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茨城県教育委員会学校保健・学校安全研究推進校 主 題 心身ともに健康で安全な生活を自ら進んで実践する生徒の育成 -学校と家庭,地域,関係機関との効果的な連携を通して- 大子町立大子西中学校 大子町教育委員会 Ⅰ 研究の概要 1 主題設定の理由 (1) 今日の課題から 現代社会では,食生活の変化や,ゲーム,インターネットなどの普及により,生活環境 が大きく変化し,心身の健康状態に様々な影響を与えている。生徒には体力・運動能力の 低下,肥満や生活習慣病の増加,摂食障害,アレルギー性疾患など様々な健康問題が起こ っている。特にインターネットや携帯電話の普及は,便利さの反面,生徒の命に関わる事 件・事故に発展する可能性も秘めている。こうした状況においては,生徒たち自身が今ま で以上に健康や安全についての意識を高め,自ら進んで実践する資質や能力を育成する必 要がある。そのためには,家庭や地域社会,関係機関との効果的な連携・協働を進めるこ とが重要である。 (2) 本校の教育目標から 平成 30 年度茨城県学校教育指導方針では,「一人一人の豊かな学びの実現に向けた教 育活動の推進」の中で,健やかな体の育成のために,「健康で安全な生活を送るための実 践力の育成」が求められている。 本校では,「自らを高めともに生きる生徒の育成」を教育目標とし,「目標をもち互い に高め合う生徒」「思いやりのある心豊かな生徒」「心身ともに健康でたくましい生徒」 の育成に取り組んでいる。そこで,特に「心身ともに健康でたくましい生徒の育成」を受 けて,生徒たちが心身ともに健康でたくましく生きるためには,健康の保持増進や保健・ 安全についての意識を高め,学ぶことが必要であり,そこで得た知識をもとに自ら進んで 実践する力を身に付けていくことが大切であると考える。 (3) 生徒の実態から 本校は県の北部に位置し,山に囲まれ自然豊かな環境の中にある。三世代で暮らす家庭 も多く保護者も協力的である。生徒は,明るく素直で何事にも真面目に取り組むことがで きる反面,自分から考えて行動することが苦手で指示待ちになることも多い。平成 28 年 7月実施の健康・安全についてのアンケート結果を見ると,生活習慣の改善や安全に関す る意識が低いことから,健康で安全な生活を自ら送るための実践力に課題があることがわ かった。そこで,学校だけでなく,家庭や地域,関係機関と連携し,健康で安全な生活を 進んで実践する生徒を育成することが必要であると考えた。 2 研究のねらい ○ 保健・安全に関する実践意欲を高める環境構成の在り方を究明する。 ○ 保健・安全に関する実践に結びつく知識・技能を高める授業の在り方を究明する。 ○ 保健・安全に関する実践力を高める自己評価の在り方を究明する。 3 研究の仮説 ○ 生徒の保健・安全に関する課題について,掲示物を工夫し環境構成を整備すれば,健康 で安全な生活に対する実践意欲が高まるであろう。 (実践意欲)・・・・・・仮説1 ○ 専門的な知識をもつ外部の人材を効果的に活用し授業を工夫すれば,健康・安全に対す る理解が深まり,実践に結びつく知識・技能が高まるであろう。 (実践に結びつく知識・技能)・・・・・・仮説2 ○ 心と体の健康についての自己評価を継続的に行えば,生徒が自らの課題に気付き,生活 習慣を見直し,改善するための実践力が高まるであろう。(実践力)・・・・・・仮説3

