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19 Vol. 66 No.4 ●  究極の高効率石炭火力発電技術である石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC:Integrated  coal Gasification Fuel Cell combined cycle)と CO 2 分離・回収技術を組み合わせた革新的 低炭素石炭火力の実現を目指した大崎クールジェンプロジェクトは,経済産業省の補助事業「石 炭ガス化燃料電池複合発電実証事業」として2012年度から開始された。本稿では,本プロジェ クトの概要とプロジェクト第1段階である酸素吹石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated  coal Gasification Combined Cycle)建設工事進捗状況について説明する。 The Osaki CoolGen Project began in FY 2012 as a subsidized “Integrated coal Gasification Fuel Cell combined cycle (IGFC) demonstration project” of the Ministry of Economy, Trade and Industry. This project aims to realize innovative low-carbon coal-fired thermal power generation that combines IGFC, an extremely efficient coal-fired thermal power generation technology, with CO 2 separation and capture technologies. The following will explain the project outline, and construction work progress of the oxygen-blown Integrated coal Gasification Combined Cycle(IGCC)demonstration project. ●  大崎クールジェン(株) (OSAKI CoolGen Corp.) 原稿受付 平成26年10月2日 1.はじめに これからのエネルギーに求められるものは,従来の 3E(Energy Security:安定供給,Environment:環境 への適合,Economy:経済性)に安全性のS(Safety: 安全性)が大前提の3E+Sである。石炭は供給安定性・ 経済性に優れたエネルギーで安全性についても長年にわ たる実績を有している。一方で,単位発電電力量あたり のCO 2 排出量が他の化石燃料に比べ多く,地球環境へ の影響が懸念されるため,高効率かつクリーンに利用す る技術開発の重要性は高まっている。 石炭ガス化複合発電(IGCC)は高効率発電方式とし て有望視されており,IGCC等と CO 2 分離・回収および 貯留を組み合わせた革新的低炭素石炭火力発電の技術開 発については,第4期科学技術基本計画(2011年8月 19日閣議決定)において重点的な取り組みとして位置 付けられている。 このような状況の下,2012年度から経済産業省の補 助事業として開始された大崎クールジェンプロジェクト の概要と第1段階である IGCC 建設工事進捗状況につい て説明する。 2.石炭ガス化技術 2.1 石炭ガス化技術の経緯 わが国の石炭ガス化・IGCCの研究開発は,図1に示 す通り1970年代から石炭火力発電の高効率化を目指し 本格的に技術開発が行われている。酸素吹石炭ガス化方 式は,高温ガスタービンの適用とIGFC への発展による 更なる高効率化が期待できる。その中で高効率化に加え て幅広い石炭が利用できる多炭種対応性の高い石炭ガス 大崎クールジェンプロジェクトの進捗状況 (Progress of the Osaki Cool Gen Project) 荒 木    雅 (M. Araki)   225 図1 日本の主要な石炭ガス化・IGCC 技術開発

大崎クールジェンプロジェクトの進捗状況...2015/04/08  · The Osaki CoolGen Project began in FY 2012 as a subsidized “Integrated coal Gasification Fuel Cell combined

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  • 大崎クールジェンプロジェクトの進捗状況(荒木 雅)

    19

    Vol. 66 No.4

        ●    

    究極の高効率石炭火力発電技術である石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC:Integrated 

    coal Gasification Fuel Cell combined cycle)とCO2分離・回収技術を組み合わせた革新的

    低炭素石炭火力の実現を目指した大崎クールジェンプロジェクトは,経済産業省の補助事業「石

    炭ガス化燃料電池複合発電実証事業」として2012年度から開始された。本稿では,本プロジェ

    クトの概要とプロジェクト第1段階である酸素吹石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated 

    coal Gasification Combined Cycle)建設工事進捗状況について説明する。The Osaki CoolGen Project began in FY 2012 as a subsidized “Integrated coal Gasification Fuel

    Cell combined cycle (IGFC) demonstration project” of the Ministry of Economy, Trade and Industry. This project aims to realize innovative low-carbon coal-fired thermal power generation that combines IGFC, an extremely efficient coal-fired thermal power generation technology, with CO2 separation and capture technologies. The following will explain the project outline, and construction work progress of the oxygen-blown Integrated coal Gasification Combined Cycle(IGCC)demonstration project.

