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気体の体積の圧力変化を用いた気体定数の決定

理想気体の状態方程式によれば,理想気体の体積は,絶対温度に比例し,圧力に反比例

する。簡単な分子構造を持つ気体では,常温・常圧付近において,理想気体にかなり近い振

る舞いをすることが知られている。ここでは,理想気体の体積と圧力の関係を利用して,

気体定数 R の値を決定する。

理論的背景

●理想気体の状態方程式

物質の三態として知られる各状態のうち,気体はもっとも密度が小さく,平均の分子

間距離が長い。多くの分子性物質では,分子間相互作用が距離とともに急激に小さくな

ることから,気体における分子間相互作用は非常に小さい。低圧力下において分子密度

が低くなると,この傾向はより顕著となる。また,高温において,分子の熱運動のエネ

ルギーが分子間相互作用エネルギーを上回る状況においては,相対的に分子間相互作用

の影響が小さくなる。このように,高温・低圧力条件下で分子の運動はランダム(無秩

序)になっている状況をモデル化したものを理想気体と呼んでいる。実在気体でも,分

子量の小さな分子性物質では,常温・常圧において,このモデルがよく成り立つことが

知られている。

理想気体の体積 V は,絶対温度 T 一定の下で,圧力 p に反比例する。すなわち,

pV =Constant

これをBoyleの法則と呼ぶ。一方,一定圧力の下では体積は絶対温度に比例することが

知られている。すなわち,

VT

=Constant

であり,これを Charles の法則(または Gay Lussac の法則)と呼ぶ。両者を組み合わせる

と,

pVT

=Constant

と書くことができる。気体の体積は,明らかに気体の物質量 n に比例することから,右

辺の定数も物質量 n に比例する。すなわち,新たな定数 R を導入し,

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pV =nRT

と変形することができる。この関係を理想気体の状態方程式と呼び,R を気体定数とい

う。

●気体の体積の圧力依存性と気体定数

理想気体の状態方程式は以下のように変形される。

この式は,気体の体積の逆数を圧力に対してプロットすると,比例関係が得られ,その

傾きが(nRT)-1となることを示している。すなわち,温度一定の下で,物質量既知の気体

の体積の圧力変化を測定することにより,気体定数を求めることができる。

●線形最小二乗法による直線回帰

一般に,実験データは誤差を含んでいる。従って,理論的に直線関係にある量を測定

しグラフに描いたとしても,一直線上にすべてのデータが並ぶことはあり得ない。ある

程度ばらつきを持つデータから,もっともらしい理論曲線を得るために,最小二乗法と

いう手法が用いられる。これはデータの組(x,y)について,x に対する誤差が y に対す

る誤差よりも遙かに小さいときに有効な手段である。いかに誤差を含んだ N 個の二次元

データ(x1,y1)~(xN,yN)に対して,最も尤もらしい直線(最尤直線)を得る方法の原理を述

べる。

N 個のデータ{(x1,y1), …, (xN,yN)}を,n 個のパラメータ(A0, …, An-1)を含むモデル関数

y = f(x)に適合させる。そのために次式で定義される残差の二乗和 S を最小化するパラメ

ータの組を決定する。

{ }∑=

−=N

iii xfyS

1

2)(

これを最小二乗条件と呼ぶ。特にモデル関数が1次関数のとき y = f(x) = A0 + A1x を考え

る(n = 2)。このとき,S が最小値を与えるための必要条件は

021

1010

=

+−−=

∂∂ ∑∑

==

N

kk

N

kk xANAy

AS

021

21

10

11

=

+−−=

∂∂ ∑∑∑

===

N

kk

N

kk

N

kkk xAxAyx

AS

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で与えられる(最小二乗条件)。この方程式を正規方程式という。ここで,