茨城県教育委員会学校保健・学校安全研究推進校 主 題 心身ともに健康 … · 証する。仮説1を「資料・環境研究班」が,仮説2を「授業研究班」が,仮説3を「調査

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茨城県教育委員会学校保健・学校安全研究推進校

主 題 心身ともに健康で安全な生活を自ら進んで実践する生徒の育成

-学校と家庭,地域,関係機関との効果的な連携を通して-

大子町立大子西中学校

大 子 町 教 育 委 員 会

Ⅰ 研究の概要

1 主題設定の理由

(1) 今日の課題から

現代社会では,食生活の変化や,ゲーム,インターネットなどの普及により,生活環境

が大きく変化し,心身の健康状態に様々な影響を与えている。生徒には体力・運動能力の

低下,肥満や生活習慣病の増加,摂食障害,アレルギー性疾患など様々な健康問題が起こ

っている。特にインターネットや携帯電話の普及は,便利さの反面,生徒の命に関わる事

件・事故に発展する可能性も秘めている。こうした状況においては,生徒たち自身が今ま

で以上に健康や安全についての意識を高め,自ら進んで実践する資質や能力を育成する必

要がある。そのためには,家庭や地域社会,関係機関との効果的な連携・協働を進めるこ

とが重要である。

(2) 本校の教育目標から

平成 30 年度茨城県学校教育指導方針では,「一人一人の豊かな学びの実現に向けた教

育活動の推進」の中で,健やかな体の育成のために,「健康で安全な生活を送るための実

践力の育成」が求められている。

本校では,「自らを高めともに生きる生徒の育成」を教育目標とし,「目標をもち互い

に高め合う生徒」「思いやりのある心豊かな生徒」「心身ともに健康でたくましい生徒」

の育成に取り組んでいる。そこで,特に「心身ともに健康でたくましい生徒の育成」を受

けて,生徒たちが心身ともに健康でたくましく生きるためには,健康の保持増進や保健・

安全についての意識を高め,学ぶことが必要であり,そこで得た知識をもとに自ら進んで

実践する力を身に付けていくことが大切であると考える。

(3) 生徒の実態から

本校は県の北部に位置し,山に囲まれ自然豊かな環境の中にある。三世代で暮らす家庭

も多く保護者も協力的である。生徒は,明るく素直で何事にも真面目に取り組むことがで

きる反面,自分から考えて行動することが苦手で指示待ちになることも多い。平成 28 年

7月実施の健康・安全についてのアンケート結果を見ると,生活習慣の改善や安全に関す

る意識が低いことから,健康で安全な生活を自ら送るための実践力に課題があることがわ

かった。そこで,学校だけでなく,家庭や地域,関係機関と連携し,健康で安全な生活を

進んで実践する生徒を育成することが必要であると考えた。

2 研究のねらい

○ 保健・安全に関する実践意欲を高める環境構成の在り方を究明する。

○ 保健・安全に関する実践に結びつく知識・技能を高める授業の在り方を究明する。

○ 保健・安全に関する実践力を高める自己評価の在り方を究明する。

3 研究の仮説

○ 生徒の保健・安全に関する課題について,掲示物を工夫し環境構成を整備すれば,健康

で安全な生活に対する実践意欲が高まるであろう。 (実践意欲)・・・・・・仮説1

○ 専門的な知識をもつ外部の人材を効果的に活用し授業を工夫すれば,健康・安全に対す

る理解が深まり,実践に結びつく知識・技能が高まるであろう。

(実践に結びつく知識・技能)・・・・・・仮説2

○ 心と体の健康についての自己評価を継続的に行えば,生徒が自らの課題に気付き,生活

習慣を見直し,改善するための実践力が高まるであろう。(実践力)・・・・・・仮説3

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4 研究の構想

(1) 全体構想

資料・環境研究班 授業研究班 調査研究班

健康で安全な生活に対す

る実践意欲を高める掲示物

等の環境構成の在り方につ

いて究明する。

保健体育と特別活動にお

いて,保健・安全に関する実

践に結びつく知識・技能を高

める授業の在り方について

究明する。

健康で安全な生活に関す

る自己評価を継続し,生活習

慣を見直して改善する実践

力を高める調査の在り方に

ついて究明する。

・写真,資料の整理

・通学路危険箇所マップの作

・保健安全に関する校内環境

の整備(掲示板の活用等)

