32
各種がん ױ Μͱ Ո ͷ ͷΊʹ 115 ͷ Ύ Α Βஅɺɺ ܦա؍ ͷΕ

各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

各種がん

患 者 さんとご 家 族 の 明日のために

115

脳の う

腫し ゅ

瘍よ う

受診から診断、治療、経過観察への流れ

Page 2: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

 腫瘍の診療の流れこの図は、腫瘍の「受診」から「経過観察」への流れです。大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。あなたらしく過ごすためにお役立てください。

「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかないでください。なるべく早く受診しましょう。

受診のきっかけや、気になっていること、症状など、何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。

治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを確認するために、しばらくの間、通院します。検査を行うこともあります。

治療が始まります。気が付いたことは担当医や看護師、薬剤師に話してください。困ったことやつらいこと、小さなことでも構いません。よい解決方法が見つかるかもしれません。

腫瘍や体の状態に合わせて、担当医が治療方針を説明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの方と話し合ってください。あなたの希望に合った方法を見つけましょう。

担当医から検査結果や診断について説明があります。検査や診断についてよく理解しておくことは、治療法を選択する際に大切です。理解できないことは、繰り返し質問しましょう。検査が続くことや結果が出るまで時間がかかることもあります。

腫瘍の疑い

受 診

検査・診断

治療法の選択

治 療

経過観察

Page 3: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

 目 次

がんの冊子 脳腫瘍

腫瘍の診療の流れ

1. 腫瘍と言われたあなたの心に起こること ���������������������1

2. 基礎知識 �������������������������������������������������������������3

3. 検査 �������������������������������������������������������������������9

4. 治療 ������������������������������������������������������������������11

1 悪性度(グレード)と治療の選択 ����������������������11

2 手術(外科治療) ��������������������������������������������14

3 放射線治療 ���������������������������������������������������16

4 薬物療法 ������������������������������������������������������17

5 主な脳腫瘍の特徴と治療方法 ����������������������������18

6 転移�再発 ���������������������������������������������������24

5. 療養 ������������������������������������������������������������������25

診断や治療の方針に納得できましたか? ������������������������26

セカンドオピニオンとは? �����������������������������������������26

メモ/受診の前後のチェックリスト ������������������������������27

Page 4: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

1

腫瘍という診断は誰にとってもよい知らせではありません。ひどくショックを受けて、「何かの間違いではないか」「何で自分が」などと考えるのは自然な感情です。しばらくは、不安や落ち込みの強い状態が続くかもしれません。眠れなかったり、食欲がなかったり、集中力が低下する人もいます。そんなときには、無理にがんばったり、平静を装ったりする必要はありません。

時間がたつにつれて、「つらいけれども何とか治療を受けていこう」「腫瘍になったのは仕方ない、これからするべきことを考えてみよう」など、見通しを立てて前向きな気持ちになっていきます。そのような気持ちになれたらまずは次の2つを心がけてみてはいかがでしょうか。

あなたに心がけてほしいこと

■ 情報を集めましょう  まず、自分の病気についてよく知ることです。病気によってはまだわかっていないこともありますが、担当医は最大の情報源です。担当医と話すときには、あなたが信頼する人にも同席してもらうといいでしょう。わからないことは遠慮なく質問してください。 病気のことだけでなく、お金、食事といった生活や療養に関することは、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士などが専門的な経験や視点であなたの支えになってくれます。

1 .腫瘍と言われた あなたの心に起こること

Page 5: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

2がんの冊子 脳腫瘍

また、インターネットなどで集めた情報が正しいかどうかを、担当医に確認することも大切です。他の病院でセカンドオピニオンを受けることも可能です。「知識は力なり」。正しい知識は考えをまとめるときに役に

立ちます。※参考 P26「セカンドオピニオンとは?」

■ 病気に対する心構えを決めましょう 腫瘍に対する心構えは、積極的に治療に向き合う人、治るとい

う固い信念をもって臨む人、なるようにしかならないと受け止める人など人によりいろいろです。どれがよいということはなく、その人なりの心構えでよいのです。そのためにも、自分の病気のことを正しく把握することが大切です。病状や治療方針、今後の見通しなどについて担当医から十分に説明を受け、納得した上で、あなたなりの向き合い方を探していきましょう。

あなたを支える担当医や家族に自分の気持ちを伝え、率直に話し合うことが、信頼関係を強いものにし、しっかりと支え合うことにつながります。

情報をどう集めたらいいか、病気に対してどう心構えを決めたらいいのかわからない、そんなときには、巻末にある「がん相談支援センター」を利用するのも1つの方法です。困ったときにはぜひご活用ください。

1腫瘍と言われたあなたの心に起こること

Page 6: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

3

脳は、頭ず

蓋がい

骨こつ

という脳を保護する骨に囲まれています(図1)。 頭蓋骨の中では、髄膜に包まれた脊

せきずい

髄液(髄液)という液体の中に脳が浮かんでいます。

脳は大まかに大脳や小脳、脳のうかん

幹、脊髄という部位に分けることができます。これらを脳実質と呼び、各部位にさまざまな機能があります。

また、そのほかに、脳実質外の組織(脳をおおっている髄膜や脳神経など)があります。

2. 基礎知識

脳について1

図1.頭蓋骨内の構造

頭蓋骨

髄膜

小脳

脊せきずい

大脳

脳幹

Page 7: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

4がんの冊子 脳腫瘍

2基礎知識

脳や脊髄には、神経細胞(ニューロン)と神しんけいこうさいぼう

経膠細胞(グリア細胞)があります。神経細胞からは神経線維が延びて束になって走行し、筋肉や感覚器とつながり、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たしています。神経膠細胞の役割は、主に、神経細胞や神経線維を固定・保護し、栄養の供給や神経伝達物質を伝達することです。

