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三豊工 三豊工 三豊工 三豊工 ものづくり教育 ものづくり教育 ものづくり教育 ものづくり教育 ~ものづくりを通した人づくりと地域との交流~ ~ものづくりを通した人づくりと地域との交流~ ~ものづくりを通した人づくりと地域との交流~ ~ものづくりを通した人づくりと地域との交流~ サイエンスフェスタ in 三豊工 はじめに はじめに はじめに はじめに 本校は、昭和37年の高度経済成長期に地元産業界の強い要望により創立された、 香川県の最西端にある専門高校である。現在は各学年、機械科・電気科・電子科1ク ラスずつの9クラス、全校生徒300人の小規模校である。創立以来、陸上競技棒高 跳びでは、実に10数名の全国大会チャンピオンを輩出し、「スポーツ、棒高跳の三 豊工」として、また、近年では毎年、ロボット相撲やマイコンカーラリー、ロボット アメリカンフットボールなどで全国優勝しており、「ものづくり、ロボットの三豊工」 として、地域の方々に認識され、全国的にも名前が知られている。 本校の校訓は「事上錬磨」で、創立20年目の昭和56年に制定された。出典は、 王陽明「伝習録」巻下の「人は 須 すべから く事上に在りて磨錬し、功夫 くふう を做 すべく、 乃 すなわ 益有り」である。意味は、「人間は毎日の生活や仕事を通じて自分を磨き、修養を積 まなければならない」と生徒には話している。この理念を踏まえ、日常の教育活動を 行っている。また、教育方針は、国や社会の有為な形成者として、社会の変化に主体 的に対応できる資質を養うとともに、我が国の工業分野を担う技術者としての専門性 を備えた、心豊かでたくましい人間の育成をめざして、「確かな学力の育成」「健全な 心身の育成」「社会貢献力の育成」の三本の柱を据えている。

三豊工ものづくり教育...三豊工 み と こ ー ものづくり教育 ~ものづくりを通した人づくりと地域との交流~ サイエンスフェスタin 三豊工

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Page 1: 三豊工ものづくり教育...三豊工 み と こ ー ものづくり教育 ~ものづくりを通した人づくりと地域との交流~ サイエンスフェスタin 三豊工

三豊工三豊工三豊工三豊工み と こ ー

ものづくり教育ものづくり教育ものづくり教育ものづくり教育

~ものづくりを通した人づくりと地域との交流~~ものづくりを通した人づくりと地域との交流~~ものづくりを通した人づくりと地域との交流~~ものづくりを通した人づくりと地域との交流~

サイエンスフェスタ in三豊工

はじめにはじめにはじめにはじめに 本校は、昭和37年の高度経済成長期に地元産業界の強い要望により創立された、

香川県の最西端にある専門高校である。現在は各学年、機械科・電気科・電子科1ク

ラスずつの9クラス、全校生徒300人の小規模校である。創立以来、陸上競技棒高

跳びでは、実に10数名の全国大会チャンピオンを輩出し、「スポーツ、棒高跳の三

豊工」として、また、近年では毎年、ロボット相撲やマイコンカーラリー、ロボット

アメリカンフットボールなどで全国優勝しており、「ものづくり、ロボットの三豊工」

として、地域の方々に認識され、全国的にも名前が知られている。

本校の校訓は「事上錬磨」で、創立20年目の昭和56年に制定された。出典は、

王陽明「伝習録」巻下の「人は 須すべから

く事上に在りて磨錬し、功夫く ふ う

を做な

すべく、 乃すなわ

益有り」である。意味は、「人間は毎日の生活や仕事を通じて自分を磨き、修養を積

まなければならない」と生徒には話している。この理念を踏まえ、日常の教育活動を

行っている。また、教育方針は、国や社会の有為な形成者として、社会の変化に主体

的に対応できる資質を養うとともに、我が国の工業分野を担う技術者としての専門性

を備えた、心豊かでたくましい人間の育成をめざして、「確かな学力の育成」「健全な

心身の育成」「社会貢献力の育成」の三本の柱を据えている。

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「ものづくりを通して人づくり」「ものづくりを通して人づくり」「ものづくりを通して人づくり」「ものづくりを通して人づくり」 平成19年度、第2回ものづくり日本大賞において新たに設けられた「青少年支援