・指導案の検討

・関係機関との効果的な連携

を通した授業の実践(GT

やTTを含む)

・実践資料の作成

・生活振り返りカードの実施

・実態調査アンケートのまと

学校教育目標

自らを高めともに生きる生徒の育成

研究主題

心身ともに健康で安全な生活を自ら進んで実践する生徒の育成

―学校と家庭,地域,関係機関との効果的な連携を通して―

目指す生徒像

目標をもち互いに高め合う生徒

思いやりのある心豊かな生徒

心身ともに健康でたくましい生徒

研究の仮説

○ 生徒の保健・安全に関する課題について,掲示物を工夫し環境構成を整備すれば,

健康で安全な生活に対する実践意欲が高まるであろう。 (実践意欲)・・仮説1

○ 専門的な知識をもつ外部の人材を効果的に活用し授業を工夫すれば,健康・安全に

対する理解が深まり,実践に結びつく知識・技能が高まるであろう。

(実践に結びつく知識・技能)・・仮説2

○ 心と体の健康についての自己評価を継続的に行えば,生徒が自らの課題に気付き,

生活習慣を見直し,改善するための実践力が高まるであろう。(実践力)・・仮説3

教育活動全体

学校 家庭 地域 関係機関

研究推進委員会

家庭や地域,関係機関との効果的な連携の在り方について究明する。

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(2) 研究主題に迫るための基本的な考え方 ① 「心身ともに健康」とは

心身ともに健康な状態を,「望ましい生活習慣を身に付け,人間関係も調和がとれている」状態と捉えた。そのためには,保健体育,特別活動を中心とした教育活動全体で取り組むことが必要であり,学校と家庭,地域,関係機関が連携を図っていく中で育むことができると考えた。

② 「自ら進んで実践する力」とは 「生徒が自分の課題に気付き,自ら改善するための方法を考え,解決していく力」を

「自ら進んで実践する力」と捉えた。保健体育の保健分野において知識を身に付け,特別活動や,保健体育で培った実践意欲,態度,技能などを家庭や地域との連携・協働を通して日常生活に生かしていくことにより,「自ら進んで実践する力」を高めていくことができると考えた。

③ 「効果的な連携」とは 生徒の実践力を育成するには,家庭,地域,関係機関の活用により,学ぶことへの動

機付けや意識付けを行い,学ぶ意欲を向上させることが重要である。しかし,GT(ゲストティーチャー)の話を単に聞くだけでは不十分である。そこで,授業や学校行事を行っていく上で,綿密な連絡・調整を行い,各機関の役割や専門性を十分に生かす連携の在り方を「効果的な連携」と捉えた。理解をいっそう深めたり,新たな学びを得るきっかけ作りになったりするよう,授業などで実践した内容について,学年便りなどで内容を周知し,特に家庭との連携を重視することで,健康で安全な生活を自ら実践していく力がつくと考えた。

5 研究の進め方

○ 研究の中核として研究推進委員会を置き,研究全体の推進計画及び各研究部の連絡調整を行う。

○ 研究組織として「資料・環境研究班」「授業研究班」「調査研究班」を置き,仮説を検証する。仮説1を「資料・環境研究班」が,仮説2を「授業研究班」が,仮説3を「調査研究班」が主に関わって検証する。

○ 保健体育・特別活動の授業研究を中心とした授業や健康安全に関わる行事を行い,学校教育全体を通して研究を推進する。

6 研究の経過

第1次(平成28年度) 第2次(平成29年度) 第3次(平成30年度)

・研究主題の決定

・研究組織編成

・学校保健・学校安全計画による教

科領域の年間指導計画の見直し

・立案

・指導案形式の内容検討

・研究推進指定校要請訪問(2回)

・生活振り返りカードの作成と実

・健康・安全に関するアンケートの

作成と実施

・健康・安全に関するアンケート分

・校内研修(全体・研究班)

