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限界集落の自立による地域活性化
東海大学 政治経済学部 2年
川野辺ゼミナール 日本経済論パート
中川 斉藤 増澤 菊池 竹川 石塚
第 15回公共選択学会学生の集い
「成熟経済・人口減少の時代にあって、地域社会・経済をいかに活性化すべきか」
東海大学 政治経済学部 川野辺ゼミナール 2年 日本経済論パート
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自立をすれば自治体に
与える影響は大きい
問題解決の糸口は地方にあり!
成熟経済・人口減少
中央集権的体制に問題
改善
改善策
地方の自立
地域活性化
限界集落
自立困難
好影響
・体質の改善
・出先機関の廃止
・補助金の統合整理
Etc…
・上勝町
・海土町
はじめに
問題意識
先行事例
政策提言
第 15回公共選択学会学生の集い
「成熟経済・人口減少の時代にあって、地域社会・経済をいかに活性化すべきか」
東海大学 政治経済学部 川野辺ゼミナール 2年 日本経済論パート
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目次
第 1章 はじめに
1-1 成熟経済 10
1-2 人口減少
1-3 地域活性化
1-3-1中央集権体制
1-3-2 地方の自立
15
第 2章 問題意識
2-1 少子高齢化と労働力人口の増減
2-2 集落の現状
第 3章 先行事例 20
3-1 上勝町概要
3-1-1 彩事業
3-1-2 会社のシステム
3-2 株式会社いろどりによる地域活性化
3-3 上勝好循環システム 25
3-4 UIターン者の誘致
第 4章 仮説の提示・検証
4-1 システムづくり
4-2 プロデューサー型リーダー 30
4-3 資源
第 5章 政策提言・結論
5-1 政策提言
5-2 今後の課題 35
5-3 最後に
第 6章 参考 URL・参考文献
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第 15回公共選択学会学生の集い
「成熟経済・人口減少の時代にあって、地域社会・経済をいかに活性化すべきか」
東海大学 政治経済学部 川野辺ゼミナール 2年 日本経済論パート
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第 1章 はじめに
まず初めに、今回の第15回公共選択論学会における「成熟経済・人口減少の時代にあって、地域社会・経済
をいかに活性化すべきか」という議題についての簡単な解釈を行う。
10
1-1 成熟経済
成熟経済とは一言でいえば“豊かではあるが経済が低成長の状態”である。今の日本の経済を考えるうえでは、
この「成熟」という概念がきわめて重要なカギとなる。というのも今の日本社会はバブルの混乱期を乗り越え、まさ
に“成熟経済”を迎えているからである。経済の成熟による具体的な変化としては、生産力の拡充にともなう経済
的な「豊かさ」の実現と、経済成長のペースの鈍化の二つが軸となる。 15
経済が成熟するプロセスでは、さまざまな産業が発展することにより商品・サービスの生産が増加。その結果経
済は成長し、人々の生活が豊かになるという変化が起こる。しかし、そうした変化が進むにつれて、経済が成長す
るペースは次第に鈍化していく。
社会データ実情グラフ(2012) 「経済成長率の推移」 20
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4400.html(2012年 7月 30日)
図-1 は経済成長率の推移を表している。この経済成長率とは、実質 GDP の対前年度増減率のことであり、経
済規模がどれだけ伸びたかを見ることができる。景気変動により短期的に大きな変動こそあるものの、長期的な傾
向としては、「高度成長期」から「安定成長期」、「低成長期」へと移り変わるにつれて経済成長率が段階的に低下25
しているのが分かる。
なぜペースが鈍化するかというと、高度成長期の時代とは違い、人々の様々なニーズに対応する物やサービ
スが揃い、魅力的な製品が伸びなくなり、潜在的供給能力は拡大し需要を超えてしまうからである。高度成長期
の時代においては社会インフラや商品は充実してゆき、生産性向上だけが経営者の課題であった。このような経
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済では雇用は安定し社内教育は人間重視でスキルを磨き一生懸命働けばどんどん豊になってゆくという経済メカ
ニズムが働いていたといえる。しかし、今の成熟経済においては生産性が上がった分だけ商品が売れるわけでは
なくなるため、労働力がだぶつき始め慢性的な長期不況状態になってしまった。
不況下では企業では雇用を真っ先に減少させる。1990 年以降企業ではリストラ、人員削減、派遣雇用の移行、
海外移転で人件費圧縮を図るようになった。その結果失業率増加となり 5%を超えるにいたった。2000年以降の構10
造改革時代には競争社会や市場原理がもてはやされ、不況はさらに深刻化してしまい、格差拡大も大きな問題
点となってしまったといえる。
このように成熟経済における問題は企業に止まるものでは無く、雇用・格差といった形で国民にも重くのしかか
ってくるために、人々は“豊な生活”をしていると言われてもそれを感じにくいのが現状だろう。そのために、今後
の日本にはこの成熟経済を乗り越えるために企業戦略・産業構造と個人の働き方・就業構造を転換し、経済社会15
構造の行き詰まりを打開することによって、国家としての成長と個人の豊かさを再接合し「成長のための成長」で
はなく「豊かさを実感できる成長」へ転換する必要性が問われてくる。
1-2 人口減少
図-2は日本の合計特殊出生率を示したグラフである。戦後直後(1947年)の第一次ベビーブーム時、日本の合20
計特殊出生率は 4.54であったが,その後は急速に低下し、61年には 1.96と2倍以下の数値が出された。その後、
第二次ベビーブームもあり、一時的に持ち直す動きもみられたものの、75 年以降は恒常的に2を下回り始めた。
そして、89年は 1.57ショックを経験し、2005年には 1.26 まで低下するに至っている。