        ●    

    *大崎クールジェン(株)(OSAKI CoolGen Corp.) 原稿受付 平成26年10月2日

    1.はじめに

     これからのエネルギーに求められるものは,従来の

    3E(Energy Security:安定供給,Environment:環境

    への適合,Economy:経済性)に安全性のS(Safety:

    安全性)が大前提の3E+Sである。石炭は供給安定性・

    経済性に優れたエネルギーで安全性についても長年にわ

    たる実績を有している。一方で,単位発電電力量あたり

    のCO2排出量が他の化石燃料に比べ多く,地球環境へ

    の影響が懸念されるため,高効率かつクリーンに利用す

    る技術開発の重要性は高まっている。

     石炭ガス化複合発電(IGCC)は高効率発電方式とし

    て有望視されており,IGCC等とCO2分離・回収および

    貯留を組み合わせた革新的低炭素石炭火力発電の技術開

    発については,第4期科学技術基本計画(2011年8月

    19日閣議決定)において重点的な取り組みとして位置

    付けられている。

     このような状況の下,2012年度から経済産業省の補

    助事業として開始された大崎クールジェンプロジェクト

    の概要と第1段階であるIGCC建設工事進捗状況につい

    て説明する。

    2.石炭ガス化技術

    2.1 石炭ガス化技術の経緯

     わが国の石炭ガス化・IGCCの研究開発は,図1に示

    す通り1970年代から石炭火力発電の高効率化を目指し

    本格的に技術開発が行われている。酸素吹石炭ガス化方

    式は,高温ガスタービンの適用とIGFCへの発展による

    更なる高効率化が期待できる。その中で高効率化に加え

    て幅広い石炭が利用できる多炭種対応性の高い石炭ガス

    大崎クールジェンプロジェクトの進捗状況(Progress of the Osaki Cool Gen Project)

    荒 木    雅*(M. Araki)  

    225

    図1 日本の主要な石炭ガス化・IGCC技術開発

  • 火 力 原 子 力 発 電

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    Apr. 2015

    化技術としてEAGLE炉の研究開発が進められている。

    2.2 EAGLEパイロット試験

     EAGLEパイロット試験は,電源開発㈱(J-POWER)

