自動車用,産業用として用途の拡大が期待される高圧センサ分野

に対応するため,富士電機では,世界最小のワンチップ技術による

高圧センサセルを開発した。本稿では,製品の概要,耐圧設計検討,

製品性能,信頼性性能について検討した結果を報告する。開発した

高圧センサセルは,基本仕様として 1 ~ 5MPaの圧力レンジの用

途に適用可能で,エアコン用や油圧制御用の高圧センサへの適用に

最適である。

ワンチップ技術による高圧センサ

上柳 勝道 篠田  茂 芦野 仁泰

富士時報 Vol.77 No.5 p.330-333(2004)

電子機器の小型・軽量化,高性能化が急速に進み,その中でも特

にACアダプタなどは小型化・高出力化傾向が顕著であり,半導体

デバイスの使用環境は厳しくなる一方である。これを踏まえ,特に

高温環境下でのスイッチング電源の二次側整流用に最適な低 IR-

SBDを製品化した。その特長は,チップ比抵抗・厚さ,ガードリ

ング濃度,拡散深さ,バリヤメタルの最適化を図ることで,従来の

SBDに比べ IRを約一けた低減し,さらに VFの増加を極力抑えた

ことであり,発生損失の低減による使用温度限界の向上が図られて

いる。

電源二次側整流器用ダイオード「低 IR-SBDシリーズ」

掛布 光泰 一ノ瀬 正樹

富士時報 Vol.77 No.5 p.334-337(2004)

近年,電子機器はますます小型化・軽量化・高機能化が進んでお

り,この電子機器を駆動するための電源においては小型・高出力・

高効率の要求がなされている。富士電機ではこの要求を満足するた

めに,低オン抵抗の高耐圧パワーMOSFETをメイン側と同期整流

側にそれぞれ内蔵した 3チャネル出力および 2チャネル出力の降圧

型 DC-DCコンバータ IC「FA7726F」および「FA7730F」を開

発・製品化した。本稿ではこの制御 ICの特長および応用回路例を

紹介する。

60 V耐圧MOSFET内蔵型降圧同期整流電源 IC

藤井 優孝 米田  保

富士時報 Vol.77 No.5 p.338-341(2004)

富士時報論文抄録

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Abstracts (Fuji Electric Journal)

Power conversion equipment, typified by general-purpose invert-ers and uninterruptable power supplies, are subject to constantrequests for higher efficiency, smaller size, lower cost and quieteroperation. Power semiconductor devices used in the equipment arerequired to have high performance, low cost and high reliability, and a5th generation IGBT module (U-series), which provides a dramaticperformance improvement over the 4th generation IGBT module (S-series), has been developed. This paper introduces the product line ofU-series IGBT modules and describes the latest device technologies,including NPT, trench-gate, field-stop and new FWD structures.

U-series of IGBT Modules

Shuji Miyashita

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.313-316 (2004)

In the field of power electronics, Fuji Electric offers specializedsemiconductor products for controlling electric power. These devicesinclude discreet semiconductor devices such as diodes and MOSFETs,as well as IGBT modules and power ICs. Fuji Electric is focusing onapplications in the strategic markets of industrial, automotive andinformation & power supply equipment. This paper presents anoverview of Fuji’s main products, core technologies and future trendsof these markets.

Fuji Electric’s Semiconductors: Current Status and Future Outlook

Hirokazu Kaneda Akinori Matsuda

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.308-312 (2004)

Due to the recent demand for energy-efficient electronic products,IGBT modules are being used not only in industrial applications butalso in home electronic appliances. Accordingly, in addition to the obvi-ous market demands for low cost and high reliability, IGBT modulesare also required to be lightweight and compact. In response to theseneeds, an insulating substrate having low thermal resistance and highstrength was developed. This paper introduces the next-generationIGBT module that utilizes this new insulating substrate and achieves30 % better thermal resistance than prior comparable structures.