・研究指定校視察

・避難訓練(3回)

・交通安全教室(1学年)

・がん教育講演会(3学年)

・防犯教室

・救急救命講習会(2学年,職員)

・薬物乱用防止教室(1学年)

・ケータイ・スマホ安全教室

(2学年)

・一年次の成果と課題の確認

・次年度の計画

・研究主題・方法の検討

・研究組織編成

・学校保健・学校安全計画による教

科領域の年間指導計画修正

・指導案形式の改善

・研究推進指定校要請訪問(3回)

・生活振り返りカードの実施

・健康・安全に関するアンケートの

実施と分析

・校内研修(全体・研究班)

・性教育講演会(1・2学年)

・避難訓練(3回)

・交通安全教室(1学年)

・防犯教室

・薬物乱用防止教室(1学年)

・ケータイ・スマホ安全教室(2学年)

・救急救命講習会(2学年,職員)

・校内環境整備

・二年次の成果と課題の確認

・次年度の計画

・研究主題・方法の検討

・研究組織編成

・学校保健・学校安全計画による教科

領域の年間指導計画修正

・指導案形式の改善

・研究推進指定校要請訪問(4回)

・生活振り返りカードの実施

・健康・安全に関するアンケートの実

施と分析

・校内研修(全体・研究班)

・性教育講演会(1・2学年)

・避難訓練(3回)

・交通安全教室(1学年)

・防犯教室

・薬物乱用防止教室(1学年)

・ケータイ・スマホ安全教室

(1・2学年)

・救急救命講習会(2学年,職員)

・地域連携による消防防災訓練

・研究紀要,パネル等の作成

・研究発表会

・3年次の成果と課題の確認

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Ⅱ 研究の実践

1 資料・環境研究班の取組

(1) 研究課題

健康で安全な生活に対する実践意欲を高める掲示物等の環境構成の在り方について究

明する。

(2) 取組の内容

① 保健・安全に関する掲示物コーナーの整備(実践意欲) 保健・安全に関する授業の資料や生徒が主体的に作成した資料,活動の様子を知らせ

る写真等を掲示できるコーナーを,校内の複数か所に設置し定期的に整備をする。 ② 保健室前の掲示物の工夫(実践意欲)

季節や生徒の実態に合わせながら,日々の生活に役立つ健康・安全に関する内容を取 り上げる等,保健室前の掲示物の内容を工夫する。

(3) 実践

① 保健・安全に関する掲示物コーナーの整備

ア 「安全コーナー」「保健コーナー」の設置

生徒たちの安全の意識を高めるため,校舎東側階段

踊り場に「安全コーナー」を設置し,生活における安

全に関する掲示物を作成した。(図1)また,校舎西

側階段踊り場には「保健コーナー」を設置し,保健委

員会を中心とする生徒たちの考えや意見を反映させた

掲示物を作成した。

イ 「学びのあしあと」の設置

各学級の教室背面に「学びのあしあと」コーナーを設置した。保健・安全に関する

授業や学級活動で活用した資料,生徒の感想等を掲示することで,授業のあとで学び

を振り返り,日常生活において生徒が自ら進んで実践できるようにした。

ウ 「SKI安全意識向上」コーナーの設置

職員室前の廊下に「SKI安全意識向上」コーナーを設

置し,SKI委員会(生活向上委員会)の生徒が作成した

「学区内危険箇所マップ」や交通安全に関する調査結果を

掲示した。生徒自らが調査し,掲示物にまとめることによ

り,安全な登下校に対する意識の向上を図った。(図2)

エ 保健・安全に関連する生徒実践コーナーの設置

保健・安全に関する学習を通して始まった生徒の主体的

な実践例や,本校の特徴的な取組である「総合的な学習の

時間の取組」と保健・安全に関わる学習との関連を掲示す るためのコーナーを昇降口に設置した。

② 保健室前の掲示物の工夫(図3)

