15
金融・証券規制動向 1 ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方を巡る議論 米国において、ファニーメイやフレディマックなど住宅関連機関の在り方を巡る議論が 展開され、債券市場にも影響が及んでいる。これら機関は政府機関ではなく、民間企業で あるものの、公共的な目的のために設立されたという特殊性もあり、各種の恩典を享受し ている。こうした機関の巨大化が、金融システムにおけるリスクや、不公正な競争につな がることが懸念されているわけである。 1.GSE とは何か? 2000 年に入り、ファニーメイ債利回りの財務省証券利回りに対するスプレッドが拡大す るという現象が見られている(図 1)。一時は、AAA 格社債の利回りとほぼ同じレベルに 接近した。これは、ファニーメイ(Fannie MaeFederal National Mortgage Association)やフ レディマック(Freddie MacFederal Home Loan Mortgage Association)をはじめとする住宅関連 1 ファニーメイ債の利回り動向 出所Bloomberg, DRI 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 2000年1月 2000年2月 2000年3月 2000年4月 2000年5月 0.0 0.5 1.0 1.5 2000年1月 2000年2月 2000年3月 2000年4月 2000年5月 利回りスプレッド ファニーメイ債利回り(15年)-財務省証券利回り(10年) 財務省証券(30年) 財務省証券(10年) ファニーメイ債15年 (%) (%)

ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

金融・証券規制動向

1

ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方を巡る議論

米国において、ファニーメイやフレディマックなど住宅関連機関の在り方を巡る議論が

展開され、債券市場にも影響が及んでいる。これら機関は政府機関ではなく、民間企業で

あるものの、公共的な目的のために設立されたという特殊性もあり、各種の恩典を享受し

ている。こうした機関の巨大化が、金融システムにおけるリスクや、不公正な競争につな

がることが懸念されているわけである。

1.GSE とは何か?

2000 年に入り、ファニーメイ債利回りの財務省証券利回りに対するスプレッドが拡大す

るという現象が見られている(図 1)。一時は、AAA 格社債の利回りとほぼ同じレベルに

接近した。これは、ファニーメイ(Fannie Mae、Federal National Mortgage Association)やフ

レディマック(Freddie Mac、Federal Home Loan Mortgage Association)をはじめとする住宅関連

図 1 ファニーメイ債の利回り動向

(出所)Bloomberg, DRI

5.0

5.5

6.0

6.5

7.0

7.5

8.0

2000年1月 2000年2月 2000年3月 2000年4月 2000年5月

0.0

0.5

1.0

1.5

2000年1月 2000年2月 2000年3月 2000年4月 2000年5月

利回りスプレッドファニーメイ債利回り(15年)-財務省証券利回り(10年)

財務省証券(30年)財務省証券(10年)

ファニーメイ債15年

(%)

(%)

Page 2: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

■ 資本市場クォータリー 2000 年 夏

2

の政府後援企業(Government Sponsored Enterprises;GSE)が、公共的役割を果たしている

ということで、各種の優遇的措置がとられていることを見直そうという議論が活発化して

いることを、市場が懸念したものである。

1) GSE の位置づけ

GSE は、住宅や農業の分野に対して、融資や債務保証などの方法で資金の供給、ないし

その円滑化を実現している株式会社である。現状、Fannie Mae, Freddie Mac, Federal Home

Loan Banking System(FHLBs)、Farm Credit System、Farmer Mac の 5 つの GSE が存在する

1。GSE はこうした金融業務を実行するにあたり、パススルー証券や貸出債権担保証券等を

活発に発行し、資本市場においても重要なプレイヤーとなっている。

GSE は、民間の企業であり、ファニーメイとフレディマックはニューヨーク証券取引所

に上場され、規模及び収益でみて世界トップクラスの金融機関と見なされている(FHLBs

は会員銀行と貯蓄金融機関によって保有される組合組織)。しかし、公共政策的目的に合

致した金融業務を追求すべく、議会によって設立されたもので、通常の民間企業とは異な

る位置付けとなっている2。

すなわち、根拠法や監督官庁があり、その定款には組織の目的として公共的な目的が定

められている。取締役の 5 名までは大統領が指名する。GSE に対しては、明示的な政府保

証等は行われていないが、以下のような特別な扱いが用意されている。

-連邦法によって、財務省はその裁量で GSE 債を買い取ることができる。財務省は、フ

ァニーメイ及びフレディマックの債務の場合 22 億 5 千万ドル、FHLBs の債務の場合

40 億ドルまで、買い取ることが可能である。

-州及び地方の法人所得税の免除。

-発行する証券については、SEC 登録が免除される。

-銀行が一般企業の社債を購入する場合は、自己資本に対する保有上限比率が課せられ

るが、GSE 債券の場合、保有制限がない。

-GSE 債は、BIS 規制上、100%ではなく 20%のリスクウェイトが適用される。

-GSE 債は、公金預金及び連銀借入、FHLBs からの借入の担保適格である。

-GSE 債は、連邦政府の受託者、公的基金の正当な投資対象とされる。

-GSE は、FRBs を財務代理人として利用でき、証券の発行や売買処理を、連銀のブック

1 このほかに、教育ローンを提供する Sallie Mae が存在したが、同社は、完全な民間企業に移行するプロセ

スにある。また、住宅に関連した公共的金融機関として、Ginne Mae(Government National Mortgage Association)も有名であるが、これは、政府保証の住宅ローンである Veterans Administration loans や Federal Housing Administration (FHA) loans を買い取り、市場流動性を供給する、純粋に公的予算で運営される政府

