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1 鳥取大学 農学部 生物資源環境学科 准教授 上中 弘典 ラン科植物の発芽と共生を 促進する技術 2016年12月1日(CIC東京)

ラン科植物の発芽と共生を 促進する技術 - JST1 鳥取大学農学部生物資源環境学科 准教授 上中弘典 ラン科植物の発芽と共生を 促進する技術

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鳥取大学 農学部 生物資源環境学科

准教授 上中 弘典

ラン科植物の発芽と共生を

促進する技術

2016年12月1日(CIC東京)

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• 約880属25,000種以上からなる単子葉植物

の科の一つで、単子葉類の中で進化の頂点

にあると考えられている

• 形態、生態、分布域などが多様で、昆虫と

の共進化により現在も進化を続けている最

も多様性に富む植物である。

コチョウラン(Phalaenopsis aphrodite)

独自の形態や多様性から愛好家も多いため、生育環境の変化だけでなく、

乱獲のために絶滅に瀕する野生種が多い。

ラン科植物

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デンドロビューム(Dendrobium sp.)

サギソウ(Pecteilis radiata)

ツチアケビ(Cyrtosia septentrionalis)

着生ラン 地生ラン

• ラン科植物のほとんどが着生ランであり、人工栽培可能なものが多い

• 多くの地生ランの種子は発芽が難しく、着生ランのように人工発芽・

栽培するのが困難>難発芽性

着生ランと地生ラン

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難発芽性のランの例

希少価値が高く贈答用としての園芸価値

も高いと考えられるキンラン・ギンラン

http://www.amazon.co.jp/

人工発芽が非常に困難なバニラには耐病性品種が無いため、人工発芽による増殖が必要とされている

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ランの発芽には菌類との共生が必須

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シランの人工発芽系(モデル実験系)

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人工発芽系により発芽した植物体

一般的に地生ランの種子は休眠性が強く、無菌発芽系の適用が難しい場合が多い。

共生菌の培養も困難な場合が多い。

Bars=500 μm

難発芽性のラン科植物の栽培には、共生菌との共生効率を向上させるか、

共生菌非存在下で発芽可能な、これまでにない革新的な技術の確立が必要

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共生細胞数の定量実験系の構築

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ジベレリン阻害剤は共生を促進する

発芽後2週間のプロトコームにおけ

る比較

ジベレリン処理:1 μM ジベレリン

A3(GA3)

ジベレリンの生合成阻害剤処理:

1 μM ウニコナゾール(Uni)、もし

くはパクロブトラゾール(PBZ)

ジベレリン処理によりシランにおける菌根菌との共生が劇的に

抑制され、ジベレリンの生合成阻害剤の処理で劇的に促進される。

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ジベレリン阻害剤は発芽を促進する

ジベレリン処理により無菌発芽系においても、シランの発芽が

劇的に抑制され、ジベレリンの生合成阻害剤の処理で促進される。

発芽

率(%

)

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ジベレリンの阻害剤

スミセブンP

(住友化学)

>ウニコナゾール

バウンティ

(日本農薬)

>パクロブトラ

ゾール

理研ビオロック

(理研グリーン)

>プロヘキサジオ

ンカルシウム

ビーナイン(ニッ

ソーグリーン)

>ダミノジット

生合成阻害剤

農薬(植物成長調整剤)として安価に市販されており、安全性も

検証されている。

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農薬の発芽への影響

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他の地生ランの発芽への影響

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難発芽性のランの発芽への影響

ジベレリンの生合成阻害剤によるラン科植物の無菌発芽系による発芽の

劇的な促進効果は、ラン科植物で広く適応可能であると考えられる。

• 胚の膨張

• 仮根の形成

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土壌を用いた発芽試験(シラン)

土壌: 鹿沼:桐生:赤玉=1:1:1

スミセブンP

(住友化学)

>ウニコナゾール

処理区(種子約100粒を土壌にシードパケットにて埋没)

• コントロール

• スプレー(100ppb)

• スプレー(10ppb)

• スプレー(シードパケット)

• 種子浸漬(100ppb)

• 種子浸漬(10ppb)

• 浸漬(10ppb)+スプレー

• 土壌浸漬(100ppb)

• 土壌浸漬(10ppb)

処理条件、期間: 24℃、6週間

供試植物:シラン(Bletilla striata cv. ‘Murasakishikibu’)

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無菌状態の土での発芽率

ジベレリン阻害剤(農薬)による発芽促進効果を確認

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• 難発芽性のラン科植物の発芽に利用される技術とし

ては、段ボール播種法、共生菌を含むコンポストの

利用等があるが、

- 作用機構がよくわかっていない

- 発芽か共生のどちらに作用しているか不明

- 適用できる植物が限られている

等の問題があり、広く利用されるまでには至ってい

ない。

従来技術とその問題点

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• ラン科植物の発芽と共生の両方を同時に促進可能で、

かつラン科植物に広く適用可能な本技術を開発した。

本技術と同様の効果を発揮可能な従来技術は、これ

までに全く報告されていない。

• ジベレリンの阻害剤は農薬として市販されているこ

とから、安全性が検証済であり、かつ安価に利用で

きる。

• 基礎研究により、ラン科植物の発芽・共生における

ジベレリンの作用機構が明らかになってきている。

新技術の特徴・従来技術との比較

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• 新たなラン用培養土の開発

• 既存の農薬の新規用途開発

• 希少ランの保全、および人工栽培技術の開発

– 希少ランの保全事業への利用

– 希少ランの栽培化による産業創出

想定される用途

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• 発芽不可能なランに対しても適用できるかを明

らかにする必要がある。

• ジベレリン阻害剤は植物の成長を抑制するため、

発芽後の植物体を成長させる際の利用方法に関

してさらに調査する必要がある。

• ランの自生地を用い、フィールドレベルで本技

術が適用できるかについて、現在調査中である。

実用化に向けた課題

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• 付加価値のある新規ラン用培養土、および農薬の

新規用途を探している企業との共同研究を希望。

• 希少なラン科植物の保全事業を展開している企業

には、本技術の導入が有効と思われる。

• 園芸植物として価値の高いランや人工発芽が非常

に困難なラン(バニラなど)の人工栽培技術の確

立による新規事業の創出を目指す企業との共同研

究を希望。

企業への期待

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• 発明の名称:ラン科植物の発芽と共生を促進する技術

• 出願番号 :特願2015-196787

• 出願人:鳥取大学

• 発明者:上中弘典、三浦千裕、山本樹稀、古井佑樹

本技術に関する知的財産権

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• 2014年~2015年:JST・平成26年度第2回

A-STEP・FS探索タイプに採択

• 2015年~ :積水樹脂株式会社と共同研究実施

(農水省・農食研究推進事業)

• 2016年:JST・マッチングプランナープログラム

「平成28年度企業ニーズ解決試験」に採択

>他、複数の企業との共同研究を実施中

産学連携の経歴

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鳥取大学 産学・地域連携推進機構

知的財産管理運用部門

部門長・教授 三須 幸一郎

TEL:0857-31-6000

FAX:0857-31-5474

e-mail:chizai@ml.adm.tottori-u.ac.jp

お問い合わせ先