Development of a Next-generation IGBT Module Using a New Insulating Substrate

Yoshitaka Nishimura Eiji Mochizuki Yoshikazu Takahashi

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.321-325 (2004)

Fuji Electric has developed a 600 V series of U-IPMs (20 - 160 A).A dramatic decrease in steady-state loss is achieved by using a trenchgate structure IGBT. Turn-on loss has also been reduced through theuse of a newly developed FWD chip that realizes soft recovery andachieves higher di/dt without an increase in noise. In practical applica-tions, the replacement of R-IPMs with the abovementioned U-IPMsenables the carrier frequency to be increased by a factor of two.

U-series of IGBT-IPMs (600 V)

Kiyoshi Sekigawa Hiroshi Endo Hiroki Wakimoto

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.317-320 (2004)

In response to the expanding range of applications for high-pres-sure sensors to automotive and industrial applications, Fuji Electric hasdeveloped the world’s smallest one-chip high-pressure sensor cell.This paper presents an overview of the product, describes design con-siderations for achieving the desired pressure resistance, and discussesproduct performance and reliability considerations. The newly devel-oped high-pressure sensor cell is suitable for applications in the rangeof 1 to 5 MPa, and is ideally suited as a high-pressure sensor for airconditioner and oil pressure control applications.

High Pressure Sensor Using One Chip Technology

Katsumichi Ueyanagi Shigeru Shinoda Kimihiro Ashino

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.330-333 (2004)

As silicon devices scale down, the application of ultra-thin oxidefilms has recently been attracting attention. In power devices such asMOSFETs and IGBTs, sometimes they are applied very thick gateoxide films and high temperature annealing is sometimes required incertain processes, various phenomena occur which are not observed inthe application of ultra-thin oxide films. This paper reports the resultsof our investigation into the relationship between the electrical charac-teristics of power devices and the gate oxide film formation conditionssuch as oxidation method, film thickness and annealing method.

Study of Gate Oxide Film Formation for Power Semiconductor Devices

Ryosuke Matsumoto Hirohisa Katoh

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.326-329 (2004)

In recent years, electronic devices have increasingly been madewith smaller size, lighter weight and higher performance. The powersupplies for driving these electronic devices are required to have asmall size, high output and high efficiency. To meet these needs, FujiElectric has developed and commercialized 3-channel or 2-channel out-put type buck DC-DC converter ICs “FA7726F and FA7730F” thatcontain an internal low on-resistance high-voltage power MOSFET ontheir main side and on their synchronous regulator side respectively.This paper introduces the characteristics of these control ICs anddescribes example circuit applications.

60 V-class Synchronous Buck Regulator Control ICs with Internal High Voltage MOSFET Switches

Masanari Fujii Tamotsu Yoneda

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.338-341 (2004)

With the rapidly advancing trends toward the smaller size, lighterweight and higher performance electronic devices, the environment inwhich semiconductor devices are used is becoming more severe, espe-cially in devices such as AC adapters for which the trends towardminiaturization and higher output are particularly noticeable. Inresponse, Fuji Electric has commercially produced a low IR-SBD that isideally suited for use in the secondary source rectification of switchingpower supplies in a high temperature environment. In order to opti-mize the characteristics of chip specific resistance and thickness, guardring concentration, diffusion depth and barrier metal, IR has beenreduced by approximately a factor of 10 compared to the conventionalSBD and the increase in VF has been suppressed to the maximumextent possible so as to reduce power dissipation and to increase themaximum operating temperature.

