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慈恵ICU Journal club 2014.5.13 齋藤 慎二郎
N Engl J Med. 2014 Apr 24;370(17):1583-‐93.
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始めに
• 敗血症性ショックのふれこみでICUに患者が来ました。
– まず輸液をしてその後、血圧のターゲットはいくつにしますか?
– 元々高血圧の既往やCKDがある患者だと知ったらターゲットを高めにしようと思いますか?
– 高めのターゲットとはいくつぐらいですか?
IntroducHon【背景】
• SSCG2008以降、臓器循環灌流量を維持する目的で平均動脈圧(MAP)を65 mmHg以上に保つように推奨されている。 – 根拠とされるRCTは小規模のもの1つのみ (Crit Care Med 2005; 33 :780-‐6)
• 敗血症性ショックの患者ではAKIを予防するにはもっと高いMAPが必要なのでないか。 – 敗血症性ショック患者の観察研究でMAPが低い患者でAKI増加。 (J Am Soc nephrol 2003; 14 : 1022-‐1030)
• 臓器血流のAutoregulaHonの下限は慢性高血圧がある患者では、健常人よりも高い。 – SSCG2012でも、個人の既往症によってターゲットのMAPをアレンジすることを推奨。
小規模ながらターゲット血圧で比較した初のRCT(フランス)
2012.8.21 井澤先生勉強会より 4
Lactate・尿量・血清Cr値・Crクリアランス いずれも有意な変化なし
Vasopressorを用いて MAPを65から85mmHgにする有効性なし
しかし、アウトカムが死亡率ではない。
5
2012.8.21 藤井先生勉強会より 6
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N Engl J Med. 2014 Apr 24;370(17):1583-‐93. 8
この研究の目的
• 敗血症性ショック患者の適正MAPを検討する。
• 慢性高血圧の既往がある患者は、より高いMAPで管理することで何らかのbenefitが得られるか検討する。
• より高いMAPをターゲットとすることで、有害事象の増加はないのか検討する。
Methods
Sepsis and Mean Arterial Pressure (SEPSISPAM) trial 【研究デザイン】 • 多施設共同 • フランス 29施設 • 前向き、無作為、非盲検化、比較試験 • 期間:2010年3月〜2011年12月 • 中央化割り付け • 慢性高血圧(過去に高血圧を指摘、あるいは降圧薬の内服をしたことがあるか)の有無で層別化
Methods 【選択患者】 • 18歳以上 • 敗血症性ショック – 輸液に不応性のショック
• 30ml/kgの輸液 or right-‐heart catheterizaHon, pulse-‐pressure measurement, stroke-‐volume measurement, or echocardiography
– 血管収縮薬(ノルアドorアドレナリン)使用 – 血管収縮薬使用から6時間以内
【除外基準】 • 法的に保護されるもの • フランスの健康保険に未加入のもの • 妊婦 • 他の医学的研究や介入研究に参加しているもの • 治療者が蘇生不可と判断したもの
Methods
【治療プロトコール】 • Low MAP group – ターゲットのMAPは65-‐70 mmHg。MAPが>70 mmHgに達したら0.05 μg/Kg/minずつ、>75 mmHgの時は0.1μg/Kg/minずつ血管収縮薬を下げる。最低1時間ごとに評価。
• High MAP group – ターゲットのMAPは80-‐85 mmHg。MAPが>85 mmHgに達したら0.05 μg/Kg/minずつ、>95 mmHgの時は0.1μg/Kg/minずつ血管収縮薬を下げる。最低1時間ごとに評価。
Low MAP group vs. High MAP group
血管収縮薬は1施設のみアドレナリンで、その他の施設ではノルアドレナリンを使用
最長で5日間継続。その後は医師の判断。
Methods
• High MAP group に割り付けられた患者で、以下の場合は、ターゲットを65-‐70 mmHgへ下げる。
– RCC 2単位以上を必要とする出血 – 心筋梗塞 – VT,VF – 循環の保てない上室性不整脈 – 腸管膜の虚血 – 四肢の指の虚血
Methods
• 輸液療法 – フランス集中治療学会の推奨する方法に従う。
• 使用禁止薬剤 – 利尿剤(溢水による低酸素、高K血症治療を除く) – NSAIDS – 不必要な造影剤や腎毒性のある抗菌薬
• RRTの導入基準は事前に決められている。 • 鎮静・鎮痛薬はRASS -‐3〜0に調節。
Methods
• 90日死亡率 • 臓器不全のない生存日数 – カテコラミン投与 – 人工呼吸 – RRT
• 重大な合併症イベント – 心臓 – 虚血 – その他
【1次評価項目】
28日死亡率
【2次評価項目】
Methods
【解析】 • サンプルサイズ – 死亡率 45%と推定。2群間で死亡率に10%の差があることを示す。検出力 80%、α=0.05で計算されたサンプルサイズ 800人