ア 興味関心を高める掲示物の作成 保健室に来室しない生徒も保健・安全に関す

る情報を日常的に取り入れができるよう,一目

見て興味をひくような掲示物づくりを工夫し

た。また,できるだけ短いスパンで張り替える

ことにより,季節に合わせた情報を生徒により

分かりやすく提供し,生徒の実践意欲の喚起を図った。

図1 安全コーナー

図3 保健室前掲示板

図2 学区内危険箇所マップ

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2 授業研究班の取組

(1) 研究課題

保健体育と特別活動において,保健・安全に関する実践に結びつく知識・技能を高める

授業の在り方について究明する。

(2) 取組の内容

① 保健体育(保健分野),特別活動(学級活動)での取組

保健体育(保健分野),学級活動において,外部人材にGT(ゲストティーチャー)

として授業に入ってもらい,保健・安全に結びつく知識や技能を高める。

② その他(行事での取組)

行事において,外部講師や地域と協力し様々な活動を展開する。

(3) 実践

① 保健体育(保健分野),特別活動(学級活動)での取組

ア 1年保健体育(保健分野)「欲求不満やストレスの対処」

(家庭との連携)

授業前のアンケート調査から,ストレス解消について家

庭ではどのように行っているか,親として我が子にどのよ

うにしてストレスを解消して欲しいかを聞き,授業に生か

した。

授業後は,学年通信で授業の様子を知らせた。また懇談

会の折に,その後の生徒の変容などを説明した。(図4)

イ 2年保健体育(保健分野)「交通事故の防止」

(関係機関との連携)

大子警察署の警察官から,自転車で走行中にはどんな危

険があるか,また,地域の安全な環境づくりについて,パ

ワーポイントを使い説明してもらった。地域の交通事故の

様子などを交えて話してもらい,生徒は事故を身近なもの

として感じることができた。(図5)

ウ 2年学級活動「歯科指導」

(関係機関との連携)

歯科衛生士を迎えて,ブラッシング指導を行った。むし

歯治療率が低い2年生に対し,染め出しを行い効果的なブ

ラッシングの方法を指導した。さらに,歯間ブラシのやり

方にも触れ,生徒は熱心に耳を傾けていた。(図6)

エ 3年学級活動「身体の成長と食事」

(家庭,関係機関との連携)

必要な食事の栄養バランスや,体に及ぼす影響につい

て,専門的知識をもつ筑波大学運動栄養学研究室麻見准

教授を招き,GTとして授業に参加してもらった。受験

を控えている3年生に,今後どのような食事を摂ってい

ったらよいかアドバイスをしてもらった。今までの食事

方法を振り返るきっかけになり,麻見准教授の話に生徒

は耳を傾けていた。

生徒が考えた食事の改善については,各自家庭に持ち

帰らせ,保護者の協力を得ながら食生活の改善に取り組

ませるようにした。(図7)

図4 1年保健体育

TT 養護教諭

図5 2年保健体育

GT 警察署員

図7 3年学級活動

GT 筑波大学 麻見准教授

図6 2年学級活動

GT 歯科衛生士

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② 学校行事での取組

ア 自転車教室(小中,関係機関との連携)

小中合同での交通安全教室であり,4月に進学してくる

6年生を対象に,本校生徒が自転車通学練習の補助をする。

6年生が自分の小学校から中学校まで自転車で来校し,近

所に住んでいる中学生と一緒に下校する。その際,中学生

は小学生の前後に付き,間に入った小学生を気遣いながら

下校する。また,左右の確認,停止位置,速さの調節など

を指導しながら下校した。実施時期は2月下旬である。

(図8)

イ ケータイ・スマホ教室(関係機関との連携)

ケータイ・スマホの安全な使い方について,携帯電話

会社の社員を講師に招き学習を行った。1学期末の授業

参観時に実施し,保護者も参観した。親子で使い方に関

する話をするきっかけ作りとなった。

ウ PTA教育講演会(関係機関との連携)