大脳は、前ぜんとうよう

頭葉、側そくとうよう

頭葉、頭とうちょうよう

頂葉、後こうとうよう

頭葉などに分けられ、それぞれが異なった機能を担っています(図2)。

脳腫瘍ができると、腫瘍によってその部位の機能が障害され、局所症状として出現します。そのため、脳のどの部位がどのような機能を担っているのかを理解することが大切です。

図2.脳の表面図と断面図

脳幹

前頭葉

<脳の表面図> <脳の断面図>

のうりょう

後頭葉

頭頂葉

側頭葉 小脳

視交叉 脳梁

大脳

下垂体

中心溝

し しょう か ぶ

視床下部

Page 8: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

5

脳腫瘍とは、頭蓋骨の中にできる腫瘍の総称で、各部位からさまざまな種類の腫瘍が発生します。脳腫瘍は原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍の2つに分けられます。

原発性脳腫瘍は、脳の細胞や脳を包む膜、脳神経などから発生した腫瘍です。組織学的検査や腫瘍組織の遺伝子検査によって150種類以上に分類され、脳腫瘍の性質や患者さん個々の状態に合わせて治療が行われます。

また、原発性脳腫瘍は、良性と悪性に分けられます。増殖速度が遅く、正常組織との境界が明瞭な腫瘍は比較的良性で、主に脳実質外の組織に生じます。一方、増殖速度が速く、周辺の組織にしみ込んでいく(浸

しん

潤じゅん

)ように広がり、正常組織との境界がはっきりしない腫瘍は悪性で、主に脳実質に生じます(表1)。

※参考 P12「表3.主な原発性脳腫瘍の種類」    P18「5.主な脳腫瘍の特徴と治療方法」

転移性脳腫瘍は、他の臓器で生じたがん(肺がんや乳がん、大腸がんなど)が、血液の流れによって脳に転移したものです。

※P.23「5.主な脳腫瘍の特徴と治療方法 7)転移性脳腫瘍」

脳腫瘍とは2

1)原発性脳腫瘍

良性腫瘍 悪性腫瘍腫瘍の増殖速度 遅い 速い腫瘍組織と正常組織の境界 明瞭 はっきりしない主な発生部位 脳実質外の組織 脳実質

表1.良性腫瘍と悪性腫瘍

2)転移性脳腫瘍

Page 9: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

6がんの冊子 脳腫瘍

脳腫瘍が脳に発生し、大きくなると、腫瘍の周りには脳のう

浮ふ

腫しゅ

という脳のむくみが生じます。手や足を強くぶつけると、手足が腫れることと同じです。脳の機能は、腫瘍や脳浮腫によって影響を受けます。

脳腫瘍や脳浮腫による症状は、腫瘍によって頭蓋骨内部の圧力が高まるために起こる「頭

ずがいないあつこうしんしょうじょう

蓋内圧亢進症状」と、腫瘍が発生した場所の脳が障害されて起こる「局所症状(巣

そうしょうじょう

症状)」に分けられます。

脳は周囲が頭蓋骨に囲まれた閉鎖空間であるため、その中に腫瘍ができると逃げ場がなく、その結果、頭蓋の中の圧力が高くなります。これによってあらわれる頭痛、吐き気、意識障害などの症状を、頭蓋内圧亢進症状といいます。人間の頭蓋内圧はいつも一定ではなく、睡眠中にやや高くなることから、朝起きたときに頭痛が強くなり、吐き気を伴うことがあります。

腫瘍が大きくなると、髄液の流れが悪くなり、脳室(脳の中の空洞)が拡大する水頭症を起こすことがあり、緊急に治療が必要になります。

運動や感覚、思考や言語などのさまざまな機能は、脳の中でそれぞれ担当する部位が決まっています。脳の中に腫瘍ができると、腫瘍や脳浮腫によってその部位の機能が障害され、局所症状が出現します。

表2に、腫瘍が存在する場所に応じた局所症状の例を示します。

症状3

1)頭蓋内圧亢進症状:多くに共通して起こる症状

2)局所症状(巣症状):脳の各部位が担う機能と関連する症状

2基礎知識

Page 10: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

7

腫瘍が存在する場所 局所症状の一例

前頭葉

腫瘍とは反対側の運動(片)麻痺、言葉を理解できるがうまく話せなくなる(運動性失語:言葉を発する機能を担う部分が障害された場合)、性格変化、自発性低下、年月日や場所がわからなくなる(認知機能の低下)、集中力低下、記憶力低下、てんかん発作