Low IR Schottky Barrier Diode Series

Mitsuhiro Kakefu Masaki Ichinose

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.334-337 (2004)

Page 95: 特集1半導体 特集2放射線システム · ワー半導体デバイスの限界性能を超えるsicデバイスは, 600v/50aのショットキーバリアダイオードが市販され

大画面で高精細画像を実現するプラズマディスプレイパネル

(PDP)が急速に普及している。低オン抵抗に対するニーズが大き

いサステイン回路をターゲットに,150 ~ 300Vの SuperFAP-G

を新たに系列化した。また,さらなる小型化・高効率化の要求に対

応するため,より低オン抵抗特性を有するトレンチMOSFETの開

発を行っている。PDP 用 MOSFETの系列および特徴について紹

介する。

PDP用中耐圧MOSFET

原  幸仁 井上 正範

富士時報 Vol.77 No.5 p.342-345(2004)

フラットパネルディスプレイ(FPD)が普及し,かつ FPDの中

での液晶・ PDP・プロジェクタによる競争が激しくなってきてい

る。その中で,PDPには消費電流低減や発光効率などの性能向上

と,低価格化が求められている。この市場の要求に応えるために,

大電流を流すことができ,出力オン抵抗が低いスキャンドライバ

ICを低コストで供給することが可能な技術を開発し製品化した。

汎用PDPスキャンドライバ IC

小林 英登 多田  元 澄田 仁志

富士時報 Vol.77 No.5 p.346-349(2004)

本稿では富士電機のプラズマディスプレイパネル(PDP)ドライ

バ IC 用デバイス・プロセス技術について紹介する。PDPドライバ

ICはアドレスドライバ ICとスキャンドライバ ICに大別される。

それぞれの ICの要素技術となる素子間分離技術,プロセス技術,

そして高耐圧横型デバイス技術について概説する。あわせて,両ド

ライバ ICの開発技術動向に関しても触れる。

PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術

澄田 仁志

富士時報 Vol.77 No.5 p.350-354(2004)

放射線システムは,原子力発電所やラジオアイソトープ(RI)を

使用する病院・研究所の放射線監視に使われている。最近では,よ

り精度の高い測定を行うためにディジタル信号処理技術が導入され

てエネルギー分析やゲイン安定化,ノイズ低減などに活用されてい

る。シリコン半導体検出器は,α線・β線・γ線・中性子の測定ができ,従来型の放射線検出器はシリコン半導体検出器に置き換えら

れてきている。燃料加工工場や加速器施設の建設に伴い,中性子測

定に適した放射線モニタの開発が進められている。

放射線システムの現状と展望

河野 悦雄

富士時報 Vol.77 No.5 p.356-357(2004)

個人線量モニタリングシステムに電子式個人線量計を適用するこ

とによって,測定値のリアルタイムな評価,線量計一本化による合

理化などのメリットが期待できる。富士電機は半導体検出器を用い

たγ(X)線,β線,中性子が測定できる電子式個人線量計を開発し,入退域管理装置と組み合わせてシステム化を図っている。さら

に JIS 体系に準拠した線源校正装置も開発済みである。今後は,多

くの施設で利用できる低価格,高精度かつ使いやすい製品を開発し

ていく。

個人線量モニタリングシステム

青山  敬 上田  治 河村 岳司

富士時報 Vol.77 No.5 p.358-363(2004)

原子力発電所では,周辺監視区域近傍や周辺市町村の環境γ線の線量率を連続的に測定・監視する必要がある。環境放射線モニタリ

ングシステムは,測定ポイントの環境γ線量率を連続測定し,測定データをリアルタイムに中央制御室に伝送することで環境放射線の

変動を集中監視するとともに,測定データを一般公開することで発

電所の運転に対する理解を得るための重要な設備である。本稿では,

富士電機の最新の環境放射線モニタリングシステムについて紹介す

る。

環境放射線モニタリングシステム

高木 俊博 木村  修 皆越  敦富士時報 Vol.77 No.5 p.364-368(2004)

放射線測定器は,原子力発電所,研究所,病院などで放射線の監

視や管理のため,多く用いられている。富士電機では,用途に応じ

たさまざまな放射線測定器を供給している。本稿では,環境測定用

の放射線監視装置として近年開発した次の 2 機種について紹介する。

従来に比べ感度を約 100 倍に高めた低線量環境線量計

ワイド NaI(Tl)シンチレーション検出器を用いた可搬式モ

ニタポスト

(2)

(1)

環境放射線測定器

小林 裕信 酒巻  剛 増井  馨

富士時報 Vol.77 No.5 p.369-372(2004)