PTA教育講演会に,茨城県で初めてドクターヘリの

ドクターとなった須田高之先生を講師に招き講演会を開

催した。生徒たちはドクターヘリが実際に飛んでくる様

子やヘリの中を見学することができ,たったひとつの命

を守る大切さを学ぶ貴重な体験をすることができた。

(図9)

エ ひとり暮らし老人宅訪問(地域との連携)

10 月下旬に,2年生が栽培したサツマイモを,地域

でひとり暮らしをしているお年寄りに配付している。

生徒が住んでいる近くの老人宅を訪問するので,地域

で災害が起きた時,共助する意識につながっている。

生徒会が主体となり活動している。

オ 地域消防防災訓練(地域との連携)

地域で行われた防災訓練に,1,2学年が参加した。バケツリレー,※トリアージ

された傷病者の運搬方法,胸骨圧迫,消火器の使い方,三角巾を使ったけがの手当な

ど,実習・体験を行った。生徒は,避難所設置や大勢の地域の人が関わっていること

など,防災対策を身近に感じることができた。(図 10) ※トリアージ…傷病者を病

気やけがの程度によって順位付けすること

3 調査研究班の取組

(1) 研究課題

健康で安全な生活に関する自己評価を継続し,生活習慣を見直して改善する実践力を

高める調査の在り方について究明する。

(2) 取組の内容

① 健康・安全に対する意識調査と分析(実践力)

全生徒を対象に健康・安全に関するアンケートを実施し,意識の変容を把握する。

② 「生活振り返りカード」の実施と活用(実践力)

生活習慣や心身の健康度等の振り返りをするための「生活振り返りカード」を作成

し,生徒に毎朝記入させ,生活を振り返らせる。

③ 食への意識向上につなげるための取組(実践力)

筑波大学運動栄養学研究室と連携し,「食事ばらんすあっぷシート」による食事実

態調査,食への意識調査を実施する。

図8 自転車教室 連携 大子警察署

交通安全母の会

図 10 地域消防防災訓練

連携 地域消防団

図9 PTA教育講演会

連携 大子町消防署

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(3) 実践

① 健康・安全に対する意識調査と分析

ア 全生徒対象アンケートの実施

平成 28 年度2学期から毎学期末1回,「心身の健康」と「生活における安全」に

関するアンケートを行い,生徒の健康と安全に対する意識の変容を把握する。

イ アンケートの分析

結果を数値化し,傾向や課題を分析したうえで授業研究や校内掲示物の作成に活

用する。

② 「生活振り返りカード」の活用

ア 「生活振り返りカード」の作成

生徒が自身の生活習慣について振り返るための「生活

振り返りカード」を作成した。毎朝,登校後に保健委員

の生徒が保健室からカードの入ったファイルを運びクラ

スの生徒へ配付し,生徒は前日から当日朝までの生活を

振り返り,カードに記入する。このカードを用いて,食

事や就寝時刻等の生活習慣に関する8項目,登下校や学

校生活全般の安全に関する2項目をチェックし,心身の

健康度と生活の安全度のレベルを評価する。生徒自らが

点数化することで,より良い生活習慣に近づけようとす

る意欲の向上につなげている。(図 11A)