部門」で、本校が文部科学大臣賞を受賞する栄誉に輝いた。これは、本校が各学科で

の課題研究を中心としたものづくりやメカトロ部におけるロボットの製作活動、地域

の子どもたちへのものづくり指導など、全校を挙げてものづくり教育に取り組み、平

成17・18年度は全国レベルのロボット競技大会において優勝4回、準優勝3回の

実績をあげたことが認められたことによる受賞である。これらの取り組みは、現在も

引き続き実施している。

1 課題研究を中心としたものづくり

(1)「綿くり機」の修復

本校の地元観音寺市豊浜町は、讃岐三白(塩、砂糖、綿)の一つ、綿の生産地であ

った。江戸時代から昭和までは綿打ち職人が腕をふるっていた。現在では、綿の栽培

は行われなくなったが、豊浜には今なお製綿工場が集まり、布団など綿製品の生産量

は四国一である。市の依頼により、「綿自動種取機(綿くり機)」を機械科の課題研究

で修復した。綿くり機は、製綿作業の中で最初の工程に使う機械で、摘み取った綿を

綿糸の原料となる綿花と種に瞬時に分離するものである。修復した綿くり機は、現在、

豊浜町郷土資料館で展示、実演されている。

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(2)「あゆみちゃん」等の製作

本校では、日頃より、人にやさしいものづくり、ユニバーサル・デザインのものづ

くりをめざしている。近隣の特別支援学校から障害を有する子どもたちが操縦するこ

とのできる車椅子装置がほしいとの要望があり、電子科の課題研究で車椅子補助装置

を製作した。1号機「すすむ君」、駆動部分や追尾センサーなどに改善を加えた2号

機「あゆみちゃん」を贈呈し、運動会などの行事に活用されている。これまでにも、

段差楽々スロープ内蔵台車や車いす昇降機、転落防止安全杖などを製作している。

(3)発明くふう展等への出品

各学科の課題研究、部活動等では、日頃身に付けた技術・技能を生かして、人に役

立つものづくり、作品製作を行っている。完成した作品は、校内選考を経て、発明く

ふう展や技術・アイデアコンテストに出品している。また、年度末には「課題研究」

発表会を実施し、その成果を確認し次年度につなげるとともに、校内表彰も行ってい

る。

各賞受賞一覧

平成17年度 第64回全日本学生児童発明くふう展

恩賜記念賞 段差楽々スロープ内蔵台車

平成19年度 第2回ものづくり日本大賞

青少年支援部門 「文部科学大臣賞」

平成19年度 第66回全日本学生児童発明くふう展

発明協会会長賞 車椅子牽引装置「すすむ君」

平成20年度 第6回高校生技術・アイディアコンテスト全国大会

最優秀賞 車椅子補助装置「あゆみちゃん」の製作

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2 メカトロ部におけるロボットの製作活動

メカトロ部は、平成6年に同好会として発足し、ロボット相撲競技(自立型)への

挑戦を始めた。発足当時は、ロボット競技に興味のある若い教員が、機械加工、電子

回路、プログラミング等、専門分野とともに他分野のスキルアップのために取り組ん

でおり、どちらかと言えば教員中心の活動であった。平成11年度に、同好会から部

に昇格した。この間、毎年たくさんのアイディアを出し、新しい技術を取り入れたロ

ボットを製作して地区予選に挑戦するが、あと一歩のところで全国大会出場を逃して

いた。メカトロ部が、全国的な活躍を始めるのは平成12年からである。この年に、

教員がほとんど手をかけていないラジコン型の部で、全国大会準優勝を成し遂げた。

この結果は、生徒中心の活動においてはじめて成果が得られるという証明になった。

この年が本当の意味でメカトロ部元年であると言える。この指導方針の転換により、

生徒の中に自主性、向上心が生まれ、自ら進んで取り組む姿勢が部に定着した。この

ようにロボット競技に取り組む過程において、ものづくりの技術・技能だけでなく人

間的な成長を促すことがわかり、「ものづくりを通して人づくり」を確信した。平成