機関であるため、民間企業である GSE には該当しない。Ginne Mae の調達コストは財務省証券レートであ

り、Fannie Mae、Freddie Mac よりも低コストである。 2 GSE に関しては、富田俊基『財投解体論批判』東洋経済新報社、1997 年を参照。

Page 3: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方を巡る議論

3

エントリーシステムを通じて行う。

こうした特別な扱いがあることも背景に、同債券は政府保証ではないことを投資家に開

示することになっているにも関わらず、市場では、これら GSE が発行する債券は、事実上

連邦政府の保証を受けているものと理解されている。この結果、伝統的に GSE は低いファ

ンディング・コスト(ファニーメイ債の場合、財務省証券の上で、AAA 格社債よりも下)

を享受できている他、資本金が相対的に少なくて済んでいる3、SEC 登録免除や州税、地方

税の免除などにより直接的な経費削減の恩恵も受けている。

2)GSE に対する従来の批判

以上に見たような GSE に対する暗黙の政府保証の存在や優遇措置は、リスクや公正競争

といった観点から、金融システム上問題があるのではないか、という指摘は、過去にもな

されてきた。

リスクという点に関しては、政府保証の債券ではないのに、市場において政府保証があ

るかのように扱われているため、万一のことが生じた場合、投資家にパニックが生じたり、

あるいは結果的に政府が支援しなければならない事態に陥るおそれが指摘されている。実

際の所、1980 年代初頭の金利上昇期に、ファニーメイの調達コストが上昇し、資産として

保有する長期固定のモーゲージ金利を上回る事態が生じた際の教訓がある。この時、市場

価格ベースでは、ファニーメイは、事実上破綻に陥ったが、税制面の配慮や支払い猶予と

いった行政面の対応と、金利低下もあり、危機を乗り切ることができたのである。

1980 年代から 1990 年代初頭にかけての S&L 危機や銀行危機を背景に、米国では、金融

機関の安全性、健全性の確保への関心が高まったが4、議会は 1991 年より、住宅関連 GSE

についても、安全性や健全性の問題について検討を本格化させた。この結果、Federal Housing

Enterprises Financial Safety and Soundness Act of 1992 が成立し、ファニーメイとフレディマ

ックの安全性、健全性を監督する機関として、Office of Federal Housing Enterprise Oversight

(OFHEO)が連邦住宅局の中に設立された。OFHEO は、ファニーメイやフレディマック

に対してオンサイトの検査を実施する他、ストレステストを踏まえた適切なリスクベース

の自己資本比率規制の開発や、その他財務の安全性、健全性の確保のための必要な監視や

措置を実施する。

また、公正競争という点に関しては、1996 年の議会予算局(CBO)のレポートは、ファ

ニーメイとフレディマックは、暗黙の政府の支援による低調達コストの結果、事実上、約

65 億ドルの補助金を政府から受けているに等しい、と発表し論議を呼んだ。

3 ファニーメイ、フレディマックの場合、 低自己資本比率は、オンバランス資産の 2.5%プラス(MBS 残

高+その他オフバランス債務)の 0.45%とされている。 4 Financial Institutions Reform, Recovery and Enforcement Act of 1989 (FIRREA)や 1991 年の Federal Deposit Insurance Corporation Improvement Act (FDICIA)が成立。

Page 4: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

■ 資本市場クォータリー 2000 年 夏

4

2.今回の議論の背景と新法案の内容 1)背景

このように過去にも議論となり、一定の立法措置も取られてきた住宅関連 GSE の問題で

あるが、今回は、下院銀行・金融サービス委員会のリーチ委員長とベーカー議員が、新た

な法案(ベーカー法案)5を提出したことで、再び注目を集めている。両議員の法案提出の

根底には、住宅関連 GSE の在り方が、次のように従来と比べて大きく変化してきている状

況がある。

(1)GSE 債の重要性の高まり

第一のポイントは、GSE 債の絶対的規模の拡大に加え、財務省証券市場の規模縮小の結

果、相対的な重要性も高まることが予想されることである。GSE の発行する債券の残高は、

1.4 兆ドルと、地方債全体の残高とほぼ同じ規模で、市場で保有され取引される財務省証券

残高(2.7 兆ドル)の半分強に上る(図 2)。これに GSE が保証するモーゲージ担保証券の

発行残高 1.2 兆ドルを加えると、その規模は、財務証券残高に近づく。

図 2 住宅関連 GSE 債の残高推移

5 Housing Finance Regulatory Improvement Act, H.R.3703

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

(10億ドル)

財務省証券残高(市中保有分、市場性のあるもの)