    が(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

    との共同研究事業として北九州市のJ-POWER若松研

    究所において進められてきたもので,石炭使用量150t/

    日のパイロット試験設備によって,これまでに石炭ガス

    化性能,ガス精製性能,多炭種対応性等を確認するとと

    もに,石炭ガス化発電システムにおける石炭ガスからの

    化学吸収法および物理吸収法によるCO2分離・回収技

    術の検証が実施された。大崎クールジェンプロジェクト

    は,このEAGLEパイロット試験に続く商用化を目指し

    た大型実証試験に位置付けられる。

     EAGLE炉は,1室2段旋回型噴流床方式のガス化炉

    であり,ドライフィード給炭方式,水冷耐火壁構造であ

    る。特徴は1室のガス化反応部に上下2段に石炭バーナ

    が配置されている点と,さらに上段バーナからも酸素を

    供給できる方式を採用している点にある。この方式によ

    り,下段で石炭灰を溶融させた溶融スラグが安定的に下

    部のクエンチ部へ排出できる高温雰囲気を作りながら,

    全体の酸素供給量をコントロールすることができ,最適

    なガス化状態を形成しやすい特徴がある。図2に

    EAGLE炉(ガス化部)断面イメージ,図3にEAGLE

    炉構造概要を示す。

     また,バーナ噴出方向をガス化炉中心部よりずらして

    接線方向へ石炭を投入することで,炉内でガスと粒子が

    旋回流を形成する方式としている。この効果により粒子

    の炉内滞留時間,すなわちガス化反応時間を十分に確保

    することができ高いガス化性能を得ることができる。こ

    の特徴を活かすことで灰の融点が高い石炭でも比較的高

    いガス化効率で運転することができ,幅広い炭種に対し

    て適合性を有するガス化炉である。

     EAGLEプロジェクトでは,パイロット試験規模にお

    いて,冷ガス効率82%と高いガス化効率を達成してい

    る。また,多炭種対応性においては,図4のEAGLEパ

    イロット試験適用炭種に示す通りに石炭ガス化に適して

    いる灰溶融点の比較的低い石炭から従来の微粉炭火力に

    用いられている石炭まで幅広い石炭に対応可能であるこ

    とが確認された。

    図4 EAGLE試験適用炭種

    3.大崎クールジェンプロジェクト

    3.1 会社概要

     大崎クールジェン株式会社は,石炭火力のさらなる高

    効率化とクリーン化による低炭素化を喫緊の課題とする

    中国電力(株)とJ-POWERの共同出資によるプロジェ

    226

    図2 EAGLE炉(ガス化部)断面イメージ

    図3 EAGLE炉構造概要

  • 大崎クールジェンプロジェクトの進捗状況(荒木 雅)