出典:厚生労働省(2012)「人口動態調査」 http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html (2012年 9月 5)
25
そして一方では老齢人口が増加し、1950 年には総人口の5%未満だったが、70 年には「高齢化社会」の定義
である7%を超え、さらに 94年には「高齢社会」の定義である 14%を突破、06年 12月時点で 20.9%に達してい
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る。高齢化の進展は欧米先進諸国でも問題とされているが、日本は諸外国に比べ少し特異な性質を持っていると
いえる。その性質とは高齢者の増加するスピードの速さである。アメリカではこの高齢化社会から高齢社会に至る
までに 72 年、イギリスは 47 年、フランスは 115 年、ドイツは 40 年かかったが、日本では 24 年で到達するなど日
本での高齢化の進展テンポの速さは群を抜いている。これがいかに深刻な問題であるかは自明である。
上記した少子化問題と急激な高齢化問題を合わせ「少子高齢化」と呼称しているが、一般的には出生率の低10
下と長寿化によって、高齢者の相対的な増加という高齢化を引き起こし、最終的に人口減少がもたらされる。
日本の総人口は 05 年(1億 2,777 万人)にピークを迎え、既に減少局面に入っているとされている。国立社会
保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、今後とも総人口は減少し続け、2025 年には1億2千万人、2036
年には1億1千万人、2046年には1億人を割り込み、055年には 8,993万人まで減少することが予想されている。
この人口減少によって、特に生産年齢人口(15~64歳)の減少はそのまま働き手の不足を招く。同時にその15
人々は国内需要を支える消費者でもあるので、需給両面の市場の縮小をもたらす。そして、増え続ける高齢者向
けの社会保障コストもかさむ。これらは成熟経済における経済成長の鈍化の大きな要因であると言えるだろう。
国立社会保障・人口問題研究所(2006)「日本の将来推計人口」
http://www.ipss.go.jp/pp-newest/j/newest03/newest03.asp(2012年 10月 10日) 20
図3のように日本の生産年齢人口は 1995 年にピークを迎え、一足先に減少傾向へ転じている。人口減少にと
もない、生産力の低下をまぬがれない日本経済は今後もこの状態が続くだろう。
今現在、日本は成熟経済・人口減少の時代を迎えているが、日本経済の未来が発展するのか、はたまた衰退
の一途を辿るのかという岐路に立たされているといっても過言ではない。では、その問題を解決するためには何を25
どうすればいいのだろうか?私たちはその答えが地方地域にあると考えた。
1-3 地域活性化
一言で「地域活性化」といってもその語彙の範囲は広く、とても抽象的である。論点を曖昧にしないためにも「地
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Lb
Mb
L La
限界効用・限界費用
P
Qa Q Qb
Ma
限界費用
地域 Bの限界効用
地域 Aの限界効用
公共財の供給量
図-4 オーツの分権化定理
域」と「活性化」の定義を明確にする必要があると私たちは考えた。 5
まず、「地域」という言葉についての定義だが、私たちは「市町村」を今議論内での「地域」に据えることにした。
というのも少し安直ではあるが「市町村」という最小範囲の自治体が経済発展をすれば、その自治体を抱える「都
道府県」の発展に繋がり、最終的には日本全体に好影響を与えるのではないかと考えたからである。
次は「活性化」についての定義だが、私たちはこれを「各々が独自のアイディアをもって経済成長を成し遂げ、
経済的自立を成すこと」とした。ここで注目してほしいのは“各々が独自のアイディアをもって”という場所である。10
なぜなら私たちが提唱する限界集落の自立には日本の中央集権的体制が大きな足かせとなっているからだ。
1-3-1中央集権体制
中央集権体制は、幕藩体制崩壊後の近代化を目指す過程や戦後の復興期において、長く有効的に機能して
きたと考えられる。しかしながら、成熟経済に入り、経済や国民の生活水準が一定レベルに達し、個々人の価値15
観が多様化した今、中央政府が全国画一的に政策を行う中央集権的なシステムよりも、地方政府が住民のニー
ズに合わせて独自の政策を行う地方分権的なシステムが望まれるようになった。
しかし、そのためには現在中央政府に与えられている権限を地方政府に移譲しなければならない。このような
地方分権問題は、長年さまざまな形で私的及び公的な機関によって議論されていたものの、地方政府への補助
金の交付と結びついている権限を失うことに強く反対する中央官庁の抵抗が主たる原因で進展していなかった。 20
中央集権的なシステムに対する様々な不満を背景に世論が高まり、地方分権の必要性や方向性が明確に示
され、中央政府が実質権限を握っていた機関委任事務の廃止や補助金の整理統合など、かなり具体的で実現
性のある議論がされるようになったのは最近のことである。
出典:日本経済研究センター(2009)「まったなしの地方分権」25
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http://www.jcer.or.jp/report/econ100/pdf/econ100bangai090727-2.pdf (2012年 10月 1日) 5
オーツの分権化定理1から中央集権の非効率性を分かりやすく見ることができる。すなわち、ある公共財を供給
する際に、国が全国一律に価格PでQの供給水準を定めたとすると、地域Aでは超過供給(ΔLLaMa)、地域 B で
は不足(ΔLLbMb)となり、社会全体で見るとこれらの合計が、厚生損失となってしまうというものである。
それぞれの政策が住民の厚生に与える影響は時代と共に変化するにもかかわらず、これまでこれらの問題が、10
あまりチェックされてこなかったのは非常に大きな問題だろう。そもそも政策の決定権限は、住民にとってより望ま