FHLB債残高

ファニーメイ債残高

フレディマック債残高

(出所) Treasury Bulletin, Federal Reserve Bulletin

Page 5: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方を巡る議論

5

さらに、財務省によれば、2005 年には GSE の債券残高は 3 兆ドルと、倍増することが予

想される。一方で、米国財政は健全化し、財務省証券残高は減少しつつあるので、GSE 債

券残高は、向こう 3 年以内に、市中で保有・売買される財務証券の残高を上回ることにな

ると言われる。

ファニーメイとフレディマックに限っても、表 1 に見られるように、有利子負債残高は、

99 年 9 月末の 8,660 億ドルから、2003 年末には 1 兆 8000 億ドルに増大すると予想されてい

る。

表 1 ファニーメイ、フレディマックの有利子負債残高

(出所) Peter J. Wallison and Bert Ely, Nationalizing Mortgage Risk-The Growth of Fannie Mae and Freddie Mac, The AEI Press, 2000

財務省証券残高の縮小により、投資家が運用やヘッジの対象を他の商品に求めるように

なっており、GSE 自身も自らの債券を新たなベンチマークとしてマーケティングしている6。

2000 年 3 月には、フレディマック債とファニーメイ債の先物取引がスタートした。特定の

民間セクターの債券が、先物取引所で取引されるのは、初めてのことである。

GSE 債は、マネタリーポリシー上も重要となる。連銀は、現状は GSE 債券を購入してい

ないが、過去には例がある。また、Y2K がらみで、流動性不安が生じた折りに、連銀は、

GSE 保証のモーゲージバック証券を、レポの担保として利用するようになった。

(2)モーゲージ市場における GSE のシェア拡大

第二のポイントは、モーゲージ市場における GSE の影響力の増大である。ファニーメイ、

フレディマックの資産は、過去 10 年で、3,000 億ドルから 1.4 兆ドルへと 4 倍以上の規模と

なっており、モーゲージ市場における GSE のウェイトも増大している。このことが、両機

関の抱えるリスクの拡大につながると同時に、モーゲージをオリジネートする金融機関に

おける価格競争や、貸出判断にも将来的に影響していくおそれがある。Wallison and Ely の

推計によれば、2003 年までに、両機関は米国住宅モーゲージ市場から生ずるリスクの半分

6 例えばファニーメイは、1999 年初頭よりベンチマーク・ノート・プログラムをスタートさせ、まとまっ

た金額の発行を定期的に行うことにより、流動性が高く取り引きしやすい債券市場を提供し、固定利付き

債券の投資家のニーズに応えようとしている。

(単位)百万ドル年平均 年平均

1995 1996 1997 1998 1999(推) 2000(予) 2001(予) 2002(予) 2003(予) 増加率 増加率95-98(%) 98-03(%)

ファニーメイ有利子負債残高 299,174 331,270 369,774 460,291 560,327 673,780 798,943 930,255 1,081,311 15.4 18.6総資産に占める割合 94.5 94.4 94.4 94.9 95.0 95.0 95.0 95.0 95.0

フレディマック有利子負債残高 119,328 156,491 172,321 287,234 337,432 420,329 508,383 605,489 712,419 34.0 19.9総資産に占める割合 87.0 90.0 88.6 89.4 90.0 90.0 90.0 90.0 90.0

ファニーメイとフレディマックの有利子負債残高合計 418,502 487,761 542,095 747,525 897,759 1,094,109 1,307,326 1,535,774 1,793,730 21.3 19.1

Page 6: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

■ 資本市場クォータリー 2000 年 夏

6

を抱えることになる7。このうち、その本来業務である通常のモーゲージ市場では 9 割以上

のシェアを握るに至るが(表 2 参照)、成長のためにも、よりリスクの高い他のモーゲー

ジ分野での業務も増大させることが予想される。いずれにしても、たった二つの機関に、

住宅モーゲージのリスクがこれほど集中するのは、歴史上かつてないこととされる。こう

した分析を通じて、今改革を実行しなければ、80 年代の S&L 問題と同様の問題が再来しか

ねないと、Wallison and Ely は警鐘を鳴らす。

表 2 住宅モーゲージ市場の規模とファニーメイ、フレディマックのシェア

(出所)Peter J. Wallison and Bert Ely, Nationalizing Mortgage Risk-The Growth of Fannie Mae and Freddie Mac, The AEI Press, 2000

(3)銀行による GSE 債購入の増大

第三のポイントとして、銀行によるGSE債券の購入の増大である。1999年半ばにおいて、

銀行の保有する GSE 債券は、2,100 億ドル。銀行の総資産の 4%、自己資本の 3 分の 1 に達

する。銀行はこの他、GSE の保証するモーゲージ担保証券を、3,550 億ドル以上保有してい

る。国法銀行は、一社の社債の保有高を資本の 10%以下に制限されており、多くの州法銀

行も同様の規制を受けているが、GSE の債券はこの投資制限を免除されているのである。

7 Wallison, J. P & B. Ely, Nationalizing Mortgage Risk-The Growth of Fannie Mae and Freddie Mac, March 2000, The AEI Press 参照。彼らの推計は、ファニーメイの Franklin Raines 社長が、1999 年 9 月の金融関連のコン

ファレンスで述べた、「2003 年末までに、ファニーメイが米国の住宅モーゲージ市場の 28%を占め、収益

率も現在の倍になっている」という予想をベースに計測されたものである。

(単位)百万ドル年平均 年平均

1995 1996 1997 1998 1999(推) 2000(予) 2001(予) 2002(予) 2003(予) 増加率 増加率95-98(%) 98-03(%)

