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敗血症の初期治療 2018/5/24 モーニングレクチャー) 鳥取市立病院 麻酔科 清水 貴志

敗血症の初期治療 - 鳥取市立病院Septic shock(敗血症性ショック) 血圧低下のみでショックを診断するべきではない。むしろ血中乳酸値上昇を指標とすべき。(Hemodynamic

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Page 1: 敗血症の初期治療 - 鳥取市立病院Septic shock(敗血症性ショック) 血圧低下のみでショックを診断するべきではない。むしろ血中乳酸値上昇を指標とすべき。(Hemodynamic

敗血症の初期治療(2018/5/24 モーニングレクチャー)

鳥取市立病院 麻酔科

清水 貴志

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症例50代 女性 身長155cm 体重45㎏既往歴:特記すべきことなし現病歴:2日前に右側腹部痛あり、近医受診。諸検査の結果、右尿管結石の診断で、

鎮痛薬処方され帰宅。本日朝より、悪寒、戦慄あり、38℃台の発熱を認め、近医受診。受診中に意識レベル低下を認め、救急要請。当院紹介搬送となる。

来院時現症意識レベル GCS E3V4M5

血圧 65/38(45)mmHg 脈拍 120bpm sinus

呼吸数 40回/min 呼吸は努力様SpO2 100%(酸素マスク5L)四肢末梢、体幹にチアノーゼ(+)

この患者の診断は? 必要な検査や処置は?

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本日の講義のポイント

1.敗血症の認知

2.感染症の診断、治療

3.初期循環管理

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2004年にSepsis患者の救命率を上げることを目的としてSCCM、ESICMなど11学会が集まり策定。

Sepsisに関するエビデンスの整理各治療法に関する推奨度の評価

様々な問題点の指摘⇒2008、2012と2回改訂SSCG2016 (CCM 2017 Feb 2 にて公開)

敗血症ガイドライン<Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)>

<日本版敗血症診療ガイドライン2016>集中治療学会ホームページでオンライン公開(2016/12/27~)

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ガイドラインの推奨、エビデンスの質

()内は推奨、エビデンスの質<SSCG 2016>

S:強く推奨 W:弱く推奨H:質が高い M:中等度 L:低い VL:とても低いBPS:Best Practice Statement

<日本版敗血症ガイドライン2016>1:強く推奨 2:弱く推奨A:強 B:中 C:弱 D:とても弱EC:エキスパートコンセンサス

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敗血症診療で重要なのは?

迅速な認知

迅速な介入

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N Engl J Med 2017, May 21

敗血症の早期発見、介入が予後に及ぼす影響

2014年4月1日から2016年6月30日ニューヨーク州健康局に報告された49331例の敗血症患者のデータ

3時間バンドルの完了までの時間とリスク調整死亡率の関連性を評価

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3時間バンドル完遂までの時間

抗菌薬投与までの時間

遅れるほど死亡率悪化!

N Engl J Med 2017, May 21

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本日の講義のポイント

1.敗血症の認知

2.感染症の診断、治療

3.初期循環管理

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Sepsis(敗血症)の旧定義(Sepsis1)

「Sepsis is infection-induced SIRS」

感染症

SIRS

Sepsis

菌血症

感染症+SIRS=敗血症

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SIRS

Systemic inflammatory response syndrome

全身性炎症反応症候群

組織に侵襲 ⇒ 炎症反応(局所、全身)

体温 >38℃ or <36℃心拍数 >90/min

呼吸数 >20/min or PaCO2<32mmHg

白血球数 <4000 or >12000

上記状態のうち2つ以上を満たした場合をSIRSとする

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SIRS基準の限界・重症敗血症患者がSIRS基準を2つ以上満たしているか・109663例の重症敗血症患者のうち、13278例(12.1%)がSIRS基準を満たさず

N Engl J Med 2015 March 17

入院患者の約半数は病棟での経過中に一度はSIRS2項目が陽性になっている

Am J Respir Crit Care Med. 2015 Oct 15;192(8):958-64

軽症の患者も敗血症と診断してしまう

SIRS基準は8人に1人の重症敗血症を見逃す

Sepsisに対する様々な治療介入のRCTが行われているが、有意差が出ない。軽症例が多く含まれるため、全体の死亡率が低下し、有意差が出ないのでは?