しい政策を採ることが出来る主体に配分されるべきである。決定権限が中央政府におかれている政策下では、地
方政府は中央政府の出先機関として政策の執行のみを委任されており、地域独自の政策を行えない。もし地方
政府の判断により、中央政府よりも地域住民のニーズにあった政策を行い、高い厚生を達成することが出来るの
であれば、政策決定の権限を地方に委譲するべきである。そうして地方に権限を与え、現在の政府が行っている15
非効率的な地方への政策介入を除去することによって、社会厚生の増大が望まれると考察できる。
【表-1】
省庁名 地方支分部局 予算(百万円) 職員数 省庁名 地方支分部局 予算(百万円) 職員数
国 土 交 通 省 地方整備局 8,096,096 21,368 国 土 交 通 省 気象庁管区気象台 36,387 4,006
農 林 水 産 省 地方農政局 1,154,867 16,048 法 務 省 地方入国管理局 21,552 2,869
国 土 交 通 省 北海道開発局 836,029 5,776 法 務 省 保護観察局 15,942 1,195
防 衛 省 地方防衛局 686,341 2,589 総 務 省 総合通信局 14,781 1,439
厚 生 労 働 省 都道府県労働局 645,354 22,603 国 土 交 通 省 航空交通管制部 12,824 1,273
財 務 省 国税庁国税局 542,433 54,689 環 境 省 地方環境事務局 12,584 381
農 林 水 産 省 林野庁森林管理局 421,602 4,707 法 務 省 公安調査庁公安調査局 10,777 1,153
法 務 省 法務局 154,374 11,090 総 務 省 管区行政評価局 7,671 877
内 閣 府 沖縄総合事務局 141,257 988 厚 生 労 働 省 地方厚生局 6,527 623
国 土 交 通 省 海上保安庁管区海上
保安本部
134,459 10,840 法 務 省 矯正管区 3,553 177
経 済 産 業 省 経済産業局 115,544 1,852 法 務 省 地方更生保護委員会 2,370 258
財 務 省 税関 89,123 8,565 農 林 水 産 省 水産庁漁業調整事務所 2,055 172
財 務 省 財務局 86,082 4,770 宮 内 庁 京都事務所 1,482 76
警 察 庁 管区警察局 49,900 4,474 公正取引委員会 地方事務所 1,250 164
国 土 交 通 省 地方運輸局 49,539 4,478 厚 生 労 働 省 中央労働委員会地方事務所 346 30
国 土 交 通 省 地方航空局 37,496 4,343 文 部 科 学 省 水戸原子力事務所 29 7
合 計 13,240,496 179,180
1中央政府が一律に供給するよりも、地方政府が住民の選好に応じて公共財を供給するほうが効率的にな
ることを示す。 経済学者であるオーツ(1972)により提唱された
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出典:地方分権改革推進委員会(2009)「地方支分部局の組織・予算等の概況」
http://www.cao.go.jp/bunken-kaikaku/iinkai/chousashiryou/01chousa/01chousa2.html(2012年 10月 2日)
上表から現在、国が地方の出先機関で行っている事務事業は多岐に亘り、多くの予算と人員を抱えているの
が分かる。しかし、これだけの組織を地方に張り付け、国が事務事業を行う必要性はおそらくないだろう。地方に10
任すことができる仕事が多いのは明白である。
これらの事業を財源とともに、国から地方へ移譲し、国の出先機関を大幅に廃止または縮小すれば、行政コス
トの削減、二重行政の解消のほか、地方の実情に合った行政サービスの提供が可能となるなどのメリットが期待で
きるだろう。
15
1-3-2 地方の自立
1-3-1 から中央集権体制の問題点と地方分権の必要性を挙げたが、どのような状況になれば自立といえるのか
を明確にする必要がある。
自治体を広域化することによって行財政基盤を強化し、地方分権の推進に対応することなどを目的とする、平
成 11 年(1999)から市町村合併特例新法が期限切れとなる平成 22 年(2010)3 月末までに政府主導で行われた20
「平成大合併」によって人々をまとめる単位が大きくなりすぎてしまい、多くの地方地域が主体性を失ってしまった。
主体性を失ったことにより行政への依存意識が強まってしまい、より自立しにくい環境になってしまったといえる。
最近地域住民による地域ビジョンづくりが進められるようになったが、急に「ビジョンづくりを」と問いかけても、こ
れまでは行政が用意した案に対して意見を述べる程度で、地域の人々は自らビジョンをつくった経験がないため
に動くことができない。したがって地域コミュニティの自立は、自らの努力だけで実現することは現段階では難しい25
と考えられる。
行政主導で始められたものであれ、民間団体の提案から生まれたものであれ、あるいは住民たちの間から湧き
上がってきたものであれ、いずれにしても地方の町づくりには行政と民間組織とが互いに協力しあうことが大切と
なってくる。したがって、双方には適度な距離感が求められる。行政にとっては民間団体の持つ「機動力」「意思
決定のスピード」「柔軟性(実験的・試行的取組み)」などが足りておらず、また民間団体にとっては、行政がもつ30
「事業権限(資金力、実現性:事業展開に向けての豊富な事業化支援)」「継続性」などが弱い。この協同体制づ
くりがうまく進めば互いにないものをうまく補完しあい、共通の目的である“地域づくり”をより円滑に進めることがで
きるだろう。
つまり、地域の自立を定義するならば、地域ビジョン(地域計画)の策定と事業実施の支援、地域コミュニティの
運営をはじめとした地域づくりにかかわる人材育成、活動に必要なノウハウをはじめとする情報提供、地域組織の35
活動拠点の整備などといった“自治体の役割”を行政に頼らずこなしたときであるといえる。
地方自治体は上記したような自分達に与えられた仕事し、行政は地域コミュニティが自立して活動するための
制度面での保障、そのための住民自治基本条例などの整備、あるいはこれに代わるルールづくりなどをして、地
