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ソフトウェア無線
⚫ アナログ通信をディジタル信号処理で行う
⚫ ソフトウェアで実現できるため、通信方式を簡単に変更することができる
ディジタル信号処理
A/D変換
D/A変換
ソフトウェア無線システム
受信・増幅
音声・データ
FIRフィルタの通信への応用
2020年度通信工学特論(豊嶋)
これまでFIRフィルタの設計をみてきました。フィルタが実際に利用されている例は多くありますが、ここではこの科目と関連のある通信分野への応用例を取り上げてみます。
通信には、アナログ通信とデジタル通信があります。
最近では、もっぱらデジタル信号を直接送信する必要があるので、デジタル通信が主流となっています。
ただ、AM/FMラジオのようにアナログ通信がなくなったわけではありません。
最近では、A/D変換器の性能が向上したことで、無線信号を直接デジタル化して処理することができるようになりました。
デジタル信号処理はソフトウェアで実現可能なので、これまでアナログ回路を使っていたところを、ソフトウェアで実行するというソフトウェア無線システムが実用化されています。
今回は、このようなソフトウェア無線システムで、アナログ無線をデジタル信号として処理する際に、FIRフィルタを利用する例を紹介します。
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ソフトウェア無線での振幅変調(AM)
送信信号A/D変換
𝑥𝑆(𝑛)サンプリング信号
変調D/A変換
電波𝑥𝑀(𝑛)変調信号
A/D変換
電波𝑥𝑀(𝑛)変調信号
復調𝑥𝐷(𝑛)復調信号
D/A変換
受信信号
FIRフィルタの使用
ディジタル信号処理
ここでは、アナログ通信でもっとも基本的な振幅変調(AM)を例として取り上げます。
アナログ通信では、送信したい信号を変調して、それを電波にのせて伝送します。
受信した信号は、復調(検波)を行い、必要な信号を取り出します。
ソフトウェア無線では、変調と復調の処理をデジタル信号として行います。
つまり、送信したい信号をA/D変換でデジタル化し、変調した信号をD/A変換でアナログ信号に戻して送信します。
また受信側では、受信波をデジタル化し、復調した信号をアナログ信号に戻す処理を行います。
これらの変復調のなかで、FIRフィルタを利用するのは、復調のところです。
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𝑥𝑆(𝑛)
𝐴𝐶 cos 2𝜋 𝑓𝐶𝑛搬送波
𝑥𝑀(𝑛)変調信号原信号
AM変調(DSB)
AM変調にもいくつか方法がありますが、ここでは、式が簡単な両側波帯(Double Sideband, DSB)変調を考えます。
DSB変調とは、原信号に対して、搬送波の正弦波を乗じる処理のことです。
ここでは、原信号、および搬送波もデジタル化されているとします。
つまり、nが時間に相当しますが、実際にはnTs(Ts:サンプリング間隔)でサンプリングされた信号を表します。
スライドでは連続時間信号に見えますが、実際には256個の数列からなる離散時間信号です。
変調した信号はスライドのような数式になります。
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AM変調(DSB)
𝑥𝑆(𝑛)
𝐴𝐶 cos 2𝜋 𝑓𝐶𝑛搬送波
𝑥𝑀(𝑛)
周波数特性
変調信号
𝑓𝐶 = 50/256
原信号
𝑓𝐶 −𝑓𝐶
変調信号は周波数特性で考えると、原信号の周波数成分が、+fcと-fcだけシフトした形になります。
この例では、搬送波の周波数fc=50/256としたので、変調信号の周波数成分が、50/256と、206/256=-50/256の周波数の前後に現れています。
実際の周波数は、それぞれサンプリング周波数をかけたものになります。
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AM復調
𝑥𝐷(𝑛)
cos 2𝜋 𝑓𝐶𝑛
𝑥𝑀(𝑛)変調信号復調信号
除去
DSB変調された変調信号に対する復調は、変調と同じく搬送波をかけることで実現できます。
復調信号はスライドの式のようになります。
これにより、赤で囲んだ原信号が復元できますが、さらに高い周波数成分も含まれるため、その成分を除去する必要があります。
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AM復調
𝑥𝐷(𝑛)
cos 2𝜋 𝑓𝐶𝑛
𝑥𝑀(𝑛)
周波数特性
変調信号
2𝑓𝐶 = 100/256
復調信号
𝑥𝑆(𝑛)
LPFで除去
不要な周波数成分は2fcを中心とした成分です。
この例では原信号の成分と不要成分は周波数上で分離されているため、LPFにより不要成分だけ除去することができます。
ここで利用するのが、本講義で設計方法を学んだFIRフィルタです。
6
FIRフィルタの設計