側頭葉

言葉を聞いて理解することが難しくなる。その一方で、発話は流暢にできるが言葉の言い誤りが多いこともある(感覚性失語:優位半球 *が障害された場合)、腫瘍とは反対側の視野障害(半盲)、実際にはない臭いを感じる(幻臭)、てんかん発作*優位半球:人の脳は、大きく左右に別れます。そのうち、話す、理解するなどの言語中枢がある方を優位半球といいます。(多くの人は、左半球が優位です)。

頭頂葉

腫瘍とは反対側の感覚障害、読み書きができなくなる、計算ができなくなる(失算)、左右を判断できなくなる、指の名前(例:親指、人差し指、中指など)を言えなくなる、左右片方の刺激を認識できなくなる(半側空間失認)

後頭葉 腫瘍とは反対側の視野が欠ける(同名半盲)

視し

交こう

叉さ

・視し

床しょう

下か

部ぶ 視力・視野障害、

尿の濃度がうまく調節されなくなる(尿崩症)、肥満、体温調節の異常、意識障害

視し

床しょう

意識の障害、運動(片)麻痺、手足のしびれや感覚の異常

脳幹

運動(顔・四肢)麻痺や感覚障害、物が二重に見える(複視)、顔面神経麻痺、顔面や手足の感覚障害、食べた物が飲みこみにくくなる(嚥

えん

下げ

障害)、聴力障害

小脳 細かな動きができない協調運動障害(失調症)、ふらつきやめまい、歩行障害

脳神経

目の動きが悪くなり物が二重に見える(動どう

眼がん

神しん

経けい

や外がい

転てん

神しん

経けい

が障害された場合)、顔のしびれや感覚低下(三

さん

叉さ

神経が障害された場合)、聴力低下・耳鳴り・めまい(聴神経に腫瘍ができた場合)※ �12対ある脳神経の近くから発生する神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)という腫瘍では、障害された部位に応じて、症状が出ます。

表2.局所症状の例

Page 11: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

8がんの冊子 脳腫瘍

2基礎知識

脳腫瘍と新たに診断される人数は、米国の統計によると、1年間に10万人あたり20人程度です。原発性脳腫瘍の中では、髄ずいまくしゅ

膜腫と神しんけいこうしゅ

経膠腫(グリオーマ)が最も多く、次いで、下垂体腺腫、神

しん

経けい

鞘しょう

腫しゅ

、中枢神経系悪性リンパ腫が多くなっています。

脳腫瘍と診断されたときには、なぜ脳腫瘍になったのかと思いつめてしまう方もいます。しかし、脳腫瘍の発生要因はほとんど明らかになっていません。環境やストレスなど特定のことが原因で脳腫瘍になるわけではありません。

なお、まれですが、白血病や脳腫瘍などに対して過去に行った放射線治療の影響で、髄膜腫や神経膠腫といった脳腫瘍を発生することがあります。

統計4

発生要因5

Page 12: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

9

3. 検査

脳腫瘍が疑われる場合、症状の詳しい経過を問診した上で、腫瘍の位置や大きさを確かめるために、CTやMRIなどで頭の中の画像検査を行います。また、脳に栄養を供給している血管と腫瘍との関係をみるために、脳血管造影検査を行うこともあります。最終的には生検もしくは手術を行って病理組織検査を行い、詳細な診断を確定します。

検査の種類2

CTはX線を、MRIは磁気を使った検査です。頭蓋骨の内部を描き出し、腫瘍の存在を調べます。多くの施設では、CTはMRIに比べて迅速に検査することができます。CTやMRI検査では、病気をより明瞭に描き出すために必要に応じて、それぞれの造影剤を使った検査を行います。造影剤検査を行うと、腫瘍の広がりや悪性度なども術前に推定することができます。

また、通常のCTやMRIに加え、必要に応じて、特殊なMRI検査を行うことがあります。例えば、脳の血液の変化をみるfMRI

(functional MRI)を用いて、脳の運動野(手足の動きの中枢)や言語野(言葉の中枢)の位置を調べることがあります。

脳腫瘍の検査1

1)CT、MRI検査

Page 13: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

10がんの冊子 脳腫瘍

3検査

造影剤を用いてX線で脳の血液の流れを撮影する検査です。大だい

腿たい

部ぶ

の動脈に挿入したカテーテル(細い管)から造影剤を注入して、血管の走行と腫瘍との関係を調べます。脳血管造影検査によって、時に脳梗塞が起こることがあります。

なお、最近では脳血管造影のかわりに、比較的体への負担が少ない以下のような検査が行われることも多くなっています。脳血管造影検査時に、麻酔薬を使用して左右大脳半球の優位半球を同定する検査が行われることもあります。

・ 3D-CTアンギオ検査:ヘリカルCTを用いて、脳血管の構造を詳しく調べます。

・MRA検査:MRI装置を用いて脳の血管を詳しく調べます。

これらの診察や検査によって、腫瘍の発生部位や広がりなどを推測することが可能です。しかし、診断を確定するためには、手術により腫瘍組織を採取し、その細胞を顕微鏡で観察して病理医が診断する病理検査(病理診断)が必要です。

