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9 日看管会誌 Vol. 19, No. 1, 2015 原著 看護師の共感性および社会的スキルが 感情労働に及ぼす影響 The Effect of Nurse’s Empathy and Social Skill on Their Emotional Labour 長尾雄太 1) 角濱春美 2) Yuta Nagao 1) * Harumi Kadohama 2) Key words : empathy, social skill, emotional labour, structural equation model キーワード:共感性,社会的スキル,感情労働,共分散構造分析 Abstract Objective : To clarify the impact of the empathy and social skills of nurses on their emotional labour. Method : The target group consisted of 720 nurses who had worked in an acute care hospital for up to seven years. The measurement scales used were the Japanese edition of the Interpersonal Reactivity Index(IRI), the shortenedversionof the Social Skill Scale for Nursing(SSSN), andthe Emotional Labour Inventory for Nurses (ELIN). Of the 323 nurses who participated in the study, 307 returned valid responses. Results : The results of factor analysis showed four factors for IRI: [personal distress], [perspective taking], [fantasy], and [empathic concern]; two factors for ELIN: [exploration and expression of appro- priate emotion], [surface adjustment/deep adjustment]; and three factors for SSSN: [skills for expres- sive patients], [touching], and [skills for data collection and provision]. Among the various forms of empathy studied, [personal distress] influenced [skills for expressive patients], [perspective taking] influenced [skills for expressive patients] and [exploration and expression of appropriate emotion], and [skills for data collection] incited [exploration and expression of appropriate emotion] and [surface adjustment/deep adjustment]. Conclusions : [Perspective taking] and [personal distress] influenced [skills for expressive patients], suggesting that the empathy of nurses is a necessary factor in paying attention to and calming patients. Moreover, increase in social skills may be connected to expression of appropriate emotions. 要 旨 目的:看護師の共感性および社会的スキルが感情労働に与える影響を明らかにすることである. 方法:対象は経験年数7年目までの急性期病院に勤務する看護師720名である.尺度は多次元 共感測定尺度,看護における社会的スキル尺度短縮版,看護師の感情労働測定尺度を使用した. 研究への協力が得られた323名のうち,有効回答は307名であった. 結果:因子分析の結果,多次元共感測定尺度は【個人的苦悩】,【視点取得】,【空想】,【共感的 配慮】の4因子,看護師の感情労働測定尺度は【適切な感情の探索と表出】,【表層適応・深層 適応】の2因子,看護における社会的スキル尺度短縮版は【患者尊重スキル】,【タッチング】, 【情報の収集・提供スキル】の3因子から構成されていた.共感性のうち【個人的苦悩】は【患 者尊重スキル】に,【視点取得】は【患者尊重スキル】と【適切な感情の探索と表出】に影響 を与えており,【情報の収集・提供スキル】は【適切な感情の探索と表出】,【表層適応・深層 適応】を促していた. The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 19, No. 1, PP9-19, 2015 受付日:2014年11月21日  受理日:2015年6月23日 1) 社会医療法人財団石心会 川崎幸病院 Kawasaki Saiwai Hospital 2) 青森県立保健大学健康科学部看護学科 Aomori Universityof HealthandWelfare *責任著者 Correspondingauthor: e-mail [email protected]

看護師の共感性および社会的スキルが 感情労働に及 …janap.umin.ac.jp/mokuji/J1901/10000001.pdf(Hochshild, 1983, 2000;武井,2001)も求められ る.感情のコントロールは誰もが日常的に行うが,看護師のように仕事の中でそれらが求められるもの

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9日看管会誌 Vol. 19, No. 1, 2015

原著

看護師の共感性および社会的スキルが 感情労働に及ぼす影響

The Effect of Nurse’s Empathy and Social Skill on Their Emotional Labour

長尾雄太 1) * 角濱春美 2)Yuta Nagao1) * Harumi Kadohama2)

