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関東南部のトウモロコシ二期作とその経済性
神奈川県畜産技術センター
折原 健太郎
トウモロコシ二期作栽培体系とは
• 二毛作(従来の栽培体系)夏作(トウモロコシ)と冬作(イタリアンライグラス,ムギ類等)を組み合わせた栽培体系
• トウモロコシ二期作(新しい栽培体系)1年にトウモロコシを2回作る栽培体系
トウモロコシ二期作が可能な条件
必要とされる年間有効積算温度(10℃基準)は2,400℃以上
2000
2100
2200
2300
2400
2500
2600
2700
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
年間
有効
積算
温度
(℃
)
海老名の年間有効積算温度の推移
関東地方におけるトウモロコシ二期作に適した品種とその栽培特性
地域 作期 草種・品種 栽培期間・条件
関東南部
1作目極早生〜早生品種(RM100〜110)
4月上旬〜7月下旬
2作目中生〜極晩生品種(RM125〜135)
8月上旬〜11月下旬・12月上旬
有効積算温度1,200℃で乾物率28%となる品種を選定
関東中北部
1作目極早生品種(RM95〜100)
4月上旬〜7月下旬
有効積算温度1,000℃必要
2作目
サイレージ発酵品質重視RM120程度の中生品種
収量重視極晩生品種
8月上旬〜11月中下旬
有効積算温度1,200℃で乾物率25%となる品種を選定
有効積算温度は10℃基準
2作目品種の有効積算温度と乾物率の関係
17
19
21
23
25
27
29
31
33
900 1,000 1,100 1,200 1,300 1,400
乾物
率(%
)
有効積算温度(℃)
関東中北部
セシリア DKC61-24 3470 30D44
20
22
24
26
28
30
32
34
36
1,000 1,100 1,200 1,300 1,400
乾物
率(%
)
有効積算温度(℃)
関東南部
31P41 NS813 SH3817 3470 30D44
トウモロコシ二期作の栽培適地
■2,400℃以上
(従来の栽培適地)
■2,300〜2,400℃
(栽培適地)
■2,200〜2,300℃
(栽培限界地)
■2,200℃以下
(栽培不適地)
判定に用いた日平均気温は,1999年〜2008年の10年間の平均値
二毛作とトウモロコシ二期作の土地生産性の比較
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
二毛作 二期作 二毛作 二期作
関東南部 関東中北部
TD
N収
量(kg
/10a)
イタリアンライグラス 4月播種トウモロコシ
5月播種トウモロコシ 8月播種トウモロコシ
+11%
+30%
関東南部は試験ほ場における試験データ,関東中北部は営農ほ場における現地試験データ
2作目に不耕起栽培の導入が有効
• 1作目収穫(7月26日~27日)→ロール運搬
• 耕起栽培
堆肥→プラウ耕→ロータリ耕→播種(8月12日)
→除草剤→収穫(12月8日:乳熟期〜糊熟期)
• 不耕起栽培
除草剤→播種(8月3日)→除草剤
→収穫(11月24日:糊熟期〜黄熟期)
※平成22年の2作目トウモロコシの事例
栽培方法による2作目の差
1,000
1,050
1,100
1,150
1,200
1,250
1,300
耕起栽培 不耕起栽培
有効積算温度(℃)
1,000
1,050
1,100
1,150
1,200
1,250
耕起栽培 不耕起栽培
乾物収量(kg/10a)
20
22
24
26
28
30
耕起栽培 不耕起栽培
乾物率(%)
+137℃+143kg +5.7%
2作目の播種が遅くなると減収する
400
600
800
1,000
1,200
1,400
1,600
1,800
8/4 8/11 8/18
収量
(kg
/10a
)
播種日
乾物収量
200
400
600
800
1,000
1,200
8/4 8/11 8/18
収量
(kg
/10a
)
播種日
TDN収量
0
100
200
300
400
500
600
8/4 8/11 8/18収
量(kg
/10a
)
播種日
デンプン収量
34P41
NS813
SH3817
30D44
2作目に不耕起栽培を導入した事例
酪農家 A牧場 B牧場 C牧場 D牧場 E牧場 F牧場
ほ場数 5 8 5 1 7 3
合計面積(a) 200 200 200 60 140 120
播種日 8月1日 8月2日 8月3日 8月5日 8月7日8月11〜15
日
土壌含水率(%) - 41 53 67 - -
土壌硬度(MPa) 1.0 1.4 1.8 1.8 - -