原子力発電所では,管理区域外へ放射性物質による汚染が広がる

のを防止するため,管理区域から外へ移動されるすべての物品の表

面汚染を監視している。本稿では,①作業者の身体の表面汚染を測

定する体表面汚染モニタ,②大物から小物までの物品の表面汚染を

測定する物品表面汚染モニタ,③管理区域内で着用する作業服など

の表面汚染を測定するランドリモニタ,④作業者の体内被ばくを測

定するホールボディカウンタ,⑤手足および着衣の表面汚染を測定

するハンドフットクロスモニタなどについて,装置の概要・特徴を

説明する。

放射性物質汚染検査装置

長谷川 透 橋本 忠雄 橋本  学

富士時報 Vol.77 No.5 p.373-379(2004)

Page 96: 特集1半導体 特集2放射線システム · ワー半導体デバイスの限界性能を超えるsicデバイスは, 600v/50aのショットキーバリアダイオードが市販され

As flat panel displays (FPDs) increase in popularity, competition isintensifying among the various types of FPDs (LCDs, PDPs and pro-jectors). For PDPs, performance improvements such as lower currentconsumption and higher luminous efficiency, as well as lower cost areneeded. In response to these market needs, Fuji Electric has developedand commercialized technology that enables a scan driver IC havinghigh current flow and low output on-resistance to be supplied at lowcost.

PDP Scan Driver IC

Hideto Kobayashi Gen Tada Hitoshi Sumida

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.346-349 (2004)

Large-screen high-definitions plasma display panels (PDPs) arerapidly growing in popularity. Targeting the sustain circuit, in whichthere is tremendous need for low on-resistance, Fuji Electric hasnewly developed a line-up of 150 to 300 V SuperFAP-G devices. Inresponse to requests for even smaller sizes and higher efficiency, Fujihas developed low on-resistance trench MOSFET technology. Thispaper introduces Fuji Electric’s line-up of MOSFETs for PDPs and pre-sents their characteristics.

Medium-voltage MOSFETs for PDP-use

Yukihito Hara Masanori Inoue

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.342-345 (2004)

Radiation monitoring systems are installed to monitor radiationand radioisotopes (RI) at nuclear power plants, hospitals and researchlaboratories. Recently digital signal processing technology is adopted inthem in order to do more precise measurements of radiation. Siliconsemiconductor detectors, which can detect gamma, alpha and beta raysand neutrons, are replacing the conventional radiation detectors inradiation monitoring systems. A new radiation monitor suitable formeasuring neutrons is being developed for use in nuclear fuel process-ing plants and accelerator facilities.

Current Trends in Radiation Monitoring System

Etsuo Kono

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.356-357 (2004)

This paper introduces Fuji Electric’s device and process technolo-gies for plasma display panel (PDP) driver ICs. PDP driver ICs can becategorized as either address driver ICs or scan driver ICs. Isolationtechniques, process technology and high-voltage lateral device technol-ogy are described for each type of IC. Technical trends in the develop-ment of both types of driver ICs at Fuji Electric are also discussed.

Device and Process Technologies for PDP Driver ICs

Hitoshi Sumida

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.350-354 (2004)

At nuclear power plants, the dose rate of environmental gammaradiations in the vicinity of the surrounding monitored areas and in theneighboring towns must be measured and monitored continuously.Environmental radiation monitoring system are critically importantsystems that continuously measure the environmental gamma radia-tions dose rates at specified measurement points and transmit thatmeasurement data in real-time to a central control room wherechanges in the environmental radiation conditions are monitored cen-trally. Moreover, the disclosure of this measurement data enables thepublic to gain an understanding of the operation of the power plant.This paper introduces Fuji Electric’s latest environmental radiationmonitoring system.