Key words : empathy, social skill, emotional labour, structural equation model

キーワード:共感性,社会的スキル,感情労働,共分散構造分析

Abstract【Objective】 : To clarify the impact of the empathy and social skills of nurses on their emotional labour.【Method】 : The target group consisted of 720 nurses who had worked in an acute care hospital for up to seven years. The measurement scales used were the Japanese edition of the Interpersonal Reactivity Index(IRI), the shortened version of the Social Skill Scale for Nursing (SSSN), and the Emotional Labour Inventory for Nurses (ELIN). Of the 323 nurses who participated in the study, 307 returned valid responses.【Results】 : The results of factor analysis showed four factors for IRI: [personal distress], [perspective taking], [fantasy], and [empathic concern]; two factors for ELIN: [exploration and expression of appro-priate emotion], [surface adjustment/deep adjustment]; and three factors for SSSN: [skills for expres-sive patients], [touching], and [skills for data collection and provision]. Among the various forms of empathy studied, [personal distress] influenced [skills for expressive patients], [perspective taking] influenced [skills for expressive patients] and [exploration and expression of appropriate emotion], and [skills for data collection] incited [exploration and expression of appropriate emotion] and [surface adjustment/deep adjustment].【Conclusions】 : [Perspective taking] and [personal distress] influenced [skills for expressive patients], suggesting that the empathy of nurses is a necessary factor in paying attention to and calming patients. Moreover, increase in social skills may be connected to expression of appropriate emotions.

要 旨目的:看護師の共感性および社会的スキルが感情労働に与える影響を明らかにすることである.方法:対象は経験年数7年目までの急性期病院に勤務する看護師720名である.尺度は多次元共感測定尺度,看護における社会的スキル尺度短縮版,看護師の感情労働測定尺度を使用した.研究への協力が得られた323名のうち,有効回答は307名であった.結果:因子分析の結果,多次元共感測定尺度は【個人的苦悩】,【視点取得】,【空想】,【共感的配慮】の4因子,看護師の感情労働測定尺度は【適切な感情の探索と表出】,【表層適応・深層適応】の2因子,看護における社会的スキル尺度短縮版は【患者尊重スキル】,【タッチング】,【情報の収集・提供スキル】の3因子から構成されていた.共感性のうち【個人的苦悩】は【患者尊重スキル】に,【視点取得】は【患者尊重スキル】と【適切な感情の探索と表出】に影響を与えており,【情報の収集・提供スキル】は【適切な感情の探索と表出】,【表層適応・深層適応】を促していた.

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 19, No. 1, PP 9-19, 2015

受付日:2014年11月21日  受理日:2015年6月23日1) 社会医療法人財団石心会 川崎幸病院 Kawasaki Saiwai Hospital2) 青森県立保健大学健康科学部看護学科 Aomori University of Health and Welfare*責任著者 Corresponding author: e-mail [email protected]

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Ⅰ.緒言

 看護師が患者との関係を円滑に進め,相手の置かれた状況を理解するためには共感的態度が不可欠である(Larson & Yao, 2005;William et al., 1999).看護実践において重要とされる共感は,患者の気持ちを前向きにする(福田和美ら,2010)ことに加えて,必要な看護の提供(伊藤,2004)にも寄与するものである.共感が成立するまでの患者-看護師間の相互作用は,患者の行動に対する看護師の情緒的,主観的な反応と切り離せない(Henderson, 1982, 1982).実際に,看護師は患者に共感しなければならないことを強調されるのと同時に,患者と接する中で様々な感情を体験してもそれを表出することは不適切という感情規則への対応,すなわち感情管理(Hochshild, 1983, 2000;武井,2001)も求められる.感情のコントロールは誰もが日常的に行うが,看護師のように仕事の中でそれらが求められるものを武井(2001)は感情労働と呼んでいる.自分の感情を抑えることや適切な感情を繕うことは,看護師自身の身体的・心理的 QOLの低下(片山はるみら,2008),抑うつ(片山はるみ,2010),バーンアウト(武井,2001)の要因となることが指摘されている.一方で,感情労働には職務満足や仕事の達成感を向上させるという側面も指摘されている(Huynh et al., 2008;Mann, 2005;Yang & Chang, 2008)ため,看護師が感情の抑制や偽りの感情の表出を避けつつ,適切な感情の表出ができるようになることで感情労働の負の側面が軽減され,前向きに仕事に取り組めると考えられる. 患者の感情を共有したり理解したりする共感性を表出する技術を含む概念に,社会的スキル(千葉,相川,2000;岩城,2008)がある.ここで言う社会的スキルとは,患者との関係を維持,構築していくために必要な対人関係を円滑にする技術のことであり,患者への配慮や理解を示すスキル,傾聴,タッチングといった治療的コミュニケーションを含む概念である(千葉,相川,2000).社会的スキルは,

Huynh et al.(2008)による概念分析で,感情労働への影響が示唆されており,富樫,戸梶(2007)においても感情労働の負の側面への緩衝要因とされている.しかし,共感性,社会的スキル,感情労働の関連を検討した研究は見当たらない. 感情労働による抑うつやバーンアウトはメンタルヘルスや職場環境の改善といった看護管理上の課題であったが,社会的スキルが感情労働に及ぼす影響を明らかにすることで,そのスキルの向上という新たな視点から課題を検討することが可能となる.