作業速度(m/s) 1.8 1.8 1.8 1.6 - -
収穫日 11月23日 11月24日 11月28日 11月28日 11月30日 12月1日
収穫ステージ 黄熟期 黄熟期 黄熟期 黄熟期 黄熟期 糊熟期
乾物率(%) 28 28 28 31 25 19
乾物収量(kg/10a) 1,198 1,217 1,165 1,301 1,240 1,016
平成25年 神奈川
播種が遅れた事例
1. パイオニア135日(30D44)
2. 平成24年8月18日播種
3. 平成24年11月15日,12月7日,12月25日収穫
4. 細断型ロールベーラでサイレージ調製
-8
-4
0
4
8
12
最低
気温
(℃
)
最低気温の推移
本年 平年
収穫
収穫
収穫
11月15日
12月7日
12月25日
収穫時の積算温度と生育ステージ
収穫日積算温度(℃)
生育ステージ有効 単純
11/15 1,007 1,896 乳熟期中期
12/7 1,016 2,089 乳熟期後期〜糊熟期前期
12/25 1,016 2,189 糊熟期前期
乾物率の推移
15
20
25
30
35
40
11/15 12/7 12/25
乾物
率(%
)
収穫日
茎葉
雌穂
全体
収量調査
0
1,000
2,000
3,000
4,000
11/15 12/7 12/25
生草
収量
(kg
/10a
)
収穫日
生草収量
雌穂
茎葉
0
200
400
600
800
11/15 12/7 12/25
乾物
収量
(kg
/10a
)
収穫日
乾物収量
雌穂
茎葉
栄養収量
0
100
200
300
400
500
11/15 12/7 12/25
TD
N収
量(kg
/10a)
収穫日
TDN
0
20
40
60
80
11/15 12/7 12/25
CP
収量
(kg
/10a)
収穫日
CP
0
20
40
60
80
100
11/15 12/7 12/25
デン
プン
収量
(kg
/10a)
収穫日
デンプン
発酵品質
収穫日 11/15 12/7 12/25
pH 3.6 3.6 3.7
VBN/TN(%) 6.08 5.78 6.47
有機
酸組
成(%
FM
) 乳酸 1.08 1.18 1.29
酢酸 0.78 0.88 0.89
プロピオン酸 n.d. n.d. n.d.
酪酸 n.d. n.d. n.d.
総酸 1.86 2.06 2.18
V-スコア 93 93 92
トウモロコシ二期作のポイント
2作目をいかに早く播種できるか
1作目収穫から2作目播種までの期間は1週間程度
• 1作目品種の選定
• 2作目に不耕起栽培を導入
対 策
経済性の検討
• 経営面積8haの農場の事例から試算
• ほ場は,農場から半径1km以内の範囲
• トウモロコシ単作またはトウモロコシ二期作を行う場合を想定して,サイレージ1kg当たりの生産費を試算
• 生草収量=サイレージ生産量とした
• 全て細断型ロールベーラでサイレージ調製
• 機械の取得金額および耐用年数は聞き取りによる値
• 機械の償却費は,取得金額÷耐用年数で計算
• 機械の修繕費は,取得金額×1.5%で見積
• 労働費は,時給2,500円で計算
• トウモロコシサイレージのTDN含量は18.4%で計算
生産資材費
資材 単位 単価 使用量 金額(円)
種子 50a用 20,000 2 40,000
肥料 硫安 20kg 1,000 50 50,000
農薬 キヒゲン 200ml 1,500 4 6,000
ゲザノンゴールド 1L 6,500 2 13,000
シャドー水和剤 100g 1,000 5 5,000
燃料 軽油 1L 140 300 42,000
合計 156,000
資材 単位 単価 使用量 金額(円)
ラップフィルム 50cm 1本 15,500 32個/本 1,384
ネット 100cm 1本 33,000 150個/本 629
合計 2,013
作付面積1ha当たり必要な生産資材
生草(サイレージ)1t当たり必要な生産資材
作付面積1ha当たりの労働費
作業 作業機 作業人数 延べ労働時間(h) 労働費(円)
堆肥散布 マニュアスプレッタローダー
1 8 20,000
耕耘 プラウロータリー
1 12 30,000
播種 ツースハロー播種機
K型ローラー1 11 27,500
除草剤 スプレイヤー 1 4 10,000
収穫 細断型ロールベーラ自走式ラップマシーン
2 24 60,000
運搬 ベールグラブトレーラー
2 12 30,000
合計 177,500
労働費は,時給2,500円で計算
機械償却費および修繕費
機械 規格 適応トラクター 耐用年数
トラクター 90 PS 15
トラクター + フロントローダー 95 PS,バケット,ベールグラブ 15
