126 J. Jpn. Soc. Clin. Cytol. 2006; 45 (2): 126-133.

特 集

分葉状頸管腺過形成(LEGH)と 悪性腺腫の

細胞学的 ・組織学的検討

端 晶彦1)弓 納持 勉2)村 田 晋一3)近 藤 哲夫3)

奈 良 政敏1)中 澤 久美子2)端 圭子1)大 森真 紀子1)

加藤 良平3)星 和彦1)

山梨大学医学部産婦人科1),同 付属病院病理部2),同 病態病理診断学3)

Key words: Lobular endocervical glandular hyperplasia (LEGH)-Minimal deviation adenocarcinoma

(MDA)-Intranuclear cytoplasmic inclusion (INCI)-Cytology

目的:分 葉状頸管腺過形成(Lobular endocervical glandular hyperplasia; LEGH)と 悪性腺腫(Minimal

deviation adenocarcinoma; MDA)の 細胞学的 ・組織学的検討を行い,術 前細胞診の意義を検討 した.

方法:LEGH11例,MDA2例 の13例 の術前細胞診標本および摘出病理標本 を用いて細胞学的 ・組織学的

に検討 した.

結果:細 胞質の黄色調粘液は,LEGHとMDAと の鑑別には有用ではないが,胃 型形質発現の病変を検出

するのには有用 と考える.LEGHの 細胞診では細胞集塊は平面的な出現形態を示 し,核 の重積性はな く,核

小体は目立たない.MDAで は細胞集塊は立体感があり,核 の重積性,核 小体の大型化が認められる.核 内

空胞(核 内細胞質封入体:Intranuclear cytoplasmiac inclusion(INCI))の 出現はLEGHに 特徴的な所見で

ある可能性がある.LEGHに 腺癌を合併する症例では,LEGH特 有の細胞に混 じって腺癌が示唆される細胞

が認められる場合がある.

結論:細 胞診検査はLEGHとMDAの 検出に有用であ り,ま た両者の鑑別にもきわめて重要である.

1.は じ め に

分 葉 状 頸 管 腺 過 形 成(Lobular endocervical glandular

hyperplasia;以 下LEGHと 略す)と 子宮 頸 部悪性 腺腫

(Minimal deviation adenocarcinoma;以 下MDAと 略す)

の鑑別 は臨床的 ・組織学的類似1～4)の ため術前診断が困

難な場合がある.し か しMDAは 癌であ り,LEGHと は厳

密な鑑別が要求される.LEGHとMDAの 細胞学的 ・組織

学的検討を行い,術 前細胞診の意義を検討 した.な お,

adenoma malignumと いう名称は誤解 を招 きやす く,最 近

はMDAと 表現 されることが多 くなっており5),わ れわれ

もMDAの 名称を使用すべ きと考えている.以 後の記述は

MDAで 統一 し,考 察のなかで名称 についても触れる.

II.対 象

平成10年9月 か ら平成16年2月 までに山梨大学医学部

産婦人科 にて手術を行った症例から,病 理組織 を再検討 し

Cytological and histological study on lobular endocervical glandu-

lar hyperplasia and minimal deviation adenocarcinoma of the uterine

cervix

Akihiko HASHI1), M.D., Tsutomu YUMINAMOCHI2), C.T., Shin-

Ichi MURATA3), M.D., Tetsuo KOND03), M.D., Masatoshi NARA1),

M.D., Kumiko NAKAZAWA2), M.D., Keiko HASHI1), M.D., Makiko

OMORI1), M.D., Ryohei KATOH3), M.D., Kazuhiko HOSHI1), M.D.1) Department of Obstetrics and Gynecology,2) Clinical Laborato-

ry, 3) Department of Patholog那 University of Yamanashi

論文 別刷請 求先 〒4093898山 梨県中 巨摩 郡玉穂 町下河東1110

山梨大学 医学部産婦 人科 端 晶彦

平成17年6月15日 受付

平成17年9月27日 受理

第45巻 第2号,20○6年 127

た.そ の結果LEGH 11例,MDA2例 の13例 を抽出した.