∑=

=N

kxk Sx

1 , ∑=

=N

kxxk Sx

1

2

, ∑=

=N

kyk Sy

1 , ∑=

=N

kxykk Syx

1

とおけば,正規方程式は,パラメータ A0,A1を未知数とする2元1次連立方程式

010 =−− xy SANAS

010 =−− xxxxy SASAS

となる。(今の場合,解はただ一つだけ存在するため,正規方程式は S を最小とするた

めの十分条件でもある。)この方程式を解くと,

xxx

yxxxxy

NSSSSSS

A−

−= 20

xxx

xyyx

NSSNSSS

A−

−= 21

として,最小二乗条件を満足するパラメータの組み(A0, A1)が得られる。

実験手順

●使用する実験器具

二股試験管,50 ml 注射器(秤量済ビーカー付),500ml メスシリンダー,ゴム栓,

ゴム管,温度計,気圧計

●使用する試薬

マグネシウム(リボン状),3 mol dm-3塩酸註: 3 mol dm-3塩酸と書いたとき,dm3は一辺 1 dm (= 0.1m = 10 cm;デシメートル)の立方体の体積

を表している。この体積はほぼ 1 L と同じ値であるが,定義の違いによりわずかな差がある。詳

細は他書に譲るが,体積の単位としては 1 dm3は 1 L よりもより厳密な定義をしている。SI 単位

系にも準拠していることから,精密化学では 1 L ではなく 1 dm3を使用することが望ましい。

註: 濃度の単位として“規定度”(単位は N と書く)を使用することがある。これは 1 L あたりの当量

として定義され,たとえば,酸塩基反応で使用されるとき,1 N 塩酸は 1 mol dm-3と同じ濃度

をさしている。ただし,硫酸のような 2 塩基酸の場合,1 N 硫酸は 0.5 mol dm-3硫酸のことであ

る。これは,硫酸 1 モルから 2 モルの水素イオンを放出することができるためである。さらに硫

酸の場合,酸化還元反応で使用されたときは,反応により授受が行われる電子の数が異なるた

め,その都度濃度の定義が変わってしまうことになる(酸塩基反応と酸化還元反応とでは当量

の定義が異なる)。従って,このような定義に基づく濃度を使うこと自体が混乱の元になると

いうことで,使用しないことが推奨されている。

●実験操作

[水素ガスの発生]

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1.マグネシウムリボンの表面をサンドペーパーで軽くこすって表面の酸化物を取り

除き,はさみを用いてある程度切り刻む。

2.精密化学天秤を用いて,マグネシウムリボン約 25mg を精密に秤量する。註: “約 25mg を精密に秤量する”というのは,25mg ぐらいの量(たとえば 20-30mg)の質量を正

確に測定するという意味である。質量が 25mg の値に近くなるようにに努力するということでは

ない。

註: 試薬を精密に秤量する場合,通常は薬包紙などは用いない。薬包紙は,水分を吸って質量が変

化することもあるし,溶媒で表面を洗い流すことができないため,試薬をビーカーなどに完全

に移すことができないからである。このような場合,通常は,時計皿や秤量瓶を用いる。今回の

実験では,リボン状のマグネシウムを秤量するので,紙の表面に一部付着するなどの可能性は

低いことから,二股試験管に入れるまでの一時的な保存の目的に薬包紙を用いる。

2.量りとったマグネシウムを乾燥した二股試験管のくびれのついている側に入れる。

3.駒込ピペットで 3 mol dm-3塩酸 5 ml を取り,二股試験管のマグネシウムの入って

いない側に流し込む。ゴム管つきゴム栓を二股試験管に取り付け,ゴム管の他端を

空気を抜いた注射器につなぐ。このとき空気漏れがないことを確認する。

4.二股試験管をゆっくりと傾け,塩酸をゆっくりと少しずつマグネシウム側に注ぎ

込む。発生する気体によりピストンが移動するのを観察する。反応中,二股試験管

は温度が上がり過ぎないようにビーカーに入れた水の中につけておく。

5.マグネシウムが完全に溶解し,水素の発生が終了したことを確認してから,更に

しばらく二股試験管を水につけてまま放置し,全体の温度が室温まで下がるのを

待つ。

6.温度が充分に室温まで下がったことを確認した後,発生した気体の体積を読み取

り,ノートに記録する。注射器のゴム管をはずして穴の通じていないゴム栓に交換

する。このとき,ピストンを移動させないように注意すること。

[体積の圧力依存性の測定]