ロータリー 作業幅 2m 55〜75 15
マニュアスプレッタ 積載容量 6 m2 45〜80 15
プラウ 3連(リバーシブル) 80〜100 25
ツースハロー 25〜45 25
播種機 2条 25〜60 15
K型ローラ 35〜80 25
スプレイヤー 600 L 15〜 20
コーンハーベスター 1条 35〜80 10
細断型ロールベーラ φ85 cm × 85 cm 10
ラップマシーン 自走式 10
トレーラ 最大積載量3,500kg 35〜80 25
減価償却費 取得額 ÷ 耐用年数 2,082,067円/年
修繕費 取得額 × 1.5% 441,150円/年
サイレージ生産量(生草収量)
作付体系 生草収量(減収なし) 20%減収 40%減収
単作 6,000 kg/10a 4,800 kg/10a 3,600 kg/10a
二期作 10,000 kg/10a 8,000 kg/10a 6,000 kg/10a
生草収量=サイレージ生産量として計算
サイレージ生産費(単作)ほ場面積(ha)(作付面積)
1(1)
2(2)
3(3)
4(4)
5(5)
6(6)
7(7)
8(8)
9(9)
10(10)
生草収量6,000kg/10a(減収なし)
生産量(t) 60 120 180 240 300 360 420 480 540 600
資材費等(千円) 2,977 3,431 3,885 4,340 4,794 5,248 5,702 6,157 6,611 7,065
サイレージ生産費(円/kg) 49.6 28.6 21.6 18.1 16.0 14.6 13.6 12.8 12.2 11.8
TDN生産費(円/kg) 269.7 155.4 117.3 98.3 86.9 79.2 73.8 69.7 66.5 64.0
生草収量4,800kg(20%減収)
生産量(t) 48 96 144 192 240 288 336 384 432 480
資材費等(千円) 2,953 3,383 3,813 4,243 4,673 5,103 5,533 5,964 6,394 6,824
サイレージ生産費(円/kg) 61.5 35.2 26.5 22.1 19.5 17.7 16.5 15.5 14.8 14.2
TDN生産費(円/kg) 334.4 191.5 143.9 120.1 105.8 96.3 89.5 84.4 80.4 77.3
生草収量3.,600kg/10a(40%減収)
生産量(t) 36 72 108 144 180 216 252 288 324 360
資材費等(千円) 2,929 3,335 3,741 4,147 4,552 4,958 5,364 5,770 6,176 6,582
サイレージ生産費(円/kg) 81.4 46.3 34.6 28.8 25.3 23.0 21.3 20.0 19.1 18.3
TDN生産費(円/kg) 442.2 251.7 188.3 156.5 137.5 124.8 115.7 108.9 103.6 99.4
サイレージの生産費(二期作)ほ場面積(ha)(作付面積)
1(2)
2(4)
3(6)
4(8)
5(10)
6(12)
7(14)
8(16)
9(18)
10(20)
生草収量10,000kg/10a(減収なし)
生産量(t) 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1,000
資材費等(千円) 3,391 4,259 5,127 5,996 6,864 7,732 8,600 9,469 10,337 11,205
サイレージ生産費(円/kg) 33.9 21.3 17.1 15.0 13.7 12.9 12.3 11.8 11.5 11.2
TDN生産費(円/kg) 184.3 115.8 92.9 81.5 74.6 70.0 66.8 64.3 62.4 60.9
生草収量8,000kg/10a(20%減収)
生産量(t) 80 160 240 320 400 480 560 640 720 800
資材費等(千円) 3,351 4,179 5,007 5,835 6,663 7,491 8,319 9,147 9,975 10,803
サイレージ生産費(円/kg) 41.9 26.1 20.9 18.2 16.7 15.6 14.9 14.3 13.9 13.5
TDN生産費(円/kg) 227.7 142.0 113.4 99.1 90.5 84.8 80.7 77.7 75.3 73.4
生草収量6,000kg/10a(40%減収)
生産量(t) 60 120 180 240 300 360 420 480 540 600
