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平成 19 年度みなぎる輸出活力誘発委託事業 (加工食品(米・野菜・果実・食肉・乳製品・水産加工品を除く)の輸出促進) 報 告 書 -乾麺の輸出実行ハンドブック- (香港) 2008年3月 農林水産省総合食料局食品産業企画課 (委託先:財団法人食品産業センター)

(香港)...まえがき 香港経済は、SARS、鳥インフルエンザ等の影響により、観光客数、諸外国からの 投資金額が減少し、一時的にはその成長速度が減速したものの、中国から個人旅行解禁

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平成 19 年度みなぎる輸出活力誘発委託事業(加工食品(米・野菜・果実・食肉・乳製品・水産加工品を除く)の輸出促進)

報 告 書

-乾麺の輸出実行ハンドブック- (香港)

2008年3月

農林水産省総合食料局食品産業企画課

(委託先:財団法人食品産業センター)

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まえがき 香港経済は、SARS、鳥インフルエンザ等の影響により、観光客数、諸外国からの

投資金額が減少し、一時的にはその成長速度が減速したものの、中国から個人旅行解禁

とあいまって、この数年来かつてない成長を遂げつつある。とりわけ若い世代を中心と

する新興富裕層の形成により、高級食材のマーケットが急成長し、その市場は日本の加

工食品業界にとっても大きな魅力となっている。 本ハンドブックは、乾麺の香港への輸出を促進するため、乾麺の輸出に関心をもつ生

産者、企業及び関係団体などで活用していただくことを念頭において、香港における乾

麺市場の実態、日本製乾麺を販売するための市場調査、マーケティング戦略、香港にお

ける食品表示規制問題、日本の輸出検疫手続き、貿易決済方法、国際輸送、香港側の輸

入手続の注意点などを取りまとめたものである。 本ハンドブックを作成するにあたり、できるだけ正確を期したつもりであるが、執筆

後の制度改正などにより、内容と実態とが異なる部分も出てくる可能性がある。実際に

加工・食品(乾麺)の輸出や香港での販売を行う際には、事前に関係機関又は輸入者へ

照会するなど、常に 新情報をご確認していただきたい。 なお、本事業は、農林水産省総合食料局が、財団法人食品産業センターに委託して実

施した。 平成20年3月

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本ハンドブックの見方 (はじめに必ずお読みください)

香港は日本の乾麺にとって大きな可能性に満ちたマーケットです。特に昨今、中国産

食品による健康被害の発生やその安全性に対する不信感から、“価格は高いが、おいし

く、高品質で、安全な”日本産食品への期待や好感度が、香港の富裕層を中心に急速に

高まっています。また、昨今の香港における日本への旅行ブーム(日本への旅行ブーム)

も、香港で販売される日本産食品にとっては頼もしい追い風になっています。是非、日

本国内の乾麺製造者の皆さんには、こうしたチャンスを確実にとらえ、積極的に香港市

場への輸出にチャレンジしていただきたいと願っております。

本ハンドブックは、大まかに5つのステップから成っています。「香港の食生活」「香

港の乾麺マーケット」「マーケティング・プラン」「輸出入手続」「香港市場へのアプロ

ーチ」の5つのステップです。以下、各ステップの概要について順にご説明します。 第1章・第2章 香港の食生活について 海外で販売活動をする場合は、まず、その国の歴史、文化、生活について知っておく

必要があります。例えば、知らない土地を車で旅行する時、「道路交通規則」や「自動

車自体の構造や機能」について知らなければならないのはもちろんですが、「道路の状

況(路面状態や交通量など)や現地の天候状態」にも十分な注意を払わなければなりま

せん。むしろ、地域の個性や独自性が出るのは後者の方ですから、知らない場所に行く

場合には、必ず事前に路面状態、交通量、現地の天候などに関する情報を集めておく必

要があるでしょう。海外への輸出・販売活動を成功させようとする場合にもこれと全く

同じことが言えます。 ここでは、香港の歴史、文化、社会、食生活について明らかにします。 第3章 香港の乾麺マーケットについて 次に、そのような海外市場の独自性や個性に対して、日本のメーカーとしてどのよう

な「強み」が発揮できるのか、明らかにする必要があります。香港の乾麺マーケットに

おいてそれら日本企業独自の「強み」が本当に発揮できるのか、発揮するためにはどの

ようなアプローチが適切なのか、十分に検討しなければなりません。本ハンドブックの

作成に当たっては、これらの点を客観的に把握するために、実際に、香港の乾麺市場(小

売店舗)において消費者行動と販売活動に関する調査を実施しました。

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第4章 マーケティング・プランについて さて、消費者行動と販売活動の現状を把握し、「強み」を発揮するためのアプローチ

方法が決まったら、次にそれらを具体的なマーケティング手段に落とし込まなければな

りません。マーケティングとはターゲット消費者の購買ニーズに適応できるように、ブ

ランド、品質、価格、販路、広告(プロモーション)などの手法を組合せて実施するこ

とです。

第5章・第6章・第7章・第8章 食品規制・輸出入手続について 以上が机上の販売プランであるとすれば、4つ目のステップは、実際の物流・販売編

となります。実際に製品としての乾麺をターゲットとなる販売地(香港)まで運び、小

売店の店頭に並べなければなりません。ここでは、香港で乾麺を販売するための諸規制、

輸出入手続について説明します。 香港は輸入促進政策を採っており、自由貿易港(フリーポート)として知られていま

す。輸入品への関税も原則ありませんし、貿易障壁と言われるものもほとんどありませ

ん。しかしながら、これまで規定が整備されて来なかった「栄養成分表示規制」と「食

品添加物規制」に関しては、欧米並みかあるいはそれ以上の厳しい内容の規制を設けよ

うとする動きが活発化しています。こうした環境変化には十分な注意が必要です。 これら輸出入手続については、原則的には輸出入業者が担当します。しかしながら、

任せきりにするのではなく、タイムリーで効率的な物流を実現するためには、メーカー

サイドがしっかりした知識を持った上で、流通業者と十分な情報交換を継続的に行う必

要があります。 また、末尾に、諸規制・諸手続の内容やフォームを資料編として設けているので、本

文と照らし合わせながら、確認していただければと思います。

第9章 香港市場へのアプローチ

本章はいわば本ハンドブックの総括です。香港市場への乾麺の輸出を「事前準備」「現

地訪問」「マーケティング」「食品規制のチェック」「輸出入手続」の4つのステージに

分け、全体の流れを把握し易いように簡潔にまとめました。

第10章 各種の支援制度及び融資制度

乾麺の輸出の取組に利用可能と考えられる国等による事業及び融資制度を 終章にまと

めておきました。取組への活用をご検討いただければと思います。

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目次

本ハンドブックの見方

(ページ)

第 1章 香港食品マーケットの概要 ・・・・7

1 歴史、経済、社会生活

2 香港人の食品消費スタイル

第2章 日本産農林水産物・食品の香港への輸出状況 ・・・18

1 香港における農林水産物・食品貿易

2 日本からの品目別輸出状況

第3章 香港における乾麺マーケット ・・・20

1 広く認知されている“日本式(日式)”の麺

2“乾麺マーケット”としての可能性

3 乾麺の販売実態

① 小売店舗の種類

② 乾麺の販売実態(店舗訪問調査結果)

4 乾麺の購入実態

① ヒアリング調査結果

② 乾麺の購入実態

5「麺つゆ」の販売・購入実態

6「ゆで麺」「PB品」の販売・購入実態

7 業務用マーケット

第4章 マーケティング・プラン ・・・39

1 マーケティングのポイント

① 外国消費者文化志向ポジション(FCCP)

② 上層吸収アプローチ

③ 標的市場に応じた「標準化」と「適応化」の使い分け

2 ターゲット別(顧客層別)マーケティング戦略

① 上層・中上層(富裕層)ターゲット向け

② 中層ターゲット向け

3 香港における食品の店頭プロモーション活動

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第5章 香港における食品表示規制について ・・・48

1 近年の動向

2 包装食品の表示に関する一般的な規則

3 栄養成分表示について

4 原材料表示について

5 香港における食品表示規制のまとめ [対応のポイント]

6 新情報の確認先

第6章 日本からの輸出手続 ・・・56

1 香港向け輸出入手続のポイント

2 日本の輸出規制

① 経済産業省が管轄する品目の手続

② 農林水産省が管轄する品目の手続(動物)

3 貿易手続

① 貿易建値

② 決済方法

4 物流業者の選択

第7章 日本・香港間の国際輸送 ・・・67

1 輸出手段・港湾の決定

2 輸出梱包

3 船積手続

(1)海上輸送の手配

(2)輸出・通関の流れ

(3)通関用書類の準備

(4)通関後の処理

(5)国際輸送コスト

第8章 香港の輸入手続 ・・・75

1 輸入手続

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2 輸入申告

3 輸入と販売に関する規定

4 サンプルの輸出について

5 偽装表示への対応

6 代金回収

第9章 香港市場へのアプローチ ・・・79

第10章 各種の支援制度及び融資制度 ・・・84

資料編

① 国内乾麺製造者へのヒアリング結果

② 香港マップ

③ 香港特別行政区政治・経済データ

④ 店頭プロモーション資料

⑤ 食物アレルギー物質・食品添加物・日付に関する表示規制資料

⑥ 食品添加物国際登録番号 資料

⑦ 輸出手続関連資料

⑧ 国際運送関連資料

⑨ 輸入手続関連資料

⑩ 香港への乾麺輸出に関する問合せ先

⑪ 支援制度に関する資料

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第1章 香港食品マーケットの概要 1 歴史、経済、社会生活 ① 香港のあらまし *巻末添付② 香港マップ 参照

*巻末添付③ 香港特別行政区政治・経済データ 資料参照 [正式国名]中華人民共和国香港特別行政区

[面積] 1103 平方キロメートル[東京都の約半分]

[人口] 686 万人(2006 年)[大阪市とほぼ同じ]

[政体] 社会主義と資本主義の併存

[一国二制度:1997年の返還から50年間はこの制度を維持]

[民族] 98%が漢民族

[言語] 中国語と英語

[広東語が中心であるが、北京語を話す人も増えている]

[通貨] HK$(香港ドル)と¢(セント )

1HK$=16円(15,77円)[2008 年 2 月 25 日]

