11
160 LNG冷 熱の石油化学への応用 ―昭 和46年2月9日 演― 日本 揮 発 油 株 式 会 社 1. は じめ に エネルギー資源 としての天然ガスの価値は,近年急 速 に 増 大 して い る。 日本 に お い て は,LNG(液化 天 然 ガ ス)と して輸 入 す る天 然 ガ ス が,大 気 汚 染,水 汚 染 の 全 くな い公 害 に 関 して理 想 的 な エ ネル ギ ー資 源 と し て 取 り上 げ られつ つ あ る 。 エネルギー資源 として輸入するLNGは 最終的には ガス 状 で 燃料 と して 消費 され る 。 通 常 の場 合 はLNG の 大部 分 が受 入 基 地 で気 化 され,パ イ プ ライ ン に よっ て 需 要家 ま で送 られ る 。液 状 で取 り扱 わ れ る も のは, パイプライ ンの完成 していない需要家に供給する場合 だけであろう。 気 化 装 置 と して一 般 に考 え られ て い る もの は,海 水 を熱 源 とす る も の,天 然 ガス を燃 焼 させ て熱 源 とす る も の な ど種 々 の方 式 が あ るが,い ず れ に して も費 用 を か け て蒸 発 させ る もの で あ り,そ の費 用 は,輸 入 天 然 ガス の価 格 の2~3%に も達 して い る。天 然 ガ ス は, 液 化 基 地 で 莫 大 な 動 力 を消 費 して液 化 され た も の で あ る の で,こ の きわ め て価 値 の あ るLNGの 冷 熱 は,捨 図1 て去るものでなく,積 極的に 利用 すべきものであろ う。 冷 熱 の利 用 方 法 と して は,種 々 の もの が考 え られ て い る。 た とえ ば海 水 淡 水 化 プ ラ ン ト,ア ンモ ニ ア合 成 プ ラ ン ト,液酸 液 窒製 造 プ ラ ン ト,石 油化 学 な どへ の 利用 が あ る。実 際 に行 な われ て い る も の は,東 京 瓦 斯 根岸工場のLNGを 利用 している液酸液窒製造プラン トで あ る 。 そ の 他,LNG中 の重 質 分 を分 離 す るの に 自身 の冷 熱 を利 用 して い るイ タ リア のLaSpezia基 などがある。ここでは石油化学に利用したものについ て考えてみよう。 2. 冷 熱 の価 値 冷 熱 は 通 常 コ ン プ レ ッサ ー を使 用 して発 生 させ る 。 熱 の 除 去 は 冷 却水 を 使 用 す る の で,水 温 は20~30℃ で あ る。 した が つ て,冷 熱 の価 値 は コ ンプ レ ッサ ー の 消費 動力 で表 わ す こ とが で き る 。使 用 冷 媒 や コ ン プ レ ッサ ー の効 率 で多 少 の差 が あ るが,温 度 と消 費 動 力 の 関係 を図1の よ うに 図示 す る こ とが で き る 。 この 図 で 明 らか な よ うに冷 熱 の 価 値 は 温 度 が 低 い と急激 に 増加 す る こ とが わ か る。 LNGの 温 度 は 最 低-162℃ で あ り,気 化 圧 力 に よつ て 利 用 で き る冷熱 の 量 と温 度 は異 なつ て くる 。 ま た 極 低 温 でLNGの 温 度 以 下 の 冷熱 が 必 要 な とき で も,LNGを 冷 却 源 と して 冷凍 コ ンプ レ ッサ ー を使 用 す れ ば,消 費 動力 は き わ め て少 な くてす む 。 しか し, -162℃ま た は それ 以 下 の よ うな極 低 温 の冷 熱 を大 量 に必要 とす る石 油化学 プ ロセス は少 ない 。図1で も明 らか な よ うに,-100℃以 下 に な る と冷 熱 を発 生 させ る に必 要 な動 力 は急 激 に増 加 す るの で,こ の よ うな 温 度で操作するプロセスが成立しなかつたのであろう。 3. LNGの 冷熱 LNGの 利 用 で き る冷熱 の 温度 と量 の 関係 は,LNG の気 化 圧 力 に 影 響 され るこ とは前 で も触 れ た が そ の実 際 は図2の よ うである。LNGを純 メタ ンと仮定 し,メ タ ンのPressure-enthalpy diagramを わかりやすいよ うに 書 き直 した もの で あ る 。圧 力 は常 圧,10kg/cm2g, 70kg/cm2gの3者 を選 ん だ 。70kg/cm2gはCritical