12年度からはマイコンカーラリーに、平成14年度からはロボットアメリカンフッ

トボールにも挑戦しており、歴代の部員の努力、技術・技能の蓄積があり、優秀な成

績を収め続けている。

これまでの活動で得た相撲ロボットやマイコンカーの製作に関する加工方法やノ

ウハウについては、本校のホームページに公開している。また、県外にも積極的に出

向き、講習会などで技術紹介を行ってきた。現在は、各学科に所属する機械加工、電

子制御、プログラミング等に専門分野をもつ教員がスクラムを組んで、ロボットの研

究や製作活動の指導を毎日続けている。この活動を通して培われたものづくりのノウ

ハウや加工技術は、各学科の課題研究や製作実習に活かされ、本校のものづくり教育

の原動力となっている。

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メカトロ部 各種競技大会成績一覧

大会名 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

ロボット相撲

全国大会 準優勝 4位 優勝

準優勝

3位

優勝

準優勝

準優勝

3位

優勝

3位

優勝

準優勝

3位

ロボット相撲

高校生全国大会 科技賞 優勝 準優勝 4位 5位

優勝

準優勝

ジャパンマイコンカーラリー

全国大会

優勝

準優勝

3位

4位

優勝

準優勝

3位

優勝 優勝

3位 準優勝 優勝

ベ ス ト

タ イ ム

優勝

3位 8位

ロボットアメリカンフットボール

全国大会 優勝 優勝 優勝 優勝 準優勝 準優勝 優勝 優勝

3 地域の子どもたちへのものづくり指導

(1)サイエンスフェスタ in三豊工

地域の子どもたちに科学の不思議さやものづくりの楽しさを体験してもらおうと、

毎年11月に「サイエンスフェスタ in 三豊工」を開催している。地元の幼稚園、小

学校の子どもたちが家族と共に参加し、工業三科と普通教科(理科)の4グループが

分担し工夫を凝らした、ものづくりを中心とした体験教室や、相撲ロボット・マイコ

ンカーラリーなどの体験コーナーを楽しんでいる。毎年約200名の参加があり、「普

段できない体験をすることができた」「工業高校のイメージが変わった」「指導の生徒

さんに感動した」などの感想をいただいている。

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(2)ミニマイコンカー製作講習会

子どもたちの工業に対する興味・関心の高揚をめざすとともに、工業高校としての

本校の取組を地元の小・中学生に紹介しようと、毎年夏休みに開催している。21年

度は、小学生2名を含む10名の参加があり、電子部品の半田付けやマイコンカーの

動きを決めるプログラミングに取り組み、最後に全員でラリー大会を開いた。指導は

本校教員とメカトロ部員が担当しており、部員の丁寧な指導に参加者も喜んでいる。

また、現在のメカトロ部員の中にも、中学時代にこの講習会に参加し、興味をもち、

本校に入学した者もいる。

きらめくきらめくきらめくきらめくかがわかがわかがわかがわの高校づくり推進事業の高校づくり推進事業の高校づくり推進事業の高校づくり推進事業 香川県では、魅力ある高校づくりをより一層推進するため、「きらめくかがわの高

校づくり推進事業」に取り組んでいる。学力向上、職業観育成、地域連携、中高一貫

教育の四つの観点を柱にして重点化を図り、各校の学科や類型の特色を生かした特色

ある高校づくりを推進している。本校では、22年度は、特別支援学校等との連携を

発展させた「人に役立つものづくり」に取り組む中で、ものづくりの意義や喜びを理

解させ、さらに、創造性の育成と知的財産権の保護・活用に取り組んでいる。また、

技能士の資格や高校生ものづくりコンテストに挑戦し、熟練技能者の育成にも取り組

んでいる。

特色ある高校づくりのための学校独自プラン 年度 名 称 内 容

18 スキルアップ三豊工

―資格試験への挑戦とものづくり―

① 資格・検定への取組(資格取得・検定合格)