2)脳血管造影検査

Page 14: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

11

治療方法は、脳腫瘍の性質や体の状態などから検討します。脳腫瘍の進行の程度は、悪性度(グレード)として分類します。

 脳腫瘍では、他のがんのようにTNM分類やステージ分類はありませんが、手術によって摘出した腫瘍組織から、病理学的分類や遺伝子診断に基づき、悪性度(グレード)が診断されます。グレードというのは、治療をしない場合の、腫瘍の増大・進行、予後の目安です。 グレードの診断は、世界保健機関(WHO)2016年分類に基づいて行われます。 これまで、脳腫瘍の分類は、主に顕微鏡で観察した組織学的検査に基づいていましたが、この分類では、腫瘍組織の遺伝学的検査がほぼ必須となっています。 原発性脳腫瘍のうち、患者さんの数が多い上位25種について、グレードおよび年齢の中央値(すべての対象者を年齢順に並べたとき、ちょうど真ん中にきた人の年齢)を表3に示します。

 グレード1は良性腫瘍で、手術で取り除くことができると、再発の危険は少なくなります。グレード2 ~ 4は悪性腫瘍で、グレードが上がるにつれて、腫瘍の増殖速度が速くなり、悪性度が増します。

4.治療

悪性度(グレード)と治療の選択1

1)悪性度(グレード)

Page 15: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

12がんの冊子 脳腫瘍

4治療

The Committee of Brain Tumor Resistry of Japan. : Neurologia medico-chirurgica 2017; Suppl: 57より作成

組織名 グレード 脳腫瘍全体における占める割合(%)

年齢(中央値)

毛もう よう さい ぼう せい せい さい ぼう しゅ

様細胞性星細胞腫 1 1.3 15.0

主な神し

経けい

膠こう

腫しゅ

(グリオーマ)

びまん性星細胞腫 2 2.4 38.0

乏ぼう

突とっ

起き

膠こう

腫しゅ

2 2.4 41.0

退たい

形けい

成せい

性せい

星せい

細さい

胞ぼう

腫しゅ

3 3.3 49.0

退たい

形けい

成せい

性せい

乏ぼう

突とっ

起き

膠こう

腫しゅ

3 2.5 53.0

膠こう

芽が

腫しゅ

4 12.3 62.0

上じょう

衣い

腫しゅ

2 0.5 37.0

退たい

形けい

成せい

性せい

上じょう

衣い

腫しゅ

3 0.5 10.0

神しん

経けい

節せつ

膠こう

腫しゅ

1 0.3 28.0

中枢性神経細胞腫 2 0.4 31.0

髄ずい

芽が

腫しゅ

4 1.0 8.0

胚細胞腫瘍(胚腫) 4 1.4 17.0

中枢神経系悪性リンパ腫 4 4.9 66.0

髄ずい

膜まく

腫しゅ

グレード 1 1 22.0 60.0

グレード 2 2 1.5 63.0

グレード 3 3 0.4 58.5

神しん

経けい

鞘しょう

腫しゅ

1 8.6 55.0

下垂体腺腫

成長ホルモン産生腺腫 1 3.4 53.0

プロラクチン産生腺腫 1 2.3 31.0

副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫 1 1.0 48.0

非機能性下垂体腺腫(ホルモン非分泌性腺腫) 1 10.1 58.0

頭ず

蓋がい

咽いん

頭とう

腫しゅ

1 2.3 42.0

脊せき

索さく

腫しゅ

2 0.5 52.0

血けっ

管かん

芽が

腫しゅ

1 1.5 49.5

類るい

上じょう

皮ひ

腫しゅ

1 0.9 51.0

表3.主な原発性脳腫瘍の種類

Page 16: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

13

 治療法は、標準治療に基づいて、体の状態や年齢、患者さんの希望なども含めて検討し、担当医とともに決めていきます。

 良性腫瘍は、正常組織との境界がはっきりしているため手術で切除できるものが多く、完全に切除すれば治癒が期待できます。脳の奥深くに腫瘍があるなど切除が困難な場合には、手術で腫瘍の一部を切除してから、放射線治療を行うことがあります。腫瘍の増殖速度が遅い場合は、すぐに治療せず、しばらく経過を観察することもあります。

 悪性腫瘍では、腫瘍の種類や悪性度に応じて、手術や放射線、薬物療法を組み合わせた治療を行います。

 図3は、脳腫瘍に対する治療方法を示したものです。担当医と治療方針について話し合うときの参考にしてください。

2)治療の選択

Page 17: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

14がんの冊子 脳腫瘍

4治療

図3.脳腫瘍の治療の流れ

腫瘍の大きさ、場所、症状(の程度)、年齢、並存疾患、予想される腫瘍の種類や悪性度などから治療の必要性を判断

手術

悪性腫瘍良性腫瘍

経過観察 放射線治療

残存腫瘍なし 残存腫瘍あり

すぐには治療の必要がない 治療の必要がある

治療方法の選択

治 療

放射線治療および/または薬物療法

 手術によって病変をすべて摘出できれば、それが最も有効な治療法です。特にグレード1の良性脳腫瘍は、手術で完全に摘出できればほとんどの場合再発することはありません。 また、悪性脳腫瘍であっても、手術による生検で中枢神経系悪性リンパ腫や胚細胞腫と診断がつけば、その後の薬物療法や放射線治療の効果が高いと考えられるので、無理に摘出する必要がない場合もあります。 しかし、多くの悪性脳腫瘍の手術の原則は、症状を悪化させないように可能な限り腫瘍を摘出することです。