Ⅱ.目的

 看護師の共感性と社会的スキルが感情労働に与える影響を明らかにする.

Ⅲ.方法

1.用語の定義1)共感性 他者の気持ちを汲み取り,他者と同様の情動を体験する性質のこと(堀,吉田,2001).2)感情労働 自分の感情を加工することによって相手の感情に働きかけることが重要な職務となっており,表情や声や態度で適正な感情を演出することを求められる仕事のこと(武井,2006).3)社会的スキル 患者との関係を維持・構築していくために必要な患者との人間関係を円滑にする技能(岩城,2008).

2. 各概念の位置付けと概念枠組み(図1) 看護師の対人関係スキルを先行要件としている感情労働の概念分析(Huynh et al, 2008),看護師が「患者の気持ちに共感せよ」という感情規則(武井,2001)に沿った感情管理を行っていること,看護学

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結論:【視点取得】と【個人的苦悩】は【患者尊重スキル】に影響を与えており,看護師個々の共感性が患者に配慮を示し安心感を与えるのに必要な要素であることが示唆された.また,社会的スキルの向上により,適切な感情を考えた表出につながる可能性がある.

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生では社会的スキルを高めることが共感性を発達させる可能性があるという研究結果(林,2002)に基づきモデルを仮定した.

3. 測定尺度1)対象者の属性,背景 対象者の一般的背景として,性別・年齢・経験年数・所属部署・最終学歴・勤務先の病床数について調査した.これらはメンタル不全に陥りやすい看護職の特徴として挙げられている個人の属性(川口,2010)を参考にした.2)共感性 共感性を評価する尺度には多次元共感測定尺度(桜井,1988,1994)を用いた.その構成は,「視点取得(7項目)」,「共感的配慮(7項目)」,「空想(7項目)」,「個人的苦悩(7項目)」の全28項目である.それぞれの質問項目にどの程度当てはまるかを「全く当てはまらない :1点」から「非常に当てはまる :5点」までの5段階で評価する.尺度の信頼係数としての内的整合性を示す Cronbach's α係数は,個人的苦悩(α =0.7951),空想(α =0.7787),視点取得(α =0.7363),共感的配慮(α =0.7021)である(林,2002).3)感情労働 感情労働を評価する尺度には,看護師の感情労働測定尺度(片山由加里ら,2005)を用いた.その構

成は,「探索的理解(10項目)」,「表層適応(5項目)」,「表出抑制(5項目)」,「ケアの表現(3項目)」,「深層適応(3項目)」の全26項目である.最近の仕事において質問項目にあるような行動をする頻度について,「行わない :1点」から「いつも行 う :5点」の5段階で評価する.尺度の信頼係数としての内的整合性を示す Cronbach's α係数は,尺度全体(α =0.92),探索的理解(α =0.88),表層適応(α =0.85),表出抑制(α =0.80),ケアの表現(α=0.78),深層適応(α =0.74)であり,基準関連妥当性,内容妥当性も確認されている(片山由加里ら,2005).4)社会的スキル 社会的スキルを評価する尺度には,看護における社会的スキル尺度短縮版(岩城,2008)を用いた.その構成は,「患者尊重共感スキル(13項目)」,「表出行動スキル(13項目)」,「身体接触スキル(7項目)」,「説明確認スキル(6項目)」の全39項目である.看護実践でどのくらい実施しているかについて,「全然していない:1点」から「いつもしている4点」までの4段階で評価する.尺度の信頼係数としての内的整合性を示す Cronbach's α係数は,患者尊重共感スキル(α =0.878),表出行動スキル(α = 0.857),身体接触スキル(α =0.854),説明確認スキル(α =0.775)であり,オリジナル版(千葉,相川,2000)と同等の信頼性が確認されている(岩城,2008).