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160

LNG冷 熱の石油化学への応用

―昭 和46年2月9日 特 別 講 演―

日本 揮 発 油 株 式 会 社 星 協 一

1.  は じ め に

エネルギー資源 としての天然 ガスの価値 は,近 年急

速に増大 してい る。 日本 においては,LNG(液 化天然

ガス)と して輸入 する天然 ガスが,大 気汚染,水 汚染

の全 くない公 害に関 して理想 的なエネル ギー資源 とし

て取 り上げ られつつ ある。

エネルギー資源 として輸入 するLNGは 最終的 には

ガス状で燃料 として消費 される。 通常 の場合 はLNG

の大部分 が受入基地 で気化 され,パ イ プライ ンによっ

て需要家 まで送 られ る。液状 で取 り扱われ るものは,

パ イプライ ンの完成 していない需要家に供給す る場合

だけであろう。

気化装置 として一般 に考 えられてい るものは,海 水

を熱源 とす るもの,天 然 ガス を燃焼 させて熱源 とする

ものな ど種々 の方式があ るが,い ずれに して も費用 を

かけて蒸発 させ るものであ り,そ の費用 は,輸 入天然

ガス の価格の2~3%に も達 してい る。天然 ガスは,

液化基地で莫大な動力 を消費 して液化 され たものであ

るので,こ の きわめて価値 のあるLNGの 冷熱 は,捨

図1  冷 熱 の 利 用

て 去 るもの でな く,積 極的に 利用 すべ きものであろ

う。

冷熱 の利用方法 としては,種 々の ものが考 え られ て

い る。た とえば海水淡水化 プラン ト,ア ンモニア合成

プ ラン ト,液 酸 液窒製造 プ ラン ト,石 油化学 な どへ の

利用 があ る。実 際に行 なわれ ているものは,東 京瓦斯

根岸工場のLNGを 利用 している液酸液窒製造 プラン

トである。 その他,LNG中 の重質分 を分離す るのに

自身 の冷熱 を利用 しているイ タ リアのLa Spezia基 地

な どがある。ここでは石油化学 に利用 した ものについ

て考えてみ よう。

2. 冷 熱の価値

冷熱は通常 コンプレッサー を使用 して発生 させ る。

熱 の除去は冷却水 を使用 するので,水 温 は20~30℃

であ る。 したがつて,冷 熱 の価値 は コンプ レッサー の

消費 動力 で表 わすこ とができる。使用冷媒や コンプ レ

ッサーの効率 で多少 の差 があるが,温 度 と消費動力の

関係 を図1の よ うに図示す るこ とが できる。この図で

明 らかなよ うに冷熱の価値は温度が低い と急激 に増加

す ることがわか る。

LNGの 温度 は 最低-162℃ で あ り,気 化圧力 に

よつて利用で きる冷熱 の量 と温度 は異 なつ て くる。ま

た 極低温でLNGの 温度以下の冷熱 が 必要 な ときで

も,LNGを 冷却源 として 冷凍 コンプ レッサー を使用

すれば,消 費 動力 はきわめて少 な くてす む。 しかし,

-162℃ またはそれ 以下のよ うな極低温 の冷熱 を大量

に必要 とす る石 油化学 プ ロセス は少 ない 。図1で も明

らかなよ うに,-100℃ 以下 になると冷熱 を発生 させ

るに必要 な動力 は急激 に増加す るので,こ の ような温

度 で操作 するプ ロセスが成立 しなかつたのであろ う。

3. LNGの 冷熱

LNGの 利用で きる冷熱 の温度 と量 の関係 は,LNG

の気化圧力に影響 され るこ とは前 で も触 れたがその実

際 は図2の よ うである。LNGを 純 メタ ンと仮定 し,メ

タンのPressure-enthalpy diagramを わか りやすい よ

うに書 き直 した ものである。圧力 は常圧,10kg/cm2g,

70kg/cm2gの3者 を選 んだ。70kg/cm2gはCritical

Page 2: LNG冷 熱の石油化学への応用 - J-STAGE Home

― 「燃 料 協会 誌」 第50巻 第527号(1971)― 161

図2 LNG(メ タ ン)の 冷 熱

表1 LNGの 冷 熱 の 価 値

気 化 後 の圧 力 を10kg/cm2gと す る。

気化 量 を10,000kg/hrと す る。

pressure以 上 であるので 蒸発 を示す 温度一定 の区域

がない。

冷熱の発生に必要 とす る冷凍機 の コンプ レッサーの

動力 よ り気化 したメタ ンを圧縮 す る動力 の方 が少 ない

ので,低 い温度の冷熱 を必要 とす るな らば,必 要 温度

の圧力で蒸発 させ,気 化 したガス を圧縮 す ることがよ

い。 これ を数 字で示 した ものが 表1で ある。LNGを

気化 させて10kg/cm2gの ガス を必要 とす る場 合に,

常圧 で 蒸発 させ コンプレッサーで 圧縮す る価値 と,

10kg/cm2gま で液体で加圧 し蒸 発 させ る冷熱 の価値 を

比較 した 。 冷熱の価値は,図1に よつて 動力 で 表 わ

し,こ れ よ りコンプ レッサーの動力またはポ ンプの動

力 を減 じてLNGの 冷熱の評価 を示 した。 ここで示 し

た冷熱 は,蒸 発温度 までの冷熱であ る。すなわち常圧

の場合 は-162℃ の蒸発潜熱 であ り1okg/cm2gの 場

合 は-162℃ か ら-122℃ までの液の 顕熱 と-122℃

の蒸発潜熱 を加 えたものである。後者の場合の冷熱 の

評価 は-122℃ の動力 で行 なつ てある。

4.  石油化学へ の応用

4-1 LNG冷 熱利用 の実際

LNGの 大量輸送 はまだ始 まつたばか りで,LNGの

冷熱 を利用 した石 油化学 プ ロセス を本格的 に採用す る

時期 ではないよ うである。実際 に採用 され ている冷熱

の利用 は,LNGに 含 まれ ている 重質分 を蒸留 で分離

するプ ロセスにLNG自 身 の冷熱 を使用 しているもの

である。スペイ ンのBarcelona基 地,イ タ リアのLa

Spezia基 地 で リビヤか ら輸入 したLNGよ り重質分

を分離す るのに使 用 されている。 リビヤのLNGの 組

成 は表2に 示 すよ うに,か な り重質分 を 含 んでい る

LNGで あ る。

重 質分 を分離 する主 な 目的は,気 化後 の天然 ガスの

発熱 量 を一定にするためである。イ タ リアでは,全 国