手術(外科治療)2

Page 18: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

15

 右前頭葉のようにあまり重要な働きをしていないところに腫瘍ができた場合には、腫瘍を肉眼的に全摘出することが可能です。一方で、運動野(手足の動きの中枢)や言語野(言葉の中枢)に腫瘍が発生した場合には、腫瘍摘出により症状が悪化することがあるので、無理な完全除去は行いません。腫瘍の完全摘出よりも部分摘出による病理診断を行い、放射線や薬物療法での治療が主になります。

● 手術の合併症 手術では、脳の機能を温存しながらできるかぎり腫瘍を摘出しま

す。

 画像診断の進歩により、腫瘍の部位や広がりを正確に把握すること

が可能になり、一般に、手術前に比べ手術後の神経症状が悪化するこ

とは少ないですが、手術によって起こる合併症は、腫瘍の部位、大きさ

によってさまざまです。

 手術後に一時的に生じる脳の浮腫により症状が悪化することや、て

んかんを起こすこともあります。手術前に主治医にどのようなリス

クがあるのか、よく聞いておくことがとても重要です。

 また、手術中や手術後に出血などが起こると、麻痺や意識障害など

の重篤な障害をきたすことがあります。そのため、手術後に強度の頭

痛や吐き気がみられたり、意識障害や運動麻痺などが出現した場合に

は、早急にCT検査を行い、必要に応じて再手術を行います。

Page 19: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

16がんの冊子 脳腫瘍

4治療

 高エネルギーのX線やそのほかの放射線を照射して、腫瘍を障害する方法です。脳腫瘍の治療において、放射線治療は重要な治療法の1つであり、単独あるいは手術や薬物療法と組み合わせて行われます。 治療の際には、放射線をできるだけ腫瘍部分だけに照射し正常組織には照射しない、もしくは照射量が少なくなるようにします。

 悪性腫瘍は正常組織との境界がはっきりしないので、腫瘍のみに放射線をあてることが難しくなります。そのため、悪性腫瘍では1週間に数回、数週間にわたって、腫瘍を中心に一部の正常な脳も含めて放射線をあて、腫瘍を破壊します。

 良性腫瘍は、正常組織との境界がはっきりしているため、正常な脳組織に放射線をあてず、腫瘍だけにピンポイントに、1回か数回に分けて放射線を照射することが可能な場合があります。これは定位放射線治療と呼ばれ、ミリ単位の正確さで治療が可能で、ガンマナイフ(γ

ガンマ

線)、サイバーナイフ(X線)という特殊な装置を使います。良性腫瘍に対する放射線治療の目的は腫瘍を増大させないことなので、必ずしも腫瘍が小さくなるわけではありません。

放射線治療3

1)悪性腫瘍に対する放射線治療

2)良性腫瘍に対する放射線治療

Page 20: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

17

 悪性脳腫瘍に対しては、腫瘍の種類や個別の状況を踏まえながら、細胞障害性抗がん剤や分子標的薬などが用いられることがあります。良性腫瘍に対しては原則的には薬物療法を行いませんが、一部の下垂体腫瘍では薬物療法だけで腫瘍が小さくなるものもあります。

 なお、薬物療法によって副作用が生じることがあるため、体の状態やがんの状態を考慮した上で、適切な治療が選択されます。担当医から、治療の具体的な内容をよく聞き、不安な点やわからない点を十分に話し合った上で、納得できる治療を選びましょう。

4 薬物療法

● 放射線治療の副作用放射線治療後すぐにあらわれる副作用としては、放射線が照射さ

れた部位に起こる皮膚炎、脱毛、中耳炎、外耳炎などや、照射部位と

は関係なく起こるだるさ、吐き気、嘔おう

吐と

、食欲低下などがあります。

これらの症状は照射後約1カ月以内で消失します。また、脳そのも

のの機能に影響が及ぶこともあります。中には、放射線治療が終

了して数カ月から数年たってから起こる症状(晩期合併症)もあ

ります。患者さんによって副作用の程度は異なります。

● 脳浮腫に対する治療悪性脳腫瘍の患者さんでみられる強い脳浮腫に対しては、ステロ

イド治療が行われます。脳浮腫が強くなって頭痛や手足の麻痺な

どさまざまな症状があらわれても、ステロイド治療を行うと脳浮

Page 21: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

18がんの冊子 脳腫瘍

4治療

 ここでは、原発性脳腫瘍のうちで、脳腫瘍全体における占める割合が多いものと、転移性脳腫瘍について特徴と治療方法の概要を示します。

(1)特徴 脳実質を形成する神経細胞(ニューロン)と神経膠細胞(グリア細胞)のうち、神経膠細胞が腫瘍化したものです。原発性脳腫瘍のうち、髄膜腫(後述)に次いで多くみられます。 神経膠腫は細胞の種類により、星