4. 対象と調査方法 対象者は,人口100万人以上の都市にある7 :1入院基本料を取得している300床以上の病院で病棟勤務する経験年数1~8年目の看護師720名である.看護における社会的スキル尺度短縮版(岩城,2008)が集中治療領域を除いた病棟勤務者を対象として作成されたものであるため,本研究でも外来,集中治療室,手術室の勤務者は除いた. 病院要覧(医療施設政策研究会,2003)から無作為に選択した68ヶ所の病院の看護部長に対して協力を依頼した.承諾が得られた18ヶ所の病院の看護部長に対して改めて調査票と説明文,返信用封筒を送付し,調査票の配布を依頼した.回収は回答者が記入済の調査票を返信用封筒に入れて郵送する方法とした.協力施設の負担を考慮し, 1施設あたりの調

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図 1 概念枠組み

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査票の配布は40枚とし,対象者の選定は各施設が任意に行うこととした.調査期間は2012年7月から2012年8月である.

5. 解析方法 対象者の属性については基本統計量を算出した.本研究の対象者で各尺度の構成の特徴を検討するため,最尤法,プロマックス回転で因子分析を行い,オリジナル尺度と異なる因子構造が得られた場合,因子負荷量が0.4未満の項目,複数項目で高い負荷量を示した項目を除外していった.なお,有意水準は5%とした. 感情労働と共感性,社会的スキルの関連を検討するため,概念枠組みと因子分析の結果をもとに共分散構造分析を行った.モデルの適合度は GFI,AGFI,RMSEAを採用し,採択基準は GFI>0.9,AGFI>0.9,RMSEA<0.05とした. 統計処理には SPSS ver.21および SPSS Amos ver.21を使用した.

6. 倫理的配慮 対象施設の看護部長に対して研究の方法と目的を文書で説明し,署名済みの承諾書の返送をもって協力への同意とした.同意が得られた病院に調査票を郵送し,対象者への配布を依頼した.また,対象者には調査票の他に,研究の趣旨,研究への協力は自由意志であること,匿名性の保持,研究結果の公表,研究以外に結果を使用しないこと,記入済みの調査票を返信用封筒で返送することをもって同意とみなすことを文書で説明した.また,看護師の感情労働測定尺度,看護における社会的スキル尺度短縮版は尺度の使用と分析による変更等について作成者に文書で承諾を得た.多次元共感測定尺度は,堀,吉田(2001)に掲載されており出典を明らかにしたうえで使用可能となっている. 本研究は,青森県立保健大学研究倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号:1210).

Ⅳ.結果

1. 回答者の属性 配布数は720枚,回収数は323名(回収率44.9%)

であった.このうち記入漏れがあった16名分を除外して,307名のデータを分析に用いた(有効回答率95.0%).対象者の属性を表 1 に示した.

2.各尺度の因子構造1)多次元共感測定尺度の因子構造(表 2) 多次元共感測定尺度28項目に対して因子分析を行ったところ,固有値,寄与率,累積寄与率と因子の解釈可能性から桜井(1988)と同様の4因子構造が導き出された. 因子1は「個人的苦悩」から2項目が削除された5項目から構成されており,因子2は「視点取得」から2項目が削除された5項目から構成されていた.因子3は「空想」から3項目が削除された4項目か

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表 1 対象者の基本的属性n =307

n(%)属性

(95.1)292女性性別

(4.9)15男性

(38.4)11820-24年齢

(50.5)15525-29

(6.2)1930-34

(4.9)1535-

(69.4)214専門学校学歴

(6.2)19高校専攻科

(3.6)11短期大学

(19.2)59大学,大学院

(1.6)4その他

(23.8)73成人内科系所属部署

(30.3)93成人外科系

(2.6)8小児系

(3.3)10産科

(29.6)91混合

(0.7)2精神科

(9.8)30その他

(48.9)150300-400病床数

(16.0)49401-500

(19.2)59501-600

(16.0)49601-

(2.6)80-1年経験年数

(13.7)421-2年

(20.8)642-3年

(18.9)583-4年

(17.4)544-5年

(15.0)465-6年

(7.5)236-7年

(3.9)127-8年

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ら構成され,因子4「共感的配慮」から4項目が削除された3項目から構成されていた.各因子の内的整合性を示す Cronbach's α係数は【個人的苦悩】でα =0.781,【視点取得】でα =0.749,【空想】でα = 0.738,【共感的配慮】でα =0.502であった.2)看護師の感情労働測定尺度の因子構造(表 3)

 看護師の感情労働測定尺度26項目に対して因子分析を行ったところ,片山由加里ら(2005)と同様の因子構造と類似した結果は得られず,固有値,寄与率,累積寄与率と因子の解釈可能性から2因子構造として導き出された.