住宅モーゲージ市場全体1.ジャンボ・モーゲージ 568,008 602,069 639,797 699,485 755,444 808,325 856,825 908,234 962,728 7.2 6.62.通常のモーゲージ 1,969,096 2,087,172 2,217,961 2,424,882 2,618,873 2,802,194 2,970,326 3,148,545 3,337,458 7.2 6.63.FHA/VAモーゲージ 466,620 497,684 525,000 524,354 546,377 566,456 584,300 602,705 621,690 4.0 3.54.サブプライム、ホームエクイティ 505,997 532,085 572,096 673,732 747,556 818,051 883,279 952,928 1,027,281 10.0 8.85.アパート向け 277,002 294,783 310,456 340,782 368,045 393,808 417,436 442,482 469,031 7.2 6.6合計 3,786,723 4,013,793 4,265,310 4,663,235 5,036,294 5,388,834 5,712,164 6,054,894 6,418,188 7.2 6.6(伸び率、%) 4.3 6.0 6.3 9.3 8.0 7.0 6.0 6.0 6.0

ファニーメイ 保有資産 252,868 286,527 316,592 415,434 528,811 635,882 754,006 877,960 1,020,492 18.0 19.7  全体に占めるシェア(%) 6.7 7.1 7.4 8.9 10.5 11.8 13.2 14.5 15.9  2+4+5に占めるシェア(%) 9.2 9.8 10.2 12.1 14.2 15.8 17.7 19.3 21.1 保有資産+保証資産 766,098 834,700 895,730 1,052,577 1,208,711 1,347,209 1,485,163 1,634,821 1,797,093 11.2 11.3  全体に占めるシェア(%) 20.2 20.8 20.9 22.5 24.0 25.0 26.0 27.0 28.0  2+4+5に占めるシェア(%) 27.8 28.6 28.9 30.6 32.4 33.6 34.8 36.0 37.2

フレディマック 保有資産 107,706 137,826 164,543 255,670 337,432 420,329 506,383 605,489 712,419 33.4 22.7  全体に占めるシェア(%) 2.8 3.4 3.8 5.5 6.7 7.8 8.9 10.0 11.1  2+4+5に占めるシェア(%) 3.9 4.7 5.3 7.4 9.0 10.5 11.9 13.3 14.7 保有資産+保証資産 566,751 610,891 640,528 734,021 846,097 943,046 1,039,614 1,144,375 1,257,965 9.0 11.4  全体に占めるシェア(%) 15.0 15.2 15.0 15.7 16.8 17.5 18.2 18.9 19.6  2+4+5に占めるシェア(%) 20.6 21.0 20.7 21.3 22.7 23.5 24.3 25.2 26.0

ファニーメイ+フレディマック 保有資産 360,574 424,353 481,135 671,104 866,243 1,056,212 1,262,388 1,483,449 1,732,911 23.0 20.9  全体に占めるシェア(%) 9.5 10.6 11.2 14.3 17.2 19.6 22.1 24.5 27.0  2+4+5に占めるシェア(%) 13.1 14.6 15.5 19.5 23.2 26.3 29.6 32.6 35.9 保有資産+保証資産 1,332,849 1,445,591 1,536,258 1,786,598 2,054,808 2,290,255 2,524,777 2,779,196 3,055,057 10.3 11.3  全体に占めるシェア(%) 35.2 35.9 35.9 38.2 40.8 42.5 44.2 45.9 47.6  2+4+5に占めるシェア(%) 48.4 49.6 49.5 51.9 55.0 57.1 59.1 61.2 63.2  2に占めるシェア(%) 67.7 69.3 69.3 73.7 78.5 81.7 85.0 88.3 91.5