Environmental Radiation Monitoring System

Toshihiro Takagi Osamu Kimura Atushi Minagoshi

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.364-368 (2004)

At nuclear power plants, in order to prevent radioactive materialsfrom spreading contamination outside the radiation control area, thesurface contamination of all material transferred outside the controlarea is monitored. This paper presents an overview and describes fea-tures of: personnel surface contamination monitoring assemblies formeasuring the surface contamination on workers, articles surfacecontamination monitoring assemblies for measuring the surface conta-mination on articles of all sizes, laundry monitors for measuring thesurface contamination on worker clothes worn inside the control area,

whole-body counters for measuring the worker's internal exposure,and hand-foot-clothing contamination monitors for measuring thesurface contamination on hands, feet and clothing.(5)

(4)

(3)

(2)

(1)

Radioactive Contamination Monitor

Toru Hasegawa Tadao Hashimoto Manabu HashimotoFuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.373-379 (2004)

Nuclear power plants, research laboratories and medical facilitiesuse a wide variety of radiological instruments and devices for radiationmonitoring and control. Fuji Electric supplies a variety of radiologicalinstruments and devices for diverse uses. This paper introduces thefollowing two devices recently developed by Fuji Electric as environ-mental radiation monitors.

An environmental dosimeter for low-level radiation featuring anearly 100-fold increase in sensitivity compared with theconventional detectable levelA transportable monitoring post equipped with a wider-rangeNaI (Tl) scintillation probe

(2)

(1)

Environmental Radiation Measuring Equipment

Hironobu Kobayashi Tsuyoshi Sakamaki Kaoru Masui

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.369-372 (2004)

The integration of an electronic personal dosemeter in a personalmonitoring system is expected to enable the real-time evaluation ofmeasured values, achieve higher efficiency and realize other suchadvantages. Fuji Electric has developed an electronic personal doseme-ter capable of measuring gamma rays (X-rays), beta rays and neutrons,and has realized a monitoring system that integrates this electronicpersonal dosemeter with a doorway-monitoring device. A radiationsource calibration device conforming to JIS has also been developed. Inthe future, Fuji Electric intends to develop low cost, high precision andeasy-to-use products for use at a wide range of facilities.

Personal Dose Monitoring System

Kei Aoyama Osamu Ueda Takeshi Kawamura

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.358-363 (2004)

Page 97: 特集1半導体 特集2放射線システム · ワー半導体デバイスの限界性能を超えるsicデバイスは, 600v/50aのショットキーバリアダイオードが市販され

原子力施設では,従事者および周辺住民の放射線防護の観点から

適切な放射線管理を行っている。放射線監視システムは,施設内の

作業環境の放射線状況や施設外に放出する気体・液体の放射能濃度

の監視を連続で行うものであり,非常に重要なシステムである。富

士電機は,各現場に分散配置される放射線検出部を高機能化して放

射線計測特有の機能を放射線検出部に集約し,中央への情報伝送に

Ethernetおよび情報処理に UNIXサーバを適用した高機能・高信

頼性の大規模放射線監視システムを開発した。

大規模放射線監視システム

藤本 敏明 伊藤 勝人 中島 定雄

富士時報 Vol.77 No.5 p.380-384(2004)

富士電機では,電力会社の原子力発電所向けに初めてブラウザ方

式画面を採用して放射線管理業務に合致したきめ細かいワークフ

ロー機能を開発し,2003 年 3 月に北海道電力(株)泊発電所に納入

した。このシステムでは,個人管理業務における煩雑な書類の申請

業務や通知業務の大幅削減を可能にした。さらに協力会社が自社

データを任意様式で取り出せるようにした。また,発電所内外の放

射線データ管理機能では,監視機能を強化するとともに,システム

状態やシステムの管理データの異常時に自動通報する機能を持たせ

た。

放射線管理計算機システム

三保谷 英一 田辺 健一 明石 倫雄

富士時報 Vol.77 No.5 p.385-388(2004)