 因子1は13項目から構成されており,適切な感情の表出方法を探ることや,ケアを通して患者への理解や感情を表出する行為などを示す項目で高い負荷量となっていたため,【適切な感情の探索と表出】とした.因子2は6項目で構成されており,患者に表す感情が実際の感情と異なっている際に感情を装う表層適応や,実際に感じている感情と表している感情の違いを自覚したり,適切とする感情を作り出す行為である深層適応を示す項目で高い負荷量となっていたため【表層適応・深層適応】とした.各因子の内的整合性を示す Cronbach's α係数は,【適切な

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表 2 多次元共感測定尺度の因子構造(最尤法,プロマックス回転)n =307

因子負荷量因子名,Cronbach’s α

因子4因子3因子2因子1項 目

因子1【個人的苦悩】 α= .781

–.082.022.011.73325.緊張状態になると,ひどくビクビクする

.082–.171–.051.72926.緊張状態でも比較的うまく対処できる(逆転項目)

–.002.102.042.65427.緊張時にはどうしてよいかわからなくなる

.120.111–.034.61522.緊急な状況では,どうしようもなく不安な気持ちになる

–.139–.065.032.52128.緊急事態でひどく援助を必要とする人を見ると取り乱してしまう

因子2【視点取得】 α= .749

–.063–.025.711.0115.どんな問題にも対立する2つの見方があると思うので,その両方を考慮するように努める

.058.009.692–.0063.友達をよく理解するために彼らの立場になって考えようとする

.056–.024.663.0227.人を批判する前にもし自分がその人であったならどう思うだろうかと考えるようにしている

.006–.015.610–.0632.何かを決定するときには自分と反対の意見を持つ人たちの立場に立って考えてみる

–.051.135.402.0496.ある人に気分を悪くされても,その人の立場になってみようとする

因子3【空想】 α= .738

–.016.798–.056–.02013.すばらしい映画を見ると,すぐに自分を登場人物に置き換えてしまう

.011.730–.014.00312.劇や映画を見ると自分が登場人物のひとりになったように感じる

–.063.555.052–.00214.面白い小説を読んでいるとき,もしその中の事件が自分に起こったらどうしよ

うとよく想像する

.080.479.067.0039.小説を読んでいて登場人物に感情移入することがある

因子4【共感的配慮】 α= .502

.566–.019–.055–.08616.困っている人たちがいても,あまりかわいそうだという気持ちにならない(逆

転項目)

.480–.041.054–.00419.不公平な扱いをされている人たちを見てもあまりかわいそうとは思わない(逆

転項目)

.476.065.021.06418.周りの人たちが不幸でも自分は平気でいられる(逆転項目)

1.4591.8662.7433.091固有値

8.58 10.98 16.14 18.18 寄与率(%)

53.88 45.3 34.32 18.18 累積寄与率(%)

– 0.036因子間相関 因子2

0.2290.152因子3

0.1580.2640.031因子4

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感情の探索と表出】でα =0.874,【表層適応・深層適応】でα=0.705であった.3)看護における社会的スキル尺度短縮版の因子

構造(表 4) 看護における社会的スキル尺度短縮版39項目に対して因子分析を行ったところ,岩城(2008)と同様の因子構造と類似した結果は得られず,固有値,寄与率,累積寄与率と因子の解釈可能性から3因子構造が導き出された. 因子1は12項目から構成されており,患者に配慮を示し安心感を与え,信頼を得るための行為などを示す項目で高い負荷量となっており,【患者尊重スキル】とした.因子2は5項目から構成されており,患者の身体に触れることを示す項目で高い負荷量となっていたため,【タッチング】とした.因子3は8項目から構成されており,患者や家族への質問や説明,情報収集,ニーズへの対応といった行為を示す

項目で高い負荷量となっており,【情報の収集・提供スキル】とした.各因子の内的整合性を示すCronbach's α係数は,【患者尊重スキル】でα = 0.845,【タッチング】でα =0.781,【情報の収集・提供スキル】でα =0.808であった.