LEGHの 診断はNucciら の診断基準1,2)(Table1)に 従っ

た.MDAの 診断はWHOの 診断基準5)に 従った.小 さな

病変は,LEGHと せず幽門腺化生として今回の検討 より除

外 した.し たが って今回のLEGH症 例はいずれ も肉眼で

病変が認識できる症例である.

11例 のLEGHの うち,2例 でAISの 合併が認められた.

これ らの症例は病変部のほ とん どはLEGHと 診断で き,

LEGHに 接 して一部AISが 存在 し,組 織学的に移行が認め

られた.わ れわれはすでにLEGHよ り発生 した と思われ

る4例 の腺癌症例 を報告してお り6),詳 細については今回

省略する.

手術摘出病理組織 をHE染 色,alcian blue/periodic acid-

schiff(AB-PAs)二 重染色および胃幽門腺型ムチ ンの特

異糖鎖に対するモノクローナル抗体HIKlO83(M1GGMGI,

関東化学)の 免疫染色を行 った.

症例2を 除いて全例に術前にHIK 1083に ラテックスを標

Table 1 LEGH is defined as follows

(i) Lobular proliferation of small glands(ii) Abundant intracytoplasmic mucin of glandular epitheli-

um, which stained pale eosinophilic with hematoxylin andeosin (H & E)

(iii) Basally located round nuclei without anaplasia(iv) Absence of distinct evidence of destructive stromal inva-

sion

Nucci, M.R., et al. Am J Surg Pathol 1999 ; 23 : 886-891 .

Mikami, Y., et al. Histopathology 2001 ; 39 : 364-372

識 した液 と頸管粘液 を反応 させるHIKIO83ラ テックス凝

集反応(関 東化学)を 行った.

13例 全例 で術前 に子宮頸部,子 宮内膜細胞診 を行い,

頸部細胞はブラシで,内 膜細胞はエン ドサイ トで採取後,

直接塗抹 した標本をPapanicolaou染 色 した.細 胞診標本

を標本背景,出 現パターン,核 形および核縁 クロマチン

パ ターンと分布,核 小体の形状 ・数 ,細 胞質の性状などに

ついて再検討 した.

今回は手術された症例での検討であり,全 例子宮摘出術

が施行 されている.Nucciら がLEGHを 提唱したのが1999

年であ り,2000年 以前の症例では悪性 として手術 されて

いる症例 も多 く,今 回は詳 しい術式についての検討は行わ

ない.

III.成 績

13例 の症例の臨床データをTabel 2に 示す.年 齢は38歳

か ら76歳(平 均545歳)で あった.受 診 時 の主 訴 は,

LEGHで は水様性帯下が最 も多 く(8/11,72 .7%),不 正出

血1は1例(1/11,9%)の みであった.MDAで は2例 中1

例が不正出血を主訴 としていた.検 診で発見 された もの

が,LEGHで2例,MDAで1例 認められた.

LEGHお よびMDAの 病変はSCjunction付 近よ りも内

子宮口近 くに局在する傾向があった(Photo.1).

MDAの2例 はいずれ もstageIb1期(pTlb1NOMO)の

症例であった.11例 のLEGHの うち,2例 でAISの 合併が

Table 2 Clinical data on LEGH and MDA of the uterine cervix

LEGH : lobular endocervical glandular hyperplasia, MDA : minimal deviation adenocarcinoma,

AIS : adenocarcinoma in situ, Watery : increased watery discharge , Bleeding : abnormal vaginal bleeding,Period : follow-up

Notes

1. Patients showed no evidence of recurrent disease .2. Patients underwent hysterectomy .

128 日本臨床細胞学会雑誌

認 め られ た.

症 例2を 除 い て 術 前 に 行 ったHIK1083ラ テ ッ クス 凝 集 反

応 は,施 行 例 全 例 で 陽 性 で あ っ た.