大学・病院・研究所などの放射性同位元素(RI)を使用する施設

向けの放射線管理システムを紹介する。近年,研究所・医療機関な

どにおいて RI 利用が活発になっている。一方,環境に対する社会

の関心が高まる中で放射線管理システムは,ますます重要性が増し

てきている。システムの概要と最近の動向について紹介する。

RI 利用施設向け放射線管理システム

佐藤 正昭 水野 裕元 籔谷 孝志

富士時報 Vol.77 No.5 p.389-391(2004)

熱間圧延制御用の大規模なシステムの例,厚板ミル直近γ線厚さ計,シームレス鋼管熱間肉厚計の最近の進展を紹介する。従来機に

比して,計器の飛躍的な高速応答化,インテリジェンス要素の多用,

データの大容量化,データベース化などが特長になっている。

また,日立製作所製放射線応用計測器の互換機の製造・販売を

行っており,すでに多数の納入実績がある。

放射線応用機器

門野 浅雄

富士時報 Vol.77 No.5 p.392-395(2004)

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Nuclear facilities monitor radiation in order to protect workers andresidents of neighboring communities from radiation exposure.Radiation monitoring systems are extremely important systems thatcontinuously monitoring the radiation conditions within a facility andthe radioactivity concentration in gaseous and liquid waste emittedfrom that facility. Fuji Electric has developed a sophisticated and highlyreliable large-scale radiation monitoring system in which radiationdetectors, provided with sophisticated and specific functionality formeasuring radiation, are distributed at various locations throughouteach site, data is transmitted via an Ethernet to a control room and aUNIX server is used for data processing.

Large-scale Radiation Monitoring System

Toshiaki Fujimoto Katsuhito Ito Sadao Nakashima

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.380-384 (2004)

Fuji Electric has adopted for the first time a browser-based screendisplay developed for use by the nuclear power plants of electric powercompanies and has deployed a detailed workflow function that corre-sponds to the radiation control. This system was installed at theTomari Power Station of Hokkaido Electric Power Co.,Inc. in March2003, and enables the user to drastically reduce administrative paper-work, which including filings and notifications. Moreover, the capabilityhas been provided for partner companies to extract company data intheir desired format. Additionally, monitoring functions have beenstrengthened and an auto-alarm function provided in case of error withthe system’s status or managed data.

Radiation Control Computer System

Eiichi Mihoya Kenichi Tanabe Michio Akashi

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.385-388 (2004)

This paper introduces a radiation monitoring system for use atfacilities such as universities, hospitals and research laboratorieswhere radioisotopes (RIs) are used. RI used by medical institutions andresearch laboratories has increased in recent years. Meanwhile, associety becomes more concerned about the environment, radiationmonitoring systems are becoming increasingly important. An overviewof this system and recent trends are provided.

Radiation Monitoring System

Masaaki Satou Hiroyuki Mizuno Takashi Yabutani

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.389-391 (2004)

An example of a large-scale system for controlling hot rolling, andrecent developments for a gamma-ray thickness gauge for the inner-mill housing of a plate and a thickness gauge for a hot seamless tubemill are introduced. The dramatically higher speed response, versatileintelligent elements, larger data capacity and formation of a databaseare advantages of these instruments over conventional devices.Moreover, Fuji Electric’s industrial measuring instruments that useradioisotopes are manufactured and marketed to be compatible withthose of Hitachi, and we have already compiled a track record of manydeliveries.

Industrial Measurement Instruments that Use Radioisotopes

Asao Monno

Fuji Electric Journal Vol.77 No.5 p.392-395 (2004)

Page 99: 特集1半導体 特集2放射線システム · ワー半導体デバイスの限界性能を超えるsicデバイスは, 600v/50aのショットキーバリアダイオードが市販され