• 解析方法:IntenHon-‐to-‐treat • 盲検化: – 治療者は非盲検化。 – 患者、research staff members、members of the safety and wriHng commifees は割り付けを知らされない。
Results【患者選択】
• 800人の患者が登録され、最終的にそれぞれ388人ずつが90日間追跡、分析された。
• High-‐target groupのうち14人(3.6%)がadverse effectのためターゲットを65-‐70 mmHgへ下げた。
• 追跡率 84%
800人の登録患者(2名から同意得られず)
Results【患者背景】
• 慢性高血圧 (44.6% vs. 43.0%) を含め両群の患者背景に有意差無し。
• CKDと透析患者がLow-‐target群でやや多い傾向
• そのた、培養で検出された菌種(GPC,GNR)も有意差無し。
Results【患者背景】
登録時のAKIもlow-‐target群で多い傾向。
Results
【治療期間である5日間のMAPの推移】
• Low-‐target groupのMAPは明らかにHigh-‐target groupより低い. • さらに、Low-‐target groupのMAPはターゲット(65-‐70)よりかなり高い。
Results 【血管収縮薬使用と体液バランス】
• 両群で総輸液量、尿量、総体液バランスに有意差ない。 • ノルアド投与速度はHigh-‐target groupで有意に高い。 • Day1でノルアド投与速度の中央値はLow-‐Target groupで0.45μg/kg/min • High, Low-‐target groupでターゲットに到達できなかった患者はそれぞれ 64人(16.5%)、40人(10.3%)
Day1-‐5までのノルアドレナリン使用者割合と投与量
• Low-‐target群(Day1-‐5) 95%, 82%, 56%, 36%, 28% • High-‐target群 95%, 93%, 76%, 58%, 50%
Starch投与量
Day3での使用者がHigh-‐target群で有意に多い
Low-‐target High-‐target
Results【1次評価項目と2次評価項目】
• 1次評価項目である28日死亡率に両群で有意差を認めなかった。 34% vs. 36.6%, HR 1.07 (95%CI 0.89-‐1.29), P=0.57 • 2次評価項目である慢性高血圧を持つ患者のRRT施行率は、High-‐Target
Groupで有意に低かった。 (サブグループ間のinteracHonは有意。P=0.04) 42.2% vs. 31.7%, OR 0.64 (95%CI 0.41-‐0.99), P=0.46
Results【安全性】
• 重大な合併症全体では、両群に発生率に有意差無し。 • 心房細動発生率は、High-‐target groupで有意に高い。(2.8% vs. 6.7%,
P=0.02) • 心筋梗塞、VF or VT、虚血、出血の発生率に有意差無し。
Adverse eventの詳細
• Afは全体ではHigh-‐target群で多いが、慢性高血圧患者で層別化すると有意差なし。
• 出血の合併症は全体では有意差ないが、慢性高血圧のない患者ではlow-‐target群で有意に多い。
Discussion
【治療開始時の患者背景について】 • 両群の患者背景に有意差のある項目はなく、背景は等しい。
u ただし、 – Low-‐target group でCKDを持つ患者が多い傾向。 Low vs. High: 30(7.7% ) vs. 20(5.2%)
– Low-‐target group でAKIを持つ患者多い傾向。 Low vs. High: 188/386 (48.7) vs. 173/384 (45.1)
Ø RRT施行率に影響した可能性はないか。
Discussion 【1次、2次評価項目及び合併症について】 • 死亡率が、想定されていた45%より34-‐35%と低かった。 – 敗血症の管理が改善された? – 近年の敗血症性ショックのRCTと比べると妥当な死亡率。 – 検出力が低下して、心筋梗塞などのまれな合併症が見逃されている可能性。
• Afの発生頻度がHigh-‐target群で多かった。カテコラミンの用量と使用期間と関連するかも知れない。
u Afの頻度は許容できるか High-‐targetで心房細動のリスクが2.39倍に増加する。NNH=26。(26人に1人AF増える)
Ø その後の脳梗塞のリスクについては今回調査されていない。
Ø サブグループでは、慢性高血圧のある患者では、両治療群に心房細動の発生率に有意差がない。慢性高血圧のある患者では心房細動が増えないかもしれない。
Ø このくらいのリスクであれば、RRT減少のメリットを考えると高めの血圧で管理するのも妥当か。
u 出血の合併症が全体では有意差ないが、層別化すると慢性高血圧のない患者では有意にlow-‐target群で多い。 Ø 理論的には逆にhigh-‐target群で出血が多くなりそう。妥当性の検討が必要ではないか。
u 慢性高血圧症の患者のRRTの施行リスクをさげる。 42.2% vs. 31.7%, OR 0.64 (95%CI 0.41-‐0.99), P=0.46 – 慢性高血圧のある患者に対して、80-‐85 mmHgをターゲットにすることで、RRTの施行率が約36%減少する。(NNT=9.5)
Ø 死亡率が変わらないとしても、RRTによる合併症、コスト、医療資源を考慮すると十分有益な効果。
Discussion