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    Vol. 66 No.4

    クト実施事業主体として2009年7月に設立された。国

    のクリーンコール政策である「Cool Gen計画」を実現

    することを目指すという主旨が社名には込められてい

    る。

    3.2 プロジェクト計画

     大崎クールジェンプロジェクトは,石炭火力発電から

    排出されるCO2を大幅に削減させるべく,究極の高効

    率発電技術であるIGFCとCO2分離・回収を組合わせた

    革新的低炭素石炭火力発電の実現を目指す目的で実証試

    験を実施する。実証試験は図5のプロジェクト全体計画

    に示す通り3段階に分けて計画され,第1段階では

    IGFCの基盤技術である酸素吹IGCC実証試験を実施す

    る。写真1にIGCC実証試験設備完成予想図を示す。

     第2段階は,酸素吹IGCCにCO2分離・回収設備を追

    加したCO2分離・回収型IGCCの実証試験。そして最終

    段階として燃料電池と組み合わせたCO2分離・回収型

    IGFCの実証試験を計画している。

    3.3 主要設備計画

     表1に主要設備概要,図6に概略フローを示す。主要

    設備の構成は,ガス化設備,ガス精製設備,空気分離設

    備,排水処理設備,複合発電設備である。なお,設備の

    うち煙突,排水処理設備の一部,揚運炭設備,取放水設

    227

    写真1 IGCC実証試験設備完成予想図

    図5 大崎クールジェンプロジェクト全体計画

    年度 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021

    環境アセスメント

    第1段階 酸素吹IGCC実証

    第2段階  CO2分離回収型

      IGCC実証

    第3段階

       CO2分離回収型

       IGFC実証

    ※1 大崎クールジェン㈱がNEDOとの共同研究として実施

    ※2 中国電力㈱・電源開発㈱がNEDO委託事業として実施中

    NEDO事業

    実証試験

    実証試験

    実証試験

    CO2分離回収

    詳細設計・建設

    CO2分離回収型

    IGFC詳細設計・建設技術評価概念設計

    酸素吹IGCC詳細設計・建設

    石炭

    GT圧縮機

    窒素

    燃料電池

    CO2

    ガス化炉 ガス精製

    H2リッチガス

    CO2 分離回収

    CO、H2

    ST G

    CO2分離回収型IGFCCO2分離回収型IGCCIGCC 実証

    第3段階第2段階第1段階CO2分離回収型IGFCCO2分離回収型IGCCIGCC実証

    第 3段階第2段階第 1段階

    酸素

    CO2輸送および貯留試験は含まれていない

    酸素製造

    <計画中>

    <計画中>

    「燃料電池対応型石炭ガス化複合発電最適化調査研究」※1

    「CO2分離回収システム最適化検討」※2

    図6 IGCC実証試験設備の概略フロー図

    チャー回収設備

    石炭ガス化設備

    空気

    窒素

    空気

    複合発電設備

    冷却水

    圧縮機

    ST

    復水器

    HRSG

    GGT圧縮機

    ガス精製設備

    燃焼器

    石炭

    微粉炭機

    ホッパ

    スラグ

    第1水洗塔

    煙突

    酸素

    精留塔

    空気分離設備

    ガス化炉生成ガス冷却器

    第2水洗塔

    COS転化器

    H2S吸収塔

    H2S再生塔

    S回収吸収塔

    燃焼炉

    空気

    石膏

    排水処理設備

    汚泥

    処理水排水

    チャー回収設備

    石炭ガス化設備

    空気

    窒素

    空気

    複合発電設備

    冷却水

    圧縮機

    ST

    復水器

    HRSG

    GGT圧縮機

    ガス精製設備

    燃焼器

    石炭

    微粉炭機

    ホッパ

    スラグ

    第1水洗塔

    煙突

    酸素

    精留塔

    空気分離設備

    ガス化炉生成ガス冷却器

    第2水洗塔

    COS転化器

    H2S吸収塔

    H2S再生塔

    S回収吸収塔

    燃焼炉

    空気

    石膏

    排水処理設備

    汚泥

    処理水排水

    表1 主要設備概要

    主要機器 設備仕様石炭ガス化設備 酸素吹1室2段旋回型噴流床方式(EAGLE炉),石炭使用量:1,180t/日ガス精製設備 硫黄除去設備:湿式化学吸収法,硫黄回収設備:湿式石灰石石膏法ガスタービン蒸気タービン

    1軸型コンバインドサイクル発電方式(出力:166MW)ガスタービン:開放サイクル型(1,300℃級),蒸気タービン:再熱復水型

    排熱回収ボイラ 再熱複圧自然循環型発電機 全閉横置円筒回転界磁形同期発電機排煙脱硝装置 乾式アンモニア接触還元法排水処理設備 低塩系 高塩系煙突 鋼製自立型(高さ:200m)揚運炭設備 揚炭設備,屋内貯炭場(45,000t),運炭設備※(300t/h)※一部新設所内ボイラ 自然循環式:約21t/h取放水設備 深層取水(海底取水管方式),水中放水港湾設備 揚炭桟橋(6,000DWT級),揚荷桟橋(2,000DWT級×2)※ 着色部は新設設備

  • 火 力 原 子 力 発 電

    22

    Apr. 2015

    備等については中国電力㈱大崎発電所の既設設備を利用

    する。

    3.4 実証試験設備の設備計画・規模の考え方

     ガス化炉はHYCOL(石炭使用量50t/h),EAGLEパ

    イロット試験(石炭使用量150t/h)の成果に基づき構

    築したガス化炉設計アルゴリズムを用いてEAGLEパイ

    ロット試験炉からスケールアップした。設備規模の決定

    基準は以下の通りである。

     ガス化炉は,EAGLEパイロット試験炉から10倍以内

    (石炭使用量1,500t/h以内)とし,生成ガス量(ガスター

    ビン燃料量)を考慮し,既存のガスタービンの中から最

    適なガスタービン(同出力規模で最高効率,低NOx性)

