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― 27 ― ヒートポンプとその応用 2005. 11.No.68 ―― 実施例 ―― ■キーワード/ 大成建設ñ 設計本部 安田女子大学9号館 アトリウムの快適環境計画 ■キーワード/学校・空調計画・室内環境・省エネルギー 1.はじめに 大学9 学( 活デザイン学 い,キャンパス して された ある。 に位 するアトリ に,「 体が学 る」 いうコンセプトより,さま ざま 掛けが,学 たちに きた して され るよう した。 にあたって シミュレーション により した。以 す。 2.建築概要・空調概要 (写真-1・2) 2-1 建築概要 学園 ñ ñ 15 11 133,193.842,823.5112,412.66学 (大学) さ 312-2 空調概要 ヒートポンプチラーユニット 300kW×2台 ガスヒートポンプマルチエアコン ) エアハンドリングユニット,ファンコイル (アトリ ム) ユニット (アトリ ム) サーキュレータ 3.建築・設備の省エネルギー計画 ,アトリ し, さしく, エネルギー た。 写真-1 建物外観

安田女子大学9号館 アトリウムの快適環境計画enec-n.energia.co.jp/enec_data/chikunetsu/heatpump/hp68/...―27― ヒートポンプとその応用 2005.11.No.68

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― 27 ―ヒートポンプとその応用 2005.11.No.68

―― 実施例 ――

■キーワード/

大成建設ñ 設計本部 井 上 邦 彦

安田女子大学9号館アトリウムの快適環境計画

■キーワード/学校・空調計画・室内環境・省エネルギー

1.はじめに安田女子大学9号館は,新学部(生活デザイン学科・

管理栄養学科)設立にともない,キャンパスの中心部の

芝生広場に隣接して建設された校舎である。建物中央部

に位置するアトリウムの快適環境計画を軸に,「建物自

体が学生への教材となる」というコンセプトより,さま

ざまな仕掛けが,学生たちに生きた教材として提供され

るような仕組みとした。

計画にあたっては,温熱・光環境シミュレーションなど

により検証を行い具体化した。以下に計画の概要を示す。

2.建築概要・空調概要(写真-1・2)2-1 建築概要

所 在 地 広島県広島市安佐南区安東6丁目

建 築 主 学校法人 安田学園

設  計 大成建設ñ 一級建築士事務所

施  工 大成建設ñ 広島支店

竣  工 平成15年11月

敷地面積 133,193.84fl

建築面積  2,823.51fl

延床面積  12,412.66fl

主 用 途 学校(大学)

階  数 地上7階

最高高さ 31m

2-2 空調概要

熱源方式

空気熱源ヒートポンプチラーユニット

(共用系統) 300kW×2台

空調方式

(教室,研究室など) ガスヒートポンプマルチエアコン

(共用部) エアハンドリングユニット,ファンコイル

(アトリウム) 床吹き出し空調,床冷暖房

換気設備

(居 室) 全熱交換器ユニット

(実験室) 特殊排気設備

(アトリウム) 上部熱抜き排気

(冬期サーキュレータ兼用)

3.建築・設備の省エネルギー計画本施設は,アトリウム快適環境を主眼点とし,環境に

やさしく,自然エネルギーの有効利用に配慮し計画し

た。

写真-1 建物外観

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― 28 ―ヒートポンプとその応用 2005.11.No.68

―― 実施例 ――

3-1 日射負荷低減(図-1)

A 高遮蔽断熱ガラスの採用

アトリウム上部トップライト部分にLow-e日射遮

へいガラスを,西面に熱線吸収ガラスを採用し,明る

さを確保しつつ,熱負荷の低減をはかっている。(アト

リウム部の負荷を15%削減,建物全体負荷で2%削減)

B 日射遮蔽装置の設置

アトリウムのトップライト部および西面サッシュ部

に電動ロールスクリーンを設置し,強い日差しの侵入

を防ぎ,熱負荷の低減をはかっている。(Aと併用して,

アトリウム部の負荷を27%削減,建物全体負荷で

7%削減)

C 庇の設置

教室の南面~東面にバルコニーを設け,日射の効果

的な遮蔽をはかっている。(A・Bと併用して,建物全

体負荷で9%削減)

D 屋上緑化

南東部教室の屋上を緑化し,井戸水散水により屋上

からの熱負荷の低減をはかっている。(A+B+Cと

併用して,建物全体負荷で10%削減)

3-2 空調室外機への井戸水散水による機器効率向上

(写真-3,図-2)

空調室外機周辺に植栽散水用スプリンクラーを取り付

け,井戸水を散水することにより,吸い込み空気温度を

写真-2 アトリウム

図-1 建築的工夫による省エネルギー

井戸�

屋上庭園�

教室�

実験室�

教室�

アトリウム�

庇の設置�

高遮蔽断熱ガラス(Low-e)�

日射遮蔽装置�(電動ロールスクリーン)�

屋上緑化�

アトリウム�昼光利用�

自然換気�

屋上庭園への井戸水散水�屋外機� トップライト部�

P

低減し,機器効率の向上をはかっている。これにより,

夏期の機器効率を約9%向上させる効果を見込む。

3-3 昼光利用による照明エネルギー削減

トップライトから,アトリウムとその周囲に開放され

た廊下へ自然光を取り込み,照明負荷の低減をはかって

いる。トップライト部および西ガラス面のロールスクリ

ーンを透過・拡散した光により,アトリウム内の必要照

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― 29 ―

―― 実施例 ――

ヒートポンプとその応用 2005.11.No.68

度が確保されるよう計画している。教室は昼光センサに

よる点滅・調光制御を行い,省エネルギーをはかっている。

4.快適環境を実現する居住域空調アトリウムの空調計画にあたっては,温熱環境シミュ

レーションを行い,下記の各種省エネルギー手法を盛り

込んだ空調システムとした。

4-1 床吹き出し空調システム(図-3)

