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エバラ時報 No. 253(2017-4) ─  ─ 4 真空とは 「真空」と聞いて何をイメージするでしょうか。宇宙 空間のような「何もない空っぽの状態」をイメージする かもしれません。しかし,宇宙空間であっても気体分子 は存在します。日本工業規格(JIS) 1) では「通常の大気 圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態」を真空 と定義しています。そして,1 に示すようにどの程度 圧力が低い状態かを,圧力の範囲に応じて低真空から極 高真空という真空領域に分類しています。それぞれの真 空領域に適した利用用途があります。 また,真空の程度は圧力で表現され,単位は「パスカ ル(Pa)」で表されます。通常の大気圧は 1.013 × 10 5 Pa (= 1013 hPa)ですが,月まで行くと10 -12 Paの極高真空に なります。 真空の性質を利用した身近な技術・製品 真空をつくり出すことで,その空間は様々な性質をも ちます。代表的な性質として次のようなものがあります。 性質 1:真空と大気で圧力差を生じる 性質 2:酸素が少なくなるため物が酸化しにくい 性質 3:気体分子が少なく熱を伝えにくい 性質 4:圧力の低下とともに液体の沸点が下がる 性質 5:不純物となる気体分子が減少する これらの真空の性質を利用した身近な技術・製品を以 下に紹介します。 真空吸着・真空成形(性質 1吸着パッドを対象物に当ててパッド内部を真空にし, 大気との圧力差で対象物を吸着します(2)。また,型 に成形材料を吸着させて作る成形品でも型と成形材料と の間を真空にしています(3)。 ܕՃثɼ ද໘ੳஔɼ εϖʔενϟϯόͳͲ ߴߴதਅ தਅ ߴۃ ʵ12 ʵ10 ʵ9 ʵ5 ʵ4 ʵ1 ʵ1 2 2 3 3 4 4 5 5 ѹʢPaʣ ਅҬ ʢʣ ʢʣ 10 Km 10 Km 30 Km 30 Km 50 Km 50 Km 80 Km 80 Km 100 Km 100 Km 200 Km 300 Km ಋମஔɼ Ճثɼද໘ੳஔɼ ༥߹ݧஔɼ ਅৠணஔͳͲ ס૩ஔɼ ಋମஔɼ ཧԽثػͳͲ ס૩ஔɼ ಋମஔɼ ཧԽثػͳͲ ס૩ஔɼ ಋମஔɼ ٵணஔɼ ܗͳͲ ס૩ஔɼ ಋମஔɼ ٵணஔɼ ܗͳͲ υϥΠਅϙϯϓ Γग़ਅҬ υϥΠਅϙϯϓ 1 真空の領域と用途例 ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用- 縁の下の力持ち 今や私達の生活に欠かすことのできないスマートフォン・パソコンなどの電子機器をはじめ,民生・産業用製品製造に おける様々な分野で真空技術を利用した製品が世の中に多く存在します。その真空技術を利用するために「真空」をつ くり出す機器が真空ポンプです。真空の定義,性質及びそれを利用した身近な技術・製品について説明し,当社が製造・ 販売しているドライ真空ポンプを紹介します。

縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技 …ドライ真空ポンプ真空と真空技術の利用 エバラ時 o. 253(201-4) 6 などによって,現在では幅広い用途で気軽に利用できる

