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ヒートポンプとその応用 2015.11.No.89 ─ 6 ─ ── 実 施 例 ── 2.建物概要 2-1 建物概要 建 物 名 称 イオンモール岡山 所 在 地 岡山市北区下石井1丁目2番1号 建 築 主 イオンモール㈱ 建 物 用 途 ショッピングモール(物販・飲食,サービス, 映画館,放送局) 敷 地 面 積  45,495.88㎡ 建 築 面 積  34,961.84㎡ 延 床 面 積 251,157.78㎡ 構 造 規 模 鉄骨造 地下2階 地上8階 駐 車 台 数 約2,500台 工   期 平成25年4月~平成26年11月 1.はじめに 岡山市北区に西日本最大規模のフラッグシップモール 「イオンモール岡山」が平成26年12月にオープンした。 (写 真-1) 中四国エリアの交通の要衝「JR岡山駅」から徒歩5 分の場所に立地し,駅からは岡山駅南地下道が直結され 来店客の利便性は極めて高い。 モールコンセプトは“晴れの国”といわれる岡山にちな んで“haremachi (ハレマチ)わたしのみらいをつくるま ち”となっており,「haremachi Gate」「未来スクエア」 「haremachi Garden」と3つの異なる都市空間を自在に 楽しむことができる。さらにこれまでにない取り組みと してモール独自のネットTV放送局「haremachi Studio」 や地上波TV放送局「OHKまちなかスタジオ〈ミルン〉」 が併設され,モール内の最新情報や地域密着の多様な情 報発信がリアルタイムで行われている。 ■キーワード/大規模ショッピングセンター・建築計画・設備計画 イオンモール㈱ 開発本部 建設部 佐 藤 雅 哉 ㈱大本組 建築本部 設計部 木 津 伸 哉 三菱重工業㈱ 大型冷凍機技術部 長谷川 泰 士 ㈱エネルギア・ソリューション・アンド・サービス 石 川   淳 イオンモール岡山の建築設備計画 写真-1 建物俯瞰

イオンモール岡山の建築設備計画enec-n.energia.co.jp/enec_data/chikunetsu/heatpump/hp89/...011189 9 実 施 める割合は18%程度となっている。そのうち,冷水・冷

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ヒートポンプとその応用 2015.11.No.89─ 6 ─

── 実 施 例 ──

2.建物概要2-1 建物概要建 物 名 称 イオンモール岡山所 在 地 岡山市北区下石井1丁目2番1号建 築 主 イオンモール㈱建 物 用 途 ショッピングモール(物販・飲食,サービス,

映画館,放送局)敷 地 面 積  45,495.88㎡建 築 面 積  34,961.84㎡延 床 面 積 251,157.78㎡構 造 規 模 鉄骨造 地下2階 地上8階駐 車 台 数 約2,500台工   期 平成25年4月~平成26年11月

1.はじめに 岡山市北区に西日本最大規模のフラッグシップモール

「イオンモール岡山」が平成26年12月にオープンした。(写真-1) 中四国エリアの交通の要衝「JR岡山駅」から徒歩5分の場所に立地し,駅からは岡山駅南地下道が直結され来店客の利便性は極めて高い。 モールコンセプトは“晴れの国”といわれる岡山にちなんで“haremachi(ハレマチ)わたしのみらいをつくるまち”となっており,「haremachi Gate」「未来スクエア」

「haremachi Garden」と3つの異なる都市空間を自在に楽しむことができる。さらにこれまでにない取り組みとしてモール独自のネットTV放送局「haremachi Studio」や地上波TV放送局「OHKまちなかスタジオ〈ミルン〉」が併設され,モール内の最新情報や地域密着の多様な情報発信がリアルタイムで行われている。

■キーワード/大規模ショッピングセンター・建築計画・設備計画

イオンモール㈱ 開発本部 建設部 佐 藤 雅 哉㈱大本組 建築本部 設計部 木 津 伸 哉

三菱重工業㈱ 大型冷凍機技術部 長谷川 泰 士㈱エネルギア・ソリューション・アンド・サービス 石 川   淳

イオンモール岡山の建築設備計画

写真-1 建物俯瞰

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ヒートポンプとその応用 2015.11.No.89─ 7 ─