的なパイプ ライ ン網に送 り込 まれ るので,他 の天然 ガ

ス と発熱 量 を一致 させ る必要 がある。イ タ リアでは分

Page 3: LNG冷 熱の石油化学への応用 - J-STAGE Home

162 LPG冷 熱の石油化学への応用(星)

表2  リビヤのLNG組 成 離 した重質物 は リフォー ミングで低発熱量のガスに し

て希釈す るのに用い られ る。

一例 として イ タ リヤのLa Spezia基 地に おけ る重

質分分離 のフロー ダイ ヤグラムを図3に 示す。 この フ

ローはLNG-2の 報文1)そ の他 で発表 されてい るもの

である。LNG Tankよ りポ ンプで 圧送 されたLNG

は熱交換 によ り加熱 されてFlash drumに 入 り主 と

してメタンを分離,つ ぎにDeethanizerで エタ ンを分

図3 La Spezia LNG基 地 フ ロ ー ダ イ ヤ グ ラ ム

離 す る。メタ ンおよびエタ ンのコ ンデンサー の冷源 と

して,送 入 され るLNGの 冷熱 が利用 されてい る。 こ

のプ ロセスの冷熱 の利用 には二つ の目的があ る。一つ

はDeethanizerに 対す る還流に使用す るコンデ ンサー

の冷源であ り,も う一つは,パ イプライ ンの圧力が55

~70kg/cm2gで あるので,メ タンお よびエタ ンをガス

で圧縮 するよ り,液 状 で昇圧 させ るた めの全凝縮用の

冷源 である。塔頂 で部分凝縮 させて残つたガス をコン

プ レッサーで圧縮 するよ り,全 凝縮 の液体 をポ ンプで

昇圧 させた後 に再 び気化 させ るほ うが,動 力の面か ら

も,建 設費 の面 か らも有利 だか らである。ただ しこの

方法 は冷熱 の有効利用 の面か ら見 ると3項 で説明 した

よ うに,有 利 な方法 ではないが,そ の他に冷熱 を利用

する ところが ないLa Spezia基 地 では よい方法であ

ろ う。

その他 にこのプラン トでは,Pump around system

と称 してDeethanizerの 塔底液す なわ ちプロパ ンを主

成分 とす る 熱媒体 を 循環 させて 熱回収 を 行なつてい

る。55~70kg/cm2gのLNGの 気化の 冷熱 を リフォ

ーム ドガス の冷却,脱 炭酸後の冷却に使用 してい る。

4-2  文献 な どに見 られ る石油化学への応用

(1) LNG-12)でAir productが,重 質分 を含 む

LNGを 原料 にす るエチ レン 製造について提案 してい

る。表3に 示 され るようなアルジ ェリアのLNGよ り

表3  アル ジェリアのLNG組 成

エタ ンを分離 してエチ レンの原料 としてい る。エタ ン

はエチ レンの原料 としては最適な ものである。ナフサ

分解 によるエチ レン製造はエチ レンの収率 が30%程 度

であるのに対 して,エ タ ン分解 によ るものは,エ タ ン

の リサイ クル を行なつて80%以 上の収率が得 られ る。

報文 では,エ タン分解に よるエチ レンの高 収率 を強調

してい るが,ナ フサ分解に よる製 品は,日 本 ではエチ

レン以外 も重 要な ものであ るので簡 単には比較 できな

い 。しか し目的に よつてはエタ ンは原料 として有利 な

ものである。エタ ンを原料 とす るエチ レン装置 は,ナ

フサ分解の ものに比較 す ると装置 は小型 で簡単 なもの

にな るのであ る。

報文では,エ チ レン製造 の原料 としての重質分 を分

離す るフローダイヤグラム として図4を 示 している。

分離についての考え方 は,分 離 は一定流量 で処理 し,

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― 「燃 料 協 会 誌 」 第50巻 第527号(1971)― 163

図4 LNGプ ラン トよ りエタンおよび重質分 の回収

軽 質分 は最 小 の要 求 量 の み ガ ス状 で送 り出 し,大 部 分

は 液 化 して貯 蔵 し,Peak loadに 対 応 させ る よ うに し

て い る 。

Demethanizerで メ タ ン を 蒸 留 で分 離 し,塔 頂 よ り

の メ タ ン は コ ンプ レ ッサ ー で圧 縮 した後,原 料 のLNG

の冷 熱 に よつ て 凝 縮,タ ンク に貯 蔵 され る 。

アル ジ ェ リア のLNGで は,2.85×106Nm3/日

(800,000t/年)の 原 料 よ り,85,000t/年 の エ チ レ ンが

得 られ る 。 こ の文 献 で,エ チ レ ン装 置 で必 要 な 冷熱 は

全 部LNGの 冷 熱 で まか な う よ うに して エ チ レ ンの価

格 を試 算 して い る 。ナ フサ 分 解450,000t/年 の エ チ レ

ン25.17£/t(25.4¥/kg)に 対 してLNGよ りの エ

タ ン を使 用 し,LNGの 冷 熱 を 利 用 した もの に つ い て

16.85£/t~20.12£/t(17.0¥/kg~20.3¥/kg)と し

てい る。LNG利 用の価 格に範 囲があるのは,分 離 し

た プロパ ン,ブ タ ンをそれぞれの価格 で評価 した場合

が安価 な場合で,燃 料で評価 すればエタ ンの価格 があ

が り,エ チ レンも高価 にな るのである。

(2) 特許 に見 られ るLNGの 冷熱 の利用

LNGは 新 しい分野 であるので,そ の冷熱の利用の

方法 も特許 で公示 され るもの もあ る。

(a) 低圧下 の液状天然 ガスか ら高圧下の メタンに富

むガスの製造法 とい う名称 でAir liquidよ り出 され

た特許3)が あ る。 重質分 を含 むLNGよ り重質分 を除

き高圧 のメタ ンガスを作 るプロセス である。 目的 とし

ては,前 に述 べたLa Spezia基 地 で 行なわれてい る

プ ロセスおよびLNG-1の 文献 で見 られ るもの と同 じ

ものであ る。 図5(A)が 特許 に 記載 され たフローダ

(A) (B)

図5  低圧下のLNGか ら高圧下の メタンに富む ガスの製造法

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164 LNG冷 熱の石油化学 への応用(星)