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エバラ時報 No. 253(2017-4)─  ─4

真空とは

「真空」と聞いて何をイメージするでしょうか。宇宙

空間のような「何もない空っぽの状態」をイメージする

かもしれません。しかし,宇宙空間であっても気体分子

は存在します。日本工業規格(JIS)1)では「通常の大気

圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態」を真空

と定義しています。そして,図1に示すようにどの程度

圧力が低い状態かを,圧力の範囲に応じて低真空から極

高真空という真空領域に分類しています。それぞれの真

空領域に適した利用用途があります。

また,真空の程度は圧力で表現され,単位は「パスカ

ル(Pa)」で表されます。通常の大気圧は1.013×105 Pa(=

1013 hPa)ですが,月まで行くと10-12 Paの極高真空に

なります。

真空の性質を利用した身近な技術・製品

真空をつくり出すことで,その空間は様々な性質をも

ちます。代表的な性質として次のようなものがあります。

性質1:真空と大気で圧力差を生じる

性質2:酸素が少なくなるため物が酸化しにくい

性質3:気体分子が少なく熱を伝えにくい

性質4:圧力の低下とともに液体の沸点が下がる

性質5:不純物となる気体分子が減少する

これらの真空の性質を利用した身近な技術・製品を以

下に紹介します。

真空吸着・真空成形(性質1)

吸着パッドを対象物に当ててパッド内部を真空にし,

大気との圧力差で対象物を吸着します(図2)。また,型

に成形材料を吸着させて作る成形品でも型と成形材料と

の間を真空にしています(図3)。

大型加速器,表面分析装置,スペースチャンバなど

超高真空

高真空

中真空中真空

低真空低真空

極高真空 10-12

10-10

10-9

10-5

10-4

10-110-1

102102

103103

104104105105

圧力(Pa)真空領域 用途例

0(地上)0(地上)10 Km10 Km

30 Km30 Km

50 Km50 Km

80 Km80 Km

100 Km100 Km

200 Km

300 Km

11

半導体製造装置,加速器,表面分析装置,核融合実験装置,真空蒸着装置など

真空乾燥装置,半導体製造装置,理化学機器装置など

真空乾燥装置,半導体製造装置,理化学機器装置など

真空乾燥装置,半導体製造装置,真空吸着装置,真空成形装置など

真空乾燥装置,半導体製造装置,真空吸着装置,真空成形装置など

ドライ真空ポンプがつくり出す真空領域

ドライ真空ポンプ

図1 真空の領域と用途例

ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用-縁の下の力持ち

今や私達の生活に欠かすことのできないスマートフォン・パソコンなどの電子機器をはじめ,民生・産業用製品製造における様々な分野で真空技術を利用した製品が世の中に多く存在します。その真空技術を利用するために「真空」をつくり出す機器が真空ポンプです。真空の定義,性質及びそれを利用した身近な技術・製品について説明し,当社が製造・販売しているドライ真空ポンプを紹介します。

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ドライ真空ポンプ-真空と真空技術の利用-

エバラ時報 No. 253(2017-4)─  ─5

真空包装(性質2)

生鮮食品をポリ袋で包装し,袋の内部を真空にして封

止します(図4)。これによって内部の酸素が少なくなり,

食品の酸化を防ぎます。

真空断熱(性質3)

真空にすることで気体分子を減少させ,気体分子の衝

突による熱の移動を防ぎ,保温します。真空断熱タンブ

ラや魔法瓶に利用されています。

真空乾燥(性質4)

真空下では液体の沸点が下がる性質を利用して,熱に

敏感なビタミン剤やワクチンなどの医薬品製造,野菜や

果物の乾燥などの食品工業で利用されています。

電子デバイス製造(性質5)

半導体・ディスプレイなどの電子デバイス製造工程で

は,不純物となる気体分子を除去し,真空下でシリコン

基板・ガラス基板などに薄膜形成(成膜)と加工を行い

ます。(詳細後述)