[ドルの変動に合わせて上下する、ドルペッグ制を採用している]

[気候] 亜熱帯気候に属し、1年を通じて夏の期間が長く高温多湿

② 香港の歴史 人口7千人程度の漁村であった香港が、世界の歴史に登場するのは、約 170 年前で

ある。当時、貿易赤字を解消するため、英国はインドで栽培したアヘンの密貿易を行っ

ていた。マカオから香港に移ってきた商社などが中心となり、当時の清国(現中国)に

香港経由でアヘンを販売していたのである。強硬な取締行動を取る清国政府に対して、

英国は報復戦争を試みる。これがいわゆる「アヘン戦争」である。英国の政治家グラッ

ド・ストーンをして、“史上 も不名誉な戦争”と言わしめたこの「アヘン戦争」に勝

利した結果、英国は香港を植民地として占領することになる。 その後、第二次世界大戦期間の日本軍駐留時代を経て、1997年の返還まで続いた

英国植民地時代を香港の人々はたくましく生き抜いて来た。俗に言う “借り物の場所”

“借り物の時間”の中での長期に渡る生活は、現代の香港人のメンタリティーに大きな

影響を及ぼした。良く言われる“徹底した個人主義”“金銭崇拝”といった“香港人気

質”は、「自分を守るものは自分でしかない」という強い意識の現われなのである。 現代の香港経済や社会生活、ひいては購買スタイルや食文化の特殊性というものも、

こうした歴史的背景の中から生まれたものであるということを忘れてはならない。

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現代香港経済の“主役” 香港の伝統的商社 華僑財閥の本社ビル 左奥は中国銀行ビル ③ 香港の政治 香港の行政単位としての正式名称は「中華人民共和国香港特別行政区」である。19

97年の返還後10年が経過し、すでに中国の一行政単位であるが、現在もほかの行政

単位とは一線を画す扱いを受けている。中国は「一国二制度」という原則を掲げ、国家

自体においては社会主義体制を貫きながら、香港においては資本主義に基づく自由競争

経済を容認するという立場を取り続けている。 これは、香港が150年以上育んできた自由競争経済が、隣接する中国本土の経済的

発展に不可欠であるとする判断に基づいている。中国政府はこの仕組みを2046年ま

で継続するとしている。2046年までの50年間に香港からの経済的恩恵を受け続け、

やがては中国が香港と同レベルの経済発展を遂げ、その後に両者の政治・経済的垣根を

取り払うというのが中国政府の思惑と言われている。 上記の理由から、現在の香港では、法律、税制、通貨制度などあらゆる面において、

中国本土は異なる政策や行政システムが貫かれており、その多くは英国植民地時代から

踏襲されて来たものとなっている。

④ 香港の経済及び市場 「一国二制度」体制の下、香港は依然として「自由貿易港」の地位を維持している。

従って、輸入にかかる関税は存在しない。関税ばかりでなく、香港はこれまで、あらゆ

る分野において、自由な経済を謳歌してきた。米シンクタンクによる経済自由度ランキ

ングで香港は2007年まで13年連続世界一位に選出されている。 こうした、無関税、自由経済政策の他にも、香港マーケットは他の先進地域に無い、

様々な経済的メリットを有している。例えば、会社設立が簡単で設立コストが安いこと、

法人税率が一律17.5%と極端に低いこと、地理的にアジア地域の中心に位置し貿易

拠点としての役割を果たし易いこと、高度な金融システムを整えていることなどが、そ

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のメリットとして挙げられる。 こうした恵まれた経済的環境の下、1997年の返還以降、中国国有企業や中国系企

業が積極的に香港進出を図っている。香港は中国系企業にとっての資金調達先であるば

かりでなく、中国の輸出入品を集散するハブとしての役割を担うことが期待されている

のである。一方、香港行政当局も中国への玄関口としての立場を維持・発展させるため

に、中国華南の工業地域との経済交流の活性化に尽力している。その代表的な動きとし

て、2004年1月から本格的に発足した中国本土との「CEPA」(Closer Economic Partnership Agreement、経済貿易関係緊密化協定)がある。CEPAⅢで、2006年1

月以降、CEPA 原産地規則に適合するすべての香港原産製品を中国本土市場へゼロ関税

で輸出することが認められるようになった。今後、こうした中国側・香港側双方の積極

的な経済交流を背景に、中国系企業の香港進出はますます進み、中国経済と香港経済の

一体化が加速されることが予想される。 また、現在、中国からの個人自由旅行が完全に解禁される傾向にあり、2007年1

月には、中国本土49都市(2億5千万人)に対して、個人旅行ビザでの自由旅行が認

可された。ちなみに、2006年度の中国本土からの観光客は1,359万人である。

香港政府観光局の2007年3月の発表によると、2006年に香港に宿泊する観光客

の一人あたり平均消費支出額は4,799香港ドルであり、中国本土からの観光客の平

均支出額は、ほぼそれと同水準の4,705香港ドルであった。今後は、益々増えるで

あろう中国本土からの観光客が、香港の経済及び市場を下支えすることが予想される。 香港の昨今における経済指標の動きを概観すると、その持続的な発展が見て取れる。

2003年の国民一人当たり GDP は17万9700香港ドル(2万3,038米ドル)

である。この額はアジアでは日本に次いで第2位で、シンガポールの2万1,532米

ドル、台湾の1万2,537米ドルがこれに続く。実質 GDP 成長率は、2004年が8.

6%、2005年が7.5%、2006年が6.8%と3年連続の高成長となった。2

007年は4.5~5.5%と予測されている。 物価指数は2004年までデフレ傾向に、それ以降はインフレ傾向が続いている。 2006年の小売業売上は2,196億香港ドルで、前年比7.3%の高い伸びを示

している。消費意欲の高まりと旅行客の旺盛な消費が牽引している。

【図表1-1】1 人当たりの GDP 出所:『中国統計年鑑 2004 年』など 国 額(ドル

米国 39,752

ドイツ 32,850

日本 36,187

香港 23,038

韓国 14,118

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⑤ 香港の社会生活 [賃金と物価] 香港の一人当たり GDP は、上記のとおり、約2万3千米ドル(約250万円)(2

003年)であり、アジアにおいては、日本についで第2位の値となっている。これは、

日本や他の先進国の水準から見ると決して高い数字ではない。しかしながら、一方で、

比較的裕福なビジネスマンが住む香港島西側山手地域の香港人居住者の15%が、年収

1,000万円以上の所得を得ているという。言うなれば、香港は、ビジネスにおいて

成功した者あるいは企業社会で成功した者とそうでない者が、狭い地域の中で共存して

いる“超”格差社会なのである。 物価についてであるが、生活のための基本的コスト、例えば、公共料金、公共交通、

タクシーなどは日本よりも安い。タクシーの初乗り運賃が15香港ドル(約240円)

である。街中の庶民的な定食屋の「日式(日本風)うどん」が、おおよそ一杯16香港

ドル(約256円)前後である。では、物価がすべての小売店もしくはすべての商品に

おいて一律に安いかと言えば、もちろんそのようなことはなく、居住する地域、小売店

舗の種類、商品の種類によって物価は大きく異なる。“超”格差社会である香港では、

居住する地域によって住民の所得水準が大きく異なることから、特に、店舗立地が取扱

商品の種類、価額に大きな影響を及ぼしている。 [近年におけるインフレ傾向] 過去4年間の経済成長(2004年~2007年)により、物価は上昇の一途をたど

っている。2007年10月の消費者物価指数は前年同月比3.2%増で、過去9年に

おける 高の伸び率となった。原因としては、世界的な石油価格高騰と原材料費の値上

がり、人民元高、米ドル安等が考えられる。特に、香港ドルは米ドルとの連動相場制(ド

ルペッグ制)を採用していることから、ドル安による輸入品の価格上昇が顕著である。 輸入品の中でも特に食品の価格高騰が著しく、2007年10月における輸入食品価

格は、前年同月比11.9%と大幅に上昇している。中でも、中国本土からの牛肉、豚

肉、卵などの価格は同約30%の上昇となっている。 [中国情報局NEWSより:http://news.searchina.ne.jp] 【図表1-2】GDP 成長率と消費者物価上昇率 出所:2007 年の JETRO 資料より

2002 2003 2004 2005 2006

実質GDP成長率 1.8 3.2 8.6 7.5 6.8 消費者物価上昇率 △3.0 △2.6 0.4 1.0 2.0 失業率 7.3 7.9 6.8 5.6 4.8

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[激烈なビジネス競争社会] 現地の大規模小売業の日本人担当者によれば、香港の小売店舗に勤務するサラリーマ

ンの収入は、おおまかに年収約2万米ドルを境に、それ以上のクラスとそれ以下のクラ

スに分かれる。店舗マネージャークラスの平均的給与が、おおよそ約2万米ドル(年収)

である。小売店舗で働くサラリーマンの当面の目標は、この年収2万米ドルの壁を突破

することと言われている。そのためには、可能な限り営業成績を上げるか、何か特別な

スキルを身につけるなどして、職場内で頭角を現さなければならない。仮に年収が2万

米ドルを超えれば、それはアッパーミドルクラス(中層の上)への足がかりを掴んだと

いうことであり、更なる努力次第ではさらにその上(上層)のクラスの仲間入りも可能

な位置まで到達したことを意味する。また、香港では企業勤務者が自分個人で会社を起

業もしくは所有する事が極めて当たり前の事となっている。会社設立手続が簡便で、設

立費用もほとんどかからないという事情にもよるが、“チャンスがあれば、自身で起業

し、裕福になりたい”というベンチャー精神が横溢しているのが、香港の社会なのであ

る。 上記の2つの事例が示すように、香港のビジネス競争の激烈さは日本の比ではない。

香港が俗に“世界で も住民のストレスが溜まる都市”と言われる所以である。 [住宅事情] 香港は、東京都の半分程度の土地に約680万人が暮らす過密都市である。東京都の