3.共分散構造分析によるモデルの作成 共感性,社会的スキル,感情労働,看護師の経験年数の直接的および間接的な関連を検討するために共分散構造分析を行った.概念枠組み,下位尺度間の相関係数を参考にすべての因子を含んだパス図を作成したが,適合度が採択基準を満たさなかったため,有意ではないパス係数を削除しモデルの修正を行った.【共感的配慮】,【タッチング】,【空想】,看護師の経験年数からは有意なパス係数が得られないため削除したところ,モデルの適合度が改善された.【視点取得】,【個人的苦悩】,【患者尊重スキル】,

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表 3 看護師の感情労働測定尺度の因子構造(最尤法,プロマックス回転)n=307

因子負荷量Cronbach’s a

因子2因子1項 目

因子1【適切な感情の探索と表出】 a = .874

–.102.7721.相手の立場に立って考える

–.207.7376.患者の感情を理解することを大切にする

–.069.6308.期待されるケアを提供する

–.080.6265.患者の感情に敏感であろうとする

–.101.6127.緊張感を持って自分の役割を持続させる

.072.5974.患者のための雰囲気づくりをする

.059.5969.自分が相手に表している感情に注意を払う

–.047.5762.その場に応じた感情の表し方を探す

.137.56921.自分の口調や表情や振る舞いを意識する

.067.5423.どんな患者にも共感しようとする

.312.48010.患者の期待に裏切らない感情を示す

.137.43522.口調や振る舞いによってケアを表す

.239.42523.患者との関係によってケアの表し方を調節する

因子2【表層適応・深層適応】 a = .705

.708–.25611.何も感じていないように振る舞う

.696–.11818.驚いたり緊張したりしてもその気持ちを隠す

.474.17324.心に感じていることとの違いを自覚しながら感情を表す

.453.27416.自分の気持ちを容易に出さないように気を引き締める

.423–.01512.驚いたり緊張したりするふりをする

.417.05019.おかしさやうれしさなどの肯定的感情を抑えようとする

2.3255.753固有値

12.24 30.28 寄与率(%)

42.52 30.28 累積寄与率(%)

0.323因子間相関 因子2

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【情報の収集・提供スキル】,【適切な感情の探索と表出】,【表層適応・深層適応】から構成される最終 的なモデル(図 2)の適合度は RMSEA =0.029, GFI=0.947,AGFI=0.930と採択基準を満たした.

Ⅴ.考察

1. 測定尺度の因子構造の検討 多次元共感測定尺度の因子構造は一部の項目が削

除されたものの開発者と同様であった.看護師の感情労働測定尺度については,「表層適応」と,「深層適応」が区別されず,【表層適応・深層適応】として抽出され,片山由加里ら(2005)が示した因子構造とは異なる結果となった.これは,本研究の対象者の経験年数が8年未満(半数が4年未満)であり,片山由加里ら(2005)の対象者12.2±8.7年と比べて短く,20歳代が9割であったという属性の違いによると考えられる.感情労働と経験年数の関連については,経験が浅い看護師ほど表層適応を行っている

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表 4 看護における社会的スキル尺度短縮版の因子構造(最尤法,プロマックス回転) n =307

因子負荷量因子名,Cronbach's α

因子3因子2因子1項 目

因子1【患者尊重スキル】 α = .845

–.195.171.75619.患者に不安を与えないように落ち着いた態度で接する

–.183.203.67022.患者に聞き取れるようにゆっくりとした口調で話す

.135–.130.63024.ナースコールが鳴ったらすぐに何が問題なのかを明らかにして対処する

–.053–.071.62627.患者と話しているときにそっと手を添える

.174–.269.57235.自分の説明に患者が反応しているかを確認する

–.099.123.51114.患者のプライドを傷つけないように話す

.255–.084.4708.必要な情報の収集と提示をすばやく行う

–.072.094.46317.自分が不調なときにも,いつもと同じ態度で患者に接する

.157–.173.45734.患者には検査やケアについて前もって情報提供する

.146.036.44036.患者にとって大切なことは繰り返してそのことを話す

.021.143.42823.患者の愛着品を大切にする

.031.221.42021.患者が話し始めたら患者に近づいて話を聞く

因子2【タッチング】 α = .781

.012.716–.07130.患者の手に触れて「何でも言ってください」と言葉をかける

.083.700.03528.患者が元気でないときは患者のそばに寄り添って身体の一部に触れる

.056.674.04029.検査に行く患者の背中や肩に手を触れる

.031.499.03731.苦痛に伴う処置の最中,患者の手を握る

.217.482–.07133.患者の髪をとかしながら頭部に触れる

因子3【情報の収集・提供スキル】 α = .808

.607.091–.0044.病気を治すにはどうしたらよいか患者と一緒に考える

.567–.058.21439.患者の症状について理解できるように説明する

.561–.003.26425.患者の好みや意見を取り入れながらケアをする

.544.006.0207.患者の家庭での様子を家族に聞く

.521.112–.1163.患者が今の自分の状態をどのようにとらえているかを尋ねる

.495.091–.0995.退院が近くなったら患者の生活を聴きながらどうしたらよいのかを尋ねる

.439.308.02910.患者の治療以外の問題が生じたら問題解決に必要な人を紹介する

.408.196–.02813.入院中の患者の様子を家族に話す

1.45 2.1627.6 固有値

5.8 8.65 30.4 寄与率(%)