Lancet Respir Med 2014; 2: 380-86

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SIRSとCARS

ホメオスターシス

感染

CARS

SIRS

炎症性サイトカイン過剰 組織障害

感染増悪

治癒

MOF

MOF抗炎症性サイトカイン過剰

近年の病理生物学的研究の進歩により敗血症の病態(臓器機能、形態学、細胞生物学、免疫学、循環動態変化、CARSのような免疫抑制と2次感染)が詳細に明らかになってきているにも関わらず、SIRS基準は臓器障害ではなく炎症を重視しすぎており、敗血症の一部しか反映できていない。

LANCET 2013; 381:774-775

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敗血症の新定義(Sepsis3)

“Life-threatening organ dysfunction caused by a

dysregulated host response to infection”

<定義>

「感染症に対する宿主生体反応の調節不全により、生命を脅かす臓器障害を呈する病態」

<診断基準>

“Organ dysfunction can be identified as an acute change

in total SOFA score 2 points consequent to the infection”

SOFAスコアが2点以上増加

感染症+臓器不全=敗血症

JAMA.2016;315(8):801-810

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SOFAスコア多臓器不全の重症度評価スコアで、死亡率と相関すると言われる

・もともと臓器障害のない、もしくは分からない患者ではSOFAのベースラインは0点。・SOFAスコア2点以上の増加により院内死亡率は10%増加する。

敗血症疑い患者がICU入室したら、SOFAスコアを算出!

週刊医学界新聞第3169号,2016

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Sepsisを疑うためのScoreICU外(一般病棟、救急外来など)

<quick SOFA(qSOFA)>

評価項目 点数

収縮期血圧≦100mmHg 1

呼吸数≧22回/min 1

意識、精神状態の変容 1

感染症の疑い+2点以上=Sepsisの疑い

2点以上で死亡率>10%

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Septic shock(敗血症性ショック)

血圧低下のみでショックを診断するべきではない。むしろ血中乳酸値上昇を指標とすべき。(Hemodynamic monitoring in shock and implication for management

in Paris 2006 international conference)

平均動脈圧と乳酸値に注目!

<診断基準>

“Sepsis with persisting hypotension

requiring vasopressors to maintain MAP 65mmHg

and having a serum lactate level>2mmol/L (18mg/dL)

despite adequate volume resuscitation ”

十分な輸液負荷にも関わらず①平均動脈圧65mmHgを維持するために②血管収縮薬投与を必要とし かつ③血清乳酸値2mmol/Lを超えるもの

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Sepsis3のアルゴリズム

感染症を疑わなければ始まらない

JAMA. 2016; 315:801-10

感染が疑われる

臓器障害の評価

敗血症

敗血症性ショック

臨床状態をモニタリング敗血症の可能性があれ

ば再評価

臨床状態をモニタリング敗血症の可能性があれ

ば再評価qSOFA≧2 ?

適切な輸液負荷にも関わらず1.平均血圧65mmHg以上を維持する

ために循環作動薬が必要かつ

2.血清尿酸値2mmol/L以上?

qSOFA≧2 ?

敗血症が依然として疑われる?

Yes

Yes

Yes

No

No No

No

Yes

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症例

50代 女性 身長155cm 体重45㎏既往歴:特記すべきことなし現病歴:2日前に右側腹部痛あり、近医受診。

諸検査の結果、右尿管結石の診断で、鎮痛薬処方され帰宅。本日朝より、悪寒、戦慄あり、38℃台の発熱を認め、近医受診。受診中に意識レベル低下を認め、救急要請。当院紹介搬送となる。

来院時現症意識レベル GCS E3V4M5

血圧 65/38(45)mmHg 脈拍 120bpm sinus

呼吸数 40回/min 呼吸は努力様SpO2 100%(酸素マスク5L)四肢末梢、体幹にチアノーゼ(+)

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症例

病歴より、尿管結石嵌頓による腎盂腎炎の可能性が高いと判断。qSOFA 3点・収縮期血圧 68mmHg≦100mmHg

・呼吸数 40回≧22回・意識の変容あり

血圧低く、ショック状態であるため、ルート確保、血液検査提出。乳酸リンゲル液の全開投与を開始。

動脈血液ガスpH 7.35 pCO2 25.6 pO2 182 BE -8.5 HCO3 15.3 Lac 6.8

重症度が高いと判断し、ICU入室することとなった。

ICU入室までに出来ることはありますか?