半分と言っても、生産人口の多くが香港島の北側地域とそれに相対する九龍半島の南側

の狭い平野部に集中しており、必然的に居住のためのスペースが限られてしまう。また、

土地の狭さから、住宅コストは先進国中においてもかなりの高額となっている。例えば、

一般庶民が生活する大型の高層住宅50ヶ所の平均家賃は、2007年10月に1平方

フィート15.7香港ドル(約251円)と98年5月以来で 高水準に達した。こう

した大型高層住宅の平均家賃は6ヶ月連続で上昇を続けている。また、富裕層が住む山

頂(ピーク)、半山(ミッドレベル)あるいは浅水湾(レパルスベイ)の高級マンショ

ン(1,500平方フィート~2,000平方フィート)の平均賃貸価格は、2007年

現在で66,485香港ドル(約106万円)であり、同じ様な高級マンション家賃で

は世界第2位の東京を17%も上回っている。こうした住宅事情の悪さ(極端な住宅コ

ストの高さ)は、社会生活の様々な面に影響を及ぼしている。 [中国情報局NEWSより:http://news.searchina.ne.jp]

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日系スーパーと高層住宅 高層住宅と旧市街のアパート (太古) (中環) [家庭環境] 上記のとおり、香港の勤労者の平均収入(年収)は、約13万香港ドル(約200万

円)前後と言われており、このレベルの収入で、非常に高い住宅コスト(マンション価

格・家賃)を購うためには、必然的に夫婦共稼ぎをせざるを得ない。実際、香港におけ

る全世帯の多くが夫婦共稼ぎである。共稼ぎ世帯は家庭で料理をする時間的余裕がない

ため、食事(特に夕食)は外食で済ませるという傾向が強い。また住宅が手狭なために、

調理のためのスペースが十分に取れず(一般的に台所が手狭)、家族で外食をするとい

うケースも多い。 また、共稼ぎ世帯の中でも比較的裕福な夫婦は、多くの場合、子供の世話を含む家事

を「お手伝いさん」(アマ)に任せている。アマはそのほとんどがフィリピン人女性で

ある。現在、香港には約2万人強のフィリピン人が住んでおり、その多くが、アマとし

て働いている女性である。居住人口構成から見ると、680万人の香港人についで多い

のがフィリピン人である。 2 香港人の食品消費スタイル

食品の消費スタイルには、居住地域の食文化さらには文化的・社会的背景が如実に影

響をおよぼす。香港の食生活には、中国華南地域における伝統的食生活、植民地時代の

西欧化された食習慣、他のアジア地域の食文化の流入など、雑多な要因が影響を及ぼし

合っており、世界に例を見ない独自の消費スタイルが存在する。 ここでは、以下の6点(①~⑥)を香港の食品消費スタイルとして取り上げ、それぞ

れの内容を説明する。

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① 伝統的食文化の影響 香港の食生活は、元々中国南部の華南地方の伝統的食文化を反映したものである。麺

類、果物、家禽類など多様な食品を購入又は消費する。また、特に、海が近いことから

魚介類(水産物)を非常に好む。他の中国料理同様に、魚介類由来のダシ、醤油、化学

調味料なども頻繁に用いられる。 ② 健康・安全志向 2005年のデータによれば、香港人の平均寿命は男性が78.8歳、女性が84.

5歳であり、香港はアジアの 長寿地域の一つである。元々、香港人は、高齢者を中心

に健康に気を使う人が多い。特に、食品が健康に良いかどうかということについては非

常に強い関心を払う傾向にある。また、昨今の「鳥インフルエンザ」「SARS(重症

急性呼吸器症候群)」などの疫病や「食中毒」の相次ぐ発生(シデカラ中毒、ブタ連鎖

球菌など)、一部中国産品の危険性に関するニュースなどから、香港の人々の中に、健

康や生活上の衛生に対する強い懸念が広まりつつある。

このような状況の下、今日、香港においては、一種の「健康・衛生志向ブーム」が起

きている。従来のように高齢者ばかりでなく、比較的若い世代においても健康や衛生に

気を使い、できるだけ添加物の少ない(もしくは無添加の)自然食品を摂取することが

トレンドになりつつある。近年、香港で248店舗を展開する大衆向けスーパー 大手

のウェルカムが、有機野菜等を中心に取り扱うオーガニック・スーパーをオープンさせ

た。これは、香港では初の試みであり、日本からの有機 JAS 認証商品も多く販売されて

いる。

また、行政当局も、香港市街地における居住者の健康問題や衛生問題が外部からの投

資意欲に影響を及ぼすとの懸念もあり、健康の増進や衛生管理に積極的である。

地下鉄各駅構内にも「健康食品スタンド」 チェーンがオープン 若い女性を中心に人気がある

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中国製オーガニック麺(PB)と 一緒に日本の乾麺も並ぶ(オーガニック・スーパー、ランドマーク)

③ 商品を見る目の厳しさ 日系小売業の食品担当者によれば、香港においては、商品を購入した後のクレームと

いうものはほとんど無い。その代わり、商品選択時・購入時における「品定め」は驚く

ほど慎重に行われる。「包装状態」「成分表示」「原産国」などが品定めの際のチェック

ポイントとなる。上述の健康・衛生に関する懸念が背景にあるのは言うまでも無いが、

これは冒頭述べたような徹底した個人主義あるいは個人責任主義に基づいている。すな

わち、香港では、購入決定の責任はあくまで消費者個人の責任であり、問題商品の購入

原因は自己判断の誤りにあるとする考え方が一般的である。いうなれば、「自分の身は

自分で守る」という香港人気質が、ここにも生きていると言えよう。 後述の香港の小売店舗におけるヒアリング調査によれば、特に昨今は、包装状態や原

産国表示にこだわる消費者が増加している傾向にある。

慎重に乾麺を選ぶ… 包装状態をチェックして 裏面の原産国表示をチェックして

高級食材店の乾麺コーナー

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④ 日本産食品に対する意識 日本食品の「おいしさ」「質の良さ」「高い衛生水準」といった強みは、既に幅広く香

港市場に認識されている。これは富裕層マーケットにのみあてはまる傾向ではなく、中

層顧客・大衆向けのスーパーにおいても、日本産の食品は高い人気を誇っている。こう

した幅広い人気には、消費者が日本産食品から得ることができる実際のメリットもさる

ことながら、日本文化に対する良いイメージや憧憬(強いあこがれ)が寄与している。 特に、刺身、寿司、天ぷらは香港ではかなり人気があり、スーパーマーケットにも

多様な持ち帰り用の寿司が並んでいる。参考までに寿司の価格は大手量販店のテイクア

ウト用弁当が一人前(10カン~12カン)で40香港ドル(約640円)。日本人向

けの高級なネタの入っているものは、130香港ドル(約2,080円)(12カン)程

度で売られている。近年は鰻も人気があるが、そのほとんどが中国産もしくは台湾産で

あり、中国産の一部の鰻から発がん性物質が検出されて以来、若干売上は減少している。 「健康・安全意識」については既に触れたので、ここでは、日本産食品の購買トレン

ドについて、「高級化・多様化志向」「地域ブランド人気」の2つの側面から述べる。

(ア)高級化・多様化志向 スーパーマーケット、百貨店の食品売り場を中心とする食品小売マーケットの成熟に

より、近年の香港食品市場は「多様化」と同時に「高級化」志向を強めている。 日本の食品は香港食品マーケットにおいて今日高い評価を得ているが、その大きな理

由の一つに、日本産食品がこうした香港小売業の「高級化」「多様化」路線にうまく乗

ったことがあげられる。「おいしく」て「質が良い」ゆえに「高い」。こうした“高かろ

う・良かろう”という日本食品への評価は、既に香港の食品市場に定着している。 日本産食品の“高級食材”としての地位獲得に、高級食品スーパーが果たした役割は

大きい。高級食品スーパーに来る消費者の多くが、米、果物、日本酒などを中心とした

日本産高級食材目当ての来店客である。また、 近では、大規模小売店舗内に、日本ブ

ランドのベーカリー、菓子店などを一種のインストアショップ(店舗内店舗)としてオ

ープンさせ、店舗ブランド価値を高め、来店客増を図ろうとするケースも目立っている。

高級食品店併設の日系ベーカリー(中環)

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(イ)地域ブランド人気 現在の香港における日本食品ブームの大きな特徴が、「地域ブランド」への人気であ

る。特に、北海道、青森、福島、長野、九州、沖縄と言った地域の県産品は持続的な人

気を誇っている。北海道の菓子類、沖縄の黒糖や塩、九州のラーメン、東北の果物など

がその代表格である。 地域ブランドの人気の理由は幾つか考えられるが、大きな理由として、香港から日本

への観光客の増加があげられる。比較的富裕な家族連れ、若いカップルを中心に、日本

の観光地への旅行が、昨今ブームとなっている。彼らはお土産として日本の食品を購入

する他に、各地で様々な日本食を食する。日本への旅行を通して、香港人が“本物の日

本食”に接する機会が飛躍的に増えたのである。後述の小売店舗におけるヒアリング調

査(第3章の4)においても、高級食材スーパーの来店客が、通常香港人にとってなじ

みが薄い「日本の冷たい麺」(そうめん、ざるぞば等)を、「日本に旅行した際に食べた

ので良く知っている」と答えている。 また香港においては、以前から、日本の各都道府県及び高級食材スーパーが県産品の

販売促進活動を積極的に進めており、こうした地道な努力が実を結びつつあることも、

日本の地域ブランド人気の理由として挙げられる。

「バッホイドー」(北海道)ブランドは大人気 “雪国”への憧れは強い 北海道産チョコレート店(ハーバーシティ) ⑤ 小売店舗ごとの消費者属性の違い 香港では、居住する地域により、顧客層(超富裕・上層・中層)がはっきりと分かれ

る。香港島西側の山の手地区[山頂(ピーク)・半山(ミッドレベル)]や浅水湾(レパ

ルスベイ)には欧米人や超富裕の香港人、九龍尖沙咀や香港島山の手及び東側は上層の

香港人、香港島(太古)タイクー地区は日本人駐在員、同じ香港島内でも北角地区は庶

民の町というように、住んでいる人々の属性により狭い市街がさらに細かく色分けされ

ている。 したがって、同じスーパーでも、香港のどこに位置するかで顧客層は大きく異なって

いる。それぞれの店舗がどのような顧客をメインターゲットにしているのか、現地の流

通業者に十分確認しておく必要がある。

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⑥ 外食志向 世代を問わず頻繁に外食をする傾向にある。2004年に香港小売業管理協会と市場