組 織 学 的 所 見:Table3にAB-PAS染 色 お よ びHIK1083

免 疫 染 色 の 結 果 を 示 す.AB-PAS染 色 に お い てLEGHで は

全 例PAS優 勢 に 染 色 され た,MDAで は 青 赤 混 在 と な っ

た.一 方,正 常 頸 管 腺 は酸 【生ム チ ンに よ り青 色 に染 色 され

た.HIKIO83免 疫 染 色 で は,LEGHで は程 度 の 差 は あ る が

全 例HIK1083免 疫 染 色 陽 性 で あ っ た.MDAで は腫 瘍 の ご

く一 部 にHIK1083陽 性 細 胞 が 認 め られ た.

細 胞 診 所 見:細 胞 診 所 見(Papanicolaou染 色)をTable

4に 示 す.症 例2,3,5で は 明 らか な異 常 細 胞 は 認 め られ

Photo. 1 Macroscopic findings of the uterusLEGH (circle) is frequently located in internal re-

gions away from the transformation zone (arrow).

なか っ た.こ の3例 を除 く10例(LEGH8例,MDA2例)

を検 討 した.特 徴 的 な 細 胞 所 見 は,1)黄 色 調 も し くは 黄

色 調 か らオ レ ン ジ調 の 細 胞 質 所 見,2)細 胞 集 塊 の 出 現 パ

ター ンが 平 面 的 か 立 体 的 集 塊 か ど うか と核 小 体 所 見,3)

核 内 空 胞(核 内細 胞 質 封 入体)の 出現 パ ター ンの3つ が 特

に 重 要 な所 見 と考 え られ た.こ の3つ の 特 徴 的所 見 につ い

て 記 述 す る 。

LEGHで は8例 に 豊 富 な 細 胞 質 に 黄 色 調 粘 液 を 認 め た

(8/11,72れ3%).一 方,正 常 子 宮 頸 管 上 皮 の 細 胞 質 は ピ ン

ク調 を 呈 し て い た(Photo.2-1).MDAで は黄 色 調 か らオ

レ ン ジ 調 の 豊 富 な 細 胞 質 粘 液 を 認 め た(2/2,100%)

(Photoれ2-2).黄 色 調 の 細 胞 質 を認 め たLEGH細 胞 をAB-

PAS二 重 染 色 して み る と,PAS陽 性 に細 胞 質 が 染 色 され

た(Photo.3).細 胞 質 所 見 は,LEGH・MDAと もに 正 常

頸 管 腺 細 胞 質 の ピ ン ク と は異 な る黄 色 調 あ るい は黄 色 調 か

らオ レ ン ジ調 の色 調 を有 す る 豊 富 な粘 液 を もつ 細 胞 集 団 を

認 め た.

細 胞 構築 で は,LEGHで は 黄 色 調 の細 胞 質 を有 す る細 胞

集 団 は 平 面 的 配 列 を して お り,構 成 す る 細 胞 核 は 正 常 の頸

管 腺 細 胞 核 とほ とん ど 同様 で あ っ た 。核 は偏 在 して お り核

異 型 は ほ とん ど認 め な か っ た.細 胞 の 異 常 重 積 も認 め られ

な か っ た(Photo.4).LEGHにAISを 合 併 した 症 例11で

は,黄 色 調 の 細 胞 質 を も ち,平 面 的 配 列 を示 したLEGH

出 来 細 胞 を 認 め た が(Photo.5-1*),注 意 深 く細 胞 診 を観

察 す る と平 面 的 配 列 を示 したLEGH由 来 細 胞(Photoれ5-2,

a)に 連 続 し て腺 癌 由 来 が 疑 わ れ る腺 型 異 型 細 胞 が 認 め ら

れ た(Photo.5-1,矢 印).腺 癌 細 胞 部 分 は 細 胞 の 重 積 性 が

Table 3 Results of histochemistry and immunohistochemistry cases of

LEGH and MDA

Expression of HIK 1083 positive : 0% (negative) is-, 5% z is +,5～50%is++,50%≦is+++

第45巻 第2号,2006年 129

Table 4 Cytological findings in LEGH and MDA

Yellow pattern: Cytoplasm contained abundant mucin ; these characteristically stained yellow or yellowish-orange or with Papanicolaou

stain, *: Yellow mucin was observed in endometrial smear

AC cell: Adenocarcinoma cell

Plane: plane structure, 3-dimensional: three-dimensional structure

INCI: Intranuclear cytoplasmic inclusion

Photo. 4 Cytological findings of LEGHCells form tight monolayered sheets with a distinct

honeycomb appearance on end view (Pap. stain X100).