Page 7: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方を巡る議論

7

銀行による GSE 債券が増大し、資産、自己資本に対しても大きな割合になっていることは、

仮に GSE の破綻といった事態が生じる場合、この債券に積極的に投資している銀行の健全

性にも重大な懸念が及ぶ可能性があることを意味する。

(4)GSE の業務拡大の問題

今回の議論では、GSE がその本来の役割を超えて、各種の新規業務に進出しているので

はないか、という点も問題となっている。例えば、GSE がモーゲージ・バック証券を積極

的に購入するようになっており、これは、低利調達ができる体質を利用して利ざやを稼ぐ

という、本業からはずれた業務を行っていることになっているのではないか、という批判

につながっている。また、昨今、米国金融市場では、一部ローン業者による非優良貸出先

への悪質な貸出慣行が問題となっているが、こうした非優良貸出先向けの貸出業務(サブ

プライム・ローン)を GSE が展開するようになっていることへの批判も一部に生じている。

先述の通り、ファニーメイ、フレディマックの本業である通常のモーゲージ分野(中所

得者向け)では、両機関のシェアが極端に高まっていくことが予想され、両機関が成長を

続けるためには、これまで以上に、サブプライム・ローン、ホームエクイティ・ローン、

集合住宅ローンなどの分野を強化していくことは必然と見られる。さらに両機関とも、伝

統的に強力な政治力を有しているため、現状は法規制上制約されているジャンボローン(大

口の住宅ローン)の分野、あるいは消費者ローンのような分野への進出を、実現させるの

ではないかという観測もある。既に、保険については、両機関ともこの分野へ進出しよう

と様々な動きを展開している。

さらに、両機関とも、モーゲージを買い取るかどうかを決めるためのガイドラインに基

づく評価をコンピュータ化し、買い取り判断を自動化しているが、この自動アンダーライ

ティング・システムを末端のモーゲージ借入者に開放すれば、事実上、両機関が個人に直

接、モーゲージローンを提供する機関になりうる、という懸念も指摘されている。インタ

ーネット・テクノロジーが、こうした住宅金融の中抜き現象を可能にしうるわけであり、

この場合は、民間のモーゲージ金融機関は、その役割を著しく縮小させるおそれがある。

両機関とも株式をニューヨーク証券取引所に上場しており、アナリストの評価を高める

ためにも、そうした成長戦略をとっていくのは当然である。また両機関の経営者も、スト

ック・オプションを保有している以上、業容拡大へのインセンティブを当然持っている。

しかし、こうした GSE の新業務進出が活発化すれば、それらのビジネスを行っていた民間

金融機関が競争上不利に立たされる。一部の民間金融機関は、よりリスクの高い分野での

業務を余儀なくされ、この意味でも金融システムの不安定性が高まる要因となりうる。

全般的傾向として、米国資本市場が発展し、モーゲージやその他資産の証券化のテクニ

ックはどんどん洗練されている。従って、GSE のような特別な地位を公的に与えられた機

関が、今後存続することはもとより、このように規模や業務を拡大していくことは、問題

Page 8: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

■ 資本市場クォータリー 2000 年 夏

8

である、という主張が強まっているわけである8。

以上のような GSE の規模の拡大や市場における重要性の高まりの結果、潜在的なシステ

ミックリスクの懸念と公正な競争の阻害の懸念という二つの問題が、従来にもまして指摘

されるようになったわけである。

既に 1997 年の時点で、財務省は Office of GSE Policy を設置し、これらの問題のモニター

を開始してきた。また 近 HUD も、ファニーメイ、フレディマックの自動アンダーライテ

ィングシステムに対するレビューを行ったり、モーゲージ以外の投資ポートフォリオに対

する監視を強化している。民間との公正競争という点では、企業よりのシンクタンクであ

る AEI が昨年来コンファレンスを何度か開催したり、民間ローン会社や保険会社が

FMWatch Group という団体を作り、ファニーメイの在り方に反対するロビー活動を展開す

るようになっている。

2)住宅金融規制改革法案の概要

ベーカー法案は、住宅金融関連の新たな規制機関の導入とシステミックリスクの削減の

二つを中心に構成されている。

(1)住宅金融監視委員会(Housing Finance Oversight Board)の設置

ベーカーが提出した新法案(住宅金融規制改革法案、Housing Finance Regulatory

Improvement Act)は、上記のような GSE の規模拡大がもたらす潜在的なリスクへの懸念の

高まりを背景としつつ、GAO(General Accounting Office、会計検査院)が行った住宅関連

GSE に関する規制統合提案をベースに策定された。

現状の規制は、Federal Housing Finance Board が Federal Home Loan Bank の安全性、健全

性を規制し、Office of Federal Housing Enterprise Oversight がファニーメイとフレディマック

の安全性、健全性を規制し、Department of Housing and Urban Development がファニーメイと

フレディマックの役割が十分達成されているかどうかをチェックするという姿になってい

る。GAO は、このように三つの機関が三つの GSE を規制するという構造は、現状機能し

ているものの、規制機関を単一化することにより、監督・規制の向上と効率化が実現する

としたのである。

新法案は、これを受けて、HUD のセクレタリー、財務省セクレタリー、大統領が指名し

上院が承認した 3 人の市民、以上 5 名によって構成される「住宅金融監視委員会(Housing

Finance Oversight Board)」を設立し、同委員会に住宅関連 GSE が財務的に安全かつ健全で、

その任務を適切に遂行するよう監督させることを提案している。

8 注 5 の文献参照。

Page 9: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方を巡る議論

9

新たな委員会の機能としては、住宅関連 GSE が行おうとする新たな業務が、公益に適う

ものであるかどうかをチェックし、パブリックコメントも求めた上でこれを承認する。ま

た、現状、GSE がそのミッションと必ずしも関係ない業務を資本市場で展開しようとして

も、これを規制する機能が十分働いていないが、新委員会は、こうした業務が全体の資産

に占める比率を規制する権限がある。また、GSE が破綻した際には、管財人を選定する任

にあたるが、これはちょうど国法銀行が破綻した際の、Comptroller of the Currency(通貨管

理局)の役割に相当する。

(2)財務省による住宅関連 GSE へのクレジットラインの廃止

新法案は、新委員会の設置を通じ、単に規制機関の統合による規制の効率化を強調する

だけではなく、住宅関連 GSE が、特別な地位にあることによって生じうる納税者と経済に

対する将来的リスクの削減、及び公正な競争の促進という点も強調しているが、その第一

にあげられるのが、財務省による住宅関連 GSE へのクレジットラインの廃止である。現在

のクレジットラインは、1957 年に設定された水準から変化しておらず、一方、GSE の規模

は飛躍的に拡大している。従って、このクレジットラインはシンボリックな意味しかない。

(3)FHLBs の先取り特権の廃止

S&L 危機の際、FHLBs の担保付き債権が、他の債権者の担保附き債権に対して優先する

という法的措置が取られた。これを廃止することで、FHLBs が、よりクレジットリスクを

意識した行動をすることが促される。

(4)情報開示と格付け

新たに設立される委員会は、GSE に関する情報開示を向上させる役割を担う。また GSE

が、二以上の格付け機関より信用格付けを取得することを義務づける。格付け機関は、格

付けにあたり、米国政府が GSE の債務を保証していないということを考慮すべきである、

と同法は念を押している。

(5)競争促進のための措置

GSE が新規業務を行おうとする場合、パブリックコメントのプロセスを経た上で、新委

員会の承認を受けることが必要となる。これは、GSE が本来の業務以外に進出し、過大な

リスクをテイクしないようにすることと同時に、純粋の民間業者との公正な競争を阻害す

るような事態を抑止する効果を期待したものである。同様に、住宅関連 GSE による、ミッ

ションと関係のない投資活動も、新委員会によって制限されるが、これもリスク及び競争

への配慮である。

Page 10: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

■ 資本市場クォータリー 2000 年 夏

10

3.新法案を巡る議論 1) 議会小委員会におけるヒアリングの状況

同法案を巡っては、下院銀行委員会に「資本市場、証券市場と GSE に関する小委員会

(Subcommittee on Capital Markets, Securities and Government Sponsored Enterprises)」(委員