調査会社の Synovate が調査した「消費動向調査」によると、個人支出額の上位2項目

が、「外食・娯楽(20%)」「食料・日用品購入(19%)」となっている。

香港の人々が、伝統的に、家族もしくは友人と語らいながらの外食を好むということ

のほかに、前項で述べたような香港特有の住宅事情も外食志向の一因である。

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第2章 日本産農林水産物・食品の香港への輸出状況

1 香港における農林水産物・食品貿易

先に述べたように、香港は東京都の約半分の広さの土地に約680万人が暮らす超過

密の「都市国家」であり、食糧は、一部の海産物等を除き、そのほとんどが地域外から

の輸入によって賄われている。今後、世界各地から香港への農林水産物・食品の輸入は

さらに増加し、輸入食品は大きなマーケットを形成すると予想される。実際に、香港の

普通のスーパーマーケットをみると、輸入農林水産物・食品の急増ぶりに驚かされる。

米国のりんご、オレンジ、欧州や豪州からのチーズ、粉ミルク、ワインなどが数多く販

売されている。 日本から海外への農林水産物・食品の輸出額を見ると、2006年における輸出総額

の16%を香港への輸出が占めており、これは、米国向けの18%に次いで第2位の数

字である。なお、2002年においても、香港向け輸出は17%(総額中第2位、第1

位は米国向け19%)を占めており、香港における日本産農林水産物・食品に対する需

要が一過性のものではなく、継続的なものであることがわかる。

【図表2-1】日本からの農林水産物・食品輸出(2006年)

輸出先 輸出額割合

① 米国 18%

② 香港 16%

③ 中国 16%

④ 韓国 13%

⑤ 台湾 11%

⑥ EU 5%

⑦ その他 21%

出所:財務省 貿易統計

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2 日本からの品目別輸出状況

次に、日本から香港へ輸出されている農林水産物及び食品において、輸出額伸びが顕

著なものを挙げておく。特に、一時的に輸入禁止となっていた日本産の「和牛」は、2

007年の輸入解禁以来、大きなブームとなっており、富裕層を中心に人気が高い。 以下、財務省「貿易統計」による。

(2006年) (2007年)

47百万円 71百万円

なし(梨)

(2006年) (2007年)

6.3百万円 36百万円

牛肉

(2006年) (2007年)

0円 200百万円

菓子類

(2006年) (2007年)

1,200百万円 1,500百万円

乾燥なまこ

(2006年) (2007年)

67百万円 112百万円

乾麺

(2006年) (2007年)

200百万円 400百万円

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第3章 香港における乾麺マーケット 1 広く認知されている“日本式(日式)”の麺 香港では、様々な種類の麺が食されているが、今日、日本式(日式)の麺は、香港の

食生活に深く浸透している。うどん(ウードンミン:烏冬麺)は、大衆向け市場を中心

に広く香港人の日常食として市民権を得ており、現地の牛丼店においてもメインメニュ

ーとして人気を博している。また、数字だけで見ると、乾麺の香港への輸入割合は、2

002年から2006年の4年間で約1.7倍強増加している。 こうした香港における日本の麺の浸透について、ここでは、「人気外食フードとして

の日本式(日式)麺」「日本製即席麺」を中心に述べる。

【図表3-1】日本からの乾麺輸出金額推移 (単位:千円)

順位 輸出先 2002 2003 2004 2005 2006

1 アメリカ合衆国 1,037,422 955,444 1,083,885 1,069,706 1,209,310

2 香港 240,702 199,342 250,281 233,702 429,911

3 台湾 67,169 76,756 89,668 115,432 130,231

4 シンガポール 104,947 86,809 98,309 100,123 108,958

5 カナダ 58,422 53,261 69,592 73,718 87,799

6 大韓民国 34,618 23,625 34,591 57,449 78,172

7 タイ 47,366 42,591 49,100 48,768 58,557

8 英国 56,717 68,043 46,465 65,681 53,926

9 マレーシア 21,215 19,242 21,648 25,345 29,915

10 フィリピン 16,994 19,866 16,122 22,716 28,926

11 ドイツ 19,585 17,914 27,054 27,811 27,216

12 インドネシア 30,098 25,247 41,206 33,431 24,720

13 オーストラリア 31,658 28,551 17,526 19,012 23,731

14 中華人民共和国 5,759 11,395 17,114 14,800 23,081

15 グアム(米) 28,001 17,778 27,414 26,977 22,574

以上上位15ヶ国

計(対世界輸出) 1,904,773 1,748,517 2,008,637 2,062,502 2,476,428

出典:財務省「貿易統計」

(注)順位は2006年実績の降順。

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【図表3-2】香港の麺の種類 出典:JETROの調査による 種類 色 特徴

幼麺 黄色 小麦粉を卵でつないでいる細麺 粗麺 黄色 小麦粉を卵でつないでいる太麺 公仔麺(コンチャイミン) 黄白色 インスタントラーメンの通称(商品名) 烏冬麺(ウードンミン) 白色 小麦粉から出来ている日本式の麺 米粉 白色 米粉から出来ている麺(ビーフン) ① 人気外食フードとしてのうどん(烏冬麺) 香港で市民権を得ている日本式(日式)の麺として、即席麺(香港名、公仔麺:コン

チャイミン)、うどん、ラーメンがある。うどんは、日本式(日式)の烏冬麺(ウードン

ミン)として調理・販売されているものすべてが日本製というわけではなく、中国製で

製造されたものも多く使われている。うどん専門店はほとんどなく、うどんが供される

場所としては、「牛丼店などのファストフード」「高級食材店・日系スーパーなどの併設

コーナー」「日本料理店」、その他に「地元の大衆食堂」などがある。このうち、日本の

乾麺を使うのは「日本料理店」のみで、大衆的な店舗では、ほとんどが安価な「ゆで麺」

(本章の 6 及び 7 参照)を使用している。

牛丼店も“うどんメニュー”を揃える(中環) 牛肉うどん 16 香港ドル[約 240 円]

高級スーパー併設の「手打ちうどん店」 店の前でうどん(烏冬麺)を食べる家族連れ

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「うどん」「かやく御飯」セットで 日系スーパー店内にある 63香港ドル(約1000円)高級スーパー併設店 「日本のラーメン」コーナー

② ラーメン店 また、日本式(日式)のラーメンは香港において根強い人気がある。ラーメンの味に

もトレンドがあり、これまではしょうゆ味のラーメン(中華そば)が主流であったが、九

州ラーメン店の開店を機に、 近は「とんこつラーメン」が人気を博している。

③ 日本製即席麺 1999年においては、日本からの輸出額において、即席麺(インスタント・ラーメ

ン)が真珠に次いで第2位となっている。香港のマーケットに も早くから根付いてい

る即席麺のブランドは、日清食品の「出前一丁」である。顧客層を問わず、あらゆる小

売店(高級店~大衆店)に、驚くほど多くの種類の「出前一丁」が並んでいる。余談な

がら、香港では即席麺のことを「公仔麺」(コンチャイミン)と言い、同名を冠した即

席麺のブランドも販売されている。「公仔」(コンチャイ)とは子供(坊や)という意味

であり、この名前は「出前一丁」に描かれている子供のキャラクターに由来している。 香港の食品市場に、これほど広く深く日本からの即席麺が浸透した理由は様々あるが、

第1章の2で明らかにした香港独自のライフスタイル(「住宅事情の悪さ」「日常生活に

おいて調理のための十分な時間と場所が無い」等)によるところが大きい。

種類が豊富な日本の即席麺 各3香港ドル[約48円](日系スーパー、太古)

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2 “乾麺マーケット”としての可能性 結論から言うと、日本からの乾麺の販売先として見た場合、香港の食品マーケットは、

極めて大きな可能性を有している。まさに今、機(市場環境)は熟した状態にあり、タ

ーゲットの設定、小売店舗(流通)の選択、プロモーション(広報)をマーケティング

戦略に則って行えば、潜在需要の一層の開拓が期待できる。 前章における“香港独自の食品消費スタイル”、及び前項における“日本の麺への認

知”を、「強み」(1~6)と見なし、香港の乾麺市場の可能性について探ってみる。 ☆強み1 [伝統的食文化の影響] 日本と同じく伝統的な麺食文化を有しており、麺の品質、 おいしさ(味)を良く理解する。また、醤油、ダシ(魚 介類)など消費者の味覚ベースが日本のそれに近いので、 日本産食品を受け容れ易い。

☆強み2 [健康・安全ブーム]

香港人は、高齢者を中心に健康に気を使う人が多い。食

品が健康に良いかどうかについて、非常に強い関心を払

う傾向にある。また、昨今の「鳥インフルエンザ」「S

ARS(重症急性呼吸器症候群)」などの疫病や「食中

毒」の相次ぐ発生、日本における中国産品の危険性に関

するニュースなどから、香港の人々の中に、食品衛生に

対する強い懸念が広まりつつある。 ☆強み3 [日本産食品に対する志向] 日本食品の「おいしさ」「質の良さ」「高い衛生水準」と

いった強みは、既に幅広く香港市場に認識されている。

これは富裕層マーケットにのみあてはまる傾向ではな

く、中層顧客・大衆向けのスーパーにおいても、日本産

の食品は高い人気を誇っている。 ☆強み4 [広く認知されている日本の麺]

日本式(日式)の麺は、香港の食生活に深く浸透してい

る。うどん(ウードンミン:烏冬麺)は、大衆向け市場

を中心に広く香港人の日常食として市民権を得ている。

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【図表3-3】 “強み”を生かし、ターゲットにアプローチ ターゲット 他国製品