認 め ら れ,ク ロマ チ ン増 量,核 小 体 の 顕性 化 が 認 め られ た

(Photo.5-2b).一 方,MDAで は,核 は わ ず か に腫 大 す る

も大 小 不 同 は 軽 度 で あ り,核 縁 の 肥 厚 も認 め ない.ク ロマ

チ ンの 増 量 も軽 度 で あ るが,核 小 体 は 目立 つ.そ して 特 徴

的 に は核 の重 積 が 認 め られ る.フ ォー カ ス をず らす とそ の

重 積 性 ・立体 構 造 が よ くわか る(Photo.6).

核 内 空 胞(核 内細 胞 質 封 入 体)は,LEGHl1例 中7例 の

細 胞 診 標 本 で 認 め られ た(7/ll,63.6%).細 胞 診 標 本 で 認

Photo. 5-1 Cytological findings of LEGH + AISThe majority of cellular clusters look similar to

pure LEGH (*). Careful cytological assessmentshowed that endocervical AC cells (arrow) coex-ist with LEGH cells (Pap. stain X 40).

め ら れ る核 内 空 胞 は,比 較 的容 易 に発 見 で き誰 の 目に も明

ら か な核 内 空 胞 の み を 陽 性 と した(Photoれ7).鏡 検 上,

核 内 空 胞 か ど う か は っ き り し な い よ う な 例 は 除 外 し て い

る.核 内 空 胞 を認 め た 細 胞 診 標 本 をAB-PAS二 重 染 色 す

る と,核 内 空 胞 はPAS優 勢 に 染 色 され 細 胞 質 封 入 体 で あ

る こ と が わ か る(Photo.8).組 織 標 本 で の 検 討 で も,

LEGH11例 中9例(9/11,81れ8%)の 標 本 で 多 数 の 核 内 空

胞 が 認 め られ た(Photo.9).LEGHに 合 併 したAIS部 分 で

130 日本臨床細胞学会雑誌

a bPhoto. 5-2 Cytological findings of LEGH + AIS

a: Cytological findings of LEGH compartment

(Pap. stain X 100). b : Cytological findings of AIScompartment in adenocarcinoma cells, there is hy-

perchromasia, clearing of the chromatin, and lossof polarity. Macronucleoli are often presented.

The nuclear to cytoplasmic ratio increases com-

pared to adjacent LEGH cells (Pap. stain x 100).

Photo. 7 Cytology showing intranuclear cytoplasmic inclu-sion (INCI) in LEGH

Obvious INCIs are found in cytology of LEGH (ar-row) (Pap. stain x 100).

Table 5 Results of INCI cytology and histology of cervical

lesions

INCI: intranuclear cytoplasmic inclusion

LEGH: lobular endocervical glandular hyperplasia

MDA: minimal deviation adenocarcinoma

Photo. 6 Cy )logical findings of MDA

Cytology showing cluster cells form a three-dimen-sional structure in MDA. Cytology shows nuclei

are also slightly enlarged with uniform size (inset)

(Pap. stain X 40, X 100).

a b

Photo. 9 Intranuclear ytoplasmic inclusion UNCI) inLEGH

a: Tissue sections showing intranuclear cytoplas-mic inclusion (INCI) (arrow) (HE stain X 40).

b: Histology of LEGH (HE stain x 10).

は核 内 空 胞 は認 め な か っ た.一 方,MDAで は細 胞 診 標 本,

組 織 標 本-上 に 明 らか な 核 内 空 胞 は 認 め な か っ た(Table

5).