方地域をバックアップする。こうした関係が理想的な地域のあり方だろう。
経済の成長率が鈍化し、不況と言われている今だからこそ、疎かにされがちな地方経済を盛り上げて国に活力を40
もたらす必要があるはずだ。
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第2章 問題意識
第1章で地方地域の自立について述べたが、現在の日本には非常に自立の困難な地域が存在する。それは
“限界集落”と呼ばれる場所である。限界集落とは“山間部で集落を構成している人口の50%以上が65歳以上で、
農作業や、冠婚葬祭などの集落としての共同体の機能を維持することが限界に近づきつつある集落”と定義され10
ているが、これから地方自治体が発展していこうとする中で限界集落を抱えているとすれば、他の地域よりも地域
運営が難しくなるであろうし、競争する上で非常に不利になると考えられる。
そこで、限界集落を自立させることができれば地方間においてフラットな競争ができ、地方地域の発展がより活
発になるのではないかと私たちは考えた。
しかし、限界集落の自立には様々な問題点がある。下記ではその問題点について述べたい。 15
2-1 少子高齢化と労働力人口の増減
労働力人口の増減を15歳以上人口の変化、年齢構成の変化、各年齢階級別労働力人口比率の変化の各要
因により要因分解をすると、年齢構成変化要因のマイナスの寄与が続いており、高齢化影響により、労働力人口
比率が相対的に低い高齢者層の人口が増えているため、労働力人口を減らしているのが分かる。特に、団塊の20
世代が60歳に到達した2007年以降、年齢構成変化要因のマイナスの寄与が大きくなっている。一方、こうした労
働力人口制約要因がありながらも、2007年までは景気の回復にともなう就業機会の拡大によって、労働力人口比
率は高まり、特に、高齢者の労働力人口比率の上昇によって、労働力人口比率要因がプラスに寄与していたが、
2008年に入って景気後退を背景に労働力人口比率要因が縮小し、全体として労働力人口は減少に転じている
のがわかる。 25
出典:総務省統計局(2012)「労働力調査」http://www.stat.go.jp/data/roudou/(2012年9月5)
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5
では、労働力人口がどれほど減っているか。図-5により、労働力人口の推移をみると、長期の増加傾向にあっ
たが、1998年の6,793万人をピークに減少に転じ、景気拡張過程の中で2004年代半ばから緩やかな増加もみら
れたが、2008年に入って再び減少に転じるなど、長期の減少過程にある。2010年の労働力人口(季節調整値)は、
1〜3 月期に6,605万人、4〜6 月期に6,576万人、7〜9月期に6,593万人、10〜12月期に6,585万人となり、年平
均では6,590万人で前年差27万人減となった。 10
このように、総人口が減少局面に入り、しかも少子高齢化が今後も進行していくなど労働力供給が制約される
なかで、経済社会を支える労働力の確保は、重大な問題であることがわかる。
とくに限界集落においては、少子化・高齢化ともにその進行が深刻化しているため、労働力の確保の重要度は
他の地域よりも高いといえる。
15
2-2 集落の現状
2国土交通省によって平成18年度に実施された「国土形成計画策定のための集落の状況に関する現況把握調
査」(以下、「18年度調査」という)によると、18年度調査の対象である775市町村、1,445 区域において現存する
(居住者のいる)全集落数は、62,273集落だというが、この内の約15%(8,859 集落)は、集落機能が低下もしくは
維持困難になっているという。特に、小規模集落や高齢化の進んだ集落ではその傾向が顕著であり、集落規模20
が10世帯未満の集落では、約半数の集落が、機能低下もしくは維持困難と考えており、高齢者割合が50%以上
の集落では、約4割の集落が、機能低下もしくは維持困難と考えていることが分かった。
18年度調査では、この10年間で200近くの集落が消滅していることが明らかになったが、今後10年以内に消滅
するおそれがあると予測される集落は423集落あると見られ、いずれ消滅するおそれがあるとみられる集落と合わ
せると、全体の3.9%(2,638 集落)で今後集落が消滅する可能性があると予測されている。なお、11年度調査時25
に消滅が予測されつつ、実際には18年度調査時でもまだ消滅していなかった324集落をみると、人口・世帯数とも
に小規模であり、住民全員が65歳以上の集落が約2割にのぼるなど、かろうじて消滅を免れて現存しているという
べき状況であるという。
当然ながらこうした問題を解決するために、今まで国や自治体は地域全体の活性化策や雇用創出の手段とし
て、企業誘致や公的資金の投入、助成金などをはじめとする様々な支援を行ってきた。しかし、第1章において30
説明したような主体性の損失により、うまく資金を運営できなかったり、国・自治体そのものの財政難などによって
公的資金の投入や助成金なども減ってしまったりするなど、従来の地域支援はその有効性を失ってきている。ま
た、国・自治体の支援活動そのものが弱体化してきており、地域の衰退に拍車をかけているともいえる。具体的な
失敗例を出すとすれば北海道夕張市が深刻な財政状態から財政再建団体へと転落した事案が挙げられる。
夕張市は歴代の自民党政治が押し付けた石炭産業つぶし・不徹底な閉山後の復興支援、全国的な観光開35
発・リゾート計画、無責任な大企業の地方進出と撤退、地方交付税削減に象徴される地方切り捨てなど、国レベ
ルの悪政に、市民の自治機能の未成熟さが相交わって現在のような姿になってしまった。これはまさに上記して
きた問題を放置した場合の末路であるだろう。
つまり、やり方を間違えれば限界集落を再生するどころか夕張市のような地域を増加させてしまう可能性が十
2国土交通省『維持・存続が危ぶまれる集落の新たな地域運営と資源活用に関する方策検討調査』より引用
第 15回公共選択学会学生の集い
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分に起こり得る。これらが非常に深刻な問題であることは言うまでもない。