敗血症疑い!

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本日の講義のポイント

1.敗血症の認知

2.感染症の診断、治療

3.初期循環管理

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何をすれば良いのか?

② 抗菌薬の投与

③ 感染源の同定

④ 感染源のコントロール

① 培養検体の採取

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培養検体の採取

血液培養2セット以上を採取

抗菌薬投与が大きく遅れない限り、抗菌薬開始前には血液培養を含む各

種培養を必ず採取しておくことを推奨する(BPS)

どの微生物が感染をおこしているのか?

菌血症における血液培養の感度1セット 65.1% 2セット 80.4% 3セット 95.7%

(Cockerill FR 3rd, et al. Clin Infect Dis 2004; 38: 1724-30)

感染巣が疑われる培養検体(尿、喀痰、髄液、胸腹水など)も採取

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感染源の同定

患者の症状、身体所見、病歴

初期蘇生後、迅速に画像診断(CT、エコー、Xp)

CQ3-1.感染巣診断のために画像診断は行うか?

A.敗血症,敗血症性ショック患者の感染巣診断のために画像診断を行うことを推奨する(EC).

感染はどこで起こっているか?

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抗菌薬治療

①抗菌薬の静注はできるだけ早く開始Sepsis 、Septic shockの認知から1時間以内の投与を推奨する(S、M)

②予想される菌に対して、単剤もしくは併用ですべてをカバーするエンピリック治療を行うことを推奨する(S、M)

③起炎菌が判明した場合、特に臨床的改善が見られている場合はエンピリック治療のde-escarationを行うことを推奨する(BPS)

④急性膵炎や熱傷などの炎症過剰状態となる非感染性疾患において予防的抗菌薬投与をしないことを推奨する(BPS)

⑤抗生剤投与期間は特殊な場合を除き7~10日間(W、L)

⑥抗菌薬投与は,PK/PD 理論を考慮して行う。(BPS)βラクタム系薬剤はTime aboveMIC(TAM)を高く保つアミノグリコシド,キノロン,グリコペプチド系は最高血中濃度(Cmax)を高く保つ

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感染focusのコントロール

①緊急に感染源コントロールが必要な感染巣の有無を速やかに検索、診断、除外する(BPS)(壊死性筋膜炎、汎発性腹膜炎、胆管炎、腸管壊死など)

②全ての重症敗血症患者で処置可能な感染巣を検索する(BPS)(膿瘍のドレナージ、壊死組織のデブリドマン、デバイスの抜去)

③血管内カテーテルが原因の可能性がある場合は他のルートを確保したのち、速やかに抜去する(BPS)

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症例リンゲル液1000ml投与により、血圧80/54(64)mmHgまで上昇。

血液培養、尿培養検体を採取。その後カルバペネム系抗生剤の投与を開始。心エコー、全身CT撮影を行った後、ICU入室となった。

<ICU入室時>意識レベル GCS E3V4M6

血圧 68/37(45)mmHg 脈拍 120bpm sinus

呼吸数 38回/min SpO2 100%(酸素マスク5L)体温 38.0℃

ICU入室後に動脈ライン、中心静脈ラインを速やかに確保。この時点で輸液はリンゲル液 total 1500ml投与。血圧、脈拍は変わらず。

動脈血液ガス pH 7.339 pCO2 30.2 pO2 180 BE -7.6 Lac 5.8

さてこの後の輸液はどうする? 薬剤投与は?