    を選定した。これにより選定されたガスタービン

    (1,300℃級)に必要となる燃料ガス量に見合うガス化

    炉の大きさを検討した結果,石炭使用量を1,180t/日と

    決定した。

     ガス精製設備,空気分離設備はガス化炉の規模に応じ

    た設備規模,排熱回収ボイラ(HRSG)はガスタービン

    の排ガス量に応じた設備規模,蒸気タービンはガス化炉

    とHRSGの発生蒸気条件に対し最適な型式を選定した。

    その結果,実証試験設備の発電出力は166MWとなった。

     複合発電設備には,既存のLNGコンバインド発電技

    術をベースに,ガスタービン燃焼器に中カロリー石炭ガ

    スと第2段階でのCO2分離・回収実証試験を考慮し,

    H2リッチガスに対応した燃焼器を適用した。

     IGCCからの排水は微粉炭火力の処理対象の濃度と異

    なること,また,石炭ガス化特有の物質も含まれるが,

    厳しい排水基準が要求される瀬戸内海水域の適合基準に

    対応可能な排水処理システムを採用した。

    3.5 実証試験の目標

     EAGLEパイロット試験で検証された個別プロセスを

    スケールアップして,連携されたトータル発電システム

    としての実証を行う。表2に酸素吹IGCCの実証目標を

    示す。基本性能である送電端効率は40.5%(HHV)で

    17万kW級規模としては世界最高レベルの性能であり,

    実証試験規模で40.5%が達成できれば,1,500℃級ガス

    タービンを採用した商用機においては,環境エネルギー

    技術革新計画(2013年9月13日総合科学技術会議)の

    各技術項目のロードマップのうち高効率石炭火力発電で

    掲げるIGCCの送電端効率46%を実現できる見通しが

    得られることになる。環境性能は,新規微粉炭火力と同

    等レベルとしてわが国の厳しい環境規制にも対応可能な

    環境特性を有することを検証する。

     多炭種適合性に対してはEAGLEパイロット試験と同

    様の特性があることを確認するため,基本性能確認のた

    めの石炭に加えて多炭種対応を確認する石炭による試験

    を計画している。

     設備信頼性としては石炭火力として求められる微粉炭

    火力と同等の信頼性を目標に長時間耐久試験によって検

    証する。

     プラント制御性・運用性についても設備信頼性と同様

    に微粉炭火力と同等の制御性・運用性を目標に,

    EAGLEパイロット試験で構築したガス化設備とガス

    タービンを連携させた制御システムに蒸気タービンを含

    めたIGCCプラントとしてのトータル制御性を確認す

    る。

    3.6 CO2分離・回収およびIGFC実証試験

     第2段階では,第1段階の酸素吹IGCCにCO2分離・

    回収装置を追設したCO2分離・回収型IGCCの実証試験

    228

    表2 酸素吹IGCC実証試験の目標

    実証試験項目 目     標

    基本性能(プラント性能・環境性能)

    ・送電端効率:40.5%(HHV) 同出力規模(17万kW級)で世界最高水準・環境目標値(O2:16%換算) SOx:8ppm,NOx:5ppm,ばいじん:3mg/m3N

    多炭種適用性・炭種性情適合範囲の把握 �(微粉炭火力に適合しにくい低灰融点炭から微粉炭に適合する石炭まで拡大)

    設備信頼性 ・�5,000時間の長時間耐久試験により事業用石炭火力レベルの年利用率70%以上

    プラント制御性・運用性 ・事業用火力プラントとして必要な運転特性,制御性等 (例:負荷変化率:1~3%/分)

    経済性 ・�商用機レベルで発電原価が微粉炭火力と同等以下になる見通しを得ること

  • 大崎クールジェンプロジェクトの進捗状況(荒木 雅)