イ ヤ グ ラ ムで あ る。13.8atmの フ ラ ッシ ュ ドラ ム と,

24.3atmのDemethanizerを 持 つ て い る 。 フ ラ ッシ ュ

ドラ ムで 分 離 した メ タ ンは,LNGの 顕熱 の冷 熱 に よ

つ て 凝 縮 す る。 凝 縮 メ タ ン はポ ンプ で75atmま で昇 圧

され る。 フ ラ ッシ ュ ドラ ム に残 つ た液 は ポ ン プ で昇 圧

Demethanizerで 蒸 留 され る。Demethanizerよ りの

メタ ンは,13.8atmのLNGの 潜 熱 に よつ て凝 縮 す

る。13.8atmで 一 部 蒸 発 したLNGは フ ラ ッ シ ュ ド

ラ ム に送 られ,一 方 の 凝 縮 メタ ンは ポ ンプ。で75atmま

で昇 圧,フ ラ ッシ ュ ドラ ム で分 離 液 化 され た メ タ ン と

合流,適 当 な熱 源 に よつ て気 化 され て 高 圧 メ タ ン と な

る 。

フ ラ ッシ ュ ドラ ム の 圧 力 と 蒸 留塔 の 操 作 圧 を 変 え

て,蒸 留 塔 の蒸 気 は フ ラ ッ シ ュ ドラ ム送 入LNGの 蒸

発 の 潜熱 で凝 縮 させ て い る 。一 方 フ ラ ッ シ ュ ドラ ム よ

りの蒸 気 は送 入LNGの 顕 熱 で凝 縮 させ て い る 。LNG

の温 度 が常 圧 の沸 点 で供 給 され る こ と を利 用 した もの

で あ る 。特 許 で は 表4の よ うな 原 料,製 品 の 場 合,

表4 LNGよ り高圧メタンガスの製造法

LNGの 送 入 量 が302,376l/hr(÷100万t/年)の 時

に 図5(B)の 通 常 の方 法,す な わ ちDemethanizer

よ りの蒸 気 を コ ン プ レッサ ー を使 用 して 圧 縮 した 場 合

の動 力 と比 較 して い る 。 これ に よ る と コ ン プ レ ッサ ー

を使 用 す る と約1,700~1,800kW動 力 が 増 加 す る。

(b) 同 じ く特 許 にLNGの 冷 熱 を石 油 精 製 のテ ー ル

ガ ス の分 離 に使 用 した プ ロ セス が あ る 。 ガス 状 炭 化 水

素 類 の分 離 方 法4),製 油 所 テ ール ガ ス の 分 離 法5)と い

う 名 称 でConch Methane Serviceよ り 出 され て い

図6  製油所 テールガス分離 のフ ローダイヤグラム

表5  製 油所 のテールガス

る。 このプ ロセス はと くに 目新 しい ものではないが石

油精製 のテールガスの分離 とLNGの 冷熱 とをた くみ

に 組 合 せ て あ る(図6)。

石 油 精 製 の テ ー ル ガ ス と して は,表5の もの を代 表

的 な原 料 組成 と して 説 明 して い る 。製 品 と して,高 純

度 の水 素,エ チ レ ン,エ タ ン,プ ロ ピ レン,プ ロパ

ン,高 沸 点分 に分 離 され る 。分 離 され た メ タ ンは,気

化 したLNGと 混 合 され て燃 料 ガ ス とな る 。燃 料 ガス

は 利 用 した 冷 熱 の温 度 に応 じて低 圧(1.05kg/cm2abs)