真空ポンプ

(1)真空ポンプ

ここまで真空の定義,性質及びそれを利用した身近な

技術・製品について紹介してきましたが,この真空をつ

くり出すための機器が「真空ポンプ」です。真空ポンプは,

ある空間の中の気体分子を除去する機能を有したポンプ

(圧力を下げる機能を有したポンプ)と言い換えること

もできます。

(2)真空ポンプの分類

真空ポンプは気体分子の排出方法によっていくつかに

分類されます。分類とその代表的な真空ポンプを表に示

します。

気体輸送式真空ポンプは,一定体積の気体が吸気口か

ら周期的に隔離されて排気口に運ばれる容積移送式真空

ポンプと,気体及び分子に運動量を与え吸気口から排気

口へ連続的に気体を輸送する運動量輸送式真空ポンプに

分類されます。気体ため込み式真空ポンプは内表面での

吸着又は凝縮などによって気体分子を捕捉し,ため込む

ことによって排気する真空ポンプです2)。

真空ポンプの種類によって,到達真空度や排気可能な

ガス,メンテナンス性や価格が異なるため,利用用途に

適した製品が使用されています。

ドライ真空ポンプ

ドライ真空ポンプは,排気するガス流路のシールに

油又は液体を使用しない容積移送式真空ポンプです。

このため,吸排気配管やポンプ設置エリアから油など

の液体を完全に排除できるため,以下に示す特長を有

しています。

(1)油又は液体が真空側に逆拡散せず,クリーンな真

空を得ることができる

(2)吐出し側に油又は液体が排気されないことから排

気側のメンテナンスが容易

(3)油又は液体の定期交換が不要

ドライ真空ポンプは同じ容積移送式の油回転真空ポン

プに比べ構造が複雑で,構成部品に高い寸法精度を要し

たことから発売当初は非常に高価な真空ポンプでした。

しかし,生産台数の増大に伴い,VEの進展や量産効果

図2 真空吸着

真空ポンプで吸引

図3 真空成形 図4 真空包装

表 真空ポンプの分類と種類

分類 代表例

気体輸送式真空ポンプ

容積移送式往復動式 ダイヤフラム型真空ポンプ

回転式 ドライ真空ポンプ油回転真空ポンプ

運動量輸送式機械式 ターボ分子ポンプ

流体作動式 拡散ポンプエジェクタポンプ

気体ため込み式真空ポンプ クライオポンプイオンポンプ

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ドライ真空ポンプ-真空と真空技術の利用-

エバラ時報 No. 253(2017-4)─  ─6

などによって,現在では幅広い用途で気軽に利用できる

真空ポンプになりつつあります。当社では1986年からド

ライ真空ポンプの販売を開始し,2016年12月までに累計

約15万台を出荷しました。

ドライ真空ポンプの種類

ドライ真空ポンプは排気原理によっていくつかの種類

に分類されます。代表的な種類は以下のとおりです。

(1)ルーツ形

(2)スクリュー形

(3)クロー形

(4)スクロール形

この中で当社はルーツ形及びスクリュー形の二種類を

採用し,様々な製品をラインアップしています(図5)。

ルーツ形及びスクリュー形それぞれの特長を活かした製

品でお客様から高い信頼を得ています。

排気原理

ルーツ形・スクリュー形はそれぞれロータの形状が異

なりますが,いずれもケーシングと二つのロータの間に

閉じ込めた気体をロータの回転とともに排気側へ送り出

し,排出します(図6,7)。ロータとケーシング及びロー

タとロータの隙間は,油などの液体を用いず微小なクリ

アランスを維持することで気体の逆流を防ぎ,非接触で

のシールを実現しています。当社のドライ真空ポンプの

到達圧力は0.1 ~ 1.0 Pa程度です。

基本構造,特長

(1)基本構造

図8に多段ルーツ形ドライ真空ポンプの基本構造を示

します。吸気口から吸入した気体は,ロータの回転によっ

て各段で順次圧縮・移送されて排気口から排出されます。

ポンプはロータ・ケーシングの他にモータ・軸受・ギヤ

などで構成されています。軸受とギヤは潤滑油によって

潤滑されますが,真空側へ潤滑油が拡散するのを防ぐた

めの軸封機構が設けられています。軸封機構は排気ガス

や異物の軸受・潤滑油室への侵入も防ぎます。スクリュー

形はロータ・ケーシングの形状は異なりますが,基本構

造はルーツ形と同じです。

(2)特長

ルーツ形は高効率排気による省エネルギー化を実現し

やすい特長を有しています。多段構成が容易で,排気性

EV-M型(ルーツ形) EST型(スクリュー形)

図5 当社ドライ真空ポンプ(代表例)