では、“限界集落を自立させるためには具体的にどのようなことをすればよいのか”を問題意識に据えて議論を
展開していく。
10
第 3章 先行事例
1章・2章と問題を提示してきたが、ケーススタディーとして実際に地方地域で自立に取り組み、成功している場
所を探すことにした。そこで私たちは「徳島県・勝浦郡・上勝町(かみかつちょう)」に目をつけた。当町は私たちの
想定する理想的な地域活性化のモデルであり、日本の地方経済が抱えている問題を解決するためのアイディア15
がたくさん見られるため、今後の議論をこの「上勝町」を中心に据えて展開することとする。
3-1 上勝町概要
ではまず、「上勝町」という地域の概要から説明したい。上勝町は、県庁のある徳島市から南西方向に40km、車
で約50分の位置にある。地形的には四国山脈の南東山地にあり、標高1,439mの高丸山を最高峰とする山脈が20
重なり、東流する勝浦川は、深い渓谷をなし、その流域にごくわずかな平地が見られるほかは、大部分が山地で、
山腹斜面に階段状の田畑があり、標高は100mから700mの間に大小55の集落が点在している。
以上のように、あまり住み心地の良い場所ではない上に、四国で最も小さな町として知られている上勝町だが、
町の人口は、国勢調査結果によると、1955年の6,265人をピークに毎年減少し、2000年には2,124人と45年間で
66%の減少となり、高齢化率は44.1%、2010年度には58.2%にまで上昇、このように過疎と高齢化が同時進行し25
ていた。当時、過疎と高齢化についての結果を受けた上勝町は平成3年度に「いっきゅうと彩りの里・かみかつ」を
キャッチフレーズに、まちづくりに取り組んできた。町の基本構想、振興計画の策定で、このまちの活性化とは「次
代を担う若者定住」と位置づけ、その一環として「人づくり」「若者定住政策」「住環境の整備」に取り組んだ。
このような「町と市民」の繋がりを密接にする政策を積極的・継続的に行ってきた当町だが、残念というべきか平
成22年に行われた国勢調査のデータを見る限りでは総人口は1,784人と右肩下がりであり「人口減少」の波には30
抗えていないのが現状である。
果たして今の地方の社会において出生率の低下と若者の都市部への流失を食い止めることは可能なのか?上
勝町の最大の弱点はここにあるだろう。しかし、実は上勝町は人口の減少を防ぐことができなかったものの、“労働
力人口”を増やすことには成功しているのだ。
先ほどから“労働力人口”という言葉を多用しているが、この言葉の定義は「就業者(就業者調査週間中,賃金,35
給料,諸手当,営業収益,手数料,内職収入など収入(現物収入を含む。)になる仕事を少しでもした人、収入に
なる仕事を持っているが,調査週間中,少しも仕事をしなかった人のうち,次のいずれかに該当する場合も就業
者とする)と完全失業者を合わせたもの」である。当然第一線を退いた高齢者や、専業主婦はこれに該当しない。
つまり、以上のような高齢者・専業主婦らでも簡単に働くことのできる職場・環境があれば“労働者人口”を引き
上げることは可能であるといえる。先ほど述べた上勝町の成功とはまさにここに因るものである。 40
では、上勝町がどんな取り組みを行っているかについて説明する。
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「成熟経済・人口減少の時代にあって、地域社会・経済をいかに活性化すべきか」
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3-1-1 彩事業
現在上勝町には、地域資源の有効活用と雇用確保を目的に木・国調・きのこ・交流・営業企画といくつかの第
三セクター形態の会社が存在しているが、私たちが注目したのはその中の一つであるいろどり事業を推進するた
めに1999年に設立された「株式会社いろどり」である。上勝町が70%を出資している同社は上勝町役場の一角に
オフィスを構え、取締役の横石氏を含めた3人の社員でいろどり事業の心臓部である情報ネットワークシステムの10
運用や、受注情報の管理や情報発信による市場開拓など、当事業の実質的な運営を一手に引き受けている。
「彩」とは、紅葉、柿、南天、椿の葉、梅・桜・桃の花など、料理のツマモノに使う材料のことで、これを商品として販
売している。他に松葉や稲穂などで作った祝膳用の飾り物や箸置き、食用の山野草、食用花などを出荷している。
上勝町は以前から花木の産地であり、簡易なハウスで枝物を早く開花させ花市場に出荷していたが、JA職員がこ
れらの小枝が料亭などの盛りつけ飾りに重宝されているという情報を得て、昭和61年から試験的に取り組みはじ15
めた。これらの生産物は軽量であるが付加価値が高く、女性や高齢者でも容易に生産に携わることができること
から、生産設備に大きな投資をすることなく地域に残った人たちだけでも十分対応可能となっている。上勝町の
成功のポイントはまさにここにある。当初は年間100万円程度だった出荷額も、現在では約200名の生産者で、
年間2億円の規模にまで成長しているという。
出典:矢野正高(2011)「上勝町は過疎化・高齢化の流れを止めているか」20
http://www.rikkyo.ac.jp/sindaigakuin/sd/research/journal201110/pdf/009.pdf (2012年8月12日)
上図は上勝町の人口と葉っぱビジネスの売上の推移を表している。人口が緩やかに減少していることから、過
疎化が進んでいることが分かる。これに対し、葉っぱビジネスの売上は堅実に上昇を続けており、上勝町における
葉っぱビジネスが地域再生の優良事業であることを裏付けている。 25
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3-1-2 会社のシステム
同社は全国の市況をにらみ、過去の販売実績などから、出荷すべき商品などの情報を農家にアドバイスする。
それを元に農家が農協に出荷した売上げの5%を同社に支払う仕組みとなっている。同社は生産と出荷のパイプ
役となり、情報発信センターの役割を担っている。出荷の仕方は大量生産でなく多品目を少量ずつ扱い、日々の
商品を全国にFAXしている。いまは何が最盛期なのか、残量はどのくらいか、珍しい山菜を知らせ、利用法を提10