中 圧(7.1kg/cm2abs)高 圧(28.4kg/cm2abs)で 装

置 よ り出 て い く。

この プ ロセ ス は大 き く分 け て分 離 装 置,窒 素 冷 却 装

置,水 素 液 化 装 置 の三 つ の部 分 よ り成 立 つ て い る。 石

油精 製 の テ ール ガ ス は分 離 装 置 でお の お の の 製 品 に 分

離 され る 。分 離 装 置 は,Demethanizer, Deethanizer,

Page 6: LNG冷 熱の石油化学への応用 - J-STAGE Home

― 「燃 料 協会 誌 」 第50巻 第527号(1971)― 165

Ethylene splitter, Propylene splitterの 蒸 留 塔 と,

テ ール ガ ス の乾 燥 器,テ ー ル ガ ス の コ ンプ レ ッサ ー が

主 な機 器 で あ る 。 また,水 素 ガ ス の精 製 部 門 と して,

LNGス ク ラバ ー,プ ロパ ンス ク ラバ ー が あ る。

原 料 の精 油 所 のテ ー ル ガス は,10.5kg/cm2absで

Deethanizerの リボ イ ラー に 入 り,熱 源 と して熱 をあ

た え る 。 こ こ で10℃ まで 冷 却 され,重 質 分 を凝 縮 分 離

す る 。 つ い で乾 燥 器 で 水 分 が 除 去 され,Deethanizer

reboiler, Ethylene splitter reboiler, Demethanizer

reboilerの 熱 源 に 使 用 され,さ らに 土LNGで-85℃

ま で冷 却 され る。-85℃ ま で 冷 却 され て重 質 分 は凝 縮

す る 。液 体 はDemethanizerに 送 られ,ガ ス は コ ンプ

レッサ ー で30.6kg/cm2absま で圧 縮 され る。圧 縮 後

ふ た た びDeethanizer reboiler, Demethanizer re-

boilerの 熱 源 に 使 用 して 冷 却 され,LNGで さ らに

-95℃ ま で冷 却 され る。 凝 縮 した メタ ンはDemetha-

nizerに 送 られ る 。 ガ ス は さ らにLNGお よ び液 体 窒

素 で-180℃ ま で冷 却,さ らに 凝 縮 液 とガ ス に分 離 さ

れ る。 凝 縮 液 は,レ フ ラ ックス と してDemethanizer

の塔 頂 へ 送 入 され る。 ガ ス は不 純物 を含 む水 素 で あ る

が,LNGス ク ラバ ー で 液 体 窒 素 で 冷 却 され たLNG

に よつ て ス ク ラ ッ ビ ン グ され て 主 にCO,N2が 除 去

され,約99%の 水 素 に な る。 こ の水 素 は さ らに 同 じ く

液 体 窒 素 で 冷 却 され た プ ロパ ンに よつ て ス ク ラ ッビ ン

グ され て メ タ ンが 除去 され,約99.896のN2を 不 純 物

とす る水 素 ガ ス とな る。 こ の水 素 ガ ス は窒 素 ア ブ ソ ー

バ ー で 不 純 物 の最 後 の 痕 跡 が 除 去 され る 。純 水 素 は,

一 部 は ガ ス 状 で 冷 熱 を回 収 した後 製 品 と して送 り出 さ

れ,一 部 は水 素 液 化 装 置 で液 体 窒 素 で冷 却 され て液 体

水 素 とな る。 ス ク ラ ッ ビ ング に使 用 し,CO,N2を 吸

収 したLNG,メ タ ン を吸収 した プ ロパ ン は再 生 す る

こ とな くそ の ま ま燃 料 と して送 り出 され る。 燃 料 と し

て使 用 す る場 合 は吸 収 した不 純 分 を含 ん でい て も さ し

つ か え な い 。

Demethanizerで は塔 頂 よ りメ タ ン,塔 底 よ り重 質

物 が 得 られ る 。 重 質 物 はDeethanizer, Ethylene

splitter, Propylene splitterで 蒸 留 され て,エ タ ン,

エ チ レ ン,プ ロ ピ レ ン,LPGの 製 品 を得 て い る。

LNGの 利 用 は,高 圧 のLNGと して,製 油所 テ ー

ル ガ ス の冷 却,DeethanizerのCondenser, Ethylene

splitterのCondenser, Propylene splitterのCon-

denserの 冷 熱 源 お よび 製 品 エ チ レ ン,エ タ ンの冷 却

の冷 熱 源 に利 用 され る。 高圧LNGの 一 部 は,常 圧 の

沸 点 以 下 の 温 度(-180℃)ま で 冷 却 され てLNGの

ス ク ラバ ー の 洗 瀞 液 に 使 用 され る。 洗 滌 液 は 一 部 を

Demethanizerの リフラ ックスに使用 し,残 りは冷熱

回収後,燃 料ガス として送 り出 され る。塔頂 よ りのガ

スは凝縮 させ るこ とな く冷熱 を回収 して中圧燃料 ガス

として送 り出 され る。

低圧 のLNGは 低 い温度 を必要 とする窒素冷却装置

で蒸発 し,冷 熱 をあたえて常圧 に近 い燃料 ガスとして

外部 に出る。

窒素冷 却装置 は 液体窒素 を 冷媒 とす る 冷凍機 であ

る。冷却源 に低圧 のLNGを 利用 し,コ ンプレッサー

を使用 して液体窒素 を作 り,水 素液化装置お よび水素

分離精製部 門の冷熱 として循環 してい る。

この説 明のよ うに,LNGの 冷熱 を 利用 して精油所

のテール ガスをお のお のの成分に分離 してい る。 とく

に水素 の精製 に冷LNG,冷 プロパ ンを使用 して不純

物 をスクラ ッビングし,使 用 したLNG,プ ロパ ンは

再生す るこ とな くその まま蒸発 して燃料 ガス として送

り出 していることが特徴であ ろう。また,水 素 の分離

精製 の 冷却 に 液体窒素 を使 用す るこ とも特徴 であろ

う。このテール ガスは リボイ ラーの熱源 として利用す

るためと,水 素分離精製のために高圧 に圧縮 され てい

るが,Demethanizerな どの蒸留塔 の 操作圧 は普通 の

場合 に比較 して低 い。冷熱 としてLNGを 利用 してい

るので低 くでき るのである。

4-3  エチ レン製造装置 への応用

エチ レン製 造装 置の冷凍 機は,天 然 ガスの液化 に使

用 されでい る冷凍機 と並んで工業用 に使用 され ている

ものの中では大型の ものである。大量 に得 られ るLNG

の冷熱の利用 として,エ チ レン製造装置 はまず考 え ら

れ るものであろ う。

エチ レン製造装置 の概略 を説 明する。 日本 にお ける

表6  エチ レン製造 ナフサ分解 ガス組成

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166 LNG冷 熱 の石油化学への応用(星)