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本日の講義のポイント

1.敗血症の認知

2.感染症の診断、治療

3.初期循環管理

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敗血症性ショックの病態

Warm shock Cold shock

末梢血管拡張

血液分布異常性ショックshock

血管透過性亢進

循環血液量減少性ショックshock

敗血症性心筋障害(SIMD)

心原性ショックshock

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血管透過性亢進

循環血液量減少性ショックshock 輸液

最適な輸液量は?

輸液の種類は?

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最適な輸液量は?

①敗血症による低血圧に対しては最低限30ml/kgの晶質液を3時間以内に投与することを推奨する(SR、LQ)。

②その後の蘇生に関し、追加の輸液負荷は頻回の循環動態評価によって判断する(BPS)

最低限 30ml/kgの晶質液を投与

頻回の循環動態評価?

CVP? 血圧? IVC径?

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CVPは指標になるか?

CVPの輸液反応性に関する43研究のシステマティックレビューDoes the central venous pressure predict fluid responsiveness?un updated meta-anlysis Crit Care Med 2013;41:1774-81

CVPと心拍出量の相関係数 0.18 ROC曲線下面積 0.56

CVPは輸液管理の指標として用いるべきではない。コインをはじいて決めるのと同じだ

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輸液反応性

②の時は、輸液負荷が効果的!

【正】

知識の卵(http://blog.livedoor.jp/megikaya/archives/35959892.html)

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輸液反応性の評価

敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生においては,用いる指標の限界を考慮して,必要に応じて複数のモニタリングを組み合わせて輸液反応性を評価することを推奨する(EC).

輸液反応性の評価1.Mini-Fluid challenge

1分間で100mlの晶質液負荷を行い、循環動態が改善するかどうか

2.Passive Leg Raising Test(PLR test)下肢を30~45°挙上して、1分以内に心拍出量が10%増加するかどうか

3.呼吸性変動による指標(SVV、SPV)フロートラックセンサー 自発呼吸時や不整脈時の信頼性の低下

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Mini-Fluid challenge

Anesthesiology 2017; 127:450-6

脳外科手術中に生食負荷し、SVIが上がるかどうか

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Anesthesiology 2017; 127:450-6

250ml投与でSVI 10%上昇⇒Responder(輸液反応性あり)

Responder群は100ml投与ですでに反応あり!

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ΔSV100のAUROC 0.95

100mlの生食負荷でSV6%増加すれば、輸液反応性あり!

Anesthesiology 2017; 127:450-6

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過剰輸液の有害性

EGDTによる過剰輸液は、ARDSの原因となり、人工呼吸器装着期間を遷延させ、死亡率を増加させる。

Shock 2014 Sep 22

過剰な補液によるCVPの上昇はAKIのリスクを増加させる。

Ann Intensive Care 2014;4:21-29

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グリコカリックスとは

Endothelial Glycocalyx Layer (EGL)

・血管内皮細胞管腔側の構造物・ヒトEGLの総量:700~1700ml・EGLの厚さ:2μm・陽電荷の高分子に対して半透性

水や溶質の出入りを制御血管透過性の維持に重要な役割

EGLは血管内容量過多、虚血再灌流、炎症により障害される。

過剰輸液がEGLの破壊を助長し、間質浮腫を増強する!

N Engl J Med 2013, Sep 26

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最適な輸液製剤は

①膠質液(アルブミン、HES) vs 晶質液(生食、リンゲル)

6S、CHESTHESによる初期蘇生の有害事象の指摘⇒90日死亡率、腎機能の悪化

敗血症におけるHESの有害性は、数々の大規模RCTで指摘!

アルブミン製剤 VS 晶質液は?

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N Engl J Med 2014 Mar.18

1818例の重症敗血症患者

晶質液単独vs晶質液+アルブミン製剤を比較した多施設共同RCT

28日死亡 32% vs 31.8%

90日死亡 43.6% vs 41.1%

ともに有意差なし!