各店舗ごとの消費者属性 ポジショニング

製品・価格・販路・プロモーション

戦略

市場環境面での「強み」

日本の麺 伝統的食文化 健康・安全ブーム 日本産食品 への認知

3 乾麺の販売実態 ① 小売店舗の種類 現在ほとんどすべての中規模以上の小売店で、日本産の乾麺を取り扱っている。しか

しながら取り扱っている製品及び価格帯は、小売店舗ごとに異なっている。 そこで、小売店を「高級食料品スーパー」「百貨店」「日系中層向けスーパー」「地場

の大衆向けスーパー」「地場のオーガニック・ストアー」の4つに分け、それぞれ取り

扱っている「主たる製品グループ」と「価格帯」について店頭での調査を実施した。は

じめに、香港における百貨店並びにスーパーマーケットの種類及び注意すべき取引慣習

について明らかにしておく。

[香港の代表的小売店舗・取引慣習] 香港の大規模小売店舗はスーパーマーケット(超級市場)を中心に有力2社の複占状

態である。この有力2社(Welcome:ウェルカム、Parken’shop:パークンショップ)で

香港のスーパーマーケット売上高の約8割を占めている。日系スーパー等が残りの2割

を占める。前2者が比較的大衆向けの店舗コンセプトで展開しているのに対し、日系の

ジャスコあるいはシティ・スーパーは、中層以上の顧客をメインターゲットに店舗展開

を行っている。また、昨今、グルメ食品を中心とした高級スーパー、あるいはオーガニ

ック等をコンセプトとしたスーパーが、富裕層を標的に売り上げ伸ばしつつある。

なお、香港資本の(地場の)スーパーマーケットで商品を販売する企業にとって、頭

の痛い問題が取り扱い手数料(listing fee)である。商品を新しい店舗の棚において

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もらうためには、多くのスーパーマーケットから取扱手数料を要求される。一般にテス

ト販売期間は1回限りの料金が課せられる。取扱手数料はスーパーマーケットごとに大

きく異なるが、その額には交渉の余地があると言われている。上記の有力2社(W

elcome:ウェルカム、Parken’shop:パークンショップ)は他の地場スーパーより高い。

例えば大手2社では、 小在庫管理単位(SKU)が5つの場合は、20万3000香

港ドル~30万4000香港ドル(325万円~486万円)かかるとみられる。

一方で、日系のスーパー(ジャスコ等)や日系デパートでは一般的にこうした取扱手

数料は要求されない。さらに、香港資本の小売業者からは、これ以外にも伝統的商慣習

に基づく取引条件を提示される可能性がある。プロモーション割引、バックエンド・イ

ンカム(小売業者への売上高に応じたリベート)などである。取扱手数料の発生、リベ

ートの要求に際しては、その都度、地場の小売業者との交渉が必要になる。

【図表3-4】 日系百貨店(食品売場がある店舗のみ)

場所 面積(㎡) 食品売場 SOGO(*) Causeway Bay 32,400 ○ Tsim Sha Tsui 10,700 ○ * 2001年に香港企業に売却(日本人食品担当責任者が駐在)

【図表3-5】 日系スーパーマーケット 場所 面積(㎡) 食品売場 アピタ(旧ユニー) Tai Koo Sing 13,000 ○ ジャスコ Kornhill 24,300 ○ Tsuen Wan 10,800 ○ Lok Fu 13,800 ○ Tai Po 8,000 ○ Tseung Kwan 15,300 ○ Whang Poa 17,400 ○ Tuen Mun 14,100 ○ Kwun Tong 3,100 ○ 西友 Sha Tin 10,400 ○ シティ・スーパー(*) Causeway Bay 4,500 ○ Tsim Sha Tsui 3,700 ○ Central 1,840 ○ New Town Plaza 2,800 ○ * シティ・スーパーは日系ではないが日本人が店舗管理を行う

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【図表3-6】 香港の地場スーパーマーケット 店舗数(場所) 資本関係 備考 Great Admiraly 香港 高級店 Taste Kowloon Tong 香港 高級店 Gourmet Causeway Bay 香港 高級店 Oliver’s the Delicatessen Central 香港 高級店 Three Sixty Central Wellcome 経営 オーガニック Wellcome(以下2社でシェア8割) 248 香港 大衆向け Park’n Shop 227 香港 大衆向け (高級店及び多店舗展開企業のみ掲載)

百貨店(そごう) 高級食材店(シティ・スーパー)

経営は地元企業が行っているが、 日本人が香港で起業した高級食材 高品質の日本製品や欧米のファッ スーパー。欧米の食材に加え、日 ションブランドが揃う SOGO の店 本から高級食材が充実している。 舗ブランドは健在である。 日本酒、果物などに強く、日本の 富裕層をターゲットとし、地下に 県産品フェアを頻繁に行っている 大規模な食料品売場を持つ。 東京に購買のための会社を設置し 日本人の販売責任者が常駐して ている。 おり、神戸に購買のための会社 がある。

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中層向けスーパー(ジャスコ) 中層向けスーパー(アピタ) 日系のスーパーでは も店舗数が 従来は、「ユニー」として、比較的、 多く、現在9店舗展開している。 大衆向けの店舗運営を行っていたが、 客層は、富裕層から中層顧客まで アピタに店名を変更した。 幅広いが、中心は中層顧客である。 富裕層から中層顧客まで顧客層は 日本人の顧客も多い。店舗併設の 幅広い。 飲食店ではうどんも提供している。 日本人居住地区である太古(タイ 上海など、中国本土での事業展開 クー)にのみ出店している。 にも積極的である。日本人の食品 担当責任者が常駐している。

地場の大衆向スーパー(ウェルカム) オーガニックストア(スリーシックスティ) ライバル会社のパークンショップ 大衆向けスーパーが経営するオーガ と合わせてスーパーの売上げシェ ニック・ストア。「アジアのファーム アの8割を持つ大衆向けスーパー。 (農場)」をコンセプトに様々な有

店舗数は も多いが、各店舗の売 機食材を販売している。富裕層や流 場面積は比較的狭い。「安いスー 行に敏感な若いビジネスパーソンを パー」というイメージが消費者の ターゲットにしている。全体的にか 間においても定着している。乾麺 なり高価格のため、客の入りは今ひ はほとんどが、中国製の2級品か とつかと思われる。 10 香港ドル(150 円)以下である。

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② 乾麺の販売実態(店舗訪問調査結果) [売場・陳列] 香港の小売店で販売されている乾麺は、日本製、中国製、韓国製など様々である。陳

列方法は基本的には日本の小売業と大きくは変わらない。通常は乾物類の棚に、関連商

品(ダシ、めんつゆ等)と一緒に陳列されている。ただ、「地場の大衆向けスーパー」

「地場のオーガニック・スーパー」においては、日本製・諸外国製の区別、価格帯の区

別を明確に行った陳列にはなっていないのが実情である。単に日本語で「そうめん」、

あるいは「烏冬麺(ウードンミン)」と表記してあるだけなので、消費者が特別の注意

を払わない限り外見上の差別化は難しい。 ただ、「高級食材スーパー」「日系中層向けスーパー」「百貨店」においては、栄養成

分や原産国などにこだわり、裏面の表示をしっかり確認する顧客がいるので、この限り

ではない(単に日本製というだけで、諸外国製との差別化は可能)。また、そうした店

は、店舗側も日本の高級品を別陳列にして差別化を図っている。 やはり、日本人食品担当者がいるかいないかによって、また店舗側が乾麺に対する正

しい知識を持っているかいないかによって、日本産乾麺の取扱方はかなり異なってくる。

地場のオーガニック・スーパー 高級食材店(日本人が管理) 中国製と日本製が一緒に陳列されている状態 日本各地の高級乾麺を集めたコーナー [製品グループ] 競合する製品群には、「ゆで麺」「スープ付ゆで麺」(チルド品)なども含まれるが、

それらについては本章の4以下で述べる。ここでは、現在販売されている乾麺を、「日

本製高級品」「日本製普及品」「中国製廉価品」「中国製オーガニック麺(PB)」に分け

て説明する。

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「日本製高級品」 主に「高級食材スーパー」「百貨店」に置かれているが、「日系中層向けスーパー」で

も若干見受けられる。現地の日本人をメインのターゲットとして、国内でのブランド力

を生かして販売しているケースが多いが、香港人の富裕層も購入する。日本においては、

地域の名産品もしくはブランド品として、全国的(日本)に名が通っているものが多い。

価格帯は、35香港ドル(約560円)/300g ~ 65香港ドル(約1040円)。

香港において確認できたハイエンド商品は、高級食材スーパー(シティ・スーパー)に

ある 65香港ドル(約1040円)の商品であった。

百貨店(銅鑼湾)

「日本製普及品」 「高級食材スーパー」「百貨店」「日系中層向けスーパー」「地場の大衆向けスーパー」

「地場のオーガニック・スーパー」など、すべての小売店舗に置いてある。全国的(日

本)な製品ブランド力は持たないが、日本全国の乾麺産地から出荷され、日本の平均的

家庭において普段に食されている製品である。この製品群がもっともバラエティに富ん

でおり、価格帯も幅広い。産地の名(播州・出雲・讃岐など)を銘打ったものが多い。

日本から出荷される量が も多い製品群であるので、差別化が難しい。

15香港ドル(約240円)~ 34香港ドル(約544円)/300g。20香港ドル

(320円)台がボリュームゾーンである。ちなみに、先に述べた牛丼店のうどん(牛

肉うどん+日本茶セット)が16香港ドル(256円)。高級食材スーパーの「テクア

ウト用そば..