長はベーカー議員)が設置され、2000 年 3 月 22 日、5 月 17 日、6 月 15 日にヒアリングが

行われた。

第一回のヒアリングの冒頭に陳述したゲンスラー財務次官は、先述したような GSE の拡

大に関する懸念を強調し、新法案を強くサポートする発言をした。このように、財務省は

GSE の在り方を問題視し、ベーカー議員の新法案をサポートする急先鋒となっている。大

統領が民主党であるにもかかわらず、行政府が、共和党議員の法案を支持するということ

は、極めて異例のことであり、この点も市場に一定のインパクトをもたらした。ゲンスラ

ー財務次官自身、ウォールストリートのインベストメント・バンカーの経験が長いこと、

上司にあたるサマーズ財務長官のアカデミックなバックグラウンドを考えると、こうした

主張は、彼らとしては自然なものだったのかもしれない。

消費者、及び納税者を代表する団体の責任者からも、GSE の巨大化や税金へのインパク

トについて批判的な見解が主張された(第三回ヒアリング)。

新法案、及び財務省の意見などへの反論は、ファニーメイ、フレディマックの会長、FHLB

の評議会議長や、住宅金融関連の行政サイドから、主として以下のような議論が展開され

た。

(1)現状の規制は機能しており修正の必要はない

米国は、諸外国に比べはるかに優れた住宅金融を国民に提供しており、これは住宅関連

GSE が十分その役割を発揮してきたためである。規制という点では、1992 年の新法成立を

受け、OFHEO 設置がされたが、OFHEO は、ようやくリスクベースの自己資本規制の導入

に向けてコメントレターを出し、今後、実際の制度導入が期待される段階になっている。

このように問題なく機能し、さらに改善されつつあるものを、修正する必要はない。ファ

ニーメイ、フレディマックと、FHLB では性格が大きく異なり、規制機関の統合は適切で

はない。いくつかの政府機関の代表からなる委員会がうまく機能するかも疑問である。

(2)規模の拡大に懸念はない

GSE が近年拡大したのは、金利低下と好景気により、国民の住宅購入が増大し、モーゲ

ージ借入が活発化したためである。財務省証券の規模が縮小しているのも、望ましいこと

であり、GSE 債が財務省証券の規模を将来上回ろうと、これは経済、金融、財政環境が良

好である結果である。従ってこれを懸念するのはおかしい。またファニーメイ、フレディ

Page 11: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方を巡る議論

11

マックのリスク管理体制は、S&L 危機が生じた 20 年前に比べ、金利リスクマネジメントも

信用リスクマネジメントも、飛躍的に向上している。また FHLB も、完全に担保をとった

運営をしており、貸付ロスを被っていない。さらに既存の規制機関によって、住宅関連 GSE

の業務やリスクは厳格に監視されている。

(3)新規業務への制限やミッションに関係の無い業務に関する新たな規制は不適切で

ある

他の金融機関が革新的な業務を行うにあたり、公告を出し、パブリックコメントを求め

るようなことはしなくて良いのに、GSE にこうした時間とコストのかかるプロセスを要求

するのは適切ではない。何がミッションに関係の無い業務かについては、すでに FHFB と

HUD が検討を続けているが、問題が複雑であるため、結論が得られていない分野である。

新法でも何がミッションに関係のない業務かの定義がなされておらず、適切な規制とはい

えない。現状行っている各種業務については、OFHEO が監視し、安全性、健全性上問題な

いと判断されている。

(4)情報の開示、格付け

民間企業にとって営業上の秘密は守ることが重要であるが、新委員会がどの程度の開示

要求をするのか条文では不明確である。現状の HUD の規制でも、借り手の秘密の情報を

HUD に提出を要求されることがあるという点は明記されている。また、市場に対してリス

クプロファイルや業務の見通しなど、適切な情報をコミュニケートしている。

(5)GSE によるモーゲージ担保証券購入は重要である

GSE がモーゲージ担保証券を購入するのは、一つは、そのキャッシュフローを組み替え、

リスクマネジメントを行うことにより、異なるタイプの債券を発行することで、より投資

家のニーズを喚起し、より低コストの資金調達を実現し、結果として、より低コストの住

宅金融を実現させるためである。また、1998 年の金融混乱の時は、GSE が、流通市場でモ

ーゲージ担保証券を購入することで、流通市場の安定性を確保し、モーゲージ金利の安定

を実現した。

(6)先取り特権の廃止は問題である

FHLB システムは、大きな信用リスクに直面せずに済んでいる。これは、完全に担保を

とった運営をしていることと、この先取り特権が存在するためである。これを廃止しても、

個々の資産に担保を設定し、対抗要件取得の措置をとることで、従来通り他に優先する立

場を確保できるが、多大な時間と手間がかかるだけであり、なんらメリットはない。

Page 12: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