【慢性高血圧について】 • 登録患者の40%以上。これは過去の研究と一致。 • 慢性高血圧の患者では、両治療群で重大な合併症の発生頻度に差がなかった。これはHigh-‐targetが許容できることを意味するのではないか。
u しかし、慢性高血圧症の定義が、「高血圧の既往 or 降圧薬の内服歴がある」であり、実際の病前血圧を反映するものではない。実際に良くコントロールされている高血圧患者では、auto regulaHonは保たれているはずである。
Discussion
【両群のMAPがターゲットより高かったことについて】 • 結果にどのように影響を与えたかは不明。 • 1つの理由として最近報告された研究の影響があるのではないか。治療者がFINNAKI studyの結果から影響された可能性。 (Crit Care 2013;17:R295)
u 65-‐70 vs. 80-‐85 mmHgの比較とは言えない。 u 安全性に関しても、真の65-‐70 mmHgとLow-‐target群の合併症の頻度が同様とは言えない。
Ø MAP 70mmHg前後での比較結果が知りたい。
2005年以降、敗血症患者のRCTのMAPの比較
Author PMID year n number of centers treatment
follow-‐up for mortality Mortality(%) MAP(mmHg) so-‐called…
Schortgen 22366046 2012 101 1 cooling hospital 43 74 sepsiscool 99 no cooling hospital 48 71
Boerma 19730258 2010 35 1 nitroglycerin hospital 34.3 72 35 placebo hospital 14.2 71
Cruz 19531784 2009 34 10 PMX hospital 41 84 EUPHAS 27 convenHonal hospital 66 77
Morelli 18308741 2008 20 1 NE ICU 70 74 DOBUPRESS 19 Terli+NE ICU 63 78 20 Terli+DOB+NE ICU 70 80
Russell 18305265 2008 382 27 NE 28days 73 73 VASST 396 vasopressin 28days 72 72
Stephens 18216600 2008 81 1 G-‐CSF hospital 27 77.2 83 placebo hospital 25 74.7
Albanese 16148457 2005 10 1 NE hospital 10 72 10 Terli hospital 10 69
Bourgoin 15818105 2005 14 1 NE 8hr ? 65 14 NE 8hr ? 85
2012.8.21 藤井先生勉強会より 33
Discussion 【その他の項目について】
u 輸液量や体液バランスに両群で差はないが、StarchのDay3使用者数が有意に High groupで多い。 Ø 高いMAPを維持するために、膠質液を使用した可能性。 Ø 腎機能への影響を考慮する必要性。
u 対象治療期間以後(day6以降)の治療に関する情報はない。 Ø day6以降の治療内容が予後に大きく影響した可能性は否定できない。
Ø 治療者は盲検化されていないので、day6以降の治療に先入観やバイアスが入る可能性は高い。
Discussion u Low-‐target 群のノルアドレナリンの初日投与量 0.45 μg/kg/
minは、我々が日常遭遇するsepHc shock患者での場合に比べて多い印象。輸液はどのように行われたのか?
Ø 輸液療法はフランス集中治療学会の推奨する方法。 (Crit Care 2006;10;311)
→EGDTにほぼ準じたプロトコール
u RRT施行率36%は? 過去に敗血症性ショック患者を対象としておこなわれたRCTの結果と、ノルアドレナリン投与量や、輸液量、バランス、RRT施行率を比較してみる。
Discussion
• 比較的輸液量は少なめで、血管収縮薬の使用量が多い。RRTの使用頻度も高い傾向。
他の敗血症性ショック患者のRCTとの比較
Editorial
この研究は3つの大きな臨床的意味を持つ l ルーチンに高いMAPをターゲットする意義はないこと。
Ø Afが増える Ø 生存率に差がない
l 高血圧の既往のある患者では高いMAPをターゲットにするとAKIやRRT使用の頻度が減るかもしれない。 Ø RRTのリスクとコスト Ø AKIの長期予後に与える影響
l 敗血症治療のターゲットMAPは患者の状況よって変化するかも知れない。 Ø 今後のターゲットMAPの研究が、治療戦略の鍵となる。
まとめ
敗血症性ショック患者の蘇生管理において • 目標MAPを80-‐85 mmHgとした管理は、65-‐70 mmHgの管理と比較して28 or 90日死亡率に有意な差を認めなかった。
• 敗血症性ショック患者に対してルーチンに高いMAPをターゲットにした管理を行う根拠はいまのところない。
• 慢性高血圧症を持つ患者は、高いMAPで管理した方がRRTの施行リスクを減らすかもしれない。
最後に
• MAP 70mmHg前後での比較が知りたい。
• 慢性高血圧患者に対する高いMAPでの管理は、この研究のサブグループ解析の妥当性としても信頼性が高い。
• このグループでの、さらに病前MAPあるいは高血圧症の定義を詳細にしたRCTが行われることに期待したい。