── 実 施 例 ──

予備電源:非常用発電機 1,250kVA(燃料:A重油)弱  電:TEL,LAN,TV,ITV,放送,機械警備防  災:非常照明,自火報,非常放送,誘導灯,避雷針給  水:受水槽(SUS製溶接型)有効容量460t     +加圧給水ポンプ方式給  湯:個別給湯方式(電気,ガス)排  水:汚水・雑排水合流式,厨房排水単独排水消  火:スプリンクラー設備(閉鎖型,開放型,放水型),

連結送水管,泡消火設備,移動粉末消火設備,ハロゲン化物消火設備

熱  源:磁気軸受式インバータターボ冷凍機+吸収式     冷温水発生機,空冷HPモジュールチラー空  調:ファンコイルユニット+外調機,空冷HPエ

アコン,ルーフトップエアコン,直膨式空調機,エアハンドリングユニット

排  煙:機械排煙昇 降 機:乗用・人荷用エレベータ,エスカレーターそ の 他:厨房除害設備

3.電気設備計画3-1 受変電設備 受電方式は三相3線22kVを本線・予備線の2回線にて引き込み,特高変圧器容量は7,500kVA×2台としている。サブ高圧受変電電気室として,2階および最上階に12カ所の分散配置を行い(図-1),特殊な大型テナン

<建築本体工事>設計・監理 ㈱大本組東京本社一級建築士事務所総 合 施 工 ㈱大本組<熱源設備>イオンモール㈱からの熱源受託事業受 託 者 ㈱エネルギア・ソリューション・アンド・

サービス設計・監理 ㈱大本組東京本社一級建築士事務所総 合 施 工 ㈱大本組2-2 計画概要 建設場所はJR岡山駅から南方に約300m,「市役所筋」という大通りに面する好立地である。郊外型ショッピングモールとは異なり,定められた高建ぺい率・高容積率を有効に活用して,商業階9層からなる高層型商業施設となっている。そのため,従来の動線計画は横方向に対してお客さまがスムーズに回遊していただくことに重点を置き計画するが,それに加え縦方向も検討する必要があり,いかにしてお客さまを飽きさせず,施設全体を回遊していただくかが課題であった。 縦方向の回遊性向上の工夫の一つとして,施設全体を地下層(B2階からB1階),低層階(1階~4階),高層階(5階~7階)と3つのテーマゾーンに分け,それぞれの層を異なる施設テーマとすることで,上層階に上がるお客さまに対し,驚きと新鮮さを感じていただけるよう計画した。 また低層階には,シンボル的な空間である中四国エリア最大級の屋内イベントスペース「未来スクエア」を設け,1階のイベントスペースを2階から4階にかけて徐々に吹き抜けを大きくするすり鉢状の吹き抜け空間で囲み,その周囲にエスカレーターを設置することで,より多くの人々がイベントを見物できるようにしたことや,上に上がる動線の流れを見せることによって,上階への期待感を創出した。(写真-2)

2-3 設備概要受 変 電:特別高圧22kV 受電(常用・予備2回線)

写真-2 未来スクエア

S/S-太陽光

図3-2-1

B1F

1F

2F

3F

4F

5F

P6F

P7F

RF

RF

6F

P8F

7F

特別高圧受変電設備

S/S-B

S/S-K

S/S-E

S/S-JS/S-F

S/S-D

S/S-G

S/S-HS/S-I

S/S-A

S/S-C

図-1 受変電設備 高圧幹線系統図

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ヒートポンプとその応用 2015.11.No.89─ 8 ─

── 実 施 例 ──

て,照明本体からの発熱が抑えられ,冬季の室内温度環境維持には,導入外気の昇温を考慮する必要がある。そのため温熱源に吸収式冷温水発生機を設置し,温水供給を可能にしている。また夏季にはターボ冷凍機と吸収式冷温水発生機を併用することでエネルギーのベストミックスをはかり,電力のピークカットに対応した。さらに熱源台数制御には,現状の冷熱負荷と冷却水温度からもっとも高くなるCOPを演算して台数制御を行う「熱源システム最適化制御」を導入している。 以下に主な熱源機器の構成と熱源スペースの設置状況を示す。(写真-5)