案するという。その上で注文を受けつける。注文が入ると、参画農家に対し、上勝町の防災無線を使った同報ファ
ックスで送信。受注は先着順で行われる。そうした素早い出荷と突然の注文に対応できるようなシステムを構築し、
高齢者でも簡単に操作することができるようにマウスとキーボードを改造したパソコンを生産者全戸に導入した。ま
た、それだけではなく参画農家がパソコンを使い、市場動向や、自分が出荷した商品の価格と売上高を確認でき
るようになっているという。午前11時までに受け付けた注文は、その日の13時には出荷できる体制となっていると15
いうが、必要なものを必要な時に必要な量だけ提供できる仕組み、私事ながらこれは非常にうまくできているなと
感心させられた。
葉っぱビジネスを考えたとき、需給のマッチングが成功して初めて市場が生まれる。例えば消費者が桜の花が
欲しいと考えている時、紅葉の葉は何の意味も持たないが、桜の花であれば多少高値でも購入する。かといって
必需品ではないから、あまり高価だと敬遠されてしまう。さらに需要以上に桜の花を供給するとこんどは値崩れし、20
皆の利益が少なくなる。絶妙なバランスの上にこの市場は成り立つのである。そんな中で売上げを上げていくた
めには、消費者が欲しいタイミングで、欲しい商品を、適切な量だけ供給できる体制を確立することが重要だ。そ
のためには市場の出荷量や商品ミックスに対するニーズに柔軟に応じられ、しかも供給するタイミングや量を調整
する機能が必要である。上勝町では、この体制を独自の情報インフラ「彩ネットワークシステム」と、その上で提供
される情報によって実現している。また、そのような会社の形態・葉っぱを売るという業務内容のみならず、連絡に25
防災無線を使用したり、高齢者でも簡単に扱えるような“商品を発送するためのデバイス”を作成したりするなど、
このようなアイディアは当時日本では初めての試みがほとんどであり、その発想力と実行力には今後の他の限界
集落がとるべき政策のヒントが垣間見える。
3-2 株式会社いろどりによる地域活性化 30
3 『日経デジタルコア・CANファーラム共同企画「地域情報化の現場から」』によると上勝町には寝たきりの高齢
者が2人しかいないと書いてある。平均年齢は70歳,生産者は約200名という中で、そんなことがありえるのだろう
か。さらに納税までしている。この記事は本当に興味深いものであった。高齢者にもかかわらず「おばあちゃん」た
ちはとても元気である。自分達がお金を稼ぐようになって、納税し、介護や寝たきりとは無縁の生活を送っている
のだ。「寝ている暇がない。」そういうおばあちゃん達は、日々目標とそれを達成することで感じる生きがいを持っ35
て生き生きと働いているという。
株式会社いろどりが革新的な仕組みをつくり、住民が一体となってこのシステムを取り入れた結果、地域の高
齢者が活力と生きがいを取り戻した。元気な高齢者が増えると町全体も元気になる。今では上勝町は徳島で最も
高齢者医療費が安いという。それだけでなく、いろどり事業への注目が高まるにつれマスコミに取り上げられること
3『日経デジタルコア・CANファーラム共同企画「地域情報化の現場から」』より引用
http://www.nikkei.co.jp/digitalcore/local/18/index.html
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も多くなり、いろどり事業が町の自慢と自信に繋がったという。
また、自信だけではなく、実際にこのシステム・事業が徳島県に与えている影響は非常に大きいといえる。
表-2
上勝町 経済財政 基本情報(2008年版)
歳入額 2,480(百万円) 1671位/1750
歳出額 2,376(百万円) 1688位/1750
財政力指数 0.14 1646位/1750
実質収入比率 5.5(%) 514位/1750
実質公債比率 9.7(%) 347位/1750
地方税額 141(百万円) 1709位/1750
完全失業率 2.1(%) 25位/1750
出典:経済バンク(2008)「上勝町 経済財政 基本情報」
http://www.keizai-bank.com/shicho/1391.html(2012年10月3日) 10
表-2を見ると、上勝町の2008年の歳入決算総額は2,480百万円、歳出決算総額は2,376百万円と、この時点で
収入が支出を上回る黒字経営に成功していることが分かる。さらに実質収支比率は5.5%と統計を取っている
1,750地域中514位と非常に高い数値をだしている。さらに、地方公共団体の財政力を示す指標である財政力指
数は0.14(1646位/1750)。実質的な公債費(借金)が財政に及ぼす負担を示す指標である実質公債費比率の割15
合は9.7%(347位/1750)、労働力人口は1,024人で完全失業者数は21人。完全失業率は2.1%を記録するなど、
上勝町の地域運営が順調であることが分かる。
実質足手まといとされてきた限界集落がこうして黒字経営をすることにより、マイナスがプラスへと転換するので、
やはり限界集落を自立させる意味・効果は非常に大きいと考察される。
20
3-3 上勝好循環システム
4高知工科大学大学院起業家コース( 2004) 『木の葉、売ります。』 ケーユーティー によるとこのように上勝町
を活性化させたシステムを「上勝好循環システム」と称し以下のように綴っていた。
①地域ブランド 25
・地域すべての魅力を演出
・町づくりの総合力と自然環境などを全面的に売り込む
・外部からの評価を高める
②知恵を生む
・町の特徴、資源をどうやって活かすか 30
・商品の価値をどうやって作るか
4 高知工科大学大学院起業家コース( 2004) 『木の葉、売ります。』 ケーユーティー
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・個人が情報を読み、考え、行動する力を作るトレーニング
③全員の力
・気を育てること「やる気」を起こす
・誰もが主体者意識を持つ
・商品の自慢を探し、共有体制の確立 10
このように「上勝好循環システム」は一つの目標を持つのではなく三つの柱が一つの大きな強い柱となり「いい
話題」が起こり「地域に活力をあたえる」ことにより住民の「所得の向上」をもたらす、理想的な循環システムといえ