せいさいぼうしゅ

細胞腫、乏ぼう

突とっ

起き

膠こう

腫しゅ

に大きく分けられます。最も多くみられるのは星細胞腫で、悪性度からグレード2 ~ 4に分けられます。 グレード4の星細胞腫は膠

こう

芽が

腫しゅ

(グリオブラストーマ)と呼ばれます。

(2)治療方法 神経膠腫は浸潤性に増殖し、髄液の流れに乗って脳の別の部位に転移することがあります(播

種しゅ

)。また、正常組織との境界がはっきりしないため、腫瘍のすべてを手術で切除することが難しいのが特徴です。手術では、できるだけ多くの腫瘍を切除することを目指し、残った腫瘍に対しては、放射線治療や薬物療法を

5 主な脳腫瘍の特徴と治療方法

1)神しん

経けい

膠こう

腫しゅ

(グリオーマ)

腫が改善し症状が劇的によくなることがあります。しかしステロ

イドの効果は一時的なものです。腫瘍が進行した場合には、ステ

ロイドが増量されますが、胃い

潰かい

瘍よう

や糖尿病、感染(肺炎などを起こ

しやすくなる)、骨折などの副作用に注意が必要となります。

Page 22: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

19

行います。  また、膠芽腫の治療も、一般に、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて行います。

(1)特徴 脳には明らかなリンパ組織がありませんが、脳から発生した悪性リンパ腫を中枢神経系悪性リンパ腫といいます。脳に悪性リンパ腫が見つかったときに、全身を調べて脳以外に病変がないという診断になって、はじめて中枢神経系原発悪性リンパ腫と診断されます。

 なお、中枢神経系原発悪性リンパ腫では、眼球内リンパ腫を合併する可能性があるため、眼科や全身的な精密検査が行われます。また中枢神経系原発悪性リンパ腫と診断されていても、数年たってから全身にリンパ腫がみられることがまれにあります。

(2)治療方法 中枢神経系原発悪性リンパ腫は化学放射線療法(薬物療法と併用して放射線治療を行う方法)でいったんは腫瘍が消失することが多いので、手術による生検で診断がつけば、全摘出を目的とした手術は行いません。薬物療法を行ったあとで、放射線を脳全体にあてる治療(全脳照射)を組み合わせて行います。

2)中枢神経系原発悪性リンパ腫

Page 23: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

20がんの冊子 脳腫瘍

4治療

(1)特徴 髄膜は頭

蓋がい

骨こつ

の内側にある脳を包んでいる3層構造の膜です(外側から、硬

こうまく

膜、クモ膜、軟なんまく

膜といいます)。髄膜から生じる腫瘍を髄膜腫といい、原発性脳腫瘍の中では、最も多い腫瘍です。 大部分の髄膜腫は良性ですが、まれにグレード2・3の悪性腫瘍もあります。

(2)治療方法 手術で腫瘍を摘出することが基本ですが、再発を繰り返す場合や、手術により合併症を来す可能性が高い場合には、定位放射線治療が行われることがあります。高齢者や、無症状で腫瘍が小さい場合は、経過をみることもあります。

(1)特徴 下垂体腺腫は、脳の中心部にある下垂体の一部が腫瘍化したものです。下垂体は、ホルモンの分泌に重要な役割を果たしています。下垂体腺腫は、以下の2つに分けられます。◦ ホルモン産生腺腫  ホルモンを過剰に分泌する腫瘍(プロラクチン産生腺腫、成長

ホルモン産生腺腫、副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫[クッシング病]など)

◦ 非機能性下垂体腺腫(ホルモン非分泌性腺腫) ホルモンを分泌しない腫瘍

3)髄ずい

膜まく

腫しゅ

4)下垂体腺腫

Page 24: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

21

(2)治療方法 ホルモンの過剰分泌による症状がなく、視力・視野障害などの症状がない場合には、MRI検査を行い経過観察します。 症状がある場合には手術を行います。下垂体は鼻の奥にあるので、鼻腔から神経内視鏡などを用いて腫瘍を摘出します。 手術で腫瘍を完全に切除できなかった場合などでは、腫瘍を縮小させたり腫瘍の増大を阻止する目的で、定位放射線治療を行うこともあります。

 手術で腫瘍を切除するとホルモンの産生が障害されることがあるため、治療後、必要に応じて、ホルモン補充治療を行います。

 プロラクチン産生腺腫は、手術せず内服薬での治療が可能です。成長ホルモン産生腺腫に対しては、ホルモン類似薬による治療も有効なことがあります。

 ホルモンとは、生体内の特定の器官の働きを調節するための情報伝達を担う物質で、ごく微量で作用します。ホルモンの中枢である下垂体は、視床下部から指令を受けると、全身の各臓器に働きかけ、ホルモンの分泌を促します。

Page 25: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

22がんの冊子 脳腫瘍

4治療

(1)特徴 脳から出る神経は、それぞれ頭蓋骨を通り抜けて、目や耳、舌など頭部の各部分につながっています。神経鞘腫は、これらの神経を取り巻いて支えている鞘

さや

のような組織(神しん

経けい

鞘しょう

)から生じた腫瘍です。 発生部位は、聴神経である前庭神経が最も多く(聴

ちょう

神しん

経けい

鞘しょう

腫しゅ

)、次いで三

さん

叉さ

神経などに生じます。

(2)治療方法 腫瘍が大きい場合は、手術で摘出します。手術により顔面神経麻痺などが生じる可能性があるので、手術は脳波や顔面神経モニタリングなどが必要です。腫瘍の大きさや患者さんの状態によっては、腫瘍の増大を阻止する目的で定位放射線治療を行います。 症状がなく腫瘍が小さい場合には、定期的にMRIを撮影して経過観察することもあります。