 磁気軸受型インバータターボ冷凍機               800USRT×3(屋外型) 吸収式冷温水発生機     650USRT×2(屋外型) 開放式冷却塔        3,293kW×3(集合型)               3,798kW×2(集合型) 冷房時に冷水7℃,暖房時に温水45℃の冷温熱源を屋上の熱源スペースより店舗内のファンコイル(FCU)および外気処理空調機(OHU)に供給している。空調システム図を図-2に示す。4-2 空調区分 空調ゾーニングは,中央熱源ゾーンと個別空調ゾーンに分け,各店舗の負荷や営業形態を考慮しながら計画した。中央熱源ゾーンはFCU系統とOHU系統をヘッダで分離してFCU系統には冷水のみを供給し,OHU系統には冷水と冬場の外気を昇温するため切替弁で温水が供給できるシステムとした。風除室や飲食テナント,物販テナントの一部について,空冷ヒートポンプエアコンによる個別空調ゾーンとしている。4-3 熱源運転実績データ 熱源設備の運転実績として,平成27年6月21日㈰のデータを図-3に示す。 原稿執筆時点では運用開始後の夏季を迎えていないため,フルロード運転の実績データを掲載することができないが,この日はインバータターボ冷凍機2台の運転で

トには単独の高圧変電設備とし,各高圧受変電の供給エリア・用途を考慮した区分とすることで,安全性,メンテナンス性に考慮した。3-2 照明設備 中四国エリア最大級の屋内イベントスペース「未来スクエア」では,膜天井へのフルカラー LED投光器やLED間接照明の照度や色彩の変化を利用した多彩なシーン演出を可能としている。 館内共用部の照明はすべてLED照明を採用し,平均照度は500lxとした。低い照度設定でありながら,内装材の仕上げやテナント内の明るさ,キャッチアイ部分のスポット照明などを用いて明るさ感を確保している。 6・7階の飲食ゾーンおよび4階フードコートの通路スポット照明は個別調光制御とし,昼間と夜間の照度設定を変えるなど,シーンごとに演出可能とするシステムを採用した。(写真-3・4)

4.空調設備計画4-1 空調システム概要 熱源設備は㈱エネルギア・ソリューション・アンド・サービスによる熱源受託事業を採用している。 従来,大型商業施設は主に照明の内部発熱により年間を通して冷房が必要であったが,LED照明の普及によっ

写真-3 核店舗売り場

写真-4 ハレマチガーデン

写真-5 熱源スペース俯瞰

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── 実 施 例 ──

める割合は18%程度となっている。そのうち,冷水・冷却水ポンプはともにインバータによる変流量制御を行っており,変流量制御をしない場合と比較して,搬送動力を約25%削減する効果があった。またインバータターボ冷凍機の性能を評価するため,実際の計測値とメーカーが公表している性能特性をもとに同じ条件下で算出したCOPを表-1に比較整理した。この表からも,平均値でメーカー公表データ以上の運転が行われていることが分かる。

5.ターボ冷凍機の新機種採用 熱源設備のターボ冷凍機は,三菱重工業㈱が平成25年8月に開発した潤滑油不要の磁気軸受を搭載した新機種

「ETI-MBシリーズ」を,国内で初めて「イオンモール岡山」に導入した。(写真-6)

推移しており,製造熱量のピークは17時台に計測した15.7GJ/hで,冷熱供給最大(46.8GJ/h)の約34%程度である。 このグラフから分かることは,製造熱量の時間変化は外気温度とほぼ相関していること,また機器の効率に大きく影響する冷却水入口温度については,外気湿球温度の変化に追従しており,冷却塔が正しく機能していることが確認できる。 効率においては,システムCOPは6.0前後,インバータターボ冷凍機の単体COPは2台とも8.0前後の高効率で推移している。熱源全体の電力量のうち,補機類が占

図3-2-2

冷水ポンプ(NO.1~3)

CHRCHSCS CR

CS CHS

冷温水ポンプ(NO.1~2)

TR-1i

AR-1

リテール系統FCU

モール・テナント系統FCU

リテール系統OHU

AR-2

TR-2i

TR-3i

熱源設備工事(熱源受託事業)

建築本体工事

AR-1,2:吸収式冷温水発生機(650USRT)TR-1i,2i,3i:INVターボ冷凍機(800USRT)