図7  エ チ レ ン 製 造 装 置

エ チ レ ン 製 造 は 大 部 分 が ナ フ サ分 解 に よ る も の で あ

る。 ナ フサ を管 式 の分 解 炉 で ス チ ー ム の存 在 下 で熱 分

解 し てエ チ レ ン を含 む 分 解 ガス を得 る。 そ の 組成6)の

一 例 を表6に 示 す 。

分 解 ガ ス は,Primary fractionatiorで 蒸 留,分 解 ガ

ソ リン の一 部 お よび 燃 料 油 を分 離 す る。重 い 留分 を分

離 した分 解 ガ ス は コ ンプ レ ッサ ー で約35kg/cm2gま

で圧 縮 し,冷 却 してDemethanizerに 送 入 され る。途

中,圧 力 の上 昇 お よ び冷 却 に よつ て 分 解 ガ ソ リ ン,C4

類C3類 の一 部 は 分 離 され る。 圧 縮 の 途 中 で 力 性 ソ

ー ダな どに て洗 滌 して脱 硫 お よ び乾 燥 剤 にて 乾 燥 され

る。DemethanizerのFeedは,プ ロ ピ レン冷 凍 で 冷

却 され る。Demethanizerの レフ ラ ック ス コ ンデ ンサ

ーお よび イ ン ター ナ ル コ ンデ ンサ ー は エ チ レン冷 凍 が

使 用 され,リ ボ イ ラー はプ ロ ピ レ ン冷 媒 の凝 縮 に よ り

加 熱 され る 。Demethanizerの 塔 頂 よ りは,水 素 お よ

び メ タ ンが 得 られ る。 一部 の水 素 は メ タ ンの ジ ュ ール

トム ソ ン効 果 に よつ て 冷 却 され て メ タ ン を分 離 して濃

縮 され る 。Demethanizerの 塔 底 は,Deethanizerに

送 られ て塔 頂 よ りエ チ レ ン,エ タ ン を,塔 底 にC3類

よ り重 い も の を残 す 。エ チ レ ン,エ タ ンは,水 添 に よ

つ て これ らに含 まれ て 来 る アセ チ レ ン分 をエ チ レ ンに

転 換 した後,Ethylene splitterで 塔 頂 に エ チ レ ン,塔

底 に エ タ ン を分 離 す る 。 この 蒸 留 は,コ ンデ ンサ ー は

プ ロ ピ レ ン冷 媒 で冷 却 し,リ ボ イ ラー は プ ロ ピ レ ン冷

媒 の凝 縮 に よ り加 熱 され る。Deethanizerの 塔 底物 は,

コ ン プ レ ッサ ー 中 間段 の凝 縮 物 と合 わ さつ てDepro-

panizerでC3類 を塔 頂 に,C4類 よ り重 質 物 を塔 底 に

分 離 され る 。 こ のDepropanizerは コ ンデ ンサ ー に プ

ロ ピ レ ン冷 凍 を使 用 す る ケ ー ス もあ る 。Depropanizer

以 降 の分 離 に は冷 凍 は使 用 しな い 。DebutanizerでC4

類 を,Rerun towerで 分 解 ガ ソ リン を 分 離 す る 。以

上 の よ うに,エ チ レ ン製 造 装 置 で は,Demethanizer,

Deethanizer, Ethylene splitter,回 りに冷 凍 機 が 使 用

され る。 そ の他 エ チ レ ン,プ ロ ピ レ ンの製 品 を常 圧 冷

凍貯 蔵 す るた め の冷 却 に も使 用 され る 。

エ チ レ ン製 造 装 置 の冷 凍 機 は,プ ロ ピ レ ンを冷 媒 と

す る冷 凍 機 とエ チ レ ン を冷 媒 とす る冷 凍 機 を持 つ て い

る。 プ ロ ピ レ ン冷 凍 で-40℃ ま で の冷 熱 を,エ チ レン

冷 凍 で-101℃ ま で の冷 熱 を得 て い る 。 こ の冷 凍 用 コ

ン プ レ ッサ ー の 動 力 は,最 近 の ナ フ サ分 解 に よ る30

万t/年 の もの で,プ ロセ ス に 使 用 され る もの だ け で

22,000~25,000kWで で あ る。

(1)  エ チ レン製 造 装 置 の 全 冷 凍 をLNGの 冷 熱 で使

用 す る こ と を考 えて 見 る。30万t/年 の もの で 直接 プ

ロセ ス を冷 却 して い る冷 熱 は プ ロ ピ レ ン冷 凍 で約25.9

×106kcal/hr,エ チ レ ン冷 凍 で約3.8×106kcal/hrで

あ る 。 冷 凍 コ ンプ レ ッサ ー は 多 段 で あ り,中 間 段 よ

り蒸 気 を 吸 引 させ て 中間 の 温 度 の 冷 熱 も 使 用 して い

る 。 こ の冷 熱 を全 部LNGの 冷 熱 で置 き換 え るの で あ

る 。

LNGは-162℃ か ら10℃ ま で の 冷 熱 を 使 用 す る

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― 「燃 料 協会 誌 」 第50巻 第527号(1971)― 167