② ものづくりへの取組(ものづくりコンテスト出場)

19 三豊工ものづくりセンター ① ものづくりの地域発信

② 地域の子どもたちに科学のおもしろさ、技術のすばらしさ

を体験できる場

③ 地域の人に喜んでもらえるものづくりを通して人づくり

20 三豊工ものづくりセンター

―ものづくり人材育成と地域貢献―

① 子どもたちの科学技術への関心を高める取組

② 地域との交流を通して、ものづくりの技術を学ぶ取組

21 高度熟練技能者へのチャレンジ

―熟練技能の伝承と人材育成―

① 高度熟練技能「匠の技」講習会

② 熟練技能者を活用した「人に役に立つものづくり」

③ 2・3級技能士、ものづくりコンテストへの挑戦

22 ものづくり教育から高度熟練技能士の育

成へ

① 高度熟練技能士による講習会と技能士検定への挑戦

② ものづくり四国大会・全国大会への挑戦

③ 知的財産教育

④ 地域イベントへの協力

地域との地域との地域との地域との連携・連携・連携・連携・交流交流交流交流 (1)持久歩大会

今年で33回を迎える持久歩大会は、地域の名物行事になっている。この大会は、

昭和53年に始まり、当初の20㌔から年ごとに延び42.195㌔のフル・マラソ

ンの距離で行われている。学校を出て観音寺・三豊市内を巡るコースは、自然豊かで

起伏のある道となっている。自然に恵まれた長い距離を歩くことによって、自らの身

体機能を自覚させるとともに、忍耐力を培い、互いに励まし合い協力する態度を養う

ことを目的としている。全校生徒、教職員、保護者等が参加し、午前7時30分に学

校を出発、早い生徒は午後2時過ぎには学校に戻ってくる。午後5時30分には終了

としている。この運営に当たっては、PTA役員をはじめ保護者の方々に協力をいた

だいている。給水ポイントに用意された飲み物の味やありがたさ、そして声かけが忘

れられないという生徒も多い。また、沿道の地域の皆さんにも笑顔で迎えていただい

ている。今後も、本校の伝統行事として続けていきたい。

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(2)地域イベント等への参加

メカトロ部等では、観音寺市「ふくしまつり」などの地域イベントに出向き、ロボ

ット相撲大会やロボットの操作体験を行っている。また、老人介護施設など福祉施設

では、車椅子のメンテナンスなどを実施している。さらに、地域貢献として、学校周

辺のごみ集積場や中学校へゴミステーションを寄贈し、活用されている。

(3)ものづくりセンター

地域のものづくり教育の拠点校をめざして、ものづくり展示コーナーを設置すると

ともに、「ものづくり相談窓口」を開設している。これまでに、近隣の小学校PTA

に相撲ロボットの操作や車いすけん引装置の体験をしてもらったり、中学校理科研究

会の先生方にロボットづくりの学習とロボットの操作体験をしてもらったりしてい

る。今後は、培った技術や指導力とともに、十分な情報提供を行うことにより、さら

に地域に貢献したいと考えている。

おわりにおわりにおわりにおわりに 「ものづくりを通して人づくり」を合言葉に、これまで進めてきたことを継続し、

着実に歩んでいくことが、「地域に根ざした専門高校 ものづくりの三豊工」として

の使命であると考える。ものづくりの楽しさ、作ったものが人の役に立つ喜びなどの

体験を通して、科学技術への興味・関心を高め、多くの技術者を育てていきたい。ま

た、地域から期待される学校づくりに、生徒と教職員が一丸となって取り組んでいき

たい。さらに、これまでの「ものづくり教育」を、望ましい勤労観・職業観の育成や

社会人・職業人としての資質・能力を高める指導などキャリア教育の視点で検証して

いきたいと考えている。

月刊「中等教育資料(21年 12月号)」に掲載されたものに一部加筆しています。