るだろう。一般的に「システム」と名のつくものは無機質な感じがすると同時にその場にいる人達や担当になって
いる人々が参画しているケースはあるものの、上勝町の“それ”のように上勝町のすべての人がシステムの一部と15
なり、いろいろな知恵をだし、地域が元気になっていく喜びを感じて毎日を生活していることは非常に珍しく、他の
地域や色々な事業に関してもこのような考え方や取り組みが今後なんらかのヒントになることは間違いない。
しかしここで忘れてはいけないのが、これらの議論があくまで“短期的”であることだ。先程上勝町の弱点と書か
せてもらったが、いくら高齢者の働ける環境が整備されたとしても、限界集落の人口の50%以上が65歳以上という
状態からそう先の長い話では無いことは明白である。そこで集落の次世代を担う人々を集める必要性が問われて20
くる。
3-4 UIターン者の誘致
集落の存続のためにもUIターン者の確保は非常に重要である。そこで参考モデルとされるのは海士町(あまつ
ちょう)である。同町も上勝町のように地域資源を活用したビジネスを展開しているが、島という特異な地域である25
ために他の地域では参考にしにくいということも考えられ、当論文ではUIターンについての紹介のみとさせてもら
う。
海土町は人口減少、高齢化が進む当町の活性化を考えたときに「産業の価値が弱くなったのではない。担い
手が不足しているから価値のある産業が衰退している」との視点に立ち、「担い手がいなければ、集めよう」とI・U
ターンの人材を全国から公募したという。一次産業ではIターンで集まった若者達が起業し、自分たちで雇用を生30
み出すことに成功し、「300人の移住者が集まる元気な島」として全国的にも有名になった。
では、なぜこの町にIターン者が増加しているのか?それはIターン者の定住住宅の設備などの手厚い支援か
ら来ていると考えられる。
最初に挙げられるのは海士町体験モニター事業だろう。このプログラムは、農山漁村で暮らしたい人々を公募
し、3~4泊程度の海士町田舎暮らしの体験メニューに参加してもらい、住宅、職場、医療、日常生活、地域の行35
事等を実際に見て海士の雰囲気を感じてもらい、定住を促進するものである。この他にも、定住希望者からのアフ
ターファイブや土日祝日にも問い合わせに対応出来るように、海士町では、365日シフト勤務制、時間差出勤を行
い、きめの細かい住宅・求職情報等を提供している。そして定住を決めた人々のために同町は各集落に定住住
宅を分散整備したが、これはIターン者の多様な居住条件に応え、産業振興施策との連携により高い定着率に繋
がっている。これにより後継者不足に悩む水産業・農林業・畜産業の新たな担い手が生まれた。 40
また、少子高齢化が進む地域に、若い家族が入ってくることで、集落の活性化が図られ、地域内での交流活動
が進み、Iターン者とその家族は、伝統的な祭りやスポーツ大会等、集落内の諸行事の中心的役割を果たしつつ
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ある。地元町民も、Iターン者との交流機会が多くなったことで、都市の人々と共生していこうという意識が高まって
きている。これにより、「人間力推進」というキーワードを掲げ、「ひと」づくりにより持続発展可能なまちづくりを進め
る海士町の取り組みは、着実に成果を上げてきているといえる。
ここで注目すべき点はUIターンの推進が単なる人口確保に留まらないところである。上記したようにIターンとし
て定住してきた彼らは海土町に好循環をもたらしている。つまりUIターンは地域に必要な人材を外部から獲得す10
る機能、固定化された人間関係によって新規に新しい動きが生まれることのない地域に活力を与えるインセンティ
ブとしての機能を有しているのが分かる。
彼らのようなIターン・Uターンと呼ばれる人々を定住化させることによって、はじめて労働力人口の拡大を長期
的なものにでき、地域を活性化させることができるようになると私たちは考えた。
15
第4章 仮説の提示・検証
この章では上勝町と海土町を参考として限界集落が自立するために必要な条件を提示したい。
20
4-1 システムづくり
まず限界集落を自立させるにあたり最も大切なのは、その地域を運営するためのシステム整備である。上勝町
では“上勝好循環システム”と称し独自の事業を立ち上げ、ソフト面・ハード面の両面をしっかり整備した。とくに、
限界集落の最大の課題である労働力人口の減少を抑えるために、女性・高齢者が働きやすい環境づくり(人を活
かす社会ビジョン)を構築し、その結果成功を収めたことは非常に素晴らしく、他の地域にとっての良いお手本と25
なるだろう。
また、海土町ではIターン・Uターン者を呼び込むためのシステムが整備されており、町の次世代を担う労働力の
増大に成功している。この町におけるシステムも参考にすべき点が多い。
これから自立しようとしている地域は例に挙げたように成功をしている地域を参考にし、住民主導で地域に必要
な事業を行うための会社組織を立ち上げるなど、行政に頼りすぎない町づくり(システム構築)をすることが必要と30
される。
4-2 プロデューサー型リーダー
次に必要とされるのは上記のモデルにおけるシステムを運営する人材を確保することである。上勝町のようなシ
ステムの運営はリーダーシップというものに大きく左右されるため、こうしたリーダーの育成・確保は最重要事項と35
いっても過言ではない。
従来、地域のリーダーや物事を実行するのには、強力なリーダーシップを持った人間がみんなを引っ張ってい
くのが通常のやり方であった。しかし、この方法はリスクが高く、また住民全体の理解を得にくいことが欠点である。
その一方で株式会社いろどりを立ち上げた横石氏は事業を支える人たちと同じ目線で物事を見ることを大切に
した。つまり、従来のどちらかといえば強引なリーダーシップとは異なり、組織の一人一人の能力を引き出して全40
体でレベルアップを図る手法を執ったといえる。こうした地域の全体を調整するコーディネーターや、プロデュー
サー的な役割としてのリーダーシップがこれからの地域の活性化には必要とされる。
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今現在、こうしたプロデューサー型リーダーというものが注目を多く集めており、「地域づくり人」を育成するとい