IV.考 察

子 宮 頸 部 悪 性 腺 腫(adenomamalignum)と い う 言 葉 は

1870年 にGusserowが 使 い7),約1世 紀 後 の!970年 代 こ ろ

か ら はMDAやextremelywelldifferentiatedformofendo一

cervicaladenocarcinomaと い う 名 称 が 使 わ れ る よ う に

な っ て き た8).元 来 悪 性 腺 腫 と い う 名 称 は 誤 解 を 招 き や す

第45巻 第2号,2006年131

Photo. 2-1 Cytological findings showing two color patternsWith Papanicolaou staining, cytoplasm appearsyellowish in LEGH cells (=>). In contrast, cyto-plasm of normal endocervical cells stains pinkish(mo) (Pap. stain <40).

Photo. 2-2 Cytological findings of MDAWith Papanicolaou staining, the cytoplasm stain-ing of yellowish-orange is observed in MDA cells(Pap. stain x 40).

Photo. 3 Cytological and histological finding of LEGH

LEGH Cytology, Pap. stain, AB-PAS stain (x 40) . LEGH histology, AB-PASstain, Immunohistochemical staining of HIK1083 (x 20) .

a b

Photo. 8 Cytological findings of LEGHa: AB-PAS stain, b : Pap. stainCytology showing intranuclear cytoplasmic inclu-sion (INCI) (arrow). a : Intranuclear cytoplas-mic inclusion (INCI) showing PAS positive .b: Cytology showing intranuclear cytoplasmic in-clusion (INCI) (Pap. stain x 100).

132日本臨床細胞学会雑誌

い言葉 であるが,日 本で はまだよく使われている.2003

年度版のWHOの 子宮頸部組織分類 によるとadenoma ma-

lignumと いう表現は使用されずに,mucinous adenocarci(

nomaの なかのminimaideviationと 表現されている.わ れ

われ も最近は悪性腺腫 とい う名称は用いずにminimai de-

viation adenocarcinoma(MDA)と い う名称 を使用 して

お り,こ の言葉が日本で も定着すると考 えている.今 回は

「悪性腺腫の細胞診」が シンポジウムタイ トルであったた

め,あ えて子宮頸部悪性腺腫を表題に入れた.

今回のLEGHとMDAの 組織染色所見は,す でに報告 さ

れている論文と一致 する9～11).

Table3に 示す ように,AB-PAS染 色 においてLEGHで

は全例PAS優 勢 に染色 された.こ れはLEGHに 由来する

中性ムチ ンによるもの と考えられる.MDAで は青赤混在

となる.こ れはMDAの シアロムチン優位を反映している

と考 えられる.正 常頸管腺は酸性ムチンにより青色 に染色

された.HIK1083免 疫染色では,LEGHで は程度の差はあ

るが全例HIK1083免 疫染色陽性であった.MDAで は腫瘍

のごく一部に陽性が認められ,LEGHと の染色に差がある

と考えられる.

また,LEGHお よびMDAの 細胞診像 については,い く

つ か の報告 が あ る12～16).今 回の13例 で の検討 で は,

LEGHとMDAの 特徴的な細胞所見 として,1)黄 色調 も

しくは黄色調か らオレンジ調の細胞質所見,2)細 胞集塊

の出現パ ター ンと核小体所見,3)核 内空胞(核 内細胞質

封入体)の 出現パ ター ンの3つ が特に重要な所見 と考 えら

れた.特 に3)核 内空胞(核 内細胞質封入体)に ついては

これまで検討 されていない.

Papanicolaou染 色細胞診では,LEGH・MDAと もに正

常頸管腺細胞質のピンクとは異なる色調を有する豊富な粘

液をもつ細胞集団を認めた(こ れは以前 よりtwo-colorパ

ターンとよばれている17)).MDAの 細胞の細胞質は必ず

しも黄色ではない.MDAの 組織切片でHIK1083陽 性細胞

は少数であ り,AB-PAS染 色 において青赤混在であったこ

とから,細 胞診でみ られた黄色調からオレンジ調の細胞質

はシアロムチンを反映した所見 と考えられる.細 胞質の黄

色調 は胃型の形質発現 を反映 しているもの と推定 され,

MDAとLEGHの 鑑別には必ずしも有用でない と考えられ

る.し かし胃型病変のスクリーニ ングとして有用 と考えら

れる.

細胞集塊の出現パ ターンは,LEGHで は平面的な出現形

態 を示 した.核 の重積性 はな く,核 小体 は目立たない.