資材費等(千円) 3,310 4,098 4,886 5,674 6,461 7,249 8,037 8,825 9,612 10,400
サイレージ生産費(円/kg) 55.2 34.2 27.1 23.6 21.5 20.1 19.1 18.4 17.8 17.3
TDN生産費(円/kg) 299.9 185.6 147.5 128.5 117.1 109.4 104.0 99.9 96.7 94.2
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
単作 二期作
TD
N1kg
当た
りの
生産
費(円
)
TDN
労働費
修繕費
減価償却費
諸材料費
動力光熱費
農薬衛生費
肥料費
種苗費
0
2
4
6
8
10
12
14
16
単作 二期作
サイレー
ジ1
kg当
たり
の生
産費
(円
)
サイレージ
労働費
修繕費
減価償却費
諸材料費
動力光熱費
農薬衛生費
肥料費
種苗費
単作と二期作の生産費の比較
84.4円77.7円
15.5円
14.3円
ー8%ー8%
経営ほ場面積8ha,生草収量20%減収の場合の1kg当たりの生産費の試算結果
トウモロコシ・イタリアン二毛作とトウモロコシ二期作の生産費の比較
栃木県栃木市の酪農家(経営面積5ha,飼養頭数70頭)において,二毛作のみまたは二期作のみを行う場合を想定して,TDN1kg当たりの生産費を試算した。
菅野ら(2013)
0
10
20
30
40
50
60
70
80
二毛作 二期作
TD
N1kg
あた
り生
産費
(円
)
種苗費
肥料費
農薬衛生費
動力光熱費
諸材料費
減価償却費
労働費
72.1円67.6円ー6%
飼料給与設計種 類 単価(円/kg) 給与量(kg)
トウモロコシサイレージ ー 10 20
配合飼料(18-74) 70.0 13 11 10
チモシー乾草 57.0 7 7 3
スーダングラス乾草 42.0 4 2 2
アルファルファ乾草 50.0 1 2 3
ビートパルプ 47.0 1 1 1
粗濃比 46:54 54:46 56:44
乾物給与量(kg) 22.4 22.5 22.4
CP充足率 111 109 108
TDN充足率 105 105 103
購入飼料費 円/頭・日 1,574 1,400 1,152
トウモロコシサイレージ生産費の損益分岐点(円/kg) 17.4 21.1
体重600kg,日産乳量30kgの条件で設計
トウモロコシ単作の損益分岐点
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
1(1)
2(2)
3(3)
4(4)
5(5)
6(6)
7(7)
8(8)
9(9)
10(10)
サイ
レー
ジ生
産コ
スト
(円
/kg
)
ほ場面積(ha)
生草収量6,000kg/10a
生草収量4,800kg/10a(20%減収)
生草収量3,600kg/10a(40%減収)
10kg
20kg
トウモロコシ二期作の損益分岐点
0
10
20
30
40
50
60
1(2)
2(4)
3(6)
4(8)
5(10)
6(12)
7(14)
8(16)
9(18)
10(20)
サイ
レー
ジ生
産費
(円
/kg
)
ほ場面積(ha)
生草収量10,000kg/10a
生草収量8,000kg/10a(20%減収)
生草収量6,000kg/10a(40%減収)
10kg
20kg
サイレージ給与量による経営ほ場面積の損益分岐点
経営ほ場面積(ha)
サイレージ給与量(kg) 20kg 10kg
栽培体系 二期作 単作 二期作 単作
生草収量
減収なし 2.1 3.1 2.9 4.3
20%減収 3.0 4.4 4.5 6.2
40%減収 5.3 7.7 9.9 11.4
作付体系 生草収量(減収なし) 20%減収 40%減収
単作 6,000 kg/10a 4,800 kg/10a 3,600 kg/10a
二期作 10,000 kg/10a 8,000 kg/10a 6,000 kg/10a
トウモロコシサイレージ1kgの生産にかかる資材費(円)
栽培体系 二期作 単作
生草収量
減収なし 5.1(27.9) 4.6(25.1)
20%減収 5.9(32.1) 5.3(28.6)
40%減収 7.2(39.2) 6.3(34.5)
作付体系 生草収量(減収なし) 20%減収 40%減収
単作 6,000 kg/10a 4,800 kg/10a 3,600 kg/10a
二期作 10,000 kg/10a 8,000 kg/10a 6,000 kg/10a
( )内はTDN1kg当たりの資材費(円)
減価償却費,修繕費,労働費を除いた細断型ロールベール体系の試算値