排気

吸気ケーシングロータ

図7 スクリュー形ドライ真空ポンプの排気原理

図8 ルーツ形ドライ真空ポンプの基本構造

① ②

① ②

① ②

① ②

ロータ

ロータ

吸気

吸入

閉込

移送

排気

ケーシング

排気

図6 ルーツ形ドライ真空ポンプの排気原理

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ドライ真空ポンプ-真空と真空技術の利用-

エバラ時報 No. 253(2017-4)─  ─7

能を損なうことなく各段の排気容積を順次減少すること

で,省エネルギー化を図っています。また,排気流路が

長く,気体の逆流を抑制し易いため,水素等の軽ガスを

排気する用途に適しています。

スクリュー形はポンプ内部のガス流路がシンプルであ

り,各種プロセスで化学反応によって生成される物質(反

応副生成物)が溜まりにくいことが特長です。ロータの

回転とともに反応副生成物を掻き出す効果もあるため,

反応副生成物が多く発生する用途に適しています。

電子デバイス製造用途での特長

クリーンな真空を必要とする電子デバイス製造では,

様々な工程で数多くのドライ真空ポンプが使用されていま

す。これらの製造工程では,均一な厚さの薄膜形成と形成

される薄膜の品質向上のため,不純物となる気体分子の除

去が必要不可欠です。図9は半導体製造工程の概略です。

半導体製造では真空下で行われる工程が数多くあります。

化学気相成長(CVD:Chemical vapor deposition)など

で薄膜を形成(成膜)し,エッチング工程で薄膜を加工し

ます。その他,図示していませんが,不純物注入・レジス

ト剥離の工程も真空下で行われます。

半導体製造では,微細化の進展とともにプロセス工程

数が増加しており,ドライ真空ポンプの使用台数が多く

なっています。このため,ドライ真空ポンプに対し排気

速度の向上,各プロセスに対する長寿命化及び省エネル

ギー化などの要望が高まっています。当社はこのような

ニーズに応えるため,各用途に適したラインアップを提

供しています。例えば,窒素等の不活性ガスや空気を主

に排気する用途では,小型化と省エネルギー化を追求し

た製品を提供しています。また,CVDなどで生成する反

応副生成物を含むガスや腐食性ガスを排気する重負荷用

途では,気体排気時の圧縮熱を利用したポンプ内部温度

の最適化,耐食材料及びコーティングの採用,モータ駆

動制御の最適化などで,ポンプの長寿命化を実現してい

ます。各用途に適した幅広い製品ラインアップの提供に

よって,電子デバイス製造工場における安定生産,低電

力化に貢献しています。

一般産業分野でのドライ真空ポンプの活躍

当社のドライ真空ポンプは,これまで主に電子デバイ

ス製造の発展に合わせ技術革新を進めてきましたが,近

年はそれ以外の一般産業分野にも活躍の場を広げていま

す。例えば,分析・計測機器では従来油回転真空ポンプ

が用いられてきましたが,大排気速度化による分析精度

向上,分析機器周辺環境のクリーン化などから,ドライ

真空ポンプが所望されています。また,医療機器,自動

車産業,金属冶金産業などでも排気性能改善やクリーン

化に加え,ポンプの低振動・低騒音化やメンテナンス頻

度低減などの観点から,ドライ真空ポンプの適用事例が

増加しています。

今後も当社は一般産業分野でのお客様のニーズに合っ

た製品開発を行い,各用途に適したドライ真空ポンプを

提供していきます。さらに,IoTの利用などで,運転状

態診断機能や予防メンテナンス通知機能などの技術開発

を進め,お客様にとって扱いやすいドライ真空ポンプを

追求していきます。

参 考 文 献

1) JIS Z 8126-1 真空技術- 用語- 第1部:一般用語.2) JIS Z 8126-2 真空技術- 用語- 第2部:真空ポンプ及び関連用語.

[精密・電子事業カンパニー 精密機器事業部

山田 勝哉]

レジスト塗布

絶縁層の成膜

工程繰り返し

検査・後工程平坦化 金属配線層の成膜

エッチング

フォトリソグラフィ

図9 半導体製造工程