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①敗血症や敗血症性ショックにおいて初期の輸液蘇生やその後の輸液は晶質液を第一選択とすることを推奨する(S、M)

②敗血症や敗血症性ショックで多量の晶質液投与が必要な場合、晶質液に加えてアルブミンを使うことを提案する(W、L)

③敗血症や敗血症性ショックではHESを使用しないことを推奨する(S、H)

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敗血症性ショックの病態

Warm shock Cold shock

末梢血管拡張

血液分布異常性ショックshock

血管透過性亢進

循環血液量減少性ショックshock

敗血症性心筋障害(SIMD)

心原性ショックshock

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末梢血管拡張

血液分布異常性ショックshock

血管収縮薬

血圧の目標値は?

血管収縮薬の選択は?

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血圧の目標値は?臓器血流は平均動脈圧に依存!

多施設共同RCT敗血症性ショック患者776例平均動脈圧 80-85mmHg(高目標群)vs 65-70mmHg(低目標群)主要評価項目 28日死亡率

N Engl J Med 2014 Mar.18

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28日死亡率 有意差なし高 vs 低 36.6% vs 34.0%

新規の心房細動は低目標群よりも高目標群で多かった

平均血圧目標は65-70mmHgでよさそう!

N Engl J Med 2014 Mar.18

①血管収縮薬を必要とする敗血症性ショックでは平均血圧65mmHgを初期目標とすることを推奨する(S、M)

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血管収縮薬の選択は?

DOAはNEと比べ、不整脈発生率、死亡率ともに高いと結論

NE vs DOA

CCM 2012;40 725-730

NEが第1選択!

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DOA vs NE 何が違うのか?

<敗血症性ショック早期>血管拡張物質による末梢血管拡張

+血管透過性亢進による循環血液量減少

α受容体刺激+輸液蘇生が治療としては理にかなっている!

<β受容体刺激の弊害>①β1受容体刺激により、不整脈、SIMDを惹起する②細菌のβ受容体刺激により、菌増殖、バイオフィルム形成促進③β刺激は単球/マクロファージの炎症物質産生を促進④リンパ球のアポトーシス、マクロファージの泡沫化を促進する⑤好中球の遊走能が阻害される

Β刺激は感染症治療にとって不利!

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②昇圧薬の第一選択薬としてはノルエピネフリンを推奨する(S、M)

③平均血圧の目標を達成するためノルエピネフリンにバソプレッシ(0.03U/

分まで)を加えることを提案する(W、L)

④ノルエピネフリンの投与量を減量するためにバソプレシン(0.03U/分まで)

を加えることを提案する(W、M)

<VASST study>NE vs NE+Vas

併用のほうが頻脈減少、心拍出量増加、尿量増加

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ステロイド

N Engl J Med 2018 Mar.1

敗血症性ショックにステロイドは有効か?

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敗血症性ショック患者 3658例ハイドロコルチゾン群 200㎎/24時間持続 vs プラセボ群

90日死亡率 有意差なし!

ハイドロコルチゾン群:27.9% プラセボ群:28.6%

N Engl J Med 2018 Mar.1

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ハイドロコルチゾン群でショック早期離脱ステロイドは死亡率の改善ではなく、昇圧薬としての効果を期待?

①敗血症性ショックにおいて輸液負荷と昇圧薬で循環動態が安定化した場合はハイドロコルチゾンの投与はおこなわないことを提案する。もし循環動態の安定化が得られない場合はハイドロコルチゾン200mg/dayの投与をおこなうことを提案する。(W、L)

N Engl J Med 2018 Mar.1

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敗血症性ショックの病態

Warm shock Cold shock

末梢血管拡張

血液分布異常性ショックshock

血管透過性亢進

循環血液量減少性ショックshock

敗血症性心筋障害(SIMD)

心原性ショックshock

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敗血症性心筋症(SIMD)

比較的早期に心筋障害が起きているのではないか?

敗血症早期の血管拡張や透過性亢進でマスクされている可能性

Web医事新報(https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=7505)

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敗血症性心筋障害(SIMD)

心原性ショックshock

β刺激?

血管拡張薬投与?

PDEⅢ阻害薬?