(1)特徴 下垂体と視神経の近くに生じる腫瘍です。小児に多くみられますが、大人にも発症します。

(2)治療方法 手術が基本です。下垂体腫瘍と同じように、鼻腔からの神経内視鏡により治療することが増えてきました。再発を繰り返す腫瘍では定位放射線治療を行います。手術で腫瘍を切除することによって、下垂体ホルモンが低下した場合は、ホルモン補助療法が必要になります。

5)神しん

経けい

鞘しょう

腫しゅ

6)頭ず

蓋がい

咽いん

頭とう

腫しゅ

Page 26: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

23

(1)特徴 転移性脳腫瘍は、他の臓器で生じたがんが、血液の流れによって脳に運ばれ、そこで増えることによって発生したものです。転移のもととなるがん種として、肺がんが約半数と多く、次いで、乳がん、大腸がんなどが多いとされます。

(2)治療方法 転移した脳腫瘍の数と大きさ、分布、原

げんぱつそう

発巣(最初にがんが発生した部位)のがんや全身の状態によって、手術、放射線治療、薬物療法を、単独もしくは組み合わせながら治療を行います。 特に、放射線治療は重要な役割を果たしています。転移した腫瘍が小さく、個数が少ない場合には、腫瘍だけにピンポイントに放射線をあてる定位放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフ)が行われます。患者さんの状況によっては脳全体に放射線をあてる全脳照射が有効なこともあるため、個々の状況を踏まえた検討がされます。 一般に、腫瘍の大きさが3cm以上の場合には、定位放射線治療の効果が得られにくく、症状を伴うことが多いため、手術が行われます。 また、分子標的薬の効果が見込まれる腫瘍であれば薬物療法を検討することもあります。

 転移性脳腫瘍の治療は、原発巣のがんの担当医を中心に、放射線科や脳神経外科など複数の科の医師が、連携をとりながら進めていきます。不安や疑問点があった際には、まず原発巣のがんの担当医にしっかりと相談をすることが大切です。

7)転移性脳腫瘍

Page 27: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

24がんの冊子 脳腫瘍

5

 転移とは、腫瘍細胞がリンパ液や血液の流れなどに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。また、再発とは、治療の効果により目に見える大きさの腫瘍がなくなったあと、再び腫瘍が出現することや、残っていた腫瘍が再増大することをいいます。

 良性腫瘍が転移することはありませんが、悪性脳腫瘍でも肺や肝臓などに転移することはほとんどありません。ただし、脳と脊せき

髄ずい

はつながっているので、頭蓋内に発生した腫瘍が髄液を伝わって脳の別の部分や脊髄に転移すること(播

種しゅ

)があります。悪性脳腫瘍の治療中に、強い背中や腰の痛み、足のしびれや運動麻痺などがあった場合には、脊髄への転移を疑って脊髄MRI検査を行います。

 腫瘍がどのように再発するかは腫瘍の種類によって異なりますが、多くの場合、もともと腫瘍があった場所に近い場所で再発

(局所再発)が起こります。 再発といってもそれぞれの患者さんで状態は異なります。 病気の広がりや、再発した時期、これまでの治療法などによって総合的に治療法を判断する必要があります。再手術を行ったり、悪性脳腫瘍では薬物療法を再開したり、薬を変えたりすることがあります。それぞれの患者さんの状況に応じて、治療やその後のケアを決めていきます。

6 転移�再発

4治療

Page 28: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

25

5 療養

治療を行った後の体調や再発の有無を確認するために、定期的に通院します。再発の危険性が高いほど頻繁、かつ長期的に通院することになります。脳腫瘍では、定期的にCTやMRIによる頭部の画像診断を行います。

脳腫瘍にはさまざまな種類があり、治療もさまざまで、症状や状態も一人一人異なります。悪性脳腫瘍であっても、治療をしながらこれまで通りに仕事をしている人も多数います。

長期の入院や定期的な通院、自宅療養が必要となる場合には、できれば周りの人に病気のことを伝え、理解と協力を得ておきましょう。

5. 療養

1 経過観察

Page 29: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

26がんの冊子 脳腫瘍

治療方法は、すべて担当医に任せたいという患者さんがいます。一方、自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという患者さんも増えています。どちらが正しいというわけではなく、患者さん自身が満足できる方法が一番です。 まずは、病状を詳しく把握しましょう。わからないことは、担当医に何でも質問してみましょう。治療法は、病状によって異なります。医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、自分に合った治療法であることを確認してください。 診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。

担当医以外の医師の意見を聞くこともできます。これを「セカンドオピニオンを聞く」といいます。ここでは、①診断の確認、②治療方針の確認、③その他の治療方法の確認とその根拠を聞くことができます。聞いてみたいと思ったら、「セカンドオピニオンを聞きたいので、紹介状やデータをお願いします」と担当医に伝えましょう。

担当医との関係が悪くならないかと心配になるかもしれませんが、多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的なことと理解しています。納得した治療法を選ぶために、気兼ねなく相談してみましょう。

診断や治療の方針に納得できましたか?