うプログラムが全国各地で展開され始めている。地域づくり人とは老若男女、職業問わず“地域づくりを自らの手
で企画し実践したい”という想い・情熱を持った人が対象となるそうで、特に近年、ソーシャルキャピタル向上の観
点からファースト、セカンド、サードセクター問わず、あらゆる方の参画が認められる。ボランタリーマインド、ビジネ
スマインド等の考え方の違いや協働の可能性を検討していくことで、新たなソーシャルキャピタルの創出につなが10
ることが期待される。
しかし、まだまだこのような企画は始まったばかりであり、第二、第三の上勝町が誕生するとは断言できないが、
こうしたプログラムを継続して行うことは非常に有意義なことであることは間違いないだろう。そして当然ながら過疎
地域サイドも伝統や固定観念にとらわれることなく、こうしたプログラムによって育成されたリーダーを積極的に呼
び込んでいくことが求められる。 15
4-3 資源
これは当然のことだが限界集落の自立には資源がなければならない。上勝町は「木の葉」を市場や顧客のニ
ーズにあったツマモノとして商品化し、大きな価値を生み出した。このように日本の地方地域にはまだまだ大都市
に無い自然や特産物という地方地域ならではの独自の資産・資源がたくさんあるはずである。集落を自立させる20
ためには自分たちの地域にとっての強みとはなにか、埋もれている資源はないか、そういったことを地域の人々が
話し合い、今までの地域経営を洗い直す必要があるだろう。そして資源を見つけた後は上勝町のような“地域資
源を生かす仕組み作り”が生きてくる。
上勝町における葉っぱビジネスのスキームの構築には、その商品開発を作るそのアイディアと、葉っぱを集め
るコミュニティの団結力と、なによりこれら一連の葉っぱを売るスキームを実現し、上勝町の葉っぱを地域ブランデ25
ィングとして国内で広く認知させた横石代表取締役社長の努力があって実現できたものである。昭和61年に事業
を始めてからこれまで実に約25年もの月日を要した。このように、資源を探し、それを市場に乗せるまでには多大
な時間と労力がかかるのも事実であり、なかなか限界集落の自立が進まないことの原因の一つだといえる。
30
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第5章 政策提言・結論
この章では第4章の条件を踏まえて具体的な政策を提示したい。
5-1 政策提言 10
まずは第1章で述べたように国の中央集権的な制度を見直すことが第一とされるだろう。地域独自の政策を行う
ためには、悪政の蔓延る中央政府の体質を改善し、彼らが実質権限を握っていた国の出先機関の廃止や補助
金の整理統合を行わなければならない。そうして地方の実情に合った行政サービスの提供が可能となることで、
やっと限界集落のシステム面の整備ができるようになると考えられる。
次にプロデューサー型リーダーをどこで育成するかだが、これは地方自治体を主体として育成プログラムを組み、15
それを国が支援する体制をつくるべきだろう。というのも第4章で“「地域づくり人」を育成するというプログラムが全
国各地で展開され始めている”と書かせてもらったが、このプログラムにより一定の成果をだし、成功しているとさ
れる地域のほとんどは県・自治体が主体となっているからである。上勝町もUターン者が自分の故郷を再生させた
いという強い思いからリーダーとなり、現在の上勝町が創り出した。そういった事例からも、それぞれの地方地域に
愛着を持ち、その地域を良く知る人物がこうしたプログラムを企画、または実施するべきだと考察できる。 20
次に、システム・資源の運用方法についてだが、これはそれぞれの地域の特色や状況に合わせた地域づくりを
する必要がある。そのため、一括した政策を打ち出すことは難しいが、上勝町に見られる“高齢や女性の働きやす
い環境づくり”と海土町に見られる“Iターン・Uターンの呼び込み”は参考にするべきであるだろう。どちらも自立に
対して大きな効果を発揮すると考えられるし、どちらの政策も特異性は無く、あらゆる地域での反映が期待できる
からである。 25
5-2 今後の課題
第1章で自治体は“自治体の役割”をするべき、行政に頼り切らない町づくりをするべき、と書いたが実際はどこ
までが自治体、どこまでが行政といった明確な線引きをすることができないのが現状である。というのも、限界集落
を再生させたという例が突発的なものであり、その絶対数が非常に少なく、まだまだ研究をしなくてはならないから30
である。
また、そのデータの少なさから、思い切った政策に踏み出せない・政策をしようとしても多大な時間・労力・財源
が必要とされることなどが主な今後の課題として挙げられるだろう。
5-3 最後に 35
限界集落の問題を考えたときに効率性・経済性・合理性の観点から、放っておけば自然と消えてしまうような土
地に投資をするよりも、コンパクトシティ化のような政策に取り組んだほうがよいと考える人もいるだろう。あるいは
実際そうした動きも具体性を持つようになってきた。しかし、仮に効率性の悪い限界集落を切り捨てるとした場合
にその判断はどう下すべきなのか、どこまで残し、どこまで切り捨て、その判断は一体何を基準にして行うのか?
こうした問いを出されると効率性の論理には危うさが生じてくる。そもそもこうした議論は住民の意思選択や価値観40
を無視しており、民主主義国家としての基本的な考え方にそぐわない。したがって今後の日本において限界集落
は切り捨てられるべきではなく、むしろ自立が求められることになるのが本来の姿であるべきだ。つまり、今後は限
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界集落問題を、地域社会の消滅予言ではなく、避けるべきリスク問題として提示し、逆にそこから将来あるべき地
域社会の姿を描きだしていくことが必要とされてくる。そして、その将来あるべき地域社会の姿というのは上勝町・
海土町に見ることができる。
近い将来、地方分権化が進み、上勝町・海土町のような町を参考として自立する地域が増えることによって、い
つか限界集落問題が解消されるのを私たちは期待している。 10
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