目 次

特集1 半導体

特集2 放射線システム

電子機器や電気機械,自動車などには,時

代の進展とともに省エネルギー,小型化,高

機能化がますます強く要求されてきている。

それらの製品の進化には,半導体技術が無く

てはならないものであり,半導体は正に産業

の米といっても過言ではない。

富士電機は,産業,自動車,情報・電源分

野向けの半導体に注力し,パワーエレクトロ

ニクスを支えるパワー半導体,パワー IC な

どについて研究開発から生産販売までを一貫

して手がけている。

表紙写真では,IGBT モジュール,パワー

MOSFET,圧力センサ,電源 ICを示し,ま

た,それらが用いられる産業,自動車,情報

通信,家電分野をイメージ的に表現している。

表紙写真

パワー半導体デバイスへの期待 307( 1 )松瀬 貢規

半導体の現状と展望 308( 2 )金田 裕和 ・ 松田 昭憲

富士の放射線管理システム

高精度,高信頼性で皆様のお役に立ちます。

身体内部の汚染レベルを測定するホールボディカウンタ

放射性物質が放出されていないかを調べるサンプルラック

中性子の線量率を測定する検出器

身体表面の汚染レベルを測定する体表面モニタ

γ線の線量率を測定する検出器放射線の外部被ばく線量を測定する個人線量計

個人の線量測定

環境の放射線測定

原子力施設および放射線利用施設の安全管理に欠かせない各種放射線測定機器と

計算機システムの開発に積極的に貢献しています。

Sept. 2004

特集1 半導体

お問合せ先:富士電機システムズ株式会社 電力営業本部 放射線営業部 電話(03)5435-7007

Uシリーズ IGBTモジュール 313( 7 )宮下 秀仁

Uシリーズ IGBT-IPM(600V) 317(11)関川 貴善 ・ 遠 藤 弘 ・ 脇本 博樹

新絶縁基板を用いた次世代 IGBTモジュール技術 321(15)西村 芳孝 ・ 望月 英司 ・ 高橋 良和

パワーデバイス用ゲート酸化膜形成技術 326(20)松本 良輔 ・ 加藤 博久

ワンチップ技術による高圧センサ 330(24)上柳 勝道 ・ 篠 田 茂 ・ 芦野 仁泰

電源二次側整流器用ダイオード「低 IR-SBDシリーズ」 334(28)掛布 光泰 ・ 一ノ瀬正樹

60V耐圧MOSFET内蔵型降圧同期整流電源 IC 338(32)藤井 優孝 ・ 米 田 保

PDP用中耐圧MOSFET 342(36)原 幸 仁 ・ 井上 正範

汎用PDPスキャンドライバ IC 346(40)小林 英登 ・ 多 田 元 ・ 澄田 仁志

PDPドライバ IC用デバイス・プロセス技術 350(44)澄田 仁志

放射線機器の可能性について 355(49)中村 尚司

放射線システムの現状と展望 356(50)河野 悦雄

個人線量モニタリングシステム 358(52)青 山 敬 ・ 上 田 治 ・ 河村 岳司

環境放射線モニタリングシステム 364(58)高木 俊博 ・ 木 村 修 ・ 皆 越 敦

環境放射線測定器 369(63)小林 裕信 ・ 酒 巻 剛 ・ 増 井 馨

放射性物質汚染検査装置 373(67)長谷川 透 ・ 橋本 忠雄 ・ 橋 本 学

大規模放射線監視システム 380(74)藤本 敏明 ・ 伊藤 勝人 ・ 中島 定雄

放射線管理計算機システム 385(79)三保谷英一 ・ 田辺 健一 ・ 明石 倫雄

RI 利用施設向け放射線管理システム 389(83)佐藤 正昭 ・ 水野 裕元 ・ 籔谷 孝志

放射線応用機器 392(86)門野 浅雄

特集2 放射線システム

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昭和40年6月3日 第三種郵便物認可 平成16年9月10日発行(年6回1,3,5,7,9,11月の10日発行)富士時報 第77巻 第5号(通巻第828号) ISSN 0367-3332

雑誌コード 07797-9 定価 735円(本体 700円)

昭和40年6月3日 第三種郵便物認可 平成16年9月10日発行(年6回1,3,5,7,9,11月の10日発行)富士時報 第77巻 第5号(通巻第828号)

本誌は再生紙を使用しています。

特集1 半導体特集2 放射線システム

Sept. 2004