■ 資本市場クォータリー 2000 年 夏

12

(7)銀行の GSE 債保有を制限することは極めて問題が大きい

GSE 債を保有しているのは、主として中小銀行である。中小銀行が、GSE 債を保有する

のは、良質で、流動性も高く、キャッシュフローも予想できる債券であり、かつ財務省証

券よりも利回りが高いからである。中小銀行に対して、その GSE 債保有を縮小することを

強制することは、金融システムのリスクを増大させるだけである。

(8)財務省のクレジットラインを廃止するべきではない

このニュースが伝わったことを契機に、GSE 証券の利回りが上昇したこと一つとっても、

クレジットラインの廃止は、悪影響をもたらす。なお、クレジットラインと呼ぶのも不適

切である。正確には財務省に GSE 債を購入する権限を与えているに過ぎない。

2)グリーンスパンの見解

GSE の現状をサポートする意見の目立った 5 月 17 日のヒアリングであったが、市場がよ

り注目したのは、その翌日付けでグリーンスパン連銀議長がベーカー議員に送付したレタ

ーであった。これは、ベーカー議員が、ファニーメイやフレディマックのような機関がも

たらすシステミックリスクについて、グリーンスパンに投げかけた質問への回答である。

同レターは、5 月 23 日に行われた AEI 主催の GSE 批判のコンファレンスで公表された。

グリーンスパンは、連邦制度準備理事会は、一般にシステミックリスクに関連して特定

の機関等についてのコメントはしない、と前置きしつつも、ベーカー議員らのイニシャテ

ィブを支持する形の主張を展開した。ポイントは以下の通りである。

-住宅関連 GSE は、米国の住宅市場において支配的な地位にある。

-これらの機関は、明らかに government sponsorship の存在によって利益を受けている。

特に同程度の民間の借り手よりも低いコストで資金を調達することが可能となってい

る。これは政府がこれらの機関を倒産させるはずがない、と投資家が信じているため

である。

-これらの機関は、モーゲージの需要と供給の地域的アンバランスを、全国的な資本市

場の中で統合し、これを解消するために設立されたが、その目標は何年も前に既に達

成されている。現在ではこれらの機関は、政府の補助金を住宅購入者に移転させるだ

けの役割になっている。

-結局こうした補助金は、税金などの形で家計によって負担されている。

-こうした補助金は、金融市場の構造や効率性、及び実物資源の生産的な配分に大きな

影響をもたらすため、議会がこうした暗黙の補助金について定期的に考慮することは

適切である。

Page 13: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方を巡る議論

13

グリーンスパン議長は、異常なまでの株高持続への警告や、銀行の安易な貸出姿勢への

警告に見られるように、長期にわたる経済拡大、市場好調の中で、市場において、リスク

を十分見極めない安易な金融行動が拡大し、これが重大なシステミックリスクにつながる

可能性を、早期に修正する必要がある、という点を、繰り返し訴えているが、上記のよう

な住宅関連 GSE への懸念も、その延長線上に位置付けられると考えられる。

なお、グリーンスパンは、住宅関連 GSE への補助金の効果が意図された目的の範囲に留

まらず、他に及ぶことを批判しているが、この点は、金融改革法案の議論において、預金

保険の効果が、金融持株会社傘下の預金保険対象銀行以外の関連会社に及ぶことを批判し

たことを想起させる。補助金は否定しないが、本来の目的以外に及ぶことを問題視すると

いう点で、グリーンスパンの姿勢は、一貫しているわけである。

4.展望

1)本年中の法案成立の可能性は低い

ファニーメイのホームページを開けると、”Our Business Is The American Dream”と大きく

うたわれている。住宅を保有するということは、まさにアメリカン・ドリームの重要な一

部であり、この実現に住宅関連 GSE が大きな役割を果たしてきた歴史を、否定する議論は

ない。

従って、今回のべーカー議員のイニシャティブには、強い政治的な抵抗も予想される。

ましてや本年は大統領選もあり、米議会の実質的な会期は限られている。このため、新法

案が本年成立する可能性は極めて低いという見方が一般的である。

ただし、このテーマは、来年の議会で、再び取り上げられることが予想される。特に、

今回の選挙で共和党が下院での支配を維持できれば、今回の議論をとりあげている小委員

会の委員長であり、新法案の提出者でもあるベーカー議員の力が強まることが予想されて

いる。これは、来年の議会では、委員長の任期が来るリーチ議員に代わり、ベーカー議員

が銀行委員会の本委員会の委員長になる可能性もあるからである(年次的には Roukema 議

員が有力)。本年同様、財務省、連銀、そして GSE と競合関係にある民間金融機関等も、

同議員の主張をサポートする立場をとっていこう。

2)「公共的政策」を担う民間企業とは?