    23

    Vol. 66 No.4

    を計画している。CO2分離・回収装置については,

    EAGLEプロジェクトで実施された化学吸収法と物理吸

    収法を中国電力㈱・J-POWERがNEDO委託事業とし

    て比較・評価した結果に基づき,採用する方式を決定す

    る。また,装置規模は,大崎発電所の敷地制約等から両

    方式において最大で石炭ガス化ガスの30%を導入でき

    る規模の装置設置が可能であることを確認している。

    CO2分離・回収装置でのCO2回収率は90%となってい

    る。第2段階の実証試験ではCO2分離・回収装置の性

    能以外にIGCCとの連携も含め火力発電システムとして

    の運用性,経済性,環境性能,CO2分離・回収装置の追

    設による発電効率への影響等を検証する。

     さらに第3段階として,最終目標であるCO2回収型

    IGFCの実証試験を計画している。しかし,現時点では,

    IGFCに適合できる石炭ガス化ガスを燃料ガスとする大

    型の燃料電池および燃料電池に対応するためのガス精製

    技術について開発段階であり,NEDO事業で実証され

    ている大容量コンバインドシステム向けの燃料電池の開

    発状況等の成果を注視しながら,最適なIGFCシステム

    構築の検討を行っていくとともに実証試験実施段階で適

    用可能な燃料電池を選定する計画である。

     第2段階以降に移行するにあたっては,CO2分離・回

    収技術や燃料電池の開発状況を十分踏まえたうえで実証

    試験の事業評価・実施の可否の判断を行い,次の段階に

    進む予定である。

    4.第1段階実証事業の進捗状況

     第1段階の実証試験発電所では,2013年3月に土木・

    建築工事,2014年6月に機器据付工事である機械・電

    気工事が着工し,現在も順調に進捗している。また,各

    工場における機器の製作も順調に進捗している。

     写真2に工場における製作状況として,広島県呉市の

    三菱日立パワーシステムズ㈱にて製作されている熱回収

    ボイラ圧力容器の製作状況を示す。

     写真3に2014年9月現在の建設現場状況を示す。

    写真3 IGCC実証試験設備建設現場状況(2014年9月)

     実証試験発電所を構成する大型機器類は,海上輸送に

    て建設現場へ搬入される。2014年5月には初めての大

    型機器の現地搬入として排熱回収ボイラ(HRSG)が海

    上輸送により搬入され,据え付けられた。また,2014

    年9月にはガスタービンおよび発電機が搬入された。写

    真4,5に大型機器類の搬入状況を示す。

     今後の予定として2014年11月に熱回収ボイラ,12月

    にガス化炉が現地に搬入される予定である。2016年度

    からの補機単体試験およびその後の総合試運転を経た

    後,2017年3月の実証試験開始を予定している。

    写真2 熱回収ボイラ圧力容器製作状況

    写真4 排熱回収ボイラ(HRSG)現地搬入状況

    229

  • 火 力 原 子 力 発 電

    24

    Apr. 2015

    5.おわりに

     本稿では,大崎クールジェンプロジェクトの概要と現

    在建設工事が進む第1段階の実証事業の進捗状況につい

    て説明した。

     現在,プロジェクト実施地点においては建設工事が順

    調に進んでいる。2017年3月の実証試験開始に向け,

    今後も安全・品質・環境の確保を第一とし工事を進めて

    いく所存である。

     最後に,本プロジェクトは,EAGLEパイロット試験,

    NEDO共同研究の「燃料電池対応型石炭ガス化複合発

    電最適化調査研究」の成果を反映しここに至るものであ

    り,経済産業省,NEDO,その他多数の関係各位のご支

    援,ご指導に深く感謝の意を表すとともに,引き続きご

    支援,ご指導をお願いしたい。

    参考文献

    (1)NEDO成果報告書『平成16年度~平成21年度成果

    報告書 多目的石炭ガス製造技術開発(EAGLE)パ

    イロット試験設備による研究およびゼロエミッション

    化技術に関する研究』

    (2)NEDO成果報告書『平成22~平成23年度成果報告

    書 ゼロエミッション石炭火力技術開発プロジェクト

     燃料電池対応型石炭ガス化複合発電最適化調査研

    究』

    230

    写真5 ガスタービン現地搬入状況