1.気温と大気圧をできるだけ精密に測定して記録する。少なくとも気温は 0.1 °C,大

気圧は 0.1 mmHg または 0.1 hPa の位まで読みとること。

2.注射器に設置したビーカーを実験台上に置き,注射器を横に向けた状態で,注射

器の目盛りを読む。これが気体発生終了直後に読んだ値と一致することを確認す

る。(一致しない場合は,発生した気体の物質量を補正する)

3.ピストンやビーカーをつるしている針金などにふれないよう注意しながら,注射

器外側部分を持って全体をゆっくりと持ち上げる。まずビーカーが実験台にふれ

ない程度に“正立”(ここでは注射器の先端が下向きの状態;以後“↓”と記す)

させて持ち上げ,注射器内の気体の体積を読みとってノートに記録する。いった

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ん実験台に下ろし,次に“倒立”(ここでは注射器の先端が上向きの状態;以後

“↑”と記す)させて少し持ち上げ,気体の体積を読み取って記録する。

5.次にビーカーに水を 500ml 入れ,正立させたときの体積と,倒立させたときの体

積をそれぞれ読み取る。つづいて水を 500 mL ずつ加えながらビーカー内の水の量

が 2 L となるまで同じ操作を繰り返す。

測定上の注意

i. 水の体積はメスシリンダーで測定し,水の密度を 0.998 g/cm3(20 ºC)として質量

を計算すること。

ii. 体積を測定するときは,ピストンを上下に少し動かしてみて,スムーズに動くこ

とを確認すること。

iii. 体積は最小目盛りの 10 分の 1 まで読み取ること。

●データ処理

1.圧力の算出

I. ピストンの外径を,ノギスを使用して測定する。得られた直径からピストンの断

面積 S を計算する。

II. ピストン,ビーカー,および吊下げ用針金を合わせた質量 M を測定し,その重

力 Mg(g = 9.797 m s-2;重力加速度)をピストンにかかる力とする。

III. 注射器内の気体の圧力は,

i. 注射器を正立させたときは,大気圧に Mg / S を加えたもの

ii. 注射器を倒立させたときは,大気圧から Mg / S を差し引いたもの

となる。算出時には圧力の単位に注意すること。

●グラフを描く

実験データをグラフ化する。次の 2 通りのグラフを作成すること。

1.圧力に対して体積を示したグラフ(V vs. p のグラフ)

2.圧力に対して体積の逆数を示したグラフ(V -1 vs. p のグラフ)

●比例定数の決定

比例定数を決定する。次の 2 通りを試みて,結果を比較せよ。

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I. 各データの圧力と体積の積を計算し,その平均値を計算する。

II. V -1 vs p のグラフでもっとも適切思われる直線(“目の子”と呼ばれる)

を引き,グラフからその傾きを読み取る。ただし,次の 2 通りのやり方を試

みること。

II-1. 必ず原点を通るものと仮定して直線を引く。

II-2. 必ずしも原点を通らなくてよいと仮定して直線を引く。

III. V -1 vs p のグラフの傾きを最小二乗法で決定した直線より求める。

以上の4通りで求めたパラメータを用いて,気体定数を求めよ。

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気体の体積の圧力変化を用いた気体定数の決定

実験用データ集計用ワークシート

データのまとめ

↑↓ Vwater / ml V / cm3 mwater / kg M / kg p / Pa V -1 / cm-3

(正立)

2000

1500

1000

500

0― 0

(倒立)0

500

1000

1500

2000

ピストンの外径:        ピストンの断面積:       

重力加速度 g:        

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気体の体積の圧力変化を用いた気体定数の決定

最小二乗法手計算用ワークシート

正規方程式の係数の算出

Data #

(k)水の体積とシ

リンジの向き

xk (=p) yk (=V-1) xk2 xk yk

1 2000 ml ↑

2 1500 ml ↑

3 1000 ml ↑

4 500 ml ↑

5 0 ml ↑

6 0 ml

7 0 ml ↓

8 500 ml ↓

9 1000 ml ↓

10 1500 ml ↓

11 2000 ml ↓

合計 Sx= Sy= Sxx= Sxy=

正規方程式の解

上で得られた係数を用いて正規方程式を解き,各自のデータに対して,最小二乗条件を

満たす直線を求めよ。また,その直線をグラフに描け。