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EGDT 早期目標達成型治療(Early Goal-Directed Therapy)

敗血症性ショックに対し、速やかに初期蘇生を開始し、6時間以内に下記の指標の目標値を達成するように努力(1C)(院内死亡率を16%改善する N Engl J Med 2001; 345:1368-77)

中心静脈圧(CVP) 8~12mmHg(人工呼吸中12~15mmHg)平均動脈圧(MAP) ≧ 65mmHg

時間尿量 ≧ 0.5ml/kg/h

ScvO2 ≧ 70% or SvO2 ≧65%

開始基準 初期の輸液負荷後も持続する低血圧血清乳酸値 ≧ 4mmol/L

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EGDT(SSCG2012)

8~12mmHg

Septic shock 初期輸液 晶質液 30ml/kg

<8mmHg晶質液 or コロイド 輸液負荷継続

≧65mmHg

<65mmHgノルアドレナリン投与あるいはバゾプレシン併用

≧0.5ml/kg/h

CRRTを考慮?

CVP

MAP

尿量

ScvO2<70%

Hb 7~9g/dlを目標に輸血ドブタミンの使用?

<0.5ml/kg/h

<目標達成>

≧70%

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EGDTの検証(大規模RCT)

EGDTが標準治療群と比べて生存率の改善を示すことは出来なかった。

CQ7-1.初期蘇生にEGDTを用いるか?

A.敗血症、敗血症性ショックの初期蘇生にEGDTを実施しないことを弱く推奨する(2A).

EARLの医学ノート(https://drmagician.exblog.jp/22885959/)

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乳酸値の重要性

Sepsisにおけるショックの指標としては血中乳酸値が不可欠

乳酸値の改善を目標としたELGTプロトコールを追加

Early lactate-guided therapy in intensive care unit patients:

a multicenter, open-label, randomized controlled trial. Crit Care Med 2010; 182: 752-61

2時間で20%乳酸値の低下を目指す介入群と標準群介入群で輸液量が少なく、血管拡張薬の使用が多い

従来のEGDTプロトコールに比べSOFAスコア、死亡率を有意に改善(43.5%vs 33.9%)

乳酸値が上昇している患者では組織低灌流の指標である乳酸値の正常化を目標として初期蘇生を調整することを提案する(WR、LQ)

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β遮断薬は有効か?

Effect of Heart Rate Control With Esmolol on Hemodynamic and

Clinical Outcomes in Patients With Septic Shock:

JAMA. 2013 Oct 9

敗血症性ショック患者に対する短時間作用型β1選択性遮断薬エスモロール投与の効果を検証したRCT(Phase2 study)

・高用量ノルエピネフリンを要する敗血症性ショック患者を対象・エスモロール投与群(心拍数80-94/min)vs標準治療群

β遮断薬投与が敗血症性ショック患者に有効な可能性!SIMDの予防効果?感染症にも有利?

28日死亡率 エスモロール群vs標準群 :49.4%vs80.5%

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ビタミンCは有効か?

CHEST 2017;156(6):1229

ビタミンC 1.5g×4回/日チアミン200㎎×2回/日ハイドロコルチゾン50㎎×4回/日

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介入群 vs プラセボ群 8.5% vs 40.4%

院内死亡率 有意差あり

CHEST 2017;156(6):1229

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血管収縮薬の使用期間

介入群 vs プラセボ群18.3h vs 54.9h

有意差あり

ビタミンCの効果・活性酸素・フリーラジカルのscavenger

・炎症性メディエーターの産生抑制・血管内皮や上皮細胞のtight junction増加⇒血管内皮機能の回復、血管収縮薬の感受性増大

今後の研究に期待!

CHEST 2017;156(6):1229

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症例5%アルブミン250mlを全開投与、ノルアドレナリン持続投与開始し、循環動態はやや改善 血圧 75/45(54)mmHg 脈拍 110bpm

結石性腎盂腎炎に対し、手術室に移動し、尿管ステント挿入術を行った。

術中、再び血圧低下し、意識レベルも低下したため、挿管、人工呼吸を開始。ノルアドレナリン0.3μg/kg/minまで増量。下肢挙上、5%アルブミン100mlを行うも、反応乏しく、ショック状態遷延。

バソプレシン2U/hで投与開始し、ハイドロコルチゾン50mg静注

ステント挿入術終了し、ICUに帰室。血圧 61/36(44)mmHg 脈拍 110bpm

四肢末梢チアノーゼ(+)

動脈血液ガス pH 7.22 pCO2 35.2 pO2 119 BE -12.4 HCO3 13.8 Lac 8.0

さあ、どうしましょう?