送水温度 送水温度 還水温度 還水温度

出口温度

出口温度

外気温度 モール・テナント系統OHU 給気温度

外気温度 給気温度

流量・熱量

流量・熱量

流量・熱量

流量・熱量 流量・熱量

TT TT T T

F F

流量・熱量

図-2 空調システム図

図3-2-3

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

024681012141618

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24(時)

(℃)(COP)(GJ/h)

時 刻TR-2i(GJ)TR-3i(GJ)

外気温度(℃)冷却水入口温度(℃)

湿球温度(℃)TR-2i(COP)

TR-3i(COP)システムCOP

図-3 熱源設備運転実績データ(平成27年6月21日)表-1 冷凍機単体COP 算出値と計測値の比較

表3-2-1

計測値

算出値 8.38.47.2

8.3 7.88.1算出値

7.7

8.0

7.77.8 8.37.58.0 7.8 7.67.7

8.0

8.0

8.17.97.8

7.8

7.87.8 7.78.08.18.3

7.7 7.77.7 7.6

8.0

8.37.5

7.9TR-3i

7.9 7.9 7.8 8.07.77.9計測値 8.0 8.0

8.0

7.9

7.8

平均

7.98.0 8.17.78.0

18時17時15時 16時 19時

8.1

8.0

14時 21時20時11時10時 13時12時9時

TR-2i

表-1 冷凍機単体COP 算出値と計測値の比較

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ヒートポンプとその応用 2015.11.No.89─ 10 ─

── 実 施 例 ──

部分の店舗でLEDを採用しており,従来店舗と比べ約40%の消費電力を削減し,CO2排出を抑制。6-3 節水型器具の採用 館内の便器に節水型便器を採用し,トイレの洗浄水量を抑制。6-4 中水処理水の活用 店舗で発生する厨房排水を処理し,トイレ洗浄水として再利用をはかり,年間12万tの上水を削減。6-5 電気自動車充電器の設置 エコカーの積極的な推進を後押しするため,5階駐車場に電気自動車充電エリア(急速充電器)を設置。(写真-8)

7.事業継続計画(BCP)の対応 災害時には電源を長時間型非常用発電機にて確保し,防災拠点や主要設備のほかに,核店舗(イオン岡山店)の食品売り場に供給し,営業活動が継続できる。断水時には施設受水槽に設置した仮設給水口より飲料水を確保するとともに敷地内に仮設トイレ用排水桝を設置した。また施設内外に設置したデジタルサイネージには,災害時の緊急情報発信が可能となっている。

8.おわりに 「イオンモール岡山」は開業半年間で来店客数が950万人を超え,現在も大変なにぎわいを見せている。これから先,新しい規格である都市型商業施設の特徴が,さまざまなデータとして蓄積されていく。その過程で新しい課題を見つけ解決に取り組み,人と環境に配慮した方策を追求していくことが不可欠であること,すなわち省エネルギーにおけるベンチマークを関係者が一体となって日々進化させていくことが運営者のこれからの取り組みテーマである。 最後に,本プロジェクトの実施にあたり,多くの関係各位の皆さまにご指導とご協力を賜り,この誌面をお借りして厚く御礼申しあげます。

 特徴として,ターボ冷凍機の心臓部である圧縮機の回転軸を通常の転がり軸受から,磁気で浮上させる軸受構造とすることで,摩擦抵抗を非常に小さくすることが可能となっている。また新型翼の採用によって,より一層の高効率化を実現し,これらさまざまな高性能化技術を採用することで,定格COPは6.3(IPLV=9.0)を達成している。さらにコンパクト・軽量化についても改良を加え,従来機種と比べ,設置面積は15%,機器重量は20%削減することができ,機械室レイアウトの柔軟性や搬入の容易性が向上した。 磁気軸受の搭載により,定期的な潤滑油の交換および潤滑系統のフィルタ交換が不要となることから,日常的な潤滑系統管理が省力化され,メンテナンスの手間とコストの大幅な削減が実現し,熱源受託事業のメンテナンス費用低減にも寄与している。

6.環境負荷低減への取り組み6-1 太陽光発電設備 店舗屋上に約300kWの太陽光パネルを設置し,再生可能エネルギーを積極的に採用。(写真-7)6-2 LED照明 館内共用部と外部サインにLEDを100%採用。また大

写真-6 磁気軸受型ターボ冷凍機(屋内設置型)

写真-7 太陽光パネル設置状況

写真-8 電気自動車充電エリア