イ 「生活振り返りカード」の活用

平成 29 年度末には,2学年の保健体育(保健分野)の授業において,カードを活

用して「健康生活の反省」を行った。(図 11B)それまでに蓄積されたカードを生

徒に返却し,記録を始めた頃と現在の

カードの記入内容を比較することで,

「改善されている点」「課題である点」

を整理し,改めて生活目標を決定させる

活動を行った。

③ 食への意識向上につなげるための取組

ア 「食事ばらんすあっぷシート」の実施

筑波大学運動栄養学研究室と連携し,年に3回「食事

ばらんすあっぷシート」(図 12)による食事調査を実施

した。事前に実施内容を保護者へ説明したうえで同意書

を配付し,記名をしないなどプライバシーに配慮した。

「食事ばらんすあっぷシート」の調査期間は一週間とし,

毎食の主食・主菜・副菜等の内容を細かく記録した。記

録が完了したシートは研究室へ送付し集計を依頼すると

ともに,大学准教授をGTに迎えた食に関する授業にお

いて活用した。

イ 「食事ばらんすあっぷシート」結果の活用

平成 29 年度に実施した3回分の結果の集計を筑波大学

運動栄養学研究室に依頼し,保健委員の生徒が校内掲示

物を作成した。(図 13)生徒同士で改善点と課題を話し

合い,「保健委員からのアドバイス」として付け,全校

生徒が目にする機会のある給食配膳室前に掲示した。

図 12

食事ばらんすあっぷシート

図 11A 健康生活の反省

図 11B 健康生活の反省(生活目標)

図 13 食事ばらんすあっぷシート

集計結果

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Ⅲ 研究のまとめ

1 研究の成果 (人)

(1) 仮説1 実践意欲を高める環境構成について

① 保健・安全コーナーの設置と掲示物の工夫

生徒が作成した資料の活用や,立体的な掲示物に

なるよう工夫することで,生徒が掲示物の前で立ち

止まり,生徒同士で話し合う姿が見られるようにな

った。

特に効果的だったのは,食生活に関する掲示物で

ある。肥満傾向にある生徒は食事の栄養バランスを

意識するようになり,自転車での自力登下校や,週

1回の定期的な体重測定をするなどして,入学時か

ら比較すると大幅に肥満度を減少させることができ

た。また,自分の体の健康を意識して,身長や体重

測定のために来室する生徒が増えた。掲示物から,

自分の健康と結びつけて考えることができるよ

うになった成果だと考えられる。(資料1)

② 校内環境の掲示物の工夫

保健・安全に関する学活や保健体育の授業の様子を

教室に,SKI委員会が調査した通学路危険箇所の地

図を昇降口に,保健安全に関するクイズ形式のものや

保健委員会がまとめたものを廊下や階段の踊り場に掲

示し,毎日目につくようにした。生徒自身が危険箇所

を調べたり掲示物を作成したりしたことで,危険箇所

に対する意識が47.4%から 57.9%に向上した。

(資料2)

(2) 仮説2 実践に結びつく知識・技能を高める授業について

① 外部人材の活用

3学年においては,1学年時での「ストレスと心

の健康」の授業後,「心をリラックスさせるための

時間をとるよう意識している」生徒が,1学年時で

38.1%から2学年時では 85.7%,3学年時でさらに

90.5%と向上し,授業で学んだ知識を生活の中で実

践していることがうかがえる。こうしたことから,

今まで知らなかったことを知識として身に付け,そ

の後もスクールカウンセラーの授業により,定期的

に意識することができ,実践力が向上したと考えら

れる。(資料3)

また「栄養バランスを考えて食事している」生徒

が 14.3%から 47.5%に増加し,まだ課題はあるもの

の食生活の改善につなげることができた。これは,

筑波大学との連携で食生活に関する授業を行ったり,

家庭と連携して食事の改善を促したりした成果と考

えられる。学年だより等で授業の様子を伝え家庭に

呼びかけることにより保護者の意識も高まったと考

えられる。(資料4)

肥満度

軽度 中等

度 高度

H28 4 1 3

H29 5 0 1

H30 3 1 0

H28 4 0 0

H29 2 1 0

H30 4 0 0

資料1 肥満の経年変化

資料3 心の健康に対する意識

資料2 危険箇所に対する意識

資料4 栄養バランスに対する意識

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さらに保護者のアンケート結果から「生徒は早寝・早起き・朝ご飯など健康に留意して

生活しているか」の項目が,28.4%から 51.2%に上がった。この結果から,家庭での保健

・安全に関する意識の向上が見られ,生徒の実践力の向上に影響していると考えられる。

(資料5)