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PMX-DHP

PMX-DHP(polymyxin B-immobilized fiber column-direct hemoperfusion)日本発のエンドトキシン吸着カラムグラム陰性菌感染症による敗血症治療に適応

抗菌薬であるポリミキシンBはエンドトキシンと結合する性質をもっており、PMXを吸着体として直接血液灌流させることによりエンドトキシンを吸着させる。本邦では1994年に保険適応となり,臨床使用されている。

Critical care 2014,18:309

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ABDOMIX study

・多施設共同(フランス18施設)RCT

・消化管穿孔による腹膜炎に対し、緊急手術を施行し、術後8時間以内に敗血症性ショックを発症した243例・PMXを施行する群としない群に無作為に割り付け

・Primary outcome 28日死亡率・Secondary outcome 90日死亡率、SOFA score、カテコラミン減少率

Intensive Care med(2015)41;975-984

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Primary outcome: 28日死亡率PMX-DHP群(119例): 27.7%標準治療群(113例): 19.5%

p=0.14(OR 1.5872, 95%CI 0.8583-2.935)

PMX群で死亡率が高い傾向(有意差なし)

消化管穿孔術後の敗血症性ショックに対するPMXは、標準治療と比較して、死亡率の減少につながらず、臓器不全を改善させなかった。

Intensive Care med(2015)41;975-984

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ただし・・・本研究の問題点①PMXに慣れていないフランスでの研究である点

PMX群のうち、約30%の症例は回路凝血などにより、治療を完遂できず②予測死亡率が高すぎた可能性サンプルサイズが少ない可能性がある。③post hoc analisisでIL-6の低い患者で、標準治療群の死亡率が低い

→high IL-6の患者では、効果がある可能性?④根拠はないが、今まで使用した経験から、効果のある患者とない患者の差が激しく、特定の患者群で効果がある可能性はある。

まだpubrishされていない EUPHRATES studyの結果待ち

CQ12-5:敗血症性ショック患者に対してPMX-DHPの施行は推奨されるか?

A:敗血症性ショックに対しては、標準治療としてPMX-DHPを実施しないことを弱く推奨する(2C)

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Potential survival benefit of polymyxin B hemoperfusion

in patients with septic shock: a propensity-matched cohort study.

Crit Care 2017; 21: 134

・日本で行われた後ろ向き多施設共同研究・JSEPTIC-DIC studyのデータベースの傾向スコア解析・16歳以上の敗血症性ショック患者1723例のデータを登録・患者をPMX-DHP治療群とPMX-DHP非治療群に分けた・主要評価項目は全院内死亡

【結 果】・1723例のうち,522例がPMX-DHPを受けた.・傾向スコアマッチングにより262組がマッチした・全院内死亡率はPMX-DHP非施行群よりも施行群の方が有意に低かった(32.8% vs 41.2%; OR 0.681; 95%CI 0.470-0.987; p=0.042).

敗血症性ショック患者でPMXが全院内死亡を減少させることを強く示唆

日本での大規模RCTが必要?

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初期循環管理

Septic shock 初期輸液 晶質液30ml/kg 3h以内

輸液反応性の評価(Mini fluid challenge、PLR test)

MAP<65mmHg

NE投与、あるいはVas併用

輸液負荷 継続 or 中止

ステロイド投与を検討

≧65mmHg

乳酸値

2時間おきに測定し、低下を目指す

<65mmHg

PMX?CRRT?

心エコー SIMDの評価 β遮断 or 刺激

ビタミンC?

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まとめ

①敗血症/敗血症性ショックを早期に認知・Sepsis3のアルゴリズムに沿って

②感染症の診断、治療を迅速に行う・血液培養2セット以上・画像診断・抗菌薬投与(1h以内)・感染巣コントロール

③初期循環管理・適正な輸液・血管収縮薬投与(NE+Vas)・乳酸値の低下を目指す・SIMDは?