セカンドオピニオンとは?

診断や治療の方針に納得できましたか?/セカンドオピニオンとは?

Page 30: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

27

メモ/受診の前後のチェックリスト

参考文献:・ Ostrom QT, Gittleman H, Liao P et al. CBTRUS Statistical Report: Primary brain and other central

nervous system tumors diagnosed in the United States in 2010–2014. Neuro-Oncology. 2017; 19 (s5)・ The Committee of Brain Tumor Resistry of Japan. Report of brain tumor registry of Japan (2005-2008)

14th edition. Neurologia medico-chirurgica 2017; Suppl: 57・ 日本脳腫瘍学会編.日本脳神経外科学会監.脳腫瘍診療ガイドライン1 2016年版 成人膠芽腫・成人転移性脳腫瘍・

中枢神経系原発悪性リンパ腫,2016年,金原出版・ 日本脳神経外科学会・日本病理学会編.臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約 第4版,2018年,金原出版・ International Agency for Research on Cancer. WHO Classification of Tumors of the Central Nervous

System (WHO Health Organization Classification of Tumors), 2016, World Health Organization

メモ   (    年   月   日)

● 病名     [                    ]

● 部位     [                    ]

● 大きさ    [         ] cm 位

受診の前後のチェックリスト□ 後で読み返せるように、医師に説明の内容を紙に書いてもらったり、自分でメモをとったりするようにしましょう。

□ 説明はよくわかりますか。わからないときは正直にわからないと伝えましょう。

□ 自分に当てはまる治療の選択肢と、それぞれのよい点、悪い点について、聞いてみましょう。

□ 勧められた治療法が、どのようによいのか理解できましたか。□ 自分はどう思うのか、どうしたいのかを伝えましょう。□ 治療についての具体的な予定を聞いておきましょう。□ 症状によって、相談や受診を急がなければならない場合があるかどうか確認しておきましょう。

□ いつでも連絡や相談ができる電話番号を聞いて、わかるようにしておきましょう。

□ 説明を受けるときには家族や友人が一緒の方が、理解できて安心だと思うようであれば、早めに頼んでおきましょう。

□ 診断や治療などについて、担当医以外の医師に意見を聞いてみたい場合は、セカンドオピニオンを聞きたいと担当医に伝えましょう。

Page 31: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

がんの冊子 各種がんシリーズ 脳腫瘍編集・発行 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター  〒 104-0045 東京都中央区築地 5-1-1印刷・製本 図書印刷株式会社

2010 年 3 月第 1版第 1刷 発行2018 年10月第 3版第 1刷 発行

●がんの冊子各種がんシリーズ、小児がんシリーズ、がんを知るシリーズがんと療養シリーズ がんと心/がんの療養と緩和ケア/もしも、がんと言われたら/他社会とがんシリーズ 家族ががんになったとき/身近な人ががんになったとき/他がんと仕事のQ&A

●がんの書籍(がんの書籍は書店などで購入できます)がんになったら手にとるガイド普及新版別冊 『わたしの療養手帳』

もしも、がんが再発したら

国立がん研究センターがん対策情報センター作成の本

上記の冊子や書籍は、全国のがん診療連携拠点病院などの「がん相談支援センター」で閲覧・入手することができます。

ウェブサイト「がん情報サービス」で、冊子ファイル(PDF)を閲覧したり、ダウンロードして印刷したりすることができます。

がん情報サービス https://ganjoho.jp

上記の冊子・書籍の閲覧方法や入手先がわからないときは、「がん情報サービス」または「がん情報サービスサポートセンター」でご確認ください。

閲覧・入手方法

閲覧・入手先を探す

● インターネットで

● 病 院 で

● インターネットで

● お 電 話 で0570-02-341003-6706-7797

受付時間:平日10時 ~15時 (土日祝日、年末年始を除く)

*相談は無料ですが、通話料金はご利用される方のご負担となります。

ナビダイヤル

協力者(五十音順) 阿部 竜也 (佐賀大学 脳神経外科) 成田 善孝 (国立がん研究センター中央病院 脳脊髄腫瘍科) 三島 一彦 (埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科) 国立がん研究センターがん対策情報センター 患者・市民パネル

Page 32: 各種がん 115各種がん 患者さんとご 家族の明日のために 115 脳 のう 腫 しゅ 瘍 よう 受診から診断、治療、経過観察への流れ腫瘍の診療の流れ

各種がん

脳腫瘍

115

国立がん研究センターがん対策情報センター

国立がん研究センターは、皆さまからのご寄付で全国の図書館に信頼できるがんの冊子をお届けするキャンペーンを行っています。ぜひご協力ください。

国立がん研究センターがん情報サービス

「がん情報サービス」https://ganjoho.jp

がん相談支援センターやがん診療連携拠点病院、がんに関するより詳しい情報はウェブサイトをご覧ください。

             について

 がん相談支援センターは、全国の国指定のがん診療連携拠点病院などに設置されている「がんの相談窓口」です。患者さんやご家族だけでなく、どなたでも無料で面談または電話によりご利用いただけます。 相談された内容がご本人の了解なしに、患者さんの担当医をはじめ、ほかの方に伝わることはありません。 わからないことや困ったことがあればお気軽にご相談ください。