も の と し,気 化 圧 力 を70kg/cm2gと す る。 図2の

LNGの 冷 熱 の70kg/cm2gの 線 に よつ て 冷 熱 を使 用

す る こ とに な る。 利 用 で き る冷 熱 は188kcal/kgで あ

り必 要 とす る冷 熱 は29.7×106kcal/hrで あ る か ら,

29.7×106/188 =158,000kg/hr

とな り,こ の量は年間にす ると138.4万tで ある。こ

の計算だけでな く図2のLNGの 冷熱 の曲線 と,プ ロ

セスが各温度で必要 とす る冷 熱の量 を比較 して,各 温

度にお ける熱収支 をチ ェックするこ とが必要 である。

詳細は省 略す るが,上 記 のLNGの 量 はこの関係 を満

足 してい る。

LNG138万t/年 の 気化量 は現在 の輸入量 に比較す

れば非常に大きな量 であ り,こ の量 の天然 ガスを長期

間連続 して使用 す る安 定需要 が必要条件 である。

このLNGの 冷熱 の利用 は現在 の冷凍機 を使用 した

エチ レン装置 の冷熱 をそのままLNGの 冷熱 で置 き換

えた もの として試算 した。先 に述べ たテ ール ガス の分

離 のよ うに,LNGの 低い温度の冷熱 を利用す るエチ

レン製造装置 のプ ロセスを組む こ とが有効利用 の上か

ら必要 がある。

(2) つ ぎに温度 の低 いLNGの 冷熱 を利用す るエチ

レン製造装置 を考 えてみ よ う。LNGの 気化量 とエチ

レンの生産量 との組合 わせ で種 々のものが考 えられ る

が,エ チ レンの生産量 は現在 の情勢 か らして30万t/

年程度 であろ う。LNGの 気化量 としては,あ ま り大

きい量 では実際的 ではないので,エ チ レン冷凍のみ を

置 き換 えることに して試算す る。 また,LNGの 冷熱

温度 はエチ レン冷凍 よ り温度が低い ので,こ の温度に

適す るよ うに蒸留塔 の操作圧 を下 げることを考えた。

LNGの 気化圧力 は10kg/cm2gと して低い温度で利用

す ることとした 。分解 ガス はナ フサ を原料 とす るエチ

レン 含有量 が27~30wt%の ハイ シビヤリテ ィの も

のであ る。

このよ うな条件 で考 えた プロセス フロー ダイヤ グラ

ム図8で ある。エチ レン冷凍 はDemethanizer回 りの

み で使用 され るので,こ の部分 のみ を示 した。その他

は普通の もの と同 じであ る。

エチレン冷凍 は最低温度が-101℃ であ りLNGは

-162℃ であ るので,Demethanizerの 操作圧 を温度

に対応 す るまで 下 げることが でき る。 普通 の場合 は

35kg/cm2gで あ るが,こ れが17~18kg/cm2gに な

る。

LNGは まず最 も低い温度の冷熱 を必要 とするDe-

methanizer condenserに 送入 され る。 この コンデ ン

サー では 土LNGの 顕熱が 利用 され る。 次にInternal

condenserで 冷熱 を与え る。ここでは顕熱 と一部 の蒸

発の潜熱 が 利用 される。LNGの10kg/cm2gの 蒸発

温度は-122℃ で ある。LNGは 再 に気液混層でDe-

methanizer final feed chillerに 送 られ冷熱 を与 える。

この冷 却は潜熱 およびガスの顕熱 で行 なわれ る。これ

よ り前段 のFeed chilierで の熱交 は 天然 ガス を 常温

近 くまで加温 するためである。温度 はプロピレン冷凍

の温度 であるのでLNGの 冷熱 でプ ロセス の冷却が不

足 する分 はプ ロピレン冷凍 で補 うこ とになる。天然 ガ

スは約10℃ でエチ レン製造装置 をはなれ る。

このフ ローで水素 回収部 での水素純度 は普通 の場合

よ り操作圧 が低 いのでやや悪 くなるが,ア セチ レン水

添用 の水素 としては充分 である。純度 を高 くしたい場

図8  エ チ レ ン 製 造 装 置(LNG利 用)

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168 LNG冷 熱 の石油化学へ の応用(星)

表7  エチ レン製造装置のユー ティ リテ ィ

(30万t/年)

合 は,コ ンプ レッサ ーで圧縮 してLNGの 冷熱 を利用

すれば容易 に行 な うこ とができる。

このフ ローのよ うにLNGを 利用 した ときの冷熱 の

評価 について考 えてみよ う。ユーテ ィリテ ィの減少 は

表7の よ うであ る。エチ レン冷凍用 コンプ レッサ ーの

動力だけでな く,エ チ レン冷媒 の冷却用 のプロ ピレン

冷凍 コンプ レッサーの動 力の減 少,さ らにDemetha-

nizerの 操作圧 の 低下 による分解 ガス コンプ レッサ ー

の動力の減少があ る。 必要 とするLNGは35.5万t/

年 の割合で ある。 エチ レンの 処理量 の30万t/年 は

330日 稼動 して 算 出 した。LNGは365日 で35.5万t

であ り,330日 で実際に使用 され るものは32万tで あ

る。

LNGの 気化量35.5万t/年 は現在 考 えられてい る

LNG基 地 の規模 か らしてBase loadと して連続 した

安定需要 が期待 できる数値であ ろう。

このLNG利 用 による 総運転費 の 減少 を 試算す る

と,動 力減少 として,1KWhr当 り3円 と評価すれば

3円 ×12,500=37,500円/hr

冷却水 を1t当 た り2円 とすれ ば

2円 ×3,000=6,000円/hr

合計 して43,500円/hr

330日 稼動 として344,520,000円/年

建設費 はエチ レン冷凍機 の省略,プ ロピ レン冷凍機 の

縮 少,分 解 ガス コンプ レッサーの圧縮段数 の減少 な ど

に よ り5~6億 円減少 する。金利,償 却,メ ンテナ ン

スな どの装置 コス トを毎年建設費 の30%と 考 える と

550,000,000円 ×0.3=165,000,000円

総運転費の減 少 として,ユ ーテ ィリテ ィ減少 と装置 コ

ス トを合計 して

509,520,000円/年

エチ レン生産量 当た りに換 算す ると

1.70円/エ チ レンkg

LNG気 化量 当た りに換 算す ると

1.59円/LNGkg

このLNG気 化量当た りの冷熱 の評価 は,エ チ レン

冷凍 を 省略,Dernethanizerの 操作圧 を低 下 させ て

LNGを 利用 した ときの ものであ る。

5. LNG冷 熱 の評価

冷熱 の価値 は前に述べた ようにその温度 に対応 する

動力 で表わす ことがで きる。 したがつて温度が決 まれ

ば冷熱 は評価 できることにな る。 この ように考 えれば

気化圧力に よつてLNGの 評価は,一 定にな るはずで

ある。しか し実際にはLNGが 与え ることので きるよ

うな低温 を必要 とす るプロセスは非常に少ない。高い

温度 でよい冷熱に低い温度の もの よ り与えれば,そ の

冷熱 の価値 は高 い温度 のもので評価 され る。

LNGの 冷熱 を石油化学 を含 めて 種々の ものに利用

した例 についてその評価が計算 されてい るが,も つ と

も低温で利用 して いる液体酸 素,液 体窒素製造用 に利

用 したものが評価が高 くなつてい る。一例 としてLNG

当た りに 換算す ると2.64円/LNGkgが 発表 されて

い る。

そのつ ぎに評価 のよいものが,前 項のエチ レン製造

であろ う。そ の他 のものについては利用温度が高 いの

で評価 も低 くなつてい る。

試算 して はい ないが,前 に述べた特許の例で水素の

精製 にLNGを 利用 した り,水 素の液化の冷源 にLNG

を利用 するこ とによつ て,そ の評価 は液酸液窒 と同等

かそれ以上 のものになるであろう。

しか しLNG冷 熱 の単位重量 当た りの評価 が高 くて

も,LNGの 冷熱 を利用 して 最終的 に生産 された もの

の需 要が少 なけれ ばその評価 は計算上 だけのものに な

つて しま う。LNGの 冷熱 は 利用先 がな くても水や ガ

スに与えて捨て るものであるか ら単位重量 当た りの評

価だ けで比較す るものでな く,利 用 した絶対量 で比較

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― 「燃 料 協 会 誌 」 第50巻 第527号(1971) ― 169