49.71 39.05 30.4 累積寄与率(%)

  0.426因子間相関 因子2

0.48 0.665因子3

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傾向があるとの報告(三上ら,2010)がある.本研究が対象とした看護師では表層適応と深層適応が別個のものとしては認識されていないという結果であり,このことは感情の表出や調整を伴う経験が少ないことで自身の感情体験への認知が十分に行われていない可能性を示唆している.さらに,「探索的理解」,「ケアの表現」を合わせて【適切な感情の探索と表出】となった.これは,ケアの動作によって患者に伝わる感情を表現する行為である「ケアの表現」と適切な感情の表現方法を探しながら患者への理解を示す行為である「探索的理解」が区別されずに行われていることを示している.片山由加里ら(2005)においても「探索的理解」と「ケアの表現」の因子間の相関係数が0.64と中程度の相関が確認されており,類似した概念であるといえるが,経験年数の浅い看護師では患者への関心を持ち理解しようとすることとケアを通してそれらを表出することがより一体化して行われていると考えられる.これは,そういったケアのスキルを意図的に活用し,その有効性を認知する経験が少ないためと推察される. 社会的スキルについても「表出行動スキル」,「説明確認スキル」,「患者尊重共感スキル」が【情報の

収集・提供スキル】に統合されていた.この点についても,岩城,塚原(2008)が「患者尊重共感スキル」と「表出行動スキル」は経験年数と関連があると報告していることから,経験年数の浅い看護師では 社会的スキルが分化されていないことが推察される.

2.共感性,社会的スキル,感情労働の関連1)共分散構造分析により示されたモデルの概要 感情労働の構成要素である【表層適応・深層適応】,適切な感情の表出方法を考えることやケアを通した感情の表出を含む【適切な感情の探索と表出】は,いずれも患者や家族とのコミュニケーションの中で情報収集や説明を行う【情報の収集・提供スキル】から直接影響を受けていた.また,社会的スキルに注目すると,患者に配慮を示し安心感を与えるような行動をとる【患者尊重スキル】が【情報の収集・提供スキル】の向上につながっていた.共感性のうち,相手の立場に立って考える【視点取得】と援助が必要な場面での動揺を表す【個人的苦悩】は【患者尊重スキル】に影響を与えていた. 本研究では共感性のうち【個人的苦悩】,【視点取

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図 2 共感性,社会的スキルと感情労働の関連モデル

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得】が社会的スキルの【患者尊重スキル】に影響を与えていた.看護学生では社会的スキルが共感性の認知的側面を発達させる可能性がある(林,2002)という指摘をもとに作成した概念枠組みであったが,本研究が対象とした看護師では当てはまらず,共感性が社会的スキルに影響を与えるモデルとなった.共感性は幼少期からの人間関係を経て備わっていくという特徴(福田正治,2010)があり,共感性と社会的スキルは生活環境や人生経験により規定され,相互作用しながら獲得されていくと考えられる.看護師になる前の段階,看護師として経験を重ねる中で共感性と社会的スキルがどのように影響し合いながら発達していくのかについては,年齢やキャリア,経験年数を踏まえた検討が必要である.感情労働には【情報の収集・提供スキル】が備わっていること,および【視点取得】が必要であるという結果は,社会的スキルと共感性が感情労働に影響を与えるという仮説を支持するものであった.2)モデルの解釈 看護師の経験年数は共感性(劉ら,2002),社会的スキル(橋本,2007), 感情労働(岩谷ら,2008;三上ら,2010)との関連が指摘されているが,本研究では有意なパス係数が得られずモデルからは削除された.これは対象者が経験年数8年未満であり,9割が20歳代という属性面で偏りのない集団であったためと考えられる. 共感性のうち相手の立場に立って考える【視点取得】が,【患者尊重スキル】に影響を与え,これが患者や家族とのコミュニケーションを介した情報収集や説明を行う【情報収集・提供スキル】にパス係数が0.69と,強い影響を与えていた.【情報収集・提供スキル】は患者の問題を解決するうえで必要な一連の看護過程(Alfaro-LeFevre, 2006, 2008)に必要なスキルである.つまり,看護過程を進めるためには,患者を尊重する言動がとれること,その前提として相手の立場に立った見方ができる必要あると解釈できる.問題解決を促進し,ケアの質を向上させるためには,患者の立場に立つことや相手に共感すること,そしてそこで得た相手への理解をもとに患者を大切にする行動がとれる能力を開発することの重要性が示唆された.反対に,共感性のうち【個人的苦悩】は,【患者尊重スキル】にマイナスの影響を与えていた.これは自らの緊張が強いことで相手を尊重