サラダ」(直径10センチくらいのプラスチックのボールに入っている。内

容量は 150g 程度)が、27香港ドル(約432円)となっている。

日系中層向けスーパー

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「中国製廉価品」 「地場の大衆向けスーパー」において中心となっている製品群である。「日系中層向け

スーパー」や「地場のオーガニック・スーパー」にも若干おいてある。下の写真からわ

かるように、「そうめん」あるいは「うどん」と表に日本語で明記してある場合が多い。

次章のヒアリング結果が示しているが、これらの製品を購入する消費者(香港人)は、

スープに入れる具材として購入している。スープは自家製かもしくはインスタントのダ

シを用いて作る。こうした“中国式家庭スープ”には、「中国製廉価」品ばかりでなく、

上記の「日本製普及品」の中の安い価格帯(15香港ドル(約240円)/300g 前後)

のものも用いられている。

価格帯は、ほとんどが10香港ドル(約160円)を切るレベルで、主として、5香

港ドル(約80円)~ 9香港ドル(約144円)/300gとなっている。これら中国製

廉価品との価格競争は絶対に避けねばならない。

日系中層向けスーパー “手のべそうめん”という日本語表記になっている

「中国製オーガニック麺(PB)」 オーガニック麺は現在のところ、「地場のオーガニック・ストア」(スリーシックステ

ィ)でしか販売されていない。そのほとんどが、中国製である。従来の中国製乾麺には

なかったデザイン重視のパッケージとなっており、価格も15香港ドル(240円)と

通常の中国製よりも高めである。 「地場のオーガニック・ストア」(スリーシックスティ)自体が、香港ではまだ新し

い業態であり、今後の動向が未だ不明なので、この種の中国製オーガニック麺がどの程

度伸びるのかは、今のところ不明である。ただ、オーガニックというキーワードは香港

においてもマスコミ等からかなり注目されており、今後、日本製乾麺が現在の環境面で

の強み(健康・衛生志向ブーム、日本産食品への好イメージ)を生かして、香港の消費

者にプロモーションを行うに際し、何らかの競合が発生する可能性もある。

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Page 32: (香港)...まえがき 香港経済は、SARS、鳥インフルエンザ等の影響により、観光客数、諸外国からの 投資金額が減少し、一時的にはその成長速度が減速したものの、中国から個人旅行解禁

中国製オーガニック乾麺 4 乾麺の購入実態 ① ヒアリング調査結果 2007 年 12 月 19 日及び 21 日(いずれも午後13時~16時)に、香港の代表的な小

売店の来店客を対象に、日本産乾麺についての広東語での聞取り調査を行った。聞取り

調査対象者は、無作為に選んだ来店者21名である。 調査場所としては、「高級食料品店」「地場のオーガニック・スーパー」「日系中層顧

客向スーパー」を選んだ。なお、店舗立地によって消費者属性傾向に若干の相違がある

ため、高級食料品店については異なる3店舗で調査を実施した。質問内容は、「日本の

麺全般への認知、評価、購買経験、購買後の感想」、「日本の乾麺への認知、評価、購買

経験、購買後の感想」である。なお、回答者には数名の在留日本人もいたが、調査目的

はあくまで香港人消費者の乾麺の消費実態を把握することであるので、日本人からの回

答は割愛した。 [高級食材店]

シティ・スーパー(IFC 店、中環:金融街) ・20代OL 「ゆで麺の方が簡単」「乾麺は買ったことがない」 ・30代OL既婚 「そうめんを買って食べる」「冷たいそうめんが好き」「食べ方は日本の友人に聞いた」 ・40代主婦 「日本の麺を買いたいが、どうやって食べるのかわからない」「食べ方を教えて欲しい」

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シティ・スーパー(タイムズスクウェア店:繁華街) ・男子学生(3名) 「日本の麺は家でお母さんが作る」「冷たいそうめんも食べる」「日本のインスタントラ

ーメンはおいしい」 ・30代主婦既婚 「つゆ付ゆで麺が好き」「乾麺は存在すら知らなかった」 ・30代主婦既婚 「日本の食品はきちんと包装してあるから良い」「ゆで麺を買ってスキヤキに入れる」 ・20代OL 「冷たいざる(乾麺)が好きで、家でも作る」「日本に旅行した時、食べた」

シティ・スーパー(ハーバーシティ店:新興ショッピングモール) ・70代男性 「日本の麺はおいしい」「ゆで麺を買う」「乾麺は買ったことがない」 ・30代カップル 「ゆでたうどんは良く食べる(家でも、外食でも)」「乾麺はどうやって作るのか良くわ

からない。広東語で書かれた作り方を貼っておいてほしい」 ・50代主婦(インドネシアの華僑、香港在住) 「日本に良く行くので、日本の麺類は好き」「乾麺は食べ方がわからない」「英語の作り

方しか書いていないのはどうかと思います。年配の人には英語が読めない人もいるのだ

から、広東語の説明を貼っておいて欲しい」 ・20代女性OL 「日本料理が大好きなので冷たい麺(乾麺)も食べる」「雑誌の情報を良く参考にする」 [地場の(有機・無農薬)スーパー]

スリーシックスティ(ランドマーク店:ビジネス街) ・20代OL既婚 「このスーパーは、オーガニックなものも、伝統的な昔からの食品もあるから良い」「日

本の麺(つゆ付ゆでめん)はヘルシーだから良く食べる」 ・30代OL既婚 「冷たい日本の麺はテレビ番組で見て、知っている」「たまに乾麺を買う」 「日本の麺を家で食べたいのだが、主人はインスタントラーメンばかり食べるので困る。

インスタントものは健康に良くないと思う」 ・20代OL 「乾麺は作り方が良くわからない」「日本の麺は大好きで、友人とたまに食べに行く」

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[日系中層向けスーパー]

JUSCO(ジャスコ)

・30代OL既婚 「カップ麺のみ買う」「乾麺は知らない」 ・40代主婦 「ゆでて、ハムをいれて、スープにする」「乾麺は知らない」 ・20代OL既婚 「細い乾麺を一度だけ買った」 ・50代主婦 「日本の麺(食品)は包装がしっかりしているのが良い」「スープの具にする」 ・30代主婦(子連れ) 「海鮮(エビなど)のスープを作り、そこに乾麺を入れる」 「あっさりしていておいしい」 ・40代主婦 「ゆで麺を買いカマボコを入れたスープを作る」「冷たい麺は知らない」 「麺つゆ知らない」 ・40代主婦 「つゆの付いていないゆで麺を買い、トンコツスープで食べる」「乾麺は高い」 ・50代男性 「やわらかいゆで麺を食べる」「専用のつゆがあるとは知らなかった」 「スパゲティソースをかけて食べるとおいしい」「乾麺は知らない」 ② 乾麺の購入実態 小売店の売場において、来店者に上記ヒアリングを行った結果、香港の乾麺消費の特

徴がいくつか明らかになった。マーケットを富裕層(上層・中上層)、中層に分け、そ

れぞれの消費傾向と共通する消費傾向について下記のとおりまとめた。

・日本の乾麺が狙うマーケットは、富裕層(上層・中上層)、中層に分けられる。 ・店舗によって、主となる顧客層が異なる

・富裕層(上層・中上層)は、旅行・メディア等を通して、日本の麺についての正確な

知識を持っている。 ・富裕層(上層・中上層)には、日本本来の麺の食べ方を実践している人もいる。 ・富裕層(上層・中上層)は、日本の麺に対する差別化がある程度出来ており、その理

由も明確である。

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・中層顧客は、日本の麺に対する認知はあるものの、はっきり差別化出来ていない傾向

にある。 ・中層顧客の麺の食べ方としては、自家製のスープを作り、その中に具として麺を入れ

るのが一般的である。日本の麺もスープの具として買われている。 ・富裕層、中層において、簡単という理由で、ゆで麺(スープ付)の人気が高い。 ・富裕層、中層において、食品衛生・健康上の理由で、日本製を好む傾向にある。 【図表3-7】「上層顧客」と「中層顧客」に見る日本製乾麺の消費スタイル 日本の麺に (良く知っている) 上層顧客 日本本来の食べ方 ついての 情報 中層顧客 香港式(中華スープ)

の食べ方 大衆顧客

5「麺つゆ」の販売・購入実態 ①「麺つゆ」の販売実態 香港の消費者には、日本の「麺つゆ」はあまり認知されていない。しかし、日系の中

層向けスーパー、百貨店、高級食材スーパーでは、日本の小売店と全く同じ陳列方法で

販売されており、種類も豊富である。主たる顧客は香港在住の日本人である。価格は、

14香港ドル(約224円)~21香港ドル(約336円)/約300ml。日本の著名

メーカーのものは、20香港ドル(約320円)/約300ml 前後となっている。

乾麺の隣には日本製の「麺つゆ」が並ぶ

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②「麺つゆ」の購入実態 日系の小売店を中心に、多くの日本製の「麺つゆ」が陳列されているにもかかわらず、

香港の消費者の「麺つゆ」に対する認知は驚くほど低い。香港における「麺つゆ」は、

そのほとんどが在留邦人向けに販売されている。上述の香港人へのヒアリング調査時に、

「麺つゆ」についても聞き取りを行ったが、「全く知らなかった」「ビンを見ても、それ

が何なのかわからない」といった回答が多かった。[調査員自身がその場で「麺つゆ」

を手に取り、作り方を説明すると、納得して購入するというケースも見られた] 特に日系中層向けスーパーにおいて、「麺つゆ」を知らないとする消費者がほとんど

であった。前項のヒアリング調査においても明らかにしたように、中層顧客はあくまで

自分で作る“中国式家庭スープ”の具として、中国製廉価品もしくは日本製普及品の乾

麺を購入しており、日本本来の食べ方には関心や興味を抱いていないことがその理由で

ある。 対照的に、高級食材スーパーでのヒアリング調査においては、何名かの回答者が「麺

つゆ」の存在とその使い方を良く知っていた。理由としては、「テレビ・雑誌などの情

報から」「日本に旅行した時に知った」「日本の友人に聞いた」等があげられた。

中層向けスーパーの乾麺売り場 「麺つゆ」コーナーに、 香港の消費者はあまり立ち寄らない

6「ゆで麺」「PB品」(冷蔵・冷凍・真空パック)の販売・購入実態 ①「ゆで麺」「PB品」(冷蔵・冷凍・真空パック)の販売実態 本ハンドブックでは、乾燥状態になっていない麺(一旦加熱し冷蔵・冷凍・真空パッ

クしてある商品)と乾麺とを区別し、これらを「ゆで麺」として分類する。また昨今、

香港市場に出回りつつある「PB」(プライベート・ブランド:流通業者が独自ブラン

ドで企画・製造・販売する商品)も内容は麺つゆ付きの「ゆで麺」がほとんどであるた

め、「ゆで麺」と一緒に調査対象とした。「ゆで麺」「PB」は、大きく、「日本製ゆで麺

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(つゆ付)」、「香港製・中国製PB(ゆで麺つゆ付)」、「廉価品ゆで麺」の3種類に分け

ることができる。 これらの「ゆで麺」は簡単に素早く調理できることから、顧客層を問わず人気がある。

上記のヒアリング調査においても、中層向け・富裕層向け店舗を問わず、多くの購入経

験者がいた。小売店側もこの商品群には力を入れている様子で、各店とも来店客がアプ

ローチし易いように、主動線上の冷凍・冷蔵品コーナーにまとめて陳列していた。

日本製ゆで麺(つゆ付)

