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視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山 由子

視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

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Page 1: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

視覚障害生徒に対する生物の指導

実物、模型、触図の活用

筑波大学

鳥山 由子

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生物を学習する目的は、

生物の生き方と生物間の関わりについて、

正しい認識を持つことです

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実物から学ぶことは最も大切です

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木の葉はどこでも手軽に手に入るだけで

なく、視覚障害生徒が観察するための

優れた教材です。

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木の葉を触察することにより、視覚障

害生徒は、 木の葉の基本構造を学び、

木の葉には様々な種類があること

(多様性)を学ぶことができます

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• 生きている動物から学ぶことは大切ですから、視覚障害生徒が、生きている動物に触れて観察する機会をできるだけ作るようにしましょう。

しかし、生きている動物は丁寧に

触って調べるためには適した教材と

は言えません。

動物を学ぶための教材

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剥製

剥製は、視覚障害生徒

にとって、立体図鑑として

の価値があります。

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動物の体の構造を知り、その構造が動物の生き方と深く関わっていることを知るためには、骨格標本が最も適した教材です。

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動物の観察学習の教材は、骨格標本を中心

にして、模型、部分標本(毛皮など)を

併用することが効果的です。

また、このような学習とともに、機会を

とらえて、実際に生きている動物を観察

します。

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視覚障害生徒が、動物の骨格標本を

触って観察しているところです。

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花の構造の観察

Page 12: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

花の観察の内容

• 花の基本構造

雌しべ、雄しべ、花弁、がく

• 花のつきかた

(どのように茎についているか)

• 花から果実への変化

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視覚障害生徒が花

の構造を理解する

ためには、実物の花

を観察することが大

切です。

その場合、ユリや

チューリップのような

大型の花が適して

います。13

Page 14: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

生物の点字教科書に掲載されている点図

14花の構造

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小さな花の構造を示す触図

アブラナ(菜の花)

の花は、触って調べ

るには小さすぎるの

で、触図が有効です。

この図は、断面図と

して描かれています。

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タンポポの花の構造を示す触図

• タンポポの花は小さ

いので、構造を知る

ためには、触図が有

効です。なお、触って

観察するときは、タン

ポポと同じキク科で、

花の大きいヒマワリ

を用います。16

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触図を使う意義

実物の観察とともに触図を使うことに

より、視覚障害生徒が触図を理解する力

を養うことができます。

そうした経験を積み上げることにより、

実物に触ることができない場合にも、

触図から実物のイメージを描くことが

できるようになります。

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• 「小さくて触ることができない」という場合

次のどのレベルであるかを理解させる

ことが必要です。

1.触って理解することは難しいが、肉眼で

見ることはできる

2.肉眼では見えないが、光学顕微鏡を使えば

見ることができる

3.顕微鏡を使っても、誰にも見えない大きさ

である(原子や電子など)

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Page 19: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

水中の微生物点字教科書に掲載されている触図

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Page 20: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

生物の点字教科書に掲載されている

植物細胞の構造を示す触図

サーモフォームで作成した

触図

立体コピーで作成した

触図

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立体コピーで作成した動物細胞(左)と植物細胞(右)

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大きな対象を理解するために必要な模型や触図

• 大きな対象物を観察する場合、

実際に触れている部分が全体の中の

どの部分であるかを理解するために、

模型や触図で、全体像を示すことが

有効です。

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動物の内臓の観察

食品として売っている動物の内臓は、衛生上、

安全であり、手で触って観察する材料として

適しています。

実物の観察とともに、模型や触図を活用する

ことは、生徒の理解を助けます。

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• 実物、模型、触図を併せて、よりよい

理解を促す観察の例を、ここから紹介

します。

1.眼球の観察

2.腎臓の観察

3.心臓の観察

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ブタの眼球の観察

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Page 26: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

眼球を前半球

(角膜側)と、

後半球(視神経側)

に、はさみで切り離

します。

(教師が支援しながら

生徒に切らせる)

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• 角膜の内側に虹彩が

あり、その内側には

凸レンズ(水晶体)が

あります。

• 後半球の内側には、

網膜があり、眼球の後

ろに伸びている視神経

を触ることができます。

• また、ゼリーのような

硝子体の感触もわかり

ます27

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眼球の模型

• 実物ではわかりにく

い虹彩など、模型に

よって、構造の詳細

を理解することが

できます。

しかし、実物と模型

は、感触が違うので、

実物観察と併用する

ことが大切です。28

Page 29: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

眼球の断面図

• 視神経の向き(方向)

から、この図は、右目

の水平断面を、上から

見た図であることがわ

かります。

• 触図は、実物体験と

模型によって構造を

理解した上で用いる

ことが大切です。29

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ブタの腎臓の解剖

• このスライドは、

腎臓から出ている

尿管からガラス棒を

挿入して、腎臓の

内部を探っている

ところです。

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腎臓を半分に切り開いたときの内部構造を示す模型

• 実物と比較しながら

この模型を使うこと

で、腎臓の構造が

よりよく理解できます。

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腎臓の細部構造を表す模型

• 腎臓の細部構造は、

実物の腎臓を触って

も理解ができないの

で、模型を使うこと

が必要です。

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Page 33: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

サーモフォームで作成した腎臓の触図

• 複雑な構造は、

触図では理解できま

せんが、実物と模型

によって理解ができ

た後でなら、触図の

理解も可能です。

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Page 34: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

ブタの心臓

• 心房の壁は薄いが

心室の壁は厚い。

• また、全身に血液を

送り出す(左)心室の

壁は、肺に血液を送

り出す(右)心室の壁

より厚いことが、

触察によってわかる。

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Page 35: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

心臓の構造を表す触図

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心臓の構造を理解するためには、模式的に描いた心臓の断面図が有効です。

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理科で用いられる触図の二つのカテゴリー

1. パターン化された図(主として、物理や

化学の教科書にみられる)

2.実際の生物や、その体の一部分を表す

スケッチ(生物の教科書に多くみられる)

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物理の教科書などでみられるパターン化された図の例

• Fig.1: 斜面に置かれた

物体に働く力

• Fig.2: 糸で吊された

おもりに働く力

• これらの図を視覚障

害生徒が触って理解

することは比較的容易

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Page 38: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

分子構造を示す(定型化された)図は、修正なしで、触図にできる

• 立体的な構造を示す

場合、模型を併用して

図の理解を促すことが

必要です

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Page 39: 視覚障害生徒に対する 生物の指導視覚障害生徒に対する 生物の指導 実物、模型、触図の活用 筑波大学 鳥山由子 生物を学習する目的は、

理科で用いるグラフ板とグラフ用紙の例

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これまで述べたとおり、パターン化された

図は、系統的に指導することにより、

視覚障害生徒にも十分に理解が可能

です。

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• 触図を理解するためには、指先の

わずかな面積で次々にとらえた

情報を、継時的に理解しなければ

なりません。そのためには、触図

を理解するための系統的な練習が

必要です。

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• これは、日本の盲学校

で用いている算数の点

字教科書のひとつです。

• これは、触図を指先で

理解するスキルを養う

ために作られたもので、

小学校1年生用の点字

教科書だけの特別な

分冊です。

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視覚障害生徒に対する生物の授業の本質

1. 実物の観察を通して、生物の

イメージを作る

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2. 実物の観察では理解しにくい部分は、

その部分を強調してわかりやすく示した

模型や触図を活用する。

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3. 実物の観察とともに、触図を用いる。

このことにより、視覚障害生徒が触図を

触って理解する力が向上し、

実物に触って観察することができない場合に

触図からイメージを描くことができるように

なります。

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ご静聴ありがとうございました

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