MDAで は,細 胞集塊は立体感があり,核 の重積性,核 小

体の大型化が認められた.細 胞の重積および大型核小体が

認められた場合,ク ロマチンの増量が少なく細胞異型が軽

度であってもMDAの 可能性が示唆される と思われた.

LEGHとMDAと の鑑別点に,細 胞の重積お よび大型核小

体が重要な所見 となると思われた.

核 内空胞(核 内細胞 質封入体)は,今 回 の検 討 では

LEGHの みに高頻度で観察 され,MDAで は認めらなかっ

た.わ れわれは核内空胞(核 内細胞質封入体)の 出現 は

LEGHに 特徴的な所見である可能性があると考えている.

今回の核内空胞は,比 較的容易に発見でき誰の目にも明 ら

かな核内空胞のみを陽性 としたことを改めて強調する.し

たがって黄色調に染色 される細胞集塊が平面的に出現 して

おり,さ らにその細胞集塊中に容易に核内空胞(核 内細胞

質封入体)が 認められれば,LEGHで ある可能性が高いと

考えられる.

注意点 としては,LEGHに 腺癌を合併する症例が存在す

ることである.わ れわれはすでに4例 のLEGHに 腺癌を合

併 した症例を報告 した6).LEGHに どの くらいの率で腺癌

が合併するかは不明であるが,一 部のLEGHがprecancer-

0uslesionで ある可能性18)は ある.LEGHに 腺癌を合併す

る症例ではLEGH特 有の細胞に混 じって腺癌が示唆 され

る異型細胞が認め られることがある.し たがって上記のよ

うなLEGHを 示唆する細胞出現パ ター ンであっても,良

性 と断定せずにLEGHに 混 じって存在する腺癌細胞の存

在に注意が必要 と思われる.

またLEGH症 例中,症 例2,3,5で は明らかな異常細胞

は認め られなかったが,こ れらの症例ではいずれ もやや細

胞成分が少なかった.こ れらの症例は水様性帯下を主訴に

してお り,細 胞採取後,直 接塗抹 した標本上より水様性浸

出液のため細胞が流れ落ちた可能性 もある.し かしこれら

の症例 はいずれも病変が内子宮 口よりに存在 し,SCjunc-

tion付 近 よりも内子宮口近 くに局在する傾向があった.そ

のため通常の細胞診では病変部から採取できなかった可能

性 もある.水 様性帯下がありMDAやLEGHが 疑われる症

例では,細 胞診における採取部位にも留意すべ きと思われ

た.

V.結 語

細胞質の黄色調粘液は,LEGHとMDAの 鑑別には有用

ではないが,胃 型形質発現の病変を検出するのには有用 と

考えられる.LEGHの 細胞診では細胞集塊は平面的な出現

形態を示 し,核 の重積性 はな く,核 小体 は目立たない.

MDAで は細胞集塊 は立体感があ り,核 の重積性,核 小体

の大型化が認められる.核 内空胞(核 内細胞質封入体)の

出現 はLEGHに 特徴的な所見である可能性がある.LEGH

に腺癌を合併する症例では,LEGH特 有の細胞に混 じって

第45巻 第2号,2006年 133

腺癌と推定できる異型細胞が認められる場合がある.

Abstract

Objective: We studied the cytological features of LEGH and

MDA.

Study Design: We retrieved 13 cases of 11 LEGH and 2 MDA

cases of the uterine cervix. There were 26 cytologic smears from 13

patients available for this study. Cytological features were carefully

observed under light microscopy.

Results: Abundant yellow mucin is frequently found in LEGH

and MDA. 1) INCI (intranuclear cytoplasmic inclusion) was ob-

served at 63.6% (7/11) in LEGH and it was not found in any MDA.2) Neither cell atypia nor architectural distortion was observed in

LEGH; 3) In MDA, 3-dimensional irregular cell clustering and

prominent nucleoli were seen.

Conclusion: 1) INC' is a good parameter in diagnosing LEGH;

2) Cytological examination is a potent aid to differentiating LEGH

from MDA.

文 献

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