居住域である高さ3m以下の範囲を空調対象とし,西

側ガラス面開口部に対し,外乱の影響を低減するための

効果的な吹出し口配置としている。

4-2 床冷暖房システム(図-3)

アトリウム底部のほぼ全面に,冷温水による床冷暖房

システムを設置し,冷暖房期を通じて,床面から放射効

果により居住域への体感的な快適性の向上をはかる。

4-3 上部熱溜り部換気システム(図-3)

天井面上部に設置した温度センサにより,冷房時は,

上部熱溜り部を機械換気で排気する。なお,教室の空調余

剰空気(外気との熱交換後)がアトリウムへ吹出され,そ

の風量(の一部)が上部より排気される。暖房時は,ダン

パを切り替えることにより,循環ダクトを介して上部暖

気を回収し,下部の暖房に用いる。これにより,上下温

度差を解消し,空調立ち上がり時間の短縮,日射熱の有

効活用が可能となる。

4-4 温熱環境シミュレーションによる検証

設計段階においてCFDシミュレーションを用い,前述

した建築的・設備的省エネルギー手法を取り入れたアト

図-3 アトリウムの空調計画

屋上庭園�

教室�

実験室�

教室�

床冷暖房�

床吹き出し空調�

アトリウム�

夏・冬切り替え 換気システム�

写真-3 空調室外機への散水

図-2 屋上散水エリア(空調室外機全数を対象)

室外機�

制御盤設置位置�(ソーラー電源)�

スプリンクラーヘッド�散水範囲�

スプリンクラ-配管�

リウムの温熱環境の予測を行った。これにより,所定の

温熱環境を実現する必要最小限の日射遮蔽性能,設備機

器の容量・配置を決定した。検討の一例として,夏期冷

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― 30 ―ヒートポンプとその応用 2005.11.No.68

―― 実施例 ――

房時の温熱環境シミュレーション結果を図-4,5に示

す。居住域である1階および各階ELVホールは,おおむ

ね設定温度の26℃程度となり,快適な温熱環境となっ

ている。また,頂部は外気温よりも高温の熱気溜りとな

るものの,ファンにより効果的に熱気排気が行われ,最

上階6階までは熱気が降りてこないことが確認できる。

4-5 中間期の自然換気利用

アトリウムの高さを生かした自然換気利用を積極的に

はかるため,頂部に自動で開閉する換気口を設置し,中

間期の自然換気を行う計画としている(図-1)。上部の

換気口(排気口)は,温度・風速・雨などの外気条件によ

り自動開閉を行う制御としている。下部の換気開口(給

気口)は,1階北側エントランス扉および東側扉を想定

している。中間期には50~80%の時間帯で,自然換気

が可能である。この自然換気により,アトリウム部の冷

房負荷を26%削減することを計画している。

5.自然換気効果の実測検証中間期の自然換気時の換気風量・排気熱量について実

測した結果を図-6に示す。自然換気を行うことで,ア

トリウムの居住域付近は外気温度に近づき,おおむね外

気より1℃程度の上昇となる。一方,上部は外気温度よ

り5℃程度,頂部の排気温度は外気より6℃~7℃程度

高くなっており,日射熱の排気が効果的に行われている

ことが分かる。この時の自然換気量は150,000„/h,排

熱量は1,200MJとなり,それぞれ計画時に想定した値よ

りも5割程度多くなっている。これは,給気開口となる

1階エントランス扉以外の開口(管理用出入口の開閉,

隙間など)があることと,外部風による風力換気の効果

と考えられる。

6.おわりに本施設は,安田学園の建学理念を表現するデザインと

ともに,学生たちに「建物自体が学生への教材となる」

というコンセプトを示し,環境負荷低減のための建築

的・設備的な対応策を実現したものである。庇・電動ロ

ールスクリーン・屋上緑化,循環ダクトなど,実際に学

生たちの目に見える形での建物負荷低減策を表現し,か

らだで感じることのできる居住域の快適な温熱環境確保

について,シミュレーションによる検証を行ったうえで

具現化した。今後とも,学生たちの学び・集う場として

の空間でありながら,エコロジカルな建築として,心に

残る場を提供できたと思っている。

最後に,環境配慮建築に対する理解を持って,計画を

実現に導いていただいた学校法人安田学園様および関係

各位に,感謝申しあげます。

図-4 平面温度分布1(1FL+1m)

図-5 断面温度分布(東西断面A-A’)

ELVホール�

アトリウム�

26

25

教室�

教室�

温度�

44�42�40�38�36�34�32�30�28�26�24

A’� A

▽1FL

▽2FL

▽3FL

▽4FL

▽5FL

▽6FL

トップライト��

東廊下� 西廊下�アトリウム�

教室�

トップライト下端�熱気排気�(12,000„/h)�

ロールスクリーン�

西ガラス面�各階�熱気排気�

ロールスクリーン�

24

30

28

26

40

図-6 自然換気開始時の上下温度分布変化

0+1 +2 +6+5+4+3 +7+0 +8

外 気 温 度 か ら の 昇 温 �

5

10

30

25

(m)�

15

20

自然換気�開始時�

45分後�

75分後�

自然換気量:約150,000„/h�排 熱 量:約1,200MJ�

実測時間中の屋内平均温度は外気より約4.5℃高�

外 部 風 速:2~3m/s(N~NNE)�

床面からの高さ

(℃)�

自然換気�開始15分後