② 生徒主体の活動

関係機関との連携や授業を通して得た保健・安全に対する知識や技能が高まるにつ

れ,生徒主体の活動が増えた。例えばSKI委員会では,あいさつ運動だけでなく自転

車置き場や靴箱のチェック,保健委員会では,給食後の歯磨きの様子を観察し生徒朝会

で報告するなど,活動に広がりが見られるようになった。これらの生徒主体の活動は,

自分たちの生活をよりよくしようとする実践力が高まった結果であると考えられる。

(3) 仮説3 保健・安全に関する実践力を高めるための自己評価活動について

① 心身の健康に関する生徒の変容

学期末アンケートにおいて,「悩み事は抱え込ま

ず誰かに相談する」の項目は 33.3%から 57.1%に,

「質の高い睡眠」の項目は 19%から 61.9%に,「朝

食をしっかりとる」の項目は 33.3%から 71.4%にそ

れぞれ上がった。これは,「生活振り返りカード」

により毎日の振り返りを行い,生徒が自分の課題に

気付き生活をよりよくしようと心がけたためと考え

られる。質の高い睡眠,朝食摂取,悩みへの適切な

対処は,心身の健康を保つために特に重要なことで

ある。したがって,この3つの項目が向上したこと

は,心身ともに健康な生活を実践する力を高めた成

果だと考える。(資料6,7,8)

資料5 健康についての保護者アンケート

資料8 朝食の摂取 資料7 質の高い睡眠

資料6 悩みへの対処

Page 10: 茨城県教育委員会学校保健・学校安全研究推進校 主 題 心身ともに健康 … · 証する。仮説1を「資料・環境研究班」が,仮説2を「授業研究班」が,仮説3を「調査

② 安全な生活に関する生徒の変容

学期末アンケートにおいて,「周囲の安全を十分に確認すること」の項目は 61.9%か

ら 85.7%へ,「定期的に自転車を点検すること」の項目は 19%から 42.9%へ向上した。

このことから,自転車で安全に登下校しようとする意識が高まったと考えられる。これ

は,関係機関との連携を通して専門的な知識を得たことや,危険箇所調査の結果を地図

にまとめたこと,自分の生活をカードで振り返る習慣が身に付いたことにより,安全な

生活を送るための実践力につながったと考えられる。(資料9,10)

2 今後の課題

○ 環境については,生徒たちの興味関心を引き有効であったが,新しいものにしていかな

ければ興味関心を持続していくことは難しかった。今後は定期的に,その時期に必要な環

境の工夫を行っていきたい。

○ 外部講師を招聘しての行事や授業は生徒たちに有効なものであったが,効果的な活用と

するためには,日程の調整や授業の中での役割分担等の打ち合わせが重要であると感じ

た。今後は行事を精選し,より有効に活用できるようにしていきたい。

○ これまでの取組を通して,生徒は保健・安全に関する実践力が身に付いてきている。ま

た,保健・安全に対する保護者の意識の高まりもみられた。しかし,自己管理する能力の

育成にはまだ課題が多い。将来にわたって健康で安全な生活をしていくためには自己管理

が大切だと考える。これからも,継続して実践していけるよう支援していきたい。

◆ 参考文献

○ 「中学校学習指導要領解説 保健体育編」 文部科学省 平成 20年7月

○ 「中学校学習指導要領解説 特別活動編」 文部科学省 平成 20年7月

○ 「中学校学習指導要領(平成 29年告示)解説 特別活動編」 文部科学省

平成 29年7月

○ 「評価基準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料 中学校 保健体育」

国立教育政策研究所 教育課程センター 平成 23年 11 月

○ 「評価基準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料 中学校 特別活動」

国立教育政策研究所 教育課程センター 平成 23年 11 月

○ 「生きる力」を育む中学校保健教育の手引き 文部科学省 平成 27 年3月

資料 10 自転車の定期点検 資料9 周囲の安全確認