す るものか もしれない。エチ レン製造 に利用す る場合

も,LNGが 安定 して 大量に利用 できるよ うになつ た

ときは,単 位重 量当た りの評価 は減少す るが,プ ロピ

レン冷凍,エ チ レン冷凍 の全部 をLNGの 冷熱で置 き

換 え る方法 がよいのではないか 。

天然 ガスの液化 を別 とすれ ばエチ レン製造装置に使

用 され ている冷凍右機は非常に大 きい もので,こ のよ う

な多量 の冷熱 を 消費す るプ ラン トは 他 にない。LNG

の冷熱 もこの量 に対応で きるものである。30万t/年

の エチ レン製造で 全 冷熱 をLNGか ら得 る としても

LNG138万t/年 の ものであ る。 現在LNGの 輸入 も

1,000万t/年 の単位の輸入基地 を検討 され よ うとして

い るときであ るので,も つ と大量 の冷熱 を利用す るプ

ラン トを考 えねばな らないであろ う。

6. LNGの 冷熱利用の問題点

LNGの 冷 熱 を エチ レン製造 に 利用 す ることは,

LNGの 消費 の 広 い 範 囲で 可能 であ る。 そ して その

LNGの 利用 によ りメ リッ トは考え られ る。 しか しこ

こで大 きな問題点 となるのはLNGの 安 定供給 の点 で

ある。30万t/年 のエチ レン製造装置 は,そ れ だけで

も100億 円 を超 え る装置 であ りそれ に関連す るコンビ

ナー ト全体 の投資金額 は非常 に巨大 なものである。 こ

の巨大な装置群 をLNGの 供給 に合わせて運転す るこ

とはできない。エチ レン製造装置はエチ レンその他 の

製 品の需要 に合わせて運転す ることが最優先 である。

また,エ チ レン製造装置 をLNGの 冷熱,冷 凍機 の

冷熱 の両者 とも使用す るようにす ると,建 設費 が どち

らか一方の専用機 より増大 するので,メ リッ トは減少

す る。LNGの 温度に合せて 操作圧 を決定 して設計 し

た装置では,冷 凍機 で運転す ることはできない。

このような理 由でエチレン製造 装置 に合わせ たLNG

の連続 した供給 が絶対 の条件 になる。安定供給の量 と

年 間の輸入量 との割合 は天然 ガスの用途に よつて異 な

る と思 うが,絶 対 に安定連続に供給で きる量 となる と

小 さい割合 になると思 う。

一方LNGの 需要者 に とつ てもエチ レン製造装置 の

運転 に合 わせ て消費 を変 えることも困 るし,装 置の事

故 で天然 ガスの供給 が停止 され ることがあつてはな ら

ないであろ う。また装置の メンテナ ンス も当然考 え ら

れ る。このため建設費の安価 な気化装 置た とえばサブ

マージ トバーナー型の ような もの を予 備気化器 として

持つ ことが必要であ る。予 備器 は運転 時間が短 いので

運転費 よ り建設費 を優先 させた もので差支 えない。こ

のような気化器 は割合に安価 であるので問題 な く受入

れ られ るであろ う。

LNGの 輸 入,LNGと 石 油化学 コンビナ ー トの組

合わせは非 常に大 きい危険性 を持つた企業で ある。現

在 のLNGの 輸入 は原油 な どの揚合 と異 な り,液 化基

地→LNGタ ンカー→受入基地が一組に なつた 形態 を

とつ ている。 日本 の場合 は,こ れに外国 との関係 を含

んだものになつてい る。政治的な もの を含 めて どこか

一ヶ所 に事故が起 こつた場 合にLNGの 輸入 が停止す

ることが考え られ る。LNGと 石 油化学 コンビナー ト

が組合わ され るこ とになる と,LNGの 確実 な輸入 の

保 証がない と実行 できない ものになるのではないか 。

複数 の液化基地 よ り多数 のLNGタ ンカーが輸送す

るよ うにLNGの 使用 が一般 化 され,大 規模のLNG

基地 が建設 され るよ うになれ ばLNG中 断の危険性は

急速 に小 さ くな るのでLNGの 冷熱 を利用 した石 油化

学 コンビナー トも自然 に計 画 され るよ うになるであろ

う。

文 献

1) Paper, Proceeding 2nd International Conference

on LNG, Paris 1970

2) Paper, Proceeding 1st International Conference

on LNG, Chicago 1968

3) 特 許 公 報, 昭45-31855

4) 特 許 公 報, 昭45-30082

5) 特 許 公 報, 昭45-31441

6) U.S.A. Patent, 1,165,906

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170 LNG冷 熱 の石油化学への応 用(星)

Utilization of LNG Cold Energy in the Petrochemical Industry

by Kyoichi Hoshi

(Japan Gasoline Co., Ltd.)

SYNOPSIS: -Depending on its mode of use, LNG possesses great value as a

source of cold energy. The application of the cold energy of LNG to the petrochemical

industry is explained hereunder.

Facilities actually constructed and in operation which utilize the cold energy of

LNG to separate the heavy components contained in the LNG are those at the Barcelona

Terminal in Spain and the La Spezia Terminal in Italy.

A method of using the cold energy of LNG for separation purposes and for the

ethylene production unit itself, wherely ethane separated from LNG containing heavy

components in used as feed for ethylene production, is described in the literature released

by Air Products Ltd. in "LNG-1".

There is a process, in the patent stage, by which heavy components are separated

from LNG containing such comporents and high-pressure methane gas is produced. This

method does not require the use of the compressor for which a patent application has

been lodged by Air Liquid.

The methane is liquefied using the cold energy of LNG and vaporized after being

pressurized with a pump.

Similarly, Conch Methane Service has announced its patented method which utilizes

the cold energy of LNG to separate refinery tail-gas into its individual components.

A scrubbing method using LNG and propane chilled by means of liquefied nitrogen

to remove trace quantities of impurities from hydrogen, is adopted.

The use of the cold energy of LNG in an ethylene production plant, taking the case

of an ethylene production rate of 300,000 tons per year, is described briefly.

In this case, 1,380,000 tons per year of LNG will be required if all necessary

refrigeration is to be carried out by the sole use of LNG.

Trial calculations were per formed on the basis of using LNG for the ethylene

refrigeration around the demethanizer only. These calculations evaluate the cost of one

kilogram of LNG at 1.59 yen.

The use of the cold energy of LNG, especially in ethylene production units, will

probably be realized with the establishment of stable supply and increased imports of

LNG.