つゆ付ゆで麺 高級食材スーパー 日本製ゆで麺(つゆ付)は、高級食材スーパー、日系百貨店、日系中層向けスーパー

のいずれにも置いてあり、人気が高い商品である。 価格は、2食(2人前)入りが20香港ドル(約320円)~30香港ドル(480

円)。上記の消費者ヒアリング調査結果からもわかるように、“調理が簡単でおいしい”

というのが主な購買理由である。高級食材スーパーでは、「乾麺の存在は知っているが、

つゆ付ゆで麺の方が簡単だから」とう消費者が多かった。 香港製・中国製PB(ゆで麺つゆ付)

地元商社の製品 「かけうどん」と「焼うどん」

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香港製・中国製PBは、中層向けスーパー、高級食材スーパー双方において数多く見

られたが、特に店頭での陳列数が も多いのは地元の商社が製造している製品群である。 製品の種類は、「かけうどん」「焼うどん」など様々あり、2人前から4人前のものが

多い。日本国内の大手メーカーが受託生産しているものも見うけられた。価格は、おお

よそ、4人前パッケージで18香港ドル(約288円)、3人前で15香港ドル(約2

40円)、2人前で12香港ドル(192)円くらいであり、廉価となっている。主な

メーカー(商社)は、四州貿易有限公司、江戸貿易公司(EDOブランド)などである。 廉価品ゆで麺

真空パック1人前 3香港ドル(約45円) 中国製“紅圏碑” ブランド 廉価品ゆで麺は、大衆向けスーパーにおいて多く見られた。価格は3香港ドル(約48

円)前後で、1玉ずつの真空パック状態で販売されている。中国製が多いが、日本の製造

者が海外向けに製造している製品もある。

7 業務用マーケット ① 業務用マーケットの実情 先に述べたように、香港では、住宅事情などの理由から、世代を問わず頻繁に外食を

する傾向にある。2004年の香港小売業管理協会の「消費動向調査」によると、個人

支出の上位が、「外食・娯楽(20%)」「食料・日用品購入(19%)」となっている。 しかしながら、大衆的なレストランや外食チェーンなどで出す「麺類」の価額は、一

杯16香港ドル(約256円)程度であり、こういった店舗において日本製乾麺が使用

されることはない。日本からの乾麺がメニューに使用されるのは、高級日本料理店もし

くは日本料理専門店に限られている。香港に2店舗を構える日本料理店「なだ万」での

聞取り調査によれば、麺類(うどん、そば、そうめん類)はコース料理の 後の食事と

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して提供しており、日本の高級乾麺を使用していた。コース料理の価格は、ランチが1

50香港ドル(約2,400円)~400香港ドル(6,400円)であった。なお、ホテ

ル内の高級日本料理店の客層は、その多くが宿泊客以外の香港人富裕層であり、欧米人、

日本人は合わせて2割程度ということである。

高級日本料理店「なだ万」の入口 アイランド・シャングリラホテル(湾仔) ② 業務用マーケットへのアプローチ 高級日本料理店もしくは日本料理専門店は、乾麺を他の日本産食材とともに香港の輸

入食品商社から仕入れている。従って、市場参入方法としては、輸入商社へのアプロー

チがもっとも効率的である。 輸入商社については、香港で活動しており、なおかつ日本語によるコミュニケーショ

ンが可能な企業を、第4章の2、第9章の2に列挙しておいたので、参考にしていただき

たい。 ③ 業務用市場と小売市場を連動させた販売促進策(プロモーション)について 業務用マーケットへのアプローチは、小売市場における販売拡大のためのプロモーショ

ン(販売促進)活動としても、極めて有効である。日本料理店へアプローチする場合は、

上記輸入商社と連携を取りつつ、「乾麺のブランド名をメニューに記入してもらう」「店舗

側との共同プロモーション(季節イベントなど)を行う」などして、料理店向けの営業活

動を小売店における販売促進に結び付ける努力をすべきである。

プロモーション(販売促進)活動の詳細については、第4章の3を参考にしていただき

たい。

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第4章 マーケティング・プラン

1 マーケティングのポイント

それでは、1章・3章における、日本企業の“強み”及び香港市場の消費傾向を踏ま

え、香港で乾麺を販売する際のマーケティング戦略について説明する。ここでは、以下

3つのポイントに沿って述べて行く。

ポイント① 外国消費者文化志向ポジショニング(FCCP)

ポジショニングとは、競合製品との差別化を図るために、消費者に製品のどのような

点をアピールするかということである。「外国消費者文化志向ポジショニング(Foreign

Consumer Culture Positioning:FCCP)」とは、製品やブランドの背後にある、国や地

域固有の「文化」やそれに対し海外消費者が抱く「良いイメージ」を積極的に利用する

ことにより、海外におけるターゲット(標的市場)設定やプロモーション(販売促進)

活動をより効果的に行おうとする戦略である。例えば、日本人は“スイスの時計は精巧

で高品質”“ドイツの家庭用品は堅牢で安全”というように、その国の文化的背景やイ

メージをその国の工業製品やブランドに重ね合わせている。食品マーケットで言えば、

1970年代に日本に進出して来た当初のハンバーガー・チェーンは、日本人が抱いて

いた“豊かなアメリカの食生活”のイメージに沿ったプロモーション(販売促進)活動

を行うことにより成功を収めた。

⇒ 「外国消費者文化志向ポジショニング」の考え方に基づき、日本の食品に対する「お

いしさ」「質の良さ」「高い衛生水準」といったプラス評価、日本の麺に対する高い認知、

健康・衛生志向といった“強み”を生かし、高品質でおいしい“日本製の”乾麺である

ことを 大限にアピールすべきである。

ポイント② 上層吸収アプローチ

「上層吸収アプローチ」は、「上層吸引アプローチ」とも言い、海外市場における価

格戦略に関する考え方の一つである。ここにおける「上層」とは、購買力のある「高所

得者層」を意味する。海外市場参入初期において、高所得者層を想定顧客層に設定し、

あえて高い値付けをすることにより、初期投資コストを早く回収し、さらには「高品質

+高価格」という良いブランド・製品イメージを定着させようという戦略である。

上層吸収アプローチには、いくつかの長所があるが、「参入コストの早期回収」と「段

階的市場参入」の2点が主たるメリットである。「段階的市場参入」とは、高価格の上

層吸収アプローチで上層顧客層に入り込み、好ましいブランド・イメージが構築された

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後に、低価格でボリュームのある中層・大衆顧客層にアプローチすることである。

一般に、上層吸収アプローチを成功させるには、その製品が高価格に見合う高付加価

値を備えており、なおかつ潜在ニーズの存在が確認されていなければならない。

⇒ 日本産の食品に対する潜在的な高評価、日本の麺に対する高い認知、上層顧客を中

心とした健康・衛生指向を考えれば、「上層吸収アプローチ」による“富裕層マーケッ

ト狙い”は、極めて有効な戦略である。

【図表4-1】 上層吸収アプローチの「条件」と「効果」

高価格に見合う高付加価値(条件)

市場参入時

高価格の製品

高所得層の潜在ニーズ(条件)

(効果)ブランド・イメージの定着

コストの早期回収

ポイント③ 標的市場に応じた「標準化」と「適応化」の使い分け

海外において販売を行う場合には、「標準化」と「適応化」の2つの方向性がある。

「標準化」とは、国内製品を原則的にはそのまま(もちろん表示類は当該地域の言語に

変えるが)複数の海外市場で販売することである。その場合、プロモーション(販売促

進)活動は、国内製品としての特長をそのまま海外の標的市場においてPRすることが

主眼となる。この標準化を採用すれば、海外向け製品開発などのコスト負担は減るが、

反面、それら国内向けの製品が海外市場において不適応を起こす事も想定される。

これに対し、「適応化」とは、海外の各市場のニーズにできる限り製品をマッチさせ

ようとする戦略である。海外のターゲット市場一つひとつの特性に製品をマッチさせて

行く。プロモーション活動もそれぞれ異なる市場の消費者ニーズを個別に満足させるこ

とを目的とする。複数の市場特性に合わせたプロモーション活動と製品開発が求められ

るので、コスト負担はかなり大きい。しかし、上記「標準化」とは異なり、海外市場に

おける不適応の割合は少なくなる。

海外において販売活動をしようという企業にとって、「標準化」を採るべきか「適応

化」を採るべきかは、悩ましい問題である。経営学者のマイケル・ポーター(M.E.Poter)

は、「標準化」が行い易い市場の特性として、「顧客層が富裕であること(上層顧客)」

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「消費者の情報交換が活発であること」「産業財(生産財)市場であること」等を挙げ

ている。また、「標準化」において、多様なニーズを 大限にカバーするためには、プ

ロモーション(販売促進)活動の役割が極めて大きいと述べている。

⇒ 第3章のヒアリング調査結果から、香港の「富裕層(上層・中上層)」は、日本へ

の旅行や各メディアを通じて、日本の麺についての情報や知識の獲得を頻繁に行ってい

る。こうした顧客層に対しては、「標準化」の考え方に基づき、日本の乾麺をそのまま

流通させ、日本本来の乾麺の調理方法と食べ方をそのままプロモーションすることが有

効である。 これに対し、「中層顧客」は、日本製の麺の品質はある程度認知しているものの、日

本本来の調理方法や食べ方を熟知しているわけではない。食べ方としては、自家製のス

ープ(“中国式家庭スープ”)を作り、麺を具として入れるのが一般的であり、 日本の

麺もスープの具として買われている。これらの顧客層に対しては、香港式の食べ方に極

力「適応化」することにより、日本製乾麺の消費量を増やす方策が有効である。

2 ターゲット別 (顧客層別)マーケティング戦略

① 上層・中上層(富裕層)ターゲット向け

[どういう販路(流通)で?]