今回の問題のポイントは、民間企業でありながら、事実上、公的な企業としての各種の

恩恵を享受している企業の活動を、公的な意義という観点からどの程度許容するのか、と

いう点にある。公的に意義のあるものは、純粋に公的機関で公的な負担の下に行う、とい

Page 14: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

■ 資本市場クォータリー 2000 年 夏

14

うのが本来の姿のように思われるが、完全に国の丸抱えで行うのではなく、規制緩和や民

営化などを通じ、市場原理の要素を導入することによって、運営の効率化と競争原理のメ

リットを実現しようとしてきた歴史的経緯の上に現在の姿があり、公営化のような議論が

今の米国で浮上する可能性はない。

逆に、完全に民間企業並みの扱いにすると、公共的目標の達成に大いに支障をきたす、

という批判も当然のことながら一定の説得力を持つわけであり、この点は、今回の GSE 側

の議会証言でも強力に主張されている。

その一方で、公共的目的を追求する機関の運営効率化や競争原理導入のメリットを追求

するという名目で、民間企業的な行動を何らかの形で許容していく過程で、公共的目標の

達成という使命を超え、民業を圧迫するような行動を、公的色彩のある強大な機関が展開

するおそれがあるという問題も生じる。これを抑制するためには、民間企業とは異なる公

的な管理(公営化というのがもっとも明解なのであるが)が有効に機能していなければな

らない、ということになる。

この点については、もちろん、こうした機関を完全に民間企業化し、市場原理に任せれ

ば、住宅政策も解決するという立場もありうる。特に、米国の場合、低所得者向けには純

粋に公的機関で行われているローンの制度があるわけで、市場重視の立場からは、中所得

者向けのファニーメイのような仕組みまで、公共政策上必要か、という批判は成り立ちや

すい。これに対して、中所得者向けの住宅保有追求はアメリカン・ドリームのためのもの

であり、従って公共政策だ、というのが、住宅関連 GSE の立場であり、ここに根本的争点

がある。

3)市場の適切な評価能力が一段と重要に

以上は、どの程度の公共政策をどこが誰の負担でどのように遂行するか、という問題で

あり、他の様々な分野においても議論されている普遍的課題とも言えるが、今回の問題で

注目されるのは、住宅関連 GSE に公的に手当された具体的な恩典の是非もさることながら、

人々、特に市場が、それをどう受け止めているのか、というパーセプションの問題が重要

な要素を占めているということである。

政府保証が無い旨、政府が念を押している証券であるが、市場がこれを政府の後ろ盾が

ある、というイリュージョンの下にプライシングし、投資しているとすれば、資源配分や

システミックリスク上の問題が生じることは否定できない。特に、同債券の市場における

位置づけが、絶対額としても財務省証券との比較で見た相対的な位置づけでも、重大なも

のになっているからなおさらである。

今回の一連の議論が盛り上がってきた結果、ファニーメイ債等のプライシングに変化が

生じたことは、暗黙の政府保証なり Too big to fail のイリュージョンが、多少なりとも住宅

関連 GSE 債券に付与されていたことを証明するものであろう。ベーカー議員の新法案が、

Page 15: ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方 …ファニーメイ、フレディマックなどGSE の在り方を巡る議論 3 エントリーシステムを通じて行う。

ファニーメイ、フレディマックなど GSE の在り方を巡る議論

15

本年、成立する可能性はほぼゼロとしても、このイリュージョンの修正が現実に生じたこ

とで、同法案が目指した所期の目的は、既にある程度達成できた、という評価もある。

もちろん、こうしたイリュージョンは、ほおっておけばすぐに復活しかねないが、議会

のヒアリングや、法案が小委員会を通過する、といったニュースでまた市況が悪化すると

いった展開も予想される。また来年の議会で再び同問題がとりあげられる公算が強いため、

当面、市場の不安感は完全には払拭されないであろう。

ただし、現時点で、住宅関連 GSE の信用リスクになんらかの本質的な問題が生じたわけ

でもなく、また法案が両院を通過し 終的に成立する可能性も低いため、イリュージョン

無しに同債券を投資してきた投資家であれば、格別新たな心配を抱く必要はない。

また、住宅関連 GSE としても、彼らが主張するように、優れたリスクマネジメント能力

と効率性向上への経営努力によって、その低調達コストを実現できているとするならば、

イリュージョン・プレミアムの剥落によって、彼らの存在意義が失われるわけでもなく、

むしろその能力と効率性の一層の向上を実践し、アピールしていくことで、これをカバー

していくべきところであろう。この点は、今後、米国の株高、好景気の修正が本格化して

いく過程において、特に真価が問われていくことになろう。

今後、市場において重要になっていくことは、政治的、行政的な議論の行方もさること

ながら、住宅関連 GSE の審査能力や金融取引テクニックなどリスク・マネジメント能力、

あるいは業務の効率性や市場とのコミュニケーション能力といった、これら組織の真の財

務内容、信用力、及び企業価値を、純粋民間の巨大金融機関に対するのと同様、冷静、客

観的に評価していくことであろう。

(淵田 康之)