できなくなることを示しており,「援助場面で自分のほうが不安になる傾向が強いと,動揺などの他者志向的ではない感情に支配されやすくなり,相手の状況に応じた感情や行動を示せないことで社会的関係が抑制される(登張,2000)」という先行研究を支持する結果であった.援助が必要な人や苦しんでいる人と接するときに緊張や動揺を強く感じる看護師は社会的スキルが向上しにくく,教育を行う際に何らかの配慮が必要なことを示している. 【情報の収集・提供スキル】は【表層適応・深層適応】に正の影響を与えていた.【表層適応・深層適応】は,感情労働の負の側面であるバーンアウトやQOLに関連するとされているものであるが,重相関係数の平方値は0.1と小さく,【表層適応・深層適応】は,共感性や社会的スキルで説明できる部分が少ないことが示された.したがって,看護師の表層演技や深層演技を考えるにあたっては,本研究では扱わなかった職場内の人間関係や労働負荷,人的サポートといった側面(萩野,2004)を考慮する必要があると考えられる.さらに,【視点取得】と【情報の収集・提供スキル】が,感情労働の【適切な感情の探索と表出】に直接影響を与えていた.この感情労働は,患者の不安や悲しみを知り状況に応じた細やかな感情の表出を行うという看護師にとって不可欠なものであるが,そこには感情を抑えたり偽ったりすることは含まれない.したがって,社会的スキルの向上により,表層演技や深層演技によらない形での適切な感情の表出も可能になると考えられる.また,そのような感情労働には,社会的スキルだけではなく,相手の状況や気持ちが想像できるという個人の共感性が影響していることも示された.感情労働について,状況に応じた感情の調整をするという感情労働と職務満足の向上や仕事の魅力との関連を指摘した片山はるみ(2010)の問題提起を踏まえると,社会的スキルの向上により適切な感情の探索と表出が促されることで,職務満足の向上につながる可能性がある.この点は,社会的スキルを高めるような介入の結果として期待されるものであるといえる.

Ⅵ.研究の限界

 本研究の結果は自記式質問紙によるものであり,

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実際の態度や特性が正確に反映されているとは限らない.看護師の感情労働測定尺度,看護における社会的スキル尺度短縮版は看護師の特徴を考慮したものになっているが,本研究ではオリジナルと異なる因子構造が示されたことから,概念や適用対象を再検討したうえで尺度の妥当性と信頼性が検証される必要がある.また,本研究は大都市で働く経験年数の浅い看護師を対象としたものであり,今回の結果を看護師全体のこととして一般化することに関しては限界がある.

Ⅶ.結論

1.共感性のうち【視点取得】と【個人的苦悩】は,患者に配慮を示し安心感を与えるような行動をする【患者尊重スキル】に影響を与えていた.

2.患者に配慮を示し安心感を与えるような行動をする【患者尊重スキル】が,コミュニケーションを通じた情報収集や説明を行う【情報の収集・提供スキル】の向上をもたらすというモデルとなった.つまり,看護過程による問題解決には,患者に対して配慮を示すような行動ができる必要があることが示された.

3.適切な感情の表出方法を考えることやケアを通じた感情の表出を含む【適切な感情の探索と表出】は【視点取得】と【情報の収集・提供スキル】の影響を受けていた.このことから,感情労働には相手の立場に立って考えることができるという個人の共感性が影響していることが示された.

4.【表層適応・深層適応】と【適切な感情の探索と表出】は【情報の収集・提供スキル】の影響を受けていた.このことから,社会的スキルの向上は適切な感情を考えて表出することを促す一方で,感情を抑えたり偽ったりすることにも少なからず影響を与えていることが示された.

謝辞:本研究にご協力いただいた医療機関の看護管理者の皆様,お忙しい中で調査に協力して下さった看護師の皆様に深く感謝いたします.本研究は平成24年度青森県立保健大学大学院修士論文の一部を加筆修正したものである.また,第33回日本看護科学

学会学術集会において研究の一部を発表した.

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