販路(流通)の設定に際しては、「現地流通業の日本語コミュニケーションが可能な

担当者」に直接アプローチし、これと密接なコミュニケーションを取りつつ行うことが

望ましい。理由は以下のとおりである。

・コミュニケーション・ギャップが少ない。

・日本製乾麺に関して、正しい知識を持っている。

・香港市場のリアルタイムな消費状況を良く知っている。

・その製品にあったベストな流通経路を探すことができる。

・地場の商慣習(リベートや手数料など)を熟知している。

大規模小売業へのアプローチに加え、輸入業者の選択も大切である。輸入業者は大き

くわけると、日系を中心した外資系輸入業者と香港の民族系輸入業者の2通りがある。

日系輸入業者は、デリバリーなどサービスを細かく対応してくれるが、香港の民族系輸

入業者は、その「地の利」を生かし、輸入手続をより円滑に運ぶメリットがある。 日本人担当者が常駐している、日系小売業及び現地の主な食品輸入業者について下記

に掲載しておく。

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【図表4-2】 日本人食品担当責任者が常駐する「日系百貨店」 場所 面積(㎡) 食品売場 SOGO(そごう) Causeway

Bay 32,400 ○

Tsim Sha Tsui 10,700 ○

【図表4-3】 日本人食品担当責任者が常駐する「日系スーパーマーケット」 場所 面積(㎡) 食品売場 ジャスコ Kornhill 24,300 ○ Tsuen Wan 10,800 ○ Lok Fu 13,800 ○ Tai Po 8,000 ○ Tseung Kwan 15,300 ○ Whang Poa 17,400 ○ Tuen Mun 14,100 ○ Kwun Tong 3,100 ○ シティ・スーパー(*) Causeway Bay 4,500 ○ Tsim Sha Tsui 3,700 ○ Central 1,840 ○

New Town Plaza 2,800 ○ アピタ Tai Koo Sing 13,000 ○ * シティ・スーパーは日系ではないが日本人が店舗経営管理を行う

【図表4-4】 日本産食品を取り扱う現地輸入商社(代表的な企業を抜粋) (2008 年 3 月現在の情報)

・株式会社組合貿易(UNICOOPJAPAN) [JA 全農グループ]

・栄生祥 有限公司 [香港企業]

・JFC HONG KONG Ltd.[キッコーマングループ]

* 組合貿易(UNICOOPJAPAN)は、「全農」の現地連絡事務所であり、日本企業との

取引経験が豊富で、担当者は日本語が堪能である。 * 栄生祥は 100 年以上の歴史がある香港の商社である。日本企業との取引経験が

豊富で、日本人担当者が常駐している。 * JFC HONG KONG Ltd.は、太平洋貿易の香港現地法人であり、加工食品の輸入に

ついて実績がある。日本人責任者が常駐している。

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Page 44: (香港)...まえがき 香港経済は、SARS、鳥インフルエンザ等の影響により、観光客数、諸外国からの 投資金額が減少し、一時的にはその成長速度が減速したものの、中国から個人旅行解禁

[どのような製品を?]

“標準化”された「日本製高級品」「日本製普及品」を中心に販売する。パッケージ

は日本のもので良いが、日本製であることが簡単に判別できるものの方が望ましい。 英語もしくは中国語の表示ラベルを貼付すること。成分表示並びに添加物表示ラベ

ルの作成に当たっては、後述の第5章の6に挙げた関係機関に問い合わせ、また流通

業者とも良く相談し、効率的に対応することが望ましい。

[いくらで?(価格)]

あくまで、“上層吸収アプローチ”であることを踏まえ、戦略的な価格設定を行う。

[どのようなプロモーション(販促)活動をするか?] “上層顧客”は、食についての情報交換や情報探索が活発であり、また健康・衛生志

向が強いことから、「作り方・食べ方の教育」「安全性をアピール」の2点に的を絞った

以下のようなプロモーション活動が有効となる。

なお、香港の食品マーケットでは、店頭におけるプロモーション活動が非常に有効で

ある。店頭でのプロモーション活動の詳細については、本章次項3の「香港における食

品の店頭プロモーション活動」を参考にされたい。

ポイント 作り方・食べ方を教える:

普及活動として、調理方法等の食べ方や日本特有の「食」文化について、積極的に

PR や啓蒙活動を行うことが重要である。

ポイント 安全性をアピール:

日本の品質管理の徹底を紹介することも、販売促進には欠かせない。例えば、日本の

農産物加工品は世界一厳しい日本の農薬残留基準をクリアする安全で安心な農産物加

工品であることを宣伝していくことである。日本産の安全性、品質の高さがさらに理解

され、大きな信頼を獲得することができる。

* 香港でのプロモーションについての小売サイドからの参考意見: 今回の調査において、一部の大規模小売業の日本人食品担当者から、「継続的な

....」販

売促進活動の重要性について指摘された。これまでの日本の加工食品メーカーのプロモ

ーション活動はイベント的に行われ、単発で終わることが良くあった。食品を普及・定

着させるために、継続的なプロモーション活動を行って欲しいとのことである。

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② 中層ターゲット向け

[どういう販路(流通)で?]

内容については、上記「上層・中上層ターゲット向け」を参照。

[どのような製品を?]

「日本製普及品」を中心に輸出・販売する。パッケージは日本で販売する際のもので

良いが、日本製であることが簡単に判別できるものの方が望ましい。 英語もしくは中国語の表示ラベルを貼付すること。成分表示並びに添加物表示ラベ

ルの作成にあたっては、後述の第5章の6に挙げた関係機関に問い合わせ、また流通

業者とも良く相談し、極力効率的に対応することが望ましい。

[いくらで?(価格)]

あくまで参考であるが、第3章の3の②の店頭調査に基づく価格帯を見て頂きたい。

[どのようなプロモーション(販促)活動をするか?] 第3章の4の②の店頭調査によれば、“中層顧客”は、日本製加工食品の安全性・品

質の良さについての認識はあるものの、麺の食べ方においては自家製の中華スープを作

って食べるという香港独自のスタイルを守る傾向にある。こうした顧客層に対しては、

日本製加工食品の安全性・品質の良さをPRしつつも、極力、香港の中層消費者の食べ

方に「適応化」したプロモーションが有効である。

中層顧客における “中国式家庭スープ”関連の市場はかなりのボリュームを持って

いる。そこで、この市場を切り捨てたり、中国製品との価格競争を行ったりするのでは

なく、強み(健康・衛生志向ブーム・日本産食品への好イメージ)をさらに伸ばすべく、

大衆向けのプロモーション活動を行い、“中国式家庭スープ”の具を「中国製廉価」か

ら、若干高めの「日本製普及品」に転換させる戦略が妥当となる。

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3 香港における食品の店頭プロモーション活動

*巻末添付④ 店頭プロモーション(販売促進活動)資料

ここでは、前記2の①の「上層・中上層ターゲット」向けの店頭プロモーション活

動(販促活動)について、いくつかのポイントを明らかにする。食品のプロモーション

活動としては、通常、テレビコマーシャル、紙媒体、店頭プロモーションなどが考えら

れるが、地理的に狭いコミュニティ(香港島・九龍地域に人口が600万人以上)であ

る香港においては、クチコミが広まり易く、店頭でのプロモーション活動が極めて有効

である。また、新聞は宅配ではないので、日本の様な消費者向けの宅配チラシは方法と

しては一般的ではない。

香港での店頭プロモーション活動のポイント①

「食べ方」「作り方」「おいしさ」「安全性」を(実演・試食で)教える

狭いコミュニティである香港市場でクチコミを形成するためには、実演販売や試食は

かなり有効な方法である。高級食材店、中層向けスーパーを問わず、実演販売や試食を

中心としたイベントは頻繁に行われている。

実演のための販売員は、通常、数名が日本のメーカーから派遣されるが、小売店を通

して香港のマネキン(アルバイト)派遣会社に依頼することも可能である。中国語・英

語のチラシ類は、メーカーサイドで用意する場合もあるが、小売店側でデザイン・作成

する場合もある。販売員、チラシ類など、プロモーション活動の詳細については、小売

店側あるいは輸入商社(輸入商社がセッティングする場合)と打ち合わせる必要がある。

日本酒の試飲販売(高級食材店)

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香港での店頭プロモーション活動のポイント②

継続性・季節性のあるイベント

特定の商品・ブランドについてのクチコミを広め、市場に根付かせるためには、店頭

プロモーションを「継続的に」行う必要がある。香港の高級食材店では、年間を通した

活動時期を決めておき、毎年その時期になると、期間限定でプロモーション活動を行う

というケースが多いようである。その場合、日本の季節行事、香港の季節行事に合わせ、

毎年恒例の季節イベントとして行うのも有効な方法である。

年間を通して も消費活動が盛んなのは、旧正月、クリスマス、中秋節(お月見)な

どである。また、バレンタインデーなどは、日本の流通業者が日本から持ち込んで香港

小売市場に定着させた。

乾麺においても、日本の季節感に合わせた、香港向けの新たなイベント提案が有効で

ある。(例えば、夏の流しそうめんなど)

香港での店頭プロモーション活動のポイント③

他の食材とのジョイント

上記①の継続性・季節性イベントと関連するが、イベント期間中、他の食材(商品)

とジョイントさせたプロモーションを行うのも有効である。実際に、香港の高級食材店

では、いくつかの食材を組み合わせてのイベント販売が良く行われる。日本の季節感を

より深く伝え、イベントのインパクトをより高める効果が期待される。

乾麺においても、“日本の夏”を表現するイベントとして、他の食材とのジョイント・

プロモーションを行うことが、商品・ブランド認知にとって有効である。

ここでは、日本酒フェアに合わせ、日本産の海産物加工品(天ぷら、かき揚げ、練り物

など)の実演販売を行っている。(高級食材店)

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Page 48: (香港)...まえがき 香港経済は、SARS、鳥インフルエンザ等の影響により、観光客数、諸外国からの 投資金額が減少し、一時的にはその成長速度が減速したものの、中国から個人旅行解禁

香港での店頭プロモーション活動のポイント④

地域性をアピール

第1章の2の④において述べたが、現在、香港では、日本の「地域ブランド」への人

気である。特に、北海道、青森、福島、長野、九州(佐賀・熊本など)、沖縄と言った

地域の県産品は持続的な人気を誇っている。地域ブランドの人気の理由は幾つか考えら

れるが、大きな理由として、香港から日本への観光客の増加があげられる。小売店舗に

おけるヒアリング調査(第3章の4)においても、高級食材スーパーの来店客が、通常

香港人にとってなじみが薄い「日本の冷たい麺」(そうめん、ざるそば等)を、「日本に

旅行した際に食べたので良く知っている」と答えている。また、元々、日本の乾麺は非

常に地域性が強い商品である。

乾麺も、これを日本の県産ブランド(地域ブランド)として位置づけ、他の県産食材

とジョイントさせて販売することで、より商品・ブランド認知が高まるものと思われる。

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