振幅特性(理想)
20次のFIRフィルタ
振幅特性(設計)
ここでは、不要成分が原信号の成分から割と離れているので、カットオフ周波数0.2の20次FIRフィルタを設定してみます。
それぞれの帯域の特性は平たんなほうがよいので、ブラックマン窓を使って設計した例です。
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FIRフィルタによる復調
↑FIRフィルタ
周波数特性
このフィルタの周波数特性を復調信号の周波数特性に重ねてみるとわかるように、原信号の周波数帯域は通過帯域、不要信号の周波数帯域は阻止帯域となっています。
このフィルタを復調信号にかけることで、原信号が復元されます。
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復調信号
シフト
𝑥𝑆(𝑛)
FIRフィルタをかけたことで遅延が発生 シフトして比較すると
ほぼ一致
ここで、復元した信号と原信号を比べてみると、時間軸上でずれが見られます。
これはFIRフィルタをかけたことで遅延が生じたためです。
このフィルタは20次なので、半分の10サンプルだけ遅れることになります。
そこで、10サンプルだけずらして比較すると、原信号とほぼ一致していることがわかります。
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搬送波が複数ある場合
𝑥𝑆1(𝑛)
𝐴𝐶 cos 2𝜋 𝑓𝐶1𝑛搬送波
𝑥𝑀(𝑛)
周波数特性
変調信号
𝑓𝐶1 = 50/256
原信号
𝑥𝑆2(𝑛)
𝐴𝐶 cos 2𝜋 𝑓𝐶2𝑛搬送波
原信号
𝑓𝐶2 = 70/256
次に搬送波が複数ある場合の変復調についてみてみます。
実際のラジオ放送では、周波数をずらして何局も放送を行っているので、現実に近いケースとなります。
考え方は同じで、別々の原信号に対して、異なる搬送波をかけて変調を行います。
これが別々の放送局の信号ということになりますが、実際に電波にのってしまえば、複数の変調信号が加算された形になります。
ここでは、搬送波の周波数をfc1=50/256、fc2=70/256としてみます。
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の搬送波を復調する場合
周波数特性
𝑥𝐷(𝑛)
cos 2𝜋 𝑓𝐶1𝑛
𝑥𝑀(𝑛)変調信号復調信号
周波数特性
𝑥𝑆1(𝑛)
除去
𝑓𝐶1
𝑓𝐶2 − 𝑓𝐶1 𝑓𝐶1 + 𝑓𝐶22𝑓𝐶1
では、fc1の搬送波にのっている信号を復調する場合を考えてみます。
変調信号にfc1の搬送波をかけると、fc1で変調した原信号xs1(n)が取り出せます。
ただし、そのほかにも、2fc1だけでなく、fc1+fc2と、fc2-fc1を中心周波数とする成分が現れます。
従って、これら不要成分を除去する必要があります。
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FIRフィルタの設計
振幅特性(理想)
100次のFIRフィルタ
振幅特性(設計)
不要信号が原信号と近いので通過帯域を狭く設定
今回の場合、原信号の成分と、fc2-fc1の成分が接近しており、原信号を残したうえで、fc2-fc1以降の周波数成分を除去するようなLPFが必要となります。
そこで、カットオフ周波数を0.05、フィルタの次数を100次としたフィルタを設計してみます。
前回と同様にブラックマン窓を使って設計したフィルタがスライドの右下の特性となります。
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復調信号
シフト
𝑥𝑆(𝑛)
FIRフィルタをかけたことで遅延が発生
シフトして比較
複数の搬送波を含む通信ではLPFの特性が重要となる
このフィルタをかけることで、不要成分が除去でき、左図のような復調信号が得られました。
ここでも、FIRフィルタをかけたことによる遅延が発生しているので、100/2=50サンプルだけずらした信号と比較してみます。
だいたい一致していますが、グラフ上で誤差が見えるほど残っていることがわかります。
今回原信号と不要成分が接近していたため、100次というかなり急峻な特性のフィルタを設計しましたが、完全に不要成分を除去することはできなかったようです。
このように、複数の搬送波を含む通信では、最後にかけるLPFの特性が重要になるといえます。
アナログのまま変復調を行う場合、最後のフィルタもアナログフィルタを使いますが、FIRフィルタのように位相特性が直線ではありませんし、回路で作成するので、それほど次数を上げることもできません。
従来からあるアナログ通信でも、デジタル化することでソフトウェアで自由に仕様を変えられたり、さらなる性能の向上が実現できたりというメリットがあるのです。
以上で本講義の前半部分を終わります。
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